(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】回折格子アレイ
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20240827BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G02B5/18
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2023113730
(22)【出願日】2023-07-11
(62)【分割の表示】P 2019024796の分割
【原出願日】2019-02-14
【審査請求日】2023-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】井上 大介
(72)【発明者】
【氏名】市川 正
(72)【発明者】
【氏名】中尾 朱里
(72)【発明者】
【氏名】山下 達弥
(72)【発明者】
【氏名】下垣 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小田 敏宏
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-046535(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0219808(US,A1)
【文献】国際公開第2015/037306(WO,A1)
【文献】特開平08-106021(JP,A)
【文献】米国特許第10197971(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0364336(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0292609(US,A1)
【文献】米国特許第04025197(US,A)
【文献】米国特許第06231195(US,B1)
【文献】米国特許第04953951(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の格子パターンを有し、かつ前記複数の格子パターンのうちの隣り合う前記格子パターンの中心部位が重複せず、前記中心部位の回折光の電界強度より回折光の電界強度が小さい周辺部位の一部が重複するように構成された回折格子と、
光入射側に前記回折格子が形成され、かつ前記回折格子の前記複数の格子パターンにより回折された回折光を伝播する導波路と、
を備え、
前記回折格子の周辺部位の一部が重複する領域の重複量を、前記複数の格子パターンのうちの単体の格子パターンにより導波路に結合される光に関する効率と、前記複数の格子パターンを重複させないときの合計面積に対する前記複数の格子パターンの一部を重複させたときの合計面積の比で表される面積率とを乗算して定まる受光効率が最大となる大きさとし、
前記回折格子は、
TM波の光及びTE波の光を含む光を集光するレンズで集光される当該光の領域に配置され、かつ、当該レンズに対して、TM波の光及びTE波の光が同一方向から入射するように配置され、前記レンズにより集光されたTM波の光及びTE波の光を含む入射光のうち一方の波の光を予め定めた所定の回折角で回折する第1の回折格子群と、前記入射光のうち他方の波の光を第1の回折格子群の前記回折角と正負が反対の回折角で回折する第2の回折格子群と、を備え、前記第1の回折格子群の格子パターンの配列方向と、前記第2の回折格子群の格子パターンの配列方向とが同じ方向で、かつ各々の回折光が逆方向に向かうように前記第1の回折格子群と、前記第2の回折格子群とを配列して前記入射光を前記TM波の光及びTE波の光の各々に分離し、
前記導波路は、前記回折格子で分離された前記TM波の光及びTE波の光の各々を逆方向に伝播する、
回折格子アレイ。
【請求項2】
前記回折格子は、同一平面上に前記格子パターンが形成される
請求項1に記載の回折格子アレイ。
【請求項3】
前記回折格子は、前記格子パターンを有する回折部材を複数備え、複数の回折部材のうち隣り合う回折部材の格子パターンの一部が重複するように、前記隣り合う回折部材の一部を重ねて形成する
請求項1又は請求項2に記載の回折格子アレイ。
【請求項4】
回折される光の電界強度が予め定めた閾値以下の前記周辺部位の領域が重なるように、隣り合う前記格子パターンの一部が重複するように構成される
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の回折格子アレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子アレイに関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1には、回折格子アレイを用いた技術が開示されている。この技術では、光に含まれるTE波(直交偏波)とTM波(平行偏波)との各々の偏光を分離して検出するために、TE波用の回折格子とTM波用の回折格子とを備え、その一部を重ねて構成している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】"A Grating-Coupler-Enabled CMOS Photonics Platform" IEEE Journal of Selected Topics in Quantum Electronics, Volume 17 Issue 3, May-June 2011.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、測定対象物(以下、「対象物」という。)との距離を測定する測定機として、対象物へ光照射した際の反射光を用いるレーザレーダ装置等が知られており、その反射光を効率的に検出するために、反射光を受光する部分に回折格子を用いた光アンテナが知られている。反射光は微弱であることがあり、受光効率の向上が求められている。一方、非特許文献1の技術によれば、各々の回折格子によりレーザ光をTE波、及びTM波に分離することは可能であるものの、受光する光自体の受光効率は考慮されていない。回折格子は、例えば溝が所定間隔で形成された格子パターンにおける中央部の受光効率に比べて周囲の受光効率が低下する。このため、光アンテナの受光部として広範囲を受光するようにする場合、複数の光アンテナを並べて構成すればよい。ところが、隣り合う回折格子の各々周辺部における受光効率は、各々中央部における受光効率と比べて低下するので、広範囲を受光する場合の受光効率は低下してしまう。このため、受光する部分における光の受光効率を向上するためには、改善の余地がある。
【0005】
本発明は、上記事実に鑑みてなされたものであり、簡素かつ小規模な構成で、回折格子を用いて光を受光する場合における受光効率を向上することができる回折格子アレイを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の第1態様は、複数の格子パターンを有し、かつ前記複数の格子パターンのうちの隣り合う前記格子パターンの中心部位が重複せず、前記中心部位の回折光の電界強度より回折光の電界強度が小さい周辺部位の一部が重複するように構成された回折格子と、
光入射側に前記回折格子が形成され、かつ前記回折格子の前記複数の格子パターンにより回折された回折光を伝播する導波路と、を備え、前記回折格子の周辺部位の一部が重複する領域の重複量を、前記複数の格子パターンのうちの単体の格子パターンにより導波路に結合される光に関する効率と、前記複数の格子パターンを重複させないときの合計面積に対する前記複数の格子パターンの一部を重複させたときの合計面積の比で表される面積率とを乗算して定まる受光効率が最大となる大きさとし、前記回折格子は、TM波の光及びTE波の光を含む入射光のうち一方の波の光を予め定めた所定の回折角で回折する第1の回折格子群と、前記入射光のうち他方の波の光を第1の回折格子群の前記回折角と正負が反対の回折角で回折する第2の回折格子群と、を備え、前記第1の回折格子群の格子パターンの配列方向と、前記第2の回折格子群の格子パターンの配列方向とが同じ方向で、かつ各々の回折光が逆方向に向かうように前記第1の回折格子群と、前記第2の回折格子群とを配列して前記入射光を前記TM波の光及びTE波の光の各々に分離し、前記導波路は、前記回折格子で分離された前記TM波の光及びTE波の光の各々を逆方向に伝播する、回折格子アレイである。
【0007】
第2態様は、第1態様の回折格子アレイにおいて、
前記回折格子は、同一平面上に前記格子パターンが形成される。
【0008】
第3態様は、第1態様又は第2態様の回折格子アレイにおいて、
前記回折格子は、前記格子パターンを有する回折部材を複数備え、複数の回折部材のうち隣り合う回折部材の格子パターンの一部が重複するように、前記隣り合う回折部材の一部を重ねて形成する。
【0009】
第4態様は、第1態様から第3態様の何れか1態様の回折格子アレイにおいて、回折される光の電界強度が予め定めた閾値以下の前記周辺部位の領域が重なるように、隣り合う前記格子パターンの一部が重複するように構成される。
【0010】
なお、前記回折格子は、TM波の光及びTE波の光を含む入射光のうち一方の波の光を予め定めた所定の回折角で回折する第1の回折格子群と、前記入射光のうち他方の波の光を第1の回折格子群の前記回折角と正負が反対の回折角で回折する第2の回折格子群と、を備え、前記第1の回折格子群の格子パターンの配列方向と、前記第2の回折格子群の格子パターンの配列方向とが同じ方向で、かつ各々の回折光が逆方向に向かうように前記第1の回折格子群と、前記第2の回折格子群とを配列して前記入射光を前記TM波の光及びTE波の光の各々に分離し、前記導波路は、前記回折格子で分離された前記TM波の光及びTE波の光の各々を伝播する。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本開示によれば、簡素かつ小規模な構成で、回折格子を用いて光を受光する場合における受光効率を向上することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態に係るレーザレーダ装置の概略構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】第1実施形態に係る光アンテナに含まれる回折格子アレイの一例を示すブロック図である。
【
図3】第1実施形態に係る回折格子アレイの一例を示すイメージ図である。
【
図4】第1実施形態に係る回折格子アレイに含まれる一部の格子パターンの一例を示すイメージ図である。
【
図5】第1実施形態に係る複数の格子パターンの一部を重複させた格子パターン群の一例を示すイメージ図である。
【
図6】第1実施形態に係る格子パターンの一部を重複させた構造の光アンテナに含まれる回折格子アレイの一例を示すイメージ図である。
【
図7】第1実施形態に係る回折格子アレイにおける格子パターンの一例を示すイメージ図である。
【
図8】第1実施形態に係る格子パターンの一部を重複させた場合における受光効率に関係する特性の一例を示すイメージ図である。
【
図9】第2実施形態に係る受光装置の概略構成の一例を示す概念図である。
【
図10】第2実施形態に係る回折格子アレイにおける1つの格子格子における回折角の説明図である。
【
図11】第2実施形態に係る回折格子アレイにおいて回折角が正負反対となる回折格子群を導波路基板に形成した一例を示す構成図である。
【
図12】第2実施形態に係る回折格子アレイの構成の一例を示すイメージ図である。
【
図13】第3実施形態に係る回折格子アレイの構成の一例を示すイメージ図である。
【
図14】第3実施形態に係る回折格子アレイの構成の一例を示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、図面を参照して本開示の技術を実現する実施形態を詳細に説明する。なお、本実施形態では、例えば車両に搭載されるレーザーレーダ装置におけるレーザ光によって対象物を検出する入射側の光アンテナに、本開示の技術を適用した場合を一例として説明する。
【0014】
図1に、レーザレーダ装置10の概略構成の一例を示す。
図1に示すように、レーザレーダ装置10は、対象物SPからの光を受光する光アンテナ12、光アンテナ12で検出された光を電気信号に変換して出力する信号処理部14、及び信号処理部14で信号処理された信号を用いて対象物SPまでの距離を演算する演算処理部16とを備えている。光アンテナ12は、光の入射側に回折格子アレイ13を備えている。
【0015】
図2に、光アンテナ12に含まれ、かつ対象物SPからの光を受光する回折格子アレイ13の一例を示す。
図2に示すように、回折格子アレイ13は、基板13C上に光を導波する導波路13Bが形成されている。導波路13Bは、基板13Cが形成された面と反対側の面に格子パターン13Aが形成されている。格子パターン13Aは、光を導波路13Bへ回折光として伝播させる。なお、詳細は後述するが、格子パターン13Aは、複数の格子パターンを形成することにより、受光効率が向上されるようになっている。また、格子パターン13Aは、入射光を収束するようになっている。
図2に示す例では、入射光を格子パターンによって射出光として取り出す一例を示している。この
図2に示す例の射出側の格子パターン部位に光電変換センサを配置することで、入射光を電気信号に変換して信号処理部14へ出力することができる。
【0016】
ここで、光アンテナ12に含まれる回折格子アレイ13の受光効率について検討する。回折格子アレイ13の受光効率は、次の式で表すことができる。
【0017】
(受光効率)
=(回折格子アレイ面積率)×(面内のモード重なり積分)×(層構造の結合効率)
【0018】
ここで、平面波をG(x,y)とし、例えばレーザ光を用いた場合にガウシアン分布となる入射光の伝播モードをH(x,y)とした場合、モード重なり積分は、次の式で表すことができる。なお、層構造の結合効率は、回折格子アレイ13を形成した場合に計測可能な定数である。
【数1】
【0019】
従って、回折格子アレイ13の受光効率を向上するためには、回折格子アレイ13の面積率が支配的であり、回折格子アレイ13の面積率が大きくなるように、回折格子アレイ13を形成すればよい。例えば、回折格子アレイ13は平面波を受光するが、その回折格子アレイ13の受光面における入射光の光束の面積が回折格子を構成する格子パターン13Aの受光面の面積より大きい場合、格子パターン13Aを、受光面に沿って複数並べて配置すればよい。
【0020】
図3に、対象物SPからの光を受光する回折格子アレイ13の一例を示す。また、
図4に、回折格子アレイ13に含まれる一部の格子パターンの一例を示す。
図3に示す例では、光アンテナ12の受光面における入射光の光束IBを受光可能に、7個の格子パターン13A1から13A7が配置されている。
【0021】
ところで、回折格子は、格子パターンの部位によって電界強度が変化する。
図4に示すように、並べて配置されている格子パターン13A2、13A3の各々では、中心の部位に比べて周辺の部位における電界強度が小さくなる。従って、格子パターン13Aの周辺部位における電界強度が小さい部位では受光効率が低下し、受光面に沿って複数並べて配置しても、入射光を有効に利用することが困難である。
【0022】
そこで、本実施形態では、回折格子アレイ13における格子パターン13Aの一部を重複させ、回折格子アレイ13の面積率を増加させることで、回折格子アレイ13の受光効率を向上させている。
【0023】
図5に、格子パターン13A2及び格子パターン13A3の一部を重複させた一例として格子パターン群13Axを示す。
図5に示すように、格子パターン群13Axは、格子パターン13A2、13A3の各々における電界強度が小さい周辺部位を、重複させているので、
図5に点線で示すように、その重複部位における電界強度が増加する。これにより受光効率が向上する。
【0024】
図6に、
図3に示す例の回折格子アレイ13において格子パターン13Aの一部を重複させた構造の一例を示す。また、
図7に、
図6に示す回折格子アレイ13における格子パターンの一例を示す。
図6に示すように、回折格子アレイ13は、格子パターン13A1から格子パターン13A4の一部を重複させた格子パターン群13A-1と、格子パターン13A5から格子パターン13A7の一部を重複させた格子パターン群13A-2との2つの格子パターン群が受光面における入射光の光束IBを受光可能に配置されている。
図6に示す例では、重複された格子パターンの領域を斜線で示している。また、
図7には、格子パターン群13A-1の一例を示している。このように、格子パターン13Aの一部を重複させることによって、受光効率を向上させることができる。
【0025】
ところで、複数の格子パターン13Aの一部を重複させることで、受光効率が向上するが、その重複させる量に応じて受光効率は変化する。すなわち、パターンの一部を改変したため、効率が劣化することが懸念される。
次に、効率劣化の懸念を検証するため、複数の格子パターン13Aの一部を重複させる重複量の最適化について説明する。なお、ここでは、
図7に示す格子パターン13A2、13A3の受光領域ARについて、格子パターン13A2の中心と格子パターン13A3の中心との距離(以下、中心オフセットという。)Lを変化させた場合を検証した。
【0026】
図8に、格子パターン13Aの一部を異なる重複率で重複させた場合における受光効率に関係する特性の一例を示す。
図8に示す例では、中心オフセットLを変化させた場合における、格子パターンについての単体の効率を示す関係及び受光効率を示す関係と、面積率を示す関係とを示している。
【0027】
面積率FFは、格子パターン13A2、13A3の各々を重複させず並べた場合を基準とし、受光領域ARに対する格子パターン13A2、13A3による面積の比率を示す。すなわち、面積率FFとは以下のように定義する。
FF={Σ(回折格子単素子の面積)}/(チップ上のフットプリント)
ここで、回折格子単素子とは、重ね合わせをする前にそれ自体で回折格子として機能する回折格子を指す。多くの場合、(回折格子単素子)×(回折格子数)=(回折格子単素子の合計面積)となる。チップ上のフットプリントとは、回折格子アレイ13として形成された回折格子のサイズ、すなわち、複数の格子パターンが形成された回折格子の回折格子アレイ13上の総面積を指す。
図8に示す例では、中心オフセットLを変化させた場合における面積率の関係を一点鎖線によって示している。
図8に示すように、格子パターン13A2、13A3を並べた場合である中心オフセットL1のときの面積率1.0から、中心オフセットLが短くなるに従って、すなわち、格子パターン13A2、13A3の重複量が増加するに従って、面積率FFが増大する。
【0028】
一方、格子パターンについての単体の効率(以下、単体効率という。)は、格子パターン13A2又は13A3の面内のモード重なり積分の値と層構造の結合効率とから求まる効率である。単体効率は、1つの回折格子(回折格子単素子)を介して1つの導波路に結合する光に関する効率である。
図8に示す例では、中心オフセットLを変化させた場合における単体効率の関係を実線によって示している。また、受光効率は、格子パターン単体の効率に面積率FFを乗算したものである。
図8に示す例では、中心オフセットLを変化させた場合における受光効率の関係を点線によって示している。
【0029】
図8に示すように、中心オフセットLを変化させた場合、単体効率及び受光効率は、中心オフセットLが短くなるに従って、すなわち、格子パターン13A2、13A3の重複量が増加するに従って増加し、所定の中心オフセットL(
図8に示す例では、中心オフセットL2)で最大値となる。そして、中心オフセットL2から中心オフセットLが短くなるに従って、単体効率及び受光効率は減少する。
【0030】
このように、所定の中心オフセットL2を境界として、中心オフセットL2を短くすると、単体効率及び受光効率が低下することは、中心部位における効率が高い光に対して格子パターンの重複によって回折機能が阻害され、最終的に回折格子として機能しなくなるためと考えられる。従って、中心オフセットL2までの距離において格子パターン13Aを重複させることが好ましく、中心オフセットL2の距離で格子パターン13A2、13A3を重複させることが受光効率を最大値とするために最適である。
【0031】
中心オフセットL2は、回折される光の電界強度から定めることが可能である。例えば、実験又は計算によって、補うことが好ましい電界強度の閾値を予め定めておき、回折される光の電界強度が予め定めた閾値以下の領域が重なるように、隣り合う格子パターンの一部が重複するように構成すればよい。
【0032】
以上説明したように、本実施の形態に係る光アンテナ12に含まれる回折格子アレイ13は、複数の格子パターン13Aを備え、隣り合う格子パターン13Aについて、格子パターン13Aの中心部位に比べて電界強度が弱い周辺部位を重ね合わせて重複させることによって、回折格子アレイ13の受光効率が向上する。従って、各々格子パターンを備えた回折格子を複数並べて回折格子アレイ13を形成する場合と比べて、回折格子アレイ13の受光効率を向上させることが可能になる。
【0033】
また、本実施の形態に係る光アンテナ12に含まれる回折格子アレイ13は、複数の格子パターン13Aを備え、隣り合う格子パターン13Aを重ね合わせて重複させる構成のみであるので、簡素かつ小規模な構成で、回折格子アレイ13を構成でき、また、回折格子アレイ13を含む光アンテナ12も、簡素かつ小規模な構成で形成することが可能になる。
【0034】
さらに、本実施の形態に係る光アンテナ12を用いたレーザレーダ装置10は、簡素かつ小規模な構成により光アンテナ12によって、送信光と受信光とに基づいて、対象物までの距離を計測でき、車両の自動運転制御において、適切な加速及び減速の制御に資することができる。
【0035】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態を説明する。第2実施形態は、光集積回路チップによって光を受光する受光装置に本開示の技術を適用したものである。なお、第2実施形態は、第1実施形態と同様の構成であるため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0036】
図9に、本実施形態に係る受光装置20の概略構成の一例を示す。
図9に示すように、受光装置20は、レーザレーダ装置10に含まれる光アンテナ12に代えて具備される。受光装置20は、レンズ22、及び光集積回路チップを構成する導波路基板24と入射光を導波路基板24へ回折する回折格子アレイ26を備えている。レンズ22は、光を集光して光束IBとして光集積回路チップの回折格子アレイ26へ光を照射するようになっている。
【0037】
本実施形態に係る受光装置20では、入射光から異なる偏光を分離して検出する。例えば、自然光には位相が異なる偏光が混在しており、例えば、電界成分が入射面に対し横向きである直交偏波(Transverse Electric Wave:以下、TE波という。)と、磁界成分が入射面に対し横向きである平行偏波(Transverse Magnetic Wave:以下、TM波という。)とが混在する。受光装置20は、これらのTE波、及びTM波を分離して検出する。すなわち、本実施形態では、回折格子アレイ26において、入射したTE波、及びTM波を各々別方向に分離し、導波路基板24を伝播させる。
【0038】
図10に、回折格子アレイ26における1つの格子格子での、TE波の回折角θ
TE及びTM波の回折角θ
TMの一例を示す。
図10に示したように、TE波が回折角θ
TEで、TM波が回折角θ
TMで各々回折格子アレイ26を構成する回折格子に入射すると、TE及びTMは同一方向に伝播する。
図10において、回折角θ
TE及び回折角θ
TMの各々を、回折格子アレイ26を構成する回折格子の受光面の法線ベクトルN
Vに対する角度として定義する。
【0039】
|回折角θTE|=|回折角θTM|となり、かつ回折角θTEと回折角θTMとの正負が反対となるように、すなわち法線ベクトルNVを中心に回折角θTE及び回折角θTMが対称となるように回折格子アレイ26を構成すると、TE波及びTM波が同一方向から回折格子アレイ26に入射した場合、TE波及びTM波は、各々逆方向に分離される。従って、回折角θTEと回折角θTMとの正負が反対となるように異なる回折格子群を形成することで、入射したTE波、及びTM波は各々別方向に分離され、導波路基板24を伝播される。
【0040】
図11に、回折格子アレイ26として、回折角θ
TEと回折角θ
TMとの正負が反対となる回折格子群26A、及び26Bを導波路基板24に構成した一例を示す。
図11に示すように、TM波が回折角θ
TMで回折格子群26Aに入射し、TE波が回折角θ
TEで回折格子群26B、回折格子群26Aに入射すると、TE波及びTM波は逆方向に伝播する。
【0041】
図12に、本実施形態に係る回折格子アレイ26の構成の一例を示す。
図12に示すように、TM波を回折する回折格子群26Aと、TE波を回折する回折格子群26Bとを格子パターンの配列方向の線対称に形成する。これにより、レンズ22によって集光された光束IBの光のうち、光集積回路チップの回折格子アレイ26によってTM波が回折角θ
TMで回折格子群26Aで回折され、TE波が回折角θ
TEで回折格子群26Bで回折され、TE波、及びTM波は各々別方向に分離され、導波路基板24を伝播される。
【0042】
以上説明したように、本実施の形態に係る受光装置20は、回折角が正負反対となるように構成された回折格子群26A、26Bを備えることで、入射光をTE波、及びTM波に分離し、かつ分離された光を逆方向に伝播させることができる。これによって、TE波、及びTM波の各々を独立して制御することが可能になる。
【0043】
また、本実施の形態に係る回折格子アレイは、TE波専用の回折格子群及びTM波専用の回折格子群を各々備える、すなわち、同一基板上に格子パターンによる回折格子群を形成するのみで、簡素かつ小規模な構成で、装置を小型化でき、製品の製造コストを抑制できる。
【0044】
[第3実施形態]
次に第3実施形態を説明する。なお、第2実施形態は、第1実施形態と同様の構成であるため、同一部分には同一符号を付して詳細な説明を省略する。
【0045】
上記実施形態では、格子パターンの中心に光が伝播される方向に辺を有する格子パターンを光が伝播される方向に交差する方向に配列した複数の格子パターンを有する回折格子アレイを説明した。第3実施形態は、1つの格子パターンによる回折格子を1素子として複数の素子を組み合わせることによって、回折格子アレイ13を構成する場合に本開示の技術を適用したものである。
【0046】
図13に、本実施形態に係る回折格子アレイ26を構成する複数の回折格子の一例を示す。また、
図14に、本実施形態に係る回折格子アレイ26を構成する複数の回折格子を配置した一例を示す。
図14(A)は本実施形態に係る回折格子アレイ26の平面図であり、
図14(B)は本実施形態に係る回折格子アレイ26の側面図である。
【0047】
図13に示すように、TM波を回折する回折格子群26Aとして、1つの格子パターンを有する回折格子26A1、26A2,26A3を含む。また、TE波を回折する回折格子群26Bとして、1つの格子パターンを有する回折格子26B1、26B2,26B3を含む。
【0048】
そして、受光効率向上のために、回折格子群26Aでは、隣り合う回折格子の一部が重なるように配置する。すなわち、回折格子26A1と回折格子26A2との距離Lya1を、回折格子26A1と回折格子26A2とを重複しないように並べた距離より短くする。同様に、回折格子26A2と回折格子26A3との距離Lya2を、回折格子26A2と回折格子26A3とを重複しないように並べた距離より短くする。そして、回折格子群26Bでも、隣り合う回折格子の一部が重なるように配置する。すなわち、回折格子26B1と回折格子26B2との距離Lyb1を、回折格子26B1と回折格子26B2とを重複しないように並べた距離より短くする。同様に、回折格子26B2と回折格子26B3との距離Lyb2を、回折格子26B2と回折格子26B3とを重複しないように並べた距離より短くする。一方、回折格子群26Aと回折格子群26Bとの距離Lzを、回折格子群26Aと回折格子群26Bとの一部重なるように配置する。すなわち、回折格子群26Aと回折格子群26Bとの距離Lzを、回折格子群26Aと回折格子群26Bとが重複しないように並べた距離より短くする。
【0049】
上記のように配置することで、
図14(A)に示すように、隣り合う回折格子の一部が重複して、入射光の受光効率を向上することが可能になる。
【0050】
一方、回折格子アレイ26は、回折格子群26Aの複数の回折格子26A1から26A3と、回折格子群26Bの複数の回折格子26B1から26B3と、を備える。複数の回折格子26A1~26A3、26B1~26B3は、各々独立した単体の回折格子であるため、
図13及び
図14に示すYZ平面上で移動させると干渉し、重複させることは困難である。このため、
図14(B)に示すように、隣り合う回折格子を矢印X方向及び矢印X方向と逆方向に移動させることで、
図14(A)に示すように平面図で隣り合う回折格子の一部が重なるように配置することが可能になる。
【0051】
以上説明したように、本実施の形態では、1つの格子パターンによる回折格子を1素子として、複数の素子による複数の回折格子を組み合わせることによって、回折格子アレイ13を構成する。これによって、1つの格子パターンにより1素子として形成される回折格子を複数用いて回折格子アレイ13を構成した場合であっても、回折格子の一部を重複させることで、回折格子アレイ13の受光効率を向上することが可能になる。
【0052】
また、本実施の形態に係る光アンテナ12に含まれる回折格子アレイ13は、複数の格子パターン13Aを備え、隣り合う格子パターン13Aを重ね合わせて重複させる構成のみであるので、簡素かつ小規模な構成で、回折格子アレイ13を構成でき、また、回折格子アレイ13を含む光アンテナ12も、簡素かつ小規模な構成で形成することが可能になる。
【0053】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0054】
10 レーザレーダ装置
12 光アンテナ
13 回折格子アレイ
13A 格子パターン
(13A1、13A2、13A3、13A4、13A5、13A6、13A7)
13B 導波路
13C 基板
14 信号処理部
16 演算処理部
20 受光装置
22 レンズ
24 導波路基板
26 回折格子アレイ
26A 回折格子群
26A1、26A2、26A3 回折格子
26B 回折格子群
26B1、26B2、26B3 回折格子
AR 受光領域
FF 面積率
IB 光束
L 中心オフセット
L1、L2 中心オフセット
Lya1、Lya2 距離
Lyb1、Lyb2 距離
Lz 距離