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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】積層体、包装材料、包装体及び包装物品
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20240827BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20240827BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20240827BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B32B27/32 Z
B32B27/40
B65D65/40 A
B65D65/40 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024534423
(86)(22)【出願日】2024-01-31
(86)【国際出願番号】 JP2024003087
【審査請求日】2024-06-07
(31)【優先権主張番号】P 2023014720
(32)【優先日】2023-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023070367
(32)【優先日】2023-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝澤 誠司
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/147090(WO,A1)
【文献】特開平11-978(JP,A)
【文献】国際公開第2022/056095(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/167944(WO,A1)
【文献】特開2018-173165(JP,A)
【文献】国際公開第2009/112256(WO,A1)
【文献】特開2015-208924(JP,A)
【文献】特開2024-49196(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 9/00
B32B 27/32
B32B 27/40
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1基材層とアンカーコート層と無機バリア層とをこの順序で含み、
前記第1基材層はポリオレフィンを含み、
前記アンカーコート層は、断面の複合弾性率が3.5乃至6.5GPaの範囲内にあり、且つ、厚さが0.4乃至3.0μmの範囲内にある積層体を含む包装材料
【請求項2】
前記第1基材層は前記アンカーコート層に接したスキン層とコア層とを含む層構造を有し、
前記アンカーコート層は断面の硬さが200MPa以上350MPa以下の範囲内であり、前記スキン層は断面の硬さが150MPa以下である請求項1に記載の包装材料
【請求項3】
前記スキン層は断面の硬さが20MPa以上である請求項2に記載の包装材料
【請求項4】
前記スキン層の厚さが0.2乃至1.8μmの範囲内である請求項2に記載の包装材料
【請求項5】
前記アンカーコート層はポリウレタン樹脂と硬化剤を含有するアンカーコート剤の硬化膜であり、前記アンカーコート剤中の前記ポリウレタン樹脂と前記硬化剤の固形分質量比[硬化剤/ポリウレタン樹脂]は、30/100乃至50/100の範囲内である請求項1に記載の包装材料
【請求項6】
前記無機バリア層は、酸化ケイ素又は酸化アルミニウムを含有する請求項1に記載の包装材料
【請求項7】
前記積層体の前記第1基材層側の面に第1接着層を介して形成されたシーラント層と、
前記積層体の前記無機バリア層側の面に第2接着層を介して形成された第2基材層と
を備える請求項に記載の包装材料。
【請求項8】
レトルトパウチ用である請求項に記載の包装材料。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の包装材料を含む包装体。
【請求項10】
請求項に記載の包装体と、これに収容された内容物とを含む包装物品。
【請求項11】
第1基材層とアンカーコート層と無機バリア層とをこの順序で含み、
前記第1基材層はポリオレフィンを含み、
前記アンカーコート層は、断面の複合弾性率が3.5乃至6.5GPaの範囲内にあり、且つ、厚さが0.4乃至3.0μmの範囲内にあり、
前記第1基材層は前記アンカーコート層に接したスキン層とコア層とを含む層構造を有し、
前記アンカーコート層は断面の硬さが200MPa以上350MPa以下の範囲内であり、前記スキン層は断面の硬さが150MPa以下である積層体
【請求項12】
第1基材層とアンカーコート層と無機バリア層とをこの順序で含み、
前記第1基材層はポリオレフィンを含み、
前記アンカーコート層は、ポリウレタン樹脂と硬化剤を含有するアンカーコート剤の硬化膜であり、前記アンカーコート剤中の前記ポリウレタン樹脂と前記硬化剤の固形分質量比[硬化剤/ポリウレタン樹脂]は、30/100乃至50/100の範囲内にあり、断面の複合弾性率が3.5乃至6.5GPaの範囲内にあり、且つ、厚さが0.4乃至3.0μmの範囲内にある積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、包装材料、包装体及び包装物品に関する。
【背景技術】
【0002】
飲食品、医薬品等を長期間保存するための包装材料には、酸素、水蒸気、その他内容物を変質させる気体が包装体内に侵入することを遮断するガスバリア性が求められる。一方、近年においては、包装材料に関してリサイクル性の高さも求められており、従来の包装材料をリサイクル性のよいオールポリオレフィンのモノマテリアルパッケージに切り替える動きは、国内にとどまらず世界的に進められている。
【0003】
包装材料に用いられるガスバリア性フィルムとして、従来から種々のものが開発されており、例えば、高分子フィルム上にガスバリア層として真空蒸着法やスパッタリング法などにより酸化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機被覆層が形成された蒸着フィルムがある。このようなガスバリア性フィルムは、高分子ポリマー層としてポリオレフィン層を用いた場合、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル層に比してガスバリア性が低下するという問題がある。また、高分子フィルムと無機被覆層との間の密着性が十分ではないという問題もある。
【0004】
上記蒸着フィルムのガスバリア性を向上させるために、高分子フィルムと無機被覆層との間に、平坦化層や密着層などとして樹脂材料から形成された第三の層を設ける技術が提案されている(例えば、特許文献1及び2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開2022/056095号公報
【文献】国際公開2022/220200号公報
【発明の概要】
【0006】
レトルト処理又はボイル処理等の高温高圧又は高温高湿環境下に付される包装材料には、特に高い性能が要求される。すなわち、このような包装材料に用いられるガスバリア性フィルムには、レトルト処理等の過酷な処理後に屈曲等の物理的ストレスを受けた場合にも、ガスバリア性を高いレベルで維持できる優れた耐虐待性が求められる。また、このようなガスバリア性フィルムには、レトルト処理等の過酷な処理後においても、高い層間接着力を維持できる優れた密着性も求められる。
【0007】
本発明は、耐虐待性と密着性に優れた積層体、これを含む包装材料、包装体及び包装物品を提供することを目的とする。
【0008】
本発明の一側面によると、第1基材層とアンカーコート層と無機バリア層とをこの順序で含み、上記第1基材層はポリオレフィンを含み、上記アンカーコート層は、断面の複合弾性率が3.5乃至6.5GPaの範囲内にあり、且つ、厚さが0.4乃至3.0μmの範囲内にある積層体が提供される。
【0009】
本発明の他の側面によると、上記第1基材層は上記アンカーコート層に接したスキン層とコア層とを含む層構造を有し、上記アンカーコート層は断面の硬さが200MPa以上350MPa以下の範囲内であり、上記スキン層は断面の硬さが150MPa以下である上記側面に係る積層体が提供される。
【0010】
本発明の更に他の側面によると、上記スキン層は断面の硬さが20MPa以上である上記側面に係る積層体が提供される。
【0011】
本発明の更に他の側面によると、上記スキン層の厚さが0.2乃至1.8μmの範囲内である上記側面の何れかに係る積層体が提供される。
【0012】
本発明の更に他の側面によると、上記アンカーコート層はポリウレタン樹脂と硬化剤を含有するアンカーコート剤の硬化膜であり、上記アンカーコート剤中の上記ポリウレタン樹脂と上記硬化剤の固形分質量比[硬化剤/ポリウレタン樹脂]は、30/100乃至50/100の範囲内である上記側面の何れかに係る積層体が提供される。
【0013】
本発明の更に他の側面によると、上記無機バリア層は、酸化ケイ素又は酸化アルミニウムを含有する上記側面の何れかに係る積層体が提供される。
【0014】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係る積層体を含む包装材料が提供される。
【0015】
本発明の更に他の側面によると、上記積層体の上記第1基材層側の面に第1接着層を介して形成されたシーラント層と、上記積層体の上記無機バリア層側の面に第2接着層を介して形成された第2基材層とを備える上記側面に係る包装材料が提供される。
【0016】
本発明の更に他の側面によると、レトルトパウチ用である上記側面の何れかに係る包装材料が提供される。
【0017】
本発明の更に他の側面によると、上記側面の何れかに係る包装材料を含む包装体が提供される。
【0018】
本発明の更に他の側面によると、上記側面に係る包装体と、これに収容された内容物とを含む包装物品が提供される。
【0019】
本発明によれば、耐虐待性と密着性に優れた積層体、これを含む包装材料、包装体及び包装物品が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態に係る積層体の一例を概略的に示す部分断面図。
図2】第1実施形態の一変形例に係る積層体を概略的に示す部分断面図。
図3】本発明の第2実施形態に係る包装材料の一例を概略的に示す部分断面図。
図4】第2実施形態の一変形例に係る包装材料を概略的に示す部分断面図。
図5】複合弾性率及び硬さの測定における一工程を概略的に示す断面図。
図6】荷重変位曲線を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下に説明する実施形態は、上記側面の何れかをより具体化したものである。以下に記載する事項は、単独で又は複数を組み合わせて、上記側面の各々に組み入れることができる。
【0022】
また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記の構成部材の材質、形状、及び構造等によって限定されるものではない。本発明の技術的思想には、請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0023】
なお、同様又は類似した機能を有する要素については、以下で参照する図面において同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。また、図面は模式的なものであり、或る方向の寸法と別の方向の寸法との関係、及び、或る部材の寸法と他の部材の寸法との関係等は、現実のものとは異なり得る。
【0024】
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態に係る積層体の一例を概略的に示す部分断面図である。 図1に示す積層体10は、第1基材層1と、アンカーコート層2と、無機バリア層3とをこの順序で含んでいる。積層体10が含んでいる各層について、以下に説明する。
【0025】
(第1基材層)
第1基材層1は支持体の一つとなるフィルムであり、単層であってもよく、2以上の層を含む積層構造であってもよい。
【0026】
第1基材層1はポリオレフィンを含む。第1基材層1はポリオレフィンフィルムからなるものであってよい。ポリオレフィンフィルムとしては、例えばポリエチレンフィルム(PE)、ポリプロピレンフィルム(PP)、ポリブテンフィルム(PB)等が挙げられる。また、ポリオレフィンフィルムは、ポリオレフィンを、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等を用いてグラフト変性して得られる酸変性ポリオレフィンフィルム等であってもよい。
【0027】
第1基材層1を構成するポリオレフィンフィルムは、延伸フィルムであってもよいし、非延伸フィルムであってもよい。耐衝撃性、耐熱性、耐水性、寸法安定性等の観点からは、ポリオレフィンフィルムは延伸フィルムであってよい。これにより積層体10を、レトルト処理やボイル処理等の高温高圧又は高温高湿環境下に付す用途により好適なものとすることができる。延伸方法としては特に限定されない。延伸方法は、インフレーションによる延伸、または一軸延伸、二軸延伸など、寸法が安定したフィルムが供給可能であれば、どのような方法でもよい。
【0028】
第1基材層1の厚さは、特に限定されるものではなく、例えば、6乃至200μmの範囲内において用途に応じて適宜設定することができる。第1基材層1の厚さは、一例によれば、優れた耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、9乃至50μmの範囲内であってよく、12乃至38μmの範囲内であってよい。
【0029】
第1基材層1には、アンカーコート層2が形成される側の主面に、バリア性能を損なわない範囲でコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施してもよく、また、易接着層などのコート層を設けてもよい。
【0030】
(アンカーコート層)
積層体10は、第1基材層1と無機バリア層3との間に、アンカーコート層2を備える。アンカーコート層2は、常温(25℃)における断面の複合弾性率が3.5乃至6.5GPaの範囲内にあり、且つ、厚さが0.4乃至3.0μmの範囲内にある。アンカーコート層2は、以下に説明するように、積層体10に優れた耐虐待性と密着性を付与する。ここで、耐虐待性とは、ゲルボフレックス試験(ガスバリア性フィルムにねじれを加えながら圧縮する操作を繰り返し行う試験)を行っても酸素バリア性及び水蒸気バリア性の少なくとも一方の低下を抑制できる特性を意味する。
【0031】
アンカーコート層2において、断面の複合弾性率が6.5GPa以下であることは、積層体10の耐虐待性を改善することに寄与する。この複合弾性率を6.5GPa以下とすることによりアンカーコート層2が柔軟となり、積層体10に屈曲等の物理的ストレスが加えられた際に無機バリア層3の割れが生じ難くなる。この場合において、アンカーコート層2の厚さは、0.4乃至3.0μmの範囲内である。アンカーコート層2の厚さを過剰に大きくすると、耐虐待性が低下し、断面の複合弾性率が6.5GPa以下であっても所望とする耐虐待性は得られない。また、アンカーコート層2の厚さを過剰に小さくすると、レトルト等の処理時において、無機バリア層3に第1基材層1の収縮の影響が伝わり、ガスバリア性が低下する。このためアンカーコート層2の厚さが0.4μm未満であると、レトルト処理等の高温高圧又は高温高湿環境下での処理後におけるガスバリア性が低下し、アンカーコート層2の断面の複合弾性率が6.5GPa以下であっても、所望とするガスバリア性及び耐虐待性は得られない。
【0032】
アンカーコート層2において、断面の複合弾性率が3.5GPa以上であることは、積層体10の密着性の改善に寄与する。この複合弾性率を3.5GPa以上とすることにより積層体10の密着性が向上し、レトルト処理等の高温高圧又は高温高湿環境下での処理後においてもアンカーコート層2と無機バリア層3との間の層間剥離が生じ難くなる。この場合において、アンカーコート層の厚さは3.0μm以下である。アンカーコート層2の厚さを過剰に大きくすると、密着性が低下し、複合弾性率を3.5GPa以上であっても所望とする密着性は得られない。
【0033】
このように、アンカーコート層2において、厚さを0.4乃至3.0μmの範囲内とし、且つ、断面の複合弾性率を3.5乃至6.5GPaの範囲内とすることにより、積層体10に優れた耐虐待性と密着性が付与される。このようにアンカーコート層2を備える積層体10は、耐虐待性及び密着性に優れるため、レトルト処理等の過酷な環境下での処理後において、屈曲等の物理的ストレスを受けた際にも、良好なガスバリア性を維持することができ、且つ、高い層間接着力を維持することができる。なお、この複合弾性率は、ナノインデンテーション法を用いて測定されるものであり、後で図面を参照しながら説明する。
【0034】
アンカーコート層2は、常温(25℃)における断面の複合弾性率が4.0乃至6.0GPaの範囲内にあることが好ましい。また、アンカーコート層2は、厚さが0.5乃至3.0μmの範囲内であることが好ましく、0.7~2.0μmの範囲内であることがより好ましい。なお、アンカーコート層2は、平坦化層としても機能し、無機バリア層3を欠陥なく均一に成膜ならしめることにより、積層体10におけるガスバリア性を更に向上させる。
【0035】
アンカーコート層2は、アンカーコート剤を用いて形成することができる。アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、水分散ポリウレタン樹脂等が挙げられる。
【0036】
アンカーコート剤は、例えば、以下に説明するポリウレタン樹脂と硬化剤とを含有する。
<ポリウレタン樹脂>
ポリウレタン樹脂は、酸基を有するポリウレタン樹脂(以下、「酸基含有ポリウレタン樹脂」ともいう。)とポリアミン化合物との反応物であってよい。すなわち、ポリウレタン樹脂は、酸基含有ポリウレタンの酸基とポリアミン化合物のアミノ基とを結合させることによって得られるものであってよい。酸基含有ポリウレタン樹脂の酸基とポリアミン化合物のアミノ基との結合は、イオン結合(例えば、カルボキシル基と第3級アミノ基とのイオン結合等)であってもよく、共有結合(例えば、アミド結合等)であってもよい。
【0037】
ポリウレタン樹脂を構成する酸基含有ポリウレタンは、酸基を有することから、アニオン性及び自己乳化性を有しており、アニオン性自己乳化型ポリウレタンとも称される。酸基含有ポリウレタンの酸基は、ポリウレタン樹脂を構成するポリアミンのアミノ基(第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基等)と結合可能である。酸基としては、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。酸基は、通常、中和剤(塩基)により中和可能であり、塩基と塩を形成していてもよい。酸基は、酸基含有ポリウレタンの末端に位置してもよく側鎖に位置してもよいが、少なくとも側鎖に位置していることが好ましい。
【0038】
酸基含有ポリウレタンの酸価は、酸基含有ポリウレタンが水分散性となる範囲で選択でき、5~100mgKOH/gとすることができ、10~70mgKOH/gであってもよく、15~60mgKOH/gであってもよい。酸基含有ポリウレタンの酸価が上記範囲の下限値以上であると、酸基含有ポリウレタンの水分散性が得られ易く、ポリウレタン樹脂と他の材料との均一分散性やアンカーコート剤の分散安定性が確保し易い。酸基含有ポリウレタンの酸価が上記範囲の上限値以下であると、下地層の耐水性やガスバリア性が確保し易い。酸基含有ポリウレタンの酸価は、JIS K 0070に準じた方法により測定される。
【0039】
酸基含有ポリウレタンのウレタン基濃度及びウレア基(尿素基)濃度の合計は、ガスバリア性の観点から、15質量%以上とすることができ、20~60質量%であってもよい。ウレタン基濃度及びウレア基濃度の合計が上記下限値以上であると、下地層のガスバリア性が良好になり易い。ウレタン基濃度及びウレア基濃度の合計が上記範囲の上限値以下であると、下地層が剛直で脆くなることを抑制し易い。
【0040】
ウレタン基濃度とは、ポリウレタン樹脂の構成単位の分子量に対する、ウレタン基の分子量(59g/当量)の割合を意味する。ウレア基濃度とは、ポリウレタン樹脂の構成単位の分子量に対する、ウレア基の分子量(一級アミノ基(アミノ基):58g/当量、二級アミノ基(イミノ基):57g/当量)の割合を意味する。なお、酸基含有ポリウレタンとして2種以上の混合物を用いる場合、ウレタン基濃度及びウレア基濃度は反応成分の仕込みベース、すなわち、各成分の使用割合をベースとして算出できる。
【0041】
酸基含有ポリウレタンは、少なくとも剛直な単位(炭化水素環で構成された単位)と、短鎖単位(例えば、炭化水素鎖で構成された単位)とを有することができる。酸基含有ポリウレタンの構成単位は、ポリイソシアネート成分、ポリヒドロキシ酸成分、ポリオール成分や鎖伸長剤成分(特に、少なくともポリイソシアネート成分)に由来して、炭化水素環(芳香族及び非芳香族炭化水素環のうち少なくとも1つ)を含んでいてよい。酸素バリア性向上の観点からポリウレタン樹脂は芳香族環を含むことができ、そのため、酸基含有ポリウレタンの構成単位は、炭化水素環として芳香族炭化水素環を含んでいてよい。
【0042】
酸基含有ポリウレタンの構成単位における炭化水素環で構成された単位の割合は、全構成単位の合計に対し、10~70質量%とすることができ、15~65質量%であってもよく、20~60質量%であってもよい。炭化水素環で構成された単位の割合が上記範囲の下限値以上であると、下地層のガスバリア性が良好になり易い。炭化水素環で構成された単位の割合が上記範囲の上限値以下であると、下地層が剛直で脆くなることを抑制し易い。
【0043】
酸基含有ポリウレタンの数平均分子量は、適宜選択可能であるが、800~1000000とすることができ、800~200000であってもよく、800~100000であってもよい。酸基含有ポリウレタンの数平均分子量が上記範囲の上限値以下であると、アンカーコート剤の適度な粘度が得られ易い。酸基含有ポリウレタンの数平均分子量が上記範囲の下限値以上であると、下地層のガスバリア性が良好になり易い。酸基含有ポリウレタンの数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0044】
酸基含有ポリウレタンは、ガスバリア性を高めるため、結晶性であってもよい。酸基含有ポリウレタンのガラス転移温度は、100℃以上とすることができ、110℃以上であってもよく、120℃以上であってもよい。酸基含有ポリウレタンのガラス転移温度が100℃以上であると、下地層のガスバリア性が良好になり易い。酸基含有ポリウレタンのガラス転移温度は、200℃以下とすることができ、180℃以下であってもよく、150℃以下であってもよい。したがって、酸基含有ポリウレタンのガラス転移温度は、100~200℃とすることができ、110~180℃であってもよく、120~150℃であってもよい。酸基含有ポリウレタンのガラス転移温度は、示差走査熱量測定(DSC)により測定される。
【0045】
ポリウレタン樹脂を構成するポリアミンは、2以上の塩基性窒素原子を有する化合物である。塩基性窒素原子は、酸基含有ポリウレタンの酸基と結合し得る窒素原子であり、例えば、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基等のアミノ基における窒素原子が挙げられる。ポリアミンとしては、酸基含有ポリウレタンの酸基と結合し、ガスバリア性を向上できるものであれば特に限定されるものではなく、2以上の塩基性窒素原子を有する種々の化合物を用いることができる。ポリアミンとしては、第1級アミノ基、第2級アミノ基及び第3級アミノ基からなる群から選択される少なくとも1種のアミノ基を2以上有するポリアミンを用いることができる。
【0046】
ポリアミンとしては、例えばアルキレンジアミン類、ポリアルキレンポリアミン類、複数の塩基性窒素原子を有するケイ素化合物等が挙げられる。アルキレンジアミン類としては、例えばエチレンジアミン、1,2-プロピレンジアミン、1,3-プロピレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン等の炭素数2~10のアルキレンジアミン等が挙げられる。ポリアルキレンポリアミン類としては、例えばテトラアルキレンポリアミン等が挙げられる。複数の塩基性窒素原子(アミノ基などの窒素原子を含む)を有するケイ素化合物としては、例えば2-〔N-(2-アミノエチル)アミノ〕エチルトリメトキシシラン、3-〔N-(2-アミノエチル)アミノ〕プロピルトリエトキシシラン等の、複数の塩基性窒素原子を有するシランカップリング剤等が挙げられる。
【0047】
ポリアミンのアミン価は、100~1900mgKOH/gとすることができ、150~1900mgKOH/gであってもよく、200~1900mgKOH/gであってもよく、200~1700mgKOH/gであってもよく、300~1500mgKOH/gであってもよい。ポリアミンのアミン価が上記範囲の下限値以上であれば、下地層のガスバリア性が良好になり易い。ポリアミンのアミン価が上記範囲の上限値以下であれば、ポリウレタン樹脂の水分散安定性が良好になり易い。
【0048】
〔アミン価の測定方法〕
ポリアミンのアミン価は、以下の方法により測定される。
試料を0.5~2g精秤する(試料量Sg)。精秤した試料にエタノール30gを加え溶解させる。得られた溶液に指示薬としてブロモフェノールブルーを加え0.2mol/Lのエタノール性塩酸溶液(力価f)で滴定を行なう。溶液の色が緑から黄の間の色に変化した点を終点とし、このときの滴定量(AmL)を用い以下の計算式1を用いアミン価を求める。
計算式1:アミン価=A×f×0.2×56.108/S〔mgKOH/g〕
【0049】
ポリウレタン樹脂を形成するにあたり、酸基含有ポリウレタンの酸基と、ポリアミンの塩基性窒素原子とのモル比(酸基/塩基性窒素原子)は10/1~0.1/1とすることができ、5/1~0.2/1であってもよい。酸基/塩基性窒素原子が上記範囲内であれば、下地層に優れた酸素バリア性が発現し易い。
【0050】
ポリウレタン樹脂は、水性媒体に分散した状態(水性分散体の形態)で入手することができる。すなわち、ポリウレタン樹脂は、水性ポリウレタン樹脂ということができる。水性媒体としては、水、水溶性若しくは親水性の有機溶剤、又はこれらの混合物が挙げられる。水溶性又は親水性の有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;テトラヒドロフラン等のエーテル類;セロソルブ類;カルビトール類;アセトニトリル等のニトリル類等が挙げられる。水性媒体としては、水又は水を主成分として含むものであってよい。水性媒体中の水の含有量は、70質量%以上とすることができ、80質量%以上であってもよい。水性媒体は、酸基含有ポリウレタンの酸基を中和する中和剤(塩基)を含んでもよく、含まなくてもよい。
【0051】
ポリウレタン樹脂の水性分散体において、分散粒子(ポリウレタン樹脂粒子)の平均粒子径は、特に限定されず、20~500nmとすることができ、25~300nmであってもよく、30~200nmであってもよい。分散粒子の平均粒子径が上記範囲の上限値以下であると、分散粒子と他の材料との均一分散性やアンカーコート剤の分散安定性を確保し易く、アンカーコート剤から形成される下地層のガスバリア性が良好になり易い。平均粒子径は、固形分濃度が0.03~0.3質量%の状態となるよう水で希釈して、濃厚系粒径アナライザー(大塚電子株式会社製、FPAR-10)にて計測することができる。
【0052】
ポリウレタン樹脂としては、市販のポリウレタン樹脂を用いてもよく、公知の製造方法により製造したポリウレタン樹脂を用いてもよい。上記のような、酸基含有ポリウレタン及びポリアミンから形成されるポリウレタン樹脂の水性分散体としては、タケラック(登録商標)WPB-341A(三井化学株式会社製)が挙げられる。
【0053】
ポリウレタン樹脂の製造方法としては、特に限定されるものではなく、アセトン法、プレポリマー法等の、通常のポリウレタン樹脂の水性化技術が挙げられる。ウレタン化反応では、必要に応じてアミン系触媒、錫系触媒、鉛系触媒等のウレタン化触媒を用いてもよい。例えば、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン等のエーテル類、アセトニトリル等のニトリル類等の不活性有機溶媒中において、ポリイソシアネート化合物と、ポリヒドロキシ酸と、必要に応じて、ポリオール成分及び鎖伸長剤成分のうち少なくとも1つと、を反応させることにより、酸基含有ポリウレタンを調製できる。より具体的には、不活性有機溶媒(特に、親水性又は水溶性の有機溶媒)中、ポリイソシアネート化合物と、ポリヒドロキシ酸と、ポリオール成分と、を反応させて、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを生成し、中和剤で中和して水性媒体に溶解又は分散させた後、鎖伸長剤成分を添加して反応させ、有機溶媒を除去することにより、酸基含有ポリウレタンの水性分散体を調製できる。このようにして得られた酸基含有ポリウレタンの水性分散体にポリアミンを添加し、必要に応じて加熱することにより、水分散体の形態のポリウレタン樹脂を調製できる。加熱する場合、加熱温度は30~60℃とすることができる。
【0054】
<硬化剤>
硬化剤は、上述したポリウレタン樹脂との反応性を有する。硬化剤としては、アンカーコート剤中のポリウレタン樹脂との反応性を持つものであれば特に限定されないが、イソシアネート化合物、シランカップリング剤、又はエポキシ化合物が好ましい。これらのうち、第1基材層1への密着性の点では、イソシアネート化合物が好ましい。
【0055】
イソシアネート化合物としては、イソシアネート基(-NCO)を有する化合物であれば特に限定することなく使用可能である。イソシアネート基は、ポリウレタン樹脂が持つ水酸基等と反応し、強固な結合を形成する。したがって、アンカーコート剤がイソシアネート化合物を含むことで、皮膜の凝集強度を高め、第1基材層1や無機バリア層3との密着力を向上させて、包装材料としての実用強度を高めることが可能である。
【0056】
イソシアネート化合物としては、分子中に少なくとも2つのイソシアネート基を有するポリイソシアネート化合物が好ましく、例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、水素添加トルエンジイソシアネート又はテトラメチレンキシリレンジイソシアネート等の有機ポリイソシアネート化合物、これらの有機ポリイソシアネート化合物の誘導体等が挙げられる。
【0057】
イソシアネート化合物としては、水に対する分散性を有するイソシアネート化合物(水分散性イソシアネート化合物)が好ましい。水分散性イソシアネート化合物としては、例えば、(1)上記有機ポリイソシアネート化合物の一部のイソシアネート基を、ポリエチレンオキサイド、カルボキシ基又はスルホン酸基等の親水性基によって変性して自己乳化型にしたイソシアネート化合物、(2)上記有機ポリイソシアネート化合物を界面活性剤等によって強制乳化して水分散可能にしたイソシアネート化合物、(3)上記有機ポリイソシアネート化合物から誘導される種々のプレポリマー類、(4)上記有機ポリイソシアネート中のイソシアネート基の一部をアルコール類、フェノール類、オキシム類、メルカプタン類、アミド類、イミド類又はラクタム類等のブロック化剤でブロックした化合物、いわゆるブロック化ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
これらのイソシアネート化合物は、いずれか1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0058】
上記のようなイソシアネート化合物としては、市販のイソシアネート化合物を用いてもよく、公知の製造方法により製造したイソシアネート化合物を用いてもよい。市販品としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート変性体の水分散性タイプのタケネート(登録商標)WD-725(三井化学株式会社製)が挙げられる。
【0059】
アンカーコート層2における上述した断面の複合弾性率は、例えば、アンカーコート剤中に含有されるポリウレタン樹脂と硬化剤との固形分質量比により調整することができる。アンカーコート剤中のウレタン樹脂に対する硬化剤の固形分質量比[硬化剤/ポリウレタン樹脂]は、30/100乃至50/100の範囲内であることが好ましく、
35/100乃至40/100の範囲内であることがより好ましい。
【0060】
アンカーコート剤には、ガスバリア性、耐虐性及び密着性を損なわない範囲で、酸化防止剤、耐候剤、熱安定剤、滑剤、結晶核剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、着色剤、フィラー、界面活性剤等の公知の添加剤が含まれていてよい。
【0061】
アンカーコート層2を第1基材層1上に塗工する方法としては、公知の塗工方法を使用することができる。公知の塗工方法としては、例えば、スプレー、コーター、印刷機、又は刷毛等を用いる方法、浸漬法(ディッピング法)等が挙げられる。また、これらの方法に用いられるコーター及び印刷機の種類並びにそれらの塗工方式としては、ダイレクトグラビア方式、リバースグラビア方式、キスリバースグラビア方式、オフセットグラビア方式等のグラビアコーター、リバースロールコーター、マイクログラビアコーター、チャンバードクター併用コーター、エアナイフコーター、ディップコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター等を挙げることができる。
【0062】
(無機バリア層)
無機バリア層3は、酸素バリア性及び水蒸気バリア性などのガスバリア性を有している。無機バリア層3は、無機酸化物を含有することが好ましい。無機バリア層3として無機酸化物層を用いることにより、積層体10のリサイクル性に影響を与えない範囲のごく薄い層で、高いバリア性を得ることができる。無機バリア層3に含まれる無機酸化物としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化錫等が挙げられる。透明性及びバリア性の観点から、無機酸化物は、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、及び酸化マグネシウムの何れかであることが好ましい。また、加工時に引っ張り延伸性に優れる観点から、無機酸化物として酸化ケイ素を含有することが好ましい。
【0063】
無機バリア層3のO/Si比(質量比)は、1.7以上であることが望ましい。O/Si比を1.7以上として金属Siの含有割合を抑制することにより、良好な透明性が得られ易い。また、無機バリア層3のO/Si比は、2.0以下であることが好ましい。O/Si比が2.0以下であるとSiOの結晶性が高くなる。SiOの結晶性が高くなると、無機バリア層3が硬くなり過ぎることを防ぐことができ、良好な引張り耐性が得られる。これにより、無機バリア層3の上に後述する第2基材層14を形成する際に無機バリア層3にクラックが発生することを抑制することができる。また、包装体をレトルト又はボイル処理する際に、熱により包装体を構成するポリオレフィンフィルムが収縮することがあるが、無機バリア層3のO/Si比が2.0以下であり、良好な引っ張り耐性を有する場合、上記収縮に追従することができ、ガスバリア性の低下を抑制することができる。これらの効果をより十分に得る観点から、無機バリア層3のO/Si比は、1.75以上1.9以下であることがより好ましく、1.8以上1.85以下であることが更に好ましい。
【0064】
無機バリア層のO/Si比は、X線光電子分光法(XPS)により求めることができる。測定条件として、例えば、測定装置はX線光電子分光分析装置(日本電子株式会社製、商品名:JPS-90MXV)を使用し、X線源は非単色化MgKα(1253.6eV)を使用し、100W(10kV-10mA)のX線出力で測定することができる。O/Si比を求めるための定量分析には、それぞれO1sで2.28、Si2pで0.9の相対感度因子を用いることができる。
【0065】
無機バリア層3の膜厚は、10nm以上80nm以下であることが好ましく、15nm乃至60nmの範囲内であることがより好ましい。膜厚が上記下限値以上であると、十分なバリア性能を得ることができる。また、上記上限値以下であると、薄膜の内部応力による変形によりクラックが発生することを抑制し、バリア性能の低下を抑制することができる。なお、膜厚が上記上限値を超えると、内部応力による変形によりクラックが発生しやすくなり、耐虐待性も低下する。また、膜厚が上記上限値を超えると、材料使用量の増加、及び膜形成時間の長時間化等に起因してコストが増加し易いため、経済的観点からも好ましくない。
【0066】
無機バリア層3は、例えば真空成膜で形成することができる。真空成膜では、物理気相成長法あるいは化学気相成長法を用いることができる。物理気相成長法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。化学気相成長法としては、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
上記真空成膜では、抵抗加熱式真空蒸着法、EB(Electron Beam)加熱式真空蒸着法、誘導加熱式真空蒸着法、スパッタリング法、反応性スパッタリング法、デュアルマグネトロンスパッタリング法、プラズマ化学気相堆積法(PECVD法)等が特に好ましく用いられる。但し、生産性を考慮すれば、現時点では真空蒸着法が最も優れている。真空蒸着法の加熱手段としては電子線加熱方式や抵抗加熱方式、誘導加熱方式のいずれかの方式を用いることが好ましい。
【0068】
(印刷層)
積層体10は、図示しない印刷層を更に備えていてよい。印刷層は、内容物に関する情報の表示、内容物の識別、あるいは包装体の意匠性向上を目的として、積層体10の外側から見える位置に設けられる。例えば、印刷層は、第1基材層1とアンカーコート層2との間に介在していてよい。印刷方法及び印刷インキは特に制限されず、既知の印刷方法及び印刷インキの中から、フィルムへの印刷適性、色調などの意匠性、密着性、食品容器としての安全性などを考慮して適宜選択される。印刷方法としては、例えば、グラビア印刷法、オフセット印刷法、グラビアオフセット印刷法、フレキソ印刷法、インクジェット印刷法などを用いることができる。中でもグラビア印刷法は生産性や絵柄の高精細度の観点から、好ましく用いることができる。
【0069】
印刷層の密着性を高めるため、第1基材層1のアンカーコート層2側の表面には、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施したり、易接着層などのコート層を設けても構わない。
【0070】
(複合弾性率の測定方法)
上述した複合弾性率は、ナノインデンテーション法により得る。以下、複合弾性率の測定方法について記載する。ここでは、一例として、測定対象は、積層体10のアンカーコート層2であるとする。
【0071】
先ず、積層体10から、後掲の実施例に記載の測定用サンプルの作製方法と同様の方法により測定用サンプル(試験片)を得る。
【0072】
次に、得られた試験片をナノインデンタに設置する。ここでは、ナノインデンタが備える圧子が、アンカーコート層2の断面に対して垂直に接触するように、試験片をナノインデンタに設置する。
【0073】
次に、図5に示すように、圧子30をアンカーコート層2へ押し込む。押し込む速度は50nm/秒とする。図5は、最大深さにて、圧子30をアンカーコート層2へ押し込んだ状態を概略的に示す断面図である。図5において、hmaxは、アンカーコート層2への押し込みに対する最大深さ、即ち、最大変位を示す。Aは接触投影面積を示す。hは接触深さを示す。圧子30を押し込む過程において、アンカーコート層2に加わる荷重及び押し込み深さをナノインデンタにより測定する。最大深さでの保持時間は1秒とする。
【0074】
圧子30としては、ブルカージャパン株式会社製のバーコビッチ型ダイヤモンド圧子を使用する。バーコビッチ型ダイヤモンド圧子は、3面ピラミッド型の構造をしており、圧子の内角は142.35°、中心線と面のなす角度は65.35°、圧子のアスペクト比は1:8である。
【0075】
次に、圧子30をアンカーコート層2から引き抜く。引き抜く速度は50nm/秒とする。この過程においても、アンカーコート層2に加わる荷重及び押し込み深さをナノインデンタにより測定する。なお、図5において、Pmaxは除荷曲線の最大荷重を示している。
【0076】
上述した動作によると、例えば、図6に示す関係が得られる。図6は、荷重変位曲線を示すグラフである。図6において、縦軸はアンカーコート層2に加わった荷重Pを表し、横軸は、圧子30の押し込み深さ、即ち、変位hを表している。図6において、荷重Pが0であるときには、圧子30はアンカーコート層2と接していない。また、変位hが0の位置は、アンカーコート層2に加わる荷重Pが0から増加する起点の位置である。図6において、変位hの増加に応じて荷重Pが0から右肩上がりで増加している曲線は、圧子30をアンカーコート層2に押し込む過程における、荷重Pと変位hとの関係を示している。変位hの減少に応じて荷重Pが負の値まで左肩下がりで減少している曲線は、除荷曲線である。除荷曲線は、圧子30をアンカーコート層2から引き抜く過程における、荷重と変位との関係を示している。
【0077】
次に、Oliver-Pharr法を用いた解析により、接触深さhを求める。接触深さhは、以下の式(1)によって求めることができる。
【0078】
【数1】
ここで、εは、圧子形状に関する定数である。バーコビッチ圧子では、この定数は0.75である。除荷曲線の最大荷重Pmax及び最大変位hmaxは、図6に示すグラフに基づいて求めることができる。Sは、接触剛性である。接触剛性Sは、図6における除荷曲線のうち、最大荷重に対して20乃至95%の範囲を、以下の式(2)の関数でフィッティングしてなる近似曲線の、引き抜き直後の傾きである。ここで、Pは荷重であり、hは押し込み深さである。また、A、h及びmは、フィッティングの際のフィッティングパラメータである。
【0079】
【数2】
次に、接触投影面積Aを、圧子の形状及び接触深さhに基づいて求める。接触投影面積Aは、以下の式(3)に示すように、接触深さhの関数で表すことができる。
【0080】
【数3】
なお、式(3)は、圧子形状の影響を補正するために、補正項と呼ばれるC乃至Cを含む項を含んでいる。C乃至Cは、溶融石英を試験片として用いて、最大荷重20μN乃至10mNの測定を行い、各最大荷重における複合弾性率Erが溶融石英の複合弾性率である69.6GPaとなるように定めた値である。
【0081】
次に、接触投影面積Ac及び接触剛性Sに基づいて、複合弾性率Erを求める。複合弾性率Erは、以下の式(4)によって求めることができる。
【0082】
【数4】
複合弾性率Erは、1つの試験片につき複数箇所で、例えば、20箇所で測定する。これら複合弾性率Erの平均値を、上記の複合弾性率として得る。
【0083】
[変形例]
積層体には、様々な変形が可能である。例えば、以下に記載するように、積層体は、図1に示す積層体10に対し、第1基材層1が積層構造を有していてよい。この場合において、積層構造は、アンカーコート層2に接したスキン層とコア層とを含むことが好ましい。以下に、変形例について図2を参照しながら説明する。なお、図1を参照しながら説明した事項は、単独で又は複数を組み合わせて、ここに記載する変形例に係る積層体へ適用することができる。
【0084】
図2は第1実施形態の一変形例に係る積層体を概略的に示す部分断面図である。
図2に示す積層体20は、第1基材層1がアンカーコート層2に接したスキン層1aとコア層1bとを含む積層構造を有すること以外は、図1を参照しながら説明した積層体10と同様である。このようにアンカーコート層2についても、積層体10について説明した事項が適用されるが、以下に説明するスキン層1aがアンカーコート層2に接している積層体20の特有の構造に起因し、アンカーコート層2は、後述するように、断面の硬さが200MPa以上350MPa以下の範囲内であることが好ましい。
【0085】
(第1基材層)
第1基材層1は、支持体の一つとなるフィルムであり、ポリオレフィンを含む。第1基材層1は、スキン層1aとコア層1bとを含んだ積層構造を有している。
<スキン層1a>
第1基材層1が含むスキン層1aは、第1基材層1が含む他の層であるコア層1bとアンカーコート層2との間に介在し、アンカーコート層2と接している。スキン層1aは、第1基材層1とアンカーコート層2との間の密着性を高め、レトルト処理後においても第1基材層1とアンカーコート層2との間の層間剥離を生じ難くする。
【0086】
スキン層1aは、ポリオレフィンを含むことが好ましく、ポリオレフィンフィルムからなるものであってもよい。ポリオレフィンフィルムを構成する樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどに代表されるα-オレフィンの単独重合体であってもよいし、2種以上のα-オレフィンの共重合体であってもよい。共重合体は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。ポリオレフィンフィルムを構成する樹脂は、α-オレフィンの単独重合体又は2種以上のα-オレフィンの共重合体の1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0087】
ポリオレフィンフィルムを構成する樹脂は、一形態において、プロピレンと他のα-オレフィンとの共重合体であることが好ましい。他のα-オレフィンとしては、プロピレン以外の炭素数2乃至6のα-オレフィンであって、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン等を例示することができる。共重合体中に含まれる他のα-オレフィンコモノマー成分の含有率は、例えば、0.5乃至15モル%の範囲内であることが好ましく、0.6乃至11モル%の範囲内であることがより好ましい。
【0088】
このようなプロピレン系共重合体としては、エチレン-プロピレンランダム共重合体、1-ブテン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-1-ブテン-プロピレンランダム共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等を例示することができる。
【0089】
スキン層1aを構成するポリオレフィンフィルムは、延伸フィルムであってもよいし、非延伸フィルムであってもよい。耐衝撃性、耐熱性、耐水性、寸法安定性等の観点からは、ポリオレフィンフィルムは延伸フィルムであってよい。これにより積層体20を、レトルト処理やボイル処理等の高温高圧又は高温高湿環境下に付す用途により好適なものとすることができる。延伸方法としては特に限定されない。延伸方法は、インフレーションによる延伸、または一軸延伸、二軸延伸など、寸法が安定したフィルムが供給可能であれば、どのような方法でもよい。スキン層1a及びコア層1bを含む第1基材層1は、例えば、スキン層1aの形成用樹脂とコア層1bの形成用樹脂とを共押出した後、二軸延伸することにより得られる。
【0090】
スキン層1aは、常温(25℃)における断面の硬さが150MPa以下である。スキン層1aにおいて、断面の硬さが150MPa以下であることは、積層体20の耐虐待性を改善することに寄与する。ここでスキン層1aが隣接するアンカーコート層2は、後述するように断面の硬さの上限値が350MPa以下であることが好ましい。スキン層1aの断面の硬さを150MPa以下とし、且つ、アンカーコート層2の断面の硬さを350MPa以下とすることにより、無機バリア層3の下部の層に柔軟性を生じさせることが可能となる。これにより積層体20に屈曲等の物理的ストレスが加えられた際に無機バリア層3の割れが生じ難くなる。この効果は、スキン層1a及びアンカーコート層2の一方のみの断面の硬さの上限値を調整することによっては得られ難い。スキン層1aにおいて、断面の硬さは120MPa以下であることがより好ましい。
【0091】
スキン層1aにおいて断面の硬さは150MPa以下であるのに対し、アンカーコート層2は断面の硬さは好ましくは200MPa以上350MPa以下の範囲内である。この場合、スキン層1aの断面の硬さはアンカーコート層2の断面の硬さより有意に低い。このようにスキン層1aの断面の硬さをアンカーコート層の断面の硬さより低くすることは、レトルト処理後におけるガスバリア性の低下を抑制するため好ましい。即ち、スキン層1aの断面の硬さをアンカーコート層2の断面の硬さより低くすることで、レトルト処理時における第1基材層1の収縮が無機バリア層3に伝わり難くなる。このため無機バリア層3の割れが生じ難くなり、レトルト処理後のガスバリア性の低下が抑制される。スキン層1aの断面の硬さをH1、アンカーコート層2の断面の硬さをH2としたとき、アンカーコート層2とスキン層1aとの間の断面の硬さの差(H2-H1)は、50MPa以上であることが好ましく、100MPa以上であることがより好ましい。一方、スキン層1aとアンカーコート層2との間の断面の硬さの差(H2-H1)の上限値は、特に制限されるものではないが、例えば、330MPa以下であってよく、200MPa以下であってよい。
【0092】
スキン層1aにおいて、常温(25℃)における断面の硬さは20MPa以上であることが好ましい。この場合、アンカーコート層2とスキン層1aとの間における密着性の改善効果が更に高まり、アンカーコート層2と第1基材層1との間の層間剥離をより生じ難くする。スキン層1aにおいて、断面の硬さは40MPa以上であることがより好ましい。
なお、この断面の硬さは、ナノインデンテーション法を用いて測定されるものであり、後で図面を参照しながら説明する。
【0093】
スキン層1aの厚さは、0.2乃至1.8μmの範囲内であることが好ましい。スキン層1aの厚さを過剰に大きくすると、耐熱性が低下し、レトルト後のバリア性能が低下する。また、スキン層1aの厚さを過剰に小さくすると、アンカーコート層との密着性が低下する。スキン層1aの厚さは、0.6乃至1.4μmの範囲内であることがより好ましい。
スキン層1aには、アンカーコート層2が形成される側の主面に、バリア性能を損なわない範囲でコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施してもよい。
【0094】
<コア層1b>
コア層1bは、ポリオレフィンを含む。コア層1bはポリオレフィンフィルムからなるものであってよい。ポリオレフィンフィルムとしては、例えばポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム等が挙げられる。また、ポリオレフィンフィルムは、ポリオレフィンを、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等を用いてグラフト変性して得られる酸変性ポリオレフィンフィルム等であってもよい。
【0095】
コア層1bを構成するポリオレフィンフィルムは、延伸フィルムであってもよいし、非延伸フィルムであってもよい。耐衝撃性、耐熱性、耐水性、寸法安定性等の観点からは、ポリオレフィンフィルムは延伸フィルムであってよい。これにより積層体20を、レトルト処理やボイル処理等の高温高圧又は高温高湿環境下に付す用途により好適なものとすることができる。延伸方法としては特に限定されない。延伸方法は、インフレーションによる延伸、または一軸延伸、二軸延伸など、寸法が安定したフィルムが供給可能であれば、どのような方法でもよい。上記のとおり、スキン層1a及びコア層1bを含む第1基材層1は、例えば、スキン層1aの形成用樹脂とコア層1bの形成用樹脂とを共押出した後、二軸延伸することにより得られる。
【0096】
コア層1bの厚さは、特に限定されるものではない。例えば、スキン層1aを含む第1基材層1の厚さが6乃至200μmの範囲内となるよう用途に応じて適宜設定することができる。第1基材層1の厚さは、一例によれば、優れた耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、9乃至50μmの範囲内であってよく、12乃至38μmの範囲内であってよい。
【0097】
(アンカーコート層)
積層体20は、第1基材層1と無機バリア層3との間に、アンカーコート層2を備える。アンカーコート層2は、上述したとおり、常温(25℃)における断面の複合弾性率が3.5乃至6.5GPaの範囲内にあり、且つ、厚さが0.4乃至3.0μmの範囲内にある。アンカーコート層2は、常温(25℃)における断面の硬さが好ましくは200MPa以上350MPa以下の範囲内にある。アンカーコート層2は、以下に説明するように、積層体20に優れた耐虐待性と密着性を付与する。
【0098】
アンカーコート層2において、断面の硬さが350MPa以下であることは、積層体20の耐虐待性を改善することに寄与する。この断面の硬さを350MPa以下とすることによりアンカーコート層2が柔軟となり、積層体20に屈曲等の物理的ストレスが加えられた際に無機バリア層3の割れが生じ難くなる。但し、上述のとおり、この効果はアンカーコート層2の断面の硬さが350MPa以下であり、且つ、スキン層1aの断面の硬さが150MPa以下であるときに得られ易くなるものであり、アンカーコート層2及びスキン層1aの一方のみの断面の硬さの上限値を調整することによっては得られ難い。アンカーコート層2において、断面の硬さは300MPa以下であることがより好ましい。
【0099】
アンカーコート層2において、断面の硬さが200MPa以上であることは、積層体20の密着性の改善に寄与する。この断面の硬さを200MPa以上とすることにより積層体10の密着性が向上し、レトルト処理等の高温高圧又は高温高湿環境下での処理後においてもアンカーコート層2と無機バリア層3との間の層間剥離が生じ難くなる。アンカーコート層2において、断面の硬さは250MPa以上であることがより好ましい。
【0100】
このように、アンカーコート層2において断面の硬さを200MPa以上350MPa以下とし、且つ、第1基材層を構成する層であって、アンカーコート層に隣接するスキン層1aにおける断面の硬さを150MPa以下とすることにより、積層体20に優れたガスバリア性、耐虐待性及び密着性が付与される。このように本変形例に係る積層体20は、レトルト処理又はボイル処理等の高温高圧又は高温高湿環境下における処理後において、優れたガスバリア性を有することに加え、屈曲等の物理的ストレスを受けた際にも良好なガスバリア性を維持することができる。また、本変形例に係る積層体20は、レトルト処理又はボイル処理等の高温高圧又は高温高湿環境下における処理後において、高い層間接着力を維持することができる。なお、この断面の硬さは、上述したとおり、ナノインデンテーション法を用いて測定されるものであり、後で図面を参照しながら説明する。
【0101】
アンカーコート層2の形成に用いられるアンカーコート剤としては、積層体10で説明したアンカーコート剤と同様の材料を用いることができる。アンカーコート剤が上述したポリウレタン樹脂と硬化剤とを含有する場合、アンカーコート層2における上述した断面の硬さは、例えば、アンカーコート剤中に含有されるポリウレタン樹脂と硬化剤との固形分質量比により調整することができる。アンカーコート剤中のウレタン樹脂に対する硬化剤の固形分質量比[硬化剤/ポリウレタン樹脂]は、30/100乃至50/100の範囲内であることが好ましく、35/100乃至40/100の範囲内であることがより好ましい。
【0102】
アンカーコート層2を第1基材層1上に塗工する方法としては、公知の塗工方法を使用することができ、例えば、積層体10で説明したアンカーコート剤の塗工方法と同様の方法を用いることができる。
【0103】
(硬さの測定方法)
上述した断面の硬さは、ナノインデンテーション法により得る。以下、硬さの測定方法について記載する。ここでは、一例として、測定対象は、積層体10のアンカーコート層2であるとする。
【0104】
先ず、積層体10から、後掲の実施例に記載の測定用サンプルの作製方法と同様の方法により測定用サンプル(試験片)を得る。
【0105】
次に、得られた試験片をナノインデンタに設置する。ここでは、ナノインデンタが備える圧子が、アンカーコート層2の断面に対して垂直に接触するように、試験片をナノインデンタに設置する。ナノインデンタとしては、1μNでの表面検出が可能であるものを使用する。なお、設置の際には、必要に応じて、包埋樹脂のトリミングを行ってもよい。
【0106】
次に、図5に示すように、圧子30をアンカーコート層2へ押し込む。押し込む速度は30nm/秒とする。図5は、最大深さにて、圧子30をアンカーコート層2へ押し込んだ状態を概略的に示す断面図である。図5において、hmaxは、アンカーコート層2への押し込みに対する最大深さ、即ち、最大変位を示す。Aは接触投影面積を示す。hは接触深さを示す。圧子30を押し込む過程において、アンカーコート層2に加わる荷重及び押し込み深さをナノインデンタにより測定する。最大深さでの保持時間は1秒とする。
【0107】
測定装置としてブルカージャパン株式会社製のHysitron TI-Premier(商品名)を使用し、圧子30としては、ブルカージャパン株式会社製のバーコビッチ型ダイヤモンド圧子を使用する。バーコビッチ型ダイヤモンド圧子は、3面ピラミッド型の構造をしており、圧子の内角は142.35°、中心線と面のなす角度は65.35°、圧子のアスペクト比は1:8である。
【0108】
次に、圧子30をアンカーコート層2から引き抜く。引き抜く速度は30nm/秒とする。この過程においても、アンカーコート層2に加わる荷重及び押し込み深さをナノインデンタにより測定する。なお、図5において、Pmaxは除荷曲線の最大荷重を示している。
【0109】
上述した動作によると、例えば、図6に示す関係が得られる。図6は、荷重変位曲線を示すグラフである。図6において、縦軸はアンカーコート層2に加わった荷重Pを表し、横軸は、圧子30の押し込み深さ、即ち、変位hを表している。図6において、荷重Pが0であるときには、圧子30はアンカーコート層2と接していない。また、変位hが0の位置は、アンカーコート層2に加わる荷重Pが0から増加する起点の位置である。図6において、変位hの増加に応じて荷重Pが0から右肩上がりで増加している曲線は、圧子30をアンカーコート層2に押し込む過程における、荷重Pと変位hとの関係を示している。変位hの減少に応じて荷重Pが負の値まで左肩下がりで減少している曲線は、除荷曲線である。除荷曲線は、圧子30をアンカーコート層2から引き抜く過程における、荷重と変位との関係を示している。
【0110】
次に、Oliver-Pharr法を用いた解析により、接触深さhを求める。接触深さhは、以下の式(1)によって求めることができる。
【0111】
【数5】
ここで、εは、圧子形状に関する定数である。バーコビッチ圧子では、この定数は0.75である。除荷曲線の最大荷重Pmax及び最大変位hmaxは、図6に示すグラフに基づいて求めることができる。Sは、接触剛性である。接触剛性Sは、図6における除荷曲線のうち、最大荷重に対して20乃至95%の範囲を、以下の式(2)の関数でフィッティングしてなる近似曲線の、引き抜き直後の傾きである。ここで、Pは荷重であり、hは押し込み深さである。また、A、h及びmは、フィッティングの際のフィッティングパラメータである。
【0112】
【数6】
次に、接触投影面積Aを、圧子の形状及び接触深さhに基づいて求める。接触投影面積Aは、以下の式(3)に示すように、接触深さhの関数で表すことができる。
【0113】
【数7】
なお、式(3)は、圧子形状の影響を補正するために、補正項と呼ばれるC乃至Cを含む項を含んでいる。C乃至Cは、溶融石英を試験片として用いて、最大荷重20μN乃至10mNの測定を行い、各最大荷重における複合弾性率Erが溶融石英の複合弾性率である69.6GPaとなるように定めた値である。複合弾性率Erは、以下の式(4)によって求めることができる。
【0114】
【数8】
【0115】
次に、接触投影面積A及び除荷曲線の最大荷重Pmaxに基づいて、硬さHを求める。硬さHは、以下の式(5)によって求めることができる。
【0116】
【数9】
【0117】
硬さHは、1つの試験片につき複数箇所で、例えば、10乃至20箇所で測定する。これら硬さHの平均値を、上記の硬さとして得る。
【0118】
[第2実施形態]
図3は、本発明の第2実施形態に係る包装材料の一例を概略的に示す部分断面図である。図3に示す包装材料100は、上述した第1実施形態に係る積層体10を含み、シーラント層11、第1接着層12、第1基材層1、アンカーコート層2、無機バリア層3、第2接着層13、及び第2基材層14をこの順序で備える。
【0119】
図4は、第2実施形態の一変形例に係る包装材料を概略的に示す部分断面図である。図4に示す包装材料200は、上述した積層体20を含み、シーラント層11、第1接着層12、コア層1b、スキン層1a、アンカーコート層2、無機バリア層3、第2接着層13、及び第2基材層14をこの順序で備える。
【0120】
本実施形態に係る包装材料100及び200は、積層体10及び20に関連して説明したとおり、レトルト処理後におけるガスバリア性、耐虐待性及び密着性に優れる。本実施形態に係る包装材料100及び200は、レトルト処理等の高温高圧又は高温高湿環境下での処理後において、屈曲等の物理的ストレスを受けた際にも、良好なガスバリア性を維持することができ、且つ、高い層間接着力を維持することができる。包装材料100及び200が含んでいる層のうち、上述した積層体10及び20が含んでいる層以外の各層について以下に説明する。
【0121】
(シーラント層)
シーラント層11は、積層体10及び20の第1基材層1側の面に第1接着層12を介して形成されている。シーラント層11は、包装材料100及び200においてヒートシールによる封止性を付与する。
【0122】
シーラント層11は、熱可塑性樹脂を含有してよく、熱可塑性樹脂としてポリオレフィン系樹脂が好適に使用される。シーラント層11は、ポリオレフィンフィルムを含むことが好ましく、ポリオレフィンフィルムからなるものであってよい。
【0123】
シーラント層11に含有されるポリオレフィン系樹脂としては、具体的には、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-(メタ)アクリル酸共重合体などのエチレン系樹脂;ポリエチレンとポリブテンのブレンド樹脂;ホモポリプロピレン樹脂(PP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂等を使用することができる。シーラント層11の材料として用いられる熱可塑性樹脂は、包装材料100及び200の使用用途やボイル、レトルト処理などの温度条件によって適宜選択できる。
【0124】
シーラント層11を構成するポリオレフィンフィルムには、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等の各種添加材が添加されてよい。
【0125】
シーラント層11の厚さは、包装材料100及び200を含む包装体に収容される内容物の質量や、包装体の形状などにより定められるが、概ね30乃至150μmの範囲内であることが好ましい。
【0126】
シーラント層11の形成方法としては、フィルム状のシーラント層を一液硬化型もしくは二液硬化型ウレタン系接着剤等の接着剤で貼りあわせるドライラミネート法、フィルム状のシーラント層を無溶剤接着剤を用いて貼りあわせるノンソルベントドライラミネート法、上述した熱可塑性樹脂を加熱溶融させ、カーテン状に押し出し、貼りあわせるエクストルージョンラミネート法等、公知の積層方法により形成することができる。
【0127】
上記形成方法の中でも、レトルト処理、特に120℃以上の高温熱水処理に対する耐性が高く好ましいのは、ドライラミネート法である。一方、包装体を85℃以下の温度で処理する用途に用いるのであれば、ラミネート方式は特に制限されない。
【0128】
(第2基材層)
第2基材層14は、積層体10及び20の無機バリア層3側の面に第2接着層13を介して形成されている。第2基材層14は、ポリオレフィンフィルムからなるものであってよい。ポリオレフィンフィルムとしては、例えばポリエチレンフィルム(PE)、ポリプロピレンフィルム(PP)、ポリブテンフィルム(PB)等が挙げられる。また、ポリオレフィンフィルムとしては、ポリオレフィンを、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸の酸無水物、不飽和カルボン酸のエステル等を用いてグラフト変性して得られる酸変性ポリオレフィンフィルム等が挙げられる。
【0129】
第2基材層14を構成するポリオレフィンフィルムは、延伸フィルムであってもよいし、非延伸フィルムであってもよい。耐衝撃性、耐熱性、耐水性、寸法安定性等の観点からは、ポリオレフィンフィルムは延伸フィルムであってよい。これにより包装材料100及び200を、レトルト処理やボイル処理を施す用途により好適なものとすることができる。延伸方法としては特に限定されない。延伸方法は、インフレーションによる延伸、または一軸延伸、二軸延伸など、寸法が安定したフィルムが供給可能である限り、どのような方法でもよい。
【0130】
第2基材層14の厚さは特に限定されない。包装材料100及び200の用途に応じ、第2基材層14の厚さを、例えば6乃至200μmの範囲内とすることができる。優れた耐衝撃性と優れたガスバリア性とを得る観点から、第2基材層14の厚さは9乃至50μmの範囲内であってよく、12乃至38μmの範囲内であってよい。
【0131】
第2基材層14には、積層体10及び20側の面にバリア性能を損なわない範囲でコロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理などの各種前処理を施したり、易接着層などのコート層を設けても構わない。
【0132】
(第1接着層)
包装材料100及び200は、シーラント層11と第1基材層1との間に、それらを接着する第1接着層12を含んでいる。第1接着層12の材料としては、例えば、ポリエステル-イソシアネート系樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル系樹脂などを用いることができる。包装材料100及び200を含む包装体をレトルト用途に使用するには、レトルト耐性のある2液硬化型のウレタン系接着剤を好ましく用いることができる。
【0133】
第1接着層12の厚さは特に限定されないが、0.5乃至8.0μmの範囲内であることが好ましく、2.0~4.0μmの範囲内であることがより好ましい。第1接着層12の厚さが上記上限値を上回ると材料使用量の増加、及び膜形成時間の長時間化等に起因してコストが増加し易いため、経済的観点からも好ましくない。第1接着層12の厚さが上記下限値を下回ると十分な層間接着強度が得られない。
【0134】
(第2接着層)
包装材料100及び200は、第2基材層14と無機バリア層3との間に、それらを接着する第2接着層13を含んでいる。第2接着層13の材料としては、上述した第1接着層12と同様である。また、第2接着層13の厚さについても、上述した第2接着層13と同様である。
【0135】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態によると、上述した包装材料100を含んだ包装体が提供される。また、上述した包装材料200を含んだ包装体が提供される。これら包装体は、合掌袋、三方袋、二方袋、スタンディングパウチ、又はガゼット袋等の公知の袋であってもよく、開口を有する容器本体とこの開口を塞ぐ蓋とを含んだ容器であってもよい。後者の場合、包装材料100及び200は、蓋の少なくとも一部として使用することができる。
【0136】
本実施形態に係る包装体は、積層体10及び20、並びに、包装材料100及び200に関連して説明したとおり、耐虐待性及び密着性に優れる。本実施形態に係る包装体は、レトルト処理等の高温高圧又は高温高湿環境下での処理後において、屈曲等の物理的ストレスを受けた際にも、良好なガスバリア性を維持することができ、且つ、高い層間接着力を維持することができる。したがって、本実施形態に係る包装体は、例えば、レトルトパウチとして好適に用いられる。
【0137】
[第4実施形態]
本発明の第4実施形態によると、上述した包装体と、これに収容された内容物とを含んだ包装物品が提供される。包装体は、例えば、内容物を収容する空間にシーラント層11が接している。内容物としては、どのようなものも使用することができる。一例によると、内容物は、液体や米の集合体等流動性を有するものである。
【実施例
【0138】
以下に、本発明に関連して行った試験について記載する。
<1>試験例1
<1.1>アンカーコート剤AC1の調製
主剤として下記タケラックWPB-341Aと、硬化剤として下記タケネートWD-725を、固形分質量比で、硬化剤/主剤=34.7/100となるよう混合することにより、アンカーコート剤AC1を調製した。
【0139】
・タケラックWPB-341A:酸基含有ポリウレタン及びポリアミンから形成されるポリウレタン樹脂の水性分散体、三井化学株式会社製、固形分濃度30質量%。
・タケネートWD-725:ノニオン性基を導入したポリイソシアネートの水性分散体、三井化学株式会社製、固形分濃度99質量%。
【0140】
<1.2>包装材料の製造
(例1)
図3に示す包装材料100を、以下の方法により製造した。
先ず、第1基材層1として、片面がコロナ処理された延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ20μm)を準備した。この第1基材層1のコロナ処理面に、上掲で調製したアンカーコート剤AC1をグラビアロールコート法にて塗工し、60℃で乾燥及び硬化させることにより、アンカーコート層2(厚さ1.2μm)を形成した。
【0141】
次に、電子線加熱方式による真空蒸着装置を用いて、アンカーコート層2上に無機バリア層3として厚さ40nmの酸化ケイ素からなる透明な無機酸化物層(シリカ蒸着層)を形成することにより、積層体10を得た。
【0142】
次に、上掲で得た積層体10の第1基材層1側の面に、2液硬化型のポリウレタン系接着剤(タケラックA525/タケネートA52、三井化学株式会社製)を乾燥後の膜厚が3μmとなるように塗工して第1接着層12を形成し、シーラント層11をドライラミネートした。シーラント層11としては、厚さ100μmの非延伸ポリプロピレンフィルム(casted polypropylene;CPP)を使用した。
【0143】
次に、積層体10の無機バリア層3側の面に、第1接着層12と同じ2液硬化型のポリウレタン系接着剤を乾燥後の膜厚が3μmとなるように塗工して第2接着層13を形成し、第2基材層14をドライラミネートした。第2基材層14としては、厚さ30μmの延伸ポリプロピレン(Oriented polypropylene;OPP)を使用した。これにより図3に示す包装材料100を得た。
【0144】
(例2)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、包装材料100を製造した。即ち、本例では、アンカーコート剤として、主剤と硬化剤とが硬化剤/主剤=34.7/100の固形分質量比で混合されたアンカーコート剤AC1を使用する代わりに、硬化剤/主剤=41.3/100の固形分質量比で混合されたアンカーコート剤AC2を使用した。
【0145】
(例3)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、包装材料100を製造した。即ち、本例では、アンカーコート剤として、主剤と硬化剤とが、硬化剤/主剤=34.7/100の固形分質量比で混合されたアンカーコート剤AC1を使用する代わりに、硬化剤/主剤=47.2/100の固形分質量比で混合されたアンカーコート剤AC3を使用した。
【0146】
(例4)
以下の点を除き、例3と同様の方法により、包装材料100を製造した。即ち、本例では、アンカーコート層2の厚さを、1.2μmから0.5μmに変更した。
【0147】
(例5)
以下の点を除き、例3と同様の方法により、包装材料100を製造した。即ち、本例では、アンカーコート層2の厚さを、1.2μmから2.8μmに変更した。
【0148】
(比較例1)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、包装材料100を製造した。即ち、本比較例では、アンカーコート剤として、主剤と硬化剤とが、硬化剤/主剤=34.7/100の固形分質量比で混合されたアンカーコート剤AC1を使用する代わりに、硬化剤/主剤=28.7/100の固形分質量比で混合されたアンカーコート剤AC1Rを使用した。
【0149】
(比較例2)
以下の点を除き、例1と同様の方法により、包装材料100を製造した。即ち、本比較例では、アンカーコート剤として、主剤と硬化剤とが、硬化剤/主剤=34.7/100の固形分質量比で混合されたアンカーコート剤AC1を使用する代わりに、硬化剤/主剤=51.5/100の固形分質量比で混合されたアンカーコート剤AC2Rを使用した。
【0150】
(比較例3)
以下の点を除き、例3と同様の方法により、包装材料100を製造した。即ち、本比較例では、アンカーコート層2の厚さを、1.2μmから0.3μmに変更した。
【0151】
(比較例4)
以下の点を除き、例3と同様の方法により、包装材料100を製造した。即ち、本比較例では、アンカーコート層2の厚さを、1.2μmから3.2μmに変更した。
【0152】
<1.3>評価
(複合弾性率)
例1乃至5及び比較例1乃至4に係る包装材料のアンカーコート層2について、ナノインデンテーション法を用いて断面の複合弾性率を測定した。
[測定用サンプルの作製]
例1乃至5及び比較例1乃至4に係る包装材料(以下において、単に「フィルム」ともいう。)の両面を、それぞれ0.20kWでコロナ処理(装置:春日電機株式会社製 コロナ処理機CT-0212)した後に、フィルムを底辺1.0mm×高さ5.0mmのくさび型にカミソリにて裁断した。裁断したフィルムを光硬化樹脂で包埋し、ハロゲンランプKTX-100R(株式会社ケンコー・トキナー製)にて硬化した。光硬化樹脂には東亜合成株式会社製のD-800を用いた。
【0153】
光硬化後のフィルム包埋樹脂をAFM試料ホルダー用インサートで固定し、常温(25℃)においてガラスナイフでフィルムの断面切削を行った。その後、常温においてダイヤモンドナイフで切削スピード1.0mm/s、切削層厚500nmの設定で最終的な断面切削を実施し、鏡面となったところで切削終了とした。断面切削装置として、ウルトラミクロトーム(ライカ社製EM UC7)、クライオシステム(ライカ社製EM FC7)を用いた。また、ナイフの切削方向は、層界面に対し平行とした。
【0154】
[ナノインデンテーション法による複合弾性率の測定]
測定装置としてブルカージャパン株式会社製のHysitron TI-Premier(商品名)を用い、圧子としてブルカージャパン株式会社製のバーコビッチ型ダイヤモンド圧子を用いた。
ナノインデンテーション法による測定は、変位制御モードにおいて、押し込み速度50nm/秒にて深さ50nmまで押し込みを行った後、最大深さにおいて1秒間保持後、50nm/秒の速度にて除荷することで行った。
【0155】
測定は、圧子によって試料表面を走査する測定装置の形状測定機能によって試料断面の形状像を取得し、形状像から目的層(アンカーコート層2)上を1μm以上の間隔で20点指定して行った。
複合弾性率の算出に際しては、標準試料となる溶融石英を予め試験し、圧子及び試料の接触深さと接触投影面積との関係を校正した。その後、除荷時の最大荷重に対して60~95%領域の除荷曲線をOliver-Pharr法にて解析し、複合弾性率を算出した。
【0156】
(レトルト処理後のガスバリア性、耐虐待性及び密着性)
例1乃至5及び比較例1乃至4に係る各包装材料を用いて、レトルト処理後のガスバリア性、耐虐待性及び密着性の評価用サンプルを作製した。まず、各包装材料から20cm×20cmの試験片を2枚×3セット切り出し、シーラント層が内側になるように2枚の試験片を重ねたものを3セット作製した。そして、各々について3辺をヒートシールして袋形状とした。次いで、各々に水を充填した後、残りの辺をヒートシールすることにより、各包装材料について3セットの評価用サンプルを作製した。これらサンプルについて、貯湯式レトルト釜を用いて0.2MPa、121℃で30分間レトルト処理を行った後に、以下に説明する方法により、ガスバリア性、耐虐待性及び密着性を評価した。
【0157】
<ガスバリア性>
上記レトルト処理後における各サンプルの酸素透過度(Oxygen Transmission Rate:OTR)を、Modern Control社製の酸素透過試験器OX-TRAN(登録商標)2/20を用いて、温度30℃、相対湿度70%の条件下で測定した。測定方法は、JIS K-7126 B法(等圧法)、及びASTM D3985に準拠して行った。測定結果から、以下の基準に基づきレトルト処理後におけるガスバリア性を評価した。
A:酸素透過度が10cc/m/day/atm以下であり、レトルト処理後のガスバリア性に優れる。
B:酸素透過度が10cc/m/day/atm超であり、レトルト処理後のガスバリア性は優れているとはいえない。
【0158】
<耐虐待性>
上記レトルト処理後の各サンプルに、MIL B131(ASTMF392)に規定されているテスター産業製ゲルボフレックステスターにて、5回の屈曲を与えるゲルボフレックス試験を行った。このゲルボフレックス試験後の各サンプルについて、上記と同様の条件及び方法で酸素透過度を測定した。測定結果から、以下の基準に基づきレトルト処理後における耐虐待性を評価した。
A:酸素透過度が20cc/m/day/atm以下であり、レトルト処理後の耐虐待性に優れる。
B:酸素透過度が20cc/m/day/atm超であり、レトルト処理後の耐虐待性は優れているとはいえない。
【0159】
<密着性>
上記レトルト処理後の各サンプルについて、アンカーコート層2と無機バリア層3との間の180°剥離強度を、オリエンテック社製の引張試験機テンシロンRTC-1250を用いて測定した。測定結果から、以下の基準に従いレトルト処理後における密着性を評価した。
A:剥離強度が2.0N/15mm以上であり、レトルト処理後における密着性に非常に優れる。
B:剥離強度が1.5N/15mm以上2.0N/15mm未満であり、レトルト処理後における密着性に優れる。
C:剥離強度が1.5N/15mm未満であり、レトルト処理後における密着性に優れているとはいえない。
【0160】
各包装材料についての測定及び試験の結果と評価を、以下の表1に纏める。
【0161】
【表1】
【0162】
表1に示される結果から、アンカーコート層2において、膜厚を0.3乃至4.0μmの範囲内とし、且つ、断面の複合弾性率を3.5乃至6.5GPaの範囲内とすることにより、包装材料(積層体)に優れた密着性と耐虐待性が付与されることがわかる。したがって、本実施形態に係る包装材料を含む包装体は、レトルト処理又はボイル処理等の高温高圧又は高温高湿環境下における処理後において、屈曲等の物理的ストレスを受けた際にも、良好なガスバリア性を維持することができ、且つ、高い層間接着力を維持することができる。
【0163】
<2>試験例2
<2.1>第1基材層の作製
<2.1.1>第1基材層1Aの作製
スキン層1aの材料としてエチレン-1-ブテン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:5モル%、1-ブテン含有率:6モル%)を、コア層1bの材料としてホモポリプロピレン樹脂を準備した。これらの樹脂を共押出しした後、二軸延伸することにより、厚さ0.7μmのスキン層1aと、厚さ19.3μmのコア層1bからなる厚さ20μmの第1基材層1Aを作製した。
【0164】
<2.1.2>第1基材層1Bの作製
スキン層1aの材料として、エチレン-1-ブテン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:5モル%、1-ブテン含有率:6モル%)に替えてエチレン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:7.5モル%)を用いたこと以外は、第1基材層1Aと同様の条件により第1基材層1Bを作製した。
【0165】
<2.1.3>第1基材層1Cの作製
スキン層1aの材料として、エチレン-1-ブテン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:5モル%、1-ブテン含有率:6モル%)に替えてエチレン-1-ブテン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:2.5モル%、1-ブテン含有率:3.5モル%)を用いたこと以外は、第1基材層1Aと同様の方法により第1基材層1Cを作製した。
【0166】
<2.1.4>第1基材層1Dの作製
スキン層1aの材料として、エチレン-1-ブテン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:5モル%、1-ブテン含有率:6モル%)に替えてエチレン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:5.0モル%)を用いたこと以外は、第1基材層1Aと同様の条件により第1基材層1Dを作製した。
【0167】
<2.1.5>第1基材層1Eの作製
スキン層1aの材料として、エチレン-1-ブテン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:5モル%、1-ブテン含有率:6モル%)に替えてエチレン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:3.2モル%)を用いたこと以外は、第1基材層1Aと同様の条件により第1基材層1Eを作製した。
【0168】
<2.1.6>第1基材層1Fの作製
スキン層1aの材料として、エチレン-1-ブテン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:5モル%、1-ブテン含有率:6モル%)に替えてエチレン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:0.7モル%)を用いたこと以外は、第1基材層1Aと同様の条件により第1基材層1Fを作製した。
【0169】
<2.1.7>第1基材層1Gの作製
スキン層1aの材料として、エチレン-1-ブテン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:5モル%、1-ブテン含有率:6モル%)に替えてエチレン-プロピレンランダム共重合体樹脂(エチレン含有率:0.6モル%)を用いたこと以外は、第1基材層1Aと同様の条件により第1基材層1Gを作製した。
【0170】
<2.1.8>第1基材層1Hの作製
スキン層1aの厚さを0.7μmから1.8μmに、コア層1bの厚さを19.3μmから18.2μmに変更したこと以外は、第1基材層1Aと同様の条件により第1基材層1Iを作製した。
【0171】
<2.1.9>第1基材層1Iの作製
スキン層1aの厚さを0.7μmから0.2μmに、コア層1bの厚さを19.3μmから19.8μmに変更したこと以外は、第1基材層1Aと同様の条件により第1基材層1Jを作製した。
【0172】
<2.2>アンカーコート剤の調製
<2.2.1>アンカーコート剤AC3Rの調製
主剤と硬化剤の固形分質量比を、硬化剤/主剤=47.2/100から54.5/100に変更した以外はアンカーコート剤AC1と同様の条件でアンカーコート剤AC3Rを調製した。
【0173】
ここで調製したアンカーコート剤AC3R以外は、試験例1で調製したアンカーコート剤AC1乃至AC3、ACR1及びACR2を使用した。
【0174】
<2.3>包装材料の製造
<2.3.1>例6
図4に示す包装材料200を、以下の方法により製造した。
先ず、上掲で作製した第1基材層1Aのスキン層1a側の面に、上掲で調製したアンカーコート剤AC3をグラビアロールコート法にて塗工し、60℃で乾燥及び硬化させることにより、アンカーコート層2(厚さ1.0μm)を形成した。
【0175】
次に、電子線加熱方式による真空蒸着装置を用いて、アンカーコート層2上に無機バリア層3として厚さ40nmの酸化ケイ素からなる透明な無機酸化物層(シリカ蒸着層)を形成することにより、積層体20を得た。
【0176】
次に、上掲で得た積層体20の第1基材層1側の面に、2液硬化型のポリウレタン系接着剤(主剤:タケラックA525、硬化剤:タケネートA52、三井化学株式会社製)を乾燥後の膜厚が3μmとなるように塗工して第1接着層12を形成し、シーラント層11をドライラミネートした。シーラント層11としては、厚さ100μmの非延伸ポリプロピレンフィルム(casted polypropylene;CPP)を使用した。
【0177】
次に、積層体20の無機バリア層3側の面に、第1接着層12と同じ2液硬化型のポリウレタン系接着剤を乾燥後の膜厚が3μmとなるように塗工して第2接着層13を形成し、第2基材層14をドライラミネートした。第2基材層14としては、厚さ30μmの延伸ポリプロピレン(Oriented polypropylene;OPP)を使用した。これにより図4に示す包装材料200を得た。
【0178】
(例7乃至17、比較例5乃至7)
例6で使用した第1基材層1A又はアンカーコート剤AC3を、表2に記載のものに変更したこと以外は例6と同様の条件で例7乃至17及び比較例5乃至7に係る包装材料を製造した。
【0179】
<2.4>硬さの測定及び評価
<2.4.1>硬さ
例6乃至17及び比較例5乃至7に係る包装材料の各々について、スキン層1a及びアンカーコート層2(以下において、各々を「目的層」という。)の断面の硬さをナノインデンテーション法により測定した。
【0180】
[測定用サンプルの作製]
各包装材料(以下において、「フィルム」ともいう。)の両面を、それぞれ0.20kWでコロナ処理(装置:春日電機株式会社製 コロナ処理機CT-0212)した後に、フィルムを底辺1.0mm×高さ5.0mmのくさび型にカミソリにて裁断した。裁断したフィルムを光硬化樹脂で包埋し、ハロゲンランプKTX-100R(株式会社ケンコー・トキナー製)にて硬化した。光硬化樹脂には東亜合成株式会社製のD-800を用いた。
【0181】
光硬化後のフィルム包埋樹脂をAFM試料ホルダー用インサートで固定し、常温(25℃)においてガラスナイフでフィルムの断面切削を行った。その後、常温においてダイヤモンドナイフで切削スピード1.0mm/s、切削層厚100nmの設定で最終的な断面切削を実施し、鏡面となったところで切削終了とした。断面切削装置として、ウルトラミクロトーム(ライカ社製EM UC7)、クライオシステム(ライカ社製EM FC7)を用いた。また、ナイフの切削方向は、層界面に対し平行とした。
【0182】
[ナノインデンテーション法による硬さの測定]
測定装置としてブルカージャパン株式会社製のHysitron TI-Premier(商品名)を用い、圧子としてブルカージャパン株式会社製のバーコビッチ型ダイヤモンド圧子を用いた。
ナノインデンテーション法による測定は、変位制御モードにおいて、押し込み速度30nm/秒にて深さ30nmまで押し込みを行った後、最大深さにおいて1秒間保持後、30nm/秒の速度にて除荷することで行った。
【0183】
測定は、圧子によって試料表面を走査する測定装置の形状測定機能によって試料断面の形状像を取得し、形状像から目的層上を1μm以上の間隔で20点指定して行った。
硬さの算出に際しては、標準試料となる溶融石英を予め試験し、圧子及び試料の接触深さと接触投影面積との関係を校正した。その後、除荷時の最大荷重に対して60~95%領域の除荷曲線をOliver-Pharr法にて解析し、硬さを算出した。その結果、アンカーコート層2の硬さは、例6乃至17については何れも200乃至350MPaの範囲内にあり、比較例5は200MPa未満であり、比較例6及び7は350MPa超であった。スキン層1aの硬さの結果を表2に示す。
【0184】
<2.4.2>複合弾性率
各包装材料のアンカーコート層2について、ナノインデンテーション法を用いて断面の複合弾性率を測定した。
測定用サンプルの作製、並びに、ナノインデンテーション法による複合弾性率の測定は、試験例1と同様の条件で行った。結果を表2に示す。
【0185】
<2.4.3>レトルト処理後のガスバリア性、耐虐待性及び密着性
例1乃至12及び比較例1乃至6に係る各包装材料を用いて、レトルト処理後のガスバリア性、耐虐待性及び密着性の評価用サンプルを作製した。まず、各包装材料から20cm×20cmの試験片を2枚×3セット切り出し、シーラント層11が内側になるように2枚の試験片を重ねたものを3セット作製した。そして、各々について3辺をヒートシールして袋形状とした。次いで、各々に水を充填した後、残りの辺をヒートシールすることにより、各包装材料について3セットの評価用サンプルを作製した。これらサンプルについて、貯湯式レトルト釜を用いて0.2MPa、120℃で30分間レトルト処理を行った後に、以下に説明する方法により、ガスバリア性、耐虐待性及び密着性を評価した。結果を表2に示す。
【0186】
<ガスバリア性>
上記レトルト処理後における各サンプルの酸素透過度(Oxygen Transmission Rate:OTR)を、試験例1と同様の条件により測定した。測定結果から、試験例1と同様の基準に基づきレトルト処理後におけるガスバリア性を評価した。
【0187】
<耐虐待性>
上記レトルト処理後の各サンプルについて、試験例1と同様の条件でゲルボフレックス試験を行い、次いで、試験例1と同様の条件で酸素透過度を測定した。測定結果から、試験例1と同様の基準に基づきレトルト処理後における耐虐待性を評価した。
【0188】
<密着性1>
上記レトルト処理後の各サンプルについて、第1基材層1とアンカーコート層2との間の180°剥離強度を、オリエンテック社製の引張試験機テンシロンRTC-1250を用いて測定した。測定結果から、以下の基準に従いレトルト処理後における密着性を評価した。
A:剥離強度が2.0N/15mm以上であり、レトルト処理後における密着性に非常に優れる。
B:剥離強度が1.5N/15mm以上2.0N/15mm未満であり、レトルト処理後における密着性に優れる。
C:剥離強度が1.5N/15mm未満であり、レトルト処理後における密着性に優れているとはいえない。
【0189】
<密着性2>
上記レトルト処理後の各サンプルについて、アンカーコート層2と無機バリア層3との間の180°剥離強度を、オリエンテック社製の引張試験機テンシロンRTC-1250を用いて測定した。測定結果から、以下の基準に従いレトルト処理後における密着性を評価した。
A:剥離強度が2.0N/15mm以上であり、レトルト処理後における密着性に非常に優れる。
B:剥離強度が1.5N/15mm以上2.0N/15mm未満であり、レトルト処理後における密着性に優れる。
C:剥離強度が1.5N/15mm未満であり、レトルト処理後における密着性に優れているとはいえない。
【0190】
【表2】
【0191】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、各実施形態は適宜組み合わせて実施してもよく、その場合組み合わせた効果が得られる。更に、上記実施形態には種々の発明が含まれており、開示される複数の構成要件から選択された組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、課題が解決でき、効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0192】
1…第1基材層、1a…スキン層、1b…コア層、2…アンカーコート層、3…無機バリア層、10…積層体、11…シーラント層、12…第1接着層、13…第2接着層、14…第2基材層、20…積層体、100…包装材料、200…包装材料
【要約】
耐虐待性と密着性に優れた積層体、これを含む包装材料、包装体及び包装物品を提供する。積層体10は、第1基材層1とアンカーコート層2と無機バリア層3とをこの順序で含む。上記第1基材層1はポリオレフィンを含み、上記アンカーコート層2は、断面の複合弾性率が3.5乃至6.5GPaの範囲内にあり、且つ、厚さが0.4乃至3.0μmの範囲内にある。
図1
図2
図3
図4
図5
図6