(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】二次電池の診断システム、二次電池の診断方法、および車両
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20240827BHJP
B60L 3/00 20190101ALI20240827BHJP
B60L 50/60 20190101ALI20240827BHJP
B60L 53/14 20190101ALI20240827BHJP
B60L 53/65 20190101ALI20240827BHJP
B60L 58/10 20190101ALI20240827BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01M10/48 301
B60L3/00 S
B60L50/60
B60L53/14
B60L53/65
B60L58/10
H02J7/00 P
H02J7/00 Q
(21)【出願番号】P 2022005559
(22)【出願日】2022-01-18
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松岡 祥平
【審査官】赤穂 嘉紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-035805(JP,A)
【文献】特開2010-067541(JP,A)
【文献】特開2012-174487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42-10/48
H02J 7/00-7/12
H02J 7/34-7/36
B60L 1/00-3/12
B60L 7/00-13/00
B60L 15/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池に所定周波数のリップル電流を印加可能に構成されたリップル電流回路と、
前記所定周波数のリップル電流の印加に伴う前記二次電池の歪みを取得する歪取得部と、
前記二次電池が正規品かであるか否かを診断する診断装置と、を備え、
前記診断装置は、前記歪取得部で取得した前記二次電池の歪みに基づいて、前記二次電池が正規品であるか否かを診断する、二次電池の診断システム。
【請求項2】
前記診断装置は、前記歪取得部で取得した前記二次電池の歪みが、前記所定周波数のリップル電流の印加時における前記正規品の歪みの大きさを含む設定範囲から外れている場合に、前記二次電池が正規品でないと診断する、請求項1に記載の二次電池の診断システム。
【請求項3】
前記リップル電流回路は、周波数の異なるリップル電流を二次電池に印加可能に構成されており、
前記診断装置は、前記歪取得部で取得した前記二次電池の歪みに基づいて前記リップル電流の前記周波数に対する前記二次電池の歪みの傾きを算出し、算出した前記二次電池の歪みの傾きが、前記正規品の歪みの傾きを含む設定範囲から外れている場合に、前記二次電池が正規品でないと診断する、請求項1または請求項2に記載の二次電池の診断システム。
【請求項4】
前記二次電池は、単電池を積層した組電池であり、
前記単電池は、電極体と、前記電極体を収容するケースとから構成されており、
前記歪取得部は、前記単電池の前記ケースの歪みを検出する、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の二次電池の診断システム。
【請求項5】
二次電池に所定周波数のリップル電流を印加する印加ステップと、
前記所定周波数のリップル電流の印加に伴う前記二次電池の歪みを取得する取得ステップと、
取得した前記二次電池の歪みに基づいて、前記二次電池が正規品であるか否かを診断する診断ステップと、を含む、二次電池の診断方法。
【請求項6】
前記診断ステップは、取得した前記二次電池の歪みが、前記所定周波数のリップル電流の印加時における前記正規品の歪みの大きさを含む設定範囲から外れている場合に、前記二次電池が正規品でないと診断するステップを含む、請求項5に記載の二次電池の診断方法。
【請求項7】
前記印加ステップは、周波数の異なるリップル電流を二次電池に印加するステップを含み、
前記取得ステップは、前記周波数の異なるリップル電流の印加毎に、前記二次電池の歪みを取得するステップを含み、
前記診断ステップは、取得した前記二次電池の歪みに基づいて前記リップル電流の前記周波数に対する前記二次電池の歪みの傾きを算出し、算出した前記二次電池の歪みの傾きが、前記正規品の歪みの傾きを含む設定範囲から外れている場合に、前記二次電池が正規品でないと診断するステップを含む、請求項5に記載の二次電池の診断方法。
【請求項8】
二次電池と、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の二次電池の診断システムとを備え、
前記二次電池は、外部電源から供給される電力を用いて充電を行う外部充電が可能とされており、
前記外部充電が行われているとき、前記診断システムの前記診断装置は、前記二次電池が正規品であるか否かを診断する、車両。
【請求項9】
二次電池と、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の二次電池の診断システムと、
前記診断システムの前記診断装置によって前記二次電池が正規品でないと診断されたとき、警告を行う手段とを備える、車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、二次電池の診断システムおよび二次電池の診断方法に関し、特に、二次電池が正規品か否かを診断するシステムおよび診断方法、並びにこの診断システムを搭載した車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車または電気自動車などの、電池パックが搭載された車両の普及が進んでいる。車載用の電池パックについて、正規品の製造業者以外によって製造された模倣品が流通する可能性がある。また、正規品に対して改造が行われる可能性もある。これらの非正規品(模倣品またはサードパーティ製品)には、粗悪な二次電池が使用されていたり、車両側が要求する性能に不備があったりする可能性がある。そのため、電池パック(二次電池)が正規品であるか非正規品であるかを診断する技術が提案されている。
【0003】
たとえば、特開2012-174487号公報(特許文献1)は、電池パックを開示する。この電池パック内の制御部は、初期状態で測定された電池の重量(第1の重量)と、現在の電池の重量(第2の重量)との差が閾値よりも大きい場合に、電池が正規品でないと診断する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、二次電池が正規品であるか否かが二次電池の重量に基づいて診断される。そのため、重量は同等であるが、重量以外の特性(形状、構造および材料などを含み得る)が異なる二次電池を対象とする場合には、適切に診断できない可能性がある。
【0006】
本開示の目的は、正規品と非正規品とで重量が同等な場合であっても、二次電池について、正規品であるか否かを診断することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示に係る二次電池の診断システムは、二次電池に所定周波数のリップル電流を印加可能に構成されたリップル電流回路と、所定周波数のリップル電流の印加に伴う二次電池の歪みを取得する歪取得部と二次電池が正規品かであるか否かを診断する診断装置とを備える。診断装置は、歪取得部で取得した二次電池の歪みに基づいて、二次電池が正規品であるか否かを診断する。
【0008】
好ましくは、診断装置は、歪取得部で取得した二次電池の歪みが、所定周波数のリップル電流の印加時における正規品の歪みの大きさを含む設定範囲から外れている場合に、二次電池が正規品でないと診断することにより、歪取得部で取得した二次電池の歪みに基づいて、二次電池が正規品であるか否かを診断してもよい。
【0009】
また、好ましくは、周波数の異なるリップル電流を二次電池に印加可能なようにリップル電流回路を構成し、診断装置は、歪取得部で取得した二次電池の歪みに基づいてリップル電流の周波数に対する二次電池の歪みの傾きを算出し、算出した二次電池の歪みの傾きが、正規品の歪みの傾きを含む設定範囲から外れている場合に、二次電池が正規品でないと診断することにより、歪取得部で取得した二次電池の歪みに基づいて、二次電池が正規品であるか否かを診断してもよい。
【0010】
上記の構成によれば、二次電池に所定周波数のリップル電流を印加した際に生じる二次電池の歪みに基づいて、二次電池が正規品であるか否かを診断するので、正規品と非正規品とで重量が同等な場合であっても、二次電池について、正規品であるか否かを診断することができる。
【0011】
本開示の記二次電池は、単電池を積層した組電池であり、単電池は、電極体と電極体を収容するケースとから構成され、歪取得部は、単電池のケースの歪みを検出するものであってよい。
【0012】
この構成によれば、単電池のケースの歪みを検出するので、二次電池に所定周波数のリップル電流を印加した際に生じる二次電池の歪みを精度よく検出できる。
【0013】
本開示に係る二次電池の診断方法は、二次電池に所定周波数のリップル電流を印加する印加ステップと、所定周波数のリップル電流の印加に伴う二次電池の歪みを取得する取得ステップと、取得した二次電池の歪みに基づいて、二次電池が正規品であるか否かを診断する診断ステップと、を含む。
【0014】
好ましくは、診断ステップにおいて、取得した二次電池の歪みが、所定周波数のリップル電流の印加時における前記正規品の歪みの大きさを含む設定範囲から外れている場合に、二次電池が正規品でないと診断することにより、取得した二次電池の歪みに基づいて、二次電池が正規品であるか否かを診断するようにしてもよい。
【0015】
また、好ましくは、印加ステップにおいて、周波数の異なるリップル電流を二次電池に印加し、取得ステップにおいて、前記周波数の異なるリップル電流の印加毎に、前記二次電池の歪みを取得し、診断ステップにおいて、取得した二次電池の歪みに基づいてリップル電流の周波数に対する二次電池の歪みの傾きを算出し、算出した二次電池の歪みの傾きが、正規品の歪みの傾きを含む設定範囲から外れている場合に、二次電池が正規品でないと診断することにより、取得した二次電池の歪みに基づいて、二次電池が正規品であるか否かを診断するようにしてもよい。
【0016】
上記の方法によれば、二次電池に所定周波数のリップル電流を印加した際に生じる二次電池の歪みに基づいて、二次電池が正規品であるか否かを診断するので、正規品と非正規品とで重量が同等な場合であっても、二次電池について、正規品であるか否かを診断することができる。
【0017】
本開示に係る車両は、上記の二次電池の診断システムを搭載した車両である。車両に搭載された二次電池は、外部電源から供給される電力を用い充電を行う外部充電が可能とされており、外部充電が行われているとき、診断装置が、二次電池が正規品であるか否かを診断する。
【0018】
この構成によれば、車両に搭載された二次電池が外部充電を行う際に、診断装置によって、二次電池が正規品であるか否かを診断するので、定期的に診断を実行でき、より確実に二次電池が正規品であるか否を診断することができる。
【0019】
本開示に係る車両は、上記の二次電池の診断システムを搭載した車両である。車両は、診断装置によって二次電池が正規品でないと診断されたとき、警告を行う手段を備える。
【0020】
この構成によれば、車両のユーザに、非正規品の二次電池が搭載されていることを、知らせることができる。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、正規品と非正規品とで重量が同等な場合であっても、二次電池について、正規品であるか否かを診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施の形態に係る二次電池の診断システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示す図である。
【
図2】本実施の形態における組電池の構造を概略的に示す斜視図である。
【
図4】リップル電流の印加に伴う歪みの発生を説明する図である。
【
図5】本実施の形態における正規品の診断基準を説明するための図である。
【
図6】本実施の形態における診断処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰り返さない。
【0024】
以下の実施の形態では、本開示に係る「二次電池の診断システム」が車両に搭載された構成を例に説明する。しかし、本開示に係る「二次電池の診断システム」の用途は、車両用に限定されず、たとえば定置用であってもよい。
【0025】
<システム構成>
図1は、本実施の形態に係る二次電池の診断システムが搭載された車両の全体構成を概略的に示す図である。車両1は、本実施の形態では電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)である。ただし、車両1の種類は、電池パックが搭載された車両であれば、これに限定されるものではない。車両1は、ハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)であってもよいし、プラグインハイブリッド車(PHEV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)であってもよいし、燃料電池車(FCEV:Fuel Cell Electric Vehicle)であってもよい。
【0026】
車両1は、インレット10と、AC/DCコンバータ20と、充電リレー(CHR:Charge Relay)30と、電池パック40と、電力制御装置(PCU:Power Control Unit)50と、モータジェネレータ(MG:Motor Generator)60と、統合電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)70とを備える。電池パック40は、組電池41と、監視ユニット42と、リップル電流回路43と、電池ECU44とを備える。電池パック40は、本開示に係る「二次電池の診断システム」に相当する。
【0027】
インレット10は、充電ケーブル91の先端に設けられた充電コネクタを挿入可能に構成されている。充電ケーブル91を介して、車両1と、車両1の外部に設置された外部電源(たとえば系統電源)92とが電気的に接続される。車両1は、外部電源92から供給される電力を用いて組電池41を充電する「外部充電」が可能に構成されている。
【0028】
AC/DCコンバータ20は、インレット10と充電リレー30との間に電気的に接続されている。AC/DCコンバータ20は、外部電源92からインレット10を介して供給される交流電力を直流電力に変換し、その直流電力を充電リレー30に出力する。また、AC/DCコンバータ20は、組電池41(またはPCU50)から充電リレー30を介して供給される直流電力を交流電力に変換し、その交流電力をインレット10に出力する。
【0029】
充電リレー30は、AC/DCコンバータ20と組電池41とを結ぶ電力線に電気的に接続されている。充電リレー30は、統合ECU70からの制御信号に応じて開放/閉成される。
【0030】
組電池41は、モータジェネレータ60を駆動するための電力を蓄え、PCU50を通じてモータジェネレータ60へ電力を供給する。また、組電池41は、外部充電時にはAC/DCコンバータ20から出力された電力により充電される。さらに、組電池41は、モータジェネレータ60の発電時(回生発電時など)にもPCU50を通じて発電電力を受けて充電される。
【0031】
監視ユニット42は、電圧センサ421と、電流センサ422と、温度センサ423と、歪ゲージ424とを含む。電圧センサ421は、組電池41の電圧Vを検出する。電流センサ422は、組電池41に入出力される電流Iを検出する。温度センサ423は、組電池41の温度TBを検出する。歪ゲージ424は、組電池41の歪みεを測定する。各センサは、その検出結果または測定結果を示す信号を電池ECU44に出力する。歪ゲージ424は、本開示に係る「歪取得部」の一例に相当する。
【0032】
リップル電流回路43は、組電池41の充放電電流にリップル電流(Ripple電流:脈動電流)を印加(重畳)することが可能に構成されている。リップル電流回路43は、AC/DCコンバータ20から組電池41への充放電電力を用いてリップル電流を生成してもよいし、他の電力源からの供給電力(たとえば図示しない補機電池からの供給電力)を用いてリップル電流を生成してもよい。また、組電池41に接続した電子負荷を用いてリップル電流を生成する構成であってもよい。リップル電流回路43の交流信号発生部は、たとえば、100Hz~数kHzの間で周波数を変更でき、リップル電流回路43は、組電池41の充放電電流に100Hz~数kHzの間のリップル電流を印加することができる。
【0033】
電池ECU44は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ441と、ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)などのメモリ442と、各種信号を入出力する入出力ポート(図示せず)とを含む。
【0034】
電池ECU44は、監視ユニット42の各センサからの信号の入力ならびにメモリ442に記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、統合ECU70と協調しながら組電池41を管理する。本実施の形態において電池ECU44により実行される主要な処理としては、組電池41が正規品であるかどうかを診断する「診断処理」が挙げられる。電池ECU44による診断処理については後述する。
【0035】
PCU50は、たとえば、インバータと、コンバータ(いずれも図示せず)とを含む。PCU50は、統合ECU70からの制御信号に従って、組電池41とモータジェネレータ60との間で双方向の電力変換を実行する。
【0036】
モータジェネレータ60は、たとえば永久磁石がロータ(図示せず)に埋設された三相交流回転電機である。モータジェネレータ60は、組電池41からの供給電力を用いて駆動軸を回転させる。また、モータジェネレータ60は回生制動によって発電することも可能である。モータジェネレータ60によって発電された交流電力は、PCU50により直流電力に変換されて組電池41に充電される。
【0037】
統合ECU70は、電池ECU44と同様に、プロセッサと、メモリと、入出力ポート(いずれも図示せず)とを含む。統合ECU70は、車両1に設けられた各センサからの信号の入力ならびにメモリに記憶されたマップおよびプログラムに基づいて、車両1が所望の状態となるように機器類(AC/DCコンバータ20、充電リレー30およびPCU50)を制御する。統合ECU70は、たとえば、AC/DCコンバータ20および/またはPCU50を制御することによって組電池41の充放電を制御する。なお、車両1に搭載されるECUは、適宜、統合して構成されていてもよいし機能毎に分割して構成されていてもよい。
【0038】
<組電池の構造>
図2は、本実施の形態における組電池41の構造を概略的に示す斜視図である。組電池41は、複数のスタック410(モジュールまたはブロックとも呼ばれる)を含む。複数のスタック410は、互いに直列接続されていてもよいし並列接続されていてもよい。
図1には複数のスタック410うちの1つが代表的に示されている。
【0039】
スタック410は、複数のセル(単電池)81と、複数の樹脂枠82と、一対のエンドプレート83と、一対の拘束バンド84とを含む。スタック410では、複数のセル81と複数の樹脂枠82とが積層されることにより積層体が形成されている。
【0040】
複数のセル81の各々は、リチウムイオン電池またはニッケル水素電池などの二次電池である。スタック410に含まれるセルの数は特に限定されるものではない。各セル81の構成は共通であり、積層された各セル81は、電気的に直列接続されている。
【0041】
複数の樹脂枠82の各々は、積層方向に隣り合う2つのセル81の間に配置されている。一対のエンドプレート83は、積層体の積層方向の一方端と他方端とに配置されている。エンドプレート83は、積層体を積層方向に両側から挟み込むように配置されている。
【0042】
一対の拘束バンド84は、樹脂枠82の上面と下面とに配置されている。拘束バンド84は、積層体を挟み込んだ状態の一対のエンドプレート83を互いに拘束する。
【0043】
図3は、セル81の構成の一例を示す斜視図である。この例では、セル81はリチウムイオン電池である。
【0044】
セル(単電池)81は、略直方体形状を有する角型セルである。セル81は、電極体812を収容するケース813とケース813の上面を封止する蓋体814を含む。蓋体814には、正極端子815および負極端子816が設けられている。正極端子815および負極端子816の各々の一方端は、蓋体814から外部に突出している。正極端子815および負極端子816の各々の他方端は、ケース813内部において、内部正極端子および内部負極端子(いずれも図示せず)にそれぞれ電気的に接続されている。なお、図示しないが、隣り合う2つのセル81は、バスバーにより互いに電気的に直列に接続されている。
【0045】
ケース813内部には電極体812が収容されている。電極体812は、たとえば、正極シートと負極シートとがセパレータを介して積層され、さらに筒状に捲回され形成されている。電解液は、正極シート、負極シートおよびセパレータ等に保持されている。なお、電極体812として捲回体に代えて積層体を採用することも可能である。
【0046】
セル81のケース813には、歪ゲージ424が貼り付けられている。歪ゲージ424は、金属歪ゲージであっても、半導体歪ゲージであってもよい。本実施の形態では、正極端子815近傍のケース813の厚みの変化に起因した歪みを検出するため、正極端子815の下方の側面に、接着剤を用いて歪ゲージ424を貼り付けている。
【0047】
<リップル電流の印加>
以上のように構成された車両1において、電池パック40内の組電池41は、その使用に伴い、または時間の経過とともに劣化する。組電池41の劣化が相当程度進んだ場合には、組電池41を新たな組電池(または劣化が比較的進行していない中古品の組電池)に置き換えることが考えられる。その際に、模倣品またはサードパーティ製品などの非正規の組電池が選択される可能性がある。
【0048】
特許文献1のように、組電池41が正規品であるかどうかを組電池41の重量に基づいて診断することも考えられる。しかし、そうすると、重量は同等であるものの、重量以外の特性(セルの外形形状もしくは構造、または、電池材料など)が異なる組電池41に置き換えられた場合には、その組電池41が正規品であるかどうかを適切に診断できない可能性がある。
【0049】
本実施の形態においては、組電池41に所定周波数のリップル電流を印加した際の歪みに基づいて、組電池41が正規品であるか非正規品を診断する構成を採用する。リップル電流回路43は、電池ECU44からの指令に従い、組電池41への充放電電流にリップル電流を印加(重畳)する。そうすると、セル81のケース813の厚みが変化し、歪みが発生する。歪ゲージ424は、その歪みを測定する。電池ECU44(プロセッサ441)は、歪ゲージ424で測定した歪みεに基づいて、組電池41が正規品であるか非正規品であるかを診断する。
【0050】
図4は、リップル電流の印加に伴う歪みの発生を説明する図である。
図4において、横軸はリップル電流の周波数(Hz)であり、縦軸はセル(単電池)のケースに発生する歪みの大きさである。
【0051】
図4において、実線は、正規品におけるリップル電流の周波数と歪みの大きさの関係を示している。
図4の示すよう、正規品は、リップル電流の周波数の上昇に伴い、歪みが比較的穏やかに大きくなっている。
【0052】
図4において、一点鎖線は、非正規品におけるリップル電流の周波数と歪みの大きさの関係を示しており、リップル電流の周波数の上昇に伴い、正規品と比較して、歪みが急激に大きくなっている。
【0053】
正規品および非正規品の両方に、周波数Aのリップル電流を印加すると、
図4に示す例では、非正規品の歪みの方が正規品の歪みより大きな値になる。これら2つの歪みの大きさの間には有意な差異が存在する。
【0054】
また、正規品および非正規品の両方に、周波数Aのリップル電流を印加し、その後、周波数Aより高い周波数Bのリップル電流を印加した場合、リップル電流の周波数の上昇に伴う歪みの増加量(以下、「周波数に対する歪みの傾きθ」、または、単に「歪みの傾きθ」とも称する)は、非正規品の方が正規品より大きな値になる。このように、周波数に対する歪みの傾きの大きさの間には有意な差異が存在する。
【0055】
これらの現象は、セル(単電池)の電極体(正極、負極)の材料やケース構造の相違によって、リップル電流の周波数と歪みの関係が変化するためである。このため、正規品と非正規品の関係は、
図4の示した例に限定されず、セル(単電池)の構成によっては、正規品の歪みの方が非正規品の歪みより大きな値になる場合もあり得る。
【0056】
<診断基準>
図5は、本実施の形態における正規品の診断基準を説明するための図である。
図5(A)は、歪ゲージ424で測定した歪みεを用いて、組電池41が正規品であるか否かを診断する際の診断基準を示している。正規品に周波数Aのリップル電流を印加した場合の正規品の歪みεaを事前に測定し、その歪みεaを含む一定範囲を定める。以下、この範囲を「設定範囲S」とも称する。設定範囲Sの上限値をUpと記載し、下限値をLoと記載する(Up<εa<Lo)。
【0057】
そして、診断対象とする組電池(対象組電池)に、周波数Aのリップル電流を印加した場合の対象組電池の歪みεを測定し、その測定結果を設定範囲Sと比較する。歪みεが設定範囲S内である場合、対象組電池は正規品であると診断できる。一方、歪みεが設定範囲S外である場合、対象組電池は正規品でない(非正規品である)と診断できる。
【0058】
図5(B)は、周波数に対する歪みの傾きθを用いて、組電池41が正規品であるか否かを診断する際の診断基準を示している。周波数Aのリップル電流を印加し、周波数Aにおける歪みεaを測定する。その後、正規品に周波数Aより高い周波数Bのリップル電流を印加し、周波数Bにおける歪みεbを測定する。そして、歪みの傾きθg(=(εb-εa)/(B-A))を算出する。このようにして、事前に正規品の歪みの傾きθgを求め、その歪みの傾きθgを含む一定範囲を定める。以下、この範囲を「設定範囲T」とも称する。設定範囲Tの上限値をULと記載し、下限値をLLと記載する((LL<θg<UL)。
【0059】
そして、診断対象とする組電池(対象組電池)に、周波数Aのリップル電流を印加し、その後、周波数Bのリップル電流を印加して、対象組電池の歪みの傾きθを算出し、その算出結果を設定範囲Tと比較する。歪みの傾きθが設定範囲T内である場合、対象組電池は正規品であると診断できる。一方、歪みの傾きθが設定範囲T外である場合、対象組電池は正規品でない(非正規品である)と診断できる。
【0060】
このように、電池ECU44は、歪ゲージ424で測定した歪みεに基づいて、組電池41が正規品/非正規品のどちらであるかを診断できる。
【0061】
<診断処理>
図6は、本実施の形態における診断処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、組電池41(スタック410)が交換された場合に実行される。たとえば、組電池41が交換された際に、電池ECU44の初期化(イニシャライズ)処理とともに実行されてよい。各ステップは、電池ECU44によるソフトウェア処理により実現されるが、電池ECU44内に作製されたハードウェア(電気回路)により実現されてもよい。以下、ステップをSと略す。
【0062】
S1において、電池ECU44は、重量センサ(図示せず)を用いて組電池の重量Wを測定する。電池ECU44のメモリ442には、電池パック40の初期状態(工場出荷時の状態など)での組電池41(正規品)の重量W0が不揮発的に記憶されている。続くS2で、電池ECU44は、S1にて測定された重量Wと、初期状態での重量W0との重量差ΔW(=W-W0)を算出する。そして、電池ECU44は、重量差ΔWが予め定められた閾値TH未満であるどうかを判定する(S3)。重量差ΔWが閾値TH以上である場合、S3において否定判定され、電池ECU44は、対象組電池が非正規品であると診断する(S10)。一方、重量差ΔWが閾値TH未満である場合、S3において肯定判定され、電池ECU44は、処理をS4に進める。なお、S1~S3の処理の詳細については特許文献1を参照できる。
【0063】
S4において、電池ECU44は、組電池41(対象組電池)への充放電電流に周波数Aのリップル電流を印加するようにリップル電流回路43を制御する。そして、組電池41にリップル電流の印加を開始してから所定時間(たとえば、5分)経過後、電池ECU44は、歪ゲージ424の出力信号(出力電圧)から歪みεを測定する。たとえば、リップル電流を印加する前の歪ゲージ424の出力電圧とリップル電流の印加を開始してから所定時間経過後の歪ゲージ424の出力電圧との差から歪みεを算出し、取得する。
【0064】
続くS5において、電池ECU44は、S4にて取得した歪みεが設定範囲S(上限値Upと下限値Loとの間の範囲)に含まれるか否かを判定する。歪みεが設定範囲S内である場合は、肯定判定されS6へ進む。歪みεが設定範囲S外である場合は、否定判定されS10へ進んで、対象組電池が非正規品であると診断する。なお、S4およびS5の処理は、歪ゲージ424を有するすべてのセル(単電池)81に対して実行され、すべてのセル81について、S5で肯定判定されると、S6へ進む。いずれかのセル81について、S5で否定判定さえると、S10へ進み、対象組電池が非正規品であると診断する。
【0065】
S6では、電池ECU44は、組電池41(対象組電池)へ周波数Bのリップル電流を印加するようにリップル電流回路43を制御する。そして、組電池41に周波数Bのリップル電流の印加を開始してから所定時間(たとえば、5分)経過後、電池ECU44は、歪ゲージ424の出力信号(出力電圧)から歪みεを測定する。たとえば、周波数Aのリップル電流を印加する前の歪ゲージ424の出力電圧と、周波数Bのリップル電流の印加を開始してから所定時間経過後の歪ゲージ424の出力電圧との差から歪みεを算出し、取得する。
【0066】
続くS7では、周波数に対する歪みの傾きθを算出する。たとえば、S4で取得した歪みεがεAであり、S6で取得した歪みεがεBである場合、歪みの傾きθ=(εB-εA)/(B-A)として算出し、S8へ進む。
【0067】
S8において、電池ECU44は、S7で算出した歪みの傾きθが設定範囲T(上限値ULと下限値LLとの間の範囲)に含まれるか否かを判定する。歪みの傾きθが設定範囲T内である場合は、肯定判定されS9へ進む。歪みの傾きθが設定範囲T外である場合は、否定判定されS10へ進んで、対象組電池が非正規品であると診断される。なお、S6およびS7の処理は、歪ゲージ424を有するすべてのセル(単電池)81に対して実行される。すべてのセル81について、歪みの傾きθが設定範囲T内でありS5で肯定判定されると、S9へ進む。いずれかのセル81について、S8で否定判定されると、S10へ進み、対象組電池が非正規品であると診断される。
【0068】
S9では、対象組電池が正規品であると診断され、処理を終了する。S10において、対象組電池が非正規品であると診断されると、S11へ進み、電池ECU44は、車載ディスプレイなどのHMI(Human Machine Interface)に警告メッセージを表示して車両1のユーザ(ドライバ)に警告を行った後、処理を終了する。なお、MIL(Malfunction Indication Lamp)を点灯するとともに、組電池41が非正規品であることを示す診断コード(ダイアグノーシスコード)を統合ECU70のメモリに書き込んでもよい。
【0069】
本実施の形態では、組電池41に所定周波数(周波数A、周波数B)のリップル電流を印加した際に生じる組電池の歪みを歪ゲージ424を用いて取得し、その歪みに基づいて組電池41が正規品であるか否かを診断する。したがって、正規品と非正規品とで重量が同等な場合であっても、組電池41について、正規品であるか否かを適切に診断することができる。
【0070】
本実施の形態では、組電池に周波数Aのリップル電流を印加した際の歪みεが設定範囲S内にあり、かつ、周波数に対する歪みの傾きθが設定範囲T内にある場合、組電池が正規品であると診断するものとした。しかし、歪みε、あるいは、歪みの傾きθのいずれか一方を用いて、組電池が正規品であるか否かを診断するようにしてもよい。たとえば、
図6のS6~S8を省略し、S5で肯定判定されたとき、S9へ進むようにしてもよい。また、S5を省略してもよい。
【0071】
本実施の形態では、歪みの傾きθを、周波数Aおよび周波数Bのリップル電流を印加した際の歪みεから算出していたが、3以上の異なる周波数のリップル電流を組電池41に印加して、それらの歪みεを用いて歪みの傾きθを算出してもよい。
【0072】
本実施の形態では、セル(単電池)81のすべてに歪ゲージ424を設け、すべてのセル81の歪みを測定している。しかし、組電池41を構成するすべてのセル81に歪ゲージ424を設けなくともよい。この場合であっても、スタック410の単位で組電池が交換された際に、組電池が正規品であるか非正規品であるかを適切に診断できる。
【0073】
(変形例)
上記の実施の形態では、
図6の診断処理を、組電池41が交換された場合に実行している。変形例では、組電池41が外部充電される毎に、
図6の診断処理を実行する。電池ECU44は、たとえば、充電ケーブル91の充電コネクタがインレット10に接続され、充電リレー30が閉成されて、AC/DCコンバータ20が作動を開始して、外部充電が開始された際、
図6の診断処理を実行する。
【0074】
この変形例によれば、組電池41が外部充電される毎に、組電池41が正規品であるか非正規品であるかを診断するので、診断頻度が高くなり、より確実に診断を行うことが可能になる。
【0075】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0076】
1 車両、10 インレット、20 AC/DCコンバータ、30 充電リレー、40 電池パック、41 組電池、410 スタック、42 監視ユニット、421 電圧センサ、422 電流センサ、423 温度センサ、424 歪ゲージ、43 リプル電流回路、44 電池ECU、441 プロセッサ、442 メモリ、60 モータジェネレータ、70 統合ECU、81 セル、82 樹脂枠、83 エンドプレート、84 拘束バンド、812 電極体、813 ケース、814 蓋体、815 正極端子、 816 負極端子、91 充電ケーブル、92 外部電源。