(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/14 20060101AFI20240827BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20240827BHJP
C23C 14/32 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B23B27/14 A
C23C14/06 B
C23C14/32 Z
(21)【出願番号】P 2023565262
(86)(22)【出願日】2023-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2023018429
【審査請求日】2024-05-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】月原 望
(72)【発明者】
【氏名】福井 治世
(72)【発明者】
【氏名】田畑 敏広
(72)【発明者】
【氏名】倉持 幸治
【審査官】須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/181742(WO,A1)
【文献】特開2010-174375(JP,A)
【文献】特開2010-017791(JP,A)
【文献】特開2009-275293(JP,A)
【文献】特開2009-155721(JP,A)
【文献】特開平06-262405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B27/00-29/34
C23C14/00-16/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、六方晶W(C
1-aN
a)
xからなる第1層を含み、
前記aは、0.3以上0.8以下であり、
前記xは、0.8以上1.2以下である、切削工具。
【請求項2】
前記第1層のX線回折スペクトルにおいて、回折角度2θが46.0°以上47.0°以下の範囲にピークが存在する、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記第1層の平均厚みは、0.3μm以上4.0μm以下である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記被膜は、前記第1層の前記基材と反対側に設けられる第2層を更に含み、
前記第2層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウムおよび珪素からなる第1群より選ばれる少なくとも1種の元素、または、前記第1群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなる、請求項1
または請求項2に記載の切削工具。
【請求項5】
前記被膜は、前記基材と、前記第1層との間に配置される第3層を更に含み、
前記第3層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウムおよび珪素からなる第1群より選ばれる少なくとも1種の元素、または、前記第1群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなる、請求項1
または請求項2に記載の切削工具。
【請求項6】
前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体およびダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1
または請求項2に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具の長寿命化を目的として、種々の検討がなされている。特開2022-095116号公報(特許文献1)には、基材と、基材上に配置される被膜とを備える切削工具であって、被膜は、金属タングステンと、六方晶炭化二タングステンと、からなる第一層を含む切削工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の切削工具は、
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、六方晶W(C1-aNa)xからなる第1層を含み、
前記aは、0.3以上0.8以下であり、
前記xは、0.8以上1.2以下である、切削工具である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図1】
図1は、切削工具の一態様を例示する斜視図である。
【
図2】
図2は、実施形態1に係る切削工具の一例の模式的な拡大断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態1に係る切削工具の他の一例の模式的な拡大断面図である。
【
図4】
図4は、実施形態1に係る切削工具の他の一例の模式的な拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
チタン合金の旋削加工時のように、熱負荷の高い環境下においても、長い工具寿命を有する切削工具が求められている。
【0007】
そこで、本開示は、特にチタン合金の旋削加工時のような熱負荷の高い環境下においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することを目的とする。
【0008】
[本開示の効果]
本開示の切削工具は、特にチタン合金の旋削加工時のような熱負荷の高い環境下においても、長い工具寿命を有することができる。
【0009】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0010】
(1)本開示の切削工具は、
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、六方晶W(C1-aNa)xからなる第1層を含み、
前記aは、0.3以上0.8以下であり、
前記xは、0.8以上1.2以下である、切削工具である。
【0011】
本開示の切削工具は、特にチタン合金の旋削加工時のような熱負荷の高い環境下においても、長い工具寿命を有することができる。
【0012】
(2)上記(1)において、前記第1層のX線回折スペクトルにおいて、回折角度2θが46.0°以上47.0°以下の範囲にピークが存在することができる。
【0013】
回折角度2θが46.0°以上47.0°以下の範囲のピーク(以下、「第1ピーク」とも記す。)は、六方晶窒化タングステンの(105)面に起因するピークである。第1層のX線回折スペクトルに第1ピークが存在すると、被膜の耐熱性がより向上する。
【0014】
(3)上記(1)または(2)において、前記第1層の厚みは、0.3μm以上4.0μm以下であってもよい。これによると、工具寿命が更に向上する。
【0015】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、
前記被膜は、前記第1層の前記基材と反対側に設けられる第2層を更に含み、
前記第2層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウムおよび珪素からなる第1群より選ばれる少なくとも1種の元素、または、前記第1群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることができる。
【0016】
これによると、工具寿命が更に向上する。
【0017】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、
前記被膜は、前記基材と、前記第1層との間に配置される第3層を更に含み、
前記第3層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウムおよび珪素からなる第1群より選ばれる少なくとも1種の元素、または、前記第1群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることができる。
【0018】
これによると、工具寿命が更に向上する。
【0019】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、
前記基材は、超硬合金、サーメット、高速度鋼、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体およびダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことができる。これによると、工具は高温における硬度と強度とに優れる。
【0020】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0021】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0022】
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0023】
[実施形態1:切削工具]
本開示の一実施形態に係る切削工具について、
図1~
図4を用いて説明する。
図2に示されるように、本開示の一実施形態(以下、「実施形態1」とも記す。)に係る切削工具10は、
基材11と、基材11上に配置された被膜14と、を備える切削工具であって、
前記被膜は、六方晶W(C
1-aN
a)
xからなる第1層12を含み、
前記aは、0.3以上0.8以下であり、
前記xは、0.8以上1.2以下である、切削工具である。
【0024】
本実施形態の切削工具は、特にチタン合金の旋削加工時のような熱負荷の高い環境下においても、長い工具寿命を有することができる。この理由は以下の通りと推察される。
【0025】
第1層は、六方晶W(C1-aNa)xからなる。第1層はC(炭素)を含むため、被削材との接触界面での摩擦係数が減少し、切削抵抗を低減することができる。その結果、第1層を含む切削工具は、耐摩耗性が向上し、工具寿命が向上する。
【0026】
第1層はN(窒素)を含むため、WCよりも耐熱性が改善される。その結果、第1層を含む切削工具は、ドライ切削加工時など刃先が高温になる加工において、耐酸化性が向上し、工具寿命が向上する。
【0027】
<切削工具>
本実施形態の切削工具は、例えば、ドリル、エンドミル、ドリル用刃先交換型切削チップ、エンドミル用刃先交換型切削チップ、フライス加工用刃先交換型切削チップ、旋削加工用刃先交換型切削チップ、メタルソー、歯切工具、リーマ、タップ等であり得る。
【0028】
図1は、切削工具の一態様を例示する斜視図である。このような形状の切削工具は、例えば、刃先交換型切削チップとして用いられる。切削工具10は、すくい面1と、逃げ面2と、すくい面1と逃げ面2とが交差する刃先稜線部3とを有する。すなわち、すくい面1と逃げ面2とは、刃先稜線部3を挟んで繋がる面である。刃先稜線部3は、切削工具10の切刃先端部を構成する。このような切削工具10の形状は、切削工具の基材の形状と把握することもできる。すなわち、上記基材は、すくい面と、逃げ面と、すくい面および逃げ面を繋ぐ刃先稜線部とを有する。
【0029】
<基材>
本実施形態の基材は、この種の基材として従来公知のものであればいずれのものも使用することができる。例えば、基材は、超硬合金(例えば、炭化タングステン(WC)基超硬合金、WCの他にCoを含む超硬合金、WCの他にCr、Ti、Ta、Nb等の炭窒化物を添加した超硬合金等)、サーメット(TiC、TiN、TiCN等を主成分とするもの)、高速度鋼、セラミックス(炭化チタン、炭化珪素、窒化珪素、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム等)、立方晶型窒化硼素焼結体(cBN焼結体)およびダイヤモンド焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、超硬合金、サーメットおよびcBN焼結体からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。
【0030】
なお、基材として超硬合金を使用する場合、そのような超硬合金は、組織中に遊離炭素またはη相と呼ばれる異常相を含んでいても本実施形態の効果は示される。なお、本実施形態で用いる基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。たとえば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本実施形態の効果は示される。
【0031】
切削工具が、刃先交換型切削チップ(フライス加工用刃先交換型切削チップ等)である場合、基材は、チップブレーカーを有するものも、有さないものも含まれる。刃先の稜線部分の形状は、シャープエッジ(すくい面と逃げ面とが交差する稜)、ホーニング(シャープエッジに対してアールを付与した形状)、ネガランド(面取りをした形状)、ホーニングとネガランドを組み合わせた形状の中で、いずれの形状も含まれる。
【0032】
<被膜>
本実施形態に係る「被膜」は、基材の少なくとも一部(例えば、切削加工時に被削材と接する切削に関与する部分)を被覆することで、切削工具における耐欠損性、耐摩耗性等の諸特性を向上させる作用を有するものである。被膜は、少なくとも切削に関与する部分を被覆することができる。被膜は、基材の全面を被覆してもよい。被膜の構成が部分的に異なっていたとしても本実施形態の範囲を逸脱するものではない。基材の切削に関与する部分とは、例えば、基材の表面において、刃先稜線からの距離が50μm以内である領域を意味する。被膜は、基材の切削に関与する部分の全面を被覆してもよい。本開示の切削工具が奏する効果を損なわない限り、基材の切削に関与する部分の一部に被膜が形成されていなくても、本実施形態の範囲を逸脱するものではない。
【0033】
被膜は、六方晶W(C
1-aN
a)
xからなる第1層を含む。
図2は、本実施形態の一態様における切削工具の模式断面図である。
図2に示されるように、第1層12は、基材11の直上に設けられていてもよい。
【0034】
被膜は、第1層12に加えて、他の層を含むことができる。他の層としては、
図4に示されるように、基材11と第1層12との間に配置される第3層15、および、
図3および
図4に示されるように、第1層12の基材11と反対側に設けられる第2層13等が挙げられる。
【0035】
被膜の厚みは0.3μm以上10μm以下でもよく、0.5μm以上10μm以下でもよく、1μm以上6μm以下でもよく、1.5μm以上4μm以下でもよい。被膜の厚みが0.1μm未満である場合、耐摩耗性が低下する傾向がある。被膜の厚みが10μmを超えると、例えば、断続加工において被膜と基材との間に大きな応力が加わった際に被膜の剥離または破壊が高頻度に発生する傾向がある。
【0036】
本明細書中、被膜の厚みとは、後述する第1層、第2層および第3層等の被膜を構成する層それぞれの厚みの総和を意味する。被膜の厚みは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、基材の表面の法線方向に平行な断面サンプルにおける任意の3点を測定し、測定された3点の厚みの平均値をとることで測定される。透過型電子顕微鏡としては、例えば、日本電子株式会社製の球面収差補正装置「JEM-2100F(商標)」が挙げられる。後述の各層の厚みについても、特に記載のない限り同様の方法で測定される。
【0037】
<第1層>
被膜は、六方晶W(C1-aNa)x(ここで、aは、0.3以上0.8以下であり、xは、0.8以上1.2以下である。)からなる第1層を含む。六方晶W(C1-aNa)xとは、六方晶型の結晶構造であるW(C1-aNa)xを意味する。第1層の結晶構造が六方晶型であることにより、被膜と被削材との拡散反応が抑制され、被削材の凝着が少なくなり、工具寿命が向上する。第1層は、被膜の耐熱性、耐酸化性および耐摩耗性を向上することができる。
【0038】
第1層は本実施形態に係る切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、六方晶W(C1-aNa)xに加えて不可避不純物を含んでいてもよい。該不可避不純物としては、例えば、鉄(Fe)、カルシウム(Ca)、亜鉛(Zn)、ナトリウム(Na)、フッ素(F)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)が挙げられる。該不可避不純物の含有割合は、第1層の全質量に対して0質量%以上0.2質量%以下であることが好ましい。不可避不純物の含有割合は、グロー放電質量分析法により測定される。後述する「第2層」および「第3層」も同様に、本開示の切削工具が奏する効果を損なわない範囲において、不可避不純物が含まれていてもよい。
【0039】
<第1層の結晶構造>
第1層が六方晶型の結晶構造であるW(C1-aNa)xからなることは、XRD測定で分析することにより確認することができる。具体的には、各試料の基材と反対側の表面にX線を照射することにより、第1層の任意の領域に対してX線回折測定(XRD測定)を行い分析する。得られたXRDスペクトルにおいて、JCPDS(ICDD)カード01-076-7103に示されるピークおよび01―77-2001に示されるピークの両方が観察され、かつ、JCPDS(ICDD)カード01-075-1012に示されるピークおよび00―042-0853に示されるピークの両方が観察されない場合、第1層は六方晶型の結晶構造であるW(C1-aNa)xからなることが確認される。
【0040】
被膜が第1層以外の第2層、第3層、中間層などの他の層を含む場合、XRDスペクトルにおいて、第1層以外の層や基材に由来するピーク(以下、「他のピーク」とも記す。)が検出される場合がある。この場合は、以下の方法により、第1層に由来するピークを同定する。
【0041】
測定試料の基材と反対側の表面にX線を照射することにより、被膜に対してXRD測定を行い、回折パターンAを得る。測定試料の第1層よりも表面側(X線照射側)の層を機械的に除去して第1層を露出させる。露出した第1層の表面にX線を照射することにより、第1層に対してXRD測定を行い、回折パターンBを得る。測定試料の第1層を機械的に除去して第1層よりも基材側の層を露出させる。露出した層の表面にX線を照射することにより、露出した層に対してXRD測定を行い、回折パターンCを得る。回折パターンA、回折パターンBおよび回折パターンCを比較することにより、第1層に由来するピークを同定する。本開示において、上述の手順で第1層に由来するピークが同定されたX線回折スペクトルを「第1層のX線回折スペクトル」と記す。
【0042】
上記X線回折測定に用いる装置としては、株式会社リガク製の「SmartLab」(商品名)、パナリティカル製の「X’pert」(商品名)等が挙げられる。
【0043】
本明細書において、XRD測定の条件は下記の通りである。
(XRD測定条件)
走査軸 :2θ-θ
X線源 :Cu-Kα線(1.541862Å)
検出器 :0次元検出器(シンチレーションカウンタ)
管電圧 :45kV
管電流 :40mA
入射光学系 :ミラーの利用
受光光学系 :アナライザ結晶(PW3098/27)の利用
ステップ :0.03°
積算時間 :2秒
スキャン範囲(2θ) :10°~120°
【0044】
第1層のX線回折スペクトルにおいて、回折角度2θが46.0°以上47.0°以下の範囲にピークが存在することができる。回折角度2θが46.0°以上47.0°以下の範囲のピーク(以下、「第1ピーク」とも記す。)は、六方晶窒化タングステンに起因するピークである。第1層のX線回折スペクトルに第1ピークが存在する、すなわち、第1層が六方晶窒化タングステンを含むと、被膜と被削材との拡散が抑制されることになり被膜の耐熱性がより向上する。
【0045】
なお、出願人が測定した限りでは、同一の試料において上記の分析をする限りにおいては、測定領域を変更して複数回行っても、分析結果のばらつきはほとんどなく、任意に測定領域を設定しても恣意的にはならないことが確認された。
【0046】
<第1層の組成>
第1層は、六方晶W(C1-aNa)xからなり、aは、0.3以上0.8以下であり、xは、0.8以上1.2以下である。
【0047】
aの下限は0.3以上であり、0.4以上でもよく、0.5以上でもよい。aの上限は0.8以下であり、0.7以下でもよく、0.6以下でもよい。aは、0.4以上0.7以下でもよく、0.5以上0.6以下でもよい。
【0048】
xの下限は0.8以上であり、0.9以上でもよい。xの上限は1.2以下であり、1.1以下でもよい。xは、0.9以上1.1以下でもよく、1.0でもよい。
【0049】
本開示において、「第1層は、六方晶W(C1-aNa)xからなる」とは、本開示の効果を損なわない限り、第1層はW(C1-aNa)xに加えて、不可避不純物を含むことができることを意味する。不可避的不純物としては、例えば、酸素および炭素が挙げられる。第1層12における不可避不純物全体の含有率は、0原子%より大きく、1原子%未満であってもよい。本開示において「原子%」とは、層を構成する原子の総原子数に対する原子数の割合(%)のことを意味する。
【0050】
上記aは、電子エネルギー損失分光法(TEM-EELS)を用いて測定される。具体的な測定方法は以下の通りである。
【0051】
切削工具を被膜の表面の法線に沿う方向にアルゴンイオンスライサーを用いて切断し、被膜の断面を含む厚み3~100nmの切片を作製する。切片を透過型電子顕微鏡(TEM、商品名:「JEM-2100F/Cs」、日本電子株式会社製)を用いて10万~100万倍で観察することにより被膜の断面透過像を得る。断面透過像において、電子エネルギー損失分光法(EELS法)を適用し、10nm平方の観測スポットでスキャンすることにより、カーボンと窒素電子の励起に伴うエネルギー損失曲線を観測する。エネルギー損失曲線において、カーボンは270~280eV、窒素は385~395eVの平行強度をバックグラウンド強度と定義し、カーボンのエネルギーと窒素のエネルギーの比率を算出する。これにより、上記aを得ることができる。
【0052】
本開示では、第1層の組成W(C1-aNa)xにおいて、Wの原子数AM1に対するCおよびNの原子数の合計AN1の比AN1/AM1は、0.8以上1.2以下である。比AN1/AM1は、ラザフォード後方散乱(RBS)法により測定できる。上記比AN1/AM1が前記の範囲であれば、本開示の効果が損なわれないことが確認されている。
【0053】
<第1層の平均厚み>
上記第1層の厚みの下限は、0.2μm以上とすることができる。これによると、第1層と被削材との拡散反応が抑制される。第1層の厚みの下限は、0.3μm以上でもよく、0.5μm以上でもよく、0.7μm以上でもよく、0.9μm以上でもよい。第1層の厚みの上限は、5.0μm以下とすることができる。これによると、被膜が高い硬度を有し、耐摩耗性が良好である。第1層の厚みの上限は、4.0μm以下でもよく、2.0μm以下でもよく、1.5μm以下でもよい。第1層の厚みは、0.2μm以上5.0μm以下でもよく、0.3μm以上4.0μm以下でもよく、0.5μm以上2.0μm以下でもよく、0.7μm以上1.5μm以下でもよい。
【0054】
<第2層>
図3および
図4に示されるように、被膜14は、第1層12の基材11と反対側に設けられる第2層13を更に含むことができる。ここで「第1層の基材と反対側に設けられる」とは、第1層12の上側(基材から離れる側)に第2層13が設けられていればよく、第1層12と第2層13とが互いに接触していることを要しない。言い換えると、第1層12と、第2層13との間に他の層が設けられていてもよい。第2層13は、第1層12の直上に設けられていてもよい。第2層13は、最外層であってもよい。
【0055】
第2層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム(Al)および珪素(Si)からなる第1群より選ばれる少なくとも1種の元素、または、第1群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)および硼素(B)からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることができる。周期表4族元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等が挙げられる。周期表5族元素としては、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等が挙げられる。周期表6族元素としては、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等が挙げられる。本開示の効果を損なわない限りにおいて、第2層は第1群より選ばれる少なくとも1種の元素、または、上記化合物に加えて、不純物を含むことができる。
【0056】
第2層は、Cr、Al、TiおよびSiからなる第1A群より選ばれる少なくとも1種の元素、または、前記第1A群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることができる。
【0057】
第2層を構成する化合物としては、例えば、AlTiBN、TiAlN、TiAlON、Al2O3、TiAlSiN、TiCrSiN、TiAlCrSiN、AlCrN、AlCrO、AlCrON、AlCrSiN、AlCrBN、TiZrN、TiAlMoN、TiAlNbN、TiSiN、AlCrTaN、AlVN、AlTiVN、TiB2、TiCrHfN、CrSiWN、TiAlCN、TiSiCN、AlZrON、AlCrCN、AlHfN、CrSiBON、TiAlWN、AlCrMoCN、TiCN、TiCON、ZrNおよびZrCNが挙げられる。これらの化合物は、被膜の摩擦係数を低下させ、切削工具の長寿命化を図ることができる。
【0058】
第2層の厚みは、0.1μm以上でもよい。第2層の厚みが0.1μm以上であると、第2層による潤滑性の付与効果が得られやすい。一方、第2層の厚みの上限は特に限定されないが、2μmを超えると、上述の潤滑性の付与効果を更に向上することができない傾向にある。よって、コスト面を考慮すると、第2層の厚みは2μm以下でもよい。
【0059】
<第3層>
図4に示されるように、被膜14は、基材11と、第1層12との間に配置される第3層15を更に含むことができる。これによって、基材11と被膜14との密着性を高めることができる。
【0060】
第3層は、周期表4族元素、5族元素、6族元素、アルミニウム(Al)および珪素(Si)からなる第1群より選ばれる少なくとも1種の元素、または、第1群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)および硼素(B)からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることができる。周期表4族元素としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)等が挙げられる。周期表5族元素としては、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)等が挙げられる。周期表6族元素としては、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等が挙げられる。本開示の効果を損なわない限りにおいて、第3層は第1群より選ばれる少なくとも1種の元素、または、上記化合物に加えて、不純物を含むことができる。
【0061】
第3層は、Cr、Al、TiおよびSiからなる第1A群より選ばれる少なくとも1種の元素、または、前記第1A群より選ばれる少なくとも1種の元素と、炭素、窒素、酸素および硼素からなる第2群より選ばれる少なくとも1種の元素とからなる化合物からなることができる。
【0062】
第3層を構成する化合物としては、例えば、TiWCN、TiN、TiAlN、TiAlON、Al2O3、TiAlSiN、TiCrSiN、TiAlCrSiN、AlCrN、AlCrO、AlCrON、AlCrSiN、AlCrBN、TiZrN、TiAlMoN、TiAlNbN、TiSiN、AlCrTaN、AlVN、AlTiVN、TiB2、TiCrHfN、CrSiWN、TiAlCN、TiSiCN、AlZrON、AlCrCN、AlHfN、CrSiBON、TiAlWN、AlCrMoCN、TiCN、TiCON、ZrNおよびZrCNが挙げられる。
【0063】
第3層の厚みは、本実施形態の効果を損なわない範囲において、特に制限はないが、例えば、0.1μm以上2μm以下とすることができる。
【0064】
<中間層>
被膜は、第2層と第1層との間、または第1層と第3層との間に配置される中間層を含むことができる。中間層としては、例えばTiAlCeN、AlTiN、AlTiBN、AlTiSiN、AlTiYN、AlTiLaN、等が挙げられる。中間層の厚みは、0.1μm以上2μm以下でもよく、0.3μm以上1.5μm以下でもよく、0.4μm以上1.0μm以下でもよい。
【0065】
[実施形態2:切削工具の製造方法]
実施形態1の切削工具の製造方法の一例について以下に説明する。本実施形態に係る切削工具の製造方法は、基材を準備する第1工程と、基材上に被膜を形成する第2工程とを備える。第2工程は、第1層を形成する工程を含む。以下、各工程について説明する。
【0066】
<第1工程>
第1工程では、基材を準備する。基材は、実施形態1に記載の基材を用いることができる。
【0067】
基材として超硬合金を用いる場合は、市販の基材を用いてもよく、一般的な粉末冶金法で製造してもよい。一般的な粉末冶金法で製造する場合、ボールミル等によってWC粉末とCo粉末等とを混合して混合粉末を得る。該混合粉末を乾燥した後、所定の形状に成形して成形体を得る。さらに該成形体を焼結することにより、WC-Co系超硬合金(焼結体)を得る。次いで該焼結体に対して、ホーニング処理等の所定の刃先加工を施すことにより、WC-Co系超硬合金からなる基材を製造することができる。上記以外の基材であっても、この種の基材として従来公知のものであればいずれも準備可能である。
【0068】
<第2工程>
第2工程では、基材上に被膜を形成する。第2工程は、第1層を形成する工程を含む。第1層を形成する方法としては、例えば、物理蒸着法(PVD法)が挙げられる。
【0069】
物理蒸着法としては、例えばスパッタリング法、イオンプレーティング法、アークイオンプレーティング法、電子イオンビーム蒸着法等を挙げることができる。特に原料元素のイオン率が高いカソードアークイオンプレーティング法またはスパッタリング法を用いると、被膜を形成する前に基材表面に対して金属またはガスイオンボンバードメント処理が可能となるため、被膜と基材との密着性が格段に向上するので好ましい。
【0070】
アークイオンプレーティング法により第1層を形成する場合、例えば以下のような条件を挙げることができる。まずWCターゲット(例えば、組成がWCを93質量%以上含むバインダレスWCであって、C量が3~6.1質量%である焼結ターゲット)を装置内の対向する2機のアーク式蒸発源にセットする。基材温度を400~550℃および装置内のガス圧を1.5~5.5Paに設定する。
【0071】
上記ガスとしては、窒素(N2)ガスのみ、または、窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入する。
【0072】
基材(負)バイアス電圧を10~150V、かつ、DCまたはパルスDC(周波数20~50kHz)に維持したまま、カソード電極に80~150Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより、基材上に第1層を形成する。成膜中にタングステンフィラメントも放電する(エミッション電流30~45A)。これにより、プラズマ中のイオンを増加させることができる。アークイオンプレーティング法に用いる装置としては、例えば、株式会社神戸製鋼所製のAIP(商品名)が挙げられる。成膜中の基材温度、ガス圧、バイアス電圧、周波数、アーク電流、エミッション電流は上記の範囲内で一定とする。
【0073】
上記の条件で成膜することにより、六方晶W(C1-aNa)x(ここで、aは、0.3以上0.8以下であり、xは、0.8以上1.2以下である。)からなる第1層を形成することができる。上記の条件は本発明者らが鋭意検討の結果、新たに見出したものである。ガス組成、ガス圧、アーク電流およびバイアス電圧を上記の範囲内で調整することにより、第1層の組成、および、第1層のXRDスペクトルにおける第1ピーク(回折角度2θが46.0°以上47.0°以下の範囲にピーク)の有無を調整することができる。例えば、ガス中の窒素の量が多い場合や、バイアス電圧が大きい場合に、被膜中の炭素(C)の比率が下がる傾向がある。また、ガス圧が低く、かつ、窒素の分圧が低い場合に、第1ピークが存在しない傾向がある。
【0074】
第2工程は、第1層を形成する工程に加えて、研削、ショットブラストなどの被膜の表面処理工程を含むことができる。また、第2工程は、第2層、第3層および中間層等の他の層を形成する工程を含むことができる。他の層は、従来公知の化学気相蒸着法や物理的蒸着法により形成することができる。一つの物理的蒸着装置内において、他の層を、第1層と連続的に形成できるという観点から、他の層は物理的蒸着法により形成することが好ましい。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0076】
≪切削工具の作製≫
[試料1~試料22、試料101~試料105]
<第1工程>
第1工程では、JIS規格K10超硬(形状:JIS規格CNMG120408)を基材として準備した。次に、上記基材をアークイオンプレーティング装置(株式会社神戸製鋼所製、商品名:AIP)の所定の位置にセットした。
【0077】
<第2工程>
第2工程では、アークイオンプレーティング法により基材の上に、第1層を含む被膜を形成して各試料の切削工具を得た。第1層の形成は、以下の方法で行った。まずWCターゲット(組成がWCを93質量%以上含むバインダレスWCであって、C量が3~6.1質量%である焼結ターゲット)を装置内の対向する2機のアーク式蒸発源にセットした。基材温度を400~550℃および装置内のガス圧を1.5~5.5Paに設定した。
【0078】
上記ガスとしては、窒素(N2)ガスのみ、または、窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入した。
【0079】
試料1~試料22では、基材(負)バイアス電圧を10~150V、かつ、DCまたはパルスDC(周波数20~50kHz)に維持したまま、カソード電極に80~150Aのアーク電流を供給し、アーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることにより、基材上に第1層を形成した。成膜中にタングステンフィラメントも放電した(エミッション電流30~45A)。成膜中の基材温度、ガス圧、バイアス電圧、周波数、エミッション電流は上記の範囲内で一定とした。各試料において、ガス組成、ガス圧、アーク電流およびバイアス電圧を上記の範囲内で調整することにより、第1層の組成、および、第1層のXRDスペクトルにおける第1ピーク(回折角度2θが46.0°以上47.0°以下の範囲にピーク)の有無を調整した。
【0080】
試料20では、基材と第1層との間に第3層を設けた。第3層は、第1層を形成する前に以下の手順にて、基材の直上に形成した。表1の第3層の組成の欄における金属組成を含むターゲット(焼結ターゲット)をアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を600℃および装置内のガス圧を3.5Paに設定した。反応ガスとしては窒素ガスとメタンガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入した。その後、カソード電極に130Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることによって、表1に記載の厚みまで第3層を形成した。
【0081】
試料19では、第1層の上に第2層を設けた。第2層は、第1層の形成後に以下の手順にて、第1層の直上に形成した。表1に記載の第2層の組成の欄における金属組成を含むターゲット(焼結ターゲット)をアークイオンプレーティング装置のアーク式蒸発源にセットした。次に、基材温度を550℃および装置内のガス圧を4.0Paに設定した。反応ガスとしては、窒素を導入した。その後、カソード電極に150Aのアーク電流を供給した。アーク電流の供給でアーク式蒸発源から金属イオン等を発生させることによって、表1に記載の厚みまで第2層を形成した。
【0082】
試料101では、ガス圧を1.0Paとし、窒素ガスとアルゴンガスとの混合ガスを導入し、バイアス電圧を100Vとし、その他の条件は、試料1~試料22と同様として成膜した。
【0083】
試料102および試料103では、ガス圧を1.0Paとし、窒素ガスのみを導入し、六方晶W(C1-aNa)xにおけるaおよびxが表1に記載の値となるように、アーク電流とバイアス電圧を変更し、その他の条件は、試料1~試料22と同様として成膜した。
【0084】
試料104では、ガス圧を4.0Paとし、窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスを導入し、バイアス電圧を200Vとし、アーク電流を150Aとし、その他の条件は、試料1~試料22と同様として成膜した。
【0085】
試料105では、ガス圧を5.0Paとし、窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスを導入し、バイアス電圧を500Vとし、アーク電流を190Aとし、その他の条件は、試料1~試料22と同様として成膜した。
【0086】
[試料106]
試料1と同一の基材を準備し、基材上に、特許文献1の試料15と同一の方法で被膜を形成して、試料106の切削工具を得た。
【0087】
≪切削工具の特性評価≫
各試料の切削工具について、第1層の結晶構造および第1ピークの有無、第1層の組成、各層の厚みを評価した。
【0088】
<第1層の結晶構造および第1ピークの有無>
各試料の第1層の結晶構造をXRDで特定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表1の「第1層」の「結晶構造」欄に示す。
【0089】
「結晶構造」欄の「六方晶」という表記は、第1層に立方晶型の結晶構造からなる炭化タングステンや窒化タングステンが含まれていないことを示し、第1層が六方晶型の結晶構造からなる六方晶W(C1-aNa)xからなることを示す。
【0090】
「結晶構造」欄の「六方晶+立方晶」という表記は、第1層中に六方晶窒化タングステン(六方晶WN)と、六方晶炭化タングステン(六方晶WC)と立方晶のWNとW3Cの少なくともどちらかが混在していたことを示す。第1層のXRDスペクトルにおいて、JCPDS(ICDD)カード01-075-1012(WN)に示されるピークおよび00―042-0853(W3C)に示されるピークの少なくともどちらかが観察された場合、第1層は立方晶型の結晶構造を含む。
【0091】
試料106の「結晶構造」欄の「W+hW2C」とは、第1層が金属タングステンと、六方晶炭化二タングステンとからなることを示す。
【0092】
各試料で得られた第1層のX線回折スペクトルにおいて、回折角度2θが46.0°以上47.0°以下の範囲にピークが存在するか否かを確認した。結果を表1の「第1層」の「XRDスペクトル 第1ピーク」欄に示す。「有」は第1ピークが存在することを示し、「無」は第1ピークが存在しないことを示す。
【0093】
<第1層、第2層および第3層の組成>
各試料の第1層の組成を電子エネルギー損失分光法(TEM-EELS)およびラザフォード後方散乱(RBS)法を用いて測定した。第2層および第3層が形成されている場合は、これらの組成も測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表1の「第1層(W(C1-aNa)x)」の「a」および「x」欄、「第2層」の「組成」欄および「第3層」の「組成」欄に示す。
【0094】
<各層の厚み>
第1層、第2層および第3層および被膜の厚みを透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社製、商品名:JEM-2100F)を用いて測定した。具体的な測定方法は、実施形態1に記載されているため、その説明は繰り返さない。結果を表1の各層の「厚み」欄に示す。
【0095】
表1中、「第2層」および「第3層」における「-」との表記は、該当する層が被膜中に存在しないことを示す。
【0096】
【0097】
≪切削試験≫
各試料の切削工具を用いて、以下の切削条件により切削工具が欠損するまで、または、逃げ面摩耗量が0.15mmとなるまでの切削時間(工具寿命)を測定した。結果を表2の「切削試験」の「工具寿命」欄に示す。
【0098】
<切削条件>
被削材(材質):Ti-6Al-4V
速度 :V70m/min
送り :0.2mm/rev
切り込み :1mm
上記の切削条件は、チタン合金の旋削加工に該当し、加工時に切削工具に高い熱負荷がかかる。
【0099】
【0100】
試料1~試料22の切削工具は実施例に該当し、試料101~試料106の切削工具は比較例に該当する。切削試験の結果から、試料1~試料22の切削工具は、試料101~試料106の切削工具に比べて、熱負荷の高い環境下においても、工具寿命が長いことが確認された。
【0101】
以上のように本発明の実施形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施形態および各実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0102】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0103】
1 すくい面、2 逃げ面、3 刃先稜線部、10 切削工具、11 基材、12 第1層、13 第2層、14 被膜、15 第3層。
【要約】
基材と、前記基材上に配置された被膜と、を備える切削工具であって、前記被膜は、六方晶W(C1-aNa)xからなる第1層を含み、前記aは、0.3以上0.8以下であり、前記xは、0.8以上1.2以下である、切削工具である。