IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東洋紡エムシー株式会社の特許一覧

特許7544064浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法
<>
  • 特許-浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法 図1
  • 特許-浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法 図2
  • 特許-浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法 図3
  • 特許-浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法 図4
  • 特許-浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法 図5
  • 特許-浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法 図6
  • 特許-浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法 図7
  • 特許-浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法 図8
  • 特許-浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法 図9
  • 特許-浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 63/00 20060101AFI20240827BHJP
   B01D 63/08 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B01D63/00 500
B01D63/08
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021548725
(86)(22)【出願日】2020-09-01
(86)【国際出願番号】 JP2020033015
(87)【国際公開番号】W WO2021059885
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2019175214
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】722014321
【氏名又は名称】東洋紡エムシー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103816
【弁理士】
【氏名又は名称】風早 信昭
(74)【代理人】
【識別番号】100120927
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 典子
(72)【発明者】
【氏名】檜垣 綾乃
(72)【発明者】
【氏名】森田 純輔
(72)【発明者】
【氏名】東 昌男
(72)【発明者】
【氏名】島田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】高杉 健
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-188446(JP,A)
【文献】特開2014-188445(JP,A)
【文献】特開2001-212436(JP,A)
【文献】特開2014-008728(JP,A)
【文献】特開2015-205420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D61/00-71/82
C02F1/44
B29C65/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂製のろ板の周縁部の全周に沿って樹脂製の分離膜を接着して止水部を形成した浸漬型平膜エレメントであって、止水部が単一の凹状断面の連続した線で構成され、止水部の透水部側の凹状断面の肩部を形成する溶着部位1における剥離強度が、止水部のろ板外側の凹状断面の肩部を形成する溶着部位2における剥離強度の30~90%であり、止水部の溶着部位2における剥離強度が、8N以上40N以下であり、止水部の透水部側の凹状断面の肩部の立ち上がり部が曲線を形成し、止水部のろ板外側の凹状断面の肩部の立ち上がり部が凹状断面の両肩部間の平坦部のろ板外側の端で平坦部から明確な上向きの角度変更によって立ち上がり、その角度変更を形成するエッジ角度が80度以上135度以下であることを特徴とする浸漬型平膜エレメント。
【請求項2】
前記溶着部位1の剥離強度が30N以下であることを特徴とする請求項1に記載の浸漬型平膜エレメント。
【請求項3】
樹脂製のろ板に樹脂製の分離膜を重ね、重なった周縁部の全周に沿って分離膜側から超音波ホーンを押し当てて単一の凹状断面の連続した線で構成される止水部を形成することを含み、超音波ホーンの押し当てる部分が、止水部の凹状断面に対応した凸状形状を有することを特徴とする請求項1または2に記載の浸漬型平膜エレメントの製造方法。
【請求項4】
超音波ホーンの押し当てる部分が、止水部の凹状断面に対応した凸状形状部に続くあやめ部をさらに含むことを特徴とする請求項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜分離活性汚泥法に使用される膜分離装置の浸漬型平膜エレメントに関し、特にろ板の周縁部に分離膜を接着して形成された止水部の剥離強度及び断面プロファイルを工夫することにより、止水部の透水部側からの剥離発生時に分離膜全体の破断を防止し、平膜エレメントのろ過性能を長期維持し、止水部の透水部側のみの補修による使用寿命の延命化を図ったものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、世界的な人口増加や工業化、都市化、生活レベルの向上を背景にして、生活用水や工業用水に必要な質・量が高まっている。膜分離活性汚泥法は、活性汚泥によって処理された水を分離膜を用いてろ過するため、清澄なろ液を得ることができ、設備のコンパクト性や運転管理の容易さなどの利点もあり、近年非常に注目を集める技術となってきた。膜分離活性汚泥法に用いられる固液分離装置には、例えば図1に示すような浸漬型の膜分離装置がある。図1において、膜分離装置1は、平膜エレメント2と散気装置3とを備える。
【0003】
図2に示すように、平膜エレメント2は、熱可塑性樹脂製のろ板4の表裏に分離膜5を配置し、ろ板4の周縁部の全周に沿って接着したものである。活性汚泥によって処理された水は、分離膜5の接着部で囲まれた面によりろ過される。接着部で囲まれた面を透水部と呼ぶ。分離膜5は、基材である不織布に膜ポリマーを含浸させた構成である。平膜エレメント2は、運転時の吸引ろ過により透水部の膜面に汚泥や夾雑物が付着・堆積するが、散気装置3から噴出する気泡およびそれにより生じる上昇流によって膜面を洗浄し、膜面に付着・堆積した汚泥や夾雑物を除去することで、平膜エレメントのろ過性能の低下を防止している。
【0004】
しかし、この気泡との衝突や、上昇流の影響により分離膜が揺動し、ろ板と分離膜の接着部に負荷が生じ、分離膜が剥離し、透過水側へ汚泥がリークするという問題がある。ろ板と分離膜の接着法には、超音波溶着法がある。これは、超音波を発振するホーンを接着すべき部位に押圧し、超音波の振動により生じる熱により、ろ板樹脂と分離膜とを溶融させ、溶着するものである。
【0005】
図3に示すように、ろ板と分離膜との溶着が弱い場合、膜面洗浄時の膜の揺動により、分離膜がろ板から剥離しやすくなる問題がある。活性汚泥処理中の分離膜の剥離による透過水側への汚泥リークの発生は、膜分離装置内の90%以上の平膜エレメントで阻止されていなければ実用的ではない。一方、溶着が強すぎると、溶着時に溶融したろ板樹脂が分離膜の内部深くまで達した状態で固化し、結果として、ろ板と分離膜の溶着部が破断しやすくなる問題がある。
【0006】
このような問題に対して、特許文献1には、ろ板外側に位置する溶融代を透水部側に位置する溶融代より高く形成することによって、ろ板と分離膜の剥離や分離膜の破断を抑制する技術が開示されている。しかし、特許文献1に記載の発明では、一度溶融代をつぶしてしまうと、部分的に剥離した分離膜を修理して再度使用することは困難である。また、平膜エレメントの同一面において複数の止水部を独立して設けなければならず、平膜エレメント作製の作業が煩雑になる。そのため溶着時に、とくに透水部側の止水部で、超音波発振ホーンの接触不良が起こりやすく、複数の止水部間で溶着強度差を大きく設けられないという問題がある。
【0007】
また、特許文献2では、不織布層に達しない適度な溶着条件を設定することによって、使用時の分離膜の破断を防止するとしているが、実際には分離膜の破断を完全に防止することは難しく、分離膜の破断を防止する溶着条件では分離膜の剥離が起こりやすく、分離膜の剥離を防止する溶着条件では分離膜の破断が起こりやすいため、両者を同時に防ぐことは困難であった(図3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特許第3576050号
【文献】特許第3778758号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来技術の問題に鑑み創案されたものであり、その目的は、ろ板の周縁部に分離膜を接着して形成された単一の止水部の剥離強度及び断面プロファイルを工夫することにより、止水部の透水部側のみが部分的に剥離した際にも分離膜の破断を防止し、ろ過性能を長期間維持し、止水部の透水部側での剥離の補修による使用寿命の延命化が可能な浸漬型平膜エレメントおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために剥離強度と超音波ホーンの形状との関係について鋭意検討した結果、特定の断面形状を形成する超音波ホーンを用いて単一の凹状断面の連続した止水部を設け、止水部の溶着部位の強度を透水部側とろ板外側で適切に設定できるようにすることにより、止水部の耐久性と補修のしやすさを両立する浸漬型平膜エレメントを容易に製造できることを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の(1)~(5)の構成を有するものである。
(1)樹脂製のろ板の周縁部の全周に沿って樹脂製の分離膜を接着して止水部を形成した浸漬型平膜エレメントであって、止水部が単一の凹状断面の連続した線で構成され、止水部の透水部側の凹状断面の肩部を形成する溶着部位1における剥離強度が、止水部のろ板外側の凹状断面の肩部を形成する溶着部位2における剥離強度の30~90%であり、止水部の溶着部位2における剥離強度が、8N以上40N以下であることを特徴とする浸漬型平膜エレメント。
(2)止水部の透水部側の凹状断面の肩部の立ち上がり部が曲線を形成し、止水部のろ板外側の凹状断面の肩部の立ち上がり部が凹状断面の両肩部間の平坦部のろ板外側の端で平坦部から明確な上向きの角度変更によって立ち上がり、その角度変更を形成するエッジ角度が80度以上135度以下であることを特徴とする(1)に記載の浸漬型平膜エレメント。
(3)上記溶着部位1の剥離強度が30N以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の浸漬型平膜エレメント。
(4)樹脂製のろ板に樹脂製の分離膜を重ね、重なった周縁部の全周に沿って分離膜側から超音波ホーンを押し当てて単一の凹状断面の連続した線で構成される止水部を形成することを含み、超音波ホーンの押し当てる部分が、止水部の凹状断面に対応した凸状形状を有することを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の浸漬型平膜エレメントの製造方法。
(5)超音波ホーンの押し当てる部分が、止水部の凹状断面に対応した凸状形状部に続くあやめ部をさらに含むことを特徴とする(4)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
(1)本発明の浸漬型平膜エレメントは、単一の凹状断面の止水部の溶着部位の透水部側とろ板外側で剥離強度を適切に制御しているので、使用時に最も負荷のかかる止水部の透水部側において溶着時の熱による分離膜の劣化を抑制し、使用時に分離膜が破断することを防止でき、また、長期使用により止水部の透水部側で一部剥離が発生した際も、ろ板外側で止水機能を保持することで平膜エレメントのろ過性能を維持し、部分的な補修による使用寿命の延命化を図ることができる。
(2)本発明の浸漬型平膜エレメントは、止水部の断面形状の凹状部の内側立ち上がり部が曲線を形成し、止水部のろ板外側の凹状断面の肩部の立ち上がり部が凹状断面の両肩部間の平坦部のろ板外側の端で平坦部から明確な上向きの角度変更によって立ち上がり、その角度変更を形成するエッジ角度を特定の範囲に制御しているので、止水部の内側では、分離膜の構造をできるだけ保持しつつ、分離膜の剥離を防止する十分な溶着強度を実現でき、上記効果を容易に得ることができる。
(3)本発明の浸漬型平膜エレメントの製造方法は、特定形状を有する超音波ホーンを使用しているので、一度の溶着作業によりろ板の平滑面において上記効果を持つ単一の凹状止水部を形成させることができ、ろ板の加工費用や、溶着の工数および電源容量を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】従来技術の浸漬型膜分離装置の模式図である。
図2】従来技術の平膜エレメントの模式図である。
図3】従来技術の止水部の剥離の問題点を示す模式図である。
図4】本発明の平膜エレメントの構成を示す図である。
図5】本発明の平膜エレメントの一部を拡大した模式図である。
図6】本発明の平膜エレメントの止水部の断面写真である。
図7】本発明の平膜エレメントの止水部における剥離強度プロファイルである。
図8】本発明の平膜エレメントの止水部の断面模式図である。
図9】本発明で使用する超音波ホーンの模式図である。
図10】超音波ホーンを当てている状態の止水部の断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の浸漬型平膜エレメントの実施形態について図面を参照して説明する。
【0015】
図4は、本発明の浸漬型平膜エレメントの一例の模式図である。本発明の浸漬型平膜エレメントは、図4に示されるように、ろ板4の中央部10に流路材11として樹脂メッシュを配置し、その上に緩衝材12を配置し、さらにその上にろ板4の周縁部7に沿って分離膜5を接着した構成をとることが好ましい。本発明では、吸引ろ過時に分離膜5が流路材11側に押し付けられる状態となるため、膜保護の役割を持つ緩衝材12を間に配置することが好ましい。図4では、浸漬型平膜エレメントのろ板4の片面側の構成のみが示されているが、本発明では、ろ板4の表裏両面に同様の構成を有することが好ましい。
【0016】
本発明の浸漬型平膜エレメントにおける膜透過水の流れを図4を用いて説明すると、分離膜5の外表面に被処理液を接触させ、分離膜5の外側から内側へ吸引ろ過が行われ、ろ過された膜透過水は、分離膜5とろ板4との間に配置された緩衝材12、流路材11中の空隙を順に通りながら、ろ板4の端部に取り付けられた透過水取水口13の方向へ流れて行き、透過水取水口13から浸漬型平膜エレメント外へ排出されるようになっている。
【0017】
本発明の浸漬型平膜エレメントは、ろ板4の周縁部7を中央部10より0.6~2mm高くすることが好ましく、それにより形成される中央部10の凹空間に流路材11及び緩衝材12が配置され、流路材11及び緩衝材12が配置された状態での中央部10と周縁部7の段差は0.5mm以下となるようにすることが好ましい。緩衝材12は、ろ板4に接着した流路材11を覆うように配置し、流路材11と接着することが好ましい。分離膜5は、流路材11、緩衝材12が配置されたろ板4を覆うように周縁部7にて接着することが好ましい。
【0018】
本発明において、分離膜5の材質は、樹脂製であれば特に限定されないが、例えばポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、もしくはポリテトラフルオロエチレンなどの熱可塑性樹脂、またはこれらの混合物からなるものを適宜選択することができる。また、分離膜5は、PETまたはポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂からなる不織布や抄紙に前記膜材質からなる分離層を含浸または積層した複合膜であってもよい。また、分離膜5の厚みは、好ましくは50μm~300μm、より好ましくは80μm~150μmである。この厚みが大き過ぎると、溶着むらが発生しやすくなるとか、ろ板から剥離しやすくなることがある。また、厚みが薄いと、分離膜の破断が発生しやすくなる。
【0019】
ろ板4の材質は、平膜エレメント全体の形状を保持する樹脂製のものであれば特に限定されないが、例えばABS樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂などの熱可塑性樹脂を適宜選択することができる。ろ板の寸法は、高さ(長さ)300mm~1500mm、幅200mm~550mmの矩形形状を有し、幅10mm~20mmの周縁部7を有することが好ましい。
【0020】
本発明において、ろ板と分離膜とは、ろ板の周縁部7と分離膜5を5~15mm程度の幅で重なるように配置した後、周縁部7の内側端部から0.5mm以上外側の位置において超音波溶着法により溶着されることが好ましい。図5は、ろ板4と分離膜5の溶着部分をわかりやすくするために、ろ板4と分離膜5をずらした状態での周縁部7中の止水部6及び溶着補助部8を示す説明図である。超音波溶着法としては、ロータリー溶着法やアップダウン法が挙げられるが、本発明においては、アップダウン法によりアップダウンホーンを用いて、幅0.5mm~3mm、最大深さ50μm~500μmの単一の連続した止水部6(溶着部)をろ板4の周縁部7に沿って全周にわたって一体に形成することが好ましい。また、使用時に分離膜5の外周がばたつくことを防止するために止水部6の外側にあやめ状の溶着補助部8を設けることが好ましい。
【0021】
図6は、周縁部7の止水部6付近を幅方向に切断した断面写真である。本発明では、止水部6は、図6の両矢印Aで示される凹状断面を有した連続した一本の線で構成され、この線が周縁部7に沿って閉じた矩形を構成している。止水部6は、ろ板4と分離膜5が溶着して形成された溶着部であり、溶着部は、ろ板4と分離膜5とを引き剥がした際に、剥離強度が発現する部位である。図7は、図6において透水部側(周縁部内側)からろ板外側(周縁部外側)に向かって分離膜5を引き剥がしたときの剥離強度プロファイルである。分離膜5は、剥離試験中の引張応力により伸展するため、剥離強度を発現する引張距離は実際のAの長さより大きくなる。
【0022】
本発明の平膜エレメントでは、止水部の剥離強度プロファイルは、図7に示すように、2つのピーク(ピーク1、ピーク2)が存在する。ピーク1は、図8に示される止水部の透水部側の凹状断面の肩部を形成する溶着部位1における剥離強度であり、ピーク2は、止水部のろ板外側の凹状断面の肩部を形成する溶着部位2における剥離強度である。このような剥離強度プロファイルは、周縁部に分離膜を溶着する際のアップダウンホーンの形状に密接に関連しており、本発明の浸漬型平膜エレメントに特有の性質である。
【0023】
本発明の平膜エレメントでは、図7に示すように、溶着部位1の剥離強度(ピーク1)は、比較的弱く設定されており、一方、溶着部位2の剥離強度(ピーク2)は、溶着部位1の剥離強度(ピーク1)より強く設定されているという特徴を有する。すなわち、溶着部位1では、後述するように溶着部位1側が特定の形状を有する超音波ホーンを用いることにより、ろ板と分離膜とが互いに広く浅く溶融して接着された状態にある。このため、溶着部位1は、溶着部位2に比較して分離膜の劣化が抑えられるとともに比較的弱い剥離強度を有することになる。これにより、活性汚泥処理時に透水部の分離膜が揺動することによるストレスにさらされた際に、最も負荷のかかる止水部と透水部の境界である溶着部位1で分離膜が破断することを効果的に防止することができる。一方、溶着部位2では、溶着部位2側が特定の形状を有する超音波ホーンを用いるため、ろ板と分離膜とが溶着部位1よりも多く溶融して強固に一体化している。このため、溶着部位2は溶着部位1に比較して比較的強い剥離強度を有することになる。これにより、仮に溶着部位1において分離膜が剥離したとしても、溶着部位2では分離膜とろ板とが容易に剥離することを防ぐことができる。このような構成を有することにより、溶着部位1で分離膜とろ板周縁部とが剥離した際にも溶着部位2により浸漬型平膜エレメントとしての機能を維持することが可能となる。
【0024】
本発明の平膜エレメントでは、止水部の溶着部位1における剥離強度は、溶着部位2における剥離強度の30~90%、好ましくは35~85%である。溶着部位1における剥離強度の比率が上記範囲より小さいと、溶着部位1の剥離強度が不十分となり、平膜エレメントの取扱時に容易に溶着部位1が剥離しやすくなる。また、比率が上記範囲より大きいと、本発明の目的とする効果を十分に得ることができない。
【0025】
本発明において、止水部の溶着部位2の剥離強度は、8N以上40N以下、好ましくは11N以上35N以下である。溶着部位2の剥離強度が小さすぎると、溶着部位1において膜剥離等が発生した際に溶着部位2においても膜剥離が発生しやすくなる。一方、溶着部位2の剥離強度を大きくしようとして分離膜とろ板樹脂界面を過度に溶融しすぎると、溶着部の分離膜の構造が劣化して分離膜の破断強度が顕著に低下してしまい、膜破断が生じやすくなる。
【0026】
本発明において、止水部の溶着部位1の剥離強度は、好ましくは30N以下、より好ましくは27N以下である。また、止水部の溶着部位1の剥離強度は、好ましくは4N以上、より好ましくは5N以上である。溶着部位1の剥離強度が大きすぎると、膜剥離の発生は減少するが、膜破れが生じやすくなる。一方、溶着部位1の剥離強度が小さすぎると、膜剥離が生じやすくなる。
【0027】
以上のように、止水部の透水部側に剥離強度の比較的弱い溶着部位1を設け、同一の止水部のろ板外側に剥離強度の比較的強い溶着部位2を設けることにより、止水部の透水部側で溶着時の分離膜の劣化を防止し、使用時に最も負荷のかかる透水部側で分離膜の破断を防止でき、同時に分離膜のろ板からの剥離も防止できるため、平膜エレメントのろ過性能を長期間保持することができる。また、溶着部位1でのみ分離膜とろ板が部分的に剥離した場合、点検時にこれを補修することで平膜エレメントの延命化を図ることができる。
【0028】
本発明の平膜エレメントの止水部の形状は、以下に挙げるような特徴を有する。すなわち、本発明の止水部では、止水部の透水部側の凹状断面の肩部(溶着部位1)の立ち上がり部が、図10のEに示すような曲線を形成し、止水部のろ板外側の凹状断面の肩部(溶着部位2)の立ち上がり部が、前記両肩部の間の平坦部(図10のB)のろ板外側の端(図10のC)で明確な上向きの角度変更によって立ち上がっている。この溶着部位2の立ち上がり部の角度変更を形成するエッジ角度(図8のX)は、80度以上135度以下であることが好ましい。一方、溶着部位1の断面を形成するためには、溶着部位1側の断面形状が曲率半径0.3~3mm、弧長が0.4~4mmの曲線を有する超音波ホーンを用いることが好ましい。止水部がこのような形状を有することで、溶着時、凹状断面の止水部の形成により分離膜が引き伸ばされる際、止水部の溶着部位1においては分離膜の伸展程度が広範囲に分散されるので、溶着時の分離膜の劣化を効果的に防ぐことができ、さらに溶着部位1の剥離の影響を図10のCの位置で止め、より剥離強度の強い溶着部位2で分離膜とろ板の剥離の進行を完全に防止することができる。
【0029】
本発明の平膜エレメントの製造方法としては、樹脂製のろ板の上に分離膜を重ね、重なった周縁部の全周に沿って超音波を発振するホーン(超音波ホーン)を一定圧で押し当てて、ろ板と分離膜との界面で摩擦熱を生じさせ、ろ板および分離膜を構成する樹脂を溶融し、単一の凹状断面の連続した線で構成される止水部(溶着部)を形成する工程を含むことが好ましい。超音波ホーン9は、ろ板4と分離膜5を重ねた部分に押し当てる部分が、図9の右側に示すような止水部6を形成する部分と、その外側に分離膜5の外周のばたつき防止のためのあやめ状の溶着補助部8を形成する部分から構成されることが好ましい。超音波ホーン9は、設定したホーン速度で図9の矢印の方向にろ板周縁部に押し込まれるようになっている。溶融したろ板周縁部の樹脂は、図10に示すように、押し込まれたホーンの両脇へ流れ、盛り上がる。このとき、図10の止水部の領域E,B,Dの剥離強度は、超音波ホーンの影響を領域D>領域E>>領域Bの順に強く受けるために、図7に示されるような剥離強度プロファイルが得られる。
【0030】
このような剥離強度プロファイルを発現するためには、前述したような形状を有する超音波ホーンを用いた上で、超音波周波数、超音波発振時間、押付圧力等を特定の好適な範囲に設定すればよい。具体的には、超音波周波数は、15~70kHzが好ましく、15~50kHzがより好ましく、15~30kHzがさらに好ましい。押付圧力は、好ましくは0.1~3.0MPa、より好ましくは0.5~2.5MPaであり、発振時間は、好ましくは0.3~1.5秒、より好ましくは0.4~1.0秒である。押付圧力が小さいと、ろ板周縁部と分離膜との密着が弱くなる(ホーンがろ板に沈み込むことができない)ため、均一な溶着が得られないことがある。押付圧力が大きいと、超音波発振機に負荷がかかり寿命を短くしてしまうことがある。発振時間が小さいと、分離膜とろ板の摩擦界面での発熱が不十分となり溶着むらが発生することがある。発振時間が大きいと、ろ板樹脂と分離膜の溶融が大きくなりすぎ、かえって剥離強度が弱くなることがある。
【0031】
本発明の平膜エレメントは、上述のように構成されているので、止水部の透水部側の溶着部位1が破断することはなく、また仮に溶着部位1が長期使用により剥離したとしてもろ板側の溶着部位2が剥離されずに保たれるので、溶着部位1の部分補修のみで延命化を図ることができる。
【実施例
【0032】
本発明の平膜エレメントを実施例によって示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。本発明における剥離強度の評価は、以下の方法に依った。
【0033】
(剥離強度)
溶着部位1および2の剥離強度は、超音波溶着後の未使用状態の平膜エレメントを用いて、次に示す手順に基づいて測定した。止水部の長さ方向が15mm幅になるように溶着部をカットし、止水部から2cm離れた分離膜の透水部を引張試験機(島津オートグラフAGS-J、50Nロードセル)の上部のつかみ具にセットし、分離膜が溶着されているろ板を下部のつかみ具にセットした。20mm/minで180度剥離を行い、そのときの強力(N)を測定した。剥離方向は、平膜エレメントの透水部側から周縁部側に向かう方向で実施した。溶着部位1の剥離強度は、透水部側のピークトップを読み取り、溶着部位2の剥離強度は、ろ板外側のピークトップを読み取ることで測定した。
【0034】
(透過水側への汚泥リーク抑制率)
透過水側への汚泥リーク抑制率については、平膜エレメント10枚分を曝気槽にて3ヵ月間連続運転して使用し、透過水取出口13に接続した透明な吸引チューブについて使用中定期的に目視で観察して汚泥が透過水側へリークした平膜エレメントの有無を確認し、使用した平膜エレメント10枚のうち、汚泥がリークしなかった平膜エレメントの枚数の割合を透過水側への汚泥リークの抑制率(%)とした。
【0035】
(分離膜の剥離又は破断の有無)
分離膜の剥離又は破断の有無は、使用した平膜エレメント10枚について目視で確認し、剥離又は破断が生じた場合は、その割合(%)も表示した。
【0036】
(補修による再使用の可否)
補修による再使用の可否については、分離膜の剥離又は破断が生じた場合において、剥離または破断した溶着部位を再度溶着し、その溶着部位の剥離強度が初期強度の90%以上に回復した場合には可、90%未満の場合には不可と判断した。
【0037】
(実施例1)
(分離膜)
PET抄紙を所定の大きさに切断した後、皺が入らないように注意しながら製膜用の枠に固定した。次に、塩素化ポリ塩化ビニル7.5質量%、テトラヒドロフラン63.3質量%、イソプロパノール19質量%、1-ブタノール10.2質量%からなる溶液(製膜原液)の中に、前記PET抄紙を静かに浸漬し、1分間放置した。その後、製膜原液を含浸させたPET抄紙をゆっくりと引き上げた後、相対湿度75%、温度20℃の乾燥ゾーン(恒温恒湿箱の中)で10分間放置し、分離膜を形成させた。
【0038】
(ろ板の作製)
ABS樹脂製のろ板(高さ315mm、幅225mm)の表裏面ともに、ABS樹脂製の周縁部(幅12.5mm)を隙間無く接着することにより、周縁部の厚みが6mmであり、中央部より周縁部が1mm高いろ板を作成した。
【0039】
(平膜エレメントの作製)
ろ板の中央部に、流路材として樹脂メッシュ:日本フィルコン(株)DOP-18K(高さ290mm、幅200mm)をセットし、耐水接着剤にてろ板と接着し、膜透過水流路を形成した。ろ板と樹脂メッシュを接着し、樹脂メッシュの上面に緩衝材としてPET製の不織布:廣瀬製紙(株)05TH-60(高さ285mm、幅195mm)をセットした。さらに、不織布上部から分離膜(高さ305mm、幅215mm、厚さ0.13mm)をろ板の周縁部と重ね合わせ、図9に示すアップダウンホーンを押し当て周縁部と分離膜とを溶着した。
なお、前記アップダウンホーンは、透水部側(内側立ち上がり部)の先端の曲率半径が1mm、弧長が1.6mm、ろ板外側(外側立ち上がり部)のエッジ角度が90度のものを用いた。また、アップダウンホーンの押付圧力は0.8MPa、超音波の発振周波数は20kHz、発振時間は0.475秒とした。
裏面も同様に分離膜の接着を行い、平膜エレメントを作製した。
【0040】
(実施例2)
発振時間を0.50秒とした以外は、実施例1と同様にして平膜エレメントを作製した。
【0041】
(実施例3)
発振時間を0.65秒とした以外は、実施例1と同様にして平膜エレメントを作製した。
【0042】
(実施例4)
アップダウンホーンとして、実施例1で用いたものよりも透水部側(内側立ち上がり部)の先端の曲率半径が大きいもの(2mm)を用いた以外は、実施例2と同様にして平膜エレメントを作製した。
【0043】
(実施例5)
アップダウンホーンとして、実施例1で用いたものよりも透水部側(内側立ち上がり部)の先端の曲率半径が小さいもの(0.6mm)を用いた以外は、実施例1と同様にして平膜エレメントを作製した。
【0044】
(実施例6)
発振時間を0.40秒とした以外は、実施例5と同様にして平膜エレメントを作製した。
【0045】
(実施例7)
アップダウンホーンとして、実施例1で用いたものよりも透水部側(内側立ち上がり部)の先端の曲率半径が小さいもの(0.8mm)を用い、発振時間を0.80秒とした以外は、実施例1と同様にして平膜エレメントを作製した。
【0046】
(比較例1)
アップダウンホーンとして、透水部側(内側立ち上がり部)のエッジ角度が90度、ろ板外側(外側立ち上がり部)のエッジ角度が90度のものを用い、発振時間を0.40秒とした以外は、実施例1と同様にして平膜エレメントを作製した。
【0047】
(比較例2)
アップダウンホーンとして、透水部側(内側立ち上がり部)のエッジ角度が90度、ろ板外側(外側立ち上がり部)のエッジ角度が90度のものを用いた以外は、実施例3と同様にして(つまり、発振時間0.60秒)平膜エレメントを作製した。
【0048】
(比較例3)
アップダウンホーンとして、透水部側(内側立ち上がり部)のエッジ角度が90度、ろ板外側(外側立ち上がり部)のエッジ角度が160度のものを用いた以外は、実施例3と同様にして平膜エレメントを作製した。
【0049】
実施例1~7及び比較例1~3の平膜エレメントの詳細と評価結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1の結果から明らかなように、実施例1~7では、優れた耐久性を有しかつ補修の容易な平膜エレメントが得られている。なお、実施例1、2、4では、運転中に溶着部位1の一部において分離膜がろ板から剥離したが、透過水側に被処理液がリークすることはなく、溶着部位1の再溶着による補修により平膜エレメントの再使用が可能であった。実施例6では、汚泥リーク抑制率は90%と高かったものの、溶着部位1および2がともに剥離を生じたが、補修により平膜エレメントの再使用が可能であった。一方、溶着部位1および2の剥離強度が低い比較例1では、60%の平膜エレメントで溶着部位1および2がともに膜剥離を生じており、しかも汚泥リーク抑制率は40%と低かった。また、比較例2では、使用時の揺動による負荷を受ける溶着部位1において、溶着時の分離膜の劣化が強すぎたためか、30%の平膜エレメントで溶着部位1の破断(膜破れ)が生じており、補修による再使用も不可能であった。また、比較例3では、溶着部位1と溶着部位2の溶着形状を入れ替えたが、比較例2と同様に使用時の揺動の影響か、20%の平膜エレメントで溶着部位1の破断(膜破れ)が観察され、補修による再使用も不可能であった。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の浸漬型平膜エレメントは、ろ板の周縁部に分離膜を接着して形成された単一の連続した凹状断面の止水部の剥離強度及び断面プロファイルを工夫しているので、耐久性と補修のしやすさを両立することができ、使用寿命の延命化を図ることができる。従って、本発明の浸漬型平膜エレメントは、水処理分野、特に排水処理に用いるのに好適である。
【符号の説明】
【0053】
1 膜分離装置
2 平膜エレメント
3 散気装置
4 ろ板
5 分離膜
6 止水部
7 周縁部
8 溶着補助部
9 超音波ホーン
10 中央部
11 流路材
12 緩衝材
13 透過水取出口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10