(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】多結晶立方晶窒化ホウ素および工具
(51)【国際特許分類】
C04B 35/5831 20060101AFI20240827BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240827BHJP
B23B 27/20 20060101ALI20240827BHJP
B23C 5/16 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
C04B35/5831
B23B27/14 B
B23B27/20
B23C5/16
(21)【出願番号】P 2021548375
(86)(22)【出願日】2020-07-20
(86)【国際出願番号】 JP2020028038
(87)【国際公開番号】W WO2021059700
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2019174432
(32)【優先日】2019-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角谷 均
(72)【発明者】
【氏名】石田 雄
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-085329(JP,A)
【文献】特開2015-205789(JP,A)
【文献】ICHIDA Yoshio et al.,Synthesis of coarse-grain-dispersed nano-polycrystalline cubic boron nitride by direct transformatio,Diamond & Related Materials,2017年,Vol. 77,p. 25-34,https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0925963517301267?via%3Dihub
【文献】ICHIDA Yoshio et al.,Synthesis of ultrafine nano-polycrystalline cubic boron nitride by direct transformation under ultr,Journal of the European Ceramic Society,2018年,Vol. 38,p. 2815-2822,https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0955221918300979?via%3Dihub
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/5831
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多結晶立方晶窒化ホウ素であって、
立方晶窒化ホウ素粒子群を含み、
第1長さに対する第2長さの比が、0.9
8以下である、
ここで、
前記第1長さおよび前記第2長さの各々は、ISO4545-1およびISO4545-4に規定される条件のヌープ硬さ試験により、くぼみが形成された前記多結晶立方晶窒化ホウ素の表面において測定される値であり、
前記ヌープ硬さ試験の試験力は、4.9Nであり、
前記第2長さは、前記くぼみの長い方の対角線の長さを示し、
前記第1長さは、前記第2長さと、筋状圧痕の長さとの合計を示し、
前記筋状圧痕は、前記対角線の両端から前記くぼみの外側に向かって延びており、
前記筋状圧痕の長さは、前記多結晶立方晶窒化ホウ素の前記表面が、電界放出型走査型電子顕微鏡によって、5000倍以上10000倍以下の倍率で観察されることにより測定され、
前記第2長さは、前記多結晶立方晶窒化ホウ素の前記表面が、光学顕微鏡によって、500倍以上1000倍以下の倍率で観察されることにより測定される、
多結晶立方晶窒化ホウ素。
【請求項2】
前記第1長さから算出される第1ヌープ硬さは、40GPa以上54GPa未満である、
請求項1に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素。
【請求項3】
前記立方晶窒化ホウ素粒子群は、100nm以下の平均粒径を有する、
請求項1または請求項2に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の多結晶立方晶窒化ホウ素を含む、
工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多結晶立方晶窒化ホウ素および工具に関する。本出願は、2019年9月25日に出願した日本特許出願である特願2019-174432号に基づく優先権を主張する。当該日本特許出願に記載された全ての記載内容は、参照によって本明細書に援用される。
【背景技術】
【0002】
特開平11-246271号公報(特許文献1)は、実質的にバインダを含まない立方晶窒化ホウ素焼結体を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の一態様に係る多結晶立方晶窒化ホウ素は、立方晶窒化ホウ素粒子群を含む。第1長さに対する第2長さの比が、0.99以下である。
ここで、第1長さおよび第2長さの各々は、ISO4545-1およびISO4545-4に規定される条件のヌープ硬さ試験により、くぼみが形成された多結晶立方晶窒化ホウ素の表面において測定される値である。
ヌープ硬さ試験の試験力は、4.9Nである。
第2長さは、くぼみの長い方の対角線の長さを示す。
第1長さは、第2長さと、筋状圧痕の長さとの合計を示す。
筋状圧痕は、対角線の両端からくぼみの外側に向かって延びている。
筋状圧痕の長さは、多結晶立方晶窒化ホウ素の表面が、電界放出型走査型電子顕微鏡によって、5000倍以上10000倍以下の倍率で観察されることにより測定される。
第2長さは、多結晶立方晶窒化ホウ素の表面が、光学顕微鏡によって、500倍以上1000倍以下の倍率で観察されることにより測定される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、ヌープ硬さ試験を説明するための概念断面図である。
【
図2】
図2は、くぼみおよび筋状圧痕を説明するための概念平面図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の多結晶cBNの製造方法を示す概略フローチャートである。
【
図4】
図4は、一部の実施形態における合成条件を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
立方晶窒化ホウ素(cubic boron nitride,cBN)粒子は、ダイヤモンド粒子に次ぐ硬さを有している。cBN粒子群(cBN粒子の集合体)と、バインダとの混合物が焼結されることにより、cBN焼結体が形成され得る。cBN焼結体は、例えば、切削工具等に使用されている。cBN焼結体を含む切削工具は、例えば、鉄系材料の加工に適している。cBN粒子と鉄系材料との反応性が低いためである。
【0007】
cBN焼結体において、バインダは、cBN粒子同士を結合する役割を有している。バインダは、例えば、窒化チタン(TiN)、炭化チタン(TiC)等のセラミックス材料を含み得る。バインダは、cBN粒子に比して軟質であり得る。そのため、バインダは、cBN焼結体の硬さを低下させる要因にもなり得る。
【0008】
バインダレスcBN焼結体も開発されている。バインダレスcBN焼結体は、バインダを実質的に含まない。以下、本明細書においては、バインダレスcBN焼結体が「多結晶立方晶窒化ホウ素(多結晶cBN)」と記される。多結晶cBNは、バインダを含むcBN焼結体と区別される。
【0009】
多結晶cBNは、「直接変換焼結法」により製造されている。直接変換焼結法においては、例えば、常圧相の六方晶窒化ホウ素(hexagonal boron nitride,hBN)等が出発原料として使用される。超高圧かつ超高温の下で、出発原料(常圧相)がcBN粒子群(高圧相)に直接変換されると共に、cBN粒子群が焼結される。これにより、多結晶cBNが合成され得る。
【0010】
多結晶cBNにおいては、cBN粒子同士が直接結合している。多結晶cBNは、cBN焼結体に比して、優れた硬さを有し得る。多結晶cBNがバインダを実質的に含まないためと考えられる。
【0011】
ただし、多結晶cBNは、耐亀裂性に改善の余地がある。すなわち、多結晶cBNは、荷重が加わった時に、亀裂が発生しやすい傾向がある。そのため、例えば、多結晶cBNが切削工具の刃先に使用された時に、刃先の欠損が発生しやすくなる可能性もある。
【0012】
本開示の目的は、耐亀裂性に優れる多結晶cBNを提供することである。
【0013】
<本開示の実施態様の説明>
最初に、本開示の実施態様が列記される。本開示の実施態様が説明される。
【0014】
〔1〕 本開示の一態様に係る多結晶立方晶窒化ホウ素は、立方晶窒化ホウ素粒子群を含む。第1長さに対する第2長さの比が、0.99以下である。
ここで、第1長さおよび第2長さの各々は、ISO4545-1およびISO4545-4に規定される条件のヌープ硬さ試験により、くぼみが形成された多結晶立方晶窒化ホウ素の表面において測定される値である。
ヌープ硬さ試験の試験力は、4.9Nである。
第2長さは、くぼみの長い方の対角線の長さを示す。
第1長さは、第2長さと、筋状圧痕の長さとの合計を示す。
筋状圧痕は、対角線の両端からくぼみの外側に向かって延びている。
筋状圧痕の長さは、多結晶立方晶窒化ホウ素の表面が、電界放出型走査型電子顕微鏡によって、5000倍以上10000倍以下の倍率で観察されることにより測定される。
第2長さは、多結晶立方晶窒化ホウ素の表面が、光学顕微鏡によって、500倍以上1000倍以下の倍率で観察されることにより測定される。
【0015】
多結晶cBNは、硬いcBN粒子群によって形成されている。従来、多結晶cBNは、弾性限度が非常に低いと考えられている。例えば従来、ヌープ硬さ試験において、多結晶cBNの弾性変形は、殆ど確認されていない。
【0016】
本開示の多結晶cBNは、従来の多結晶cBNに比して、高い弾性限度を有すると考えられる。「第1長さ(d1)に対する第2長さ(d2)の比(d2/d1)」は、弾性限度の高さを表す指標値である。比(d2/d1)が小さい程、弾性限度が高いと考えられる。
【0017】
本開示の多結晶cBNにおいては、比(d2/d1)が0.99以下である。比(d2/d1)が0.99以下であることにより、耐亀裂性が向上し得る。他方、比(d2/d1)が0.99を超えると、十分な耐亀裂性が期待できない。
【0018】
多結晶cBNの表面に荷重が加わると、多結晶cBNの内部に引張応力が発生し得る。引張応力により、微小な破壊が起こり、亀裂が発生すると考えられる。本開示の多結晶cBNは、弾性限度が高いと考えられる。すなわち、応力-ひずみ曲線において、弾性範囲が広いと考えられる。多結晶cBNの表面に荷重が加わった時、多結晶cBNが弾性変形できる範囲が広いことにより、応力集中が緩和され得る。その結果、亀裂の発生が低減すると考えられる。
【0019】
耐亀裂性の向上により、例えば、多結晶cBNが切削工具の刃先に使用された時に、刃先の欠損が低減することが期待される。
【0020】
〔2〕 第1長さから算出される第1ヌープ硬さは、例えば、40GPa以上54GPa未満であってもよい。これにより、例えば、多結晶cBNを含む切削工具の性能が向上することもあり得る。
【0021】
〔3〕 立方晶窒化ホウ素粒子群は、例えば、100nm以下の平均粒径を有していてもよい。これにより、例えば、多結晶cBNにおいて耐亀裂性の向上が期待される。
【0022】
〔4〕 本開示の工具は、上記〔1〕から〔3〕のいずれか1つに記載される多結晶立方晶窒化ホウ素を含む。本開示の工具は、多結晶cBNを含むことにより、優れた性能を有し得る。
【0023】
[本開示の効果]
上記によれば、耐亀裂性に優れる多結晶cBNが提供される。
【0024】
<本開示の実施形態の詳細>
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」と記される)が詳細に説明される。ただし、以下の説明は、請求の範囲を限定するものではない。
【0025】
《多結晶cBN》
本実施形態の多結晶cBNは、cBN粒子群を含んでいる。多結晶cBNは、実質的にcBN粒子群のみからなっていてもよい。多結晶cBNがバインダを実質的に含まないことにより、硬さの向上が期待される。一部の実施形態において、多結晶cBNは、バインダおよび焼結助剤(触媒)を実質的に含んでいなくてもよい。
【0026】
多結晶cBNは、単結晶cBNと異なり、複数個の粒子の集合体である。そのため、多結晶cBNは、異方性を実質的に有しないと考えられる。多結晶cBNは、へき開性も実質的に有しないと考えられる。多結晶cBNは、等方的な硬さを有し得ると考えられる。多結晶cBNは、等方的な耐摩耗性も有し得ると考えられる。
【0027】
(弾性限度の指標値)
本実施形態の多結晶cBNは、高い弾性限度を有すると考えられる。本実施形態においては、第1長さ(d1)に対する第2長さ(d2)の比(d2/d1)が、弾性限度の指標値として使用される。
【0028】
比(d2/d1)は、ヌープ硬さ試験によって形成されるくぼみ(indentation)とその周辺とにおいて測定される。本実施形態のヌープ硬さ試験は、国際規格「ISO4545-1およびISO4545-4」に規定される条件で行われる。なお、国際規格「ISO4545-1およびISO4545-4」は、日本産業規格「JIS Z 2251:2009」と対応している。
【0029】
微小硬さ試験機が準備される。一般に、微小硬さ試験機は、光学顕微鏡を備えている。
【0030】
図1は、ヌープ硬さ試験を説明するための概念断面図である。
圧子10が準備される。圧子10の形状は、四角すいである。四角すいの底面は、ひし形である。圧子10は、ダイヤモンド製である。
【0031】
試験温度は、23℃±5℃の範囲内である。多結晶cBNの試験片20が準備される。試験片20は、試験に適した形状、サイズに加工されてもよい。微小硬さ試験機のステージに、試験片20が配置される。試験片20の表面に、圧子10が接触する。接触後、試験片20の表面に対して垂直の方向に試験力(F)が加えられる。試験力は4.9Nである。試験力の保持時間は10s(10秒)である。
【0032】
保持時間の経過後、試験力が解除される。試験力の解除後、試験片20の表面が、光学顕微鏡によって500倍以上1000倍以下の倍率で観察される。
【0033】
図2は、くぼみおよび筋状圧痕を説明するための概念平面図である。
図2のxy平面は、多結晶cBNの表面がz軸方向から観察された時の顕微鏡画像に対応している。すなわち、
図2のxy平面は、多結晶cBNの表面に対応している。
【0034】
多結晶cBNの表面には、くぼみ21が形成されている。くぼみ21は、略ひし形の形状を有する。くぼみ21の各辺は、内側に湾曲していることもある。湾曲は、弾性回復の痕跡と考えられる。第2長さ(d2)は、くぼみ21の長い方の対角線の長さである。光学顕微鏡画像において、第2長さ(d2)が測定される。第2長さ(d2)は、小数第1位まで有効とされる。小数第2位以下は四捨五入される。
【0035】
従来、くぼみ21のみが、圧子10により形成された永久変形であると考えられている。本開示の新知見によると、くぼみ21の外側に、筋状圧痕22(streaky indentation)が形成されている。筋状圧痕22は、くぼみ21の対角線の両端から、くぼみ21の外側に向かって延びている。筋状圧痕22は、光学顕微鏡によっては観測できない。筋状圧痕22は、電界放出型走査型電子顕微鏡(field emission-scanning electron microscope,FE-SEM)によって観測され得る。FE-SEMは、高分解能を有する。
【0036】
多結晶cBNの表面がFE-SEMにより精密に観察される。すなわち、多結晶cBNの表面が、FE-SEMによって、5000倍以上10000倍以下の倍率で観察される。FE-SEM画像において、筋状圧痕22の長さ(s1+s2)が測定される。筋状圧痕22の長さは、小数第1位まで有効とされる。小数第2位以下は四捨五入される。
【0037】
第1長さ(d1)は、第2長さ(d2)と、筋状圧痕22の長さ(s1+s2)との合計である。すなわち、下記式(1)により、第1長さ(d1)が算出される。
【0038】
d1=d2+s1+s2 式(1)
【0039】
筋状圧痕22の長さを構成する各線分の長さ(s1,s2)は、互いに等しいこともあり得るし、互いに異なることもあり得る。
【0040】
筋状圧痕22も永久変形であると考えられる。圧子10によって生じた変形は、多結晶cBNの弾性回復により小さくなると考えられる。光学顕微鏡によっては確認できない程度に小さくなった変形が、筋状圧痕22であると考えられる。
【0041】
第1長さ(d1)に対する第2長さ(d2)の比(d2/d1)は、
図2のx軸方向における弾性限度の高さを反映していると考えられる。比(d2/d1)が小さい程、弾性限度が高いと考えられる。
【0042】
比(d2/d1)は、小数第2位まで有効とされる。小数第3位は、四捨五入される。例えば、比(d2/d1)の計算結果が「0.992」である時、比(d2/d1)は、「0.99」であるとみなされる。
【0043】
従来の多結晶cBNにおいては、比(d2/d1)が実質的に1.00である。すなわち、従来の多結晶cBNは、
図1のx軸方向に、殆ど弾性変形しないと考えられる。ただし、
図1のy軸方向には、多少弾性変形することも考えられる。
【0044】
本実施形態の多結晶cBNにおいては、比(d2/d1)が0.99以下である。すなわち、本実施形態の多結晶cBNは、
図2のx軸方向に、ある程度弾性変形すると考えられる。比(d2/d1)が0.99以下であることにより、耐亀裂性が向上し得る。比(d2/d1)が0.99を超えると、十分な耐亀裂性が期待できない。
【0045】
比(d2/d1)が小さくなることにより、耐亀裂性がさらに向上する可能性がある。比(d2/d1)は、例えば、0.98以下であってもよいし、0.96以下であってもよいし、0.94以下であってもよいし、0.92以下であってもよいし、0.91以下であってもよいし、0.90以下であってもよい。
【0046】
比(d2/d1)の下限値は、特に限定されるべきではない。比(d2/d1)は、例えば、0.70以上であってもよい。比(d2/d1)が0.70以上であることにより、例えば、切削工具の加工精度が向上する可能性がある。多結晶cBNが適度に変形し難いことにより、刃先の変形等が低減するためと考えられる。比(d2/d1)は、例えば、0.80以上であってもよいし、0.81以上であってもよいし、0.82以上であってもよいし、0.83以上であってもよい。
【0047】
(第1ヌープ硬さ)
従来、ヌープ硬さ試験における測定値は、第2ヌープ硬さである。第2ヌープ硬さは、下記式(2)により算出される。
【0048】
第2ヌープ硬さ=1.451×(F/d22) 式(2)
式(2)中、「F」は試験力(4.9N)を示す。「d2」は第2長さを示す。
【0049】
第2ヌープ硬さは、第2長さ(d2)から算出される値である。第2ヌープ硬さにおいては、弾性回復が考慮されていない。そのため、第2ヌープ硬さは、材料本来の硬さを正確に示していないと考えられる。第2ヌープ硬さは、本来のヌープ硬さよりも大きい値になると考えられる。
【0050】
本実施形態においては、下記式(3)により、第1ヌープ硬さが算出される。第1ヌープ硬さは、小数第1位まで有効とされる。小数第2位は、四捨五入される。
【0051】
第1ヌープ硬さ=1.451×(F/d12) 式(3)
式(3)中、「F」は試験力(4.9N)を示す。「d1」は第1長さを示す。
【0052】
第1ヌープ硬さは、第1長さ(d1)から算出される値である。第1長さ(d1)は、筋状圧痕22の長さ(s1+s2)を含んでいる。すなわち、第1ヌープ硬さにおいては、弾性回復が考慮されている。第1ヌープ硬さは、材料本来の硬さを反映していると考えられる。
【0053】
第1ヌープ硬さは、例えば、40GPa以上54GPa未満であってもよい。第1ヌープ硬さが40GPa以上であることにより、例えば、多結晶cBNが切削工具の刃先に使用された時に、刃先の摩耗が低減することが期待される。第1ヌープ硬さが54GPa未満であることにより、例えば、多結晶cBNが切削工具の刃先に使用された時に、刃先の欠損が低減することが期待される。また、第1ヌープ硬さが54GPa未満であることにより、多結晶cBNが各種の形状に加工されやすくなることが期待される。すなわち、多結晶cBNの用途が拡大し得る。第1ヌープ硬さは、例えば、44.0GPa以上であってもよいし、44.9GPa以上であってもよい。第1ヌープ硬さは、例えば、53.8GPa以下であってもよいし、52.3GPa以下であってもよい。
【0054】
(X線回折パターン)
本実施形態の多結晶cBNの化学組成は、例えば、X線回折(x-ray diffraction,XRD)パターンにより確認され得る。本実施形態の多結晶cBNのXRDパターンは、cBN以外の成分に由来する回折ピークを実質的に含まない。「cBN以外の成分に由来する回折ピーク」は、cBNに由来する各回折ピークの積分強度の合計に対して、0.1倍より大きい積分強度を有する。
【0055】
多結晶cBNのXRDパターンは、以下の方法により測定され得る。
まず、試験片が準備される。多結晶cBNが研磨されることにより、研磨面が形成される。例えば、cBN製の砥石により、多結晶cBNが研磨されてもよい。研磨面がX線の入射面とされる。
【0056】
XRD装置が準備される。例えば、Rigaku社製のXRD装置「MiniFlex600」等が使用されてもよい。ただし、同XRD装置は一例に過ぎない。同XRD装置と同等の機能を有する限り、別のXRD装置が使用されてもよい。
【0057】
XRD装置における測定条件は、例えば、以下の通りであり得る。
特性X線 :CuKα(波長 0.154nm)
管電圧 :45kV
管電流 :40mA
フィルタ :多層膜ミラー
光学系 :集中法
スキャン方法 :2θ-θスキャン
測定範囲 :20°から80°
ステップ幅 :0.1°
スキャン速度 :3°/min
【0058】
(cBN粒子群の平均粒径)
本実施形態の多結晶cBNは、cBN粒子群を含む。cBN粒子群は、複数個のcBN粒子の集合体である。cBN粒子群に含まれる個々のcBN粒子同士は、直接結合している。cBN粒子群は、例えば、100nm以下の平均粒径を有していてもよい。cBN粒子群が100nm以下の平均粒径を有することにより、例えば、多結晶cBNにおいて耐亀裂性の向上が期待される。cBN粒子群の平均粒径が小さくなる程、多結晶cBNにおける粒界面積が大きくなり得る。粒界においては、亀裂の進展が阻害されることが期待される。
【0059】
また、cBN粒子群が100nm以下の平均粒径を有することにより、例えば、多結晶cBNが切削工具の刃先に使用された時に、加工精度の向上が期待される。cBN粒子群は、例えば、95nm以下の平均粒径を有していてもよいし、80nm以下の平均粒径を有していてもよいし、45nm以下の平均粒径を有していてもよいし、30nm以下の平均粒径を有していてもよいし、25nm以下の平均粒径を有していてもよいし、20nm以下の平均粒径を有していてもよいし、10nm以下の平均粒径を有していてもよい。
【0060】
cBN粒子群は、例えば、1nm以上の平均粒径を有していてもよい。cBN粒子群が1nm以上の平均粒径を有することにより、例えば、多結晶cBNにおいて機械的強度の向上が期待される。cBN粒子群は、例えば、10nm以上の平均粒径を有していてもよいし、20nm以上の平均粒径を有していてもよい。
【0061】
cBN粒子群の平均粒径は「切断法」により測定される。
まず、試験片が準備される。多結晶cBNの表面が鏡面加工される。例えば、ダイヤモンドホイール等により鏡面加工が実施される。鏡面仕上げ面が、FE-SEMにより観察されることにより、FE-SEM画像が取得される。観察倍率は30000倍である。
【0062】
3枚のFE-SEM画像が準備される。3枚のFE-SEM画像は、試験片において、別々の部位から取得される。
【0063】
FE-SEM画像内に円が描かれる。円の中心を起点として、放射状に8本の直線が引かれる。各直線は、円の中心から円周まで延びる。8本の直線において、隣接する二直線のなす角は、すべて実質的に等しい。円の大きさが調整される。円の大きさが調整されることにより、1本の直線が横断するcBN粒子の個数が10個以上50個以下に調整される。
【0064】
各直線において、直線が横断する粒界が計数される。「粒界」は、互いに隣接する2個の粒子間の境界を示す。8本の直線の長さの合計が、粒界の個数の合計で除されることにより、「平均切片長さ」が算出される。
【0065】
平均切片長さに「1.128」が乗じられることにより、1枚のFE-SEM画像における平均粒径が算出される。3枚のFE-SEM画像において、それぞれ、平均粒径が算出される。3つの平均粒径の算術平均が、多結晶cBNの全体における「cBN粒子群の平均粒径」とみなされる。
【0066】
(cBN粒子群の平均アスペクト比)
cBN粒子群は、1以上4未満の平均アスペクト比を有していてもよい。平均アスペクト比が1以上4未満であることにより、例えば、微細な亀裂の発生が低減することが期待される。
【0067】
「平均アスペクト比」は、10個のcBN粒子におけるアスペクト比の算術平均である。10個のcBN粒子は、cBN粒子群から無作為に抽出される。各cBN粒子のアスペクト比は、下記式(4)により算出される。
【0068】
アスペクト比=a/b 式(4)
式中、「a」は、cBN粒子の長径を示す。「b」は、cBN粒子の短径を示す。
【0069】
長径および短径の各々は、FE-SEM画像において測定される。「長径」は、cBN粒子の外郭線上において、最も離れた2点を結ぶ線分の長さを示す。「短径」は、長径を規定する線分と直交し、かつcBN粒子の外郭線上に2つの端点を有する線分のうち、最長の線分の長さを示す。
【0070】
(不純物)
本実施形態の多結晶cBNは、cBN粒子群の他、不純物を含み得る。不純物は、例えば、出発原料に含まれていたものであってもよい。不純物は、例えば、酸素等であってもよい。一部の実施形態において、多結晶cBNにおける不純物濃度は、出発原料における不純物濃度と実質的に等しくてもよい。多結晶cBNにおける不純物濃度は、例えば、0.10質量%以下であってもよいし、0.05質量%以下であってもよいし、0.03質量%以下であってもよいし、0.01質量%未満であってもよい。
【0071】
不純物が少ない程、cBN粒子の表面においてダングリングボンドの密度が高くなると考えられる。不純物が多い程、ダングリングボンドの密度が低下すると考えられる。不純物によって、ダングリングボンドが終端されるためと考えられる。
【0072】
cBN粒子の表面におけるダングリングボンドの密度が高いことにより、隣接する2個のcBN粒子間において、ダングリングボンド同士が結合することが期待される。これにより、cBN粒子間の結合力が強くなることが期待される。その結果、多結晶cBNの弾性限度が高くなる可能性もある。
【0073】
(亀裂発生荷重)
本実施形態の多結晶cBNは、耐亀裂性に優れる。耐亀裂性は、亀裂発生荷重(crack initiation load)により評価され得る。亀裂発生荷重が大きい程、耐亀裂性が向上していると考えられる。本実施形態の多結晶cBNは、例えば、30N以上の亀裂発生荷重を有していてもよい。亀裂発生荷重が大きい程、例えば、多結晶cBNが切削工具の刃先に使用された時、刃先の欠損が低減することが期待される。亀裂発生荷重は、例えば、40N以上であってもよいし、50N以上であってもよいし、65N以上であってもよい。亀裂発生荷重の上限は、特に限定されるべきではない。本実施形態の多結晶cBNは、例えば、80N以下の亀裂発生荷重を有していてもよい。
【0074】
亀裂発生荷重は、以下の方法により測定され得る。
圧子が準備される。圧子は球状である。圧子は、200μmの半径を有する。圧子は、ダイヤモンド製である。
【0075】
試験温度は、23℃±5℃の範囲内である。多結晶cBNの試料片が準備される。試験片は、試験に適した形状、サイズに加工されてもよい。試料片の表面に、圧子が接触する。接触後、1N/sの速度で、圧子から試料片に加わる荷重が大きくなる。アコースティックエミッション(acoustic emission,AE)センサにより、亀裂の発生が検出される。亀裂の発生が検出された時の荷重が「亀裂発生荷重」である。亀裂発生荷重は5回測定される。5回の測定結果の算術平均が、多結晶cBNの亀裂発生荷重とみなされる。
【0076】
《多結晶cBNの製造方法》
本実施形態の多結晶cBNは、例えば、以下の製造方法により製造され得る。本実施形態の多結晶cBNの製造方法においては、上記の比(d2/d1)が0.99以下となるように、各種の条件が調整され、かつ各種の条件が組み合わされる。
【0077】
図3は、本実施形態の多結晶cBNの製造方法を示す概略フローチャートである。本実施形態の多結晶cBNの製造方法は、「(α)出発原料の準備」および「(β)直接変換焼結」を含む。
【0078】
((α)出発原料の準備)
本実施形態の多結晶cBNの製造方法は、出発原料を準備することを含む。
出発原料は、窒化ホウ素(BN)材料であり得る。BN材料は、非立方晶窒化ホウ素(cBN)状である。「非cBN状」とは、cBNではないことを示す。非cBN状BN材料は、例えば、六方晶窒化ホウ素(hBN)であってもよい。出発原料は、例えば、粉体であってもよい。出発材料は、例えば、所定の形状に成形されてもよい。すなわち、出発原料の成形体が準備されてもよい。
【0079】
一部の実施形態において、出発原料は、0.6以下の黒鉛化度を有していてもよい。これにより、多結晶cBNの弾性限度が高くなることもあり得る。黒鉛化度は、下記式(5)により算出される。
【0080】
d002=3.33P1+3.47(1-P1) 式(5)
式(5)中、「P1」は、黒鉛化度を示す。「d002」は、出発原料(BN材料)における(002)面の面間隔を示す。「d002」は、BN材料のXRDパターンから特定される。
【0081】
黒鉛化度は、本来、理想的な黒鉛構造と、炭素材料の結晶構造との類似度を表す指標値である。黒鉛化度が高い程、理想的な黒鉛構造に近いと考えられる。BN材料も、黒鉛類似の結晶構造を有し得る。そのため、黒鉛化度によって、BN材料の結晶構造も評価され得る。
【0082】
例えば、高純度ガスを原料として、熱分解法により、非cBN状BN材料が合成されてもよい。以下、熱分解法により合成された非cBN状BN材料が「pBN(pyrolytic boron nitride)」と記される。pBNは、0.6以下の黒鉛化度を有し得る。また、pBNは、1質量ppm以下の不純物濃度を有し得る。不純物は、例えば、水素、酸素、窒素等であり得る。ここで、不純物としての窒素とは、例えば、ホウ素以外の元素(水素、酸素等)と結合している窒素を示す。
【0083】
出発原料は、pBNに限定されるべきではない。例えば、高純度の不活性ガス雰囲気中において、hBNが微粉砕されることにより、出発原料が準備されてもよい。例えば、アモルファスBN(以下「aBN(amorphous boron nitride)」とも記される)が使用されてもよい。aBNに高純度精製処理が施されてもよい。球状BNが使用されてもよい。オニオンライクBNが使用されてもよい。
【0084】
上記の各種材料は、1種単独で出発原料として使用されてもよい。複数種の材料の混合物が、出発原料として使用されてもよい。
【0085】
本実施形態においては、出発原料がcBNに直接変換される。出発原料における不純物濃度が低い程、cBNへの相変換が促進されることが期待される。相変換の促進により、例えば、多結晶cBNの弾性限界が高くなる可能性もある。
【0086】
不純物は、例えば、酸素等であってもよい。出発原料における酸素濃度は、例えば、不活性ガス融解-赤外線吸収法により測定され得る。出発原料における酸素濃度は、例えば、0.10質量%以下であってもよいし、0.05質量%以下であってもよいし、0.03質量%以下であってもよいし、0.01質量%未満であってもよい。
【0087】
((β)直接変換焼結)
本実施形態の多結晶cBNの製造方法は、出発原料をcBN粒子群に直接変換すると共に、cBN粒子群を焼結することにより、多結晶cBNを製造することを含む。
【0088】
カプセルが準備される。カプセルは、出発原料を収納する。カプセルは、例えば、高融点金属製であってもよい。高融点金属は、cBN合成時の高温環境に耐え得る。カプセルは、例えば、タンタル(Ta)製であってもよい。カプセルは、例えば、ニオブ(Nb)製であってもよい。
【0089】
出発原料がカプセルに収納される。収納後、カプセルが真空中において加熱される。真空中における加熱により、出発原料に吸着したガス(空気等)が低減し得る。吸着ガスは、不純物源になり得る。真空中における加熱後、カプセルが密封される。密封後のカプセルが、高圧高温装置のセル内に配置される。
【0090】
高圧高温装置において、出発原料の相変換と、cBN粒子群の焼結とが、実質的に同時に進行し得る。高圧高温装置は、出発原料の相変換および焼結が可能である限り、特に限定されるべきではない。高圧高温装置は、例えば、ベルト型であってもよい。高圧高温装置は、例えば、マルチアンビル型であってもよい。ベルト型およびマルチアンビル型は、生産性および作業性がよい。
【0091】
図4は、一部の実施形態における合成条件を示すグラフである。
図4中の横軸(T)は、温度(単位 ℃)を示す。
図4中の縦軸(P)は、圧力(単位 GPa)を示す。
【0092】
図4中の第1領域(R1)は、
T≦1000、かつ
P≦5
の条件を満たす。
【0093】
図4中の第2領域(R2)は、
P≧0.0000294T
2-0.126T+143、かつ
P≦0.000105T
2-0.491T+583
の条件を満たす。
【0094】
例えば、次の順序で、昇圧と昇温とが実施されてもよい。これにより、多結晶cBNの弾性限度が高くなることもあり得る。
【0095】
(I) 第1領域(R1)内において、圧力(P)が上昇する。
(II) 第1領域(R1)内において、温度(T)が上昇する。
(III) 圧力(P)と温度(T)とが同時に上昇することにより、第1領域(R1)内の圧力および温度から、第2領域(R2)内の圧力および温度に到達する。
【0096】
第2領域(R2)内の圧力および温度が、例えば1分以上保持される。これにより、多結晶cBNが合成され得る。保持時間は、例えば、5分以上20分以下であってもよいし、10分以上20分以下であってもよい。
【0097】
最終的な圧力および温度が、第2領域(R2)から温度が高い方に外れると、圧力にかかわらず、cBN粒子が粗大になる可能性がある。その結果、多結晶cBNの弾性限度が低下する可能性もある。
【0098】
最終的な圧力および温度が、第2領域(R2)から温度が低い方に外れると、圧力にかかわらず、焼結性が低下する可能性がある。焼結性の低下により、cBN粒子同士の結合力が低下する可能性がある。その結果、多結晶cBNの弾性限度が低下する可能性がある。
【0099】
《工具》
本実施形態の工具は、本実施形態の多結晶cBNを含んでいる。本実施形態の多結晶cBNは硬く、かつ耐亀裂性に優れる。そのため、本実施形態の工具は、例えば、優れた耐欠損性を有し得る。本実施形態の工具は、例えば、優れた耐摩耗性を有し得る。
【0100】
本実施形態の多結晶cBNを含む限り、本実施形態の工具は、特に限定されるべきではない。本実施形態の工具は、例えば、切削工具等であってもよい。本実施形態の切削工具は、例えば、優れた加工精度を有し得る。本実施形態の切削工具においては、例えば、鏡面加工時に回折現象の発生が低減することが期待される。「回折現象」とは、切削痕における光の回折によって、加工面に虹目模様が現れることを示す。
【0101】
本実施形態の切削工具は、例えば、旋削加工用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、エンドミル、エンドミル用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、切削バイト等であってもよい。
【0102】
本実施形態の工具は、例えば、耐摩工具等であってもよい。本実施形態の耐摩工具は、例えば、ダイス、スクライバー、スクライビングホイール、ドレッサー等であってもよい。
【実施例】
【0103】
以下、本開示の実施例(以下「本実施例」とも記される)が説明される。ただし、以下の説明は、請求の範囲を限定するものではない。
【0104】
《多結晶cBNの製造》
製造例1から製造例11に係る多結晶cBNが、それぞれ製造される。
【0105】
((α)出発原料の準備)
下記表1に示される各出発原料がそれぞれ準備される。各出発原料はいずれも、バインダおよび焼結助剤を含んでいない。
【0106】
製造例1から製造例7および製造例11においては、pBNの成形体がそれぞれ準備される。
【0107】
製造例8および製造例9においては、等方性のhBNの成形体がそれぞれ準備される。hBN材料の成形体は、高純度のhBNの粉末が焼結されることにより準備される。
【0108】
製造例10においては、aBNの成形体が準備される。aBNは、固相反応により合成される。
【0109】
不活性ガス融解-赤外線吸収法により、各出発原料の不純物(酸素)濃度が測定される。測定結果は、下記表1の「不純物(酸素)濃度」の欄に示される。本実施例の不活性ガス融解-赤外線吸収法における検出限界は、0.01質量%である。下記表1の「不純物(酸素)濃度」の欄において、「<0.01」との記載は、検出限界(0.01質量%)未満の濃度であることを示している。
【0110】
((β)直接変換焼結)
Ta製のカプセルが準備される。出発原料がカプセルに収納される。真空中においてカプセルが加熱される。真空中における加熱後、カプセルが密封される。高圧高温装置が準備される。密封後のカプセルが、高圧高温装置のセル内に配置される。
【0111】
製造例1から製造例10は、以下のように処理される。
まず、圧力が3GPaまで上昇する。次いで、温度が300℃まで上昇する。さらに、圧力と温度とが同時に上昇する。これにより、圧力が下記表1の合成条件の欄に示される値に到達する。同時に、温度が下記表1の合成条件の欄に示される値に到達する。下記表1の合成条件の欄に示される値において、圧力および温度が15分間保持される。
【0112】
製造例11は、以下のように処理される。
まず、圧力が18GPaまで上昇する。次いで、温度が1500℃まで上昇する。18GPaの圧力と、1500℃の温度とが15分間保持される。
以上より、多結晶cBNが製造される。
【0113】
図4中、実線の矢印は、製造例1から製造例10における、圧力および温度の推移を概念的に示している。点線の矢印は、製造例11における、圧力および温度の推移を概念的に示している。
【0114】
製造例1から製造例6、および製造例8の終点(下記表1の合成条件の欄に示される圧力および温度)は、第2領域(R2)内にある。
【0115】
製造例7、製造例9、製造例10および製造例11の終点は、第2領域(R2)の外にある。製造例7および製造例9の終点は、第2領域(R2)から、温度が高い方に外れている。製造例10および製造例11の終点は、第2領域(R2)から、温度が低い方に外れている。
【0116】
《評価》
(多結晶cBN)
前述の各方法により、「cBN粒子群の平均粒径」、「比(d2/d1)」、「第1ヌープ硬さ」、「第2ヌープ硬さ」、「亀裂発生荷重」がそれぞれ測定される。測定結果は、下記表1に示される。
【0117】
(工具性能)
多結晶cBNにより、供試工具が製造される。本実施例における供試工具は、ボールエンドミルである。ボールエンドミルの先端径は、0.5mmである。ワークとして、焼入鋼「ELMAX(ロックウェル硬さ 60)」が準備される。供試工具により、ワークの端面に対して鏡面切削加工が施される。切削条件は、以下のとおりである。
【0118】
回転数 :60000rpm
切削速度 :200mm/min
加工長 :5μm
切削幅 :3μm
加工面積 :20mm2(=4mm×5mm)
【0119】
加工後、供試工具の刃先において、チッピングの有無が確認される。確認結果は、下記表1の「刃先チッピング」の欄に示される。本実施例における「チッピング」は、「0.1mm以上の幅を有する凹部」、「0.01μm以上の深さを有する凹部」および「0.1mm以上の幅と、0.01μm以上の深さとを有する凹部」のいずれかを示す。
【0120】
加工後、供試工具の刃先において、摩耗量が測定される。測定結果は、下記表1の「摩耗量」の欄に示される。下記表1の「摩耗量」の欄における「大、中、小」の示す内容は、以下のとおりである。
【0121】
「大」 :20μm<摩耗量
「中」 : 5μm<摩耗量≦20μm
「小」 : 0μm≦摩耗量≦5μm
【0122】
加工後、ワークにおいて、加工面の面粗さが測定される。面粗さは、レーザ顕微鏡により測定される。本実施例における面粗さは、「JIS B 0601:2013」における算術平均粗さ(Ra)を示す。測定結果は、下記表1の「算術平均粗さ(Ra)」の欄に示される。下記表1の「算術平均粗さ(Ra)」の欄において、例えば、「10-20」との記載は、算術平均粗さが10μmから20μmであることを示す。算術平均粗さ(Ra)が小さい程、供試工具が高い加工精度を有すると考えられる。
【0123】
【0124】
《結果》
上記表1に示されるように、比(d1/d2)が0.99以下である製造例は、同条件を満たさない製造例に比して、大きい亀裂発生荷重を有している。
【0125】
本実施形態および本実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した本実施形態および本実施例ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0126】
10 圧子、20 試験片、21 くぼみ、22 筋状圧痕。