(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】弾性波装置
(51)【国際特許分類】
H03H 9/25 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
H03H9/25 C
(21)【出願番号】P 2022571375
(86)(22)【出願日】2021-12-16
(86)【国際出願番号】 JP2021046509
(87)【国際公開番号】W WO2022138443
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2020212493
(32)【優先日】2020-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大門 克也
(72)【発明者】
【氏名】木村 哲也
【審査官】柳下 勝幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-182615(JP,A)
【文献】国際公開第2020/122005(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高音速部材と、
前記高音速部材上に積層された低音速層と、
前記低音速層上に直
接積層された圧電層と、
前記圧電層
の一方主面上に設けられた
IDT電極と、
を備え、
前記低音速層が、酸化ケイ素よりもヤング率が低い誘電体材料
(酸化ケイ素に炭素を加えた化合物を除く)、あるいは当該誘電体材料を主成分とする層からなる、弾性波装置。
【請求項2】
前記誘電体材料が、チタン酸アルミニウム、窒化ホウ素
、及び窒素含有シリコンカーバイドからなる群から選択された1種の材料からなる、請求項1に記載の弾性波装置。
【請求項3】
高音速部材と、
前記高音速部材上に積層された低音速層と、
前記低音速層上に直接積層された圧電層と、
前記圧電層の一方主面上に設けられたIDT電極と、
を備え、
前記低音速層が、チタン酸アルミニウム、窒化ホウ素、及び窒素含有シリコンカーバイドからなる群から選択された1種の材料からなる、酸化ケイ素よりもヤング率が低い誘電体材料、あるいは当該誘電体材料を主成分とする層からなる、弾性波装置。
【請求項4】
支持基板をさらに備え、
前記支持基板上に前記高音速部材が積層されている、請求項1
~3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項5】
前記高音速部材が、高音速材料からなる支持基板である、請求項1
~3のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【請求項6】
前記支持基板がシリコン基板である、請求項
4または
5に記載の弾性波装置。
【請求項7】
前記圧電層が、タンタル酸リチウムまたはニオブ酸リチウムからなる、請求項1~
6のいずれか1項に記載の弾性波装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高音速部材上に、低音速層及び圧電層が積層されている構造を有する弾性波装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、圧電層を有する複合基板上にIDT電極が設けられた弾性波装置が得られている。例えば、下記の特許文献1に記載の弾性波装置では、高音速材料からなる高音速基板上に、酸化ケイ素からなる低音速層及びLiTaO3からなる圧電層が積層されている。この圧電層上にIDT電極が設けられている。この構造では、圧電層に弾性波を効果的に閉じ込めることができ、Q値を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
帯域通過型フィルタなどに用いられる弾性波共振子では、広い比帯域を求められることがある。しかしながら、従来の弾性波装置では、十分に比帯域を広くすることが困難であった。
【0005】
本発明の目的は、比帯域の広い弾性波装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る弾性波装置は、高音速部材と、前記高音速部材上に積層された低音速層と、前記低音速層上に直接または間接に積層された圧電層と、前記圧電層上に設けられた電極とを備え、前記低音速層が、酸化ケイ素よりもヤング率が低い誘電体材料、あるいは当該誘電体材料を主成分とする層からなる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、広い比帯域を有する弾性波装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の要部を示す正面断面図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態の弾性波装置の電極構造を示す模式的平面図である。
【
図3】
図3は、実施例1及び比較例1の弾性波装置の弾性波共振子としてのインピーダンス-周波数特性を示す図である。
【
図4】
図4は、実施例2及び比較例2の弾性波装置の弾性波共振子としてのインピーダンス-周波数特性を示す図である。
【
図5】
図5は、圧電層としてLiTaO
3膜を用いた弾性波装置における低音速層の材料と、比帯域との関係を示す図である。
【
図6】
図6は、圧電層としてLiNbO
3膜を用いた弾性波装置における低音速層の材料と、比帯域との関係を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る弾性波装置の要部を示す正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の具体的な実施形態を説明することにより、本発明を明らかにする。
【0010】
なお、本明細書に記載の各実施形態は、例示的なものであり、異なる実施形態間において、構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることを指摘しておく。
【0011】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る弾性波装置の要部を示す正面断面図であり、
図2はその電極構造を示す模式的平面図である。
【0012】
弾性波装置1では、圧電複合基板6上にIDT電極7が設けられている。
【0013】
IDT電極7は、互いに間挿し合う複数本の第1の電極指7aと、複数本の第2の電極指7bとを有する。
【0014】
なお、弾性波装置1は、弾性波共振子である。
図2に示すように、IDT電極7の弾性波伝搬方向両側に反射器8,9が設けられている。
【0015】
IDT電極7及び反射器8,9は、適宜の金属もしくは合金により構成することができる。また、IDT電極7及び反射器8,9は、複数の金属膜の積層体からなるものであってもよい。
【0016】
圧電複合基板6では、支持基板2上に、高音速部材3、低音速層4及び圧電層5が積層されている。本実施形態では、支持基板2は、Siからなる。もっとも、支持基板2は、他の適宜の誘電体もしくは半導体により構成することもできる。高音速部材3は、高音速材料からなる。高音速材料とは、伝搬するバルク波の音速が、圧電層5を伝搬する弾性波の音速よりも高い材料をいう。このような高音速材料としては、酸化アルミニウム、炭化ケイ素、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素、シリコン、サファイア、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、水晶、アルミナ、ジルコニア、コージライト、ムライト、ステアタイト、フォルステライト、マグネシア、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)膜またはダイヤモンド、上記材料を主成分とする媒質、上記材料の混合物を主成分とする媒質等を挙げることができる。本実施形態では、高音速部材3は、窒化ケイ素としてのSiNからなる。
【0017】
低音速層4は、伝搬するバルク波の音速が、圧電層5を伝搬するバルク波の音速よりも低い低音速材料からなる。加えて、低音速層4は、ヤング率が酸化ケイ素よりも低い誘電体材料からなる。このような誘電体材料としては、特に限定されないが、チタン酸アルミニウム、窒化ホウ素、炭素含有酸化シリコン及び窒素含有シリコンカーバイドからなる群から選択された1種の材料を用いることができる。本実施形態では、低音速層4は、チタン酸アルミニウムとしてのAlTiO4からなる。
【0018】
なお、AlTiO4のヤング率は13GPaであり、酸化ケイ素のヤング率は73GPaである。
【0019】
圧電層5は、圧電単結晶からなり、このような圧電単結晶として、タンタル酸リチウム(LiTaO3)が用いられている。なお、ニオブ酸リチウムを用いてもよい。なお、圧電層5は、低音速層4上に間接的に積層されていてもよい。
【0020】
圧電複合基板6では、上記積層構造を有するため、弾性波を圧電層5に効果的に閉じ込めることができる。従って、Q値を高めることができる。加えて、低音速層4が酸化ケイ素よりもヤング率が低い誘電体材料からなるため、後述の実験例から明らかなように、比帯域を効果的に広げることができる。
【0021】
また、弾性波共振子における比帯域とは、共振周波数をfr、反共振周波数をfaとしたとき、(fa-fr)/frで表わされる。
【0022】
次に、弾性波装置1において、上記のように比帯域を広げることができることを、実施例1~4の共振特性を説明することにより明らかにする。
【0023】
(実施例1)
実施例1として、以下の構成の弾性波装置を作製した。
【0024】
支持基板2として、面方位が(111)面であり、第3オイラー角が73°である、Siを用いた。高音速部材3として、厚み300nmのSiN膜を用いた。低音速層4として、ヤング率が13GPaのAlTiO4を用い、膜厚を400nmとした。
【0025】
圧電層5については、35°YカットX伝搬LiTaO3膜を用い、厚みは300nmとした。
【0026】
IDT電極7には、Ti/AlCu/Tiの積層体を用いた。膜厚は、圧電層5とは反対の上面側から、12nm/100nm/4nmとした。IDT電極7の電極指の対数は100対、交差幅は40μmとし、電極指ピッチで定まる波長λは2μmとした。なお、交叉幅とは、弾性波伝搬方向から見たときに、隣り合う第1,第2の電極指7a,7bが重なり合う領域の、第1,第2の電極指7a,7bが延びる方向に沿う寸法である。
【0027】
比較のために、低音速層4に300nmの厚みの酸化ケイ素膜を用いたことを除いては、実施例1と同様にして比較例1の弾性波装置を用意した。
【0028】
図3は、実施例1及び比較例1の弾性波装置の弾性波共振子としての共振特性を示す図である。
図3から明らかなように、比較例1に比べ、実施例1によれば、共振周波数を低周波数側にシフトさせることができる。そのため、比帯域が広げられている。
【0029】
この理由は、以下の通りと考えられる。低音速層4のヤング率が小さいと、圧電層5と低音速層4との間の音響インピーダンス差が大きくなり、それによって、弾性波を圧電層5により効果的に閉じ込めることができ、比帯域が大きくなっているものと考えられる。
【0030】
(実施例2)
次に、実施例2として、低音速層4に窒化ホウ素としてのBNを用いた弾性波装置を作製した。BNのヤング率は10GPaであり、その厚みを400nmとした。IDT電極7の電極指の対数は100対、交差幅=40μm、電極指ピッチで定まる波長は2μmとした。その他の構成は、実施例1と同様とした。比較のために、厚み300nmの酸化ケイ素膜を低音速層4として用いたことを除いては、実施例2と同様にして、比較例2の弾性波装置を用意した。
【0031】
図4は、実施例2及び比較例2の弾性波装置の弾性波共振子としてのインピーダンス-周波数特性を示す図である。
図4から明らかなように、比較例2に比べて、実施例2によれば、共振周波数が低周波数側にシフトしており、比帯域が広くなっている。
【0032】
実施例1及び実施例2の上記結果から明らかなように、本発明によれば、低音速層4が酸化ケイ素よりもヤング率が低い誘電体材料からなるため、弾性波装置の比帯域を効果的に広げ得ることがわかる。なお、低音速層4には、当該誘電体材料が主成分として含まれていればよい。すなわち、低音速層4は、当該誘電体材料を主成分とする層であってもよい。
【0033】
前述したように、本発明では、上記低音速層4を構成する材料として、ヤング率が酸化ケイ素よりも低い誘電体材料が用いられる。このような誘電体材料としては、チタン酸アルミニウムとしてのAlTiO4及び窒化ホウ素としてのBNの他、炭素含有酸化シリコンとしてのSiOC,窒素含有シリコンカーバイドとしてのSiCNなどを好適に用いることができる。
【0034】
(実施例3)
実施例3では、Siからなる支持基板2上に、300nmの厚みの窒化シリコン(SiN)からなる高音速部材3を積層し、低音速層4として、200nmの各種誘電体材料を用いることにより弾性波装置を構成した。
【0035】
圧電層5には、厚み400nmの40°YカットX伝搬のLiTaO3膜を用いた。電極の積層構造は、実施例1と同様とした。なお、IDT電極7の電極指ピッチで定まる波長λは2μm、電極指の対数は100対、交差幅は40μmとした。
【0036】
上記誘電体材料として、SiOC、AlTiO4、SiCN、BNを用いた。比較のために上記低音速層4を、SiO2で構成したものも用意した。
【0037】
これらの弾性波装置の弾性波共振子としての特性を評価し、比帯域を求めた。結果を
図5に示す。
図5に示すように、SiO
2を用いた場合に比べて、SiOC、AlTiO
4、SiCNまたはBNを用いた場合、比帯域を効果的に広げ得ることがわかる。
【0038】
なお、SiOC、AlTiO4、SiCN、BN及びSiO2のヤング率は、下記の表1に示す通りである。
【0039】
【0040】
(実施例4)
厚み400nmの30°YカットX伝搬のLiNbO
3膜からなる圧電層5を用いたことを除いては、実施例3と同様にして、各誘電体材料を低音速層4として用いた弾性波装置を構成した。実施例3と同様にして、各弾性波装置の共振特性を測定し、比帯域を求めた。結果を
図6に示す。
図6に示すように、低音速層4を構成している誘電体材料がSiO
2の場合に比べて、SiOC、AlTiO
4、SiCNまたはBNを用いた場合、比帯域を広げ得ることがわかる。このように、本発明においては、圧電層5として、LiNbO
3を用いた場合においても、比帯域を効果的に広げることができる。
【0041】
図7は、本発明の第2の実施形態に係る弾性波装置の要部を示す弾性波装置の正面断面図である。
【0042】
弾性波装置21では、高音速部材3が、高音速材料からなる支持基板である。この場合、支持基板と別材料としての高音速部材を省略することができる。その他の構造は、弾性波装置21は、
図1に示した弾性波装置1と同様である。
【符号の説明】
【0043】
1,21…弾性波装置
2…支持基板
3…高音速部材
4…低音速層
5…圧電層
6…圧電複合基板
7…IDT電極
7a,7b…第1,第2の電極指
8,9…反射器