(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ナトリウムチャネル結合剤及び医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/136 20060101AFI20240827BHJP
A61K 31/444 20060101ALI20240827BHJP
A61K 31/395 20060101ALI20240827BHJP
A61P 25/08 20060101ALI20240827BHJP
C07D 487/22 20060101ALN20240827BHJP
C07D 513/22 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
A61K31/136
A61K31/444
A61K31/395
A61P25/08
C07D487/22
C07D513/22
(21)【出願番号】P 2020092485
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】598015084
【氏名又は名称】学校法人福岡大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 伸一
(72)【発明者】
【氏名】田中 泰圭
(72)【発明者】
【氏名】柴田 磨己
【審査官】工藤 友紀
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-503895(JP,A)
【文献】特表2019-536819(JP,A)
【文献】特表2019-523783(JP,A)
【文献】特表2012-502892(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 25/08
C07D 487/22
C07D 513/22
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1-2又は2-1で表され、ナトリウムチャネルNav1.1に選択的に結合するナトリウムチャネル結合剤。
【化1】
【請求項2】
下記化学式1-2若しくは2-1で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物。
【化2】
【請求項3】
てんかんの処置に用いられる請求項
2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ドラベ症候群の処置に用いられる請求項
2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナトリウムチャネル結合剤及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ドラベ症候群は、乳児期に発症する難治性のてんかんであり、既存の抗てんかん薬が無効な薬物不適応性てんかんである。また、ドラベ症候群は、電位依存性ナトリウムチャネルNav1.1の遺伝子(SCN1A)異常が原因といわれている(例えば、非特許文献1参照)。例えば、特許文献1には、ドラベ症候群の処置にフェンフルラミンの投与する方法が記載されている。しかしながら、フェンフルラミンは、その使用が心臓線維症及び肺高血圧性の発症と関連するとされている。また、特許文献2には、電位依存性ナトリウムチャネルNav1.1遮断薬として、トリアゾール誘導体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2016-518387号公報
【文献】特表2019-512015号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Higurashi N, et al., Mol Brain. 2013; 6: 19.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ドラベ症候群の病態は、抑制性神経のナトリウムチャネルNav1.1の機能喪失に由来すると考えられる。そこで本発明は、ドラベ症候群の処置に有効と考えられる選択的ナトリウムチャネル結合剤及びそれを含む医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の態様は、下記式(I)又は(II)で表され、ナトリウムチャネルNav1.1に選択的に結合するナトリウムチャネル結合剤である。
【0007】
【0008】
式中、X11及びX12は、それぞれ独立してイミノ基又は硫黄原子を表す。Y11からY14は、それぞれ独立して窒素原子又は置換基を有していてもよい芳香族基を有する炭素原子を表す。R11からR18は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1から12の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1から12の炭化水素オキシ基、もしくは置換基を有していてもよい芳香族基を表すか、又はR11及びR12、R13及びR14、R15及びR16、並びにR17及びR18のからなる群から選択される少なくとも1対の置換基対は互いに連結して置換基を有していてもよい縮合芳香環基を表す。Ar21からAr28は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香族基を表す。R21からR24はそれぞれ独立してハロゲン原子、炭素数1から12の炭化水素基、又は炭素数1から12の炭化水素オキシ基を表す。nはそれぞれ独立して0から3の数を表す。
【0009】
式(I)におけるY11からY14は、置換基を有していてもよい芳香族基を有する炭素原子であってもよい。芳香族基における置換基は、水酸基、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1から18の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1から12の炭化水素オキシ基、炭素数1から12のアルキル基を有するトリアルキルアンモニウム基、炭素数1から12のアルキル基を有するジアルキルスルホニウム基、及び芳香族スルファニル基からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。芳香族基は、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、ピリジニウム基、キノリル基、及びキノリニウム基からなる群から選択される少なくとも1種であってもよい。
【0010】
第2の態様は、上記式(I)もしくは(II)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を含む医薬組成物である。
【0011】
第3の態様は、複数のサブタイプを有するナトリウムチャネルの内の特定のナトリウムチャネルに選択的に結合する化合物を選択するスクリーニング方法である。スクリーニング方法は、候補化合物群を準備する化合物群準備工程と、候補化合物群に含まれる候補化合物の、ナトリウムチャネルの特定のサブタイプに対する結合能力値を評価する結合能評価工程と、特定のサブタイプとの結合能力値が他のサブタイプとの結合能力値よりも大きい候補化合物を選択する選択工程と、選択された候補化合物をインビトロで評価する作用評価工程とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、選択的ナトリウムチャネル結合剤及びそれを含む医薬組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】ドラベ症候群患者由来の抑制性神経細胞における機能減衰を示す図である。
【
図2】ドラベ症候群患者由来の抑制性神経細胞におけるクモ毒による機能回復を示す図である。
【
図3】ドラベ症候群患者由来の抑制性神経細胞におけるナトリウムチャネル結合剤による機能回復を示す図である。
【
図4】ドラベ症候群患者由来の抑制性神経細胞におけるナトリウムチャネル結合剤による機能回復を示す図である。
【
図5】ドラベ症候群患者由来の抑制性神経細胞に比較例に係る化合物を添加した場合の発火頻度の変化を示す図である。
【
図6】ドラベ症候群患者由来の抑制性神経細胞に比較例に係る化合物を添加した場合の発火頻度の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための、ナトリウムチャネル結合剤及び医薬組成物を例示するものであって、本発明は、以下に示すナトリウムチャネル結合剤及び医薬組成物に限定されない。
【0015】
ナトリウムチャネル結合剤
ナトリウムチャネル結合剤は、下記式(I)で表されるポルフィリン誘導体、及び式(II)で表されるスピロビフルオレン誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含み、ナトリウムチャネルNav1.1に選択的に結合する。
【0016】
ナトリウムチャネルは高い選択性を持ってナトリウムイオンを透過させるイオンチャネルである。神経細胞等に存在するナトリウムチャネルとして、電位依存性ナトリウムチャネル(Navチャネル)が知られている。電位依存性ナトリウムチャネルにはNav1.1からNav1.9のサブタイプが知られており、生体内における分布等が異なっている。本実施形態のナトリウムチャネル結合剤は、電位依存性ナトリウムチャネルの中でもNav1.1に選択的に結合する。これによりドラベ症候群におけるてんかんを効果的に抑制することができる。また、Nav1.1に選択的に結合することから副作用を抑制することができる。
【0017】
【0018】
式(I)中、Y11からY14は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香族基を有する炭素原子、又は窒素原子を表す。すなわち、ナトリウムチャネル結合剤は、下記式(Ia)で表されるポルフィリン化合物、又は式(Ib)で表されるアザポルフィリン化合物であってもよい。
【0019】
【0020】
式中、X11及びX12は、それぞれ独立してイミノ基又は硫黄原子を表す。Ar11からAr14は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香族基を表す。R11からR18は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1から12の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1から12の炭化水素オキシ基、もしくは置換基を有していてもよい芳香族基を表すか、又はR11及びR12、R13及びR14、R15及びR16、並びにR17及びR18のからなる群から選択される少なくとも1対の置換基対は互いに連結して置換基を有していてもよい縮合芳香環基を表す。Ar21からAr28は、それぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香族基を表す。R21からR24はそれぞれ独立してハロゲン原子、炭素数1から12の炭化水素基、又は炭素数1から12の炭化水素オキシ基を表す。nはそれぞれ独立して0から3の数を表す。
【0021】
芳香族基における置換基としては、例えば、水酸基、炭素数1から8の炭化水素基で置換されてよいアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、カルバモイル基、ホルミル基、スルファニル基、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1から18の炭化水素基、置換基を有していてもよい炭素数1から12の炭化水素オキシ基、炭素数1から12のアルキル基を有するトリアルキルアンモニウム基、炭素数1から12のアルキル基を有するジアルキルスルホニウム基、芳香族スルファニル基等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよく、また、これらからなる群から選択される2種以上を組み合わせて形成される置換基であってもよい。
【0022】
芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、ピリジニウム基、キノリル基、キノリニウム基等を挙げることできる。
【0023】
炭化水素基及び炭化水素オキシ基における置換基としては、例えば、水酸基、炭素数1から8の炭化水素基で置換されてよいアミノ基、シアノ基、ニトロ基、カルボキシ基、カルバモイル基、ホルミル基、スルファニル基、ハロゲン原子、炭素数1から12の炭化水素オキシ基、炭素数1から12のアルキル基を有するトリアルキルアンモニウム基、炭素数1から12のアルキル基を有するジアルキルスルホニウム基、芳香族スルファニル基等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよく、また、これらからなる群から選択される2種以上を組み合わせて形成される置換基であってもよい。
【0024】
炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種であってよく、また、これらからなる群から選択される2種以上を組み合わせて形成される炭化水素基であってもよい。
【0025】
式(I)で表される化合物は、塩の形態であってもよい。式(I)で表される化合物が塩の形態をとる場合、後述する薬学的に許容される塩であってもよい。また、式(I)で表される化合物は中心に金属を含む配位子を有していてもよい。配位子に含まれる金属としては、鉄、コバルト、マンガン、マグネシウム等を挙げることができる。金属を含む配位子には、金属イオン、金属酸化物等が含まれる。
【0026】
以下に、式(I)又は(II)で表される化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれらに限定されない。なお、式(I)又は(II)で表される化合物には、以下の例示化合物において、窒素原子がプロトン化された化合物、脱プロトン化された化合物、ポルフィリン骨格又はアザポルフィリン骨格に、鉄、コバルト、マンガン、マグネシウム等の金属又は金属イオンが配位した化合物等が含まれる。さらに、式(I)又は(II)で表される化合物には、以下の例示化合物をシーズ候補化合物として誘導される誘導体も含まれる。
【化4】
【0027】
【0028】
【0029】
式(I)又は(II)で表される化合物は、有機化学の分野で通常用いられる合成手法によって合成することができる。
【0030】
式(I)又は(II)で表される化合物は、以下に説明するスクリーニング方法で選択される化合物であってもよい。スクリーニング方法は、複数のサブタイプを有するナトリウムチャネルの内の特定のナトリウムチャネルに選択的に結合する化合物を選択する方法であって、候補化合物群を準備する化合物群準備工程と、候補化合物群に含まれる候補化合物の、ナトリウムチャネルの特定のサブタイプに対する結合能力値を評価する結合能評価工程と、特定のサブタイプとの結合能力値が他のサブタイプとの結合能力値よりも大きい候補化合物を選択する選択工程とを含む方法であってよい。スクリーニング方法は、選択された候補化合物をインビトロ(in vitro)で評価する作用評価工程をさらに含んでいてもよい。
【0031】
化合物群準備工程では、スクリーニング方法に供する候補化合物群を準備する。候補化合物群に含まれる候補化合物は、例えば、市販の化合物から選択される化合物であってよく、任意の化合物データベースに登録された化合物であってもよい。化合物群準備工程は、例えば、化合物データベースに登録された化合物から、以下に説明する選択基準に準じて候補化合物を選択することを含んでいてもよい。候補化合物を選択する選択基準としては、化合物の分子量、トポロジカル極性表面積、BBB活性予測値等が挙げられる。選択基準に基づいて候補化合物を選択することで、候補化合物群に含まれる化合物数を低減することができ、より効率的にスクリーニングを実施することができる。
【0032】
選択基準となる化合物の分子量は、例えば、目的とするナトリウムチャネルに特異的に結合することが知られている既知の化合物の分子量を参照して選択すればよい。Nav1.1に特異的に結合する化合物としては、例えば、毒蜘蛛であるトーゴスターバーストバブーン(Heteroscodra maculata)由来の毒物であるδ-テラホトキシン(theraphotoxin)Hm1aが挙げられる。δ-テラホトキシンは、Nav1.1の細胞外ドメイン(EC)に結合し、Nav1.1チャネル特異的に不活化を遅延させることが知られている。
【0033】
トポロジカル極性表面積(TPSA)は、分子表面のうち極性を帯びている部分の面積値に対応する指標であり、薬物の輸送特性予測に使用される指標の1つである。一般に、分子表面の極性領域の面積値(PSA)は、分子の3次元構造に基づいて算出されるが、TPSAは3次元構造の情報なしで近似的に算出される値である。TPSAは、例えば、Molecular Operating Environment(MOE;富士通九州システズ及び株式会社MOLSIS)を用いて算出することができる。
【0034】
BBB活性予測値は、血液-脳関門における通過性を評価する指標の1つである。化合物のBBB活性予測値は、例えば、定量的構造活性相関(QSAR)に基づいて算出される。BBB活性予測値は、例えば、MOEを用いて算出することができる。
【0035】
結合能評価工程では、候補化合物群に含まれる候補化合物の、ナトリウムチャネルの特定のサブタイプ、例えば、Nav1.1に対する結合能力値を評価する。結合能評価工程は、例えば、候補化合物の立体構造を計算する第1の配座計算工程と、ナトリウムチャネルの立体構造を計算する第2の配座計算工程と、候補化合物とナトリウムチャネルとのドッキングシミュレーションを実施する結合能力値算出工程と、結合能力値に基づいて候補化合物を選択する予備選択工程とを含んでいてもよい。
【0036】
第1の安定配座計算工程では、候補化合物の立体配座を計算により求める。立体配座の計算は、分子軌道法、分子力場計算等の公知の手法によって行うことができる。候補化合物の立体配座の計算は、例えば、MOEを用いて実施することができる。第2の配座計算工程では、特定のナトリウムチャネルの立体配座を計算により求める。立体配座計算用の初期座標には、例えば、既存のタンパク質データベースから取得される立体構造を適用することができる。また、立体配座の計算は、分子軌道法、分子力場計算等の公知の手法によって行うことができる。ナトリウムチャネルの立体配座の計算は、例えば、MOEを用いて実施することができる。
【0037】
結合能力値算出工程では、候補化合物とナトリウムチャネルとのドッキングシミュレーションを実施して結合能力値を算出する。ドッキングシミュレーションでは、準備した候補化合物の立体配座と、ナトリウムチャネルの立体配座を基にして、候補化合物とナトリウムチャネルとの結合部位を複数探索する。次いで各結合部位における候補化合物の多様な配置を決定し、それぞれの配置をスコアリングすることで結合能力値(S値)を算出する。候補化合物のナトリウムチャネルに対する結合部位は、ナトリウムチャネルの細胞外ドメインから選択され、例えば、δ-テラホトキシンのNav1.1に対する結合部位であってもよい。
【0038】
予備選択工程では、算出される結合能力値に基づいて候補化合物を選択する。選択される候補化合物は、所定の結合能力値を有し、特定のナトリウムチャネルに対する結合能が高い化合物である。
【0039】
選択工程では、予備選択工程で選択される候補化合物群から、特定のサブタイプに対する結合能力値が他のサブタイプに対する結合能力値よりも大きい候補化合物を選択する。特定のサブタイプに対する結合能力値には、結合能評価工程で算出される結合能力値が適用される。また、候補化合物の他のサブタイプに対する結合能力値は、特定のサブタイプに対する結合能力値と同様にして算出される。
【0040】
他のサブタイプが複数ある場合、選択工程は複数回の選択工程を含んでいてもよい。すなわち、候補化合物と特定のサブタイプ(例えば、Nav1.1)以外のあるサブタイプ(例えば、Nav1.2)に対する結合能力値を算出し、算出されるあるサブタイプに対する結合能力値よりも特定のサブタイプに対する結合能力値の方が大きい場合に、当該候補化合物が選択されて、選択された候補化合物のみが次のサブタイプ(例えば、Nav1.3)に対する結合能力値との比較に供されてもよい。このような結合能力値の比較と候補化合物の選択とを繰り返すことで、特定のサブタイプに対する結合能力値が他のサブタイプに対する結合能力値よりも大きい候補化合物を選択してもよい。
【0041】
作用評価工程では、選択された候補化合物をインビトロで評価して、作用を有する候補化合物をさらに選択する。インビトロの評価方法は、例えば、ナトリウムチャネルの特定のサブタイプをコードする遺伝子に変異を有する神経細胞を用いて、電気生理学的手法によって、候補化合物の作用を評価することで実施することができる。評価に用いられる神経細胞は、特定の疾患を有する対象に由来するiPS細胞株から誘導されたものであってもよい。この場合、評価の対照には遺伝子変異を修復したiPS細胞株から誘導される神経細胞を用いることができる。また、電気生理学的手法には、いわゆるパッチクランプ法が含まれる。
【0042】
医薬組成物
医薬組成物は、上記式(I)もしくは(II)で表される化合物、又はその薬学的に許容される塩を含む。医薬組成物は、てんかんの処置に用いられ、特にドラベ症候群の処置に用いられる。また、医薬組成物は、ナトリウムチャネルの特定のサブタイプをコードする遺伝子の変異に由来する疾患(以下、特定疾患ともいう)の処置に用いられてもよい。ここで、疾患の処置とは、疾患について施される何らかの処置であればよく、例えば、疾患の治療、改善、進行の抑制(悪化の防止)、予防、疾患に起因する症状の緩和等が挙げられる。
【0043】
医薬組成物は、式(I)もしくは(II)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩の少なくとも1種と、薬学的に許容される担体とを用いて、従来法に従って調製することができる。
【0044】
医薬組成物は、その剤形により非経口または経口投与することができる。非経口投与される剤形としては、例えば、注射剤、点滴剤、点眼剤、経鼻剤、経肺剤などが挙げられる。また、経口投与される剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などの固体製剤、液体状製剤もしくは半液体状製剤が挙げられる。
【0045】
医薬組成物は、式(I)もしくは(II)で表される化合物自体を有効成分として含んでいてもよく、その薬学的に許容される塩を有効成分として含んでいてもよい。薬学的に許容される塩として具体的には例えば、酸付加塩、金属塩、アンモニウム塩、有機アミン付加塩等が挙げられる。酸付加塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、リン酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、リンゴ酸塩、乳酸塩、α-ケトグルタル酸塩、グルコン酸塩、カプリル酸塩等の有機酸塩が挙げられる。金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;アルミニウム塩、亜鉛塩等が挙げられる。アンモニウム塩としては、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等の塩が挙げられる。有機アミン付加塩としては、モルホリン、ピペリジン等の塩が挙げられる。
【0046】
薬学的に許容される担体としては、医薬品の製剤に慣用されている担体であれば、いずれも使用することができる。担体としては、例えば、固形製剤における賦形剤、崩壊剤、結合剤、流動化剤、滑沢剤等、あるいは液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤またはpH調整剤、無痛化剤などが挙げられる。更に必要に応じて、保存剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤、清涼化剤または矯味矯臭剤、消泡剤、粘稠剤等の添加物を含んでいてもよい。
【0047】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、D-マンニトール、D-ソルビトール、トウモロコシデンプン、デキストリン、微結晶セルロース、結晶セルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、アラビアゴムなどが挙げられる。崩壊剤としては、例えば、カルメロース、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、結晶セルロースなどが挙げられる。結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポビドン、結晶セルロース、白糖、デキストリン、デンプン、ゼラチン、カルメロースナトリウム、アラビアゴムなどが挙げられる。流動化剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウムなどが挙げられる。滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルクなどが挙げられる。
【0048】
液状製剤における溶剤としては、例えば、精製水、エタノール、プロピレングリコール、マクロゴール、ゴマ油、トウモロコシ油、オリーブ油などが挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、プロピレングリコール、D-マンニトール、安息香酸ベンジル、エタノール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。懸濁化剤としては、例えば、塩化ベンザルコニウム、カルメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プロピレングリコール、ポビドン、メチルセルロース、モノステアリン酸グリセリンなどが挙げられる。等張化剤としては、例えば、ブドウ糖、D-ソルビトール、塩化ナトリウム、D-マンニトールなどが挙げられる。緩衝剤またはpH調整剤としては、例えば、リン酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。無痛化剤としては、例えば、ベンジルアルコールなどが挙げられる。
【0049】
保存剤としては、例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、クロロブタノール、ベンジルアルコール、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸などが挙げられる。抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸などが挙げられる。着色剤としては、例えば、食用色素(例:食用赤色2号若しくは3号、食用黄色4号若しくは5号等)、β-カロテンなどが挙げられる。甘味剤としては、例えば、サッカリンナトリウム、グリチルリチン酸二カリウム、アスパルテームなどが挙げられる。清涼化剤または矯味矯臭剤としては、例えばl-メントールまたはハッカ水などが挙げられる。消泡剤としては、例えばジメチルポリシロキサンまたはシリコン消泡剤などが挙げられる。粘稠剤としては、例えばキサンタンガム、トラガント、メチルセルロースまたはデキストリンなどが挙げられる。
【0050】
医薬組成物は、必要に応じて、他の抗てんかん薬を含有していてもよく、他の抗てんかん薬と併用してもよい。他の抗てんかん薬としては、例えばスチリペントール(STP)、トピラマート(TPM)、ブロマイド(Br)、レベチラセタム(LEV)、フェノバルビタール(PB)、ゾニサミド(ZNS)、バルプロ酸(VPA)、クロナゼパム(CZP)などが挙げられる。
【0051】
医薬組成物における有効成分の含量は、剤形、投与量等により異なるが、例えば、組成物全体の0.1重量%以上20重量%以下、又は0.1重量%以上10重量%以下である。また、医薬組成物の投与用量は、投与対象、疾患、症状、剤形、投与ルート等により適宜選択される。投与用量は、例えば、成人の癌患者に経口投与する場合、有効成分として、1日あたり、通常約0.1mg以上500mg以下、又は約0.5mg以上100mg以下であり、1回又は数回に分けて投与することができる。
【0052】
疾患の処置方法
疾患の処置方法は、有効量の前記医薬組成物を、対象に投与することを含み、てんかん、特定疾患等を処置する方法である。医薬組成物の詳細および投与方法は既述の通りである。処置の対象は、例えば、哺乳動物であり、哺乳動物はヒトを含む。また、処置の対象は、非ヒト動物であってもよい。
【0053】
本発明は、別の態様として、てんかん、特定疾患等の処置に用いられる医薬組成物の製造における式(I)又は(II)で表される化合物の使用、てんかん、特定疾患等の処置における式(I)又は(II)で表される化合物の使用、てんかん、特定疾患等の処置に使用される式(I)又は(II)で表される化合物をも包含する。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
候補化合物群として、Chemblデータベースに登録された低分子化合物、キシダ化学株式会社が提供する化合物データベースに登録された低分子化合物、及びナミキ商事株式会社が提供する化合物データベースに登録された低分子化合物を選択した。候補化合物群に含まれる化合物数は、重複も含めて約1300万であった。候補化合物群に含まれる候補化合物について、分子量、トポロジカル極性表面積(TPSA)、及びBBB活性予測値に基づいて1449種の化合物を選択した。なお、トポロジカル極性表面積、BBB活性予測値は、統合計算化学プラットフォームであるMOE(Molecular Operating Environment;富士通九州システズ及び株式会社MOLSIS)を用いて算出した。
【0056】
次いで、MOEを用いたドッキングシミュレーションにより、ナトリウムチャネルNav1.1に対する各候補化合物の結合能力値を算出し、結合能力の高い化合物として、834種の候補化合物を選択した。候補化合物の立体構造には、MOEを用いて計算された安定配座を採用した。また、Nav1.1の立体構造には、RCSB(構造バイオインフォアティクス研究共同体)のPDB(タンパク質構造データバンク)に登録されているものを採用した。ドッキングシミュレーションは、MOEが備えるリガンド配置手法であるTriangle Matcherを用いて、δ-テラホトキシンのNav1.1に対する結合部位に含まれる100種の結合部位を選択し、それぞれの結合部位において結合能力値(S値)を算出することで実施した。
【0057】
次いで、ドッキングシミュレーションで選択された候補化合物について、Nav1.2に対する結合能力値を上記と同様にして算出し、Nav1.1に対するS値がNav1.2に対するS値よりも大きい候補化合物を選択した。選択された候補化合物について、Nav1.3からNav1.9の順に、それぞれのサブタイプに対する結合能力値を算出し、Nav1.1に対する結合能力値が高い候補化合物を順次絞り込んで、最終的に56種の候補化合物を選択した。
【0058】
選択された候補化合物のうち入手可能であった下記の4種の化合物について、以下のようにしてインビトロでの薬効評価を実施した。
【0059】
【0060】
評価
候補化合物の薬効評価には、MEA(The microelectrode array)であるMaestro system(Axion Biosystems)用いた。Molecular Brain 2013,6:19を参照して、ドラベ症候群患者から採取した皮膚細胞から、ドラベ症候群患者由来のiPS細胞株を樹立した。また、Stem Cell Research,28(4);100-104(2018)を参照して、ドラベ症候群患者由来のisogenicなiPS細胞株を樹立した。
【0061】
健常者由来iPS細胞、ドラベ症候群患者由来iPS細胞、及びドラベ症候群患者由来のisogenicなiPS細胞より、選択的分化誘導法を用いてGABA作動性抑制性神経細胞を作製した。具体的には、eNeuro,6(5);0403-18(2019)のMaterial and methodにおけるPlasmid construction及びNeuronal differentiation by transcription factor overexpressionを参照して、以下のようにしてGABA作動性抑制性神経細胞を作製した。
【0062】
上記で樹立したフィーダーフリー系培養のiPS細胞(B7:コントロール、D1:ドラベ患者由来、D1T:ドラベ患者由来isogenicコントロール)をiMatrix-511 silkおよびポリ-L-リジンでコーティングした48-wellのMaestro plate(Axion Biosystems)に播種し、分化誘導を行った。神経分化は分化誘導培地(BrainPhys Neuronal Medium and N2-A/SM1,STEMCELL Technologies社製;10μM DAPTと1μg/mL doxycyclineを含む)を用いて6日間の培養し、その後、神経成熟用培地(BrainPhys Neuronal Medium and N2-A/SM1,STEMCELL Technologies社製;20ng/mlBDNF,20ng/ml GDNF,200nML-アスコルビン酸,1mM ジブチリルc-AMPを含む)で、6週間以上培養した。
【0063】
6週間以上培養した神経細胞におけるGABA作動性抑制性神経細胞の神経細胞マーカー発現をqRT-PCR法および免疫染色法で確認した。次に、Maestroを用いた自発発火測定によりGABA作動性抑制性神経細胞の機能評価を行った。データの取得には12.5kHzのsampling rateを使用し、200Hzから3000HzのButterworth bandpass filterを用いた。検出閾値設定は、baseline electrode noiseの+6.0×SDを使用した。37℃で5分間培養しながら神経細胞の自発的な神経活動を記録した。
【0064】
Maestroのplateやwell間で自発的なスパイク数に大きなバラつきがあることを考慮し、神経細胞の成熟度の指標となる自発的なBurst発火に焦点を当てた。Burst発火は>5spikes/100msの発火頻度を検出閾値として用いた。神経細胞の発火測定のデータ解析にはAxion Integrated Studio program (Axion Biosystems)およびNeural Metric Tool(Axion Biosystems)を用いた。結果を
図1に示す。健常者由来(B7)およびドラベ患者由来のisogenicな神経細胞(D1T)と比較し、ドラベ患者由来GABA作動性抑制性神経細胞(D1)において、Burst発火中のspike数の減少が確認できた。この発火頻度の減少(機能減衰)を以降の薬効評価の指標とした。
【0065】
GABA作動性抑制性神経細胞の培養培地中に、被験化合物を各濃度で添加した。37℃で5分間培養しながら神経細胞の活動電位を記録して、自発的なBurst発火中のspike数として、被験化合物の各濃度における発火頻度の変化を計測した。実験の総数(記録したwell数)は、n=3から6とした。統計分析は、Dunn’s multiple comparisons testを使用した。確率値(p値)0.05未満を統計的に有意であると見なした。
【0066】
図2には、被験化合物としてクモ毒成分のHm1aを用いた結果を示す。
図2に示すように、培地にHm1aを添加することで、ドラベ患者由来GABA作動性抑制性神経細胞において、Hm1aの濃度依存的な発火頻度の増加(機能回復)が確認できた。なお、図中、*はp<0.05を意味する。
【0067】
図3に化合物2-1の結果を、
図4に化合物1-2の結果を、
図5に化合物3-1の結果を、
図6に化合物3-2の結果を示す。なお、図中、*はp<0.05、**はp<0.01を意味する。
図3及び4に示すように、化合物1-2及び2-1は、Hma1と同様にドラベ患者由来GABA作動性抑制性神経細胞の機能回復を示した。一方、化合物3-1及び3-2は、ドラベ患者由来GABA作動性抑制性神経細胞の機能回復を示さなかった。