(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】タンクの製造装置および製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 70/32 20060101AFI20240827BHJP
B29C 70/16 20060101ALI20240827BHJP
B29C 70/54 20060101ALI20240827BHJP
B65H 51/32 20060101ALI20240827BHJP
B65H 59/38 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B29C70/32
B29C70/16
B29C70/54
B65H51/32 A
B65H59/38 W
(21)【出願番号】P 2021209007
(22)【出願日】2021-12-23
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】榊原 範人
(72)【発明者】
【氏名】澤邉 航
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-196817(JP,A)
【文献】特開2021-142720(JP,A)
【文献】特開2019-55831(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/32
B29C 70/16
B29C 70/54
B65H 51/32
B65H 59/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンクの製造装置であって、
円筒状部と前記円筒状部の両端に設けられた略半球面形状のドーム部とを有する回転するライナに巻き付ける繊維を供給するボビンと、
前記ボビンと前記ライナとの間の繊維供給路に位置し、前記ライナの回転軸方向に沿って往復移動して前記繊維を前記ライナに供給するアイクチと、
前記ボビンと前記アイクチとの間の繊維供給路に位置し、回転軸が移動可能に構成されている第1ダンサーローラと、
第1調整部と算出部と第1取得部と速度制御部とを含む制御部と、を備え、
前記第1調整部は、前記第1ダンサーローラの回転軸を回転移動させて前記繊維の張力を調整し、
前記算出部は、
前記ライナの回転軸方向
における前記アイクチの位置と前記ドーム部の半径とを用いて、
前記ドーム部における前記繊維の巻き付け位置を算出し
、
算出した前記ドーム部における前記繊維の巻き付け位置に基づいて、前記ボビンから前記繊維が供給される速度である供給速度として推定される推定供給速度を算出し、
前記第1取得部は、前記第1ダンサーローラにおける前記繊維の張力に関する第1張力情報を取得し、
前記速度制御部は、前記ボビンを回転させて、前記推定供給速度と前記第1張力情報とに基づいて、前記供給速度を制御する、製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載の製造装置であって、
前記算出部は、次の式(1)によって前記ドーム部における前記繊維の巻き付け位置を算出し、次の式(2)によって前記推定供給速度を算出する、製造装置。
【数1】
r:前記ドーム部における前記繊維の巻き付け位置
r0:前記ドーム部の半径
x:前記アイクチの前記ライナの回転軸方向における位置
a:前記円筒状部の前記ライナの回転軸方向における中央からの長さ
【数2】
N:前記ライナの単位時間あたりの回転数
l:前記ボビンから前記ライナまでの前記繊維の経路の長さ
L:前記ボビンから前記アイクチまでの前記繊維の経路の長さ
y:前記繊維の送出方向における前記アイクチから前記ライナまでの距離
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の製造装置であって、
前記算出部は、算出した前記推定供給速度を、前記第1ダンサーローラの移動速度に基づいて補正する、製造装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の製造装置であって、
前記制御部は、前記ライナの回転と前記アイクチの往復移動との時系列における動作データである第1動作データを記録した記憶媒体から前記第1動作データを読み込み、前記第1動作データを用いて前記ライナの回転と前記アイクチの往復移動とを制御する、製造装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の製造装置であって、
前記製造装置は、更に、前記第1ダンサーローラと前記アイクチとの間の繊維供給路に位置し、前記繊維供給路の長さを変更するアクティブダンサを備え、
前記制御部は、前記推定供給速度に基づいて決定された前記アクティブダンサの時系列における動作データである第2動作データを記録した記憶媒体から前記第2動作データを読み込み、前記第2動作データを用いて前記アクティブダンサを制御する、製造装置。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の製造装置であって、更に、
前記第1ダンサーローラと前記アイクチとの間の繊維供給路に位置し、回転軸が移動可能に構成されている第2ダンサーローラと、
前記第2ダンサーローラの回転軸を回転移動させて前記繊維の張力を調整する第2調整部と、
前記第1ダンサーローラが位置する第1張力区間と前記第2ダンサーローラが位置する第2張力区間とに前記繊維の張力の区間を分ける張力区切部と、
前記第2ダンサーローラにおける前記繊維の張力に関する第2張力情報を取得する第2取得部と、を備え、
前記速度制御部は、前記推定供給速度と前記第1張力情報と前記第2張力情報とに基づいて、前記供給速度を制御する、製造装置。
【請求項7】
タンクの製造方法であって、
円筒状部と前記円筒状部の両端に設けられた略半球面形状のドーム部とを有するライナに巻き付ける繊維を供給するボビンと、
前記ボビンと前記ライナとの間の繊維供給路に位置し、前記ライナの回転軸方向に沿って往復移動して前記繊維を前記ライナに供給するアイクチと、
前記ボビンと前記アイクチとの間の繊維供給路に位置する第1ダンサーローラと、
前記第1ダンサーローラと前記アイクチとの間の繊維供給路に位置する第2ダンサーローラと、
前記第1ダンサーローラの回転軸を回転移動させて前記繊維の張力を調整し、前記第2ダンサーローラの回転軸を回転移動させて前記繊維の張力を調整し前記ボビンを回転させて、前記ボビンから前記繊維が供給される速度である供給速度を制御する制御部と、を備える製造装置において、
前記アイクチの前記ライナの回転軸方向
における位置と前記ドーム部の半径とを用いて前記ドーム部における前記繊維の巻き付け位置を算出し
、算出した前記ドーム部における前記繊維の巻き付け位置に基づいて、前記制御部が、前記供給速度として推定される推定供給速度を算出する算出工程と、
前記第1ダンサーローラにおける前記繊維の張力に関する情報と前記第2ダンサーローラにおける前記繊維の張力に関する情報とを含む張力情報を、前記制御部が、取得する取得工程と、
前記算出工程で算出した前記推定供給速度と前記取得工程で取得した前記張力情報とに基づいて、前記制御部が、前記供給速度を制御する速度制御工程と、を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、タンクの製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンクの製造方法として、繊維をタンクの外郭に巻き付ける方法がある。例えば、特許文献1には、繊維を供給するボビンとタンクとの間に設けられたダンサーローラの回転軸を移動させて、繊維の張力を調整しながらタンクに巻き付ける技術が記載されている。これにより、繊維の張力変動を抑制し、タンクに対する繊維の巻きずれを抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ボビンから繊維を送り出す速度は、実測した速度が測定された張力に基づいて、フィードバック制御により制御されていた。そのため、所望の速度と実際の速度の差が短時間の間に大きく変動する場合、ボビンから繊維を送り出す速度の制御に、遅れが生じるおそれがある。そのため、供給速度を大きくすることができず、タンクの製造を高速化することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、上述の課題を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
本開示の一形態によれば、タンクの製造装置が提供される。この製造装置は、円筒状部と前記円筒状部の両端に設けられた略半球面形状のドーム部とを有する回転するライナに巻き付ける繊維を供給するボビンと、前記ボビンと前記ライナとの間の繊維供給路に位置し、前記ライナの回転軸方向に沿って往復移動して前記繊維を前記ライナに供給するアイクチと、前記ボビンと前記アイクチとの間の繊維供給路に位置し、回転軸が移動可能に構成されている第1ダンサーローラと、第1調整部と算出部と第1取得部と速度制御部とを含む制御部と、を備え、前記第1調整部は、前記第1ダンサーローラの回転軸を回転移動させて前記繊維の張力を調整し、前記算出部は、前記ライナの回転軸方向における前記アイクチの位置と前記ドーム部の半径とを用いて前記ドーム部における前記繊維の巻き付け位置を算出し、算出した前記ドーム部における前記繊維の巻き付け位置に基づいて、前記ボビンから前記繊維が供給される速度である供給速度として推定される推定供給速度を算出し、前記第1取得部は、前記第1ダンサーローラにおける前記繊維の張力に関する第1張力情報を取得し、前記速度制御部は、前記ボビンを回転させて、前記推定供給速度と前記第1張力情報とに基づいて、前記供給速度を制御する
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、タンクの製造装置が提供される。この製造装置は、タンクの製造装置であって、円筒状部と前記円筒状部の両端に設けられた略半球面形状のドーム部とを有する回転するライナに巻き付ける繊維を供給するボビンと、前記ボビンと前記ライナとの間の繊維供給路に位置し、前記ライナの回転軸方向に沿って往復移動して前記繊維を前記ライナに供給するアイクチと、前記ボビンと前記アイクチとの間の繊維供給路に位置し、回転軸が移動可能に構成されている第1ダンサーローラと、前記第1ダンサーローラと前記アイクチとの間の繊維供給路に位置し、回転軸が移動可能に構成されている第2ダンサーローラと、前記第1ダンサーローラの回転軸を回転移動させて前記繊維の張力を調整する第1調整部と、前記第2ダンサーローラの回転軸を回転移動させて前記繊維の張力を調整する第2調整部と、前記ボビンを回転させて、前記ボビンから前記繊維が供給される速度である供給速度を制御する速度制御部と、前記アイクチの前記ライナの回転軸方向おける位置と前記ドーム部の半径とを用いて算出した、前記ドーム部における前記繊維の巻き付け位置に基づいて、前記供給速度として推定される推定供給速度を算出する算出部と、前記第1ダンサーローラにおける前記繊維の張力に関する第1張力情報を取得する第1取得部と、前記第2ダンサーローラにおける前記繊維の張力に関する第2張力情報を取得する第2取得部と、を備える。前記速度制御部は、前記推定供給速度と前記第1張力情報と前記第2張力情報とに基づいて、前記供給速度を制御する。
この形態の製造装置によれば、算出部が、アイクチのライナの回転軸方向おける位置とドーム部の半径とを用いて算出したドーム部における繊維の巻き付け位置に基づいて、予め推定供給速度を算出するため、予め推定供給速度を算出せずに張力情報に基づいて制御する場合と比べて、供給速度の応答遅れを小さくすることができる。そのため、供給速度を大きくすることができるため、タンクの製造を高速化できる。
(2)上記形態の製造装置において、前記算出部は、次の式(1)によって前記ドーム部における前記繊維の巻き付け位置を算出し、次の式(2)によって前記推定供給速度を算出してもよい。
【数1】
r:前記ドーム部における前記繊維の巻き付け位置
r
0:前記ドーム部の半径
x:前記アイクチの前記ライナの回転軸方向における位置
a:前記円筒状部の前記ライナの回転軸方向における中央からの長さ
【数2】
N:前記ライナの単位時間あたりの回転数
l:前記ボビンから前記ライナまでの前記繊維の経路の長さ
L:前記ボビンから前記アイクチまでの前記繊維の経路の長さ
y:前記繊維の送出方向における前記アイクチから前記ライナまでの距離
このような態様とすれば、ドーム部における繊維の巻き付け位置を精度良く算出するため、推定供給速度を精度良く算出できる。
(3)上記形態の製造装置において、前記算出部は、算出した前記推定供給速度を、前記第1ダンサーローラの移動速度に基づいて補正してもよい。
このような態様とすれば、推定供給速度をより精度よく算出できる。
(4)上記形態の製造装置において、前記制御部は、前記ライナの回転と前記アイクチの往復移動との時系列における動作データである第1動作データを記録した記憶媒体から前記第1動作データを読み込み、前記第1動作データを用いて前記ライナの回転と前記アイクチの往復移動とを制御してもよい。
このような態様とすれば、リアルタイムで動作データを演算する場合と比べて、ライナやアイクチの動作を高速化することが出来る。また、同じ第1動作データを用いて複数のタンクを製造することが出来るため、品質不良が発生した場合に要因の追及が容易である。
(5)上記形態の製造装置において、前記製造装置は、更に、前記第1ダンサーローラと前記アイクチとの間の繊維供給路に位置し、前記繊維供給路の長さを変更するアクティブダンサを備え、前記制御部は、前記推定供給速度に基づいて決定された前記アクティブダンサの時系列における動作データである第2動作データを記録した記憶媒体から前記第2動作データを読み込み、前記第2動作データを用いて前記アクティブダンサを制御してもよい。
第2動作データは、推定供給速度に基づいて決定される。そのため、このような態様とすれば、実際にタンクを製造しながらアクティブダンサの時系列における動作データを決定するという工程を省略できる。
(6)上記形態の製造装置において、前記第1ダンサーローラと前記アイクチとの間の繊維供給路に位置し、回転軸が移動可能に構成されている第2ダンサーローラと、前記第2ダンサーローラの回転軸を回転移動させて前記繊維の張力を調整する第2調整部と、前記第1ダンサーローラが位置する第1張力区間と前記第2ダンサーローラが位置する第2張力区間とに前記繊維の張力の区間を分ける張力区切部と、前記第2ダンサーローラにおける前記繊維の張力に関する第2張力情報を取得する第2取得部と、を備え、前記速度制御部は、前記推定供給速度と前記第1張力情報と前記第2張力情報とに基づいて、前記供給速度を制御してもよい。
速度制御部は、それぞれの張力区間における張力情報を用いて供給速度の制御を行うため、精度良く供給速度の制御ができる。
【0007】
なお、本開示は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、タンクの製造システムや、ボビンから繊維が供給される速度の制御方法等の態様で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】タンクの製造装置の一例を示す説明図である。
【
図2】繊維束がアイクチを経由してライナに巻き付けられる状態を示した図である。
【
図3】供給速度制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】第1データ生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図5】アイクチ・タンク制御処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】第2データ生成処理の一例を示すフローチャートである。
【
図7】アクティブダンサ制御処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、本実施形態のタンクの製造装置100の一例を示す説明図である。製造装置100は、繊維巻出部20と、張力区切部30と、繊維案内部40と、制御部50と、を備える。繊維巻出部20は、第1張力区間であり、繊維案内部40は、第2張力区間である。製造装置100は、例えば、樹脂が含浸された炭素繊維の束(以下、単に「繊維束T」という)に張力を掛けつつ、ライナ200にフープ巻きやヘリカル巻きを組み合わせて巻き付ける。これにより、ライナ200の外周には炭素繊維による補強層が形成され、タンクが製造される。製造装置100のことをフィラメントワインディング装置と呼ぶこともできる。
【0010】
ライナ200は、例えばポリエチレン、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエステル等の水素ガスに対するガスバリア性を有する樹脂によって形成されている。なお、本実施形態においては、ライナ200は樹脂製としたが、金属製であってもよい。
【0011】
繊維束Tは、炭素繊維束を熱硬化型エポキシ樹脂に含浸させた、いわゆるプリプレグである。なお、このようなプリプレグとしては、例えば、ポリアクリロニトリルの原糸を約3,000℃で焼成した糸を約24,000本程度撚って集め、バインダ樹脂によって軽く接着させた、厚さ約200μm、幅4mmから5mm程度の扁平なシートを例示することができる。
【0012】
繊維巻出部20は、繊維束Tを巻き出す機構部であり、ボビン21と、複数の搬送ローラ22、24~26、28と、第1ダンサーローラ23と、移動ローラ27と、アクティブダンサ29と、測定部C1と、を含んでいる。ボビン21は、繊維束Tが巻き付けられた筒状の部材であり、モータによって回転することで繊維束Tの供給を行う部材である。ボビン21からライナ200の間を繊維供給路ともいう。
【0013】
搬送ローラ22は、ボビン21から巻き出された繊維束Tを第1ダンサーローラ23に搬送する。第1ダンサーローラ23は、ボビン21と後述するアイクチ44との間の繊維供給路に位置し、モータM1の回転軸を中心に回転移動可能な2つのローラである。モータM1は、サーボモータであり、第1ダンサーローラ23を回転移動させることによって、繊維束Tの張力を調整する。張力が調整された繊維束Tは、搬送ローラ25、26、28と移動ローラ27とを経由して、張力区切部30に搬送される。
【0014】
アクティブダンサ29は、繊維束Tのたるみや不足を補うために、移動ローラ27を移動させることによって、繊維供給路の長さを変更する。これにより、アクティブダンサ29は、繊維束Tが搬送される速度の加減速を吸収する。搬送ローラ26、28と移動ローラ27、アクティブダンサ29を併せて、速度吸収部ともいう。
【0015】
測定部C1は、第1ダンサーローラ23によって送り出された繊維束Tの張力を測定する。測定部C1は、繊維束Tに張力を付与するように押圧しつつ繊維束Tの搬送に応じて回転する搬送ローラ25を備えている。測定部C1は、搬送ローラ25が繊維束Tから受ける反力に基づいて、繊維束Tの張力を測定する。測定部C1は、測定した張力を第1張力情報として制御部50に出力する。
【0016】
張力区切部30は、複数の搬送ローラ31~35を含んでいる。張力区切部30は、ボビン21側の第1張力区間とライナ200側の第2張力区間とに張力の区間を分けている。より具体的には、搬送ローラ31~35が繊維束Tを挟むと共に、搬送ローラ32~34をモータによって回転させることで、繊維束Tを搬送しつつ、張力区切部30よりボビン21側の繊維束Tの張力が、張力区切部30よりライナ200側の繊維束Tの張力に影響を与えないようにする。複数の搬送ローラ31~35は、繊維束Tに損傷を与えないよう、繊維束Tに圧力を掛けることなく、繊維束Tを搬送する。繊維束Tは搬送ローラ31~35を経由して、繊維案内部40に搬送される。
【0017】
繊維案内部40は、複数の搬送ローラ42、43と第2ダンサーローラ41と測定部C2とアイクチ44とを含んでいる。第2ダンサーローラ41は、第1ダンサーローラ23とアイクチ44との間の繊維供給路に位置している。第2ダンサーローラ41は、モータM2の回転軸を中心に回転移動可能な2つのローラである。モータM2は、サーボモータであり、第2ダンサーローラ41を回転移動させることによって、繊維束Tの張力を調整する。張力が調整された繊維束Tは、搬送ローラ43を経由して、アイクチ44に搬送される。
【0018】
測定部C2は、第2ダンサーローラ41によって送り出された繊維束Tの張力を測定する。測定部C2は、繊維束Tに張力を付与するように押圧しつつ繊維束Tの搬送に応じて回転する搬送ローラ43を備えている。測定部C2は、搬送ローラ43が繊維束Tから受ける反力に基づいて、繊維束Tの張力を測定する。測定部C2は、測定した張力を第2張力情報として制御部50に出力する。
【0019】
アイクチ44は、ボビン21とライナ200との間の繊維供給路に位置している。アイクチ44は、第1アイクチローラ45と、第2アイクチローラ46と、第3アイクチローラ47と、を含んでいる。アイクチ44は、回転式ローラである3つのアイクチローラ45~47を用いて繊維束Tをライナ200に供給する。本実施形態では、繊維束Tは、第1アイクチローラ45側から入り込み、第1アイクチローラ45の下側外周、第2アイクチローラ46の上側外周、および、第3アイクチローラ47の下側外周にそれぞれ接触してライナ200に供給される。繊維束Tはそれぞれアイクチローラ45~47に回転軸に垂直に掛けられている。なお、
図1には、アイクチ44に備えられたローラの内、一部のローラを示している。
【0020】
制御部50は、CPUとメモリとを備えるコンピュータとして構成されている。CPUは、メモリに記憶された制御プログラムを実行することにより、第1調整部51と、第2調整部52と、速度制御部53と、算出部54と、第1取得部55と、第2取得部56と、の機能を実現する。ただし、これらの各部の機能の一部または全部をハードウエア回路で実現してもよい。また、制御部50は、製造装置100の外部CPUとメモリとを備える外部コンピュータ300によって作成された制御プログラムを実行することにより、ライナ200の回転やアイクチ44の往復移動、アクティブダンサ29を制御する。
【0021】
第1調整部51は、第1ダンサーローラ23の回転軸をモータM1のトルク制御により回転移動させて繊維の張力を調整する。第2調整部52は、第2ダンサーローラ41の回転軸をモータM2のトルク制御により回転移動させて繊維の張力を調整する。
【0022】
速度制御部53は、ボビン21を回転させて、ボビン21から繊維が供給される速度である供給速度を制御する。
【0023】
算出部54は、後述するライナ200における、繊維の巻き付け位置に基づいて、供給速度として推定される推定供給速度を予め算出する。算出部54は、アイクチ44のライナ200の回転軸方向おける位置とドーム部204の半径とを用いてライナ200における繊維の巻き付け位置を算出する。推定供給速度の算出方法の詳細については後述する。
【0024】
第1取得部55は、第1ダンサーローラ23における繊維の張力に関する第1張力情報を測定部C1から取得する。第2取得部56は、第2ダンサーローラ41における繊維の張力に関する第2張力情報を測定部C2から取得する。第1張力情報および第2張力情報は、例えば、繊維束Tの張力や、単位時間当たりの繊維束Tの張力の変化量を含む情報である。以下では、第1張力情報と第2張力情報とを併せて単に「張力情報」ともいう。
【0025】
図2は、繊維束Tがアイクチ44を経由してライナ200に巻き付けられる状態を示した図である。ライナ200は、円筒状部202と円筒状部202の両端に設けられた略半球面形状の二つのドーム部204とを有する。本実施形態において、ドーム部204は半径r
0の半球面形状である。また、円筒状部202のライナ200の回転軸方向における中央からの長さは距離aである。
【0026】
アイクチ44は、前後軸(x軸)および、トラバース軸(y軸)に沿って移動可能である。また、アイクチ44は、アイクチローラ45~47を備える先端部が揺動軸(x軸)を中心に回転可能である。例えば、揺動軸での動作では、繊維束Tは90°以上捻られる。
【0027】
図3は、供給速度制御処理の一例を示すフローチャートである。供給速度制御処理は、制御部50が、供給速度を制御する処理である。この処理は、タンクの製造において行われる処理である。
【0028】
算出部54は、ステップS100において、推定供給速度を算出する。この工程を「算出工程」ともいう。算出部54は、まず、次の式(1)によってライナ200における繊維の巻き付け位置を算出する。
【0029】
【0030】
ここで、rは、ライナ200における回転方向についての繊維の巻き付け位置であり、ライナ200の回転軸から繊維束Tまでの径方向の長さである。xは、ライナ200の回転軸方向におけるアイクチ44の位置である。より具体的には、xは、アイクチ44の、ライナ200の回転軸方向における中央からの、ライナ200の回転軸方向に沿った距離である。例えば、
図2において破線で示す場所にアイクチ44が位置する場合、ドーム部204における繊維束Tのライナ200の径方向における回転軸からの長さはrである。
【0031】
次に、算出部54は、式(1)で算出したライナ200における繊維の巻き付け位置を用いて、次の式(2)によって推定供給速度を算出する。
【0032】
【0033】
ここで、V1は、ライナ200における繊維の巻き取り速度であり、V2は、アイクチ44移動による繊維の移動速度である。Nはライナ200の単位時間あたりの回転数であり、lはボビン21からライナ200までの繊維の経路の長さである。Lはボビン21からアイクチ44までの繊維の経路の長さであり、yは繊維の送出方向におけるアイクチ44からタンクまでの距離である。なお、rおよびxは、上記式(1)における変数rおよび変数xと同じである。
【0034】
制御部50は、ステップS110(
図3参照)において、張力情報を取得する。より具体的には、速度制御部53が、第1張力情報を取得し、第1取得部55が第2張力情報を取得する。この工程を「取得工程」ともいう。なお、ステップS100とステップS110とはこの順に限らず、任意の順序で行うことができ、並行して行ってもよい。
【0035】
速度制御部53は、ステップS120において、ステップS100で算出した推定供給速度とステップS110で取得した張力情報に基づいて、供給速度を制御し、供給速度制御処理を終了する。より具体的には、速度制御部53は、第1ダンサーローラ23における繊維の張力があらかじめ定められた第1の範囲内となり、第2ダンサーローラ41における繊維の張力があらかじめ定められた第2の範囲内となるよう供給速度を制御し、繊維束Tの張力が高くなった場合には、供給速度が速くなるように制御し、繊維束Tの張力が低くなった場合には、供給速度が遅くなるように制御する。この工程を「速度制御工程」ともいう。
【0036】
図4は、第1データ生成処理の一例を示すフローチャートである。第1データ生成処理は、外部コンピュータ300が、タンクの製造におけるライナ200の回転やアイクチ44の往復移動の動作データを作成する処理である。この処理は、製造装置100によるタンクの製造を行う前に実行される。
【0037】
外部コンピュータ300は、ステップS200において、CADWINDデータを作成する。CADWINDデータとは、ライナ200の回転とアイクチ44の往復移動とがどのように連動するかを含むデータである。CADWINDデータは、例えば、ある時点においてアイクチ44がライナ200の軸方向においてどこに位置するかを示す不連続な時系列データである。
【0038】
外部コンピュータ300は、ステップS210において、ステップS200で作成したCADWINDデータから第1動作データを作成する。第1動作データとは、CADWINDデータの時系列のデータである。
【0039】
外部コンピュータ300は、ステップS220において、ステップS210で作成した第1動作データを記録し、第1データ生成処理を終了する。本実施形態において、外部コンピュータ300は、外部コンピュータ300の内部記憶領域に第1動作データを記録する。なお、外部コンピュータ300は、制御部50の記憶領域や、外部記憶媒体に第1データを記録してもよい。
【0040】
図5は、アイクチ・タンク制御処理の一例を示すフローチャートである。アイクチ・タンク制御処理は、制御部50が、タンクの製造においてライナ200の回転やアイクチ44の往復移動を制御する処理である。制御部50は、タンクの製造においてこの処理を繰り返し行う。
【0041】
制御部50は、ステップS300において、第1データ生成処理(
図4参照)で作成した第1動作データを読み込む。本実施形態において、制御部50は、ライナ200における繊維束Tの2層分の第1動作データを読み込む。
【0042】
制御部50は、ステップS310において、ステップS300で読み込んだ第1動作データを用いて、ライナ200の回転やアイクチ44の往復移動を制御する。
【0043】
図6は、第2データ生成処理の一例を示すフローチャートである。第2データ生成処理は、外部コンピュータ300が、アクティブダンサ29の動作データを作成する処理である。この処理は、製造装置100によるタンクの製造を行う前に実行される。
【0044】
外部コンピュータ300は、ステップS200において、CADWINDデータを作成する。この処理は、第1データ生成処理(
図4参照)におけるステップS200と同一の処理である。
【0045】
外部コンピュータ300は、ステップS215において、ステップS200で作成したCADWINDデータから第2動作データを作成する。第2動作データとは、ライナ200の回転やアイクチ44の往復運動に連動して、アクティブダンサ29をどのように制御するかを示すデータである。本実施形態において、外部コンピュータ300は、CADWINDデータと算出部54が算出した推定供給速度とに基づいて、第2データを作成する。なお、外部コンピュータ300は、CADWINDデータから作成した第1データと推定供給速度とに基づいて第2データを作成してもよい。
【0046】
外部コンピュータ300は、ステップS225において、ステップS215で作成した第2動作データを記録し、第2データ生成処理を終了する。本実施形態において、外部コンピュータ300は、外部コンピュータ300の内部記憶領域に第1動作データを記録する。なお、外部コンピュータ300は、制御部50の記憶領域や、外部記憶媒体に第1データを記録してもよい。
【0047】
図7は、アクティブダンサ制御処理の一例を示すフローチャートである。アクティブダンサ制御処理は、制御部50が、タンクの製造においてアクティブダンサ29を制御する処理である。制御部50は、タンクの製造においてこの処理を繰り返し行う。
【0048】
制御部50は、ステップS400において、第2データ生成処理(
図6参照)で作成した第2動作データを読み込む。本実施形態において、制御部50は、ライナ200における繊維束Tの2層分の第2動作データを読み込む。
【0049】
制御部50は、ステップS410において、ステップS400で読み込んだ第2動作データを用いて、アクティブダンサ29を制御する。例えば、制御部50は、推定供給速度が加速する場合に、アクティブダンサ29を制御して繊維供給路が短くなるように移動ローラ27を移動させ、繊維束Tが不足することを回避する。また、制御部50は、推定供給速度が減速する場合に、アクティブダンサ29を制御して繊維供給路が長くなるように移動ローラ27を移動させ、繊維束Tがたるむことを回避する。
【0050】
以上で説明した本実施形態のタンクの製造装置100によれば、算出部54が、アイクチ44のライナ200の回転軸方向おける位置とドーム部204の半径r0とを用いて算出したライナ200における繊維の巻き付け位置に基づいて、予め推定供給速度を算出する。そのため、例えば、ドーム部204の円筒状部202と反対側の端部においてアイクチ44が折り返して繊維束Tの張力が大きく変動する場合において、予め推定供給速度を算出せずに張力情報に基づいて制御する場合と比べて、供給速度の応答遅れを小さくすることができる。そのため、供給速度を大きくすることができるため、タンクの製造を高速化できる。
【0051】
また、算出部54は、式(1)を用いて、ライナ200における繊維の巻き付け位置を算出するため、ドーム部204における繊維の巻き付け位置を精度良く算出できるため、推定供給速度を精度良く算出できる。
【0052】
また、制御部50は、予め作成された動作データを読み込んで、ライナ200の回転やアイクチ44の往復移動を制御する。そのため、リアルタイムで動作データを演算する場合と比べて、ライナ200やアイクチ44の動作を高速化することができる。また、同じ第1動作データを用いて複数のタンクを製造することができるため、品質不良が発生した場合に要因の追及が容易である。
【0053】
また、第2動作データは、推定供給速度に基づいて決定される。そのため、実際にタンクを製造しながらアクティブダンサ29の時系列における動作データを決定するという工程を省略できる。
【0054】
また、製造装置100は張力区切部30を備えており、第1ダンサーローラ23が位置する第1張力区間と、第2ダンサーローラ41が位置する第2張力区間とに張力の区間を分けている。そのため、第1張力区間に位置するボビン21における繊維束Tの張力を高くしすぎることなく、第2張力区間に位置するライナ200における繊維束Tの張力を高くすることができる。また、速度制御部53は、それぞれの張力区間における張力情報を用いて供給速度の制御を行うため、精度良く供給速度の制御ができる。
【0055】
B.第2実施形態:
第2実施形態において、算出部54は、第1ダンサーローラ23および第2ダンサーローラ41の移動速度とアクティブダンサ29の速度に基づいて、推定供給速度を補正する点が、第1実施形態と異なる。第2実施形態における製造装置100の構成は、第1実施形態と同じであるため、製造装置100の構成の説明は省略する。
【0056】
算出部54は、次の式(3)によって、推定供給速度を算出する。
【0057】
【0058】
ここで、αは第1ダンサーローラ23による補正の値であり、βは第2ダンサーローラ41による補正の値である。Vaはアクティブダンサ29の速度である。
【0059】
以上で説明した第2実施形態の製造装置100によれば、算出部54は、第1ダンサーローラ23および第2ダンサーローラ41の移動速度とアクティブダンサ29の速度に基づいて、推定供給速度を補正するため、推定供給速度をより精度よく算出できる。
【0060】
C.他の実施形態:
(C1)上述した実施形態において、ローラの位置や数は任意であり、上記実施形態には限定されない。また、例えば、アクティブダンサ29と張力区切部30と第2ダンサーローラ41との内の少なくとも一部または全部を省略することも可能である。
【0061】
(C2)上述した実施形態において、算出部54は、式(1)を用いてライナ200における繊維の巻き付け位置を算出している。この代わりに、次の式(4)を用いて、ライナ200における繊維の巻き付け位置を算出してもよい。
【0062】
【0063】
この場合、ドーム部204における繊維の巻き付け位置を簡易に算出できる。
【0064】
(C3)上述した実施形態において、算出部54は、ライナ200に形成された繊維束Tの層の厚みを考慮して、ライナ200における繊維の巻き付け位置を算出してもよい。これにより、より精度良くライナ200における繊維の巻き付け位置を算出できる。そのため、より精度良く推定供給速度を算出できる。
【0065】
(C4)上述した実施形態において、速度制御部53は、速度制御工程(
図3、ステップS120参照)において、ステップS100で算出した推定供給速度とステップS110で取得した張力情報に基づいて、供給速度を制御している。これに限らず、速度制御部53は、速度制御工程において、ステップS100で算出した推定供給速度とステップS110で取得した張力情報と、アイクチ44における繊維束Tの張力に関する情報とに基づいて、供給速度を制御してもよい。
【0066】
(C5)上述した実施形態において、外部コンピュータ300が第1データおよび第2データを作成している。この代わりに、制御部50が第1データおよび第2データを作成してもよい。
【0067】
(C6)上述した実施形態において、制御部50は、予め外部コンピュータ300によって作成された第1データおよび第2データを読み込んで、タンクの製造における各制御を行っている。これに限らず、制御部50は、タンクの製造と並行して作成された第1データや第2データを読み込んで、タンクの製造における各制御を行ってもよい。例えば、制御部50は、外部コンピュータ300からCADWINDデータを読み込み、第1データや第2データを作成し、各制御を行ってもよい。
【0068】
(C7)上述した第2実施形態において、算出部54は、第1ダンサーローラ23および第2ダンサーローラ41の移動速度とアクティブダンサ29の速度に基づいて、推定供給速度を補正している。これに限らず、速度制御部53は、第1ダンサーローラ23および第2ダンサーローラ41の移動速度にのみ基づいて、推定供給速度を補正してもよい。すなわち、算出部54は、アクティブダンサ29の速度に基づいて推定供給速度を補正しなくてもよい。この場合上述した式(3)におけるVaは0である。
【0069】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述した課題を解決するために、あるいは上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜削除することが可能である。
【符号の説明】
【0070】
20…繊維巻出部、21…ボビン、22、24、25、26、28、31、32、33、34、35、42、43…搬送ローラ、23…第1ダンサーローラ、27…移動ローラ、29…アクティブダンサ、30…張力区切部、40…繊維案内部、41…第2ダンサーローラ、44…アイクチ、45…第1アイクチローラ、46…第2アイクチローラ、47…第3アイクチローラ、50…制御部、51…第1調整部、52…第2調整部、53…速度制御部、54…算出部、55…第1取得部、56…第2取得部、100…製造装置、200…ライナ、202…円筒状部、204…ドーム部、300…外部コンピュータ、C1、C2…測定部、M1、M2…モータ、T…繊維束