(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ボディ及び切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 51/06 20060101AFI20240827BHJP
B23B 27/10 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B23B51/06 D
B23B51/06 B
B23B51/06 C
B23B27/10
(21)【出願番号】P 2024016063
(22)【出願日】2024-02-06
【審査請求日】2024-02-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 凌
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-500721(JP,A)
【文献】特表2003-508634(JP,A)
【文献】特許第5926877(JP,B2)
【文献】独国特許出願公開第03629035(DE,A1)
【文献】特開2023-180363(JP,A)
【文献】特開2001-334409(JP,A)
【文献】特開昭64-051218(JP,A)
【文献】特表2006-510494(JP,A)
【文献】実開平06-039305(JP,U)
【文献】韓国登録特許第10-1014027(KR,B1)
【文献】特開2020-069584(JP,A)
【文献】特開2023-180346(JP,A)
【文献】特開2007-136563(JP,A)
【文献】特開2022-147572(JP,A)
【文献】特開2014-231097(JP,A)
【文献】特開2013-139059(JP,A)
【文献】特開2005-022030(JP,A)
【文献】特開平08-025111(JP,A)
【文献】国際公開第2022/201674(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 51/00-51/14
B23B 27/00-29/34
B23D 67/00-81/00
B23Q 11/00-13/00
B23C 1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
切削工具のボディであって、
切削インサートが取り付けられるインサート取付座と、
前記切削インサートを前記インサート取付座に締結する締結部品が挿入される締結部分と、
先端で開口する吐出口から流体を吐出させる流路と、
を有し、
軸方向に直交する断面において、前記流路の少なくとも一部は、前記インサート取付座からの距離と、前記締結部分からの距離と、ボディの外周からの距離とが、それぞれ所定寸法以上であり、
軸方向に直交する断面における前記流路の少なくとも一部は、略三角形状であり、
前記吐出口は、軸方向に直交する断面における前記流路の少なくとも一部と異なる形状とされており、当該ボディの先端側から視て前記インサート取付座の座面と平行方向における長さが長い長円形状である、
ボディ。
【請求項2】
前記インサート取付座からの距離、前記
締結部分からの距離及びボディの外周からの距離は、0.1mm以上0.5mm以下である、
請求項1に記載のボディ。
【請求項3】
前記インサート取付座からの距離と、前記
締結部分からの距離と、ボディの外周からの距離と、が同等寸法である、
請求項1に記載のボディ。
【請求項4】
軸方向に直交する断面において、ボディの外周の少なくとも一部に円弧形状の部分を有し、前記流路の少なくとも一部は、ボディの外周に沿う円弧形状の部分を有する略扇形状である、
請求項
1に記載のボディ。
【請求項5】
前記流路における前記吐出口に繋がる一部は、前記締結部分の外周に沿って湾曲している、
請求項1に記載のボディ。
【請求項6】
前記インサート取付座における基端部側で開口する他の流路をさらに有する、
請求項1に記載のボディ。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載のボディを備えた切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボディ及び切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、穴あけ加工用や旋削加工用としての切削工具が示されている。また、特許文献2には、流体の流路を有する切削工具が示され、さらに、特許文献3,4には、先端に流路が開口する切削工具が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第7290206号公報
【文献】国際公開第2019/069924号
【文献】特開2007-185765号公報
【文献】特開2016-128195号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、切削工具のボディの先端部は、切削インサートを装着するインサートポケットや切削インサートを締結するためのねじ穴などの締結部分を有するため、スペースが狭くなっている。このため、ボディの先端で開口する流路を、剛性の低下を抑えつつ十分な流路断面で形成するのが難しかった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、十分な剛性を確保しながら十分な断面積を有する流路が設けられたボディ及び切削工具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係るボディは、切削工具のボディであって、切削インサートが取り付けられるインサート取付座と、切削インサートをインサート取付座に締結する締結部品が挿入される締結部分と、先端で開口する吐出口から流体を吐出させる流路と、を有し、軸方向に直交する断面において、流路の少なくとも一部は、インサート取付座からの距離と、締結部分からの距離と、ボディの外周からの距離とが、それぞれ所定寸法以上である。
【0007】
一般に、穴加工を行う切削工具では、加工する穴よりもボディを小径にする必要がある。また、穴加工を行う切削工具では、加工する穴への外部からのクーラントの供給及び穴からの切りくずの排出が困難であるため、ボディの先端からクーラントを噴射させる流路を設けることが望まれる。切削インサートが取り付けられるインサート取付座と、切削インサートをインサート取付座に締結する締結部品がねじ込まれるねじ穴などの締結部分と、を有するボディにおいては、先端で開口する吐出口から流体を吐出させる流路を設ける場合、インサート取付座、締結部分及び外周で囲まれた狭い領域に流路の一部が通される。この点、上記構造のボディでは、軸方向に直交する断面において、先端に吐出口を有する流路の少なくとも一部におけるインサート取付座との距離、締結部分との距離及びボディの外周からの距離をそれぞれ所定寸法以上としている。これにより、剛性の低下を抑えつつ流路断面が最大限に確保された流路を設けることができる。したがって、切削インサートの冷却と切りくず排出性を向上させることが可能であり、結果、切りくずの詰まりを抑制することができるようになる。
【0008】
インサート取付座からの距離、ねじ穴からの距離及びボディの外周からの距離は、0.1mm以上0.5mm以下であってもよい。
【0009】
インサート取付座からの距離と、ねじ穴からの距離と、ボディの外周からの距離と、が同等寸法であってもよい。
【0010】
軸方向に直交する断面における流路の少なくとも一部は、略三角形状であってもよい。
【0011】
軸方向に直交する断面において、ボディの外周の少なくとも一部に円弧形状の部分を有し、流路の少なくとも一部は、ボディの外周に沿う円弧形状の部分を有する略扇形状であってもよい。
【0012】
吐出口は、軸方向に直交する断面における流路の少なくとも一部と異なる形状とされていてもよい。
【0013】
流路における吐出口に繋がる一部は、締結部分の外周に沿って湾曲しながらインサート取付座から離れる方向へ延在していてもよい。
【0014】
インサート取付座における基端部側で開口する他の流路をさらに有していてもよい。
【0015】
本発明の一態様に係る切削工具は、上記構成のボディを備えている。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、十分な剛性を確保しながら十分な断面積を有する流路が設けられたボディ及び切削工具が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態における切削工具を示す斜視図である。
【
図3】ボディの内部構造を透視した状態で示す斜視図である。
【
図4】ボディの先端部における内部構造を透視した状態で示す斜視図である。
【
図5】切削工具の先端部における軸方向に直交する断面図である。
【
図7】穴あけ加工時のワーク(被削材)の内部の様子を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るボディ及び切削工具の好適な実施形態について詳細に説明する(
図1~
図7参照)。
【0019】
本実施形態の切削工具1は、穴あけ加工と内外径旋削加工の両方を行うことができる多機能工具(穴あけ・旋削加工用複合工具)として形成されているものである。当該切削工具1のボディ(ホルダーと呼ばれる場合がある)10には、インサートポケット(インサート取付座)20、ポケット、2つのクーラント流路(切れ刃冷却用クーラント流路40、切りくず排出用クーラント流路50)が設けられている(
図3等参照)。
【0020】
インサートポケット20は、切削インサート60が取り付けられるインサート取付座として機能するもので、ボディ10の中心軸10Aに沿った先端部10tに形成されている(
図2~
図4等参照)。インサートポケット20の座面21には、インサート取付ねじ70が螺合するねじ穴(締結部分)22が設けられている(
図2~
図4等参照)。また、インサートポケット20の隅部には、切削インサート60の底面と側面との交差稜線と接触しないように逃げ部24が設けられている(
図2~
図4等参照)。
【0021】
ポケットは、インサートポケット20からボディ10の基端部10bへ向け形成された凹部からなる。本実施形態の切削工具1におけるポケットは、切削により生じる切りくずを案内し排出するための切りくず排出溝30として形成されている。以下では、ポケットの具体例の一つとして、当該ポケットが切りくず排出溝30である形態を例示しつつ説明することとする(
図1等参照)。
【0022】
[切りくず排出用クーラント流路(流路)]
切りくず排出用クーラント流路50は、ボディ10に設けられている2つのクーラント流路の一方であり、主として、切削時における切りくずの排出性能を向上させるべくクーラントCを供給する流路として形成されている(
図3等参照)。切りくず排出用クーラント流路50は、ボディ10の基端部10b側に設けられた供給路10rに連通されている(
図3等参照)。吐出口52は、切りくずの排出性能を向上させるのに適した位置、たとえばボディ10の先端部10t側の端面12であって座面21の近傍(たとえば、座面21よりもボディ10の径方向外側の位置)に設けられている(
図1~
図4等参照)。
【0023】
切りくず排出用クーラント流路50は、ボディ10の先端部10tにおいて先端流路部50tとされている(
図4、
図5等参照)。そして、この先端流路部50tでは、ボディ10の中心軸10Aに垂直で、かつねじ穴22の中心軸の少なくとも一部を通る断面において、インサートポケット20からの距離Daと、ねじ穴22からの距離Dbと、ボディ10の外周10cからの距離Dcとが、それぞれ所定寸法以上とされている(
図5等参照)。切りくず排出用クーラント流路50の先端流路部50tにおいて、インサートポケット20からの距離Da、ねじ穴22からの距離Db及びボディ10の外周10cからの距離Dcは、いずれも最短距離である。なお、インサートポケット20は、その隅部に逃げ部24aを有している。したがって、インサートポケット20からの距離Daは、このインサートポケット20の逃げ部24aからの最短距離である。なお、本例では、インサートポケット20からの距離Daと、ねじ穴22からの距離Dbと、ボディ10の外周10cからの距離Dcとは、同等寸法とされている。この同等寸法とは、完全な同一寸法に限らず、僅かに異なる近似した寸法も含む。距離Da,Db,Dcは、0.1mm以上であれば先端流路部50tを有するボディ10を無理なく製造でき、0.5mm以下であれば好適な流路断面積を確保できる。これらの距離Da,Db,Dcは、0.1mm以上0.5mm以下の範囲において、0.3mmが好適である。なお、ボディ10の各部では、応力集中など力のかかり方の違いがあるため、距離Da,Db,Dcは互いに異なる寸法であるのが好ましい。
【0024】
一般に、穴加工を行う切削工具1では、加工する穴よりもボディ10を小径にする必要がある。このため、切削インサート60が取り付けられるインサートポケット20と、切削インサート60をインサートポケット20に締結する締結部品であるインサート取付ねじ70がねじ込まれるねじ穴22と、を有するボディ10においては、これらのインサートポケット20、ねじ穴22及びボディ10の外周10cで囲まれた領域が狭くなる。また、穴加工を行う切削工具1では、加工する穴への外部からのクーラントCの供給及び穴からの切りくずの排出が困難である。このため、ボディ10の先端からクーラントCを噴射させることが望まれる。ボディ10の先端で開口する吐出口52からクーラントCを吐出させる切りくず排出用クーラント流路50を設ける場合、インサートポケット20、ねじ穴22及びボディ10の外周10cで囲まれた狭隘領域Atに切りくず排出用クーラント流路50の一部の先端流路部50tが通される(
図5等参照)。この点、本実施形態のボディ10においては、狭隘領域Atでの軸方向に直交する断面において、先端流路部50tは、インサートポケット20との距離Da、ねじ穴22との距離Db及びボディ10の外周10cからの距離Dcが所定寸法以上とされている。これにより、切りくず排出用クーラント流路50の先端流路部50tとして、ボディ10の剛性の低下を抑えつつ最大限の流路断面を確保できる。したがって、吐出口52から吐出されるクーラントCによる切削インサート60の冷却及び切りくずの排出性能を向上させることが可能であり、結果、切りくずの詰まりを抑制することができるようになる。
【0025】
この切りくず排出用クーラント流路50の先端流路部50tは、その断面形状が略三角形状とされている(
図5等参照)。特に、先端流路部50tは、ボディ10の外周10c側が、ボディ10の外周10cに沿う円弧形状に形成されている。これにより、先端流路部50tの断面形状が略扇形状とされている。このように、先端流路部50tでの断面形状を、略三角形状とし、さらに、略扇形状とすることにより、インサートポケット20、ねじ穴22及びボディ10の外周10cで囲まれた狭隘領域Atにおいて、大きな流路断面を確保できる。
【0026】
狭隘領域Atに通された切りくず排出用クーラント流路50の先端流路部50tは、狭隘領域Atよりもボディ10の先端側が、ねじ穴22の外周に沿って湾曲しながらインサートポケット20の座面21から離れる方向へ延在する湾曲路50cとされている。先端流路部50tは、湾曲路50cにおいても、その断面形状が、略三角形状とされている。なお、切りくず排出用クーラント流路50は、先端流路部50tよりも基端部10b側においても、その断面形状が、略三角形状とされている。
【0027】
また、切りくず排出用クーラント流路50は、ボディ10の先端部10t側の端面12で開口し、この開口部分が吐出口52とされた吐出路50vを有している(
図3、
図4等参照)。吐出路50vは、ボディ10の軸方向に沿ってボディ10の基端部10b側へ僅かに延在している。先端流路部50tに繋がる湾曲路50cは、吐出路50vにおける吐出口52と反対側の後端側において、その一方の側部に連通されている。これにより、先端流路部50tを吐出路50vへ滑らかに接続することができ、先端流路部50tにおける圧力損失を小さくできる。
【0028】
切りくず排出用クーラント流路50の吐出口52は、切りくず排出用クーラント流路50の先端流路部50tの断面形状と異なる形状とされている。例えば、吐出口52は、ボディ10の先端から視て、インサートポケット20の座面21と平行方向に長い長円形状となっている(
図4、
図6等参照)。なお、この吐出口52を有する吐出路50vの断面形状は、長さ方向にわたって吐出口52と同一形状とされている。このように、吐出口52の形状を、切りくず排出用クーラント流路50の先端流路部50tの断面形状と異なる形状とすることにより、クーラントCの吐出方向を調整したり吐出速度を高めることができる。例えば、吐出口52を長円形状とすることにより、吐出速度を高めつつバランスよくクーラントCを吐出させることができる。また、ボディ10の外周10cとインサートポケット20との間におけるクリアランス(つまりは、ボディ10における当該部分の肉厚)を考慮しつつ、剛性確保とクーラント供給量確保の両立を図るうえでは、このように、吐出口52を、インサートポケット20の座面21と平行方向における長さが長い長円形状とすることが有利となりうる。
【0029】
この切りくず排出用クーラント流路50は、供給路10rとの連通部50aの断面積よりも吐出口52の断面積のほうが小さくなるように形成されている。本実施形態における切りくず排出用クーラント流路50は、供給口51から吐出口52に向かうにつれ流路断面積が漸次減少する部分を少なくとも一部に含む形状になっている(
図3、
図4等参照)。この場合において、切りくず排出用クーラント流路50は、断面積が急減する箇所を含んでいない。このように、断面積が急減する箇所を含まず、流路断面積が減少する部分は漸次減少する形である切りくず排出用クーラント流路50においては、クーラントCを流す際の圧力損失が比較的少ないことから、切削箇所に向けてクーラントCをより効率的に供給し、ワーク(被削材)100内で切りくずが詰まるのを抑制することが可能となっている(
図7参照)。しかも、本実施形態の切りくず排出用クーラント流路50は、連通部50aから吐出口52に至るまで途中で分岐することのない1本の流路で形成されていて(
図7参照)、分岐路を有する場合に生じうる損失(分岐損失)がないことから、クーラントCを流す際の圧力損失を少なくしてより効率的に供給することが可能となっている。
【0030】
切りくず排出用クーラント流路50は、供給路10rと連通した連通部50aから先端部10tに向けてほぼ直線状に形成されていてもよいが、本実施形態の切削工具1における切りくず排出用クーラント流路50は、連通部50aからボディ10の先端部10t側に向かう途中で緩やかに湾曲し、かつ、先端部10t付近においてはボディ22のねじ穴22を回避するようにねじ穴22の周辺で湾曲し、切れ刃61の近傍の吐出口52に至る形状となっている(
図3、
図4等参照)。なお、ねじ穴22を回避する際には、当該切りくず排出用クーラント流路50を、逃げ部24(より詳細には、切削インサート60のうち切れ刃61として使用されていない側の外周切れ刃との接触を回避する逃げ部24であり、
図2~
図4において符号24aで示す)から離間する方向に延びる形状として、当該部分の周辺の剛性が向上するようにしてもよい(
図2~
図4等参照)。
【0031】
[切れ刃冷却用クーラント流路(他の流路)]
切れ刃冷却用クーラント流路40は、ボディ10に設けられている2つのクーラント流路のもう一方であり、主として、切削インサート60の切れ刃61を冷却するためのクーラントCを供給する流路として形成されている(
図1、
図3等参照)。ボディ10の基端部10b側には、クーラントCが供給される供給路10rが設けられており、切れ刃冷却用クーラント流路40は、供給路10rから分岐されている(
図3等参照)。
【0032】
吐出口42は、切削インサート60の切れ刃61に向けてクーラントCを吐出するに適した位置、たとえばインサートポケット20の近傍の位置(より具体的には、当該吐出口42の一部がインサートポケット20に重なるような、インサートポケット20のうち基端部10b側の近傍位置)に設けられている(
図1、
図3、
図6等参照)。吐出口42の形状は円形であってもよいし、当該吐出口42の周辺の剛性を確保しやすくなるような非円形であってもよい。
【0033】
供給路10rから分岐された切れ刃冷却用クーラント流路40は、先端部10tに向けてほぼ直線状に形成されていてもよいし、その途中で湾曲する非直線形状に形成されていてもよい。本実施形態の切削工具1における切れ刃冷却用クーラント流路40は、供給路10rからボディ10の外周側へ延在する分岐部40aからボディ10の先端部10t側に向けてほぼ直線状に延び、吐出口42の直前に設けられた湾曲部分43にてボディ10の径方向内側に向かって湾曲する形状になっている(
図3、
図4等参照)。
【0034】
この切れ刃冷却用クーラント流路40の断面積は、供給路10rの断面積よりも小さくなるように形成されている。分岐部40aから吐出口42に至るまでの具体的な形状はとくに限定されないが、本実施形態における切れ刃冷却用クーラント流路40は、分岐部40aから吐出口42に向かうにつれ流路断面積が漸次減少する部分を少なくとも一部に含む形状とするのが好ましい。この場合において、切れ刃冷却用クーラント流路40は、断面積が急減する箇所を含んでいない。このように、断面積が急減する箇所を含まず、流路断面積が減少する部分は漸次減少する形である切れ刃冷却用クーラント流路40においては、クーラントCを流す際の圧力損失が比較的少ないことから、切削箇所に向けてクーラントCをより効率的に供給し、途中でクーラントCの流速を速めつつ当該切削箇所における冷却と潤滑を効率的に行うことで、切削インサート60の摩耗抑制に寄与することが可能となっている(
図6、
図7等参照)。
【0035】
ここまで説明したごとき本実施形態のボディ10及び切削工具1においては、インサートポケット20、ねじ穴22及びボディ10の外周10cで囲まれた狭隘領域Atに通された切りくず排出用クーラント流路50の先端流路部50tにおいて、インサートポケット20との距離Da、ねじ穴22との距離Db及びボディ10の外周10cからの距離Dcをそれぞれ所定寸法以上としている。これにより、切りくず排出用クーラント流路50として、ボディ10の先端部における剛性の低下を抑えつつ最大限の流路断面を確保できる。したがって、吐出口52から吐出されるクーラントCによる切削インサート60の冷却と切りくずの排出性能を向上させることが可能であり、結果、切りくずの詰まりを抑制することができるようになる。
【0036】
また、本実施形態のボディ10及び切削工具1においては、切りくず排出用クーラント流路50からワーク100内の端面に向けて吐出するクーラントCによってワーク100内の切りくずの排出性能を向上させ、切りくず詰まりを抑制させるのみならず、切れ刃冷却用クーラント流路40によって切削箇所の冷却性能を向上させてもいる(
図7参照)。
【0037】
本実施形態のごとき構造は、小径加工用の切削工具1あるいはそのボディ10にも適用することが可能なものである。すなわち、従来の工具あるいはそれを製造するための手法においてはクーラント流路を自由に設計することが不可能である場合があるが、本実施形態のごとき切削工具1あるいはそのボディ10は、たとえば3Dプリンティングを採用することにより、自由な設計のもとに上記のごとき特徴が奏されうる流路形状や位置、態様を実現することが可能なものである。
【0038】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。たとえば、上述の実施形態では、ポケットが、切削により生じる切りくずを案内し排出するための切りくず排出溝30である場合のボディ10や切削工具1について説明したがこれは好適な具体例のひとつにすぎず、切りくず排出溝30以外のポケットを有する切削工具1等にも本発明を適用することが可能である。
【0039】
また、本実施形態にて説明した切削工具1やそのボディ10は、とくに穴あけ加工と内外径旋削加工の両方を行うことができる多機能工具(穴あけ・旋削加工用複合工具)に適用して好適であるものの、多機能工具以外の工具に適用してもよいことはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、ボディ及び切削工具に適用して好適である。
【符号の説明】
【0041】
1 切削工具
10 ボディ
10b 基端部
20 インサートポケット(インサート取付座)
22 ねじ穴(締結部分)
40 切れ刃冷却用クーラント流路(他の流路)
50 切りくず排出用クーラント流路(流路)
52 吐出口
60 切削インサート
70 インサート取付ねじ(締結部品)
C クーラント(流体)
Da インサートポケットからの距離
Db ねじ穴からの距離
Dc ボディの外周からの距離
【要約】
【課題】十分な剛性を確保しながら十分な断面積を有する流路が設けられたボディ及び切削工具を提供する。
【解決手段】切削工具1のボディ10であって、切削インサート60が取り付けられるインサートポケット20と、切削インサート60をインサートポケット20に締結するインサート取付ねじ70がねじ込まれて挿入されるねじ穴22と、先端で開口する吐出口52からクーラントCを吐出させる切りくず排出用クーラント流路50と、を有し、軸方向に直交する断面において、切りくず排出用クーラント流路50の少なくとも一部は、インサートポケット20からの距離Daと、ねじ穴22からの距離Dbと、ボディ10の外周10cからの距離Dcと、が所定寸法以上である。
【選択図】
図5