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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】エンジン装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/34 20060101AFI20240827BHJP
   F02D 45/00 20060101ALI20240827BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20240827BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20240827BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20240827BHJP
   B60W 10/02 20060101ALI20240827BHJP
   B60W 10/04 20060101ALI20240827BHJP
   B60W 10/06 20060101ALI20240827BHJP
   B60W 20/00 20160101ALI20240827BHJP
   B60K 6/48 20071001ALI20240827BHJP
   B60K 6/547 20071001ALI20240827BHJP
【FI】
F02D41/34 ZHV
F02D45/00 362
F02D45/00 364D
F02D43/00 301H
F02D43/00 301J
F02D43/00 301A
F02D29/00 G
F02D29/02 321B
B60W10/00 102
B60W10/02 900
B60W10/06 900
B60W20/00 900
B60K6/48
B60K6/547
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022003146
(22)【出願日】2022-01-12
(65)【公開番号】P2023102577
(43)【公開日】2023-07-25
【審査請求日】2023-11-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小松 雄大
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-124480(JP,A)
【文献】特開2009-114942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00
F02D 43/00
F02D 45/00
F02D 29/00
B60W 10/00
B60W 20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒内噴射弁を有するエンジンと、前記エンジンの出力軸にクラッチを介して接続されたモータと、前記エンジンと前記モータと前記クラッチとを制御する制御装置と、を備えるエンジン装置であって、
前記制御装置は、前記エンジンの燃料カットおよび前記クラッチの解放を行なっている状態から前記エンジンの燃料噴射および点火を再開してその後に前記クラッチを係合するように前記エンジンと前記クラッチとを制御する所定始動制御の際には、前記出力軸が所定回転角だけ回転するのに要した時間である回転所要時間が時間閾値以上の場合、前記回転所要時間が前記時間閾値未満の場合に比して、次に爆発燃焼の対象となる対象気筒の燃料噴射時期を遅くするおよび/または燃料噴射量を多くする、
エンジン装置。
【請求項2】
請求項1記載のエンジン装置であって、
前記時間閾値は、前記対象気筒の吸気バルブを閉成したときのインテークマニホールドの圧力である閉成時インマニ圧が高いほど短くなるように設定される、
エンジン装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン装置に関し、詳しくは、エンジンとエンジンの出力軸にクラッチを介して接続されたモータとを備えるエンジン装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のエンジン装置として、エンジンと、エンジンの出力軸にクラッチを介して接続されたモータと、モータの回転軸と車軸とに接続された変速機とを備えるハイブリッド車が搭載するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このエンジン装置では、エンジンの出力軸が回転停止している状態で燃料噴射および点火を行なって出力軸を回転させた後にクラッチを介したモータ側からの動力により出力軸の回転をアシストしてエンジンを始動する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-095157号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたエンジン装置では、エンジンの燃料カットおよびクラッチの解放を行なっている状態からエンジンの燃料噴射および点火を再開してその後にクラッチを係合する際において、エンジンからトルクを出力するためにインテークマニホールドの圧力を比較的高くしたときなどに、エンジンでプレイグニッションが発生する懸念がある。
【0005】
本発明のエンジン装置は、エンジンでのプレイグニッションの発生を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のエンジン装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のエンジン装置は、
筒内噴射弁を有するエンジンと、前記エンジンの出力軸にクラッチを介して接続されたモータと、前記エンジンと前記モータと前記クラッチとを制御する制御装置と、を備えるエンジン装置であって、
前記制御装置は、前記エンジンの燃料カットおよび前記クラッチの解放を行なっている状態から前記エンジンの燃料噴射および点火を再開してその後に前記クラッチを係合するように前記エンジンと前記クラッチとを制御する所定始動制御の際には、前記出力軸が所定回転角だけ回転するのに要した時間である回転所要時間が時間閾値以上の場合、前記回転所要時間が前記時間閾値未満の場合に比して、次に爆発燃焼の対象となる対象気筒の燃料噴射時期を遅くするおよび/または燃料噴射量を多くする、
ことを要旨とする。
【0008】
本発明のエンジン装置では、エンジンの燃料カットおよびクラッチの解放を行なっている状態からエンジンの燃料噴射および点火を再開してその後にクラッチを係合するようにエンジンとクラッチとを制御する所定始動制御の際には、出力軸が所定回転角だけ回転するのに要した時間である回転所要時間が時間閾値以上の場合、回転所要時間が時間閾値未満の場合に比して、次に爆発燃焼の対象となる対象気筒の燃料噴射時期を遅くするおよび/または燃料噴射量を多くする。燃料噴射時期を遅くしたり燃料噴射量を多くしたりすると、燃料噴射弁から噴射された燃料の気化潜熱が大きくなり、燃焼室内の温度上昇を抑制することができるから、プレイグニッションの発生を抑制することができる。ここで、「所定回転角」は、例えば、30度とすることができる。
【0009】
本発明のエンジン装置において、前記時間閾値は、前記対象気筒の吸気バルブを閉成したときのインテークマニホールドの圧力である閉成時インマニ圧が高いほど短くなるように設定されるものとしてもよい。これは、閉成時インマニ圧が高いほどプレイグニッションが発生しやすくなることを踏まえて、燃料噴射時期を遅くしたり燃料噴射量を多くしたりしやすくするためである。
【0010】
本発明のエンジン装置において、前記クラッチを係合する条件は、前記モータの回転数と前記エンジンの回転数との差回転数が所定回転数未満である条件を含むものとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施例としてのエンジン装置を搭載するハイブリッド車20の構成の概略を示す構成図である。
図2】ハイブリッド車20が搭載するエンジン22の構成の概略を示す構成図である。
図3】エンジンECU24により実行される自立COM始動制御の際の燃料噴射制御の一例を示すフローチャートである。
図4】閾値設定用マップの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0013】
図1は、本発明の一実施例としてのエンジン装置を搭載するハイブリッド車20の構成の概略を示す構成図である。図2は、ハイブリッド車20が搭載するエンジン22の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド車20は、図1に示すように、エンジン22と、モータ30と、インバータ32と、クラッチK0と、自動変速装置40と、高電圧バッテリ60と、低電圧バッテリ62と、DC/DCコンバータ64と、ハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「HVECU」という)70とを備える。
【0014】
エンジン22は、例えばガソリンや軽油などの燃料を用いて吸気、圧縮、膨張(爆発燃焼)、排気の4行程により動力を出力する6気筒の内燃機関として構成されている。図2に示すように、エンジン22は、吸気ポートに燃料を噴射するポート噴射弁126と、筒内に燃料を噴射する筒内噴射弁127とを有する。エンジン22は、ポート噴射弁126と筒内噴射弁127とを有することにより、ポート噴射モードと筒内噴射モードと共用噴射モードとのうちの何れかで運転可能となっている。ポート噴射モードでは、エアクリーナ122により清浄された空気を吸気管123に吸入してスロットルバルブ124やサージタンク125を通過させると共に、吸気管123のサージタンク125よりも下流側のポート噴射弁126から燃料を噴射し、空気と燃料とを混合する。そして、この混合気を吸気バルブ128を介して燃焼室129に吸入し、点火プラグ130による電気火花によって爆発燃焼させて、シリンダボア内でそのエネルギにより押し下げられるピストン132の往復運動をクランクシャフト23の回転運動に変換する。筒内噴射モードでは、ポート噴射モードと同様に空気を燃焼室129に吸入し、吸気行程や圧縮行程において筒内噴射弁127から燃料を噴射し、点火プラグ130による電気火花により爆発燃焼させてクランクシャフト23の回転運動を得る。共用噴射モードでは、空気を燃焼室129に吸入する際にポート噴射弁126から燃料を噴射すると共に吸気行程や圧縮行程において筒内噴射弁127から燃料を噴射し、点火プラグ130による電気火花により爆発燃焼させてクランクシャフト23の回転運動を得る。これらの噴射モードは、エンジン22の運転状態に基づいて切り替えられる。燃焼室129から排気バルブ133を介して排気管134に排出される排気は、浄化装置135およびPMフィルタ136を介して外気に排出される。浄化装置135は、排気中の一酸化炭素(CO)や炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)の有害成分を浄化する浄化触媒(三元触媒)135aを有する。PMフィルタ136は、セラミックスやステンレスなどにより多孔質フィルタとして形成されており、排気中の煤などの粒子状物質(PM:Particulate Matter)を捕集する。なお、PMフィルタ136に代えて、三元触媒の浄化機能と粒子状物質に対する捕集機能とを組み合わせた四元触媒が用いられるものとしてもよい。
【0015】
エンジン22は、エンジンECU24により運転制御されている。エンジンECU24は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。エンジンECU24には、エンジン22を運転制御するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。エンジンECU24に入力される信号としては、例えば、エンジン22のクランクシャフト23の回転位置を検出するクランクポジションセンサ140からのクランク角θcrや、エンジン22の冷却水の温度を検出する水温センサ142からの冷却水温Twを挙げることができる。吸気バルブ128を開閉するインテークカムシャフトの回転位置や排気バルブ133を開閉するエキゾーストカムシャフトの回転位置を検出するカムポジションセンサ144からのカム角θci,θcoも挙げることができる。スロットルバルブ124のポジションを検出するスロットルバルブポジションセンサ124aからのスロットル開度THや、吸気管123のスロットルバルブ124よりも上流側に取り付けられたエアフローメータ123aからの吸入空気量Qa、吸気管123のスロットルバルブ124よりも上流側に取り付けられた温度センサ123tからの吸気温Ta、サージタンク125に取り付けられた圧力センサ125aからのサージ圧Psも挙げることができる。排気管134の浄化装置135よりも上流側に取り付けられたフロント空燃比センサ137からのフロント空燃比AF1や、排気管134の浄化装置135とPMフィルタ136との間に取り付けられたリヤ空燃比センサ138からのリヤ空燃比AF2、PMフィルタ136の前後の差圧(上流側と下流側との差圧)を検出する差圧センサ136aからの差圧ΔPも挙げることができる。
【0016】
エンジンECU24からは、エンジン22を運転制御するための各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。エンジンECU24から出力される信号としては、例えば、スロットルバルブ124への制御信号や、ポート噴射弁126への制御信号、筒内噴射弁127への制御信号、点火プラグ130への制御信号を挙げることができる。
【0017】
エンジンECU24は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。エンジンECU24は、クランクポジションセンサ140からのエンジン22のクランク角θcrに基づいて、エンジン22の回転数Neを演算したり、クランク角θcaが30度だけ回転するのに要した時間である30度回転所要時間T30を演算したりしている。また、エンジンECU24は、エアフローメータ123aからの吸入空気量Qaとエンジン22の回転数Neとに基づいて負荷率(エンジン22の1サイクルあたりの行程容積に対する1サイクルで実際に吸入される空気の容積の比)KLを演算している。さらに、エンジンECU24は、差圧センサ136aからの差圧ΔPに基づいてPMフィルタ136に堆積した粒子状物質の堆積量としてのPM堆積量Qpmを演算したり、エンジン22の回転数Neや負荷率KLに基づいてPMフィルタ136の温度としてのフィルタ温度tfを演算したりしている。
【0018】
図1に示すように、エンジン22のクランクシャフト23には、エンジン22をクランキングするためのスタータモータ25や、エンジン22からの動力を用いて発電するオルタネータ26が接続されている。スタータモータ25およびオルタネータ26は、低電圧バッテリ62と共に低電圧側電力ライン63に接続されており、HVECU70により制御される。
【0019】
モータ30は、同期発電電動機として構成されており、回転子コアに永久磁石が埋め込まれた回転子と、固定子コアに三相コイルが巻回された固定子とを有する。このモータ30の回転子が固定された回転軸31は、クラッチK0を介してエンジン22のクランクシャフト23に接続されていると共に自動変速機45の入力軸41に接続されている。インバータ32は、モータ30の駆動に用いられると共に高電圧側電力ライン61に接続されている。モータ30は、モータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)34によってインバータ32の複数のスイッチング素子がスイッチング制御されることにより、回転駆動される。
【0020】
モータECU34は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。モータECU34には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。モータECU34に入力される信号としては、例えば、モータ30の回転子(回転軸31)の回転位置を検出する回転位置センサ30aからの回転位置θmgや、モータ30の各相の相電流を検出する電流センサからの相電流Iu,Ivを挙げることができる。モータECU34からは、インバータ32への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。モータECU34は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。モータECU34は、回転位置センサ30aからのモータ30の回転子(回転軸31)の回転位置θmgに基づいてモータ30の回転数Nmgを演算している。
【0021】
クラッチK0は、例えば油圧駆動の摩擦クラッチとして構成されており、HVECU70によって制御され、エンジン22のクランクシャフト23とモータ30の回転軸31との接続および接続の解除を行なう。
【0022】
自動変速装置40は、トルクコンバータ43と、例えば6段変速の自動変速機45とを有する。トルクコンバータ43は、一般的な流体伝動装置として構成されており、モータ30の回転軸31に接続された入力軸41の動力を自動変速機45の入力軸である変速機入力軸44にトルクを増幅して伝達したり、トルクを増幅することなくそのまま伝達したりする。自動変速機45は、変速機入力軸44と、駆動輪49にデファレンシャルギヤ48を介して連結された出力軸42と、複数の遊星歯車と、油圧駆動の複数の摩擦係合要素(クラッチ,ブレーキ)とを有する。複数の摩擦係合要素は、何れも、ピストン、複数の摩擦係合プレート(摩擦プレートおよびセパレータプレート)、作動油が供給される油室などにより構成される油圧サーボを有する。自動変速機45は、複数の摩擦係合要素の係脱により、第1速から第6速までの前進段や後進段を形成して、変速機入力軸44と出力軸42との間で動力を伝達する。クラッチK0や自動変速機45には、図示しない油圧制御装置により、機械式オイルポンプや電動オイルポンプからの作動油の油圧が調圧されて供給される。油圧制御装置は、複数の油路が形成されたバルブボディや、複数のレギュレータバルブ、複数のリニアソレノイドバルブなどを有する。この油圧制御装置は、HVECU70により制御される。
【0023】
高電圧バッテリ60は、例えば定格電圧が数百V程度のリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、インバータ32と共に高電圧側電力ライン61に接続されている。低電圧バッテリ62は、例えば定格電圧が12Vや14V程度の鉛蓄電池として構成されており、スタータモータ25やオルタネータ26と共に低電圧側電力ライン63に接続されている。DC/DCコンバータ64は、高電圧側電力ライン61と低電圧側電力ライン63とに接続されている。このDC/DCコンバータ64は、高電圧側電力ライン61の電力を低電圧側電力ライン63に電圧の降圧を伴って供給する。
【0024】
HVECU70は、図示しないが、CPUやROM、RAM、フラッシュメモリ、入出力ポート、通信ポートを有するマイクロコンピュータを備える。HVECU70には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。HVECU70に入力される信号としては、例えば、自動変速装置40の入力軸41に取り付けられた回転数センサ41aからの回転数Ninや、自動変速装置40の変速機入力軸44に取り付けられた回転数センサ44aからの回転数Nmi、自動変速装置40の出力軸42に取り付けられた回転数センサ42aからの回転数Noutを挙げることができる。高電圧バッテリ60の端子間に取り付けられた電圧センサからの高電圧バッテリ60の電圧Vbhや、高電圧バッテリ60の出力端子に取り付けられた電流センサからの高電圧バッテリ60の電流Ibh、低電圧バッテリ62の端子間に取り付けられた電圧センサからの電圧Vblも挙げることができる。イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号や、シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP、アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc、ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP、車速センサ87からの車速Vも挙げることができる。
【0025】
HVECU70からは、各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。HVECU70から出力される信号としては、例えば、スタータモータ25への制御信号や、オルタネータ26への制御信号を挙げることができる。クラッチK0や自動変速装置40(油圧制御装置)への制御信号、DC/DCコンバータ64への制御信号も挙げることができる。HVECU70は、エンジンECU24やモータECU34と通信ポートを介して接続されている。HVECU70は、回転数センサ41aからの自動変速装置40の入力軸41の回転数Ninを回転数センサ42aからの自動変速装置40の出力軸42の回転数Noutで除して自動変速装置40の回転数比Gtを演算している。
【0026】
なお、実施例では、エンジン装置としては、エンジン22と、クラッチK0と、モータ30と、HVECU70と、エンジンECU24と、モータECU34とが相当する。
【0027】
こうして構成された実施例のハイブリッド車20では、HVECU70とエンジンECU24とモータECU34との協調制御により、ハイブリッド走行モード(HV走行モード)や電動走行モード(EV走行モード)で走行するように、エンジン22とクラッチK0とモータ30と自動変速装置40とを制御する。ここで、HV走行モードは、クラッチK0を係合状態としてエンジン22の動力を用いて走行するモードであり、EV走行モードは、クラッチK0を解放状態としてエンジン22の動力を用いずに走行するモードである。
【0028】
HV走行モードやEV走行モードにおける自動変速装置40の制御では、HVECU70は、最初に、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて自動変速機45の目標変速段M*を設定する。そして、自動変速機45の変速段Mと目標変速段M*とが一致するときには、変速段Mが保持されるように自動変速機45を制御する。一方、変速段Mと目標変速段M*とが異なるときには、変速段Mが目標変速段M*に一致するように自動変速機45を制御する。
【0029】
HV走行モードにおけるエンジン22およびモータ30の制御では、HVECU70は、最初に、アクセル開度Accおよび車速Vに基づいて走行に要求される(自動変速装置40の出力軸42に要求される)要求トルクTout*を設定する。続いて、出力軸42の要求トルクTout*を自動変速装置40の回転数比Gtで除した値を入力軸41の要求トルクTin*に設定する。こうして入力軸41の要求トルクTin*を設定すると、要求トルクTin*が入力軸41に出力されるようにエンジン22の目標トルクTe*やモータ30のトルク指令Tm*を設定し、エンジン22の目標トルクTe*をエンジンECU24に送信すると共にモータ30のトルク指令Tm*をモータECU34に送信する。エンジンECU24は、目標トルクTe*を受信すると、エンジン22が目標トルクTe*で運転されるようにエンジン22の運転制御(吸入空気量制御や燃料噴射制御、点火制御など)を行なう。モータECU34は、トルク指令Tm*を受信すると、モータ30がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ32の複数のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0030】
EV走行モードにおけるモータ30の制御では、HVECU70は、HV走行モードと同様に入力軸41の要求トルクTin*を設定し、要求トルクTin*が入力軸41に出力されるようにモータ30のトルク指令Tm*を設定してモータECU34に送信する。モータECU34は、トルク指令Tm*を受信すると、モータ30がトルク指令Tm*で駆動されるようにインバータ32の複数のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0031】
また、実施例のハイブリッド車20では、HVECU70とエンジンECU24とモータECU34との協調制御により、HV走行モードで停止条件が成立すると、エンジン22からのトルクをモータ30からのトルクに置き換えて、その後に、エンジン22の燃料カットを行なうと共にエンジン22の回転数Neが閾値Neref1(例えば、600rpm~800rpm程度)未満のときにクラッチK0を解放する。そして、エンジン22の回転中に始動条件が成立すると、エンジン22の燃料カットからの復帰(燃料噴射および点火の再開)を伴うエンジン22の始動制御を行なう。停止条件としては、例えば、エンジン22の運転中に、入力軸41の要求トルクTin*が閾値Tinref未満である条件などを用いることができる。始動条件としては、例えば、エンジン22の間欠停止中に、要求トルクTin*が閾値Tinref以上である条件などを用いることができる。エンジン22の始動制御としては、例えば、FC(Fuel Cut)復帰制御や、自立COM(Change Of Mind)始動制御、COM始動制御などを挙げることができる。
【0032】
FC復帰制御は、基本的に、始動条件が成立したときに、エンジン22の回転数Neが閾値Neref1以上の場合に行なわれる。FC復帰制御では、クラッチK0の係合を継続しつつエンジン22の燃料噴射や点火を再開する。
【0033】
自立COM始動制御は、基本的に、始動条件が成立したときに、エンジン22の回転数Neが閾値Neref1未満で且つそれよりも低い(例えば、数百rpm程度低い)閾値Neref2以上の場合に行なわれる。自立COM始動制御では、クラッチK0の解放を継続しつつエンジン22の燃料噴射および点火を再開し、モータ30の回転数Nmgとエンジン22の回転数Neとの差回転数ΔNが小さくなるようにエンジン22を制御し、クラッチK0の係合条件が成立するとクラッチK0を係合する。
【0034】
COM始動制御は、基本的に、始動条件が成立したときに、エンジン22の回転数Neが閾値Neref2未満の場合に行なわれる。COM始動制御では、クラッチK0を半係合(スリップ係合)してモータ30からのクランキングトルクを用いてエンジン22をクランキングしつつ燃料噴射および点火を再開し、差回転数ΔNが小さくなるようにエンジン22を制御しつつクラッチK0を解放し、クラッチK0の係合条件が成立するとクラッチK0を係合する。
【0035】
自立COM始動制御やCOM始動制御の際のクラッチK0の係合条件としては、例えば、差回転数ΔNが閾値ΔNref(例えば、50rpm~150rpm程度)未満である条件などを用いることができる。また、FC復帰制御や自立COM始動制御、COM始動制御の際の燃料噴射制御は、筒内噴射モードで行なわれる。
【0036】
次に、実施例のハイブリッド車20の動作、特に、自立COM始動制御の際のエンジン22の燃料噴射制御について説明する。図3は、エンジンECU24により実行される自立COM始動制御の際の燃料噴射制御の一例を示すフローチャートである。このルーチンは、自立COM始動制御の際に、次に爆発燃焼の対象となる対象気筒を切り替えながら繰り返し実行される。なお、自立COM始動制御の際には、クラッチK0の解放を継続しつつエンジン22の燃料噴射および点火を再開するから、エンジン22からのトルクによりモータ30の回転数Nmgとエンジン22の回転数Neとの差回転数ΔNを小さくする必要がある。このため、自立COM始動制御の際の吸入空気量制御や点火制御については、基本的に、COM始動制御の際に比してスロットル開度THを大きくしてインテークマニホールドの圧力(インマニ圧Pin)を高くしつつ、差回転数ΔNが小さくなるように、スロットルバルブ124の制御や点火プラグ130の制御が行なわれる。なお、インマニ圧Pinとしては、実施例では、サージ圧Psが用いられる。
【0037】
図3の自立COM始動制御の際の燃料噴射制御では、エンジンECU24は、最初に、30度回転所要時間T30や、閉成時インマニ圧Pincなどのデータを入力する(ステップS100)。ここで、30度回転所要時間T30は、クランクポジションセンサ140からのエンジン22のクランク角θcrに基づいて演算された値が入力される。閉成時インマニ圧Pincは、対象気筒の吸気バルブ128を閉成したとき(タイミング)のインマニ圧Pinであり、実施例では、対象気筒の吸気バルブ128を閉成したときの圧力センサ125aからのサージ圧Psが入力される。
【0038】
こうしてデータを入力すると、閉成時インマニ圧Pincに基づいて閾値T30refを設定し(ステップS110)、30度回転所要時間T30を閾値T30refと比較する(ステップS120)。ここで、閾値T30refは、対象気筒でのプレイグニッションの発生が懸念されるか否かを判定するのに用いられる閾値であり、例えば、15msec~20msec程度を用いることができる。自立COM始動制御の際には、上述のようにインマニ圧Pinを高くする。そして、閉成時インマニ圧Pincが高いほど対象気筒の筒内の空気量が多くなる。また、30度回転所要時間T30が長い即ちクランクシャフト23の回転速度が遅いほど、圧縮上死点付近の滞在時間(気筒内が高圧縮の時間)が長くなる。気筒内の空気量が多く且つ圧縮上死点付近の滞在時間が長いときには、燃焼室129内の温度が高くなりやすく、プレイグニッションが発生しやすい。ステップS120の処理は、これを考慮してプレイグニッションの発生が懸念されるか否かを判定する処理である。
【0039】
閾値T30refは、例えば、閉成時インマニ圧Pincと閾値T30refとの関係を実験や解析、機械学習などにより予め定めて閾値設定用マップとして記憶しておき、閉成時インマニ圧Pincが与えられると、このマップから対応する閾値T30refを導出することにより設定することができる。図4は、閾値設定用マップの一例を示す説明図である。図示するように、閾値T30refは、閉成時インマニ圧Pincが高いほど短くなるように設定される。これは、閉成時インマニ圧Pincが高い(対象気筒の筒内の空気量が多い)ほど対象気筒でプレイグニッションが生じやすくなるためである。
【0040】
ステップS120で30度回転所要時間T30が閾値T30ref未満のときには、対象気筒でのプレイグニッションの発生が懸念されないと判定し、対象気筒の目標燃料噴射量Qf*に第1量Qf1を設定すると共に(ステップS130)、対象気筒の燃料噴射時期Tfに第1時期Tf1を設定する(ステップS140)。ここで、第1量Qf1や第1時期Tf1は、一律に設定されるものとしてもよいし、エンジン22の回転数Neや閉成時インマニ圧Pincなどのうちの少なくとも1つに基づいて設定されるものとしてもよい。そして、対象気筒の目標燃料噴射量Qf*および燃料噴射時期Tfを用いて筒内噴射弁127から燃料噴射を行なって(ステップS170)、本ルーチンを終了する。
【0041】
ステップS120で30度回転所要時間T30が閾値T30ref以上のときには、対象気筒でのプレイグニッションの発生が懸念されると判定し、対象気筒の目標燃料噴射量Qf*に第1量Qf1よりも多い第2量Qf2を設定すると共に(ステップS150)、対象気筒の燃料噴射時期Tfに第1時期Tf1よりも遅い第2時期Tf2を設定する(ステップS160)。ここで、第2量Qf2や第2時期Tf2は、一律に設定されるものとしてもよいし、エンジン22の回転数Neや閉成時インマニ圧Pincなどのうちの少なくとも1つに基づいて設定されるものとしてもよい。そして、対象気筒の目標燃料噴射量Qf*および燃料噴射時期Tfを用いて筒内噴射弁127から燃料噴射を行なって(ステップS170)、本ルーチンを終了する。対象気筒の目標燃料噴射量Qf*を多くしたり燃料噴射時期Tfを遅くしたりすると、対象気筒で、筒内噴射弁127から噴射された燃料の気化潜熱が大きくなり、燃焼室129内の温度上昇を抑制することができるから、対象気筒でのプレイグニッションの発生を抑制することができる。
【0042】
なお、FC復帰制御の際には、自立COM始動制御の際に比して、エンジン22の回転数Neが高い即ち30度回転所要時間T30が短いため、プレイグニッションの発生の懸念が低いと考えられる。また、COM始動制御の際には、クラッチK0を半係合してモータ30によりエンジン22をクランキングするから、自立COM始動制御の際に比してインマニ圧Pinを高くしなくてよいため、プレイグニッションの発生の懸念が低いと考えられる。
【0043】
以上説明した実施例のハイブリッド車20が搭載するエンジン装置では、自立COM始動制御の際において、30度回転所要時間T30が閾値T30ref以上のときには、30度回転所要時間T30が閾値T30ref未満のときに比して、対象気筒の目標燃料噴射量Qf*を多くすると共に燃料噴射時期Tfを遅くする。これにより、対象気筒で、筒内噴射弁127から噴射された燃料の気化潜熱が大きくなり、燃焼室129内の温度上昇を抑制することができるから、対象気筒でのプレイグニッションの発生を抑制することができる。
【0044】
実施例では、説明を省略したが、自立COM始動制御の際において、30度回転所要時間T30が閾値T30ref未満のときには、対象気筒の目標燃料噴射量Qf*を筒内噴射弁127から1回でまたは複数回に分けて噴射し、30度回転所要時間T30が閾値T30ref以上のときには、対象気筒の目標燃料噴射量Qf*を筒内噴射弁127から1回で噴射するものとしてもよい。これにより、30度回転所要時間T30が閾値T30ref以上のときに、対象気筒の目標燃料噴射量Qf*を筒内噴射弁127から複数回に分けて噴射するものに比して、筒内噴射弁127から噴射された燃料の気化潜熱をより大きくすることができる。
【0045】
実施例のハイブリッド車20が搭載するエンジン装置では、自立COM始動制御の際において、30度回転所要時間T30が閾値T30ref以上のときには、30度回転所要時間T30が閾値T30ref未満のときに比して、対象気筒の目標燃料噴射量Qf*を多くすると共に燃料噴射時期Tfを遅くするものとした。しかし、対象気筒の目標燃料噴射量Qf*を多くするが燃料噴射時期Tfを同一とするものとしてもよいし、対象気筒の燃料噴射時期Tfを遅くするが目標燃料噴射量Qf*を同一とするものとしてもよい。
【0046】
実施例のハイブリッド車20が搭載するエンジン装置では、自立COM始動制御の際において、閉成時インマニ圧Pincに基づいて閾値T30refを設定するものとした。しかし、閾値T30refとして、一定時間を用いるものとしてもよい。
【0047】
実施例のハイブリッド自動車20では、クランク角θcaが30度だけ回転するのに要した時間である30度回転所要時間T30を用いて、プレイグニッションの発生が懸念されるか否かを判定するものとした。しかし、30度に代えて、10度や20度などを用いるものとしてもよい。
【0048】
実施例のハイブリッド車20では、6段変速の自動変速機45を備えるものとした。しかし、4段変速や5段変速、8段変速などの自動変速機を備えるものとしてもよい。
【0049】
実施例のハイブリッド車20では、エンジンECU24とモータECU34とHVECU70とを備えるものとした。しかし、これらのうちの少なくとも2つを一体に構成するものとしてもよい。
【0050】
実施例のエンジン装置では、ハイブリッド車20に搭載されるものとしたが、車両以外の移動体に搭載されるものとしたり、移動しない設備に組み込まれるものとしてよい。
【0051】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「エンジン」に相当し、クラッチK0が「クラッチ」に相当し、モータ30が「モータ」に相当し、HVECU70とエンジンECU24とモータECU34とが「制御装置」に相当する。
【0052】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0053】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、エンジン装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
20 ハイブリッド車、22 エンジン、23 クランクシャフト、24 エンジンECU、25 スタータモータ、26 オルタネータ、30 モータ、30a 回転位置センサ、31 回転軸、32 インバータ、34 モータECU、40 自動変速装置、41 入力軸、41a 回転数センサ、42 出力軸、42a 回転数センサ、43 トルクコンバータ、44 変速機入力軸、44a 回転数センサ、45 自動変速機、48 デファレンシャルギヤ、49 駆動輪、60 高電圧バッテリ、61 高電圧側電力ライン、62 低電圧バッテリ、63 低電圧側電力ライン、64 DC/DCコンバータ、70 HVECU、80 イグニッションスイッチ、81 シフトレバー、82 シフトポジションセンサ、83 アクセルペダル、84 アクセルペダルポジションセンサ、85 ブレーキペダル、86 ブレーキペダルポジションセンサ、87 車速センサ、122 エアクリーナ、123 吸気管、123a エアフローメータ、123t 温度センサ、124 スロットルバルブ、124a スロットルバルブポジションセンサ、125 サージタンク、125a 圧力センサ、126 ポート噴射弁、127 筒内噴射弁、128 吸気バルブ、129 燃焼室、130 点火プラグ、132 ピストン、133 排気バルブ、134 排気管、135 浄化装置、135a 浄化触媒、136 PMフィルタ、136a 差圧センサ、137 フロント空燃比センサ、138 リヤ空燃比センサ、140 クランクポジションセンサ、142 水温センサ、144 カムポジションセンサ。
図1
図2
図3
図4