(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】双極板、電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池
(51)【国際特許分類】
H01M 8/18 20060101AFI20240827BHJP
H01M 8/0206 20160101ALI20240827BHJP
H01M 8/0213 20160101ALI20240827BHJP
H01M 8/0221 20160101ALI20240827BHJP
H01M 8/0226 20160101ALI20240827BHJP
H01M 8/0228 20160101ALI20240827BHJP
H01M 8/0247 20160101ALI20240827BHJP
【FI】
H01M8/18
H01M8/0206
H01M8/0213
H01M8/0221
H01M8/0226
H01M8/0228
H01M8/0247
(21)【出願番号】P 2022516831
(86)(22)【出願日】2020-10-21
(86)【国際出願番号】 JP2020039572
(87)【国際公開番号】W WO2021215030
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2020/017492
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100116366
【氏名又は名称】二島 英明
(72)【発明者】
【氏名】中石 博之
(72)【発明者】
【氏名】桑原 雅裕
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-231772(JP,A)
【文献】特開2000-200618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レドックスフロー電池に利用される双極板であって、
電極が配置される第一の領域と、
前記第一の領域よりも外縁側に位置する第二の領域とを備え、
前記第一の領域は、導電材と樹脂とを含む複合材料から構成されており、
前記第二の領域は、補強層と、第一の表層部と、第二の表層部と、を備え、
前記補強層は、前記双極板の厚さ方向に並ぶように、前記第一の表層部と前記第二の表層部との間に配置されており、
前記補強層の破断伸びが
1.0%以上であり、かつ前記複合材料の破断伸びよりも高
く、
前記補強層は、単層の樹脂層、または一層以上の樹脂層と一層以上の金属層とが前記双極板の厚さ方向に積層された複合層を含み、
前記第一の表層部及び前記第二の表層部は、前記複合材料から構成されており、
前記複合材料に含まれる前記樹脂、及び前記樹脂層を構成する樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリフェニレンスルフィドからなる群より選択される一種以上の熱可塑性樹脂を含む、
双極板。
【請求項2】
前記複合材料に含まれる前記樹脂、及び前記樹脂層を構成する前記樹脂は、同種の熱可塑性樹脂である、請求項
1に記載の双極板。
【請求項3】
前記補強層を前記双極板の厚さ方向から透視した平面形状が環状である、請求項1
または請求項2に記載の双極板。
【請求項4】
前記第二の領域は、厚さが異なる段差部を有し、
前記段差部は、高段部と、前記高段部よりも前記外縁側に配置された低段部とを有し、
前記補強層の少なくとも一部は、前記低段部に配置されている、請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の双極板。
【請求項5】
前記補強層は、第一の箇所と、第二の箇所とを備え、
前記第一の箇所は、前記低段部に配置されており、
前記第二の箇所は、前記高段部と前記低段部との境界から前記第一の領域側に向かって延びており、
前記第二の箇所における前記境界から前記第一の領域側に突出する長さは、前記補強層の幅の1%以上50%以下である、請求項
4に記載の双極板。
【請求項6】
レドックスフロー電池に利用される双極板であって、
電極が配置される第一の領域と、
前記第一の領域よりも外縁側に位置する第二の領域とを備え、
前記第一の領域は、導電材と樹脂とを含む複合材料から構成されており、
前記第二の領域は、補強層と、第一の表層部と、第二の表層部と、を備え、
前記補強層は、前記双極板の厚さ方向に並ぶように、前記第一の表層部と前記第二の表層部との間に配置されており、
前記補強層の破断伸びが前記複合材料の破断伸びよりも高
く、
前記補強層を前記双極板の厚さ方向から透視した平面形状が環状である、
双極板。
【請求項7】
レドックスフロー電池に利用される双極板であって、
電極が配置される第一の領域と、
前記第一の領域よりも外縁側に位置する第二の領域とを備え、
前記第一の領域は、導電材と樹脂とを含む複合材料から構成されており、
前記第二の領域は、補強層と、第一の表層部と、第二の表層部と、を備え、
前記補強層は、前記双極板の厚さ方向に並ぶように、前記第一の表層部と前記第二の表層部との間に配置されており、
前記補強層の破断伸びが前記複合材料の破断伸びよりも高
く、
前記第二の領域は、厚さが異なる段差部を有し、
前記段差部は、高段部と、前記高段部よりも前記外縁側に配置された低段部とを有し、
前記補強層の少なくとも一部は、前記低段部に配置されており、
前記補強層は、第一の箇所と、第二の箇所とを備え、
前記第一の箇所は、前記低段部に配置されており、
前記第二の箇所は、前記高段部と前記低段部との境界から前記第一の領域側に向かって延びており、
前記第二の箇所における前記境界から前記第一の領域側に突出する長さは、前記補強層の幅の1%以上50%以下である、
双極板。
【請求項8】
前記補強層の破断伸びが1.0%以上である、
請求項6または請求項7に記載の双極板。
【請求項9】
前記補強層は、単層の樹脂層、単層の金属層、及び一層以上の樹脂層と一層以上の金属層とが前記双極板の厚さ方向に積層された複合層からなる群より選択される一つ以上を含む、請求項
8に記載の双極板。
【請求項10】
前記補強層の全体が前記第一の表層部及び前記第二の表層部に覆われている、請求項1から請求項
9のいずれか1項に記載の双極板。
【請求項11】
前記補強層の厚さが0.01mm以上である、請求項1から請求項
10のいずれか1項に記載の双極板。
【請求項12】
前記導電材は、炭素系材料を含む、請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の双極板。
【請求項13】
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の双極板を備える、
電池セル。
【請求項14】
請求項13に記載の電池セルを複数備える、
セルスタック。
【請求項15】
請求項13に記載の電池セル、又は請求項14に記載のセルスタックを備える、
レドックスフロー電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、双極板、電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池に関する。
本出願は、2020年04月23日付の国際出願のPCT/JP2020/017492に基づく優先権を主張し、前記国際出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄電池の一つに、レドックスフロー電池がある。レドックスフロー電池は、代表的には、正極電極、隔膜、負極電極という順に並ぶ積層物を一つ又は複数備える。特許文献1の
図10、特許文献2の
図8に例示されるように、一つの上記積層物は二つのセルフレームに挟まれる。上記積層物を挟む両セルフレームは、所定の圧力で締め付けられる。この締付力により、上記積層物は、積層状態に維持される。
【0003】
一つのセルフレームは、双極板と、枠体とを備える。複数の上記積層物を備えるレドックスフロー電池では、双極板の二面のうち、第一面に、正極電解液が供給される正極電極が配置される。双極板の第二面に、負極電解液が供給される負極電極が配置される。枠体は、双極板において正極電極及び負極電極が配置されない外縁側の領域を支持する。
【0004】
双極板には、例えば、特許文献1から特許文献4に記載されるような複合材料から構成される成形体が利用される。上記複合材料は、黒鉛等の炭素系材料からなる粉末と熱可塑性樹脂とが混合されたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2016/072192号
【文献】特開2002-367658号公報
【文献】特開2011-228059号公報
【文献】特開2012-221775号公報
【発明の概要】
【0006】
本開示の双極板は、
レドックスフロー電池に利用される双極板であって、
電極が配置される第一の領域と、
前記第一の領域よりも外縁側に位置する第二の領域とを備え、
前記第一の領域は、導電材と樹脂とを含む複合材料から構成されており、
前記第二の領域は、補強層と、第一の表層部と、第二の表層部と、を備え、
前記補強層は、前記双極板の厚さ方向に並ぶように、前記第一の表層部と前記第二の表層部との間に配置されており、
前記補強層の破断伸びが前記複合材料の破断伸びよりも高い。
【0007】
本開示の電池セルは、
本開示の双極板を備える。
【0008】
本開示のセルスタックは、
本開示の電池セルを複数備える。
【0009】
本開示のレドックスフロー電池は、
本開示の電池セル、又は本開示のセルスタックを備える。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態のレドックスフロー電池の基本構造を模式的に示す説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態の電池セル及び実施形態のセルスタックの概略を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、実施形態1の双極板を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3に示す双極板をIV-IV切断線で切断した状態を示す断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態1の双極板を備えるセルフレームを示す平面図である。
【
図6】
図6は、
図5に示すセルフレームにおいて、外縁側の領域をVI-VI切断線で切断した状態を示す断面図である。
【
図7】
図7は、実施形態2の双極板において、外縁側の領域を模式的に示す断面図である。
【
図8】
図8は、実施形態3の双極板の一例であって、外縁側の領域を模式的に示す断面図である。
【
図9】
図9は、
図8に示す双極板を備えるセルフレームにおいて、外縁側の領域を模式的に示す断面図である。
【
図10】
図10は、実施形態3の双極板の別例であって、外縁側の領域を模式的に示す断面図である。
【
図11】
図11は、実施形態の双極板であって、流路を備える場合の一例を模式的に示す平面図である。
【
図12A】
図12Aは、双極板の製造方法において、第一の工程を説明する図である。
【
図12B】
図12Bは、双極板の製造方法において、主に第二の工程を説明する図である。
【
図12C】
図12Cは、双極板の製造方法において、第三の工程を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示が解決しようとする課題]
電解液のシール性に優れる双極板が望まれている。更に、製造性にも優れる双極板が望ましい。
【0012】
例えば、特許文献1に記載されるセルフレームでは、Oリングといったシール部材が、枠体と双極板における外縁側の領域との間に配置される。上述の締付力は、シール部材が所定の圧力を生じるように調整される。
【0013】
上述の締付力が大きければ、所定のシール圧を満たすことができる。しかし、上記締付力が大きければ、双極板における外縁側の領域に負荷される応力も大きくなる。上記応力が大きければ、双極板における外縁側の領域の表面に割れが生じることが考えられる。更には、上記応力によって、上記割れが双極板の厚さ方向に進展することで、深い割れになることが懸念される。最悪の場合、上記外縁側の領域が破断する。深い割れ、更には破断が生じると、深い割れ又は破断箇所を介して、正極電解液と負極電解液とが混合する。このように、上述の厚さ方向の割れの進展は、双極板において、電解液のシール性の低下を招く。
【0014】
上述の積層物の数が多い場合には、上記締付力が大きくなり易い。そのため、上述の厚さ方向の割れの進展が更に生じ易い。
【0015】
本開示は、電解液のシール性に優れる上に、製造性にも優れる双極板を提供することを目的の一つとする。また、本開示は、電解液のシール性に優れる電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池を提供することを別の目的とする。
【0016】
[本開示の効果]
本開示の双極板は、電解液のシール性に優れる上に、製造性にも優れる。本開示の電池セル、本開示のセルスタック、及び本開示のレドックスフロー電池は、電解液のシール性に優れる。
【0017】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の一態様に係る双極板は、
レドックスフロー電池に利用される双極板であって、
電極が配置される第一の領域と、
前記第一の領域よりも外縁側に位置する第二の領域とを備え、
前記第一の領域は、導電材と樹脂とを含む複合材料から構成されており、
前記第二の領域は、補強層と、第一の表層部と、第二の表層部と、を備え、
前記補強層は、前記双極板の厚さ方向に並ぶように、前記第一の表層部と前記第二の表層部との間に配置されており、
前記補強層の破断伸びが前記複合材料の破断伸びよりも高い。
【0018】
従来の双極板では、上述の複合材料から構成される場合、一様な導電率を有する成形体となるように、複合材料には、黒鉛粉末等の導電材が一様に混合される。そのため、双極板の表面に沿った方向及び双極板の厚さ方向の双方において、樹脂の含有率が等しい。即ち、上記従来の双極板では、電極が配置される中央の領域における樹脂の含有率と、電極が配置されない外縁側の領域における樹脂の含有率とが等しい。結果として、上記中央の領域と上記外縁側の領域とで機械的強度に差がない。但し、上記外縁側の領域には、上述の締付力等の外力が負荷される。この外力によって、上記外縁側の領域の表面には、上記複合材料に含まれる導電材を起点とする割れが生じる恐れがある。更には、上記割れが上記複合材料中の導電材を伝うようにして、双極板の厚さ方向に進展する恐れがある。
【0019】
本開示の双極板がレドックスフロー電池に組み付けられた状態において、第二の領域は、第一の領域に比較して上述の外力が負荷され易い部分を含む。本開示の双極板では、上記外力によって第二の領域の表面に割れが生じても、この割れが双極板の厚さ方向に進展することを抑制できる。そのため、第二の領域には、上記の厚さ方向の割れの進展に起因する深い割れ及び破断が生じ難い。この理由は、第二の領域は、補強層を備えることで、補強層を備えていない上述の従来の双極板に比較して、上記外力が負荷された際に伸び易いからである。
【0020】
本開示の双極板では、上記深い割れ及び破断を介して、双極板の第一面側に流れる正極電解液と双極板の第二面側に流れる負極電解液とが混合されることが防止される。このような本開示の双極板は、シール性に優れるレドックスフロー電池を構築できる。
【0021】
また、本開示の双極板は、後述する特定の製造方法を利用すれば、比較的短時間で製造される。この点から、本開示の双極板は、製造性に優れる。
【0022】
(2)本開示の双極板の一例として、
前記補強層の破断伸びが1.0%以上である形態が挙げられる。
【0023】
上記形態は、上述の厚さ方向の割れの進展をより確実に抑制できる。
【0024】
(3)上記(2)の双極板の一例として、
前記補強層は、単層の樹脂層、単層の金属層、及び一層以上の樹脂層と一層以上の金属層とが前記双極板の厚さ方向に積層された複合層からなる群より選択される一つ以上を含む形態が挙げられる。
【0025】
樹脂層、金属層、及び複合層はいずれも、より高い破断伸びを有し易い。
【0026】
(4)上記(3)の双極板の一例として、
前記補強層は、前記樹脂層を含み、
前記第一の表層部及び前記第二の表層部は、前記複合材料から構成されており、
前記複合材料に含まれる前記樹脂、及び前記樹脂層を構成する樹脂は、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリフェニレンスルフィドからなる群より選択される一種以上の熱可塑性樹脂を含む形態が挙げられる。
【0027】
上記形態は、電解液に対する耐性に優れる。また、上記形態は、後述するように成形し易いため、製造性に優れる。
【0028】
(5)上記(4)の双極板の一例として、
前記複合材料に含まれる前記樹脂、及び前記樹脂層を構成する前記樹脂は、同種の熱可塑性樹脂である形態が挙げられる。
【0029】
上記形態では、第一の領域と各表層部との境界近くの領域、及び補強層と各表層部との境界近くの領域は、代表的には上記同種の樹脂が相互に拡散したような領域になる。このような樹脂の拡散領域を含むことで、上記形態は、後述するように、上述の厚さ方向の割れの進展をより確実に抑制できる上に製造性により優れる。
【0030】
(6)本開示の双極板の一例として、
前記補強層の全体が前記第一の表層部及び前記第二の表層部に覆われている形態が挙げられる。
【0031】
上記形態における補強層は、補強層と各表層部との境界の一部が第二の領域の表面に露出される場合に比較して、上述の厚さ方向の割れの進展をより確実に抑制できる。
【0032】
(7)本開示の双極板の一例として、
前記補強層を前記双極板の厚さ方向から透視した平面形状が環状である形態が挙げられる。
【0033】
上記形態における補強層は、周方向の任意の位置において、上述の厚さ方向の割れの進展を抑制できる。
【0034】
(8)本開示の双極板の一例として、
前記補強層の厚さが0.01mm以上である形態が挙げられる。
【0035】
上記形態における補強層は、上述の厚さ方向の割れの進展をより確実に抑制できる。
【0036】
(9)本開示の双極板の一例として、
前記補強層の幅が2mm以上である形態が挙げられる。
【0037】
上記形態における第二の領域では、上述の厚さ方向の割れの進展を抑制可能な範囲が広い。
【0038】
(10)本開示の双極板の一例として、
前記第二の領域は、厚さが異なる段差部を有し、
前記段差部は、高段部と、前記高段部よりも前記外縁側に配置された低段部とを有し、
前記補強層の少なくとも一部は、前記低段部に配置されている形態が挙げられる。
【0039】
低段部は、第二の領域において相対的に薄い箇所である。そのため、低段部は高段部よりも破断し易い箇所である。上記形態における低段部は、補強層を備えることで、破断し難い。
【0040】
(11)上記(10)の双極板の一例として、
前記補強層は、第一の箇所と、第二の箇所とを備え、
前記第一の箇所は、前記低段部に配置されており、
前記第二の箇所は、前記高段部と前記低段部との境界から前記第一の領域側に向かって延びており、
前記第二の箇所における前記境界から前記第一の領域側に突出する長さは、前記補強層の幅の1%以上50%以下である形態が挙げられる。
【0041】
補強層における第二の箇所は、上述の外力によって、高段部と低段部との境界を起点とする割れが第二の領域の内部に向かって進展することを抑制する。この点から、低段部がより破断し難い。
【0042】
(12)本開示の双極板の一例として、
前記導電材は、炭素系材料を含む形態が挙げられる。
【0043】
上記形態は、導電材が金属である場合に比較して、電解液に対する耐性に優れる上に軽量である。
【0044】
(13)本開示の一態様に係る電池セルは、
上記(1)から(12)のいずれか一つの双極板を備える。
【0045】
本開示の双極板を備えることで、本開示の電池セルは、シール性に優れるレドックスフロー電池を構築できる。
【0046】
(14)本開示の一態様に係るセルスタックは、
上記(13)の電池セルを複数備える。
【0047】
本開示の双極板を備えることで、本開示のセルスタックは、電池セルの積層数が多い場合でも、シール性に優れるレドックスフロー電池を構築できる。
【0048】
(15)本開示の一態様に係るレドックスフロー電池は、
上記(13)の電池セル、又は上記(14)のセルスタックを備える。
【0049】
本開示の双極板を備えることで、本開示のレドックスフロー電池は、シール性に優れる。
【0050】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面を参照して、本開示の実施形態に係る双極板、電池セル、セルスタック、及びレドックスフロー電池を説明する。図において同一符号は同一名称物を意味する。
以下の説明では、レドックスフロー電池をRF電池と呼ぶことがある。
【0051】
[実施形態]
まず、主に
図1,
図2を参照して、RF電池1、電池セル10、セルフレーム3、セルスタック100について、概要を順に説明する。その後、実施形態の双極板4を詳細に説明する。
【0052】
(概要)
〈RF電池〉
RF電池1は、電解液循環型の蓄電池の一つである。RF電池1は、電池セル10又は後述のセルスタック100と、電池セル10に電解液を供給する循環機構とを備える。RF電池1は、電池セル10に電解液を供給しながら、充放電を行う。
【0053】
代表的には、RF電池1は、変電設備61、交流/直流変換器6を介して、発電部7と負荷8とに接続される。RF電池1は、発電部7を電力供給源として充電を行い、負荷8を電力提供対象として放電を行う。発電部7は、例えば太陽光発電機、風力発電機、その他一般の発電所等が挙げられる。負荷8は、例えば電力系統や電力の需要家等が挙げられる。RF電池1は、負荷平準化、瞬低補償、非常用電源、太陽光発電や風力発電といった自然エネルギー発電の出力平滑化等に利用される。
【0054】
〈電池セル〉
電池セル10は、代表的には、正極電極13と、負極電極14と、隔膜11とを備え、後述のセルフレーム3を用いて構築される。隔膜11は、正極電極13と、負極電極14との間に配置される。正極電極13、負極電極14は、例えば、炭素系材料の繊維集合体、多孔質の金属部材等が挙げられる。炭素系材料の繊維集合体は、例えば、カーボンフェルト、カーボンペーパー、カーボンクロス等が挙げられる。隔膜11は、例えば、イオン交換膜等が挙げられる。以下の説明では、正極電極13及び負極電極14のうち一つを代表して、単に電極12と呼ぶことがある。
【0055】
RF電池1が一つの電池セル10を備える単セル電池である場合、RF電池1は、セルフレーム3、正極電極13、隔膜11、負極電極14、セルフレーム3という順に積層された積層物を備える。積層物は、
図2の分解図を参照されたい。
【0056】
RF電池1が複数の電池セル10を備える多セル電池である場合、RF電池1は、セルフレーム3、正極電極13、隔膜11、負極電極14という順に繰り返し積層された積層物を備える。セルスタック100は、この積層物を備える。
【0057】
〈セルフレーム〉
セルフレーム3は、双極板4と、枠体30とを備える。
双極板4は、電流を流す導電板である。双極板4の表面において電極12が配置される領域は、電解液が流通される領域でもある。但し、双極板4は、電解液を透過させない。セルスタック100では、双極板4は隣り合う電池セル10間を仕切る。
【0058】
双極板4は、電解液の流路5を備えてもよい(後述の
図11参照)。双極板4は、電極12が配置される領域である第一の領域41(
図2参照)に流路5を備えることで、電解液の流通性に優れる。
【0059】
枠体30は、双極板4において電極12が配置されない領域であって、外縁44(後述の
図5参照)側の領域を支持する。また、枠体30は、双極板4に配置される電極12に電解液を供給すること、及び電極12からの電解液を排出することに利用される。
【0060】
枠体30は、
図2に示すように、窓部31と、電解液の供給路及び排出路とを備える。窓部31は、枠体30の中央部に設けられており、双極板4の第一の領域41を露出させる。
図2は、枠体30として、外形及び窓部31の形状が長方形である場合を例示する。枠体30の外形、窓部31の形状は適宜変更できる。枠体30は、各種の樹脂といった電気絶縁材料から構成される。上記樹脂の一例として、塩化ビニル等の熱可塑性樹脂が挙げられる。
【0061】
代表的には、枠体30は、枠体30の第一面に正極側の供給路及び排出路を備えると共に、枠体30の第二面に負極側の供給路及び排出路を備える。正極側の供給路は、給液マニホールド33と、給液マニホールド33から窓部31に連続するスリット等とを備える。正極側の排出路は、排液マニホールド35と、窓部31から排液マニホールド35に連続するスリット等とを備える。負極側の供給路、排出路も正極側の供給路、排出路と同様に、給液マニホールド34及びスリット等、排液マニホールド36及びスリット等を備える。窓部31の内周縁において、上記供給路のスリットの開口部を含む箇所、
図2では下端縁は、電解液の供給縁5iとして利用される。窓部31の内周縁において、上記排出路のスリットの開口部を含む箇所、
図2では上端縁は、電解液の排出縁5oとして利用される。その他、枠体30には、シール部材39が配置される。シール部材39によって、隣り合うセルフレーム3は、液密に保持される(
図1参照)。
【0062】
単セル電池又は多セル電池の端部に利用されるセルフレーム3では、双極板4の第一面に電極12が配置される。双極板4の第二面には電極12が配置されない。多セル電池の中間部に利用されるセルフレーム3では、一つの双極板4の第一面に正極電極13が配置される。この双極板4の第二面に負極電極14が配置される。つまり、一組の正極電極13及び負極電極14は、一つの双極板4の両面を挟むように配置される(
図1、後述の
図6も参照)。
【0063】
〈セルスタック〉
セルスタック100は、代表的には複数の電池セル10を備える上述の積層物と、二つのエンドプレート101と、複数の締結部材102とを備える。各締結部材102は、長ボルト等の連結材及びナット等が挙げられる。両エンドプレート101は、締結部材102によって締め付けられる。この締付力、即ち上記積層物の積層方向の締付力によって、上記積層物は、積層された状態に保持される。
【0064】
セルスタック100は、
図2に例示するように、複数のサブセルスタック110を備えてもよい。サブセルスタック110は、所定数の電池セル10の積層物と、この積層物を挟む二つの給排板103とを備える。給排板103には、後述の配管160,170(
図1参照)が接続される。
【0065】
〈循環機構〉
循環機構は、
図1に示すように、タンク16,17と、配管160,170と、ポンプ18,19とを備える。配管160,170は、往路配管161,171と、復路配管162,172とを備える。タンク16は、正極電極13に循環供給する正極電解液を貯留する。往路配管161及び復路配管162は、タンク16と電池セル10又はセルスタック100とに接続される。タンク17は、負極電極14に循環供給する負極電解液を貯留する。往路配管171及び復路配管172は、タンク17と電池セル10又はセルスタック100とに接続される。ポンプ18,19はそれぞれ、往路配管161,171に接続されており、電池セル10に正極電解液、負極電解液を圧送する。セルスタック100では、全ての電池セル10に共通の正極電解液、負極電解液が循環される。
図1の黒矢印は、電解液の流れを例示する。
【0066】
〈電解液〉
電解液は、活物質となるイオンを含む溶液が挙げられる。代表的な電解液は、上記イオンと、酸とを含む水溶液が挙げられる。電解液は、公知の組成のものを利用できる。例えば、全バナジウム系RF電池は、正負の活物質としてバナジウムイオンを含む電解液を備える。Mn-Ti系RF電池は、正極活物質としてマンガンイオンを含む正極電解液と、負極活物質としてチタンイオンを含む負極電解液とを備える。
【0067】
(双極板)
以下、
図3から
図11を参照して、実施形態の双極板4を説明する。
〈実施形態1〉
図3,
図4を参照して、実施形態1の双極板4を説明する。
図4は、
図3に示す双極板4において、双極板4の厚さ方向に平行な平面で切断した断面を示す。
以下、平面視は、双極板4の厚さ方向から双極板4の第一面4a又は第二面4bをみた状態を意味する。平面形状は、上述の平面視における形状又は上記厚さ方向から透視した状態における形状を意味する。断面形状は、上記断面における形状を意味する。
図3,
図4、及び後述する
図6以降の図では、構造を強調して示すために、図中のサイズは実際のサイズとは異なる。また、これらの図中の上下方向に沿ったサイズと図中の左右方向に沿ったサイズとの比率等も、実際の比率とは異なる。
【0068】
《概要》
実施形態1の双極板4は、RF電池1に利用される部材である。
実施形態1の双極板4は、第一の領域41と、第二の領域42とを備える。第一の領域41は、電極12が配置される領域である(後述の
図6も参照)。第一の領域41は、導電材と樹脂とを含む複合材料から構成される。第二の領域42は、第一の領域41よりも外縁44側に位置する領域である。第二の領域42は、双極板4の厚さ方向の中間位置に補強層43を備える(
図4も参照)。補強層43は、上記複合材料よりも伸び易い材料から構成される。即ち、実施形態1の双極板4では、第一の領域41の構成材料と、第二の領域42の一部である補強層43を構成する材料とが異なる。補強層43は、上述の締付力等の外力によって第二の領域42の表面に割れが生じても、この割れが双極板4の厚さ方向に進展することを抑制する。なお、
図3,
図4、及び後述する
図6から
図10は、第一の領域41と第二の領域42との境界47を二点鎖線で仮想的に示す。
【0069】
《基本構造》
双極板4は、板状の成形体である。双極板4は、
図4に示すように、向かい合う第一面4a,第二面4bと、第一面4aと第二面4bとをつなぐ側面4cとを備える。第一面4a,第二面4bは、双極板4の表面のうち、電極12が配置される主面である。第一面4a,第二面4bは、代表的には双極板4の厚さ方向に直交する方向に沿った面である。側面4cは、代表的には双極板4の厚さ方向に沿った面である。
図3は、双極板4が薄い直方体状の板であって、第一面4a及び第二面4bの平面形状が長方形であり、四つの側面4cがそれぞれ長方形の平坦な面である場合を例示する。この例示では、双極板4は、双極板4の全体にわたって一様な厚さを有する。また、この例示では、側面4cは、双極板4の外縁44を構成する。
【0070】
<第一の領域>
第一の領域41は、双極板4に電極12が配置された状態において、電極12の外縁に囲まれる仮想の領域である。代表的には、第一の領域41は、双極板4において、外縁44からある程度離れた中央の領域である。詳しくは、第一の領域41は、第一面4aの中央の領域と、第二面4bの中央の領域とを含み、厚さt
1(
図4参照)を有する板状の領域である。
【0071】
第一の領域41の平面形状及び平面的な大きさは、電極12の平面形状及び平面的な大きさに実質的に等しいことから、電極12の平面形状及び平面的な大きさによって変更される。ここでの平面的な大きさとは、平面積、長さ、幅等である。
図3は、第一の領域41の平面形状が長方形状である場合を例示する。
【0072】
<第二の領域>
・外形
第二の領域42は、双極板4に電極12が配置された状態において、電極12が配置されない仮想の領域である。また、第二の領域42は、第一の領域41を囲む枠状の領域である。更に、第二の領域42は、双極板4の外縁44を含む領域である。詳しくは、第二の領域42は、第一面4aの外縁44側の領域と、第二面4bの外縁44側の領域と、側面4cとを含み、厚さt
2及び幅W
2(
図4参照)を有する枠状の領域である。また、第二の領域42は、外縁44の形状に等しい外周形状と、第一の領域41の平面形状、即ち電極12の平面形状に等しい内周形状とを有する。
図3は、第二の領域42の平面形状が長方形の枠状である場合を例示する。
【0073】
ここでの厚さt
1,t
2、後述する厚さt
3は、双極板4の厚さ方向に沿った大きさである。ここでの幅W
2,後述する幅W
3は、外縁44から上記厚さ方向に直交する方向に沿った大きさである。上記厚さ方向は、
図4では上下方向である。上記厚さ方向に直交する方向は、
図4では左右方向である。厚さt
1,t
2,t
3、幅W
2,W
3の詳細は後述する。
【0074】
・構造
第二の領域42は、補強層43と、第一の表層部48と、第二の表層部49と、を備える。
図4に示すように、補強層43は、第一の表層部48と第二の表層部49との間に配置されている。第一の表層部48、補強層43、第二の表層部49は、双極板4の厚さ方向に上記の順に並ぶ。つまり、第二の領域42は、上記の三層が積層された箇所を備える。
図4は、第二の領域42が第一の表層部48、補強層43、第二の表層部49から構成される三層構造であって、三層の平面形状が等しいと共に、三層の幅が等しい場合を例示する。また、本例では、第一の表層部48、補強層43、及び第二の表層部49はいずれも、外縁44の周方向に一様な幅を有する長方形の枠状の領域である。
【0075】
・・表層部
第一の表層部48は、第二の領域42のうち、第一面4a側の領域を構成する。第一の表層部48の表面は、第一面4aにおける外縁44側の領域を含む。第二の表層部49は、第二の領域42のうち、第二面4b側の領域を構成する。第二の表層部49の表面は、第二面4bにおける外縁44側の領域を含む。
【0076】
・・補強層
補強層43は、第二の領域42のうち、双極板4の厚さ方向の中間部を構成するように、第二の領域42に備えられる。また、補強層43は、第一面4a及び第二面4bを構成しない。そのため、双極板4を平面視した状態において、第一の表層部48又は第二の表層部49は目視確認できる。補強層43は目視確認できない。
【0077】
本例の補強層43は、外縁44の周方向に沿って連続して設けられている板状の領域である。補強層43を双極板4の厚さ方向から透視した平面形状が環状である。詳しくは、補強層43は、第一面4a側に配置される面43aと、第二面4b側に配置される面43bと、第一の領域41側に配置される内周縁43iと、側面4c側に配置される外周縁43cとを備える。環状であることで、補強層43は、上記周方向の任意の位置において、上述の厚さ方向の割れの進展を抑制できる。
【0078】
その他、本例の補強層43は、以下の(a)から(e)を満たす。
(a)補強層43と各表層部48,49との境界が実質的に平面となるように、補強層43と各表層部48,49とが設けられている。
(b)補強層43は、補強層43の全周にわたって、実質的に一様な幅W3と実質的に一様な厚さt3とを有する。補強層43の断面形状は、扁平な長方形である。補強層43の平面形状は、第二の領域42の平面形状に実質的に等しい形状である。
【0079】
(c)補強層43は、第二の領域42を双極板4の厚さ方向に二等分する線を含む位置、即ち上記厚さ方向の中央位置に配置されている。また、上述の断面において、第二の領域42が上述の二等分線を軸として対称な形状、大きさとなるように、補強層43が設けられている。
(d)補強層43の厚さt3は、第一の表層部48の厚さ及び第二の表層部49の厚さよりも薄い。両表層部48,49の厚さは、等しい。
【0080】
(e)補強層43の外周縁43cは、側面4cの一部を構成する。つまり、外周縁43cは、双極板4の表面に露出されている。補強層43の内周縁43iは、第一の領域41と第二の領域42との境界47に重複する。つまり、境界47と、第一の領域41と補強層43との境界とが一致する。また、境界47は、上述の三層構造を有する。なお、各表層部48,49の一部は、側面4cの残部を構成する。つまり、側面4cは、上述の三層構造から構成される面である。
【0081】
なお、補強層43において、平面形状、断面形状、幅W
3及び厚さt
3等の大きさ、第二の領域42における厚さ方向の配置位置は、適宜選択できる。例えば、補強層43の平面形状は、長方形以外の多角形の枠状、円環状、楕円環状等でもよい。又は、補強層43の平面形状は、第二の領域42の平面形状に非相似な形状でもよい。例えば、内周縁43i及び外周縁43cの少なくとも一方の平面形状は、波形状、ジグザグ形状等でもよい。又は、補強層43の平面形状及び大きさは、後述するシール部材38(後述の
図6参照)の形状及び大きさ等に応じて選択してもよい。補強層43の配置位置は、第二の領域42において、上述の厚さ方向の二等分線よりも第一面4a側又は第二面4b側に偏っていてもよい。
【0082】
《構成材料》
<第一の領域>
第一の領域41は、第一面4aから双極板4の厚さ方向の内部を経て第二面4bにいたる全体が一様な材料から構成される。この材料は、上述のように導電材と樹脂とを含む複合材料である。上記複合材料では、導電材が樹脂中に分散されている。
【0083】
第一の領域41は導電材を含むことで、上述のように電流を流せる。導電材の含有率が高いほど、第一の領域41と電極12との接触抵抗が低くなり易い。この点から、実施形態1の双極板4は、セル抵抗が小さいRF電池1を構築できる。また、第一の領域41は樹脂を含むことで、双極板4の第一面4aと第二面4bとの間で電解液が透過することを防止できる。更に、双極板4の主体である第一の領域41が一様な材料から構成されることで、双極板4は製造性に優れる。
【0084】
上述の複合材料は、代表的には、有機複合材料、いわゆる導電性プラスチックが挙げられる。導電材の構成材料は、例えば、炭素系材料といった非金属無機材料、各種の金属が挙げられる。導電材の形態は、例えば、粉末、繊維等が挙げられる。炭素系材料の具体例は、黒鉛、カーボンブラック等が挙げられる。炭素系材料は、金属に比較して、耐酸性に優れる上に軽量である。そのため、第一の領域41が炭素系材料を含む複合材料から構成されている場合には、双極板4は、電解液が酸を含んでいても、電解液に対する耐性に優れる。この点から、双極板4は、RF電池1の構成部材として好適に利用できる。また、この双極板4は、軽量である点から、RF電池1を組み立てる際の作業者の負担を軽減し易い。金属の具体例は、純アルミニウム等が挙げられる。金属は、一般に、高い熱伝導率を有する。そのため、第一の領域41が金属を含む複合材料から構成されている場合には、双極板4は、放熱性に優れる。樹脂の具体例は、第二の領域の項で説明する。
【0085】
第一の領域41を構成する上述の複合材料において、第一の領域41を100質量%として、例えば導電材の含有率が50質量%以上95.5質量%以下であること、樹脂の含有率が0.5質量%以上50質量%以下であることが挙げられる。導電材が多いほど、第一の領域41は、導電性に優れることで、電極12との接触抵抗を低くし易い。この点から、導電材の含有率は、60質量%以上、更に70質量%以上、80質量%以上でもよい。上記樹脂の含有率は、第一の領域41が所定の導電性を有する範囲で調整するとよい。上記樹脂の含有率は、例えば5質量%以上50質量%以下、更に15質量%以上50質量%以下でもよい。
【0086】
<第二の領域>
・表層部
第一の表層部48及び第二の表層部49は、例えば、導電材と樹脂とを含む複合材料から構成されることが挙げられる。特に、両表層部48,49と第一の領域41とは、同じ複合材料から構成されることが好ましい。更には、本例のように、両表層部48,49と第一の領域41とは、同じ複合材料によって連続して構成されていること、即ち両表層部48,49と第一の領域41とが一体に成形されてなることが好ましい。この双極板4では、第一面4aの全体、及び第二面4bの全体が同じ複合材料から構成される。
【0087】
上述のように両表層部48,49が同じ複合材料から構成される場合には、原料の用意、製造条件の調整等が行い易い。このような双極板4は製造性に優れる。更に、両表層部48,49と第一の領域41とが同じ複合材料による一体物である場合には、両表層部48,49と第一の領域41とが同時に成形可能である。同時成形によって、双極板4の製造時間が短くなる。このような双極板4は製造性に更に優れる。また、上記の一体物を備える双極板4では、各表層部48,49と第一の領域41との間に実質的に境界が無い。そのため、上記境界を起点とする割れが生じない。更に、両表層部48,49における熱膨張係数等の特性と、第一の領域41における上記特性とが実質的に等しい。そのため、RF電池1の使用時等において、両表層部48,49と第一の領域41とが熱伸縮しても、両者が一体化された状態が良好に維持される。
【0088】
但し、第一の表層部48、又は第二の表層部49、又は両表層部48,49が上述の複合材料から構成される場合には、第二の領域42の表面において、導電材が割れの起点になり得る。そこで、補強層43の構成材料は、上記の表面の割れが双極板4の厚さ方向に進展することを抑制し易い材料とする。そのため、第二の領域42は、上述の断面において、異なる材料から構成される部分が双極板4の厚さ方向に隣り合って並ぶ箇所を含む。
【0089】
・補強層
補強層43は、第一の領域41を構成する複合材料の破断伸びよりも高い破断伸びを有する。このような補強層43を構成する材料は、代表的には、上述の複合材料のような混合物ではなく、単一の材料が挙げられる。ここでの単一の材料とは、上述の導電材のような割れの起点になり得るもの及び割れを進展させ得るものを実質的に含まない材料を意味する。単一の材料の代表例は、樹脂、純金属、合金等である。なお、樹脂は、安定剤、酸化防止剤等の添加剤を含むことを許容する。合金は析出物、晶出物を含むことを許容する。単一の材料から構成される補強層43は、割れ難い上に、割れを進展させ難い。
【0090】
一つの補強層43は、単層でも多層でもよい。多層構造の補強層43は、複数の層が双極板4の厚さ方向に積層されている。単層の補強層43は、多層構造の補強層43よりも厚さt3を小さくし易い。この点から、第二の領域42、ひいては双極板4が薄くなり易い。多層構造の補強層43では、複数の層のそれぞれは、単一の材料から構成されることで、上記複合材料よりも高い破断伸びを有する。この点から、多層構造の補強層43は、単層の補強層43よりも割れ難い上に、割れを進展させ難い。また、多層構造の補強層43では、構成材料の自由度が高い。
【0091】
補強層43の具体例として、単層の樹脂層431、又は単層の金属層432(後述の
図7参照)、又は複合層430(後述の
図8参照)が挙げられる。
図4は、補強層43として単層の樹脂層431を例示する。単層の樹脂層431は、導電材を含まず、実質的に樹脂から構成される。単層の金属層432は、実質的に純金属又は合金から構成される。複合層430の詳細は後述する。
【0092】
補強層43が樹脂層431及び金属層432の少なくとも一方を含むと共に、両表層部48,49が上述の複合材料で構成される場合には、補強層43は、両表層部48,49よりも割れ難い。そのため、第二の領域42の表面に割れが生じても、第二の領域42は、補強層43によって、上記厚さ方向の割れの進展を抑制できる。
【0093】
補強層43が単層の樹脂層431である双極板4は、単層の金属層432である場合に比較して、以下の効果を奏する。
(1)両表層部48,49が上述の複合材料から構成される場合には、補強層43を構成する樹脂と、各表層部48,49を構成する上記複合材料中の樹脂とが密着し易い。そのため、補強層43と各表層部48,49とが剥離し難い。また、樹脂同士が密着し易い点から、双極板4は、製造性に優れる。
(2)補強層43は、軽量である。
(3)補強層43は、電解液に対する耐性に優れる。
【0094】
補強層43が単層の金属層432である双極板4は、単層の樹脂層431である場合に比較して、以下の効果を奏する。
(A)両表層部48,49が上述の複合材料から構成される場合には、第二の領域42の全体が導電性を有する。この点から、双極板4は、導電性を高め易い。
(B)金属層432の表面が粗面である場合には、金属層432と各表層部48,49との接触面積が増大することで、金属層432と各表層部48,49との接合性に優れる。金属層432の表面粗さは、例えば、算術平均粗さRaで0.5μm以上20μm以下が挙げられる。
【0095】
複合層430は、一層以上の樹脂層431と一層以上の金属層432とが双極板4の厚さ方向に積層された多層構造を有する。後述の
図8は、複合層430として、二つの樹脂層431と、一つの金属層432とを備え、二つの樹脂層431が金属層432を挟んだ三層構造のものを例示する。隣り合う樹脂層431と金属層432とが接していることで、複合層430は一体物となっている。補強層43が複合層430である双極板4は、上述の効果(1)から(3)と、効果(A),(B)とを有する。
【0096】
補強層43が単層の樹脂層431又は単層の金属層432である双極板4では、補強層43は、樹脂フィルム又は金属箔を用いて製造することが挙げられる。補強層43が複合層430である双極板4では、補強層43は、樹脂フィルムと金属箔とが積層された複合シートを用いて製造することが挙げられる。補強層43の材質、形状、幅W3や厚さt3等の大きさは、樹脂フィルム又は金属箔又は複合シートといった補強素材の材質、形状、大きさに依存する。そのため、所望の補強層43が製造されるように、補強素材を選択するとよい。製造方法の詳細は後述する。
【0097】
<樹脂>
双極板4に含まれる樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。双極板4に含まれる樹脂は、第一の領域41を構成する上述の複合材料に含まれる樹脂、各表層部48,49が上述の複合材料から構成される場合にはこの複合材料に含まれる樹脂、樹脂層431を構成する樹脂である。
【0098】
第一の領域41及び両表層部48,49を構成する複合材料に含まれる樹脂、及び樹脂層431を構成する樹脂が熱可塑性樹脂を含む場合には、以下に説明するように、双極板4は製造性に優れる。熱可塑性樹脂は加熱によって軟化する。そのため、後述するように熱プレスを利用することで、第一の領域41と両表層部48,49とが容易に成形される。また、上記軟化によって、樹脂層431と各表層部48,49とが接合され易い。
【0099】
熱可塑性樹脂は、双極板4として使用に適した特性を有するものが挙げられる。例えば、強酸、強アルカリに対する耐食性を有するオレフィン系樹脂、強酸、強アルカリに対する耐食性を有するフッ素樹脂、耐熱性を有する樹脂等が挙げられる。オレフィン系樹脂は、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)が挙げられる。フッ素樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)が挙げられる。耐熱性を有する樹脂は、例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)が挙げられる。
【0100】
特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、及びポリフェニレンスルフィドからなる群より選択される一種以上の熱可塑性樹脂は、電気絶縁性に優れる上に、電解液に対する耐性にも優れる。また、上記に列挙される熱可塑性樹脂は、成形性にも優れる。そのため、上述の複合材料に含まれる樹脂、及び樹脂層431を構成する樹脂が上記に列挙される熱可塑性樹脂を含む場合には、双極板4は、電解液が接触し得る部材として好適に利用できる。また、成形し易い点から、この双極板は、製造性にも優れる。なお、上述の複合材料及び樹脂層431の少なくとも一方は、上記に列挙される1種の樹脂又は複数の樹脂が化学的又は他の手段によって変性された樹脂を含んでもよい。
【0101】
本例では、第一の領域41及び両表層部48,49を構成する複合材料に含まれる樹脂、及び樹脂層431を構成する樹脂は、同種の熱可塑性樹脂であり、ポリプロピレンである。
【0102】
上述の複合材料と樹脂層431とが同種の熱可塑性樹脂である双極板4では、第一の領域41と各表層部48,49との境界近くの領域、及び補強層43と各表層部48,49との境界近くの領域が、以下の樹脂の拡散領域となり得る。ここでの樹脂の拡散領域は、代表的には上記の同種の樹脂が上記境界を構成する二者間で相互に拡散したような領域である。又は、樹脂の拡散領域は、上記同種の樹脂が上記二者の一方から他方に拡散したような領域である。本例では、第一の領域41と第二の領域42との境界47は、上述のように第一の表層部48、樹脂層431、及び第二の表層部49によって構成される。そのため、上記境界47の近くの領域も、上記樹脂の拡散領域となり得る。
【0103】
第一の領域41と第二の領域42との境界47の近くの領域が上述の樹脂の拡散領域を含むことで、第一の領域41と第二の領域42とが密着している。この密着によって、上記境界47の近くの領域に上述の外力が負荷されても、上記外力に起因する割れの発生、変形が緩和される。この点から、第一の領域41と第二の領域42との間で、上記境界47に沿った割れが生じることが低減される。また、上記樹脂の拡散領域を含むことで、樹脂層431と各表層部48,49とが密着している。この密着によって、樹脂層431と各表層部48,49とが剥離し難い。この点から、第二の領域42は上述の厚さ方向の割れの進展をより確実に抑制できる。
【0104】
また、上述の複合材料と樹脂層431とが同種の熱可塑性樹脂である双極板4では、異種の熱可塑性樹脂である場合に比較して、上記複合材料と樹脂層431とが接合され易い。このような双極板4は製造性により優れる。
【0105】
<金属>
金属層432を構成する金属は、例えば、純チタン、チタン合金、純アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられる。チタン合金、アルミニウム合金は、公知の組成のものを利用できる。
【0106】
《機械的特性》
補強層43は、第一の領域41よりも高い破断伸びを有すればよい。定量的には、補強層43の破断伸びは1.0%以上が挙げられる。上記破断伸びが1.0%以上であれば、第二の領域42に上述の外力が負荷された際に、上記破断伸びが1.0%未満である場合に比較して、補強層43は弾性変形し易い。この点から、第二の領域42の表面に割れが生じても、上記割れが双極板4の厚さ方向に進展することがより確実に抑制される。上記破断伸びが大きいほど、上記の厚さ方向の割れの進展が抑制され易い。そのため、上記破断伸びは1.2%以上、更に1.5%以上、2.0%以上でもよい。
【0107】
補強層43が単層の樹脂層431、又は単層の金属層432、又は複合層430であれば、補強層43は1.0%以上の破断伸びを有する。補強層43の材質によっては、補強層43は、より高い破断伸びを有する。補強層43が単層の樹脂層431である場合には、樹脂層431の破断伸びは、例えば10%以上100%以下が挙げられる。樹脂の種類によっては、樹脂層431の破断伸びは100%超である場合がある。補強層43が金属層432を含む場合には、補強層43の破断伸びは、例えば5.0%以上が挙げられる。
【0108】
上記破断伸びを測定するための試験片は、第一の領域41及び補強層43からそれぞれ採取する。上記破断伸びを簡易的に測定する方法として、例えば、試験片として、第一の領域41を模擬した試験片、補強層43を模擬した試験片を作製することが挙げられる。詳しくは、第一の領域41の成分及び補強層43の成分を適宜な装置で分析する。分析された各成分と同じ成分を有する模擬試験片を作製する。例えば、補強層43の成分が純チタンであれば、純チタンによって模擬試験片を作製する。又は、補強層43の成分が公知の成分である場合には、簡易的には、公知の成分の破断伸びを補強層43の破断伸びとみなしてもよい。
【0109】
《大きさ》
図4は、第二の領域42が双極板4の厚さ方向に一つの補強層43を備える場合を例示する。以下の説明において、補強層43の厚さt
3は、一つの補強層43の厚さである。一つの補強層43が複合層430である場合には、上記厚さt
3は、この複合層430を構成する樹脂層431と金属層432との合計厚さである。補強層43の幅W
3は、一つの補強層43の幅である。なお、第二の領域42は、上記厚さ方向に所定の間隔をあけて複数の補強層43を備えてもよい(後述の変形例5参照)。
【0110】
<厚さ>
・第一の領域及び第二の領域
第一の領域41の厚さt
1及び第二の領域42の厚さt
2は、例えば0.5mm以上20mm以下が挙げられる。
図4は、厚さt
1,t
2が等しい場合を例示する。なお、第二の領域42は、第一の領域41の厚さt
1よりも薄い箇所を有してもよい(後述の
図8から
図10参照)。
【0111】
・補強層
補強層43の厚さt3は、第二の領域42の厚さt2未満の範囲で適宜選択できる。補強層43の厚さt3は、例えば第二の領域42の厚さt2の2%以上100%未満が挙げられる。補強層43の厚さt3が上記の下限値以上であれば、補強層43はある程度厚い。そのため、補強層43によって、上述の厚さ方向の割れの進展がより確実に抑制される。割れの進展の抑制と、両表層部48,49の確保との観点から、補強層43の厚さt3は、第二の領域42の厚さt2の5%以上80%以下、更に10%以上50%以下でもよい。
【0112】
補強層43の厚さt3は例えば0.01mm以上が挙げられる。上記厚さt3が0.01mm以上であれば、補強層43はある程度厚い。そのため、補強層43によって、上述の厚さ方向の割れの進展がより確実に抑制される。上記割れの進展の抑制の観点から、上記厚さt3は0.05mm以上、更に0.08mm以上、0.10mm以上、0.15mm以上、0.20mm以上でもよい。
【0113】
補強層43の厚さt3は例えば2mm以下が挙げられる。上記厚さt3が2mm以下であれば、上述の補強素材を用いることで、補強層43を容易に製造することができる。また、上記厚さt3が0.01mm以上2mm以下を満たす補強層43を形成可能な補強素材は、例えば市販品を利用できる。これらの点から、双極板4は製造性に優れる。補強層43の材質にもよるが、上記厚さt3は、例えば1mm以下、更に0.5mm未満でもよい。
【0114】
割れの進展の抑制と良好な製造性との観点から、補強層43の厚さt3は0.01mm以上2mm以下、更に0.05mm以上0.50mm未満でもよい。
【0115】
補強層43が樹脂層431を含む場合には、補強層43の厚さt3が2mm以下であると、補強層43と、上述の複合材料から構成される各表層部48,49とが密着し易い。この理由は、製造過程では、樹脂層431の原料となる上述の樹脂フィルムと、上記複合材料中の樹脂とが軟化することで、上述の樹脂の拡散領域が形成され易いからである。上述のように補強層43と両表層部48,49とが同種の熱可塑性樹脂を含む場合には、上記樹脂の拡散領域がより確実に形成される。双極板4の薄型の観点から、上記厚さt3は、1mm以下、更に0.45mm以下、0.40mm以下、0.30mm以下でもよい。
【0116】
補強層43が複合層430である場合には、一つの樹脂層431の厚さ、及び一つの金属層432の厚さは、例えば0.01mm以上1.0mm以下、更に0.02mm以上0.60mm以下、0.03mm以上0.50mm以下が挙げられる。
【0117】
本例では、補強層43の厚さt3は、補強層43の周方向において均一的な大きさである。そのため、補強層43の任意の位置において、上述の厚さ方向の割れの進展がより確実に抑制される。製造過程では、上述の補強素材として、均一的な厚さを有する環状のものを利用すれば、均一的な厚さt3を有する環状の補強層43が容易に製造される。ここでの厚さt3が均一的であるとは、後述する厚さの測定において、複数の測定箇所の厚さのうち、最大厚さと最小厚さとの差が平均厚さの10%以下を満たすことが挙げられる。
【0118】
なお、補強層43は、補強層43の周方向において局所的に薄い箇所又は局所的に厚い箇所を含んでもよい。つまり、補強層43の厚さt3は、上記周方向に不均一でもよい。但し、上述の理由から、補強層43の最小厚さは0.01mm以上が好ましい。
【0119】
<補強層の幅>
補強層43の幅W
3は、第二の領域42の幅W
2と同等以下の範囲で適宜選択できる。補強層43の幅W
3が広いほど、補強層43が第二の領域42に広く存在する。即ち、第二の領域42では、上述の厚さ方向の割れの進展を抑制可能な範囲が広い。そのため、補強層43によって、上記厚さ方向の割れの進展がより確実に抑制される。本例のように、双極板4がシール部材38を介して枠体30に配置される場合には、補強層43の幅W
3は、シール部材38の幅よりも大きいことが好ましい(後述の
図6参照)。特に、補強層43の幅W
3は、シール部材38が上述の締付力によって圧縮された状態におけるシール部材38の幅よりも大きいことが好ましい。
【0120】
補強層43の幅W3は例えば2mm以上が挙げられる。ここで、双極板4とシール部材38と枠体30とを積層した状態において、この積層方向からの平面視で、第二の領域42におけるシール部材38に向かい合う箇所は、特に上述の締付力に起因する応力を受け易い。そのため、少なくともこの箇所に補強層43を備えることが望まれる。上記幅W3が2mm以上であれば、シール部材38の幅、特に上述の圧縮状態におけるシール部材38の幅よりも広くなり易い。そのため、上述の厚さ方向の割れの進展がより確実に抑制される。この点から、上記幅W3が2mm以上である双極板4は、シール性に優れるRF電池1を構築することができる。
【0121】
割れの進展の抑制と良好なシール性との観点から、補強層43の幅W3は、3.0mm以上、更に3.5mm以上、4.0mm以上、4.5mm以上、5.0mm以上でもよい。
【0122】
補強層43の幅W3は例えば50mm以下が挙げられる。補強層43の幅W3が50mm以下であれば、第二の領域42の幅W2が小さくなり易い。この点から、双極板4は、第一の領域41を広く確保し易い。上記幅W3は、40mm以下、更に35mm以下でもよい。双極板4の大きさによっては、幅W3は、10mm以下でもよい。
【0123】
割れの進展の抑制と良好なシール性との観点、及び第一の領域41の確保の観点から、補強層43の幅W3は2mm以上50mm以下、更に3mm以上40mm以下でもよい。
【0124】
本例では、補強層43の幅W
3と第二の領域42の幅W
2とが等しい。また、補強層43の幅W
3と各表層部48,49の幅とが等しい。更に、本例では、補強層43の幅W
3はシール部材38における上述の圧縮状態での幅よりも大きい。なお、補強層43の幅W
3は、第二の領域42の幅W
2よりも小さくてもよい(後述の
図7、
図8、
図10参照)。
【0125】
本例では、補強層43の幅W3は、補強層43の周方向において均一的な大きさである。また、本例では、上記幅W3は2mm以上50mm以下である。製造過程では、上述の補強素材として、均一的な幅を有する環状のものを利用すれば、均一的な幅W3を有する環状の補強層43が容易に製造される。ここでの幅W3が均一的であるとは、後述する幅の測定において、複数の測定箇所の幅のうち、最大幅と最小幅との差が平均幅の10%以下を満たすことが挙げられる。
【0126】
なお、補強層43は、補強層43の周方向において幅が局所的に細い箇所又は幅が局所的に太い箇所を含んでもよい。つまり、補強層43の幅W3は、上記周方向に不均一でもよい。但し、上述の理由から、補強層43の最小幅は、シール部材38における上述の圧縮状態での幅より大きいことが好ましい。
【0127】
<測定方法>
補強層43の厚さt3,幅W3は、例えば双極板4の断面を利用して測定することが挙げられる。以下、各表層部48,49が上述の複合材料から構成されると共に、補強層43が樹脂層431又は金属層432又は複合層430である場合を例に、厚さt3及び幅W3の測定方法を具体的に説明する。
【0128】
まず、双極板4において、
図4に示すように第二の領域42の断面をとる。次に、この断面を顕微鏡等で観察する。上述の複合材料と補強層43の構成材料とは、質感が異なる。そのため、上記断面では、上述の複合材料からなる箇所と、実質的に樹脂のみからなる箇所又は金属のみからなる箇所との境界が判別できる。即ち、第一の領域41と補強層43との判別、補強層43と各表層部48,49との判別が可能である。
【0129】
具体的には、以下の二つの境界が双極板4の厚さ方向に所定の間隔をあけて並ぶ。一つの境界は、第一の表層部48における内側の面と、補強層43における第一面4a側の面43aとによって構成される。別の一つの境界は、補強層43における第二面4b側の面43bと、第二の表層部49の内側の面とによって構成される。上述の断面において、上記厚さ方向に並ぶ二つの境界の間の距離を測定する。一つの観察視野において、補強層43の周方向に沿って、3以上の測定点をとる。測定点の数は、10以上、更に50以上でもよい。各測定点において上記距離を測定する。測定した距離を平均する。この平均厚さを補強層43の厚さt3とする。又は、上記境界に沿って100mm以上の範囲において、上記距離を測定すると共に、測定した距離から平均厚さを求めてもよい。
【0130】
補強層43の幅は、外周縁43cから内周縁43iまでの距離であって、第一面4a又は第二面4bの表面方向に沿った距離である。本例のように補強層43が外縁44を含む場合には、上記幅は、外縁44から内周縁43iまでの距離である。補強層43の周方向に等間隔に10以上の測定箇所をとる。各測定箇所において上記距離を測定する。測定した距離を平均する。この平均幅を補強層43の幅W3とする。
【0131】
《セルフレーム》
次に、
図5,
図6を参照して、実施形態1の双極板4を備えるセルフレーム3を説明する。
図5は、実施形態1の双極板4を備えるセルフレーム3を平面視した図である。
図6は、
図5に示すセルフレーム3において、双極板4における外縁44近くの部分を双極板4の厚さ方向に平行な平面で切断した断面を示す。
【0132】
本例では、双極板4と枠体30とは、独立した部材であって、一体に成形されていない。また、本例では、枠体30は、
図6に示すように二つの枠板状の分割片301,302を備える。双極板4は、第二の領域42が両分割片301,302に挟まれることで枠体30に支持される。
【0133】
各分割片301,302は、切り欠き305を備える。両分割片301,302が組み合わせられることで、切り欠き305は断面矩形状の空間を形成する。この空間は、双極板4の第二の領域42が嵌め込まれる凹部として利用される。第二の領域42は、この空間に配置される。切り欠き305を形成する内周面において、第二の領域42に向かい合う箇所は、溝部308を備える。シール部材38は、溝部308に嵌め込まれる。なお、双極板4が、シール部材38が嵌め込まれる溝部を備えてもよい。シール部材38は、例えば、パッキンやOリング等が挙げられる。
【0134】
本例のセルフレーム3は、分割片301,302が双極板4の第二の領域42を挟むことによって構築される。このようなセルフレーム3は構築し易い。また、分割片301,302に挟まれるため、双極板4は枠体30から脱落し難い。このようなセルフレーム3は積層し易い。これらの点から、本例の双極板4及びセルフレーム3は、RF電池1の製造性の向上に寄与する。
【0135】
セルフレーム3が構築された状態において、第二の領域42と枠体30の内周側の領域との間には、シール部材38が配置される。第二の領域42は、シール部材38に向かい合って配置されると共に、枠体30がつくる凹部に覆われる。そのため、第二の領域42は、
図5に示すように、枠体30に隠されて、実質的に見えない。実質的に第一の領域41のみが枠体30の窓部31から露出される。
【0136】
上述のように分割片301,302に挟まれることで、第二の領域42には、枠体30からの応力が負荷される。この応力によって第二の領域42の表面に割れが生じても、補強層43によって、上記割れが双極板4の厚さ方向に進展することが抑制される。
【0137】
《主な作用・効果》
実施形態1の双極板4では、第二の領域42に上述の締付力に起因する応力、電解液による圧力、温度変動による熱膨張差に起因する力等の外力が負荷されても、第二の領域42の表面に生じた割れが双極板4の厚さ方向に進展し難い。即ち、第二の領域42に深い割れが生じ難い。更には、第二の領域42が破断し難い。
【0138】
本例では、以下の理由により、上述の厚さ方向の割れの進展がより確実に抑制される。
(α)補強層43が樹脂層431である。
(β)補強層43と両表層部48,49とが同種の熱可塑性樹脂を含む。
(γ)補強層43が外縁44の周方向に連続して設けられている。
(δ)両表層部48,49の厚さが同じである。
【0139】
更に、実施形態1の双極板4は、後述するように熱プレスを利用することで容易に製造できることから、製造性に優れる。本例の双極板4は、以下の理由により、製造性により優れる。
(Α)第一の領域41と両表層部48,49とを構成する複合材料が同じである。そのため、本例の双極板4は、上記複合材料が異なる後述の変形例1と比較して、接合性、成形性に優れる。
(Β)補強層43が樹脂層431である。そのため、補強層43は、第一の領域41及び各表層部48,49に良好に接合される。
(Γ)補強層43が連続する一つの層である。製造過程では、一つの補強素材を金型に配置すればよい。そのため、本例の双極板4は、複数の補強素材を金型に配置する後述の変形例4,5に比較して、製造時間が短くなり易い。
(Δ)補強層43と各表層部48,49との境界が実質的に平面である。このような補強層43の原料には、平板状の補強素材が利用できる。平板状の補強素材は金型に配置し易い。
【0140】
その他、本例の双極板4は、以下の効果も奏する。
・上述の複合材料から構成される両表層部48,49によって、第二の領域42は、ある程度の導電性を確保できる。
・第二の領域42において双極板4の厚さ方向に配置される補強層43の数が一つである。そのため、補強層43の数が複数である後述の変形例5に比較して、双極板4が薄くなり易い。
・補強層43と各表層部48,49との境界が実質的に平面である。そのため、上記境界が曲面である後述の変形例6に比較して、双極板4が薄くなり易い。
【0141】
実施形態の電池セル10は、実施形態1の双極板4を備える。実施形態のセルスタック100は、実施形態の電池セル10を複数備える。そのため、実施形態の電池セル10を備えるRF電池1及び実施形態のセルスタック100を備えるRF電池1では、上述の外力によって双極板4の第二の領域42の表面に割れが生じても、上記割れが双極板4の厚さ方向に進展し難い。実施形態の電池セル10及び実施形態のセルスタック100は、上述の厚さ方向の割れの進展に起因するシール性の低下を防止できることから、シール性に優れるRF電池1を構築できる。
【0142】
実施形態のRF電池1は、実施形態の電池セル10、又は実施形態のセルスタック100を備える。そのため、実施形態のRF電池1は、上述のようにシール性に優れる。
【0143】
なお、単セル電池では、正極側のセルフレーム3に備えられる双極板4、及び負極側のセルフレーム3に備えられる双極板4の一方のみが実施形態1の双極板4でもよい。上述の正極側及び負極側の双方の双極板4が実施形態1の双極板4であることが好ましい。セルスタック100では、少なくとも一つのセルフレーム3に備えられる双極板4が実施形態1の双極板4であればよい。セルスタック100を構成する複数のセルフレーム3に備えられる双極板4、更には全てのセルフレーム3に備えられる双極板4が実施形態1の双極板4であることが好ましい。
【0144】
〈実施形態2〉
以下、
図7を参照して、実施形態2の双極板4を説明する。
以下の説明は、実施形態1との相違点を主に行う。実施形態1と共通する構成及び効果の詳細な説明は省略する。この点は、後述する実施形態3も同様である。
図7、及び後述する
図8,
図10は、双極板4における外縁44近くの部分を双極板4の厚さ方向に平行な平面で切断した断面を示す。
【0145】
実施形態2の双極板4における実施形態1との相違点は、第二の領域42では、補強層43の全体が第一の表層部48及び第二の表層部49に覆われていることである。実施形態2の双極板4を任意の方向から見た場合に、補強層43が見えない。側面4cは、第一の表層部48の一部及び第二の表層部49の一部から構成されており、補強層43を含まない。補強層43の外周縁43cは、外縁44よりも第一の領域41側に位置しており、双極板4の表面に露出されていない。
【0146】
実施形態2の双極板4では、補強層43の平面形状及び平面的な大きさが、第二の領域42の平面形状及び平面的な大きさとは異なる。本例では、補強層43の平面形状は、長方形の枠状である。補強層43の幅W3は、第二の領域42の幅W2よりも小さい。また、本例では、補強層43の内周縁43iは、第一の領域41と第二の領域42との境界47に重複しない。このことからも、補強層43の幅W3は、第二の領域42の幅W2よりも小さい。
【0147】
実施形態2の双極板4では、補強層43と第一の表層部48との境界の一部、及び補強層43と第二の表層部49との境界の一部が第二の領域42の表面に露出されていない。この点から、実施形態2の双極板4では、上記境界の一部が第二の領域42の表面に露出されている場合に比較して、上記境界に沿って、補強層43と各表層部48,49とが剥離することが抑制される。補強層43と各表層部48,49とが剥離し難いことで、補強層43は、上述の厚さ方向の割れの進展をより確実に抑制できる。
【0148】
実施形態2の双極板4では、補強層43が電解液に接触し難い。そのため、補強層43が金属層432を含む場合であっても、双極板4は電解液に対する耐性に優れる。また、実施形態2の双極板4では、補強層43は、両表層部48,49に包まれることで、両表層部48,49から脱落し難い。そのため、補強層43が単層の金属層432である場合、即ち補強層43の各面43a,43bと各表層部48,49との間に上述の樹脂の拡散領域を有さない場合であっても、補強層43が両表層部48,49から脱落し難いと期待される。上述のように金属層432の表面が粗面であれば、補強層43が両表層部48,49から更に脱落し難い。なお、
図7は、補強層43が単層の金属層432である場合を例示するが、補強層43は単層の樹脂層431でも複合層430でもよい。
【0149】
補強層43の外周縁43cから側面4cまでの幅Wc、補強層43の内周縁43iから上述の境界47までの幅Wiは適宜選択できる。幅Wc及び幅Wiの少なくとも一方は、例えば、第二の領域42の幅W2の1%以上50%未満、更に2%以上30%以下が挙げられる。又は、幅Wc及び幅Wiの少なくとも一方は、例えば、補強層43の幅W3の1%以上30%以下、更に2%以上30%以下が挙げられる。幅Wc、幅Wiが上述の下限を満たす場合には、補強層43は、両表層部48,49から脱落し難い。幅Wc及び幅Wiが上述の上限を満たす場合には、補強層43が確保されることで、上述の厚さ方向の割れの進展が抑制される。
【0150】
〈実施形態3〉
以下、
図8から
図10を参照して、実施形態3の双極板4を説明する。
実施形態3の双極板4における実施形態1との相違点は、第二の領域42は、第一の領域41の厚さt
1よりも薄い箇所を備えることである。つまり、第二の領域42は、段差形状である。
【0151】
詳しくは、第二の領域42は、厚さが異なる段差部45を有する。段差部45は、高段部45iと、低段部45cとを有する。低段部45cは、高段部45iよりも外縁44側に配置されている。補強層43の少なくとも一部が低段部45cに配置されている。
【0152】
高段部45iは、第二の領域42において相対的に厚い箇所である。低段部45cは、第二の領域42において相対的に薄い箇所である。そのため、低段部45cは、高段部45iに比較して、上述の厚さ方向の割れの進展によって破断し易い箇所である。このような低段部45cに補強層43を備えることで、低段部45cは、上記厚さ方向の割れの進展を抑制できる。ひいては、実施形態3の双極板4は、上記厚さ方向の割れの進展に起因する第二の領域42の破断を抑制できる。
【0153】
また、本例の補強層43は、第一の箇所と、第二の箇所とを備える。第一の箇所は、低段部45cに配置される箇所である。第二の箇所は、高段部45iと低段部45cとの境界457から第一の領域41側に向かって延びている箇所である。
【0154】
詳しくは、本例では、補強層43の幅W3は、低段部45cの幅W4よりも大きく、第二の領域42の幅W2よりも小さい。補強層43において外縁44側に位置する第一の箇所は、低段部45cの全幅にわたって配置されている。補強層43において第一の領域41側に位置する第二の箇所は、高段部45iに配置されている。つまり、補強層43は、側面4cから、低段部45cを経て、上述の境界457をわたって、高段部45iに至るように設けられている。
【0155】
段差部45を有する双極板4では、第二の領域42に上述の外力が負荷されると、上述の境界457を起点とし、上記境界457に沿った割れが生じ得る。補強層43が上記境界457をわたる箇所を有していれば、この箇所は、上記割れが第二の領域42の内部に向かって進展することを抑制する。ひいては、上記境界457を起点とする割れの進展に起因して、低段部45cが破断することが抑制される。
【0156】
補強層43の第二の箇所における上述の境界457から第一の領域41側に突出する長さLは、例えば、補強層43の幅W3の1%以上が挙げられる。上記長さLが大きいほど、上記境界457を起点とする割れの進展が抑制される。この割れの進展の抑制の観点から、上記長さLは、上記幅W3の3%以上、5%以上、10%以上でもよい。
【0157】
補強層43が樹脂層431といった電気絶縁材料を含む場合には、上述の第二の箇所の長さLが小さいほど、補強層43に起因するセル抵抗の増大が小さくなり易い。セル抵抗の増大の抑制の観点から、上記長さLは、例えば、補強層43の幅W3の50%以下が挙げられる。上記長さLは、上記幅W3の40%以下、30%以下、20%以下でもよい。本例では、補強層43の幅W3は、低段部45cの幅W4と上記長さLとの合計長さに等しい。また、本例では、第二の領域42の幅W2は、補強層43の幅W3と、上述の幅Wiとの合計長さに等しい。
【0158】
上述の境界457を起点とする割れの進展の抑制と、セル抵抗の増大の抑制との観点から、上述の第二の箇所の長さLは、補強層43の幅W3の1%以上50%以下、更に3%以上40%以下、5%以上20%以下でもよい。
【0159】
低段部45cの厚さt4は、高段部45iの厚さt2未満の範囲で適宜選択できる。低段部45cの厚さt4は、例えば、高段部45iの厚さt2の30%以上80%以下が挙げられる。補強層43の厚さt3は、例えば、低段部45cの厚さt4の2%以上50%以下が挙げられる。
【0160】
その他、
図8は、以下の条件(v)から(z)を満たす双極板4を例示する。
(v)高段部45iの厚さt
2と、第一の領域41の厚さt
1とが等しい。
(w)補強層43の外周縁43cが第二の領域42の表面である側面4cに露出されている。
(x)低段部45cにおける双極板4の厚さ方向の中央位置は、第二の領域42における上記厚さ方向の中央位置に一致する。
(y)上述の断面において、上記厚さ方向の二等分線を軸として第二の領域42が対称な形状、大きさとなるように、段差部45、補強層43、両表層部48,49が設けられている。
(z)補強層43は、単層の金属層432が二つの樹脂層431に挟まれた複合層430である。
【0161】
上記条件(v)から(y)を満たす双極板4は、単純な形状になり易い。この点から、双極板4は製造性に優れる。また、上記条件(y)を満たす双極板4では、低段部45cを構成する両表層部48,49の厚さが等しい。このような双極板4は、低段部45cを構成する両表層部48,49の厚さが異なる場合に比較して、両表層部48,49が割れ難い。
【0162】
なお、上記の条件(v)から(z)の少なくとも一つの変更が可能である。例えば、補強層43は、単層の樹脂層431でも単層の金属層432でもよい。又は、例えば、第二の領域42は、実施形態2で説明した内包構造でもよい(
図10参照)。各表層部48,49において、低段部45cを構成する箇所の厚さは、高段部45iを構成する箇所の厚さよりも薄い。そのため、低段部45cでは、高段部45iに比較して、補強層43と低段部45cを構成する各表層部48,49とが剥離し易い。第二の領域42が上述の内包構造である場合には、上述のように、補強層43と各表層部48,49との境界に沿って、補強層43と各表層部48,49とが剥離することが抑制される。結果として、補強層43は、両表層部48,49に適切に保持される。そのため、補強層43は、上述の厚さ方向の割れの進展をより確実に抑制できる。
【0163】
図9は、実施形態3の双極板4を備えるセルフレーム3において、双極板4における外縁44近くの部分を双極板4の厚さ方向に平行な平面で切断した断面を示す。
図9に示すセルフレーム3の基本的な構成は、上述の
図5,
図6に示すセルフレーム3と同様である。
図9に示すセルフレーム3では、枠体30を構成する二つの分割片301,302が双極板4の第二の領域42のうち低段部45cを挟む。分割片301,302は高段部45iを挟まない。このようなセルフレーム3では、第二の領域42に上述の外力が負荷されると、上述の境界457を起点とする割れが生じ得る。このセルフレーム3では、上述のように補強層43の第二の箇所によって、上記境界457を起点とする割れの進展が抑制されると期待される。
【0164】
分割片301,302が低段部45cを挟むことで、双極板4と枠体30とが位置ずれし難い。段差部45が枠体30の位置決め部として機能する。セルフレーム3の構成部材が位置ずれし難いことで、多セル電池を構築する場合に積層作業等が行い易い。このような双極板4及びセルフレーム3は、RF電池1の製造性の向上に寄与する。また、このセルフレーム3では、双極板4の低段部45cに上述の外力が負荷されても、補強層43によって、双極板4の第二の領域42における上述の厚さ方向の割れの進展が抑制される。これらの効果は、以下の別例も同様に奏する。
【0165】
実施形態3の双極板4の別例として、
図10に示すように、低段部45cの一面が第一面4a又は第二面4bを構成するように、第二の領域42が段差部45を有することが挙げられる。つまり、第二の領域42は、第一面4a側にのみ段差を有し、第二面4b側に段差を有さなくてもよい。
【0166】
なお、
図10に示す双極板4は、第二の領域42が上述の条件(v)を満たす、補強層43が上述の第一の箇所及び第二の箇所を備える、上述の内包構造である、補強層43が低段部45cの厚さ方向の中央位置に配置される場合を例示する。この場合には、補強層43の幅W
3は、低段部45cの幅W
4と、上述の幅Wc,Wiと、第二の箇所の長さLとが所定の大きさとなるように選択するとよい。
【0167】
図10に示す双極板4を備えるセルフレーム3は、以下のような枠体30を備える。
図10は、枠体30を二点鎖線で仮想的に示す。枠体30の詳細な図示は省略する。枠体30は、枠体30の外周側の厚さと枠体30の内周側の厚さとが異なるという段差構造を備える。枠体30の外周側は
図10では右側である。枠体30の内周側は
図10では左側である。詳しくは、枠体30は、相対的に厚い外枠部と、相対的に薄いフランジ部とを備える。フランジ部は、外枠部において窓部31を形成する内周壁に沿って設けられる。また、フランジ部は、外枠部の第一面側に偏って設けられている。外枠部の第一面は、枠体30の表面を構成する。フランジ部の第一面は、外枠部の第一面に連続しており、面一である。フランジ部の第二面と上記内周壁とによって、双極板4が嵌め込まれる凹部が形成される。フランジ部及び外枠部の第一面は
図10では上面である。フランジ部の第二面は
図10では下面である。フランジ部の第二面は、シール部材38が嵌め込まれる溝部を備える。フランジ部の第二面に低段部45cが配置される。この配置によって、枠体30は、双極板4の第二の領域42を支持する。
【0168】
本例のセルフレーム3は、フランジ部の第二面に、双極板4の第二の領域42の低段部45cを載置することで、容易に構築される。この点から、このセルフレーム3は、RF電池1の製造性の向上に寄与する。また、このセルフレーム3では、枠体30と双極板4の外縁44との間に、ある程度の大きさのギャップを確保することができる。このギャップによって、枠体30からの応力が第二の領域42に負荷され難い。この点から、第二の領域42では、割れが生じ難い上にこの割れが双極板4の厚さ方向に進展し難い。なお、このセルフレーム3では、枠体30のフランジ部と低段部45cとがシール部材38を挟む。
【0169】
実施形態3では、第一の領域41と第二の領域42との境界47と、高段部45iと低段部45cとの境界457とが異なる場合を説明した。上記境界457が上記境界47に重複してもよい。この場合には、補強層43の第二の箇所は、上記境界47から第一の領域41に突出する。即ち、双極板4では、補強層43の一部が第一の領域41に含まれることを許容する。但し、補強層43が樹脂層431を含む場合には、補強層43の第二の箇所に起因する第一の領域41のセル抵抗の増大を抑制するために、上述の長さLは小さいことが好ましい。
【0170】
〈流路〉
以下、
図11を参照して流路5の具体例を説明する。
図11は、双極板4を双極板4の厚さ方向から平面視した図である。上記厚さ方向は、
図11では紙面に垂直な方向である。
【0171】
図11は、流路5として、電解液の流通方向に延びる複数の直線状の溝51を備える場合を例示する。各溝51は、供給縁5i(
図2)に開口する第一端部と、排出縁5o(
図2)に開口する第二端部とを備える。また、各溝51は、電解液の供給縁5iと電解液の排出縁5oとの間の距離に等しい長さを有する。各溝51の幅、深さ、平面形状、断面形状は同じである。上記平面形状は、細長い長方形である。上記断面形状は、例えば長方形状等が挙げられる。これらの溝51は、供給縁5i又は排出縁5oの延設方向に所定の間隔で並ぶ。なお、
図11は、複数の溝51のうち、一部の溝51のみを示し、残部を省略する。電解液の流通方向は、
図11では上下方向である。
【0172】
流路5の形状、大きさ、個数等は適宜変更できる。例えば、流路5は、複数の溝を備える場合には、長さが異なる溝を含んでもよい。又は、流路5は、例えば、供給縁5i又は排出縁5oに開口しない溝を含んでもよい。又は、流路5は、例えば、供給縁5iと排出縁5oとの間で蛇行する溝を備えてもよい。蛇行方向は、例えば、上述の電解液の流通方向に沿った方向、上記流通方向に交差する方向が挙げられる。なお、双極板4は、流路5を備えていなくてもよい。
【0173】
〈製造方法〉
以下、
図12Aから
図12Cを参照して、上述の実施形態の双極板4を製造可能な双極板の製造方法の一例を説明する。なお、
図12Aから
図12Cは、プリフォーム90及び双極板4をこれらの厚さ方向に平行な平面で切断した断面を模式的に示す。
以下の工程1から工程3を備える双極板の製造方法を多段製法と呼ぶ。多段製法は、実施形態1から実施形態3の双極板4を製造できる。即ち、多段製法は、第一の領域41と、第一の表層部48及び第二の表層部49とが導電材と樹脂とを含む複合材料であって、同じ複合材料によって一体に成形されてなる双極板4を製造できる。
【0174】
(工程1)第一の領域41及び両表層部48,49の原料である混合粉末900と、補強層43の原料である補強素材943とを用意する。
(工程2)第一金型21,22によって、第一の成形を行うことで、補強素材943を含むプリフォーム90を製造する。第一の成形は、混合粉末900と補強素材943とを第一金型21,22に配置した状態で、第一温度に加熱すると共に第一圧力で加圧した後に冷却する。
(工程3)第二金型23,24によって、第二の成形を行うことで、双極板4を製造する。第二の成形は、プリフォーム90を第二温度に加熱した後、加圧を行い、この加圧後に冷却する。第二温度は、混合粉末900に含まれる樹脂の軟化温度以上の温度であると共に、第一温度よりも高い。加圧は、成形可能な温度及び第二圧力で行う。
【0175】
多段製法は、異なる条件で複数の熱プレス成形を行う製法である。第一の成形は、相対的に低密度な成形体であるプリフォーム90を製造する。第二の成形は、プリフォーム90を緻密化する。多段製法は、一段の熱プレス成形を行う場合に比較して、導電材の含有率が高い第一の領域41を備える双極板4を製造できる。例えば、多段製法は、導電材の含有率が体積比率又は質量比率で70%以上である双極板4を製造できる。このような双極板4は、導電率が高く、体積抵抗率が低い。なお、一段の熱プレス成形を行う製造方法は、導電材と樹脂とを含む混合物の流動性を確保するために、混合粉末における樹脂の含有率を高くする必要がある。従って、導電材の含有率を高くすることが難しい。
【0176】
実施形態1の双極板4等は、上述の多段製法だけでなく、以下のようにして製造することもできる。
補強素材943を含まず、上述の複合材料のみから構成されるプリフォームを二つ以上製造する。
二つのプリフォームによって補強素材943を挟んだ状態で加熱すると共に加圧することで、プリフォームと補強素材943とが積層された中間物を製造する。この工程によって、プリフォームと補強素材943とを接合すると共に、プリフォームを緻密化する。
更に、上記中間物を所定の形状に成形することで、所定の形状を有する双極板4を製造する。
この製造方法では、第二金型に二つ以上のプリフォームと一つの補強素材943とを収納する必要がある。また、プリフォームに対して補強素材943を高精度に配置する必要がある。これに対し、多段製法では、混合粉末900に補強素材943を配置するため、補強素材943の配置が容易である。また、多段製法では、第二金型23,24に配置するプリフォーム90の数が一つでよい。これらの点から、多段製法は、導電材の含有率が高い双極板4を生産性良く製造できる。
【0177】
以下、工程ごとに説明する。
(工程1) 原料の用意
混合粉末900は、導電材から構成される粉末と樹脂から構成される粉末とを含む。導電材の詳細、樹脂の詳細は、上述の《構成材料》を参照されたい。混合粉末900は、例えば、上記樹脂の軟化温度より低い温度、代表的には室温で攪拌及び混合することが挙げられる。
【0178】
補強素材943は、例えば、上述の樹脂フィルム、金属箔、複合シートが挙げられる。補強素材943は、公知の製造方法によって製造するとよい。又は、補強素材943は、市販品でもよい。
【0179】
補強素材943が樹脂フィルム等の樹脂を含む場合には、上述のように、補強素材943に含まれる樹脂と、混合粉末900に含まれる樹脂とが熱可塑性樹脂であること、更には同種の熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、これらの樹脂は、メルトフローレート(MFR)がある程度小さいと、樹脂フィルムを構成する樹脂が上述の複合材料に拡散し難くなることで、厚く残存し易い傾向にある。結果として、ある程度厚い補強層43が形成され易い。樹脂の種類にもよるが、MFRは、例えば3.0未満、更に2.5以下、2.0以下、1.5以下が挙げられる。MFRは、1.0以下でもよい。一方、MFRがある程度大きいと、上述の樹脂の拡散領域が形成され易い。結果として、補強層43と各表層部48,49とが密着性に優れる。この密着性の観点から、MRFは、0.1以上、更に0.15以上でもよい。
【0180】
また、補強素材943が樹脂フィルム等の樹脂を含む場合には、上述の樹脂の拡散領域が形成されることで、補強層43における樹脂層431の厚さ及び幅は、樹脂フィルムの厚さ及び幅よりも小さくなり易い。特に、厚さの減少率は、幅の減少率よりも大きい傾向にある。樹脂層431の厚さ及び幅が所定の大きさを有するように、樹脂フィルムの厚さ及び幅を選択するとよい。樹脂層431の厚さの調整は、複数の樹脂フィルムを用いることで行ってもよい。樹脂の種類及び樹脂の含有率、加圧条件等にもよるが、例えば、樹脂層431の厚さが0.01mm以上2mm以下であれば、樹脂フィルムの合計厚さは0.05mm以上5mm以下が挙げられる。樹脂フィルムの合計厚さは、0.05mm以上3.0mm以下、更に0.10mm以上1.5mm以下、0.20mm以上1.0mm以下でもよい。なお、補強素材943が金属箔を含む場合、補強層43における金属層432の厚さ及び幅は、金属箔の厚さ及び幅に実質的に等しい。
【0181】
(工程2) プリフォームの成形
第一金型21,22は、所定の形状のプリフォーム90を成形可能なものが利用できる。第一金型21は、例えば上部が開口された箱状の金型である。第一金型22は、第一金型21の開口部に応じた形状、大きさを有する板状の金型である。プリフォーム90は、平面形状が長方形状の平板といった単純な形状でよい。単純な形状であるプリフォーム90は、成形し易い。この点から、双極板4の製造時間が短くなり易い。
【0182】
混合粉末900は、複数回に分けて、第一金型21に充填する。混合粉末900の分割数は、双極板4の第二の領域42において、双極板4の厚さ方向に並ぶ補強層43の数に応じて調整するとよい。本例のように、上記厚さ方向に一つの補強層43を備える双極板4を製造する場合には、混合粉末900の総量を二等分した第一粉末901及び第二粉末902を用意する。そして、混合粉末900を二回に分けて第一金型21に充填する。なお、分割された各粉末の量は、等しくなくてもよい。
【0183】
図12Aの上段に示すように、第一金型21に混合粉末900の一部である第一粉末901を充填する。
図12Aの第二段に示すように、第一粉末901の表面を均す。
図12Aの第三段に示すように、第一粉末901の上に補強素材943を配置する。本例の補強素材943は、枠板状である。
図12Aの下段に示すように、第一金型21内において、第一粉末901及び補強素材943の上に、混合粉末900の残部である第二粉末902を充填する。
【0184】
以上の工程によって、補強素材943の二面のうち一面、
図12Aでは下面は、第一粉末901によって覆われる。補強素材943の二面のうち別の一面、
図12Aでは上面は、第二粉末902によって覆われる。本例では、補強素材943の側面は、混合粉末900に覆われず、混合粉末900から露出されている。また、補強素材943の側面は、第一金型21の内周面に接している。
【0185】
図12Bの上段に示すように、第一金型21内において、第二粉末902の表面を均す。
図12Bの中段に示すように、板状の第一金型22を第一金型21に組み合わせる。第一金型21,22によって、補強素材943と混合粉末900とが加熱される。
図12Bの下段に示すように、第一金型21,22によって、補強素材943と混合粉末900とが加圧される。上記の加熱及び加圧によって、第一の成形が行われる。第一の成形によって、補強素材943を含むプリフォーム90が製造される。ここでは、第一粉末901の量と第二粉末902の量とが等しいため、補強素材943は、板状のプリフォーム90における厚さ方向の中心位置及びその近傍に配置される。プリフォーム90が成形されたら、加熱及び加圧をやめる。
【0186】
第一の成形は、プリフォーム90が板の状態を保持できる程度の成形体となるように行う。定量的には、第一温度は、例えば混合粉末900に含まれる樹脂の融点に近い温度が挙げられる。第一圧力は、例えばプリフォーム90における複合材料の密度が最密充填時の理論密度の70%以上90%未満となるように設定されることが挙げられる。第一圧力の具体例として、0.5MPa以上、更に1MPaから4MPa程度が挙げられる。なお、プリフォーム90の密度は、仮にプリフォーム90に所定の形状の溝を形成しても、プリフォーム90をそのまま双極板として使用できない程度の密度である。また、プリフォーム90の密度は、最終的に製造される双極板4の密度よりも低い。
【0187】
上述の樹脂の融点に近い温度は、例えば上記融点±50℃程度が挙げられる。上記融点に近い温度範囲において、第一温度が比較的低温であれば、第一圧力は高く設定される。第一温度が比較的高温であれば、第一圧力は低く設定される。第一温度が上記融点よりも高いほど、混合粉末900等に含まれる樹脂が軟化し易い。例えば第一温度は上記融点より70℃程度高くすることもできる。
【0188】
加熱によって、混合粉末900等に含まれる樹脂が軟化する、又は溶融する。軟化した樹脂又は溶融した樹脂を含む混合粉末900が加圧されることで、補強素材943と混合粉末900とが一体化される。補強素材943が樹脂を含むと共に、この樹脂の融点が第一温度に近い場合には、補強素材943と混合粉末900とがより確実に一体化される。
【0189】
(工程3) 緻密化及び最終形状の成形
第二金型23,24は、最終的な形状の双極板4を成形可能なものが利用できる。例えば、
図12Cに例示すように、第二金型23,24が溝51を成形可能なものであれば、第二の成形によって、流路5を備える双極板4が製造される。なお、流路5を備える双極板4は、第二の成形によって平坦な平板材を製造した後に、この平板材に切削加工を行うことでも製造できる。これに対し、第二の成形によって、プリフォーム90の緻密化と共に流路5の成形を行えば、上述の切削加工等の後工程が不要である。この点から、双極板4の製造時間が短くなり易い。
【0190】
第二温度は、上述のように混合粉末900に含まれる樹脂の軟化温度以上であると共に、第一温度よりも高い。代表的には、第二温度は上記樹脂の融点以上が挙げられる。第二温度に加熱されることで、プリフォーム90等に含まれる樹脂は第一の成形時よりも軟化する、又は溶融する。その結果、プリフォーム90における上述の複合材料と、補強素材943とがより確実に接合される。例えば、上述の樹脂の拡散領域がより確実に形成される。また、この加熱によって、プリフォーム90の成形性が高められる。
【0191】
第二温度に加熱されたプリフォーム90を加圧する際の温度は、成形可能な温度とする。代表的には、この加圧時の温度は、樹脂の軟化温度以上、樹脂の融点未満が挙げられる。従って、加圧時の温度は、第二温度よりも低くてよい。例えば、加圧時の温度は、第一温度と同じ程度でもよい。加圧時の温度は、樹脂の種類に応じて選択するとよい。第二圧力は例えば5MPa以上、更に7MPa以上、10MPa以上が挙げられる。
【0192】
図12Cの上段に示すように、板状のプリフォーム90は、二つの第二金型23,24に挟持される。
図12Cの第二段に示すように、板状のプリフォーム90は、二つの第二金型23,24に挟持された状態で第二温度に加熱される。
図12Cの第三段に示すように、加熱されたプリフォーム90には、第二の成形が行われる。具体的には、第二温度に加熱された後、適宜冷却されることで所定の温度になったプリフォーム90は、プリフォーム90の厚さが小さくなるように第二金型23,24によって加圧される。第二の成形が終了される際には、成形体の温度は室温程度まで冷却される。プリフォーム90が上記厚さ方向に加圧されて圧縮されることによって高密度化が行われると共に、所定の最終形状の成形が行われる。
図12Cの下段に示すように、第二金型23,24から双極板4を取り出すことで、最終的な形状を有する双極板4が得られる。
【0193】
多段製法は、第二の成形による緻密化によって、上述の複合材料における空孔の体積比率が例えば10%未満である双極板4を製造できる。即ち、上記複合材料から構成される第一の領域41及び両表層部48,49は、空孔が少ない緻密な成形体である。このような双極板4は機械的強度に優れる。なお、多段製法では、プリフォーム90と最終的に製造される双極板4とを比較すると、上記複合材料における密度又は空孔率が異なるものの、導電材と樹脂との存在比率は実質的に同じである。
【0194】
[試験例1]
補強層を備える双極板を上述の多段製法によって製造して、双極板の断面を光学顕微鏡で観察した。
【0195】
(試料の作製)
この試験では、補強層の原料として、種々の樹脂フィルムを用意し、同じ条件で双極板を製造した。用意した混合粉末、及び樹脂フィルムは、以下の通りである。
【0196】
・混合粉末
導電材の粉末は、黒鉛粉末である。樹脂の粉末は、ポリプロピレン粉末である。製造される双極板のうち、導電材と樹脂とを含む複合材料から構成される部分において、上記複合材料を100質量%として、導電材の含有率が70質量%となるように、導電材の粉末の量及び樹脂の粉末の量を調整した。
【0197】
・樹脂フィルム
表1は、各試料に用いた樹脂フィルムの材質、メルトフローレート(MFR)、1枚の樹脂フィルムの厚さ(mm)、使用した樹脂フィルムの数、合計厚さ(mm)を示す。表1において、PPは、ポリプロピレンである。HDPEは、高密度ポリエチレンである。樹脂フィルムは、下記のMFRを有するように、公知の製造方法によって製造されたものである。各樹脂フィルムは、平面形状が長方形であり、30mmの幅を有する枠板材である。樹脂フィルムの幅は、枠の周方向に一様な大きさである。
【0198】
【0199】
各試料の双極板は、以下のように製造した。
用意した黒鉛粉末とPP粉末とを市販のミキサーによって、室温で混合及び攪拌することで混合粉末を得た。混合粉末の半量を第一金型に充填した後、粉末の表面を均した。均した混合粉末の上に樹脂フィルムを配置した。樹脂フィルムを覆うように、混合粉末の残り半量を第一金型に充填した後、粉末の表面を均した。
【0200】
第一金型によって、混合粉末と樹脂フィルムとを第一温度に加熱すると共に第一圧力で加圧した後に冷却した。第一温度は150℃である。第一温度は、ポリプロピレンの軟化温度である120℃よりも高い。第一圧力は2MPaである。得られたプリフォームのサイズは、900mm×450mm×10mmである。プリフォームにおける複合材料の密度は、最密充填時の理論密度の82%である。
【0201】
第二金型によって、プリフォームを第二温度に加熱した後に第二圧力で加圧し、更にこの加圧後に冷却した。第二温度は215℃であり、第一温度よりも高い。第二圧力は25MPaである。ここでの加圧時の温度は150℃であり、ポリプロピレンの軟化温度よりも高く、かつ第二の温度よりも低い。加圧方向は、プリフォームの厚さが減少されるように、プリフォームの厚さ方向に沿った方向である。上記加圧後、成形体の温度が35℃となるまで、成形体を冷却する。第二金型から取り出された成形体が双極板である。得られた双極板のサイズは、900mm×450mm×8mmである。双極板における複合材料の密度は、最密充填時の理論密度の99%以上である。
【0202】
(断面観察)
各試料の双極板を双極板の厚さ方向に平行な平面で切断して、断面をとった。各試料の断面を研磨後、光学顕微鏡で観察した。観察は、双極板の外縁側の領域について行った。その結果、各試料の双極板における上記外縁側の領域は、三つの層が双極板の厚さ方向に並ぶ三層構造であった。各層の成分を確認したところ、上記厚さ方向の中心位置及びその近傍に配置される中間層は、実質的に樹脂から構成されていた。また、中間層を上記厚さ方向に挟む上層及び下層は、実質的に上述の複合材料から構成されていた。即ち、中間層は、上記厚さ方向において、上述の上層と下層との間に配置されていた。このような各試料の双極板は、外縁側の領域に単層の樹脂層を備えるといえる。また、単層の樹脂層を上記厚さ方向から透視した形状は環状である。
【0203】
試料No.1から試料No.5の双極板では、中間層は、ポリプロピレンから構成されていた。試料No.6の双極板では、中間層は、高密度ポリエチレンから構成されていた。実質的に樹脂のみから構成される中間層の破断伸びは、上述の複合材料の破断伸びよりも高い。ポリプロピレン又は高密度ポリエチレンから構成される中間層の破断伸びは、1.0%以上であり、更には10%以上である。
【0204】
各試料において、上記中間層の厚さを測定した。上記厚さの測定は、上記断面を用いて行った。具体的には、上記断面において中間層が延設される方向に沿って所定の間隔をあけて3以上の点をとる。各点において厚さを測定する。各点の厚さを平均する。この平均厚さ(mm)を樹脂層の厚さとして、表1に示す。
【0205】
表1は、樹脂フィルムの材質が同じであって、樹脂フィルムの合計厚さが同じである場合にはMFRが小さいほど、双極板における樹脂層の厚さが厚くなり易いことを示す。また、表1は、上述の複合材料に含まれる樹脂と樹脂層を構成する樹脂とが同種の熱可塑性樹脂である場合には、異種の場合よりも、上記樹脂層の厚さが厚くなり易いことを示す。これらのことから、樹脂フィルムを構成する樹脂が上記複合材料中の樹脂に拡散し過ぎずに残存することで、厚い樹脂層を備える双極板が製造できるといえる。そして、上記樹脂層の厚さが厚いほど、上記樹脂層は、補強層として良好に機能できると期待される。なお、樹脂層の幅は、30mmであった。
【0206】
また、この試験から、上述の複合材料に含まれる樹脂の材質、樹脂フィルムの材質、特性、厚さ等を調整することで、補強層として機能可能な樹脂層を備える双極板が製造できることが示された。
【0207】
本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。以下に、変形例を示す。上述の実施形態の構成の少なくとも一つと、以下の変形例の構成の少なくとも一つとを組み合わせてもよい。
【0208】
(変形例1)
第一の領域41を構成する複合材料と、第一の表層部48及び第二の表層部49の少なくとも一方の表層部を構成する複合材料とが異なる。例えば、少なくとも一方の表層部を構成する複合材料は、第一の領域41を構成する複合材料よりも樹脂を多く含むことが挙げられる。
【0209】
定量的には、少なくとも一方の表層部を構成する複合材料における樹脂の含有率は、第一の領域41における樹脂の含有率の1.2倍以上20倍以下、更に1.5倍以上15倍以下が挙げられる。上記の樹脂の含有率の範囲を満たす表層部では、樹脂が相対的に多く、導電材が相対的に少ない。樹脂が相対的に多いことで、この表層部の表面には、割れが生じ難い。上記表面の割れの発生を低減する観点から、上記樹脂の含有率は、第一の領域41における樹脂の含有率の1.5倍以上、2倍以上、更に2.5倍以上でもよい。また、上記の樹脂の含有率の範囲を満たす表層部は、導電材をある程度含む。この点から、第二の領域42は導電性にも優れる。又は、一つの表層部を100質量%として、上記樹脂の含有率は60質量%以上95質量%以下、導電材の含有率は5質量%以上40質量%以下が挙げられる。
【0210】
変形例1の双極板4の製造過程では、第一の領域41の原料となる混合粉末と、上記表層部48,49の原料となる混合粉末とをそれぞれ用意する。双極板4の所定の位置に第一の領域41、各表層部48,49が成形されるように、第一金型21に各混合粉末を充填する。
【0211】
表層部48,49における樹脂の含有率と第一の領域41における樹脂の含有率との高低を判別する方法として、例えば、以下の方法が挙げられる。この方法は、双極板4の表面を赤外分光分析(IR)の一種である全反射測定法(ATR)を用いて分析し、フーリエ変換赤外分光(FT-IR)のスペクトルを用いる。ATR法は、測定する試料の表面から厚さ方向に数μm程度までの極薄い領域について、FT-IRスペクトルを取得可能である。そのため、ATR法によるFT-IRのスペクトルは、樹脂を含む部材に対して、表面部分における樹脂の含有率の高低を比較する指標に適すると考えられる。
【0212】
樹脂の含有率が多ければ、樹脂の構造に基づく吸収ピークが樹脂の特有の波数(cm-1)に現れる。この波数によって、樹脂の含有率の高低が判別される。樹脂の含有率が低ければ、上記吸収ピークが小さい、又は全く現れない。樹脂の含有率が高ければ、吸収ピークを示す波数が少なくとも一つ、代表的には複数現れる。
【0213】
ATR法によるFT-IRのスペクトルは、市販の分析装置を用いて測定することが挙げられる。分析装置は、例えば、株式会社島津製作所、ATR8000Aに付属されるIRTracer-100が挙げられる。測定条件は、例えば、波数の分解能が4cm-1であり、積算回数が16回であることが挙げられる。
【0214】
樹脂の含有率は、FT-IRスペクトルの吸収ピークを利用して測定することが挙げられる。その他、樹脂の含有率を測定する方法としては、例えば、比重を利用することが挙げられる。第一の領域41、第一の表層部48、第二の表層部49からそれぞれ試料を切り出し、各試料の比重を測定する。測定した比重によって樹脂の含有率を推定することができる。
【0215】
(変形例2)
補強層43が複合層430を備える場合に、複合層430は、一つの樹脂層431と、一つの金属層432とを備える二層構造である。又は、複合層430は、二層以上の樹脂層431と二層以上の金属層432とが交互に積層された多層構造である。複合層430が多層構造の場合には、複合層430の最外層が樹脂層431であると、上述の単層の樹脂層431の項で説明した効果(1)から(3)を奏する。
【0216】
(変形例3)
第一の表層部48の厚さと、第二の表層部49の厚さとが異なる。変形例3の双極板4では、補強層43における双極板4の厚さ方向の配置位置が第一面4a側、又は第二面4b側に偏っている。また、変形例3の双極板4では、上述の断面において、第二の領域42は上記厚さ方向の二等分線を軸として、非対称な形状である。
【0217】
(変形例4)
補強層43は、第二の領域42の周方向の一部にのみ設けられている。例えば、補強層43は、上述の外力が特に負荷され易い箇所にのみ設けられていてもよい。又は、例えば、補強層43は、第一面4a又は第二面4bの表面方向に不連続に設けられていてもよい。具体的には、補強層43は、上記表面方向に所定の間隔をあけて配置される複数の短い層から構成されることが挙げられる。各層の材質、厚さ、幅、形状等の仕様は同じでもよいし、上記仕様の一つ以上が異なってもよい。なお、変形例4では、実施形態1等の説明において「補強層43の周方向」との表現は「補強層43の延設方向」に読み替える。
【0218】
一例として、補強層43は、双極板の厚さ方向から透視した状態において、二つの長い帯状層を含み、二つの帯状層は、第一の領域41を挟んで向かい合って配置されることが挙げられる。より具体的には、第二の領域42が長方形の枠状である場合には、各帯状層は、上記長方形の長辺方向に沿って延びる長方形の帯状であることが挙げられる。各帯状層は、外縁44に沿って連続する。補強層43がこのような帯状層を含むことで、上述の厚さ方向の割れの進展を抑制する範囲がある程度大きく確保される。また、二つの帯状層が平面視で対称に配置される場合には、第二の領域42は、各帯状層によって、上記外力を均一的に受けられる。
【0219】
別例として、補強層43は、上述の透視状態において、複数の短い帯状層を含み、各帯状層が外縁44の周方向に所定の間隔をあけて直線状、又は枠状に並ぶことが挙げられる。いわば、補強層43の全体形状が破線状、又は破線の枠状である。
【0220】
変形例4の双極板4の製造過程では、帯状層の原料となる長い補強素材943又は短い補強素材943を複数用意する。第二の領域42の所定の箇所に補強層43が配置されるように、第一金型21内の第一粉末901における所定の位置に各補強素材943を配置する。また、各帯状層が所定の仕様を有するように、各補強素材943を選択する。
【0221】
(変形例5)
第二の領域42に含まれる積層された箇所の積層数が三ではなく、四以上である。つまり、変形例5の双極板4では、第二の領域42は、双極板4の厚さ方向に間隔をあけて、複数の補強層43を備える。例えば、第二の領域42は、第一の表層部48、第一の補強層43、中間層、第二の補強層43、第二の表層部49を備え、これらが上記厚さ方向に順に並んだ箇所を備えることが挙げられる。複数の補強層43のそれぞれは、単層の樹脂層431、単層の金属層432、及び複合層430からなる群より選択される一つであることが挙げられる。
【0222】
変形例5の双極板4は、双極板4の厚さ方向に多段に補強層43を備える。このような変形例5の双極板4は、上述の外力によって第二の領域42の表面に割れが生じた際に、一層の補強層43のみを備える場合に比較して、上記割れが上記厚さ方向に進展し難い。ひいては、第二の領域42の破断が効果的に抑制される。また、各補強層43の幅W3、厚さt3が異なる場合でも、各補強層43が第一面4a又は第二面4bの表面に沿った方向にずれて並べば、上述の厚さ方向の割れの進展を抑制可能な範囲が広く確保される。この点からも、上記割れが上記厚さ方向に進展し難い。更に、両表層部48,49及び中間層と第一の領域41とが同じ複合材料によって連続して成形されてなる場合には、上述のように双極板4は製造性に優れる。
【0223】
変形例5の双極板4において、補強層43の積層数は適宜選択できる。また、一つの補強層43の厚さt3は、上記積層数、第二の領域42の厚さt2等にもよるが、例えば、第二の領域42の厚さt2の2%以上50%以下が挙げられる。又は、一つの補強層43の厚さt3は、例えば0.01mm以上0.50mm未満が挙げられる。各補強層43の材質、厚さ、幅、形状等の仕様は同じでもよいし、上記仕様の一つ以上が異なってもよい。
【0224】
変形例5の双極板4の製造過程では、複数の補強層43の原料となる複数の補強素材943を用意すると共に、上述の積層数に応じて混合粉末900を分ける。各補強層43が所定の仕様を有するように、各補強素材943を選択する。そして、第一金型21に対して、分けた粉末の充填と、補強素材943の配置とを繰り返し行うことが挙げられる。
【0225】
(変形例6)
補強層43と各表層部48,49との境界が平面ではなく、波形、円弧等の曲面となるように、補強層43と各表層部48,49とが設けられている。つまり、上記境界の断面形状は、直線状ではなく、波線状、円弧状等である。このような補強層43を備える変形例6の双極板4では、各表層部48,49の厚さが部分的に異なる。変形例6の双極板4の製造過程では、補強層43が所定の形状を有するように、補強素材943の形状を選択すればよい。
【0226】
変形例6の双極板4では、上述の界面が平面である場合に比較して、補強層43と各表層部48,49との接触面積が大きい。そのため、補強層43と各表層部48,49とが剥離し難い。この点から、第二の領域42は上述の厚さ方向の割れの進展をより抑制し易い。
【0227】
(変形例7)
セルフレーム3の変形例として、セルフレーム3は、双極板4と枠体30との一体成形物であることが挙げられる。即ち、双極板4の外縁44側に、枠体30が一体に成形されていてもよい。このセルフレーム3は、例えば双極板4の外縁44側の領域に射出成型等によって枠体30を成形することで製造することが挙げられる。変形例7のセルフレーム3において、双極板4は、第二の領域42に補強層43を備える。また、双極板4の第二の領域42の少なくとも一部は、枠体30を構成する樹脂によって覆われる。第二の領域42と枠体30とは、上述の射出成型等によって強固に接合される。これらのことから、変形例7のセルフレーム3では、双極板4の第二の領域42の表面に割れが生じ難い上に、上記割れが双極板4の厚さ方向に進展し難い。結果として、変形例7のセルフレーム3では、双極板4が割れ難い。
【0228】
(変形例8)
多段製法の変形例として、第一金型21の底面に補強素材943を配置することが挙げられる。又は第一金型21に混合粉末900の全量を充填した後において、混合粉末900の表面に補強素材943を配置することが挙げられる。変形例8では、プリフォームの表面の一部が補強素材943によって構成されたプリフォームが製造される。このプリフォームを用いることで、第二の領域の表面の一部が補強層によって構成された双極板が製造される。この双極板では、第二の領域に上述の外力が負荷されても、第二の領域の表面に割れが生じ難い。第二の領域において、表面側に加えて、双極板の厚さ方向の中間位置にも補強層が設けられる場合には、上記表面の割れが上記厚さ方向に進展し難い。結果として、この双極板は割れ難い。
【0229】
更に、補強素材の表面と上記複合材料の表面とは、第一金型21,22によって同時に押圧されると共に、第二金型23,24によって同時に押圧される。そのため、得られた双極板では、代表的には、補強層の表面と上記複合材料から構成される部分の表面とが段差なく滑らかに連続する平坦な面である。この点から、補強層と上記複合材料から構成される部分との境界及びその近傍の領域において、割れが生じ難い。
【符号の説明】
【0230】
1 レドックスフロー電池(RF電池)
10 電池セル
11 隔膜、12 電極、13 正極電極、14 負極電極
16,17 タンク、160,170 配管
161,171 往路配管、162,172 復路配管
18,19 ポンプ
100 セルスタック、110 サブセルスタック
101 エンドプレート、102 締結部材、103 給排板
3 セルフレーム
30 枠体、31 窓部、33,34 給液マニホールド
35,36 排液マニホールド、38,39 シール部材
301,302 分割片
305 切り欠き、308 溝部
4 双極板
4a 第一面、4b 第二面、4c 側面
41 第一の領域、42 第二の領域、43 補強層
43a,43b 面、43c 外周縁、43i 内周縁
430 複合層、431 樹脂層、432 金属層
44 外縁、45 段差部、45c 低段部、45i 高段部、457 境界
47 境界
48 第一の表層部、49 第二の表層部
5 流路、51 溝
5i 供給縁、5o 排出縁
6 交流/直流変換器、61 変電設備、7 発電部、8 負荷
900 混合粉末、901 第一粉末、902 第二粉末
90 プリフォーム
943 補強素材
21,22 第一金型、23,24 第二金型
t1,t2,t3,t4 厚さ
W2,W3,Wc,Wi 幅
L 長さ