(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ガスセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/41 20060101AFI20240827BHJP
G01N 27/409 20060101ALI20240827BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G01N27/41 325A
G01N27/409 100
G01N27/41 325Z
G01N27/416 381
(21)【出願番号】P 2023516391
(86)(22)【出願日】2022-03-30
(86)【国際出願番号】 JP2022015790
(87)【国際公開番号】W WO2022224764
(87)【国際公開日】2022-10-27
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2021070519
(32)【優先日】2021-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 朗
(72)【発明者】
【氏名】神谷 康敬
(72)【発明者】
【氏名】神村 直輝
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特表平9-507915(JP,A)
【文献】特開昭62-25251(JP,A)
【文献】特開昭64-35359(JP,A)
【文献】国際公開第2020/246174(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/143610(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0059374(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/41
G01N 27/409
G01N 27/416
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒形状を有し、イオン伝導性を有する固体電解質材料によって構成された固体電解質体(3)、前記固体電解質体の外側に設けられて検出対象ガス(G)に晒される検出電極(4A)、及び前記固体電解質体の内側に設けられて基準ガス(A)に晒される基準電極(4B)を有するセンサ素子(2)を備えるガスセンサ(1)であって、
前記固体電解質体と前記基準電極との間、又は前記基準電極の表面には、多数の気孔(231)を有する多孔質層(23)が設けられて
おり、
前記固体電解質体は、円筒部(31)と、前記円筒部の底側に形成された曲面状の底部(32)とを有しており、
前記底部の内側に設けられた前記多孔質層の部分の厚みは、前記円筒部の内側に設けられた前記多孔質層の部分の厚みよりも大きい、ガスセンサ。
【請求項2】
前記センサ素子内に配置されて、前記センサ素子を加熱するヒータ素子(5)をさらに備え、
前記円筒部の内側に設けられた、前記基準電極の部分及び前記多孔質層の部分は、前記ヒータ素子から離れており、
前記底部の内側に設けられた、前記基準電極の部分又は前記多孔質層の部分は、前記ヒータ素子に接触している、請求項
1に記載のガスセンサ。
【請求項3】
前記多孔質層は、前記固体電解質体と前記基準電極との間に設けられており、かつ、前記固体電解質体を構成する固体電解質材料に比べて気孔率が高い固体電解質材料の粒子によって構成されており、
前記基準電極の表面には、前記多孔質層の表面に形成された凹凸(232)に応じた凹凸(401)が形成されている、請求項1
又は2に記載のガスセンサ。
【請求項4】
前記固体電解質体を構成する固体電解質材料及び前記多孔質層を構成する固体電解質材料は、ジルコニアの一部が希土類金属元素又はアルカリ土類金属元素によって置き換えられた安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアによって構成されており、
前記多孔質層を構成する固体電解質材料における、希土類金属元素又はアルカリ土類金属元素の含有量は、前記固体電解質体を構成する固体電解質材料における、希土類金属元素又はアルカリ土類金属元素の含有量に比べて多い、請求項
3に記載のガスセンサ。
【請求項5】
有底円筒形状を有し、イオン伝導性を有する固体電解質材料によって構成された固体電解質体(3)、前記固体電解質体の外側に設けられて検出対象ガス(G)に晒される検出電極(4A)、及び前記固体電解質体の内側に設けられて基準ガス(A)に晒される基準電極(4B)を有するセンサ素子(2)を備えるガスセンサ(1)であって、
前記固体電解質体と前記基準電極との間、又は前記基準電極の表面には、多数の気孔(231)を有する多孔質層(23)が設けられて
おり、
前記多孔質層は、前記固体電解質体と前記基準電極との間に設けられており、かつ、前記固体電解質体を構成する固体電解質材料に比べて気孔率が高い固体電解質材料の粒子によって構成されており、
前記基準電極の表面には、前記多孔質層の表面に形成された凹凸(232)に応じた凹凸(401)が形成されている、ガスセンサ。
【請求項6】
前記固体電解質体を構成する固体電解質材料及び前記多孔質層を構成する固体電解質材料は、ジルコニアの一部が希土類金属元素又はアルカリ土類金属元素によって置き換えられた安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアによって構成されており、
前記多孔質層を構成する固体電解質材料における、希土類金属元素又はアルカリ土類金属元素の含有量は、前記固体電解質体を構成する固体電解質材料における、希土類金属元素又はアルカリ土類金属元素の含有量に比べて多い、請求項5に記載のガスセンサ。
【請求項7】
前記固体電解質体の開口側部位の内側に装着されて前記基準電極に接続された内側端子(72)をさらに備え、
前記多孔質層は、前記固体電解質体における、前記内側端子の装着部位よりも底側(L1)の部位に形成されている、請求項1
~6のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【請求項8】
前記多孔質層における気孔率は、5%以上40%以下である、請求項1~
7のいずれか1項に記載のガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2021年4月19日に出願された日本の特許出願番号2021-70519号に基づくものであり、その記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、センサ素子を備えるガスセンサに関する。
【背景技術】
【0003】
ガスセンサは、例えば、車両の内燃機関の排気管等に配置され、排気管を流れる排ガスを検出対象ガスとして、検出対象ガスに基づく内燃機関の空燃比等を求めるために使用される。また、ガスセンサは、例えば、内燃機関の空燃比が、理論空燃比に対してリッチ側にあるかリーン側にあるかを検出するために使用される。ガスセンサを構成するセンサ素子には、板状の固体電解質体が用いられる場合と、有底円筒形状の固体電解質体が用いられる場合とがある。
【0004】
有底円筒形状の固体電解質体においては、排ガス等の検出対象ガスに晒される検出電極(測定電極)が外側面に設けられており、大気等の基準ガスに晒される基準電極が内側面に設けられている。検出電極及び基準電極は、酸素に対する触媒活性を有するものである。また、この固体電解質体の外側面には、検出電極を覆う状態で、水、被毒物質等を捕獲する一方、検出対象ガスを透過させる多孔質層が設けられている。
【0005】
また、有底円筒形状の固体電解質体を有するセンサ素子の内側には、センサ素子の底側部位に設けられた検出電極及び基準電極の部分を加熱するためのヒータ素子が配置されている。ヒータ素子は、検出電極及び基準電極に対向する位置に、発熱体における発熱部を有している。
【0006】
例えば、特許文献1に記載されたガスセンサは、先端が閉じられた筒部を有する固体電解質体からなるセンサ素子と、センサ素子の内部に配置され、発熱することによりセンサ素子を加熱するヒータ素子とを備える。そして、センサ素子の活性化に要する時間を短縮するために、ヒータ素子の先端部は、センサ素子の先端部の内面と接触しており、かつヒータ素子の側部は、センサ素子の筒部の内周面と接触している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【0008】
特許文献1のガスセンサにおいては、ヒータ素子の中心軸線をセンサ素子の中心軸線に対して意図的に偏心させて、ヒータ素子の側部をセンサ素子の筒部の内周面に接触させる必要がある。そのため、ガスセンサの組み付け時に、センサ素子及びヒータ素子が損傷しないように工夫する必要があり、ガスセンサの組み付けが容易ではない。また、特許文献1のガスセンサにおいては、ヒータ素子の側部における周方向の一部が、ヒータ素子の筒部の内周面に中心軸線の方向に沿って線状に接触する。そのため、ヒータ素子からセンサ素子への伝熱を促進して、ヒータ素子とセンサ素子との温度差を小さくするためには十分ではなく、このためには更なる工夫が必要である。
【0009】
本開示は、ヒータ素子とセンサ素子との温度差を小さくすることができるとともに、ガスセンサの組み付けを容易にすることができるガスセンサを提供しようとするものである。
【0010】
本開示の第1の態様は、
有底円筒形状を有し、イオン伝導性を有する固体電解質材料によって構成された固体電解質体、前記固体電解質体の外側に設けられて検出対象ガスに晒される検出電極、及び前記固体電解質体の内側に設けられて基準ガスに晒される基準電極を有するセンサ素子を備えるガスセンサであって、
前記固体電解質体と前記基準電極との間、又は前記基準電極の表面には、多数の気孔を有する多孔質層が設けられており、
前記固体電解質体は、円筒部と、前記円筒部の底側に形成された曲面状の底部とを有しており、
前記底部の内側に設けられた前記多孔質層の部分の厚みは、前記円筒部の内側に設けられた前記多孔質層の部分の厚みよりも大きい、ガスセンサにある。
本開示の第2の態様は、
有底円筒形状を有し、イオン伝導性を有する固体電解質材料によって構成された固体電解質体、前記固体電解質体の外側に設けられて検出対象ガスに晒される検出電極、及び前記固体電解質体の内側に設けられて基準ガスに晒される基準電極を有するセンサ素子を備えるガスセンサであって、
前記固体電解質体と前記基準電極との間、又は前記基準電極の表面には、多数の気孔を有する多孔質層が設けられており、
前記多孔質層は、前記固体電解質体と前記基準電極との間に設けられており、かつ、前記固体電解質体を構成する固体電解質材料に比べて気孔率が高い固体電解質材料の粒子によって構成されており、
前記基準電極の表面には、前記多孔質層の表面に形成された凹凸に応じた凹凸が形成されている、ガスセンサにある。
【0011】
前記一態様のガスセンサは、有底円筒形状を有する固体電解質体に検出電極及び基準電極が設けられたセンサ素子を備える。そして、センサ素子において、固体電解質体と基準電極との間、又は基準電極の表面には、多数の気孔を有する多孔質層が設けられている。多孔質層の形成により、センサ素子とセンサ素子の内側に配置されたヒータ素子との隙間を小さくすることができ、ヒータ素子がセンサ素子に広い範囲で接触しやすくすることができる。
【0012】
これにより、ヒータ素子によってセンサ素子を加熱する際には、ヒータ素子からセンサ素子への伝熱を効果的に促進することができ、ヒータ素子とセンサ素子との温度差を小さくすることができる。また、センサ素子の内側にヒータ素子を配置する際に特別な工夫をする必要がなく、ガスセンサの組み付けを容易にすることができる。
【0013】
それ故、前記一態様のガスセンサによれば、ヒータ素子とセンサ素子との温度差を小さくすることができるとともに、ガスセンサの組み付けを容易にすることができる。
【0014】
なお、本開示の一態様において示す各構成要素のカッコ書きの符号は、実施形態における図中の符号との対応関係を示すが、各構成要素を実施形態の内容のみに限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
本開示についての目的、特徴、利点等は、添付の図面を参照する後記の詳細な記述によって、より明確になる。本開示の図面を以下に示す。
【
図1】
図1は、実施形態1にかかる、ガスセンサを示す説明図である。
【
図2】
図2は、実施形態1にかかる、センサ素子の断面を示す説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態1にかかる、センサ素子の表面における検出電極の形成状態を示す説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態1にかかる、センサ素子及びヒータ素子の先端側部分の断面を拡大して示す説明図である。
【
図5】
図5は、実施形態1にかかる、センサ素子の円筒部の一部の断面を拡大して示す説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態2にかかる、センサ素子の断面を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
前述したガスセンサ1にかかる好ましい実施形態について、図面を参照して説明する。
<実施形態1>
本形態のガスセンサ1は、
図1~
図4に示すように、センサ素子2を備えており、センサ素子2は、固体電解質体3、検出電極4A及び基準電極4Bを有する。固体電解質体3は、有底円筒形状を有しており、イオン伝導性を有する固体電解質材料によって構成されている。検出電極4Aは、検出対象ガスGに晒される状態で、固体電解質体3の外側に設けられている。基準電極4Bは、基準ガスAに晒される状態で、固体電解質体3の内側に設けられている。固体電解質体3と基準電極4Bとの間には、多数の気孔231を有する多孔質層23が設けられている。
【0017】
本形態のセンサ素子2及びガスセンサ1においては、センサ素子2の中心軸線Oに沿った方向を軸方向Lといい、センサ素子2の中心軸線Oの周りの方向を周方向Cといい、センサ素子2の中心軸線Oから放射状に広がる方向を径方向Rという。また、センサ素子2においては、センサ素子2の底部32が設けられた側を底側L1といい、底側L1とは反対側を開口側L2という。ガスセンサ1においては、底側L1に対応する側を先端側L1といい、底側L1に対応する側を基端側L2という。
【0018】
以下に、本形態のガスセンサ1について詳説する。
(ガスセンサ1)
図1に示すように、ガスセンサ1は、車両の内燃機関(エンジン)から排気される排ガスが流れる排気管内に配置される。ガスセンサ1は、排気管内を流れる排ガスを検出対象ガスGとするとともに、大気を基準ガスAとして、ガス検出を行うものである。本形態のガスセンサ1は、固体電解質体3を介して検出電極4Aと基準電極4Bとの間に生じる起電力を検出して、排ガスの組成から求められる内燃機関の空燃比が、理論空燃比と比べて空気に対する燃料の割合が多い燃料リッチ側にあるか、理論空燃比と比べて空気に対する燃料の割合が少ない燃料リーン側にあるかを判定する酸素センサとして用いられる。
【0019】
ガスセンサ1は、内燃機関における空燃比を、排気管内に配置された三元触媒の触媒活性が効果的に維持される理論空燃比の近傍にするために用いられる。ガスセンサ1は、排気管における三元触媒の配置位置よりも、排ガスの流れの上流側の位置及び下流側の位置のいずれに配置してもよい。
【0020】
特に、本形態のガスセンサ1は、センサ素子2の軸方向Lの温度分布を適切に保つことができるため、内燃機関の排ガスがより低温になる場合にも有効に使用することができる。また、排気管における三元触媒の配置位置よりも下流側の位置においては、三元触媒の配置位置よりも上流側の位置に比べて排ガスの温度が低くなる。本形態のガスセンサ1は、排ガスの温度が低くなる、三元触媒の配置位置よりも下流側の位置に配置することが好適である。なお、三元触媒の配置位置よりも上流側の位置には、空燃比を検出する空燃比センサを配置し、内燃機関の燃焼制御においては、空燃比センサと酸素センサとを併用してもよい。
【0021】
図1及び
図4に示すように、ガスセンサ1は、センサ素子2の他に、センサ素子2の軸方向Lの底側L1の部位を加熱するためのヒータ素子5を備える。ヒータ素子5は、基材51A,51Bに発熱体52を設けることによって形成されている。ヒータ素子5は、センサ素子2の底側L1の部位を加熱するための発熱部521を軸方向Lの先端側L1の部位に有しており、ヒータ素子5の先端501は、センサ素子2の底部32の内側に接触している。
【0022】
ガスセンサ1は、センサ素子2及びヒータ素子5の他に、センサ素子2が挿通される挿通穴611が形成されたハウジング61と、固体電解質体3の開口側L2の部位の外側に装着されて検出電極4Aに接続された外側端子71と、固体電解質体3の開口側L2の部位の内側に装着されて基準電極4Bに接続された内側端子72とをさらに備える。
【0023】
(センサ素子2)
図2及び
図3に示すように、センサ素子2の固体電解質体3は、ジルコニアを主成分とするものであり、希土類金属元素又はアルカリ土類金属元素によってジルコニアの一部を置換させた安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアからなる。固体電解質体3は、イットリア安定化ジルコニア又はイットリア部分安定化ジルコニアから構成してもよい。固体電解質体3は、所定の活性化温度において、酸化物イオン(O
2-)を伝導させるイオン伝導性を有するものである。検出電極4A及び基準電極4Bは、酸素に対する触媒活性を示す白金、及び固体電解質体3を構成する固体電解質材料と同等の固体電解質材料を含有している。
【0024】
固体電解質体3は、円筒部31と、円筒部31の底側L1に形成された曲面状の底部32とを有する。換言すれば、固体電解質体3は、円筒部31の先端部が曲面状(半球状)の底部32によって閉塞された有底円筒形状を有する。固体電解質体3の軸方向Lにおける、底部32と反対側の位置には、固体電解質体3の内側に基準ガスAを流入させるための開口部33が形成されている。円筒部31の軸方向Lにおける各部の外径は、ハウジング61への取り付けを考慮して、適宜変化している。
【0025】
固体電解質体3の円筒部31は、軸方向Lの底側L1の部位において後述する外側検知部41が設けられたストレート円筒部311と、ストレート円筒部311の開口側L2において開口側L2に行くに連れて拡径するテーパ円筒部312と、テーパ円筒部312の開口側L2において固体電解質体3における最も外径が大きくなった部位である鍔部313とを有する。鍔部313は、ハウジング61の挿通穴611に形成された段差部614に係止される部位である。
【0026】
図1及び
図3に示すように、検出電極4Aは、外側検知部41、外側接続部43及び外側リード部42を有する。外側検知部41は、検出電極4Aの最も底側L1の位置において、円筒部31の中心軸線Oを中心とする周方向Cの全周に亘って設けられている。外側接続部43は、検出電極4Aの最も開口側L2の位置において、周方向Cの全周に亘って設けられており、外側端子71に接続されている。外側リード部42は、外側検知部41と外側接続部43とを繋ぐ位置において、周方向Cの一部に設けられている。
【0027】
図2に示すように、基準電極4Bは、多孔質層23の表面及び固体電解質体3の内側面302に設けられている。本形態の基準電極4Bは、固体電解質体3の内側面302のほぼ全体に設けられている。基準電極4Bは、軸方向Lの開口側L2の部位においては、固体電解質体3の内側面302に設けられており、軸方向Lの開口側L2の部位を除く部位においては、多孔質層23の表面に設けられている。
【0028】
基準電極4Bは、検出電極4Aと同様に、固体電解質体3の内側において、部分的に設けられていてもよい。基準電極4Bは、外側検知部41に固体電解質体3の部分を介して対向する底側L1の部位と、開口側L2の部位とにおいて全周に亘って設け、底側L1の部位と開口側L2の部位とを周方向Cの一部において繋ぐ状態で設けてもよい。
【0029】
固体電解質体3の内側面302の全体における、基準電極4Bの表面形成割合は、50%以上である。この基準電極4Bの表面形成割合を特定するときの固体電解質体3の内側面302には、固体電解質体3の内側面302に設けられた多孔質層23の表面も含む。基準電極4Bは、外側検知部41の内周側に位置する部位、及び内側端子72が装着される部位においては、固体電解質体3の周方向Cの全周に設けることが好ましい。基準電極4Bの表面形成割合が50%未満になると、基準電極4Bによる熱伝導の効果が小さくなり、ヒータ素子5の伝熱によるセンサ素子2の昇温速度が遅くなり、センサ素子2を活性化させる時間が長くなるおそれがある。なお、本形態の基準電極4Bの表面形成割合は100%である。
【0030】
(多孔質層23)
図2に示すように、本形態の多孔質層23は、固体電解質体3の内側面302に設けられている。より具体的には、多孔質層23は、固体電解質体3の内側面302と基準電極4Bとの間に挟まれている。また、多孔質層23は、固体電解質体3の内側面302における、軸方向Lの開口側L2の部位を除く部位に設けられている。多孔質層23は、固体電解質体3を構成する固体電解質材料に比べて気孔率が高い固体電解質材料によって構成されている。多孔質層23の組成は、固体電解質体3の組成と同じである。
【0031】
多孔質層23は、固体電解質粒子同士の間の多数の気孔231の形成によって断熱層としての機能を有する。多孔質層23の気孔率は、断熱効果を高めるためには大きい方がよく、強度を高めるためには小さい方がよい。本形態の多孔質層23における気孔率は、5%以上40%以下である。多孔質層23の気孔率が5%未満である場合には、多孔質層23が断熱層としての効果が得られなくなるおそれがある。一方、多孔質層23の気孔率が40%超過である場合には、多孔質層23の強度が低くて、ガスセンサ1の組付時に多孔質層23が損傷するおそれがある。
【0032】
多孔質層23における気孔率は、10%以上30%以下とすることが好ましい。この場合には、断熱効果がより適切に得られるとともにヒータ素子5によるセンサ素子2の昇温速度の低下が適切に防止される。
【0033】
多孔質層23の気孔率は、次のようにして測定すればよい。多孔質体の一部を取り出して薄片の試料とし、試料の乾燥質量、飽水質量及び水中質量を測定する。そして、多孔質層23の気孔率Kは、K=(試料の飽水質量-試料の乾燥質量)/(試料の飽水質量-試料の水中質量)×100[%]として求められる。
【0034】
この気孔率の測定方法は、JIS R1634:1998の「ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法」(アルキメデス法)に準拠する。また、このJIS規格には、ISO18754:2003「ファインセラミックス-密度及び見かけ気孔率の測定」のISO規格が相当する。
【0035】
センサ素子2の軸方向Lの底側L1の部位において、基準電極4Bは、多孔質層23の表面に設けられている。この構成により、ヒータ素子5の先端部は、固体電解質体3の底部32の内側に設けられた基準電極4Bに接触させることができる。そのため、ヒータ素子5の発熱部521において発生した熱を、熱伝導によって基準電極4Bを介して効果的にセンサ素子2に伝達することができる。
【0036】
また、
図5に示すように、基準電極4Bが多孔質層23の表面に設けられることにより、基準電極4Bの一部は、多孔質層23における気孔231、換言すれば固体電解質粒子同士の間の隙間に浸透する。これにより、基準電極4Bと多孔質層23との密着性が向上し、基準電極4Bが固体電解質体3から剥がれにくくすることができる。また、熱による基準電極4Bの凝集を抑制することもできる。
【0037】
固体電解質体3を構成する、多数の固体電解質粒子は、有底円筒形状の緻密な状態に成形されており、互いに密着して焼結されている。多孔質層23は、多数の固体電解質粒子によって形成されている。多孔質層23を構成する固体電解質粒子は、固体電解質体3の内側面302へのスラリーの塗布によって構成されたものである。多孔質層23の多数の気孔231は、固体電解質粒子同士の間の隙間によって形成されている。
【0038】
図2に示すように、本形態の多孔質層23は、固体電解質体3における、内側端子72の装着部位よりも底側L1の部位に形成されている。この構成により、内側端子72は、緻密な状態に成形された固体電解質体3の内側面302に設けられた基準電極4Bに接触して装着される。そのため、固体電解質体3における、内側端子72の装着部位の強度を確保することができる。
【0039】
また、発熱体52の発熱部521によって加熱されたヒータ素子5が有する熱は、ヒータ素子5の先端からセンサ素子2に伝導する以外にも、内側端子72を介してセンサ素子2に伝導される。内側端子72が、固体電解質体3の内側面302に設けられた基準電極4Bに接触していることにより、ヒータ素子5の熱をセンサ素子2の底側L1の部位及び開口側L2の部位において効果的にセンサ素子2に伝達することができる。なお、ヒータ素子5の熱は、熱輻射又は熱対流によってセンサ素子2に伝達されてもよい。
【0040】
図2に示すように、本形態の底部32の内側面302に設けられた多孔質層23の底側部位233の厚みは、円筒部31の内側面302に設けられた多孔質層23の開口側部位234の厚みよりも大きい。換言すれば、底部32の内側面302には、多孔質層23の全体における最も厚みが大きい部分が存在する。特に、本形態においては、底部32の中心位置における多孔質層23の厚みが最も厚い。
【0041】
また、本形態においては、底部32の内側面302に設けられた多孔質層23の底側部位233の厚み、及びストレート円筒部311の内側面302に設けられた多孔質層23の部位233Aの厚みは、相対的に大きい。一方、テーパ円筒部312の内側面302に設けられた多孔質層23の開口側部位234の厚み、及び鍔部313の内側面302に設けられた多孔質層23の開口側部位234の厚みは、相対的に小さい。
【0042】
図4に示すように、底部32の内側における多孔質層23の底側部位233の厚みが相対的に大きいことにより、センサ素子2の内側にヒータ素子5を配置したときに、ヒータ素子5の発熱部521の周辺の広い範囲がセンサ素子2に接触しやすくなる。また、ヒータ素子5の発熱部521の周辺の広い範囲をセンサ素子2に接触させることもできる。これにより、ヒータ素子5からセンサ素子2への伝熱を効果的に促進することができる。
【0043】
また、本形態においては、円筒部31の内側に設けられた、基準電極4Bの部分及び多孔質層23の部分は、ヒータ素子5から離れており、底部32の内側に設けられた基準電極4Bの部分は、ヒータ素子5に接触している。この構成により、ヒータ素子5の軸方向Lの先端部からセンサ素子2への熱伝導を効果的にすることができ、ヒータ素子5とセンサ素子2との温度差を効果的に緩和することができる。
【0044】
また、ヒータ素子5の軸方向Lの底側L1の部位の角部は、センサ素子2の底部32の内側における基準電極4Bに接触していてもよい。また、ヒータ素子5の軸方向Lの先端501は、センサ素子2の底部32の内側における基準電極4Bに接触していてもよい。底部32の内側における多孔質層23の底側部位233の厚みを相対的に大きくした構成により、ヒータ素子5の軸方向Lの先端部の広い範囲が、センサ素子2の底部32の内側における基準電極4Bに面接触することが可能になる。
【0045】
図5に示すように、多孔質層23が多数の固体電解質粒子によって形成されていることにより、多孔質層23の表面には、固体電解質粒子による凹凸232が形成されている。そして、多孔質層23の表面に設けられた基準電極4Bの表面には、多孔質層23の表面に形成された凹凸232に応じた凹凸401が形成されている。この構成により、基準電極4Bにおける凹凸401の凸部がヒータ素子5に接触しやすくなる。また、基準電極4Bにおける凹凸401の凸部がヒータ素子5に接触しても、基準電極4Bとヒータ素子5との間に生じる摩擦を小さく維持することができる。
【0046】
また、センサ素子2の底部32の寸法、多孔質層23の厚み等を工夫し、基準電極4Bの表面に形成された凹凸401の凸部に、ヒータ素子5を意図的に接触させる構成としてもよい。また、基準電極4Bの表面に形成された凹凸401の凸部にヒータ素子5が接触したときには、接触部分又は凸部の一部が変形してもよい。接触部分又は凸部の一部の変形は、多孔質層23及び基準電極4Bの少なくとも一方の変形によって生じる。特に、多孔質層23は、多数の気孔231を有していることにより、変形しやすい状態にある。多孔質層23が変形することにより、ヒータ素子5とセンサ素子2の接触面積を大きくし、これらの密着度を高めることができる。基準電極4Bの凸部にヒータ素子5が接触する構成により、ヒータ素子5からセンサ素子2への熱伝導を、より効果的にすることができ、ヒータ素子5とセンサ素子2との温度差を、より効果的に緩和することができる。
【0047】
本形態の多孔質層23の開口側部位234は、1~20μmの範囲内の厚みに形成されている。また、多孔質層23の底側部位233は、開口側部位234の厚みよりも大きな厚みで、20~50μmの範囲内の厚みに形成されている。多孔質層23の底側部位233の厚みが多孔質層23の開口側部位234の厚みに比べて2.5倍以上であることにより、固体電解質体3の底側L1の部位における伝熱効果を適切に得ることができる。
【0048】
(下地層21)
図5に示すように、固体電解質体3の外側面301には、複数種類の粒径に形成された、固体電解質材料から構成された固体電解質粒子による下地層21が形成されている。本形態の下地層21には、相対的に小さな粒径の固体電解質粒子と、相対的に大きな粒径の固体電解質粒子とが用いられる。本形態の検出電極4Aは、下地層21の表面に設けられている。下地層21の表面は、検出電極4Aの表面積を増やすとともに検出電極4Aが剥がれにくくするために、固体電解質粒子による凹凸形状に形成されている。
【0049】
(保護層22)
図2~
図4に示すように、固体電解質体3の外側面301には、少なくとも検出電極4Aの外側検知部41の全体を覆う、セラミックスの多孔質体からなる保護層22が設けられている。保護層22は、検出対象ガスGを透過する一方、検出電極4Aの被毒及び被水を防止するものである。本形態の保護層22は、気孔率が異なる、互いに積層された複数の層によって形成されている。
【0050】
図5に示すように、本形態の保護層22は、検出電極4Aの表面に設けられた第1保護層221と、第1保護層221の表面に設けられた第2保護層222と、第2保護層222の表面に設けられた第3保護層223とによって形成されている。第1保護層221は、検出対象ガスGの熱から検出電極4Aを保護するものである。第2保護層222は、検出対象ガスGにおける検出電極4Aの被毒物質を吸着する機能を有するとともに、検出対象ガスGの成分を調整する触媒粒子が担持されたものである。第3保護層223は、検出対象ガスGにおける検出電極4Aの被毒物質を吸着する機能を有するとともに、凝縮水からセンサ素子2を保護するためのものである。
【0051】
(ヒータ素子5)
図4に示すように、ヒータ素子5は、セラミックスの基材51A,51Bと、基材51Bに設けられた導体からなる発熱体52とを有する。発熱体52の発熱部521は、発熱体52において断面積が最も縮小して形成されており、発熱体52に通電したときにジュール熱によって発熱する部位である。発熱部521は、発熱体52における先端部において軸方向Lに蛇行する形状に形成されている。ヒータ素子5は、心棒となる基材51Aの周りに、発熱体52が設けられたシート状の基材51Bを巻き付けて形成されている。固体電解質体3の底部32における基準電極4Bには、心棒となる基材51Aの先端501が接触している。
【0052】
(ガスセンサ1の他の構成)
図1に示すように、ガスセンサ1は、センサ素子2及びヒータ素子5の他に、センサ素子2を保持するハウジング61、ハウジング61の底側L1の部位に装着された先端側カバー62、ハウジング61の基端側L2の部位に装着された基端側カバー63、センサ素子2の開口側L2の部位の内側面302に装着された内側端子72、センサ素子2の開口側L2の部位の外側面301に装着された外側端子71等を備える。
【0053】
(ハウジング61)
図1に示すように、ハウジング61には、センサ素子2を保持するために、軸方向Lに向けて貫通する挿通穴611が形成されている。挿通穴611は、軸方向Lの先端側L1に位置する小径穴部612と、軸方向Lの基端側L2に位置して小径穴部612よりも拡径した大径穴部613とを有する。センサ素子2は、挿通穴611の小径穴部612内及び大径穴部613内に挿通され、センサ素子2と大径穴部613との隙間内に配置されるタルク粉末、スリーブ等のシール材64を介して保持されている。
【0054】
また、センサ素子2における最も外径が大きい部分である鍔部313が小径穴部612の端部に係止されることにより、センサ素子2が、ハウジング61の挿通穴611から先端側L1へ抜け出すことが防止されている。ハウジング61の軸方向Lの開口側L2の部位には、内周側に屈曲するかしめ部615が形成されている。そして、かしめ部615と鍔部313との間においてシール材64が軸方向Lに圧縮されて、センサ素子2がハウジング61に保持されている。センサ素子2の底側L1の部位であって、特に外側検知部41が形成された部位は、ハウジング61から軸方向Lの先端側L1に突出して配置されている。
【0055】
(先端側カバー62及び基端側カバー63)
図1に示すように、ハウジング61の軸方向Lの先端側L1の部位には、ハウジング61から先端側L1に突出するセンサ素子2の部分を覆って、センサ素子2を保護するための先端側カバー62が装着されている。先端側カバー62は、排気管内に配置される。先端側カバー62には、検出対象ガスGを通過させるためのガス通過孔621が形成されている。先端側カバー62は、二重構造のものとしてもよく、一重構造のものとしてもよい。先端側カバー62のガス通過孔621から先端側カバー62内に流入する検出対象ガスGとしての排ガスは、センサ素子2の保護層22を通過して検出電極4Aへと導かれる。
【0056】
ハウジング61の軸方向Lの開口側L2の部位には、基端側カバー63が装着されている。基端側カバー63は、排気管の外部に配置される。基端側カバー63の一部には、基端側カバー63内へ基準ガスAとしての大気を導入するための導入孔631が形成されている。導入孔631には、液体を通過させない一方、気体を通過させるフィルタ632が配置されている。導入孔631から基端側カバー63内に導入される基準ガスAは、基端側カバー63内の空間を通過して、センサ素子2の内側における基準電極4Bへと導かれる。
【0057】
図1に示すように、固体電解質体3の開口側L2の部位の内側面302には、基準電極4Bに接触する内側端子72が装着されている。また、固体電解質体3の開口側L2の部位の外側面301には、検出電極4Aの外側接続部43に接触する外側端子71が装着されている。内側端子72及び外側端子71には、センサ素子2の基準電極4B及び検出電極4Aを、外部の制御装置に電気的に接続するためのリード線65が取り付けられている。リード線65は、基端側カバー63内に配置されたブッシュ66によって保持されている。
【0058】
(製造方法)
次に、センサ素子2の製造方法について説明する。
固体電解質体3を製造するに当たっては、酸化ジルコニウムに、添加物である酸化イットリウム等の希土類酸化物及びアルカリ土類金属酸化物の少なくとも一方を、固溶置換させた固体電解質材料の粉末を準備する。次いで、固体電解質材料の粉末を、ラバープレスによって有底円筒形状に近い予備形状に成形した後に、最終形状としての有底円筒形状の前駆体に研削加工する。次いで、前駆体を1100~1200℃の大気環境下において、2時間熱処理して、固体電解質体3の仮焼体を得た。
【0059】
固体電解質体3の仮焼体(単に固体電解質体3という。)の内側面302に多孔質層23を形成するに当たっては、固体電解質材料の粉末を、イオン交換水、ポリビニルアルコール、アルキルスルホン酸系分散剤、気孔231を形成するための焼失材としてのアクリル樹脂製のマイクロビーズ等と混合撹拌して、第1スラリーを生成する。次いで、固体電解質体3にシリンジを用いて第1スラリーを注入した後に、固体電解質体3の内側に厚み調整用のピンを挿入する。このとき、ピンと固体電解質体3の内側面302との間の隙間に第1スラリーが充填される。
【0060】
次いで、第1スラリーが完全に乾燥する前に、固体電解質体3の内側からピンを抜き出す。このとき、センサ素子2の底部32が下方に向けられていることにより、第1スラリーは重力によって軸方向Lの底側L1へ流動する。これにより、軸方向Lの開口側L2の部位の第1スラリーの厚みに比べて、軸方向Lの底側L1の部位の第1スラリーの厚みが大きくなる。
【0061】
こうして、固定電解質体の内側面302においては、第1スラリーによって開口側部位234に比べて底側部位233の厚みが大きい多孔質層23が形成される。本形態の多孔質層23は、焼成後において、底側部位233の厚みが20~50μmの範囲内になり、開口側部位234の厚みが1~20μmの範囲内になるように形成した。また、多孔質層23の気孔率は、ポリビニルアルコールの添加量、及び焼成時に燃焼するアクリル樹脂製のマイクロビーズの添加量によって、5~40%の範囲内になるように調整した。
【0062】
固体電解質体3の外側面301に下地層21を形成するに当たっては、固体電解質材料の粉末を、イオン交換水、ポリビニルアルコール、アルキルスルホン酸系分散剤、気孔231を形成するための焼失材としてのアクリル樹脂製のマイクロビーズ等と混合撹拌して、第2スラリーを生成する。また、固体電解質材料の粉末の一部をスプレイドライヤーで噴霧乾燥して造粒粉末とし、造粒粉末を第2スラリーに混合して、造粒粉末スラリーとする。次いで、造粒粉末スラリーに固体電解質体3を浸漬させて、造粒粉末スラリーを固体電解質体3の外側面301にディップコーティングする。
【0063】
本形態の下地層21は、焼成後において、造粒粉末が配置された部分を除く、固体電解質材料の粉末が配置された部分の厚みが10~50μmの範囲内になるように形成した。また、下地層21の気孔率は、多孔質層23と同様の方法によって、約10%になるように調整した。
【0064】
本形態においては、多孔質層23に用いる固体電解質材料と、下地層21に用いる固体電解質材料とは、固体電解質体3に用いる固体電解質材料と同等にした。そして、多孔質層23及び下地層21が形成された焼成前の固体電解質体3を1450℃の大気環境下において2時間焼成して、固体電解質体3の焼成体を得た。
【0065】
固体電解質体3に検出電極4A及び基準電極4Bを形成するに当たっては、固体電解質体3の焼成体の表面を粗化するために、焼成体をフッ化水素酸水溶液に浸漬させ、次いで、焼成体の水洗及び乾燥を行った。次いで、有機白金化合物を含有するペースト状の電極材料を、所望の電極パターンを形成するように焼成体に塗布し、焼成体に熱処理を行って電極材料中の有機物を脱脂する。
【0066】
次いで、脱脂後の焼成体に、無電解白金めっき液を用いてめっき処理を行った後に、1000~1200℃の大気環境下において1時間熱処理する。こうして、固体電解質体3の焼成体に検出電極4A及び基準電極4Bが設けられる。
【0067】
固体電解質体3の外側面301に保護層22を形成するに当たっては、固体電解質体3の外側に、スピネル構造のアルミン酸マグネシウムの粉体をプラズマ溶射することによって第1保護層221を形成する。次いで、固体電解質体3を、アルミナ粒子、アルミナゾル、イオン交換水、白金又は白金及びロジウムからなる触媒粒子等を含有する混合スラリーに浸漬させ、第1保護層221の表面に第2保護層222を形成する。次いで、固体電解質体3を、アルミナ粒子、アルミナゾル、イオン交換水等を含有する混合スラリーに浸漬させ、第2保護層222の表面に第3保護層223を形成する。その後、固体電解質体3を、500~900℃において熱処理して、センサ素子2が製造される。
【0068】
(作用効果)
本形態のガスセンサ1は、有底円筒形状を有する固体電解質体3に検出電極4A及び基準電極4Bが設けられたセンサ素子2を備える。そして、センサ素子2において、固体電解質体3と基準電極4Bとの間には、多数の気孔231を有する多孔質層23が設けられている。多孔質層23の形成により、センサ素子2とセンサ素子2の内側に配置されたヒータ素子5との隙間を小さくすることができ、ヒータ素子5がセンサ素子2に広い範囲で接触しやすくすることができる。
【0069】
これにより、ヒータ素子5によってセンサ素子2を加熱する際には、ヒータ素子5からセンサ素子2への伝熱を効果的に促進することができ、ヒータ素子5とセンサ素子2との温度差を小さくすることができる。また、センサ素子2の内側にヒータ素子5を配置する際に特別な工夫をする必要がなく、ガスセンサ1の組み付けを容易にすることができる。
【0070】
それ故、本形態のガスセンサ1によれば、ヒータ素子5とセンサ素子2との温度差を小さくすることができるとともに、ガスセンサ1の組み付けを容易にすることができる。
【0071】
<実施形態2>
本形態は、
図6に示すように、多孔質層23が、固体電解質体3における基準電極4Bの表面に設けられた場合について示す。本形態の多孔質層23は、基準電極4Bの表面に設けられているため、検出電極4Aと基準電極4Bとの間の固体電解質としての性質を有していなくてもよい。本形態の多孔質層23は、固体電解質材料ではなく、酸化アルミニウム等の金属酸化物によって構成されている。多孔質層23は、多数の金属酸化物の粒子によって形成されている。本形態の多孔質層23は、ヒータ素子5とセンサ素子2との間の隙間を小さくするために形成されている。
【0072】
本形態においても、底部32の内側に設けられた多孔質層23の部分の厚みは、円筒部31の内側に設けられた多孔質層23の部分の厚みよりも大きい。また、底部32の内側における、基準電極4Bの表面に設けられた多孔質層23の部分は、ヒータ素子5に接触している。
図5に示したように、多孔質層23の表面には、多数の金属酸化物の粒子による凹凸232が形成されている。また、多孔質層23における、ヒータ素子5の接触部分又は凹凸232の凸部は、変形していてもよい。また、多孔質層23が基準電極4Bの表面に設けられていても、多孔質層23における気孔231を介して、基準ガスAが基準電極4Bに接触することができる。
【0073】
本形態のガスセンサ1によっても、実施形態1の場合と同様に、ヒータ素子5とセンサ素子2との温度差を小さくすることができるとともに、ガスセンサ1の組み付けを容易にすることができる。本形態のガスセンサ1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1の構成要素と同様である。
【0074】
<実施形態3>
本形態は、多孔質層23を構成する固体電解質材料の組成に工夫をした場合を示す。本形態の固体電解質体3を構成する固体電解質材料及び多孔質層23を構成する固体電解質材料は、ジルコニア(酸化ジルコニウム)の一部が希土類金属元素としての希土類酸化物又はアルカリ土類金属元素としてのアルカリ土類酸化物によって置き換えられた安定化ジルコニア又は部分安定化ジルコニアによって構成されている。
【0075】
固体電解質体3の内側面302に多孔質層23が形成されていることにより、検出電極4Aと基準電極4Bとの間における、固体電解質体3及び多孔質層23による酸化物イオンの伝導性は、多孔質層23が形成されていない場合に比べて低下する可能性がある。本形態においては、この酸化物イオンの伝導性の低下を補うために、多孔質層23における固体電解質材料の置換物の含有割合を調整する。
【0076】
具体的には、多孔質層23を構成する固体電解質材料における、希土類酸化物又はアルカリ土類酸化物の含有量は、固体電解質体3を構成する固体電解質材料における、希土類酸化物又はアルカリ土類酸化物の含有量に比べて多い。多孔質層23は、多数の気孔231を有することにより、酸化物イオンの伝導性が固体電解質体3に比べて低い。多孔質層23を構成する固体電解質材料における、希土類酸化物又はアルカリ土類酸化物の含有量を相対的に多くすることにより、多孔質層23における酸化物イオンの伝導性を高くすることができる。
【0077】
本形態においては、多孔質層23の酸化物イオンの伝導性が高いことにより、センサ素子2の性能を高めることができる。本形態のガスセンサ1における、その他の構成、作用効果等については、実施形態1,2の構成、作用効果等と同様である。また、本形態においても、実施形態1,2に示した符号と同一の符号が示す構成要素は、実施形態1,2の構成要素と同様である。
【0078】
<確認試験>
本確認試験においては、固体電解質体3に多孔質層23を設けた実施形態1のセンサ素子2(実施品)と、固体電解質体3に多孔質層23を設けていない従来のセンサ素子(比較品)とについて、ヒータ素子5によって加熱する際の、ヒータ素子5とセンサ素子との間に生じる温度差を測定した。実施品のセンサ素子2においては、多孔質層23の底側部位233の平均厚みが40μmになるようにし、開口側部位234の平均厚みが10μmになるようにした。
【0079】
本確認試験においては、実施品及び比較品の各センサ素子の内側にヒータ素子5が配置された状態において、検出電極4Aの外側検知部41の温度が650℃になるようにヒータ素子5を制御した。そして、検出電極4Aの外側検知部41の温度を、各センサ素子の温度として測定し、ヒータ素子5の発熱体52の発熱部521の温度を、ヒータ素子5の温度として測定した。この結果、比較品のセンサ素子においては、センサ素子の温度が651℃となり、ヒータ素子5の温度が947℃となり、両者の温度差は、296℃となった。一方、実施品のセンサ素子2においては、センサ素子2の温度が652℃となり、ヒータ素子5の温度が891℃となり、両者の温度差は、239℃となった。
【0080】
この結果より、実施品のセンサ素子2は、比較品のセンサ素子に比べて、ヒータ素子5とセンサ素子との温度差が57℃小さくなることが分かった。この結果は、実施品のセンサ素子2においては、多孔質層23の形成によって、ヒータ素子5とセンサ素子2との間の隙間が小さくなったことに起因する。
【0081】
また、本確認試験においては、実施品のセンサ素子2及び比較品のセンサ素子を、ヒータ素子5の発熱体52への断続した通電によって継続的に加熱したときの、各センサ素子に配置したヒータ素子5の劣化の度合も測定した。この結果、実施品に用いたヒータ素子5においては、比較品に用いたヒータ素子5に比べて、寿命が3.6倍長くなることが分かった。この結果は、実施品のセンサ素子2においては、ヒータ素子5からセンサ素子2へより多くの熱が移動して、ヒータ素子5とセンサ素子2との温度差が低減したことにより、実施品のセンサ素子2を加熱するヒータ素子5の温度が低下したことに起因する。
【0082】
以上の確認試験の結果より、本形態のセンサ素子2を用いたガスセンサ1によれば、ヒータ素子5とセンサ素子2との温度差が低減し、ガスセンサ1の早期活性化が図られることが分かった。また、センサ素子2の検出電極4A及び基準電極4Bによる検知部を目標温度に加熱する際の、ヒータ素子5の温度が低下することにより、ヒータ素子5の寿命が向上することが分かった。
【0083】
本開示は、各実施形態のみに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲においてさらに異なる実施形態を構成することが可能である。また、本開示は、様々な変形例、均等範囲内の変形例等を含む。さらに、本開示から想定される様々な構成要素の組み合わせ、形態等も本開示の技術思想に含まれる。