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  • 特許-絶縁電線および熱収縮チューブ 図1
  • 特許-絶縁電線および熱収縮チューブ 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】絶縁電線および熱収縮チューブ
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/295 20060101AFI20240827BHJP
   H01B 7/02 20060101ALI20240827BHJP
   H01B 7/42 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01B7/295
H01B7/02 F
H01B7/42 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2024522044
(86)(22)【出願日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2023044837
【審査請求日】2024-05-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 遼太
(72)【発明者】
【氏名】藤田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 拓実
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-186585(JP,A)
【文献】国際公開第2014/010508(WO,A1)
【文献】特開2017-33783(JP,A)
【文献】国際公開第2019/097874(WO,A1)
【文献】特開2023-97077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/295
H01B 7/02
H01B 7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層と、を備え、
前記絶縁層は、第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物からなり、
前記第1成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体と、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体と、からなり、
前記第2成分は、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも1種からなり、
前記組成物において、前記テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体の質量M1に対する、前記エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体の質量M2の比M2/M1は、10/90以上40/60以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記臭素系難燃剤の含有量は、1.0質量部以上40質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記酸化亜鉛の含有量は、1.0質量部以上25質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記第2成分の合計含有量は、5.0質量部以上50質量部以下である、絶縁電線。
【請求項2】
前記第2成分の平均粒径は、0.05μm以上5μm以下である、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記酸化亜鉛の平均粒径は、0.05μm以上5μm以下である、請求項1または請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記絶縁層の250℃における貯蔵弾性率は、0.1MPa以上10MPa以下である、請求項1または請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記絶縁層の示差走査熱量計により測定される70℃以上における融解熱量は、1J/g以上12J/g以下である、請求項1または請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項6】
前記組成物において、前記第1成分の含有率は、50質量%以上である、請求項1または請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項7】
前記絶縁層は、前記組成物の電子線架橋体である、請求項1または請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項8】
第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物からなり、
前記第1成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体と、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体と、からなり、
前記第2成分は、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも1種からなり、
前記組成物において、前記テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体の質量M1に対する、前記エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体の質量M2の比M2/M1は、10/90以上40/60以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記臭素系難燃剤の含有量は、1.0質量部以上40質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記酸化亜鉛の含有量は、1.0質量部以上25質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記第2成分の合計含有量は、5.0質量部以上50質量部以下である、熱収縮チューブ。
【請求項9】
電線の被覆材である、請求項8に記載の熱収縮チューブ。
【請求項10】
前記組成物は電子線架橋体である、請求項8または請求項9に記載の熱収縮チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁電線および熱収縮チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
導体を被覆する絶縁層の要求特性の一つに、難燃性が挙げられる。特許文献1には、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体とエチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体とからなるブレンドポリマに対して、三酸化アンチモンを添加することにより、難燃性の向上した組成物を得て、これを絶縁層として用いた被覆電線が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-186585号公報
【発明の概要】
【0004】
本開示の絶縁電線は、
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層と、を備え、
前記絶縁層は、第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物からなり、
前記第1成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体と、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体と、からなり、
前記第2成分は、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも1種からなり、
前記組成物において、前記テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体の質量M1に対する、前記エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体の質量M2の比M2/M1は、10/90以上40/60以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記臭素系難燃剤の含有量は、1.0質量部以上40質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記酸化亜鉛の含有量は、1.0質量部以上25質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記第2成分の合計含有量は、5.0質量部以上50質量部以下である、絶縁電線である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1図1は、本開示の一実施形態に係る絶縁電線を示す模式的斜視図である。
図2図2は、本開示の一実施形態に係る熱収縮チューブを示す模式的斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
絶縁電線の絶縁層には、難燃性とともに、燃焼時の発煙が抑制される特性も求められている。更に、絶縁電線の絶縁層には、優れた柔軟性、および、優れた引張伸びも要求される。
【0007】
そこで、本開示は、難燃性に優れ、燃焼時の発煙が抑制され、優れた柔軟性および優れた引張伸びを有する絶縁層を備える絶縁電線を提供することを目的とする。
【0008】
更に、本開示は、難燃性に優れ、燃焼時の発煙が抑制され、優れた柔軟性および優れた引張伸びを有する熱収縮チューブを提供することを目的とする。
【0009】
[本開示の効果]
本開示によれば、難燃性に優れ、燃焼時の発煙が抑制され、優れた柔軟性および優れた引張伸びを有する絶縁層を備える絶縁電線を提供することが可能となる。
【0010】
更に、本開示によれば、難燃性に優れ、燃焼時の発煙が抑制され、優れた柔軟性および優れた引張伸びを有する熱収縮チューブを提供することが可能となる。
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の絶縁電線は、
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層と、を備え、
前記絶縁層は、第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物からなり、
前記第1成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体と、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体と、からなり、
前記第2成分は、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも1種からなり、
前記組成物において、前記テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体の質量M1に対する、前記エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体の質量M2の比M2/M1は、10/90以上40/60以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記臭素系難燃剤の含有量は、1.0質量部以上40質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記酸化亜鉛の含有量は、1.0質量部以上25質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記第2成分の合計含有量は、5.0質量部以上50質量部以下である、絶縁電線である。
【0012】
本開示によれば、難燃性に優れ、燃焼時の発煙が抑制され、優れた柔軟性および優れた引張伸びを有する絶縁層を備える絶縁電線を提供することが可能となる。
【0013】
(2)上記(1)において、前記第2成分の平均粒径は、0.05μm以上5μm以下であってもよい。これによると、良好な外観の絶縁層を得ることができる。
【0014】
(3)上記(1)または(2)において、前記酸化亜鉛の平均粒径は、0.05μm以上5μm以下であってもよい。これによると、良好な外観の絶縁層を得ることができる。
【0015】
(4)上記(1)から(3)のいずれかにおいて、前記絶縁層の250℃における貯蔵弾性率は、0.1MPa以上10MPa以下であってもよい。これによると、絶縁層は高温で加熱変形し難く、かつ、高温での柔軟性も良好である。
【0016】
(5)上記(1)から(4)のいずれかにおいて、前記絶縁層の示差走査熱量計により測定される70℃以上における融解熱量は、1J/g以上12J/g以下であってもよい。該融解熱量が1J/g以上であることで、結晶成分により電線同士の固着を防止できる。該融解熱量が12J/g以下であることで、絶縁層は良好な柔軟性を有することができる。
【0017】
(6)上記(1)から(5)のいずれかにおいて、前記組成物において、前記第1成分の含有率は、50質量%以上であってもよい。これによると、絶縁層は十分な強度および耐熱性を有することができる。
【0018】
(7)上記(1)から(6)のいずれかにおいて、前記絶縁層は、前記組成物の電子線架橋体であってもよい。これによると、絶縁層の強度が向上する。
【0019】
(8)本開示の熱収縮チューブは、
第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物からなり、
前記第1成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体と、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体と、からなり、
前記第2成分は、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも1種からなり、
前記組成物において、前記テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体の質量M1に対する、前記エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体の質量M2の比M2/M1は、10/90以上40/60以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記臭素系難燃剤の含有量は、1.0質量部以上40質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記酸化亜鉛の含有量は、1.0質量部以上25質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記第2成分の合計含有量は、5.0質量部以上50質量部以下である、熱収縮チューブである。
【0020】
本開示によれば、難燃性に優れ、燃焼時の発煙が抑制され、優れた柔軟性および優れた引張伸びを有する熱収縮チューブを提供することが可能となる。
【0021】
(9)上記(8)において、熱収縮チューブは電線の被覆材であってもよい。これによると、燃焼時の発煙が抑制された電線を提供することが可能となる。
【0022】
(10)上記(8)または(9)において、前記組成物は電子線架橋体であってもよい。これによると、熱収縮チューブの強度が向上する。
【0023】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の絶縁電線および熱収縮チューブの具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0024】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、A以上B以下を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0025】
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。
【0026】
本開示において、数値範囲下限および上限として、それぞれ1つ以上の数値が記載されている場合は、下限に記載されている任意の1つの数値と、上限に記載されている任意の1つの数値との組み合わせも開示されているものとする。
【0027】
[実施形態1:絶縁電線]
本開示の一実施形態(以下「実施形態1」とも記す。)における絶縁電線は、
導体と、
該導体を被覆する絶縁層と、を備え、
該絶縁層は、第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物からなり、
該第1成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体と、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体と、からなり、
該第2成分は、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも1種からなり、
該組成物において、該テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体の質量M1に対する、該エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体の質量M2の比M2/M1は、10/90以上40/60以下であり、
該組成物において、該第1成分100質量部に対する、該臭素系難燃剤の含有量は、1.0質量部以上40質量部以下であり、
該組成物において、該第1成分100質量部に対する、該酸化亜鉛の含有量は、1.0質量部以上25質量部以下であり、
該組成物において、該第1成分100質量部に対する、該第2成分の合計含有量は、5.0質量部以上50質量部以下である、絶縁電線である。
【0028】
<絶縁電線の構造>
図1に示されるように、実施形態1の絶縁電線1は、導体2と、導体2を直接又は間接に被覆する絶縁層3とを有する。絶縁電線においては、導体と絶縁層との間にプライマー処理層等のさらなる層が設けられてもよい。本開示において、絶縁電線とは、導体と絶縁被覆からなる狭義の絶縁電線、および、狭義の絶縁電線の1本又は複数本が保護被覆でさらに覆われている絶縁ケーブルも含む概念である。
【0029】
<導体>
導体2としては、機器内配線や自動車内配線等として用いられる絶縁電線や絶縁ケーブルを構成する、銅線等の導体を使用することができる。導体2は、複数の素線を一定のピッチで撚り合せて構成される。この素線としては、特に限定されないが、例えば銅線、銅合金線、アルミニウム線、アルミニウム合金線等が挙げられる。また、導体2は、複数の素線を撚り合せた撚素線を用い、複数の撚素線をさらに撚り合せた撚線であるとよい。撚り合せる撚素線は同じ本数の素線を撚ったものでもよい。
【0030】
導体2の延在方向を法線とする断面(以下「導体2の断面」とも記す。)における平均面積(素線間の空隙も含む)は、用途に応じて適宜設定することができる。導体2の断面における平均面積の下限は、0.01mm以上でもよい。導体2の断面における平均面積が0.01mm未満の場合、許容電流が小さくなるおそれがある。一方、導体2の断面における平均面積の上限は、200mm以下でもよい。平均面積が200mmを超える場合、柔軟性が損なわれ、配策しづらくなるおそれがある。導体2の断面における平均面積(素線間の空隙も含む)の下限は、0.05mm以上でもよく、0.10mm以上でもよい。導体2の断面における平均面積(素線間の空隙も含む)の上限は、100mm以下でもよく、80mm以下でもよい。導体2の断面における平均面積は、0.01mm以上200mm以下でもよく、0.05mm以上100mm以下でもよく、0.10mm以上80mm以下でもよい。
【0031】
<絶縁層>
実施形態1の絶縁電線において、絶縁層は、第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物からなる。
【0032】
≪第1成分≫
第1成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体と、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体と、からなる。
【0033】
第1成分がテトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体を含むことにより、絶縁層の柔軟性を向上できる。テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体は、テトラフルオロエチレンとプロピレンを低温乳化共重合して得られる。テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体は、その他の成分として、共重合可能なモノマー、例えば、エチレン、イソブチレン、アクリル酸およびそのアルキルエステル、メタクリル酸およびそのアルキルエステル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロエチルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどの1種以上を適当量含んでいてもよい。テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体は一般に知られており、市販品として容易に入手できる。
【0034】
第1成分がエチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体を含むことにより、絶縁層の耐熱性および強度を向上できる。エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体は、エチレンとその他の成分として、共重合可能なモノマー、例えば、エチレン、イソブチレン、アクリル酸およびそのアルキルエステル、メタクリル酸およびそのアルキルエステル、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、クロロエチルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどの1種以上を適当量含んでいてもよい。エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体は一般に知られており、市販品として容易に入手できる。
【0035】
絶縁層を構成する組成物において、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体の質量M1に対する、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体の質量M2の比M2/M1は、10/90以上40/60以下である。比M2/M1が10/90未満であると、絶縁層の耐熱性が不十分となるおそれがある。比M2/M1が40/60を超えると、絶縁電線1の柔軟性が不十分となるおそれがある。比M2/M1は、15/85以上37/63以下でもよく、20/80以上30/70以下でもよい。
【0036】
上記比M2/M1は、固体NMR測定により算出される。
【0037】
絶縁層3における第1成分の含有率の下限は、50質量%以上でもよく、60質量%以上でもよく、65質量%以上でもよい。絶縁層3における第1成分の含有率の上限は、97質量%以下でもよく、95質量%以下でもよい。絶縁層3における第1成分の含有率が50質量%未満であると、十分な強度および耐熱性を得られないおそれがある。一方、第1成分の含有率が97質量%を超えると、第1成分以外の他の配合剤の含有率が不足するため、他の配合剤による効果が不十分となるおそれがある。絶縁層3における第1成分の含有率は、50質量%以上97質量%以下でもよく、60質量%以上97質量%以下でもよく、65質量%以上95質量%以下でもよい。
【0038】
絶縁層3における第1成分の含有率の測定方法は、以下の通りである。燃焼イオンクロマトグラフィー測定により、絶縁層3のフッ素の質量濃度(%)を測定し、固体NMRで測定した比M2/M1から、絶縁層3における第1成分の含有率を算出する。
【0039】
テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体およびエチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体は、電子線を照射することにより架橋体を形成することが可能である。したがって、絶縁層は、第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物の電子線架橋体であってもよい。
【0040】
≪第2成分≫
第2成分は、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも1種からなる。絶縁層を構成する組成物において、第1成分100質量部に対する、第2成分の合計含有量は、5.0質量部以上50質量部以下である。第1成分100質量部に対する、第2成分の合計含有量の下限は、5.0質量部以上であり、10質量部以上でもよく、20質量部以上でもよい。第1成分100質量部に対する、第2成分の合計含有量の上限は、50質量部以下であり、45質量部以下でもよく、40質量部以下でもよい。第1成分100質量部に対する、第2成分の合計含有量が5.0質量部未満であると、難燃性の効果が十分に得られないおそれがある。一方、第1成分100質量部に対する、第2成分の合計含有量が50質量部を超えると、絶縁層の引張強度、引張伸び等の機械的強度が低下するおそれがある。絶縁層を構成する組成物において、第1成分100質量部に対する、第2成分の合計含有量は、10質量部以上45質量部以下でもよく、20質量部以上40質量部以下でもよい。
【0041】
絶縁層を構成する組成物において、第1成分100質量部に対する、第2成分の合計含有量は、蛍光X線分析により、絶縁層を構成する組成物の各フィラーの質量濃度(%)を測定して算出される。
【0042】
第2成分の平均粒径の下限は、0.05μm以上でもよく、0.5μm以上でもよい。第2成分の平均粒径の上限としては、5μm以下でもよく、3μm以下でもよい。第2成分の平均粒径の下限が0.05μm未満であると、分散不良による凝集が発生し、絶縁層の引張強度、引張伸び等の機械的強度が低下するおそれがある。第2成分の平均粒径の上限が5μmを超えると、成形の際にダイスカスが発生しやすくなり良好な外観の絶縁層が得られないおそれがある。第2成分の平均粒径は、0.05μm以上5μm以下でもよく、0.5μm以上5μm以下でもよい。
【0043】
絶縁層に含まれる第2成分の平均粒径の測定方法は、以下の通りである。絶縁層の断面をSEMで観察する。断面SEM像において、100個の第2成分の直径を測定し、その平均を算出する。該平均が絶縁層に含まれる第2成分の平均粒径に該当する。
【0044】
≪臭素系難燃剤≫
臭素系難燃剤としては、デカブロモジフェニルエーテル、ヘキサブロモベンゼン、エチレンビステトラブロモフタルイミド、2,2-ビス(4-ブロモエチルエーテル-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、エチレンビス-ジブロモノルボルナンジカルボキシイミド、テトラブロモ-ビスフェノールS、トリス(2,3-ジブロモプロピル-1)イソシアヌレート、ヘキサブロモシクロドデカン(HBCD)、オクタブロモフニルエーテル、テトラブロモビスフェノールA(TBA)エポキシオリゴマーもしくはポリマー、TBA-ビス(2,3-ジブロモプロピルエーテル)、ポリジブロモフェニレンオキシド、ビス(トリブロモフェノキシ)エタン、エチレンビス-ペンタブロモベンゼン、ジブロモエチル-ジブロモシクロヘキサン、ジブロモネオペンチルグリコール、トリブロモフェノール、トリブロモフェノールアリルエーテル、テトラデカブロモ-ジフェノキシベンゼン、1,2-ビス(2,3,4,5,6-ペンタブロモフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシエトキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、ペンタブロモフェノール、ペンタブロモトルエン、ペンタブロモジフェニルオキシド、ヘキサブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルエーテル、オクタブロモジフェニルオキシド、ジブロモネオペンチルグリコールテトラカルボナート、ビス(トリブロモフェニル)フマルアミド、N-メチルヘキサブロモフェニルアミン等を挙げることができ、これらは単独又は2種以上を混合して用いることができる。
【0045】
絶縁層を構成する組成物において、第1成分100質量部に対する、臭素系難燃剤の含有量は、1.0質量部以上40質量部以下である。第1成分100質量部に対する、臭素系難燃剤の含有量の下限は、1.0質量部以上であり、3質量部以上でもよく、5質量部以上でもよい。第1成分100質量部に対する、臭素系難燃剤の含有量の上限は、40質量部以下であり、30質量部以下でもよく、20質量部以下でもよい。第1成分100質量部に対する、臭素系難燃剤の含有量が1.0質量部未満であると、難燃性の効果が十分に得られないおそれがある。一方、第1成分100質量部に対する、臭素系難燃剤の含有量が40質量部を超えると、絶縁層の引張強度、引張伸び等の機械的強度が低下するおそれがある。第1成分100質量部に対する、臭素系難燃剤の含有量は、3質量部以上30質量部以下でもよく、5質量部以上20質量部以下でもよい。
【0046】
絶縁層を構成する組成物において、第1成分100質量部に対する、臭素系難燃剤の含有量の測定方法は、以下の通りである。臭素系難燃剤の種類をIR測定により同定する。燃焼イオンクロマトグラフィー測定で求められる絶縁層を構成する組成物の臭素の質量濃度(%)から、第1成分100質量部に対する、臭素系難燃剤の含有量を算出する。
【0047】
≪酸化亜鉛≫
酸化亜鉛としては、例えば亜鉛鉱石にコークスなどの還元剤を加え、焼成して発生する亜鉛蒸気を空気で酸化して得られるものや、硫酸亜鉛や塩化亜鉛を原料としたもの等、特に制限なく用いることができる。
【0048】
絶縁層を構成する組成物において、第1成分100質量部に対する、酸化亜鉛の含有量は、1.0質量部以上25質量部以下である。第1成分100質量部に対する、酸化亜鉛の含有量の下限は、1.0質量部以上であり、3質量部以上でもよく、5質量部以上でもよい。第1成分100質量部に対する、酸化亜鉛の含有量の上限は、25質量部以下であり、20質量部以下でもよく、10質量部以下でもよい。第1成分100質量部に対する、酸化亜鉛の含有量が1.0質量部未満であると、混合工程や押出工程でやけが発生する原因となる。第1成分100質量部に対する、酸化亜鉛の含有量が25質量部を超えると、絶縁層の引張強度、引張伸び等の機械的強度が低下するおそれがある。絶縁層を構成する組成物において、第1成分100質量部に対する、酸化亜鉛の含有量は、3質量部以上20質量部以下でもよく、5質量部以上10質量部以下でもよい。
【0049】
絶縁層を構成する組成物において、第1成分100質量部に対する、酸化亜鉛の含有量は、蛍光X線分析で求められる絶縁層を構成する組成物の亜鉛の質量濃度(%)から酸化亜鉛の含有量を算出して測定される。
【0050】
酸化亜鉛の平均粒径の下限は、0.05μm以上でもよく、0.5μm以上でもよい。酸化亜鉛の平均粒径の上限は、5μm以下でもよく、3μm以下でもよい。酸化亜鉛の平均粒径の下限が0.05μm未満であると、分散不良による凝集が発生し、絶縁層の引張強度、引張伸び等の機械的強度が低下するおそれがある。酸化亜鉛の平均粒径の上限が5μmを超えると、成形の際にダイスカスが発生しやすくなり良好な外観の絶縁層が得られないおそれがある。酸化亜鉛の平均粒径は、0.05μm以上5μm以下でもよく、0.5μm以上3μm以下でもよい。
【0051】
絶縁層に含まれる酸化亜鉛の平均粒径の測定方法は、以下の通りである。絶縁層の断面をSEMで観察する。断面SEM像において、100個の酸化亜鉛の直径を測定し、その平均を算出する。該平均が絶縁層に含まれる酸化亜鉛の平均粒径に該当する。
【0052】
≪絶縁層の250℃における貯蔵弾性率≫
絶縁層3の250℃における貯蔵弾性率の下限は、0.1MPa以上でもよく、0.5MPa以上でもよく、1.0MPa以上でもよい。絶縁層3の250℃における貯蔵弾性率の上限は、10MPa以下でもよく、8MPa以下でもよく、6MPa以下でもよい。絶縁層3の250℃での貯蔵弾性率が0.1MPa未満の場合、絶縁層3は高温で加熱変形し易くなるおそれがある。一方、絶縁層3の250℃での貯蔵弾性率が10MPaを超える場合、絶縁層3の高温での柔軟性が低下するおそれがある。絶縁層3の250℃における貯蔵弾性率は、0.1MPa以上10MPa以下でもよく、0.5MPa以上8MPa以下でもよく、1.0MPa以上6MPa以下でもよい。
【0053】
本開示において、「250℃における貯蔵弾性率」とは、JIS K7244-4:1999に記載の動的機械特性の試験方法に準拠して測定される値である。電線から絶縁層を取り出してサンプルを準備する。サンプルについて、粘弾性測定装置を用いて、引張モード、歪0.08%、周波数10Hzの条件で、250℃での貯蔵弾性率を測定する。室温から250℃までの昇温速度は10℃/分とする。粘弾性測定装置としては、例えばアイティー計測制御社製「DVA-220」を用いることができる。
【0054】
≪絶縁層の示差走査により測定される70℃以上における融解熱量≫
絶縁層3の示差走査熱量計により測定される70℃以上における融解熱量の下限は、1J/g以上でもよく、2J/g以上でもよい。該融解熱量が1J/g以上であると、結晶成分により電線同士の固着を防止できる。一方、該融解熱量の上限は、12J/g以下でもよく、10J/g以下でもよい。該融解熱量の上限が12J/g以下であると、絶縁層は良好な柔軟性を有することができる。絶縁層3の示差走査熱量計により測定される70℃以上における融解熱量は、1J/g以上12J/g以下であってもよく、2J/g以上10J/g以下であってもよい。
【0055】
上記融解熱量は、示差走査熱量分析で得られる融解曲線から得ることができる。融解曲線は、以下の条件で示差走査熱量分析を行うことにより求める。示差走査熱量計を用いて、5mgの絶縁層からなるサンプルを窒素雰囲気下で-50℃から昇温速度10℃/分で300℃まで昇温し、70℃以降に現れる全ての吸熱ピークの面積を算出して求める。なお、ピークが多峰性の場合は、全体のピークの面積を算出して求める。
【0056】
≪絶縁層の厚さ≫
絶縁層3の平均厚さとしては、特に限定されないが、例えば0.1mm以上10mm以下でもよく、0.2mm以上5mm以下でもよく、0.5mm以上2mm以下でもよい。ここで「平均厚さ」とは、任意の十点において測定した厚さの平均値をいう。なお、以下において他の部材等に対して「平均厚さ」という場合にも同様に定義される。
【0057】
絶縁層を構成する組成物は、本開示の効果を損なわない限り、第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛とともに、他の成分を含むことができる。他の成分としては、例えば、後述の架橋助剤、その他の添加剤が挙げられる。
【0058】
絶縁層を構成する組成物は、電子線照射による樹脂の架橋を促進するために架橋助剤を含有してもよい。架橋助剤の含有量としては、架橋助剤の種類により変動するが、通常、第1成分100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下でもよい。架橋助剤としては、例えばp-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート、トリメタクリルイソシアヌレート(以下、TMICともいう。)等のアクリレート又はメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等のビニルモノマー類;ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート(以下、TAICともいう。)等のアリル化合物類;N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、N,N’-(4,4’-メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類等が挙げられる。これらの架橋助剤は単独で用いてもよいし、組み合わせて使用することもできる。
【0059】
絶縁層を構成する組成物は、必要に応じてその他の添加剤を含有していてもよい。そのような添加剤としては、例えば強度保持剤、酸化防止剤、銅害防止剤、着色剤、熱安定剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。絶縁層を構成する組成物における添加剤の含有量は、40質量%未満でもよく、25質量%未満でもよい。添加剤の含有量が40質量%以上の場合、絶縁層の第1成分の比率が低下し、強度が低下するおそれがある。
【0060】
<絶縁電線の用途>
実施形態1の絶縁電線は、機器内配線や自動車内配線として用いられることができる。
【0061】
<絶縁電線の製造方法>
実施形態1の絶縁電線の製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の工程を備える。
(1)絶縁層を形成するための樹脂組成物を調製する工程(樹脂組成物調製工程)
(2)導体を樹脂組成物で被覆する工程(被覆工程)
(3)樹脂組成物を照射により架橋する工程(架橋工程)
【0062】
(1)樹脂組成物調製工程
樹脂組成物調製工程では、第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛および必要に応じてその他の添加剤を溶融混合機等により混合することにより絶縁層を形成するための樹脂組成物を調製する。溶融混合機としては、公知のもの、例えばオープンロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、単軸混合機、多軸混合機等を使用できる。
【0063】
(2)被覆工程
被覆工程では、例えば溶融押出成形機を用いて導体上に樹脂組成物を押出成形して、導体を樹脂組成物で被覆する。
【0064】
(3)架橋工程
架橋工程では、導体を被覆する樹脂組成物を照射により架橋する。樹脂組成物の第1成分(テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体と、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体)を架橋することにより、絶縁層に対して高温での形状保持性を付与する。第1成分を架橋する方法としては、樹脂組成物に電子線を照射する方法でもよい。電子線の照射により第1成分を架橋した後は成形が困難になるので、電子線の照射は押出成形工程後に行われる。押出成形後に電子線の照射を行うことにより、成形を確実に実施し、かつ電子線の照射による効果を充分に得ることができる。
【0065】
電子線照射量としては、50kGy以上400kGy以下の範囲であってもよい。電子線照射量が50kGy未満の場合、架橋度が小さくなり、高温における形状保持性が低下するおそれがある。一方、電子線照射量が400kGy超の場合、製造に時間を要する。
【0066】
[実施形態2:熱収縮チューブ]
本開示の他の一実施形態(以下「実施形態2」とも記す。)における熱収縮チューブは、
第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物からなり、
前記第1成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体と、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体と、からなり、
前記第2成分は、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも1種からなり、
前記組成物において、前記テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体の質量M1に対する、前記エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体の質量M2の比M2/M1は、10/90以上40/60以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記臭素系難燃剤の含有量は、1.0質量部以上40質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記酸化亜鉛の含有量は、1.0質量部以上25質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記第2成分の合計含有量は、5.0質量部以上50質量部以下である、熱収縮チューブである。
【0067】
<熱収縮チューブの構造>
図2に示されるように、実施形態2の熱収縮チューブ10は、円筒形状の単層の基材層から構成されている。熱収縮チューブ10は、例えば被覆対象物同士の接続部分、配線の端末、金属管等の保護、絶縁、防水、防食等のための被覆に使用される。実施形態2の熱収縮チューブは、図2に示した円筒状に単層の基材層が形成された熱収縮チューブに限らず、例えばキャップ状に基材層が形成された熱収縮チューブであってもよい。このような熱収縮チューブは、円筒状の熱収縮チューブの一端部を加熱収縮させて閉じることで製造できる。この熱収縮チューブは、例えば配線の端末処理に好適に使用することができる。
【0068】
熱収縮チューブ10の平均内径および平均厚さは、用途等に合わせて適宜選択される。熱収縮チューブ10の熱収縮前の平均内径としては、例えば1mm以上60mm以下でもよい。また、熱収縮チューブ10の熱収縮後の平均内径としては、例えば熱収縮前の平均内径の30%以上50%以下でもよい。また、該熱収縮チューブ10の平均厚さとしては、例えば0.1mm以上5mm以下でもよい。
【0069】
<組成物>
実施形態2の熱収縮チューブを構成する組成物は、第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物からなる。実施形態2の熱収縮チューブを構成する組成物は、実施形態1の絶縁電線の絶縁層を構成する組成物と同一の構成とすることができるため、その説明は繰り返さない。実施形態2の熱収縮チューブは、難燃性に優れ、燃焼時の発煙が抑制され、優れた柔軟性および優れた引張伸びを有する。
【0070】
<熱収縮チューブの用途>
実施形態2に係る熱収縮チューブは、被覆対象物を保護するための被覆材として使用される。より具体的には、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体の融点以上で加熱した場合に内径方向に収縮する熱収縮チューブ等を挙げることができる。被覆対象物が挿入された熱収縮チューブを被覆対象物上で加熱し、熱収縮チューブを収縮させる。これにより、被覆対象物が保護される。熱収縮チューブは、電線、パイプ等の接続部分等、被覆対象物を保護するための被覆材として使用される。
【0071】
<熱収縮チューブの製造方法>
実施形態2の熱収縮チューブの製造方法は、特に限定されないが、例えば以下の工程を備える。
(1)熱収縮チューブを形成するための樹脂組成物を調製する工程(樹脂組成物調製工程)
(2)樹脂組成物を溶融押出成形機により押出成形する工程(押出成形工程)
(3)押出成形品を照射により架橋する工程(架橋工程)
(4)架橋後の押出成形品を拡径して熱収縮チューブを得る工程(拡径工程)
【0072】
(1)樹脂組成物調製工程
樹脂組成物調製工程では、第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛および必要に応じてその他の添加剤を溶融混合機等により混合することにより熱収縮チューブを形成するための熱収縮チューブ形成用樹脂組成物を調製する。溶融混合機としては、公知のもの、例えばオープンロール、バンバリーミキサー、加圧ニーダー、単軸混合機、多軸混合機等を使用できる。
【0073】
(2)押出成形工程
押出成形工程では、樹脂組成物を溶融押出成形機により押出成形する。具体的には、円筒状の空間を有する押出ダイスを用いて樹脂組成物を円筒形状に押出成形する。これにより、押出成形品が得られる。押出成形品の寸法は、用途等に応じて設計することができる。
【0074】
(3)架橋工程
架橋工程では、押出成形品を照射により架橋する。照射の条件等は、上述の絶縁電線の製造方法における架橋工程と同様の条件とすることができる。
【0075】
(4)拡径工程
拡径工程では、架橋後の押出成形品を拡径する。押出成形品の拡径の方法としては、従来の熱収縮チューブの作製に通常使用されている公知の拡径方法を用いることができる。例えば、押出成形品を融点以上の温度に加熱した状態で内部に圧縮空気を導入する方法や、外部から減圧する方法、内部に金属棒を挿入する方法等により所定の内径となるように拡径させた後、冷却して形状を固定させる方法等が用いられる。このような押出成形品の拡径は、例えば押出成形品の内径が例えば1.2倍以上4倍以下となるように行われる。拡径した押出成形品の形状を固定することで、熱収縮チューブが得られる。この固定方法としては、例えばベース樹脂成分の融点以下の温度に冷却する方法等が挙げられる。なお、拡径工程において、熱収縮チューブの内表面の表面粗さへの影響を小さくするために、金属棒の粗さを低減したり、コーティングや潤滑剤の塗布を行ったりすることができる。また、拡径の速度を低減することによっても熱収縮チューブの内表面の表面粗さへの影響を小さくすることができる。このようにして、架橋後の押出成形品を拡径させて形状固定したものが熱収縮チューブとなる。
【0076】
[付記1]
第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物からなり、
前記第1成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体と、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体と、からなり、
前記第2成分は、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも1種からなり、
前記組成物において、前記テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体の質量M1に対する、前記エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体の質量M2の比M2/M1は、10/90以上40/60以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記臭素系難燃剤の含有量は、1.0質量部以上40質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記酸化亜鉛の含有量は、1.0質量部以上25質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記第2成分の合計含有量は、5.0質量部以上50質量部以下である、熱収縮チューブ。
【0077】
[付記2]
前記第2成分の平均粒径は、0.05μm以上5μm以下である、付記1に記載の熱収縮チューブ。
【0078】
[付記3]
前記酸化亜鉛の平均粒径は、0.05μm以上5μm以下である、付記1または付記2に記載の熱収縮チューブ。
【0079】
[付記4]
前記絶縁層の250℃における貯蔵弾性率は、0.1MPa以上10MPa以下である、付記1から付記3のいずれかに記載の熱収縮チューブ。
【0080】
[付記5]
前記絶縁層の示差走査熱量計により測定される70℃以上における融解熱量は、1J/g以上12J/g以下である、付記1から付記4のいずれかに記載の熱収縮チューブ。
【0081】
[付記6]
前記組成物において、前記第1成分の含有率は、50質量%以上である、付記1から付記5のいずれかに記載の熱収縮チューブ。
【0082】
[付記7]
前記絶縁層は、前記組成物の電子線架橋体である、付記1から付記6のいずれかに記載の熱収縮チューブ。
【0083】
[付記8]
前記組成物は、三酸化アンチモンを含まない、付記1から付記7のいずれかに記載の熱収縮チューブ。
【0084】
[付記9]
導体と、
前記導体を被覆する絶縁層と、を備え、
前記絶縁層は、
第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物からなり、
前記第1成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体と、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体と、からなり、
前記第2成分は、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも1種からなり、
前記組成物において、前記テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体の質量M1に対する、前記エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体の質量M2の比M2/M1は、10/90以上40/60以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記臭素系難燃剤の含有量は、1.0質量部以上40質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記酸化亜鉛の含有量は、1.0質量部以上25質量部以下であり、
前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記第2成分の合計含有量は、5.0質量部以上50質量部以下であり、
前記組成物は、三酸化アンチモンを含まない、絶縁電線。
【実施例
【0085】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0086】
[絶縁電線の作製]
<試料1~試料16、試料101~試料108>
導体として、断面積0.35mmの銅線を準備した。
【0087】
樹脂組成物の原料について説明する。
≪第1成分≫
第1成分の原料として、以下を準備した。
テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体(表において「TFE-P」と記す。):AGC社製の「アフラス150CS」
エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体(表において「ETFE」と記す。):AGC社製の「フルオンLM730AP」
【0088】
≪第2成分≫
第2成分の原料として、以下を準備した。
炭酸カルシウム(1):白石カルシウム社製の「ホワイトンSB」
炭酸カルシウム(2):白石工業社製の「ビゴット15」
炭酸カルシウム(3):備北粉化社製の「BF300」
酸化マグネシウム:協和化学工業社製の「キョーワマグ150」
ハイドロタルサイト:協和化学工業社製の「DHT-4A」
各試料で用いた第2成分の平均粒径は、表1~表3の「第2成分」の「平均粒径」欄に示されるとおりである。
【0089】
≪臭素系難燃剤≫
臭素系難燃剤として、以下を準備した。
臭素系難燃剤(1):アルベマール日本社製の「SAYTEX8010」(エチレンビスペンタブロモベンゼン)
臭素系難燃剤(2)アルベマール日本社製の「SAYTEXBT-93」(エチレンビステトラブロモフタルイミド)
【0090】
≪酸化亜鉛≫
酸化亜鉛として、以下を準備した。
酸化亜鉛(1):堺化学工業社製の「酸化亜鉛1種」
酸化亜鉛(2):堺化学工業社製の「微細酸化亜鉛」
各試料で用いた酸化亜鉛の平均粒径は、表1~表3の「酸化亜鉛」の「平均粒径」欄に示されるとおりである。
【0091】
各原料を、表の配合に従って混合し、樹脂組成物を調製した。表において「-」は該当する成分を用いていないことを示す。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
導体上に樹脂組成物を押出成形することにより、導体を樹脂組成物で被覆した。押出成形には、押出成形用ダイを用いた。押出成形は、ダイス温度250℃で、線速5m/minで行った。次に、試料16以外の試料では、樹脂組成物に電子線照射を行い、各試料の絶縁電線を得た。電子線の照射量は100kGyとした。試料16は電子線照射を行わなかった。全ての試料において、絶縁層の平均厚さは1mmであった。
【0096】
試料102の絶縁電線は、複数本作製されたが、各種測定前に互いに固着してしまい、絶縁電線の形態を維持できなかった。このため、試料102については、以下の各種測定を行わなかった。表3において、測定を行わなかった項目は「N/A」と示される。
【0097】
試料105は、絶縁層の押出時に樹脂やけが生じ、良好な絶縁層を形成することができなかった。このため、試料105については、以下の各種測定を行わなかった。
【0098】
[絶縁層の評価]
各試料の絶縁電線の絶縁層について、250℃における貯蔵弾性率、70℃以上における融解熱量、2%セカントモジュラス、引張強さおよび引張伸びを評価した。
【0099】
≪絶縁層の250℃における貯蔵弾性率≫
絶縁層の250℃における貯蔵弾性率は、JIS K7244-4:1999に記載の動的機械特性の試験方法に準拠し、実施形態1に記載の方法に基づいて測定した。
【0100】
≪絶縁層の示差走査熱量計により測定される70℃以上における融解熱量≫
絶縁層の示差走査熱量計により測定される70℃以上における融解熱量は、示差走査熱量計(商品名「DSC8500」、Perkin Elmer社製)を用いて、実施形態1に記載の方法に基づいて求めた。
【0101】
≪絶縁層の引張強さおよび引張伸び≫
絶縁層の引張強さ[MPa]および引張伸び[%]は、JIS K7161-2:2014に準拠して測定した。試験温度は23±2℃、試験湿度は50±10%、試験速度は500mm/minとした。本開示において、引張強さが10.3MPa以上の場合、絶縁層は優れた引張強さを有すると判断される。本開示において、引張伸びが200%以上の場合、絶縁層は優れた引張伸びを有すると判断される。
【0102】
≪絶縁層の2%セカントモジュラス≫
長さ100mmの絶縁層を引張試験機で引張速度50mm/分で引張り、伸び率が2%となったときの過重を断面積で除した値を測定し、その抗張力を50倍して2%セカントモジュラスとした。試験温度は23±2℃、試験湿度は50±10%、試験速度は50mm/minとした。本開示において、2%セカントモジュラスが120MPa以下の場合、絶縁層は優れた柔軟性を有すると判断される。
【0103】
上記絶縁層の評価結果を表1~表3に示す。
【0104】
[難燃試験]
各試料の絶縁電線について、5個の試験用サンプルを準備した。UL規格1581、1080項に記載のVW-1垂直難燃試験を、5個の試験用サンプルについて行った。試験は、試験用サンプルに15秒着火を5回繰り返した場合に、60秒以内に消火し、下部に敷いた脱脂綿が燃焼落下物によって燃焼せず、試験用サンプルの上部に取り付けたクラフト紙が燃えたり、焦げたりしないものが合格レベルである。5個すべてが合格レベルの場合、合格「OK」とした。5個中、1個でも合格レベルに達しなかった場合には、不合格「NG」とした。結果を表1~表3の「難燃試験」欄に示す。
【0105】
[発煙性試験]
各試料の絶縁層と同一の組成からなる試験用サンプルを準備した。試料16以外の試験用サンプルは、電子線照射が行われたものである。試料16の試験用サンプルに対しては、電子線照射が行われなかった。試験用サンプルを用いて、NBSスモークチャンバーにより、発煙性試験を行った。JIS C0081:2002(IEC60695-6-31:1000)に記載の特定光学密度(Ds)の最大値Dmを測定した。結果を表1~表3の「発煙性試験Dm」欄に示す。最大値Dmが100以下の場合、試験用サンプルの燃焼時の発煙が抑制されていると判断される。
【0106】
[加熱変形試験]
各試料の絶縁電線に対して、ISO6722に準拠して、下記式1による荷重で0.7mm厚のエッジを絶縁層の表面に押し当て、200℃雰囲気下で4時間保持した。次に、絶縁電線に対して、水中で1kVの電圧を1分間印加し、絶縁破壊の有無を確認した。
荷重[N]=0.8×√{i×(2D-i)}・・・式1
上記式1中、D:絶縁電線の仕上外径[mm]、i:絶縁体の厚み[mm]
【0107】
絶縁破壊が生じなかった場合、合格「OK」とした。絶縁破壊が生じた場合、不合格「NG」とした。結果を表1~表3の「加熱変形試験」欄に示す。
【0108】
[考察]
試料1~試料16の絶縁電線は実施例に該当する。試料1~試料16の絶縁電線(実施例)は、絶縁層の2%セカントモジュラスが120MPa以下であり、優れた柔軟性を有し、絶縁層の引張伸びが200%以上であり、優れた引張伸びを有し、難燃試験が合格レベルの優れた難燃性を有し、かつ、燃焼時の発煙が抑制されることが確認された。
【0109】
試料101~試料108の絶縁電線は比較例に該当する。
試料101の絶縁電線は、2%セカントモジュラスが120MPa超であり、柔軟性が不十分であった。
試料102の絶縁電線は、複数本作製されたが、各種測定前に互いに固着してしまい、絶縁電線の形態を維持できなかった。このため、試料102については、各種測定を行わなかった。
試料103は、発煙性試験において、最大値Dmが118であり、燃焼時の発煙が抑制されなかった。
試料104、106および108は、引張伸びが200%未満であり、引張伸びが不十分であった。
試料105は、絶縁層の押出時に樹脂やけが生じ、良好な絶縁層を形成することができなかった。このため、試料105については、各種測定を行わなかった。
試料107は、難燃試験の結果が不合格(NG)であった。
【0110】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形したりすることも当初から予定している。
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0111】
1 絶縁電線、2 導体、3 絶縁層、10 熱収縮チューブ
【要約】
導体と、前記導体を被覆する絶縁層と、を備え、前記絶縁層は、第1成分、第2成分、臭素系難燃剤および酸化亜鉛を含む組成物からなり、前記第1成分は、テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体と、エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体と、からなり、前記第2成分は、酸化マグネシウム、炭酸カルシウムおよびハイドロタルサイトからなる群より選ばれる少なくとも1種からなり、前記組成物において、前記テトラフルオロエチレン-プロピレン系共重合体の質量M1に対する、前記エチレン-テトラフルオロエチレン系共重合体の質量M2の比M2/M1は、10/90以上40/60以下であり、前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記臭素系難燃剤の含有量は、1.0質量部以上40質量部以下であり、前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記酸化亜鉛の含有量は、1.0質量部以上25質量部以下であり、前記組成物において、前記第1成分100質量部に対する、前記第2成分の合計含有量は、5.0質量部以上50質量部以下である、絶縁電線である。
図1
図2