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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】質量分析装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/24 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
H01J49/24
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023538251
(86)(22)【出願日】2022-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2022011509
(87)【国際公開番号】W WO2023007820
(87)【国際公開日】2023-02-02
【審査請求日】2024-01-29
(31)【優先権主張番号】P 2021125039
(32)【優先日】2021-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松下 知義
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-095504(JP,A)
【文献】特開平7-27089(JP,A)
【文献】特表2007-538197(JP,A)
【文献】特開2013-143196(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111128671(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマを点灯し、試料をイオン化することで質量分析を行う質量分析装置であって、
粗引きポンプと、
ターボ分子ポンプと、
前記粗引きポンプによって排気が行われる第1チャンバと、
前記第1チャンバの後段に位置し、水素ガスが導入される第2チャンバと、
前記第2チャンバの後段に位置し、質量分析部が設けられた第3チャンバと、
前記第1チャンバから前記粗引きポンプへの排気流れを形成する第1流路と、
前記第2チャンバおよび前記第3チャンバから前記ターボ分子ポンプよって前記第1流路への排気流れを形成する第2流路と、を備え、
前記質量分析装置は、前記水素ガスよりも分子量の大きい追加ガスを前記第2流路へ導入し、
前記第2流路へ導入される前記追加ガスの流量を調整する弁をさらに備え、
前記弁は、前記プラズマの点灯時に閉状態とされ、前記プラズマの消灯時に開状態とされる、質量分析装置。
【請求項2】
記プラズマの点灯時に前記弁によって導入される前記追加ガスの流量は、前記プラズマの消灯時に前記弁によって導入される前記追加ガスの流量よりも少ない、請求項1に記載の質量分析装置。
【請求項3】
前記プラズマ点灯時に前記第2流路へ導入される前記追加ガスの流量は、0.5sccmから0.05slmまでの範囲である、請求項2に記載の質量分析装置。
【請求項4】
前記追加ガスは、大気成分を有するガス、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスのいずれか、またはこれらのうち少なくとも2種を混合したガスである、請求項1に記載の質量分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、質量分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、質量分析装置においては、試料がイオン源のプラズマ中に導かれることによりイオン化され、イオン化された試料は、サンプリングコーンおよびスキマーコーンを含む第1チャンバ、コリジョンセルを含む第2チャンバを通過して質量分析部を含む第3チャンバに導入される。第1チャンバは、主に粗引きポンプにより真空引きされ、第2チャンバおよび第3チャンバは、ターボ分子ポンプにより真空引きされる。
【0003】
第2チャンバに配置されるコリジョンセル内には、イオン源から侵入してきた目的元素と質量電荷比が干渉する干渉イオンを除去するために分子量の小さい反応ガスを導入することが知られている。反応ガスとしては、ヘリウム等を含む水素ガスまたはそれらを含まない水素ガスが用いられる。
【0004】
ターボ分子ポンプは、機械式真空ポンプの一種で、金属製のタービン翼を持った回転体であるロータが高速回転し、気体分子を弾き飛ばすことによりガスを排気するポンプである。ターボ分子ポンプは、このような構造上、質量が軽く運動速度の大きな分子を所定方向に誘導することに適しておらず、分子量の小さい水素ガスを排気する場合に排気性能が低下することが知られている。
【0005】
特許文献1には、多くの水素ガスを導入した場合にターボ分子ポンプの排気側端における水素ガスの分圧を低減するために、ターボ分子ポンプ排気側端により近い位置から追加ガスを導入する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5452839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に開示されている技術では、ターボ分子ポンプに直接追加ガスを導入するため、ターボ分子ポンプの排気ガス量と同程度、もしくはそれ以下の追加ガス流量しか追加ガスを導入することができない。また、特許文献1に開示されている技術では、追加ガスがターボ分子ポンプのロータ回転運動を抑制する方向に働くため、水素ガスの排気性能をさらに向上することができない。
【0008】
本開示は、かかる問題を解決するためになされたものであり、その目的は、水素ガスの排気性能を向上することのできる質量分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、プラズマを点灯し、試料をイオン化することで質量分析を行う質量分析装置に関する。質量分析装置は、粗引きポンプと、ターボ分子ポンプと、粗引きポンプによって排気が行われる第1チャンバと、第1チャンバの後段に位置し、水素ガスが導入される第2チャンバと、第2チャンバの後段に位置し、質量分析部が設けられた第3チャンバと、第1チャンバから粗引きポンプへの排気流れを形成する第1流路と、第2チャンバおよび第3チャンバからターボ分子ポンプよって第1流路への排気流れを形成する第2流路と、を備える。質量分析装置は、水素ガスよりも分子量の大きい追加ガスを第2流路へ導入する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、水素ガスの排気性能を向上することのできる質量分析装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施の形態1に係る質量分析装置の概略構成を示す図である。
図2】比較例に係る質量分析装置の概略構成を示す図である。
図3】プラズマ消灯時の水素ガス導入量と真空度との関係を示すグラフである。
図4】プラズマ点灯時の水素ガス導入量と真空度との関係を示すグラフである。
図5】実施の形態2に係る質量分析装置における制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
図6】実施の形態3に係る質量分析装置の概略構成を示す図である。
図7】実施の形態3に係る質量分析装置における制御装置が実行する処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分については、同一の符号を付して、その説明は原則的に繰り返さない。
【0013】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1に係る質量分析装置1の概略構成を示す図である。質量分析装置1は、プラズマトーチ15と、本体20と、粗引きポンプ30と、ターボ分子ポンプ40と、真空計90と、弁50と、制御装置10とを含む。
【0014】
プラズマトーチ15は、試料をイオン化する。プラズマトーチ15は、特に図示しないが、試料管、プラズマガス管、冷却ガス管、および高周波誘導コイルを含む。プラズマガス管は、ガス供給源16に接続されており、アルゴンガス等が供給される。高周波誘導コイルの動作によって、プラズマトーチ15内にプラズマPが発生する。
【0015】
本体20は、プラズマトーチ15側からサンプリングコーン71およびスキマーコーン72により仕切られた構造を有する。プラズマトーチ15で発生したプラズマPの一部は、サンプリングコーン71およびスキマーコーン72を介して、イオンビームとなる。
【0016】
本体20は、相互に連通し得る第1チャンバ21、第2チャンバ22、第3チャンバ23の3つのチャンバを含む。第1チャンバ21は、サンプリングコーン71とスキマーコーン72とに挟まれた空間を含む。第1チャンバ21内には、サンプリングコーン71のオリフィス71aを通過したプラズマPの一部が入り込む。プラズマPの一部は、スキマーコーン72のオリフィス72aを通過してイオンビームの形でさらに後段へと導かれる。図示しないが、スキマーコーン72の背後には、イオンビームを案内するためのイオン光学部品が配置される。
【0017】
プラズマPが点火された状態では、サンプリングコーン71の外側は、略大気圧程度の圧力を有するので、第1チャンバ21内は、比較的高い圧力となる。第1チャンバ21は、第1流路としての排気管61を介して粗引きポンプ(roughing vacuum pump)30により減圧されるよう構成される。粗引きポンプ30としては、例えば、油回転ポンプが使用される。
【0018】
第1チャンバ21の後段には、ゲート弁73によって第1チャンバ21と隔てられるようにした第2チャンバ22が設けられる。第2チャンバ22内には、セル14が配置される。セル14は、スキマーコーン72のオリフィス72aを通過して取り出されたイオンビームから、検出目的の元素と質量電荷比が干渉する多原子分子イオンを除去する。セル14は、その中で反応ガスの分子と電荷移動反応等の反応を行う。反応ガスとしては、例えば水素ガスが用いられる。反応ガスは、セル14の上部の導入口から導入される。なお、図示しないが、セル14内には、多重極電極等を含む。
【0019】
第2チャンバ22のさらに後段には、隔壁74によって第2チャンバ22と隔てられる第3チャンバ23が設けられる。第3チャンバ23内には、所定の質量電荷比を有するイオンを抽出するための分離部が設けられる。分離部は、四重極等の多重極電極81により構成される。第3チャンバ23内において、多重極電極81の後側には、抽出されたイオンを検知するための検出器82が配置される。検出器82は、本体20の外部に設けられる信号処理装置(図示省略)に向けて検出信号を出力する質量分析部として機能する。
【0020】
第2チャンバ22および第3チャンバ23は、共にターボ分子ポンプ(turbomolecular pump)40によって減圧される。ターボ分子ポンプ40は、内部に複数の回転翼を有している。ターボ分子ポンプ40の排気側は、第2流路としての排気管62を介して粗引きポンプ30に向けて延び、排気管61に結合される。排気管61と、排気管62とが交わる位置を位置Aと称する。
【0021】
排気管62へは、弁50を介して追加ガスが導入する。追加ガスは、図示しないガス源から吸気管64、弁50、吸気管63を通過し、排気管62へ導入される。排気管62と吸気管63とが交わる位置を位置Bと称する。
【0022】
弁50は、吸気管64から導入する追加ガスが吸気管63へ流れる流量を調整する弁として機能する。ターボ分子ポンプ40の排気管62は、減圧された状態にあるため、弁50を開状態とすると、一定量の追加ガスが排気管62内へ導入される。弁50は、例えば、微少流量の制御を行うことが可能なニードル弁とすればよい。
【0023】
追加ガスは、水素ガス等の分子量の小さい分子を含まない大気成分のガス、アルゴンガス、窒素ガス、ヘリウムガス等が使用され得る。追加ガスは、これらのガスを2種類以上混合するガスを使用してもよい。追加ガスの導入は、プラズマPの点灯中、分析が行われる間は継続して行われる。
【0024】
真空計90は、第1流路である排気管61に接続される。真空計90は、例えば、真空中で通電加熱された金属線からの放熱量が圧力によって変わり、電気抵抗が変わる現象を利用したピラニ真空計(Pirani gauge)が用いられる。
【0025】
制御装置10は、例えばCPU(Central Processing Unit)11とメモリ12とを含む。メモリ12は、例えばROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory)により構成されており、制御プログラムの他、各種データを記憶することができる。CPU11は、メモリ12に記憶された制御プログラムを実行することにより、反応ガス、追加ガスの導入等の動作を制御する。
【0026】
図2は、比較例に係る質量分析装置1Aの概略構成を示す図である。図2の質量分析装置1Aは、図1の質量分析装置1とは追加ガスの導入位置が異なり、その他の構成については同様である。以下では、質量分析装置1Aにおいて、図1の質量分析装置1と同じ構成については、同じ符号を付して詳細な説明は繰り返さない。
【0027】
図2に示すように、質量分析装置1Aは、追加ガスが図示しないガス源から吸気管68、弁50、吸気管67を通過し、排気管61へ導入される。排気管61と吸気管67とが交わる位置を位置Cと称する。
【0028】
質量分析装置1または質量分析装置1Aを用いる際には、必要に応じてセル14内に反応ガスが導入される。反応ガスとしては、例えば、水素を含むガスが用いられる。水素ガスのような分子量の小さいガスの分子は、第2チャンバ22内でセル14の外側へと拡散し、さらに、第3チャンバ23へも拡散し得る。第2チャンバ22および第3チャンバ23は、ターボ分子ポンプ40を介して減圧されるが、ターボ分子ポンプ40は、分子量の小さなガスの排気の際にその性能が制限される。
【0029】
第2チャンバ22および第3チャンバ23内に拡散した分子量の小さい水素等のガスを放置すると、真空度が低下し、気体分子の乱の影響により、分析の感度に悪影響を及ぼす可能性がある。逆にそのような現象を生じないように、単純に排気速度を高めようとすると、ターボ分子ポンプ40に大きな負担が生じることになる。
【0030】
実施の形態1の質量分析装置1および比較例の質量分析装置1Aは、水素ガス等を含まない追加ガスをゆっくりと導入(以下、スローリークとも称する)することにより、分子量の小さい水素等のガスを排気するようにしている。スローリークを実行して追加ガスが水素ガスに混入されることにより、気体分子同士が衝突し粘性流の排気流れを生じさせるためである。
【0031】
水素ガス導入量と真空度との関係について説明する。図3は、プラズマ消灯時の水素ガス導入量と真空度との関係を示すグラフであり、図4は、プラズマ点灯時の水素ガス導入量と真空度との関係を示すグラフである。
【0032】
図3および図4には、図1の位置B、図2の位置Cに対応する位置から追加ガスを導入した場合の水素ガス導入量と真空度との関係が示されている。図3および図4において、横軸は、水素ガス導入量[sccm]を示し、縦軸は、真空度[Pa]を示している。図3において、位置Cからスローリークを実行する場合が実線で示され、位置Bからスローリークを実行する場合が破線で示される。図4において、位置Cからのスローリークを終了する場合が実線で示され、位置Bからスローリークを実行する場合において追加ガスの導入量が多い場合が一点鎖線で示され、位置Bからスローリークを実行する場合において追加ガスの導入量が適量の場合が破線で示される。
【0033】
図3に示すように、プラズマ消灯時において位置Cからスローリークを実行する場合、真空度が5.00×10-4[Pa]から2.20×10-2[Pa]まで真空度が悪化する。それに対し、図3に示すようにプラズマ消灯時において位置Bからスローリークを実行する場合、真空度は、位置Cからの場合に比べ真空度の高い状態が持続される。このように、排気管61の位置Cに追加ガスを導入する場合よりも、排気管62の位置Bに追加ガスを導入する場合の方が、水素ガスの排気を向上させることができる。
【0034】
位置Cにおいてスローリークを実行すると、粘性流の排気流れが第1チャンバ21と粗引きポンプ30とを結ぶ排気管61上に形成される。この粘性流の排気流れによって排気管61と排気管62とが交差する位置Aにおいて、ターボ分子ポンプ40から排気される水素ガスが粗引きポンプ30へと流れる際に水素ガスが押し戻され水素ガスの排気流れに淀みが生じる。このため、位置Cでは、ターボ分子ポンプ40により圧縮された排気ガスが効率よく排気されない。
【0035】
一方、位置Bにおいてスローリークを実行すると、粘性流の排気流れがターボ分子ポンプ40と位置Aとを結ぶ排気管62上に形成される。位置Bは、ターボ分子ポンプ40の排気側に近い位置であるため、排気側に留まっている水素ガスを押し流すことができる位置である。押し流された水素ガスは、排気管61と排気管62とが交差する位置Aを通過する際に、第1チャンバ21から粗引きポンプ3への排気流れに逆らうことなく粗引きポンプ3へ流れる。このため、位置Bからのスローリークにより、水素ガスの流れに淀みが生じることなく、ターボ分子ポンプ40により圧縮された排気ガスが停滞せずに粗引きポンプ30側へと効率良く流れる。これにより、質量分析装置1は、水素ガスの排気性能を向上することができる。
【0036】
なお、位置Cにおいてスローリークを実行する質量分析装置1Aは、油回転ポンプを粗引きポンプ30として使用する際に、油が逆拡散して粗引きポンプ30から排気管内に油が侵入する現象をスローリークにより防止する。さらに、粗引きポンプ30は、負荷がかかっていない状態では、回転部の動作により振動が発生する場合がある。質量分析装置1Aは、スローリークにより粗引きポンプ30に負荷をかけることで回転部の動作を抑制し、振動による騒音を防止することができる。これらの効果は、位置Bにおいてスローリークを実行する質量分析装置1においても同様に得られる効果である。
【0037】
追加ガスの導入量は、0.5sccmから0.05slm(=0.05×10sccm)の範囲とするのがよい。追加ガスの導入量が多すぎるとターボ分子ポンプ40の背圧が高くなり、ターボ分子ポンプ40の圧縮比が低くなる。これにより、第3チャンバ23の高真空領域の真空度が低下する。逆に、追加ガスの導入量が少なすぎると粗引きポンプ30から排気管内に油が侵入する現象を抑制する効果が薄れてしまう。追加ガスの導入量を上記範囲とすることにより、第3チャンバ23の高真空領域の真空度の低下を防止することができるとともに、粗引きポンプから排気管内に油が侵入する現象を防止することができる。
【0038】
図4に示すように、プラズマ点灯時において位置Cからスローリークを実行する場合、真空度が8.50×10-4[Pa]から1.10×10-3[Pa]まで真空度が悪化する。このときのターボ分子ポンプ40の背圧は、139[Pa]である。それに対し、図4に示すようにプラズマ点灯時に位置Bからスローリークを実行する場合において追加ガスの導入量が多い場合、位置Cからの場合に比べ真空度が高い状態が持続される。このときのターボ分子ポンプ40の背圧は、160[Pa]である。さらに、プラズマ点灯時に位置Bからスローリークを実行する場合において追加ガスの導入量が適量の場合、追加ガスの導入量が多い場合に比べ真空度が高い状態が持続される。このときのターボ分子ポンプ40の背圧は、141[Pa]である。
【0039】
このように、プラズマ点灯時においては、位置Cにおいてスローリークを実行する場合は、位置Bからスローリークを実行する場合に比べ真空度が悪くなってしまう。それに対し、位置Bにおいてスローリークを実行すると、粘性流の排気流れがターボ分子ポンプ40と位置Aとを結ぶ排気管62上に形成される。位置Bは、ターボ分子ポンプ40の排気側に近い位置であるため、排気側に留まっている水素ガスを押し流すことができる位置である。押し流された水素ガスは、排気管61と排気管62とが交差する位置Aを通過する際に、第1チャンバ21から粗引きポンプ3への排気流れに逆らうことなく粗引きポンプ3へ流れる。このため、位置Bからのスローリークにより、水素ガスの流れに淀みが生じることなく、ターボ分子ポンプ40により圧縮された排気ガスが停滞せずに粗引きポンプ30側へと効率良く流れる。これにより、質量分析装置1は、水素ガスの排気性能を向上することができる。
【0040】
追加ガスの流量が多い場合は、追加ガスの流量が適量の場合に比べ、ターボ分子ポンプ40の背圧が高くなるため、ターボ分子ポンプ40の圧縮比が低くなる。そのため、第3チャンバ23の高真空領域の真空度が低下する。質量分析装置1では、プラズマ点灯時において位置Bから適量の追加ガスが導入されることにより、ターボ分子ポンプ40の背圧が抑えられるため、ターボ分子ポンプ40の良好な圧縮比を実現することができる。これにより、質量分析装置1は、水素ガスの排気性能を向上することができる。
【0041】
質量分析装置1は、プラズマ消灯時およびプラズマ点灯時に追加ガスを最適な導入位置でスローリークすることにより水素ガスの排気性能を向上することができる。これは、粗引きポンプ30をドライポンプのような排気性能の高いポンプに交換する場合よりも効果が大きく、経済的である。
【0042】
<実施の形態2>
実施の形態2においては、弁50に換えて流量を制御可能な電子制御弁を用いた構成について説明する。図5は、実施の形態2に係る質量分析装置における制御装置10が実行する処理を示すフローチャートである。
【0043】
制御装置10は、まずプラズマトーチ15の稼働状態に基づいてプラズマ点灯中か否かを判定する(ステップS1)。制御装置10は、プラズマ消灯中であると判定した場合(ステップS1のNO)、電子制御弁を開放し、スローリークを実行する(ステップS2)。そして、制御装置10は、処理をメインルーチンへ戻す。一方、制御装置10は、プラズマ点灯中であると判定した場合(ステップS1のYES)、電子制御弁を閉鎖し、スローリークを終了する(ステップS3)。そして、制御装置10は、処理をメインルーチンへ戻す。
【0044】
このように、プラズマ消灯時の状態では、制御装置10が電子制御弁を開放し、スローリークを実行するため、粗引きポンプ30から排気管内に油が侵入する現象と負荷の掛かっていない状態の粗引きポンプ30の騒音を防止することができる。一方、プラズマ点灯時の状態では、サンプリングコーン71からのプラズマガスの導入により粗引きポンプ30から排気管内に油が侵入する現象と騒音とをある程度防止できるためスローリークを終了することができる。
【0045】
<実施の形態3>
実施の形態3においては、弁50が三方弁51に置き換えられた構成について説明する。図6は、実施の形態3に係る質量分析装置1Bの概略構成を示す図である。図6の質量分析装置1Bは、図1の質量分析装置1における弁50が三方弁51に置き換えられた構成となっており、その他の構成については同様である。以下では、質量分析装置1Bにおいて、図1の質量分析装置1と同じ構成については、同じ符号を付して詳細な説明は繰り返さない。
【0046】
図6に示すように、三方弁51は、吸気管63に接続される流路を、第1吸気管65と第2吸気管66との間で切換えることが可能に構成されている。追加ガスは、図示しないガス源から第1吸気管65または第2吸気管66を通過し、三方弁51を通過した後、吸気管63を通過して排気管62へ導入される。ここで、第1吸気管65は、第2吸気管66よりも内径が小さい。このため、第1吸気管65から吸気管63に導入される追加ガスの量は、第2吸気管66から吸気管63に導入される追加ガスの量よりも少ない。
【0047】
図7は、実施の形態3に係る質量分析装置1Bにおける制御装置10が実行する処理を示すフローチャートである。
【0048】
制御装置10は、まずプラズマトーチ15の稼働状態に基づいてプラズマ点灯中か否かを判定する(ステップS11)。制御装置10は、プラズマ消灯中であると判定した場合(ステップS11のNO)、三方弁51を制御して第2吸気管66が吸気管63と連通するように切換える(ステップS12)。そして、制御装置10は、処理をメインルーチンへ戻す。これにより、吸気管63に導入される追加ガスの量が増加する。
【0049】
制御装置10は、プラズマ点灯中であると判定した場合(ステップS11のYES)、三方弁51を制御して第1吸気管65が吸気管63と連通するように切換える(ステップS13)。そして、制御装置10は、処理をメインルーチンへ戻す。これにより、吸気管63に導入される追加ガスの量が低減する。
【0050】
このように、プラズマ消灯時には、吸気管63に導入される追加ガスの量を増加することによって粗引きポンプ30の負荷を増加させ、粗引きポンプ30から排気管内に油が侵入する現象を追加ガスの圧力により防止することができる。さらに、プラズマ消灯時には、追加ガスが増加されるため、負荷の掛かっていない状態における振動等により騒音が発生する粗引きポンプ30に負荷をかけることで騒音を防止することができる。一方、プラズマ点灯時には、追加ガスの流量が低減されるため、ターボ分子ポンプ40の背圧が低くなる。これにより、ターボ分子ポンプ40の圧縮比を向上させることで第3チャンバ23の高真空領域の真空度を良くすることができる。
【0051】
[態様]
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0052】
(第1項) 一態様に係る質量分析装置は、プラズマを点灯し、試料をイオン化することで質量分析を行う。質量分析装置は、粗引きポンプと、ターボ分子ポンプと、粗引きポンプによって排気が行われる第1チャンバと、第1チャンバの後段に位置し、水素ガスが導入される第2チャンバと、第2チャンバの後段に位置し、質量分析部が設けられた第3チャンバと、第1チャンバから粗引きポンプへの排気流れを形成する第1流路と、第2チャンバおよび第3チャンバからターボ分子ポンプよって第1流路への排気流れを形成する第2流路と、を備える。質量分析装置は、水素ガスよりも分子量の大きい追加ガスを第2流路へ導入する。
【0053】
第1項に記載の質量分析装置によれば、水素ガスよりも分子量の大きい追加ガスを第2流路へ導入するため、多くの水素ガスが導入された場合にも粘性流の排気流れを第2流路上に形成することができる。このため、質量分析装置1では、ターボ分子ポンプにより圧縮された排気ガスが停滞せずに粗引きポンプ側へと効率良く流れる。これにより、質量分析装置1は、水素ガスの排気性能を向上することができる。
【0054】
(第2項) 第2流路へ導入される追加ガスの流量を調整する弁をさらに備える。弁は、プラズマの点灯時およびプラズマの消灯時には、最大開度よりも小さい開度に設定される。
【0055】
第2項に記載の質量分析装置によれば、プラズマ消灯時およびプラズマ点灯時に追加ガスを最適な導入位置でスローリークすることにより水素ガスの排気性能を向上することができる。
【0056】
(第3項) 第2流路へ導入される追加ガスの流量を調整する弁をさらに備える。弁は、プラズマの点灯時に閉状態とされ、プラズマの消灯時に開状態とされる。
【0057】
第3項に記載の質量分析装置によれば、プラズマ消灯時には、弁を開放することによってスローリークが実行されるため、粗引きポンプから排気管内に油が侵入する現象と負荷の掛かっていない状態の粗引きポンプの騒音とを防止することができる。一方、プラズマ点灯時には、プラズマガスの導入により粗引きポンプから排気管内に油が侵入する現象と騒音とをある程度防止できるためスローリークを終了することができる。
【0058】
(第4項) 第2流路へ導入される追加ガスの流量を調整する弁をさらに備える。プラズマの点灯時に弁によって導入される追加ガスの流量は、プラズマの消灯時に弁によって導入される追加ガスの流量よりも少ない。
【0059】
第4項に記載の質量分析装置によれば、プラズマ消灯時には、追加ガスが増加されるため、粗引きポンプから排気管内に油が侵入する現象を追加ガスの圧力により防止することができる。さらに、プラズマ消灯時には、追加ガスが増加されるため、負荷の掛かっていない状態における振動等により騒音が発生する粗引きポンプに負荷をかけることで騒音を防止することができる。一方、プラズマ点灯時には、追加ガスの流量が低減されるため、ターボ分子ポンプの背圧が低くなる。これにより、ターボ分子ポンプの圧縮比を向上させることで第3チャンバの高真空領域の真空度を良くすることができる。
【0060】
(第5項) プラズマ点灯時に第2流路へ導入される追加ガスの流量は、0.5sccmから0.05slmまでの範囲である。
【0061】
追加ガスの導入量が多すぎるとターボ分子ポンプの背圧が高くなり、ターボ分子ポンプの圧縮比が低くなる。これにより、第3チャンバの高真空領域の真空度が低下する。逆に、追加ガスの導入量が少なすぎると粗引きポンプから排気管内に油が侵入する現象を抑制する効果が薄れてしまう。第5項に記載の質量分析装置によれば、第3チャンバの高真空領域の真空度の低下を防止することができるとともに、粗引きポンプから排気管内に油が侵入する現象を防止することができる。
【0062】
(第6項) 追加ガスは、大気成分を有するガス、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスのいずれか、またはこれらのうち少なくとも2種を混合したガスである。
【0063】
第6項に記載の質量分析装置によれば、追加ガスとして様々なガスを用いることができる。
【0064】
今回開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0065】
1,1A,1B 質量分析装置、10 制御装置、11 CPU、12 メモリ、14 セル、15 プラズマトーチ、16 ガス供給源、20 本体、21 第1チャンバ、22 第2チャンバ、23 第3チャンバ、30 粗引きポンプ、40 ターボ分子ポンプ、50 弁、51 三方弁、61,62 排気管、63,64,67,68 吸気管、65 第1吸気管、66 第2吸気管、71 サンプリングコーン、71a,72a オリフィス、72 スキマーコーン、73 ゲート弁、74 隔壁、81 多重極電極、82 検出器、90 真空計、P プラズマ。
図1
図2
図3
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図5
図6
図7