(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】表示制御装置、及びヘッドアップディスプレイ装置
(51)【国際特許分類】
H04N 13/366 20180101AFI20240827BHJP
H04N 13/122 20180101ALI20240827BHJP
H04N 13/302 20180101ALI20240827BHJP
H04N 13/346 20180101ALI20240827BHJP
H04N 13/363 20180101ALI20240827BHJP
G02B 27/01 20060101ALI20240827BHJP
G02B 30/26 20200101ALN20240827BHJP
【FI】
H04N13/366
H04N13/122
H04N13/302
H04N13/346
H04N13/363
G02B27/01
G02B30/26
(21)【出願番号】P 2021551175
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036186
(87)【国際公開番号】W WO2021065699
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019178836
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019235288
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231512
【氏名又は名称】日本精機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】秦 誠
(72)【発明者】
【氏名】笠原 毅
【審査官】益戸 宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-015708(JP,A)
【文献】特開2019-015823(JP,A)
【文献】国際公開第2019/021340(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 13/00
G02B 27/01
G02B 30/00
H04N 5/66
B60K 35/00
G09G 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載され、画像を生成する画像生成部と、前記画像を表示する表示部と、前記画像の表示光を反射して、被投影部材に投影する光学部材を含む光学系と、を含み、前記画像を、前記車両に備わる被投影部材に投影することで、運転者に前記画像の虚像を視認させるヘッドアップディスプレイ(HUD)装置を制御する表示制御装置であって、
1つ又はそれ以上のプロセッサを含み、
前記プロセッサは、
アイボックスにおける
前記運転者の視点位置に応じてワーピングパラメータを更新し、そのワーピングパラメータを用いて前記表示部に表示する画像を、前記画像の虚像の歪み特性とは逆の特性をもつように予め歪ませる視点位置追従ワーピング制御を実施する場合における前記運転者の視点位置検出感度を第1の視点位置検出感度とし、
前記HUD装置における、前記
視点位置追従ワーピング制御とは異なる動作を、前記アイボックスにおける前記運転者の視点位置に応じて制御する場合における前記運転者の視点位置検出感度を第2の視点位置検出感度とするとき、
前記第1の視点位置検出感度を、
前記第2の視点位置検出感度よりも低く設定する、ことを特徴とする表示制御装置。
【請求項2】
前記
視点位置追従ワーピング制御とは異なる動作は、
前記運転者の左右の各目に、左目用の視差画像及び右眼用視差画像の各々の表示光を入射させる制御動作である、ことを特徴とする請求項1に記載の表示制御装置。
【請求項3】
前記アイボックスを複数の部分領域に分割して、各部分領域を単位として前記運転者の視点位置を検出すると共に、
前記第1の視点位置検出感度を用いる場合における前記部分領域の数をm個(mは2以上の自然数)とし、前記第2の視点位置検出感度を用いる場合における前記部分領域の数をn個(nは3以上の自然数)とするとき、mの値は、nの値よりも小さく設定される、ことを特徴とする請求項1又は2に記載の表示制御装置。
【請求項4】
前記運転者の視点から見て
前記車両の幅方向(左右方向)を横方向とし、横方向に直交すると共に、道路の路面の垂線に沿う高さ方向を縦方向とするとき、
前記アイボックスの内部が、
前記横方向の境界線によっては分割されず、前記縦方向の境界線によってのみ複数の部分領域に分割され、かつ各部分領域は均等である第1の構成である、
又は、
前記横方向の境界線によっては分割されず、前記縦方向の境界線によってのみ複数の部分領域に分割され、かつ各部分領域は不均等であって、中央が密で周辺が疎、あるいは、中央が疎で周辺が密となるように粗密分割されている第2の構成である、
又は、
前記縦方向の境界線によっては分割されず、前記横方向の境界線によってのみ複数の部分領域に分割され、かつ各部分領域は均等である第3の構成である、
又は、
前記縦方向の境界線によっては分割されず、前記横方向の境界線によってのみ複数の部分領域に分割され、かつ各部分領域は不均等であって、中央が密で周辺が疎、あるいは、中央が疎で周辺が密となるように粗密分割されている第4の構成である、
又は、
前記横方向の境界線、及び縦方向の境界線によって複数の部分領域に分割され、かつ各部分領域は均等である第5の構成
のである、
又は、
前記横方向の境界線、及び縦方向の境界線によって複数の部分領域に分割され、かつ各部分領域は不均等であって、中央が密で周辺が疎、あるいは、中央が疎で周辺が密となるように粗密分割されている第6の構成である、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の表示制御装置。
【請求項5】
前記車両の速度が低速状態か否かを判断する低速状態判定部と、をさらに有し、
前記1つ又はそれ以上のプロセッサは、前記車両が、停止状態を含む前記低速状態であるときに、前記第1の視点位置検出感度による前記運転者の視点位置の検出情報を用いて前記
視点位置追従ワーピング制御を実施する、ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の表示制御装置。
【請求項6】
前記アイボックスは、前記表示制御装置が動作状態となった初期時点で複数の部分領域に分割されており、
前記1つ又はそれ以上のプロセッサは、
前記アイボックスの各部分領域を単位として前記視点の位置を判定すると共に、
前記車両の速度が速くなることに対応させて、前記アイボックス全体における前記部分領域の数を増やすことで、前記視点位置の検出の分解能を向上させる、
ことを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の表示制御装置。
【請求項7】
前記1つ又はそれ以上のプロセッサは、前記車両の速度が、第1の速度値U1(U1>0)以上で、かつ、前記第1の速度値よりも大きい第2の速度値U2以下の範囲内にあるときに、前記車両の速度が速くなることに対応した前記視点位置の検出の分解能を向上させる制御を実施し、前記車両の速度が、前記第1の速度値未満であるとき、及び前記第2の速度値より大きいときは、前記視点位置の検出の分解能を一定に保持させる、ことを特徴とする請求項6に記載
の表示制御装置。
【請求項8】
前記車両の速度が速くなることに対応した前記視点位置の検出の分解能を向上させる制御を実施するに際し、
車速が前記第1の速度値に近い範囲では、分解能の向上の程度を緩やかにし、
前記第1の速度値から遠ざかるにつれて、前記分解能の向上の程度を急峻にする制御を実施する、
又は、
車速が前記第1の速度値に近い範囲では、分解能の向上の程度を緩やかにし、前記第1の速度値から遠ざかるにつれて、前記分解能の向上の程度をより急峻にする制御を実施すると共に、車速が前記第2の速度値に近づくにつれて、前記分解能の向上の程度を緩やかにする制御を実施する、
ことを特徴とする、請求項7に記載の表示制御装置。
【請求項9】
前記表示制御装置は、
前記運転者の前記視点の高さ位置に応じて前記アイボックスの位置を調整するに際し、前記光学部材を動かさず、前記画像の表示光の、前記光学部材における反射位置を変更する、ことを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載の表示制御装置。
【請求項10】
前記表示部の画像表示面に対応する仮想的な虚像表示面が、前記車両の前方の、路面に重畳するように配置される、
又は、
前記虚像表示面の前記車両に近い側の端部である近端部と前記路面との距離が小さく、前記車両から遠い側の端部である遠端部と前記路面との距離が大きくなるように、前記路面に対して斜めに傾いて配置される、
ことを特徴とする請求項1乃至9の何れか1項に記載の表示制御装置。
【請求項11】
車両に搭載され、画像を、前記車両に備わる被投影部材に投影することで、運転者に前記画像の虚像を視認させるヘッドアップディスプレイ(HUD)装置であって、
前記画像を生成する画像生成部と、
前記画像を表示する表示部と、
前記画像の表示光を反射して、
被投影部材に投影する光学部材を含む光学系と、
1つ又はそれ以上のプロセッサと、を含み、
前記プロセッサは、
アイボックスにおける
前記運転者の視点位置に応じてワーピングパラメータを更新し、そのワーピングパラメータを用いて前記表示部に表示する
前記画像を、前記画像の虚像の歪み特性とは逆の特性をもつように予め歪ませる視点位置追従ワーピング制御を実施する場合における前記運転者の視点位置検出感度を第1の視点位置検出感度とし、
前記HUD装置における、前記
視点位置追従ワーピング制御とは異なる動作を、前記アイボックスにおける前記運転者の視点位置に応じて制御する場合における前記運転者の視点位置検出感度を第2の視点位置検出感度とするとき、
前記第1の視点位置検出感度を、
前記第2の視点位置検出感度よりも低く設定する、ことを特徴とするヘッドアップディスプレイ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のウインドシールドやコンバイナ等の被投影部材に画像の表示光を投影(投射)し、運転者の前方等に虚像を表示する表示制御装置、及びヘッドアップディスプレイ(Head-up Display:HUD)装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
HUD装置において、投影される画像を、光学系やウインドシールド等の曲面形状等に起因して生じる虚像の歪みとは逆の特性をもつように予め歪ませる画像補正処理(以下、ワーピング処理と称する)が知られている。HUD装置におけるワーピング処理については、例えば特許文献1に記載されている。
【0003】
また、運転者の視点位置に基づいてワーピング処理を行うこと(視点追従ワーピング)については、例えば、特許文献2に記載されている。
【0004】
また、運転者の左右の各目に、左目用視差画像、右眼用視差画像を入射させる視差式のHUD装置(言い換えれば、立体表示式のHUD装置)において、運転者の視点位置を検出し、視点位置がアイボックスの端部あるいは外側にあるときは、視点を中央方向に誘導する方向指示画像を表示させる処理を行うことが、特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-87619号公報
【文献】特開2014-199385号公報
【文献】特開2014-68331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者は、運転者(操縦者や乗務員等、広く解釈可能である)の視点位置に応じてワーピングパラメータを更新する視点位置追従ワーピング制御を実施することについて検討し、以下に記載する新たな課題を認識した。
【0007】
視点位置が移動してワーピングパラメータを更新すると、同じ画像の虚像を表示している場合でも、運転者から見た虚像の見た目(虚像の様子や虚像から受ける印象等)が瞬時的に変化し、運転者に違和感を生じさせる場合がある。
【0008】
ワーピング処理後に表示される画像(虚像)は、光学系等により生じる歪みが完全に補正されて平面的な虚像となるのが理想的であり、視点位置追従ワーピングにおいては、運転者(ユーザー)の視点の位置が変化したときでも、常に、歪みのない虚像が得られるのが理想ではあるが、完全に歪みを除去できるわけではない。
【0009】
特に、近年、例えば、車両の前方のかなり広い範囲にわたって虚像表示が可能なHUD装置が開発されており、このようなHUD装置は大型化する傾向がある。光学系等の設計を工夫して歪みを少なくする工夫がなされてはいるが、例えば、アイボックスの全領域において、一律の歪み低減効果を実現するのはむずかしい。
【0010】
例えば、運転者の視点が、ワーピング処理による虚像の見た目の変化の影響を受け易いアイボックスの領域(例えば周辺領域等)に位置している状態で視点移動が生じると、表示内容は同じであっても、画像(虚像)の見た目がかなり変化し、また、その変化が視点移動に対応して瞬時的に生じ、運転者が違和感を覚えることが有り得る。
【0011】
本発明の目的の1つは、HUD装置において、視点位置追従ワーピング処理を実施するときに、ワーピングパラメータの更新に伴って画像の見た目が瞬時的に変化して運転者に違和感を生じさせることを抑制することである。
【0012】
本発明の他の目的は、以下に例示する態様及び最良の実施形態、並びに添付の図面を参照することによって、当業者に明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以下に、本発明の概要を容易に理解するために、本発明に従う態様を例示する。
【0014】
第1の態様において、表示制御装置は、車両に搭載され、画像を生成する画像生成部と、前記画像を表示する表示部と、前記画像の表示光を反射して、被投影部材に投影する光学部材を含む光学系と、を含み、前記画像を、前記車両に備わる被投影部材に投影することで、運転者に前記画像の虚像を視認させるヘッドアップディスプレイ(HUD)装置を制御する表示制御装置であって、1つ又はそれ以上のプロセッサを含み、前記プロセッサは、アイボックスにおける運転者の視点位置に応じてワーピングパラメータを更新し、そのワーピングパラメータを用いて前記表示部に表示する画像を、前記画像の虚像の歪み特性とは逆の特性をもつように予め歪ませる視点位置追従ワーピング制御を実施する場合における前記運転者の視点位置検出感度を第1の視点位置検出感度とし、
前記HUD装置における、前記視点位置追従ワーピング制御とは異なる動作を、前記アイボックスにおける前記運転者の視点位置に応じて制御する場合における前記運転者の視点位置検出感度を第2の視点位置検出感度とするとき、第1の視点位置検出感度を、第2の視点位置検出感度よりも低く設定する。
【0015】
第1の態様では、視点位置追従ワーピング(ダイナミックワーピング)処理に伴う、画像(虚像)の見え方が変化して違和感を生じさせるという弊害を抑制するために、ワーピング処理における視点位置検出感度(第1の視点位置検出感度)を、ワーピングとは異なる(視点位置追従ワーピング以外の)動作(虚像表示に関係する動作等)を視点位置に応じて制御する場合における視点位置検出感度(第2の視点位置検出感度)よりも低く設定して、ワーピング処理の感度を鈍化(抑制)させる制御を実施する。
【0016】
第2の視点位置検出感度は、視点追従ワーピング以外の処理に用いられるものである。この第2の視点位置検出感度は、一例として、HUD装置が有する最大の視点位置検出感度であると言い換えることもできる。
【0017】
この制御により、例えば、視差式HUD装置における、左右の各目用の画像(各目用の視差画像)の表示光を視点に追従して入射させるための処理(視点追従ワーピング以外の処理の一例)では、第2の視点位置検出感度を用いて、左右の各目の位置を高い分解能で検出して高精度の制御を行い、一方、視点位置追従ワーピング処理においては、視点位置検出感度を低下させて、視点位置の変化に伴うワーピングパラメータの切り替えによる虚像の見え方の変化を抑制し、視認性の悪化を抑制する。
【0018】
これにより、視点追従ワーピングの処理におけるより高精度の視点位置検出感度と、ワーピング処理における弊害を抑制することが可能な適切な視点位置検出感度と、を適切に使い分けることができる。よって、各処理を最適に実施することが可能となる。なお、左右の各目に同じ画像の表示光を入射させる単眼式のHUD装置にも上記の制御は適用可能である。
【0019】
第1の態様に従属する第2の態様において、前記視点位置追従ワーピング制御とは異なる動作は、運転者の左右の各目に、左目用の視差画像及び右眼用視差画像の各々の表示光を入射させる制御動作としてもよい。
【0020】
第2の態様によれば、視点位置追従ワーピング処理における視点位置検出感度を適切に抑制しつつ、視差式HUD装置における、左右の視点位置の検出感度を高く保つことができる。これにより、アイボックス内にある運転者の左右の各目に、各目用の視差画像の表示光を精度よく入射させることができる。
【0021】
第1又は第2の態様に従属する第3の態様において、前記アイボックスを複数の部分領域に分割して、各部分領域を単位として前記運転者の視点位置を検出すると共に、前記第1の視点位置検出感度を用いる場合における前記部分領域の数をm個(mは2以上の自然数)とし、前記第2の視点位置検出感度を用いる場合における前記部分領域の数をn個(nは3以上の自然数)とするとき、mの値は、nの値よりも小さく設定されてもよい。
【0022】
第3の態様では、ワーピング処理用の第1の視点位置検出感度を、その他の処理用の第2の視点位置検出感度よりも低くする手法として、アイボックス内(あるいはアイボックス上)の部分領域を単位として視点位置を検出すると共に、部分領域の数をより少なくする、という方法が採用される。アイボックスの分割数を変更することで視点位置検出感度を調整することができ、実現が容易である。
【0023】
第1乃至第3の何れか1つの態様に従属する第4の態様において、前記運転者の視点から見て車両の幅方向(左右方向)を横方向とし、横方向に直交すると共に、道路の路面の垂線に沿う高さ方向を縦方向とするとき、前記アイボックスの内部が、前記横方向の境界線によっては分割されず、前記縦方向の境界線によってのみ複数の部分領域に分割され、かつ各部分領域は均等である第1の構成である、又は、前記横方向の境界線によっては分割されず、前記縦方向の境界線によってのみ複数の部分領域に分割され、かつ各部分領域は不均等であって、中央が密で周辺が疎、あるいは、中央が疎で周辺が密となるように粗密分割されている第2の構成である、又は、前記縦方向の境界線によっては分割されず、前記横方向の境界線によってのみ複数の部分領域に分割され、かつ各部分領域は均等である第3の構成である、又は、前記縦方向の境界線によっては分割されず、前記横方向の境界線によってのみ複数の部分領域に分割され、かつ各部分領域は不均等であって、中央が密で周辺が疎、あるいは、中央が疎で周辺が密となるように粗密分割されている第4の構成である、又は、前記横方向の境界線、及び縦方向の境界線によって複数の部分領域に分割され、かつ各部分領域は均等である第5の構成である、又は、前記横方向の境界線、及び縦方向の境界線によって複数の部分領域に分割され、かつ各部分領域は不均等であって、中央が密で周辺が疎、あるいは、中央が疎で周辺が密となるように粗密分割されている第6の構成であってもよい。
【0024】
第4の態様において、第1、第2の構成は、アイボックス内が縦の境界線によって分割されて、部分領域が横方向に並ぶ構成(均等分割、粗密分割)であり、第3、第4の構成は、アイボックス内が横の境界線によって分割されて、部分領域が縦方向に並ぶ構成(均等分割、粗密分割)であり、第5、第6の構成は、アイボックス内が縦、横の各境界線によって分割されて行列状に配置された部分領域が設けられている構成(均等分割、粗密分割)である。各構成を使い分けすることにより、ワーピング処理における視点位置検出感度を柔軟に調整することができる。
【0025】
例えば、第1、第2の構成は、視差式のHUD装置における左右の各目(各視点)の位置(横方向における位置)の検出に用いて好適な例であり、第3、第4の構成は、例えば、左右の少なくとも一方の目(視点)がアイボックス外になって視点喪失(視点ロスト)が発生した後、その視点が直前の視点位置とは異なる高さ位置(縦方向の位置)に戻ったことを検出する等の用途に使用できる点(縦方向の視点位置の検出が可能な点)で有益である。また、第5、第6の構成は、横方向、縦方向のいずれにも視点位置検出の分解能を有する構成であり、ワーピング処理の感度を調整して感度を少し高めるといったことができる点で有益である。
【0026】
第1乃至第4の何れか1つの態様に従属する第5の態様において、前記車両の速度が低速状態か否かを判断する低速状態判定部と、をさらに有し、前記制御部は、前記車両が、停止状態を含む前記低速状態であるときに、前記第1の視点位置検出感度による前記運転者の視点位置の検出情報を用いて前記視点位置追従ワーピング制御を実施してもよい。
【0027】
第5の態様では、車両が低速状態であるときに、上記のような視点位置追従ワーピング処理の制御を実施する。低速状態のときには、運転者は、前方等の視覚の変動に敏感で、その変動を察知し易い。したがって、このときに、上記の制御を実施することによって、ワーピングパラメータの更新の感度を低下させ、画像(虚像)の見え方の変化による違和感の発生を抑制することができる。
【0028】
第1乃至第5の何れか1つの態様に従属する第6の態様において、前記アイボックスは、前記ヘッドアップディスプレイ装置が動作状態となった初期時点で複数の部分領域に分割されており、前記制御部は、前記アイボックスの各部分領域を単位として前記視点の位置を判定すると共に、前記車両の速度が速くなることに対応させて、前記アイボックス全体における前記部分領域の数を増やすことで、前記視点位置の検出の分解能を向上させてもよい。
【0029】
第6の態様では、車両の速度が速くなることに対応させて、アイボックスの中央から周辺へと密の部分領域の範囲を広げて、部分領域の数を増やしていく制御(言い換えれば、上記のワーピングパラメータの更新の感度を抑制する範囲を減少させていく制御)を実施する。
【0030】
車両の速度が速くなると、運転者が違和感を認識しづらくなることから、よって、上記の違和感に対する対策を施す領域を、速度が速くなるにつれて減少させる。そして、小さな視点移動に対する表示の歪みをワーピング処理で補正して、視覚性をより重視した表示処理を実施するものである。
【0031】
第6の態様に従属する第7の態様において、前記制御部は、前記車両の速度が、第1の速度値U1(U1>0)以上で、かつ、前記第1の速度値よりも大きい第2の速度値U2以下の範囲内にあるときに、前記車両の速度が速くなることに対応した前記視点位置の検出の分解能を向上させる制御を実施し、前記車両の速度が、前記第1の速度値未満であるとき、及び前記第2の速度値より大きいときは、前記視点位置の検出の分解能を一定に保持させてもよい。
【0032】
第7の態様では、車両の速度が所定の範囲(車両速度Uについて、U1≦U≦U2が成立する範囲)において、車両の速度が速くなることに対応した視点位置の検出の分解能を向上させる制御を実施する。また、車両速度がU1より小さいとき、及びU2より大きいときにまで上記の制御を適用しようとするとHUD装置(の制御部)の負担が重くなることから、その範囲では制御を実施しないこととし、無理な負担を装置に負わせることがないように配慮している。
【0033】
第7の態様に従属する第8の態様において、前記車両の速度が速くなることに対応した前記視点位置の検出の分解能を向上させる制御を実施するに際し、車速が前記第1の速度値に近い範囲では、分解能の向上の程度を緩やかにし、第1の速度値から遠ざかるにつれて、前記分解能の向上の程度を急峻にする制御を実施する、又は、車速が前記第1の速度値に近い範囲では、分解能の向上の程度を緩やかにし、前記第1の速度値から遠ざかるにつれて、前記分解能の向上の程度をより急峻にする制御を実施すると共に、車速が前記第2の速度値に近づくにつれて、前記分解能の向上の程度を緩やかにする制御を実施してもよい。
【0034】
第8の態様では、車速の上昇に応じて、アイボックスにおける視点位置の検出の分解能(検出感度)を向上させる場合に、運転者が画像(虚像)の視覚的変化を感得しやすい低速状態である(言い換えれば、車速が第1の速度値U1に近い範囲にある)場合には、急なワーピングパラメータの更新が抑制されるように、検出の分解能(検出感度)の上昇の程度を緩やかにする制御を実施する制御を実施するか、又は、その制御に加えて、さらに、第2の速度値U2に近づくにつれて、検出の分解能(検出感度)の上昇の程度を緩やかにする制御を実施して、第2の速度値U2に達したときに検出の分解能(検出感度)が飽和して一定になることによって、変化が急に(唐突に)頭打ちになって違和感が生じることを抑制する。これらの制御によって、虚像の視認性をさらに改善することができる。
【0035】
第1乃至第8の何れか1つの態様に従属する第9の態様において、前記ヘッドアップディスプレイ装置は、前記運転者の前記視点の高さ位置に応じて前記アイボックスの位置を調整するに際し、前記光学部材を動かさず、前記画像の表示光の、前記光学部材における反射位置を変更してもよい。
【0036】
第9の態様では、上記の制御を実施するHUD装置は、運転者の目(視点)の高さ位置に応じてアイボックスの高さ位置を調整する場合に、光を被投影部材に投影する光学部材を、例えばアクチュエータを用いて回動させるようなことをせず、その光学部材における光の反射位置を変更することで対応する。
【0037】
近年のHUD装置は、例えば車両の前方のかなり広い範囲にわたって虚像を表示することを前提として開発される傾向があり、この場合、必然的に装置が大型化する。当然、光学部材も大型化する。この光学部材をアクチュエータ等を用いて回動等させるとその誤差によって、かえってアイボックスの高さ位置の制御の精度が低下することがあり、これを防止するために、光線が光学部材で反射する位置を変更することで対応することとしたものである。
【0038】
このような大型の光学部材では、その反射面を自由曲面として最適設計すること等によって、できるかぎり虚像の歪みが顕在化しないようにするが、しかし、上記のように、例えばアイボックスの周辺に運転者の視点が位置する場合等には、どうしても歪みが顕在化してしまう場合もある。よって、このようなときに、上記のワーピングパラメータの更新の感度を低下させる等の制御を実施することで、虚像の歪みによる見え方の変化による違和感が生じにくくすることができ、上記の制御を有効に活用して視認性を向上させることができる。
【0039】
第1乃至第9の何れか1つの態様に従属する第10の態様において、前記表示部の画像表示面に対応する仮想的な虚像表示面が、前記車両の前方の、路面に重畳するように配置される、又は、前記虚像表示面の前記車両に近い側の端部である近端部と前記路面との距離が小さく、前記車両から遠い側の端部である遠端部と前記路面との距離が大きくなるように、前記路面に対して斜めに傾いて配置されてもよい。
【0040】
第10の態様では、HUD装置における、車両の前方等に配置される仮想的な虚像表示面(表示部としてのスクリーン等の表示面に対応する)が、路面に重畳されるように、あるいは、路面に対して傾斜して設けられる。前者は路面重畳HUDと称され、後者は傾斜面HUDと称されることがある。
【0041】
これらは、路面に重畳される広い虚像表示面、又は路面に対して傾斜して設けられる広い虚像表示面を用いて、例えば、車両前方5m~100mの範囲で、種々の表示を行うことができるものであり、HUD装置は大型化し、アイボックスも大型化して、従来よりも広い範囲で視点位置を高精度に検出して、適切なワーピングパラメータを用いた画像補正を行うことが好ましい。この場合、例えば、視点がアイボックスの周辺にあるとき等において、ワーピングパラメータの頻繁な更新に伴う画像(虚像)の視認性の低下が生じる場合があり、よって、本発明の制御方式の適用が有効となる。
【0042】
当業者は、例示した本発明に従う態様が、本発明の精神を逸脱することなく、さらに変更され得ることを容易に理解できるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【
図1】
図1(A)は、ワーピング処理の概要、及びワーピング処理を経て表示される虚像(及び虚像表示面)の歪みの態様を説明するための図、
図1(B)は、ウインドシールドを介して運転者が視認する虚像の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、視差式のHUD装置の基本的な虚像表示について説明するための図である。
【
図3】
図3(A)は、視点位置追従ワーピング処理以外に用いることを想定した高分解能の視点位置検出感度を実現するアイボックスの構成例(アイボックスの内部の分割例)を示す図、
図3(B)は、ワーピング処理における基本構成の一例を示す図である。
【
図4】
図4(A)~(F)は、ワーピング処理後の、歪み方が異なる虚像の例を示す図である。
【
図5】
図5は、視点位置追従ワーピング処理以外に用いるアイボックスの部分領域の数と、ワーピングに用いるアイボックスの部分領域の数を同じにした例を示す図である。
【
図6】
図6は、視点位置追従ワーピング処理以外に用いるアイボックスの部分領域の数に比べて、ワーピングに用いるアイボックスの部分領域の数を少なくして、ワーピング処理における視点位置検出感度を抑制した制御(第1の制御)におけるアイボックスの構成例を示す図である。
【
図7】
図7(A)は、内部が複数の部分領域に分割されたアイボックスにおける視点移動の例を示す図、
図7(B)は、
図7(A)に示される各視点移動に対するワーピングパラメータの更新の有無の例を表形式で示す図である。
【
図8】
図8は、HUD装置のシステム構成の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、粗密分割方式のアイボックスを用いたワーピング処理の制御(第2の制御)におけるアイボックスの構成の一例(中央が疎、周辺が密の例)を示す図である。
【
図10】
図10は、ワーピング処理用の粗密分割方式のアイボックスの構成の他の例(中央が密、周辺が疎の例)を示す図である。
【
図11】
図11(A)は、ワーピング処理用のアイボックスの構成の変形例(内部を縦方向に分割する例)における均等分割の例を示す図、
図11(B)は粗密分割の例を示す図である。
【
図12】
図12(A)は、ワーピング処理用のアイボックスの構成の他の変形例(内部を縦及び横の双方向に分割する例)における均等分割の例を示す図、
図12(B)は粗密分割の例を示す図である。
【
図13】
図13(A)は、車速に対して視点検出感度(視点検出分解能)を一定に保つ制御における特性例(比較例)を示す図、
図13(B)は、車速に応じてアイボックスの視点検出感度(視点検出分解能)を変化させる制御(第3の制御)における特性例を示す図である。
【
図14】
図14は、第1のワーピング画像補正制御(第1の制御)の手順例を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、第2のワーピング画像補正制御(第2の制御)の手順例を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、第3のワーピング画像補正制御(第3の制御)の手順例を示すフローチャートである。
【
図17】
図17(A)は、路面重畳HUDによる表示例を示す図、
図17(B)は、傾斜面HUDによる表示例を示す図、
図17(C)は、HUD装置の主要部の構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下に説明する最良の実施形態は、本発明を容易に理解するために用いられている。従って、当業者は、本発明が、以下に説明される実施形態によって不当に限定されないことを留意すべきである。
【0045】
図1を参照する。
図1(A)は、ワーピング処理の概要、及びワーピング処理を経て表示される虚像(及び虚像表示面)の歪みの態様を説明するための図、
図1(B)は、ウインドシールドを介して運転者が視認する虚像の一例を示す図である。
【0046】
図1(A)に示されるように、HUD装置100は、表示部(例えば、光透過型のスクリーン)101と、反射鏡103と、表示光を投影する光学部材としての曲面ミラー(例えば凹面鏡であり、反射面は自由曲面である場合もある)105と、を有する。表示部101に表示された画像は、反射鏡103、曲面ミラー105を経て、被投影部材としてのウインドシールド2の虚像表示領域5に投影される。
図1において、符号4は投影領域を示す。なお、HUD装置100は、曲面ミラーを複数設けてもよく、本実施形態のミラー(反射光学素子)に加えて、又は本実施形態のミラー(反射光学素子)の一部(又は全部)に代えて、レンズなどの屈折光学素子、回折光学素子などの機能性光学素子を含んでいてもよい。
【0047】
画像の表示光の一部は、ウインドシールド2で反射されて、予め設定されたアイボックス(ここでは所定面積の四角形の形状とする)EBの内部に(あるいはEB上に)位置する運転者等の左右の視点(目)Aの少なくとも一方(図中、一例として左目A1及び右目A2を示している)に入射され、車両1の前方に結像することで、表示部101の表示面102に対応する仮想的な虚像表示面PS上に虚像Vが表示される。
【0048】
表示部101の画像は、曲面ミラー105の形状やウインドシールド2の形状等の影響を受けて歪む。その歪みを相殺するために、その歪みとは逆特性の歪みが画像に与えられる。このプレディストーション(前置歪み)方式の画像補正を、本明細書ではワーピング処理、あるいはワーピング画像補正処理と称する。
【0049】
ワーピング処理によって、虚像表示面PS上に表示される虚像Vが、湾曲のない平坦な画像となるのが理想ではあるが、例えば、ウインドシールド2上の広い投影領域4に表示光を投影すると共に、虚像表示距離をかなり広範囲に設定する大型のHUD装置100等では、ある程度の歪みが残ることは否めず、これは仕方のないことである。
【0050】
図1の左上において、破線で示されるPS’は、歪みが完全には除去されていない虚像表示面を示し、V’は、その虚像表示面PS’に表示される虚像を示している。
【0051】
また、歪みが残る虚像Vの、歪みの程度あるいは歪みの態様は、視点AがアイボックスEB上のどの位置にあるかによって異なる。例えば、HUD装置100の光学系は、視点Aが中央部付近に位置することを想定して設計されることから、視点Aが中央部付近にあるときは比較的、虚像の歪みは小さく、周辺部になるほど虚像の歪みが大きくなる傾向が生じる場合がある。
【0052】
図1(B)には、ウインドシールド2を介して運転者が視認する虚像Vの一例が示されている。
図1(B)では、矩形の外形を有する虚像Vには、例えば縦に5個、横に5個、合計で25個の基準点(基準画素点)G(i,j)(ここで、i、jは共に1~5の値をとり得る変数)が設けられる。画像(原画像)における各基準点に対して、ワーピング処理による、虚像Vに生じる歪みとは逆特性の歪みが与えられ、したがって、理想的には、その事前に与えられる歪みと、現実に生じる歪みとが相殺され、理想的には、
図1(B)に示されるような湾曲のない虚像Vが表示される。基準点G(i,j)の数は、補間処理等によって適宜、増やすことができる。なお、
図1(B)において、符号7はステアリングホイールである。
【0053】
次に、
図2を参照する。
図2は、視差式のHUD装置の基本的な虚像表示について説明するための図である。画像表示部(例えばスクリーンや平面ディスプレイ等)の表示面163上に画像Mが表示されている。例えば、画像Mとして、左目用の視差画像と右目用の視差画像とを時分割で交互に表示し、例えばMEMSスキャナーを用いて各画像の表示光を分離した後、曲面ミラー(凹面鏡等)131を経由してその表示光をアイボックスEB内(あるいはアイボックスEB上)の左目のアイポイントEP(L)、右目のアイポイントEP(R)へと導く。なお、EP(C)はアイボックスEBの中央のアイポイント(中央の視点位置)を示す。
【0054】
左右の各目に対応する虚像表示面をPLN(L)、PLN(R)とすると、その重なりの領域の中央に虚像V(C)が立体的に表示される。なお、左目用の視差画像と右目用の視差画像とを分離する方式としては、上述した機能性光学素子(例えば、レンチキュラレンズや視差バリア等)を用いる方式を採用することもできる。
【0055】
運転者(ユーザー)の左目及び右目の少なくとも一方がアイボックス内で移動することも想定されるが、その場合には、その視点移動をカメラ等を用いて検出し、その移動に合わせて表示光の入射位置を微調整する(適応的に変更する)ことで、アイボックスEB内であれば、どの視点位置であっても画像(虚像)を視認することが可能となる。
【0056】
このような制御を行うためには、視点位置の検出感度はある程度以上の高水準が求められることが多い。但し、その検出感度をそのままワーピング処理におけるワーピングパラメータの更新(切り替え)にも適用すると、虚像の見た目の急峻な変化によって違和感が生じる場合がある。そこで、本発明では、視点位置追従ワーピングとそれ以外の処理とで、視点位置検出感度を異ならせることとする。具体的には、ワーピングパラメータの更新についての視点位置検出感度を低下させて、視認性が低下するという弊害を抑制、軽減する(詳細は後述する)。
【0057】
次に、
図3を参照する。
図3(A)は、視点位置追従ワーピング処理以外に用いることを想定した高分解能の視点位置検出感度を実現するアイボックスの構成例(アイボックスの内部の分割例)を示す図、
図3(B)は、ワーピング処理における基本構成の一例を示す図である。
図3において、
図1と共通する部分には同じ参照符号を付している(この点は以降の図においても同様である)。
【0058】
図3(A)において、HUD装置100の投射光学系118から画像の表示光Kが出射され、その一部がウインドシールド2により反射されて、運転者の視点(目)A1、A2に入射する。視点A1、A2がアイボックスEB内にあるとき、運転者は画像の虚像を視認することができる。
【0059】
ここで、運転者の視点(目)A1、A2から見て、車両1の幅方向(左右方向)をX方向(あるいは横方向)とし、X方向に直交し、路面の垂線に沿う高さ方向をY方向(縦方向)とし、前方(前後方向)をZ方向とする。
図3(A)では、アイボックスEBの内部は、縦の境界線で区画されたE1~E8の8個の部分領域が設けられ、縦長の長方形の外形を有する各部分領域E1~E8は、横方向(X方向)に、隣接して配置(配列)されている。各部分領域E1~E8を単位(最小限の分解能の単位)として視点位置を検出することで、視点A1、A2の、アイボックスEBにおける横方向の位置を検出することができる。
【0060】
各部分領域E1~E8を用いて検出された視点位置の情報は、視点位置追従ワーピング処理以外の処理(言い換えれば、視点位置追従ワーピングとは異なる動作)の制御に用いられる。例えば、左右の何れかの目が移動したとき、その移動に追従して、左右の目に各目用の視差画像を入射させる制御を行う場合や、各視点A1、A2の位置する領域に入射する表示光の強度を他よりも強める(あるいは、他の領域の光強度を弱める)制御や、あるいは、左右の何れかの目がアイボックスEBの端部に位置してアイボックスEBの外へと移動してしまいそうなときに、視点を中央に戻す矢印の誘導画像を表示する制御等を例示することができる。
【0061】
図3(B)では、ワーピング処理(視点追従ワーピング処理)を行う場合の基本構成の一例が示されている。アイボックスEBは、W1~W4の4個の部分領域に分割されている。なお、部分領域の数は4個に限定されるものではなく、さらに増やすことも可能である。
【0062】
図3(A)では部分領域の数が8個であったが、
図3(B)では部分領域の数は4個であり、その数が半分となっている。よって、
図3(B)のアイボックスEBの視点位置検出感度は、
図3(A)の場合の半分に低下(抑制)されていることになる。
【0063】
図3(B)におけるアイボックスEBの部分領域W1~W4の外形は、
図3(A)の部分領域E1~E8と同様に縦長の長方形(矩形)であるが、W1~W4の横幅は、E1~E8の2倍であり、横幅が広げられている。よって、横方向(X方向)における視点検出の分解能が半分に低下している。これによって、視点A1、A2の移動に伴う視点位置追従ワーピング(ダイナミックワーピング)を実施する場合に、ワーピングパラメータの更新(切り替え)に伴って虚像の見え方が急峻に変化して運転者が違和感を覚える、といった弊害を抑制することができる。
【0064】
図3(B)において、HUD装置100は、ROM210を有し、ROM210は、画像変換テーブル212を内蔵する。画像変換テーブル212は、例えばデジタルフィルタによる画像補正(ワーピング画像補正)のための多項式、乗数、定数等を決定するワーピングパラメータWPを記憶している。ワーピングパラメータWPは、アイボックスEBにおける各部分領域W1~W4の各々に対応して設けられる。
図3(A)では、各部分領域に対応するワーピングパラメータをP(W1)~P(W4)と表示している。
【0065】
視点A1、A2が移動した場合、その視点A1、A2が、複数の部分領域W1~W9のうちの、どの位置にあるかが検出される。そして、検出された部分領域に対応するワーピングパラメータP(W1)~P(W4)の何れかがROM210から読みだされ(ワーピングパラメータの更新)、そのワーピングパラメータを用いてワーピング処理が実施される。
【0066】
次に、
図4を参照する。
図4(A)~(F)は、ワーピング処理後の、歪み方が異なる虚像の例を示す図である。先に述べたとおり、運転者の視点Aがアイボックスのどの位置にあるかによって、ワーピング処理後の虚像Vの見え方が異なる。
【0067】
図4(A)に示されるように、ウインドシールド2の虚像表示領域5に表示される虚像Vは、歪みが除去されて湾曲のない態様で表示されるのが理想ではある。しかし、実際の虚像Vには、ワーピング処理を施した後においても歪みが残留しており、その歪みの程度や態様は、視点Aの位置に応じて変化する。
【0068】
図4(B)の例では、歪みはあるものの比較的軽度の歪みであり、虚像Vは、
図4(A)に近い見栄えである。
図4(C)の例では、歪みの傾向は
図4(B)と同様といえるが、歪みの程度は大きくなっており、
図4(A)と同様の見栄えとはいえない。
【0069】
また、
図4(D)の例では、歪みの程度は
図4(C)と同様ではあるが、歪みの態様(歪みの傾向、あるいは歪みが生じた後の虚像の見え方の態様)は、
図4(C)とは異なっている。
【0070】
図4(E)の例では、歪みの程度がより大きくなり、虚像Vの左右のバランスもとれていない。
図4(F)の例では、虚像Vは、
図4(E)に似た傾向の歪み方ではあるが、見た目は、
図4(F)とはかなり異なる。
【0071】
このように、同じ内容を表示している虚像V(ワーピング処理後の虚像V)であっても、視点A1、A2の位置に応じて、その見え方がかなり異なる。例えば、視点A1、A2がアイボックスEBの中央部に位置するときは、視認される虚像Vは、
図4(B)のように比較的、歪みが少ないが、視点A1、A2が中央部から周辺部に移動すると、例えば、
図4(E)のように歪みが比較的大きくなる場合もあり得る。
【0072】
視点A1、A2が、
図4(E)の状態から、例えば
図4(B)のように移動すると、虚像Vの見え方が変化する(変化a1)。また、
図4(F)のように移動すると虚像Vの見え方が変化する(変化a2)。いずれの場合も、見え方が、かなり変化しており、運転者(ユーザー)が違和感を生じる可能性が高まることが想定され得る。従って、この弊害に対する対策を講じる必要がある。
【0073】
次に、
図5を参照する。
図5は、視点位置追従ワーピング処理以外に用いるアイボックスの部分領域の数と、ワーピングに用いるアイボックスの部分領域の数を同じにした例を示す図である。
図5の例では、視点位置追従ワーピング処理以外に用いるアイボックスEBには、部分領域E1~E12が設けられている。その数は12個である。
【0074】
また、ワーピング処理に用いるアイボックスEBには、部分領域W1~W12が設けられている。その数は12個であり、視点位置追従ワーピング処理以外に用いる場合と同数である。言い換えれば、何れの場合でも、視点位置の検出感度は同じである。
【0075】
この場合、視点位置追従ワーピング処理以外の処理(視点位置追従ワーピングとは異なる処理)の検出感度(これを第2の視点位置検出感度とする)は所望のレベルに高く保つことができる。但し、ワーピングに関して、ワーピング処理用の視点位置検出感度(これを第1の視点位置検出感度とする)が、第2の視点位置検出感度と同等であるため、視点移動に伴う視点位置追従ワーピング(ダイナミックワーピング)を行うと、同じ画像を表示していても、虚像の見た目(見栄え)が急に変化することから、運転者が違和感を覚えることが懸念される。
【0076】
次に、
図6を参照する。
図6は、視点位置追従ワーピング処理以外に用いるアイボックスの部分領域の数に比べて、ワーピングに用いるアイボックスの部分領域の数を少なくして、ワーピング処理における視点位置検出感度を抑制した制御(第1の制御)におけるアイボックスの構成例を示す図である。
【0077】
図6では、ワーピングに用いるアイボックスの部分領域はW1~W6の6個であり、
図5の場合に比べて半減している。よって、ワーピング処理における視点位置検出感度(第1の視点位置検出感度)は、視点位置追従ワーピングとは異なる処理における視点位置検出感度(第2の検出感度)の半分となり、感度が鈍化(抑制)される。従って、視点位置追従ワーピング(ダイナミックワーピング)処理に伴う虚像の見た目が変化するという弊害を抑制することができる。
【0078】
一方、例えば、視差式HUD装置における、左右の各目用の画像(各目用の視差画像)の表示光を視点に追従して入射させるための処理(視点位置追従ワーピング以外の処理の一例)では、第2の視点位置検出感度を用いて、左右の各目の位置を高い分解能で検出して高精度の制御を行うことができる。言い換えれば、アイボックスEB内にある運転者の左右の各目に、各目用の視差画像の表示光を精度よく入射させることができる。
【0079】
このように、視点位置追従ワーピング以外の処理におけるより高精度の視点位置検出感度と、ワーピング処理における弊害を減じることが可能な適切な視点位置検出感度と、を適切に使い分けることができ、各処理を最適に実施することが可能となる。なお、左右の各目に同じ画像の表示光を入射させる単眼式のHUD装置にも上記の制御は適用可能である。
【0080】
また、
図6の例では、第1の視点位置検出感度を用いる場合における部分領域の数をm個(mは2以上の自然数)とし、第2の視点位置検出感度を用いる場合における部分領域の数をn個(nは3以上の自然数)とするとき、mの値は、nの値よりも小さく設定される。この場合、部分領域の数をより少なくする(言い換えれば、アイボックスの分割数がより少なくなるように変更する)ことで、視点位置検出感度をかなりの自由度で調整することができ、また、実現が容易である。
【0081】
次に、
図7を参照する。
図7(A)は、内部が複数の部分領域に分割されたアイボックスにおける視点移動の例を示す図、
図7(B)は、
図7(A)に示される各視点移動に対するワーピングパラメータの更新の有無の例を表形式で示す図である。
【0082】
図7において、アイボックスEBの内部は、6個の部分領域W1~W6に分割されている。視点Aの移動(i)の場合は、視点Aは、移動後においても、移動前と同じ部分領域W4内に留まっているため、ワーピングパラメータの更新は無しである。移動(ii)の場合は、部分領域W4から部分領域W5への移動が生じていることから、部分領域W5に対応したワーピングパラメータに更新される。移動(iii)の場合は、部分領域W5から部分領域W6への移動が生じていることから、部分領域W6に対応したワーピングパラメータに更新される。
【0083】
視点Aが、アイボックスEB外に出て(視点移動(1))、その後、アイボックスEB内に戻る(視点移動(2))場合(視点喪失の場合)も想定され得る。視点喪失(視点ロスト)期間中は、例えば、ワーピングパラメータとして、視点喪失時の部分領域(ここでは部分領域W5)に対応したワーピングパラメータを使用する、あるいは、アイボックスEBにおける中央付近の部分領域(例えばW4)のワーピングパラメータを使用することが考えられるが、何れの場合も、視点喪失後に、どの部分領域に視点Aが戻ってくるかは予想できず、ワーピングパラメータを、戻って来たときの領域に合わせて更新すると視覚的な違和感が生じる場合が多いと考えられる。よって、ワーピングパラメータの更新は行わず、視点喪失期間中のワーピングパラメータをそのまま維持するのが好ましい。
【0084】
次に、
図8を参照する。
図8は、HUD装置のシステム構成の一例を示す図である。ここでは、HUD装置100は、視差式のHUD装置であるとして説明する。
【0085】
車両1には、運転者の視点(目、瞳)A1、A2(以下、総称して視点Aと表記する場合がある)の位置を検出する視点検出カメラ110が設けられている。また、車両1には、運転者がHUD装置100に必要な情報を設定すること等を可能とするために操作入力部130が設けられ、また、車両1の各種の情報を収集することが可能な車両ECU140が設けられている。
【0086】
また、HUD装置100は、光源112と、光源112から光を空間光変調して画像を生成する空間光変調素子114と、投射光学系118と、視点位置検出部(視点位置判定部)120と、バス150と、バスインターフェース170と、表示制御部(表示制御装置)180と、画像生成部200と、画像変換テーブル212を内蔵するROM210と、画像(原画像)データ222を記憶し、かつワーピング処理後の画像データ224を一時的に記憶するVRAM220と、を有している。
【0087】
視点位置検出部120は、視点座標検出部122を有する。また、表示制御部(表示制御装置)180は、1つ又はそれ以上のI/Oインタフェース(I/Oインタフェースバス150と、バスインターフェース170、これら以外の不図示のインタフェース、又はこれらの組み合わせを含み得る。)、1つ又はそれ以上のプロセッサ(不図示)、1つ又はそれ以上のメモリ(メモリは、ROM210、VRAM220、これら以外の不図示のメモリ、又はこれらの組み合わせを含み得る。)、及び1つ又はそれ以上の画像処理回路(不図示)を備える。表示制御部(表示制御装置)180は、前記1つ又はそれ以上のプロセッサが、前記メモリに記憶されたコマンドを実行することで、例えば画像データを生成及び/又は送信するなど、車両用表示システム10の操作を行うことができる。また、表示制御部(表示制御装置)180は、車両1の速度を検出(判定)する速度検出部(低速状態を判定する低速状態判定部を兼ねる)181と、視差画像表示制御部182と、ワーピング制御部184と、タイマー190と、メモリ制御部192と、ワーピング処理部(ワーピング画像補正処理部)194と、を機能として有していてもよい。
【0088】
視差画像表示制御部182は、第1の視点位置検出部183と、視点追従制御部185と、を有する。第1の視点位置検出部183は、例えば、視点座標検出部122にて検出された座標に基づいて、例えば
図8の上側に破線で示されるようなアイボックスEBを想定し、視点Aが、どの部分領域E1~E8に位置するかを検出(判定)する。視点位置追従制御部183は、視点移動後に検出された部分領域E1~E8の情報を基に、例えばMEMSスキャナーの回転を制御する制御信号を生成し、光源112に(必要に応じて空間光変調素子114にも)出力する。
【0089】
ワーピング制御部184は、ワーピング管理部185(第2の視点位置検出部186)と、視点位置情報一時蓄積部188と、を有する。第2の視点位置検出部186は、
図8の上側に実線で示されるようなアイボックスEBを想定し、視点Aが、どの部分領域W1~W4に位置するかを検出(判定)する。検出された部分領域W1~W4の情報は、視点位置情報一時蓄積部188に一時的に蓄積される。
【0090】
メモリ制御部192は、視点位置情報一時蓄積部188から、検出された部分領域W1~W4の情報を所定のタイミングで読み出し、その情報をアドレス変数として用いてROM210にアクセスし、対応するワーピングパラメータを読み出す。
【0091】
ワーピング処理部(ワーピング画像補正処理部)194は、読みだされたワーピングパラメータを用いて、原画像に対してワーピング処理を施し、ワーピング処理後のデータに基づいて画像生成部200にて所定のフォーマットの画像が生成され、その画像が、例えば光源112や空間光変調素子114等に供給される。
【0092】
図8の例では、ワーピングパラメータの更新に際して、視点位置検出感度を、視点位置追従ワーピング以外の処理のときの視点位置検出感度よりも低くするという第1の制御が実施されることから、例えば、視点Aの移動に伴って、ワーピングパラメータが頻繁に切り替えられて、虚像Vの視認性が低下するという弊害が抑制される。
【0093】
次に、
図9、
図10を参照する。
図9は、粗密分割方式のアイボックスを用いたワーピング処理の制御(第2の制御)におけるアイボックスの構成の一例(中央が疎、周辺が密の例)を示す図である。
図10は、ワーピング処理用の粗密分割方式のアイボックスの構成の他の例(中央が密、周辺が疎の例)を示す図である。
【0094】
図9、
図10において、アイボックスEBにおける周辺領域には斜線を施している。
図9では、アイボックスEBが、中央が疎、周辺が密となるように粗密分割されている。
図10では、アイボックスEBが、中央が密、周辺が疎となるように粗密分割されている。この粗密分割方式のアイボックスを用いて視点位置を検出することにより、ワーピングパラメータを断続的(連続的ではない態様)に切り替えることが可能となる。これを第2の制御とする。
【0095】
第2の制御は、視点位置の検出を断続的に実施する(連続的には行わない)ことによって実現される。例えば、アイボックスの内部の部分領域の数等には関係なく、視点Aがアイボックスの所定範囲内にあるときは、現在の位置から所定方向(例えばX軸方向)に所定距離だけ移動したときに、現在の位置とは異なる他の位置に移動したとみなしてワーピングパラメータを他の位置に対応するワーピングパラメータに更新するが、しかし、その一方、視点Aが所定の他の範囲内にあるときは、視点Aが上記の他の位置から所定方向(例えばX軸方向)に、上記と同様に所定距離だけ移動して、視点Aが他の位置とは異なる別の位置に移ったとしても、別の位置に対応するワーピングパラメータへの更新は実施しない、という制御を、表示制御部180(のワーピング制御部184)が行うことにより実現される。
【0096】
言い換えれば、視点Aが、所定方向に所定距離ずつ、繰り返し移動する場合に、アイボックスEBの内部のある区間では、1回の移動毎にワーピングパラメータを更新するが、さらに視点が移動して違う区間になったときは、そのような移動毎のワーピングパラメータの更新を行わず、これによって、ワーピングパラメータの更新が有、無、有、というように、連続的ではない、言い換えれば断続的な更新が実施される。これによって、ワーピング補正処理の感度(視点検出の感度ということもできる)を低下させて、ワーピングパラメータの更新に伴う画像(虚像)の見え方が変化することによる違和感の発生を抑制することができる。
【0097】
図9の例では、アイボックスEBの中央において、視点位置検出感度が低下されており、中央に位置する視点Aが少し移動しても、ワーピングパラメータの切り替えが生じにくくなっている。
図10の例では、アイボックスEBの周辺において、視点位置検出感度が低下されており、周辺に位置する視点Aが少し移動しても、ワーピングパラメータの切り替えが生じにくくなっている。中央、周辺の何れを視点位置検出感度を低下させる対象とするかは、HUD装置100の性能やワーピングによる視認性低下の態様(傾向等)に応じて、適宜、選択することが可能である。この点は、
図11や
図12の例においても同様である。
【0098】
次に、
図11を参照する。
図11(A)は、ワーピング処理用のアイボックスの構成の変形例(内部を縦方向に分割する例)における均等分割の例を示す図、
図11(B)は粗密分割の例を示す図である。
【0099】
図11の例では、ワーピング処理に使用されるアイボックスEBの内部が、横(X方向)の境界線によって分割されて、部分領域WR1~WR3が縦方向に並ぶ構成が採用されている。
図11(A)は均等分割の例、
図11(B)は粗密分割の例である。
【0100】
なお、
図11(A)における視点位置追従ワーピング以外に使用するアイボックスEBの1つの部分領域(E1~E12)における横方向の長さ(幅)をT1とし、アイボックスEBの1つの部分領域(WR1~WR3)における縦方向の長さ(高さ)をT2とすると、T2>T1であり、ワーピングに使用するアイボックスにおける視点位置検出感度は、視点位置追従ワーピング以外に使用するアイボックスにおける視点位置検出感度よりも低下されている。
図11(B)においても同様に、T2a>T1、T2b>T1が成立する。
【0101】
図11(A)、(B)の各構成を使い分けすることにより、ワーピング処理における視点位置検出感度を柔軟に調整することができる。
【0102】
例えば、第11(A)、(B)の構成は、例えば、左右の少なくとも一方の目(視点)がアイボックス外になって視点喪失(視点ロスト)が発生した後、その視点が直前の視点位置とは異なる高さ位置(縦方向の位置)に戻ったことを検出する等の用途に使用できる点(縦方向の視点位置の検出の分解能をもつ点)で有益である。
【0103】
次に、
図12を参照する。
図12(A)は、ワーピング処理用のアイボックスの構成の他の変形例(内部を縦及び横の双方向に分割する例)における均等分割の例を示す図、
図12(B)は粗密分割の例を示す図である。
【0104】
図12の例では、ワーピング処理に使用されるアイボックスEBの内部が、横(X方向)及び縦方向(Y方向)の境界線によって分割されて、行列状に部分領域が配置されている。
図12(A)は均等分割の例、
図12(B)は粗密分割の例である。
【0105】
図12(A)において、T2>T1、T3>T1が成立する。
図12(B)において、T4>T1、T5>T1が成立する。
図12(A)、(B)の何れにおいても、ワーピングに使用するアイボックスにおける視点位置検出感度は、視点位置追従ワーピング以外に使用するアイボックスにおける視点位置検出感度よりも低下されている。
【0106】
図12(A)、(B)の各構成を使い分けすることにより、ワーピング処理における視点位置検出感度を柔軟に調整することができる。
【0107】
例えば、
図12の例では、横方向、縦方向のいずれにも視点位置検出の分解能を有する構成であり、ワーピング処理の感度を調整して感度を少し高めるといったことができる点で有益である。
【0108】
以上説明した第1の制御(ワーピング処理用の視点位置検出感度を、視点位置追従ワーピング以外用の視点位置検出感度よりも低下させる基本的な制御)、及び、第2の制御(ワーピングパラメータの更新が断続的に行われるようにする応用的な制御)は、車両1が、停止状態を含む低速状態であるときに、実施することとしてもよい。
【0109】
言い換えれば、
図8の速度検出部181(低速状態判定部としての機能を兼ねる)が、車両1の速度が低速状態であると判定した場合に、制御部(表示制御部180、あるいはワーピング制御部184)は、第1の制御、第2の制御の少なくとも1つを実施してもよい。
【0110】
車両1が低速状態のときには、運転者は、前方等の視覚の変動に敏感で、その変動を察知し易い。したがって、このときに、上記の制御を実施することによって、ワーピングパラメータの更新の感度を低下させ、画像(虚像)の見え方の変化による違和感の発生を抑制することができる。
【0111】
次に、
図13を参照する。
図13(A)は、車速に対して視点検出感度(視点検出分解能)を一定に保つ制御における特性例(比較例)を示す図、
図13(B)は、車速に応じてアイボックスの視点検出感度(視点検出分解能)を変化させる制御(第3の制御)における特性例を示す図である。
【0112】
人の目は、車両1が低速状態のときに前方等の風景や画像の変化を敏感に感得するという傾向があり、この目の特性に着目すると、より柔軟なワーピングパラメータの更新制御が可能である。この制御を第3の制御とする。
【0113】
図13(A)の比較例のように、ワーピングに使用する視点検出感度を、車速に対して一定に保つ場合、その柔軟な制御ができない。
【0114】
図13(B)の例では、車両1の速度(車速)がU1~U2である範囲において、車速に対応させて、アイボックスの視点位置の検出感度を変化させる処理を行う。アイボックスEBは、ヘッドアップディスプレイ装置が動作状態となった初期時点で複数の部分領域に分割され、この状態では、アイボックスEBにおける視点位置の検出感度はN1となっている。
【0115】
制御部(
図4の表示制御部180、あるいはワーピング制御部184)は、アイボックスEBの各部分領域を単位として視点の位置を判定すると共に、車両1の速度が速くなることに対応させて、アイボックス全体における部分領域の数を増やすことで、視点位置の検出の分解能を向上させる。車速U2において、アイボックスEBにおける視点位置検出感度はN2まで上昇している。
【0116】
車両1の速度が速くなると、運転者が違和感を認識しづらくなることから、車速が速くなることに対応して、視点検出の分解能を向上させることを重視した制御を実施するものである。これによって、小さな視点移動に対する表示の歪みをワーピング処理で補正して、視覚性をより重視した表示処理を実施することが可能となる。
【0117】
また、
図13(B)の例において、制御部(表示制御部180、あるいはワーピング制御部184)は、車両1の速度が、第1の速度値U1(U1>0)以上で、かつ、第2の速度値よりも大きい第2の速度値U2以下の範囲内にあるときに、車両1の速度が速くなることに対応した視点位置の検出の分解能を向上させる制御を実施し、車両1の速度が、第1の速度値U1未満であるとき(
図9の特性線Q1の範囲)、及び第2の速度値U2より大きいとき(
図9の特性線Q4の範囲)は、視点位置の検出の分解能を一定に保持させる。
【0118】
車両1の速度が所定の範囲(車両速度Uについて、U1≦U≦U2が成立する範囲)において、車両の速度が速くなることに対応した視点位置の検出の分解能を向上させる制御を実施する。また、車両速度がU1より小さいとき、及びU2より大きいときにまで上記の制御を適用しようとするとHUD装置(の制御部)の負担が重くなることから、その範囲では制御を実施しないこととし、無理な負担を装置に負わせることがないように配慮している。
【0119】
また、車速が速くなるにつれてアイボックスEBの部分領域の数を増やすことの態様としては、
図13(B)における特性線Q1、Q2によって示される2つの態様がある。
【0120】
その1つは、車両1の速度が速くなることに対応した視点位置の検出の分解能(検出感度)を向上させる制御を実施するに際し、車速が第1の速度値U1に近い範囲では、分解能の向上の程度を緩やかにし、第1の速度値U1から遠ざかるにつれて、分解能の向上の程度を急峻にする制御(特性線Q2で示される制御)である。
【0121】
他の1つは、車速が第1の速度値U1に近い範囲では、分解能の向上の程度を緩やかにし、第1の速度値U1から遠ざかるにつれて、分解能の向上の程度をより急峻にする制御を実施すると共に、車速が第2の速度値U2に近づくにつれて、分解能の向上の程度を緩やかにする制御(略S字の形状を有する特性線Q3で示される制御)である。
【0122】
言い換えれば、車速の上昇に応じて、アイボックスEBにおける視点位置の検出の分解能(検出感度)を向上させる場合に、運転者が画像(虚像)の視覚的変化を感得しやすい低速状態である(言い換えれば、車速が第1の速度値U1に近い範囲にある)場合には、急なワーピングパラメータの更新が抑制されるように、検出の分解能(検出感度)の上昇の程度を緩やかにする制御(特性線Q2の制御)を実施するか、又は、その制御に加えて、さらに、第2の速度値U2に近づくにつれて、検出の分解能(検出感度)の上昇の程度を緩やかにする制御を実施して、第2の速度値U2に達したときに検出の分解能(検出感度)が飽和して一定になることによって、変化が急に(唐突に)頭打ちになって違和感が生じることを抑制する制御(特性線Q3で示される制御)を実施する。これらの制御によって、虚像の視認性をさらに改善することができる。
【0123】
次に、
図14を参照する。
図14は、第1のワーピング画像補正制御(第1の制御)の手順例を示すフローチャートである。
【0124】
ワーピング処理用の視点検出感度として、第1の視点位置検出感度(第2の視点位置検出感度よりも感度が低く設定されている)を採用する(ステップS10)。第2の視点位置検出感度は、本発明の視点位置追従ワーピング処理以外に用いるものであり、一例として、HUD装置が有する最大の視点位置検出感度である、と言い換えることもできる。
【0125】
次に、視点の位置を監視し(ステップS11)、視点移動の有無を検出する(ステップS12)。ステップS12において、N(無)のときはステップS11に戻り、Y(有)のときは、視点喪失後に視点位置を再検出したか否かを判定する(ステップS13)。
【0126】
ステップS13にてYのときは、ステップS14に移行し、視点移動は無視し、現在のワーピングパラメータを維持する。ステップS13にてNのときは、ステップS15に移行して、移動後の視点位置が移動前と同じ領域(区画)に位置するか否かを検出する。
【0127】
ステップS15にてYのときは、ステップS14に移行し、視点移動は無視し、現在のワーピングパラメータを維持する。ステップS15にてNのときは、ステップS16に移行し、移動後の視点位置(視点が位置する区画)に対応したワーピングパラメータを使用して画像補正を行う。ステップS17にて画像補正を終了するか否かを判定し、Yのときは終了し、NのときはステップS11に戻る。
【0128】
次に、
図15を参照する。
図15は、第2のワーピング画像補正制御(第2の制御)の手順例を示すフローチャートである。ここでは、断続的なワーピングパラメータ更新制御を実施する手法として、粗密分割方式のアイボックスを使用する場合の手順例を示す。
【0129】
まず、粗密分割方式のアイボックス(断続的分割方式のアイボックス)を設定する(ステップS20)。続いて、視点位置を監視し(ステップS21)、次に、視点移動の有無を判定する(ステップS22)。
【0130】
ステップS22にてY(有)のときは、ステップS23に移行して、移動後の視点位置(視点が位置する区画)に対応したワーピングパラメータを使用して画像補正を行う。ステップS22にてNの場合は、ステップS21に戻る。ステップS24にて画像補正を終了するか否かを判定し、Yのときは終了し、NのときはステップS21に戻る。
【0131】
次に、
図16を参照する。
図16は、第3のワーピング画像補正制御(第3の制御)の手順例を示すフローチャートである。
【0132】
車速を検出し(ステップS30)、続いて、車速に応じて、アイボックス内の部分領域(区画)の数を適応的に変更する(ステップS31)。これにより、車速に応じたワーピングパラメータ更新感度の変更がなされる。具体的には、
図13(B)における特性線Q1、Q2又はQ3、Q4に応じて、アイボックスの内部の構造を適宜、変更する。次に、視点位置を監視し(ステップS32)、次に、視点移動の有無を判定する(ステップS33)。
【0133】
ステップS33にて、NのときはステップS32に戻り、Yのときは、ステップS34に移行して、移動後の視点位置(視点が位置する区画)に対応したワーピングパラメータを使用して画像補正を行う。次に、ステップS35にて画像補正を終了するか否かを判定し、Yのときは終了し、NのときはステップS30に戻る。
【0134】
次に、
図17を参照する。
図17(A)は、路面重畳HUDによる表示例を示す図、
図17(B)は、傾斜面HUDによる表示例を示す図、
図17(C)は、HUD装置の主要部の構成例を示す図である。
【0135】
図17(A)は、表示部の画像表示面に対応する仮想的な虚像表示面PSが、車両1の前方の、路面41に重畳するように配置される、路面重畳HUDによる虚像表示例を示す。
【0136】
図17(B)は、虚像表示面PSの車両1に近い側の端部である近端部と路面41との距離が小さく、車両1から遠い側の端部である遠端部と路面41との距離が大きくなるように、虚像表示面PSが路面41に対して斜めに傾いて配置される、傾斜面HUDによる虚像表示例を示す。
【0137】
これらは、路面41に重畳される広い虚像表示面PS、又は路面41に対して傾斜して設けられる広い虚像表示面PSを用いて、例えば、車両1の前方5m~100mの範囲で、種々の表示を行うことができるものであり、HUD装置は大型化し、アイボックスEBも大型化して、従来よりも広い範囲で視点位置を高精度に検出して、適切なワーピングパラメータを用いた画像補正(視点位置追従ワーピング)を行うことが好ましい。この場合、例えば、視点Aの急な移動等によって、ワーピングパラメータが頻繁に更新される等の事態が生じ、画像(虚像V)の視認性の低下が生じる場合があり、よって、本発明の制御方式の適用が有効となる。
【0138】
次に、
図17(C)を参照する。
図17(C)のHUD装置107は、制御部171と、空間光変調素子151と、画像表示面163を有する表示部としてのスクリーン161と、反射鏡133と、反射面が自由曲面として設計されている曲面ミラー(凹面鏡等)131と、表示部161を駆動するアクチュエータ173と、を有する。
【0139】
図17(C)の例では、HUD装置107は、運転者の視点Aの高さ位置に応じてアイボックスEBの位置を調整するに際し、表示光をウインドシールド2に投影する光学部材である曲面ミラー131を動かさず(曲面ミラー131用のアクチュエータは設けられていない)、画像の表示光51の、光学部材131における反射位置を変更することで対応する。
【0140】
言い換えれば、運転者の目(視点A)の高さ位置に応じてアイボックスEBの高さ位置を調整する場合に、光を被投影部材2に投影する光学部材131を、例えばアクチュエータを用いて回動させるようなことをせず、その光学部材131における光の反射位置を変更することで対応する。なお、高さ方向とは、図中のY方向(路面41の垂線に沿う方向であり、路面41から離れる方向が正の方向となる)。なお、X方向は、車両1の左右方向、Z方向は車両1の前後方向(あるいは前方方向)である。
【0141】
近年のHUD装置は、例えば車両の前方のかなり広い範囲にわたって虚像を表示することを前提として開発される傾向があり、この場合、必然的に装置が大型化する。当然、光学部材131も大型化する。この光学部材131をアクチュエータ等を用いて回動等させるとその誤差によって、かえってアイボックスEBの高さ位置の制御の精度が低下することがあり、これを防止するために、光線が光学部材131の反射面で反射する位置を変更することで対応することとしたものである。
【0142】
このような大型の光学部材131では、その反射面を自由曲面として最適設計すること等によって、できるかぎり虚像の歪みが顕在化しないようにするが、しかし、上記のように、例えばアイボックスEBの周辺に運転者の視点Aが位置する場合等には、どうしても歪みが顕在化してしまう場合もある。よって、このようなときに、上記のワーピングパラメータの更新の感度を低下させる等の制御を実施することで、虚像Vの歪みによる見え方の変化による違和感が生じにくくすることができ、上記の制御を有効に活用して虚像Vの視認性を向上させることができる。
【0143】
以上説明したように、本発明によれば、運転者の視点位置に応じてワーピングパラメータを更新する視点位置追従ワーピング制御を実施するときに、ワーピングパラメータの更新に伴って画像の見た目が瞬時的に変化して運転者に違和感を生じさせることを、効果的に抑制することができる。
【0144】
本発明は、左右の各眼に同じ画像の表示光を入射させる単眼式、左右の各眼に、視差をもつ画像を入射させる視差式のいずれのHUD装置においても使用可能である。
【0145】
本明細書において、車両という用語は、広義に、乗り物としても解釈し得るものである。また、ナビゲーションに関する用語(例えば標識等)についても、例えば、車両の運行に役立つ広義のナビゲーション情報という観点等も考慮し、広義に解釈するものとする。また、HUD装置には、シミュレータ(例えば、航空機のシミュレータ)として使用されるものも含まれるものとする。
【0146】
本発明は、上述の例示的な実施形態に限定されず、また、当業者は、上述の例示的な実施形態を特許請求の範囲に含まれる範囲まで、容易に変更することができるであろう。
【符号の説明】
【0147】
1・・・車両(自車両)、2・・・被投影部材(反射透光部材、ウインドシールド等)、4・・・投影領域、5・・・虚像表示領域、7・・・ステアリングホイール、51・・・表示光、100、107・・・HUD装置、110・・・視点検出カメラ110、112・・・光源、114・・・空間光変調素子、118・・・投射光学系、120・・・視点位置検出部(視点位置判定部)、122・・・視点座標検出部、124・・・アイボックス内の部分領域検出部、130・・・操作入力部、131・・・曲面ミラー(凹面鏡等)、133・・・反射鏡(反射ミラー、補正鏡等を含む)、140・・・車両ECU、150・・・バス、151・・・光源部、161・・・表示部(スクリーン等)、163・・・表示面(画像表示面)、170・・・バスインターフェース、171・・・制御部、173・・・表示部を駆動するアクチュエータ、180・・・表示制御部、181・・・速度検出部、182・・・視差画像表示制御部、183・・・第1の視点位置検出部、184・・・ワーピング制御部、185・・・ワーピング管理部、186・・・第2の視点位置検出部、187・・・視点追従制御部、188・・・アイボックスの部分領域(区画)情報一時蓄積部、200・・・画像生成部、210・・・ROM、220・・・VRAM、212・・・画像変換テーブル、222・・・画像(原画像)データ、224・・・ワーピング処理後の画像データ、EB・・・アイボックス、PS・・・虚像表示面、V・・・虚像。