IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社島津製作所の特許一覧 ▶ 国立大学法人島根大学の特許一覧

<>
  • 特許-分析方法および分析装置 図1
  • 特許-分析方法および分析装置 図2
  • 特許-分析方法および分析装置 図3
  • 特許-分析方法および分析装置 図4
  • 特許-分析方法および分析装置 図5
  • 特許-分析方法および分析装置 図6
  • 特許-分析方法および分析装置 図7
  • 特許-分析方法および分析装置 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】分析方法および分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/72 20060101AFI20240827BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240827BHJP
   G01N 30/06 20060101ALI20240827BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20240827BHJP
   G01N 33/66 20060101ALI20240827BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20240827BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20240827BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G01N30/72 C
G01N30/88 E
G01N30/06 E
G01N30/86 D
G01N33/66 Z
G01N27/62 V
C12M1/34 A
C12Q1/34
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023093555
(22)【出願日】2023-06-06
(62)【分割の表示】P 2019076220の分割
【原出願日】2019-04-12
(65)【公開番号】P2023118717
(43)【公開日】2023-08-25
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2018077555
(32)【優先日】2018-04-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、成育疾患克服等総合研究事業「タンデムマス・スクリーニングへのオルニチントランスカルバミラーゼ欠損症の追加、およびムコ多糖症の新規スクリーニング法の開発および適用に関する研究」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】504155293
【氏名又は名称】国立大学法人島根大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】田中 美砂
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 淳
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘典
(72)【発明者】
【氏名】飯田 哲生
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-532442(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0045894(US,A1)
【文献】特表2016-529910(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0249054(US,A1)
【文献】LIU, Yang et al.,Multiplex Tandem Mass Spectrometry Enzymatic Activity Assay for Newborn Screening of the Mucopolysac,Clinical Chemistry,2017年,Vol.63, No.6,pp.1118-1126
【文献】Antonina Gucciardi et al.,A column-switching HPLC-MS/MS method formucopolysaccharidosis type I analysis in amultiplex assay for the simultaneous newbornscreening of six lysosomal storage disorders,Biomed.Chromatogr.,John Wiley &Sons, Ltd. 掲,2014年01月22日,28巻・8号,1131-1139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
G01N 33/66
G01N 27/60 -27/92
C12M 1/00 - 3/10
C12Q 1/00 - 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ライソゾーム病において、患者の体内で減少若しくは欠損しているかまたは正常に働いていない4以上の酵素の基質と、前記4以上の酵素のうち生体から取得した試料に含まれている酵素とを反応させ、反応生成物を生成することと、
前記反応生成物を液体クロマトグラフィにより分離することと、
分離された前記反応生成物を質量分析により検出することとを備え、
前記液体クロマトグラフィにより分離することは、
2種類の移動相を用いたグラジエント溶離により分離することと、
前記反応生成物の保持時間が対応する前記基質の保持時間より短くなるように直鎖炭化水素が結合されたシランが充填された逆相カラムにより分離することとを含み、
前記4以上の酵素は、α-L-イズロニダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼおよびN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼからなる群から選択される4以上の酵素を含み、
前記逆相カラムは、イソブチル基が導入されていることを特徴とする、分析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の分析方法において、
前記酵素は、ライソゾーム病において、前記患者の体内で減少若しくは欠損しているかまたは正常に働いていない5以上の酵素である分析方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の分析方法において、
前記酵素は、5以上のムコ多糖症の各病型毎に、患者の体内で減少若しくは欠損しているかまたは正常に働いていない酵素を含む分析方法。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか一項に記載の分析方法において、
前記酵素は、α-L-イズロニダーゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼおよびN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼを含む分析方法。
【請求項5】
請求項1から4までのいずれか一項に記載の分析方法において、
生成された前記反応生成物と前記基質とを含む溶液が、液体クロマトグラフに導入され、
前記反応生成物および前記基質が前記液体クロマトグラフィにより分離される分析方法。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれか一項に記載の分析方法において、
前記液体クロマトグラフィが終了するときの保持時間は3分より短い分析方法。
【請求項7】
請求項1からまでのいずれか一項に記載の分析方法において、
前記逆相カラムは、C18が充填されていることを特徴とする分析方法。
【請求項8】
請求項1からまでのいずれか一項に記載の分析方法において、
前記2種類の移動相のうち、一方の移動相が0.1%ギ酸を水に溶解させたものであり、他方の移動相が0.1%ギ酸をアセトニトリルに溶解させたものであることを特徴とする、分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析方法および分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ライソゾーム病は、タンパク質、脂肪および糖等を分解する酵素が、遺伝的原因により
減少または欠損したり、正常に働かなくなることで、ライソゾームにおいて分解されるべ
き物質が蓄積し、細胞死や臓器等の組織の機能不全を起こす病気である。例えば、ムコ多
糖症では、ライソゾーム内で働く加水分解酵素の欠損等により、ライソゾームにムコ多糖
であるグリコサミノグリカンが蓄積する。ムコ多糖症の患者は骨および関節の異常や、知
能障害等の様々な症状により、成人までに死亡する例も少なくない。
【0003】
ライソゾーム病は、酵素補充療法や造血幹細胞移植等により治療がなされるが、予後を
よくするためには早期の発見が重要である。従って、新生児に対してライソゾーム病の原
因遺伝子に対応する酵素が十分に産生されているかを調べるスクリーニング検査を行うこ
とが提案されている(非特許文献1参照)。
【0004】
このようなスクリーニング検査において、血液試料に各ライソゾーム病と関連する酵素
の基質を加え、酵素反応による反応生成物をタンデム質量分析計や液体クロマトグラフ-
質量分析計を用いて検出し、生体内での酵素の活性を測定することが行われている(特許
文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特表2017-526923号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Michael H. Gelb, C. Ronald Scott, and Frantisek Turecek. "New born screening for lysosomal storage diseases," Clinical chemistry,(米国), American Association for Clinical Chemistry, 2015年1月、Volume 61, Issue 2, pp.335-346
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、質量分析において、質量分析用試料に含まれる、ライソゾーム病に関連
する酵素の基質がイオン化された後に解離を起こし、解離されたイオンが反応生成物と区
別が難しくなってしまう等の理由で、反応生成物を十分に分離して検出することができな
い問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の好ましい実施形態による分析方法は、ライソゾーム病において、患者の体内で減少若しくは欠損しているかまたは正常に働いていない4以上の酵素の基質と、前記4以上の酵素のうち生体から取得した試料に含まれている酵素とを反応させ、反応生成物を生成することと、前記反応生成物を液体クロマトグラフィにより分離することと、分離された前記反応生成物を質量分析により検出することとを備え、前記液体クロマトグラフィにより分離することは、2種類の移動相を用いたグラジエント溶離により分離することと、前記反応生成物の保持時間が対応する前記基質の保持時間より短くなるように直鎖炭化水素が結合されたシランが充填された逆相カラムにより分離することとを含み、前記4以上の酵素は、α-L-イズロニダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼおよびN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼからなる群から選択される4以上の酵素を含む。
さらに好ましい実施形態では、前記酵素は、ライソゾーム病において、前記患者の体内で減少若しくは欠損しているかまたは正常に働いていない5以上の酵素である。
さらに好ましい実施形態では、前記酵素は、5以上のムコ多糖症の各病型毎に、患者の体内で減少若しくは欠損しているかまたは正常に働いていない酵素を含む。
さらに好ましい実施形態では、前記酵素は、α-L-イズロニダーゼ、α-N-アセチルグルコサミニダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼおよびN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼを含む。
さらに好ましい実施形態では、生成された前記反応生成物と前記基質とを含む溶液が、液体クロマトグラフに導入され、前記反応生成物および前記基質が前記液体クロマトグラフィにより分離される。
さらに好ましい実施形態では、前記逆相カラムは、イソブチル基が導入されていることを特徴とする。
さらに好ましい実施形態では、前記逆相カラムは、C18が充填されていることを特徴とする。
さらに好ましい実施形態では、前記2種類の移動相のうち、一方の移動相が0.1%ギ酸を水に溶解させたものであり、他方の移動相が0.1%ギ酸をアセトニトリルに溶解させたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ムコ多糖症等のライソゾーム病に関連する4以上の酵素の活性を、迅
速に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、一実施形態の分析方法を説明するための概念図である。
図2図2は、一実施形態に係る分析装置の概略構成を示す概念図である。
図3図3(A)は、反応生成物と基質とが液体クロマトグラフから略同時に溶出する場合の検出強度を模式的に示すグラフであり、図3(B)は、反応生成物が基質の前に液体クロマトグラフから溶出する場合の検出強度を模式的に示すグラフである。
図4図4は、一実施形態の分析方法の流れを示すフローチャートである。
図5図5は、ライソゾーム病関連酵素が含まれていない試料を分析した場合のクロマトグラムである。
図6図6は、ライソゾーム病関連酵素を含む試料を分析した場合のクロマトグラムである。
図7図7は、ライソゾーム病関連酵素が含む試料を分析した場合のクロマトグラムである。
図8図8は、ライソゾーム病関連酵素を含む試料を分析した場合のクロマトグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。以下の実施形態で
は、ライソゾーム病の各疾患において、遺伝的原因により患者の体内で減少若しくは欠損
しているかまたは正常に働いていない酵素を、ライソゾーム病関連酵素と呼ぶ。ここで、
「疾患」とは、ライソゾーム病関連酵素ごとに対応して定義され、例えばムコ多糖症にお
ける病型のそれぞれを指すものとする。
【0012】
図1は、本実施形態の分析方法を説明するための概念図である。本実施形態の分析方法
は、所定の数のライソゾーム病の疾患、特にムコ多糖症の病型に対応するライソゾーム病
関連酵素の基質と、試料に含まれている酵素とを反応させ、得られた反応生成物を液体ク
ロマトグラフィにより分離するものである。
【0013】
生体から採取された血液等の試料Spに含まれるライソゾーム病関連酵素と、これらの
ライソゾーム関連酵素の基質とを反応させる操作が行われる。ここで、試料Spは、健常
者とライソゾーム病患者との間でライソゾーム病関連酵素の活性が統計等において異なる
試料であれば、特に血液に限定されない。以下では、試料Spは、人間の被検者から採取
されたものとするが、特に限定されない。被検者は、5歳以下、3歳以下等の子供または
新生児であることが、早期発見によりライソゾーム病の治療による予後をよくするために
好ましい。
【0014】
以下では、試料Spを血液とし、乾燥血液スポット(Dried Blood Spo
t;DBS)を用いて試料Spと基質とを反応させる例を説明する。乾燥血液スポットは
、全血をそのまま使用することができるため、遠心分離が不要で操作が少なくて済み、採
血量も少なくて済む等の利点がある。試料Spは、ピペットP1等の分注用器具または分
注装置を用い、ろ紙Cの取り外し可能部分D全体に試料Spがしみ込むようにろ紙Cに滴
下される。ろ紙Cに滴下された試料Spは、数時間等乾燥に供される(矢印A11)。
【0015】
乾燥した試料Spは、ろ紙C上における乾燥血液スポット(DBS)となる。ろ紙Cの
取り外し可能部分Dは、パンチ等によりろ紙C本体から取り外しが容易となるように形成
されている。取り外し可能部分Dは、例えば直径3mm~6mm等の円板状の部分である
。試料Spを含む取り外し可能部分Dが取り外されると、分注用チューブまたはウェルプ
レート等の分注用容器Wに配置される(矢印A12)
【0016】
分注用容器Wに配置された、試料Spを含む取り外し可能部分Dに、複数のライソゾー
ム関連酵素の基質Sbと、基質Sbから酵素反応で得られる反応生成物に対応する所定の
量の不図示の内部標準を含む基質溶液が加えられる。内部標準は、内部標準に対応する検
出強度が当該所定の量に対応することにより反応生成物に対応するイオンの定量を行うた
めの物質であり、基質Sbから酵素反応で得られる反応生成物の一部の原子を重水素等の
安定同位体で置換した置換体等が適宜用いられる。
なお、乾燥血液スポットを用いずに、予め定められた量の血液を分注等して得られた溶
液と基質溶液を接触させることにより酵素反応を行ってもよい。
【0017】
基質溶液が加えられた後、酵素反応のために数時間~数日等、分注用容器Wがインキュ
ベーションされる。以下の実施形態で「酵素反応」とはライソゾーム関連酵素と基質Sb
との酵素反応を指し、「反応溶液」とは酵素反応により得られた溶液を指す。その後、反
応溶液から酵素反応の反応生成物Pを含む成分が抽出され分析用試料Saが調製される(
矢印A13)。反応生成物Pの抽出方法は特に限定されないが、液液抽出が液体クロマト
グラフィの分析カラムやイオン源等を保護する上で好ましく、酢酸エチルを用いる液液抽
出が、分析用試料Saにおける基質Sbの量を減少させることができるためより好ましい
。分析用試料Saには、各ライソゾーム関連酵素の基質Sbが残っていてもよく、基質S
bが含まれているものとして以下の説明を行う。
【0018】
調製された分析用試料Saは、液体クロマトグラフに導入され、液体クロマトグラフィ
により反応生成物Pと対応する基質Sbとが分離される。液体クロマトグラフから溶出さ
れた溶出試料は、タンデム質量分析計に導入される。異なるライソゾーム病関連酵素に対
応する複数の反応生成物Pは、液体クロマトグラフィおよび/または質量分離により分離
される。分離された反応生成物Pはタンデム質量分析計の検出部により検出される(矢印
A14)。各反応生成物Pは、液体クロマトグラフィ/タンデム質量分析(LC/MS/
MS)により、同時並行に(Simultaneously)測定される。ここで、「同
時並行に測定される」とは液体クロマトグラフに一度に導入された分析用試料Saに含ま
れる複数の物質が分離されて検出されることを示す。
【0019】
本実施形態の分析方法により活性を測定するライソゾーム病関連酵素は、以下の表1に
挙げられたムコ多糖症の各病型に関連するライソゾーム病関連酵素(以下、ムコ多糖症関
連酵素と呼ぶ)から選択されたものを含むことが好ましい。これにより、試料Spが採取
された生体が、ムコ多糖症のいずれかの病型を含む、各ライソゾーム関連酵素に対応する
ライソゾーム病に罹患しているか否か、または罹患している疑いがあるか否かを診断する
ための情報を提供することができる。活性を測定するライソゾーム病関連酵素の基質Sb
が、上述の基質溶液に含められて試料Spに加えられる。
【表1】
【0020】
活性を測定するライソゾーム病関連酵素の種類は、4以上が好ましく、5以上がより好
ましい。活性を測定するライソゾーム病関連酵素の種類が多い程、より多くのライソゾー
ム病の診断のための情報を迅速に提供することができる。活性を測定するライソゾーム病
関連酵素の種類が多すぎると、液体クロマトグラフィおよび質量分析での分離が難しくな
るため、活性を測定するライソゾーム病関連酵素の種類は、適宜50以下、20以下、1
0以下等に設定されることが好ましい。
【0021】
本実施形態の分析方法により活性を測定するライソゾーム病関連酵素は、ムコ多糖症関
連酵素から選択されることが好ましい。これにより、試料Spが採取された生体が、各ム
コ多糖症に罹患しているか否か、または罹患している疑いがあるか否かを診断するための
情報を提供することができる。この場合、活性を測定するムコ多糖症関連酵素の基質Sb
が、上述の基質溶液に含められて試料Spに加えられる。
【0022】
本実施形態の分析方法により活性を測定するムコ多糖症関連酵素は、表1に挙げられた
α-L-イズロニダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、α-N-アセチルグルコサ
ミニダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼおよびN-アセチルガラ
クトサミン-4-スルファターゼからなる群から選択される4以上のムコ多糖症関連酵素
から選択されることがより好ましい。これにより、被検者が、他のムコ多糖症の病型と比
較して発症率が高い各ムコ多糖症I型、II型、IIIB型、IV-A型およびVI型か
ら選択されるムコ多糖症の病型に罹患しているか否か、または罹患している疑いがあるか
否かを診断するための情報を提供することができる。
【0023】
本実施形態の分析方法により活性を測定するムコ多糖症関連酵素は、表1に挙げられた
α-L-イズロニダーゼおよび/またはイズロン酸-2-スルファターゼを含むことがさ
らに好ましい。これにより、被検者が、他のムコ多糖症の病型と比較して発症率が特に高
いムコ多糖症I型および/若しくはII型に罹患しているか否か、または罹患している疑
いがあるか否かを診断するための情報を提供することができる。
【0024】
本実施形態の分析方法により活性を測定するムコ多糖症関連酵素は、表1に挙げられた
イズロン酸-2-スルファターゼを含むことが一層好ましい。これにより、被検者が、他
のムコ多糖症の病型と比較して、特定の地域や性別において発症率が特に高いムコ多糖症
II型に罹患しているか否か、または罹患している疑いがあるか否かを診断するための情
報を提供することができる。ムコ多糖症II型は、人間においてX染色体劣性遺伝により
発症するため、男性において多く発症する。男の新生児に対するスクリーニング検査には
ムコ多糖症II型についての検査を含めることが好ましい。
【0025】
本実施形態の分析方法により活性を測定するムコ多糖症関連酵素は、表1に挙げられた
α-L-イズロニダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、α-N-アセチルグルコサ
ミニダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼおよびN-アセチルガラ
クトサミン-4-スルファターゼであるか、これら5つの酵素を含むことが最も好ましい
。これにより、被検者が、他のムコ多糖症の病型と比較して発症率が高い各ムコ多糖症I
型、II型、IIIB型、IV-A型およびVI型に罹患しているか否か、または罹患し
ている疑いがあるか否かを診断するための情報を迅速に提供することができる。
【0026】
本実施形態の分析方法において用いるムコ多糖症関連酵素の基質Sbは、液体クロマト
グラフィにより反応生成物Pの分離が可能であれば特に限定されないが、例えば以下の化
学式(1)で示されるものを用いることができる。
【化1】

…(1)
【0027】
ここで、上記化学式(1)におけるX、R、Rおよびnに対応する官能基の一例は
、以下の表2に示される。
【表2】
【0028】
図2は、本実施形態の分析方法に係る分析装置の構成を示す概念図である。分析装置1
は、測定部100と、制御部40とを備える。測定部100は、液体クロマトグラフ10
と、質量分析計20とを備える。
【0029】
液体クロマトグラフ10は、移動相容器11a,11bと、送液ポンプ12a,12b
と、試料導入部13と、分析カラム14とを備える。質量分析計20は、イオン化部21
1を備えるイオン化室21と、イオンレンズ221を備える第1真空室22aと、イオン
化室21から第1真空室22aへイオンを導入する管212と、イオンガイド222を備
える第2真空室22bと、第3真空室22cとを備える。第3真空室22cは、第1質量
分離部23と、コリジョンセル24と、第2質量分離部25と、検出部30とを備える。
コリジョンセル24は、イオンガイド240とCIDガス導入口241とを備える。
【0030】
情報処理部40は、入力部41と、通信部42と、記憶部43と、出力部44と、制御
部50とを備える。制御部50は、装置制御部51と、解析部52と、出力制御部53と
を備える。
【0031】
液体クロマトグラフ(LC)10は、移動相と分析カラム14の固定相とに対する各反
応生成物Pおよび基質Sbの親和性の違いを利用して、各反応生成物Pおよび基質Sbを
分離し異なる保持時間で溶出させる。液体クロマトグラフ10は、質量分析計20により
反応生成物Pを検出することが可能な、所望の精度で反応生成物Pおよび基質Sbを分離
することができれば特にその種類は限定されない。液体クロマトグラフ10として、ナノ
LC、マイクロLC、高速液体クロマトグラフ(HPLC)および超高速液体クロマトグ
ラフ(UHPLC)等を用いることができる。
【0032】
移動相容器11aおよび11bは、バイアル等の液体を格納可能な容器を備え、それぞ
れ異なる組成の移動相を格納する。移動相容器11aおよび11bに格納されている移動
相をそれぞれ移動相Aおよび移動相Bと呼ぶ。移動相Aおよび移動相Bは、所望の精度で
反応生成物Pおよび基質Sbを分離することができればその組成は特に限定されず、溶媒
として水、アセトニトリル等、添加剤としてギ酸等を用いることができる。
【0033】
送液ポンプ12aおよび12bは、それぞれ移動相Aおよび移動相Bを所定の流量にな
るように送液する。送液ポンプ12aおよび12bからそれぞれ出力された移動相Aおよ
び移動相Bは、流路の途中で混合され、試料導入部13へと導入される。送液ポンプ12
aおよび12bは、それぞれ移動相Aおよび移動相Bの流量を変化させることにより、時
間によって分析カラム14に導入される移動相の組成を変化させる。
【0034】
分析用試料Saの導入等の分析の開始に対応する時点からの各時間における、移動相の
組成を示すデータをグラジエントデータと呼ぶ。グラジエントデータに基づいて送液ポン
プ12aおよび12bが制御され、設定された組成の移動相が分析カラム14に導入され
る。移動相の組成の時間変化は、所望の精度で反応生成物Pおよび基質Sbを分離するこ
とができれば特に限定されないが、10分未満の保持時間で反応生成物Pの全てを分析カ
ラム14から溶出することが好ましく、7分未満がより好ましく、3分未満がさらに好ま
しく、2分未満が一層好ましく、1.5分未満がより一層好ましい。反応生成物Pの保持
時間が短い程、多くの被検者、特に人間の新生児に対して迅速にライソゾーム病のスクリ
ーニング検査を行うことができる。液体クロマトグラフィが停止により終了する際の保持
時間を分析時間と呼ぶ。分析時間は、分析カラム14等の条件を調整することにより、3
分未満とすることができ、より好ましくは2.5分未満とすることができる点が、発明者
らにより見出された。これにより、効率よく分析を行うことができる。分析時間が短すぎ
ると、液体クロマトグラフィにおける反応生成物Pおよび基質Sbの分離が難しくなるた
め、分析時間は、適宜30秒以上または1分以上等とすることができる。
【0035】
試料導入部13は、オートサンプラー等の試料導入装置を備え、分析用試料Saを移動
相に導入する(矢印A1)。試料導入部13により導入された分析用試料Saは、適宜不
図示のガードカラムを通過して分析カラム14に導入される。
【0036】
分析カラム14は、固定相を備え、導入された分析用試料Saに含まれる各反応生成物
Pおよび基質Sbを、移動相と固定相とに対する各反応生成物Pおよび基質Sbの親和性
の違いを利用して異なる時間に溶出させる。分析カラム14の種類は、所望の精度で各反
応生成物Pおよび基質Sbを分離することができれば特に限定されないが、逆相カラムが
取扱いの容易さや質量分析でのイオン化の容易さの観点から好ましい。分析カラム14の
固定相は、例えばシリカゲル等の担体に担持された、C18等の直鎖炭化水素が結合され
たシランが好ましい。
【0037】
分析カラム14の長さは、50mm未満が好ましく、40mm未満がより好ましく、3
0mm以下がさらに好ましい。分析カラム14が短いほど、分析にかかる時間が短くなり
、効率よく分析を行うことができるため好ましい。分析カラム14が短すぎると、液体ク
ロマトグラフィにおける反応生成物Pおよび基質Sbの分離が難しくなるため、分析カラ
ム14は、3mmより長いことが好ましく、10mmより長いことがさらに好ましく、2
0mmより長いことが一層好ましく、25mmより長いことがより一層好ましい。
【0038】
分析カラム14は、各ライソゾーム病関連酵素について、基質Sbが切断されて得られ
た反応生成物Pを、当該基質Sbの溶出が開始されるよりも先に、すなわち短い保持時間
で溶出させることが好ましい。
【0039】
図3(A)は、従来の例として、反応生成物Pと基質Sbとが略同時に液体クロマトグ
ラフ10から溶出する場合の、質量分析における検出強度を模式的に示すクロマトグラム
である。以下の実施形態では、一例として、プリカーサーイオンとして分離したイオンを
解離させて生成イオンを生成し、この生成イオンを分離して検出する、多重反応モニタリ
ング(Multiple Reaction Monitoring;MRM)により反
応生成物Pを検出する例を示す。
【0040】
基質Sbは、質量分析計20のイオン化部21でイオン化された後、インソース分解に
より反応生成物Pのm/zと略等しいm/zを有するイオンとなる場合がある。この場合
に、反応生成物Pのm/zに対応するイオンをプリカーサーイオンとして質量分離し、反
応生成物Pのフラグメントイオンに対応するm/zを有するイオンを質量分離して検出し
たクロマトグラムが図3(A)上部のグラフである。このクロマトグラムでは、基質Sb
がインソース分解されたイオンのフラグメントイオンのピークPs(以下、インソース分
解された基質sbに対応するピークPsと呼ぶ)と、反応生成物Pのフラグメントイオン
のピークPp(以下、反応生成物Pに対応するピークPpと呼ぶ)とが重なったピークP
p+Psが観察される。
【0041】
基質Sbのm/zに対応するイオンをプリカーサーイオンとして質量分離し、基質Sb
のフラグメントイオンに対応するm/zを有するイオンを質量分離して検出したクロマト
グラムが図3(A)下部である。このクロマトグラムに示されるように、基質Sbのフラ
グメントイオンのピークPsbは、反応生成物Pに対応するピークPpよりも、大きく、
また長い保持時間の範囲にわたって検出され得る。従って、基質Sbが液体クロマトグラ
フ10から溶出を始めた後に、反応生成物Pが溶出すると、反応生成物Pとインソース分
解された基質Sbに対応するピークPsとが重なり、反応生成物Pの検出を正確に行うこ
とができない。
【0042】
図3(B)は、本実施形態の分析方法において、反応生成物Pが基質Sbよりも前に液
体クロマトグラフ10から溶出する場合の、質量分析における検出強度を模式的に示すク
ロマトグラムである。プリカーサーイオンとして反応生成物Pおよび基質Sbに対応する
m/zを有するイオンを質量分離し、反応生成物Pのフラグメントイオンおよび基質Sb
のフラグメントイオンに対応するm/zを有するイオンを質量分離して検出したクロマト
グラムをそれぞれ図3(B)の上部および下部に示す。基質Sbのフラグメントイオンの
ピークPsbの検出(図3(B)下部)と略同時にインソース分解された基質Sbに対応
するピークPsが反応生成物Pのフラグメントイオンに対応するm/zについてのクロマ
トグラムに観察される(図3(B)上部)。しかし、反応生成物Pに対応するピークPp
と、インソース分解された基質Sbに対応するピークPsとは重ならず、反応生成物Pを
正確に検出および定量することができる。
【0043】
分析カラム14は、好ましくは、特にムコ多糖症II型、IV-A型およびVI型にそ
れぞれ対応する、イズロン酸-2-スルファターゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-
スルファターゼおよびN-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼからなる群から
選択される少なくとも1つ、より好ましくは少なくとも2つ、さらに好ましくは3つを含
む酵素の酵素反応の反応生成物Pを当該酵素反応の基質Sbの溶出が開始されるよりも前
に溶出させる。これらの酵素の基質Sbは、インソース分解を特に起こしやすいため、よ
り多くのこれらの酵素の反応生成物Pを対応する基質Sbより先に溶出させることでより
正確に反応生成物Pの検出を行うことができる。
なお、分析条件に応じてより正確に反応生成物Pの検出を行う観点から、任意のライソ
ゾーム病関連酵素の反応生成物Pを基質Sbよりも先に溶出させることができる。
【0044】
図2に戻って、分析カラム14から溶出された反応生成物Pを含む溶出試料は、質量分
析計20のイオン化部21に導入される。分析カラム14の溶出液は、分析装置1のユー
ザー(以下、単に「ユーザー」と呼ぶ)による分注等の操作を必要とせず、オンライン制
御により質量分析計20に入力されることが好ましい。
【0045】
質量分析計20は、分析カラム14から導入された溶出試料に対してタンデム質量分析
を行い反応生成物Pおよび反応生成物Pの内部標準を検出する。イオン化された溶出試料
Seの経路を、一点鎖線の矢印A2により模式的に示した。
なお、質量分析計20の種類や質量分析の方法は、各反応生成物Pに由来するイオンを
所望の精度で検出可能であれば特に限定されない。
【0046】
質量分析計20のイオン化部21は、導入された反応生成物Pを含む溶出試料Seをイ
オン化する。イオン化の方法は、所望の精度で反応生成物Pが検出される程度に反応生成
物Pがイオン化されれば特に限定されないが、本実施形態のようにLC/MS/MSを行
う場合にはエレクトロスプレー法(ESI)が好ましく、以下の実施形態でもESIを行
うものとして説明する。イオン源211から出射されイオン化された溶出試料Seは、不
図示の電極に印加された電圧により移動し、管212を通過して第1真空室22aに入射
する。
【0047】
第1真空室22a、第2真空室22bおよび第3真空室22cは、この順に真空度が高
くなっており、第3真空室22cでは例えば10-2Pa以下等の高真空まで排気されて
いる。第1真空室22aに入射したイオンは、イオンレンズ221を通過して第2真空室
22bに導入される。第2真空室22bに入射したイオンは、イオンガイド222の間を
通過して第3真空室22cに導入される。第3真空室22cに導入されたイオンは、第1
質量分離部23へと出射される。第1質量分離部23に入射するまでの間に、イオンレン
ズ221やイオンガイド222等は、通過するイオンを電磁気学的作用により収束させる
【0048】
第1質量分離部23は、四重極に印加される電圧に基づく電磁気学的作用により設定さ
れたm/zを有するイオンをプリカーサイオンとして選択的に通過させてコリジョンセル
24に向けて出射する。第1質量分離部23は、イオン化された反応生成物Pおよび反応
生成物Pに対応する内部標準をプリカーサイオンとして選択的に通過させる。
【0049】
コリジョンセル24は、イオンガイド240によりイオンの移動を制御しながら、衝突
誘起解離(Collision Induced Dissociation;CID)
によりイオン化された反応生成物Pおよび反応生成物Pに対応する内部標準を解離させ、
フラグメントイオンを生成する。CIDの際にイオンが衝突させられるアルゴンや窒素等
を含むガス(以下、CIDガスと呼ぶ)は、コリジョンセル内で所定の圧力になるように
CIDガス導入口241から導入される(矢印A3)。生成されたフラグメントイオンは
、第2質量分離部25に向けて出射される。
【0050】
第2質量分離部25は、四重極に印加される電圧に基づく電磁気学的作用により設定さ
れたm/zを有するフラグメントイオンを選択的に通過させて検出部30に向けて出射す
る。第2質量分離部23は、反応生成物Pおよび反応生成物Pの内部標準のフラグメント
イオンを選択的に通過させる。
【0051】
質量分析計20において、表2に示された基質Sbを用いた場合、ムコ多糖症I型に対
応するムコ多糖症関連酵素の反応生成物Pは、425.8~426.8の範囲のいずれか
のm/zにより分離することが好ましい。より好ましくは、当該反応生成物Pをプリカー
サイオンとして425.8~426.8の範囲のいずれかのm/zにより分離し、生成イ
オンを316.8~317.8の範囲のいずれかのm/zにより分離して検出することが
好ましい。
【0052】
質量分析計20において、表2に示された基質Sbを用いた場合、ムコ多糖症II型に
対応するムコ多糖症関連酵素の反応生成物Pは、643.9~644.9の範囲のいずれ
かのm/zにより分離することが好ましい。より好ましくは、当該反応生成物Pをプリカ
ーサイオンとして643.9~644.9の範囲のいずれかのm/zにより分離し、生成
イオンを358.9~359.9の範囲のいずれかのm/zにより分離して検出すること
が好ましい。
【0053】
質量分析計20において、表2に示された基質Sbを用いた場合、ムコ多糖症IIIB
型に対応するムコ多糖症関連酵素の反応生成物Pは、419.8~420.8の範囲のい
ずれかのm/zにより分離することが好ましい。より好ましくは、当該反応生成物Pをプ
リカーサイオンとして419.8~420.8の範囲のいずれかのm/zにより分離し、
生成イオンを310.9~311.9の範囲のいずれかのm/zにより分離して検出する
ことが好ましい。
【0054】
質量分析計20において、表2に示された基質Sbを用いた場合、ムコ多糖症IV-A
型に対応するムコ多糖症関連酵素の反応生成物Pは、684.9~685.9の範囲のい
ずれかのm/zにより分離することが好ましい。より好ましくは、当該反応生成物Pをプ
リカーサイオンとして684.9~685.9の範囲のいずれかのm/zにより分離し、
生成イオンを372.7~373.7の範囲のいずれかのm/zにより分離して検出する
ことが好ましい。
【0055】
質量分析計20において、表2に示された基質Sbを用いた場合、ムコ多糖症VI型に
対応するムコ多糖症関連酵素の反応生成物Pは、656.9~657.9の範囲のいずれ
かのm/zにより分離することが好ましい。より好ましくは、当該反応生成物Pをプリカ
ーサイオンとして656.9~657.9の範囲のいずれかのm/zにより分離し、生成
イオンを344.9~345.9の範囲のいずれかのm/zにより分離して検出すること
が好ましい。
なお、質量分析計20において選択的に分離するm/zの値は、イオン化された反応生
成物Pおよび検出する反応生成物Pのフラグメントイオンに応じて適宜設定され、上記の
例に限定されない。
【0056】
検出部30は、二次電子増倍管や光電子増倍管等のイオン検出器を備え、入射した反応
生成物Pと反応生成物Pの内部標準とのフラグメントイオンを検出する。検出モードは正
イオンを検出する正イオンモードと、負イオンを検出する負イオンモードとのいずれでも
よい。フラグメントイオンを検出して得た検出信号は不図示のA/D変換器によりA/D
変換され、デジタル信号となって情報処理部40の制御部50に入力される(矢印A4)
【0057】
情報処理部40は、電子計算機等の情報処理装置を備え、適宜ユーザーとのインターフ
ェースとなる他、様々なデータに関する通信、記憶、演算等の処理を行う。情報処理部4
0は、測定部100の制御や、解析、表示の処理を行う処理装置となる。
なお、情報処理部40は、液体クロマトグラフ10および/または質量分析計20と一
体になった一つの装置として構成してもよい。また、本実施形態の分析方法に用いるデー
タの一部は遠隔のサーバ等に保存してもよく、当該分析方法で行う演算処理の一部は遠隔
のサーバ等で行ってもよい。測定部100の各部の動作の制御は、情報処理部40が行っ
てもよいし、各部を構成する装置がそれぞれ行ってもよい。
【0058】
情報処理部40の入力部41は、マウス、キーボード、各種ボタンおよび/またはタッ
チパネル等の入力装置を含んで構成される。入力部41は、検出するイオンのm/zの値
等の制御部50が行う処理に必要な情報等を、ユーザーから受け付ける。
【0059】
情報処理部40の通信部42は、インターネット等のネットワークを介して無線や有線
の接続により通信可能な通信装置を含んで構成される。通信部42は、測定部100の測
定に必要なデータを受信したり、解析部52の解析結果等の制御部50が処理したデータ
を送信したり、適宜必要なデータを送受信する。
【0060】
情報処理部40の記憶部43は、不揮発性の記憶媒体を備える。記憶部43は、測定部
100から出力された測定データ、および制御部50が処理を実行するためのプログラム
等を記憶する。
【0061】
情報処理部40の出力部44は、出力制御部53により制御され、液晶モニタ等の表示
装置および/またはプリンターを含んで構成され、測定部100の測定に関する情報や、
解析部52の解析結果等を、表示装置に表示したり印刷媒体に印刷して出力する。
【0062】
情報処理部40の制御部50は、CPU等のプロセッサを含んで構成される。制御部5
0は、測定部100の制御や、測定部100から出力された測定データを解析する等、記
憶部43等に記憶されたプログラムを実行することにより各種処理を行う。
【0063】
処理部50の装置制御部51は、入力部41を介した入力等に応じて設定された分析条
件等に基づいて、測定部100の測定動作を制御する。装置制御部51は、送液ポンプ1
2aおよび12bの流量を制御したり、試料導入部13による試料導入を制御したり、第
1質量分離部23および第2質量分離部25で選択的に通過させるイオンのm/z値を制
御したり等する。
【0064】
解析部52は、測定部100から出力された測定データに基づいて反応生成物Pの定量
等の解析を行う。解析部52は、検出部30から出力された測定データから各反応生成物
Pおよびその内部標準のフラグメントイオンに対応する検出強度を取得して記憶部43等
に記憶させる。
【0065】
解析部52は、各反応生成物Pのフラグメントイオンに対応する検出強度を、当該反応
生成物Pの内部標準のフラグメントイオンに対応する検出強度で割った比に、当該内部標
準の既知の量を掛けた値を、各反応生成物Pの量として算出する。解析部52は算出した
各反応生成物Pの量と、血液量等の試料Spの体積と、酵素反応のためのインキュベーシ
ョンに供した時間等とから、各反応生成物Pに対応する試料Sp中の酵素の活性を算出す
る。また、解析部52は、保持時間と検出強度とを対応させたクロマトグラムに対応する
データを作成する。
【0066】
解析部52は、記憶部43に記憶された基準値に基づいて、被検者が、ライソゾーム病
である程度に、またはライソゾーム病の疑いが有る程度に各ライソゾーム病関連酵素の活
性が低いか否かを判定する。当該基準値は、健常者と各ライソゾーム病患者におけるライ
ソゾーム関連酵素の活性の値に基づいて予め設定されたものを用いることが好ましい。解
析部52は、適宜統計値のばらつき等を考慮して、上記判定を行うことができる。
【0067】
出力制御部53は、測定部100の測定条件および/または解析部52の解析結果等か
ら各ライソゾーム関連酵素の活性、各反応生成物Pの量、クロマトグラム、被検者が罹患
しているか、罹患している疑いのあるライソゾーム病についての情報等を含む出力画像を
作成し、出力部44に出力させる。医師等は、出力画像に含まれる情報に基づいて、被検
者がライソゾーム病に罹患しているか否かの診断等を行うことができる。
【0068】
図4は、本実施形態の分析方法の流れを示すフローチャートである。ステップS100
1において、医療従事者等により、人間の新生児等の被検者から、血液等の試料Spが取
得される。ステップS1001が終了したら、ステップS1003が開始される。
【0069】
ステップS1003において、医療従事者やユーザー等により、所定の数以上の種類の
ライソゾーム病関連酵素の基質Sbを含む基質溶液が調製される。ここで、所定の数は、
例えば4、5等である。ステップS1003が終了したら、ステップS1005が開始さ
れる。ステップS1005において、医療従事者やユーザー等により、試料Spと基質溶
液とを接触させることにより、試料Spに含まれているライソゾーム病関連酵素と基質S
bとを反応させ、反応生成物Pが生成される。ステップS1005が終了したら、ステッ
プS1007が開始される。
【0070】
ステップS1007において、医療従事者やユーザー等により、反応生成物Pと、基質
Sbとを含む反応溶液から分析用試料Saが調製される。ステップS1007が終了した
ら、ステップS1009が開始される。ステップS1009において、試料導入部13は
分析用試料Saを液体クロマトグラフ10に導入し、分析カラム14は反応生成物Pと基
質Sbとを分離する。ステップS1009が終了したら、ステップS1011が開始され
る。
【0071】
ステップS1011において、質量分析計20は、分離された反応生成物Pを質量分析
により分離して検出する。ステップS1011が終了したら、ステップS1013が開始
される。ステップS1013において、解析部52は、検出された反応生成物Pのデータ
に基づいて、試料Spにおいてライソゾーム関連酵素の活性が基準値より減少しているか
について解析する。ステップS1013が終了したら、ステップS1015が開始される
【0072】
ステップS1015において、出力部44は、ライソゾーム病関連酵素のうち、試料S
pにおける活性が基準値より低い酵素または当該酵素に対応するライソゾーム病および/
またはムコ多糖症の病型についての情報を出力する。ステップS1015が終了したら、
処理が終了される。
【0073】
上述の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)本実施形態に係る分析装置1は、ライソゾーム病において、患者の体内で減少若し
くは欠損しているかまたは正常に働いていない4以上の酵素の基質Sbと、この4以上の
酵素のうち生体から取得された試料Spに含まれている酵素とを反応させて得られた反応
生成物Pを含む分析用試料Saが導入される試料導入部と、導入された分析用試料Saに
含まれる反応生成物Pを液体クロマトグラフィにより分離する液体クロマトグラフ10と
、液体クロマトグラフ10により分離した反応生成物Pを質量分析により検出する質量分
析計20とを備え、上記4以上の酵素は、イズロン酸-2-スルファターゼを含む。これ
により、被検者が、他のムコ多糖症の病型と比較して発症率が高い各ムコ多糖症I型、I
IIB型、IV-A型およびVI型から選択される病型に罹患しているか否か、または罹
患している疑いがあるか否かを診断するための情報を迅速に提供することができる。さら
に、男性や特定の地域においてさらに発症率の高いムコ多糖症II型についても同様の情
報を迅速に提供することができる。
【0074】
(2)本実施形態に係る分析装置において、分析用試料Saは、反応生成物Pおよび基質
Sbを備え、液体クロマトグラフ10は、導入された分析用試料Saに含まれる反応生成
物Pおよび基質Sbを液体クロマトグラフィにより分離する。これにより、インソース分
解が起こる場合でも基質Sbを正確に検出することができる。
【0075】
(3)本実施形態に係る分析装置は、ライソゾーム関連酵素のうち、試料Spにおける活
性が基準値より低い酵素または当該酵素に対応するライソゾーム病についての情報を出力
する出力部44をさらに備える。これにより、医師等に、ライソゾーム病の診断のための
情報を迅速に伝えることができる。
【0076】
本発明は上記実施形態の内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内
で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【実施例
【0077】
(実施例1)
以下の実施例では、それぞれムコ多糖症I型、II型、IIIB型、IV-A型および
VI型に対応するα-L-イズロニダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、α-N-
アセチルグルコサミニダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼおよび
N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼの5種類の酵素の活性を上述の分析方
法を用いて分析した実験結果が説明される。
なお、本発明は、以下の実施例に示された数値、条件に限定されない。
【0078】
試料と基質との反応
上記5種類の酵素が含まれていない試料(コントロール試料)、上記5種類の酵素が含
まれている試料(所定の濃度の試料)、および、健常者から取得した試料(健常者試料)
のそれぞれをろ紙に滴下した後、乾燥させ、DBS様のスポットを作成した。当該スポッ
トをパンチにより直径3mmの円盤状に切り取り、96ウェルのウェルプレートに配置し
た。当該スポットが配置されたウェルに、上記5種類の酵素の基質と、当該基質から酵素
反応により生成される反応生成物Pの内部標準とを含む30μLの基質溶液を加え、37
℃で16時間インキュベーションした。
【0079】
基質および内部標準
基質溶液に含まれる基質は、表2に示されたものを用いた。内部標準は、反応生成物P
が表2に示されたものとし、表2に示された反応生成物Pを置換した以下の置換体を用い
た。
I型:表2のムコ多糖症I型の反応生成物のRを5つの重水素で置換した置換体。
II型:表2のムコ多糖症II型の反応生成物のRを5つの重水素で置換した置換体。
IIIB型:表2のムコ多糖症IIIB型の反応生成物のRを3つの重水素で置換した
置換体。
IV-A型:表2のムコ多糖症IV-A型の反応生成物のRを5つの重水素で置換した
置換体。
VI型:表2のムコ多糖症VI型の反応生成物のRを5つの重水素で置換した置換体。
【0080】
分析用試料の調製
インキュベーションが終了した後、得られた反応溶液から反応生成物を含む成分を酢酸
エチルを用いて抽出した。抽出された反応生成物を含む酢酸エチルを別の容器に配置した
後、乾燥させた。その後、0.1%のギ酸が添加された水55%/アセトニトリル45%
溶液を加え分析用試料とした。
【0081】
液体クロマトグラフィの条件
分析用試料を、以下の条件で液体クロマトグラフィで分離した。
システム:LCMS-8060システム(島津製作所)
分析カラム: Kinetex XB-C18(Phenomenex)(内径2.1mm、長さ150mm、粒径
1.7μm)
注入量: 1μL
カラム温度: 40℃
移動相:
(A)0.1%ギ酸(水に溶解)
(B)0.1%ギ酸(アセトニトリルに溶解)
流速: 0.4mL/min
グラジエントプログラム:
時間(分) 移動相Bの濃度(%)
0 30
0.5 30
3.5 100
5.0 100
5.01 30
6.0 停止
【0082】
質量分析の条件
上記液体クロマトグラフィにおいて溶出された溶出試料を、溶出口に直接接続したタン
デム質量分析により検出した。
システム:LCMS-8060システム(島津製作所)
イオン化の方法: エレクトロスプレー法、正イオンモード
測定モード: 多重反応モニタリング(MRM)
温度:
脱溶媒管(Desolvation Line;DL)温度: 250℃
ヒートブロック温度: 100℃
インターフェース温度: -
ガス流量:
ネブライザーガス流量: 3L/min
ドライングガス流量: 5L/min
ヒーティングガス流量: 15L/min
【0083】
溶出試料の保持時間と、MRMの測定条件(CEはコリジョンエネルギー電圧)とは以
下の表3に示した。
【表3】
【0084】
コントロール試料についてのクロマトグラムを図5に、所定の濃度の試料についてのク
ロマトグラムを図6に、健常者試料についてのクロマトグラムを図7にそれぞれ示した。
各ムコ多糖症の病型に対応するクロマトグラムにおいて、上段は、反応生成物に対応する
トランジションであり、下段は内部標準に対応するトランジション(表3)のクロマトグ
ラムである。I型、II型、IIIB型、IV-A型およびVI型のインソース分解され
た基質に対応するピークをそれぞれP1s,P2s,P3s,P4sおよびP6sとした
。I型、II型、IIIB型、IV-A型およびVI型の内部標準のフラグメントイオン
のピークをそれぞれP1is,P2is,P3is,P4isおよびP6isとした。I
型、II型、IIIB型、IV-A型およびVI型の反応生成物のフラグメントイオンの
ピークをそれぞれP1p,P2p,P3p,P4pおよびP6pとした。
【0085】
コントロール試料では、反応生成物のフラグメントイオンのピークは観察されなかった
が、II型、IIIB型、IV-A型およびVI型のインソース分解された基質にそれぞ
れ対応するピークP2s,P3s,P4sおよびP6sが観察された(図5)。
【0086】
所定の濃度の試料(図6)および健常者試料(図7)においては、I型、II型、II
IB型、IV-A型およびVI型の反応生成物のフラグメントイオンのピークP1p,P
2p,P3p,P4pおよびP6pが観察された。このうち、II型、IV-A型および
VI型の反応生成物のフラグメントイオンのピークP2p,P4pおよびP6pは、対応
するインソース分解された基質のピークP2s、P4sおよびP6sよりも短い保持時間
で溶出された。5種類のムコ多糖症関連酵素について、液体クロマトグラフィおよび質量
分析により反応生成物が分離されて検出された。
【0087】
(実施例2)
以下のように液体クロマトグラフィの条件を変え、さらに、ムコ多糖症I型の基質を、
反応生成物を質量分離する際の条件とは別の質量分離の条件で直接検出した他は、実施例
1と同様の条件で、コントロール試料(酵素なし)のLC/MS/MSを行った。
カラム:Kinetex XB-C18(Phenomenex)(内径2.1mm、長さ30mm、粒径1.7μ
m)
グラジエントプログラム:
時間(分) 移動相Bの濃度(%)
0 30
0.01 30
1.30 100
1.50 100
1.51 30
2.50 停止
【0088】
図8は、実施例2で得られたマスクロマトグラムを示す図である。I型、II型、II
IB型、IV-A型およびVI型のインソース分解された基質に対応するピークP1s,
P2s,P3s,P4sおよびP6sがそれぞれ観察された。I型、II型、IIIB型
、IV-A型およびVI型の内部標準のフラグメントイオンのピークP1is,P2is
,P3is,P4isおよびP6isは、上記基質とは時間的に分離されて検出された。
従って、分析時間を2.50分とする条件でも、液体クロマトグラフィによる反応生成物
および基質の分離が可能であることが示された。
【符号の説明】
【0089】
1…分析装置、10…液体クロマトグラフ、14…分析カラム、20…質量分析計、21
…イオン化部、23…第1質量分離部、24…コリジョンセル、25…第2質量分離部、
30…検出部、40…情報処理部、50…処理部、51…装置制御部、52…解析部、5
3…出力制御部、100…測定部、C…ろ紙、D…取り外し可能部分、DBS…乾燥血液
スポット、P…反応生成物、P1,P2…ピペット、P1is,P2is,P3is,P
4is,P6is…反応生成物の内部標準のフラグメントイオンのピーク、Pp,P1p
,P2p,P3p,P4p,P6p…反応生成物のフラグメントイオンのピーク、Ps,
P1s,P2s,P3s,P4s,P6s…基質イオンがインソース分解されたイオンの
フラグメントイオンのピーク、Psb…基質イオンのフラグメントイオンのピーク、Sa
…分析用試料、Sb…基質、Sp…試料。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8