(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】エレベーターの制御装置
(51)【国際特許分類】
B66B 1/30 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
B66B1/30 A
(21)【出願番号】P 2023107103
(22)【出願日】2023-06-29
【審査請求日】2023-06-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塚 康司
(72)【発明者】
【氏名】木村 哲也
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/108047(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/49673(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/186680(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/3500(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
かごと、一端が前記かごに接続され他端が釣合い錘に接続される主ロープと、前記主ロープをシーブに巻きかけて前記かごを昇降させる巻上機と、を備えるエレベーターの制御装置であって、
制御パラメータを用いて前記巻上機を制御する巻上機制御部と、
前記巻上機の特性パラメータを同定するパラメータ同定部と、を備え、
前記パラメータ同定部は、
前記巻上機に流れる電流値、及び前記かごと前記釣合い錘との重量差により発生するアンバランストルクを用いて、前記特性パラメータを同定するように構成され、
前記巻上機制御部は、
前記特性パラメータに基づいて、前記制御パラメータを設定するように構成され
、
前記巻上機制御部は、
前記かごのかご荷重がゼロのときに前記巻上機のブレーキ装置を解放して前記かごを静止させる静止保持制御を行うように構成され、
前記パラメータ同定部は、
前記静止保持制御のときの前記巻上機の電流値と前記かごの定格容量と前記釣合い錘のカウンタ率と前記巻上機のシーブ径とを用いて、前記アンバランストルクを算出し、
前記アンバランストルクを用いて前記巻上機のトルク定数を前記特性パラメータとして同定する
ように構成されるエレベーターの制御装置。
【請求項2】
かごと、一端が前記かごに接続され他端が釣合い錘に接続される主ロープと、前記主ロープをシーブに巻きかけて前記かごを昇降させる巻上機と、を備えるエレベーターの制御装置であって、
制御パラメータを用いて前記巻上機を制御する巻上機制御部と、
前記巻上機の特性パラメータを同定するパラメータ同定部と、を備え、
前記パラメータ同定部は、
前記巻上機に流れる電流値、及び前記かごと前記釣合い錘との重量差により発生するアンバランストルクを用いて、前記特性パラメータを同定するように構成され、
前記巻上機制御部は、
前記特性パラメータに基づいて、前記制御パラメータを設定するように構成され、
前記かごのかご荷重を検出する秤装置を備え、
前記巻上機制御部は、
前記巻上機のブレーキ装置を解放して前記かごを静止させる静止保持制御を行うように構成され、
前記パラメータ同定部は、
前記静止保持制御のときの前記巻上機の電流値と前記かごの定格容量と前記釣合い錘のカウンタ率と前記巻上機のシーブ径と前記かご荷重とを用いて、前記アンバランストルクを算出し、
前記アンバランストルクを用いて前記巻上機のトルク定数を前記特性パラメータとして同定する
ように構成され
るエレベーターの制御装置。
【請求項3】
かごと、一端が前記かごに接続され他端が釣合い錘に接続される主ロープと、前記主ロープをシーブに巻きかけて前記かごを昇降させる巻上機と、を備えるエレベーターの制御装置であって、
制御パラメータを用いて前記巻上機を制御する巻上機制御部と、
前記巻上機の特性パラメータを同定するパラメータ同定部と、を備え、
前記パラメータ同定部は、
前記巻上機に流れる電流値、及び前記かごと前記釣合い錘との重量差により発生するアンバランストルクを用いて、前記特性パラメータを同定するように構成され、
前記巻上機制御部は、
前記特性パラメータに基づいて、前記制御パラメータを設定するように構成され、
前記巻上機制御部は、前記エレベーターの上昇運転と下降運転を実行するように構成され、
前記パラメータ同定部は、
前記エレベーターの前記上昇運転において前記かごが昇降路の基準位置を等速度で通過するときの前記巻上機の第一電流値と、前記エレベーターの前記下降運転において前記かごが前記基準位置を等速度で通過するときの前記巻上機の第二電流値と、をそれぞれ取得し、
前記第一電流値と、前記第二電流値と、前記アンバランストルクとを用いて、前記巻上機のトルク定数を前記特性パラメータとして同定する
ように構成され
るエレベーターの制御装置。
【請求項4】
前記基準位置は、前記エレベーターの昇降行程の中間位置である請求項
3に記載のエレベーターの制御装置。
【請求項5】
かごと、一端が前記かごに接続され他端が釣合い錘に接続される主ロープと、前記主ロープをシーブに巻きかけて前記かごを昇降させる巻上機と、を備えるエレベーターの制御装置であって、
制御パラメータを用いて前記巻上機を制御する巻上機制御部と、
前記巻上機の特性パラメータを同定するパラメータ同定部と、を備え、
前記パラメータ同定部は、
前記巻上機に流れる電流値、及び前記かごと前記釣合い錘との重量差により発生するアンバランストルクを用いて、前記特性パラメータを同定するように構成され、
前記巻上機制御部は、
前記特性パラメータに基づいて、前記制御パラメータを設定するように構成され、
前記巻上機制御部は、
前記巻上機のブレーキ装置を解放する前に、前記アンバランストルクを補償する補償電流値を前記巻上機に通電するための指令値をステップ状に与え、
前記パラメータ同定部は、
前記巻上機の電流値が前記補償電流値の規定の割合に達するまでの経過時間を計測し、
前記経過時間に基づいて前記巻上機制御部の電流制御帯域を前記特性パラメータとして同定する
ように構成され
るエレベーターの制御装置。
【請求項6】
前記パラメータ同定部は、前記電流制御帯域に基づいて、前記巻上機のインダクタンスを前記特性パラメータとして同定する
ように構成される請求項
5に記載のエレベーターの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレベーターの制御装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電動機の制御装置において、外乱オブザーバに基づく推定技術を用いた電動機のパラメータ同定手法が開示されている。この手法では、外乱オブザーバの外乱推定値と、q軸電流と、外乱推定値と、トルク検出器が検出するトルクとにより電動機のパラメータを同定することとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、トルク検出器を備えないシステムにおいて電動機の特性パラメータを同定することができない。また、特許文献1に記載の技術は、外乱オブザーバといった推定演算が必要となり、ソフトウェアの負担が増加するという課題もある。
【0005】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、エレベーターの巻上機へ供給される電流の情報を用いて巻上機の特性パラメータを同定し、巻上機の制御に用いられる制御パラメータを適正化する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のエレベーターの制御装置は、かごと、一端がかごに接続され他端が釣合い錘に接続される主ロープと、主ロープをシーブに巻きかけてかごを昇降させる巻上機と、を備えるエレベーターの制御装置であって、制御パラメータを用いて巻上機を制御する巻上機制御部と、巻上機の特性パラメータを同定するパラメータ同定部と、を備え、パラメータ同定部は、巻上機に流れる電流値、及びかごと釣合い錘との重量差により発生するアンバランストルクを用いて、特性パラメータを同定するように構成され、巻上機制御部は、特性パラメータに基づいて、制御パラメータを設定するように構成される。
そして、上記に開示のエレベーターの制御装置において、巻上機制御部は、かごのかご荷重がゼロのときに巻上機のブレーキ装置を解放してかごを静止させる静止保持制御を行うように構成され、パラメータ同定部は、静止保持制御のときの巻上機の電流値とかごの定格容量と釣合い錘のカウンタ率と巻上機のシーブ径とを用いて、アンバランストルクを算出し、アンバランストルクを用いて巻上機のトルク定数を特性パラメータとして同定するように構成される。
或いは、上記に開示のエレベーターの制御装置は、かごのかご荷重を検出する秤装置を備え、巻上機制御部は、巻上機のブレーキ装置を解放してかごを静止させる静止保持制御を行うように構成され、パラメータ同定部は、静止保持制御のときの巻上機の電流値とかごの定格容量と釣合い錘のカウンタ率と巻上機のシーブ径とかご荷重とを用いて、アンバランストルクを算出し、アンバランストルクを用いて巻上機のトルク定数を特性パラメータとして同定するように構成される。
或いは、上記に開示のエレベーターの制御装置において、巻上機制御部は、エレベーターの上昇運転と下降運転を実行するように構成され、パラメータ同定部は、エレベーターの上昇運転においてかごが昇降路の基準位置を等速度で通過するときの巻上機の第一電流値と、エレベーターの下降運転においてかごが基準位置を等速度で通過するときの巻上機の第二電流値と、をそれぞれ取得し、第一電流値と、第二電流値と、アンバランストルクとを用いて、巻上機のトルク定数を特性パラメータとして同定するように構成される。
或いは、上記に開示のエレベーターの制御装置において、巻上機制御部は、巻上機のブレーキ装置を解放する前に、アンバランストルクを補償する補償電流値を巻上機に通電するための指令値をステップ状に与え、パラメータ同定部は、巻上機の電流値が補償電流値の規定の割合に達するまでの経過時間を計測し、経過時間に基づいて巻上機制御部の電流制御帯域を特性パラメータとして同定するように構成される。
【発明の効果】
【0007】
本開示の技術によれば、エレベーターの巻上機へ供給される電流の情報を用いて巻上機の特性パラメータを同定し、巻上機の制御に用いられる制御パラメータを適正化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1のエレベーターの構成図である。
【
図2】実施の形態1のエレベーターにおいて静止保持制御を実行したときの巻上機のq軸電流値と回転速度との時間変化の一例を示す図である。
【
図3】実施の形態1のエレベーターの制御装置がトルク定数を同定するルーチンを示すフローチャートである。
【
図4】制御装置のハードウェア資源の例を示す図である。
【
図5】制御装置のハードウェア資源の他の例を示す図である。
【
図6】実施の形態2のエレベーターにおいて静止保持制御を実行したときの巻上機のq軸電流値の時間変化の一例をかご荷重別に示す図である。
【
図7】実施の形態2のエレベーターの制御装置がトルク定数を同定するルーチンを示すフローチャートである。
【
図8】実施の形態3のエレベーターにおいて、最下階から最上階への上昇運転と最上階から最下階への下降運転を連続して実行したときの巻上機のq軸電流値と昇降路内のかご位置との時間変化の一例を示す図である。
【
図9】実施の形態3のエレベーターの制御装置がトルク定数を同定するルーチンを示すフローチャートである。
【
図10】実施の形態4のエレベーターにおいて、静止保持制御を実行したときの巻上機のq軸電流値と回転速度との時間変化の一例を示す図である。
【
図11】実施の形態4のエレベーターの制御装置が電流制御パラメータを調整するルーチンを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0010】
実施の形態1.
1-1.実施の形態1におけるエレベーターの構成
図1は、実施の形態1のエレベーターの構成図である。実施の形態1のエレベーター100は、複数の階床を有する建物などからなる施設に設置されている。施設において、エレベーター100の昇降路が設けられる。昇降路は、複数の階床にわたる上下方向に長い空間である。
【0011】
エレベーター100は、その主要な構成として、巻上機1と、回転センサ2と、かご3と、釣合い錘4と、主ロープ5と、ブレーキ装置6と、秤装置7と、電流センサ8と、電力変換器9と、制御装置10と、を備える。
【0012】
巻上機1は、昇降路の上部に設置される。巻上機1は、シーブと、シーブを回転させる電動機とを備える。巻上機1のシーブには主ロープ5が巻き掛けられている。主ロープの一端には、かご3が接続されている。主ロープ5の他端には、釣合い錘4が接続されている。かご3及び釣合い錘4は、主ロープ5により昇降路内につるべ式に吊り下げられている。かご3及び釣合い錘4は、巻上機1のシーブを回転させることにより昇降路内を昇降する。
【0013】
なお、釣合い錘4の重量は、「カウンタ率γ」と呼ばれるかご3の定格容量CPに対する重量割合に基づき調整される。例えば、カウンタ率γが50%に設定される場合、釣合い錘4の重量は、定格容量CPの50%の重量にかご3の質量を加算した値に調整される。
【0014】
回転センサ2は、シーブの回転に応じたパルス値を発生することにより巻上機1の回転位置及び回転速度を検出する。回転センサ2は、例えば、シーブの回転に応じた信号を発生するエンコーダ又はレゾルバ等が用いられる。検出された回転位置及び回転速度は制御装置10へ入力されて、巻上機1の位置制御及び速度制御に利用される。
【0015】
ブレーキ装置6は、制御装置10からのブレーキ指令に基づいて巻上機1の回転を制動する。秤装置7は、かご3に作用するかご荷重を計測する。秤装置7が計測したかご荷重は制御装置10へ入力される。電流センサ8は、巻上機1に流れる電流値を検出する。電流センサ8が検出した電流値は、制御装置10へ入力される。
【0016】
電力変換器9は、制御装置10が計算する電圧指令に基づいて、巻上機1に電圧を印加する。電力変換器9は、例えば、PWMインバータである。
【0017】
制御装置10は、プロセッサがプログラムを実行することにより実現される機能として、巻上機制御部12と、パラメータ同定部14と、を備える。巻上機制御部12は、巻上機1を制御するための電圧指令を演算するための機能ブロックである。典型的には、巻上機制御部12は、回転センサ2が検出する巻上機1の回転位置及び回転速度に基づいて、位置制御系及び速度制御系を構成する。また、巻上機制御部12は、電流センサ8が検出する電流値に基づいて、電流制御系を構成する。巻上機制御部12の位置制御系、速度制御系、及び電流制御系の制御ゲインは、パラメータ同定部14において同定された巻上機1の特性パラメータに基づいて調整される。
【0018】
パラメータ同定部14は、巻上機1の特性パラメータを同定するための機能ブロックである。典型的には、パラメータ同定部14は、巻上機制御部12から受信した制御指令値としての電流指令値と、電流センサ8が検出する電流値とを用いて、特性パラメータを同定する。この処理は、以下「同定処理」と呼ばれる。特性パラメータは、例えばトルク定数Ktが例示される。トルク定数Ktは、巻上機1に発生する単位電流あたりの発生トルクである。同定処理において同定された特性パラメータは、巻上機制御部12に送られる。巻上機制御部12は、特性パラメータに基づいて、位置制御系、速度制御系、及び電流制御系の制御パラメータを調整する。
【0019】
1-2.同定処理の概要
次に、実施の形態1におけるパラメータ同定部14において行われる同定処理の概要について説明する。かご3と釣合い錘4の重量が釣り合った状態では、巻上機1に作用する負荷トルク、すなわち、かご3と釣合い錘4の重量差により発生するアンバランストルクT1は0となる。一方で、かご3と釣合い錘4の重量が釣り合っていない状態では、かご3と釣合い錘4の重量差により、巻上機1にアンバランストルクT1が作用する。同定処理において、パラメータ同定部14は、アンバランストルクT1を利用して特性パラメータとしてのトルク定数Ktを演算する。
【0020】
かご3に荷重が作用していないときのかご3の質量をM1、釣合い錘4の質量をM2、重力加速度をg、巻上機1のシーブの径をrとすると、アンバランストルクT1は次式(1)で表すことができる。
【0021】
T1=(M1-M2)×g×r ・・・(1)
【0022】
釣合い錘4の質量M2は、かご3の質量M1と、かご3の定格容量CPと、カウンタ率γとを用いて次式(2)のように書き換えることができる。
【0023】
M2=M1+γ×CP ・・・(2)
【0024】
式(1)及び式(2)より、アンバランストルクT1は、次式(3)で表すことができる。式(3)に示すように、カウンタ率γ、定格容量CP、及び巻上機1のシーブ径rが既知であれば、アンバランストルクT1を既知の値として演算することができる。
【0025】
T1=-γ×CP×g×r ・・・(3)
【0026】
巻上機1により発生するトルクT2は、巻上機1のq軸電流Iqとトルク定数Ktを用いて次式(4)で表すことができる。
【0027】
T2=Kt×Iq ・・・(4)
【0028】
ここで、ブレーキ装置6による制動を解放し、巻上機1の速度が0(ゼロ)になるように巻上機1のトルクT2をフィードバック制御する静止保持制御が巻上機制御部12によって行われると、アンバランストルクT1とトルクT2とが釣り合うことになる。したがって、静止保持制御によるかご3の静止中において、トルク定数Ktは次式(5)のように表すことができる。
Kt=T1/Iq ・・・(5)
【0029】
図2は、実施の形態1のエレベーターにおいて静止保持制御を実行したときの巻上機1のq軸電流値と回転速度との時間変化の一例を示す図である。この図に示す例において、ブレーキ装置6によって巻上機1の回転速度が0になるように制動された状態からブレーキ装置6が解放されると、アンバランストルクT1によって巻上機1が回転する。巻上機制御部12は静止保持制御を実行して、回転速度を0にするように巻上機1にトルクT2を発生させるためのq軸電流Iqを生成する。そして、回転速度が0になるとq軸電流Iqは一定値となり、このときのq軸電流Iqが、トルクT2とアンバランストルクT1とが釣り合う静止保持電流となる。パラメータ同定部14は、アンバランストルクT1と電流センサ8によって検出された静止保持電流とを式(5)に代入してトルク定数Ktを同定する。同定されたトルク定数Ktは、巻上機制御部12に送られる。
【0030】
巻上機制御部12は、同定されたトルク定数Ktを用いて、巻上機制御部12の制御ゲイン、特に速度制御ゲインを設定する。これにより、温度変化或いは経年変化などによって巻上機1の特性が変化した状況においても、制御性能を一定に保つことができる。
【0031】
なお、トルク定数Ktが不明の場合には、巻上機1の電動機銘板に記載されている定格トルク、定格出力、定格回転数、及び定格電流などを用いて、トルク定数Ktを仮に計算しておく。巻上機制御部12は、計算されたトルク定数Ktを用いて静止保持制御を行う。そして、パラメータ同定部14は、静止保持制御中の巻上機1の実際のq軸電流Iqと、巻上機1に作用するトルクT2とに基づいて、正確なトルク定数Ktを演算すればよい。
【0032】
また、ブレーキ装置6を解放する前に、予めアンバランストルクT1と同値のトルクを発生させる電流を巻上機1に通電しておいてもよい。このような制御によれば、静止保持制御を行った場合において、回転速度が0に収束するまでの時間を短縮することができる。
【0033】
1-3.実施の形態1における制御装置において実行される具体的処理
図3は、実施の形態1のエレベーターの制御装置がトルク定数を同定するルーチンを示すフローチャートである。実施の形態1において、制御装置10は、かご荷重が0のときに、つまりかご3内に利用者が乗車していないときに本ルーチンを実行する。この場合、アンバランストルクT1は、式(3)に基づいて既知量として演算することができる。
【0034】
ステップS100において、巻上機1を制動しているブレーキ装置6が解放される。ブレーキが解放されると、ステップS102において、巻上機1の速度が0になるように巻上機1にトルクT2を発生させる静止保持制御が行われる。
【0035】
次に、ステップS104において、回転センサ2によって検出された回転速度が基準値以下かどうかが判定される。ここでの基準値は、例えば0である。或いは、基準値は0の近傍の値でもよい。その結果、判定の成立が認められない場合、処理はステップS102に戻り、静止保持制御の処理が再度実行される。一方、判定の成立が認められた場合、処理はステップS106に進む。
【0036】
ステップS106において、静止保持電流値が取得される。ここでは、取得した電流値にフィルタ処理を施してもよいし、制御装置10のサンプリング周期において複数回のデータを取得して平均化した値を静止保持電流値として取得してもよい。ステップS106の処理が完了すると、処理はステップS108に進む。
【0037】
ステップS108において、トルク定数Ktが同定される。ここでは、ステップS106において取得された静止保持電流値と、既知量であるアンバランストルクT1を式(5)に代入することによりトルク定数Ktが演算される。
【0038】
以上の説明から明らかなように、実施の形態1のエレベーター100によれば、静止保持制御の実行中に検出される静止保持電流を用いて、巻上機1の電動機の特性パラメータとしてのトルク定数Ktを同定することができる。これにより、巻上機制御部12の制御パラメータを適正化することができるので、制御性能を一定に保つことができる。
【0039】
1-4.変形例
実施の形態1のエレベーター100は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0040】
1-4-1.制御装置10のハードウェア資源
【0041】
図4は、制御装置10のハードウェア資源の例を示す図である。制御装置10は、ハードウェア資源として、プロセッサ102とメモリ104とを含む処理回路106を備える。処理回路106に複数のプロセッサ102が含まれても良い。処理回路106に複数のメモリ104が含まれても良い。
【0042】
本実施の形態において、巻上機制御部12及びパラメータ同定部14は、制御装置10が有する機能を示す。巻上機制御部12及びパラメータ同定部14の機能は、プログラムとして記述されたソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現できる。当該プログラムは、メモリ104に記憶される。或いは、当該プログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されていてもよい。制御装置10は、メモリ104に記憶されたプログラムをプロセッサ102(コンピュータ)によって実行することにより、巻上機制御部12及びパラメータ同定部14の機能を実現する。
【0043】
プロセッサ102は、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、或いはDSPともいわれる。メモリ104として、半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、或いはDVDを採用しても良い。採用可能な半導体メモリには、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、及びEEPROM等が含まれる。
【0044】
図5は、制御装置10のハードウェア資源の他の例を示す図である。
図5に示す例では、制御装置10は、プロセッサ102、メモリ104、及び専用ハードウェア108を含む処理回路106を備える。
図5は、制御装置10が有する機能の一部を専用ハードウェア108によって実現する例を示す。制御装置10が有する機能の全部を専用ハードウェア108によって実現しても良い。専用ハードウェア108として、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらの組み合わせを採用できる。なお、上述した制御装置10のハードウェア資源についての変形例は、後述する他の実施の形態の制御装置10にも適用することができる。
【0045】
実施の形態2.
2-1.実施の形態2におけるエレベーターの特徴
上述した実施の形態1のエレベーターでは、かご荷重が0のときにトルク定数を同定することとした。これに対して、実施の形態2のエレベーターでは、任意のかご荷重条件においてトルク定数を同定する制御に特徴を有している。以下、実施の形態1におけるパラメータ同定部14において行われる同定処理の概要について説明する。
【0046】
かご3に荷重が作用していないときのかご3の質量をM1、かご3に作用するかご荷重をM0、釣合い錘4の質量をM2、重力加速度をg、巻上機1のシーブの半径をシーブ径rとすると、アンバランストルクT1は次式で表すことができる。
【0047】
T1=(M1+M0-M2)×g×r ・・・(6)
【0048】
式(6)及び式(2)より、アンバランストルクT1は、次式(7)で表すことができる。
【0049】
T1=(M0―γ×CP)×g×r ・・・(7)
【0050】
式(7)に示すように、カウンタ率γ、定格容量CP、及び巻上機1のシーブ径rが既知であれば、かご3のかご荷重M0を秤装置7により計測することによってアンバランストルクT1を既知の値として演算することができる。
【0051】
図6は、実施の形態2のエレベーターにおいて静止保持制御を実行したときの巻上機1のq軸電流値の時間変化の一例をかご荷重別に示す図である。この図において、かご荷重0%、30%、80%は、かご3の定格容量CPに対するかご荷重の割合を示している。
【0052】
この図に示す例において、ブレーキ装置6によって巻上機1の回転速度が0になるように制動された状態からブレーキ装置6が解放されると、かご3と釣合い錘4の重量が釣り合っていないときにはアンバランストルクT1によって巻上機1が回転する。巻上機制御部12は静止保持制御を実行して、回転速度を0にするように巻上機1にトルクT2を発生させるためのq軸電流Iqを生成する。そして、回転速度が0になるとq軸電流Iqは一定値となり、このときのq軸電流Iqが、トルクT2とアンバランストルクT1とが釣り合う静止保持電流となる。
図6に示すように、静止保持電流は、かご荷重の大きさに応じて異なる値となる。したがって、電流センサ8を用いて静止保持電流を検出することとすれば、式(5)を用いてトルク定数Ktを同定することができる。
【0053】
パラメータ同定部14は、秤装置7により計測されたかご荷重M0を式(7)に代入してアンバランストルクT1を算出する。そして、パラメータ同定部14は、算出されたアンバランストルクT1と電流センサ8によって検出された静止保持電流とを式(5)に代入してトルク定数Ktを同定する。同定されたトルク定数Ktは、巻上機制御部12に送られる。
【0054】
巻上機制御部12は、同定されたトルク定数Ktを用いて、巻上機制御部12の制御ゲイン、特に速度制御ゲインを設定する。これにより、温度変化或いは経年変化などによって巻上機1の特性が変化した状況においても、制御性能を一定に保つことができる。
【0055】
2-2.実施の形態2における制御装置において実行される具体的処理
図7は、実施の形態2のエレベーターの制御装置がトルク定数を同定するルーチンを示すフローチャートである。
図7に示すルーチンは、かご荷重が作用している状態において、ブレーキ装置6によって巻上機1の回転速度が0に保持されているときに実行される。
【0056】
ステップS200からステップS206において、制御装置10は、ステップS100からS106と同様の処理を実行する。ステップS206の処理が完了すると、処理はステップS208に進む。
【0057】
ステップS208において、アンバランストルクT1が計算される。ここでは、制御装置10は、秤装置7によって計測されたかご荷重M0と、既知のカウンタ率γ、定格容量CP、及び巻上機1のシーブ径rとを式(7)に代入することによりアンバランストルクT1を算出する。ステップS208の処理が完了すると、処理はステップS210に進む。
【0058】
ステップS210において、トルク定数Ktが同定される。ここでは、ステップS206において取得された静止保持電流値と、ステップS208において演算されたアンバランストルクT1を式(5)に代入することによりトルク定数Ktが演算される。
【0059】
以上の説明から明らかなように、実施の形態2のエレベーター100によれば、かご荷重M0が作用している状態においても、静止保持制御の実行中に検出される静止保持電流を用いて、巻上機1の電動機の特性パラメータとしてのトルク定数Ktを同定することができる。これにより、巻上機制御部12の制御パラメータを適正化することができるので、制御性能を一定に保つことができる。
【0060】
実施の形態3.
3-1.実施の形態3におけるエレベーターの制御装置の特徴
実施の形態3のエレベーターの制御装置は、エレベーターの走行中にトルク定数Ktを同定する制御に特徴を有している。
【0061】
エレベーターの走行中において、巻上機1が発生するトルク成分には、(7)式のアンバランストルクT1を補償するトルク、加減速度に従って発生するトルク、エレベーターの昇降路内における走行ロスを補償するトルク、かご3と釣合い錘4とをつなぐ主ロープ5のかご3側と釣合い錘4側との重量差により発生するトルク、などが含まれる。
【0062】
ここで、エレベーターが等速度で走行している場合、加減速度に従って発生するトルクは0と見なすことができる。また、エレベーターの昇降行程の中間位置にかご3が位置する場合、主ロープ5のかご3側の重量と釣合い錘4側の重量とが等しくなるため、主ロープ5の重量差により発生するトルクは0と見なすことができる。つまり、等速度で昇降行程の中間位置を走行する場合、巻上機1の上昇運転時のトルクTUP及び下降運転時のトルクTDNは、それぞれアンバランストルクT1を補償するトルクと走行ロスを補償するトルクとの和と考えることができる。また、上昇運転時の走行ロスは、下降運転時の走行ロスと大きさは同じで符号が異なると考えることができる。したがって、巻上機1の上昇運転時のトルクTUP及び下降運転時のトルクTDNは、次式(8)及び(9)で表される。
【0063】
TUP=Kt×I1=Kt×(I0+IL1) ・・・(8)
TDN=Kt×I2=Kt×(I0-IL2)=Kt×(I0-IL1) ・・・(9)
【0064】
式(8)及び式(9)において、第一電流値I1は上昇運転において等速度で昇降行程の中間位置を走行するときのq軸電流値であり、第二電流値I2は下降運転において等速度で昇降行程の中間位置を走行するときのq軸電流値である。また、IL1は上昇運転において走行ロスを補償するための電流値であり、IL2は下降運転において走行ロスを補償するための電流値である。そして、I0はアンバランストルクT1を補償するための電流値である。式(8)及び式(9)から、電流値I0、第一電流値I1、及び第二電流値I2の関係は、次式(10)のとおりである。
【0065】
(I1+I2)/2=I0 ・・・(10)
【0066】
式(10)に示すように、上昇運転において等速度で昇降行程の中間位置を走行するときの第一電流値I1と、下降運転において等速度で昇降行程の中間位置を走行するときの第二電流値I2を電流センサ8により検出し、これらの平均値をとると、アンバランストルクを補償する電流値I0を求めることができる。したがって、トルク定数Ktは、次式(11)により算出することができる。
【0067】
Kt=T1/I0=T1/((I1+I2)/2) ・・・(11)
【0068】
3-2.実施の形態3の同定処理の具体例
図8は、実施の形態3のエレベーターにおいて、最下階から最上階への上昇運転と最上階から最下階への下降運転を連続して実行したときの巻上機1のq軸電流値と昇降路内のかご位置との時間変化の一例を示す図である。なお、
図8において、かご位置は最下階を基準にしている。また、図中の基準位置は、昇降行程の中間位置、つまり昇降路内における最下階と最上階との中間位置を示している。
【0069】
図8に示す例では、エレベーター100の上昇運転において、時間t1において走行が開始された後、上昇方向への加速が開始される。定格速度になる時間t2において加速が終了され、一定のトルクにより等速度で走行される。その後、時間t4において最上階に停止するための減速が開始される。このように、エレベーター100の上昇運転において、等速で走行中のトルクは一定となり、この期間の加減速度に従って発生するトルクは0と見なすことができる。また、基準位置を通過する時間t3においては、主ロープ5のかご3側と釣合い錘4側との重量差により発生するトルクが0と見なすことができる。以上より、エレベーター100の上昇運転において、等速で昇降行程の中間位置を通過する時間t3における巻上機1の第一電流値I1は、アンバランストルクT1を補償する電流値I0に走行ロスを打ち消すための電流値IL1を加算した値、すなわちI1=I0+IL1となる。
【0070】
一方、エレベーター100の下降運転においても上昇運転と同様であり、時間t5において走行が開始されると定格速度となるまで下降方向に加速される。時間t6において定格速度になると、加速が終了されて一定のトルクにより等速度で走行される。そして時間t8において最下階に停止するための減速が開始される。このように、エレベーター100の下降運転において、等速で走行中のトルクは一定となり、この期間の加減速度に従って発生するトルクは0と見なすことができる。また、基準位置を通過する時間t7においては、主ロープ5のかご3側と釣合い錘4側との重量差により発生するトルクが0と見なすことができる。以上より、エレベーター100の下降運転において、等速で昇降行程の中間位置を通過する時間t7における巻上機1の第二電流値I2は、アンバランストルクT1を補償する電流値I0に走行ロスを打ち消すための電流値IL2を減算した値、すなわちI2=I0-IL2となる。
【0071】
第一電流値I1及び第二電流値I2は、エレベーター100の走行中において電流センサ8により検出することができる。このため、検出された第一電流値I1及び第二電流値I2とアンバランストルクT1とを式(11)に代入することにより、トルク定数Ktを同定することが可能となる。
【0072】
3-3.実施の形態3における制御装置において実行される具体的処理
図9は、実施の形態3のエレベーターの制御装置がトルク定数を同定するルーチンを示すフローチャートである。制御装置10は、かご荷重M0が作用しているときに本ルーチンを実行する。
【0073】
ステップS300において、最下階から最上階に向かってエレベーター100の上昇運転が行われる。ステップS302において、等速度で基準位置を通過するときの第一電流値I1が取得される。ここでの基準位置は、かご3側に位置する主ロープ5の重量と釣合い錘4側に位置する主ロープ5の重量とが釣り合う位置である。その後エレベーター100は最上階に停止される。
【0074】
ステップS304において、最上階から最下階に向かって下降運転が行われる。ステップS306において、等速度で基準位置を通過するときの第二電流値I2が取得される。
【0075】
ステップS308において、トルク定数Ktが同定される。ここでは、アンバランストルクT1が計算される。制御装置10は、秤装置7によって計測されたかご荷重M0と、既知のカウンタ率γ、定格容量CP、及び巻上機1のシーブ径rとを式(7)に代入することによりアンバランストルクT1を算出する。そして、算出されたアンバランストルクT1と、ステップS302及びS306において取得された第一電流値I1及び第二電流値I2を式(11)に代入することにより、トルク定数Ktが演算される。
【0076】
以上の説明から明らかなように、実施の形態3のエレベーターの制御装置によれば、エレベーター100の走行中においても、等速度で基準位置を通過するときの電流値を用いて、巻上機1の電動機の特性パラメータとしてのトルク定数Ktを同定することができる。これにより、巻上機制御部12の制御パラメータを適正化することができるので、制御性能を一定に保つことができる。
【0077】
3-4.変形例
実施の形態3のエレベーターの制御装置10は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0078】
同定処理において、エレベーター100の下降運転を先に実行して第二電流値I2を取得し、その後に上昇運転を実行して第一電流値I1を取得してもよい。この場合、
図9に示すフローチャートにおいて、ステップS304及びS306の処理をステップS300の処理の前に実行すればよい。
【0079】
ステップS300におけるエレベーター100の上昇運転は、必ずしも最下階から最上階まで運転する必要はない。すなわち、ここでの上昇運転は、少なくとも等速度で基準位置を通過することができればよい。また、ステップS304におけるエレベーター100の下降運転も同様に、必ずしも最上階から最下階まで運転する必要はない。すなわち、ここでの下降運転は、少なくとも等速度で基準位置を通過することができればよい。
【0080】
制御装置10は、かご荷重M0が作用していないときに
図9に示すルーチンを実行してもよい。この場合、ステップS308において、式(3)を用いてアンバランストルクを算出すればよい。
【0081】
実施の形態4.
4-1.実施の形態4におけるエレベーターの制御装置の特徴
実施の形態4のエレベーターの制御装置は、巻上機1特性パラメータとしての電流制御帯域を同定し、同定した電流制御帯域を用いて電流制御パラメータを調整する処理に特徴を有している。ここでの電流制御パラメータは、例えば電流制御ゲインである。
【0082】
かご3に作用するかご荷重M0は秤装置7を用いて計測することができる。このため、かご荷重M0を式(6)に代入して演算されたアンバランストルクT1と、トルク定数Ktとを式(4)に代入することとすれば、アンバランストルクT1補償するための補償電流値を算出することができる。そして、算出された補償電流値を予め通電してからブレーキ装置6を解放することとすれば、ブレーキ装置6を解放直後において速やかに回転速度を0に近づける静止保持制御が可能となる。電流制御帯域を同定する同定処理は、エレベーター100の走行前且つブレーキ装置6により巻上機1が制動されている場合において、アンバランストルクT1を補償する補償電流値の指令をステップ状に印加したときの電流応答を利用して行われる。以下、電流制御帯域を同定する同定処理について詳細に説明する。
【0083】
巻上機1の停止時において、巻上機1のモータの電流Iと電圧Vの関係式は、次式(12)で表すことができる。ここで、電流Iはモータのdq軸電流、電圧Vはモータのdq軸電圧である。また、Lはモータのインダクタンス、Rはモータの抵抗、sはラプラス演算子である。
【0084】
I=1/(Ls+R)×V ・・・(12)
【0085】
これに対し、巻上機制御部12の電流制御は、一般的に次式(13)のように設計される。ここで、ωは電流制御帯域、I*は電流指令値である。また、比例ゲインはω×L、積分ゲインはω×Rで表される。
【0086】
V=ω/s×(Ls+R)×(I*―I) ・・・(13)
【0087】
(12)式に(13)式を適用し、閉ループ応答を導出すると、電流Iは次の一次遅れ系で表される。
【0088】
I=ω/(s+ω)×I*=1/(Ts+1)×I* ・・・(14)
【0089】
ここで、Tは時定数でありT=1/ωである。電流指令値I*をステップ状に与えると、その時間応答は次式となる。
【0090】
I=(1-EXP(-t/T))×I* ・・・(15)
【0091】
電流指令値I*が印加されてからの時間tがt=Tとなるとき、電流Iは電流指令値I*の63%となる。つまり、実電流Iが電流指令値I*の63%となる時間を計測して、理想的な時定数Tからのずれ、または計測した時間の逆数と電流制御帯域ωとのずれを検出することで、電流制御ゲインの誤差を検出することができる。これにより、電流制御のゲインを調整することができる。特に、時定数は、比例ゲイン、すなわちインダクタンスに比例することから、インダクタンスの誤差を検出することができる。また、(15)式によれば、t=T以外の時間においても電流Iの理想的な値が分かるため、任意の時間における電流値を理想応答と比較することで、電流制御ゲインを調整することもできる。
【0092】
4-2.実施の形態4の電流制御パラメータ調整処理の具体例
図10は、実施の形態4のエレベーターにおいて、静止保持制御を実行したときの巻上機1のq軸電流値と回転速度との時間変化の一例を示す図である。この図に示す例では、ブレーキ装置6を解放する前にアンバランストルクT1を補償する補償電流の指令をステップ状に与える。その結果、実電流は(15)式に従い指令値に追従する。このとき、実電流が指令値の63%に達する経過時間Txを計測することで、電流制御のゲインのずれを検出することができる。例えば、経過時間TxがTx>Tの場合、実電流の立上りが遅いため比例ゲインが不足している状態であると判断することができる。これは電流制御帯域が設計よりも不足しており、比例ゲインを設計するために使用したインダクタンスが実際よりも小さいことを表している。よって、このような場合には、比例ゲインの設計に使うインダクタンスを大きくすることで、実電流を理想的な応答に近づけることができる。
【0093】
一方、経過時間TxがTx<Tの場合、実電流の立上りが早いため比例ゲインが過剰な状態であると判断することができる。これは電流制御帯域が設計よりも過剰であり、比例ゲインを設計するために使用したインダクタンスが実際よりも大きいことを表している。よって、このような場合には、比例ゲインの設計に使うインダクタンスを小さくすることで、実電流を理想的な応答に近づけることができる。
【0094】
4-3.実施の形態4における制御装置において実行される具体的処理
図11は、実施の形態4のエレベーターの制御装置が電流制御パラメータを調整するルーチンを示すフローチャートである。
図11に示すルーチンは、ブレーキ装置6によって巻上機1の回転速度が0に保持されているかご3の停止時に実行される。
【0095】
ステップS400において、巻上機制御部12は、巻上機1をブレーキ装置6で制動した状態において、アンバランストルクT1を補償するための補償電流値をステップ状に指令する。ステップS402において、パラメータ同定部14は、巻上機制御部12による補償電流の指令からの経過時間Txを計測する。
【0096】
次のステップS404において、パラメータ同定部14は、巻上機1に供給される実電流が補償電流値に対する規定割合に達しているかどうかを判定する。ここでは、電流センサ8によって検出された実電流が、指令値の規定割合として63%に到達したかどうかが判定される。その結果、判定の成立が認められない場合、処理は再びステップS402に戻り、経過時間Txの計測が継続される。
【0097】
一方、判定の成立が認められた場合、処理はステップS406に進む。ステップS406において、パラメータ同定部14は、経過時間Txの計測を停止する。ステップS406の処理が実行されると、処理はステップS408に進む。ステップS408において、パラメータ同定部14は、計測した経過時間Txを時定数Tとして同定し、時定数Tの逆数を電流制御帯域ωとして同定する。そして、同定した時定数Tまたは電流制御帯域ωを用いて、巻上機制御部12の制御ゲインを設定する。ここでの制御ゲインは、電流制御ゲイン、特に比例ゲインである。また、比例ゲインはモータのインダクタンスに比例することから、インダクタンスを同定していることにもなる。
【0098】
以上の説明から明らかなように、実施の形態4のエレベーターの制御装置によれば、静止保持制御において、ブレーキ装置6の解放前にアンバランストルクを補償する補償電流値を通電したときの実電流の応答から電流制御帯域を同定することができる。これにより、同定した電流制御帯域を用いて電流制御ゲインを調整することができるので、制御性能を一定に保つことができる。さらに、電流制御帯域は、モータのインダクタンスに比例することから、インダクタンスを同定することも可能となる。また、時定数は電流制御帯域の逆数であることから、時定数を同定することも可能となる。
【0099】
4-4.変形例
実施の形態4のエレベーターの制御装置は、以下のように変形した態様を採用してもよい。
【0100】
図11に示すルーチンのステップS404において、規定割合は63%に限らず、任意の割合でもよい。
【符号の説明】
【0101】
1 巻上機、 2 回転センサ、 3 かご、 4 釣合い錘、 5 主ロープ、 6 ブレーキ装置、 7 秤装置、 8 電流センサ、 9 電力変換器、 10 制御装置、 12 巻上機制御部、 14 パラメータ同定部、 100 エレベーター、 102 プロセッサ、 104 メモリ、 106 処理回路、 108 専用ハードウェア
【要約】
【課題】エレベーターの巻上機へ供給される電流の情報を用いて巻上機の特性パラメータを同定し、巻上機の制御に用いられる制御パラメータを適正化する技術を提供する。
【解決手段】かごと、一端がかごに接続され他端が釣合い錘に接続される主ロープと、主ロープをシーブに巻きかけてかごを昇降させる巻上機と、を備えるエレベーターの制御装置は、制御パラメータを用いて巻上機を制御する巻上機制御部と、巻上機の特性パラメータを同定するパラメータ同定部と、を備える。パラメータ同定部は、巻上機に流れる電流値、及びかごと釣合い錘との重量差により発生するアンバランストルクを用いて、特性パラメータを同定するように構成される。巻上機制御部は、特性パラメータに基づいて、制御パラメータを設定するように構成される。
【選択図】
図3