(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】物流エリアの管理方法及び管理システム、並びにプログラム
(51)【国際特許分類】
B65G 1/137 20060101AFI20240827BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B65G1/137 Z
G05B19/418 Z
(21)【出願番号】P 2022039092
(22)【出願日】2022-03-14
【審査請求日】2023-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大槻 将久
(72)【発明者】
【氏名】加賀 智之
(72)【発明者】
【氏名】松林 宏弥
(72)【発明者】
【氏名】市岡 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】伴 拓実
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英男
【審査官】福島 和幸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/091421(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0073588(KR,A)
【文献】特開2007-188133(JP,A)
【文献】特開昭62-282850(JP,A)
【文献】特開2004-196553(JP,A)
【文献】特開2021-86393(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 1/137
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の作業主体により構成される作業ラインを有する物流エリアの管理方法であって、
前記複数の作業主体が作業する作業空間をシミュレーションすることと、
前記作業空間における前記複数の作業主体のそれぞれの実際の動きを監視することと、
前記複数の作業主体のそれぞれについて、シミュレーションされた動きと監視された実際の動きとのずれを検知することと、
前記ずれが検知されたことを受けて、前記ずれが生じている作業主体の動きに影響する因子に関する情報を取得することと、を含む
ことを特徴とする物流エリアの管理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の物流エリアの管理方法において、
前記因子に関する情報を取得することは、前記ずれが生じている作業主体の状態に関する情報を前記因子に関する情報として取得することを含む
ことを特徴とする物流エリアの管理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の物流エリアの管理方法において、
前記複数の作業主体は物流ロボットを含み、
前記因子に関する情報を取得することは、前記物流ロボットの内部センサで取得された情報を前記因子に関する情報として取得することを含む
ことを特徴とする物流エリアの管理方法。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の物流エリアの管理方法において、
前記因子に関する情報を取得することは、前記ずれが生じている作業主体の作業環境に関する情報を前記因子に関する情報として取得することを含む
ことを特徴とする物流エリアの管理方法。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載の物流エリアの管理方法において、
前記因子に関する情報を取得することは、前記ずれが生じている作業主体と前記物流エリアにおいて提供されているサービスとのインターロック状態を前記因子に関する情報として取得することを含む
ことを特徴とする物流エリアの管理方法。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の物流エリアの管理方法において、
前記複数の作業主体のそれぞれの実際の動きを監視することは、前記複数の作業主体のそれぞれの作業速度を計測することを含み、
前記ずれを検知することは、シミュレーションされた作業速度と計測された実際の作業速度との間に生じた閾値以上の差を検知することを含む
ことを特徴とする物流エリアの管理方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の物流エリアの管理方法において、
前記複数の作業主体は物流ロボットを含み、
前記複数の作業主体のそれぞれの実際の動きを監視することは、前記物流ロボットのブレーキ動作を検知することを含み、
前記ずれを検知することは、シミュレーションされたブレーキ動作と検知された実際のブレーキ動作との強さ或いは回数の閾値以上の差を検知することを含む
ことを特徴とする物流エリアの管理方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れか1項に記載の物流エリアの管理方法において、
前記複数の作業主体のそれぞれの実際の動きを監視することは、前記複数の作業主体のそれぞれの動作範囲を計測することを含み、
前記ずれを検知することは、シミュレーションされた動作範囲と計測された実際の動作範囲との閾値以上の差を検知することを含む
ことを特徴とする物流エリアの管理方法。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の物流エリアの管理方法において、
前記複数の作業主体のそれぞれの実際の動きを監視することは、前記複数の作業主体のそれぞれの動線を計測することを含み、
前記ずれを検知することは、シミュレーションされた動線と計測された実際の動線との閾値以上の乖離を検知することを含む
ことを特徴とする物流エリアの管理方法。
【請求項10】
複数の作業主体により構成される作業ラインを有する物流エリアの管理システムであって、
前記複数の作業主体が作業する作業空間をシミュレーションするように構成されたシミュレータと、
前記作業空間における前記複数の作業主体のそれぞれの実際の動きを監視するように構成された監視装置と、
前記複数の作業主体のいずれかにおいて、シミュレーションされた動きと監視された実際の動きとのずれが検知されたことを受けて、前記ずれが生じている作業主体の動きに影響する因子に関する情報を取得するように構成された情報取得装置と、を備える
ことを特徴とする物流エリアの管理システム。
【請求項11】
複数の作業主体により構成される作業ラインを有する物流エリアをコンピュータに管理させるプログラムであって、
前記複数の作業主体が作業する作業空間をシミュレーションすることで得られたシミュレーションデータを取得することと、
前記作業空間における前記複数の作業主体のそれぞれの実際の動きを監視することで得られた監視データを取得することと、
前記シミュレーションデータと前記監視データとを同期させて比較することにより、前記複数の作業主体のそれぞれについて、シミュレーションされた動きと監視された実際の動きとのずれを検知することと、
前記ずれが検知されたことを受けて、前記ずれが生じている作業主体の動きに影響する因子に関する情報を取得することと、を前記コンピュータに実行させるように構成された
ことを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数の作業主体により構成される作業ラインを有する物流エリアの管理に用いて好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
物流エリアはロボットや作業者等の複数の作業主体により構成される作業ラインを有する。昨今、そのような物流エリアの管理にシミュレーションを用いることが検討されている。例えば、特許文献1には、サプライチェーンモデルを再現したシミュレータによるシミュレーションによってサプライチェーンの最適化を図るようにした従来技術が開示されている。この従来技術はシミュレータ上に再現したサプライチェーンモデルと実際のサプライチェーンとの整合性を検証し、整合性に乖離がある場合に乖離の要因の判定を行うものである。
【0003】
しかし、物流エリアで作業する作業主体に生じた異常の検知に特許文献1に記載の従来技を適用する場合、シミュレーション結果の利用方法に工夫の余地がある。
【0004】
なお、本開示に関連する技術分野の技術水準を示す文献としては、特許文献1の他にも特許文献2及び特許文献3を例示することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-188133号公報
【文献】特開2000-077289号公報
【文献】特開2004-196553号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものである。本開示は、複数の作業主体により構成される作業ラインを有する物流エリアをシミュレーションの利用により効率的に管理することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は上記目的を達成するための物流エリアの管理技術として物流エリアの管理方法と物流エリアの管理システムとを提供する。
【0008】
本開示の物流エリアの管理方法は複数の作業主体により構成される作業ラインを有する物流エリアの管理方法である。本開示の物流エリアの管理方法は、複数の作業主体が作業する作業空間をシミュレーションすることと、上記作業空間における複数の作業主体のそれぞれの実際の動きを監視することとを含む。さらに、本開示の物流エリアの管理方法は、複数の作業主体のそれぞれについて、シミュレーションされた動きと監視された実際の動きとのずれを検知することと、ずれが検知されたことを受けて、ずれが生じている作業主体の動きに影響する因子に関する情報を取得することとを含む。
【0009】
本開示の物流エリアの管理システムは複数の作業主体により構成される作業ラインを有する物流エリアの管理システムである。本開示の物流エリアの管理システムはシミュレータと監視装置と情報取得装置とを備える。シミュレータは複数の作業主体が作業する作業空間をシミュレーションするように構成されている。監視装置は上記作業空間における複数の作業主体のそれぞれの実際の動きを監視するように構成されている。情報取得装置は、複数の作業主体のいずれかにおいてシミュレーションされた動きと監視された実際の動きとのずれが検知されたことを受けて、ずれが生じている作業主体の動きに影響する因子に関する情報を取得するように構成されている。
【0010】
本開示の物流エリアの管理技術によれば、シミュレーションされた動きと監視された実際の動きとの間にずれが生じた作業主体に限定して、その動きに影響する因子に関する情報を取得することができる。これにより、作業ラインを構成する作業主体に生じた異常を効率的に検知することができる。
【0011】
本開示の物流エリアの管理技術において、ずれが生じている作業主体の状態に関する情報を上記因子に関する情報として取得してもよい。これによれば、作業主体の異常が作業主体の状態によるものである場合に、その異常の原因を解明することができる。
【0012】
また、本開示の物流エリアの管理技術において、複数の作業主体が物流ロボットを含んでいる場合、物流ロボットの内部センサで取得された情報を上記因子に関する情報として取得してもよい。これによれば、作業主体である物流ロボットの異常が内部センサで検出できるものである場合に、その異常の原因を解明することができる。
【0013】
また、本開示の物流エリアの管理技術において、ずれが生じている作業主体の作業環境に関する情報を上記因子に関する情報として取得してもよい。これによれば、作業主体の異常が作業環境によるものである場合に、その異常の原因を解明することができる。
【0014】
また、本開示の物流エリアの管理技術において、ずれが生じている作業主体と物流エリアにおいて提供されているサービスとのインターロック状態を上記因子に関する情報として取得してもよい。これによれば、ずれの原因がサービスの影響によるものなのか作業主体の異常によるものなのか判断することができる。
【0015】
また、本開示の物流エリアの管理技術において、複数の作業主体のそれぞれの作業速度を計測し、シミュレーションされた作業速度と計測された実際の作業速度との間に生じた閾値以上の差を検知してもよい。これによれば、シミュレーションとの比較によって作業主体の作業の遅れ顕在化させ、それに基づいて作業主体に生じた異常を検知することができる。
【0016】
また、本開示の物流エリアの管理技術において、複数の作業主体が物流ロボットを含む場合、物流ロボットのブレーキ動作を検知し、シミュレーションされたブレーキ動作と検知された実際のブレーキ動作との強さ或いは回数の閾値以上の差を検知してもよい。これによれば、シミュレーションとの比較によって物流ロボットのスローダウンやぎくしゃくとした動きを顕在化させ、それに基づいて作業主体である物流ロボットに生じた異常を検知することができる。
【0017】
さらに、本開示の物流エリアの管理技術において、複数の作業主体のそれぞれの動作範囲を計測し、シミュレーションされた動作範囲と計測された実際の動作範囲との閾値以上の差を検知してもよい。また、複数の作業主体のそれぞれの動線を計測し、シミュレーションされた動線と計測された実際の動線との閾値以上の乖離を検知してもよい。これらによれば、シミュレーションとの比較によって作業主体の無駄な動きや予定外の動きを顕在化させ、それに基づいて作業主体に生じた異常を検知することができる。
【0018】
また、本開示は上記目的を達成するためのプログラムを提供する。本開示のプログラムは複数の作業主体により構成される作業ラインを有する物流エリアをコンピュータに管理させるプログラムである。本開示のプログラムは、複数の作業主体が作業する作業空間をシミュレーションすることで得られたシミュレーションデータを取得することと、上記作業空間における複数の作業主体のそれぞれの実際の動きを監視することで得られた監視データを取得することとをコンピュータに実行させるように構成されている。さらに、本開示のプログラムは、シミュレーションデータと監視データとを同期させて比較することにより、複数の作業主体のそれぞれについて、シミュレーションされた動きと監視された実際の動きとのずれを検知することと、ずれが検知されたことを受けて、ずれが生じている作業主体の動きに影響する因子に関する情報を取得することとをコンピュータに実行させるように構成されている。本開示のプログラムはコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上述べたように本開示の物流エリアの管理技術によれば、シミュレーションされた動きと監視された実際の動きとの間にずれが生じた作業主体に限定して、その動きに影響する因子に関する情報を取得することができる。全ての作業主体について絶えず情報を取得するのではなく、シミュレーション結果との間にずれが生じた作業主体に限定して情報を取得することによって、効率化とリソースの無駄の低減を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本開示の実施形態に係る物流エリアの管理システムの構成を示す図である。
【
図2】
図1に示す管理システムを構成する情報処理装置の機能を示す図である。
【
図3】異常の検知とその原因の特定の第1の方法を示す図である。
【
図4】異常の検知とその原因の特定の第2の方法を示す図である。
【
図5】異常の検知とその原因の特定の第3の方法を示す図である。
【
図6】異常の検知とその原因の特定の第4の方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本開示の物流エリアの管理方法及び管理システム、並びにプログラムの実施形態について説明する。ただし、以下に示す実施形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、本開示に係る思想が限定されるものではない。また、以下に示す実施形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、本開示に係る思想に必ずしも必須のものではない。
【0022】
1.物流エリアの管理システムの構成
図1は本開示の実施形態に係る物流エリアの管理システムの構成を示す図である。まず、管理システム100による管理対象となる物流エリアについて説明する。
【0023】
管理システム100によって管理される物流エリアは複数の作業主体により構成される作業ラインを有する物流エリアである。そのような物流エリアの例として、荷物を仕分ける中継基地(例えば、宅配営業所、大規模住宅内の集積所など)、ごみの集積と仕分けを行う作業場、製造工場で部品入荷や製品出荷を行うロジスティクスエリア等を挙げることができる。
【0024】
図1に例示される物流エリア20は荷物2を仕分ける中継基地である。物流エリア20には搬入される荷物2の仕分けに用いられるコンベア10A-10Bが設置されている。また、物流エリア20には仕分けられた荷物2を仮置きする荷物棚12A-12Cが設置されている。物流エリア20の作業主体は作業者4A-4D、搬送ロボット6A-6J、及びピッキングロボット8A-8Dである。これらの作業主体によって、物流エリア20に搬入された荷物2を仕分けて搬出する作業ラインが構成されている。
【0025】
コンベア10A-10Bには様々な種類及び宛先の荷物2が混在して流れている。作業者4A-4Dはコンベア10A-10Bの上から荷物2を選別して取り上げる。各作業者4A-4Dが取り出すべき荷物2は種類や宛先などによって予め決められている。
【0026】
搬送ロボット6A-6Gは作業者4A-4Dによって選別されて取り出された荷物2を受け取り、ピッキングロボット8A-8Dまで搬送する物流ロボットである。各搬送ロボット6A-6Gが受け取るべき荷物2は種類や宛先などによって予め決められている。また、各搬送ロボット6A-6Gの荷物2の運び先も荷物2の種類や宛先などによって予め決められている。
【0027】
ピッキングロボット8A-8Dは搬送ロボット6A-6Gから受け取った荷物2を荷物棚12A-12Cに収納する作業ロボットである。各ピッキングロボット8A-8Dが荷物2を収納すべき場所は荷物2の種類や宛先などによって予め決められている。また、ピッキングロボット8A-8Dは荷物棚12A-12Cから荷物2を選別して取り出す。各ピッキングロボット8A-8Dが取り出すべき荷物2は搬出スケジュールによって予め決められている。
【0028】
搬送ロボット6H-6Jはピッキングロボット8A-8Dによって選別されて取り出された荷物2を受け取り、物流エリア20の外の次の中継基地まで搬送する。各搬送ロボット6H-6Jが受け取るべき荷物2は搬出スケジュールによって予め決められている。また、各搬送ロボット6A-6Gの荷物2の運び先も搬出スケジュールによって予め決められている。
【0029】
管理システム100はデジタルツインシミュレータ110、監視装置120、及び情報処理装置130を備える。管理システム100を構成するデジタルツインシミュレータ110、監視装置120、及び情報処理装置130の協働によって、本開示の実施形態に係る物流エリアの管理方法が実行される。
【0030】
デジタルツインシミュレータ110、監視装置120、及び情報処理装置130のそれぞれは独立したコンピュータでもよいし、一つのコンピュータの中に作られた仮想コンピュータでもよい。管理システム100は物流エリア20の現場に設置されていてもよいし、クラウド上に設置されていてもよい。また、デジタルツインシミュレータ110、監視装置120、及び情報処理装置130のそれぞれが独立したコンピュータである場合、一部のコンピュータが物流エリア20の現場に設置され、残りのコンピュータがクラウド上に設置されていてもよい。
【0031】
デジタルツインシミュレータ110はシミュレーションによって物流エリア20のデジタルツインを実現するコンピュータである。デジタルツインシミュレータ110の仮想空間上には物流エリア20において作業主体が作業する作業空間(以下、実作業空間という)22を模擬した仮想作業空間112が構築されている。デジタルツインシミュレータ110は仮想作業空間112における作業主体のそれぞれの動きをリアルタイムでシミュレーションするように構成されている。デジタルツインシミュレータ110には、荷量、荷物の宛先(ばらつき)、作業者数、ロボットの待機台数などの実際の物流エリア20の作業条件に関する情報が入力される。
図1に示す例では、作業者4A-4D、搬送ロボット6A-6J、及びピッキングロボット8A-8Dの全てが仮想作業空間112に定義される。デジタルツインシミュレータ110はシミュレーションにより生成されたリアルタイムのシミュレーションデータを情報処理装置130に送信する。
【0032】
監視装置120は物流エリア20の作業ライン監視するコンピュータである。監視装置120は物流エリア20の実作業空間22における作業者4A-4D、搬送ロボット6A-6J、及びピッキングロボット8A-8Dのそれぞれの実際の動きを監視するように構成されている。これらの作業主体の動きの監視にはセンサを含む各種の手段が用いられる。例えば、実作業空間22の各所には、可視光カメラや赤外カメラ等の光学的監視手段が設置されている。また、荷物2には電磁気的監視手段である無線タグ(BLE、RFID等)が取り付けられている。また、作業者4A-4Dの作業スペースの付近には生体検出のためのミリ波レーダが設置されている。さらに、搬送ロボット6A-6Jやピッキングロボット8A-8Dのような物流ロボットには、作業主体自身が位置を計測し通知する自己位置同定手段が設けられている。自己位置の同定方法には、LiDARによるSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)、カメラによる周囲特徴点からの指定、車輪エンコーダによる積算や瞬間的移動速度推定等、内部センサを用いた方法が含まれる。監視装置120は物流エリア20からリアルタイムでデータを吸い上げて監視データを生成し、監視データを情報処理装置130に送信する。また、ある作業主体と物流エリア20で提供されているサービスとの間で関係が生じる場合、その作業主体とサービスとの間のインターロック状態に関する情報がサービスの管理センタから取得される。
【0033】
情報処理装置130は情報を取得し、取得した情報から物流エリア20の管理者32,34に対する通知用データを生成するコンピュータである。情報処理装置130はデジタルツインシミュレータ110から受信したシミュレーションデータと、監視装置120から受信した監視データとに基づいて通知用データを生成する。通知用データは表示端末140,150に通知される。表示端末140はスマートフォン等の携帯端末であり、表示端末150はデスクトップ型のディスプレイ付きPCである。情報処理装置130は通信ネットワークを介して表示端末140,150に接続されている。表示端末140を所持する管理者32は、物流エリア20の現場において表示端末140を見ながら管理業務を行うことができる。表示端末150の前に座った管理者34は、物流エリア20から離れた場所において表示端末150を見ながら管理業務を行うことができる。
【0034】
2.情報処理装置の機能
次に、情報処理装置130の機能について説明する。
図2は情報処理装置130の機能を示す図である。情報処理装置130はシミュレーションデータ受信部131、監視データ受信部132、比較部133、分析部134、監視データデータベース(監視データDB)135、及び異常原因データベース(異常原因DB)136を備える。情報処理装置130を構成するこれらの要素は、情報処理装置130のメモリに記憶されたプログラムが情報処理装置130のプロセッサで実行されたときに実現される情報処理装置130の機能である。なお、監視データデータベース135及び異常原因データベース136は情報処理装置130の情報処理装置130に設けられてもよし、情報処理装置130の外部、例えば、クラウド上のデータサーバに設けられてもよい。
【0035】
シミュレーションデータ受信部131はシミュレーションで生成されたシミュレーションデータ202をデジタルツインシミュレータ110から受信する。監視データ受信部132は物流エリア20からリアルタイムで得られた監視データ204を監視装置120から受信する。
【0036】
比較部133はシミュレーションデータ受信部131からシミュレーションデータ202を取得するとともに、監視データ受信部132から監視データ204を取得する。比較部133はシミュレーションデータ202と監視データ204とを互いに同期させて比較する。より具体的には、比較部133は物流エリア20の作業主体のそれぞれについて、デジタルツインシミュレータ110によってシミュレーションされた動きと監視装置120による監視された実際の動きとを比較し、両者のずれの大きさを算出する。比較部133による比較結果、つまり、作業主体毎のシミュレーションされた動きと実際の動きとのずれの大きさに関する情報は比較部133から分析部134に送信される。
【0037】
分析部134は比較部133から取得した情報について分析を行い、分析結果に基づいて表示端末140,150に通知する通知用データを生成する。分析部134は以下に説明する第1処理P01、第2処理P02、第3処理P03、及び第2処理P04を実行するように構成されている。
【0038】
第1処理P01は動きにずれが生じている作業主体を検知する処理である。シミュレーションされた動きと実際の動きとのずれの大きさが閾値を越えているかどうか作業主体毎に判定される。閾値は作業主体の種類に応じて、また、動きの内容に応じて予め定義されている。シミュレーションとの比較の対象となる作業主体の動きの具体例については後述する。ずれの大きさが閾値を越えている作業主体が存在する場合、その作業主体は異常作業主体として検知される。
【0039】
第2処理P02は異常作業主体の動きに影響する因子に関する情報(以下、影響因子情報という)を取得する処理である。影響因子情報は監視データデータベース135から取得される。監視データデータベース135には監視データ受信部204で受信された監視データが少なくとも一定期間登録されている。分析部134は監視データデータベース135に登録された情報の中から異常作業主体に関係する情報を抽出する。
【0040】
監視データ受信部204に記憶される情報には、作業主体の状態に関する情報である作業主体情報135aが含まれる。作業主体情報135aには、例えば、動作速度に関する情報、モータの負荷状態に関する情報、ブレーキの作動状態に関する情報、充電状態に関する情報、動作範囲に関する情報、位置決め精度に関する情報等が含まれる。作業主体が搬送ロボット6A-6Jやピッキングロボット8A-8Dのような物流ロボットの場合、作業主体情報135aには物流ロボットの内部センサで取得された情報が含まれる。また、作業主体情報135aには物流エリア20に設置されたカメラやレーダ等の環境センサによって取得された情報も含まれる。
【0041】
監視データ受信部204に記憶される情報には、各作業主体の作業環境に関する情報である作業環境情報135bが含まれる。作業環境情報135bには、例えば、作業主体が関係する物体との位置関係に関する情報、作業主体の動作を妨げる障害物に関する情報等が含まれる。また、複数の物流ロボットが充電器を共用する場合、作業環境情報135bには物流ロボットによる充電器の待ち状態が含まれる。また、物流ロボットがエレベータを利用して移動する場合、作業環境情報135bには物流ロボットによるエレベータの待ち状態が含まれる。作業環境情報135bには、物流エリア20に設置された環境センサによって取得された情報や、各設備のバックエンドサーバからの情報などが含まれる。
【0042】
監視データ受信部204に記憶される情報には、各作業主体と物流エリアにおいて提供されているサービスとのインターロック状態に関する情報であるインターロック状態情報135cが含まれる。物流エリアにおいて提供されているサービスとは、例えば、物流エリアがオープンなエリアである場合、そのエリアを通過する定期運行バス、オンデマンドバス、宅配車両等を挙げることができる。これらのようなサービスが提供されている環境下では、物流ロボットの動線と車両の動線との交差点では交通管制によるインターロックが必要となる。例えば、物流ロボットよりも車両の通行が優先される交通ルールが定義されている場合、交差点において物流ロボットはスローダウンし、車両の通行が完了するまで物流ロボットは待機させられる。車両の通行台数が増えれば、その分、物流ロボットのスローダウン回数や待機時間は増加する。交差点でのスローダウン回数や待機時間はインターロック状態情報135cに含まれ、それらはサービスの管理センタから取得される。
【0043】
以上の第1処理P01及び第2処理P02によれば、シミュレーションされた動きと実際の動きとの間にずれが生じた異常作業主体に限定して影響因子情報が取得されるので、効率化とリソースの無駄の低減を図ることが可能になる。なお、以下の第3処理P03及び第4処理P04は、情報処理装置130とは異なるコンピュータで実行されてもよい。つまり、情報処理装置130は第2処理P02による影響因子情報の取得までを行う情報取得装置として構成されてもよい。
【0044】
第3処理P03は異常作業主体の動きにずれを生じさせている原因を特定する処理である。第2処理P02で取得された異常作業主体に関係する作業主体情報135a、作業環境情報135b、及びインターロック状態情報135cに基づいて原因の特定が行われる。原因の特定には異常原因データベース136が用いられる。異常原因データベース136には、作業主体情報135a、作業環境情報135b、及びインターロック状態情報135cのそれぞれの内容ごとに想定しうる異常原因が関連付けて登録されている。なお、本実施形態における異常とは作業主体の実際の動きがシミュレーションとは異なる動きであることを意味し、正常とは作業主体の実際の動きがシミュレーションと実質的に同じ動きであることを意味する。つまり、正常/異常はあくまでもシミュレーションによる動きを基準にして判断される状態であり、必ずしも作業主体の不調や故障を意味するものではない。
【0045】
第4処理P04は管理者32,34への通知用データを生成する処理である。第1処理P01で検知された異常作業主体と、第3処理P03で特定された異常作業主体の動きにずれを生じさせている原因とが通知用データに含まれる。情報処理装置130は第4処理P04で生成された通知用データを表示端末140,150に送信する。
【0046】
情報処理装置130から表示端末140,150への通知により、管理者32,34は物流エリア20においてシミュレーションとは異なる事態が発生していることを知ることができる。また、管理者32,34は、その通知の内容により何が原因となってシミュレーションとは異なる事態が発生しているのか知ることができる。
【0047】
次の章では、第1処理P01による異常の検知と第2処理P02及び第3処理P03による原因の特定の方法ついて具体例を挙げて詳しく説明する。
【0048】
3.異常の検知とその原因の特定の方法
3-1.第1の方法
第1の方法では、作業空間22で作業している全作業主体のそれぞれの作業速度が監視装置120によって計測される。情報処理装置130の比較部133はデジタルツインシミュレータ110によってシミュレーションされた作業速度と監視装置120によって計測された実際の作業速度との差を計算する。ある作業主体についてシミュレーションされた作業速度と実際の作業速度との差が閾値未満であれば、その作業主体は正常と判定される。しかし、差が閾値以上であれば、その作業主体は異常作業主体として検知される。
【0049】
図3には、搬送ロボット6について作業工程Xの標準時間と実時間が記載されている。作業工程Xは搬送ロボット6が場所L1から場所L2へ荷物を運んで帰ってくる工程であるとする。標準時間はデジタルツインシミュレータ110によるシミュレーションで得られた作業工程Xの1サイクル当たりの時間である。実時間は監視装置120によって計測された作業工程Xの1サイクルに実際に要した時間である。標準時間と実時間との差はシミュレーションされた作業速度と実際の作業速度との差を示している。
図3には標準時間と実時間との差が閾値未満である正常状態と、標準時間と実時間との差が閾値以上である異常状態とが示されている。
【0050】
異常作業主体として搬送ロボット6が検知された場合、搬送ロボット6に関する影響因子情報が取得される。
図3に示す例では、搬送ロボット6の動線と宅配車両300の動線とが交差している。宅配車両300は物流エリア20で提供されるサービスである。予め定義された交通ルールに従い、交差点において搬送ロボット6はスローダウンし、宅配車両300の通過待ちを行う。宅配車両300と搬送ロボット6とのインターロックはインターロック状態情報135cとして監視データデータベース135に登録される。よって、
図3に示す例では、影響因子情報はインターロック状態情報135cから取得することができる。取得された影響因子情報により、搬送ロボット6のスローダウンの原因は宅配車両300の通過待ちのためであることが特定される。
【0051】
図3に示す例では、検知された異常とその原因の特定結果が管理者32,34に対して通知されることで、管理者32,34は搬送ロボット6の動線の見直しを検討することができる。
【0052】
3-2.第2の方法
第2の方法では、作業空間22で作業している物流ロボットのそれぞれのブレーキ動作が監視装置120によって検知される。情報処理装置130の比較部133はデジタルツインシミュレータ110によってシミュレーションされたブレーキ動作と監視装置120によって検知された実際のブレーキ動作との強さ或いは回数の差を計算する。ある物流ロボットについてシミュレーションされたブレーキの強さ或いは回数と実際のブレーキの強さ或いは回数との差が閾値未満であれば、その物流ロボットは正常と判定される。しかし、差が閾値以上であれば、その物流ロボットは異常作業主体として検知される。
【0053】
図4には、ある搬送ロボット6のブレーキ動作の正常状態の例と異常状態の例がそれぞれタイムチャートで示されている。タイムチャートの縦軸はブレーキの強さを示している。正常状態の例ではシミュレーションによるブレーキ動作60と実際のブレーキ動作62とは略一致している。異常状態の例ではシミュレーションによるブレーキ動作60よりも実際のブレーキ動作62のほうのブレーキが強くなり、且つ、1回あたりのブレーキの時間が長くなっている。
【0054】
異常作業主体として搬送ロボット6が検知された場合、搬送ロボット6に関する影響因子情報が取得される。
図4に示す例では、搬送ロボット6がブレーキをかける度にブレーキの作動状態が内部センサによって取得される。搬送ロボット6のブレーキの作動状態に関する情報は作業主体状態情報135aとして監視データデータベース135に登録される。よって、
図4に示す例では、影響因子情報は作業主体状態情報135aから取得することができる。取得された影響因子情報により、搬送ロボット6のスローダウンやぎくしゃくとした動きの原因はブレーキの作動状態の悪化であることが特定される。
【0055】
図4に示す例では、検知された異常とその原因の特定結果が管理者32,34に対して通知されることで、管理者32,34は不調を来たしている搬送ロボット6のブレーキを修理することができる。
【0056】
3-3.第3の方法
第3の方法では、作業空間22で作業している全作業主体のそれぞれの動作範囲が監視装置120によって計測される。情報処理装置130の比較部133はデジタルツインシミュレータ110によってシミュレーションされた動作範囲と監視装置120によって計測された実際の動作範囲との差を計算する。ある作業主体についてシミュレーションされた動作範囲と実際の動作範囲との差が閾値未満であれば、その作業主体は正常と判定される。しかし、差が閾値以上であれば、その作業主体は異常作業主体として検知される。
【0057】
図5には、ある作業者4の動作範囲の正常状態の例と異常状状態の例がそれぞれ模式的に描かれている。作業者4の動作範囲は荷物2を受け渡す搬送ロボット6の待機位置の影響を受ける。正常状態の例では搬送ロボット6は正規の待機位置で待機している。正規の待機位置は作業者4の作業効率の観点から決定された待機位置である。正常状態の例ではシミュレーションによる作業者4の動作範囲70と実際の作業者4の動作範囲72とは略一致している。一方、異常状態の例では搬送ロボット6は正規の待機位置よりも作業者4の後方に離れた位置で待機している。この場合、作業者4は搬送ロボット6に荷物2を渡すために無駄な動きをせざるを得ない。よって、異常状態の例では実際の作業者4の動作範囲72はシミュレーションによる作業者4の動作範囲70よりも大きくなっている。
【0058】
異常作業主体として作業者4が検知された場合、作業者4に関する影響因子情報が取得される。
図5に示す例では、作業者4が荷物2を渡している搬送ロボット6の待機位置がカメラ等の環境センサによって取得される。搬送ロボット6の待機位置に関する情報は作業環境情報135bとして監視データデータベース135に登録される。よって、
図5に示す例では、影響因子情報は作業環境情報135bから取得することができる。取得された影響因子情報により、作業者4の動作範囲の拡大の原因は搬送ロボット6の待機位置のずれであることが特定される。
【0059】
図5に示す例では、検知された異常とその原因の特定結果が管理者32,34に対して通知されることで、管理者32,34は待機位置にずれが生じている搬送ロボット6を点検することができる。
【0060】
3-4.第4の方法
第4の方法では、作業空間22で作業している全作業主体のそれぞれの動線が監視装置120によって計測される。情報処理装置130の比較部133はデジタルツインシミュレータ110によってシミュレーションされた動線と監視装置120によって計測された実際の動線との乖離の程度を計算する。ある作業主体についてシミュレーションされた動線と実際の動線との乖離の程度が閾値未満であれば、その作業主体は正常と判定される。しかし、差が閾値以上であれば、その作業主体は異常作業主体として検知される。
【0061】
図6には、ある搬送ロボット6の動線の正常状態の例と異常状状態の例がそれぞれ模式的に描かれている。正常状態の例ではシミュレーションによる搬送ロボット6の動線80と実際の搬送ロボット6の動線82とは略一致している。一方、異常状態の例ではシミュレーションによる動線80と作業者4とが干渉している。この場合、搬送ロボット6は作業者4を回避するように走行せざるを得ない。よって、異常状態の例ではシミュレーションによる搬送ロボット6の動線80と実際の搬送ロボット6の動線82との間に乖離が生じている。
【0062】
異常作業主体として搬送ロボット6が検知された場合、搬送ロボット6に関する影響因子情報が取得される。
図6に示す例では、搬送ロボット6の動線と干渉している作業者4の存在がカメラ等の環境センサによって取得される。動線と干渉している作業者4に関する情報は作業環境情報135bとして監視データデータベース135に登録される。よって、
図6に示す例では、影響因子情報は作業環境情報135bから取得することができる。取得された影響因子情報により、搬送ロボット6の動線のずれの原因は動線と干渉している作業者4であることが特定される。
【0063】
図6に示す例では、検知された異常とその原因の特定結果が管理者32,34に対して通知されることで、管理者32,34は搬送ロボット6の動線の変更や作業者4の作業エリアの変更を検討することができる。
【符号の説明】
【0064】
4,4A-4D 作業者(作業主体)
6,6A-6J 搬送ロボット(作業主体)
8A-8D ピッキングロボット(作業主体)
20 物流エリア
22 作業空間
32,34 管理者
100 管理システム
110 デジタルツインシミュレータ
112 仮想作業空間
120 監視装置
130 情報処理装置(情報取得装置)
131 シミュレーションデータ受信部
132 監視データ受信部
133 比較部
134 分析部
135 監視データデータベース
136 異常原因データベース