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特許7544103活物質複合粒子、電極、二次電池、及び活物質複合粒子の製造方法
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  • 特許-活物質複合粒子、電極、二次電池、及び活物質複合粒子の製造方法 図1A
  • 特許-活物質複合粒子、電極、二次電池、及び活物質複合粒子の製造方法 図1B
  • 特許-活物質複合粒子、電極、二次電池、及び活物質複合粒子の製造方法 図2
  • 特許-活物質複合粒子、電極、二次電池、及び活物質複合粒子の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】活物質複合粒子、電極、二次電池、及び活物質複合粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20240827BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240827BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240827BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240827BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240827BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240827BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01M10/0562
H01M10/052
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022138004
(22)【出願日】2022-08-31
(65)【公開番号】P2024034018
(43)【公開日】2024-03-13
【審査請求日】2023-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100133835
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 努
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】西村 英晃
(72)【発明者】
【氏名】中西 真二
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-186212(JP,A)
【文献】特開2015-111514(JP,A)
【文献】特表2016-509739(JP,A)
【文献】特開2017-135094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 4/62
H01M 4/13
H01M 10/0562
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活物質複合粒子であって、中心部と表層部とを有し、
前記中心部が、固体電解質と複数のSi粒子とを含み、
前記表層部が、ポリマーを含み、且つ、キャリアイオン伝導性を有し、
前記表層部に占めるポリマーの比率が、前記中心部に占めるポリマーの比率よりも高い、
活物質複合粒子。
【請求項2】
前記固体電解質のキャリアイオン伝導度が、前記表層部のキャリアイオン伝導度よりも高い、
請求項1に記載の活物質複合粒子。
【請求項3】
前記固体電解質が、硫化物固体電解質を含む、
請求項1に記載の活物質複合粒子。
【請求項4】
前記表層部が、塩を含み、
前記塩が、キャリアイオンを含む、
請求項1に記載の活物質複合粒子。
【請求項5】
前記中心部に占めるSi粒子の比率が、前記表層部に占めるSi粒子の比率よりも高い、
請求項1に記載の活物質複合粒子。
【請求項6】
前記中心部に占める固体電解質の比率が、前記表層部に占める固体電解質の比率よりも高い、
請求項1に記載の活物質複合粒子。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の活物質複合粒子を含む、
電極。
【請求項8】
前記活物質複合粒子の周囲に配置された固体電解質を含む、
請求項7に記載の電極。
【請求項9】
二次電池であって、正極と電解質層と負極とを有し、
前記負極が、請求項1~6のいずれか1項に記載の活物質複合粒子を含む、
二次電池。
【請求項10】
前記負極が、前記活物質複合粒子の周囲に配置された固体電解質を含む、
請求項9に記載の二次電池。
【請求項11】
前記電解質層が、固体電解質を含む、
請求項9に記載の二次電池。
【請求項12】
活物質複合粒子の製造方法であって、
固体電解質と複数のSi粒子とを混合して、中間複合粒子を得ること、及び、
ポリマーを含み、且つ、キャリアイオン伝導性を有する材料によって、前記中間複合粒子の周囲を被覆すること、
を含む、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は活物質複合粒子、電極、二次電池、及び活物質複合粒子の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、負極活物質の造粒体であって、Si及び炭素の複合体と、バインダーとを含むものが開示されている。特許文献2には、負極活物質粉体であって、Si系活物質の二次粒子と、当該二次粒子の表面に設けられたフッ素化された層とを有するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-021571号公報
【文献】特開2021-057216号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
Siを含む活物質は、サイクル特性について改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段として、以下の複数の態様を開示する。
<態様1>
活物質複合粒子であって、中心部と表層部とを有し、
前記中心部が、固体電解質と複数のSi粒子とを含み、
前記表層部が、ポリマーを含み、且つ、キャリアイオン伝導性を有し、
前記表層部に占めるポリマーの比率が、前記中心部に占めるポリマーの比率よりも高い、
活物質複合粒子。
<態様2>
前記固体電解質のキャリアイオン伝導度が、前記表層部のキャリアイオン伝導度よりも高い、
態様1の活物質複合粒子。
<態様3>
前記固体電解質が、硫化物固体電解質を含む、
態様1又は2の活物質複合粒子。
<態様4>
前記表層部が、塩を含み、
前記塩が、キャリアイオンを含む、
態様1~3のいずれかの活物質複合粒子。
<態様5>
前記中心部に占めるSi粒子の比率が、前記表層部に占めるSi粒子の比率よりも高い、
態様1~4のいずれかの活物質複合粒子。
<態様6>
前記中心部に占める固体電解質の比率が、前記表層部に占める固体電解質の比率よりも高い、
態様1~5のいずれかの活物質複合粒子。
<態様7>
態様1~6のいずれかの活物質複合粒子を含む、
電極。
<態様8>
前記活物質複合粒子の周囲に配置された固体電解質を含む、
態様7の電極。
<態様9>
二次電池であって、正極と電解質層と負極とを有し、
前記負極が、態様1~6のいずれかの活物質複合粒子を含む、
二次電池。
<態様10>
前記負極が、前記活物質複合粒子の周囲に配置された固体電解質を含む、
態様9の二次電池。
<態様11>
前記電解質層が、固体電解質を含む、
態様9又は10の二次電池。
<態様12>
活物質複合粒子の製造方法であって、
固体電解質と複数のSi粒子とを混合して、中間複合粒子を得ること、及び、
ポリマーを含み、且つ、キャリアイオン伝導性を有する材料によって、前記中間複合粒子の周囲を被覆すること、
を含む、製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本開示の活物質複合粒子は、サイクル特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】活物質複合粒子の断面の形状の一例を概略的に示している。
図1B】活物質複合粒子の断面における「表層部」及び「中心部」を説明するための概略図である。
図2】二次電池の構成の一例を概略的に示している。
図3】活物質複合粒子の製造方法の流れの一例を示している。
【発明を実施するための形態】
【0008】
1.活物質複合粒子
図1Aに一実施形態に係る活物質複合粒子1の断面構造を概略的に示す。活物質複合粒子1は、中心部1aと表層部1bとを有する。前記中心部1aは、固体電解質1axと複数のSi粒子1ayとを含む。前記表層部1bは、ポリマー1bxを含み、且つ、キャリアイオン伝導性を有する。前記表層部1bに占めるポリマー1bxの比率は、前記中心部1aに占めるポリマーの比率よりも高い。
【0009】
1.1 中心部及び表層部の区別
本願において、活物質複合粒子の「中心部」及び「表層部」とは、以下の通りに定義されるものである。すなわち、活物質複合粒子1の断面を観察した場合に、ポリマーリッチな最外層とそれよりも内部の層との間に境界(画像観察等によって視覚的に確認される境界のほか、元素分析等によって確認される境界等であってもよい)が観察される場合は、当該境界の外側の最外層を表層部1b、当該境界の内側(内部)を中心部1aとみなす。一方で、活物質複合粒子1の断面を観察した場合に、表層部1bとそれよりも内側の中心部1aとの間に明確な境界が観察されない場合は、以下の通りにして、表層部1bと中心部1aとを区別するものとする。具体的には、活物質複合粒子1の表層部1bとは、以下のようにして特定する。すなわち、図1Bに示されるように、活物質複合粒子の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)や透過型電子顕微鏡(TEM)等で観察して、活物質複合粒子の断面の二次元画像を取得し、当該二次元画像における活物質複合粒子の表面から所定の深さまでの領域Xの面積をa1、粒子全体の面積をa1+a2とした場合に、a1/(a1+a2)が0.01となる領域Xを「活物質複合粒子の表層部」とみなす。このようにして特定される「活物質複合粒子の表層部」よりも深い部分(内側の部分)が「活物質複合粒子の中心部」である。
【0010】
1.2 中心部及び表層部の各々に占めるポリマーの比率
活物質複合粒子1において、表層部1bはポリマー1bxを含む一方、中心部1aはポリマーを含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。ここで、前記表層部1bに占めるポリマー1bxの比率は、前記中心部1aに占めるポリマーの比率よりも高い。尚、中心部1aがポリマーを含まない場合、自ずと、表層部1bに占めるポリマー1bxの比率が、中心部1aに占めるポリマーの比率よりも高くなる。活物質複合粒子1の中心部1aに占めるポリマーの体積率VRは、50体積%未満、40体積%以下、30体積%以下、20体積%以下、又は、10体積%以下であってもよい。VRの下限は特に限定されない。VRは0体積%以上であってもよい。また、活物質複合粒子1の表層部1bに占めるポリマー1bxの体積率VRは、50体積%以上、60体積%以上、70体積%以上、又は、80体積%以上であってもよい。VRの上限は特に限定されない。VRは、100体積%以下、100体積%未満、95体積%以下、又は、90体積%以下であってもよい。また、活物質複合粒子1の中心部1aに占めるポリマーの体積率VRと、複合粒子1の表層部1bに占めるポリマー1bxの体積率VRとの比VR/VRは、特に限定されるものではない。例えば、比VR/VRは、1.0未満、0.9以下、0.8以下、0.7以下、0.6以下、0.5以下、0.4以下、0.3以下、0.2以下、又は、0.1以下であってもよい。比VR/VRの下限は特に限定されず、上述の通り、VRが0体積%となることもあり得る。
【0011】
このように、複合粒子1の表層部1bに占めるポリマー1bxの比率が中心部1aに占めるポリマーの比率よりも高いことで、充電によってSiが膨張した場合でも、複合粒子1全体としての体積変化が表層部1bのポリマー1bxによって緩和され、複合粒子1全体としての形状が保持され易い。また、表層部1bにおけるポリマー1bxの比率が高いことで、充電によってSiが膨張した場合でも、表層部1bのポリマー1bxがクッション材として機能し、複合粒子1の周囲の材料に割れや隙間が生じ難い。そのため、活物質複合粒子1によれば、優れたサイクル特性が発揮され易い。
【0012】
尚、活物質複合粒子1の中心部1aに占めるポリマーの比率と、複合粒子1の表層部1bに占めるポリマー1bxの比率とは、上記のような「体積比率」として比較されてもよいし、粒子断面における「面積比率」として比較されてもよい。例えば、複合粒子1の断面についてEDX等によって元素分析し、当該断面においてポリマーが存在する領域を特定することによって、当該断面に占めるポリマーの面積率を求めることができる。中心部1aの断面及び表層部1bの断面の各々について、ポリマーが占める面積率を求めることで、表層部1bに占めるポリマー1bxの比率が、中心部1aに占めるポリマーの比率よりも高いか否かを特定することができる。
【0013】
1.3 中心部及び表層部の各々に占めるSi粒子の比率
活物質複合粒子1において、中心部1aは複数のSi粒子1ayを含む一方、表層部1bは、Si粒子を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。ここで、前記中心部1aに占めるSi粒子1ayの比率は、前記表層部1bに占めるSi粒子の比率よりも高くてもよい。すなわち、活物質複合粒子1は、中心部1aにSiリッチな部分を有していてもよい。尚、表層部1bがSi粒子を含まない場合、自ずと、中心部1aに占めるSi粒子1ayの比率が、表層部1bに占めるSi粒子の比率よりも高くなる。活物質複合粒子1の中心部1aに占めるSi粒子1ayの体積率VRは、50体積%以上、60体積%以上、70体積%以上、80%以上、又は、85体積%以上であってもよい。VRの上限は特に限定されない。VRは、例えば、100体積%未満、98体積%以下、96体積%以下、94体積%以下、又は、92体積%以下であってもよい。また、活物質複合粒子1の表層部1bに占めるSi粒子の体積率VRは、50体積%未満、40体積%以下、30体積%以下、20体積%以下、又は、10体積%以下であってもよい。VRの下限は特に限定されない。VRは0体積%以上であってもよい。また、活物質複合粒子1の中心部1aに占めるSi粒子1ayの体積率VRと、複合粒子1の表層部1bに占めるSi粒子の体積率VRとの比AR/ARは、特に限定されるものではない。例えば、比AR/ARは、1.0超、1.5以上、2.0以上、2.5以上、3.0以上、3.5以上、4.0以上、4.5以上又は5.0以上であってもよい。比VR/VRの上限は特に限定されず、上述の通り、VRが0体積%となることもあり得る。
【0014】
このように、複合粒子1の中心部1aに占めるSi粒子1ayの比率が表層部1bに占めるSi粒子の比率よりも高いことで、充電によってSi粒子が膨張した場合でも、当該Si粒子の膨張が複合粒子1の外部へと及び難く、複合粒子1全体としての体積変化が緩和され、複合粒子1全体としての形状が保持され易い。また、複合粒子1全体としての体積変化が緩和されることで、複合粒子1の周囲の材料に割れや隙間が生じ難い。そのため、このような活物質複合粒子1によれば、一層優れたサイクル特性が発揮され易い。
【0015】
尚、活物質複合粒子1の中心部1aに占めるSi粒子1ayの比率と、複合粒子1の表層部1bに占めるSi粒子の比率とは、上記のような「体積比率」として比較されてもよいし、粒子断面における「面積比率」として比較されてもよい。例えば、複合粒子1の断面についてEDX等によって元素分析し、当該断面においてSi粒子が存在する領域を特定することによって、当該断面に占めるSi粒子の面積率を求めることができる。中心部1aの断面及び表層部1bの断面の各々について、Si粒子が占める面積率を求めることで、中心部1aに占めるSi粒子1ayの比率が、表層部1bに占めるSi粒子の比率よりも高いか否かを特定することができる。
【0016】
1.4 中心部及び表層部の各々に占める固体電解質の比率
活物質複合粒子1において、中心部1aは固体電解質1axを含む一方、表層部1bは、固体電解質を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。ここで、前記中心部1aに占める固体電解質1axの比率は、前記表層部1bに占める固体電解質の比率よりも高くてもよい。尚、表層部1bが固体電解質を含まない場合、自ずと、中心部1aに占める固体電解質1axの比率が、表層部1bに占める固体電解質の比率よりも高くなる。活物質複合粒子1の中心部1aに占める固体電解質1axの体積率VRは、50体積%未満、40体積%以下、30体積%以下、20体積%以下、又は、10体積%以下であってもよい。VRの下限は特に限定されない。VRは0体積%超、1体積%以上、3体積%以上、又は、5体積%以上であってもよい。また、活物質複合粒子1の表層部1bに占める固体電解質の体積率VRは、50体積%未満、40体積%以下、30体積%以下、20体積%以下、10体積%以下、又は、5体積%以下であってもよい。VRの下限は特に限定されない。VRは0体積%以上であってもよい。また、活物質複合粒子1の中心部1aに占める固体電解質の体積率VRと、複合粒子1の表層部1bに占める固体電解質の体積率VRとの比VR/VRは、特に限定されるものではない。例えば、比VR/VRは、1.0超、1.5以上、2.0以上、2.5以上、3.0以上、3.5以上、4.0以上、4.5以上又は5.0以上であってもよい。比VR/VRの上限は特に限定されず、上述の通り、VRが0体積%となることもあり得る。
【0017】
このように、複合粒子1の中心部1aにおける固体電解質1axの比率が表層部1bにおける固体電解質の比率よりも高いことで、中心部1aにおけるキャリアイオン伝導性を一層高めることができ、中心部1aにおけるSi粒子内部の反応ムラを一層抑制することができ、充放電に伴うSi粒子の割れを一層抑制することができる。そのため、このような活物質複合粒子1によれば、一層優れたサイクル特性が発揮され易い。
【0018】
尚、活物質複合粒子1の中心部1aに占める固体電解質1axの比率と、複合粒子1の表層部1bに占める固体電解質の比率とは、上記のような「体積比率」として比較されてもよいし、粒子断面における「面積比率」として比較されてもよい。例えば、複合粒子1の断面についてEDX等によって元素分析し、当該断面において固体電解質が存在する領域を特定することによって、当該断面に占める固体電解質の面積率を求めることができる。中心部1aの断面及び表層部1bの断面の各々について、固体電解質が占める面積率を求めることで、中心部1aに占める固体電解質1axの比率が、表層部1bに占める固体電解質の比率よりも高いか否かを特定することができる。
【0019】
1.5 中心部及び表層部の各々に占める空隙率
活物質複合粒子1は、当該複合粒子1の断面を観察した場合において、当該複合粒子1の中心部1aに占める空隙率が、当該複合粒子1の表層部1bに占める空隙率よりも高くてもよい。このように、中心部1aにおける空隙率が表層部1bにおける空隙率よりも高いことで、充電によって中心部1aのSi粒子が膨張した場合でも、当該Si粒子が空隙を埋めるように膨張し、複合粒子1全体としての体積変化が緩和され、複合粒子1全体としての形状が保持され易い。また、複合粒子1全体としての体積変化が緩和されることで、複合粒子1の周囲の材料に割れや隙間が生じ難い。そのため、このような活物質複合粒子1によれば、一層優れたサイクル特性が発揮され易い。
【0020】
尚、活物質複合粒子1の中心部1aや表層部1bに占める空隙率は、複合粒子1の断面についてEDX等によって元素分析し、当該断面において空隙が存在する領域を特定することによって求めることができる。
【0021】
1.6 中心部及び表層部の各々を構成する材料
上述の通り、活物質複合粒子1の中心部1aは、固体電解質1axと複数のSi粒子1ayとを含み、活物質複合粒子1の表層部1bは、ポリマー1bxを含む。また、上述の通り、中心部1aはポリマーを含んでいてもよく、この場合、中心部1aに含まれるポリマーと、表層部1bに含まれるポリマーとは、互いに同じ種類のものであっても、互いに異なる種類のものであってもよい。さらに、表層部1bは固体電解質及びSi粒子のうちの一方又は両方を含んでいてもよく、この場合、中心部1aに含まれる固体電解質と、表層部1bに含まれる固体電解質とは、互いに同じ種類のものであっても、互いに異なる種類のものであってもよく、また、中心部1aに含まれるSi粒子と、表層部1bに含まれるSi粒子とは、互いに同じ種類のものであっても、互いに異なる種類のものであってもよい。
【0022】
1.6.1 固体電解質
活物質複合粒子1の中心部1aは、固体電解質1axを含む。中心部1aが固体電解質1axを含むことで、中心部1aにおけるキャリアイオン伝導性が高まる。これにより、充放電時、中心部1aにおけるSi粒子1ayの反応ムラが抑制され易くなり、充放電に伴うSi粒子1ayの割れ等が抑制され易くなる。結果として、優れたサイクル特性が発揮され易い。
【0023】
固体電解質1axのキャリアイオン伝導度は、表層部1bのキャリアイオン伝導度よりも高くてもよい。中心部1aにキャリアイオン伝導性に優れる固体電解質が含まれることで、充放電時に中心部1aにおけるSi粒子1ayの反応ムラを一層抑制することができ、充放電に伴うSi粒子1ayの割れを一層抑制することができる。結果として、一層優れたサイクル特性が発揮され易い。
【0024】
固体電解質1axは、例えば、無機固体電解質であってもよい。無機固体電解質は、キャリアイオン伝導性に優れるほか、耐熱性等にも優れる。キャリアイオンとしてリチウムイオンが採用される場合、無機固体電解質は、例えば、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlGe2-X(PO、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等の酸化物固体電解質;LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-SiS-P、LiS-P-LiI-LiBr、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P-GeS等の硫化物固体電解質から選ばれる少なくとも1種であってもよい。特に、固体電解質1axが硫化物固体電解質を含む場合、より高い性能が発揮され易く、中でも構成元素として少なくともLi、S及びPを含む硫化物固体電解質を含むものの性能が高い。固体電解質1axは、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。固体電解質1axは例えば粒子状であってもよい。固体電解質1axは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0025】
活物質複合粒子1の表層部1bに任意に含まれる固体電解質についても、上述と同様である。尚、後述するように、表層部1bには塩が含まれていてもよく、当該塩はキャリアイオンを含んでいてもよい。すなわち、表層部1bにはキャリアイオン伝導性を有する塩が含まれていてもよい。本願において、表層部1bに含まれ得る「塩」とは、上述の「固体電解質」とは異なるものとみなす。
【0026】
1.6.2 Si粒子
活物質複合粒子1の中心部1aは、複数のSi粒子1ayを含む。複数のSi粒子1ayの各々は、一次粒子として存在していてもよいし、二次粒子として存在していてもよい。各々のSi粒子1ayの組成は、特に限定されるものではない。Si粒子1ayに含まれる全ての元素に占めるSi元素の割合は、例えば、50mol%以上、70mol%以上、又は、90mol%以上であってもよい。Si粒子1ayは、Si元素以外に、Li元素等のアルカリ金属元素といったその他の元素を含んでいてもよい。その他の元素としては、Li元素等のアルカリ金属元素のほか、Sn元素、Fe元素、Co元素、Ni元素、Ti元素、Cr元素、B元素、P元素等が挙げられる。また、Si粒子1ayは、酸化物等の不純物を含んでいてもよい。Si粒子1ayは、非晶質であっても結晶であってもよい。Si粒子1ayに含まれる結晶相は特に限定されるものではない。
【0027】
Si粒子1ayのサイズは特に限定されるものではない。Si粒子1ayの平均一次粒子径は、例えば、10nm以上、30nm以上、50nm以上、100nm以上、又は、150nm以上であってもよく、10μm以下、5μm以下、3μm以下、2μm以下、又は、1μm以下であってもよい。また、Si粒子の平均二次粒子径は、例えば、100nm以上、1μm以上、又は、2μm以上であってもよく、20μm以下、15μm以下、又は、10μm以下であってもよい。尚、平均一次粒子径及び平均二次粒子径は、SEM等の電子顕微鏡による観察によって求めることができ、例えば、複数の粒子の各々の最大フェレ径の平均値として求められる。サンプル数は、多いことが好ましく、例えば20以上であり、50以上であってもよく、100以上であってもよい。平均一次粒子径及び平均二次粒子径は、例えば、Si粒子1ayの製造条件を適宜変更したり、分級処理を行ったりすることで、適宜調整可能である。
【0028】
Si粒子1ayは、多孔質であってもよい。Si粒子1ayが多孔質であることで、充電時のSi粒子1ayの膨張を、粒子中の空隙によって緩和することができる。多孔質Si粒子における空隙の形態に特に制限はない。多孔質Si粒子は、ナノポーラスシリコンを含む粒子であってもよい。ナノポーラスシリコンとは、ナノメートルオーダー(1000nm未満、好ましくは100nm以下)の細孔径を有する細孔が複数存在するシリコンをいう。多孔質Si粒子は、直径55nm以下の細孔を含むものであってもよい。直径55nm以下の細孔は、プレスによっても潰れ難い。すなわち、直径55nm以下の細孔を含む多孔質Si粒子は、プレス後においても多孔質が維持され易い。例えば、多孔質Si粒子の1gあたり、直径55nm以下の細孔が0.21cc以上、0.22cc/g以上、又は、0.23cc/g以上含まれていてもよく、0.30cc/g以下、0.28cc/g以下、又は、0.26cc/g以下含まれていてもよい。多孔質Si粒子に含まれる直径55nm以下の細孔の量は、例えば、窒素ガス吸着法、DFT法による細孔径分布から求めることができる。
【0029】
Si粒子1ayが多孔質である場合、その空隙率は特に限定されるものではない。多孔質Si粒子の空隙率は、例えば、1%以上、5%以上、10%以上、又は、20%以上であってもよく、80%以下、70%以下、60%以下、50%以下、40%以下、又は、30%以下であってもよい。Si粒子の空隙率は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察等により求めることができる。サンプル数は多いことが好ましく、例えば100以上である。空隙率は、これらサンプルから求めた平均値とすることができる。
【0030】
活物質複合粒子1の表層部1bに任意に含まれるSi粒子についても、上述と同様であってよい。
【0031】
1つの活物質複合粒子1に含まれるSi粒子の数は、特に限定されるものではない。当該数は、2以上、5以上、10以上又は50以上であってもよく、1000以下、500又は100以下であってもよい。
【0032】
1.6.3 ポリマー
活物質複合粒子1の表層部1bはポリマー1bxを含む。当該ポリマー1bxは、例えば、Si粒子同士を結着したり、複合粒子1の形状を維持したりするためのバインダーとしての機能を有し得る。また、当該ポリマー1bxは、クッション材としての機能も有し得る。ポリマー1bxの種類は、特に限定されるものではない。ポリマー1bxとして、二次電池の構成材料として公知である各種のバインダーが採用されてもよい。例えば、表層部1bに含まれるポリマー1bxは、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー、カルボキシメチルセルロース(CMC)系バインダー、ポリアクリル酸塩系バインダー、ポリアクリル酸エステル系バインダー等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。特にPVdF系バインダーの性能が高い。PVdF系バインダーは、VdF以外の単量体に由来する単位を有する共重合体であってもよい。ポリマーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0033】
活物質複合粒子1の中心部1aに任意に含まれるポリマーについても、上述と同様であってよい。
【0034】
1.6.4 塩などのその他の成分
活物質複合粒子1は、上記の固体電解質、Si粒子及びポリマー(並びに空隙)のみからなるものであってもよく、これら以外のその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、各種の固体成分や液体成分等が挙げられる。例えば、活物質複合粒子1の表層部1bは、塩を含んでいてもよく、当該塩は、キャリアイオンを含んでいてもよい。表層部1bがキャリアイオン含有塩を含むことで、表層部1bのキャリアイオン伝導性が向上し、表層部1bの抵抗が低下し易い。表層部1bに占めるキャリアイオン含有塩の体積率VRは、例えば、0体積%以上又は0体積%超であってもよく、且つ、50体積%以下又は10体積%以下であってもよい。表層部1bに含まれる塩は、カチオンとアニオンとに解離していてもよいし、解離していなくてもよい。
【0035】
キャリアイオン含有塩は、カチオンとして少なくともキャリアイオンを含む塩である。キャリアイオンの種類は、活物質複合粒子1の用途(例えば、二次電池に適用される場合、当該二次電池のキャリアイオンの種類)に応じて選択され、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、又は、セシウムイオンであってよい。活物質複合粒子1がリチウムイオン電池に適用される場合、キャリアイオン含有塩はカチオンとして少なくともリチウムイオンを含む。また、キャリアイオン含有塩は、キャリアイオン以外のカチオンを含んでいてもよい。例えば、キャリアイオン含有塩は、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、ピリジニウムイオン、及び、ピロリジニウムイオンから選ばれる少なくとも1種のカチオンを含んでいてもよい。
【0036】
また、キャリアイオン含有塩は、各種のアニオンを含んでいてもよい。例えば、キャリアイオン含有塩は、ハロゲンイオン、ハライドイオン、硫酸水素イオン、スルホニルアミドイオン、及び、Hを含む錯イオンから選ばれる少なくとも1種のアニオンを含んでいてもよい。
【0037】
ハロゲンイオンは、例えば、臭素イオン及び塩素イオンのうちの一方又は両方であってもよい。
【0038】
スルホニルアミドアニオン(スルホニルイミドアニオンともいう。)は、例えば、トリフルオロメタンスルホニルアミドアニオン(TFSAアニオン、(CFSO)、フルオロスルホニルアミドアニオン(FSAアニオン、(FSO)、フルオロスルホニル(トリフルオロメタンスルホニル)アミドアニオン(FTAアニオン、FSO(CFSO)N)等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。スルホニルアミドアニオンは、1種のみであってもよいし、2種以上が組み合わされてもよい。尚、上記のスルホニルアミドアニオンのうち、TFSAアニオンは、極性が低く、他の材料との反応性が特に低い。この点、キャリアイオン含有塩がTFSAアニオンを有する場合、キャリアイオン含有塩と他の材料との反応が一層抑制され易い。
【0039】
Hを含む錯イオンは、例えば、非金属元素及び金属元素のうちの少なくとも一方を含む元素Mと、当該元素Mに結合したHと、を有するものであってもよい。また、Hを含む錯イオンは、中心元素としての元素Mと、当該元素Mを取り巻くHとが共有結合を介して互いに結合していてもよい。また、Hを含む錯イオンは、(Mα-で表されるものであってもよい。この場合のmは任意の正の数字であり、nやαはmや元素Mの価数等に応じて任意の正の数字を採り得る。元素Mは錯イオンを形成し得る非金属元素や金属元素であればよい。例えば、元素Mは、非金属元素としてB、C及びNのうちの少なくとも1つを含んでいてもよく、Bを含んでいてもよい。また、例えば、元素Mは、金属元素として、Al、Ni及びFeのうちの少なくとも1つを含んでいてもよい。特に錯イオンがBを含む場合や、C及びBを含む場合に、より高いイオン伝導性が確保され易い。Hを含む錯イオンの具体例としては、(CB10、(CB1112、(B10102-、(B12122-、(BH、(NH、(AlH、及び、これらの組み合わせが挙げられる。特に、(CB10、(CB1112、又は、これらの組み合わせを用いた場合に、より高いイオン伝導性が確保され易い。
【0040】
1.7 活物質複合粒子の粒子径
活物質複合粒子1は、固体電解質と複数のSi粒子とポリマーとを含む二次粒子とみなすことができる。複合粒子1の平均粒子径は、特に限定されるものではない。複合粒子1の平均粒子径は、100nm以上、1μm以上、2μm以上、又は、3μm以上であってもよく、20μm以下、15μm以下、又は、10μm以下であってもよい。複合粒子1の平均粒子径は、SEM等の電子顕微鏡による観察によって求めることができ、例えば、複数の複合粒子の最大フェレ径の平均値として求められる。サンプル数は、多いことが好ましく、例えば20以上であり、50以上であってもよく、100以上であってもよい。或いは、複合粒子1のみを取り出し、レーザー回折式粒子分布測定装置を用いて測定される複合粒子1の平均粒子径(D50、メジアン径)が、100nm以上、1μm以上、2μm以上、又は、3μm以上であってもよく、20μm以下、15μm以下、又は、10μm以下であってもよい。
【0041】
1.8 活物質複合粒子の構造及び形状
上述の通り、活物質複合粒子1は、固体電解質1ax及び複数のSi粒子1ayを含む中心部1aと、ポリマー1bxを含む表層部1bとを有するものであり、中心部1aと表層部1bとのコアシェル構造を有するものであってもよい。上述したように、活物質複合粒子1の断面を観察した場合に、ポリマーリッチな最外層とそれよりも内部の層との間に境界が観察される場合は、当該境界の外側の最外層を表層部1b、当該境界の内側(内部)を中心部1aとみなす。この場合、表層部1bは、例えば、10nm以上0.5μm以下の厚みを有していてもよい。また、活物質複合粒子1は、例えば、二次電池に適用される前の状態において、長径と短径とを有していてもよい。長径と短径との比(長径/短径)は、例えば、1.0以上又は1.1以上であってもよく、1.3以下又は1.2以下であってもよい。一方で、後述するように、活物質複合粒子1を二次電池の負極活物質層に適用する場合、活物質複合粒子1を含む負極活物質合材をプレスすることによって、負極活物質層が形成され得る。この際、複合粒子1は、プレス方向に潰れて、所定以上のアスペクト比を有するものとなり得る。複合粒子1が所定以上のアスペクト比を有する程度にプレスされることで、複合粒子内の接触抵抗、複合粒子同士の接触抵抗、及び、複合粒子と他の材料との接触抵抗等が低減され易い。具体的には、後述する負極の抵抗が一層小さくなる観点から、負極活物質層の断面を観察した場合に、下記抽出方法にて抽出される複数の複合粒子1のうちの半数以上(個数割合で50%以上)が、1.5以上のアスペクト比を有していてもよい。
【0042】
抽出方法:活物質層の断面を観察し、当該断面に含まれる複合粒子を、断面積の大きい順に抽出し、抽出された複合粒子の合計の面積が、当該断面に含まれるすべての複合粒子の合計の面積の80%を超えた時点で、抽出を終了する。
【0043】
尚、上記の抽出方法は、SEM等によって取得される活物質層の断面画像をもとに、画像解析によって行われるものであってよい。画像解析においては、画像に含まれる複合粒子を楕円近似したうえで、各々の複合粒子のアスペクト比が特定されてもよい。
【0044】
1.9 活物質複合粒子のキャリアイオン伝導性
上述したように、活物質複合粒子1の中心部1aは、固体電解質1axを含み、これにより優れたキャリアイオン伝導性を有する。一方、表層部1bは、ポリマー1bxを含み、且つ、キャリアイオン伝導性を有する。表層部1bにおいては、ポリマー1bxそのものがキャリアイオン伝導性を有していてもよいし、上述したようにポリマー1bxとキャリアイオン含有塩とを組み合わせることでキャリアイオン伝導性を発現させてもよい。例えば、ポリマーとしてのPVdF系バインダーは、それそのものがキャリアイオン伝導性を有するほか、当該PVdF系バインダーにキャリアイオン含有塩を組み合わせることで、さらに優れたキャリアイオン伝導性が確保され得る。尚、表層部1bのキャリアイオン伝導度は、当該表層部1bと同等の組成を有する材料を用いて実測によって特定されてもよいし、当該表層部1bの組成から計算によって特定されてもよい。
【0045】
2.電極
本開示の技術は、電極としての側面も有する。すなわち、本開示の電極は、本開示の活物質複合粒子1を含むものである。本開示の電極は、例えば、活物質複合粒子1と、前記活物質複合粒子1の周囲に配置された固体電解質とを含むものであってもよい。固体電解質の具体例については上述した通りである。電極において、活物質複合粒子1に含まれる固体電解質と、活物質複合粒子1の周囲に配置される固体電解質とは、互いに同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。以下、本開示の電極が二次電池の負極に適用された場合について例示する。
【0046】
3.二次電池
図2に一実施形態に係る二次電池100の構成を概略的に示す。図2に示されるように、二次電池100は、正極10、電解質層20及び負極30を有し、前記負極30が、上記の活物質複合粒子1を含む。二次電池100においては、前記負極30が、活物質複合粒子1と、前記活物質複合粒子1の周囲に配置された固体電解質とを含んでいてもよい。また、二次電池100においては、前記電解質層20が固体電解質を含んでいてもよい。また、二次電池100においては、前記正極10が固体電解質を含んでいてもよい。また、二次電池100においては、前記正極10、前記電解質層20及び前記負極30のすべてが固体電解質を含んでいてもよい。さらに、二次電池100は、固体電池であってもよい。固体電池とは、キャリアイオン伝導性を有する電解質が主に固体電解質によって構成されているものをいう。ただし、添加剤レベルで液体成分が含まれていてもよい。或いは、二次電池100は、液体成分を実質的に含まない全固体電池であってもよい。
【0047】
3.1 正極
正極10は、二次電池の正極として適切に機能し得るものであればよく、その構成は特に限定されるものではない。図2に示されるように、正極10は、正極活物質層11と正極集電体12とを備えるものであってよい。
【0048】
3.1.1 正極活物質層
正極活物質層11は、少なくとも正極活物質を含み、さらに任意に、電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてもよい。正極活物質層11はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。正極活物質層11における各成分の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、正極活物質層11全体(固形分全体)を100質量%として、正極活物質の含有量が40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上又は70質量%以上であってもよく、100質量%以下又は90質量%以下であってもよい。正極活物質層11の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の正極活物質層であってもよい。正極活物質層11の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上又は10μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下又は500μm以下であってもよい。
【0049】
正極活物質としては、二次電池の正極活物質として公知のものを用いればよい。公知の活物質のうち、所定のキャリアイオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵放出する電位(充放電電位)が相対的に貴である物質を正極活物質として用いることができる。正極活物質は、例えば、各種のリチウム含有化合物、単体硫黄及び硫黄化合物等から選ばれる少なくとも1種であってもよい。正極活物質としてのリチウム含有化合物は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、Li1±αNi1/3Co1/3Mn1/32±δ、マンガン酸リチウム、スピネル系リチウム化合物(Li1+xMn2-x-y(MはAl、Mg、Co、Fe、Ni及びZnから選ばれる一種以上)で表わされる組成の異種元素置換Li-Mnスピネル等)、チタン酸リチウム、リン酸金属リチウム(LiMPO等、MはFe、Mn、Co及びNiから選ばれる一種以上)等の各種のリチウム含有酸化物であってもよい。特に、正極活物質が、構成元素として、少なくとも、Liと、Ni、Co及びMnのうちの少なくとも一つと、Oとを含むリチウム含有酸化物を含む場合に、一層高い効果が期待できる。正極活物質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0050】
正極活物質の形状は、電池の正極活物質として一般的な形状であればよい。正極活物質は、例えば、粒子状であってもよい。正極活物質は、中実のものであってもよく、中空のものであってもよく、空隙を有するものであってもよく、多孔質であってもよい。正極活物質は、一次粒子であってもよいし、複数の一次粒子が凝集した二次粒子であってもよい。正極活物質の平均粒子径D50は、例えば1nm以上、5nm以上又は10nm以上であってもよく、また500μm以下、100μm以下、50μm以下又は30μm以下であってもよい。尚、本願にいう平均粒子径D50とは、レーザー回折・散乱法によって求めた体積基準の粒度分布における積算値50%での粒子径(メジアン径)である。
【0051】
正極活物質の表面には、イオン伝導性酸化物を含有する保護層が形成されていてもよい。これにより、正極物活物質と硫化物(例えば、硫化物固体電解質)との反応等が抑制され易くなる。イオン伝導性酸化物としては、例えば、LiBO、LiBO、LiCO、LiAlO、LiSiO、LiSiO、LiPO、LiSO、LiTiO、LiTi12、LiTi、LiZrO、LiNbO、LiMoO、LiWOなど挙げられる。イオン伝導性酸化物は、PやB等のドープ元素によって一部の元素が置換されたものであってもよい。正極活物質の表面に対する保護層の被覆率(面積率)は、例えば、70%以上であってもよく、80%以上であってもよく、90%以上であってもよい。保護層の厚さは、例えば、0.1nm以上又は1nm以上であってもよく、100nm以下又は20nm以下であってもよい。
【0052】
正極活物質層11に含まれ得る電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。特に、正極活物質層11が電解質として少なくとも固体電解質を含む場合に、一層高い効果が得られ易い。
【0053】
固体電解質は、二次電池の固体電解質として公知のものを用いればよい。固体電解質は無機固体電解質であっても、有機ポリマー電解質であってもよい。特に、無機固体電解質は、イオン伝導度が高く、耐熱性に優れる。無機固体電解質としては、例えば、ランタンジルコン酸リチウム、LiPON、Li1+XAlGe2-X(PO、Li-SiO系ガラス、Li-Al-S-O系ガラス等の酸化物固体電解質;LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-SiS-P、LiS-P-LiI-LiBr、LiI-LiS-P、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P、LiS-P-GeS等の硫化物固体電解質を例示することができる。特に、硫化物固体電解質、中でも構成元素として少なくともLi、S及びPを含む硫化物固体電解質の性能が高い。固体電解質は、非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。固体電解質は例えば粒子状であってもよい。固体電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0054】
電解液は、所定のキャリアイオン(例えば、リチウムイオン)を含み得る。電解液は、例えば、非水系電解液であってよい。電解液の組成は二次電池の電解液の組成として公知のものと同様とすればよい。例えば、電解液として、カーボネート系溶媒にリチウム塩を所定濃度で溶解させたものを用いることができる。カーボネート系溶媒としては、例えば、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、ジメチルカーボネート(DMC)などが挙げられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF等が挙げられる。
【0055】
正極活物質層11に含まれ得る導電助剤としては、例えば、気相法炭素繊維(VGCF)やアセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)やカーボンナノチューブ(CNT)やカーボンナノファイバー(CNF)等の炭素材料;ニッケル、アルミニウム、ステンレス鋼等の金属材料が挙げられる。導電助剤は、例えば、粒子状又は繊維状であってもよく、その大きさは特に限定されるものではない。導電助剤は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0056】
正極活物質層11に含まれ得るバインダーとしては、例えば、ブタジエンゴム(BR)系バインダー、ブチレンゴム(IIR)系バインダー、アクリレートブタジエンゴム(ABR)系バインダー、スチレンブタジエンゴム(SBR)系バインダー、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)系バインダー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)系バインダー、ポリイミド(PI)系バインダー等が挙げられる。バインダーは1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0057】
3.1.2 正極集電体
図2に示されるように、正極10は、上記の正極活物質層11と接触する正極集電体12を備えていてもよい。正極集電体12は、電池の正極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、正極集電体12は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。正極集電体12は、金属箔又は金属メッシュによって構成されていてもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。正極集電体12は、複数枚の箔からなっていてもよい。正極集電体12を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、酸化耐性を確保する観点等から、正極集電体12がAlを含むものであってもよい。正極集電体12は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、正極集電体12は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、正極集電体12が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔間に何らかの層を有していてもよい。正極集電体12の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0058】
3.2 電解質層
電解質層20は、正極10と負極30との間に配置され、セパレータとして機能し得る。電解質層20は、少なくとも電解質を含み、さらに任意に、バインダー等を含んでいてもよい。電解質層20は、さらに、各種の添加剤を含んでいてもよい。電解質層20における各成分の含有量は特に限定されず、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。電解質層20の形状は特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状であってもよい。電解質層20の厚みは特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、2mm以下又は1mm以下であってもよい。
【0059】
3.2.1 電解質
電解質層20に含まれる電解質としては、上述の正極活物質層に含まれ得る電解質として例示されたものの中から適宜選択されればよい。特に、固体電解質、中でも硫化物固体電解質、さらにその中でも構成元素として少なくともLi、S及びPを含む硫化物固体電解質を含む電解質層20の性能が高い。電解質が固体電解質である場合、当該固体電解質は非晶質であってもよいし、結晶であってもよい。電解質が固体電解質である場合、当該固体電解質は例えば粒子状であってもよい。電解質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。また、電解質層20に含まれる電解質と正極活物質層11に含まれる電解質とは、互いに同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。
【0060】
3.2.2 バインダー
電解質層20に含まれ得るバインダーは、例えば、上述の正極活物質層に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。電解質層20に含まれるバインダーと正極活物質層11に含まれるバインダーとは、互いに同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。
【0061】
3.3 負極
負極30は、上記の活物質複合粒子1を含み、且つ、二次電池の負極として適切に機能し得るものであればよく、その構成は特に限定されるものではない。図2に示されるように、負極30は、負極活物質層31と負極集電体32とを備えるものであってよい。
【0062】
3.3.1 負極活物質層
負極活物質層31は、少なくとも活物質複合粒子1を含み、さらに任意に、その他の活物質、電解質、導電助剤及びバインダー等を含んでいてもよい。負極活物質層31はその他に各種の添加剤を含んでいてもよい。負極活物質層31における各成分の含有量は、目的とする電池性能に応じて適宜決定されればよい。例えば、負極活物質層31全体(固形分全体)を100質量%として、活物質複合粒子1の含有量が40質量%以上、50質量%以上、60質量%以上又は70質量%以上であってもよく、100質量%以下又は90質量%以下であってもよい。負極活物質層31の形状は、特に限定されるものではなく、例えば、略平面を有するシート状の負極活物質層であってもよい。負極活物質層31の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、0.1μm以上、1μm以上又は10μm以上であってもよく、2mm以下、1mm以下又は500μm以下であってもよい。
【0063】
活物質複合粒子1については、上述の通りである。尚、負極活物質層31において、活物質複合粒子1がプレスされた状態で含まれていてもよい。すなわち、活物質複合粒子1を二次電池100の負極活物質層31に適用する場合、活物質複合粒子1を含む負極活物質合材をプレスすることによって、負極活物質層31が形成され得る。この際、複合粒子1は、プレス方向に潰れて、所定以上のアスペクト比を有するものとなり得る。複合粒子1が所定以上のアスペクト比を有する程度にプレスされることで、複合粒子1内の接触抵抗、複合粒子1同士の接触抵抗、及び、複合粒子1と他の材料との接触抵抗等が低減され易い。この場合の複合粒子1のアスペクト比の一例については、上述した通りである。
【0064】
活物質複合粒子1以外の負極活物質としては、二次電池の負極活物質として公知のものを用いればよい。公知の活物質のうち、所定のキャリアイオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵放出する電位(充放電電位)が相対的に卑である物質を負極活物質として用いることができる。その他の負極活物質は1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。二次電池の性能を一層高める観点からは、負極活物質層31に含まれる負極活物質全体に占める活物質複合粒子1の割合が高いほうがよい。例えば、活物質複合粒子1とその他の負極活物質との合計を100質量%として、活物質複合粒子1が50質量%以上、60質量%以上70質量%以上、80質量%以上、90質量%以上、又は95質量%以上含まれていてもよい。上限は100質量%である。
【0065】
負極活物質層31に含まれ得る電解質は、固体電解質であってもよく、液体電解質(電解液)であってもよく、これらの組み合わせであってもよい。特に、負極活物質層31が電解質として少なくとも固体電解質を含む場合に、一層高い効果が得られ易い。すなわち、負極30は、活物質複合粒子1とその周囲に配置された固体電解質とを含み得る。負極活物質層31は、固体電解質、中でも硫化物固体電解質、さらにその中でも構成元素としてLi、S及びPを含む硫化物固体電解質、を含むものであってもよい。負極活物質層31に含まれる電解質と正極活物質層11や電解質層20に含まれる電解質とは、互いに同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。負極活物質層31に含まれ得る導電助剤としては上述の炭素材料や上述の金属材料等が挙げられる。負極活物質層31に含まれる導電助剤と正極活物質層11に含まれる導電助剤とは、互いに同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。負極活物質層31に含まれ得るバインダーは、例えば、上述の正極活物質層11に含まれ得るバインダーとして例示したものの中から適宜選択されればよい。負極活物質層31に含まれるバインダーと正極活物質層11や電解質層20に含まれるバインダーとは、互いに同じ種類であっても、異なる種類であってもよい。
【0066】
3.3.2 負極集電体
図2に示されるように、負極30は、上記の負極活物質層31と接触する負極集電体32を備えていてもよい。負極集電体32は、電池の負極集電体として一般的なものをいずれも採用可能である。また、負極集電体32は、箔状、板状、メッシュ状、パンチングメタル状、及び、発泡体等であってよい。負極集電体32は、金属箔又は金属メッシュであってもよく、或いは、カーボンシートであってもよい。特に、金属箔が取扱い性等に優れる。負極集電体32は、複数枚の箔やシートからなっていてもよい。負極集電体32を構成する金属としては、Cu、Ni、Cr、Au、Pt、Ag、Al、Fe、Ti、Zn、Co、ステンレス鋼等が挙げられる。特に、還元耐性を確保する観点及びリチウムと合金化し難い観点から、負極集電体32がCu、Ni及びステンレス鋼から選ばれる少なくとも1種の金属を含むものであってもよい。負極集電体32は、その表面に、抵抗を調整すること等を目的として、何らかのコート層を有していてもよい。また、負極集電体32は、金属箔や基材に上記の金属がめっき又は蒸着されたものであってもよい。また、負極集電体32が複数枚の金属箔からなる場合、当該複数枚の金属箔の間に何らかの層を有していてもよい。負極集電体32の厚みは特に限定されるものではない。例えば、0.1μm以上又は1μm以上であってもよく、1mm以下又は100μm以下であってもよい。
【0067】
3.4 その他の構成
二次電池100は、上記の各構成が外装体の内部に収容されたものであってもよい。外装体は、電池の外装体として公知のものをいずれも採用可能である。また、複数の二次電池100が、任意に電気的に接続され、また、任意に重ね合わされて、組電池とされていてもよい。この場合、公知の電池ケースの内部に当該組電池が収容されてもよい。二次電池100は、このほか必要な端子等の自明な構成を備えていてよい。二次電池100の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
【0068】
4.二次電池の製造方法
二次電池100は、公知の方法を応用することで製造することができる。例えば以下のようにして製造することができる。ただし、二次電池100の製造方法は、以下の方法に限定されるものではなく、例えば、乾式成形等によって各層が形成されてもよい。
(1)負極活物質層を構成する活物質複合粒子等を溶媒に分散させて負極スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。その後、ドクターブレード等を用いて、負極スラリーを負極集電体或いは後述の電解質層の表面に塗工し、その後乾燥させることで、負極集電体或いは電解質層の表面に負極活物質層を形成し、負極とする。ここで、負極活物質層がプレス成形されてもよい。
(2)正極活物質層を構成する正極活物質等を溶媒に分散させて正極スラリーを得る。この場合に用いられる溶媒としては、特に限定されるものではなく、水や各種有機溶媒を用いることができる。その後、ドクターブレード等を用いて、正極スラリーを正極集電体或いは後述の電解質層の表面に塗工し、その後乾燥させることで、正極集電体或いは電解質層の表面に正極活物質層を形成し、正極とする。ここで、正極活物質層はプレス成形されてもよい。
(3)負極と正極とで電解質層を挟み込むように各層を積層し、負極集電体、負極活物質層、電解質層、正極活物質層及び正極集電体をこの順に有する積層体を得る。電解質層は、例えば、電解質とバインダーとを含む電解質合剤を成形して得られたものであってよく、プレス成形されて得られたものであってもよい。ここで、さらに積層体がプレス成形されてもよい。積層体には必要に応じて端子等のその他の部材が取り付けられる。電解液を用いる場合は、電解質層にセパレータを採用してもよい。
(4)積層体を電池ケースに収容して密封することで、二次電池が得られる。
【0069】
5.活物質複合粒子の製造方法
上記本開示の活物質複合粒子は、例えば、図3に示されるような流れで製造することができる。すなわち、図3に示されるように、本開示の活物質複合粒子の製造方法は、固体電解質と複数のSi粒子とを混合して、中間複合粒子を得ること(工程S1)、及び、ポリマーを含み、且つ、キャリアイオン伝導性を有する材料によって、前記中間複合粒子の周囲を被覆すること(工程S2)を含む。
【0070】
5.1 工程S1
工程S1においては、固体電解質と複数のSi粒子とが混合されて、中間複合粒子が得られる。固体電解質と複数のSi粒子とを混合する際は、ポリマーを用いてもよい。これにより、固体電解質と複数のSi粒子との複合化がより容易となる。固体電解質と複数のSi粒子との混合は、粉体同士の乾式混合であってもよいし、溶媒等を用いた湿式混合であってもよい。混合手段に特に制限はなく、乳鉢等を用いて手作業で混合されてもよいし、各種の混合装置によって機械的に混合されてもよい。工程S1を経て得られる中間複合粒子は、上述の活物質複合粒子1の中心部1aを構成し得る。中間複合粒子の形態や組成(各成分の比率(体積率))については、中心部1aに関して説明ものと同様であってよい。
【0071】
5.2 工程S2
工程S2においては、ポリマーを含み、且つ、キャリアイオン伝導性を有する材料によって、中間複合粒子の周囲が被覆される。すなわち、中心部1aを構成する中間複合粒子の周囲に表層部1bを構成するポリマー等の材料が配置される。これにより、中心部1aと表層部1bとを有する活物質複合粒子1が得られる。工程S2において、ポリマーそのものがキャリアイオン伝導性を有する場合、当該材料はポリマーのみからなるものであってもよい。或いは、上述したように、当該材料は、ポリマーとキャリアイオン含有塩とが組み合わされたものであってもよい。工程S2において、当該材料によって中間複合粒子の周囲を被覆する手段は、特に限定されるものではない。例えば、粉体同士の乾式混合によって中間複合粒子の表面に当該材料を付着させることで、中間複合粒子の周囲を当該材料によって被覆してもよい。この場合、混合手段に特に制限はなく、乳鉢等を用いて手作業で混合されてもよいし、各種の混合装置によって機械的に混合されてもよい。或いは、当該材料を溶媒に溶解させて溶液を作製し、中間複合粒子の表面に当該溶液を接触させたうえで乾燥することによって、中間複合粒子の周囲を当該材料によって被覆してもよい。この場合、溶媒の種類については特に限定されるものではない。また、中間複合粒子の表面に当該溶液を接触させる手段についても特に限定されるものではない。工程S2を経て得られる活物質複合粒子1は、上記の中間複合粒子から構成された中心部1aと、上記のポリマー等から構成された表層部1bとを有する。表層部1bの形態や組成(各成分の比率(体積率))については、上述した通りである。
【0072】
6.二次電池の充放電方法及び二次電池のサイクル特性を改善する方法
本開示の活物質複合粒子が二次電池の負極に含まれる場合、当該二次電池のサイクル特性が改善され易い。すなわち、本開示の二次電池の充放電方法や二次電池のサイクル特性を改善する方法は、前記二次電池の充電及び放電を繰り返すことを含み、前記二次電池が、正極、電解質層及び負極を有し、前記負極が、本開示の活物質複合粒子を含むことを特徴とする。
【0073】
7.二次電池を有する車両
上述の通り、本開示の活物質複合粒子が二次電池の負極に含まれる場合、当該二次電池のサイクル特性の改善が期待できる。このように充放電サイクル特性に優れる二次電池は、例えば、ハイブリッド車(HEV)、プラグインハイブリッド車(PHEV)及び電気自動車(BEV)から選ばれる少なくとも1種の車両において好適に使用され得る。すなわち、本開示の技術は、二次電池を有する車両であって、前記二次電池が、正極、電解質層及び負極を有し、前記負極が、本開示の活物質複合粒子を含むもの、としての側面も有する。
【実施例
【0074】
以下、実施例を示しつつ、本開示の技術についてさらに詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0075】
1.実施例1
1.1 中間複合粒子の作製
PVdF系バインダーを5質量%の割合で含有する酪酸ブチル溶液と、平均粒径D50が0.1μmである硫化物固体電解質材料(LiS-P系ガラスセラミックス)とを、溶液中のPVdF系バインダーと硫化物固体電解質材料とが所定の体積比率になるように秤量し、ポリプロピレン(PP)製容器に入れ、さらに酪酸ブチルを添加したうえで、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌した。その後、振とう器(柴田科学株式会社制、TTM-1)で3分間振とうした。これによりポリマー電解質溶液A1を得た。得られたポリマー電解質溶液A1とSi粒子(平均粒子径D50:0.5μm)とを用いて、硫化物固体電解質材料とPVdF系バインダーとSi粒子とが7.09:1.67:91.2の体積比率になるように秤量し、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で混錬後、シャーレ上にキャストし、乾燥することで、硫化物固体電解質と複数のSi粒子とPVdF系バインダーとを含む中間複合粒子C1を得た。
【0076】
1.2 被覆用溶液の作製
PVdF系バインダーを5質量%の割合で含有する酪酸ブチル溶液と、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、LiTFSAともいう。)とを、溶液中のPVdF系バインダーとLiTFSIとが2.81:1の体積比率になるように秤量し、ポリプロピレン(PP)製容器に入れ、さらに酪酸ブチルを添加したうえで、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌した。その後、振とう器(柴田科学株式会社制、TTM-1)で3分間振とうした。これにより被覆用のポリマー電解質溶液B1を得た。
【0077】
1.3 活物質複合粒子の作製
中間複合粒子C1と、ポリマー電解質溶液B1とを用いて、硫化物固体電解質とPVdF系バインダーとLiTFSIとSi粒子とが、6.87:3.95:0.84:88.3の体積比率になるように秤量し、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で混錬後、シャーレ上にキャストし、乾燥することで、実施例1に係る活物質複合粒子を得た。実施例1に係る活物質複合粒子は、中心部と表層部とを有し、中心部が、硫化物固体電解質と複数のSi粒子とを含み、表層部が、PVdF系バインダーを含み、且つ、キャリアイオン伝導性を有し、表層部に占めるPVdF系バインダーの比率が、中心部に占めるPVdF系バインダーの比率よりも高いものであった。
【0078】
2.実施例2
2.1 中間複合粒子の作製
PVdF系バインダーを5質量%の割合で含有する酪酸ブチル溶液と、平均粒径D50が0.1μmである硫化物固体電解質材料(LiS-P系ガラスセラミックス)とを、溶液中のPVdF系バインダーと硫化物固体電解質材料とが所定の体積比率になるように秤量し、ポリプロピレン(PP)製容器に入れ、さらに酪酸ブチルを添加したうえで、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌した。その後、振とう器(柴田科学株式会社制、TTM-1)で3分間振とうした。これによりポリマー電解質溶液A2を得た。得られたポリマー電解質溶液A2とSi粒子(平均粒子径D50:0.5μm)とを用いて、硫化物固体電解質材料とPVdF系バインダーとSi粒子とが5.11:2.81:92.07の体積比率になるように秤量し、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で混錬後、シャーレ上にキャストし、乾燥することで、硫化物固体電解質と複数のSi粒子とPVdF系バインダーとを含む中間複合粒子C2を得た。
【0079】
2.2 被覆用溶液の作製
PVdF系バインダーを5質量%の割合で含有する酪酸ブチル溶液と、LiTFSI(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)とを、溶液中のPVdF系バインダーとLiTFSIとが1.52:1の体積比率になるように秤量し、ポリプロピレン(PP)製容器に入れ、さらに酪酸ブチルを添加したうえで、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で30秒間撹拌した。その後、振とう器(柴田科学株式会社制、TTM-1)で3分間振とうした。これにより被覆用のポリマー電解質溶液B2を得た。
【0080】
2.3 活物質複合粒子の作製
中間複合粒子C2と、ポリマー電解質溶液B2とを用いて、硫化物固体電解質とPVdF系バインダーとLiTFSIとSi粒子とが、5.01:4.03:0.84:90.12の体積比率になるように秤量し、超音波分散装置(エスエムテー製UH-50)で混錬後、シャーレ上にキャストし、乾燥することで、実施例2に係る活物質複合粒子を得た。実施例2に係る活物質複合粒子は、中心部と表層部とを有し、中心部が、硫化物固体電解質と複数のSi粒子とを含み、表層部が、PVdF系バインダーを含み、且つ、キャリアイオン伝導性を有し、表層部に占めるPVdF系バインダーの比率が、中心部に占めるPVdF系バインダーの比率よりも高いものであった。
【0081】
3.負極の作製
3.1 比較例
気相成長法炭素繊維(VGCF)とBR系バインダーとメシチレンとをホモジナイザーで混合後、硫化物固体電解質材料を添加しホモジナイザーで混合し、最後にSi粒子を添加してホモジナイザーで攪拌することで負極スラリーを作製した。Si粒子と硫化物固体電解質材料とVGCFとBR系バインダーとの質量比は、100:77.6:5:8とした。この負極スラリーを、ブレード法によって、負極集電箔としてのCu箔上に塗工し、その後、ホットプレート上で100℃にて30分間乾燥させることで、比較例に係る負極を得た。
【0082】
3.2 実施例1
Si粒子に替えて上記の実施例1に係る活物質複合粒子を使用した。具体的には、VGCFとBR系バインダーとメシチレンとをホモジナイザーで混合後、硫化物固体電解質材料を添加しホモジナイザーで混合し、最後に実施例1に係る活物質複合粒子を添加してホモジナイザーで攪拌することで負極スラリーを作製した。Si粒子と硫化物固体電解質材料(複合粒子中のものも含む)とVGCFとPVdF系バインダーとLiTFSIとBR系バインダーとの質量比は、100:77.6:4.6:6.4:0.6:1.5とした。この負極スラリーを比較例と同様の方法でCu箔上に塗工して乾燥させることで、実施例1に係る負極を得た。
【0083】
3.3 実施例2
Si粒子に替えて上記の実施例2に係る活物質複合粒子を使用した。具体的には、VGCFとBR系バインダーとメシチレンとをホモジナイザーで混合後、硫化物固体電解質材料を添加しホモジナイザーで混合し、最後に実施例2に係る活物質複合粒子を添加してホモジナイザーで攪拌することで負極スラリーを作製した。Si粒子と硫化物固体電解質材料(複合粒子中のものも含む)とVGCFとPVdF系バインダーとLiTFSIとBR系バインダーとの質量比は、100:77.6:4.6:6.4:0.6:1.5とした。この負極スラリーを比較例と同様の方法でCu箔上に塗工して乾燥させることで、実施例2に係る負極を得た。
【0084】
4.正極の作製
NCA系正極活物質と、硫化物固体電解質材料と、VGCFと、PVdF系バインダーと、酪酸ブチルとを超音波分散装置によって攪拌することで正極スラリーを作製した。ここで、NCA系正極活物質と硫化物固体電解質材料とVGCFとPVdF系バインダーとの質量比は、100:16:2:0.75とした。この正極スラリーを、ブレード法によって、正極集電箔としてのAl箔上に塗工し、その後、ホットプレート上で100℃にて30分間乾燥させることで、正極を得た。
【0085】
5.固体電解質層の作製
硫化物固体電解質材料と、PVdF系バインダーと、酪酸ブチルとを超音波分散装置によって攪拌することで固体電解質スラリーを作製した。ここで硫化物固体電解質材料とPVdF系バインダーとの質量比は、99.6:0.4とした。この固体電解質スラリーを、ブレード法によってAl箔上に塗工し、その後、ホットプレート上で100℃にて30分間乾燥させることで剥離可能な固体電解質層を得た。
【0086】
6.正極積層体の作製
上記の正極と固体電解質層とを合材面が重なるように積層した。ロールプレス機で50kN/cmの圧力及び160℃の温度でプレスした後、固体電解質層からAl箔を剥がし、1cmの大きさに打ち抜くことにより正極積層体を得た。
【0087】
7.負極積層体の作製
上記の比較例、実施例1又は実施例2に係る負極と固体電解質層とを合材面が重なるように積層した。ロールプレス機で30kN/cmの圧力及び常温でプレスした後、固体電解質層からAl箔を剥がすことで、第1積層体を得た。さらに、第1積層体の固体電解質側に、追加の固体電解質層を積層して第2積層体を得た。第2積層体を平面1軸プレス機で100MPaの圧力及び25℃の温度で仮プレスした後、固体電解質層からAl箔を剥がし、1.08cmの大きさに打ち抜くことにより、追加の固体電解質層を有する負極積層体を得た。
【0088】
8.電池積層体の作製
上記の正極積層体と、負極積層体とを、固体電解質層の合材面同士が重なるように積層して、中間積層体を得た。この中間積層体を平面1軸プレス機で400MPaの圧力及び135℃の温度でプレスし、電池積層体を得た。
【0089】
9.電池積層体の拘束及び充放電
上記のようにして得られた電池積層体を、2枚の拘束板の間に挟み、これらの2枚の拘束板を、締結具によって1MPaの拘束圧で締め付けて、これら2枚の拘束板の間の距離を固定した。この拘束済みの電池積層体に、1/10C、4.55Vまでの定電流充電と、その後、4.55V、終止電流1/100Cまでの定電圧充電とを行い、さらに、1/10C、3Vまでの定電流放電と、その後、3Vから4.55Vの間で、1/3Cで定電流、終止電流1/100Cまでの定電圧充放電を2回行った。
【0090】
10.抵抗測定
3.7Vに1/100Cまでの定電圧で調整後、電池抵抗を測定した。抵抗の測定は、25℃に設定した恒温槽に3h放置後、電気化学測定装置(VMP3、Biologic社)で0.1から1MHzまでの周波数、電圧振り幅10mVで実施し、この時のインピーダンス抵抗を評価した。
【0091】
11.耐久試験後の抵抗測定
25℃恒温槽で2C、3.14Vから4.17Vの範囲で定電流充放電を1週間実施し、その後、上記と同様にして電池抵抗を測定した。耐久前の抵抗値と耐久後の抵抗値とに基づいて、以下の式から抵抗増加率を算出した。
[抵抗増加率]=([耐久後抵抗]/[耐久前抵抗])×100
【0092】
12.評価結果
下記表1に、比較例、実施例1及び2の各々の電池についての抵抗増加率を比較した結果を示す。下記表1においては、比較例1に係る電池の抵抗増加率を100として、実施例1及び2に係る電池の各々の抵抗増加率を相対化して示した。
【0093】
【表1】
【0094】
表1に示される結果から明らかなように、実施例1、2に係る活物質複合粒子を用いて負極及び電池を構成した場合、耐久前後の抵抗増加率を低く抑えることができた。すなわち、実施例1、2に係る活物質複合粒子によれば、優れたサイクル特性が発揮されることが分かった。これは以下の理由によるものと考えられる。
【0095】
実施例1、2に係る活物質複合粒子は、上述の通り、その中心部1aに、固体電解質が含まれる。中心部が固体電解質を含むことで、中心部におけるキャリアイオン伝導性が高まるものと考えられる。これにより、充放電時、中心部におけるSi粒子の反応ムラが抑制され易くなり、充放電に伴うSi粒子の割れ等が抑制され易くなるものと考えられる。結果として、優れたサイクル特性が発揮されたものと考えられる。
【0096】
また、実施例1、2に係る活物質複合粒子は、上述の通り、その表層部に占めるポリマーの比率が中心部に占めるポリマーの比率よりも高い。これにより、充電によってSiが膨張した場合でも、複合粒子全体としての体積変化が表層部のポリマーによって緩和され、複合粒子全体としての形状が保持され易いものと考えられる。また、表層部におけるポリマーの比率が高いことで、充電によってSiが膨張した場合でも、表層部のポリマーがクッション材として機能し、複合粒子の周囲の材料に割れや隙間が生じ難いものと考えられる。結果として、優れたサイクル特性が発揮されたものと考えられる。
【0097】
以上の通り、活物質複合粒子であって、中心部と表層部とを有し、前記中心部が、固体電解質と複数のSi粒子とを含み、前記表層部が、ポリマーを含み、且つ、キャリアイオン伝導性を有し、前記表層部に占めるポリマーの比率が、前記中心部に占めるポリマーの比率よりも高いものは、サイクル特性に優れたものといえる。
【符号の説明】
【0098】
1 活物質複合粒子
1a 中心部
1ax 固体電解質
1ay Si粒子
1b 表層部
10 正極
11 正極活物質層
12 正極集電体
20 電解質層
30 負極
31 負極活物質層
32 負極集電体
100 二次電池
図1A
図1B
図2
図3