(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】水性インクジェットインキ及び印刷物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20240827BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240827BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2023209884
(22)【出願日】2023-12-13
【審査請求日】2024-01-22
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】速水 真由子
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 良介
(72)【発明者】
【氏名】中村 駿介
【審査官】堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-006775(JP,A)
【文献】特開2023-092882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料と、界面活性剤(A)と、水溶性有機溶剤と、バインダー樹脂とを含む、水性インクジェットインキであって、
前記界面活性剤(A)が、下記一般式1で表される化合物(A-1)、及び、HLB値が1~10であるノニオン性界面活性剤(A-2)(ただし、前記化合物(A-1)は除く)を含有し、
前記水溶性有機溶剤が、
2-メチル-2,4-ペンタンジオールを含む、水性インクジェットインキ。
R
1-(O-CH
2-CH
2)
n-OH 一般式1
(一般式1中、R
1は、分岐を有していてもよい炭素数10~25のアルキル基を表す。また、nは20~100の整数である。)
【請求項2】
前記水溶性有機溶剤が、更に、炭素数2~5のジオール類を含む、請求項1に記載の水性インクジェットインキ。
【請求項3】
前記水溶性有機溶剤が、更に、下記一般式2で表される化合物を含む、請求項1に記載の水性インクジェットインキ。
R
2-(O-CH(CH
3)-CH
2)
m-OH 一般式2
(一般式2中、R
2は、分岐を有していてもよい炭素数2~4のアルキル基を表す。また、mは1または2である。)
【請求項4】
前記化合物(A-1)の含有質量と、前記ノニオン性界面活性剤(A-2)の含有質量との比[化合物(A-1):界面活性剤(A-2)]が、1:0.5~1:20である、請求項1~3のいずれかに記載の水性インクジェットインキ。
【請求項5】
前記
2-メチル-2,4-ペンタンジオールの含有質量及び前記化合物(A-1)の含有質量の総和と、前記ノニオン性界面活性剤(A-2)の含有質量との比[(
2-メチル-2,4-ペンタンジオール+化合物(A-1)):界面活性剤(A-2)]が、1:1~14:1である、請求項1~3のいずれかに記載の水性インクジェットインキ。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載の水性インクジェットインキを、印刷基材に印刷してなる印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインキ、及び、当該水性インクジェットインキを用いて製造される印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
小ロット印刷及び印刷コスト低減のニーズの高まりに伴い、製版を必要としない、デジタル印刷方式の普及が急速に進んでいる。
【0003】
上記デジタル印刷方式の一種であるインクジェット印刷方式とは、微細なノズルからインキの液滴を吐出し、印刷基材(本願では、単に「基材」とも称する)に付与することで、当該印刷基材上に画像及び/または文字を印刷する方式である。インクジェット印刷方式は、印刷装置の操作が容易である、印刷時の騒音が小さいといった特徴を有しているため、当該インクジェット印刷方式を採用した印刷装置(インクジェットプリンタ)は、デジタル印刷方式の中でも需要が高い。
【0004】
なお本願では、画像及び/または文字が印刷された印刷基材を「印刷物」と総称する。また上記「画像」には、ベタ画像及び市松模様画像等のシームレス画像も含まれる。
【0005】
インクジェット印刷方式で使用されるインキ(本願では、「インクジェットインキ」と称する)は、その組成によって、溶剤型、水性型、紫外線硬化型等に分類される。一方で近年、ヒト及び環境に対して有害である原料の使用を規制する動きが加速している。それに伴い、これらの原料を使用する溶剤型インクジェットインキ及び紫外線硬化型インクジェットインキではなく、水性型インクジェットインキ(本願では、単に「水性インクジェットインキ」とも称する)を求める声が高まっている。
【0006】
また最近では、インクジェットヘッドの性能の向上もあり、民生用途のみならず、産業印刷用途においても、インクジェット印刷方式の利用拡大が進んでいる。特に、商業印刷市場及び包装(ラベル・パッケージ)印刷市場では、オフセット印刷方式、グラビア印刷方式等の有版印刷方式からの、インクジェット印刷方式への置き換えが、積極的に検討されている。
【0007】
しかしながら従来は、コート紙及びアート紙等の難浸透性基材、ならびに、フィルム等の非浸透性基材に対して水性インクジェットインキを用いて作製したベタ印刷物(印字率100%の印刷物)において、当該水性インクジェットインキが印刷基材上に乗らない箇所が生じる「白抜け」と呼ばれる現象、及び、異なる色を有する水性インクジェットインキ同士が混ざってしまう「混色にじみ(ブリーディング)」と呼ばれる現象が発生し、有版印刷方式と同等の印刷画質を有する印刷物を得ることは難しかった。これは、水性インクジェットインキの主溶媒である水が、特異的に高い表面張力を有するため、上記基材に対する濡れ性、特に、マイクロ秒(μs)オーダーでの濡れ性が悪いことが原因である。
【0008】
一般的に、基材に対する濡れ性の向上のため、疎水性の有機溶剤及び/または界面活性剤を用いることが多い。しかしながら、これらの成分は水に対する溶解性が悪いため、泡が立ちやすくノズル抜けの一因となり得る気泡が発生しやすい。更には、これらの成分がインクジェットヘッドのノズル端面に形成される気液界面に配向することで、当該気液界面を不安定化させ、水性インクジェットインキのメニスカスが不安定化する、といった問題点が存在する。これらの問題点は、特に、印刷開始直後のノズル抜け(ノズルから水性インクジェットインキが吐出されない現象)の発生につながりやすい。また、インクジェットヘッドの構造上、ノズルの直径は数十マイクロメートルと非常に小さい。特に、長時間印刷を休止した場合、水性インクジェットインキ中の液体成分(水、水溶性有機溶剤等)が上記ノズル端面から揮発する一方、フレッシュな水性インクジェットインキがインクジェットヘッドに十分に供給されないことがある。そうなると、ノズル端面近傍に存在する水性インクジェットインキにおいて、固形分の上昇、及び/または、沸点の高い水溶性有機溶剤の存在比率上昇が起こり、固体成分(顔料、樹脂等)の凝集・不溶化等による粘度上昇、そして、当該粘度上昇に伴うノズル抜けが発生し得る。
【0009】
なお本願では、印刷開始直後の吐出安定性を「初発の吐出安定性」と称し、長時間の印刷休止後の吐出安定性を「待機吐出性」とも称する。
【0010】
一方、特に包装印刷市場では、水が付着した印刷物を指等で擦っても、乾燥後のインキ膜が剥がれ落ちないようにする必要がある。すなわち、上記乾燥後のインキ膜にはある程度の耐水性が求められる。水溶性の原料を多く含む水性インクジェットインキにおいて、乾燥後のインキ膜に耐水性を持たせるためには、例えば、質量平均分子量の大きなバインダー樹脂を用いて、乾燥後のインキ膜を強固な連続膜にする必要がある。一方で、バインダー樹脂が一定量以上、印刷前(液体)の水性インクジェットインキ中に含まれると、水性インクジェットインキ中で、上記バインダー樹脂同士、あるいは、当該バインダー樹脂と顔料分散樹脂とが相互作用を起こし、吐出安定性を悪化させる、及び/または、界面活性剤の気液界面への配向を部分的に阻害する、といった問題を起こす恐れがある。
【0011】
このように、包装印刷市場での水性インクジェットインキの使用拡大を図るためには、初発の吐出安定性及び待機吐出性、印刷画質、インキ膜の耐水性という複数の課題が同時に解決される必要がある。しかしながら、これらの課題のすべてが、同時かつ好適に解決できる水性インクジェットインキは、これまでに見出されていない状況にあった。
【0012】
なお本願では、白抜け及び混色にじみのない印刷物を、「印刷画質に優れる印刷物」とも称する。
【0013】
例えば特許文献1には、水不溶性ポリマーと、特定の粘度及び蒸気圧を有するグリコールエーテル系有機溶媒と、シリコーン系界面活性剤を0.005~0.3質量%とを含み、高沸点有機溶媒の含有量を一定量以下とした水性インクが開示されている。特許文献1によれば、上記構成を有する水性インクにより、連続吐出性、及び、記録物(印刷物)における混色にじみの抑制性等に優れるとされている。更に、特許文献1の実施例には、界面活性剤として、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤(「シルフェイスSAG005」)に加え、アセチレンジオール系界面活性剤(「サーフィノール104PG50」)、及び、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エチレンオキサイド構造の付加モル数が12モルである、「エマルゲン120」)を使用した水性インクの例が開示されている(特許文献1の段落番号0090、及び、表4~9参照)。
【0014】
また特許文献2に開示されている画像記録方法で使用されるインクは、特定の構造を有しCLogP値を規定した有機溶剤と、アセチレン系界面活性剤と、HLB値が4~18であるポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤と、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤を含む。特許文献2によれば、上記画像記録方法によって、粒状感及び色間滲み(混色にじみ)がなく、耐擦性に優れた高解像度の印刷物が得られるとされている。また特許文献2の実施例では、上記アセチレン系界面活性剤として、「サーフィノール104」「ダイノール604」「サーフィノールDF110D」が使用されているほか、上記ポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤として、エチレンオキサイド構造の付加モル数が3モル及び6モルである、「エマルゲン103」及び「エマルゲン108」が使用されている。
【0015】
更に特許文献3には、(好ましくはHLB値が8以下である)アセチレン系界面活性剤と、その他非イオン性界面活性剤と、水系媒体とを含み、当該その他非イオン性界面活性剤のHLB値、曇点等を規定した水性インクが開示されている。上記水性インクは、長時間の印刷休止後の印刷であっても、インクジェットヘッドのノズルにおける乾燥及び固化に伴う吐出不良が起きにくく、また、非吸収性または難吸収性の印刷基材に印刷した際に、乾燥ムラに起因した印刷画質の低下が起きにくい、とされている。また特許文献3に具体的に開示されている水性インクでは、界面活性剤として、「サーフィノール420」「サーフィノール104」等のアセチレン系界面活性剤、ならびに、エチレンオキサイド構造の付加モル数が10以下である、ポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル系界面活性剤(「エマルゲン」シリーズ)が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】特開2017-8319号公報
【文献】国際公開第2023/171302号
【文献】国際公開第2020/80121号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、上記特許文献1~3に具体的に開示されている水性インクジェットインキでは、印刷条件等によっては、初発の吐出安定性及び待機吐出性に問題が生じる可能性があるうえ、印刷物の耐水性が悪化する恐れもあることが判明した。これらの具体例で使用されているアセチレンジオール系界面活性剤は、いずれも、上述した疎水性の界面活性剤に相当するため、例えば印刷物における混色にじみの抑制に対しては有効に機能すると考えられる。しかしながら、これらの界面活性剤は、上述したような、気泡が発生しやすい、あるいは、水性インクジェットインキのメニスカスが不安定化する、といった問題点があり、上記水性インクジェットインキでは、これらの問題点の完全解決には至っていない。更に、詳細は後述するが、疎水性の界面活性剤を使用すると、併用する材料等によっては、印刷物の耐水性に悪影響を及ぼす可能性があり、この観点からも、上記特許文献に開示された水性インクジェットインキには改善の余地があるといえる。
【0018】
以上のように、特許文献1~3に記載の技術では、上述した課題の全てを高いレベルで解決するには至っていない状況であった。
そこで、本発明の一実施形態では、難浸透性基材及び非浸透性基材に対する印刷であっても、白抜け及び混色にじみがなく、かつ、耐水性にも優れた印刷物が得られ、更には印刷開始直後及び長時間の印刷休止後の吐出安定性にも優れる、水性インクジェットインキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者らが鋭意検討を行った結果、下記構成を有する水性インクジェットインキによって、上述した課題のすべてが、同時かつ高いレベルで解決できることを見出した。
【0020】
すなわち本発明の一実施形態は、以下[1]~[5]に示す、水性インクジェットインキ、ならびに、以下[6]に示す、上記水性インクジェットインキを用いて製造される印刷物に関する。
[1]顔料と、界面活性剤(A)と、水溶性有機溶剤と、バインダー樹脂とを含む、水性インクジェットインキであって、
前記界面活性剤(A)が、下記一般式1で表される化合物(A-1)、及び、HLB値が1~10であるノニオン性界面活性剤(A-2)(ただし、前記化合物(A-1)は除く)を含有し、
前記水溶性有機溶剤が、ヘキシレングリコールを含む、水性インクジェットインキ。
R1-(O-CH2-CH2)n-OH 一般式1
(一般式1中、R1は、分岐を有していてもよい炭素数10~25のアルキル基を表す。また、nは20~100の整数である。)
[2]前記水溶性有機溶剤が、更に、炭素数2~5のジオール類を含む、[1]に記載の水性インクジェットインキ。
[3]前記水溶性有機溶剤が、更に、下記一般式2で表される化合物を含む、[1]または[2]に記載の水性インクジェットインキ。
R2-(O-CH(CH3)-CH2)m-OH 一般式2
(一般式2中、R2は、分岐を有していてもよい炭素数2~4のアルキル基を表す。また、mは1または2である。)
[4]前記化合物(A-1)の含有質量と、前記ノニオン性界面活性剤(A-2)の含有質量との比[化合物(A-1):界面活性剤(A-2)]が、1:0.5~1:20である、[1]~[3]のいずれかに記載の水性インクジェットインキ。
[5]前記ヘキシレングリコールの含有質量及び前記化合物(A-1)の含有質量の総和と、前記ノニオン性界面活性剤(A-2)の含有質量との比[(ヘキシレングリコール+化合物(A-1)):界面活性剤(A-2)]が、1:1~14:1である、[1]~[4]のいずれかに記載の水性インクジェットインキ。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の水性インクジェットインキを、印刷基材に印刷してなる印刷物。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施形態である水性インクジェットインキは、難浸透性基材及び非浸透性基材に対する印刷であっても、白抜け及び混色にじみがなく、かつ、耐水性にも優れた印刷物が得られ、更には印刷開始直後及び長時間の印刷休止後の吐出安定性にも優れるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、本発明の一実施形態である水性インクジェットインキ(以下では単に「本実施形態の水性インクジェットインキ」とも称する)について説明する。なお本発明は、以下に記載する実施形態に限定されるものではなく、当該本発明の本質的部分を変更しない範囲内で変形実施できる形態を含む。
【0023】
上述した構成を有する本実施形態の水性インクジェットインキは、μsオーダーでの濡れ性に優れ、難浸透性基材及び非浸透性基材に対する印刷であっても、白抜け及び混色にじみのない、印刷画質に優れた印刷物が得られる。また、印刷開始直後であっても、更には長時間の印刷休止後であっても、安定的な吐出が可能である。加えて、上記印刷物は耐水性にも優れる。そのメカニズムの詳細は明確ではないものの、本発明者らは以下のように推測している。ただし本発明は、下記推測によって限定されることはない。
【0024】
上述したように、一般に、水性インクジェットインキは、主成分である水が有する、非常に高い表面張力により、難浸透性基材及び非浸透性基材に対して濡れ広がらず、精細な印刷物の形成が難しい。それに対して、界面活性剤を使用すると、μsオーダーといった短時間で、当該界面活性剤が基材との界面に配向する。その結果、難浸透性基材及び非浸透性基材、特に、ポリプロピレン(PP)フィルム等の、界面自由エネルギーが非常に小さい基材に対しても、良好に濡れ広がらせることが可能であり、印刷画質の向上が見込める。このような効果は、水に対する溶解度が小さい界面活性剤で、特に有効に発現する。一方で、界面活性剤には、泡が立ちやすくノズル抜けの一因となり得る気泡が発生しやすいといった問題点、及び、水に対する溶解性が悪い界面活性剤を使用する場合、インクジェットヘッドのノズル端面に形成される気液界面でも配向が起こることで、水性インクジェットインキのメニスカスが不安定化する恐れがある、といった問題点が存在する。そして、上記気泡は待機吐出性の悪化につながり、上記メニスカスの不安定化は初発の吐出安定性の悪化につながる。
【0025】
また、耐水性に優れた印刷物を作製するためには、質量平均分子量の大きなバインダー樹脂を用い、水に溶解しないような強固な連続膜を形成する必要がある。一方で、このようなバインダー樹脂が、一定量以上、印刷前(液体)の水性インクジェットインキ中に含まれると、上記バインダー樹脂が、水に対する溶解度が小さい界面活性剤の、界面への配向を部分的に阻害するといった問題を起こす恐れがある。界面活性剤の効果を十分に発現させるためには、阻害されてもなお界面に十分配向するように、界面活性剤の添加量を増やすという方法がある。しかしながら、過剰量の界面活性剤は、上記連続膜の形成を阻害するといった問題点も有しており、界面活性剤の添加量を増やすと印刷物の耐水性が悪化してしまう。
【0026】
本実施形態の水性インクジェットインキは、まず、界面活性剤として、好適な範囲のHLB値を有するノニオン系界面活性剤(A-2)と、上記一般式(1)で表される化合物(A-1)とを含む。このうちノニオン性界面活性剤(A-2)が、上述した、水に対する溶解度が小さい界面活性剤に相当し、水性インクジェットインキに、難浸透性基材及び非浸透性基材上での優れた浸透性及び濡れ性を付与することができる。一方、化合物(A-1)は、疎水部分として、好適な炭素数を有するアルキル鎖を有し、一方で、親水部分として、ポリエチレンオキサイド構造を好適な付加モル数で有している。
【0027】
ノニオン性界面活性剤(A-2)を単独で用いた場合、上述したような、気泡の発生、及び、ノズル付近の水性インクジェットインキのメニスカスの不安定化により、ノズル抜けが発生する恐れがある。また、ノニオン性界面活性剤(A-2)は、気液界面への配向の速度は大きい一方で、当該配向の均一性が低い。特に、水性インクジェットインキ中にバインダー樹脂が存在すると、上述した配向の阻害が発生することもあって、当該水性インクジェットインキが印刷基材上で不均一に濡れ広がってしまい、白抜けが発生する恐れもある。
【0028】
それに対して本実施形態の水性インクジェットインキでは、更に化合物(A-1)を使用する。水性インクジェットインキ中では、化合物(A-1)中に存在する、十分な大きさのポリエチレンオキサイド構造が水と親和する一方、アルキル鎖が界面活性剤(A-2)と親和する。その結果、水性インクジェットインキ中で、ノニオン性界面活性剤(A-2)が化合物(A-1)によって安定化する。また、界面への配向速度が抑えられる一方、当該界面に均一に配向することが可能となる。それによって、インクジェットヘッド内に存在する水性インクジェットインキでは、気泡の発生及びメニスカスの不安定化が抑えられ、初発の吐出安定性及び待機吐出性が向上する。また、印刷基材上の水性インクジェットインキにおいて、液体成分が揮発した後であっても、化合物(A-1)を介して、界面活性剤(A-2)及びバインダー樹脂が親和することにより、乾燥後の水性インクジェットインキの皮膜(インキ膜)内において、各々の材料が不均一化するのを抑制し、均一かつ連続的なインキ膜が形成されることで、耐水性に優れた印刷物を得ることが可能になると考えられる。
【0029】
更に、本実施形態の水性インクジェットインキでは、水溶性有機溶剤としてヘキシレングリコールを使用する。ヘキシレングリコール(2-メチル-2,4-ペンタンジオール)は、複数の分岐アルキル基を有しており、他のアルカンジオールと比較して疎水性が強い一方、水に対する溶解性は高く、かつ、1気圧下における沸点も低い、といった特徴を有している。そのため、他のアルカンジオールよりも、界面への配向性が高い。また、上述した水に対する溶解度が小さい界面活性剤(ノニオン性界面活性剤(A-2))との親和性が高い一方で、水に対してもよく溶解しつつ、界面への界面活性剤の配向を促進することができる。その結果、ヘキシレングリコール及び上記化合物(A-1)の存在下であれば、水に対する溶解度が小さい界面活性剤であるノニオン性界面活性剤(A-2)が、水性インクジェットインキ内に均一に存在することができるようになる。また、ヘキシレングリコールによって、ノニオン性界面活性剤(A-2)の界面への配向速度が大きくなると考えられるため、上述した化合物(A-1)の添加による配向速度の低下が補われる形となり、水性インクジェットインキが基材に着弾した際には、ノニオン性界面活性剤(A-2)が短時間で界面に配向する。その結果として、水性インクジェットインキの液滴を十分に濡れ広がらせることができ、白抜け及び混色にじみのない印刷物を得ることが可能となる。
【0030】
以上の結果、ヘキシレングリコール及び上記化合物(A-1)が、ノニオン性界面活性剤(A-2)の安定化及び均一化に寄与することで、泡立ち及びノズル抜けを防止でき、吐出安定性が向上するとともに、優れた印刷画質及び耐水性を有する印刷物を得ることができると考えられる。
【0031】
また、ヘキシレングリコールは、バインダー樹脂もよく溶解することができる。そのため、乾燥時に、基材上に付与された水性インクジェットインキから水が揮発した後であっても、上記バインダー樹脂が十分に広がり、かつ、水性インクジェットインキ内をある程度自由に流動することができると考えられる。結果として、ヘキシレングリコールは、インキ膜の連続膜化を促進することができる。更に、ヘキシレングリコール自体は上記連続膜内に残留することなく、最終的には揮発するため、耐水性の高い印刷物を、低エネルギーで作製することができる。
【0032】
以上のように、上述した課題の全てを、高いレベルで解決するためには、上述した構成を有する水性インクジェットインキが必須不可欠である。
【0033】
なお、上述した特許文献1~3に具体的に開示されている水性インクジェットインキは、上記一般式1で表される化合物(A-1)を含まない(特許文献1~3で使用されているのは、全て、上記一般式1におけるnが20未満である化合物である)うえ、ヘキシレングリコールも使用されていない、という点で本実施形態の水性インクジェットインキと相違する。また特許文献1~3には、上述したメカニズム、すなわち、ヘキシレングリコール及び上記化合物(A-1)が、ノニオン性界面活性剤(A-2)の安定化及び均一化に寄与し、初発の吐出安定性及び待機吐出性、ならびに、印刷物の耐水性の向上が実現できることに関しては、まったく記載されていない。
【0034】
続いて以下に、本発明の一実施形態である水性インクジェットインキを構成する各成分について、詳細に説明する。
【0035】
<界面活性剤(A)>
本実施形態の水性インクジェットインキは、界面活性剤(A)として、一般式1で表される化合物(A-1)、及び、HLB値が1~10であるノニオン性界面活性剤(A-2)を含有する。
【0036】
≪化合物(A-1)≫
上述したように、上記化合物(A-1)がノニオン性界面活性剤(A-2)を安定化させるため、気泡の発生及びメニスカスの不安定化が抑えられ、初発の吐出安定性及び待機吐出性が向上する。また、化合物(A-1)が、界面活性剤(A-2)及びバインダー樹脂と親和する結果、均一かつ連続的なインキ膜となり、印刷物の耐水性が向上する。更に、上記化合物(A-1)及びヘキシレングリコールの存在下であれば、ノニオン性界面活性剤(A-2)が、水性インクジェットインキ内に均一に存在することができるようになり、かつ、当該水性インクジェットインキの液滴が十分に濡れ広がることができるようになるため、白抜け及び混色にじみのない印刷物を得ることが可能となる。
【0037】
ノニオン性界面活性剤(A-2)の安定化、ならびに、界面活性剤(A-2)及びバインダー樹脂との親和が容易となり、初発の吐出安定性及び待機吐出性、ならびに、印刷物の耐水性が向上する、という観点から、一般式1中のnは、20~100の整数であり、25~50の整数であることがより好ましく、25~50の整数であることが特に好ましい。
【0038】
また、上述した一般式1中のnの値に関する観点と同様の観点から、一般式1中のR1で表される基は、分岐を有していてもよい炭素数10~25のアルキル基であり、分岐を有していてもよい12~22のアルキル基であることがより好ましい。また一実施形態において、分岐構造を有する化合物であるヘキシレングリコールとの親和性が向上でき、ノニオン性界面活性剤(A-2)の更なる均一化が実現できることで、白抜け及び混色にじみがなく、耐水性に特段に優れた印刷物が得られるという観点から、一般式1中のR1で表される基は、分岐を有する、炭素数10~22のアルキル基であることが好ましく、分岐を有する、炭素数11~16のアルキル基であることが特に好ましい。
【0039】
上記化合物(A-1)は、従来既知の方法により合成することで得てもよいし、市販品を用いることもできる。化合物(A-1)の市販品の例としては、花王社製のエマルゲンシリーズ、日油社製のノニオンシリーズ、日本エマルジョン社製のエマレックス(EMALEX)シリーズ、日光ケミカルズ社製のニッコール(NIKKOL)シリーズ、三洋化成社製のエマルミンシリーズ及びサンノニックシリーズ、ならびに、青木油脂工業社製のブラウノンシリーズ及びファインサーフシリーズ等が挙げられるが、化合物(A-1)として使用できる市販品はこれらに限定されるものではない。
【0040】
水性インクジェットインキ中の化合物(A-1)の含有量は、0.05~2質量%であることが好ましく、0.1~1質量%であることがより好ましい。含有量が0.05質量%以上であれば、上述した効果を確実に発現させることができ、また、2質量%以下であれば、印刷物の白抜け及び混色にじみの抑制、ならびに、初発の吐出安定性及び待機吐出性の向上が容易となる。
【0041】
≪ノニオン性界面活性剤(A-2)≫
上記界面活性剤(A-2)は、HLB値が1~10である。HLB(Hydrophile-Lipophile Balance)値とは、材料の親水・疎水性を表すパラメータの一つである。HLB値の算出方法として、グリフィン法、デイビス法、川上法等種々の方法が知られているが、本願では、グリフィン法を用いてHLB値の算出を行う。
【0042】
一般にグリフィン法は、非イオン性の材料において用いられる。またグリフィン法では、対象の材料の分子量を用い、下記式3によってHLB値が求められる。なお、HLB値は小さいほど材料の疎水性が高く、大きいほど当該材料の親水性が高いことを表す。
HLB値=20×(親水性部分の分子量の総和)÷(材料の分子量) 式3
【0043】
上記ノニオン性界面活性剤(A-2)は、HLB値が1~10の界面活性剤であり、上記化合物(A-1)に該当するものでなければ特に限定されない。一方で、難浸透性の印刷基材上であっても、白抜け及び混色にじみがなく、初発の吐出安定性にも優れた印刷物が得られるという観点から、上記界面活性剤(A-2)として、アセチレンジオール系界面活性剤、及び/またはシリコン系界面活性剤を含有することが好ましく、初発の吐出安定性及び待機吐出性に特に優れた水性インクジェットインキが得られるという観点から、シリコン系界面活性剤を使用することが最も好ましい。
【0044】
アセチレンジオール系界面活性剤は、界面への配向速度に優れるため、水性インクジェットインキの濡れ性が向上し、白抜け及び混色にじみのない印刷物を得ることが容易となるため、好ましく使用できる。ノニオン性界面活性剤(A-2)としてアセチレンジオール系界面活性剤を使用する場合、HLB値が1~8であることが好ましく、1~4であることがより好ましい。HLB値が1~4であるアセチレンジオール系界面活性剤の具体例として、例えば2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、ヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、4,7-ジプロピル-デカ-5-イン-4,7-ジオール、6,9-ジメチル-テトラデカ-7-イン-6,9-ジオール、3,6-ジイソプロピル-2,7-ジメチルオクタ-4-イン-3,6-ジオール、オクタデカ-9-イン-8,11-ジオール、7,10-ジメチルヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、5,8-ジブチルドデカ-6-イン-5,8-ジオール、4,7-ジイソブチル-2,9-ジメチル-デカ-5-イン-4,7-ジオール、5,14-ジエチル-8,11-ジメチルオクタデカ-9-イン-8,11-ジオール等を挙げることができる。中でも、水性インクジェットインキに、難浸透性の印刷基材上であっても十分な濡れ性を付与することができ、優れた印刷画質を有する印刷物が得られるという観点から、2,5,8,11-テトラメチル-6-ドデシン-5,8-ジオール、ヘキサデカ-8-イン-7,10-ジオール、及び、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールからなる群から選択される1種以上の化合物を用いることが好ましい。なお、上記の化合物は1種のみを用いても良いし、2種以上を併用しても良い。また上記の化合物は、従来既知の方法により合成したものを用いてもよいし、市販品を用いてもよい。
【0045】
アセチレンジオール系界面活性剤の添加量は、水性インクジェットインキ全量中0.1~3質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5~2質量%であり、更に好ましくは0.8~1.5質量%である。
【0046】
一方、シリコン系界面活性剤は、アセチレンジオール系界面活性剤に比べ、界面への配向速度が遅いものの、表面張力を下げる能力が高く、また均一に界面に配向することから、印刷物における混色にじみ、及び、初発の吐出安定性の改善の観点から好ましく使用できる。なお本願では、シリコン系界面活性剤のHLB値もグリフィン法を用いて算出される。
【0047】
ノニオン性界面活性剤(A-2)としてシリコン系界面活性剤を使用する場合、ジェミニ型シリコン系界面活性剤、及び/または、ポリエーテル変性シリコン系界面活性剤(ただしジェミニ型シリコン系界面活性剤であるものを除く)を使用することが好ましい。更に、シリコン系界面活性剤の添加量は、インキ全量中0.1~5質量%であることが好ましく、より好ましくは0.5~3質量%であり、更に好ましくは0.8~2.5質量%である。
【0048】
≪ジェミニ型シリコン系界面活性剤≫
一般に、ジェミニ型界面活性剤は、親水性構造及び疎水性構造を有する界面活性剤が、連結基(スペーサー)または共有結合によって連結した構造を有する。また、ジェミニ型シリコン系界面活性剤の場合、例えば、シロキサン鎖(-[SiR3R4-O]x-で表される疎水性構造。ただし、R3及びR4はそれぞれ任意の有機基であり、xは2以上の整数である。)、及び、親水性構造(例えばポリエーテル鎖)が、以下のような構造を有している。
・シロキサン鎖と親水性構造との結合点が、それぞれ上記シロキサン鎖の途中及び上記親水性構造の途中に存在している構造。
・連結基等を介して複数のシロキサン鎖が結合している(例えば、上記シロキサン鎖の構造式におけるR3及び/またはR4の少なくとも一部が、シロキサン鎖を含む有機基である)構造。
・それぞれが親水性構造を複数有している、複数個のシリコン系界面活性剤において、当該親水性構造の少なくとも一部を共有している構造。
【0049】
ジェミニ型の界面活性剤は、一般的な界面活性剤に対して表面張力低下能に優れる。そのため、ジェミニ型シリコン系界面活性剤を使用することで、一般的なシリコン系界面活性剤よりも優れた表面張力の低下が実現できる。またその結果、ジェミニ型シリコン系界面活性剤を含む水性インクジェットインキの濡れ性を、著しく向上させることができ、上述した白抜け及び混色にじみの改善が容易となる。
【0050】
ジェミニ型シリコン系界面活性剤の市販品の例として、エボニックデグサ社製のTEGO Twin 4000、TEGO Twin 4100、TEGO Twin 4200、信越化学工業社製のKF-6100、KF-6104、KF-6105、KF-6106、KF-6115等が挙げられる。
【0051】
≪ポリエーテル変性シリコン系界面活性剤(ジェミニ型シリコン系界面活性剤を除く)≫
本実施形態の水性インクジェットインキで使用できる、上記ポリエーテル変性シリコン系界面活性剤(ただしジェミニ型シリコン系界面活性剤であるものを除く)として、下記一般式4で表される構造を有する化合物が挙げられる。
【0052】
【0053】
一般式4中、pは0~99の整数であり、qは1~100の整数である。ただし、p+qは1~100の整数である。また、R5はメチル基、または、下記一般式5で示される構造であり、R6は炭素数1~6のアルキル基、または、下記一般式5で示される構造である。ただし、R5がメチル基の場合、pは0である。また、R5及びR6の少なくとも一方は、下記一般式5で示される構造を有する(R5及びR6が、ともに下記一般式5で示される構造を有してもよい)
【0054】
【0055】
一般式5中、rは1~6の整数、sは1~50の整数、tは0~50の整数である。ただし、s+tは1~100の整数である。また、R7は水素原子、炭素数1~6のアルキル基、アクリル基、または、メタクリル基のいずれかである。なお、[ ]内のエチレンオキサイド基及びプロピレンオキサイド基の付加様式は、ブロックでもランダムでもよい。
【0056】
上記一般式4で表されるポリエーテル変性シリコン系界面活性剤は、特に混色にじみの改善の点から、好ましく使用できる。
【0057】
上記一般式4中のR6が一般式5で示される構造であり、かつ、R5が一般式5で示される構造ではないポリエーテル変性シリコン系界面活性剤の市販品の例として、東レ・ダウコーニング社製のBY16-201、SF8427、ビックケミー社製のBYK-331,BYK-333、BYK-UV3500、BYK-3420、エボニックデグサ社製のTEGO Glide 410、TEGO Glide 432、TEGO Glide435、TEGO Glide440、TEGO Glide450、日信化学工業社製のシルフェイスSWP-001、シルフェイスSAG003、シルフェイスSAG005等が挙げられる。
【0058】
また、上記一般式4中のR5が一般式5で示される構造であり、かつ、R6が一般式5で示される構造ではないポリエーテル変性シリコン系界面活性剤の市販品の例として、東レ・ダウコーニング社製のSF8428、 FZ-2162、 8032ADDITIVE、SH3749、FZ-77、L-7001、L-7002、 FZ-2104、 FZ-2110、F-2123、SH8400、 SH3773M, ビックケミー社製のBYK-345、BYK-346、 BYK-347、 BYK-348、BYK-349、エボニックデグサ社製のTEGO Wet 240、TEGO Wet 250、TEGO Wet 260、TEGO Wet 270、TEGO Wet 280、信越化学工業社製のKF-351A、 KF-352A、KF-353、KF-354L、KF355A、 KF-615A、 KF-640、 KF-642、 KF-643等が挙げられる。
【0059】
本実施形態の水性インクジェットインキで用いられる、一般式1で表される化合物(A-1)の含有量と、HLB値が1~10であるノニオン性界面活性剤(A-2)の含有量との比(化合物(A-1):界面活性剤(A-2))は、質量比で、1:0.5~1:20であることが好ましい。上記比は、より好ましくは1:1.5~1:15であり、更に好ましくは1:2~1:10である。上述した好適な比率で配合することで、化合物(A-1)によってノニオン性界面活性剤(A-2)を十分に安定化させることができ、印刷物の白抜けや混色にじみを抑えたまま、耐水性にも優れた印刷物を得ることができる。
【0060】
また、ノニオン性界面活性剤(A-2)を、水性インクジェットインキ内で均一化させることができ、かつ、当該水性インクジェットインキの液滴が十分に濡れ広がることができるようになるため、白抜け及び混色にじみのない印刷物を得ることが可能となる、という点から、前記ヘキシレングリコールの含有量及び前記化合物(A-1)の含有量の総和と、前記ノニオン性界面活性剤(A-2)の含有量との比[(ヘキシレングリコール+化合物(A-1)):界面活性剤(A-2)]は、質量比で、1:1~14:1であることが好ましく、2:1~12:1であることがより好ましく、3:1~11:1であることが特に好ましい。
【0061】
<水溶性有機溶剤>
本実施形態の水性インクジェットインキは、水溶性有機溶剤を含む。また上述した通り、当該水溶性有機溶剤として、ヘキシレングリコールを含む。
【0062】
≪ヘキシレングリコール≫
吐出安定性、及び、印刷物の印刷画質がともに良好なものとなる点から、本実施形態の水性インクジェットインキに含まれるヘキシレングリコールの含有量は、当該水性インクジェットインキの全量中、0.1~25質量%であることが好ましく、0.6~18質量%であることがより好ましく、1~10質量%であることが特に好ましい。
【0063】
また、上記ヘキシレングリコールの含有量は、当該水性インクジェットインキに含まれる水溶性有機溶剤の全量中、5~90質量%であることが好ましく、10~60質量%であることが更に好ましく、10~40質量%であることが特に好ましい。水溶性有機溶剤の全量に対する、ヘキシレングリコールの含有量を上記範囲内とすることで、ノニオン性界面活性剤(A-2)の界面での安定化にかかる時間を好適化することができる。その結果、印刷開始直後、及び、高速での連続印刷時における、吐出安定性が良好なものとなると同時に、μsオーダーでの印刷基材への濡れ性が向上することで、印刷画質が向上する。
【0064】
≪炭素数2~5のジオール類≫
本実施形態の水性インクジェットインキは、更に、炭素数2~5のジオール類を含んでもよい。炭素数2~5のジオール類を含むことで、ノニオン性界面活性剤(A-2)の更なる安定化が実現でき、待機吐出性が向上する。また、印刷基材上に付与された水性インクジェットインキが乾燥する際に、ヘキシレングリコールとともにバインダー樹脂を溶解し、当該水性インクジェットインキの粘度上昇を引き起こすことで、混色にじみを抑制することができる。上記炭素数2~5のジオール類として、1,2-エタンジオール(エチレングリコール)、1,2-プロパンジオール(プロピレングリコール)、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール等の、炭素数2~5のアルカンジオール類、ならびに、ジエチレングリコール、ヒドロキシエトキシプロパノール等の、炭素数2~5のポリオキシアルキレンジオール類が使用できる。これらの化合物は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0065】
これらの中でも、長期間の印刷休止後の吐出安定性が良好である点、及び、印刷物における混色にじみが抑制できるという観点から、炭素数2~5のアルカンジオール類を使用することが好ましく、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、及び、1,3-ブタンジオールからなる群から選択される1種以上を使用することが更に好ましい。
一方で、化合物(A-1)との親和性が向上するため、当該化合物(A-1)による、インキ膜内でのノニオン性界面活性剤(A-2)及びバインダー樹脂の均一化を補助することができ、当該インキ膜の均一性及び連続性が向上することで、印刷物の耐水性が良化できるという観点では、隣接する炭素原子同士にそれぞれ水酸基が付加している、炭素数3~5のジオール類であることが好ましい。この観点から、炭素数2~5のジオール類として、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、及び、1,2-ペンタンジオールからなる群から選択される1種以上を使用することが好ましい。
そして、上述した2つの観点をともに満足し、更には、印刷開始直後、及び、連続印刷中であっても吐出安定性が良好であるという点から、1,2-プロパンジオールを使用することが特に好ましい。
【0066】
印刷開始直後、長期間の印刷休止後、及び、連続印刷中、の全ての条件で吐出安定性が良好となる点から、上記炭素数2~5のジオール類の含有量は、水性インクジェットインキの全量中、0.5~30質量%であることが好ましく、2~25質量%であることがより好ましく、6~22質量%であることが特に好ましい。
【0067】
また、印刷基材上に付与された水性インクジェットインキが乾燥する際に、ヘキシレングリコールと炭素数2~5のジオール類とが、ともに、バインダー樹脂の溶解、顔料分散樹脂の軟化、及び、ノニオン性界面活性剤(A-2)の安定化に寄与することで、白抜け及び混色にじみがなく、耐水性にも優れた印刷物が得られ、更には吐出安定性も良好である水性インクジェットインキとなるという観点から、上記ヘキシレングリコールの含有量を1としたときの、炭素数2~5のジオール類の含有量は、1~6であることが好ましく、1.5~5.5であることがより好ましく、2~5であることが特に好ましい。
【0068】
≪特定(ポリ)オキシプロピレンモノアルキルエーテル類≫
本実施形態の水性インクジェットインキは、上記一般式2で表される化合物(本願では「特定(ポリ)オキシプロピレンモノアルキルエーテル類」と称する)を含んでもよい。特定(ポリ)オキシプロピレンモノアルキルエーテル類は、化合物(A-1)と類似した構造を有しており、ノニオン性界面活性剤(A-2)の安定化に寄与できるうえ、当該特定(ポリ)オキシプロピレンモノアルキルエーテル類自身の表面張力が適度に低いため、初発の吐出安定性の向上、及び、印刷物の白抜け防止が容易となる。また、特定(ポリ)オキシプロピレンモノアルキルエーテル類が、当該化合物(A-1)による、インキ膜内でのノニオン性界面活性剤(A-2)及びバインダー樹脂の均一化を補助することができ、当該インキ膜の均一性及び連続性が向上する。更には、特定(ポリ)オキシプロピレンモノアルキルエーテル類がバインダー樹脂の造膜助剤としても機能する。以上から、特定(ポリ)オキシプロピレンモノアルキルエーテル類を使用することで、印刷物の耐水性が特段に向上する。
【0069】
特定(ポリ)オキシプロピレンモノアルキルエーテル類として、例えば、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、プロピレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノ-tert-ブチルエーテルが使用できる。これらの化合物は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0070】
これらの化合物の中でも、化合物(A-1)との親和性が高いうえ、1気圧下における沸点及び表面張力が適度な値を有しているため、印刷開始直後の吐出安定性が向上し、印刷物においては耐水性が向上し白抜けも防止できるという点から、一般式2におけるR2が、分岐を有しない、炭素数2または3のアルキル基である化合物を使用することが好ましい。上記列挙した化合物のうち、これらの要件を満たすものとして、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、及び、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテルが挙げられる。また、ヘキシレングリコールとの親和性も向上することで、インキ膜の均一化及び連続膜化が促進し印刷物の耐水性が特段に向上するとともに、当該印刷物における混色にじみも抑制できるという点から、一般式2におけるR2がn-プロピル基である化合物、すなわち、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、及び/または、ジプロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテルを使用することが特に好ましい。特に、待機吐出性の向上という観点も考慮すれば、特定(ポリ)オキシプロピレンモノアルキルエーテル類として、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテルを使用することが特に好ましい。
【0071】
初発の吐出安定性の向上、ならびに、印刷物における白抜けの防止及び耐水性の向上、の全ての効果を両立させることができる点から、印刷開始直後、長期間の印刷休止後、及び、連続印刷中、の全ての条件で吐出安定性が良好となる点から、上記特定(ポリ)オキシプロピレンモノアルキルエーテル類の含有量は、水性インクジェットインキの全量中、0.2~7質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることが特に好ましい。
【0072】
≪その他水溶性有機溶剤≫
本実施形態の水性インクジェットインキには、上記ヘキシレングリコール、及び、上記炭素数2~5のジオール類以外の水溶性有機溶剤(本願では「その他水溶性有機溶剤」と称する)が含まれてもよい。
【0073】
本実施形態の水性インクジェットインキでは、上記その他水溶性有機溶剤として、炭素数6のアルカンジオール類(ただしヘキシレングリコールを除く);アルカントリオール類(ただし、炭素数が3~6であるもの);ポリオキシアルキレンジオール類(ただし、オキシアルキレン基がオキシエチレン基及び/またはオキシプロピレン基であり、当該オキシアルキレン基の数が2~4であるものであって、炭素数が2~5であるものを除く);(ポリ)オキシアルキレンモノアルキルエーテル類(ただし、オキシアルキレン基がオキシエチレン基、オキシプロピレン基であり、当該オキシアルキレン基の数が1~4であり、末端のアルキル基の炭素数が1~4であるもの(上記特定(ポリ)オキシプロピレンモノアルキルエーテル類に該当する化合物を除く)、または、オキシアルキレン基がオキシブチレン基もしくはオキシペンチレン基であり、当該オキシアルキレン基の数が1であり、末端のアルキル基の炭素数が1~4であるもの);(ポリ)オキシエチレンジアルキルエーテル類(ただし、オキシアルキレン基の数が1~4であり、末端のアルキル基の炭素数がそれぞれ1~4であるもの);ラクタム類(ただし、ラクタム環を構成する原子の数が5~7であるもの。また、当該ラクタム環を構成する窒素原子及び/または炭素原子に、炭素数1~2のアルキル基、炭素数1~2のヒドロキシアルキル基、または、ビニル基が結合していてもよい);アルカノールアミン類(ただし、アミノ基の数が1であり、水酸基の数が1~3であり、炭素数が3~9であるもの);等が使用できる。これらのその他水溶性有機溶剤は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
なお本願において「(ポリ)オキシアルキレン」「(ポリ)オキシプロピレン」とは、それぞれ、「オキシアルキレン及び/またはポリオキシアルキレン」「オキシプロピレン及び/またはポリオキシプロピレン」を表す。
【0074】
本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる水溶性有機溶剤の含有量の総量は、当該水性インクジェットインキの全量中、3~33質量%であることが好ましく、5~30質量%であることがより好ましく、7~30質量%であることが特に好ましい。水溶性有機溶剤の含有量の総量を上記範囲内とすることで、インクジェットインキとして吐出するための適正な粘度を保つことができ、例えば長期間の印刷休止後であっても吐出安定性を良好なものとすることができるうえに、低エネルギーで乾燥可能、かつ、耐水性良好な印刷物となる。
【0075】
また、本実施形態の水性インクジェットインキでは、1気圧下における沸点が220℃以上である水溶性有機溶剤の含有量が、上記水性インクジェットインキの全量中、5質量%以下である(0質量%でもよい)ことが好ましい。沸点が220℃以上である水溶性有機溶剤を含まないか、含むとしてもその配合量を上記範囲内とすることで、例えば高速印刷においても、混色にじみが良好なものとなる。
【0076】
更に、本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる水溶性有機溶剤の含有量の総量中90質量%以上が、25℃における静的表面張力が25~50mN/mである水溶性有機溶剤であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤の含有量の総量中70質量%以上が、25℃における静的表面張力が26~40mN/mである水溶性有機溶剤であることが更に好ましく、水溶性有機溶剤の含有量の総量中90質量%以上が、25℃における静的表面張力が26~40mN/mである水溶性有機溶剤であることが特に好ましい。上記表面張力を有する水溶性有機溶剤を使用することで、インクジェットインキとして吐出するための適正な表面張力を保つことができ、例えば長期間の印刷休止後であっても、吐出安定性を良好なものとすることができる。また、印刷基材上での水性インクジェットインキの均一な濡れ広がりを補助することとなり、白抜けがなく、また耐水性にも優れた印刷物となる。
なお、25℃における水溶性有機溶剤の静的表面張力は、後述する水性インクジェットインキの静的表面張力と同様にして測定できる。
【0077】
<顔料>
本実施形態の水性インクジェットインキは、顔料を含む。
【0078】
上記顔料として、従来既知の有機及び無機顔料を任意に使用することができ、例えば、下記のカラーインデックス名で表される顔料が使用できる。
すなわち、レッド顔料として、C.I.ピグメントレッド52、5、7、9、12、17、22、23、31、48:1、48:2、48:3、48:4、49:1、49:2、57:1、57:2、112、122、123、146、147、149、150、166、168、170、171、175、176、177、178、184、188、202、207、209、254、255、260、264、266、269、282;
バイオレット顔料として、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、32、36、37、42、50;
オレンジ顔料として、C.I.ピグメントオレンジ1、2、3,5、7、13、14、15、16、22、34、36、38、40、43、47、48、49、51、52、53、60、61、62、64、65、66、69、71、73;
ブルー顔料として、C.I.ピグメントブルー15、15:3、15:4、15:6、16、60、64、79;
グリーン顔料として、C.I.ピグメントグリーン7、10、36、48;
イエロー顔料として、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、5、12、13,14、16、17、24、73、74、83、87、93、94、95、97、98、109、110、111、112、120、126、127、128、129、137、138、139、147、150、151、154、155、166、167、168、170、180、185、213;
ブラック顔料として、C.I.ピグメントブラック1、7、11;ならびに、
ホワイト顔料として、C.I.ピグメントホワイト4,5、6、21等である。
これらの顔料は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、上記列挙した顔料の2種以上からなる固溶体を、顔料として使用することもできる。
【0079】
本実施形態の水性インクジェットインキに含まれる顔料の含有量は、当該水性インクジェットインキを用いて作製される印刷物の使用用途によって調整されるが、例えば、水性インクジェットインキの全量中、0.5~30質量%であることが好ましい。また、白色の水性インクジェットインキ(水性ホワイトインキ)の場合以外では、水性インクジェットインキの吐出安定性を悪化させることなく、濃度が高い印刷物が得られる点から、上記顔料の含有量は、1~15質量%であることがより好ましく、1.5~10質量%であることが特に好ましい。一方で水性ホワイトインキの場合は、当該水性ホワイトインキの吐出安定性を悪化させることなく、隠蔽性が高い印刷物が得られる点から、上記顔料の含有量は、5~25質量%であることがより好ましく、10~20質量%であることが特に好ましい。
【0080】
<顔料分散樹脂>
本実施形態の水性インクジェットインキは、顔料分散用途で使用される樹脂(顔料分散樹脂)を含んでもよい。顔料分散樹脂を使用せずに分散された顔料を含む分散体(自己分散顔料の分散体、界面活性剤で分散された顔料の分散体、等)と比較して、顔料分散樹脂を用いて分散された顔料は、分散安定性に優れるため、初発の吐出安定性及び待機吐出性に優れた水性インクジェットインキとなる。また、印刷物の耐水性が向上する観点からも、顔料分散樹脂を選択することが好適である。更に、顔料からの顔料分散樹脂の脱着を抑制することで、遊離した顔料分散樹脂が化合物(A-1)及びノニオン性界面活性剤(A-2)と吸着し、初発の吐出安定性及び待機吐出性、ならびに、印刷物の印刷画質が悪化してしまうことを抑制できる、という観点から、上記顔料分散樹脂は、架橋構造を有するポリマー、及び/または、ブロックポリマーであることが好ましい。
【0081】
顔料分散樹脂の種類は特に限定されず、例えば、アクリル樹脂、スチレン樹脂、(無水)マレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂等が任意に使用できる。これらの樹脂は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。中でも、初発の吐出安定性及び待機吐出性が向上できること、材料選択性が大きいこと、樹脂合成が容易であること、等の点で、アクリル樹脂、(無水)マレイン酸樹脂、及び、ウレタン樹脂からなる群より選択される1種以上を使用することが好ましい。更に、化合物(A-1)との親和性が高く、顔料が水性インクジェットインキ内で不均一化しにくくなるため、インキ膜の均一化及び連続膜化が上記顔料によって阻害されず、印刷物の耐水性が向上する、という点、ならびに、水性インクジェットインキの初発の吐出安定性及び待機吐出性が向上できる、という点から、アクリル樹脂、及び/または、(無水)マレイン酸樹脂が特に好ましく使用できる。
【0082】
本願において「アクリル樹脂」とは、重合性単量体として、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、及び、メタクリル酸エステルからなる群から選択される1種以上を用いた樹脂(更に、スチレン及び/またはスチレン誘導体を用いてもよい)を表す。ただし、重合性単量体として(無水)マレイン酸(「マレイン酸」及び「無水マレイン酸」から選ばれる少なくとも1種)を含む樹脂は、「アクリル樹脂」から除外するものとする。また「(無水)マレイン酸樹脂」とは、重合性単量体として、少なくとも(無水)マレイン酸を用いた樹脂を表す。また(無水)マレイン酸樹脂は、重合性単量体として、更に、α-オレフィン、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、スチレン、及び、スチレン誘導体からなる群から選択される1種以上を用いたものであってもよい。
【0083】
顔料分散樹脂は、既知の方法により合成したものであっても、市販品であってもよい。またその構造についても特に制限はなく、例えばランダム構造、ブロック構造、櫛形構造、星型構造等を有する樹脂が利用できる。更に、顔料分散樹脂として、水溶性樹脂を選択してもよいし、水不溶性樹脂を選択してもよい。
【0084】
なお本願では、25℃の水100gに対する溶解度が1g以上である樹脂を「水溶性樹脂」と称し、当該溶解度が1g未満である樹脂を「水不溶性樹脂」と称する。
【0085】
顔料分散樹脂として水溶性樹脂を用いる場合、その酸価は50~300mgKOH/gであることが好ましく、60~250mgKOH/gであることがより好ましい。特に好ましくは70~160mgKOH/gである。酸価を上記範囲内とすることで、顔料の分散安定性を保つことが可能であり、使用条件によらず、インクジェットヘッドから安定して吐出することができる。また、顔料分散樹脂の水に対する溶解性が確保できるうえ、当該顔料分散樹脂間での相互作用が好適なものとなることで、顔料分散液の粘度を抑えることができ、インクジェットヘッドからの良好な吐出性を発現する点からも好ましい。
【0086】
一方、顔料分散樹脂として水不溶性樹脂を用いる場合、その酸価は0~100mgKOH/gであることが好ましく、5~90mgKOH/gであることがより好ましく、10~80mgKOH/gであることが更に好ましい。酸価が上記範囲内であれば、耐水性に優れる印刷物が得られる。
【0087】
本願における「樹脂の酸価」とは、当該樹脂1g中に含まれる酸基を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)のmg数である。本願では、酸価として、以下方法により算出される値を使用する。例えば、樹脂が、1分子中にva価の酸基をna個有し、分子量がMaである重合性単量体を、当該樹脂を構成する重合性単量体中Wa質量%含む場合、その酸価(mgKOH/g)は、下記式6によって求められる。
【0088】
(酸価)={(va×na×Wa)÷(100×Ma)}×56.11×1000 式6
【0089】
上記式6において、数値「56.11」は、水酸化カリウムの分子量である。
【0090】
本実施形態の水性インクジェットインキでは、顔料に対する吸着能が向上し、当該顔料の分散安定性、及び、水性インクジェットインキの吐出安定性が確保できるという観点から、顔料分散樹脂に芳香族基を導入することが好ましい。なお、芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基、キシリル基、メシチル基、アニシル基などが挙げられるが、これらに限定されない。中でもフェニル基、ナフチル基やトリル基が、分散安定性及び吐出安定性が十分に確保できる面から好ましい。
【0091】
顔料の分散安定性及び吐出安定性、ならびに、印刷物の印刷画質及び乾燥性の向上の観点から、芳香環を含有する単量体の導入量は、顔料分散樹脂を構成する単量体全量に対し5~75質量%であることが好ましく、10~65質量%であることがより好ましく、15~55質量%であることが更により好ましい。
【0092】
<バインダー樹脂>
本実施形態の水性インクジェットインキは、バインダー樹脂を含む。当該バインダー樹脂を含む水性インクジェットインキを、難浸透性基材や非浸透性基材に印刷した後、μsオーダーの速さで粘度が上昇するため、ブリーディングが抑制され印刷画質が向上する。また、水性インクジェットインキの乾燥時には、バインダー樹脂が連続膜を形成することで、印刷物の耐水性が向上する。
【0093】
本実施形態の水性インクジェットインキに含まれるバインダー樹脂は、水溶性樹脂であってもよいし、樹脂微粒子であってもよい。また、水溶性樹脂と樹脂微粒子とを組み合わせて使用してもよい。
【0094】
なお、本願における「樹脂微粒子」とは、上述した水不溶性樹脂のうち、水中で粒子状に分散している樹脂であって、体積基準でのメジアン径(本願では「D50」とも記載する)が、10~1,000nmである樹脂を指す。また、本願におけるD50は、マイクロトラック・ベル社製「ナノトラックUPA-EX150」等の、動的光散乱法粒度分布測定装置を用いて、25℃環境下で測定される値である。
【0095】
バインダー樹脂として水溶性樹脂を使用する場合、当該バインダー樹脂の質量平均分子量は、1,000~25,000であることが好ましく、5,000~20,000であることがより好ましい。上記質量平均分子量を有するバインダー樹脂を使用することで、短い乾燥時間でも強度の強い連続膜となり、耐水性が向上する。
【0096】
本願では、化合物の質量平均分子量として、JIS K 7252に準拠した方法によって測定できる、ポリスチレン換算値を使用する。具体的な測定条件の例を、以下に示す。
・使用装置:東ソー社製「HLC-8320GPC」
・使用カラム:TSKgel(登録商標) SuperMultiporeHZ-M(3本)
・カラム温度:40℃
・展開溶媒:テトラヒドロフラン
・流速:0.6mL/分
・試料溶液濃度:0.1質量%
・試料溶液注入量:10μL
【0097】
また、上記バインダー樹脂の種類として、アクリル樹脂、スチレン樹脂、(無水)マレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル樹脂等が任意に使用できる。これらの樹脂は、1種のみを単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、及び、ポリエステル樹脂からなる群から選択される1種以上を、バインダー樹脂として使用することが好ましい。更に、軟吸収性基材及び非吸収性基材(例えば、後述するPPやPETといったフィルム基材)に対する、密着性と耐擦過性との両立、ならびに、吐出安定性の向上の観点から、バインダー樹脂としてアクリル樹脂を使用することが好ましい。またその場合、上記アクリル樹脂の量は、水性インクジェットインキ中のバインダー樹脂全量に対して50質量%以上であることが特に好ましい。
【0098】
バインダー樹脂のガラス転移温度(Tg)は、50~120℃であることが好ましく、60~110℃であることが更に好ましく、70~100℃であることが特に好ましい。上記ガラス転移温度を有するバインダー樹脂を使用することで、耐熱性が低い印刷基材に対する印刷において、70℃程度の低温で当該印刷基材上の水性インクジェットインキを乾燥させる際であっても、バインダー樹脂がしっかり造膜する及び/またはバインダー樹脂分子鎖同士が絡み合うことで、印刷物の耐擦過性及び耐水性が向上する。更に吐出時には、バインダー樹脂分子鎖同士が絡まりあうことないため、長期静置後であっても、安定した吐出が可能となる。
【0099】
バインダー樹脂のガラス転移温度は、JIS K 7121に準拠した方法によって測定できる。具体的には、あらかじめ質量を測定したアルミニウム製サンプルパンに、対象となるバインダー樹脂のサンプルを約10mg入れ、再度質量を測定したのち、ふたを載せ密閉する。次いで、この試料容器と、バインダー樹脂を入れずに作製したサンプルパンとを、島津製作所社製「DSC-60」(示差走査熱量計)内のホルダーにセットしたのち、10℃/分の昇温条件にて測定を行い、DSCチャートを得る。そして、低温側のベースラインと、当該ベースラインの変曲点における接線との交点を求め、当該交点の温度をガラス転移温度とする。なお、温度校正にはインジウムを使用する。
【0100】
一方で、アクリル樹脂については、下記式7によって算出できる値を、ガラス転移温度として使用することができる。
【0101】
1/Tg = Σ(Wn/Tgn) 式7
【0102】
上記式7において、Tgは樹脂のガラス転移温度(K)を表し、Wnは、上記樹脂を構成する重合性単量体nからなる構造単位の質量分率を表し、Tgnは、当該各重合性単量体nからなるホモポリマーのガラス転移温度(K)を表す。上記Tgnは、例えば「ポリマーハンドブック(第4版)」(Wiley社、1998年)記載の値が使用できる。
【0103】
バインダー樹脂の酸価は0~100mgKOH/gであることが好ましく、0~80mgKOH/gであることがより好ましい。特に好ましくは10~60mgKOH/gである。酸価を上記範囲内とすることで、仮に、インクジェットヘッドのノズル近傍において水性インクジェットインキの一部が乾燥したとしても、当該水性インクジェットインキの大幅な増粘を抑制することができるため、吐出安定性を向上させることが可能となる。
【0104】
本実施形態の水性インクジェットインキに含まれるバインダー樹脂の好適な含有量は、待機吐出性が向上できるとともに、印刷物における混色にじみも防止できる点から、当該水性インクジェットインキの全量中、1~25質量%であることが好ましく、2~20質量%であることがより好ましく、5~18質量%であることが特に好ましい。
【0105】
また、本実施形態の水性インクジェットインキは、当該水性インクジェットインキ100g中に含まれる顔料の含有量(WP[g])に対する、顔料分散樹脂の含有量とバインダー樹脂の含有量との総和([g])の比、すなわち、WR/WPで表される値が、1~4であることが好ましい。WR/WPで表される値を1~4の範囲内とすることで、水性インクジェットインキ乾燥時の連続膜の形成にあたって、不連続点となり得る顔料の量を好適な範囲内に調整することができ、耐水性に優れた印刷物を得ることが可能となる。更に、水性インクジェットインキの吐出安定性が良化する。
【0106】
<ワックス>
本実施形態の水性インクジェットインキは、ワックスを含むことが好ましい。また当該ワックスとして、ポリオレフィン樹脂微粒子を使用することが好ましい。詳細な理由は不明であるが、ポリオレフィン樹脂微粒子は、上述した顔料分散樹脂と併用しても、安定に水性インクジェットインキ中に分散させることが可能である。また、印刷物の耐擦過性及び耐水性を特段に向上できる点からも、好適に選択される。
【0107】
上記ポリオレフィンとして、ポリエチレン、ポリプロピレン、及び、ポリブテンからなる群から選択される1種以上が好適に使用できるが、特にポリエチレンを選択することが、印刷物の耐水性を格段に向上させることができる点から好ましい。
【0108】
ワックスを用いる場合、そのD50は、10~200nmであることが好ましく、20~180nmであることがより好ましい。D50が上記範囲内であれば、上述した機能を好適に発現させることが可能となる。また、インクジェットヘッドノズルでの詰まりを起こすことがなくなるため、特に初発の吐出安定性に優れた水性インクジェットインキが得られる。
【0109】
ワックスを使用する場合、水性インクジェットインキ中に含まれるすべての樹脂(顔料分散樹脂、バインダー樹脂、及び、ワックス)の配合量の総量に対する上記ワックスの配合量は、3~30質量%であることが好ましく、6~20質量%であることが好ましい。上記範囲内に収めることで、それぞれの樹脂の有する機能が互いに阻害されることがない。
また、高速印刷時であっても十分な耐水性を有する印刷物が得られることから、水性インクジェットインキ全量に対する、ワックスの配合量は、0.5~1.5質量%であることが好ましい。
【0110】
<水>
本実施形態の水性インクジェットインキは、水を含む。当該水として、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用することが好ましい。また、水の含有量は、水性インクジェットインキ全量に対し45~85質量%であることが好ましく、50~80質量%であることが特に好ましい。水は沸点が低いため、インクジェットヘッドのノズル端面から優先的に揮発し、気液界面の固形分濃度が高くなりやすい。それに対して、水の含有量を上記範囲内とすることで、印刷開始直後、長期間の印刷休止後、及び、連続印刷中の全ての条件で、吐出安定性が良好なものとなる。
【0111】
<その他成分>
本実施形態の水性インクジェットインキは、上述した成分以外に、pH調整剤、及び、その他添加剤を含んでいてもよい。また、上記その他添加剤の例として、架橋剤、防腐剤、紫外線吸収剤、及び、赤外線吸収剤が挙げられる。これらの成分には、それぞれ、従来既知の化合物を1種、または2種以上使用することができる。
【0112】
<水性インクジェットインキの製造方法>
本実施形態の水性インクジェットインキは、従来既知の方法によって製造することができる。一例を挙げると、あらかじめ、顔料を、少なくとも水を含む媒体(水系媒体)中に分散させた、顔料分散液を製造する。そして、当該顔料分散液に、水、水溶性有機溶剤、化合物(A-1)、ノニオン性界面活性剤(A-2)、バインダー樹脂等を添加し、十分に攪拌及び混合したのち、濾過、遠心分離等の手法によって粗大粒子を除去する、という方法が挙げられる。ただし、本実施形態の水性インクジェットインキの製造方法は、上述した方法に限定されるものではない。
【0113】
<水性インクジェットインキの特性>
本実施形態の水性インクジェットインキは、25℃における粘度が3~15mPa・sであることが好ましい。この粘度領域であれば、吐出周波数が4~10KHz程度であるインクジェットヘッドだけではなく、20~70KHz程度という高い吐出周波数を有するインクジェットヘッドからも、水性インクジェットインキの液滴を安定して吐出することができる。特に、本実施形態の水性インクジェットインキの25℃における粘度が4~10mPa・sである場合は、600dpi以上の設計解像度を有するインクジェットヘッドを使用した場合であっても、安定的に水性インクジェットインキを吐出させることができる。なお本願では、粘度として、東機産業社製「TVE25L型粘度計」等のコーンプレート型回転粘度計(E型粘度計、コーン角度1°34’)を用いて、25℃環境下で測定された値を使用する。
【0114】
また、吐出安定性及び印刷物の印刷画質に優れた水性インクジェットインキを得る点から、本実施形態の水性インクジェットインキの、25℃における静的表面張力が18~35mN/mであることが好ましく、21~32mN/mであることが特に好ましい。なお本願では、静的表面張力として、協和界面科学社製「自動表面張力計CBVP-Z」等の、ウィルヘルミー法(プレート法)を用いて、25℃環境下で測定された値を使用する。
【0115】
<水性インクジェットインキのセット>
本実施形態の水性インクジェットインキは1種のみを単独で使用してもよいが、2種以上の水性インクジェットインキを組み合わせた、水性インクジェットインキのセットとして使用することもできる。当該水性インクジェットインキのセットとして、例えば、シアン色の水性インクジェットインキ(水性シアンインキ)、マゼンタ色の水性インクジェットインキ(水性マゼンタインキ)、イエロー色の水性インクジェットインキ(水性イエローインキ)、及び、ブラック色の水性インクジェットインキ(水性ブラックインキ)からなる、4色の水性インクジェットインキのセット(プロセスカラーインキセット);当該プロセスカラーインキセットに、更に水性ホワイトインキを追加した、5色の水性インクジェットインキのセット;等が挙げられる。なお、水性インクジェットインキのセットを構成するすべての水性インクジェットインキが、上述した本発明の実施形態の要件を満たすことが好ましい。
【0116】
<インキ-前処理液セット>
また、本実施形態の水性インクジェットインキ、及び、上記水性インクジェットインキのセットは、凝集剤を含む前処理液と組み合わせた形態(インキ-前処理液セットの形態)で使用することもできる。凝集剤を含む前処理液を、水性インクジェットインキの印刷前に印刷基材上に付与することで、当該水性インクジェットインキ中に含まれる固体成分を意図的に凝集させる層(インキ凝集層)を形成することができる。そして当該インキ凝集層上に上記水性インクジェットインキを着弾させることで、当該水性インクジェットインキの液滴同士の合一及び混色にじみを防止し、印刷物の印刷画質を著しく向上できる。
【0117】
なお、上記凝集剤として、例えば、多価金属イオンを含む水溶性の無機塩または有機塩、ならびに、カチオン性基を有し、カチオン性基当量がアニオン性基当量よりも大きい樹脂が使用できる。
【0118】
<インクジェット記録方法>
本実施形態の水性インクジェットインキは、上述したインクジェット印刷方式で使用される。すなわち、本実施形態の水性インクジェットインキは、微細なノズルを有するインクジェットヘッドから印刷基材上に吐出される(吐出工程)。また、印刷基材上に吐出された水性インクジェットインキは、乾燥機構によって乾燥されることが好ましい(乾燥工程)。
【0119】
≪吐出工程≫
吐出工程における、インクジェットヘッドの動作方式として、印刷基材の搬送方向と直行する方向にインクジェットヘッドを往復走査させながら、水性インクジェットインキの吐出及び記録を行うシャトル(スキャン)方式、及び、印刷基材を、固定配置したインクジェットヘッドの下部を通過させる際に、水性インクジェットインキの吐出及び記録を行うシングルパス方式が存在する。本実施形態の水性インクジェットインキを搭載したインクジェットヘッドは、シャトル方式及びシングルパス方式のどちらを採用してもよい。中でも、水性インクジェットインキの液滴の着弾位置にずれが生じにくく、印刷物の印刷画質が向上する点、更には高速印刷が可能であり有版印刷代替としての高い生産性が発揮できる点から、シングルパス方式が好適に選択される。
【0120】
インクジェットヘッドからの吐出方式に関しても、既知の方式を任意に選択することができる。当該吐出方式として、例えば、圧電素子(ピエゾ素子)の体積変化を利用するピエゾ方式、ヒーターの加熱により発生する気泡によって水性インクジェットインキを吐出するサーマル方式、ノズルの蓋(バルブ)をソレノイドで開閉しながら、加圧した水性インクジェットインキを吐出するバルブ方式、等がある。
【0121】
インクジェットヘッドから吐出される水性インクジェットインキの液滴量は、乾燥負荷の軽減、印刷画質の向上等の点から、0.5~20ピコリットルであることが好ましく、0.5~15ピコリットルであることが特に好ましい。また、印刷画質の向上の点から、印刷物の記録解像度が600dpi以上となるように、印刷条件(具体的には、インクジェットヘッドの駆動周波数及び設置個数、ならびに、印刷速度)を調整することが好ましく、1200dpi以上となるように印刷条件を調整することが特に好ましい。
【0122】
≪乾燥工程≫
乾燥工程で使用される乾燥機構で採用される乾燥方法として、加熱乾燥法、熱風乾燥法、赤外線(例えば、波長700~2500nmの赤外線)乾燥法、マイクロ波乾燥法、ドラム乾燥法等が挙げられる。
上記乾燥工程では、これらの1つ以上の方法を任意に選択及び使用することができる。また、上記乾燥方法を2種以上採用する際は、それぞれの乾燥方法を別々に(例えば続けて)使用してもよいし、同時に併用してもよい。例えば、加熱乾燥法と熱風乾燥法とを併用することで、それぞれを単独で使用したときよりも素早く、水性インクジェットインキを乾燥させることができる。
【0123】
特に、水性インクジェットインキ中の液体成分の突沸を防止し、印刷画質に優れた印刷物を得る観点から、加熱乾燥法を採用する場合は、乾燥温度を35~100℃とすることが、また熱風乾燥法を採用する場合は、熱風温度を50~250℃とすることが、それぞれ好適である。また同様の観点から、赤外線乾燥法を採用する場合は、照射される赤外線の全出力の積算値の50%以上が、700~2200nmの波長領域に存在することが好ましい。
【0124】
<印刷基材>
本実施形態の水性インクジェットインキが印刷される印刷基材は、特に限定されるものではない。一方で、混色にじみや濃淡のムラが発生しやすく印刷画質が悪くなりやすい、難浸透性基材や非浸透性基材に対しても、また高速印刷であっても、本実施形態の水性インクジェットインキを使用することで、有版印刷と同等の印刷画質を有する印刷物が得られる。
【0125】
本願では、印刷基材の浸透性は、動的走査吸液計によって測定される吸水量によって判断する。具体的には、下記方法によって測定される、接触時間100msecにおける純水の吸水量が、1g/m2未満である印刷基材を「非浸透性基材」、1g/m2以上6g/m2未満である印刷基材を「難浸透性基材」、6g/m2以上である印刷基材を「浸透性基材」とする。
なお、印刷基材の吸水量は、以下に示す条件に設定した動的走査吸液計(例えば、熊谷理機工業社製「KM500win」)を使用し、15~20cm角程度にした印刷基材を試料として、23℃、50%RHの環境下で測定することができる。
・測定方法:螺旋走査(Spiral Method)
・測定開始半径:20mm
・測定終了半径:60mm
・接触時間:10~1,000msec
・サンプリング点数:19(接触時間の平方根に対してほぼ等間隔になるよう測定)
・走査間隔:7mm
・回転テーブルの速度切替角度:86.3度
・ヘッドボックス条件:幅5mm、スリット幅1mm
【0126】
非浸透性基材及び難浸透性基材の例として、ポリ塩化ビニルシート、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリエチレンシート、ナイロンフィルム、ナイロンシート、ポリスチレンフィルム、ポリスチレンシート、ポリビニルアルコールフィルム等のプラスチックフィルム及びシート;コート紙、アート紙、キャスト紙等の塗工紙;アルミニウム、鉄、ステンレス、チタン等の金属;ガラス;等が挙げられる。
【0127】
上記列挙した印刷基材は、その表面が滑らかであっても、凹凸のついたものであってもよい。また、上記印刷基材は、透明、半透明、不透明のいずれであってもよい。更に、上記印刷基材は、ロール状であっても枚葉状であってもよい。加えて、上記列挙した印刷基材の2種以上を互いに貼り合わせたものを、印刷基材として使用してもよい。また、印刷面の反対側に、剥離粘着層等を設けてもよいし、印刷後の印刷面に粘着層等を設けてもよい。
【0128】
本実施形態の水性インクジェットインキの濡れ性を向上し、印刷画質及び乾燥性に優れ、印刷物表面の均一化に伴い耐擦過性及び基材密着性も良好な印刷物が得られる点から、上記列挙した印刷基材の印刷面に対し、コロナ処理及びプラズマ処理といった表面改質を施すことも好適である。
【0129】
<印刷物>
本実施形態の水性インクジェットインキは、印刷物の製造に使用できる。また上記印刷物を製造する方法として、上述したインクジェット記録方法が使用できる。
【実施例】
【0130】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本実施形態の水性インクジェットインキについて、更に具体的に説明する。なお、以下の記載において「部」及び「%」とあるものは、特に断らない限り、それぞれ「質量部」、「質量%」を表す。
【0131】
<アクリル顔料分散樹脂の水性化溶液の製造例>
ガス導入管、温度計、コンデンサー、攪拌機を備えた反応容器に、ブタノールを90部仕込み、当該反応容器内を窒素ガスで置換した。次いで、反応容器内が110℃になるまで加熱したのち、重合性単量体である、アクリル酸30部、ベヘニルアクリレート35部、及び、スチレン35部;ならびに、重合開始剤であるV-601(富士フイルム和光純薬社製)4部の混合物を、上記反応容器内に2時間かけて滴下した。滴下終了後は、内温を110℃に保持したまま3時間重合反応を継続させた。その後、V-601を0.4部添加し、内温を110℃に保持したまま1時間重合反応を続けることで、アクリル顔料分散樹脂の溶液を得た。
次いで、反応容器内の内容物を常温まで冷却したのち、ジメチルアミノエタノールを38部添加し、アクリル顔料分散樹脂を中和したのち、更に、イオン交換水を100部添加した。その後、内容物を100℃以上に加熱し、ブタノールをイオン交換水とを共沸させて当該ブタノールを留去したのち、イオン交換水を加えて固形分濃度が20%になるように調整することでアクリル顔料分散樹脂の水性化溶液を得た。なお、得られたアクリル顔料分散樹脂の分子量は16,000、酸価は234mgKOH/gであった。
【0132】
<マゼンタ顔料分散液の製造例>
混合容器内に、顔料であるFASTOGEN SUPER MAGENTA RTS(DIC社製C.I.ピグメントレッド122)を20部、アクリル顔料分散樹脂の水性化溶液を25部、及び、水を55部、仕込み、攪拌機で予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1,800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて本分散を行い、顔料濃度が15%であるマゼンタ顔料分散液を得た。
【0133】
<イエロー顔料分散液の製造例>
顔料としてLysopac Yellow 5515C(バイブランツ社製C.I.ピグメントイエロー155)を使用した以外は、上記マゼンタ顔料分散液と同様の原料及び方法により、顔料濃度が15%であるイエロー顔料分散液を得た。
【0134】
<アクリルバインダー樹脂1~2の水性化溶液の製造例>
特開2018-203802号公報の定着樹脂1の製造例を追試することにより、アクリルバインダー樹脂1の水性化溶液を製造した。ただし、トルエンを留去した後の、水による固形分濃度の調整度合いを変更し、上記アクリルバインダー樹脂1の水性化溶液の固形分濃度が35%になるようにした。なお、樹脂1の酸価は49mgKOH/g、ガラス転移温度は81℃であった。
また、上記特開2018-203802号公報の、定着樹脂34の製造例を追試するとともに、固形分濃度が35%になるようにした以外は、上記アクリルバインダー樹脂1と同様にして、アクリルバインダー樹脂2の水性化溶液(固形分濃度35%)を製造した。アクリルバインダー樹脂2の酸価は49mgKOH/g、ガラス転移温度は42℃であった。
【0135】
<水性インクジェットインキのセットの製造>
上述した方法で製造した顔料分散液を使用し、下表1の各列に記載した配合処方になるように、攪拌機を備えた混合容器中に、各原料を投入した。また全ての材料を投入した後、混合物を攪拌しながら50℃になるまで加熱し、当該混合物の温度を50℃に維持しながら、更に1時間攪拌混合した。その後、孔径0.8μmのメンブレンフィルターで濾過を行うことで、水性インクジェットインキを製造した。なお、上記マゼンタ顔料分散液及びイエロー顔料分散液のそれぞれで水性インクジェットインキを製造することにより、それぞれ、水性マゼンタインキ(M)及び水性イエローインキ(Y)からなる水性インクジェットインキのセットを製造した。
【0136】
水性インクジェットインキの製造にあたっては、混合容器内の混合物を攪拌しながら、各原料を投入するようにした。またそれぞれ、表1の各列において、上の行に記載されている成分から順番に投入した。ただし、これらの成分の1種以上を含まない水性インクジェットインキを製造する場合は、当該成分を投入せずに、順番に従い次の成分を投入した。また、2種類以上の原料を含む成分に関しては、当該成分内での投入順序は任意とした。
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
上表1に記載された略称の意味及び商品名の詳細は、以下に示す通りである。また表1中、「bp」は沸点を表し、「Nv」は固形分濃度を表し、「HLB」はHLB値を表す。また、表1に示した沸点は、1気圧下における値である。
・ヘキシレングリコール:1気圧下における沸点196℃、25℃における表面張力27mN/m
・1,2-PD:1,2-プロパンジオール(1気圧下における沸点:188℃、25℃における表面張力:37mN/m)
・1,5-PeD:1,5-ペンタンジオール(1気圧下における沸点:239℃、25℃における表面張力:42mN/m)
・PnP:プロピレングリコールモノプロピルエーテル(1気圧下における沸点:150℃、25℃における表面張力:26mN/m)
・DPnP:ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(1気圧下における沸点:212℃、25℃における表面張力:26mN/m)
・DPnB:ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(1気圧下における沸点:230℃、25℃における表面張力:24mN/m)
・iPDG:ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(1気圧下における沸点:207℃、25℃における表面張力:30mN/m)
・グリセリン:1気圧下における沸点290℃、25℃における表面張力65mN/m
・ノニオンK-220:一般式(1)においてR1が炭素数12のアルキル基、n=20である化合物(日油社製の界面活性剤、固形分100%)
・ノニオンK-230:一般式(1)においてR1が炭素数12のアルキル基、n=30である化合物(日油社製の界面活性剤、固形分100%)
・エマルゲン1150S-60:一般式(1)においてR1が炭素数11のアルキル基、n=50である化合物(花王社製の界面活性剤、固形分60%)
・ブラウノンBE-30:一般式(1)においてR1が炭素数22のアルキル基、n=30である化合物(青木油脂工業社製の界面活性剤、固形分100%)
・ノニオンK-2100:一般式(1)においてR1が炭素数12のアルキル基、n=100である化合物(日油社製の界面活性剤、固形分50%)
・サーフィノール104:エボニックジャパン社製アセチレンジオール系界面活性剤、HLB値=3.0
・サーフィノール440:エボニックジャパン社製アセチレンジオール系界面活性剤、HLB値=8.1
・TEGO Twin 4100:エボニックジャパン社製ジェミニ型シリコン系界面活性剤(HLB値=0~2)
・TEGO Wet 280:エボニックジャパン社製シリコン系界面活性剤(上記一般式4中のR5が一般式5で示される構造であり、かつ、R6が一般式5で示される構造ではないポリエーテル変性シリコン系界面活性剤、HLB値=3~5)
・TEGO Glide 440:エボニックジャパン社製シリコン系界面活性剤(上記一般式4中のR6が一般式5で示される構造であり、かつ、R5が一般式5で示される構造ではないポリエーテル変性シリコン系界面活性剤、HLB値=3~5)
サーフィノール465:エボニックジャパン社製アセチレンジオール系界面活性剤、HLB値=13.2
・A-615GE:ペスレジンA-615GE(高松油脂社製ポリエステル樹脂、固形分25%、ガラス転移温度47℃)
・AQ515:AQUACER515、ビックケミー・ジャパン社製ポリエチレンワックスエマルション、固形分35%
・プロキセルGXL:1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オンのジプロピレングリコール-水溶液(1,2-ベンゾイソチアゾール-3-オン:ジプロピレングリコール:水=2:6:2、アーチケミカルズ社製防腐剤。なおジプロピレングリコールは、1気圧下における沸点が232℃、25℃における表面張力が36mN/mである水溶性有機溶剤である。)
【0141】
[実施例1~43、比較例1~7]
上述した方法で製造した水性インクジェットインキのセットを使用し、以下に示す評価を行った。また評価結果は上表1に示した通りであった。
【0142】
<評価1:吐出安定性(初発)の評価>
25℃の環境下に設置した、京セラ社製インクジェットヘッド「KJ4B-1200」(設計解像度1200dpi、ノズル径20μm)を搭載したインクジェット吐出装置に、上記水性インクジェットインキのセットを構成する、水性マゼンタインキまたは水性イエローインキを充填した。次いで、ノズルチェックパターンを印刷し、全てのノズルから正常にインキが吐出されていることを確認してから、1分間放置した。その後、周波数40kHz、1200×1200dpiの印字条件で、OKトップコート紙に、印字率100%のベタ印刷を行った。そして、得られたベタ印刷物について、最初に水性インクジェットインキが印刷されるはずの部分に、当該水性インクジェットインキが付与されているか、ルーペで確認を行うことで、吐出安定性(初発)の評価を行った。評価基準は下記のとおりとし、◎、○を実使用可能とした。なお上記評価は、水性インクジェットインキのセットを構成する水性マゼンタインキ及び水性イエローインキでそれぞれ行った。また表1には、評価を行った、水性マゼンタインキ及び水性イエローインキのうち、評価結果が悪かったものについて、その結果を記載した。
◎:ベタ印刷物において、最初に印刷されるはずの部分に、全く欠けは見られなかった
○:ベタ印刷物において、最初に印刷されるはずの部分に、1cm未満の欠けが見られた
×:ベタ印刷物において、最初に印刷されるはずの部分に、1cm以上の欠けが見られた
【0143】
<評価2:吐出安定性(待機吐出性)の評価>
25℃の環境下に設置した、京セラ社製インクジェットヘッド「KJ4B-1200」(設計解像度1200dpi、ノズル径20μm)を搭載したインクジェット吐出装置に、上記水性インクジェットインキのセットを構成する、水性マゼンタインキまたは水性イエローインキを充填した。充填後、インクジェットヘッドのノズルから、水性マゼンタインキまたは水性イエローインキがにじみ出るまで、当該水性マゼンタインキまたは水性イエローインキを加圧した。次いで、にじみ出た水性インクジェットインキが付着したノズルプレートをワイプしたのち、上記インクジェット吐出装置を1時間待機させた。その後、周波数40kHz、コンベヤ駆動速度50m/分、解像度1200×1200dpiという印刷条件で、OKトップコート紙にベタ画像の印刷を行った。そして、得られたベタ印刷物について、最初に水性インクジェットインキが印刷されるはずの部分に、当該水性インクジェットインキが付与されているか、目視で確認することで、待機吐出性を評価した。評価基準は下記のとおりとし、◎、○、△を実使用可能とした。なお上記評価は、水性インクジェットインキのセットを構成する水性マゼンタインキ及び水性イエローインキでそれぞれ行った。また表1には、評価を行った、水性マゼンタインキ及び水性イエローインキのうち、評価結果が悪かったものについて、その結果を記載した。
◎:1時間待機させた後に印刷したベタ印刷物において、最初に印刷されるはずの部分に欠けは見られなかった
○:1時間待機させた後に印刷したベタ印刷物において、最初に印刷されるはずの部分に、3cm未満の欠けが見られた
△:1時間待機させた後に印刷したベタ印刷物において、最初に印刷されるはずの部分に、3cm以上5cm未満の欠けが見られた
×:1時間待機させた後に印刷したベタ印刷物において、最初に印刷されるはずの部分に、5cm以上の欠けが見られた
【0144】
<マゼンタ/イエローグラデーション印刷物の作製>
京セラ社製インクジェットヘッド「KJ4B-1200」(設計解像度1200dpi、ノズル径20μm)を2個、基材の搬送方向に沿って並べて設置したインクジェット吐出装置を準備し、当該搬送方向の上流側から、水性マゼンタインキ、水性イエローインキの順番で、それぞれの水性インクジェットインキのセットを充填した。また、コンベヤ上に、印刷基材として、A4サイズ(幅21cm×長さ30cm)のOPPフィルム(三井化学東セロ社製「OPU-1」、厚さ20μm)を固定した。その後、コンベヤを50m/分で駆動させ、上記印刷基材がインクジェットヘッドの設置部の下方を通過する際に、上記水性インクジェットインキのセットを、それぞれ、ドロップボリューム2.6pLの条件で吐出し、マゼンタ/イエローグラデーション画像を印刷した。そして印刷後すぐに、70℃に設定した送風定温恒温器内に印刷後の印刷基材を投入し、3分間乾燥させることで、マゼンタ/イエローグラデーション印刷物を作製した。
なお、上記「マゼンタ/イエローグラデーション画像」とは、水性マゼンタインキを用いて印刷された、幅5cm×長さ30cmのマゼンタ色グラデーション画像(印字率を、10~100%の間で、かつ、10%刻みで変化させた画像)、及び、水性イエローインキを用いて印刷された、幅5cm×長さ30cmのイエロー色グラデーション画像が、互いに長辺で接触するように隣り合って配置された画像である。
また、印刷基材としてフタムラ化学社製OPPフィルム(FOR-AQ、厚さ20μm)を使用し、上記と同様の方法によりマゼンタ/イエローグラデーション印刷物を作製した。
【0145】
<評価3:印刷画質(白抜け)の評価>
上述した方法で製造したマゼンタ/イエローグラデーション印刷物を目視で観察した。そして、印字率100%における白抜けの有無を確認することで、当該マゼンタ/イエローグラデーション印刷物の印刷画質を評価した。評価基準は下記のとおりとし、◎、○、○△、△を実使用可能とした。なお、マゼンタ/イエローグラデーション印刷物が印刷された、2種類の印刷基材のそれぞれで、上記評価を行った。
◎:2種類の印刷基材の両方とも、かつ、マゼンタ色グラデーション画像の印刷部及びイエロー色グラデーション画像の印刷部の両方で、白抜けは観察されなかった
○:2種類の印刷基材のうちの片方のみにおいて、マゼンタ色グラデーション画像の印刷部またはイエロー色グラデーション画像の印刷部で、わずかな白抜けが観察された
〇△:2種類の印刷基材のうちの片方のみにおいて、マゼンタ色グラデーション画像の印刷部、及び、イエロー色グラデーション画像の印刷部の両方で、わずかな白抜けが観察された
△:2種類の印刷基材のうちの少なくとも片方において、マゼンタ色グラデーション画像の印刷部、及び、イエロー色グラデーション画像の印刷部の両方で、明らかな白抜けが観察された
×:2種類の印刷基材の両方とも、かつ、マゼンタ色グラデーション画像の印刷部及びイエロー色グラデーション画像の印刷部の両方で、明らかな白抜けが観察された
【0146】
<評価4:印刷画質(混色にじみ)の評価>
上述した方法で製造したマゼンタ/イエローグラデーション印刷物を目視で観察した。そして、マゼンタ色グラデーション画像の印刷部、及び、イエロー色グラデーション画像の印刷部の境界部分において、混色にじみ(ブリーディング)が見られ始めた箇所の印字率を確認することで、当該マゼンタ/イエローグラデーション印刷物の印刷画質を評価した。評価基準は下記のとおりとし、◎、○、○△、△を実使用可能とした。また表1には、評価を行った2種類の基材のうち、評価結果が悪かったものの結果を記載した。
◎:両方の基材とも、印字率80%でも混色にじみは見られなかった
○:少なくとも1種の基材において、印字率80%で混色にじみが見られた
○△:少なくとも1種の基材において、印字率70%で混色にじみが見られた
△:少なくとも1種の基材において、印字率60%で混色にじみが見られた
×:両方の基材とも、印字率60%で混色にじみが見られた
【0147】
<評価5:耐水性の評価>
京セラ社製インクジェットヘッドKJ4B-1200(設計解像度1200dpi、ノズル径20μm)を2個、印刷基材の搬送方向に並べて搭載したインクジェット吐出装置を25℃環境下に設置し、上流側のインクジェットヘッドから、水性マゼンタインキ、及び、水性イエローインキを、この順に充填した。また、コンベヤ上に、フタムラ化学社製OPPフィルム(FOR-AQ、厚さ20μm)を固定した。その後、コンベヤを50m/分で駆動させ、上記印刷基材がインクジェットヘッドの設置部の下方を通過する際に、上記水性インクジェットインキのいずれか片方を、ドロップボリューム2.6pLの条件で吐出し、幅20cm、長さ20cmの大きさの単色ベタ画像(印字率100%)を印刷した。そして印刷後すぐに、70℃に設定した送風定温恒温器内に印刷後の印刷基材を投入し、3分間乾燥させることで、単色ベタ印刷物を作製した。
次いで、得られた単色ベタ印刷物から試験片を切り出し、テスター産業社製AB-301学振型摩擦堅牢度試験機にセットした。そして、イオン交換水で十分に湿らせた試験用添付白綿布(カナキン3号)を摩擦子(自重200g)に取り付け、当該摩擦子に加える荷重を変えて、所定回数学振させたのち、印刷物表面の状態と、綿布の着色程度を目視確認することで、耐擦性を評価した。評価基準は下記の通りとし、◎、○、○△、△を実使用可能とした。なお、上記評価は水性マゼンタインキ及び水性イエローインキのそれぞれで行い、表1には、そのうち、評価結果が悪かったものの結果を記載した。
◎:摩擦子に300gの重りを載せ(計500g)、20回学振させた後でも、印刷面に擦過痕がなく、かつ、綿布への着色も見られなかった
○:摩擦子に300gの重りを載せ(計500g)、10回学振させた後でも、印刷面に擦過痕がなく、かつ、綿布への着色も見られなかったが、同じ荷重条件で20回学振させた後では、印刷面への擦過痕、及び/または、綿布への着色が見られた
○△:摩擦子に300gの重りを載せ(計500g)、5回学振させた後でも、印刷面に擦過痕がなく、かつ、綿布への着色も見られなかったが、同じ荷重条件で10回学振させた後では、印刷面への擦過痕、及び/または、綿布への着色が見られた
△:摩擦子に重りを載せることなく(荷重200g)5回学振させた後では、印刷面に擦過痕がなく、かつ、綿布への着色も見られなかったが、摩擦子に300gの重りを載せ(計500g)、5回学振させた後では、印刷面への擦過痕、及び/または、綿布への着色が見られた
×:摩擦子に重りを載せることなく(荷重200g)5回学振させた後に、印刷面への擦過痕、及び/または、綿布への着色が見られた
【0148】
上記表1に示す通り、本発明の構成を有する実施例1~43の水性インクジェットインキ(のセット)は、比較例1~7の水性インクジェットインキに比べて吐出安定性に優れており、また、べた埋まりが良好で混色も少なかった。更にインキ膜の耐水性も良好であった。この結果から、本発明の構成を有する水性インクジェットインキは、吐出安定性、印刷物の印刷画質及び耐水性を兼ね備えた、優れた水性インクジェットインキであることが確認された。
【要約】
【課題】難浸透性基材及び非浸透性基材に対する印刷であっても、白抜け及び混色にじみがなく、かつ、耐水性にも優れた印刷物が得られ、更には印刷開始直後及び長時間の印刷休止後の吐出安定性にも優れる、水性インクジェットインキを提供する。
【解決手段】顔料と、界面活性剤(A)と、水溶性有機溶剤と、バインダー樹脂とを含む、水性インクジェットインキであって、前記界面活性剤(A)が、特定のアルキル鎖長及びエチレンオキサイド基数を有するポリオキシアルキレンモノアルキルエーテル系化合物(A-1)、及び、HLB値が1~10であるノニオン性界面活性剤(A-2)(ただし、上記化合物(A-1)は除く)を含有し、前記水溶性有機溶剤が、ヘキシレングリコールを含む、水性インクジェットインキ。
【選択図】なし