(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】膜型表面応力センサアレイおよびその用途
(51)【国際特許分類】
G01N 19/00 20060101AFI20240827BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240827BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240827BHJP
C12N 15/115 20100101ALN20240827BHJP
【FI】
G01N19/00 H
C12M1/34 B
G01N33/543 593
C12N15/115 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2020115985
(22)【出願日】2020-07-03
【審査請求日】2023-06-09
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000232092
【氏名又は名称】NECソリューションイノベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201732
【氏名又は名称】松縄 正登
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 賢司
(72)【発明者】
【氏名】浅井 繁
(72)【発明者】
【氏名】白鳥 行大
【審査官】山口 剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/101128(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/196606(WO,A1)
【文献】特表2019-533461(JP,A)
【文献】特開2011-209260(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0116444(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/00 - 19/10
G01N 33/48
C12M 1/00 - 1/42
C12Q 1/00 - 1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル液と、膜型表面応力センサアレイとを接触する工程と、
液相中で前記膜型表面応力センサアレイに電圧を印加する工程と、
前記膜型表面応力センサアレイの各膜のピエゾ抵抗素子の応力変化を測定する工程と、
前記膜型表面応力センサアレイにより得られたシグナルパターンを用いて、標的を測定する工程とを含み、
前記膜型表面応力センサアレイは、
センサ基板と、複数の膜と、所定の分子に結合可能な複数種類の結合分子とを備え、
前記センサ基板は、複数の支持領域を備え、
前記支持領域は、前記膜の変形を検出可能なピエゾ抵抗素子を備え、かつ前記膜を支持し、
前記膜は、前記結合分子を備え、かつ前記結合分子の結合により変形し、
各膜は、異なる種類の結合分子を備え、
前記複数種類の結合分子は、異なる分子に結合する結合分子および同じ分子に異なる結合特性を示す結合分子を含
み、
前記結合分子は、前記所定の分子に結合可能なアプタマー、抗体、受容体、またはリガンドであり、
前記結合分子として、特定の分子に結合性を示さないリファレンスの結合分子を含む、
サンプルの測定方法。
【請求項2】
前記結合特性は、前記所定の分子に対する親和性、前記所定の分子に対する特異性、および/または前記所定の分子におけるエピトープである、請求項
1記載のサンプルの測定方法。
【請求項3】
センサ基板と、複数の膜と、所定の分子に結合可能な複数種類の結合分子とを備え、
前記センサ基板は、複数の支持領域を備え、
前記支持領域は、前記膜の変形を検出可能なピエゾ抵抗素子を備え、かつ前記膜を支持し、
前記膜は、前記結合分子を備え、かつ前記結合分子の結合により変形し、
各膜は、異なる種類の結合分子を備え、
前記複数種類の結合分子は、異なる分子に結合する結合分子および同じ分子に異なる結合特性を示す結合分子を含み、
請求項1
又は2記載のサンプルの測定方法に使用する、膜型表面応力センサアレイ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜型表面応力センサアレイおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、医療等の多種多様な分野において、ターゲットの検出は重要であり、様々な方法が提案されている。そして、近年において、膜型表面応力センサが注目されている(特許文献1参照)。前記膜型表面応力センサ(Membrane-type Surface-stress Sensor:MSS)は、例えば、シリコン膜等の膜にターゲットを結合させることで、前記膜を変形させ、前記変形による電気抵抗の変動を測定することによって、ターゲットの有無や量を分析できる。しかしながら、ターゲットを前記膜に結合させる方式については、例えば、分析精度の向上や、適応できるターゲットの拡張等の観点から、さらなる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明者らは、MSSの膜に、1種類の標的特異的な核酸分子を固定化した新たなMSSセンサを発明し、前記核酸分子が固定化されたMSSセンサにより前記標的を測定できることを確認した。しかしながら、前記核酸分子が固定化されたMSSセンサでは、前記標的毎に、前記標的に対する核酸分子を準備する必要がある。このため、新規ウイルス等の新たな標的に対するMSSセンサを作製する場合、新たな標的に特異的な核酸分子の準備というリードタイムが必要となる。
【0005】
したがって、前記標的特異的な核酸分子が固定化されたMSSでは、新たな標的を測定対象とするMSSの開発までに時間を要するという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、標的に特異的な結合分子が存在しない場合も、前記標的を測定しうるMSSの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の膜型表面応力センサアレイ(以下、「アレイ」ともいう)は、センサ基板と、複数の膜と、所定の分子に結合可能な複数種類の結合分子とを備え、
前記センサ基板は、複数の支持領域を備え、
前記支持領域は、前記膜の変形を検出可能なピエゾ抵抗素子を備え、かつ前記膜を支持し、
前記膜は、前記結合分子を備え、かつ前記結合分子の結合により変形し、
各膜は、異なる種類の結合分子を備え、
前記複数種類の結合分子は、異なる分子に結合する結合分子および同じ分子に異なる結合特性を示す結合分子を含む。
【0008】
本発明のサンプルの測定方法(以下、「測定方法」ともいう)は、サンプル液と、前記本発明の膜型表面応力センサアレイとを接触する工程と、
液相中で前記膜型表面応力センサアレイに電圧を印加する工程と、
前記膜型表面応力センサアレイの各膜のピエゾ抵抗素子の応力変化を測定する測定工程とを含む。
【0009】
本発明の学習装置は、取得部と、学習部とを備え、
前記取得部は、測定データを取得し、
前記測定データは、標的を含むサンプル液について、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と、前記標的の情報とが紐付けられたデータであり、
前記学習部は、前記測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習し、標的予測モデルを生成する。
【0010】
本発明の分析装置は、データ取得部と、分析部とを備え、
前記データ取得部は、測定データを取得し、
前記測定データは、サンプル液について、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果を含み、
前記分析部は、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習することにより生成された、標的予測モデルと、前記測定結果とから、前記サンプル液中の標的を分析する。
【0011】
本発明の学習方法は、取得工程と、学習工程とを含み、
前記取得工程では、測定データを取得し、
前記測定データは、標的を含むサンプル液について、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と、前記標的の情報とが紐付けられたデータであり、
前記学習工程では、前記測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習し、標的予測モデルを生成する。
【0012】
本発明の分析方法は、データ取得工程と、分析工程とを含み、
前記データ取得工程では、測定データを取得し、
前記測定データは、サンプル液について、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果を含み、
前記分析工程では、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習することにより生成された、標的予測モデルと、前記測定結果とから、前記サンプル液中の標的を分析する。
【0013】
本発明の第1のプログラムは、コンピュータに、取得処理と、学習処理とを実行させ、
前記取得処理では、測定データを取得し、
前記測定データは、標的を含むサンプル液について、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と、前記標的の情報とが紐付けられたデータであり、
前記学習処理では、前記測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習し、標的予測モデルを生成する。
【0014】
本発明の第2のプログラムは、コンピュータに、データ取得処理と、分析処理とを実行させ、
前記データ取得処理では、測定データを取得し、
前記測定データは、サンプル液について、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果を含み、
前記分析処理では、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習することにより生成された、標的予測モデルと、前記測定結果とから、前記サンプル液中の標的を分析する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、前記標的に特異的な結合分子が存在しない場合も、前記標的を測定しうる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は、本発明の標的の分析のメカニズムを示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態1における測定システムの一例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、実施形態1におけるアレイの一例を示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施形態1の測定システムにおける学習装置のハードウェア構成を示す、ブロック図である。
【
図5】
図5は、実施形態1の測定システムにおける分析装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図6】
図6は、実施形態1の測定システムにおける測定装置および学習装置の処理または測定方法および学習方法を示すフローチャートである。
【
図7】
図7は、実施形態1の測定システムにおける測定装置および分析装置の処理または測定方法および分析方法を示すフローチャートである。
【
図8】
図8は、実施形態2の測定システムにおける測定装置およびアレイの他の例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、実施例1における各標的タンパク質に対する各アプタマーの結合能を示すグラフである。
【
図10】
図10は、実施例1における各標的タンパク質に対する各アプタマーの結合能を示すグラフである。
【
図11】
図11は、実施例1における各標的に対する各アプタマーの結合能を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明者らは、鋭意研究の結果、アプタマー等の結合分子が、例えば、ウイルス等に発現する分子に結合する際に、ウイルスが異なるとMSSセンサで得られるシグナルが同じではなく、異なるとの知見を得た。また、前記結合分子は、一般的には、特定の分子に対して特異的な結合分子として選抜されるが、他の分子に対しても交差反応性を有する場合がある。この場合、前記特定の分子以外の分子が、類似するエピトープを有すると、前記特定の分子に結合する結合分子は、前記類似するエピトープを有する分子に結合する。このため、前記結合分子が固定化されたMSSセンサで、前記結合分子の標的以外の分子を測定した場合においても、シグナルが生じる場合があるとの知見を得た。そして、本発明者らは、異なる結合特性を有する結合分子を固定化したMSSセンサで得られるシグナルを組合せることで、前記標的を区別しうることを見出し、本発明を確立するに至った。なお、前記知見は、ウイルス以外の分子にも適用可能と推定される。具体例として、3種類の異なる結合分子が固定化されたMSSセンサを用いて、3つの既知の標的(標的A~C)と、1つの新規の標的(標的D)を測定した場合を、
図1を例にあげてより詳細に説明する。なお、
図1において、MSSセンサ1は、標的Aに結合し、かつ標的Dに交差反応し、MSSセンサ2は、標的Bに結合し、MSSセンサ3は、標的Cに結合し、標的Dに交差反応するとする。
図1に示すように、MSSセンサ1~3を用いて標的A~Dを測定した場合、MSSセンサ1~3は、それぞれ、標的A~Cに対して結合するため、MSSセンサ1~3由来のシグナルが測定される。また、標的Dは、MSSセンサ2を用いて測定した場合にはシグナルが生じないが、MSSセンサ1およびMSSセンサ3を用いて測定した場合にはシグナルが生じる。この場合、MSSセンサ1~3のシグナルを単独で測定指標として用いた場合、新たな標的Dがあるため、標的A、CおよびDを検出できない。しかしながら、
図1に示すように、標的AおよびDは、MSSセンサ1に反応し、標的CおよびDは、MSSセンサ3に反応するため、MSSセンサ1~3のシグナルを組合せると、新たな標的Dについても測定でき、かつMSSセンサ1と反応する標的AおよびMSSセンサ3と反応する標的Cと区別可能となる。また、MSSセンサに固定化される結合分子の種類が増えれば、相対的に、新たな標的Dに対して応答するMSSセンサが存在する確率が向上する。したがって、本発明によれば、例えば、前記所定の分子に結合可能な複数種類の結合分子をMSSセンサに固定化したアレイとし、前記アレイで得られたシグナルパターンを用いることで、前記標的に特異的な結合分子が存在しない場合も、前記標的を測定しうる。
【0018】
本発明において、以下、「膜型表面応力センサ(Membrane-type Surface-stress Sensor)」は、MSSともいう。いわゆるMSSは、ターゲットへの結合性を有する膜が、ピエゾ抵抗素子等の応力に反応する素子を有する支持体に支持されている。そして、前記ターゲットが前記膜に結合すると、前記結合により前記膜は応力を受けて、歪みの発生等により前記膜は変形(歪みの発生)する。そして、前記膜の変形の量に応じて、前記膜を支持する前記支持体のピエゾ抵抗素子に応力が発生し、前記応力に比例して、前記ピエゾ抵抗素子の抵抗値が変化する。このため、MSSに電圧を印加して、抵抗値の変化に伴う電気シグナルを測定することで、間接的に、前記膜に結合した前記ターゲットの有無を定性的に分析すること、および/または前記膜に結合した前記ターゲットの量を定量的に分析することが可能である。本発明において、前記「測定」は、例えば、検出、分析、解析等に読み替え可能である。
【0019】
本発明において、前記「アレイ」は、例えば、同一の構成を有する物を複数含むことを意味する。このため、本発明において「膜型表面応力センサアレイ(MSSアレイ)」は、例えば、MSSを複数備えることを意味する。前記MSSアレイにおいて、各MSSは、例えば、その一部または全部が整列して配置されてもよいし、ランダムに配置または羅列して配置されてもよいが、センサ基板を小さくできることから、前者が好ましい。
【0020】
本発明において、前記「標的」は、特に制限されず、任意の分子とできる。前記標的は、例えば、測定対象の分子ということもできる。前記標的は、例えば、ウイルス抗原、細菌抗原、寄生虫抗原等の感染症に関連する分子(抗原);生体の体液中の抗原;腫瘍抗原、自己免疫疾患、アレルギー等の疾患に関連する抗原;糖鎖抗原等の特定の分子、またはこれらの少なくとも1つを発現する、ウイルス、細菌、寄生虫、細胞、器官、組織、器官、動物、植物等の抗原が由来する物があげられる。前記標的は、例えば、後述の所定の分子と同じ分子でもよいし、異なってもよい。
【0021】
前記ウイルス抗原は、例えば、アデノウイルス(adenovirus)等のアデノウイルス科(Adenoviridae);SARS-Cov、MERS-Cov、SARS-Cov-2、コロナウイルス(coronavirus)等のコロナウイルス科(Coronaviridae);エボラウイルス属(Ebolavirus)等のフィロウイルス科(Filoviridae);C型肝炎ウイルス(HCV:hepatitis C virus)、デングウイルス(Dengue virus)、日本脳炎ウイルス(Japanese encephalitis virus)、西ナイルウイルス(west Nile virus)、黄熱ウイルス(yellow fever virus)等のフラビウイルス科(Flaviviridae);B型肝炎ウイルス(HVB:Hepatitis B Virus)等のヘパドナウイルス科(Hepadnaviridae);単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1:herpes simplex virus-1)、単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2:herpes simplex virus-2)、水痘・帯状疱疹ウイルス(VZV:varicella zoster virus)、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV:human cytomegalovirus)、EBウイルス(EBV:Epstein-Barr virus)、カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV:Kaposi's sarcoma-associated herpesvirus)等のヘルペスウイルス科(Herpesviridae);A型インフルエンザウイルス属(Influenzavirus A)、B型インフルエンザウイルス属(Influenzavirus B)、C型インフルエンザウイルス属(Influenzavirus C)等のオルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae);麻疹ウイルス(measles virus)、ヒトパラインフルエンザウイルス1~4型(Human parainfluenza virus 1~4)、ムンプスウイルス(Mumps virus)、RSウイルス(Respiratory syncytial virus)等のパラミクソウイルス科(Paramyxoviridae);パルボウイルスB19(Parvovirus B19)等のパルボウイルス科(Parvoviridae);エンテロウイルス(enterovirus)、ポリオウイルス(poliovirus)、ヒトライノウイルスA~B(human rhinovirus A~B)、A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus)、コクサッキーウイルス(coxsackievirus)、エコーウイルス(echo virus)等のピコルナウイルス科(Picornaviridae);天然痘ウイルス(variola virus)、ワクチニアウイルス(Vaccinia virus)等のポックスウイルス科(Poxviridae);ヒト免疫不全ウイルス(HIV:human immunodeficiency virus)-1, 2、ヒトTリンパ好性ウイルス(HTLV:human T-lymphocytropic virus)-I,II等のレトロウイルス科(Retroviridae);狂犬病ウイルス(Rabies virus)、水疱性口内炎ウイルス(Vesicular stomatitis virus)等のラブドウイルス科(Rhabdoviridae);風疹ウイルス(Rubella virus)、チクングニアウイルス(Chikungunya virus)等のトガウイルス科(Togaviridae);等のウイルス由来の抗原があげられる。
【0022】
前記細菌抗原は、例えば、破傷風菌(Clostridium
tetani)等のクロストリジウム属(Clostridium);大腸菌(Escherichia
coli)等のエスケリキア属(Escherichia);ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter
pyloris)等のヘリコバクター属(Helicobacter);レジオネラ・ニューモフィリア(Legionella
pneumophila)等のレジオネラ属(Legionella);リステリア・モノサイトゲネス(Listeria
monocytogenes)等のリステリア属(Listeria);結核菌(Mycobacterium
tuberculosis)、ライ菌(Mycobacterium
leprae)、マイコバクテリウム・アビウム(Mycobacterium
avium)、マイコバクテリウム・イントラセルラーエ(Mycobacterium
intracellulare)、マイコバクテリウム・カンサシ(Mycobacterium
kansasii)、マイコバクテリウム・ゴルドネ(Mycobacterium
gordonae)等のマイコバクテリウム属(Mycobacterium);淋菌(Neisseria
gonorrhoeae)、髄膜炎菌(Neisseria
meningitidis)等のナイセリア属(Neisseria);緑膿菌(Pseudomonas
aeruginosa)等のシュードモナス属(Pseudomonas);チフス菌(Salmonella
enterica serovar Typhi)、パラチフス菌(Salmonella
enterica serovar Paratyphi A)等のサルモネラ属(Salmonella);黄色ブドウ球菌(Staphylococcus
aureus)等のブドウ球菌属(Staphylococcus);肺炎レンサ球菌(Streptococcus
pneumoniae)、化膿レンサ球菌(Streptococcus
pyogenes)等のレンサ球菌属(Streptococcus);等の細菌由来の抗原があげられる。
【0023】
前記寄生虫抗原は、例えば、肝吸虫(Clonorchis
sinensis)、日本住血吸虫(Schistosoma
japonicum)、ヒトカイチュウ(Ascaris
lumbricoides)、ヒト蟯虫(Enterobius
vermicularis)、有鉤嚢虫(Cysticercus
cellulosae)、広節裂頭条虫(Diphyllobothrium
latum)、エキノコックス(Echinococcus)、赤痢アメーバ(Entamoeba
histolytica)、マラリア原虫(Plasmodium)等の寄生虫由来の抗原があげられる。
【0024】
前記生体の体液中の抗原は、例えば、サイトカイン、血液凝固因子、等があげられる。前記サイトカインは、例えば、TNF-α、TNF-β等のTNF(Tumor Necrosis Factor);リンフォトキシン;IL-1~IL-38(例えば、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-10、IL-11、IL-12、IL-17、IL-18、IL-23、IL-33、IL-36等)のインターロイキン;ケモカイン;造血因子;細胞増殖因子;アディポカイン;VEGF等の成長因子;等があげられる。
【0025】
前記腫瘍抗原は、例えば、5T4、α5β1-インテグリン、707-AP、αフェトプロテイン(AFP)、レクチン反応性AFP、ART-4、AURKA(AURORA A)、B7H4、BAGE、β-カテニン、BCMA、Bcr-abl、BTAA、MN/CA IX抗原、CA125、CA19-9、CA72-4、CAMEL、CAP-1、CASP-8、CD4、CD19、CD20、CD22、CD25、CD27、CD30、CD33、CD47、CD52、CD56、CD80、CD96、CD123、CDK4、癌胎児性抗原(CEA)、CLL1、CT、Cyclin A1、Cyp-B、DAM、EGFR、ErbB3、ELF2M、EMMPRIN、EpCam、ETV6-AML1、G250、GAGE(GAGE-1、GAGE-2等)、GD2(Ganglioside G2)、GnT-V、Gp100、GPA33、GPC3、HAGE、β-ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、HER2/neu、HLA-A*0201-R170I、HPV-E7、HSP70-2M、HST-2、iCE、インスリン増殖因子(IGF)-1、IGF-2、IGF-1R、IL-2R、IL-5、KIAA0205、K-Ras、LAGE、LDLR/FUT、MAGE(MAGE-3、MAGE-4、MAGE-5、MAGE-6等)、MART-1/melan-A、MART-2/Ski、MC1R、mesothelin(MSLN)、ミオシン、MUC1、MUM-1、MUM-2、MUM-3、NA88-A、前立腺酸性フォスファターゼ(PAP)、プロテイナーゼ-3、PRAME(Melanoma antigen preferentially expressed in tumors)、p53、p190マイナーbcr-abl、Pml/RARα、前立腺腫瘍抗原-1(PCTA-1)、PRAME、前立腺特異的抗原(PSA)、PSM、PSMA、RAGE、RAS、RHAMM(CD168)、RU1、RU2、SAGE、SART-1、SART-3、サイログロブリン、サバイビン、テロメラーゼ逆転写酵素(TERTまたはTRT)、TEL/AML1、TGFβ、TIM3、TPI/m、TRP-1、TRP-2、TRP-2/INT2、VEGF、WT1、NY-Eso-1、NY-Eso-B等があげられる。
【0026】
前記アレルギーに関する抗原、すなわち、アレルゲンは、特に制限されず、例えば、小麦等の穀物、卵、肉、魚、エビ、カニ等の甲殻類、貝、野菜、果物、牛乳、ピーナッツ等の豆、スギ、ヒノキ等の花粉のアレルゲン等があげられる。
【0027】
前記標的が分子の場合、前記標的の種類は、例えば、核酸分子、タンパク質、ペプチド、糖鎖、低分子化合物、高分子化合物等があげられる。
【0028】
本発明において、「所定の分子」は、特に制限されず、例えば、前記膜型表面応力センサアレイを用いて測定する標的に応じて、適宜設定できる。前記「所定の分子」は、例えば、前記標的または前記標的と関連する分子があげられる。前記標的と関連する分子は、例えば、前記標的と同じ分類または区分に属する分子があげられる。具体例として、前記標的が、ヘマグルチニン、ノイラミニダーゼ等のウイルスに発現する抗原またはウイルスの場合、前記所定の分子は、前記ウイルス抗原とできる。また、前記標的が、鞭毛タンパク質、細胞壁を構成する糖鎖等の細菌に発現する抗原または細菌の場合、前記所定の分子は、前記細菌抗原とできる。また、前記標的が、甲殻類のアレルゲンの場合、前記所定の分子は、各種甲殻類のトロポミオシンとできる。前記所定の分子は、例えば、前記標的と、構造的に類似している分子、または分類学上、近似している分類を有する物が備えている分子を選択することが好ましい。
【0029】
本発明において、前記「結合分子」は、所定の分子に結合可能な分子である。前記結合分子は、例えば、前記所定の分子に結合可能な核酸分子、タンパク質、糖鎖等があげられる。具体例として、前記結合分子は、前記所定の分子に結合可能なアプタマー、抗体、受容体、リガンド等があげられる。前記結合分子は、例えば、前記所定の分子に結合可能な公知の結合分子を用いてもよいし、SELEX法、ファージディスプレイ法等により新たに調製した結合分子を用いてもよい。
【0030】
本発明において、「結合可能」は、結合物である結合分子が、前記結合物に結合される結合対象物に対して実際に結合することを意味してもよいし、分子ドッキング法等を用いたシミュレーションにおいて結合することを意味してもよいが、好ましくは、前者である。前記結合物と前記結合対象物との結合は、例えば、タンパク質間相互作用の解析方法を利用して検出でき、例えば、共免疫沈降、プルダウンアッセイ、ELISA法、フローサイトメトリー等の抗体抗原反応を利用した方法を利用して検出できる。
【0031】
前記アプタマーは、ターゲットに対して結合性を有する核酸分子である。前記アプタマーは、例えば、ターゲットに特異的に結合する核酸分子ということもできる。前記アプタマーは、例えば、プローブ等と異なり、塩基配列依存的なハイブリダイゼーション非依存的に標的に結合する核酸分子ということもできる。
【0032】
前記核酸分子の構成単位は、例えば、ヌクレオチド残基および非ヌクレオチド残基である。前記ヌクレオチド残基は、例えば、デオキシリボヌクレオチド残基およびリボヌクレオチド残基があげられ、前記ヌクレオチド残基は、例えば、修飾されても、未修飾でもよい。前記アプタマーは、例えば、デオキシリボヌクレオチド残基からなるDNAアプタマー、リボヌクレオチド残基からなるRNAアプタマー、両方を含むアプタマー、修飾ヌクレオチド残基を含むアプタマー等があげられる。前記アプタマーの長さは、特に制限されず、例えば、10~200塩基である。前記ターゲットに対するアプタマーは、例えば、既存のアプタマーを使用してもよいし、前記ターゲットに応じて、例えば、SELEX法等を利用して新たに取得したものを使用することもできる。
【0033】
前記抗体は、可溶型の免疫グロブリンということもできる。前記抗体の種類は、例えば、IgA、IgD、IgE、IgG、またはIgMがあげられる。IgAは、例えば、IgA1またはIgA2があげられる。IgGは、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4があげられる。前記抗体は、例えば、抗体の抗原結合断片でもよい。前記抗原結合断片は、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)2、Fv断片、rIgG(半IgG)断片、一本鎖抗体(scFv)等があげられる。
【0034】
前記受容体は、リガンドが結合する分子を意味する。前記受容体およびリガンドは、特に制限されず、任意の受容体およびリガンドの組合せを利用できる。具体的には、前記受容体およびリガンドは、例えば、前記ウイルスまたは細菌が感染時に利用する細胞上の受容体およびそのリガンドがあげられ、具体例として、前記リガンドがコロナウイルスのスパイクタンパク質の場合、前記受容体は、ヒトACE2(アンギオテンシンインベルターゼ2)があげられる。
【0035】
本発明において、「結合特性」は、例えば、前記結合分子の結合対象の分子との結合に関連する特性または特性値を意味する。具体例として、前記結合特性は、例えば、前記所定の分子に対する親和性、前記所定の分子に対する特異性、前記所定の分子におけるエピトープがあげられる。前記親和性は、例えば、前記結合分子の結合の強さということででき、例えば、会合速度定数(Kon)、解離速度定数(Koff)、解離定数(Kd)等により評価できる。前記特異性は、例えば、交差反応性または対象選択性ということもできる。前記特異性は、例えば、前記所定の分子への結合の強さ(親和性)と、前記所定の分子以外の分子への結合の強さとにより評価できる。前記エピトープは、例えば、前記所定の分子において、前記結合分子が認識する領域、すなわち、前記結合分子が結合する領域を意味する。
【0036】
本発明において、「サンプル液」は、液体であればよい。サンプル(採取検体)が液体の場合、それをそのまま液体サンプルとしてもよいし、さらに、液体溶媒によって、希釈、懸濁、分散等を行って調製した液体サンプルでもよい。採取検体が固体の場合、例えば、液体溶媒によって、溶解、懸濁、分散等を行って調製した液体サンプルでもよい。また、採取検体が気体の場合、例えば、前記気体中のエアロゾルを濃縮した液体サンプルでもよいし、さらに、液体溶媒によって、溶解、懸濁、分散等を行って調製した液体サンプルでもよい。前記液体溶媒の種類は、特に制限されず、例えば、前記結合分子とターゲットとの結合等に影響を与えにくい溶媒であり、具体例として、水、緩衝液等があげられる。前記採取検体は、例えば、血液、尿、唾液、体液等の生体試料;土壌、排水、水道水、池、河川、空気等の環境由来試料;食品試料等が例示できる。
【0037】
以下、本発明のアレイ、ならびに前記アレイを用いる測定装置、学習装置および分析装置を備える測定システムについて、図面を参照して詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の説明に限定されない。なお、以下の
図2~
図8において、同一部分には、同一符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、図面においては、説明の便宜上、各部の構造は適宜簡略化して示す場合があり、各部の寸法比等は、実際とは異なり、模式的に示す場合がある。
【0038】
[実施形態1]
本実施形態は、本発明のアレイ、ならびに前記アレイを用いる測定装置、学習装置、および分析装置を備える測定システムの一例である。
図2は、本実施形態の測定装置1、学習装置3、標的予測モデルデータベース(標的予測モデルDB)4、および分析装置5を備える測定システム100を示すブロック図である。
図2に示すように、測定システム100は、測定装置1、学習装置3、標的予測モデルデータベース(標的予測モデルDB)4、および分析装置5と、任意に、後述のアレイ2とを備える。また、
図2に示すように、測定装置1は、装着部11、電圧印加部12、および測定部13を備える。また、
図2に示すように、学習装置3は、取得部31、学習部32、および格納部33を備える。標的予測モデルDB4は、1以上の標的予測モデルを格納している。分析装置5は、データ取得部51、モデル選択部52、分析部53、および出力部54を備える。
図2に示すように、測定装置1、学習装置3、標的予測モデルDB4、および分析装置5は、通信回線網6を介して一方向または両方向に接続可能(通信可能)である。本実施形態の学習装置3、標的予測モデルDB4、および分析装置5は、本発明のプログラムがインストールされたパーソナルコンピュータまたはシステムとしてサーバ等に組込まれてもよい。また、図示していないが、測定装置1、学習装置3、標的予測モデルDB4、および分析装置5は、通信回線網6を介して、システム管理者の外部端末とも接続可能であり、システム管理者は、外部端末から測定装置1、学習装置3、標的予測モデルDB4、および分析装置5の管理を実施してもよい。なお、本実施形態において、測定システム100に含まれる測定装置1は、1つであるが、複数でもよい。
【0039】
通信回線網6は、特に制限されず、公知のネットワークを使用でき、例えば、有線でもよいし、無線でもよい。通信回線網6は、例えば、インターネット回線、WWW(World Wide Web)、電話回線、LAN(Local Area Network)、WiFi(Wireless Fidelity)等があげられる。通信回線網6は、双方向に接続可能(通信可能)に構成されていることが好ましい。
【0040】
(アレイの構成)
本実施形態のアレイの構成を、
図3に示す。
図3は、本実施形態のアレイ2を示す模式図である。
図3において、(A)は、アレイ2の上面図であり、(B)は、(A)において、一点鎖線で示す領域の拡大図であり、(C)は、(B)における膜25の模式断面図を示す。
図3(A)~(C)に示すように、アレイ2は、センサ基板21およびMSSセンサM(1,1)~(m,n)を備える。MSSセンサM(1,1)~(m,n)は、それぞれ、電極22、配線23、支持領域24、膜(MSS膜)25およびピエゾ抵抗素子26を備える。また、MSS膜25は、結合分子27を備える、すなわち、MSS膜25には、結合分子27が固定化されている。
【0041】
センサ基板21は、電極22、配線23、支持領域24、MSS膜25、ピエゾ抵抗素子26、および結合分子27を備えるMSSセンサM(1,1)~(m,n)を配置するための基板である。具体的には、センサ基板21は、MSS膜25を支持する支持領域24を複数有し、支持領域24は、ピエゾ抵抗素子26を有する。センサ基板21は、支持領域24によって、各MSS膜25を支持する。MSS膜25は、例えば、対向する一方の表面または両方の表面に、結合分子27が固定化され、側面において、センサ基板21により支持される。センサ基板21は、例えば、MSS膜25を部分的に支持することが好ましく、具体的に、MSS膜25の側面を部分的に支持することが好ましい。MSS膜25において、センサ基板21の支持領域24によって支持されている箇所(支持部)の数は、特に制限されず、例えば、4点である。なお、これは例示であって、何ら制限されず、任意の数とできる。
【0042】
センサ基板21において、支持領域24は、例えば、シリコン膜であり、前記シリコン膜の任意の領域を、不純物のドーピングによりp型化することによって、前記p型化した領域(p型Si)を、ピエゾ抵抗素子26として機能させることができる。支持領域24は、例えば、MSS膜25を支持している箇所またはその付近に、ピエゾ抵抗素子26を有する。センサ基板21は、例えば、全体がシリコン製でもよいし、支持領域24のみがシリコン膜でもよく、ピエゾ抵抗素子26を含む支持領域24以外の材料は、特に制限されない。センサ基板21の材料は、例えば、プラスチック、ガラス等が使用できる。
【0043】
センサ基板21は、例えば、電圧を印加するための回路を有する。前記回路は、電極22および配線23から構成される。支持領域24が、複数の点でMSS膜25を支持し、その支持している箇所およびその付近に、それぞれピエゾ抵抗素子26を有する場合、例えば、前記回路は、支持領域24における複数のピエゾ抵抗素子26を含むホイートストンブリッジ回路があげられる。本実施形態のMSSは、例えば、前記ホイートストンブリッジ回路に電圧を印加することで、ピエゾ抵抗素子26における抵抗値の変化に伴う電気シグナルを測定できる。
【0044】
MSSセンサM(1,1)~(m,n)は、結合分子27の結合を測定(検出)するセンサである。MSSセンサM(1,1)~(m,n)は、例えば、結合分子27の所定の分子への結合を検出してもよいし、結合分子27の所定の分子以外の分子への結合を検出してもよい。前記mおよびnは、それぞれ、1以上の整数であり、m×nは、2以上の整数である。本実施形態のアレイ2において、MSSセンサMの数は、m×n個であるが、これに制限されない。MSSセンサMの数は、2以上の任意の数とでき、具体例として、2~100個である。前述のように、MSSセンサMの数を増やすことにより、相対的に、新たな標的に対して応答するMSSセンサが存在する確率が向上する。このため、MSSセンサの数は、センサ基板21が許容する範囲で多いことが好ましい。
【0045】
電極22は、後述する測定装置1において、電圧を印加し、MSS膜25に対する応力変化をピエゾ抵抗素子26の抵抗値の変化を介して、測定するための接続部である。電極22の素材は、例えば、導電性の物質があげられ、具体例として、金、銅、アルミ等の金属があげられる。
【0046】
配線23は、電極22とピエゾ抵抗素子26とを電気的に接続する線である。配線23は、各電極22をピエゾ抵抗素子26と接続する。配線23の素材は、例えば、導電性の分子があげられ、具体例として、金、銅、アルミ等の金属があげられる。前述のように、本実施形態において、電極22および配線23は、ホイートストンブリッジ回路を形成している。
【0047】
支持領域24は、MSS膜25を支持する領域である。本実施形態において、支持領域24は、MSS膜25の側面を4点で支持し、支持領域24上にピエゾ抵抗素子26が形成されている。ただし、支持領域24は、MSS膜25を支持できればよく、その数は、特に制限されない。
【0048】
MSS膜25は、前述のように、結合分子27の結合によって変形し、その変形によって、ピエゾ抵抗素子26に応力を与えるものであればよく、特に制限されない。MSS膜25は、例えば、薄膜であり、その厚みおよび各表面の面積は、特に制限されず、例えば、市販のMSSに使用されているMSS膜と同様である。MSS膜25の平面形状は、例えば、円形であり、具体的には、例えば、正円である。MSS膜25の素材は、特に制限されず、例えば、シリコン膜であり、具体例として、n型 Si(100)があげられる。
【0049】
ピエゾ抵抗素子26は、MSS膜25の変形を検出可能な素子である、すなわち、MSS膜25に対する応力を検知可能な素子である。MSSセンサM(1,1)~(m,n)では、MSS膜25の変形を検出可能な素子として、ピエゾ抵抗素子26を用いているが、他のMSS膜25の変形を検出可能な素子を用いてもよい。本実施形態において、ピエゾ抵抗素子26は、4箇所の支持領域24の全てに形成されているが、これに限定されず、一部に形成されてもよい。
【0050】
本実施形態のアレイ2は、例えば、使用時において、センサ基板21に各MSS膜25が配置された形態であればよく、使用前は、センサ基板21とMSS膜25とが別個独立した形態でもよい。後者の場合、例えば、アレイ2は、例えば、センサ基板21とMSS膜25とを別個独立に含むキットということもできる。
【0051】
結合分子27は、所定の分子に結合可能である。MSSセンサM(1,1)~(m,n)には、それぞれ、異なる結合特性を示す結合分子27が固定化されているが、これに限定されず、一部の結合分子27は、同じ結合特性を有してもよい。本実施形態において、各MSS膜25には、1種類の結合分子27が固定化されているが、複数種類の結合分子27が固定されてもよい。複数種類の結合分子27が固定化されている場合、各結合分子27は、同じ所定の分子に結合可能であること、すなわち、同じ分子に結合可能であることが好ましい。結合分子27は、例えば、同一の用途または分類に属する分子に対する結合分子であることが好ましい。具体例として、ウイルス測定用のアレイの場合、アレイ2における各結合分子27は、ウイルスに発現する分子に結合可能な結合分子27を選択することが好ましい。
【0052】
MSSセンサM(1,1)~(m,n)において、例えば、領域毎に同一の分子に対して結合可能な結合分子27を配置してもよい。具体例として、MSSセンサM(1,1)~(m,n)の第1行((1,1)~(1,n))には、特定の分子Aに対して結合可能な結合分子27を配置し、第2行((2,1)~(2,n))には、特定の分子Bに対して結合可能な結合分子27を配置する。そして、同様にして、第M行((m,1)~(m,n))には、特定の分子Mに対して結合可能な結合分子27を配置する。また、MSSセンサMの第1行~第m行の各列には、所定の分子に対して異なる特異性または所定の分子における異なるエピトープを有する結合分子27を配置する。これにより、アレイ2は、結合特性が異なる結合分子27を増やせるため、相対的に、新たな標的に対して応答するMSSセンサが存在する確率が向上する。
【0053】
MSSセンサM(1,1)~(m,n)において、例えば、いずれか1つ以上のMSS膜25に、リファレンス(対照)の結合分子を配置してもよい。前記リファレンスの結合分子は、結合分子27と同じ種類(核酸、タンパク質等)の結合分子であり、特定の分子に結合性を示さない分子である。結合分子27が核酸分子の場合、前記リファレンスの結合分子は、例えば、ランダムな塩基配列から構成される核酸分子を使用できる。前記リファレンスの結合分子を配置することにより、アレイ2は、MSSセンサMでサンプル液を測定した際に、リファレンスの結合分子が配置されたMSSセンサMで測定されたシグナルとの差分を測定時のシグナルとできるため、バックグラウンド等のノイズの影響を除去できる。
【0054】
本実施形態のMSSセンサM(1,1)~(m,n)において、MSS膜25には、結合分子27が固定化されている。以下、結合分子27がアプタマーである場合を例にあげて、MSS膜25への結合分子27の固定化形態を説明する。ただし、結合分子27としては、前述のように、アプタマー以外の結合分子でもよく、また、アプタマー以外の結合分子の固定化形態は、アプタマーの説明を援用できる。
【0055】
前記アプタマーは、例えば、MSS膜25の一方の表面に固定化されてもよいし、両方の表面に固定化されてもよい。MSS膜25の両面に前記アプタマーが固定化される場合、一方の表面のアプタマーと他方の表面のアプタマーは、例えば、同じターゲットに結合する同じアプタマーであることが好ましい。以下の説明において、MSS膜25の表面とは、例えば、一方の表面でもよいし、両面でもよい。
【0056】
MSS膜25に対する前記アプタマーの固定化方法は、特に制限されず、MSS膜25に対して、前記アプタマーを直接的に固定化しても、間接的に固定化してもよい。前者の場合、例えば、MSS膜25と前記アプタマーとを化学的処理することによって、共有結合等により固定化することができる。前記直接的な固定方法は、例えば、フォトリソグラフィーを利用する方法があげられ、具体例として、米国特許5,424,186号明細書等を参照できる。また、他の直接的な固定方法は、例えば、MSS膜25上で前記センサを合成する方法があげられる。この方法は、例えば、いわゆるスポット法があげられ、具体例として、米国特許5,807,522号明細書等を参照できる。後者の場合、例えば、MSS膜25に対して、リンカーを介して前記アプタマーを固定化することができる。前記リンカーの種類は、何ら制限されず、例えば、ビオチンまたはビオチン誘導体(以下、ビオチン類という)と、アビジンまたはアビジン誘導体(以下、アビジン類という)との組み合わせ等があげられる。前記ビオチン誘導体は、例えば、ビオシチン等があり、前記アビジン誘導体は、例えば、ストレプトアビジン等がある。前記リンカーの長さは、例えば、MSS膜上の官能基(例えば、シリコン膜上のシラノール基の酸素原子)と、アビジン等のアフィニティータグまたはアプタマーまでの最短の分子鎖の長さ(主鎖長)で表すことができる。前記リンカーの主鎖長は、1~20であり、MSSの感度を向上できることから、好ましくは、1~15、1~13、3~13、5~13、1~11、3~11、1~10、3~10、1~8、3~8、1~5、1~3、1または2である。以下に、固定化方法を例示するが、本発明は、これらには制限されない。
【0057】
第1の例として、MSS膜25および前記アプタマーのいずれか一方に、前記ビオチン類を結合させ、他方に、前記アビジン類を結合させる。そして、前記ビオチン類と前記アビジン類とを結合させることによって、間接的に、MSS膜25に前記アプタマーを固定化できる。
【0058】
なお、第1の例では、アビジン類-ビオチン類間の特異的な結合、すなわち、アビジン類へのビオチン類のアフィニティーを利用して、アプタマーを間接的にMSS膜に固定したが、本発明はこれに限定されず、アビジン類-ビオチン類以外のアフィニティータグを利用してもよい。前記アフィニティータグとしては、例えば、Hisタグ(His×6タグ)-ニッケルイオン、グルタチオン-S-トランスフェラーゼ-グルタチオン、マルトース結合タンパク質-マルトース、エピトープタグ(mycタグ、FLAGタグ、HA(ヘマグルチニン)タグ)-抗体または抗原結合断片が利用できる。他のアフィニティータグを用いてもよい点は、後述の第2~4の例においても同様である。
【0059】
第2の例として、MSS膜25に対して、例えば、介在膜を介して、前記アプタマーを固定化してもよい。MSS膜25上に前記介在膜を形成し、前記第1の例と同様に、前記介在膜および前記アプタマーのいずれか一方に、前記ビオチン類を結合させ、他方に、前記アビジン類を結合させ、前記ビオチン類と前記アビジン類との結合により、前記介在膜を介して前記アプタマーをMSS膜25に固定化できる。前記介在膜は、例えば、金等の金属の膜であり、MSS膜25に対して前記金属を蒸着することにより形成できる。前記介在膜の厚みは、特に制限されず、例えば、10~100nmである。前記介在膜は、例えば、一層でも二層以上でもよい。前記介在膜の表面を金にする場合、前記介在膜は、例えば、二層とし、金膜の接着性を向上できる点から、MSS膜25に対して、接着用の金属膜(接着膜)を介して前記金膜を形成することが好ましい。前記接着膜の金属は、例えば、チタン、クロム等があげられる。前記接着膜の厚みは、例えば、0.1~10nmであり、前記金膜の厚みは、例えば、0.1~100nmである。前記介在膜に前記ビオチン類を結合する場合、例えば、前記介在膜の表面に、さらに、前記ビオチン類が結合したチオールアルカンを用いて、チオールアルカンの自己形成膜(SAM:self-assembled monolayers)を形成し、前記ビオチン類が結合したアプタマーを接触させ、前記ビオチン類と前記アビジン類との結合により、前記アプタマーを固定化してもよい。
【0060】
第3の例として、MSS膜25に対して、アミノ基を結合させ、さらにグルタルアルデヒドを結合させることによって、前記ストレプトアビジン類を結合させる方法があげられる。すなわち、MSS膜25に対して、アミノ基を有するシランカップリング剤を反応させ、MSS膜25上にアミノ基を結合させる。前記反応は、例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤を含む溶液をMSS膜25に塗布することにより実施できる。さらに、MSS膜25に対して、アミノ基とアミノ酸の主鎖もしくは側鎖とを結合可能な架橋剤、またはMSS膜25に対して、アミノ基とアミノ酸の主鎖もしくは側鎖との間にリンカーを形成可能な、グルタルアルデヒド等の架橋剤とを反応させ、MSS膜25上の前記アミノ基にグルタルアルデヒド等の架橋剤の一端を結合させる。具体的には、シランカップリング後のMSS膜について、膜表面を洗浄し、架橋剤を含む溶液をMSS膜25に塗布し、前記アミノ基と、前記架橋剤とを結合させる。前記架橋反応の条件は、例えば、架橋剤の種類に応じて適宜決定できる。つぎに、前記グルタルアルデヒド等の架橋剤の他端に前記アビジン類を結合させる。具体的には、架橋後のMSS膜について、膜表面を洗浄し、アビジン類を含む溶液を塗布し、架橋剤の他端と、アビジン類のアミノ酸の主鎖または側鎖とを結合させる。そして、このように処理したMSS膜25に、前記ビオチンを結合させたアプタマーを接触させ、前記ビオチン類と前記アビジン類との結合により、前記アプタマーを固定化できる。
【0061】
シランカップリング剤は、例えば、Y-Si(CH3)3-n(OR)nで表される。前記シランカップリング剤がアミノ基を有するシランカップリング剤の場合、n、R、およびYは、例えば、以下の例があげられる。前記「n」は、2または3である。Rは、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基;アセチル基、プロピル基等のアシル基;等があげられる。Yは、アミノ基を末端に有する反応性官能基である。
【0062】
前記アミノ基を有するシランカップリング剤は、例えば、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(例えば、KBM-602(信越シリコーン社製))、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン(例えば、KBM-603(信越シリコーン社製))、3-アミノプロピルトリメトキシシラン(例えば、KBM-903(信越シリコーン社製))、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(例えば、KBE-903(信越シリコーン社製))、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン(例えば、GENIOSIL(登録商標)GF 91(旭化成ワッカーシリコーン社製))、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルメチルジメトキシシラン(例えば、GENIOSIL(登録商標)GF 95(旭化成ワッカーシリコーン社製))等があげられる。
【0063】
前記架橋剤は、リンカーと結合するアミノ酸の主鎖または側鎖の官能基に応じて、適宜決定できる。前記官能基は、例えば、アミノ基(-NH2)、チオール基(-SH)、カルボキシル基(-COOH)等があげられる。前記アミノ基は、例えば、タンパク質もしくはペプチドのN末端またはリジンの側鎖が有する。前記チオール基は、例えば、システインの側鎖が有する。前記カルボキシル基は、例えば、タンパク質もしくはペプチドのC末端またはアスパラギン酸もしくはグルタミン酸の側鎖が有する。
【0064】
前記アミノ酸の主鎖または側鎖のアミノ基を利用する場合、前記架橋剤としては、例えば、グルタルアルデヒド等のアルデヒド基を両端に有する架橋剤;ビス(スルホスクシンイミジル)スベラート(BS3)、グルタル酸ジスクシンイミジル(DSG)、スベリン酸ジスクシンイミジル(DSS)、ジチオビス(プロピオン酸スクシンイミジル)、ジチオビス(プロピオン酸スルホスクシンイミジル)(DSP)、ジチオビス(プロピオン酸スクシンイミジル)(DTSP)、ジチオビス(プロピオン酸スルホスクシンイミジル)(DTSSP)、酒石酸ジスクシンイミジル(DST)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(ESG)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(Sulfo-ESG)、PEG化ビス(スルホスクシンイミジル)(BS(PEG)5、BS(PEG)9等)等のN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステル(N-ヒドロキシスクシンイミド反応基)を両端に有する架橋剤;アジポイミド酸ジメチル(DMA)、ピメルイミド酸ジメチル(DMP)、ピメルイミド酸ジメチル(DMS)等のイミドエステル反応基を両端に有する架橋剤;等があげられる。
【0065】
前記アミノ酸の側鎖のチオール基を利用する場合、前記架橋剤としては、例えば、N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スクシンイミド(EMCS)、N-(6-マレイミドカプロイルオキシ)スルホスクシンイミド(Sulfo-EMCS)、N-(8-マレイミドカプリルオキシ)スクシンイミド(HMCS)、N-(8-マレイミドカプリルオキシ)スルホスクシンイミド(Suflo-HMCS)、N-α-maleimidoacet-oxysuccinimide ester(AMAS)、N-β-maleimidopropyl-oxysuccinimide ester(BMPS)、N-γ-maleimidobutyryl-oxysuccinimide ester(GMBS)、N-γ-maleimidobutyryl-oxysulfosuccinimide ester(Sulfo-GMBS)、m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysuccinimide ester(MBS)、m-maleimidobenzoyl-N-hydroxysulfosuccinimide ester(Sulfo-MBS)、succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl) cyclohexane-1-carboxylate(SMCC)、sulfosuccinimidyl 4-(N-maleimidomethyl) cyclohexane-1-carboxylate(Sulfo-SMCC)、succinimidyl 4-(p-maleimidophenyl) butyrate(SMPB)、sulfosuccinimidyl 4-(N-maleimidophenyl) butyrate(Sulfo-SMPB)、Succinimidyl 6-((beta-maleimidopropionamido) hexanoate)(SMPH)、succinimidyl 4-(N-maleimidomethyl) cyclohexane-1-carboxy-(6-amidocaproate)(LC-SMCC)、N-κ-maleimidoundecanoyl-oxysulfosuccinimide ester(Sulfo-KMUS)等のマレイミド基とN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルとを分子の両端に有する架橋剤;succinimidyl iodoacetate(SIA)、succinimidyl 3-(bromoacetamido) propionate(SBAP)、succinimidyl (4-iodoacetyl) aminobenzoate(SIAB)、sulfosuccinimidyl (4-iodoacetyl) aminobenzoate(Sulfo-SIAB)等のN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルと、ハロアセチル反応基とを両端に有する架橋剤;succinimidyl 3-(2-pyridyldithio) propionate(SPDP)、succinimidyl 6-(3(2-pyridyldithio) propionamido) hexanoate(LC-SPDP)、succinimidyl 6-(3(2-pyridyldithio) propionamido) hexanoate(Sulfo-LC-SPDP)、4-succinimidyloxycarbonyl-alpha-methyl-α(2-pyridyldithio) toluene(SMPT)、2-Pyridyldithiol-tetraoxatetradecane-N-hydoxysuccinimide(PEG4-SPDP)、2-Pyridyldithiol-tetraoxaoctatriacontane-N-hydoxysuccinimide(PEG12-SPDP)等のN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルと、ピリジルジチオール反応基とを両端に有する架橋剤;等があげあられる。
【0066】
前記アミノ酸の主鎖または側鎖のカルボキシル基を利用する場合、前記架橋剤としては、例えば、Dicyclohexylcarbodiimide(DCC)、1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide(EDC)、N-hydroxysuccinimide(NHS)、N-hydroxysulfosuccinimide(Sulfo-NHS)、無水酢酸等があげられる。なお、DCC、EDC、NHS、Sulfo-NHS、無水酢酸は、例えば、アミノ基とカルボキシル基とを直接結合させるため、カルボキシル基とアミノ基との間に残存せず、架橋剤に由来するリンカー領域(基)は生じない。
【0067】
前記架橋剤は、リンカーの長さを略一定化または一定化できることから、自己縮合が実質的に生じない架橋剤が好ましい。前記リンカーの長さが一定とは、例えば、複数のアプタマーのリンカーにおいて、各アプタマーのリンカーの長さが略同一または同一であることを意味する。前記リンカーの長さは、例えば、リンカーの構造を略同一または同一とすることにより、略同一または同一にすることができる。第3の例では、このような架橋剤を用いることにより、MSSの感度を向上できる。前記感度の向上は、以下の理由によると推定される。なお、本発明は、以下の推定に何ら制限されない。アプタマーにターゲットが結合すると、ターゲットと結合したアプタマーの周囲には、前記ターゲットに起因する立体的障害が生じる。前記アプタマーがMSS膜25に対して異なる距離で固定化されている場合、前記ターゲットは、MSS膜25から遠位端側に存在するアプタマーと接触する可能性が高い。このため、前記ターゲットは、MSS膜25から遠位端側のアプタマーと優先的に結合すると推定される。この場合、前記ターゲットが結合したアプタマーの周囲に前記ターゲットに起因する立体的障害が生じても、他のアプタマーは、前記ターゲットが結合したアプタマーと比較して、MSS膜25側に存在するものが多いため、前記ターゲットに起因する立体的障害を受けづらい。このため、前記ターゲットがアプタマーに結合しても、周囲に存在するアプタマーが、立体的障害による影響を受けて、位置が動く可能性が低い。したがって、前記アプタマーがMSS膜25に対して異なる距離で固定化されている場合、MSS膜25上では、前記周囲のアプタマーの位置の移動に起因して、MSS膜の歪みが生じる可能性も相対的に低い。すなわち、アプタマーの結合に起因して、周囲のアプタマーが動き、MSS膜の歪みが増幅される可能性が低い。他方、前記アプタマーがMSS膜25に対して略同一の距離で固定化されている場合、アプタマーにターゲットが結合すると、周囲のアプタマーは、前記ターゲットに起因する立体的障害の影響を受ける。このため、周囲のアプタマーの位置が動く可能性が高く、周囲のアプタマーの位置の移動に起因して、MSS膜の歪みが生じる可能性も相対的に高い。すなわち、前記アプタマーがMSS膜25に対して略同一の距離で固定化されている場合、MSS膜25上では、1つのアプタマーとターゲットとの結合により、周囲のアプタマーの位置の移動も生じるため、MSS膜25の歪みが増幅されることになる。したがって、前記アプタマーがMSS膜25に対して略同一の距離で固定化されている場合、すなわち、前記リンカーの長さが略一定化されている場合、MSS膜25は、感度が向上すると推定される。
【0068】
前記自己縮合が実質的に生じない架橋剤の具体例としては、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルを両端に有する架橋剤、イミドエステル反応基を両端に有する架橋剤、マレイミド基とN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルを分子の両端に有する架橋剤、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルと、ハロアセチル反応基とを両端に有する架橋剤、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルと、ピリジルジチオール反応基とを両端に有する架橋剤、DCC、EDC、NHS、Sulfo-NHS、無水酢酸等があげられる。
【0069】
前記リンカーは、例えば、下記式(1)で表される。下記式(1)において、M1は、MSS膜上のシランカップリング剤と結合している原子を表し、L1は、シランカップリング剤由来の領域(基)を表し、L2は、架橋剤由来の領域(基)を表し、L2は、あってもなくてもよく、M2は、アフィニティータグにおける架橋剤またはNHと結合している原子を表す。また、NHは、アミノ基を有するシランカップリング剤のアミノ基由来のアミンを表す。
M1-L1-NH-L2-M2・・・(1)
【0070】
L1は、例えば、(M1)-Si(CH3)2-m(OR4)m-R1-(NH)または(M1)-Si(CH3)2-m(OR4)m-R2-NH-R3-(NH)で表される。R1は、炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。R2およびR3は、例えば、それぞれ独立して、炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基であり、同じでもよいし、異なってもよい。前記アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等があげられる。R4は、例えば、水素原子または結合手である。mは、1または2である。
【0071】
前記シランカップリング剤として、3-アミノプロピルトリエトキシシランを用いた場合、L1は、例えば、(M1)-Si(OR4)2-(CH2)3-(NH)で表される。R4は、例えば、水素原子または結合手である。また、前記架橋剤として、グルタルアルデヒドを用いた場合、L2は、例えば、(NH)=CH-C3H6-CH=(CH(CHO)-C2H4-CH)n=CH(CHO)-C2H4-C=(M2)で表される。
【0072】
前記リンカーの長さは、例えば、MSS膜上の官能基(例えば、シリコン膜上のシラノール基の酸素原子)と、アビジン等のアフィニティータグまたはアプタマーまでの最短の分子鎖の長さ(主鎖長)で表すことができる。前記リンカーの主鎖長は、1~20であり、MSSの感度を向上できることから、好ましくは、1~15、1~13、3~13、5~13、1~11、3~11、1~10、3~10、1~8、3~8、1~5、1~3、1または2である。
【0073】
なお、第3の例では、アビジン類-ビオチン類の結合を利用しているが、第3の例は、これに限定されず、前記アプタマーの水酸基またはリン酸基に、リンカーを直接結合させてもよい。この場合、アプタマーは、3’末端のリン酸基をアミダイド化し、前記リンカーと反応させることにより、MSS膜25に固定化できる。
【0074】
第4の例として、MSS膜25に対して、メタクリル基(-C(=O)-C(CH3)=CH2)を結合させ、さらにアミノ酸またはその誘導体(以下、「アミノ酸誘導体」という)を介して、前記ストレプトアビジン類を結合させる方法があげられる。すなわち、MSS膜25に対して、メタクリル基を有するシランカップリング剤を反応させ、MSS膜25上にアミノ基を結合させる。前記反応は、例えば、メタクリル基を有するシランカップリング剤を含む溶液をMSS膜25に塗布することにより実施できる。さらに、MSS膜25に対して、N-アセチルシステイン等のアミノ酸誘導体を反応させた後、前記アミノ酸誘導体の主鎖または側鎖と、アビジン類のアミノ酸の主鎖または側鎖の間にリンカーを形成可能な架橋剤とを反応させ、MSS膜25上の前記アミノ酸誘導体に架橋剤の一端を結合させる。具体的には、アミノ酸誘導体処理後のMSS膜について、膜表面を洗浄し、架橋剤を含む溶液をMSS膜25に塗布し、前記アミノ酸誘導体と、前記架橋剤とを結合させる。前記架橋反応の条件は、例えば、架橋剤の種類に応じて適宜決定できる。つぎに、前記架橋剤の他端に前記アビジン類を結合させる。具体的には、架橋後のMSS膜について、膜表面を洗浄し、アビジン類を含む溶液を塗布し、架橋剤の他端と、アビジン類のアミノ酸の主鎖または側鎖とを結合させる。そして、このように処理したMSS膜25に、前記ビオチンを結合させたアプタマーを接触させ、前記ビオチン類と前記アビジン類との結合により、前記アプタマーを固定化できる。なお、第4の例では、アビジン類-ビオチン類の結合を利用しているが、第4の例は、これに限定されず、前記アプタマーの水酸基またはリン酸基に、リンカーを直接結合させてもよい。
【0075】
前述のように、前記シランカップリング剤は、例えば、Y-Si(CH3)3-n(OR)nで表される。前記シランカップリング剤がメタクリル基を有するシランカップリング剤の場合、n、R、およびYは、例えば、以下の例があげられる。前記「n」は、2または3である。Rは、例えば、メチル基、エチル基等のアルキル基;アセチル基、プロピル基等のアシル基;等があげられる。Yは、メタクリル基を末端に有する反応性官能基である。
【0076】
前記メタクリル基を有するシランカップリング剤は、例えば、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルメチルジメトキシシラン(例えば、KBM-502(信越シリコーン社製))、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシラン(例えば、KBM-503(信越シリコーン社製)、GENIOSIL(登録商標)GF31(旭化成ワッカーシリコーン社製))、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルメチルジメトキシシラン(例えば、KBE-502(信越シリコーン社製))、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン(例えば、KBE-503(信越シリコーン社製))等があげられる。
【0077】
前記アミノ酸またはアミノ酸誘導体は、例えば、メタクリル基と反応可能な官能基と、カルボキシル基とを有する。前記メタクリル基と反応可能な官能基は、例えば、チオール基(-SH)等があげられる。前記チオール基を有するアミノ酸またはアミノ酸誘導体は、例えば、システイン;N-アセチルシステイン等のアミノ基が修飾されたシステイン;等があげられる。
【0078】
前記架橋剤は、例えば、架橋に供するアミノ酸誘導体の官能基と、架橋に供するアビジン類のアミノ酸の官能基とに応じて、適宜決定できる。具体例として、2つの官能基がアミノ基の場合、前記架橋剤は、前記第3の例における前記アミノ酸の主鎖または側鎖のアミノ基を利用する場合の架橋剤の説明を援用できる。また、2つの官能基の一方がアミノ基であり、他方がチオール基である場合、前記架橋剤は、前記第3の例における前記アミノ酸の側鎖のチオール基を利用する場合の架橋剤の説明を援用できる。さらに、2つの官能基の一方がアミノ基であり、他方がカルボキシル基である場合、前記架橋剤は、前記第3の例における前記アミノ酸の主鎖または側鎖のカルボキシル基を利用する場合の架橋剤の説明を援用できる。
【0079】
前記架橋剤は、リンカーの長さを一定化できることから、自己縮合が実質的に生じない架橋剤が好ましい。第4の例では、このような架橋剤を用いることにより、前述の第3の例で説明するメカニズムと同様のメカニズムにより、MSSの感度を向上できる。自己縮合が実質的に生じない架橋剤の具体例としては、例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルを両端に有する架橋剤、イミドエステル反応基を両端に有する架橋剤、マレイミド基とN-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルを分子の両端に有する架橋剤、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルと、ハロアセチル反応基とを両端に有する架橋剤、N-ヒドロキシスクシンイミド活性エステルと、ピリジルジチオール反応基とを両端に有する架橋剤、DCC、EDC、NHS、Sulfo-NHS、無水酢酸等があげられる。
【0080】
前記リンカーは、例えば、下記式(2)で表される。下記式(2)において、M1は、MSS膜上のシランカップリング剤と結合している原子を表し、L1は、シランカップリング剤由来の領域(基)を表し、Aは、アミノ酸誘導体を表し、L2は、架橋剤由来の領域(基)を表し、L2は、あってもなくてもよく、M2は、アフィニティータグにおける架橋剤またはNHと結合している原子を表す。
M1-L1-A-L2-M2・・・(2)
【0081】
L1は、例えば、(M1)-Si(CH3)2-m(OR4)m-R5-C(=O)-CHl(CH3)2-l-(A)で表される。R4は、例えば、水素原子または結合手である。R5は、炭素原子数1~5の直鎖もしくは分枝状のアルキル基である。前記アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等があげられる。mは、1または2である。lは、0または1である。
【0082】
前記シランカップリング剤として、3-(メタクリロイルオキシ)プロピルトリメトキシシランを用いた場合、L1は、例えば、(M1)-Si(OR4)2-(CH2)3-O-C(=O)-C(CH3)2-(A)で表される。R4は、例えば、水素原子または結合手である。また、前記アミノ酸誘導体として、N-アセチルシステインを用いた場合、Aは、例えば、(L1)-S-CH2-CH(NH-COCH3)-C(=O)-(M2)で表される。前記架橋剤として、無水酢酸を用いた場合、L2は、例えば、存在しない。
【0083】
前記リンカーの長さは、例えば、MSS膜上の官能基(例えば、シリコン膜上のシラノール基)と、アビジン等のアフィニティータグまでの最短の分子鎖の長さ(主鎖長)で表すことができる。前記リンカーの主鎖長は、1~20であり、MSSの感度を向上できることから、好ましくは、1~15、1~13、1~11、1~10、1~8、1~5、1~3、1または2である。
【0084】
なお、第4の例では、アビジン類-ビオチン類の結合を利用しているが、第4の例は、これに限定されず、前記アプタマーの水酸基またはリン酸基に、リンカーを直接結合させてもよい。この場合、アプタマーは、3’末端のリン酸基をアミダイド化し、前記リンカーと反応させることにより、MSS膜25に固定化できる。
【0085】
MSS膜25に対する前記アプタマーの固定化部位は、特に制限されず、例えば、3’末端または5’末端があげられる。
【0086】
アレイ2には、測定装置1が読み取り可能なように、アレイ2の識別子が付与されていることが好ましい。前記識別子は、例えば、アレイ2の製造番号、シリアル番号、アレイの分析対象または用途に応じて付与される番号等があげられる。
【0087】
(測定装置の構成)
装着部11は、アレイ2を着脱可能に構成されていればよい。測定装置1では、アレイ2を装着部11に装着することにより、電圧印加部12が各電極22を介して電圧を印加可能となり、これにより、各ピエゾ抵抗素子26における抵抗値の変化に伴う電気シグナルを測定できる。装着部11は、アレイ2の形状に応じて、適宜設定でき、具体的には、アレイ2と嵌合する形状に設計できる。
【0088】
電圧印加部12は、アレイ2に、具体的には、アレイ2の各電極22に電圧を印加可能である。電圧印加部12は、例えば、電圧発生器または電圧および電流発生器等の電源を使用できる。電圧印加部12は、装着部11にアレイ2が嵌合した際に、装着部11のアレイ2との接触面側に、電圧印加部12の端子がアレイ2の各電極22と接触可能なように構成されている。
【0089】
測定部13は、アレイ2における各MSS膜25のピエゾ抵抗素子26の応力変化を測定可能であり、具体的には、ピエゾ抵抗素子26の応力変化に伴う抵抗値の変化を、電子シグナルとして測定することができる。測定部13としては、例えば、抵抗計等を使用できる。測定部13は、アレイ2の各電極22と電気的に接続されている。
【0090】
測定装置1としては、例えば、市販の計測モジュール(例えば、MSS-8RM、NANOSENSOR社)等の構成を参照できる。
【0091】
(学習装置の構成)
図4に、学習装置3のハードウェア構成を示すブロック図を例示する。学習装置3は、例えば、CPU(中央処理装置)301、メモリ302、バス303、記憶装置304、入力装置306、ディスプレイ307、および通信デバイス308等を有する。学習装置3の各部は、それぞれのインタフェース(I/F)により、バス303を介して接続されている。
【0092】
CPU301は、例えば、コントローラ(システムコントローラ、I/Oコントローラ等)等により、他の構成と連携動作し、学習装置3の全体の制御を担う。学習装置3において、CPU301により、例えば、本発明のプログラム305やその他のプログラムが実行され、また、各種情報の読み込みや書き込みが行われる。具体的には、例えば、CPU301が、取得部31、学習部32、および格納部33として機能する。学習装置3は、演算装置として、CPUを備えるが、GPU(Graphics Processing Unit)、APU(Accelerated Processing Unit)等の他の演算装置を備えてもよいし、CPUとこれらとの組合せを備えてもよい。なお、CPU301は、例えば、学習装置3における記憶部以外の各部として機能する。
【0093】
メモリ302は、例えば、メインメモリを含む。前記メインメモリは、主記憶装置ともいう。CPU301が処理を行う際には、例えば、後述する記憶装置304(補助記憶装置)に記憶されている本発明のプログラム305等の種々の動作プログラムを、メモリ302が読み込む。そして、CPU301は、メモリ302からデータを読み出し、解読し、前記プログラムを実行する。前記メインメモリは、例えば、RAM(ランダムアクセスメモリ)である。メモリ302は、例えば、さらに、ROM(読み出し専用メモリ)を含む。
【0094】
バス303は、例えば、測定装置1、標的予測モデルDB4、分析装置5等の外部機器とも接続できる。前記外部機器は、例えば、外部記憶装置(外部データベース等)、プリンター等があげられる。学習装置3は、例えば、バス303に接続された通信デバイス308により、通信回線網6に接続でき、通信回線網6を介して、前記外部機器と接続することもできる。また、学習装置3は、通信デバイス308および通信回線網6を介して、測定装置1および標的予測モデルDB4にも接続できる。
【0095】
記憶装置304は、例えば、前記メインメモリ(主記憶装置)に対して、いわゆる補助記憶装置ともいう。前述のように、記憶装置304には、本発明のプログラム305を含む動作プログラムが格納されている。記憶装置304は、例えば、記憶媒体と、前記記憶媒体に読み書きするドライブとを含む。前記記憶媒体は、特に制限されず、例えば、内蔵型でも外付け型でもよく、HD(ハードディスク)、FD(フロッピー(登録商標)ディスク)、CD-ROM、CD-R、CD-RW、MO、DVD、フラッシュメモリー、メモリーカード等があげられ、前記ドライブは、特に制限されない。記憶装置304は、例えば、前記記憶媒体と前記ドライブとが一体化されたハードディスクドライブ(HDD)またはソリッドステートドライブ(SSD)であってもよい。
【0096】
学習装置3は、例えば、さらに、入力装置306、ディスプレイ307を有する。入力装置306は、例えば、タッチパネル、トラックパッド、マウス等のポインティングデバイス;キーボード;カメラ、スキャナ等の撮像手段;ICカードリーダ、磁気カードリーダ等のカードリーダ;マイク等の音声入力手段;等があげられる。ディスプレイ307は、例えば、LEDディスプレイ、液晶ディスプレイ等の表示装置があげられる。本実施形態において、入力装置306とディスプレイ307とは、別個に構成されているが、入力装置306とディスプレイ307とは、タッチパネルディスプレイのように、一体として構成されてもよい。
【0097】
(標的予測モデルDBの構成)
本実施形態において、標的予測モデルDB4は、後述のように、MSSセンサM(1,1)~(m,n)から得られた電気シグナルから、標的を予測可能な学習済モデル(標的予測モデル)が複数格納されたデータベースサーバである。標的予測モデルDB4のハードウェア構成は、学習装置3のハードウェア構成の説明を援用できる。標的予測モデルDB4に格納されている学習済モデルの数は、1つまたは複数であり、好ましくは、後者である。標的予測モデルDB4に格納されている学習済モデルの数を増加させることにより、本実施形態の測定システム100は、例えば、分析装置5において、標的を好適に分析できる。なお、本発明において、前記標的予測モデルは、例えば、学習装置3の記憶装置304または分析装置5の記憶装置504に格納されてもよい。
【0098】
(分析装置の構成)
図5に、分析装置5のハードウェア構成を示すブロック図を例示する。分析装置5は、例えば、CPU(中央処理装置)501、メモリ502、バス503、記憶装置504、入力装置506、ディスプレイ507、および通信デバイス508等を有する。分析装置5の各部は、それぞれのインタフェース(I/F)により、バス503を介して接続されている。
【0099】
分析装置5のハードウェア構成は、CPU501が、データ取得部51、モデル選択部52、分析部53および出力部54として機能する点を除き、学習装置3のハードウェア構成の説明を援用できる。
【0100】
(学習方法)
つぎに、本実施形態の測定装置1、アレイ2、および学習装置3を用いた予測モデルの生成処理の一例について、
図6のフローチャートに基づき、説明する。
【0101】
まず、
図6に示すように、測定装置1において、アレイ2を用いて、結合分子27が結合可能な既知の標的を測定した際の応力変化の測定値を取得する。前記既知の標的は、アレイ2に固定化された結合分子27に対する所定の分子ということもできる。具体的には、測定装置1の装着部11に、アレイ2を装着する(S11)。これにより、測定装置1は、電圧印加部12を介したアレイ2への電圧印加および測定部13によるピエゾ抵抗素子26の応力変化が測定可能となる。
【0102】
具体的には、測定装置1に装着されたアレイ2に対して、サンプル液とアレイ2とを接触させる(S12、接触工程)。より具体的には、S12では、前記サンプル液を、アレイ2の各MSS膜25およびピエゾ抵抗素子26を含む支持領域24に接触させる。前記サンプル液は、既知の標的を含む溶媒である。前記溶媒は、特に制限されず、例えば、PBS、Tris-HCl等の緩衝液、水等の水性溶媒があげられる。アレイ2への前記サンプル液の接触は、例えば、測定装置1が、サンプル供給部等を有し、前記サンプル供給部を用いてサンプル液を供給することにより実施してもよいし、測定装置1のユーザが導入することにより実施してもよい。前記サンプル液への前記アレイ2の接触条件は、特に制限されず、例えば、温度20~35℃で0.1~120分、温度50~60℃で0.1~120分等が例示できる。なお、S12工程に先立ち、バッファー等の溶媒をアレイ2と接触させてもよい。
【0103】
つぎに、測定装置1は、電圧印加部12により、液相中でアレイ2に電圧を印加する(S13、印加工程)。前記電圧の印加条件は、特に制限されず、例えば、市販のMSSと同様の条件が例示できる。前記液相は、例えば、前記接触工程におけるサンプル液でもよいし、他の溶媒でもよい。後者の場合、前記接触工程後のアレイ2を、前記サンプル液から取出し、新たな溶媒に浸漬させて、電圧を印加すればよい。前記サンプル液への接触工程後、前記サンプル液中の結合分子27に結合しなかった所定の物質を除去するために、アレイ2を洗浄した場合等、このように新たな溶媒に前記MSSを浸漬させて、電圧を印加することが好ましい。前記溶媒は、特に制限されず、例えば、PBS(phosphate-buffered saline)、Tris(tris(hydroxymethyl)aminomethane)-HCl等の緩衝液、水等の水性溶媒があげられる。なお、本実施形態において、S12工程の実施後に、S13工程を実施しているが、これに限定されず、S13工程は、S12工程に先立ち実施してもよいし、S12工程と並行して実施してもよい。
【0104】
つぎに、測定装置1は、測定部13により、アレイ2におけるピエゾ抵抗素子26の応力変化の測定により、前記サンプル液中の既知の標的を測定する(S14、測定工程)。前記応力変化の測定は、例えば、測定部13により、ピエゾ抵抗素子26の応力変化により生じる電気シグナルの変化を測定することにより実施できる。測定部13による測定は、例えば、経時的な測定であり、連続的に測定してもよいし、非連続的に測定してもよい。そして、測定部13は、各ピエゾ抵抗素子26が応力変化を受けるMSS膜25の識別子、すなわち、MSSセンサM(1,1)~(m,n)の識別子および前記標的の情報を、対応する測定値に紐付け、測定結果を生成または測定データを生成する。さらに、アレイ2が識別子を有している場合、測定部13は、MSS膜25の識別子と測定値とが紐付けられた測定結果に対して、アレイ2の識別子を紐付けたものを測定データとして生成してもよい。また、測定部13は、前記測定結果または測定データにアレイ2とサンプル液との接触開始時の情報を紐付けてもよい。そして、測定装置1は、学習装置3に、前記測定データを送信する。なお、測定装置1は、前記測定データを学習装置3に送信したが、測定装置1は、例えば、測定装置1の記憶装置に前記測定データを格納してもよいし、外部データベースに、前記測定データを送信することにより、前記測定データを格納してもよい。
【0105】
つぎに、
図6に示すように、学習装置3は、アレイ2を用いて測定した、既知の標的を測定した際の応力変化の測定値と、前記標的の情報とから、前記標的を予測する学習済モデル(標的予測モデル)を生成する、すなわち、アレイ2を用いて測定した応力変化の測定値のパターンと、前記標的の情報とから、標的予測モデルを生成する。
【0106】
具体的には、学習装置3の取得部31により、前記測定データを取得する(S31、取得工程)。取得部31により取得する測定データの数は、1以上であり、複数であることが好ましい。本実施形態において、取得部31は、測定装置1が送信した測定データを取得しているが、これに限定されず、例えば、外部データベースに格納された測定データを取得してもよい。また、本実施形態において、取得部31は、アレイ2を用いて測定した測定データを取得したが、アレイ2のMSSセンサM(1,1)~(m,n)のうちいずれか1つまたは複数を、それぞれ別個に(独立した)センサとして構成し、これらを用いて測定した測定結果の組合せを前記測定データとして取得してもよい。すなわち、取得部31は、アレイ2で取得した測定データと同様のデータ構成を有する測定データを取得できればよい。
【0107】
つぎに、学習装置3の学習部32により、前記測定結果と、前記標的との組を教師データとして機械学習し、標的予測モデルを生成する。前記機械学習に供する教師データの数は、特に制限されず、任意の数とできるが、多い方が好ましい。前記機械学習は、例えば、ニューラルネットワークを用いた機械学習が好ましい。前記ニューラルネットワークを用いた機械学習としては、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(CNN);U-Net、HED等の全層畳み込みネットワーク(FCN);敵対的生成ネットワーク(Generative Adversarial Networks :GAN);等があげられる。前記機械学習では、例えば、識別器の重み、フィルター係数、オフセット等を算出しているため、前記機械学習としては、ロジスティック回帰処理を利用してもよい。本実施形態においては、結合分子27が結合可能な既知の標的を用いた測定データを正例の教師データとして用い、標的予測モデルを生成しているが、学習部32は、例えば、結合分子27が結合しないと考えられている標的を用いた測定データを負例の教師データとして用い、標的予測モデルを生成してもよい。
【0108】
また、本実施形態において、学習部32は、新規に標的予測モデルを生成しているが、前記標的を予測可能な標的予測モデルが標的予測モデルDB4に格納されている場合、前記標的予測モデルおよび取得部31が取得した測定データを用いて、再学習を実施してもよい。この場合、取得部31は、標的予測モデルDB4から標的予測モデルを取得する。また、学習部32は、得られた標的予測モデルについて、蒸留等により、標的予測モデルのモデル圧縮を実施してもよい。
【0109】
そして、学習装置3の格納部33により、得られた標的予測モデルは、標的予測モデルDB4に格納される(S33、格納工程)。格納部33は、得られた標的予測モデルに、前記標的および/または前記標的の属する分類を紐付けて、格納してもよい。これにより、分析装置5が標的予測モデルを選択する際に、紐付けられた標的および/または標的を含む分類に基づき、適切な標的予測モデルを選択できる。具体例として、前記既知の標的がA型のH1N1インフルエンザ由来のヘマグルチニンの場合、紐付ける標的は、例えば、ヘマグルチニンであり、紐付ける標的の分類は、例えば、H1N1インフルエンザウイルス、A型インフルエンザウイルス属等があげられる。なお、本実施形態において、格納部33は、得られた標的予測モデルを標的予測モデルDB4に格納したが、これに限定されず、格納部33は、記憶装置304または分析装置5の記憶装置504に格納してもよい。
【0110】
本実施形態の学習方法は、同様の処理を異なる既知の標的を含むサンプル液を用いて、繰り返し実施することにより、様々な標的に対する標的予測モデルを格納でき、これにより、様々な用途の標的予測モデルDB4(例えば、ウイルス予測モデルデータベース、細菌予測モデルデータベース)を構築できる。
【0111】
そして、学習装置3の処理を終了する。
【0112】
本実施形態において、学習装置3は、格納部33を有し、格納部33により得られた標的予測モデルを格納したが、本発明において、これらの構成は任意の構成であり、あっても無くてもよい。
【0113】
また、本実施形態において、得られた標的予測モデルの精度は、検証していないが、標的を含むサンプル液とアレイ2とを用いて測定された測定データを使用し、精度を評価してもよい。
【0114】
(分析方法)
つぎに、本実施形態の測定装置1、アレイ2、および分析装置5を用いたサンプル液の分析処理の一例について、
図7のフローチャートに基づき、説明する。
【0115】
まず、
図7に示すように、測定装置1において、アレイ2を用いて、サンプル液を測定した際の応力変化の測定値を取得する。具体的には、サンプル液として、既知の標的を含むサンプル液に代えて、前記標的を含むサンプル液、前記標的を含まないサンプル液、または前記標的を含むか否かが不明なサンプル液を用いる以外は、前述のS11~S14と同様にして、測定データを取得する。前記サンプル液は、例えば、前述のように、生体試料、環境由来試料、食品試料等から調製したサンプル液があげられる。前記測定データには、例えば、分析対象の標的情報が紐付けられてもよい。前記分析対象の標的情報は、例えば、測定装置1のユーザにより指定される。前記分析対象の標的情報は、例えば、標的および/または標的の属する分類に関する情報である。
【0116】
つぎに、
図7に示すように、分析装置5は、アレイ2を用いて測定した前記サンプル液を測定した際の応力変化の測定値と、前記標的予測モデルから、前記サンプル液中の標的を予測する、すなわち、アレイ2を用いて測定した前記サンプル液を測定した際の応力変化の測定値のパターンと、前記標的予測モデルから、前記サンプル液中の標的を予測する。
【0117】
具体的には、分析装置5のデータ取得部51により、前記測定データを取得する(S51、データ取得工程)。S51は、S31と同様にして実施できる。
【0118】
つぎに、分析装置5のモデル選択部52により、取得した測定データに、前記標的予測モデルを指定する情報が紐付けられているかを判定する。前記標的予測モデルを指定する情報は、例えば、測定装置1で測定したアレイ2の識別子、前記分析対象の標的情報等があげられる。Noの場合、すなわち、前記標的予測モデルを指定する情報が紐付けられていない場合、モデル選択部52は、前記標的予測モデルの選択を実施しない。他方、Yesの場合、すなわち、前記標的予測モデルを指定する情報が紐付けられている場合、モデル選択部52は、前記標的予測モデルの選択を実施する(S52、モデル選択工程)。具体的には、前記測定データに、アレイ2の識別子が紐付けられている場合、モデル選択部52は、アレイ2の標的のデータを取得する。そして、モデル選択部52は、前記標的のデータと、標的予測モデルDB4に格納された各標的予測モデルに紐付けられた標的および/または標的の属する分類とを照合(突合)し、対応する標的および/または標的の属する分類とが紐付けられている標的予測モデルを、分析に用いる標的予測モデルとして選択する。また、前記分析対象の標的情報が紐付けられている場合、モデル選択部52は、アレイ2の識別子が紐付けられている場合と同様にして、標的予測モデルを選択する。なお、前記照合処理は、標的予測モデルDB4が実施してもよい。
【0119】
つぎに、分析装置5の分析部53により、前記標的予測モデルと、前記測定結果とから、前記サンプル液中の標的を分析する(S53、分析工程)。前記分析は、前記標的予測モデルに前記測定結果を適用することにより出力される。
【0120】
そして、分析装置5の出力部54により、分析された標的の情報が出力される(S54、出力工程)。出力部53は、例えば、測定装置1に対して分析結果、すなわち、前記標的の情報を出力してもよいし、測定装置1のユーザにより指定された端末等に対して前記標的の情報を出力してもよい。
【0121】
そして、分析装置5の処理を終了する。
【0122】
本実施形態において、分析装置5は、モデル選択部52を有し、モデル選択部52により選択された標的予測モデルを用いて、分析部53で分析を実施したが、本発明において、モデル選択部52は任意の構成であり、あっても無くてもよい。分析装置5がモデル選択部52を備えない場合、分析部53は、例えば、標的予測モデルDB4に格納されている各標的予測モデルを用いて標的を分析する。
【0123】
また、本実施形態において、分析装置5は、出力部54を有し、出力部54により、前記分析結果を出力するが、出力部54は、任意の構成であり、あってもなくてもよい。
【0124】
また、本実施形態では、分析部53では、前記標的予測モデルを用いて、標的を予測したが、前記標的予測モデルを用いなくてもよい。この場合、前述のように、アレイ2の測定結果におけるシグナルのパターン(例えば、シグナル比)により、前記標的を予測できることから、分析部53は、各MSS膜25のピエゾ抵抗素子26の応力変化の測定結果から、具体的には、前記測定結果におけるシグナルのパターンから、前記サンプル液中の標的を分析する。この場合、前記標的毎に、各MSS膜25で得られるシグナル値に関する基準値または基準となる数値範囲を設け、分析部53は、例えば、各MSS膜25のピエゾ抵抗素子26の応力変化の測定結果が、前記基準値または基準となる数値範囲を充足するかに基づき、分析する。
【0125】
さらに、本実施形態では、測定と分析とを別個の装置で実施していたが、1つの装置で実施してもよい。この場合、測定装置1が、分析装置5の構成を備える。
【0126】
本実施形態の測定システム100は、アレイ2のMSS膜25において、複数種類の結合分子27が固定化されている。このため、サンプル液を測定した際に、各MSS膜25のピエゾ抵抗素子26を介して、応力変化に起因するシグナルを複数取得できる。したがって、本実施形態の測定システム100によれば、アレイ2で得られたシグナルパターンを用いることで、前記標的に特異的な結合分子が存在しない場合も、前記標的を測定しうる。
【0127】
[実施形態2]
本実施形態は、本発明のアレイ、ならびに前記アレイを用いる測定装置の他の例である。
図8は、本実施形態の測定装置1Aおよびアレイ2Aの構成を示す模式図である。
図8に示すように、本実施形態の測定装置1Aは、実施形態1の測定装置1の構成に加えて、サンプル調製部14、サンプル液送液部15、および廃液処理部16を備える。サンプル調製部14は、サンプル収集部14a、送液部14b、洗浄液タンク14c、および水性溶媒タンク14dを備える。サンプル液送液部15は、送液ポンプ15a、導入チューブ15b、および送液チューブ15cを備える。廃液処理部16は、廃液タンク16aおよび廃液チューブ16bを備える。この点を除き、本実施形態の測定装置1Aは、実施形態の測定装置1と同様であり、その説明を援用できる。つぎに、本実施形態のアレイ2Aは、実施形態1のアレイ2の構成に加えて、サンプル導入部28およびサンプル排出部29を備える。サンプル導入部28は、導入口28aおよび導入路28bを備える。サンプル排出部29は、排出路29aおよび排出口29bを備える。この点を除き、本実施形態のアレイ2Aは、実施形態の測定装置2と同様であり、その説明を援用できる。本実施形態のアレイ2Aは、例えば、マイクロ流体デバイスということもできる。
【0128】
サンプル調製部14は、アレイ2Aで測定するサンプルを調製する。サンプル調製部14は、サンプル液を調製可能であればよく、公知のサンプル調製装置を採用できる。
【0129】
サンプル収集部14aは、環境中の試料を収集する部材であり、例えば、環境中のエアロゾルを収集するサイクロンサンプラー等が使用できる。
【0130】
送液部14b、洗浄液タンク14c、および水性溶媒タンク14dは、サンプル収集部14aで収集されたエアロゾル等のサンプルを、サンプル液に変換する。送液部14bは、例えば、チューブポンプ等の液体を移送可能なポンプを採用できる。洗浄液タンク14cは、サンプル収集部14aで収集されたサンプルを分散および回収する洗浄液を貯蔵している。前記洗浄液は、例えば、サンプル収集部14aが収集するサンプルの種類に応じて適宜設定でき、具体例として、界面活性剤を含む水性溶媒等があげられる。水性溶媒タンク14dは、サンプル収集部14aから分散し回収する水性溶媒を貯蔵している。
【0131】
サンプル液送液部15は、サンプル調製部14で調製されたサンプル液を、アレイ2Aに送液する。サンプル液送液部15は、液体を移送可能な公知の構成を採用できる。送液ポンプ15aは、チューブポンプ等の液体を移送可能なポンプを採用できる。導入チューブ15bは、サンプル収集部14aと送液ポンプ15aとを接続している。送液チューブ15cは、送液ポンプ15aと、アレイ2Aの導入口28aとを接続している。
【0132】
廃液処理部16は、アレイ2Aにより測定されたサンプル液を廃液処理可能に構成されている。廃液タンク16aは、アレイ2Aにより測定されたサンプル液を廃液として貯蔵する。廃液チューブ16bは、アレイ2Aの排出口29bと廃液タンク16aとを接続する。
【0133】
アレイ2Aにおいて、サンプル導入部28は、測定装置1Aから供給されたサンプル液を、アレイ2Aの各MSS膜25に供給するように構成されていればよい。導入口28aは、アレイ2A内に、サンプル液を導入可能な貫通孔であり、送液チューブ15cおよび導入路28bを連通している。導入路28bは、導入口28aと、各MSS膜25上の空間とを連通している。本実施形態において、導入路28bは、分岐している。そして、分岐した導入路28bは、それぞれ、各MSS膜25上の空間と連通している。ただし、本発明はこれに限定されず、導入路28bは、分岐しなくてもよい。この場合、排液路29aも分岐しない。
【0134】
サンプル排出部29は、アレイ2Aで測定された排液をアレイ2A、より具体的には、アレイ2のMSS膜25上から排液可能に構成されていればよい。排液路29aは、各MSS膜25上の空間と、排液口29bとを連通している。排液口29bは、アレイ2A内の測定後のサンプル液を導出可能な貫通孔であり、排液路29aおよび廃液チューブ16bを連通している。
【0135】
本実施形態のアレイ2Aは、例えば、ジメチルポリシロキサン(PDMS)を用いて、サンプル導入部28およびサンプル排出部29の各流路および貫通孔を形成した後に、得られた成形体を、アレイ2を配置したガラス基板に、前記流路がガラス基板側になるように接着させることで製造できる。
【0136】
つぎに、本実施形態の測定装置1Aおよびアレイ2Aを用いた測定方法について説明する。
【0137】
まず、測定装置1Aの装着部11に、アレイ2Aを装着し、サンプル液送液部15および廃液処理部16を、アレイ2Aと接続する。つぎに、測定装置1Aは、サンプル調製部14により、サンプル液を調製する。具体的には、サンプル収集部14aは、経時的に環境中のエアロゾルを捕集する。前記エアロゾルの捕集は、例えば、連続的に実施してもよいし、一定間隔で実施してもよい。また、あわせて、送液部14bが、洗浄液タンク14cおよび水性溶媒タンク14dから経時的に洗浄液および水性溶媒をサンプル収集部14aに供給し、捕集されたエアロゾルからサンプル液を調製する。調製されたサンプル液は、サンプル液送液部15により、導入チューブ15b、送液ポンプ15a、および送液チューブ15cを介して、アレイ2A、具体的には、導入口28aに供給される。導入口28aに供給されたサンプル液は、導入路28bを介して、アレイ2の各MSS膜25上の空間に供給され、各MSS膜25と接触する。
【0138】
つぎに、測定装置1Aは、実施形態の測定装置1と同様に、電圧印加部12によりアレイ2の電極22に電圧を印加し、測定部13によりピエゾ抵抗素子26の応力変化を測定する。そして、MSS膜25上で測定されたサンプル液は、排液路29aから排出口29bに排出される。排出口29bに排出されたサンプル液は、廃液チューブ16bを介して廃液タンク16aに移動し、廃液として貯蔵される。
【0139】
本実施形態の測定装置1Aおよびアレイ2Aによれば、経時的にサンプル液を調製し、前記サンプル液中の標的を測定できるため、例えば、環境検査等に好適に使用できる。また、測定装置1Aのポンプとして小型のポンプを採用することにより、測定装置1Aの大きさを、スマートフォンまたはタブレット端末と同程度の大きさまで小型化できる。このため、本実施形態の測定装置1Aおよびアレイ2Aによれば、小型でかつ、連続運転可能な装置とでき、例えば、設置性に優れている。また、本実施形態のアレイ2Aは、導入路28bの構造を任意に変更でき、また、後述の前処理室および保管室等を組み合わせることにより、測定結果を確認した後に、サンプル液の処理(前処理の追加、サンプル液を導入するMSSセンサの場所等)の方法を決定することもできる。このため、本実施形態のアレイ2Aによれば、より精度の高い測定が可能である。
【0140】
本実施形態の測定装置1Aは、例えば、前記サンプル液中の標的の量が、予め設定された量を超えた場合、アラートを報知する報知部を備えてもよい。測定装置1Aは、例えば、前記報知部を備えることで、工場等における危険物質等の環境監視に好適に使用できる。
【0141】
本実施形態のアレイ2Aは、例えば、アレイ2Aに導入されたサンプル液を前処理する前処理室を備えてもよい。この場合、前記前処理室には、前記サンプル液を処理するための試薬が配置されている。前記前処理室は、例えば、導入路28b中に形成されている。アレイ2Aは、例えば、前記前処理室を備えることで、MSSで測定するのに適したサンプル液を調製できる。
【0142】
本実施形態のアレイ2Aは、例えば、アレイ2Aに導入されたサンプル液を保管する保管部を有してもよい。アレイ2Aは、例えば、前記保管部を備えることにより、測定装置1Aの測定結果に基づき、前記サンプル液を他の検査のサンプルとして利用することができる。
【0143】
[実施形態3]
本実施形態のプログラムは、コンピュータに、前述の測定方法、学習方法、または分析方法の各工程(処理、手順、命令、または動作ともいう)を、実行させるプログラムである。または、本実施形態のプログラムは、例えば、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録されてもよい。前記記録媒体は、例えば、非一時的なコンピュータ可読記録媒体(non-transitory computer-readable storage medium)である。前記記録媒体は、特に制限されず、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、ハードディスク(HD)、光ディスク、フロッピー(登録商標)ディスク(FD)等があげられる。
【実施例】
【0144】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコールに基づいて使用した。
【0145】
[実施例1]
アプタマー等の結合分子が、ウイルス等に発現する分子に結合する際に、ウイルス株が異なると異なるシグナルが得られること、および複数のアプタマーのシグナルパターンにより、標的を分析できることを確認した。
【0146】
(1)SPRによる測定
モデルの標的タンパク質として、インフルエンザウイルス由来のヘマグルチニン(HA)を用い、HAに結合可能なアプタマー(HAアプタマー1~5)を結合分子として用いた。また、リファレンスの結合分子として、30塩基長のランダム配列(N)30を含むDNAライブラリ(N30)を用いた。
【0147】
HAアプタマー1(配列番号1)
5'-ATATATATGCCCACCCTCTCGCTGGCGGCTCTGTTCTGTTCTCGTCTCCTTGATTTCTGTGGGCAGCCGCCTCCAAGGTCAAAAAAAA-3'
HAアプタマー2(配列番号2)
5'-GGTTAGCCCGTCCCGAGATAACTCGGTGTGTTGGGTTTGGGTTGGGTTGGGTCTTAACACACGGCGGCTGTAG-3'
HAアプタマー3(配列番号3)
5'-ATATATATCCTGCACCCAGTGTCCCGTGTGCAATTCAGTTGGGGTTATTTTGGGAGGGCGGGGGTTGACGGAGAGGAGGACGGAAAAAAAA-3'
HAアプタマー4(配列番号4)
5'-AATTAACCCTCACTAAAGGGCTGAGTCTCAAAACCGCAATACACTGGTTGTATGGTCGAATAAGTTAA-3'
HAアプタマー5(配列番号5)
5'-GAATTCAGTCGGACAGCGGGGTTCCCATGCGGATGTTATAAAGCAGTCGCTTATAAGGGATGGACGAATATCGTCTCCC-3'
【0148】
前記アプタマーは、その3’末端に、24塩基長のポリデオキシアデニン(ポリdA)を付加し、ポリdA付加アプタマーとして、後述するSPRに使用した。
【0149】
標的タンパク質として、以下のタンパク質を使用した。
【0150】
・His-MIF
ヒスチジンタグを付加したMIF(マクロファージ遊走阻止因子)
ATGen Co., Ltd. Gyeonggi-do社
・HA1Anhui(HA1/H5N1)
A/Anhui/1/2005由来HA1
Sino Biological Inc.社 (#11048-V08H2)
(配列番号6)
MEKIVLLLAIVSLVKSDQICIGYHANNSTEQVDTIMEKNVTVTHAQDILE
KTHNGKLCDLDGVKPLILRDCSVAGWLLGNPMCDEFINVPEWSYIVEKAN
PANDLCYPGNFNDYEELKHLLSRINHFEKIQIIPKSSWSDHEASSGVSSA
CPYQGTPSFFRNVVWLIKKNNTYPTIKRSYNNTNQEDLLILWGIHHSNDA
AEQTKLYQNPTTYISVGTSTLNQRLVPKIATRSKVNGQSGRMDFFWTILK
PNDAINFESNGNFIAPEYAYKIVKKGDSAIVKSEVEYGNCNTKCQTPIGA
INSSMPFHNIHPLTIGECPKYVKSNKLVLATGLRNSP
・HA1California(HA1/H1N1pdm)
A/California/04/2009由来HA1
Sino Biological Inc. 社#1055-V08H4
(配列番号7)
MKAILVVLLYTFATANADTLCIGYHANNSTDTVDTVLEKNVTVTHSVNLL
EDKHNGKLCKLRGVAPLHLGKCNIAGWILGNPECESLSTASSWSYIVETP
SSDNGTCYPGDFIDYEELREQLSSVSSFERFEIFPKTSSWPNHDSNKGVT
AACPHAGAKSFYKNLIWLVKKGNSYPKLSKSYINDKGKEVLVLWGIHHPS
TSADQQSLYQNADTYVFVGSSRYSKKFKPEIAIRPKVRDQEGRMNYYWTL
VEPGDKITFEATGNLVVPRYAFAMERNAGSGIIISDTPVHDCNTTCQTPK
GAINTSLPFQNIHPITIGKCPKYVKSTKLRLATGLRNIPSIQSR
・HA1Brisbane(HA1/H1N1)
A/Brisbane/59/2007由来HA1
Sino Biological Inc.社 #11052-V08H1
(配列番号8)
MKVKLLVLLCTFTATYADTICIGYHANNSTDTVDTVLEKNVTVTHSVNLL
ENSHNGKLCLLKGIAPLQLGNCSVAGWILGNPECELLISKESWSYIVEKP
NPENGTCYPGHFADYEELREQLSSVSSFERFEIFPKESSWPNHTVTGVSA
SCSHNGESSFYRNLLWLTGKNGLYPNLSKSYANNKEKEVLVLWGVHHPPN
IGDQKALYHTENAYVSVVSSHYSRKFTPEIAKRPKVRDQEGRINYYWTLL
EPGDTIIFEANGNLIAPRYAFALSRGFGSGIINSNAPMDKCDAKCQTPQG
AINSSLPFQNVHPVTIGECPKYVRSAKLRMVTGLRNIPSIQSR
・HA1Aichi(HA1/H3N2)
A/Aichi/2/1968由来HA1
Sino Biological Inc. 社#11707-V08H1
(配列番号9)
MKTIIALSYIFCLALGQDLPGNDNSTATLCLGHHAVPNGTLVKTITDDQI
EVTNATELVQSSSTGKICNNPHRILDGIDCTLIDALLGDPHCDVFQNETW
DLFVERSKAFSNCYPYDVPDYASLRSLVASSGTLEFITEGFTWTGVTQNG
GSNACKRGPGSGFFSRLNWLTKSGSTYPVLNVTMPNNDNFDKLYIWGIHH
PSTNQEQTSLYVQASGRVTVSTRRSQQTIIPNIGSRPWVRGLSSRISIYW
TIVKPGDVLVINSNGNLIAPRGYFKMRTGKSSIMRSDAPIDTCISECITP
NGSIPNDKPFQNVNKITYGACPKYVKQNTLKLATGMRNVPEKQTR
【0151】
結合能の解析には、ProteON XPR36(BioRad社)を、その使用説明書にしたがって使用した。
【0152】
まず、前記ProteON専用のセンサーチップとして、ストレプトアビジンが固定化されたチップ(商品名ProteOn NLC Sensor Chip、BioRad社)を、前記ProteON XPR36にセットした。前記センサーチップのフローセルに、超純水(DDW)を用いて、5000nmol/lのリガンドをインジェクションし、シグナル強度(RU:Resonance Unit)が約1000RUになるまで結合させた。前記リガンドは、24塩基長のデオキシチミジンの5’末端をビオチン化した、ビオチン化ポリdTを使用した。そして、前記チップの前記フローセルに、SPRバッファーを用いて、400nmol/lの前記ポリdA付加アプタマーを、流速25μl/minで80秒間インジェクションし、シグナル強度が約700RUになるまで結合させた。続いて、500nmol/lの前記標的タンパク質を、SPRバッファーを用いて、流速50μl/minで120秒間インジェクションし、引き続き、同じ条件で、SPRバッファーを流して洗浄を行った。前記標的タンパク質のインジェクションおよび前記SPRバッファーによる洗浄に並行して、シグナル強度の測定を行った。
【0153】
前記セレクションバッファーの組成は、50mmol/l Tris、0.1mol/l NaCl、0.01% Tween(登録商標)、5mmol/l K+、1mmol/l Mg2+とし、pHは、7.4とした。前記SPRバッファーの組成は、50mmol/l Tris、0.1mol/l NaCl、0.01% Tween(登録商標)、10mmol/l K+とし、pHは、7.4とした。
【0154】
これらの結果を
図9に示す。
図9は、各標的タンパク質に対する各アプタマーの結合能を示すグラフである。
図9のグラフにおいて、縦軸は、前記Prote ON(登録商標)XRP36で測定したシグナル強度(RU)の相対値であり、横軸は、標的タンパク質の種類を示す。前記相対値は、洗浄開始時(標的タンパク質のインジェクション終了時)のシグナル強度を、標的タンパク質のインジェクション開始前(ポリdA付加アプタマーのインジェクション終了時)のシグナル強度で割った値として算出した。
図9において、「N30」は、前記N30の結果を示す。
図9に示すように、各HAアプタマーは、ヘマグルチニンに結合するが、そのシグナル(RU)は、同じではなく、異なった。また、各HAアプタマーに対する各標的タンパク質のシグナルのパターンは、インフルエンザウイルスの株間で異なる。このため、各HAアプタマーを用いて得られるシグナルのパターン(例えば、各アプタマーでのシグナル比)により、これらのインフルエンザウイルスの株を分析できることがわかった。
【0155】
(2)ELAAによる測定-1
前記結合分子としては、HAアプタマー1~5を用いた。また、リファレンスの結合分子として、N30を用いた。さらに、標的タンパク質として、A/Anhui/1/2005由来HA(HA1/H5N1)およびA/California/04/2009由来HA(HA1/H1N1)を使用した。
【0156】
ウェルにターゲットを固定化し、前記固定化ターゲットに前記検出用アプタマーを接触させ、前記固定化ターゲットに結合した前記検出用アプタマーを検出することによって、固定化したターゲットの検出を行った。この方法を、以下、ELAAの直接法という。
【0157】
まず、96穴プレート(商品名Immuno 96 Microwell Plates MaxiSorp:Nunc社)に、炭酸バッファー(pH9.6)で希釈した10μg/mlの前記HAを、ウェルあたり100μl添加し、4℃で一晩吸着させた。前記ウェルを200μlの洗浄バッファー(50mmol/l Tris、100mmol/l NaCl、5mmol/l KCl、1mmol/l MgCl2、0.01% Tween(登録商標)20,pH7.4)で洗浄後、ブロッキングバッファー(Protein-Free(TBS) blocking buffer,#37570、PIERCE社)を200μl加え、室温で1時間インキュベートした。インキュベート後、前記ウェルを200μlの前記洗浄バッファーで3回洗浄し、前記HAを固定化したプレートを作製した。
【0158】
そして、反応溶液(50mmol/l Tris、100mmol/l NaCl、5mmol/l KCl、1mmol/l MgCl2、0.01% Tween(登録商標)20、0.05% BSA、pH7.4)で、前記ビオチン化アプタマーを1μmol/lに希釈した後、前記ウェルに、ウェルあたり100μl添加し、室温で1時間インキュベートした。続いて、前記ウェルを前記洗浄液で洗浄した後、1000倍希釈したストレプトアビジン-セイヨウワサビペルオキシダーゼ(SA-HRP:GE社、#RPN1231_2ML)を100μl添加し、室温で30分間反応させた。さらに、前記ウェルを前記洗浄液で洗浄した後、TMB-E基質(Moss Inc.製)100μlを添加し、室温で20分間反応(発色)させた。その後、前記ウェルに100μlの0.5mol/l 硫酸を加え、反応を停止した後、プレートリーダーで波長450nmの吸光度(参照波長は620nm)を測定した。
【0159】
また、ブランクとして、HAを固定化していない96穴プレートについて、同様にELAAを行った(Buffer)。これらの結果を、
図10に示す。
図10は、アプタマーに結合したHAの量を示すグラフである。
図10において、縦軸は、前記結合能を示す波長450nmの吸光度(ABS、参照波長は620nm)であり、横軸は、標的タンパク質の種類を示す。
【0160】
図10に示すように、各HAアプタマーは、ヘマグルチニンに結合するが、そのシグナル(ABS)は、同じではなく、異なった。また、ヘマグルチニンに対する各HAアプタマーのシグナルのパターンは、インフルエンザウイルスの株間で異なる。このため、各HAアプタマーを用いて得られるシグナルのパターン(例えば、各アプタマーでのシグナル比)により、これらのインフルエンザウイルスの株を分析できることがわかった。
【0161】
(3)ELAAによる測定-2
前記結合分子としては、HAアプタマー2~3を用いた。また、標的として、以下のインフルエンザウイルスおよび非インフルエンザウイルスを使用した。
(インフルエンザウイルス)
H1N1
A/Brisbane/10/07
A/California/04/09
A/Georgia/20/06
H3N2
A/Wisconsin/67/05
A/Brisbane/59/07
A/Moscow/10/99
H5N1
A/Japanese white eye/Hong Kong/38/06
(非インフルエンザウイルス)
Sindbis virus
【0162】
前記H1N1、前記H3N2および前記非インフルエンザウイルスについて、以下の方法によりウイルスストックを調製した。
【0163】
ウイルスの研究用細胞として、イヌの腎臓から樹立されたMDCK(Madin Darby Canine Kidney)セルライン(ATCC(登録商標) CCL-34(商標))を使用した。生育培地は、下記組成(終濃度)とした。前記生育培地の成分として、ウシ胎児血清(FBS)は、商品名DFBS(Mediatech社)を使用し、その他の成分は、Invitrogen社の製品を使用した。培養条件は、37℃±2℃、加湿下、5% CO2、一晩とした。また、培養プレートは、使用前に、培養密度が80%であることを確認した。
(生育培地)
1× 最小必須培地(MEM)
5% FBS
2mmol/l L-グルタミン
3% NaHCO3
1× MEM Vitamins Solution
【0164】
フラスコ内で、コンフルエントな前記MCDK細胞(約9.6×106細胞/ml)に各ウイルスを感染させた。前記細胞の培養には、下記組成(終濃度)の感染培地を使用した。前記感染培地の成分は、特に示す他は、Life Technologiesの製品を使用した。そして、A/Brisbane/59/07およびA/California/04/09については、感染効率(MOI)を0.01PFU/細胞とした。A/Brisbane/10/07、A/Wisconsin/67/05、A/Moscow/10/99、A/Georgia/20/06およびSinbisについては、感染効率(MOI)を0.05PFU/細胞とした。PFUは、プラーク形成単位を示す。
(感染培地)
1× MEM
3% NaHCO3
1× MEM Vitamins solution(Sigma社)
1× L-グルタミン
100U/ml ペニシリン
100μg/ml ストレプトマイシン
50μg/ml ゲンタマイシン
【0165】
前記細胞に前記ウイルスを1時間感染させた後、前記フラスコに、2μg/mlとなるように、改変トリプシンを添加した。前記改変トリプシンは、L-(トシルアミド-2-フェニル) エチル クロロメチル ケトン(TPCK)で処理したトリプシン(商品名TPCK treated trypsin、USB社)を使用した。
【0166】
そして、細胞変性効果(CPE)が約100%となった時点で、ウイルスを含む培養上清を、遠心分離(200×G、10分、4℃)により回収した。前記上清の残りを、前記上清を、限外ろ過膜を用いた遠心分離によって、100kDa以下のタンパク質の除去とウイルスの濃縮を行った。前記限外ろ過膜は、商品名Amicon Ultra centrifugal filter devices 100,000 NMWL(Millipore)を使用し、遠心分離の条件は、3000×G、4℃、30分とした。この操作を繰り返し行い、前記上清全てを濃縮した。この濃縮物を半精製のウイルスストックとした。前記ウイルスストックの一部を採取し、これに含まれるウイルスをUV照射で不活性化し、その濃度をBCA assay(商品名、Pierce)を用いて決定した。前記ウイルスストックは、-65℃以下で保存した。
【0167】
トリインフルエンザウイルスである前記H5N1について、以下の方法によりウイルスストックを調製した。
【0168】
弱毒化された rg A/Japanese White Eye/Hong Kong/38/06を、特定病原体がフリー(SPF)である鶏卵に接種し、前記鶏卵を生育させてウイルス感染を行い、48時間後に、ウイルスを含む漿尿液画分を採取した。そして、回収した前記画分を、希釈液で希釈した。前記希釈液は、100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシンおよび50μg/mlゲンタマイシンを含む1×PBS(pH7.4)を使用した。前記(2)に示す濃縮を行うことなく、前記画分の希釈物を、ウイルスストックとした。前記ウイルスストックは、-65℃以下で保存した。
【0169】
なお、前記H5N1は、前述のように鶏卵で増殖させているため、鶏卵由来タンパク質を多く含むため、前述の限外濾過による精製工程は行わなかった。そこで、前記H5N1のウイルスストックに関しては、使用量を、ウイルス濃度ではなく、前記タンパク質濃度で示した。なお、前記H5N1は、固定化するウイルス数を、他のウイルスと同程度の条件とするために、他のウイルスのウイルス濃度(V μg/well)に対して、100~1000倍のタンパク質濃度(100×V μg/well~1000×V μg/well)となるように使用した。
【0170】
アプタマーとして、HAアプタマー2~3を使用し、前記標的タンパク質に代えて、前記ウイルスを固定化した以外は、前記実施例1(2)と同様にして、ELAAを行った。また、リファレンスの結合分子として、N30を用いた以外は同様にして実施した。これらの結果を
図11に示す。
図11は、アプタマーに結合したHAの量を示すグラフである。
図11において、縦軸は、前記結合能を示す波長450nmの吸光度(ABS、参照波長は620nm)であり、横軸は、ウイルスの種類及び濃度を示す。
【0171】
図11に示すように、各HAアプタマーは、インフルエンザウイルスに結合するが、そのシグナル(ABS)は、同じではなく、異なった。また、各インフルエンザウイルスに対する各HAアプタマーのシグナルのパターンは、インフルエンザウイルスの株間で異なる。このため、各HAアプタマーを用いて得られるシグナルのパターンにより、これらのインフルエンザウイルスの株を分析できることがわかった。
【0172】
以上のことから、アプタマー等の結合分子が、ウイルス等に発現する分子に結合する際に、ウイルス株が異なると異なるシグナルが得られること、および複数のアプタマーのシグナルパターンにより、標的を分析できることを確認した。
【0173】
以上、実施形態および実施例を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0174】
<付記>
上記の実施形態および実施例の一部または全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
センサ基板と、複数の膜と、所定の分子に結合可能な複数種類の結合分子とを備え、
前記センサ基板は、複数の支持領域を備え、
前記支持領域は、前記膜の変形を検出可能なピエゾ抵抗素子を備え、かつ前記膜を支持し、
前記膜は、前記結合分子を備え、かつ前記結合分子の結合により変形し、
各膜は、異なる種類の結合分子を備え、
前記複数種類の結合分子は、異なる分子に結合する結合分子および同じ分子に異なる結合特性を示す結合分子を含む、膜型表面応力センサアレイ。
(付記2)
前記結合分子は、前記所定の分子に対するアプタマー、抗体、受容体、またはリガンドである、付記1記載の膜型表面応力センサアレイ。
(付記3)
前記結合特性は、前記所定の分子に対する親和性、前記所定の分子に対する特異性、および/または前記所定の分子におけるエピトープである、付記1または2記載の膜型表面応力センサアレイ。
(付記4)
各膜は、1種類の結合分子を備える、付記1から3のいずれかに記載の膜型表面応力センサアレイ。
(付記5)
前記センサ基板が、回路を有し、
前記支持領域が複数のピエゾ抵抗素子を備え、
前記回路は、前記複数のピエゾ抵抗素子を含むホイートストンブリッジ回路である、付記1から4のいずれかに記載の膜型表面応力センサアレイ。
(付記6)
サンプル導入部と、サンプル排出部とを備え、
前記サンプル導入部は、各膜にサンプル液を導入可能に構成されており、
前記サンプル排出部は、各膜からサンプル液を排出可能に構成されている、付記1から5のいずれかに記載の膜型表面応力センサアレイ。
(付記7)
前記サンプル導入部は、導入口と、導入路とを備え、
前記サンプル排出部は、排出口と、排出路とを備え、
前記導入口は、前記導入路と連通する貫通孔であり、前記膜型表面応力センサの外部から内部にサンプル液を導入可能に構成されており、
前記導入路は、前記導入口と各膜とを連通し、
前記排出口は、前記導入路と連通する貫通孔であり、前記膜型表面応力センサの内部から外部にサンプル液を排出可能に構成されており、
前記排出路は、前記排出口と各膜とを連通する、付記6記載の膜型表面応力センサアレイ。
(付記8)
前記導入路は、複数であり、
前記排出路は、複数であり、
各導入路は、それぞれ、前記導入口といずれか1つの膜と連通し、
各排出路は、それぞれ、いずれか1つの膜と、前記排出口とを連通する、付記7記載の膜型表面応力センサアレイ。
(付記9)
サンプル液と、付記1から8のいずれかに記載の膜型表面応力センサアレイとを接触する工程と、
液相中で前記膜型表面応力センサアレイに電圧を印加する工程と、
前記膜型表面応力センサアレイの各膜のピエゾ抵抗素子の応力変化を測定する工程とを含む、サンプルの測定方法。
(付記10)
各膜のピエゾ抵抗素子の応力変化の測定結果から前記サンプル液中の標的を分析する分析工程を含む、付記9記載の測定方法。
(付記11)
前記分析工程において、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習することにより生成された、標的予測モデルと、各膜のピエゾ抵抗素子の応力変化の測定結果とから、前記サンプル液中の標的を分析する、付記9または10記載の測定方法。
(付記12)
前記印加工程において、前記液相が、前記サンプル液であり、
前記接触工程後、そのまま前記印加工程を行う、付記9から11のいずれかに記載の測定方法。
(付記13)
装着部と、電圧印加部と、測定部とを備え、
前記装着部は、付記1から8のいずれかに記載の膜型表面応力センサアレイを着脱可能に構成され、
前記電圧印加部は、前記膜型表面応力センサアレイに電圧を印加可能であり、
前記測定部は、前記膜型表面応力センサアレイにおける各膜のピエゾ抵抗素子の応力変化を測定可能である、サンプルの測定装置。
(付記14)
分析部を備え、
前記分析部は、各膜のピエゾ抵抗素子の応力変化の測定結果から前記サンプル液中の標的を分析する、付記13記載の測定装置。
(付記15)
前記分析部は、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習することにより生成された、標的予測モデルと、各膜のピエゾ抵抗素子の応力変化の測定結果とから、前記サンプル液中の標的を分析する、付記14記載の測定装置。
(付記16)
サンプル液調製部を備え、
前記サンプル液調製部は、サンプル液を調製し、前記膜型表面応力センサに前記サンプル液を供給する、付記13から15のいずれかに記載のサンプルの測定装置。
(付記17)
報知部を備え、
前記報知部は、前記測定部で得られた測定結果が、予め定めた条件を満たす場合、報知する、付記13から16のいずれかに記載のサンプルの測定装置。
(付記18)
取得部と、学習部とを備え、
前記取得部は、測定データを取得し、
前記測定データは、標的を含むサンプル液について、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と、前記標的の情報とが紐付けられたデータを含み、
前記学習部は、前記測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習し、標的予測モデルを生成する、学習装置。
(付記19)
格納部を備え、
前記格納部は、得られた標的予測モデルに、前記標的および/または前記標的の属する分類を紐付けて、記憶部に格納する、付記18記載の学習装置。
(付記20)
前記測定結果では、前記膜型表面応力センサアレイにおける各膜のピエゾ抵抗素子の応力変化の測定値と、前記測定値を得た膜の識別子とが紐付けられている、付記18または19記載の学習装置。
(付記21)
前記膜型表面応力センサアレイは、付記1から8のいずれかに記載の膜型表面応力センサアレイである、付記18から20のいずれかに記載の学習装置。
(付記22)
データ取得部と、分析部とを備え、
前記データ取得部は、測定データを取得し、
前記測定データは、サンプル液について、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果を含み、
前記分析部は、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習することにより生成された、標的予測モデルと、前記測定結果とから、前記サンプル液中の標的を分析する、分析装置。
(付記23)
モデル選択部を備え、
前記測定データは、前記膜型表面応力センサの識別子と紐付けられており、
前記モデル選択部は、前記膜型表面応力センサの識別子から、前記標的予測モデルを選択し、
前記分析部は、選択された標的予測モデルと前記測定結果とから、前記サンプル液中の標的を分析する、付記22記載の分析装置。
(付記24)
前記モデル選択部は、
前記膜型表面応力センサの識別子から、前記膜型表面応力センサの標的のデータを取得し、
前記標的のデータと、標的予測モデルに紐付けられた標的および/または標的の属する分類とから、前記標的予測モデルを選択する、付記23記載の分析装置。
(付記25)
取得工程と、学習工程とを含み、
前記取得工程では、測定データを取得し、
前記測定データは、標的を含むサンプル液について、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と、前記標的の情報とが紐付けられたデータであり、
前記学習工程では、前記測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習し、標的予測モデルを生成する、学習方法。
(付記26)
格納工程を含み、
前記格納工程では、得られた標的予測モデルに、前記標的および/または前記標的の属する分類を紐付けて、記憶部に格納する、付記25記載の学習方法。
(付記27)
前記測定結果では、前記膜型表面応力センサアレイにおける各膜のピエゾ抵抗素子の応力変化の測定値と、前記測定値を得た膜の識別子とが紐付けられている、付記25または26記載の学習方法。
(付記28)
前記膜型表面応力センサアレイは、付記1から8のいずれかに記載の膜型表面応力センサアレイである、付記25から27のいずれかに記載の学習方法。
(付記29)
データ取得工程と、分析工程とを含み、
前記データ取得工程では、測定データを取得し、
前記測定データは、サンプル液について、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果を含み、
前記分析工程では、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習することにより生成された、標的予測モデルと、前記測定結果とから、前記サンプル液中の標的を分析する、分析方法。
(付記30)
モデル選択工程を含み、
前記測定データは、前記膜型表面応力センサの識別子と紐付けられており、
前記モデル選択工程では、前記膜型表面応力センサの識別子から、前記標的予測モデルを選択し、
前記分析工程では、選択された標的予測モデルと前記測定結果とから、前記サンプル液中の標的を分析する、付記29記載の分析方法。
(付記31)
前記モデル選択工程では、
前記膜型表面応力センサの識別子から、前記膜型表面応力センサの標的のデータを取得し、
前記標的のデータと、標的予測モデルに紐付けられた標的および/または標的の属する分類とから、前記標的予測モデルを選択する、付記30記載の分析方法。
(付記32)
コンピュータに、取得処理と、学習処理とを実行させ、
前記取得処理では、測定データを取得し、
前記測定データは、標的を含むサンプル液について、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と、前記標的の情報とが紐付けられたデータであり、
前記学習処理では、前記測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習し、標的予測モデルを生成する、プログラム。
(付記33)
コンピュータに、データ取得処理と、分析処理とを実行させ、
前記データ取得処理では、測定データを取得し、
前記測定データは、サンプル液について、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果を含み、
前記分析処理では、膜型表面応力センサアレイを用いて測定された測定結果と前記標的との組を教師データとして機械学習することにより生成された、標的予測モデルと、前記測定結果とから、前記サンプル液中の標的を分析する、プログラム。
【産業上の利用可能性】
【0175】
以上説明したように、本発明によれば、例えば、前記所定の分子に結合可能な複数種類の結合分子をMSSセンサに固定化したアレイとし、前記アレイで得られたシグナルパターンを用いることで、前記標的に特異的な結合分子が存在しない場合も、前記標的を測定しうる。このため、本発明は、例えば、分析、環境測定等の分野において、極めて有用である。
【配列表】