(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】検出システムおよび鍵盤楽器
(51)【国際特許分類】
G10H 1/34 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
G10H1/34
(21)【出願番号】P 2023117415
(22)【出願日】2023-07-19
(62)【分割の表示】P 2021558263の分割
【原出願日】2020-11-02
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019209680
(32)【優先日】2019-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三吉 俊允
【審査官】山下 剛史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第5449858(US,A)
【文献】特開昭58-154909(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0245877(US,A1)
【文献】特開昭64-11300(JP,A)
【文献】特開2008-249852(JP,A)
【文献】特開平3-223796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10H 1/00-7/12
G01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
演奏動作に応じた可動部材の変位を検出する検出システムであって、
第1コイルと容量素子とを含む共振回路が設置された配線基板と、
前記配線基板を前記可動部材に固定するための磁性体の固定部材と、
前記第1コイルに対向し、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルと前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部と
を具備する検出システム。
【請求項2】
演奏動作に応じた可動部材の変位を検出する検出システムであって、
第1コイルと容量素子とを含む共振回路が設置された配線基板と、
前記配線基板を支持する支持体と、
前記支持体を前記可動部材に固定するための磁性体の固定部材と、
前記第1コイルに対向し、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルと前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部と
を具備する検出システム。
【請求項3】
演奏動作に応じた可動部材の変位を検出する検出システムであって、
前記可動部材に設置され、第1コイルと容量素子とを含む共振回路と、
前記第1コイルに対向し、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルと前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部と、
前記信号生成部を支持部材に固定するための磁性体の固定部材と
を具備する検出システム。
【請求項4】
前記第1コイルは、第1部分と第2部分とを含み、
前記第1部分の中心軸と前記第2部分の中心軸とは相互に間隔をあけて平行に延在し、
前記第1部分に流れる電流の方向と前記第2部分に流れる電流の方向とは逆方向である
請求項1から請求項3の何れかの検出システム。
【請求項5】
前記固定部材は、
前記第1部分の中心軸に重なる第1部材と、
前記第2部分の中心軸に重なる第2部材とを含む
請求項4の検出システム。
【請求項6】
演奏動作に応じて変位する可動部材と、
前記可動部材に設置され、第1コイルと容量素子とを含む共振回路が設置された配線基板と、
前記可動部材に固定される磁性体の固定部材と、
前記第1コイルに対向し、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルと前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部と
を具備する鍵盤楽器。
【請求項7】
前記固定部材は、前記配線基板を前記可動部材に固定するための部材である
請求項6の鍵盤楽器。
【請求項8】
前記配線基板を支持する支持体をさらに具備し、
前記固定部材は、前記支持体を前記可動部材に固定するための部材である
請求項6の鍵盤楽器。
【請求項9】
演奏動作に応じて変位する可動部材と、
前記可動部材に設置され、第1コイルと容量素子とを含む共振回路と、
前記第1コイルに対向し、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルと前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部と、
前記信号生成部に設置された磁性体の固定部材と
を具備する鍵盤楽器。
【請求項10】
前記固定部材は、前記信号生成部を支持部材に固定するための部材である
請求項9の鍵盤楽器。
【請求項11】
前記可動部材は、鍵である
請求項6から請求項10の何れかの鍵盤楽器。
【請求項12】
前記可動部材は、鍵に連動して変位する部材である
請求項6から請求項10の何れかの鍵盤楽器。
【請求項13】
前記検出信号に応じた音を生成する音生成部
をさらに具備する請求項11または請求項12の鍵盤楽器。
【請求項14】
前記可動部材は、ペダルである
請求項6から請求項10の何れかの鍵盤楽器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、可動部材の移動を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば鍵盤楽器における鍵等の可動部材の変位を検出するための各種の技術が従来から提案されている。特許文献1には、固定部材に設置された励磁コイルおよび位置検出コイルと、固定部材に対して移動する可動部材に設置された被励磁コイルとを利用して、可動部材の変位を検出する構成が開示されている。励磁コイルと位置検出コイルと被励磁コイルとの各々は、可動部材が移動する方向に平行な環状に形成される。以上の構成において、周期信号の供給により励磁コイルに磁界を発生させることで、被励磁コイルに電磁誘導による磁界が発生する。被励磁コイルの磁界に応じて位置検出コイルに発生する誘導電圧が、可動部材の位置を表す検出信号として生成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術において、被励磁コイルに充分な強度の磁界を発生させることは実際には容易ではない。したがって、検出信号のレベルを有効に変化させることができる可動部材の変位の範囲を充分に確保することは困難である。以上の事情を考慮して、本開示のひとつの態様は、検出信号のレベルを有効に変化させることができる可動部材の変位の範囲を容易に確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以上の課題を解決するために、本開示のひとつの態様に係る検出システムは、演奏動作に応じた可動部材の変位を検出する検出システムであって、第1コイルと容量素子とを含む共振回路が設置された配線基板と、前記配線基板を前記可動部材に固定するための磁性体の固定部材と、前記第1コイルに対向し、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルと前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部とを具備する。
また、本開示の他の態様に係る検出システムは、演奏動作に応じた可動部材の変位を検出する検出システムであって、第1コイルと容量素子とを含む共振回路が設置された配線基板と、前記配線基板を支持する支持体と、前記支持体を前記可動部材に固定するための磁性体の固定部材と、前記第1コイルに対向し、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルと前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部とを具備する。
【0006】
本開示の他の態様に係る検出システムは、演奏動作に応じた可動部材の変位を検出する検出システムであって、前記可動部材に設置され、第1コイルと容量素子とを含む共振回路と、前記第1コイルに対向し、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルと前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部と、前記信号生成部を支持部材に固定するための磁性体の固定部材とを具備する。
【0007】
本開示のひとつの態様に係る鍵盤楽器は、演奏動作に応じて変位する可動部材と、前記可動部材に設置され、第1コイルと容量素子とを含む共振回路が設置された配線基板と、前記可動部材に固定される磁性体の固定部材と、前記第1コイルに対向し、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルと前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部とを具備する。
本開示の他の態様に係る鍵盤楽器は、演奏動作に応じて変位する可動部材と、前記可動部材に設置され、第1コイルと容量素子とを含む共振回路と、前記第1コイルに対向し、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記第1コイルと前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部と、前記信号生成部に設置された磁性体の固定部材とを具備する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態における鍵盤楽器の構成を例示するブロック図である。
【
図2】鍵盤楽器の構成を例示するブロック図である。
【
図5】信号処理回路の構成を例示するブロック図である。
【
図6】被検出部の具体的な構成を例示する平面図である。
【
図8】被検出部の第1コイルに発生する磁界の説明図である。
【
図9】信号生成部の具体的な構成を例示する平面図である。
【
図11】信号生成部の第2コイルに発生する磁界の説明図である。
【
図12】第2実施形態における被検出部の構成を例示する分解斜視図である。
【
図13】第2実施形態における被検出部の平面図である。
【
図14】第2実施形態における被検出部の平面図である。
【
図16】第3実施形態における被検出部の平面図である。
【
図17】第3実施形態における被検出部の平面図である。
【
図18】第4実施形態における被検出部の平面図である。
【
図19】第5実施形態における被検出部の平面図である。
【
図21】変形例における検出システムの構成図である。
【
図22】変形例における検出システムの構成図である。
【
図23】変形例における支持体および固定部材の構成を例示する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A:第1実施形態
図1は、本開示の第1実施形態に係る鍵盤楽器100の構成を例示するブロック図である。鍵盤楽器100は、鍵盤10と検出システム20と情報処理装置30と放音装置40とを具備する電子楽器である。鍵盤10は、複数の白鍵と複数の黒鍵とを含む複数の鍵12で構成される。複数の鍵12の各々は、利用者による演奏動作に応じて変位する可動部材である。検出システム20は、各鍵12の位置を検出する。情報処理装置30は、検出システム20による検出の結果に応じた音響信号Vを生成する。音響信号Vは、利用者が操作した鍵12に対応する音高の楽音を表す信号である。放音装置40は、音響信号Vが表す音響を放音する。例えばスピーカまたはヘッドホンが放音装置40として利用される。
【0010】
図2は、鍵盤10の1個の鍵12に着目して鍵盤楽器100の具体的な構成を例示するブロック図である。鍵盤10の各鍵12は、支点部(バランスピン)13を支点として支持部材14に支持される。支持部材14は、鍵盤楽器100の各要素を支持する構造体(フレーム)である。各鍵12の端部121は、利用者による押鍵および離鍵により鉛直方向に変位する。検出システム20は、複数の鍵12の各々について、鉛直方向における端部121の位置Zに応じたレベルの検出信号Dを生成する。位置Zは、鍵12に荷重が作用しない解放状態における端部121の位置を基準とした当該端部121の変位量で表現される。
【0011】
検出システム20は、被検出部50と信号生成部60と信号処理回路21とを具備する。被検出部50および信号生成部60は、鍵12毎に設置される。信号生成部60は、支持部材14に設置される。被検出部50は、鍵12に設置される。具体的には、被検出部50は、鍵12の底面(以下「設置面」という)122に設置される。被検出部50は第1コイル51を含む。信号生成部60は第2コイル61を含む。第1コイル51と第2コイル61とは、鉛直方向に相互に間隔をあけて対向する。信号生成部60と被検出部50との距離(第1コイル51と第2コイル61との距離)は、鍵12における端部121の位置Zに応じて変化する。
【0012】
図3は、信号生成部60の電気的な構成を例示する回路図である。信号生成部60は、入力端子T1と出力端子T2と第2コイル61と容量素子62と容量素子63とを含む共振回路を具備する。第2コイル61は、入力端子T1と出力端子T2との間に接続される。容量素子62は、入力端子T1と接地線との間に接続され、容量素子63は、出力端子T2と接地線との間に接続される。信号生成部60は、入力端子T1に供給される信号における低域成分を抑圧する低域除去フィルタとして機能する。
【0013】
図4は、被検出部50の電気的な構成を例示する回路図である。被検出部50は、第1コイル51と容量素子52とを含む共振回路を具備する。第1コイル51の両端と容量素子52の両端とが相互に接続される。被検出部50の共振周波数と信号生成部60の共振周波数とは共通する。ただし、被検出部50の共振周波数と信号生成部60の共振周波数とは相違してもよい。
【0014】
図2の信号処理回路21は、第1コイル51と第2コイル61との距離に応じたレベルの検出信号Dを生成する。
図5は、信号処理回路21の具体的な構成を例示するブロック図である。信号処理回路21は、供給回路22と出力回路23とを具備する。供給回路22は、複数の信号生成部60の各々に基準信号Rを供給する。基準信号Rは、周期的にレベルが変動する電流信号または電圧信号である。例えば正弦波等の任意の波形の周期信号が基準信号Rとして利用される。供給回路22は、各信号生成部60に対して基準信号Rを時分割で供給する。具体的には、供給回路22は、複数の信号生成部60の各々を順次に選択し、選択状態の信号生成部60に対して基準信号Rを供給するデマルチプレクサである。すなわち、複数の信号生成部60の各々に対して時分割で基準信号Rが供給される。なお、基準信号Rの周期は、供給回路22が1個の信号生成部60を選択する期間の時間長よりも充分に短い。また、基準信号Rの周波数は、信号生成部60および被検出部50の共振周波数と略同等である。ただし、基準信号Rの周波数と信号生成部60および被検出部50の共振周波数とは相違してもよい。
【0015】
図3に例示される通り、基準信号Rは、信号生成部60の入力端子T1に供給される。基準信号Rに応じた電流が第2コイル61に供給されることで第2コイル61に磁界が発生する。第2コイル61に発生した磁界による電磁誘導で第1コイル51には誘導電流が発生する。したがって、第2コイル61の磁界の変化を相殺する方向の磁界が第1コイル51に発生する。第1コイル51に発生する磁界は、第1コイル51と第2コイル61との距離に応じて変化する。したがって、第1コイル51と第2コイル61との距離に応じた振幅レベルδの検出信号dが信号生成部60の出力端子T2から出力される。検出信号dは、基準信号Rと同じ周期でレベルが変動する周期信号である。
【0016】
図5の出力回路23は、複数の信号生成部60の各々から順次に出力される検出信号dを時間軸上に配列することで検出信号Dを生成する。すなわち、検出信号Dは、各鍵12における第1コイル51と第2コイル61との距離に応じた振幅レベルδの電圧信号である。前述の通り第1コイル51と第2コイル61との距離は各鍵12の位置Zに連動するから、検出信号Dは、複数の鍵12の各々の位置Zに応じた信号と表現される。出力回路23が生成した検出信号Dは、情報処理装置30に供給される。
【0017】
図2の情報処理装置30は、信号処理回路21から供給される検出信号Dを解析することで各鍵12の位置Zを解析する。情報処理装置30は、制御装置31と記憶装置32とA/D変換器33と音源回路34とを具備するコンピュータシステムで実現される。A/D変換器33は、信号処理回路21から供給される検出信号Dをアナログからデジタルに変換する。
【0018】
制御装置31は、鍵盤楽器100の各要素を制御する単数または複数のプロセッサで構成される。例えば、制御装置31は、CPU(Central Processing Unit)、SPU(Sound Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の1種類以上のプロセッサで構成される。
【0019】
記憶装置32は、制御装置31が実行するプログラムと制御装置31が使用するデータとを記憶する単数または複数のメモリである。記憶装置32は、例えば磁気記録媒体または半導体記録媒体等の公知の記録媒体で構成される。なお、複数種の記録媒体の組合せにより記憶装置32を構成してもよい。また、鍵盤楽器100に着脱可能な可搬型の記録媒体、または、鍵盤楽器100が通信可能な外部記録媒体(例えばオンラインストレージ)を、記憶装置32として利用してもよい。
【0020】
制御装置31は、A/D変換器33による変換後の検出信号Dを解析することで各鍵12の位置Zを解析する。また、制御装置31は、各鍵12の位置Zに応じた楽音の発音を音源回路34に対して指示する。音源回路34は、制御装置31から指示された楽音を表す音響信号Vを生成する。すなわち、音源回路34は、検出信号Dの振幅レベルδに応じた音響信号Vを生成する。例えば振幅レベルδに応じて音響信号Vの音量が制御される。音響信号Vが音源回路34から放音装置40に供給されることで、利用者による演奏動作(各鍵12の押鍵または離鍵)に応じた楽音が放音装置40から放音される。なお、記憶装置32に記憶されたプログラムを実行することで制御装置31が音源回路34の機能を実現してもよい。
【0021】
図6は、被検出部50の具体的な構成を例示する平面図である。被検出部50を信号生成部60側からみた平面図が
図6には図示されている。また、
図7は、
図6におけるa-a線の断面図である。
【0022】
第1実施形態の被検出部50は、基材55と配線パターン56とを含む配線基板54で構成される。基材55は、表面F1と表面F2とを含む矩形状の板状部材である。表面F2は、鍵12の設置面122に対向する表面である。表面F1は、表面F2とは反対側の表面である。したがって、表面F1は信号生成部60に対向する。基材55の横幅は1個の鍵12の横幅を下回る。
【0023】
基材55には複数の貫通孔57(57a,57b)が形成される。各貫通孔57は、基材55を貫通する円形状の開口である。配線基板54は、各貫通孔57を貫通する固定部材71(71a,71b)により鍵12の設置面122に固定される。各固定部材71は、設置面122に挿入されるネジである。具体的には、固定部材71aは貫通孔57aに挿入され、固定部材71bは貫通孔57bに挿入される。各固定部材71は、例えば鉄またはフェライト等の磁性材料により形成された磁性体である。
【0024】
配線パターン56は、基材55の表面(表面F1および表面F2)に形成された導電膜である。具体的には、基材55の全面を被覆する導電膜を選択的に除去するパターニングにより、配線パターン56が形成される。被検出部50の第1コイル51は、配線パターン56により構成される。したがって、例えば第1コイル51を導電線の巻回により形成する構成と比較して、第1コイル51の製造および取扱が容易であるという利点がある。
【0025】
第1コイル51は、第1部分511と第2部分512とを含む。第1部分511と第2部分512とは表面F1に形成される。第1部分511と第2部分512とは、表面F1に垂直な方向からの平面視で相異なる領域に形成される。具体的には、第1部分511と第2部分512とは、鍵12の長手方向に沿って相互に隣合う。
【0026】
第1部分511は、貫通孔57aを包囲する形状に形成される。具体的には、第1部分511は、貫通孔57aの周囲に位置する内周側の端部Ea1から外周側の端部Ea2にかけて時計回りに回旋する渦巻状の部分である。固定部材71aは、第1部分511の中心軸に平面視で重なる。すなわち、第1部分511は、平面視で固定部材71aの周囲を包囲する。したがって、固定部材71aは、第1部分511のコアとして機能する。なお、第1部分511は、貫通孔57aに挿入された固定部材71aの頭部に平面視で重ならない。
【0027】
第2部分512は、貫通孔57bを包囲する形状に形成される。具体的には、第2部分512は、貫通孔57bの周囲に位置する内周側の端部Eb1から外周側の端部Eb2にかけて時計回りに回旋する渦巻状の部分である。固定部材71bは、第2部分512の中心軸に平面視で重なる。すなわち、第2部分512は、平面視で固定部材71bの周囲を包囲する。したがって、固定部材71bは、第2部分512のコアとして機能する。なお、第2部分512は、貫通孔57bに挿入された固定部材71bの頭部に平面視で重ならない。
【0028】
配線パターン56は、基材55の表面F2に形成された連結配線514を含む。端部Ea1と端部Eb1とは、連結配線514を介して相互に接続される。また、端部Ea2と端部Eb2との間には、表面F1に実装された容量素子52が介在する。
【0029】
以上の説明から理解される通り、第1部分511に流れる電流の方向と第2部分512に流れる電流の方向とは逆方向である。具体的には、第1部分511に方向Q1の電流が流れる状態においては、方向Q1とは反対の方向Q2の電流が第2部分512には流れる。したがって、
図8に例示される通り、第1部分511と第2部分512とには逆方向の磁界が発生する。すなわち、第1部分511および第2部分512の一方から他方に向かう磁界が形成される。以上の構成によれば、相互に隣合う各鍵12の間にわたる磁界の拡散が低減される。したがって、複数の鍵12の各々の位置Zを高精度に反映した検出信号Dが生成される。
【0030】
以上に説明した通り、第1実施形態においては、磁性体で形成された固定部材71が各鍵12に設置されるから、磁性体が設置されない構成と比較して第1コイル51に発生する磁界が増強される。すなわち、第1コイル51の磁界が第2コイル61の磁界に対して有意に影響する鍵12の変位の範囲が拡張される。したがって、検出信号Dの振幅レベルδを有効に変化させ得る鍵12の変位の範囲(検出ストローク)を確保し易いという利点がある。第1実施形態においては特に、配線基板54を鍵12に固定するための固定部材71が磁性体により形成される。したがって、第1コイル51の磁界を増強するための磁性体とは別個の部材により配線基板54を鍵12に固定する構成と比較して、検出システム20の構成が簡素化されるという利点がある。また、固定部材71が配線基板54の貫通孔57に挿入されるから、簡便な構成により配線基板54を鍵12に固定できる。
【0031】
また、第1実施形態においては、固定部材71が第1コイル51の中心軸に重なる。具体的には、固定部材71aが第1部分511の中心軸に重なり、固定部材71bが第2部分512の中心軸に重なる。したがって、固定部材71が第1コイル51から充分に離間した構成と比較して、第1コイル51に発生する磁界が増強されるという効果は顕著である。
【0032】
図9は、信号生成部60の具体的な構成を例示する平面図である。信号生成部60を被検出部50側からみた平面図が
図9には図示されている。また、
図10は、
図9におけるb-b線の断面図である。
【0033】
図9に例示される通り、信号生成部60は、基材65と配線パターン66とを含む配線基板64で構成される。基材65は、複数の鍵12にわたり連続する長尺状の板状部材である。基材65は、表面F3と表面F4とを含む板状部材である。表面F4は、支持部材14に対向する。表面F3は、表面F4とは反対側の表面である。したがって、表面F3は被検出部50に対向する。
【0034】
配線パターン66は、基材65の表面(表面F3および表面F4)に形成された導電膜である。具体的には、基材65の全面を被覆する導電膜を選択的に除去するパターニングにより、配線パターン66が形成される。信号生成部60の第2コイル61は、配線パターン66により構成される。したがって、例えば第2コイル61を導電線の巻回により形成する構成と比較して、第2コイル61の製造および取扱が容易であるという利点がある。
【0035】
第2コイル61は、第3部分611と第4部分612とを含む。第3部分611と第4部分612とは表面F3に形成される。第3部分611と第4部分612とは、表面F3に垂直な方向からの平面視で相異なる領域に形成される。具体的には、第3部分611と第4部分612とは、鍵12の長手方向に沿って相互に隣合う。
【0036】
第3部分611は、内周側の端部Ec1から外周側の端部Ec2にかけて反時計回りに回旋する渦巻状の部分である。他方、第4部分612は、内周側の端部Ed1から外周側の端部Ed2にかけて反時計回りに回旋する渦巻状の部分である。第2コイル61の中心軸の方向(すなわち表面F3に垂直な方向)における第1コイル51と第2コイル61との距離が、鍵12の位置Zに応じて変化する。
【0037】
配線パターン66は、基材65の表面F4に形成された連結配線614を含む。端部Ec1と端部Ed1とは、連結配線614を介して相互に接続される。また、表面F3には入力端子T1と出力端子T2とが形成される。入力端子T1と第3部分611の端部Ec2との間には容量素子62が接続される。出力端子T2と第4部分612の端部Ed2との間には容量素子63が接続される。容量素子62と容量素子63とを相互に接続する配線は、接地電位に設定される接地点Gに接続される。
【0038】
以上の説明から理解される通り、第3部分611に流れる電流の方向と第4部分612に流れる電流の方向とは逆方向である。具体的には、第3部分611に方向Q3の電流が流れる状態においては、方向Q3とは反対の方向Q4の電流が第4部分612には流れる。したがって、
図11に例示される通り、第3部分611と第4部分612とには逆方向の磁界が発生する。すなわち、第3部分611および第4部分612の一方から他方に向かう磁界が形成される。以上の構成によれば、相互に隣合う各鍵12の間にわたる磁界の拡散が低減される。したがって、複数の鍵12の各々の位置Zを高精度に反映した検出信号Dを生成できる。
【0039】
また、第1実施形態においては、第2コイル61の中心軸の方向における第1コイル51と第2コイル61との距離が、鍵12の変位に応じて変化する。したがって、例えば第2コイル61の中心軸に垂直な面内において第1コイル51と第2コイル61とが相対的に移動する構成と比較して、鍵12の変位に対して検出信号Dのレベルを大きく変化させることが可能である。
【0040】
B:第2実施形態
第2実施形態を以下に説明する。なお、以下に例示する各構成において機能が第1実施形態と同様である要素については、第1実施形態の説明で使用した符号を流用して各々の詳細な説明を適宜に省略する。
【0041】
図12は、第2実施形態における被検出部50の構成を例示する斜視図である。第1実施形態においては、被検出部50を構成する配線基板54を固定部材71により設置面122に直接的に固定した。第2実施形態の被検出部50は、配線基板54と支持体80とを具備する。支持体80は、鍵12の設置面122に固定される。配線基板54は支持体80に支持される。
【0042】
図13は、配線基板54が支持体80から取り外された状態を例示する平面図である。
図14は、配線基板54が支持体80に支持された状態を例示する平面図である。また、
図15は、
図14におけるc-c線の断面図である。
【0043】
図12から
図14に例示される通り、支持体80は、配線基板54を支持する扁平な箱状の構造体である。支持体80の材料および製造方法は任意であるが、例えば樹脂材料の射出成形により支持体80が形成される。具体的には、支持体80は、底面部81と側壁部82aおよび側壁部82bと後壁部83とを具備する。
【0044】
底面部81は、保持面Faと取付面Fbとを含む平板状の部分である。底面部81は、配線基板54の外形に対応する矩形状に形成される。取付面Fbは、設置面122に対向する表面であり、保持面Faは、取付面Fbとは反対側の表面である。側壁部82aと側壁部82bと後壁部83とは、底面部81の周縁に沿って保持面Faから突出する壁状の部分である。側壁部82aと側壁部82bとは相互に対向し、後壁部83は側壁部82aと側壁部82bとにわたり延在する。底面部81の保持面Faを底面として側壁部82aと側壁部82bと後壁部83とにより三方を包囲された空間に配線基板54が収容される。
図15に例示される通り、配線基板54が支持体80に収容された状態では、表面F2が保持面Faに対向する。
【0045】
側壁部82aおよび側壁部82bの各々には複数の突起部84が形成される。各突起部84は、側壁部82aまたは側壁部82bの内壁面から突出する部分である。各突起部84は、配線基板54(基材55)の板厚を僅かに上回る間隔をあけて底面部81の保持面Faに対向する。
図15に例示される通り、各突起部84と保持面Faとの間に配線基板54が保持される。
【0046】
底面部81において後壁部83とは反対側の周縁には保持突起85が形成される。保持突起85は、保持面Faから突出する部分である。配線基板54は、側壁部82aと側壁部82bとの間の開口から挿入され、後壁部83の内壁面に配線基板54の一方の端面が到達するまで移動される。配線基板54の一方の端面が後壁部83の内壁面に当接した状態では、配線基板54の他方の端面に保持突起85が対向する。すなわち、配線基板54は、保持突起85と後壁部83との間に保持される。以上の説明から理解される通り、保持突起85は、配線基板54の端面に引掛かることで当該配線基板54を保持する爪状の部分である。配線基板54は支持体80に対して着脱可能である。したがって、配線基板54が直接的に設置面122に固定される構成と比較して、配線基板54の交換が容易であるという利点がある。
【0047】
支持体80の底面部81には複数の貫通孔87(87a,87b)が形成される。各貫通孔87は、底面部81を貫通する円形状の開口である。
図15に例示される通り、支持体80は、各貫通孔87を貫通する固定部材71(71a,71b)により鍵12の設置面122に固定される。各固定部材71は、設置面122に挿入されるネジである。具体的には、固定部材71aは貫通孔87aに挿入され、固定部材71bは貫通孔87bに挿入される。各固定部材71は、第1実施形態と同様に、例えば鉄またはフェライト等の磁性材料により形成された磁性体である。各固定部材71が貫通孔87に挿入された状態では、当該固定部材71の頂面と底面部81の保持面Faとが略同一面内に位置する。
【0048】
第1実施形態と同様に、第2実施形態の配線基板54には第1コイル51が形成される。ただし、第2実施形態の配線基板54には貫通孔57が形成されない。したがって、第2実施形態においては、配線基板54に貫通孔57が形成される第1実施形態と比較して、第1コイル51が形成される領域の面積を確保し易い。すなわち、第1コイル51の配線幅および巻数を容易に確保できる。
【0049】
第1コイル51は、第1実施形態と同様に、第1部分511と第2部分512とを含む。
図14に例示される通り、貫通孔87aに挿入された固定部材71aは、第1コイル51における第1部分511の中心軸に平面視で重なる。したがって、固定部材71aは、第1部分511のコアとして機能する。同様に、貫通孔87bに挿入された固定部材71bは、第1コイル51における第2部分512の中心軸に平面視で重なる。したがって、固定部材71bは、第2部分512のコアとして機能する。
【0050】
第2実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。また、第2実施形態においては、配線基板54を支持する支持体80を鍵12に固定するための固定部材71が磁性体により形成される。したがって、第1コイル51の磁界を増強するための磁性体とは別個の部材により支持体80を鍵12に固定する構成と比較して、検出システム20の構成が簡素化されるという利点がある。また、固定部材71が支持体80の貫通孔87に挿入されるから、簡便な構成により支持体80を鍵12に固定できる。
【0051】
C:第3実施形態
第1実施形態および第2実施形態においては、第1コイル51が基材55の表面F1に形成された構成を例示した。第3実施形態においては、第1コイル51が複数の配線パターン56の積層により構成される。
【0052】
図16および
図17は、第3実施形態における配線基板54の構成を例示する平面図である。
図16には、表面F1に形成される配線が図示され、
図17には、表面F2に形成される配線が図示されている。ただし、
図17における表面F2の配線については、表面F1側から透視した外形が便宜的に図示されている。
【0053】
第1コイル51の第1部分511は、第1層La1と第2層La2との積層で構成される。第1層La1は表面F1に形成され、第2層La2は表面F2に形成される。第1層La1は、内周側の端部Ea1から外周側の端部Ea2にかけて回旋する渦巻状の部分である。第2層La2は、内周側の端部Ea3から外周側の端部Ea4にかけて回旋する渦巻状の部分である。端部Ea1と端部Ea3とは、基材55に形成された導通孔を介して相互に接続される。
【0054】
第1コイル51の第2部分512は、第1層Lb1と第2層Lb2との積層で構成される。第1層Lb1は表面F1に形成され、第2層Lb2は表面F2に形成される。第1層Lb1は、内周側の端部Eb1から外周側の端部Eb2にかけて回旋する渦巻状の部分である。第2層Lb2は、内周側の端部Eb3から外周側の端部Eb4にかけて回旋する渦巻状の部分である。端部Eb1と端部Eb3とは、基材55に形成された導通孔を介して相互に接続される。第1層La1の端部Ea2と第1層Lb1の端部Eb2とが容量素子52に接続される構成は、第1実施形態と同様である。
【0055】
表面F1には中継配線516が形成される。中継配線516は、端部e1から端部e2にわたる直線状の配線である。第1部分511における第2層La2の端部Ea4は中継配線516の端部e1に接続され、第2部分512における第2層Lb2の端部Eb4は中継配線516の端部e2に接続される。
【0056】
以上の構成によれば、第1部分511の第1層La1と第2層La2とには同じ方向の電流が流れ、第2部分512の第1層Lb1と第2層Lb2とには同じ方向の電流が流れる。また、第1部分511に流れる電流の方向と第2部分512に流れる電流の方向とは逆方向である。
【0057】
第3実施形態においても第1実施形態と同様の効果が実現される。なお、
図16および
図17においては、貫通孔57が形成される第1実施形態の配線基板54を基礎とした形態を例示したが、貫通孔57が形成されない第2実施形態の配線基板54についても同様の構成が適用される。なお、以上の説明においては、第1コイル51を2層の積層で構成したが、第1コイル51の積層数は3層以上でもよい。
【0058】
D:第4実施形態
図18は、第4実施形態における被検出部50の構成を例示する平面図である。第4実施形態の被検出部50は、第1実施形態と同様に配線基板54により構成される。第1実施形態においては、固定部材71が第1コイル51の中心軸に重なる構成を例示した。第4実施形態においては、固定部材71(71a,71b)が第1コイル51の中心軸に重ならない。固定部材71が磁性体で形成される構成は第1実施形態と同様である。
【0059】
具体的には、貫通孔57aおよび固定部材71aは、第1部分511を挟んで第2部分512とは反対側に位置する。同様に、貫通孔57bおよび固定部材71bは、第2部分512を挟んで第1部分511とは反対側に位置する。すなわち、第1コイル51を挟む各位置に固定部材71aおよび固定部材71bが設置される。
【0060】
第4実施形態においては、磁性体で形成された固定部材71が鍵12に設置されるから、第1実施形態と同様に、磁性体が設置されない構成と比較して第1コイル51に発生する磁界が増強される。したがって、検出信号Dの振幅レベルδを有効に変化させ得る鍵12の変位の範囲(検出ストローク)を確保し易いという利点がある。
【0061】
E:第5実施形態
図19は、第5実施形態における被検出部50の構成を例示する平面図である。
図20は、
図19におけるd-d線の断面図である。第5実施形態においては、設置面122に対する配線基板54の固定に複数の固定部材72(72a,72b)が利用される。
【0062】
固定部材72は、直線状の部材を2箇所で同方向に折曲げた形状の留め具(ステープル)である。具体的には、固定部材72は、第1針部721と第2針部722と連結部723とを含む。第1針部721と第2針部722とは、相互に間隔をあけて平行に延在する。連結部723は、第1針部721の端部と第2針部722の端部とを相互に連結する。固定部材72は、例えば鉄またはフェライト等の磁性材料により形成された磁性体である。
【0063】
基材55には複数の取付孔58(58a1,58a2,58b1および58b2)が形成される。各取付孔58は、基材55を貫通する開口である。取付孔58a1および取付孔58b1は平面視で円形状に形成され、取付孔58a2および取付孔58b2は、基材55の周縁に形成された半円状の切欠である。取付孔58a1および取付孔58a2は、第1部分511を挟んで第2部分512とは反対側に位置する。他方、取付孔58b1および取付孔58b2は、第2部分512を挟んで第1部分511とは反対側に位置する。
【0064】
固定部材72が取付孔58を介して設置面122に打込まれることで配線基板54が設置面122に固定される。具体的には、固定部材72aの第1針部721が取付孔58a1を介して設置面122に打込まれ、かつ、固定部材72aの第2針部722が取付孔58a2を介して設置面122に打込まれる。また、固定部材72bの第1針部721が取付孔58b1を介して設置面122に打込まれ、かつ、固定部材72bの第2針部722が取付孔58b2を介して設置面122に打込まれる。
【0065】
第5実施形態においては、磁性体で形成された固定部材72が鍵12に設置されるから、第1実施形態と同様に、磁性体が設置されない構成と比較して第1コイル51に発生する磁界が増強される。したがって、検出信号Dの振幅レベルδを有効に変化させ得る鍵12の変位の範囲(検出ストローク)を確保し易いという利点がある。
【0066】
第1実施形態(
図6)、第2実施形態(
図14)および第3実施形態(
図16)は、固定部材71が平面視で第1コイル51の内側に位置する形態と表現される。第1コイル51の内側とは、第1コイル51の外周により包囲される閉領域の内側である。他方、第4実施形態(
図18)および第5実施形態(
図19)は、固定部材(71,72)が平面視で第1コイル51の外側に位置する形態と表現される。第1コイル51の外側とは、第1コイル51の外周により包囲される閉領域の外側である。
【0067】
F:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0068】
(1)前述の各形態においては、鍵盤楽器100の鍵12の変位を検出する構成を例示したが、検出システム20により変位が検出される可動部材は鍵12に限定されない。可動部材の具体的な態様を以下に例示する。
【0069】
[態様A]
図21は、鍵盤楽器100の打弦機構91に検出システム20を適用した構成の模式図である。打弦機構91は、アコースティックピアノと同様に、鍵盤10の各鍵12の変位に連動して弦(図示略)を打撃するアクション機構である。具体的には、打弦機構91は、回動により打弦可能なハンマ911と、鍵12の変位に連動してハンマ911を回動させる伝達機構912(例えばウィペン,ジャック,レペティションレバー等)とを、鍵12毎に具備する。以上の構成において、検出システム20は、ハンマ911の変位を検出する。具体的には、被検出部50がハンマ911(例えばハンマシャンク)に設置される。例えば、被検出部50を構成する配線基板54が、磁性体である固定部材71によりハンマ911に固定される。他方、信号生成部60は支持部材913に設置される。支持部材913は、例えば打弦機構91を支持する構造体である。なお、第2実施形態と同様に、支持体80を介して配線基板54をハンマ911に設置してもよい。また、打弦機構91におけるハンマ911以外の部材に被検出部50を設置してもよい。
【0070】
[態様B]
図22は、鍵盤楽器100のペダル機構92に検出システム20を適用した構成の模式図である。ペダル機構92は、利用者が足で操作するペダル921と、ペダル921を支持する支持部材922と、鉛直方向の上方にペダル921を付勢する弾性体923とを具備する。以上の構成において、検出システム20はペダル921の変位を検出する。具体的には、被検出部50がペダル921の底面に設置される。すなわち、被検出部50を構成する配線基板54が、磁性体である固定部材71によりペダル921に固定される。他方、信号生成部60は、被検出部50に対向するように支持部材922に設置される。なお、第2実施形態と同様に、支持体80を介して配線基板54をペダル921に設置してもよい。また、ペダル機構92が利用される楽器は鍵盤楽器100に限定されない。例えば打楽器等の任意の楽器にも同様の構成のペダル機構92が利用される。
【0071】
以上の例示から理解される通り、検出システム20による検出の対象は、演奏動作に応じて変位する可動部材として包括的に表現される。可動部材は、利用者が直接的に操作する鍵12またはペダル921等の演奏操作子のほか、演奏操作子に対する操作に連動して変位するハンマ911等の構造体を含む。ただし、本開示における可動部材は、演奏動作に応じて変位する部材に限定されない。すなわち、可動部材は、変位を発生させる契機に関わらず、変位可能な部材として包括的に表現される。
【0072】
(2)前述の各形態においては、固定部材71としてネジを例示したが、固定部材71の形態は以上の例示に限定されない。例えば釘またはボルト等を固定部材71として利用してもよい。また、
図23に例示する固定部材71(すなわちステープル)を、支持体80の固定に利用してもよい。
図23の固定部材71は、挿入部711と挿入部712と連結部713とを具備する。連結部713は挿入部711と挿入部712とを連結する。挿入部711は、貫通孔87aを介して鍵12の設置面122に挿入される。挿入部712は、貫通孔87bを介して設置面122に挿入される。なお、
図23においては支持体80を固定する構成を例示したが、
図23に例示された固定部材71を利用して配線基板54を直接的に設置面122に固定してもよい。
【0073】
(3)前述の各形態においては、被検出部50を固定するための固定部材71を、第1コイル51の磁界を増強するための磁性体として利用したが、固定部材71とは別個に磁性体を設置してもよい。すなわち、第1コイル51の磁界を増強するための磁性体について、被検出部50を固定する機能は必須ではない。
【0074】
(4)前述の各形態においては、鍵盤楽器100が音源回路34を具備する構成を例示したが、例えば鍵盤楽器100が打弦機構91等の発音機構を具備する構成においては、音源回路34を省略してもよい。検出システム20は、鍵盤楽器100の演奏内容を記録するために利用される。発音機構および音源回路34は、検出システム20による検出の結果に応じて音を生成する音生成部として包括的に表現される。
【0075】
以上の説明から理解される通り、本開示は、音源回路34または発音機構に対して演奏動作に応じた操作信号を出力することで楽音を制御する装置(演奏操作装置)としても特定される。前述の各形態の例示のように音源回路34または発音機構を具備する楽器(鍵盤楽器100)のほか、音源回路34または発音機構を具備しない機器(例えばMIDIコントローラまたは前述のペダル機構92)が、演奏操作装置(instrument playing apparatus)の概念には包含される。すなわち、本開示における演奏操作装置は、演奏者(操作者)が演奏のために操作する装置として包括的に表現される。
【0076】
(5)前述の各形態においては、第1コイル51が第1部分511と第2部分512とを含む構成を例示したが、第1コイル51が2個のコイルで形成される構成は必須ではない。例えば、
図24に例示される通り、第1コイル51を1個のコイル(例えば第1部分511および第2部分512の一方のみ)で形成してもよい。
図24の構成においては、貫通孔57に挿入された固定部材71を平面視で包囲するように第1コイル51が形成される。なお、
図25に例示される通り、配線基板54を固定するための複数の固定部材71を平面視で包囲するように、鍵12の長手方向に沿って長尺な1個の第1コイル51を設置してもよい。また、
図26に例示される通り、第5実施形態の固定部材72を平面視で第1コイル51の内側に設置してもよい。第1コイル51が1個のコイルである構成は、第2実施形態から第4実施形態にも同様に適用される。また、第2コイル61についても同様に、2個のコイル(第3部分611および第4部分612)で形成される構成は必須ではない。
【0077】
(6)前述の各形態においては、第1コイル51と第2コイル61との距離が演奏動作に応じて変化する構成を例示したが、以上の構成に代えて、第1コイル51と第2コイル61とが相互に対向する面積(以下「対向面積」という)が演奏動作に応じて変化する構成も想定される。信号生成部60から出力される検出信号dの振幅レベルδは対向面積に応じて変化する。以上の例示の通り、本開示においては、第1コイル51と第2コイル61との距離または対向面積が演奏動作に応じて変化する構成であればよい。
【0078】
(7)前述の各形態においては、可動部材の一例である鍵12に磁性体(固定部材71)を設置したが、信号生成部60に磁性体を設置してもよい。例えば、信号生成部60(特に基材65)を支持部材14に固定するためのネジ等の固定部材が、磁性体として利用される。信号生成部60に磁性体を設置した構成によれば、第2コイル61に発生する磁界が増強される。したがって、検出信号Dのレベルを有効に変化させ得る鍵12の変位の範囲(検出ストローク)を確保し易い、という前述の各形態と同様の効果が実現される。鍵12に設置される磁性体について前述した構成は、信号生成部60に設置される磁性体にも同様に適用される。
【0079】
なお、鍵12に磁性体を設置する構成に加えて信号生成部60に磁性体を設置してもよいし、鍵12の磁性体に代えて信号生成部60に磁性体を設置してもよい。すなわち、固定部材等の磁性体は、鍵12(可動部材)および信号生成部60の少なくとも一方に設置される。
【0080】
G:付記
以上に例示した形態から、例えば以下の構成が把握される。
【0081】
本開示のひとつの態様(態様1)に係る検出システムは、演奏動作に応じた可動部材の変位を検出する検出システムであって、前記可動部材に設置され、第1コイルを含む被検出部と、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記被検出部と前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部と、前記可動部材および前記信号生成部の少なくとも一方に設置される磁性体とを具備する。以上の構成によれば、第2コイルの磁界による電磁誘導で第1コイルに電流が発生するから、第2コイルの磁界を相殺する方向の磁界が第1コイルに発生する。したがって、被検出部と第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号が信号生成部により生成される。すなわち、可動部材の変位に応じた検出信号が生成される。可動部材および信号生成部の少なくとも一方には磁性体が設置されるから、磁性体が設置されない構成と比較して、第1コイルまたは第2コイルに発生する磁界が増強される。したがって、検出信号のレベルを有効に変化させることができる可動部材の変位の範囲(検出ストローク)を確保し易いという利点がある。
【0082】
態様1の具体例(態様2)において、前記第2コイルの中心軸の方向における前記被検出部と前記第2コイルとの距離が、前記可動部材の変位に応じて変化する。以上の態様によれば、第2コイルの中心軸に垂直な面内において被検出部と第2コイルとが相対的に移動する構成(すなわち、第2コイルの中心軸の方向における被検出部と第2コイルとの距離は変化しない構成)と比較して、可動部材の変位に対して検出信号のレベルを大きく変化させることが可能である。
【0083】
態様1または態様2の具体例(態様3)において、前記被検出部は、前記第1コイルが形成された配線基板を含み、前記磁性体は、前記配線基板を前記可動部材に固定するための固定部材を含む。以上の構成によれば、配線基板を可動部材に固定するための固定部材が磁性体として利用されるから、磁性体とは別個の部材により配線基板を可動部材に固定する構成と比較して、検出システムの構成が簡素化されるという利点がある。
【0084】
態様3の具体例(態様4)において、前記固定部材は、前記配線基板に形成された貫通孔に挿入される。以上の態様では、固定部材が配線基板の貫通孔に挿入されるから、簡便な構成により配線基板を可動部材に固定できる。
【0085】
態様1または態様2の具体例(態様5)において、前記被検出部は、前記第1コイルが形成された配線基板と、前記配線基板を支持する支持体とを含み、前記磁性体は、前記支持体を前記可動部材に固定するための固定部材を含む。以上の構成によれば、配線基板を支持する支持体を可動部材に固定するための固定部材が磁性体として利用されるから、磁性体とは別個の部材により支持体を可動部材に固定する構成と比較して、検出システムの構成が簡素化されるという利点がある。
【0086】
態様5の具体例(態様6)において、前記固定部材は、前記支持体に形成された貫通孔に挿入される。以上の態様では、固定部材が支持体の貫通孔に挿入されるから、簡便な構成により支持体を可動部材に固定できる。
【0087】
態様3から態様6の何れかの具体例(態様7)において、前記第1コイルは、前記配線基板の表面に形成された配線パターンである。以上の態様では、第1コイルを構成する配線パターンが配線基板に形成されるから、第1コイルの製造および取扱が容易であるという利点がある。
【0088】
態様1から態様7の何れかの具体例(態様8)において、前記第1コイルは、第1部分と第2部分とを含み、前記第1部分に流れる電流の方向と前記第2部分に流れる電流の方向とは逆方向である。以上の態様によれば、第1部分と第2部分とに逆方向の磁界が発生するから、第1コイルから周囲に対する磁界の拡散が低減される。したがって、相異なる可動部材に対応する複数の第1コイルが相互に近接する構成において、複数の可動部材の各々の変位を高精度に反映した検出信号を生成できる。
【0089】
態様1から態様8の何れかの具体例(態様9)において、前記第2コイルは、第3部分と第4部分とを含み、前記第3部分に流れる電流の方向と前記第4部分に流れる電流の方向とは逆方向である。以上の態様によれば、第3部分と第4部分とに逆方向の磁界が発生するから、第2コイルから周囲に対する磁界の拡散が低減される。したがって、相異なる可動部材に対応する複数の第2コイルが相互に近接する構成において、複数の可動部材の各々の変位を高精度に反映した検出信号を生成できる。
【0090】
態様1から態様9の何れかの具体例(態様10)において、前記磁性体は、前記第1コイルの中心軸に重なる。以上の態様によれば、磁性体が第1コイルに近接するから、磁性体が第1コイルから充分に離間した構成と比較して、第1コイルに発生する磁界が有効に増強される。
【0091】
態様1から態様9の何れかの具体例(態様11)において、前記磁性体は、前記第1コイルの中心軸の方向にみて(すなわち平面視で)当該第1コイルの外側に位置する。以上の態様によれば、第1コイルの外側に磁性体が位置するから、第1コイルの形状の制限が緩和される。
【0092】
本開示のひとつの態様(態様12)に係る演奏操作装置は、演奏動作に応じて変位する可動部材と、前記可動部材に設置され、第1コイルを含む被検出部と、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記被検出部と前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部と、前記可動部材および前記信号生成部の少なくとも一方に設置される磁性体とを具備する。
【0093】
本開示のひとつの態様(態様13)に係る鍵盤楽器は、演奏動作に応じて変位する鍵と、前記鍵に設置され、第1コイルを含む被検出部と、電流の供給により磁界を発生する第2コイルを含み、前記被検出部と前記第2コイルとの距離に応じたレベルの検出信号を生成する信号生成部と、前記鍵および前記信号生成部の少なくとも一方に設置される磁性体と、前記検出信号に応じた音を生成する音生成部とを具備する。
【符号の説明】
【0094】
100…鍵盤楽器(演奏操作装置)、10…鍵盤、12…鍵、20…検出システム、21…信号処理回路、22…供給回路、23…出力回路、30…情報処理装置、31…制御装置、32…記憶装置、33…A/D変換器、34…音源回路、40…放音装置、50…被検出部、51…第1コイル、511…第1部分、512…第2部分、52…容量素子、54…配線基板、55…基材、56…配線パターン、57(57a,57b)…貫通孔、58(58a1,58a2,58b1,58b2)…取付孔、60…信号生成部、61…第2コイル、62,63…容量素子、64…配線基板、65…基材、66…配線パターン、71(71a,71b),72(72a,72b)…固定部材、80…支持体、81…底面部、82a,82b…側壁部、83…後壁部、84…突起部、85…保持突起、87(87a,87b)…貫通孔、91…打弦機構、911…ハンマ、912…伝達機構、913…支持部材、92…ペダル機構、921…ペダル、922…支持部材、923…弾性体。