(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】医療用補助器具
(51)【国際特許分類】
A61M 16/04 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
A61M16/04 Z
(21)【出願番号】P 2020203195
(22)【出願日】2020-12-08
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】510314792
【氏名又は名称】株式会社エーワンテクニカ
(73)【特許権者】
【識別番号】399086263
【氏名又は名称】学校法人帝京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100158850
【氏名又は名称】明坂 正博
(72)【発明者】
【氏名】田垣内 祐吾
(72)【発明者】
【氏名】金田 英一
(72)【発明者】
【氏名】野口 義弘
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-036082(JP,A)
【文献】特表2009-519763(JP,A)
【文献】米国特許第05620004(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の換気のための気管導入部材が正しく気管内に導入されているか否かを検知する医療用補助器具であって、
前記気管導入部材を接続する筒状コネクタと、
ホイッスル部を有する気流検知手段と、
を備え、
前記筒状コネクタは、
第1方向に延在する第1流路を有し、前記第1流路の一端側に設けられ前記気管導入部材を接続する第1接続口を有する第1接続部分と、
前記第1接続部分に接続され、前記第1流路と連通する第2流路を有し、気流供給手段を接続する第2接続口を有する第2接続部分と、
前記第1接続部分に接続され、前記第1流路と連通する第3流路を有し、前記気流検知手段を接続する第3接続口を有する第3接続部分と、
前記第1接続部分における前記第1流路の前記一端側とは反対の他端側に接続され、
前記気管導入部材へ挿入する術具を接続する第4接続口を有する第4接続部分と、を有し、
前記気流検知手段は、前記気管導入部材の先端が正しく気管内に導入されて開放されている状態と、前記気管導入部材が気管内に導入されずその先端が閉鎖されている状態とを前記ホイッスル部からの音によって区別して検知
し、
前記第2接続部分の前記第2流路は、前記第1流路の途中で前記第1流路と連通し、
前記第2流路の前記第1流路に対する連通角度は、前記第1流路の前記他端側の角度において鋭角であり、
前記第3接続部分の前記第3流路は、前記第1流路における前記第2流路との接続位置よりも前記第1流路の前記他端に近位であり、
前記第3流路の前記第1流路に対する連通角度は、前記第1流路の前記他端側の角度において鋭角である、
ことを特徴とする医療用補助器具。
【請求項2】
前記第1接続部分と前記第4接続部分とは、互いに前記第1方向に直線的に配置される、ことを特徴とする請求項
1に記載の医療用補助器具。
【請求項3】
前記ホイッスル部は、前記第3接続口に回転可能に取り付けられる、ことを特徴とする請求項1
又は請求項
2に記載の医療用補助器具。
【請求項4】
前記第4接続部分の前記第4接続口に着脱可能に取り付けられる口栓をさらに備え、
前記口栓は、前記口栓に設けられた貫通孔に前記術具を挿入することで前記術具と前記口栓との間を密着できるように構成される、ことを特徴とする請求項1乃至請求項
3のいずれかに記載の医療用補助器具。
【請求項5】
前記気管導入部材は、ニードルを備えた輪状甲状膜穿刺器具であり、
前記気流供給手段から前記第2流路を通じて気流を供給しながら、前記ホイッスル部が消音状態の前記筒状コネクタと接続する前記輪状甲状膜穿刺器具の前記ニードルを頸部前面から輪状甲状膜を通じて気管内に向かって穿刺する際において、
前記ニードルの先端が頸部付近の軟部組織により閉鎖された状態である場合に、供給された気流が前記第3流路へと流れ込むことで前記ホイッスル部による音が発生し、
前記ニードルの先端が前記気管内に到達して開放されている場合に前記ホイッスル部による音が消失することで、前記ニードルが正しく前記気管内に導入されているか否かを検知可能である、ことを特徴とする請求項1乃至請求項
4のいずれかに記載の医療用補助器具。
【請求項6】
前記ホイッスル部で発する音は、前記気流供給手段による気流供給流量が6L/min、9mmHgの場合において、2000Hz以上4000Hz以下の周波数で、90dB以上の音圧である、ことを特徴とする請求項1乃至請求項
5のいずれかに記載の医療用補助器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の換気のための気管導入部材が正しく気管内に導入されているか否かを報知する医療用補助器具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、手術の際に患者に対して全身麻酔をかける場合などには、全身麻酔中に、気管内に気管チューブを挿入し、この気管チューブを通じて肺に酸素を供給している。しかしながら、人体の気管の入口部と食道の入口部とは隣接しており、外部からは両者を区別することは非常に困難である。そのため、オペレータが気管チューブを食道内に誤って挿入してしまう場合がある。しかも、このような食道挿管の状態に気付かないことも多く、そのため、患者に対して負荷を与える可能性もある。そこで、気管チューブの食道挿管を防止するための方法についての様々な検討がなされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、比較的単純な装置の構成で、気管チューブや穿刺器具などの、患者の換気のための気管導入部材が正しく気管内に導入されているか否かを報知する医療用補助器具が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような気管導入部材の気管内への導入を補助する医療用補助器具においては、構造が複雑になると取り扱いにくくなるため、特に緊急を要する医療現場では、取り扱いやすく、確実に気管導入部材を気管内に挿入できることが望まれる。
【0006】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであり、構造が簡単で、気管導入部材の気管内への挿入を確実に検知することができる医療用補助器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく、本発明は、患者の換気のための気管導入部材が正しく気管内に導入されているか否かを検知する医療用補助器具であって、前記気管導入部材を接続する筒状コネクタと、ホイッスル部を有する気流検知手段と、を備え、前記筒状コネクタは、第1方向に延在する第1流路を有し、前記第1流路の一端側に設けられ前記気管導入部材を接続する第1接続口を有する第1接続部分と、前記第1接続部分に接続され、前記第1流路と連通する第2流路を有し、気流供給手段を接続する第2接続口を有する第2接続部分と、前記第1接続部分に接続され、前記第1流路と連通する第3流路を有し、前記気流検知手段を接続する第3接続口を有する第3接続部分と、前記第1接続部分における前記第1流路の前記一端側とは反対の他端側に接続され、前記気管導入部材へ挿入する術具を接続する第4接続口を有する第4接続部分と、を有し、前記気流検知手段は、前記気管導入部材の先端が正しく気管内に導入されて開放されている状態と、前記気管導入部材が気管内に導入されずその先端が閉鎖されている状態とを前記ホイッスル部からの音によって区別して検知する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、構造が簡単で、気管導入部材の気管内への挿入を確実に検知することができる医療用補助器具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態に係る医療用補助器具を例示する斜視図である。
【
図2】本実施形態に係る医療用補助器具を例示する側面図である。
【
図3】本実施形態に係る医療用補助器具の筒状コネクタの断面図である。
【
図4】本実施形態に係る医療用補助器具に取り付ける気管導入部材の例を示す模式図である。
【
図5】本実施形態に係る医療用補助器具による判定方法を例示する模式図である。
【
図6】本実施形態に係る医療用補助器具による判定方法を例示する模式図である。
【
図7】本実施形態に係る医療用補助器具による判定方法を例示する模式図である。
【
図8】本実施形態に係る医療用補助器具に取り付ける他の気管導入部材の例を示す斜視図である。
【
図9】本実施形態に係る医療用補助器具による判定方法を例示する模式図である。
【
図10】本実施形態に係る医療用補助器具による判定方法を例示する模式図である。
【
図11】本実施形態に係る医療用補助器具による判定方法を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0011】
(医療用補助器具)
図1は、本実施形態に係る医療用補助器具を例示する斜視図である。
図2は、本実施形態に係る医療用補助器具を例示する側面図である。
図3は、本実施形態に係る医療用補助器具の筒状コネクタの断面図である。
なお、
図1から
図3では、説明の便宜上、気流検知手段20が第3接続部分13から分離された状態が示される。
【0012】
本実施形態に医療用補助器具1は、患者の換気のための気管導入部材が正しく気管内に導入されているか否かを検知する器具である。医療用補助器具1は、気管導入部材を接続する筒状コネクタ10と、ホイッスル部21を有する気流検知手段20と、を備える。
【0013】
筒状コネクタ10は、第1接続部分11と、第2接続部分12と、第3接続部分13と、第4接続部分14とを有する。すなわち、筒状コネクタ10はいわゆる4つ股の構造になっており、合成樹脂で成形されている。筒状コネクタ10として、第1接続部分11、第2接続部分12、第3接続部分13および第4接続部分14が一体で成形されていてもよいし、これらの少なくともいずれかが別体で成形されていて組み立てられるようになっていてもよい。
【0014】
筒状コネクタ10の材料としては、射出成形性の優れた合成樹脂が好ましく、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート、ABS樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、メタクリル酸メチルエステル、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリウレタン、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、シリコン樹脂、熱可塑性エラストマー、液状シリコンゴムが望ましい。
【0015】
第1接続部分11は筒状コネクタ10の本体部分にあたり、オペレータが持ちやすいような円筒状に設けられる。第1接続部分11は筒状コネクタ10の保持部としても利用される。第1接続部分11は第1方向D1に延在する第1流路11hを有する。第1流路11hの一端111側には気管導入部材を接続する第1接続口11aが設けられる。
【0016】
第1接続口11aに接続される気管挿入部材は、気管チューブや、頸部前面から気管内部へ穿刺、挿入して気道を確保するための穿刺器具(輪状甲状膜穿刺器具)などの市販の部材を例示することができる。したがって、第1接続口11aの形状や大きさなどは、気管挿入部材の種類や規格に応じて設計されていることが好ましい。
【0017】
第2接続部分12は、第1接続部分11に接続される筒状の部分である。第2接続部分12は、第1接続部分11の第1流路11hと連通する第2流路12hを有し、気流供給手段を接続する第2接続口12aを有する。
【0018】
第2接続口12aに接続される気流供給手段は特に限定されない。気流供給手段は、例えば、ベンチレータ、自動または手動の酸素バック、酸素ボンベ、酸素配管、酸素流量計、人工呼吸器、麻酔器などのうちの1種または2種以上を例示することができ(これらに付属する接続チューブなどを含む)、酸素などの気流の供給を連続的または断続的に行うことができる。具体的には、例えば、ベンチレータからの気流を接続チューブを介して第2接続部分12の第2接続口12aから第2流路12hへ供給する形態などが例示される。
【0019】
特に好ましい気流供給手段としては、麻酔器、人工呼吸器などと接続して高頻度換気が可能なベンチレータを例示することができる。高頻度換気(HFV:high frequency ventilation)とは、少量の1回換気量(おおよそ1~4ml/体重kg)で、生理的呼吸回数を大きく上回る回数(おおよそ1~40Hz)の換気を行う人工呼吸の総称である。高頻度換気には、例えば、高頻度陽圧換気法(HFPPV)、高頻度ジェット換気法(HFJV)、高頻度振動換気法(HFO)などが含まれる。高頻度換気を採用する場合、ホイッスル部21による検知感度をさらに向上させることができる。気流供給手段からの気流は、酸素自体であってもよいし、酸素と他の気体とが混合されたものでもよい。また、気体状の麻酔薬などが混合されていてもよい。
【0020】
第2接続部分12の第2流路12hは、第1接続部分11の第1流路11hの途中で第1流路11hと連通するように設けられる。これにより、第2流路12hに供給された気流は第1流路11hの途中(第1接続部分11の一端111と他端112との間)から第1流路11hに送り込まれる。
【0021】
また、第2流路12hの第1流路11hに対する連通角度は、第1流路11hの他端112側の角度(
図3に示す角度θ1)において鋭角である。角度θ1は、例えば45度程度である。角度θ1が鋭角になっていることで気流を合理的に第2流路12hから第1流路11hへ送り込むことができる。
【0022】
第2接続部分12の外周には、気流供給手段の接続チューブを差し込んだ際の抜け止め用の波目形状が設けられていることが好ましい。
【0023】
第3接続部分13は、第1接続部分11に接続される筒状の部分である。第3接続部分13は、例えば第2接続部分12とは反対側の位置で第1接続部分11に接続される。第3接続部分13は、第1接続部分11の第1流路11hと連通する第3流路13hを有し、気流検知手段20を接続する第3接続口13aを有する。
【0024】
第3接続部分13の第3流路13hは、第1接続部分11の第1流路11hの途中であって、その接続位置は第1流路11hにおける第2流路12hとの接続位置よりも第1流路11hの他端112に近位である。
【0025】
また、第3流路13hの第1流路11hに対する連通角度は、第1流路11hの他端112側の角度(
図3に示す角度θ2)において鋭角である。角度θ2は、例えば25度程度である。第3流路13hの第1流路11hとの接続位置が、第2流路12hの第1流路11hとの接続位置よりも他端112に近位であることと、第3流路13hの角度θ2が鋭角であることにより、第2流路12hから第1流路11hに送り込まれる気流が第3流路13hへ直接的に流れ込むことを抑制することができる。また、後述するように、気管導入部材への気流が遮断された際に、第1流路11hから第3流路13hへ合理的に気流を送り込むことができる。
【0026】
第4接続部分14は、第1接続部分11における第1流路11hの一端111側とは反対の他端112側に接続される。第4接続部分14は、気管導入部材へ挿入する術具200を接続する第4接続口14aを有する。すなわち、第1接続部分11と第4接続部分14とは、互いに第1方向D1に直線的に配置(同軸上に配置)される。これにより、第4接続口14aから第1流路11hを介して第1接続口11aまで第1方向D1に直線的に連通することになる。
【0027】
第4接続部分14の第4接続口14aに接続される術具200は、ニードル、スタイレット、ビデオ喉頭鏡などの市販の部材を例示することができる。第4接続口14aに術具200を接続する際、術具200が第4接続口14aと密着できるようになっている。これにより、第1流路11hに送り込まれた気流が第4接続口14aから外へ漏れることを抑制する。
【0028】
第4接続部分14の第4接続口14aには、口栓15が着脱可能に取り付けられていてもよい。口栓15には貫通孔15hが設けられており、口栓15を第4接続口14aに取り付けた状態で貫通孔15hに術具200を挿入することで第4接続部分14から第1接続部分11へ術具200を差し込むことができる。口栓15は、貫通孔15hに術具200を差し込んだ際に術具200と口栓15との間を密着できるように構成される。
【0029】
口栓15の貫通孔15hは、術具200の断面直径に対応可能な柔軟性に優れた材料(例えば、エラストマー樹脂)によって形成され、術具200を挿入した際に口栓15の柔軟性によって術具200と口栓15との間が密着して貫通孔15hからの気流の漏洩を防止することができる。
【0030】
また、術具200を口栓15の貫通孔15hに挿入した際、術具200が立体的に微動しても密閉機能を保持できるようになっている。口栓15は、屈曲可能で柔軟性のある形状であってもよく、例えば、略蛇腹形状であってもよい。このような口栓15が設けられている場合、第4接続部分14と術具200との間の密着性は必要ない。
【0031】
口栓15の貫通孔15hに術具200を差し込まない場合には、栓151によって貫通孔15hを塞ぐことができる。栓151によって貫通孔15hを塞ぐことで、術具200を差し込まない場合に口栓15の貫通孔15hから気流が漏れることを防止することができる。
【0032】
気流検知手段20は、ホイッスル部21と、ホイッスル部21を第3接続部分13の第3接続口13aに接続するための取り付け部分22と、を有する。ホイッスル部21は、気流が通過することで音を発するものであれば、構造などは特に限定されない。具体的には、例えば、ホイッスル部21は、振動して音を発する薄片状のリードを有するものや、エアリード構造を有し、空気(気流)を絞りビーム状にしてエッジに当て振動させて音を発生させるものなどを例示することができる。
【0033】
ホイッスル部21で発する音は、気流供給手段による気流供給流量6L/min、9mmHgにおいて、オペレータが検知可能な周波数が望ましく、特に、人間の耳の聴感上最適とされる等ラウドネス曲線に従って、2000Hz以上4000Hz以下の周波数で、90dB以上の音圧であることが最適である。
【0034】
また、ホイッスル部21の取り付け部分22は、第3接続部分13の第3接続口13aにホイッスル部21を回転可能に取り付けられるようになっているとよい。これにより、オペレータがホイッスル部21から発せられる音を聞き取りやすい位置にホイッスル部21を回転させることができる。
【0035】
このような構成を備える医療用補助器具1において、気流検知手段20は、気管導入部材の先端が正しく気管内に導入されて開放されている状態と、気管導入部材が気管内に導入されずその先端が閉鎖されている状態とをホイッスル部21からの音によって区別して検知する。
【0036】
(医療用補助器具による判定方法)
次に、本実施形態に係る医療用補助器具1による判定方法を説明する。
図4は、本実施形態に係る医療用補助器具に取り付ける気管導入部材の例を示す模式図である。
図4には、気管導入部材100として気管チューブMを用いる場合が示される。
気管チューブMは、例えば、麻酔や集中治療で呼吸管理が必要な患者の口から気管Qに挿入し、酸素などを送り込むチューブである。気管チューブMの先端側に、空気を入れて膨らませることができるカフKが設けられる場合もある。気管チューブMには、予め気管チューブMの形を保持する金属製またはプラスチック製のスタイレットJが挿入されている。スタイレットJは術具200の一例である。
【0037】
気管チューブMの後端は第1接続部分11の第1接続口11aに接続されている。この接続にはコネクタ(図示せず)を介して行われてもよい。スタイレットJは第4接続部分14から第1接続部分11の第1流路11hを通して気管チューブMまで差し込まれている。
【0038】
なお、スタイレットJは、口栓15の貫通孔15hを介して第4接続部分14に差し込まれている。口栓15は第4接続部分14に取り付けられており、第4接続部分14の第4接続口14aを口栓15で塞ぐとともに、スタイレットJと口栓15との密着によって貫通孔15hからの気流の漏れを防いでいる。
【0039】
図5から
図7は、本実施形態に係る医療用補助器具による判定方法を例示する模式図である。
ここでは、
図4に例示した医療用補助器具1を利用して、気管導入部材100としての気管チューブMが正しく患者の気管Q内に導入されているか否かを判定する方法を例示している。
【0040】
図5に例示したように、本実施形態に係る医療用補助器具1と、気管導入部材100としての気管チューブMとを接続して患者に処置を施す場合、オペレータは、気流供給手段Sから酸素を供給し続ける。この際、第2流路12hから第1流路11hに供給された気流は気管チューブMに達して先端から放出され続けることから、第1流路11hから第3流路13hへ送られる気流は弱く、ホイッスル部21からの音は発生しない状態となる。
【0041】
そして、オペレータは喉頭鏡300を使って患者の喉頭を展開し、進入路を確認しながら気管チューブMを口から挿入していく。気管チューブMを挿入していく段階で、気管チューブMの先端が閉鎖されなければホイッスル部21からの音は発生しない。
【0042】
一方、気管チューブMの先端が頸部付近の壁などに当てって(先端が塞がるほど当たって)先端からの気流の吐出量が少なくなると、第1流路11hの内圧が高まり、第2流路12hから第1流路11hへ供給された気流は第3流路13hへ流れ込むようになる。第3流路13hへ気流が流れ込むことによってホイッスル部21から音が発生する。オペレータは、ホイッスル部21から音が発生することによって気管チューブMの先端からの気流の吐出量が弱くなったことを把握することができる。
【0043】
オペレータは、ホイッスル部21から音の発生の有無を確認しながら気管チューブMの挿入を進めていく。そして、
図6に例示したように、気管チューブMの先端が気管Qの内部に適切に導入された場合には、気管チューブMの先端は気管Q内において先端が解放されたままの状態になるため、気管Q内に酸素が供給されるとともに、酸素は肺へと流れ続ける。これにより、第3流路13hへはホイッスル部21から音を発生させるほどの気流が流れ込まず、ホイッスル部21からの音は発生しない状態を維持することになる。
【0044】
一方、
図7に例示したように、気管チューブMの先端が気管Qではなく食道Rに挿入された場合には、気管Qに挿入した場合に比べて気管チューブMの先端からの気流の吐出量が少なくなる。すなわち、胃は袋状になっているため、肺ほど多く酸素を送り込めないためである。これにより、第1流路11hの内圧が高まり、第2流路12hから第1流路11hへ供給された気流が第3流路13hへ流れ込むようになる。第3流路13hへ気流が流れ込むことによってホイッスル部21から音が発生する。
【0045】
このように、医療用補助器具1は、気管チューブMの先端が気管Qの内部に適切に導入された場合には、ホイッスル部21は消音状態であり、気管チューブMの先端が気管Qの内部に到達せず頸部付近の壁等に当たって先端が塞がったり、食道Rに挿入されたりした場合には、ホイッスル部21は音を発する。したがって、オペレータは、ホイッスル部21の音の発生によって気管チューブMの先端の状態を判定することができる。
【0046】
そして、気管チューブMを気管Q内の適切な位置まで挿入した後は、第4接続部分14から挿入されているスタイレットJを引き抜く。その後、カフKにエアーを送って膨らませて気管チューブMを気管Q内に固定する。そして、気管Q内への気管チューブMの導入が完了した場合には、気管チューブMの先端から放出される酸素を直ちに患者の体内に供給することができる。
【0047】
ここで、本実施形態において、気管チューブMの先端が食道Rに挿入された場合と気管Qに挿入された場合とでホイッスル部21の音の発生の有無を分けるには、予めホイッスル部21において音が発生し始める圧力の設定を行っておけばよい。すなわち、気管チューブMの先端が食道Rに挿入された場合の第3流路13hの圧力は、気管Qに挿入された場合の第3流路13hの圧力に対して相対的に高くなる。この圧力差の間を閾値としてホイッスル部21の音の発生し始めの圧力を設定しおけば、両者の相違をホイッスル部21の音の有無によって判定することができる。
【0048】
このように、医療用補助器具1は、気管チューブMが気管Q内に適切に挿入されている場合にはホイッスル部21は消音状態になり、気管チューブMが食道Rに挿管された状態や壁などに当たって先端が塞がるような場合には、ホイッスル部21が音を発する。すなわち、ホイッスル部21で音が発生することによって食道挿管の状態や先端が塞がっている状態であることが報知される。したがって、オペレータは、ホイッスル部21から音が発生された場合には食道挿管や先端が塞がっている状態であると判断した場合には、気管チューブMを引き出して、再びホイッスル部21からの音が消音状態になっていることを確認し、挿入位置を変えて気管Qへの挿入を行うことができる。気管チューブMを気管Qへ挿入することができれば、ホイッスル部21の音は消音状態を維持しているため、気管チューブMが適切に気管Qへ挿入されたことを判定することができる。
【0049】
本実施形態に係る医療用補助器具1は、筒状コネクタ10にホイッスル部21を有する気流検知手段20を備え、気流供給手段Sからの気流が供給された状態で使用される。このため、肺への酸素の供給と、気管チューブMの挿入位置の確認とを、気管チューブMの先端から流れ出る気流によって同時に実現することができる。また、ホイッスル部21は、患者に気流(酸素)が適切に供給されているか否かを、気流の流れに伴うホイッスル部21の音のON/OFFで直接的に検知することができる。このため、特別な操作を必要とせず、ホイッスル部21から発せられる音に注意を払うだけで食道挿管の状態を回避することができるため、オペレータの作業負担は少なく、また、操作ミスが起こる危険性も少ない。
【0050】
このように、本実施形態に係る医療用補助器具1は、例えば、従来のように、周波数の振幅や音波の反射を検出する装置と比較して、簡便かつ確実に気管チューブMが正しく気管内に挿入されているか否かを判定できるとともに、比較的単純な装置の構成であるため、製造コストを安価に抑えることでき、メンテナンスの負担も軽減される。
【0051】
(他の気管導入部材を用いた例)
次に、他の気管導入部材を用いた例を説明する。
図8は、本実施形態に係る医療用補助器具に取り付ける他の気管導入部材の例を示す斜視図である。
図8には、気管導入部材100として、ニードルNを備えた輪状甲状膜穿刺器具Eを用いる場合が示される。
【0052】
ここで、輪状甲状膜穿刺器具E(気管切開カニューレなどと呼ばれる)には、例えば、スミスメディカル・ジャパン製「クイックトラック」などの市販品を適宜利用することができる。輪状甲状膜穿刺器具Eには、略円筒状のカニューレYと、このカニューレYの内側に中空で円錐形のニードルNが設けられている。カニューレYの先端は、輪状甲状膜へのニードルNの穿刺後、体内に留置されて気道を確保する役割を果たす。
【0053】
輪状甲状膜穿刺器具Eの後端にはシリンジの代わりにホースHが接続され、このホースHが第1接続部分11の第1接続口11aに接続されている。これにより、第1接続部分11の第1流路11hとニードルNとを連通させることができる。そして、筒状コネクタ10の第2接続部分12の第2接続口12aには、気流供給手段(ベンチレータ)が接続される。
【0054】
また、第4接続部分14には必要に応じて術具を挿入することができる。なお、
図8では第4接続部分14に術具200を挿入しない例を示している。術具200を挿入しない場合には第4接続部分14の第4接続口14aに口栓15を取り付け、栓151をして気流漏れを防止しておく。
【0055】
図9から
図11は、本実施形態に係る医療用補助器具による判定方法を例示する模式図である。
ここでは、
図8に例示した医療用補助器具1を利用して、気管導入部材100としての輪状甲状膜穿刺器具Eが正しく患者の気管Q内に導入されているか否かを判定する方法を例示している。
【0056】
図9に例示したように、本実施形態に係る医療用補助器具1と、気管導入部材100としての輪状甲状膜穿刺器具Eとを接続して患者に処置を施す場合、オペレータは、気流供給手段Sから酸素を供給し続ける。この際、第2流路12hから第1流路11hに供給された気流は輪状甲状膜穿刺器具Eに達してニードルNから放出され続けることから、第1流路11hから第3流路13hへ送られる気流は弱く、ホイッスル部21からの音は発生しない状態となる。
【0057】
そして、オペレータは、気流供給手段Sから気流を供給し続け、ホイッスル部21での音が発生しない状態のままカニューレYとともにニードルNを患者の輪状甲状膜Cに穿刺して気管Q方向へ押し進める。このとき、
図10に例示したように、ニードルNを輪状甲状膜Cに貫通させる過程で、ニードルNの先端が頸部付近の軟部組織により閉鎖されて供給される酸素の流れが滞る。これにより、第1流路11hの内圧が高まり、第2流路12hから第1流路11hへ供給された気流は第3流路13hへ流れ込むようになる。第3流路13hへ気流が流れ込むことによってホイッスル部21から音が発生する。ここでは、正常に操作が進行している場合であっても、一時的にホイッスル部21から音が発生することになる。
【0058】
その後、
図11に例示したように、ニードルNが輪状甲状膜Cを貫通し、先端が気管Qの内部に適切に導入された場合には、ニードルNの先端は気管Q内において先端が解放されるため、気管Q内に酸素が供給されるとともに、酸素は肺へと流れ続ける。これにより、第3流路13hへ送られる気流が弱くなって、ホイッスル部21からの音は発生しない状態となる。
【0059】
一方、ニードルNを輪状甲状膜Cに穿刺する際に、ニードルNの先端が皮下の軟部組織などに迷入して気管Q内に達していない場合、ニードルNの先端が閉塞しているため(
図10に例示した状態)、供給される酸素の流れが滞り、ホイッスル部21から音が発生する状態が続く。
【0060】
つまり、ニードルNを穿刺する前の状態ではホイッスル部21からの音は発生せず、この状態でニードルNを輪状甲状膜Cに穿刺すると一時的にホイッスル部21から音が発生するようになる。その後、ニードルNを差し込んでいき、ニードルNの先端が輪状甲状膜Cを貫通し気管Qの内部まで適切に導入されると、ホイッスル部21からの音が消える状態となる。一方、ニードルNの先端が気管Qの内部まで適切に導入されていない間は、ホイッスル部21からの音が鳴り続ける状態となる。
【0061】
このように、医療用補助器具1は、輪状甲状膜穿刺器具EのニードルNが気管Qの内部に導入された場合には、ホイッスル部21は消音状態であり、ニードルNが気管Qの内部に到達していない場合には、ホイッスル部21は音を発する。したがって、オペレータは、ホイッスル部21の音の発生によって未だニードルNが気管Qの内部に到達していないと判定することができる。そして、気管Q内へのニードルNの導入が完了した場合には、ホイッスル部21の音が消えるため、適切な位置に導入されたことを音で認識することができ、ニードルNの先端から放出される酸素を直ちに患者の体内に供給することができる。
【0062】
医療用補助器具1は、筒状コネクタ10のホイッスル部21からの音によって、気管Q内へのニードルNの導入を簡便かつ確実に検知することが可能である。このため、例えば従来のように、シリンジに陰圧をかけて気管Q内の空気を吸引して気管QへのニードルNの導入を確認するなどの手間、時間がかからない。特に、輪状甲状膜穿刺器具Eは、緊急時の救急蘇生を目的として使用されるものであり、医療用補助器具1は、気管Q内へのニードルNの導入を確実に判定し、患者への酸素供給、換気を速やかに実施可能とする点において極めて有用である。
【0063】
なお、従来より、輪状甲状膜穿刺器具Eは、気管Q内へのニードルNの導入に際し、ニードルNが気管Qを貫通して気管Q後壁に到達して軟部組織に刺さってしまう場合があることが問題点として指摘されている。一方、この医療用補助器具1では、そのような状況に陥った場合には、ニードルNの先端が閉鎖されることによってホイッスル部21が消音状態となるため、オペレータは、直ちに異変に気づき、ニードルNを引き出すなどの処置を行うことができる。
【0064】
以上のように、本実施形態に係る医療用補助器具1は、患者の換気のための気管導入部材100が正しく気管Q内に導入されているか否かを検知する医療用補助器具1であって、気管導入部材100を接続する筒状コネクタ10と、ホイッスル部21を有する気流検知手段20と、を備える。筒状コネクタ10は、第1方向D1に延在する第1流路11hを有し、第1流路11hの一端111側に設けられ気管導入部材100を接続する第1接続口11aを有する第1接続部分11と、第1接続部分11に接続され、第1流路11hと連通する第2流路12hを有し、気流供給手段Sを接続する第2接続口12aを有する第2接続部分12と、第1接続部分11に接続され、第1流路11hと連通する第3流路13hを有し、気流検知手段20を接続する第3接続口13aを有する第3接続部分13と、第1接続部分11における第1流路11hの一端111側とは反対の他端112側に接続され、気管導入部材100へ挿入する術具200を接続する第4接続口14aを有する第4接続部分14と、を有する。気流検知手段20は、気管導入部材100の先端が正しく気管Q内に導入されて開放されている状態と、気管導入部材100が気管Q内に導入されずその先端が閉鎖されている状態とをホイッスル部21からの音によって区別して検知する、ことを特徴とする。
【0065】
このような構成によれば、気流検知手段20は、気管導入部材100の先端が正しく気管Q内に導入されて開放されている状態と、気管導入部材100が気管Q内に導入されずその先端が閉鎖されている状態とをホイッスル部21からの音によって区別して検知することができる。
【0066】
上記医療用補助器具1において、第2接続部分12の第2流路12hは、第1流路11hの途中で第1流路11hと連通し、第2流路12hの第1流路11hに対する連通角度は、第1流路11hの他端112側の角度θ1において鋭角であることが好ましい。これにより、第2流路12hに供給された気流を第1流路11hの途中から第1流路11hに送り込むことができる。また、第2流路12hの第1流路11hに対する連通の角度θ1が鋭角になっていることで気流を合理的に第2流路12hから第1流路11hへ送り込むことができる。
【0067】
上記医療用補助器具1において、第3接続部分13の第3流路13hは、第1流路11hにおける第2流路12hとの接続位置よりも第1流路11hの他端112に近位であり、第3流路13hの第1流路11hに対する連通角度は、第1流路11hの他端112側の角度θ2において鋭角であることが好ましい。これにより、第2流路12hから第1流路11hに送り込まれる気流が第3流路13hへ直接的に流れ込むことを抑制することができる。また、気管導入部材100への気流が遮断された際に、第1流路11hから第3流路13hへ合理的に気流を送り込むことができる。
【0068】
上記医療用補助器具1において、第1接続部分11と第4接続部分14とは、互いに第1方向D1に直線的に配置されることが好ましい。これにより、第4接続部分14の第4接続口14aから挿入した術具200を第1接続部分11まで直線的に導入していくことができる。
【0069】
上記医療用補助器具1において、ホイッスル部21は、第3接続口13aに回転可能に取り付けられることが好ましい。これにより、オペレータがホイッスル部21から発せられる音を聞き取りやすい位置にホイッスル部21を回転させることができる。
【0070】
上記医療用補助器具1において、第4接続部分14の第4接続口14aに着脱可能に取り付けられる口栓15をさらに備え、口栓15は、口栓15に設けられた貫通孔15hに術具200を挿入することで術具200と口栓15との間を密着できるように構成されることが好ましい。これにより、術具200を挿入した際に術具200と口栓15との間が密着して貫通孔15hからの気流の漏洩を防止することができる。
【0071】
上記医療用補助器具1において、気管導入部材100は、ニードルNを備えた輪状甲状膜穿刺器具Eであり、気流供給手段Sから第2流路12hを通じて気流を供給しながら、ホイッスル部21が消音状態の筒状コネクタ10と接続する輪状甲状膜穿刺器具EのニードルNを頸部前面から輪状甲状膜Cを通じて気管Q内に向かって穿刺する際において、ニードルNの先端が頸部付近の軟部組織により閉鎖された状態である場合に、供給された気流が第3流路13hへと流れ込むことでホイッスル部21による音が発生し、ニードルNの先端が気管Q内に到達して開放されている場合にホイッスル部21による音が消失することで、ニードルNが正しく気管Q内に導入されているか否かを検知可能になっていることが好ましい。これにより、オペレータは、ホイッスル部21の音の発生によって未だニードルNが気管Qの内部に到達していないと判定することができ、気管Q内へのニードルNの導入が完了した場合には、ホイッスル部21の音が消えるため、適切な位置に導入されたことを音で認識することができるようになる。
【0072】
上記医療用補助器具1において、ホイッスル部21で発する音は、気流供給手段Sによる気流供給流量が6L/min、9mmHgの場合において、2000Hz以上4000Hz以下の周波数で、90dB以上の音圧であることが好ましい。これにより、人間の耳の聴感上最適とされる等ラウドネス曲線に従った音によって、オペレータに気管導入部材100の挿入状態を音によって効果的に聞き取らせることができる。
【0073】
以上説明したように、本発明によれば、構造が簡単で、気管導入部材100の気管Q内への挿入を確実に検知することができる医療用補助器具1を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上で説明したように、本発明は、構造が簡単で、気管導入部材100の気管Q内への挿入を確実に検知することができる医療用補助器具1を提供することができる。このため、特に緊急を要する医療現場において気管導入部材100を気管Q内へ迅速かつ適確に挿入することができる医療用補助器具1として好適である。
【符号の説明】
【0075】
1 医療用補助器具
10 筒状コネクタ
11 第1接続部分
11a 第1接続口
11h 第1流路
12 第2接続部分
12a 第2接続口
12h 第2流路
13 第3接続部分
13a 第3接続口
13h 第3流路
14 第4接続部分
14a 第4接続口
15 口栓
15h 貫通孔
20 気流検知手段
21 ホイッスル部
22 取り付け部分
100 気管導入部材
111 一端
112 他端
151 栓
200 術具
300 喉頭鏡
C 輪状甲状膜
D1 第1方向
E 輪状甲状膜穿刺器具
H ホース
J スタイレット
K カフ
M 気管チューブ
N ニードル
Q 気管
R 食道
S 気流供給手段
Y カニューレ
θ1,θ2 角度