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特許7544129スイッチング素子駆動方法、及びスイッチング素子駆動装置
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  • 特許-スイッチング素子駆動方法、及びスイッチング素子駆動装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】スイッチング素子駆動方法、及びスイッチング素子駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H03K 17/14 20060101AFI20240827BHJP
   H03K 17/567 20060101ALI20240827BHJP
   H03K 17/16 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H03K17/14
H03K17/567
H03K17/16 F
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022545233
(86)(22)【出願日】2020-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2020032779
(87)【国際公開番号】W WO2022044298
(87)【国際公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥山 祐加
(72)【発明者】
【氏名】並木 一茂
(72)【発明者】
【氏名】阿部 圭太
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-159712(JP,A)
【文献】特開2014-086853(JP,A)
【文献】特開2004-096318(JP,A)
【文献】特開2007-124007(JP,A)
【文献】国際公開第2019/038957(WO,A1)
【文献】特開2013-017092(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0319571(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K17/00-17/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
各相に含まれる複数のスイッチング素子及び複数の前記スイッチング素子を駆動する駆動回路を備えたスイッチング素子駆動装置において実行されるスイッチング素子駆動方法であって、
各相ごとに複数の前記スイッチング素子の内の少なくとも一つの温度を検出し、
各相ごとで検出された温度を含む複数の温度の内の最低値を前記スイッチング素子のスイッチング速度を変化させる基準となる切り替え判定温度として演算し、
前記切り替え判定温度が所定の閾値以下となると、全ての前記スイッチング素子のスイッチング速度を低下させる、
スイッチング素子駆動方法。
【請求項2】
請求項1に記載のスイッチング素子駆動方法であって、
前記スイッチング素子を具備する素子モジュールの外部の温度であって、前記スイッチング素子の温度に相関する外部温度をさらに検出し、
前記切り替え判定温度及び前記外部温度の双方に基づいて全ての前記スイッチング素子のスイッチング速度を変化させる、
スイッチング素子駆動方法。
【請求項3】
請求項2に記載のスイッチング素子駆動方法であって、
前記スイッチング素子のスイッチング速度の制御モードとして、スイッチング速度を相対的に高くする高速モード又は相対的に低くする低速モードを設定し、
前記制御モードとして前記低速モードが設定されている場合には、前記スイッチング素子の温度の内の最低値が所定の第1高速閾値を超えるか、又は前記外部温度が所定の第2高速閾値を超えると、前記制御モードを前記高速モードに切り替え、
前記制御モードとして前記高速モードが選択されている場合には、前記スイッチング素子の温度の内の最低値が所定の第1低速閾値以下且つ前記外部温度が所定の第2低速閾値以下となると、前記制御モードを前記低速モードに切り替える、
スイッチング素子駆動方法。
【請求項4】
請求項1~3の何れか1項に記載のスイッチング素子駆動方法であって、
前記スイッチング素子のスイッチング速度を変化させる場合に、変化のタイミングに合わせて、前記スイッチング素子のデッドタイム補償値を変化させる、
スイッチング素子駆動方法。
【請求項5】
各相に含まれる複数のスイッチング素子と、各相ごとに複数の前記スイッチング素子の温度の内の少なくとも一つを検出する温度センサと、前記スイッチング素子を駆動する駆動回路と、前記温度センサによって各相ごとで検出された温度を含む複数の温度検出値に基づいて前記駆動回路を制御する制御部と、を備えたスイッチング素子駆動装置であって、
前記制御部は、
複数の前記温度検出値の内の最低値を、前記スイッチング素子のスイッチング速度を変化させる基準となる切り替え判定温度として演算し、
前記切り替え判定温度が所定の閾値以下となると、全ての前記スイッチング素子のスイッチング速度を低下させる、
スイッチング素子駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング素子駆動方法、及びスイッチング素子駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
WO2016/117459A1には、複数の半導体スイッチング素子を具備する駆動回路の制御方法が提案されている。特に、WO2016/117459A1の制御方法では、スイッチング素子の温度に基づいてスイッチング速度(スイッチング素子の動作速度)を調節することにより、スイッチング素子の損失を低減している。
【発明の概要】
【0003】
WO2016/117459A1の制御方法では、各半導体スイッチング素子の温度を検出して素子ごとに個別にスイッチング速度を調節している。したがって、スイッチング速度を制御するための駆動回路を素子ごとに個別に設ける必要があり、装置全体が大型化するという問題がある。
【0004】
したがって、本発明は、装置全体の大型化を抑制しつつ好適にスイッチング速度を調節することのできるスイッチング素子駆動方法、及びスイッチング素子駆動装置を提供することを目的とする。
【0005】
本発明のある態様によれば、複数のスイッチング素子及び複数のスイッチング素子を駆動する駆動回路を備えたスイッチング素子駆動装置において実行されるスイッチング素子駆動方法が提供される。このスイッチング素子駆動方法では、複数の前記スイッチング素子の温度を検出し、検出した複数の温度からスイッチング素子のスイッチング速度を変化させる基準となる切り替え判定温度を演算する。そして、切り替え判定温度に基づいて全てのスイッチング素子のスイッチング速度を変化させる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、本発明の実施形態によるスイッチング素子駆動装置が提供される電動機制御システムの構成を説明する図である。
図2図2は、スイッチング素子駆動装置の要部構成を示す図である。
図3図3は、コントローラにおけるスイッチング素子駆動方法を実行するための機能を説明するブロック図である。
図4図4は、切り替え信号生成処理のフローチャートである。
図5図5は、変形例による切り替え信号生成処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら本発明の各実施形態について説明する。
【0008】
図1は、本実施形態に係るスイッチング素子駆動装置100が適用される電動機制御システム1の構成を説明する図である。図示のように、電動機制御システム1は、主として、直流電源としてのバッテリ12と、スイッチング素子駆動装置100と、例えば車載用の3相交流モータとして構成されるモータ20と、により構成される。
【0009】
特に、本実施形態のスイッチング素子駆動装置100は、バッテリ12からモータ20への供給電力(又はモータ20からバッテリ12への回生電力)を調節する電力変換器として構成される。より具体的に、スイッチング素子駆動装置100としては、バッテリ12とモータ20との間で直流から三相交流又は三相交流から直流への電力変換を行うインバータが想定される。
【0010】
スイッチング素子駆動装置100は、リプルを抑制する平滑コンデンサ14と、スイッチング回路を構成する複数(図では6つ)のパワー半導体素子部16-1~16-6と、パワー半導体素子部16を駆動させる駆動回路30と、冷却器40と、制御部としてのコントローラ50と、を有する。
【0011】
パワー半導体素子部16-1~16-6は、3相6アーム、すなわち、UVWの3相のそれぞれにおいて上アームUP,VP,WPと下アームUN,VN,WNとにより構成されており、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)などの半導体素子により構成される電圧制御型のスイッチング素子17-1~17-6と、各スイッチング素子17-1~17-6のオフ時にモータ20からの還流電流を流す還流ダイオード18-1~18-6と、を備える。また、パワー半導体素子部16-1~16-6には、それぞれ、温度センサとして機能する温度検出用ダイオード19-1~19-6が設けられている。そして、本実施形態では、この複数のパワー半導体素子部16-1~16-6が素子モジュールを構成している。
【0012】
駆動回路30は、各スイッチング素子17-1~17-6に対して並列に接続されている。そして、駆動回路30は、コントローラ50から入力されるPWM(Pulse Width Modulation)信号及び速度切り替え信号Sswに基づいて、各スイッチング素子17を駆動(オン・オフ)する。このスイッチング動作により、モータ20の力行時には、バッテリ12からの直流電力が所望の交流電力に変換されてモータ20に供給される。一方、モータ20の回生時には、モータ20の回転エネルギーが直流電力に変換されてバッテリ12に供給される。
【0013】
また、駆動回路30は、温度検出用ダイオード19-1~19-6により生起されるVF電圧Vf1~Vf6を監視し、これを素子温度Tj1~Tj6として検出する。そして、駆動回路30は、検出した素子温度Tj1~Tj6をコントローラ50に出力する。
【0014】
冷却器40は、パワー半導体素子部16を冷却する。冷却器40は、例えば、冷却水をパワー半導体素子部16に供給して冷却するためのウォータージャケットなどにより構成される。また、冷却器40には、冷却水の温度を検出する冷却水温度センサ41が具備されている。
【0015】
コントローラ50は、中央演算装置(CPU)、読み出し専用メモリ(ROM)、ランダムアクセスメモリ(RAM)及び入出力インタフェース(I/Oインタフェース)を備え、後述する各処理を実行可能となるようにプログラムされたコンピュータにより構成される。なお、コントローラ50を、各処理を分散して実行する複数のコンピュータハードウェアにより構成することも可能である。
【0016】
コントローラ50は、電気負荷であるモータ2の要求トルクを入力として、各スイッチング素子17のスイッチングパターン(デューティー比)を規定するためのPWM信号を生成する。より詳細には、コントローラ50は、外部からの要求負荷(車両の場合にはアクセルペダルに対する操作量など)に応じた所望の要求トルクを実現するようにモータ2への目標供給電力(電圧指令値)を演算し、演算した電圧指令値を実現するようにPWM信号を生成する。
【0017】
また、コントローラ50は、駆動回路30からの素子温度Tj1~Tj6及び冷却水温度センサ41の検出値である冷却水温Twを入力として、切り替え信号生成処理を実行する。より詳細には、コントローラ50は、素子温度Tj1~Tj6及び冷却水温Twを参照して、全てのスイッチング素子17-1~17-6のスイッチング速度を後述する高速モード又は低速モードに応じたスイッチング速度で駆動させるように駆動回路30に指令するための速度切り替え信号Sswを生成する。なお、切り替え信号生成処理について後に詳細に説明する。以下では、スイッチング素子駆動装置100の構成に関するさらなる詳細について説明する。
【0018】
図2は、スイッチング素子駆動装置100の要部構成を説明する図である。なお、図2においては簡略化のため、駆動回路30と一つのパワー半導体素子部16の接続部分のみを示している。しかしながら、本実施形態では、全てのパワー半導体素子部16-1~16-6は、駆動回路30に対して図2に示す態様で接続されているものとする。
【0019】
コントローラ50は、上記PWM信号とともに、駆動回路30のゲート駆動IC30aからの素子温度Tj、及び冷却水温度センサ41からの冷却水温Twを入力としている。そして、コントローラ50は、これら入力値から速度切り替え信号Sswを生成し、当該速度切り替え信号Sswをゲート駆動IC30aに出力する。
【0020】
駆動回路30のゲート駆動IC30aは、速度切り替え信号Sswを入力として、スイッチング素子17のゲート抵抗Rgを設定する。より詳細には、ゲート駆動IC30aは、速度切り替え信号Sswを参照して、スイッチング素子17のゲート抵抗Rgを、相対的に高い第1ゲート抵抗Rg1と、相対的に低い第2ゲート抵抗Rg2と、の間で切り替える。ここで、ゲート抵抗Rgを相対的に高い第1ゲート抵抗Rg1に設定すると、スイッチング速度は相対的に低くなる。一方、ゲート抵抗Rgを相対的に低い第2ゲート抵抗Rg2に設定すると、スイッチング速度は相対的に高くなる。より詳細には、スイッチング素子17のゲート抵抗Rgが大きく設定されるほどスイッチング素子17の容量を充放電するゲート電流が小さくなるので、スイッチング速度は低くなる。逆に、スイッチング素子17のゲート抵抗Rgが小さく設定されるほどゲート電流が大きくなるので、スイッチング速度は高くなる。すなわち、本実施形態では、スイッチング素子17のゲート抵抗Rgに相対的に高い第1ゲート抵抗Rg1が設定されている状態が、制御モードとして低速モードが設定されている状態に対応する。一方、ゲート抵抗Rgに相対的に低い第2ゲート抵抗Rg2が設定されている状態が、制御モードとして高速モードに設定されている状態に対応する。さらに、図2から理解されるように、ゲート駆動IC30aは、全てのパワー半導体素子部16-1~16-6に対して同一のゲート抵抗Rgを設定するように構成されている。このため、ゲート駆動IC30aは、全てのパワー半導体素子部16-1~16-6に対して、同時に第1ゲート抵抗Rg1又は第2ゲート抵抗Rg2を設定することとなる。すなわち、ゲート駆動IC30aは、全てのパワー半導体素子部16-1~16-6のスイッチング速度を一斉に低速と高速の間で切り替えるように、これらを駆動する。
【0021】
したがって、本実施形態のスイッチング素子駆動装置100では、一つの駆動回路30により全てのパワー半導体素子部16-1~16-6のスイッチング速度をまとめて調節される。すなわち、パワー半導体素子部16-1~16-6ごとに駆動のための回路を設けずとも、これら全てのスイッチング速度を調節することができる。このため、回路構成を簡素化して装置全体の大型化を抑制することができる。次に、コントローラ50における処理(特に、速度切り替え信号Sswの生成に関連する処理)についてより詳細に説明する。
【0022】
図3は、コントローラ50におけるスイッチング素子駆動方法を実行するための機能を説明するブロック図である。図示のように、コントローラ50は、最低値演算部52と、切り替え信号生成部54と、を有する。最低値演算部52は、素子温度Tj1~Tj6の内で最も低い値(以下、「最低素子温度Tjmin」とも称する)を演算し、切り替え信号生成部54に出力する。
【0023】
切り替え信号生成部54は、冷却水温度センサ41からの冷却水温Tw及び最低値演算部52からの最低素子温度Tjminに基づき、制御モードとして、スイッチング速度を相対的に高くする高速モード、及びスイッチング速度を相対的に低くする低速モードの何れを設定すべきかを判定する。そして、切り替え信号生成部54は、設定すべき制御モードに応じて駆動回路30に適切なゲート抵抗Rgを設定すべき指令を含めた速度切り替え信号Sswを生成する。
【0024】
なお、一般的に半導体スイッチング素子の耐圧は温度に対して正の傾きをもつ傾向にあることが知られている。このため、高温時は半導体スイッチング素子のスイッチング速度を比較的高くすることができる。さらに、スイッチング速度を高くすると、スイッチングによる素子の損失が低減される。したがって、本実施形態では、スイッチング素子17が高温であると判断できる場合に、スイッチング速度を相対的に高くすべく制御モードを高速モードに設定する(ゲート抵抗Rgを第2ゲート抵抗Rg2に設定する)。
【0025】
一方、半導体スイッチング素子の低温時において、スイッチング速度を高くするとスイッチングサージが発生し易くなる。このため、低温時にはスイッチング速度を比較的低くすることが好ましい。したがって、本実施形態では、スイッチング素子17が低温であると判断できる場合に、スイッチング速度を相対的に低くすべく制御モードを低速モードに設定する(ゲート抵抗Rgを第1ゲート抵抗Rg1に設定する)。
【0026】
これにより、スイッチング素子17の高温時にはスイッチング速度を高くしてスイッチングによる損失を低減する一方、低温時にはスイッチング速度を低くしてスイッチングサージの抑制しスイッチング素子17の損傷をより確実に防ぐことができる。
【0027】
次に、切り替え信号生成処理のさらなる詳細について説明する。
【0028】
図4は、切り替え信号生成処理を説明するためのフローチャートである。なお、本実施形態において、コントローラ50は、図4に示す切り替え信号生成処理を所定の演算周期毎に繰り返し実行する。
【0029】
先ず、ステップS110において、コントローラ50は、スイッチング素子17のスイッチング速度に係る現在の制御モードが、高速モードに設定されているか否かを判定する。例えば、コントローラ50は、駆動回路30のメモリなどを参照し、前回制御周期におけるゲート抵抗Rgが第2ゲート抵抗Rg2に設定されているか否かを判定する。コントローラ50は、本判定結果が否定的である場合(制御モードとして低速モードが設定されている場合)にはステップS120の処理に移行する。
【0030】
ステップS120において、コントローラ50は、最低素子温度Tjminが所定の第1高速閾値Thith1を超えるか、又は冷却水温Twが所定の第2高速閾値Thith2を超えるか否かを判定する。
【0031】
ここで、第1高速閾値Thith1は、低速モードを維持し続けると許容範囲を超えるスイッチング素子17のスイッチング損失が生じると判断する観点から好適な最低素子温度Tjminの値に設定される。また、第2高速閾値Thith2は、低速モードを維持し続けると許容範囲を超えるスイッチング損失が生じると判断する観点から好適な冷却水温Twの値に設定される。なお、第1高速閾値Thith1及び第2高速閾値Thith2は、予め実験結果等に基づいて定めた固定値としても良いし、スイッチング素子駆動装置100又はモータ20の動作状態などに応じて変動する可変値としても良い。
【0032】
そして、コントローラ50は、ステップS120の判定結果が否定的である場合には、ステップS140に移行する。ステップS140において、コントローラ50は、現在の制御モードである低速モードを維持する。すなわち、最低素子温度Tjmin及び冷却水温Tが何れも、スイッチング損失の抑制の観点からそれぞれに設定された第1高速閾値Thith1及び第2高速閾値Thith2に達していない場合には、低速モードが継続されることとなる。これにより、熱源であるスイッチング素子17の発熱の影響が直接的に反映される最低素子温度Tjminに加えて、当該最低素子温度Tjminに比べてスイッチング素子17の発熱に対する感度が低い冷却水温Tが用いられることとなる。したがって、低速モードを維持するかどうかの判断においては、スイッチング素子駆動装置100の動作状態と連動して変動し易いだけでなく、変動し難い冷却水温Tが用いられるため、低速モードと高速モードの間の頻繁な切り替え(チャタリング)の発生を抑制することができる。
【0033】
また、コントローラ50は、ステップS120の判定結果が肯定的である場合には、ステップS150に移行する。ステップS150において、コントローラ50は、制御モードを低速モードから高速モードに切り替える。すなわち、最低素子温度Tjmin及び冷却水温Twのどちらか一方でも、それぞれの閾値である第1高速閾値Thith1及び第2高速閾値Thith2を超えた場合には、制御モードが低速モードから高速モードに切り替えられることとなる。
【0034】
したがって、本実施形態では、制御モードを低速モードから高速モードへの切り替えの要否判断にあたり、最低素子温度Tjminが第1高速閾値Thith1を超えるかという判定と並列に、冷却水温Twが第2高速閾値Thith2を超えるかという判定を実行することとなる。これにより、制御モードを低速モードから高速モードへ切り替える機会をより増やすことができ、スイッチング損失を低減させる効果をより高めることができる。
【0035】
一方、上記ステップS110の判定結果が肯定的である場合(制御モードとして高速モードが設定されている場合)には、コントローラ50は、ステップS130の処理に移行する。
【0036】
ステップS130において、コントローラ50は、最低素子温度Tjminが所定の第1低速閾値Tlowth1以下であって、且つ冷却水温Twが所定の第2低速閾値Tlowth2以下となるか否かを判定する。
【0037】
ここで、第1低速閾値Tlowth1は、高速モードを維持し続けると許容範囲を超えるスイッチングサージが生じると判断する観点から好適な最低素子温度Tjminの値に設定される。また、第2低速閾値Tlowth2は、高速モードを維持し続けると許容範囲を超えるスイッチングサージが生じると判断する観点から好適な冷却水温Twの値に設定される。第1低速閾値Tlowth1及び第2低速閾値Tlowth2は、予め実験結果等に基づいて定めた固定値としても良いし、スイッチング素子駆動装置100又はモータ20の動作状態などに応じて変動する可変値としても良い。さらに、第1低速閾値Tlowth1と第2低速閾値Tlowth2は適宜、同一の値に設定されても良いし、異なる値に設定されても良い。
【0038】
そして、コントローラ50は、ステップS130の判定結果が否定的である場合には、ステップS160に移行する。ステップS160において、コントローラ50は、現在の制御モードである高速モードを維持する。すなわち、最低素子温度Tjmin及び冷却水温Twの内の何れかが、スイッチングサージを回避する観点からそれぞれに設定された第1低速閾値Tlowth1及び第2低速閾値Tlowth2を超える場合(最低素子温度Tjmin及び冷却水温Twのどちらも低速モードに切り替えるべき温度まで低下していない場合)には、高速モードが継続されることとなる。
【0039】
これにより、高速モードを継続するか否かの判断に関しても、最低素子温度Tjminに加えて、スイッチング素子駆動装置100の動作状態の変動に対して追従し難い冷却水温Twが用いられるため、低速モードと高速モードの間の頻繁な切り替え(チャタリング)の発生を抑制することができる。
【0040】
一方、コントローラ50は、ステップS130の判定結果が肯定的である場合には、ステップS170に移行する。ステップS170において、コントローラ50は、制御モードを高速モードから低速モードに切り替える。すなわち、最低素子温度Tjmin及び冷却水温Twの双方が、それぞれの閾値である第1低速閾値Tlowth1及び第2低速閾値Tlowth2まで低下した場合には、制御モードが高速モードから低速モードに切り替えられることとなる。
【0041】
したがって、本実施形態では、少なくとも各素子温度Tj1~Tj6の内の最も低い値が第1低速閾値Tlowth1以下になると、制御モードが高速モードから低速モードに切り替えられることとなる。このため、スイッチングサージを回避する観点からスイッチング速度を低下させるべきシーンの判断をより確実に実行することができる。
【0042】
より詳細には、スイッチング素子駆動装置100の動作状態によっては、各素子温度Tj1~Tj6の間にばらつきが生じるシーンが想定される。そのようなシーンの一例としては、いわゆるモータロック(モータ20に電力を供給しても回転しない状態)により、相間で温度のばらつきが生じる場合が挙げられる。このようなシーンでは、各素子温度Tj1~Tj6の一部は第1低速閾値Tlowth1を超える一方、残りは第1低速閾値Tlowth1以下であるという状況が生じ得る。
【0043】
これに対して、本実施形態では、高速モードから低速モードへの切り替えタイミングが、最低素子温度Tjminだけでなく冷却水温Twが第1低速閾値Tlowth1以下であるかに基づいて判断されることとなる。このため、各素子温度Tj1~Tj6の間のばらつきが生じても、スイッチング速度の低下判断における安全マージンをより高めることができ、スイッチングサージの発生をより確実に回避することができる。特に、本実施形態では、熱源であるスイッチング素子17の発熱の影響が直接的に反映される最低素子温度Tjminに加えて、当該最低素子温度Tjminに比べてスイッチング素子17の発熱に対する感度が低いものの、一定の相関を示す冷却水温Twが用いられることとなる。特に、冷却水温Twは、最低素子温度Tjminから上記発熱量相当の冷却水の温度上昇量ΔTを減じた値にほぼ一致する。したがって、上述のようにスイッチングサージの発生をより確実に回避するための安全マージンをより確実に確保しつつも、切り替えタイミングの設定において現実のスイッチング素子17の温度の影響も好適に反映させることができるので、当該切り替えタイミングをより適切に定めることができる。
【0044】
そして、コントローラ50は、上記ステップS140~ステップS170の何れかの処理を実行すると、ステップS180に移行する。ステップS180において、コントローラ50は、速度切り替え信号Sswを生成する。
【0045】
具体的に、コントローラ50は、ステップS140又はステップS170の処理を経た場合には、駆動回路30に対して、ゲート抵抗Rgとして相対的に高い第1ゲート抵抗Rg1を選択する指令(第1ゲート抵抗Rg1の維持又は第1ゲート抵抗Rg1への切り替えの指令)を速度切り替え信号Sswに含める。一方、コントローラ50は、ステップS150又はステップS160の処理を経た場合には、駆動回路30に対して、ゲート抵抗Rgとして相対的に低い第2ゲート抵抗Rg2を選択する指令(第2ゲート抵抗Rg2の維持又は第2ゲート抵抗Rg2への切り替えの指令)を速度切り替え信号Sswに含める。
【0046】
以上説明した本実施形態のスイッチング素子駆動方法によれば、以下の作用効果を奏する。
【0047】
本実施形態によれば、複数のスイッチング素子17-1~17-6とスイッチング素子17を駆動する駆動回路30を備えたスイッチング素子駆動装置100において実行されるスイッチング素子駆動方法が提供される。このスイッチング素子駆動方法では、複数のスイッチング素子17の温度(素子温度Tj1~Tj6)を検出し、検出した素子温度Tj1~Tj6からスイッチング素子17のスイッチング速度を変化させる基準となる切り替え判定温度(最低素子温度Tjmin)を演算する(最低値演算部52)。そして、上記切り替え判定温度に基づいて全てのスイッチング素子17-1~17-6のスイッチング速度を変化させる。
【0048】
これにより、一つのパラメータである切り替え判定温度参照して全てのスイッチング素子17-1~17-6のスイッチング速度が一斉に調節されることとなる。このため、一つの駆動回路30によって、スイッチング素子駆動装置100における各スイッチング素子17-1~17-6のスイッチング駆動を統一的に実行することができる。したがって、素子ごとに駆動用の回路を個別に設ける場合と比べ、回路構成の簡素化を図ることができるので、装置をより小型化することができる。特に、部品点数も減少させることができるので、製造コストも低減される。
【0049】
また、本実施形態のスイッチング素子駆動方法によれば、各相(U相、V相、又はW相)に含まれる複数のスイッチング素子17の内の少なくとも一つの温度(スイッチング素子17-1及び/又は17-4の温度、スイッチング素子17-2及び/又は17-5の温度、並びにスイッチング素子17-3及び/又は17-6の温度)を検出し、検出した温度である素子温度Tj1~Tj6の内の最低値である最低素子温度Tjminを上記切り替え判定温度として演算する。そして、最低素子温度Tjminが所定の閾値(第1低速閾値Tlowth1)以下となると、スイッチング速度を低下させる(図4のステップS130のYes及びステップS170)。
【0050】
これにより、全相のスイッチング素子17の温度の内の何れか一つでも第1低速閾値Tlowth1以下となった場合に、スイッチング速度を低下させることとなる。したがって、スイッチング素子駆動装置100の動作状態に応じて各素子温度Tj1~Tj6の間にばらつきが生じるシーンにおいても、より安全マージンをとった判定基準に基づいてスイッチング速度を低下させることができるので、スイッチングサージの発生をより確実に回避することができる。
【0051】
さらに、本実施形態のスイッチング素子駆動方法によれば、スイッチング素子17を具備する素子モジュール(パワー半導体素子部16-1~16-6)の外部の温度であって、スイッチング素子17の温度である素子温度Tj1~Tj6に相関する外部温度(冷却水温Tw)をさらに検出する。そして、上記切り替え判定温度及び冷却水温Twの双方に基づいて全てのスイッチング素子17-1~17-6のスイッチング速度を変化させる。
【0052】
これにより、スイッチング速度を変化させるか否かの判定にあたり、最低素子温度Tjminに加えて、スイッチング素子駆動装置100の動作状態の変動に対して感度が低い冷却水温Twが参照されることとなる。したがって、上記動作状態の変動に対する感度が高い最低素子温度Tjminのみを判定に用いること生じ得るチャタリングの発生をより確実に抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態のスイッチング素子駆動方法によれば、スイッチング素子17のスイッチング速度の制御モードとして当該スイッチング速度を相対的に高くする高速モード又は相対的に低くする低速モードを設定する。そして、制御モードとして低速モードが設定されている場合(図4のステップS110のNo)には、最低素子温度Tjminが所定の第1高速閾値Thith1を超えるか、又は冷却水温Twが第2高速閾値Thith2を超えると、制御モードを高速モードに切り替える(ステップS120のYes及びステップS150)。一方、制御モードとして高速モードが設定されている場合(図4のステップS110のYes)には、最低素子温度Tjminが所定の第1低速閾値Tlowth1以下且つ冷却水温Twが第2低速閾値Tlowth2以下となると、制御モードを低速モードに切り替える(ステップS130のYes及びステップS170)。
【0054】
これにより、スイッチング損失及びスイッチングサージの発生の双方を好適に抑制し得る具体的なスイッチング速度の制御ロジックが実現される。
【0055】
なお、本実施形態においては、スイッチング速度を変化させる場合(ステップS150又はステップS170を実行する場合)には、該スイッチング速度を変化させるタイミングに合わせて、スイッチング素子17のデッドタイム補償値を変化させることが好ましい。
【0056】
これにより、スイッチング速度の変化に応じたスイッチングの遅延時間の変化に起因して生じるモータ出力の段差を抑制することができる。
【0057】
さらに、本実施形態では、上記スイッチング素子駆動方法が実行されるスイッチング素子駆動装置100が提供される。
【0058】
スイッチング素子駆動装置100は、複数のスイッチング素子17-1~17-6と、複数のスイッチング素子17の温度(素子温度Tj1~Tj6)を検出する温度センサ(温度検出用ダイオード19-1~19-6)と、スイッチング素子17を駆動する駆動回路30と、温度検出用ダイオード19-1~19-6で検出された複数の温度検出値である素子温度Tj1~Tj6に基づいて駆動回路30を制御する制御部としてのコントローラ50と、を備える。この制御部としてのコントローラ50は、素子温度Tj1~Tj6から、スイッチング素子17のスイッチング速度を変化させる基準となる切り替え判定温度(最低素子温度Tjmin)を演算する(最低値演算部52)。そして、コントローラ50は、切り替え判定温度に基づいて全てのスイッチング素子17-1~17-6のスイッチング速度を変化させる(切り替え信号生成部54)。
【0059】
これにより、本実施形態のスイッチング素子駆動方法を実行するための好適なシステム構成が実現されることとなる。
【0060】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記各実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0061】
例えば、上記実施形態では、全てのパワー半導体素子部16-1~16-6のそれぞれに、温度検出用ダイオード19-1~19-6に設ける例について説明した。しかしながら、これに代えて、パワー半導体素子部16-1~16-6の内の一部にのみ温度検出用ダイオード19を設ける構成を採用しても良い。例えば、図1に示すスイッチング素子駆動装置100において、各相におけるパワー半導体素子部16の上アームUP,VP,WP又は下アームUN,VN,WNの何れかのみに温度検出用ダイオード19を配置し(すなわち、3つの温度検出用ダイオード19を配置し)、コントローラ50が、これら3つの温度検出用ダイオード19でそれぞれ検出される各素子温度Tjの最小値を最低素子温度Tjminとして演算し、以降の処理を実行する構成を採用しても良い。この構成により、センサ数を削減して低コスト化を図りつつ、スイッチング素子駆動装置100の動作状態に応じた温度のばらつきが考慮されたスイッチング速度の調節を実現することができる。
【0062】
また、スイッチング速度を変化させる基準となる切り替え判定温度として、適宜、最低素子温度Tjmin以外にも、各素子温度Tj1~Tj6の変化に相関する任意の温度パラメータを採用しても良い。例えば、各素子温度Tj1~Tj6の最大値、平均値、又は中央値等の任意の代表値を切り替え判定温度として演算しても良い。
【0063】
さらに、上記実施形態では、スイッチング速度を変化させる態様として、高速と低速の2段階(第1ゲート抵抗Rg1又は第2ゲート抵抗Rg2)の間で切り替える例を説明した。しかしながら、これに限られず、例えば、スイッチング速度を高速、中速、及び低速等の3段階以上の間で切り替える構成、又はスイッチング速度を連続的に切り替える構成を採用しても良い。また、上記実施形態では、スイッチング素子17のスイッチング速度を変化させるための操作量として、ゲート抵抗Rgを用いる例について説明した。しかしながら、これに代えて又はこれとともに、ゲート電圧等のスイッチング素子17のスイッチング速度を操作し得る任意の操作量を採用しても良い。
【0064】
また、上記実施形態では、パワー半導体素子部16の外部の温度として、冷却器40に設けられる冷却水温度センサ41で検出される冷却水温Twを用いる例について説明した。しかしながら、これに代えて、パワー半導体素子部16内の温度変化に対して一定の感度で追従するものであるならば、他の場所で検出した温度を冷却水温Twに代えて用いても良い。
【0065】
さらに、上記実施形態では、最低素子温度Tjmin及び冷却水温Twの双方を参照して切り替え信号生成処理を実行する例を説明した。しかしながら、図5に示すような最低素子温度Tjminのみに基づいて切り替え信号生成処理を実行する態様も当然に、本願の当初明細書等において開示された範囲に含まれ、且つ本発明の技術的範囲にも含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5