(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】運転支援装置、運転支援方法及び、プログラム
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20240827BHJP
B60W 30/09 20120101ALI20240827BHJP
B60W 40/02 20060101ALI20240827BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20240827BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20240827BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
B62D6/00
B60W30/09
B60W40/02
B62D101:00
B62D113:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2022034399
(22)【出願日】2022-03-07
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福地 伸晃
(72)【発明者】
【氏名】安井 大貴
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-95021(JP,A)
【文献】特開2015-209129(JP,A)
【文献】特開2008-143263(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/09,40/02
B62D 6/00,15/02
G08G 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の前方及び前側方の領域に、前記自車両に衝突する可能性が高い障害物を検出した場合に、前記自車両が走行車線を逸脱せずに前記障害物との衝突を回避できる目標軌道に沿って走行するように、前記自車両の転舵輪の舵角を制御する衝突回避制御を実施する運転支援装置において、
前記自車両と前記障害物との衝突を回避するために、前記舵角を増加させる切り増し操舵である第1操舵制御を実行するとともに、該第1操舵制御を実行した後、前記自車両が前記走行車線から逸脱することを防止するために、前記舵角を減少させる切り戻し操舵を含む第2操舵制御を実行する操舵制御部と、
前記衝突回避制御の実行中に舵角速度に基づいて操舵抵抗力を演算するとともに、演算した該操舵抵抗力を前記転舵輪に付与するダンピング制御を実行するダンピング制御部と、を備え、
前記ダンピング制御部は、
前記第1操舵制御の実行中は前記ダンピング制御を実行せず、前記第2操舵制御の実行中に前記ダンピング制御を実行する
運転支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援装置において、
前記ダンピング制御部は、前記第2操舵制御の実行中に前記舵角速度が所定の閾値速度以上になると、前記ダンピング制御を開始する
運転支援装置。
【請求項3】
自車両の前方及び前側方の領域に、前記自車両に衝突する可能性が高い障害物を検出した場合に、前記自車両が走行車線を逸脱せずに前記障害物との衝突を回避できる目標軌道に沿って走行するように、前記自車両の転舵輪の舵角を制御する衝突回避制御を実施する運転支援方法において、
前記自車両と前記障害物との衝突を回避するために、前記舵角を増加させる切り増し操舵である第1操舵制御を実行するとともに、該第1操舵制御を実行した後、前記自車両が前記走行車線から逸脱することを防止するために、前記舵角を減少させる切り戻し操舵を含む第2操舵制御を実行し、
前記衝突回避制御の実行中に舵角速度に基づいて操舵抵抗力を演算するとともに、演算した該操舵抵抗力を前記転舵輪に付与するダンピング制御を実行し、
前記第1操舵制御の実行中は前記ダンピング制御を実行せず、前記第2操舵制御の実行中に前記ダンピング制御を実行する
運転支援方法。
【請求項4】
自車両の前方及び前側方の領域に、前記自車両に衝突する可能性が高い障害物を検出した場合に、前記自車両が走行車線を逸脱せずに前記障害物との衝突を回避できる目標軌道に沿って走行するように、前記自車両の転舵輪の舵角を制御する衝突回避制御を実施する運転支援装置のコンピュータに、
前記自車両と前記障害物との衝突を回避するために、前記舵角を増加させる切り増し操舵である第1操舵制御を実行するとともに、該第1操舵制御を実行した後、前記自車両が前記走行車線から逸脱することを防止するために、前記舵角を減少させる切り戻し操舵を含む第2操舵制御を実行し、
前記衝突回避制御の実行中に舵角速度に基づいて操舵抵抗力を演算するとともに、演算した該操舵抵抗力を前記転舵輪に付与するダンピング制御を実行し、
前記第1操舵制御の実行中は前記ダンピング制御を実行せず、前記第2操舵制御の実行中に前記ダンピング制御を実行する処理を実施させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、運転支援装置、運転支援方法及び、プログラムに関し、自車両と障害物との衝突を回避する衝突回避制御の技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、車両に搭載された電動パワーステアリング装置において、ドライバによるステアリングホイールの切り増し操作を検出すると、ステアリングシャフトに切り増し方向のアシストトルクを付与するとともに、ステアリングホイールの切り戻し操作を検出すると、ステアリングシャフトに切り戻し方向のアシストトルクを付与しつつ、戻し過ぎを防止するためのダンピングトルクを付与するようにした装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
車両に搭載される運転支援装置として、自車両の前方に衝突する可能性の高い障害物を検出した場合に、障害物との衝突を回避するように自車両の転舵輪の舵角を自動的に制御する衝突回避制御を行うものが知られている。衝突回避制御は、自車両が障害物に衝突することを回避するための第1操舵制御を行った後、自車両が走行車線から逸脱することを防止するための第2操舵制御を順に行う。第1操舵制御では、舵角を増加させる切り増し操舵を行う。第2操舵制御では、第1操舵制御によって切り増された舵角を中立位置に戻す切り戻し操舵と、舵角を中立位置から第1操舵制御の操舵方向とは逆方向に増加させる切り増し操舵と、舵角を再度中立位置に戻す切り戻し操舵とを順に行う。
【0005】
衝突回避制御にて、第1操舵制御の実行中に転舵輪に作用する切り戻し方向のセルフアライニングトルクが第2操舵制御に加算されると、第2操舵制御の切り増し操舵が舵角過剰となるオーバシュートを引き起こす。このようなオーバシュートを防止するには、衝突回避制御にダンピングトルクを付与することが考えられる。
【0006】
しかしながら、ダンピングトルクを第1操舵制御及び第2操舵制御の両方に付与するようにすると、第1操舵制御が舵角不足となり、障害物との衝突を効果的に回避できない課題が生じる。また、特許文献1記載の技術を衝突回避制御に適用した場合、特許文献1では、ダンピングトルクを切り戻し操舵のみに付与するため、第2操舵制御で行う切り増し操舵に対してはダンピングトルクを付与することができず、結果としてオーバシュートを抑制できない課題が生じる。
【0007】
本開示は、上記課題を解決するためになされたものである。即ち、本開示の目的の一つは、第1操舵制御にて舵角不足を効果的に抑制しつつ、第2操舵制御にて舵角過剰を効果的に抑制することにある。
【0008】
本開示の装置は、
自車両(100)の前方及び前側方の領域に、前記自車両(100)に衝突する可能性が高い障害物(OB)を検出した場合に、前記自車両(100)が走行車線(LA1)を逸脱せずに前記障害物(OB)との衝突を回避できる目標軌道(Rt)に沿って走行するように、前記自車両(100)の転舵輪の舵角(θs)を制御する衝突回避制御を実施する運転支援装置(1)において、
前記自車両(100)と前記障害物(OB)との衝突を回避するために、前記舵角(θs)を増加させる切り増し操舵である第1操舵制御を実行するとともに、該第1操舵制御を実行した後、前記自車両(100)が前記走行車線(LA1)から逸脱することを防止するために、前記舵角(θs)を減少させる切り戻し操舵を含む第2操舵制御を実行する操舵制御部(10,60)と、
前記衝突回避制御の実行中に舵角速度(dθs/dt)に基づいて操舵抵抗力を演算するとともに、演算した該操舵抵抗力を前記転舵輪に付与するダンピング制御を実行するダンピング制御部(10,60)と、を備え、
前記ダンピング制御部(10,60)は、
前記第1操舵制御の実行中は前記ダンピング制御を実行せず、前記第2操舵制御の実行中に前記ダンピング制御を実行する。
【0009】
本開示の方法は、
自車両(100)の前方及び前側方の領域に、前記自車両(100)に衝突する可能性が高い障害物(OB)を検出した場合に、前記自車両(100)が走行車線(LA1)を逸脱せずに前記障害物(OB)との衝突を回避できる目標軌道(Rt)に沿って走行するように、前記自車両(100)の転舵輪の舵角(θs)を制御する衝突回避制御を実施する運転支援方法において、
前記自車両(100)と前記障害物(OB)との衝突を回避するために、前記舵角(θs)を増加させる切り増し操舵である第1操舵制御を実行するとともに、該第1操舵制御を実行した後、前記自車両(100)が前記走行車線(LA1)から逸脱することを防止するために、前記舵角(θs)を減少させる切り戻し操舵を含む第2操舵制御を実行し、
前記衝突回避制御の実行中に舵角速度(dθs/dt)に基づいて操舵抵抗力を演算するとともに、演算した該操舵抵抗力を前記転舵輪に付与するダンピング制御を実行し、
前記第1操舵制御の実行中は前記ダンピング制御を実行せず、前記第2操舵制御の実行中に前記ダンピング制御を実行する。
【0010】
本開示のプログラムは、
自車両(100)の前方及び前側方の領域に、前記自車両(100)に衝突する可能性が高い障害物(OB)を検出した場合に、前記自車両(100)が走行車線(LA1)を逸脱せずに前記障害物(OB)との衝突を回避できる目標軌道(Rt)に沿って走行するように、前記自車両(100)の転舵輪の舵角(θs)を制御する衝突回避制御を実施する運転支援装置(1)のコンピュータに、
前記自車両(100)と前記障害物(OB)との衝突を回避するために、前記舵角(θs)を増加させる切り増し操舵である第1操舵制御を実行するとともに、該第1操舵制御を実行した後、前記自車両(100)が前記走行車線(LA1)から逸脱することを防止するために、前記舵角(θs)を減少させる切り戻し操舵を含む第2操舵制御を実行し、
前記衝突回避制御の実行中に舵角速度(dθs/dt)に基づいて操舵抵抗力を演算するとともに、演算した該操舵抵抗力を前記転舵輪に付与するダンピング制御を実行し、
前記第1操舵制御の実行中は前記ダンピング制御を実行せず、前記第2操舵制御の実行中に前記ダンピング制御を実行する処理を実施させる。
【0011】
以上の構成によれば、操舵抵抗力を付与するダンピング制御を第1操舵制御の実行中は行わず、第2操舵制御の実行中に行う。これにより、第1操舵制御にて、ダンピングトルクによって舵角不足が発生することを確実に抑制するこが可能になる。また、第2操舵制御では、ダンピングトルクがセルフアライニングトルクを打ち消す方向に付与されることで、舵角過剰による制御のオーバシュートを確実に抑制するこが可能になる。
【0012】
本開示の他の態様において、
前記ダンピング制御部(10,60)は、前記第2操舵制御の実行中に前記舵角速度(dθs/dt)が所定の閾値速度以上になると、前記ダンピング制御を開始する。
【0013】
本態様によれば、舵角速度(dθs/dt)が所定の閾値速度以上に達してからダンピング制御を開始することで、第2操舵制御が応答するよりも前にダンピングトルクが付与されることを確実に防止できるようなる。これにより、第2操舵制御の応答性の悪化を効果的に抑制することが可能になる。
【0014】
上記説明においては、発明の理解を助けるために、実施形態に対応する発明の構成要件に対して、実施形態で用いた符号を括弧書きで添えているが、発明の各構成要件は、前記符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本実施形態に係る運転支援装置の模式的な全体構成図である。
【
図2】本実施形態に係る衝突回避制御の作動の概要を説明する模式図である。
【
図3】本実施形態に係る運転支援ECUの制御ブロック図である。
【
図4】本実施形態に係る第1操舵制御、第2操舵制御及び、ダンピング制御の具体的な処理の流れを説明するタイミングチャートである。
【
図5】本実施形態に係る衝突回避制御の処理のルーチンを説明するフローチャートである。
【
図6】本実施形態に係るダンピング制御の処理のルーチンを説明するフローチャートである。
【
図7】変形例のダンピング制御の処理のルーチンを説明するフローチャートである。
【
図8】比較例の衝突回避制御を説明する模式図である。
【
図9】比較例の衝突回避制御を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本実施形態に係る運転支援装置、運転支援方法及び、プログラムを説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称及び機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰り返さない。
【0017】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係る運転支援装置1の模式的な全体構成図である。
図1に示すように、運転支援装置1は、車両100に搭載されている。運転支援装置1が搭載された車両100は、他車両と区別するために、以下では「自車両」とも称する。運転支援装置1は、運転支援ECU10、駆動源ECU40、ブレーキECU50及び、ステアリングECU60を備えている。各ECU10,40,50,60は、マイクロコンピュータを主要部として備えるとともに、図示しないCAN(Controller Area Network)を介して相互に送受信可能に接続されている。なお、ECUは、Electronic Control Unitの略である。マイクロコンピュータは、CPU、ROM、RAM及びインターフェース等を含み、CPUはROMに格納されたインストラクション(プログラム、ルーチン)を実行することにより各種機能を実現するようになっている。ECU10,40,50,60の幾つか又は全ては一つのECUにコントローラとして統合されてもよい。
【0018】
運転支援ECU10は、ドライバの運転支援を行う中枢となる制御装置であって、本実施形態では衝突回避制御を実施する。運転支援ECU10は、車両状態取得装置20及び、周囲認識装置30に接続されており、これらの装置20,30からの出力信号及び検出信号を所定の周期が経過する毎に受信するようになっている。
【0019】
車両状態取得装置20は、車両100の状態を取得するセンサ類である。具体的には、車両状態取得装置20は、車速センサ21、アクセルセンサ22、ブレーキセンサ23、IMU(Inertial Measurement Unit)24等を備えている。
【0020】
車速センサ21は、車両100の走行速度(車速V)を検出する。車速センサ21は、車輪速センサであってもよい。アクセルセンサ22は、ドライバによる不図示のアクセルペダルの操作量を検出する。ブレーキセンサ23は、ドライバによる不図示のブレーキペダルの操作量を検出する。IMU24は、車両100の前後方向、左右方向、上下方向の加速度及び、車両100のロール方向、ピッチ方向、ヨー方向の角速度(ヨーレートYr)をそれぞれ検出する。
【0021】
周囲認識装置30は、車両100の周囲の物標に関する物標情報を取得するセンサ類である。具体的には、周囲認識装置30は、カメラセンサ31、レーダセンサ32、超音波センサ33等を備えている。
【0022】
カメラセンサ31は、例えば、ステレオカメラや単眼カメラであり、CMOSやCCD等の撮像素子を有するデジタルカメラを用いることができる。カメラセンサ31は、車両100の前方及び前側方の領域を撮像し、撮像した画像データを処理することにより、路面標示を認識する。路面標示は区画線を含む。区画線は、車両の通行を方向毎に区分するために道路に標示された線である。区画線は、実線区画線と破線区画線とを含む。本実施形態では、車道に延在する隣接する2つの区画線の間の領域を車線と定義している。カメラセンサ31は、認識した区画線に基づいて車線の形状を演算する。また、カメラセンサは、撮像した画像データに基づいて、車両100の前方及び前側方の領域における立体物の有無、立体物の種類、及び、自車両100と立体物との相対関係を演算する。立体物の種類は、画像データを解析することにより周知のパターンマッチング手法を用いて判別することができる。
【0023】
レーダセンサ32は、例えば、車両100の前方及び前側方の領域に存在する物標を検知する。レーダセンサ32には、ミリ波レーダ及び、又はライダが含まれる。ミリ波レーダは、ミリ波帯の電波(ミリ波)を放射し、放射範囲内に存在する物標によって反射されたミリ波(反射波)を受信する。ミリ波レーダは、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベル及び、ミリ波を送信してから反射波を受信するまでの時間等に基づいて、車両100と物標との相対距離、車両100と物標との相対速度等を取得する。ライダは、ミリ波よりも短波長のパルス状のレーザ光を複数の方向に向けて順次走査し、物標により反射される反射光を受光することにより、車両100の前方に検知された物標の形状、車両100と物標との相対距離、車両100と物標との相対速度等を取得する。
【0024】
超音波センサ33は、超音波をパルス状に車両100の周囲の所定の範囲に送信し、立体物によって反射された反射波を受信する。超音波センサ33は、超音波の送信から受信までの時間に基づいて、送信した超音波が反射された立体物上の点である反射点及び、超音波センサ33との距離等を表す物標情報を取得する。
【0025】
駆動源ECU40は、駆動装置41に接続されている。駆動装置41は、車両100の駆動輪に伝達する駆動力を発生させる。駆動装置41としては、例えば、電動機、エンジンが挙げられる。車両100は、エンジン車、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハブリッド車(PHEV)、燃料電池車(FCEV)、電気自動車(BEV)の何れであってもよい。駆動源ECU40は、アクセルセンサ22によって取得されるアクセルペダル操作量等に基づいてドライバ要求駆動トルクを設定し、駆動装置41がドライバ要求駆動トルクを出力するように駆動装置41の作動を制御する。
【0026】
ブレーキECU50は、ブレーキアクチュエータ51に接続されている。ブレーキアクチュエータ51は、ブレーキペダルの踏力によって作動油を加圧するマスタシリンダ(図示略)と、各車輪に設けられたブレーキ機構52との間の油圧回路に設けられる。ブレーキ機構52は、車輪に固定されるブレーキディスク52aと、車体に固定されるブレーキキャリパ52bとを備えている。なお、ブレーキ機構52は、ディスク式ブレーキに限定されず、ドラム式ブレーキなど、車両100の車輪に制動力を付与する他のブレーキ機構であってもよい。
【0027】
ブレーキアクチュエータ51は、ブレーキECU50からの指示に応じてブレーキキャリパ52bに内蔵されたホイールシリンダに供給する油圧を調整し、その油圧によりホイールシリンダを作動させる。これにより、ブレーキアクチュエータ51は、ブレーキパッドをブレーキディスク52aに押し付けて摩擦制動力を発生させる。従って、ブレーキECU50は、ブレーキアクチュエータ51を制御することによって車両100の制動力を制御することができる。
【0028】
ステアリングECU60は、モータドライバ61に接続されている。モータドライバ61は、転舵用モータ62に接続されている。転舵用モータ62は、ステアリングホイールSW、ステアリングシャフトSF等を含むステアリング装置63に組み込まれている。ステアリング装置63は、ラックアンドピニオン式、或は、ステアリングバイワイヤ式の何れであってもよい。転舵用モータ62は、モータドライバ61から供給される電力によって操舵トルクを発生する。この操舵トルクにより、車両100の左右の操舵輪を転舵することができる。すなわち、転舵用モータ62は、車両100の舵角(操舵輪の転舵角)を変更することができる。
【0029】
ステアリングECU60は、舵角センサ64及び、操舵トルクセンサ65に接続されている。舵角センサ64は、ステアリングホイールSW又はテアリングシャフトSFの回転角、すなわち実舵角θsを検出する。操舵トルクセンサ65は、ステアリングホイールSW又はステアリングシャフトSFの回転トルク、すなわち実操舵トルクTqを検出する。実舵角θs及び実操舵トルクTqは、例えば、車両100の左旋回方向への操舵が行われる場合に正の値になり、車両100の右旋回方向への操舵が行われる場合に負の値になるように定義されている。
【0030】
ステアリングECU60は、舵角センサ64によって検出される実舵角θs、操舵トルクセンサ65によって検出される実操舵トルクTq及び、車速センサ21によって検出される車速Vに基づいて、転舵用モータ62の駆動を制御する。ステアリングECU60は、この転舵用モータ62の駆動により、ステアリング装置63にドライバの操舵操作を補助するための操舵アシストトルクを付与することができる。
【0031】
また、ステアリングECU60は、衝突回避制御の実行中において、運転支援ECU10から操舵指令を受信した場合、その操舵指令によって特定される目標操舵トルクに基づいてモータドライバ61を介して転舵用モータ62を駆動する。これにより、ステアリングECU60は、目標操舵トルクに一致するように操舵トルクを発生させる。この操舵トルクは、上述の操舵アシストトルクとは異なり、運転支援ECU10からの操舵指令に基づいてステアリング装置63に付与されるトルクである。したがって、運転支援ECU10は、衝突回避制御の実行中、車両100の転舵輪の舵角を、ドライバによる操舵操作を必要とせずに、ステアリングECU60を介して自動的に変更することができる。
【0032】
[衝突回避制御]
次に、
図2及び、
図3に基づいて、衝突回避制御の作動の概要について説明する。
図2に示すように、自車両100が例えば直線路である走行車線LA1を走行している際に、自車両100と衝突する可能性が高い立体物(物標)である障害物OBが存在する状況が生じたと仮定する。この場合、運転支援ECU10は、自車両100が障害物OBに衝突することを回避する衝突回避制御を実行する。衝突回避制御は、自車両100が走行車線LA1を逸脱せずに障害物OBとの衝突を回避するように、自車両100の転舵輪を自動操舵する制御をいう。ここで自動操舵は、自車両100が障害物OBとの衝突を回避するようにドライバの操舵操作を支援する操舵支援を含む概念である。
【0033】
具体的には、運転支援ECU10は、衝突回避制御として、障害物OBとの衝突を回避するための「第1操舵制御」を実行した後、自車両100を走行車線LA1内に留めるための「第2操舵制御」を実行する。第1操舵制御では、舵角を例えば中立位置(舵角が略0の状態)から切り増す「第1切り増し操舵」(区間S1参照)を行う。第2操舵制御では、第1操舵制御によって切り増された舵角を中立位置に戻す「第1切り戻し操舵(区間S2参照)」と、舵角を中立位置から第1操舵制御の操舵方向とは逆方向に切り増す「第2切り増し操舵」(区間S3参照)と、操舵を再度中立位置に戻す「第2切り戻し操舵」(区間S4参照)とを順に行う。
【0034】
図3は、衝突回避制御を実施する運転支援ECU10の制御ブロック図である。運転支援ECU10は、立体物情報取得部11A、障害物判定部11B、衝突判定部11C、目標軌道設定部11D、目標舵角演算部12、FF制御量演算部13、FB制御量演算部14、加算部15、減算部17及び、ダンピング制御量演算部19を一部の機能要素として有する。これら機能要素は、一体のハードウェアである運転支援ECU10に含まれるものとして説明するが、これらの何れか一部を運転支援ECU10とは別体の他のECUに設けることもできる。また、運転支援ECU10の各機能要素の全部又は一部は、自車両100と通信可能な施設(例えば、管理センタ等)の情報処理装置に設けることもできる。
【0035】
立体物情報取得部11Aは、周囲認識装置30から送信される左白線WL及び右白線WR(
図2参照)の位置情報に基づき、左白線WL及び右白線WRで区画される走行車線LA1を認識する。また、立体物情報取得部11Aは、周囲認識装置30から送信される物標情報に基づき、自車両100の前方及び前側方の領域に立体物が存在しているか否かを判定する。立体物が存在していると判定した場合、立体物情報取得部11Aは、存在していると判定された全ての立体物に関する情報を生成する。具体的には、立体物情報取得部11Aは、自車両100の前端中央位置を原点とし、その原点から左右方向及び前方に拡がる座標系を用いて、各立体物の位置座標が含まれた立体物の座標情報を生成する。
【0036】
障害物判定部11Bは、立体物情報取得部11Aによって取得された全ての立体物のそれぞれについて、立体物が自車両100と衝突する可能性のある障害物OBであるか否かを判定する。具体的には、障害物判定部11Bは、車速センサ21によって検出される車速V、IMU24によって検出されるヨーレートYr及び、舵角センサ64によって検出される実舵角θsに基づいて自車両100の旋回半径を演算し、この旋回半径に基づいて自車両100の軌道を演算する。
【0037】
また、障害物判定部11Bは、各立体物の座標情報に基づいて各立体物の軌道を演算する。障害物判定部11Bは、自車両100の軌道と各立体物の軌道とに基づいて、自車両100が現在の走行状態を維持して走行するとともに各立体物が現在の移動状態を維持して移動した場合に、自車両100が何れかの立体物に衝突する可能性があるか否かを判定する。なお、立体物が静止している場合、運転支援ECU10は、自車両100の軌道と立体物の現在の位置とに基づいてこの判定処理を行う。障害物判定部10Bは、判定結果に基づいて、自車両100が立体物に衝突する可能性があると判定した場合に、その立体物を障害物OBであると判定する。
【0038】
衝突判定部11Cは、障害物判定部11Bにより立体物が障害物OBであると判定されると、車両100から障害物OBまでの距離L及び、自車両100の障害物OBに対する相対速度Vrに基づいて、自車両100が障害物OBに衝突するまでの予測時間(衝突予測時間(Time To Collision:以下、「TTC」と称する)を演算する。TTCは自車両100が障害物OBに衝突する可能性を示す指標値である。TTCは、自車両100から障害物OBまでの距離Lを相対速度Vrで除することにより求めることができる(TTC=L/vr)。衝突判定部11Cは、TTCが所定の衝突判定閾値TTCth以下である場合、自車両100が障害物OBに衝突する可能性を高いと判定する。
【0039】
目標軌道設定部11Dは、衝突判定部11Cにより自車両100が障害物OBに衝突する可能性が高いと判定されると、周知の手法により、車両100が障害物OBと干渉することなく衝突を回避し得る軌道を演算するとともに、演算した当該軌道を目標軌道Rt(
図2参照)として設定する(例えば、特開2017-43262号公報及び、特開2018-106230号公報等を参照)。この場合において、目標軌道Rtは、障害物OBの物標情報及び左右の各白線WL,WRの位置に基づいて、障害物OBの左側又は右側の何れかに設定される回避スペースSP1を通り、且つ、自車両100を走行車線LA1から逸脱させない範囲内にて生成される。
【0040】
具体的には、
図2に示されるように、目標軌道Rtは、車両100と障害物OBとの衝突を回避するための第1操舵制御を実行する第1操舵区間S1と、自車両100を走行車線LA1内に留めるための第2操舵制御を実行する第2~第4操舵区間S2~S4とで設定される。第1操舵区間S1では、第1操舵制御の第1切り増し操舵が行われる。第2操舵区間S2では、第2操舵制御の第1切り戻し操舵が行われる。第3操舵区間S3では、第2操舵制御の第2切り増し操舵が行われる。第4操舵区間S4では、第2操舵制御の第2切り戻し操舵が行われる。
【0041】
目標舵角演算部12は、目標軌道設定部11Dにより目標軌道Rtが設定されると、自車両100の現在の車速Vと、自車両100を目標軌道Rtに沿って走行させるのに必要な目標ヨーレートとに基づき、目標ヨーレートが得られる目標舵角θtを演算する。目標舵角演算部12は、演算した目標舵角θtをFF制御量演算部13及び、減算部17に送信する。
【0042】
FF制御量演算部13は、目標舵角θtに基づいてフィードフォワード制御量であるFF目標操舵トルクTFFを演算する。FF制御量演算部13は、例えば、予め記憶したFFトルクマップ(不図示)を目標舵角θtに基づいて参照することにより、FF目標操舵トルクTFFを演算する。FFトルクマップは、目標舵角θtが大きくなるに従いFF目標操舵トルクTFFが増加するように設定されている。なお、FF目標操舵トルクTFFの演算は、マップを用いる手法に限定されず、計算式に基づいて演算してもよい。FF制御量演算部13は、演算したFF目標操舵トルクTFFを加算部15に送信する。
【0043】
減算部17は、目標舵角演算部12から送信される目標舵角θtと、舵角センサ64によって検出される実舵角θsとに基づき、これら目標舵角θtと実舵角θsとの偏差Δθを演算する。減算部17は、演算した偏差ΔθをFB制御量演算部14に送信する。
【0044】
FB制御量演算部14は、偏差Δθに基づいて、フィードバック制御量であるFB目標操舵トルクTFBを演算する。FB制御量演算部14は、例えば、偏差Δθを比例項として含んだPID制御式、PI制御式、P制御式等によりFB目標操舵トルクTFBを演算する。FB制御量演算部14は、演算したFB目標操舵トルクTFBを加算部15に送信する。
【0045】
加算部15は、FF制御量演算部13から送信されるFF目標操舵トルクTFFに、FB制御量演算部14から送信されるFB目標操舵トルクTFBを加算することにより、目標操舵トルクTt(=TFF+TFB)を演算する。また、加算部15には、後述するダンピング制御量演算部19からダンピングトルクTDPが送信される。加算部15は、ダンピングトルクTDPを受信すると、目標操舵トルクTtにダンピングトルクTDPを加算することにより、補正後目標操舵トルクTt*(=TFF+TFB+TDP)を演算する。加算部15は、目標操舵トルクTt又は、補正後目標操舵トルクTt*を表す情報を含んだ操舵指令をステアリングECU60に送信する。
【0046】
ステアリングECU60は、運転支援ECU10から操舵指令を受信すると、操舵指令に含まれる情報である目標操舵トルクTt又は、補正後目標操舵トルクTt*を目標電流に変換し、転舵用モータ62に目標電流が流れるようにモータドライバ61の作動を制御する。モータドライバ61には、転舵用モータ62に流れる電流を検出する電流センサ(図示略)が設けられている。ステアリングECU60は、電流センサによって検出される実電流が目標電流と等しくなるようにモータドライバ61のスイッチング素子(図示略)のデューティ比を制御する。これにより、転舵用モータ62から目標操舵トルクTt又は、補正後目標操舵トルクTt*が出力され、自車両100の操舵輪が転舵される。その結果、自車両100を目標軌道Rtに沿って走行させ、自車両100が障害物OBに衝突することを回避しつつ、自車両100が走行車線LA1から逸脱することを防止する自動操舵が実現される。
【0047】
ダンピング制御量演算部19は、目標操舵トルクTtとは反対方向の操舵抵抗力であるダンピングトルクTDPを演算する。ここで、反対方向とは、目標操舵トルクTtが正の値(左旋回方向)であれば、ダンピングトルクTDPが負の値(右旋回方向)になり、目標操舵トルクTtが負の値(右旋回方向)であれば、ダンピングトルクTDPが正の値(左旋回方向)になることを意味する。ダンピング制御量演算部19は、例えば、予め記憶したダンピングトルクマップ(不図示)を舵角速度dθs/dtに基づいて参照することにより、ダンピングトルクTDPを演算する。ダンピングトルクマップは、好ましくは、舵角速度dθs/dtが大きくなるに従いダンピングトルクTDPが増加するように設定される。舵角速度dθs/dtは、操舵角センサ64によって検出される実舵角θsを時間微分することにより求めればよい。なお、ダンピングトルクTDPの演算は、マップを用いる手法に限定されず、計算式に基づいて演算してもよい。
【0048】
ダンピング制御量演算部19は、演算したダンピングトルクTDPを加算部15に送信する。加算部15は、ダンピングトルクTDPを受信すると、目標操舵トルクTtにダンピングトルクTDPを加算した補正後目標操舵トルクTt*を演算するとともに、演算した補正後目標操舵トルクTt*をステアリングECU60に送信する。ステアリングECU60は、転舵用モータ62から補正後目標操舵トルクTt*が出力されるように、モータドライバ61の作動を制御する。これにより、衝突回避制御中にダンピングトルクを付与するダンピング制御が実現される。ダンピングトルクを付与する際は、急激なトルク変動を抑えるために、単位時間当たりのダンピングトルクの変化量に上限を設けてもよい。
【0049】
本実施形態において、ダンピング制御量演算部19は、第1操舵制御の実行中はダンピングトルクTDPを演算せず、第2操舵制御の実行中にのみ、ダンピングトルクTDPを演算して加算部15に送信するように作動する。すなわち、第2操舵制御の実行中にのみ、ダンピングトルクTDPを付与するように構成されている。
【0050】
ここで、ダンピングトルクを第2操舵制御のみに付与する理由を説明する。
図8は、衝突回避制御において、ダンピングトルクを第1操舵制御及び、第2操舵制御の何れにも付与しない場合を説明する図である。
図9は、ダンピングトルクを第1操舵制御及び、第2操舵制御の両方に付与する場合を説明する図である。
【0051】
図8に示すように、ダンピングトルクを第1操舵制御及び、第2操舵制御の何れにも付与しない場合、第1操舵制御の実行中に車両100の転舵輪に発生した切り戻し方向のセルフアライニングトルクが、第2操舵制御の第1切り戻し操舵(区間S2)及び、第2切り増し操舵(区間S3)に加算されることになる。このため、第2操舵制御の切り増し操舵(区間S3)が舵角過剰となるオーバシュート(図中A参照)を引き起こし、車両100の軌道を障害物OBに向かわせてしまう課題が生じる。また、第2操舵制御の第2切り戻し操舵(区間S4)においても、第2切り増し操舵(区間S3)の実行中に転舵輪に発生したセルフアライニングトルクが加算されることになり、オーバシュート(図中B参照)を引き起こす課題がある。
【0052】
一方、
図9に示すように、ダンピングトルクを第1操舵制御及び、第2操舵制御の両方に付与する場合、第2操舵制御のオーバシュートを抑えることはできる。しかしながら、ダンピングトルクが第1操舵制御に対しても付与されると、第1切り増し操舵(区間S1)の舵角が不足するようになる(図中C参照)。その結果、自車両100と障害物OBとの衝突を確実に回避できなくなるといった課題が生じる。
【0053】
すなわち、ダンピングトルクを第1操舵制御には付与せず、第2操舵制御のみに付与するようにすれば、障害物OBとの衝突を回避するために行う第1操舵制御の舵角不足が抑制され、且つ、自車両100を走行車線LA1内に留めるために行う第2操舵制御の舵角過剰(オーバシュート)を防止することが可能になる。本開示の運転支援ECU10は、このような理由から、ダンピングトルクを第2操舵制御のみに付与するようにした。
【0054】
以下、
図4に示すタイミングチャートに基づき、第1操舵制御、第2操舵制御及び、ダンピング制御の具体的な処理の流れを説明する。
【0055】
図4の(A)舵角において、実線は本開示の目標舵角、一点鎖線は本開示の実舵角、破線は、ダンピングトルクを付与しない比較例の実舵角をそれぞれ示している。また、
図4の(B)舵角速度において、実線は本開示の目標舵角速度、一点鎖線は本開示の実舵角速度、破線は、ダンピングトルクを付与しない比較例の実舵角速度をそれぞれ示している。また、
図4の操舵トルク(C)において、実線は本開示のFF目標操舵トルク、一点鎖線は本開示のダンピングトルクを示している。なお、
図4に示す例では、自車両100は左旋回操舵により障害物OBとの衝突を回避するが、右旋回操舵によって回避する場合も、舵角、舵角速度、操舵トルクの正負が逆になるだけのため、以下では説明は省略する。
【0056】
図4に示す時刻t1にて、TTCが所定の衝突判定閾値TTCth以下に低下したとする。TTCが衝突判定閾値TTCth以下になると、運転支援ECU10は、時刻t1から、自車両100と障害物OBとの衝突を回避するための第1操舵制御を開始する。具体的には、運転支援ECU10は、舵角を中立位置(舵角が略0°)から切り増す第1切り増し操舵(区間S1参照)を開始する。ダンピング制御は、時刻t2にて、第1操舵制御が終了するまでの間、OFF(無効)に維持される。すなわち、第1操舵制御の実行中はダンピング制御を実行しない。これにより、第1操舵制御の舵角不足を抑止することができる。
【0057】
時刻t2にて、所定の終了条件の成立により第1操舵制御を終了すると、運転支援ECU10は、自車両100を走行車線LA1内に留めるための第2操舵制御を開始する。第1操舵制御は、例えば、FF目標操舵トルクTFFから得られる舵角のプロファイルに基づき、舵角の値が最大値から徐々に減少し始める点を制御の終了ポイントとすればよい。運転支援ECU10は、第1操舵制御を終了すると、時刻t2から舵角を中立位置に戻す第1切り戻し操舵(区間S2参照)を実行する。また、運転支援ECU10は、時刻t2にて、第2操舵制御を開始すると同時に、ダンピング制御をOFF(無効)からON(有効)に切り替える。
【0058】
時刻t3にて、第2操舵制御の第1切り戻し操舵を終了すると、運転支援ECU10は、時刻t3~時刻t4の期間に亘って、舵角を中立位置から第1操舵制御の操舵方向とは逆方向に切り増す第2切り増し操舵(区間S3参照)を実行する。時刻t2から開始した第2切り戻し操舵によって実舵角速度が増加すると、実舵角速度の増加に応じたダンピングトルクが第1切り戻し操舵(区間S2参照)及び、第2切り増し操舵(区間S3参照)に付与される。すなわち、ダンピングトルクが、第1操舵制御の実行中に転舵輪に発生したセルフアライニングトルクを打ち消す方向に加わるようになる。これにより、比較例で発生する第2切り増し操舵の舵角過剰(図中A参照)を防止でき、オーバシュートを効果的に抑制することが可能になる。
【0059】
時刻t4にて、第2操舵制御の第2切り増し操舵を終了すると、運転支援ECU10は、時刻t4~時刻t5の期間に亘って、舵角を再度中立位置に戻す第2切り戻し操舵(区間S4参照)を実行する。時刻t4から開始した第2切り戻し操舵によって実舵角速度が増加すると、実舵角速度の増加に応じたダンピングトルクが第2切り戻し操舵に付与される。すなわち、ダンピングトルクが、第1切り戻し操舵及び、第2切り増し操舵の実行中(区間S2~3参照)に転舵輪に発生したセルフアライニングトルクを打ち消す方向に加わるようになる。これにより、比較例で発生する第2切り戻し操舵の舵角過剰(図中B参照)を防止でき、オーバシュートを効果的に抑制することが可能になる。
【0060】
時刻t5にて、所定の終了条件の成立により第2操舵制御を終了すると、運転支援ECU10は、ダンピング制御をON(有効)からOFF(無効)に切り替えることにより、衝突回避制御を終了する。第2操舵制御は、例えば、車両100のヨー角が走行車線LA1(白線WL,WR)と略平行になった場合、或いは、実舵角θsが所望の角度範囲に収まった場合等に終了すればよい。
【0061】
次に、
図5に示すフローチャートに基づいて、運転支援ECU10による衝突回避制御の処理のルーチンを説明する。運転支援ECU10は、車両100の走行中、
図5のステップS100以降の処理を所定周期で繰り返し実行する。
【0062】
ステップS100では、運転支援ECU10は、周囲認識装置30から送信される左白線WL及び右白線WRの位置情報に基づき、左白線WL及び右白線WRで区画される走行車線LA1を認識する。
【0063】
次いで、ステップS105では、運転支援ECU10は、周囲認識装置30から送信される物標情報に基づき、自車両100の前方及び前側方の領域に立体物が存在するか否かを判定する。立体物が存在する場合(Yes)、運転支援ECU10は、ステップS110の処理に進む。一方、立体物が存在しない場合(No)、運転支援ECU10は、本ルーチンを一旦終了(リターン)する。
【0064】
ステップS110では、運転支援ECU10は、立体物の位置情報を取得する。次いで、ステップS115では、運転支援ECU10は、立体物が自車両100と衝突する可能性のある障害物OBであるか否かを判定する。運転支援ECU10は、自車両100が立体物に衝突する可能性がある場合、その立体物を障害物OBであると判定する。立体物を障害物OBであると判定した場合(Yes)、運転支援ECU10は、ステップS120の処理に進む。一方、立体物を障害物OBでないと判定した場合(No)、運転支援ECU10は、本ルーチンを一旦終了(リターン)する。
【0065】
ステップS120では、運転支援ECU10は、TTCを演算する。次いで、ステップS125では、運転支援ECU10は、TTCが所定の衝突判定閾値TTCth以下であるか否かを判定する。TTCが衝突判定閾値TTCth以下の場合(Yes)、運転支援ECU10は、ステップS130の処理に進む。一方、TTCが衝突判定閾値TTCth以下でない場合(No)、運転支援ECU10は、本ルーチンを一旦終了(リターン)する。
【0066】
ステップS130では、運転支援ECU10は、自車両100が障害物OBに衝突する可能性が高いと判定する。次いで、ステップS140では、運転支援ECU10は、自車両100が走行車線LA1を逸脱せずに障害物OBとの衝突を回避することができる目標軌道Rtを設定し、ステップS150の処理に進む。なお、詳細な説明は省略するが、前述の回避スペースSP1(
図2参照)がなく、目標軌道Rtを設定できない場合、運転支援ECU10は、制動制御により衝突回避制御を実行すればよい。
【0067】
ステップS150では、運転支援ECU10は、自車両100が目標軌道Rtに沿って走行しながら障害物OBを回避するように、自車両100の舵角を増加させる第1切り増し操舵を行なう第1操舵制御を開始する。ステップS155にて、第1操舵制御の終了条件が成立すると、運転支援ECU10は、ステップS160の処理に進む。
【0068】
ステップS160では、運転支援ECU10は、自車両100が目標軌道Rtに沿って走行しながら走行車線LA1内に留まるよう、自車両100の舵角を増減させる第2操舵制御を開始する。具体的には、第1操舵制御によって切り増された舵角を中立位置に戻す第1切り戻し操舵と、舵角を中立位置から第1操舵制御の操舵方向とは逆方向に切り増す第2切り増し操舵と、操舵を再度中立位置に戻す第2切り戻し操舵とを順に行う。ステップS165にて、第2操舵制御の終了条件が成立すると、運転支援ECU10は、運転支援ECU10は、本ルーチンを一旦終了(リターン)する。
【0069】
次に、
図6に示すフローチャートに基づいて、運転支援ECU10によるダンピング制御の処理のルーチンを説明する。車両100の走行中、運転支援ECU10は、
図6に示すダンピング制御を、
図5に示すルーチンと並行して繰り返し実行する。また、
図6に示すルーチンの開始時において、ダンピング制御を実行するフラグFはOFF(F=0)に設定されているものとする。
【0070】
ステップS200では、運転支援ECU10は、第2操舵制御が開始されたか否かを判定する。第2操舵制御が開始された場合(Yes)、運転支援ECU10は、ステップS210の処理に進む。一方、第2操舵制御が開始されていない場合(No)、運転支援ECU10は、本ルーチンを一旦終了(リターン)する。
【0071】
ステップS210では、運転支援ECU10は、ダンピング制御を有効にするフラグFをON(F=1)に設定する。
【0072】
ステップS230では、運転支援ECU10は、舵角センサ64によって検出される実舵角θsを時間微分することにより求められる舵角速度dθs/dtに基づいてダンピングトルクTDPを演算する。次いで、ステップS240では、運転支援ECU10は目標操舵トルクTtにダンピングトルクTDPを加算した補正後目標操舵トルクTt*をステアリングECU60に送信する。すなわち、転舵用モータ62が補正後目標操舵トルクTt*を出力するように制御される。
【0073】
ステップS250では、運転支援ECU10は、第2操舵制御が終了したか否かを判定する。第2操舵制御が終了した場合(Yes)、運転支援ECU10は、ステップS260の処理に進む。一方、第2操舵制御が終了していない場合(No)、運転支援ECU10は、ステップS220の判定処理に戻る。
【0074】
ステップS260では、運転支援ECU10は、ダンピング制御を有効にするフラグFをOFF(F=0)に設定し、ダンピング制御を終了(リターン)する。以降、車両100が停止するまで、運転支援ECU10は、上述のステップS200~S260の各処理を
図5に示すルーチンと並行して繰り返し実行する。
【0075】
以上詳述したように、本実施形態の運転支援ECU10は、自車両100の前方及び前側方の領域に、自車両100に衝突する可能性が高い障害物OBを検出した場合に、自車両100が走行車線LA1を逸脱せずに障害物OBとの衝突を回避できる目標軌道Rtを設定するとともに、自車両100が目標軌道Rtに沿って走行するように、自車両100の転舵輪の舵角を制御する衝突回避制御を実施する。運転支援ECU10は、自動操舵として、自車両100と障害物OBとの衝突を回避するために舵角を切り増す第1操舵制御と、自車両100が走行車線LAから逸脱することを防止するために、舵角を減少させる切り戻し操舵を含む第2操舵制御とを順に実行する。また、運転支援ECU10は、自動操舵の実行中、舵角速度dθs/dtに基づいてダンピングトルクTDPを演算するとともに、演算したダンピングトルクTDPを目標操舵トルクTtに付与するダンピング制御を実行する。この際、運転支援ECU10は、第1操舵制御の実行中はダンピング制御を実行せず、第2操舵制御の実行中にのみダンピング制御を実行するように構成されている。
【0076】
これにより、第1操舵制御にて、ダンピングトルクの付与により舵角不足が発生することを確実に抑制できるようになる。すなわち、自車両100が第1操舵制御の舵角不足によって障害物OBに衝突することを効果的に防止するこが可能になる。また、第2操舵制御では、ダンピングトルクがセルフアライニングトルクを打ち消す方向に加わることで、舵角過剰による操舵のオーバシュートを確実に抑制できるようになる。すなわち、第2操舵制御のオーバシュートにより、自車両100の軌道が障害物OBに向かうことを効果的に防止するこが可能になる。以上要するに、本実施形態によれば、障害物OBとの衝突を回避する第1操舵制御の舵角不足の抑制及び、自車両100を走行車線LA1内に留める第2操舵制御の舵角過剰の抑制の両立を図ることが可能になる。
【0077】
[その他]
以上、本実施形態に係る運転支援装置、運転支援方法及び、プログラムについて説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変形が可能である。
【0078】
[変形例]
例えば、ダンピング制御は、第2操舵制御の開始後、舵角速度dθs/dtが所定の閾値速度に達した場合に開始するように構成してもよい。具体的な処理のルーチンを、
図7のフローチャートに示す。
図7に示すルーチンの各処理は、ステップS225以外は、
図6の各処理と基本的には同様の処理となるため、それらの説明は省略する。
【0079】
図7に示すように、運転支援ECU10は、ステップS210にて、ダンピング制御を有効にするフラグFをON(F=1)に設定した後、ステップS220にて、舵角速度dθs/dtが所定の閾値速度に達したか否かを判定する。肯定(Yes)の場合、運転支援ECU10は、ステップS230の処理に進む。否定(No)の場合、運転支援ECU10は、ステップS220の判定処理に戻る。このように、舵角速度dθs/dtが所定の閾値速度以上に達してからダンピング制御を開始することで、第2操舵制御が応答するよりも前にダンピングトルクが付与されることを確実に防止できるようなり、第2操舵制御の応答性の悪化を効果的に抑制することが可能になる。
【符号の説明】
【0080】
1…運転支援装置,10…運転支援ECU,11A…立体物情報取得部,11B…障害物判定部,11C…衝突判定部,11D…目標軌道設定部,12…目標舵角演算部,13…FF制御量演算部,14…FB制御量演算部,15…加算部,17…減算部,19…ダンピング制御量演算部,20…車両状態取得装置,30…周囲認識装置,60…ステアリングECU,61…モータドライバ,62…転舵用モータ,63…ステアリング装置,64…舵角センサ,65…操舵トルクセンサ,100…自車両,OB…障害物,LA1…走行車線