(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】超硬合金およびそれを含む工具
(51)【国際特許分類】
C22C 29/08 20060101AFI20240827BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20240827BHJP
C22C 1/051 20230101ALI20240827BHJP
【FI】
C22C29/08
B23B27/14 B
C22C1/051 G
(21)【出願番号】P 2023560161
(86)(22)【出願日】2023-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2023017869
【審査請求日】2024-05-13
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】広瀬 和弘
(72)【発明者】
【氏名】城戸 保樹
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特許第6969732(JP,B1)
【文献】特許第7283636(JP,B1)
【文献】特開2005-200671(JP,A)
【文献】特開2009-024214(JP,A)
【文献】特開2020-157473(JP,A)
【文献】国際公開第2022/209336(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/053441(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
C22C 1/051,29/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1硬質相と、第2硬質相と、結合相と、からなる超硬合金であって、
前記第1硬質相は、炭化タングステン粒子からなり、
前記第1硬質相の面積基準での10%累積粒径D10は、0.30μm以上0.60μm以下であり、
前記第1硬質相の面積基準での90%累積粒径D90は、0.90μm以上1.40μm以下であり、
前記第2硬質相は、TiNbC、TiNbNおよびTiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物を含み、
前記超硬合金の前記第2硬質相の含有率は、0.10体積%以上0.50体積%以下であり、
前記第2硬質相の平均粒径は、0.03μm以上0.50μm以下であり、
前記結合相は、コバルトを80質量%以上含み、
前記超硬合金の前記結合相の含有率は、8.0体積%以上16.0体積%以下であり、
前記結合相の平均粒径は、0.15μm以上0.45μm以下であり、
前記結合相の面積基準での95%累積粒径D95は、1.5μm以下であり、
前記結合相の分散度は、0.15以上0.25以下であ
り、
前記結合相の分散度は、前記超硬合金の第1画像中に設定された5つの互いに重複しない40.3μm×30.2μmの矩形の測定領域のそれぞれにおける前記測定領域内の全てのボロノイ領域のボロノイ面積の標準偏差σの平均であり、
前記ボロノイ領域は、前記測定領域において、前記結合相のそれぞれの重心位置を母点として算出され、
前記第1画像上で、前記結合相の存在領域が特定されており、
前記第1画像は、前記超硬合金の断面を走査型電子顕微鏡で撮像して得られる反射電子像に対して、SEM付帯のエネルギー分散型X線分析装置を用いて元素分析を行い得られる元素マッピング像と、前記反射電子像において、前記第2硬質相のみを抽出して得られる第1二値化処理後の画像と、前記反射電子像において、前記第2硬質相と前記結合相とを抽出して得られる第2二値化処理後の画像とを重ねて得られる、超硬合金。
【請求項2】
前記超硬合金において、チタンおよびニオブの合計に対する、ニオブの質量基準の百分率は、3%以上20%以下である、請求項1に記載の超硬合金。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の超硬合金を含む工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超硬合金およびそれを含む工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炭化タングステン(WC)を主成分とする相と、鉄族元素を主成分とする結合相とを備える超硬合金が、切削工具の素材に利用されている(特許文献1~特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-024214号公報
【文献】特開2013-060666号公報
【文献】国際公開第2018/180911号
【文献】特開2021-134364号公報
【文献】特開2016-098393号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の超硬合金は、
第1硬質相と、第2硬質相と、結合相と、からなる超硬合金であって、
前記第1硬質相は、炭化タングステン粒子からなり、
前記第1硬質相の面積基準での10%累積粒径D10は、0.30μm以上0.60μm以下であり、
前記第1硬質相の面積基準での90%累積粒径D90は、0.90μm以上1.40μm以下であり、
前記第2硬質相は、TiNbC、TiNbNおよびTiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物を含み、
前記超硬合金の前記第2硬質相の含有率は、0.10体積%以上0.50体積%以下であり、
前記第2硬質相の平均粒径は、0.03μm以上0.50μm以下であり、
前記結合相は、コバルトを80質量%以上含み、
前記超硬合金の前記結合相の含有率は、8.0体積%以上16.0体積%以下であり、
前記結合相の平均粒径は、0.15μm以上0.45μm以下であり、
前記結合相の面積基準での95%累積粒径D95は、1.5μm以下であり、
前記結合相の分散度は、0.15以上0.25以下である、超硬合金である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、実施形態1の超硬合金の反射電子像の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、
図1に示される反射電子像に基づき作成されたボロノイ図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、コスト低減の要求がますます厳しくなり、例えば、チタン合金やステンレス等の難削材の高能率加工においても、長い寿命を有する工具が求められている。そこで本開示は、工具材料として用いた場合に、工具の長寿命化を可能とする超硬合金およびそれを含む工具を提供することを目的とする。
【0007】
[本開示の効果]
本開示の超硬合金は、工具材料として用いた場合に、工具の長寿命化を可能とする。本開示の超硬合金を含む工具は、長い工具寿命を有することができる。
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の超硬合金は、
第1硬質相と、第2硬質相と、結合相と、からなる超硬合金であって、
前記第1硬質相は、炭化タングステン粒子からなり、
前記第1硬質相の面積基準での10%累積粒径D10は、0.30μm以上0.60μm以下であり、
前記第1硬質相の面積基準での90%累積粒径D90は、0.90μm以上1.40μm以下であり、
前記第2硬質相は、TiNbC、TiNbNおよびTiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物を含み、
前記超硬合金の前記第2硬質相の含有率は、0.10体積%以上0.50体積%以下であり、
前記第2硬質相の平均粒径は、0.03μm以上0.50μm以下であり、
前記結合相は、コバルトを80質量%以上含み、
前記超硬合金の前記結合相の含有率は、8.0体積%以上16.0体積%以下であり、
前記結合相の平均粒径は、0.15μm以上0.45μm以下であり、
前記結合相の面積基準での95%累積粒径D95は、1.5μm以下であり、
前記結合相の分散度は、0.15以上0.25以下である、超硬合金である。
【0009】
本開示の超硬合金は、工具材料として用いた場合に、工具の長寿命化を可能とする。
【0010】
(2)上記(1)において、前記超硬合金において、チタンおよびニオブの合計に対する、ニオブの質量基準の百分率は、3%以上20%以下であってもよい。これによると、超硬合金において第2硬質相を微細に分散でき、超硬合金の耐溶着性を向上することができる。
【0011】
(3)上記(1)または(2)において、前記結合相の分散度は、前記超硬合金の第1画像中に設定された5つの互いに重複しない40.3μm×30.2μmの矩形の測定領域のそれぞれにおける前記測定領域内の全てのボロノイ領域のボロノイ面積の標準偏差σの平均であり、
前記ボロノイ領域は、前記測定領域において、前記結合相のそれぞれの重心位置を母点として算出され、
前記第1画像上で、前記結合相の存在領域が特定されており、
前記第1画像は、前記超硬合金の断面を走査型電子顕微鏡で撮像して得られる反射電子像に対して、SEM付帯のエネルギー分散型X線分析装置を用いて元素分析を行い得られる元素マッピング像と、前記反射電子像において、前記第2硬質相のみを抽出して得られる第1二値化処理後の画像と、前記反射電子像において、前記第2硬質相と前記結合相とを抽出して得られる第2二値化処理後の画像とを重ねて得られる。
【0012】
(4)本開示は、上記(1)から(3)のいずれかに記載の超硬合金を含む工具である。本開示の工具は、長い工具寿命を有することができる。
【0013】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0014】
本開示において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「TiNbC」と記載されている場合、TiNbCを構成する原子数の比は、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。
【0015】
本開示において、圧力を示す場合は、特に限定しないときは大気圧基準の圧力を意味する。
【0016】
本開示の超硬合金およびそれを含む工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0017】
[実施形態1:超硬合金]
本開示の一実施形態(以下、「実施形態1」とも記す。)の超硬合金は、
第1硬質相と、第2硬質相と、結合相と、からなる超硬合金であって、
前記第1硬質相は、炭化タングステン粒子からなり、
前記第1硬質相の面積基準での10%累積粒径D10は、0.30μm以上0.60μm以下であり、
前記第1硬質相の面積基準での90%累積粒径D90は、0.90μm以上1.40μm以下であり、
前記第2硬質相は、TiNbC、TiNbNおよびTiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物を含み、
前記超硬合金の前記第2硬質相の含有率は、0.10体積%以上0.50体積%以下であり、
前記第2硬質相の平均粒径は、0.03μm以上0.50μm以下であり、
前記結合相は、コバルトを80質量%以上含み、
前記超硬合金の前記結合相の含有率は、8.0体積%以上16.0体積%以下であり、
前記結合相の平均粒径は、0.15μm以上0.45μm以下であり、
前記結合相の面積基準での95%累積粒径D95は、1.5μm以下であり、
前記結合相の分散度は、0.15以上0.25以下である、超硬合金である。
【0018】
本開示の超硬合金を含む工具は、長い工具寿命を有することができる。この理由は以下の通りと推察される。
【0019】
(i)本開示の超硬合金において、第1硬質相は、炭化タングステン粒子からなり、第1硬質相の面積基準での10%累積粒径D10は、0.30μm以上0.60μm以下であり、第1硬質相の面積基準での90%累積粒径D90は、0.90μm以上1.40μm以下である。これによると、超硬合金は機械的強度と硬度とのバランスに優れ、優れた耐欠損性および耐摩耗性を両立することが可能である。
【0020】
(ii)本開示の超硬合金において、第2硬質相は、TiNbC、TiNbNおよびTiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物を含み、超硬合金の第2硬質相の含有率は、0.10体積%以上0.50体積%以下であり、第2硬質相の平均粒径は、0.03μm以上0.50μm以下である。これによると、第2硬質相が結合相を微細に分割することができ、超硬合金は優れた耐溶着性を有することができる。また、第2硬質相の凝集体の生成や粗大な第2硬質相の存在など、超硬合金組織の異常に起因する機械的強度の低下も生じにくく、超硬合金は優れた耐欠損性を有することができる。
【0021】
(iii)本開示の超硬合金において、結合相は、コバルトを80質量%以上含み、超硬合金の結合相の含有率は、8.0体積%以上16.0体積%以下である。これによると、超硬合金は機械的強度に優れ、優れた耐欠損性を有することができ、かつ、耐溶着性も良好である。本開示の超硬合金において、結合相の平均粒径は、0.15μm以上0.45μm以下であり、結合相の面積基準での95%累積粒径D95は、1.5μm以下であり、結合相の分散度は、0.15以上0.25以下である。これによると、超硬合金において結合相が微細に分散されており、超硬合金は優れた耐溶着性を有することができる。
【0022】
<超硬合金の組成>
実施形態1の超硬合金は第1硬質相と、第2硬質相と、結合相とからなる。実施形態1の超硬合金は、本開示の効果を損なわない限りにおいて、不純物を含むこともできる。すなわち、超硬合金は、第1硬質相と、第2硬質相と、結合相と、不純物とからなることができる。不純物としては、例えば、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、カルシウム(Ca)、珪素(Si)、硫黄(S)が挙げられる。超硬合金の不純物の含有率(不純物が2種類以上の場合は、これらの含有率の合計)は、0質量%以上0.1質量%未満が好ましい。超硬合金の不純物の含有率は、ICP発光分析(Inductively Coupled Plasma Emission Spectroscopy(測定装置:島津製作所「ICPS-8100」(商標))により測定される。
【0023】
実施形態1において、超硬合金の第1硬質相の含有率は、超硬合金全体を100体積%とした場合に、100体積%から第2硬質相の含有率および結合相の含有率を減じた値とすることができる。超硬合金の第2硬質相の含有率および超硬合金の結合相の含有率は後述する。超硬合金の第1硬質相の含有率は、例えば、83.5体積%以上91.9体積%以下でもよい。
【0024】
実施形態1において、超硬合金の第2硬質相の含有率は、0.10体積%以上0.50体積%以下である。これによると、超硬合金の耐溶着性が向上しやすい。第2硬質相の含有率が0.10体積%未満では第2硬質相の存在量が少なく結合相を分割する効果が小さく、結合相の微細分散性を向上させることができない。第2硬質相の含有率が0.50体積%超では第2硬質相の凝集体が生じるなど異常組織の原因となり、結合相の良好な微細分散性と機械的強度の両立ができない。超硬合金の第2硬質相の含有率の下限は、0.15体積%以上でもよく、0.20体積%以上でもよく、0.30体積%以上でもよい。超硬合金の第2硬質相の含有率の上限は、0.45体積%以下でもよく、0.40体積%以下でもよい。超硬合金の第2硬質相の含有率は、0.15体積%以上0.45体積%以下でもよく、0.20体積%以上0.40体積%以下でもよい。
【0025】
実施形態1において、超硬合金の結合相の含有率は、8.0体積%以上16.0体積%以下である。これによると、超硬合金の強度が向上しやすい。結合相の含有率が8.0体積%未満では機械的強度が低く欠損が生じやすくなり、16.0体積%超では結合相体積が大きくなり耐溶着性が低下する。超硬合金の結合相の含有率の下限は、10.0体積%以上でもよく、12.0体積%以上でもよく、13.0体積%以上でもよい。超硬合金の結合相の含有率の上限は、14.0体積%以下でもよい。超硬合金の結合相の含有率は、10.0体積%以上16.0体積%以下でもよく、12.0体積%以上14.0体積%以下でもよい。
【0026】
超硬合金の第1硬質相の含有率、第2硬質相の含有率および結合相の含有率の測定方法は以下の通りである。
【0027】
(A1)超硬合金の任意の表面又は任意の断面を鏡面加工する。鏡面加工の方法としては、例えば、ダイヤモンドペーストで研磨する方法、集束イオンビーム装置(FIB装置)を用いる方法、クロスセクションポリッシャー装置(CP装置)を用いる方法、及びこれらを組み合わせる方法等が挙げられる。
【0028】
(B1)超硬合金の加工面を走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製「JSM-7800F」)で撮影して反射電子像を得る。反射電子像を5枚準備する。5枚の反射電子像の撮影領域はそれぞれ異なる。撮影箇所は任意に設定することができる。条件は、観察倍率3000倍、加速電圧5kV、反射電子像とする。反射電子像の撮影領域は、超硬合金の断面の中央部、すなわち、超硬合金の表面近傍などバルク部分とは明らかに性状が異なる部分を含まない位置(撮像領域がすべて超硬合金のバルク部分となる位置)に設定する。
【0029】
実施形態1の超硬合金の反射電子像の一例を
図1に示す。
図1において、白色領域が第1硬質相に相当し、灰色領域が結合相に相当し、黒色領域が第2硬質相に相当する。
【0030】
(C1)上記(B1)の撮影領域に対して、SEM付帯のエネルギー分散型X線分析装置(SEM-EDX)を用いて元素分析を行い、元素マッピング像を得る。
【0031】
(D1)上記(B1)で得られた反射電子像をコンピュータに取り込み、画像解析ソフトウェア(ImageJ ver.1.51J8)を用いて二値化処理を行う。二値化処理は、2つの異なる閾値を用いて、第1二値化処理および第2二値化処理を行う。
【0032】
第1二値化処理は、反射電子像をコンピュータに取り込み、反射電子像中の第1硬質相、第2硬質相および結合相のうち、第2硬質相のみが抽出されるように行う。第1二値化処理後の画像では、第2硬質相は黒色で示され、第1硬質相および結合相は白色で示される。
【0033】
第2二値化処理は、第1二値化処理で用いた反射電子像と同一の反射電子像を新たにコンピュータに取り込み、反射電子像中の第2硬質相と結合相とが抽出されるように行う。第2二値化処理後の画像では、第2硬質相および結合相は黒色で示され、第1硬質相は白色で示される。二値化の閾値はコントラストにより変化するため、画像ごとに設定する。
【0034】
(E1)上記(C1)で得られた元素マッピング像と上記(D1)で得られた第1二値化処理後の画像および第2二値化処理後の画像を重ねることにより、第1硬質相、第2硬質相および結合相のそれぞれの存在領域を特定した第1画像を得る。第1画像において、第2二値化処理後の画像において白色で示され、かつ、元素マッピング像においてタングステン(W)および炭素(C)の存在する領域が、第1硬質相の存在領域に該当する。第1画像において、第1二値化処理後の画像において白色で示され、第2二値化処理後の画像において黒色で示され、かつ、元素マッピング像においてコバルトの存在する領域が、結合相の存在領域に該当する。第1画像において、第1二値化処理後の画像において黒色で示され、上記で特定された第1硬質相の存在領域および結合相の存在領域以外の領域が、第2硬質相の存在領域に該当する。
【0035】
(F1)5枚の各第1画像中に縦40.3μm×幅30.2μmの矩形の測定視野を設定する。上記画像解析ソフトウェアを用いて、該測定視野全体の面積を分母として第1硬質相、第2硬質相および結合相のそれぞれの面積百分率を測定する。
【0036】
(G1)本開示において、5つの測定視野における第1硬質相の面積百分率の平均が、超硬合金の第1硬質相の含有率(体積%)に相当し、5つの測定視野における第2硬質相の面積百分率の平均が、超硬合金の第2硬質相の含有率(体積%)に相当し、5つの測定視野における結合相の面積百分率の平均が、超硬合金の結合相の含有率(体積%)に相当する。
【0037】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、超硬合金の断面の切り出し箇所を任意に設定して、該断面上に上記(B1)に記載される撮影領域を任意に設定して、上記(F1)に記載される5つの測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、超硬合金の第1硬質相の含有率、第2硬質相の含有率および結合相の含有率の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0038】
<第1硬質相>
≪組成≫
実施形態1において、第1硬質相は炭化タングステン粒子(以下「WC粒子」とも記す。)からなる。炭化タングステン粒子(以下「WC粒子」とも記す。)は、炭化タングステンからなる粒子である。第1硬質相は、本開示の効果を損なわない限りにおいて、WC粒子内またはWC粒子とともに、鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、カルシウム(Ca)、珪素(Si)、硫黄(S)等を含むことができる。第1硬質相の鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、カルシウム(Ca)、珪素(Si)、硫黄(S)の含有率(2種類以上の場合は、これらの含有率の合計)は、0質量%以上0.1質量%未満が好ましい。第1硬質相の鉄(Fe)、モリブデン(Mo)、カルシウム(Ca)、珪素(Si)、硫黄(S)の含有率は、ICP発光分析により測定される。
【0039】
≪D10およびD90≫
実施形態1において、第1硬質相の面積基準での10%累積粒径D10(以下、「第1硬質相のD10」とも記す。)は、0.30μm以上0.60μm以下であり、第1硬質相の面積基準での90%累積粒径D90(以下、「第1硬質相のD90」とも記す。)は、0.90μm以上1.40μm以下である。これによると、超硬合金は高い硬度を有し、該超硬合金を含む工具は優れた耐摩耗性を有することができる。また、該工具は優れた耐折損性を有することができる。第1硬質相のD10およびD90が、それぞれ前記下限未満の場合には機械的強度が低く欠損が生じやすくなり、第1硬質相のD10およびD90が、それぞれ前記上限超の場合には硬度が低く耐摩耗性が低下する。
【0040】
第1硬質相のD10の下限は、0.33μm以上でもよく、0.36μm以上でもよく、0.38μm以上でもよく、0.40μm以上でもよい。第1硬質相のD10の上限は、0.55μm以下でもよく、0.53μm以下でもよく、0.50μm以下でもよく、0.45μm以下でもよい。第1硬質相のD10は、0.33μm以上0.55μm以下でもよく、0.36μm以上0.53μm以下でもよい。
【0041】
第1硬質相のD90の下限は、0.95μm以上でもよく、1.00μm以上でもよく、1.05μm以上でもよく、1.10μm以上でもよい。第1硬質相のD90の上限は、1.30μm以下でもよく、1.25μm以下でもよく、1.24μm以下でもよい。第1硬質相のD90は、0.95μm以上1.30μm以下でもよく、1.00μm以上1.25μm以下でもよい。
【0042】
実施形態1において、第1硬質相の平均粒径の下限は、0.60μm以上でもよく、0.70μm以上でもよい。第1硬質相の平均粒径の上限は、0.90μm以下でもよく、0.80μm以下でもよい。第1硬質相の平均粒径は、0.60μm以上0.90μm以下でもよく、0.70μm以上0.80μm以下でもよい。本開示において、第1硬質相の平均粒径とは、以下の測定方法で測定される第1硬質相の等面積円相当径(Heywood径、以下、「円相当径」とも記す。)の算術平均を意味する。
【0043】
本開示において、第1硬質相のD10、D90および平均粒径の測定方法は以下の通りである。
【0044】
(A2)上記の超硬合金の第1硬質相の含有率、第2硬質相の含有率および結合相の含有率の測定方法の(A1)~(E1)と同様の方法で、第1画像上で第1硬質相の存在領域を特定する。
【0045】
(B2)5枚の各第1画像中に縦40.3μm×幅30.2μmの矩形の測定視野を設定する。画像解析ソフトウェア(ImageJ ver.1.51J8)を用いて、測定視野中の各第1硬質相の外縁を特定し、各第1硬質相の円相当径を算出する。
【0046】
(C2)5つの測定視野中の全ての第1硬質相の円相当径に基づき、第1硬質相のD10、D90および平均粒径を算出する。
【0047】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、超硬合金の断面の切り出し箇所を任意に設定して、該断面上に上記(B1)に記載される撮影領域を任意に設定して、上記(B2)に記載される測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、第1硬質相のD10、D90および平均粒径の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0048】
<第2硬質相>
≪組成≫
実施形態1において、第2硬質相は、TiNbC、TiNbNおよびTiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物を含む。これによると、超硬合金の耐溶着性が向上する。
【0049】
第2硬質相は、第1化合物に加えて、本開示の効果を損なわない範囲で、Nbを含まないTi化合物(TiCN、TiWCなど)、タングステン(W)、クロム(Cr)、コバルト(Co)などの金属元素を含むことを許容する。第2硬質相のW、CrおよびCoの合計含有率は、例えば、0質量%以上3質量%以下でもよい。第2硬質相中のW、CrおよびCoの含有率は、TEM-EDXにより測定される。
【0050】
第2硬質相が、TiNbC、TiNbNおよびTiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物を含むことは、以下の手順で確認される。
【0051】
(A3)超硬合金の任意の位置をイオンスライサ(装置:日本電子社製 IB09060CIS(商標))を用いて薄片化し、厚さ30~100nmのサンプルを作製する。イオンスライサの加速電圧は、薄片化加工では6kV、仕上加工では2kVである。
【0052】
(B3)上記サンプルを走査透過型電子顕微鏡(STEM)(装置:日本電子社製のJFM-ARM300F(商標))にて50000倍で観察することによってSTEM-HAADF(high-angle annular dark field scanning transmission electron microscope)像を得る。STEM-HAADF像の撮影領域は、サンプルの中央部、すなわち、超硬合金の表面近傍などバルク部分とは明らかに性状が異なる部分を含まない位置(撮像領域がすべて超硬合金のバルク部分となる位置)に設定する。測定条件は、加速電圧200kVである。
【0053】
(C3)次に、STEM-HAADF像中に存在する第2硬質相粒子に対してSTEMに付属するEDXにより、スポット分析を実行し、第2硬質相粒子を構成する元素を定量する。STEM-HAADF像において、第2硬質相粒子は黒色粒子として確認される。スポットサイズは第2硬質相毎に、第2硬質相のみを含む範囲に設定する。構成元素を定量化した結果、チタン(Ti)およびニオブ(Nb)、並びに、炭素(C)および窒素(N)の一方又は両方が存在する場合、第2硬質相が、TiNbC、TiNbNおよびTiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物を含むことが確認される。
【0054】
≪平均粒径≫
実施形態1において、第2硬質相の平均粒径は、0.03μm以上0.50μm以下である。これによると、超硬合金の耐溶着性が向上する。また、第2硬質相が破壊の起点となりにくく、超硬合金を含む工具の耐欠損性が向上する。第2硬質相の平均粒径が0.03μm未満であると、超硬合金の耐溶着性が低下しやすくなる。第2硬質相の平均粒径が0.50μm超であると、超硬合金の耐欠損性が低下しやすくなる。第2硬質相の平均粒径の下限は、0.03μm以上であり、0.04μm以上でもよく、0.05μm以上でもよく、0.06μm以上でもよく、0.15μm以上でもよく、0.20μm以上でもよい。第2硬質相の平均粒径の上限は、0.50μm以下であり、0.45μm以下でもよく、0.40μm以下でもよく、0.35μm以下でもよい。該第2硬質相の平均粒径は、0.04μm以上0.45μm以下でもよく、0.05μm以上0.40μm以下でもよい。
【0055】
第2硬質相の平均粒径の測定方法は以下の通りである。
【0056】
(A4)上記の超硬合金の第1硬質相の含有率、第2硬質相の含有率および結合相の含有率の測定方法の(A1)~(E1)と同様の方法で、第1画像上で第2硬質相の存在領域を特定する。
【0057】
(B4)5枚の各第1画像中に縦40.3μm×幅30.2μmの矩形の測定視野を設定する。画像解析ソフトウェア(ImageJ ver.1.51J8)を用いて、測定視野中の各第2硬質相の外縁を特定し、各第2硬質相の円相当径を算出する。
【0058】
(C4)5つの測定視野中の全ての第2硬質相の円相当径に基づき、第2硬質相の平均粒径を算出する。本開示において、第2硬質相の平均粒径とは、第2硬質相を構成する複数の結晶粒の等面積円相当径(Heywood径)の算術平均を意味する。
【0059】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、超硬合金の断面の切り出し箇所を任意に設定して、該断面上に上記(B1)に記載される撮影領域を任意に設定して、上記(B4)に記載される測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、第2硬質相の平均粒径の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0060】
<結合相>
≪組成≫
実施形態1において、結合相はコバルトを80質量%以上含む。結合相のコバルトの含有率は、90質量%以上100質量%以下でもよく、95質量%以上100質量%以下でもよく、98質量%以上100質量%以下でもよく、100質量%でもよい。結合相のコバルトの含有率は、ICP発光分析により測定される。
【0061】
結合相は、第1元素に加えて、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、タングステン(W)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等を含むことができる。
【0062】
≪平均粒径およびD95≫
実施形態1において、結合相の平均粒径は、0.15μm以上0.45μm以下であり、結合相の面積基準での95%累積粒径D95(以下、「結合相のD95」とも記す。)は、1.5μm以下であり、結合相の分散度は、0.15以上0.25以下である。これによると、超硬合金は優れた耐溶着性を有することができる。結合相の平均粒径を0.15μm未満とするには主に第1硬質相粒径を微細化する必要があり、その場合、機械的強度が低下する。結合相の平均粒径が0.45μm超では耐溶着性が低下する。結合相のD95が1.5μm超では部分的に溶着が生じて欠損が生じやすくなる。
【0063】
結合相の平均粒径の下限は、0.15μm以上であり、0.20μm以上でもよく、0.30μm以上でもよい。結合相の平均粒径の上限は、0.45μm以下であり、0.40μm以下でもよい。結合相の平均粒径は、0.15μm以上0.40μm以下でもよく、0.20μm以上0.45μm以下でもよく、0.30μm以上0.40μm以下でもよい。本開示において、結合相の平均粒径とは、以下の測定方法で測定される結合相の等面積円相当径(Heywood径)の算術平均を意味する。
【0064】
結合相のD95の下限は、0.30μm以上でもよく、0.40μm以上でもよく、0.45μm以上でもよく、0.60μm以上でもよく、0.65μm以上でもよく、0.80μm以上でもよい。結合相のD95の上限は、1.50μm以下であり、1.30μm以下でもよく、1.20μm以下でもよく、1.00μm以下でもよい。結合相のD95は、0.30μm以上1.50μm以下でもよく、0.60μm以上1.30μm以下でもよい。
【0065】
結合相の平均粒径およびD95の測定方法は以下の通りである。
【0066】
(A5)上記の超硬合金の第1硬質相の含有率、第2硬質相の含有率および結合相の含有率の測定方法の(A1)~(E1)と同様の方法で、第1画像上で結合相の存在領域を特定する。
【0067】
(B5)5枚の各第1画像中に縦40.3μm×幅30.2μmの矩形の測定視野を設定する。画像解析ソフトウェア(ImageJ ver.1.51J8)を用いて、該測定視野中の各結合相の外縁を特定し、各結合相の円相当径を算出する。
【0068】
(C5)5つの測定視野中の全ての結合相の円相当径に基づき、結合相の平均粒径およびD95を算出する。本開示において、結合相の平均粒径とは、結合相を構成する複数の結晶粒の等面積円相当径(Heywood径)の算術平均を意味する。
【0069】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、超硬合金の断面の切り出し箇所を任意に設定して、該断面上に上記(B1)に記載される撮影領域を任意に設定して、上記(C5)に記載される測定視野を任意に設定して、上記の手順に従い、結合相の平均粒径およびD95の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0070】
≪分散度≫
実施形態1において、結合相の分散度は、0.15以上0.25以下である。これによると、結合相が微細分散し、超硬合金組織が均質となり、超硬合金は優れた耐溶着性を有することができる。結合相の分散度を0.15未満とするには主に第1硬質相粒径を微細化する必要があり、その場合、機械的強度が低下する。結合相の分散度が0.25超であると、耐溶着性が低下する。結合相の分散度の下限は、0.15以上であり、0.16以上でもよく、0.17以上でもよい。結合相の分散度の上限は、0.25以下であり、0.24以下でもよく、0.23以下でもよく、0.21以下でもよい。結合相の分散度は、0.16以上0.24以下でもよく、0.17以上0.23以下でもよい。
【0071】
本開示において、結合相の分散度はボロノイ図を用いて測定される。具体的な測定方法は以下の通りである。
【0072】
(A6)上記の超硬合金の第1硬質相の含有率、結合相の含有率および結合相の含有率の測定方法の(A1)~(E1)と同様の方法で、第1画像上で結合相の存在領域を特定する。
【0073】
(B6)第1画像中に、40.3μm×30.2μmの矩形の1つの測定領域を設定する。該測定領域において、画像解析ソフトウェア(ImageJ ver.1.51J8)を用いて、各結合相の重心位置を母点としてボロノイ領域を算出し、ボロノイ図を作成する。ボロノイ領域とは、同一平面上に複数の母点を配置したとき、近接する2つの母点間を垂直二等分線によって分割してできるボロノイ境界に囲まれる領域である。
【0074】
図1に示される反射電子像に基づき作成されたボロノイ図を
図2に示す。
図2において、白い線で囲まれた各領域がボロノイ領域である。
【0075】
(C6)画像解析ソフトウェア(ImageJ ver.1.51J8)を用いて、測定領域内のボロノイ領域の全てについて、それぞれのボロノイ面積(μm2)を算出する。ここで、測定領域内のボロノイ領域とは、ボロノイ領域の全てが測定領域内に存在するボロノイ領域を意味する。従って、ボロノイ領域の一部が測定領域の外側に存在する場合は、該ボロノイ領域は、測定領域内のボロノイ領域には含まれない。測定領域内の全てのボロノイ面積の標準偏差σを算出する。
【0076】
(D6)上記の標準偏差σの算出を、5つの互いに重複しない異なる測定領域において行う。本開示において、5つの測定領域における標準偏差σの平均が、超硬合金の結合相の分散度に該当する。
【0077】
出願人が測定した限りでは、同一の試料において測定する限りにおいては、超硬合金の断面の切り出し箇所を任意に設定して、上記(B6)に記載される測定領域を任意に設定して、上記の手順に従い、結合相の分散度の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0078】
<超硬合金におけるNb/(Ti+Nb)百分率>
実施形態1の超硬合金において、チタンとニオブの合計に対する、ニオブの質量基準の百分率(以下、「Nb/(Ti+Nb)百分率」とも記す。)は、2%以上30%以下でもよく、3%以上20%以下でもよい。これによると、超硬合金において第2硬質相を微細に分散でき、超硬合金の耐溶着性を向上することができる。Nb/(Ti+Nb)百分率が2%未満、あるいは存在しない場合には第2硬質相粒子の分散効果が小さく耐溶着性が低下しやすい。Nb/(Ti+Nb)百分率が30%超の場合第2硬質相粒子が粒成長しやすくなり機械的強度が低下して欠損が生じやすい。Nb/(Ti+Nb)百分率の下限は、4%以上でもよく、5%以上でもよく、10%以上でもよい。Nb/(Ti+Nb)百分率の上限は、18%以下でもよく、16%以下でもよい。Nb/(Ti+Nb)百分率は、4%以上18%以下でもよく、5%以上16%以下でもよい。
【0079】
本開示において、超硬合金におけるチタンとニオブの合計に対する、ニオブの質量基準の百分率は、ICP発光分光分析法により測定される。
【0080】
出願人が測定した限りでは、同一条件で製造した複数の試料において超硬合金におけるNb百分率の平均の測定を複数回行っても、測定結果のばらつきはほとんどないことが確認された。
【0081】
<超硬合金のバナジウム含有率>
実施形態1の超硬合金のバナジウム含有率は、0質量%以上0.2質量%以下でもよく、0質量%以上0.1質量%以下でもよい。これによると、超硬合金中にバナジウムを含む粗大な析出物が形成されること、および、WC粒子間の界面にバナジウムが析出することを抑制することができる。これにより超硬合金の機械的特性の低下が抑制される。超硬合金のバナジウム含有率は、ICP発光分析により測定される。
【0082】
<超硬合金のクロム含有率>
実施形態1の超硬合金のクロム含有率は、0.2質量%以上1.0質量%以下でもよく、0.4質量%以上0.8質量%以下でもよい。これによると、超硬合金中にクロムを含む粗大な析出物が形成されること、および、WC粒子間の界面にクロムが析出することを抑制することができる。これにより超硬合金の機械的特性の低下が抑制される。超硬合金のクロム含有率は、ICP発光分析により測定される。
【0083】
<製造方法>
実施形態1の超硬合金は、例えば以下の方法で作製することができる。
【0084】
≪原料の準備≫
原料粉末を準備する。第1硬質相の原料として、平均粒径の異なる2種類の炭化タングステン(WC)粉末を準備する。以下、2種類のWC粉末を、第1WC粉末および第2WC粉末とも記す。第2硬質相の原料粉末として、チタンおよびニオブの一方または両方を含む炭化物、窒化物、炭窒化物、酸化物、複合炭窒化物などを準備する。第2硬質相の原料は、例えば、炭窒化チタン(TiCN)粉末、炭化ニオブ(NbC)粉末が挙げられる。結合相の原料として、コバルト(Co)粉末と、必要に応じて、鉄(Fe)粉末、ニッケル(Ni)粉末を準備する。粒成長抑制剤として、炭化クロム(Cr3C2)粉末、炭化バナジウム(VC)粉末を準備する。
【0085】
第1WC粉末の平均粒径は、0.3μm以上0.8μm以下とすることができる。第2WC粉末の平均粒径は、0.1以上0.5μm以下とすることができる。第1WC粉末の平均粒径は、第2WC粉末の平均粒径よりも大きい。平均粒径は、マイクロトラック社製の粒度分布測定装置(商品名:MT3300EX)を用いて測定される。
【0086】
炭窒化チタン(TiCN)粉末の平均粒径は、0.1μm以上1.0μm以下とすることができる。炭化ニオブ(NbC)粉末の平均粒径は、0.1μm以上2.0μm以下とすることができる。コバルト(Co)粉末の平均粒径は、0.1μm以上5μm以下とすることができる。鉄(Fe)粉末の平均粒径は、0.1μm以上5μm以下とすることができる。ニッケル(Ni)粉末の平均粒径は、0.1μm以上5μm以下とすることができる。これらの原料粉末の平均粒径とは、原料粉末の球相当径の個数基準のメジアン径d50を意味する。原料粉末の平均粒径は、マイクロトラック社製の粒度分布測定装置(商品名:MT3300EX)を用いて測定される。
【0087】
≪原料粉末の混合≫
次に、原料粉末を混合して混合粉末を得る。混合装置として、ボールミル、アトライター、カルマンミキサーなどを用いることができる。混合時間は、各混合方法によって適宜調整することができる。まず、第2硬質相の原料粉末(例えば、炭窒化チタン(TiCN)粉末、炭化ニオブ(NbC)粉末)を混合装置に投入して所定の時間、事前混合することにより、これらの粉末を微細化することもできる。事前混合の時間は、第2硬質相の原料粉末の平均粒径によって適宜設定することができる。例えば、炭窒化チタン(TiCN)粉末の平均粒径が0.1μm以上1.0μm以下であり、炭化ニオブ(NbC)粉末の平均粒径が0.1μm以上2.0μm以下の場合、事前混合の時間は60分以上120分以下とすることができる。その後、第1WC粉末、第2WC粉末、粒成長抑制剤、コバルト粉末を含む結合相の原料粉末を混合装置に投入して、他の原料粉末と混合して混合粉末を得る。
【0088】
原料粉末の混合比は、超硬合金において、第2硬質相の含有率が0.10体積%以上0.50体積%以下、かつ、結合相の含有率が8.0体積%以上16.0体積%以下となるように調整する。
【0089】
粒成長抑制剤として、炭化バナジウム(VC)粉末を用いる場合は、混合粉末中のバナジウムの含有率が0.2質量%以下となるように調整する。粒成長抑制剤として、炭化クロム(Cr3C2)粉末を用いる場合は、混合粉末中のCr3C2の含有率が1.3質量%以下となるように調整する。
【0090】
≪成形≫
次に、混合粉末を所望の形状に成形して、成形体を得る。成形方法および成形条件は、一般的な方法および条件を採用すればよく、特に問わない。
【0091】
≪焼結≫
次に、成形体を焼結炉に入れ、真空雰囲気、あるいは窒素、アルゴンなどのガス雰囲気下、温度1380~1420℃、圧力0.3~30kPaで0~120分保持して成形体を焼結して焼結体を得る。次に、焼結体を室温まで急冷して、超硬合金を得ることができる。
【0092】
≪製造方法の特徴≫
上記の混合工程では、平均粒径の異なる第1WC粉末および第2WC粉末を混合する。第1WC粉末を構成する第1WC粒子、および、第2WC粉末を構成する第2WC粒子は、超硬合金の組織中で混ざりあい、微粒の第1WC粒子間の隙間を超微粒の第2WC粒子が埋めることにより、結合相の平均自由行路を低下させることができると推察される。これにより、超硬合金において、結合相が微細分散して存在しやすくなると推察される。
【0093】
上記の混合工程では、第2硬質相の原料粉末(例えば、炭窒化チタン(TiCN)粉末、炭化ニオブ(NbC)粉末)を混合装置に投入して所定の時間、事前混合することにより、これらの粉末を所定の粒径に制御する。これにより、超硬合金において、結合相が微細分散して存在しやすくなると推察される。
【0094】
従来、コバルトを含む結合相を超硬合金中に微細分散させるために、1420℃超で焼結を行う必要があった。しかし、1420℃超で焼結すると、WC粒子が粒成長しやすく、WC粒子の粒成長に伴い、結合相も粗大化してしまう。結合相を微細化するためには、粒成長抑制効果を有するバナジウムやクロムを多量に添加する、または、1420℃以下の温度で焼結する必要がある。粒成長抑制効果を有するバナジウムやクロムを多量に添加すると、超硬合金中に粗大な析出物が形成されたり、WC粒子間の界面にバナジウムやクロムが析出したりするため、超硬合金の機械的特性が低下する。1420℃以下の温度で焼結すると、超硬合金中でコバルトを含む結合相が微細分散されない。従来の超硬合金の製造方法では、結合相の良好な微細分散性と、超硬合金の良好な機械的強度とを両立することができなかった。
【0095】
本開示の製造方法では、粒成長抑制剤として、炭化バナジウム(VC)粉末を用いる場合は、混合粉末中のバナジウムの含有率が0.2質量%以下となるように調整し、炭化クロム(Cr3C2)粉末を用いる場合は、混合粉末中のCr3C2の含有率が1.3質量%以下となるように調整する。さらに、超硬合金の結合相の含有率が8.0体積%以上16.0体積%以下となるように、混合粉末中のコバルト粉末の含有率を調整する。第2硬質相の原料粉末として、所定量のニオブを含む粉末を用いる。これにより、1420℃以下の温度で焼結した場合、WC粒子の粒成長を抑制しつつ、ニオブが結合相中に固溶して、結合相の特に粗大な結合相部にチタンと共に再析出し、これにより結合相を微細に分割することができ、結合相の微細分散性を向上させることができる。このような製造方法は、本発明者らが見出したものである。
【0096】
第2硬質相の原料粉末にニオブが含まれない場合には、第2硬質相の分散性が低下し、結合相を分割する効果が得られにくい。また、第2硬質相の原料粉末にニオブ含有量が多い場合には、第2硬質相の粒成長を促すことで粗大な第2硬質相が析出し、抗折力といった特性を低下させる。
【0097】
[実施形態2:工具]
本開示の一実施形態(以下、「実施形態2」とも記す。)の工具は、実施形態1に記載の超硬合金を含む切削工具である。実施形態2の工具は、長い工具寿命を有することができる。これは、超硬合金が元来有する優れた機械的強度に加え、優れた耐溶着性も備えるためと推察される。実施形態2の工具は、少なくとも切削に関与する部分が実施形態1の超硬合金を含むことが好ましい。切削に関与する部分とは、刃先からの距離が500μm以下の領域を意味する。
【0098】
上記工具としては、ドリル、マイクロドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型チップ、フライス加工用スローアウェイチップ、旋削加工用スローアウェイチップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ、切削バイト、耐摩工具、摩擦撹拌接合用ツールなどを挙げることができる。
【実施例】
【0099】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0100】
[超硬合金の作製]
原料粉末として、第1炭化タングステン(WC)粉末、第2炭化タングステン(WC)粉末、炭化クロム(Cr3C2)粉末、炭化バナジウム(VC)粉末、炭窒化チタン(TiCN)粉末、炭化ニオブ(NbC)粉末、コバルト(Co)粉末を準備した。
【0101】
第1炭化タングステン粉末および第2炭化タングステン粉末のそれぞれの平均粒径は、表1の「第1WC粉末」および「第2WC粉末」欄に示される通りである。
【0102】
Cr3C2粉末の平均粒径は1.5μmであり、VC粉末の平均粒径は0.8μmであり、TiCN粉末の平均粒径は0.7μmであり、NbC粉末の平均粒径は1.0μmであり、Co粉末の平均粒径は1.2μmである。原料粉末の平均粒径は、マイクロトラック社製の粒度分布測定装置(商品名:MT3300EX)を用いて測定した値である。
【0103】
原料粉末を表1の「原料粉末」欄に記載の比率で混合し、混合粉末を得た。混合装置はボールミルを用いた。まず、TiCN粉末およびNbC粉末を混合装置に投入して、事前混合した。事前混合の混合時間は表2の「事前混合時間」欄に示される通りである。「事前混合時間」欄に「-」と記載されている場合は、TiCN粉末およびNbC粉末の事前混合を行わずに、TiCN粉末およびNbC粉末を、他の原料粉末と同時に混合開始したことを示す。その後、第1WC粉末、第2WC粉末、粒成長抑制剤、Co粉末を含む結合相の原料粉末を混合装置に投入して混合した。混合時間(事前混合を含まない混合時間)は表2の「混合時間」欄に示される通りである。
【0104】
得られた混合粉末をプレス成形して、φ6.4mmの丸棒形状の成形体を得た。
【0105】
得られた成形体を焼結炉に入れ、表2の「焼結条件」の「温度」および「圧力」欄に記載の温度および圧力まで昇温昇圧し、「時間」欄に記載の時間保持して焼結体を得た。次に、焼結体を室温まで急冷して、各試料の超硬合金を得た。
【0106】
[工具の作製]
得られた超硬合金からなる丸棒を加工し、径φ6.0mmのエンドミルを作製した。
【0107】
【0108】
【0109】
[評価]
<超硬合金>
≪超硬合金の組成≫
各試料の超硬合金について、第1硬質相、第2硬質相、および、結合相の含有率(体積%)を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されている通りである。結果を表3の「超硬合金」の「第1硬質相含有率」、「第2硬質相含有率」、「結合相含有率」欄に示す。試料109の「第2硬質相含有率」欄の「第2硬質相:0.00、TiCN:0.30」とは、試料109には、第2硬質相が存在せず、代わりに、TiCNが0.30体積%存在していることを示す。
【0110】
≪第1硬質相のD10、D90および平均粒径≫
各試料の超硬合金について、第1硬質相のD10、D90および平均粒径を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されている通りである。結果を表4の「第1硬質相」の「D10」、「D90」、「平均粒径」欄に示す。
【0111】
≪第2硬質相の組成≫
各試料の超硬合金について、第2硬質相の組成を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されている通りである。STEM-HAADF像中の第2硬質相の存在領域において、チタン(Ti)およびニオブ(Nb)、並びに、炭素(C)および窒素(N)の一方又は両方の存在する領域が存在する場合、第2硬質相が、TiNbC、TiNbNおよびTiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物を含むことが確認される。第2硬質相に第1化合物が存在する場合、表4の「第2硬質相」の「第1化合物」欄に「有」と示す。第2硬質相に第1化合物が存在しない場合、表4の「第2硬質相」の「第1化合物」欄に「無」と示す。「組成」欄の「-」との記載は、第2硬質相が存在しないことを示す。
【0112】
≪第2硬質相の平均粒径≫
各試料の超硬合金について、第2硬質相の平均粒径を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されている通りである。結果を表4の「第2硬質相」の「平均粒径」欄に示す。
【0113】
≪結合相の組成≫
各試料の超硬合金について、結合相のコバルト含有率をICP発光分析で測定した。全ての試料において、結合相のコバルト含有率は80質量%以上であることが確認された。
【0114】
≪結合相の平均粒径およびD95≫
各試料の超硬合金について、結合相の平均粒径およびD95を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されている通りである。結果を表4の「結合相」の「平均粒径」および「D95」欄に示す。
【0115】
≪結合相の分散度≫
各試料の超硬合金について、結合相の分散度を測定した。具体的な測定方法は実施形態1に記載されている通りである。結果を表4の「結合相」の「分散度」欄に示す。
【0116】
≪超硬合金におけるNb/(Ti+Nb)百分率≫
各試料の超硬合金について、超硬合金における、チタンおよびニオブの合計に対する、ニオブの質量基準の百分率(Nb百分率)をICP発光分光分析法により測定した。結果を表3の「超硬合金」の「Nb/(Ti+Nb)百分率」欄に示す。
【0117】
≪超硬合金のバナジウム含有率およびクロム含有率≫
各試料の超硬合金について、バナジウム含有率およびクロム含有率をICP発光分光分析法で測定した。結果を表3の「超硬合金」の「V含有率」および「Cr含有率」欄に示す。
【0118】
【0119】
【0120】
<工具>
<切削試験>
各試料のエンドミルを用いて、以下の切削条件で切削試験を実行し、耐欠損性と耐溶着性とを評価した。耐欠損性は、欠損が100μmに達するまでの切削長(m)に基づいて評価した。切削長が長いほど、耐欠損性に優れ、工具寿命が長いことを示す。耐溶着性は、欠損時点における平均の溶着幅(μm)に基づいて評価した。溶着幅が30μm以下である場合、耐溶着性が優れていることを意味する。得られた結果(すなわち、切削長および溶着幅)を表5の「耐欠損性[m]」の項と「耐溶着性[μm]」の項とに記す。
(切削条件)
被削材:Ti-6Al-4V(チタン合金(チタン系難削材))
切削速度:120m/min
送り:0.02mm/刃
軸方向切込み:2.0mm
径方向切込み:2.5mm
水溶性冷却液の有無:有り
【0121】
【0122】
<考察>
試料1~試料14の超硬合金および工具は、実施例に該当する。試料101~試料110の超硬合金および工具は、比較例に該当する。試料1~試料14の工具は、試料101~試料110の工具よりも、工具寿命が長いことが確認された。更に、試料1~試料14の工具は、耐溶着性が優れていることが確認された。
【0123】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【要約】
本開示の超硬合金は、第1硬質相と、第2硬質相と、結合相と、からなる超硬合金であって、前記第1硬質相は、炭化タングステン粒子からなり、前記第1硬質相の面積基準での10%累積粒径D10は、0.30μm以上0.60μm以下であり、前記第1硬質相の面積基準での90%累積粒径D90は、0.90μm以上1.40μm以下であり、前記第2硬質相は、TiNbC、TiNbNおよびTiNbCNからなる群より選ばれる少なくとも1種の第1化合物を含み、前記超硬合金の前記第2硬質相の含有率は、0.10体積%以上0.50体積%以下であり、前記第2硬質相の平均粒径は、0.03μm以上0.50μm以下であり、前記結合相は、コバルトを80質量%以上含み、前記超硬合金の前記結合相の含有率は、8.0体積%以上16.0体積%以下であり、前記結合相の平均粒径は、0.15μm以上0.45μm以下であり、前記結合相の面積基準での95%累積粒径D95は、1.5μm以下であり、前記結合相の分散度は、0.15以上0.25以下である。