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特許7544377湿式紡糸繊維、湿式成膜フィルムおよびそれらの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】湿式紡糸繊維、湿式成膜フィルムおよびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/06 20060101AFI20240827BHJP
   B29C 49/08 20060101ALI20240827BHJP
   D01D 4/02 20060101ALI20240827BHJP
   D01F 2/00 20060101ALI20240827BHJP
   D01F 6/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
D01D5/06 104
B29C49/08
D01D4/02
D01F2/00 Z
D01F6/00 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020549514
(86)(22)【出願日】2019-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2019038576
(87)【国際公開番号】W WO2020067570
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2018183868
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム「マイクロ湿式紡糸技術をコアとした高付加価値材料の精密生産」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【弁理士】
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【弁理士】
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】小野 努
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 貴一
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/029710(WO,A1)
【文献】特開2015-004151(JP,A)
【文献】特開2018-119224(JP,A)
【文献】国際公開第2017/102989(WO,A1)
【文献】特公昭34-006058(JP,B1)
【文献】特公昭49-041127(JP,B1)
【文献】特表2004-532937(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 48/00 - 48/96
C08J 5/00 - 5/02
C08J 5/18
D01D 1/00 - 13/02
D01F 1/00 - 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重管型マイクロノズル装置を用いた湿式紡糸繊維の製造方法であって、
前記装置の内管の円形の末端から、繊維素材およびその良溶媒を含む内相を、前記装置の外管を流れる、前記繊維素材の貧溶媒を含む外相中に線状に押し出す工程において、
前記内相と前記外相とが合流するオリフィス部における外相線速度が0.1ms-1以上であり、かつ前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が1以上であり、
前記繊維素材がポリ乳酸を含まず、かつ前記繊維素材がセルロースを含まない、
湿式紡糸繊維の製造方法。
【請求項2】
前記内相が、繊維素材として、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ビニル樹脂、またはカーボン材料を含有する、請求項1に記載の湿式紡糸繊維の製造方法。
【請求項3】
前記内相が、繊維素材として、ポリアミド樹脂、ビニル樹脂、またはカーボン材料を含有する、請求項2に記載の湿式紡糸繊維の製造方法。
【請求項4】
前記繊維素材がポリアミド樹脂であり、前記外相線速度が0.1ms-1以上であり、かつ前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が10以上である、請求項3に記載の湿式紡糸繊維の製造方法。
【請求項5】
二重管型マイクロノズル装置を用いた湿式紡糸繊維の製造方法であって、
前記装置の内管の円形の末端から、繊維素材およびその良溶媒を含む内相を、前記装置の外管を流れる、前記繊維素材の貧溶媒を含む外相中に線状に押し出す工程において、
前記内相と前記外相とが合流するオリフィス部における外相線速度が0.1ms-1以上であり、かつ前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が1以上であり、
前記繊維素材が、ポリ乳酸を含まないポリエステル樹脂であり、前記外相線速度が0.1ms-1以上であり、かつ前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が10以上である、湿式紡糸繊維の製造方法。
【請求項6】
前記繊維素材がビニル樹脂であり、前記外相線速度が0.1ms-1以上であり、かつ前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が10以上である、請求項3に記載の湿式紡糸繊維の製造方法。
【請求項7】
前記繊維素材がカーボン材料であり、前記外相線速度が0.1ms-1以上であり、かつ前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が10以上である、請求項3に記載の湿式紡糸繊維の製造方法。
【請求項8】
二重管型マイクロノズル装置を用いた湿式成膜フィルムの製造方法であって、
前記装置の内管の矩形の末端から、フィルム素材およびその良溶媒を含む内相を、前記装置の外管を流れる、前記フィルム素材の貧溶媒を含む外相中にシート状に押し出す工程において、前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が1以上である、湿式成膜フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記フィルム素材がタンパク質またはペプチドではない、請求項に記載の湿式成膜フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記内相と前記外相とが合流するオリフィス部における外相線速度が0.1ms-1以上である、請求項に記載の湿式成膜フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記内相が、フィルム素材として、ポリエステル樹脂またはビニル樹脂を含有する、請求項に記載の湿式成膜フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記フィルム素材がポリエステル樹脂であり、前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が1以上である、請求項に記載の湿式成膜フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記フィルム素材がビニル樹脂であり、前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が1以上である、請求項に記載の湿式成膜フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の高分子材料(ポリマー)からなる、ナノサイズの繊維径を有する繊維(ナノ繊維)およびナノサイズの厚さを有するフィルム状成形体(ナノフィルム)、ならびにそれらの湿式製造方法に関する。より詳しくは、本発明は、二重管型マイクロノズル装置を用いる、分子配向性を向上させたナノ繊維の湿式製造方法およびナノフィルムの湿式製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノサイズの微細な繊維径を有する高分子材料で形成されている繊維(ナノ繊維)については、これまで様々な湿式の製造方法(湿式紡糸法)が広く使用されている。湿式紡糸法では、原料となる高分子溶液をノズルから静置状態の凝固浴に吐出することで高分子繊維を得る。また、一般的には、生成した繊維に張力をかけて(引っ張って)長軸方向へ物理的に延伸し、高分子の配向性を向上させることで、高強度な繊維が調製されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリα-ヒドロキシ酸(ポリ乳酸等)を主成分とする生分解性多孔質性極細中空糸(内径が500μm以下、外径は例えば1mm未満)、および湿式二重紡糸法による当該中空糸の製造方法が記載されている。特許文献1における湿式二重紡糸法では、外径1.0mm、内径0.6mmのノズルを備えて2種類の異なる溶液を押し出すことのできる二重湿式紡糸装置を用いている。ノズルの外径部(鞘部)にジオキサンに溶解させたポリ乳酸、内径部(芯部)にメタノールを送液し、それをドライアイスおよびメタノールを含む静置された凝固浴中に押し出し、鞘部の被凝固浴物質(ポリ乳酸)を凍結させてから脱溶媒することで、中空の繊維が得られる。また、上記の湿式二重紡糸法では必要に応じて、凝固浴中で生成した中空糸を押し出し速度より早く引っ張ることにより延伸してもよいことが記載されている。
【0004】
また、より簡便な操作により延伸された微細な繊維を得ることのできる湿式紡糸法として、特許文献2に記載されているように、漏斗状の製造装置を用いて、紡糸原液を凝固液中に押し出して凝固させ、生成した糸状物を凝固液とともに下方に流下させながら延伸する方法(流下式緊張紡糸方法)も従来知られている。また、近年ではせん断流れの中で繊維を製造する技術もいくつか報告されている。例えば、特許文献3では、高分子溶液をせん断流れの生じている分散媒(高分子の貧溶媒)に連続的に導入し、それにより生じた高分子液滴を引き延ばすことでナノ繊維を得る技術が報告されている。特許文献4では、高分子溶液を充填したノズルを回転させ、それにより吐出されたジェット流を固化することで繊維を得る手法(Rotary jet spinning)が報告されている。
【0005】
湿式紡糸法としては従来、ポリエステル(ポリ乳酸等)、セルロースまたはその誘導体などからなるものの製造方法がよく知られているが、近年ではカーボンナノチューブ等のカーボン材料からなる繊維の製造方法も提案されている。例えば特許文献5には、ポリビニルアルコール(PVA)等のバインダー樹脂を用いず、カーボンナノチューブを界面活性剤によって水のみまたは有機溶媒と水とを含む混合溶媒(第1の溶媒)に分散させた分散液を、第1の溶媒とは異なる第2の溶媒である凝集液に注入し、カーボンナノチューブを凝集紡糸する工程を含む、凝集紡糸構造体の製造方法が開示されている。
【0006】
一方、高分子材料で形成されている厚さがナノサイズのフィルム状成形体(ナノフィルム)の製造方法については、溶融高分子あるいは高分子に可塑剤を加えた混合液を押し出して延伸することで、ロール・ツー・ロール(Roll to Roll)で成形加工する、一般的な連続式のフィルム調製法は実用化されている。また、湿式で高分子溶液からナノフィルムを製造する方法としては、実験室レベルでは、キャスト法およびスピンコーターを用いた成膜を組み合わせた方法が行われることもある。キャスト法は、高分子溶液から溶媒を蒸発させて乾固させる方法であり、スピンコーターを用いて遠心力で溶液を薄く引き伸ばしながら表面積を拡大することで溶媒を迅速に蒸発させて乾固させることができる。しかしながら、ナノフィルムの湿式での製造方法で実用化されているものはない。
【0007】
特許文献6には、湿式紡糸ではなく反応紡糸ではあるが、ポリウレタンプレポリマーを該ポリウレタンプレポリマーの進行方向と同一方向に流動する反応液を含む反応浴に対して吐出する反応紡糸法およびそれにより製造されたポリウレタンウレア(PUU)連続成形体が記載されている。従来の反応紡糸法において、外相が静止しているため引き取りの際に液抵抗が大きくなり、紡糸速度を挙げるのが困難なため、切断や経済性などの問題のため細い繊維を製造することができなかったところ、特許文献6に記載の反応紡糸法では、外相となる反応浴中に内相となる反応液を吐出する際に、内相よりも外相の速度を高くすることで、液抵抗を小さくし、紡糸(引取)速度を向上できるとされている。そのような発明の一実施形態として、実施例22には、矩形型ノズル(幅0.16mm)からポリウレタンプレポリマーを所定の線速度で吐出し、所定の流動速度をもつ反応液を用いて管状路内幹部に導き、テープ状のPUUに成形し、採取したことが記載されている。しかしながら、このようにして得られた「テープ状」のPUUの形状や厚さ等のサイズは不明である。なお、特許文献6には、湿式紡糸法に関して、「ポリマー溶液からの脱溶媒速度が遅く、経済的な紡糸速度で10デニールより太い繊度のPUU弾性繊維を製造することが難しい。」、「また空気抵抗や液抵抗のために逆に10デニールより細いPUU弾性繊維-これは最近製品の軽量化にともない需要が急増している-を造ることも困難である。」などと記載されている。
【0008】
非特許文献1には、横方向に並走している複数の矩形型微細流路を備えたマイクロデバイスにおいて、各流路に細胞溶液またはアルギン酸溶液を流し、バリウムイオンを含むゼラチン化溶液中に吐出してアルギン酸溶液をゲル化させることで、細胞とアルギン酸ファイバーとがストライプパターンで並んでいるハイドロゲルシートを作製できることが記載されている。
【0009】
出願人は以前に、特許文献7において、オリフィス形状を有するマイクロ流路を備えた二重管型マイクロノズル装置(特許文献1に記載の二重湿式紡糸装置よりも細い繊維径の製造に適するよう改良されている装置)を用いて、油溶性低ブロック共重合体(ポリ乳酸等の脂肪族ポリエステル樹脂由来の疎水性部位と、PEG等の親水性高分子由来の親水性部位とを有する)および有機溶媒を含む内相を、高流速で流速が制御された、界面活性剤および水を含む外相中に押し出すことにより湿式紡糸を行う「マイクロ湿式紡糸プロセス」により、1本鎖のナノ繊維を連続的に得る方法を開示している。また特許文献8では、同じく二重管型マイクロノズル装置を用いて、セルロースおよびイオン液体を含む内相(セルロースのイオン液体溶液)を、水を含む外相中に押し出す工程を含む、セルロースナノファイバーの製造方法を開示している。しかしながら特許文献7には、上記の特殊な共重合体以外の共重合体に対して応用することについては具体的に記載されておらず、特許文献8には、上記の特殊な溶媒以外のセルロースの良溶媒を用いることについては具体的に記載されていない。また、特許文献7および8のどちらにも、内相を外相に押し出す工程単独で、分子配向性を向上させることが可能であることについて記載されていない。さらに、特許文献7および8のどちらにも、ナノ繊維ではなくナノフィルム(フィルム状成形体)を得ることについては記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2003-328229号公報
【文献】特開昭60-246806号公報
【文献】US2010/0247908A1(US8,551,378B2)
【文献】US2015/0354094A1
【文献】特開2012-126635号公報
【文献】WO1998/038364(特許第3791932号)
【文献】WO2012/029710A1(特許第5835743号)
【文献】特開2015-004151号公報(特許第6229927号)
【0011】
【文献】Kobayashi et al., J. BIOSCI. BIOENG., 116(6), 761-767, 2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来の一般的な湿式紡糸法では、高分子を繊維状に加工する紡糸工程と繊維の強度を高める高分子の延伸工程は別プロセスであるため、プロセスが煩雑化し、工業的な利用の際には設備投資が莫大となる。また、前掲の先行技術文献のいずれにも、流下式緊張紡糸方法やせん断流れ場で微細な高分子繊維を調製する製造方法によって、分子配向性を向上させた繊維が得られることは報告されていない。1段階のプロセスで高分子繊維の調製及び配向性向上を実現することができれば、従来のプロセスを大幅に簡略化できる。分子配向性は、得られた繊維の物性や機能に影響をおよぼすことが考えられるため、分子配向性の向上は高機能繊維の開発においても極めて重要である。これまで、多くのノウハウを導入した延伸工程を開発することによって、分子配向性が制御された繊維製品が開発されてきたが、ナノ繊維のように繊維の微細化が進むにつれて1本あたりの引張強度が極めて小さくなるため、紡糸後の延伸工程も困難を極める。
【0013】
一方、フィルム状成形体で商業化されているロール・ツー・ロールのプロセスでは、混練後の押し出しと延伸工程によって時間をかけて薄膜を調製している。いずれの従来技術においても、フィルム成形加工には延伸のための大型装置と動力が必要となり、加工時間は秒~分単位で行われている。また、キャスト法およびスピンコーターを用いた成膜を組み合わせた実験室レベルの方法において、キャスト法だけではフィルムの薄膜化が難しく、スピンコーターを用いれば薄膜化はできるが、連続的に製造することはできなくなる。
【0014】
本発明は、一つの側面において、微細な(好ましくはナノサイズの)断面径を有する繊維であって、分子配向性が向上したものを、湿式の簡易な工程で連続的に高速で得ることができる、湿式紡糸繊維の製造方法を提供することを課題とする。
【0015】
また、本発明は一つの側面において、極めて薄い(好ましくはナノサイズの)厚さを有するフィルムを、湿式の簡易な工程で連続的に高速で得ることができる、湿式成膜フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、前掲特許文献7および8に記載されている二重管型マイクロノズル装置を用いた湿式紡糸法(マイクロ湿式紡糸プロセス)において、様々な繊維素材を良溶媒に溶解させた内相と、その繊維素材の貧溶媒を含む外相とを用い、内相流量に対する外相流量の比(本明細書において「流量比」と呼ぶ。)を様々に変化させながら紡糸した。その結果、紡糸工程において外相の線速度や内相および外相の流量比を制御することで、従来は別工程として行われている延伸処理等を要することなく、微細かつ分子配向性が高い繊維を得られること、それにより従来は(例えばエレクトロスピニング(電解紡糸)法などにおいて)延伸処理等によって分子配向性を向上させることが困難であった繊維についても、分子配向性が向上した繊維を製造することが可能となることを見出した。内相に溶解している繊維素材を析出させて繊維化するための貧溶媒が、凝固浴として静止しているのではなく、外相として内相と共に流動しており、二重管型マイクロノズル装置のオリフィス部においてそれらの2種類の流体が高い線速度を有するようになること、その剪断流れにより上記のような微細かつ分子配向性の高い繊維(ナノ繊維)が得られるのではないかと考えられる。
【0017】
本発明者らはさらに、上記のようなナノ繊維の製造方法において、マイクロノズルのオリフィス(二重管部分の断面構造)を、円形から矩形に変更することにより、極めて短時間のうちに希薄高分子溶液からフィルム(フィルム形状の繊維)を生成することができること、またその過程における内相および外相の溶液流れによる延伸効果を通じて、一方向に延伸された高いアスペクト比(幅/厚み)を有するフィルムをミリ秒レベルで連続的に調製し、溶液中で回収できることも見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち、本発明は下記の事項を包含する。
[1]
二重管型マイクロノズル装置を用いた湿式紡糸繊維の製造方法であって、
前記装置の内管の円形の末端から、繊維素材およびその良溶媒を含む内相を、前記装置の外管を流れる、前記繊維素材の貧溶媒を含む外相中に線状に押し出す工程において、
前記内相と前記外相とが合流するオリフィス部における外相線速度が0.1ms-1以上であり、かつ前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が1以上である、湿式紡糸繊維の製造方法。
[2]
前記内相が、繊維素材として、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、セルロースもしくはその誘導体、ビニル樹脂、またはカーボン材料を含有する、項1に記載の湿式紡糸繊維の製造方法。
[3]
前記繊維素材がポリアミド樹脂であり、前記外相線速度が0.1ms-1以上であり、かつ前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が10以上である、項2に記載の湿式紡糸繊維の製造方法。
[4]
前記繊維素材がポリエステル樹脂であり、前記外相線速度が0.1ms-1以上であり、かつ前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が10以上である、項2に記載の湿式紡糸繊維の製造方法。
[5]
前記繊維素材がセルロースもしくはその誘導体であり、前記外相線速度が0.1ms-1以上であり、かつ前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が10以上である、項2に記載の湿式紡糸繊維の製造方法。
[6]
前記繊維素材がビニル樹脂であり、前記外相線速度が0.1ms-1以上であり、かつ前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が10以上である、項2に記載の湿式紡糸繊維の製造方法。
[7]
前記繊維素材がカーボン材料であり、前記外相線速度が0.1ms-1以上であり、かつ前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が10以上である、項2に記載の湿式紡糸繊維の製造方法。
[8]
二重管型マイクロノズル装置を用いた湿式紡糸繊維の製造方法によって得られ、当該製造方法において繊維化できる素材で形成されている、繊維径が1000μm以下、かつ複屈折率が0.0001以上である、湿式紡糸繊維。
[9]
前記繊維素材が、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、セルロースもしくはその誘導体、ビニル樹脂、またはカーボン材料を含有する、項8に記載の湿式紡糸繊維。
[10]
前記繊維素材がポリアミド樹脂であり、前記繊維径が50μm以下、かつ前記複屈折率が0.001以上である、項9に記載の湿式紡糸繊維。
[11]
前記繊維素材がポリエステル樹脂であり、前記繊維径が100μm以下、かつ前記複屈折率が0.001以上である、項9に記載の湿式紡糸繊維。
[12]
前記繊維素材がセルロースもしくはその誘導体であり、前記繊維径が50μm以下、かつ前記複屈折率が0.001以上である、項9に記載の湿式紡糸繊維。
[13]
前記繊維素材がビニル樹脂であり、前記繊維径が100μm以下、かつ前記複屈折率が0.001以上である、項9に記載の湿式紡糸繊維。
[14]
前記繊維素材がカーボン材料であり、前記繊維径が50μm以下、かつ前記複屈折率が0.001以上である、項9に記載の湿式紡糸繊維。
[15]
二重管型マイクロノズル装置を用いた湿式成膜フィルムの製造方法であって、
前記装置の内管の矩形の末端から、フィルム素材およびその良溶媒を含む内相を、前記装置の外管を流れる、前記フィルム素材の貧溶媒を含む外相中にシート状に押し出す工程において、前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が1以上である、湿式成膜フィルムの製造方法。
[16]
前記内相と前記外相とが合流するオリフィス部における外相線速度が10ms-1以上である、項15に記載の湿式成膜フィルムの製造方法。
[17]
前記内相が、フィルム素材として、ポリエステル樹脂またはビニル樹脂を含有する、項15に記載の湿式成膜フィルムの製造方法。
[18]
前記フィルム素材がポリエステル樹脂であり、前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が1以上である、項15に記載の湿式成膜フィルムの製造方法。
[19]
前記フィルム素材がビニル樹脂であり、前記内相の流量に対する前記外相の流量の比が1以上である、項15に記載の湿式成膜フィルムの製造方法。
[20]
二重管型マイクロノズル装置を用いた湿式成膜フィルムの製造方法によって得られ、当該製造方法においてフィルム化できる素材で形成されている、フィルム厚が1000μm以下である、湿式成膜フィルム。
[21]
前記フィルム素材が、ポリエステル樹脂またはビニル樹脂を含有する、請求項20に記載の湿式成膜フィルム。
【発明の効果】
【0019】
従来技術では、紡糸時の流体流れ(せん断流れ)によって分子配向性を向上させた事例はない。本発明による湿式紡糸繊維の製造方法は、分子配向性を(例えば従来の2倍以上に)向上させた微細繊維を1段階で調製するための方法として有用であるだけでなく、分子配向性の向上に伴う機械的強度や繊維としての性能が向上した微細繊維が得られるようになることが期待される。特に、延伸工程の導入が困難となるナノスケールの微細繊維(ナノ繊維)に関しては、繊維の機能向上をもたらすことのできる製造技術として、本発明の優位性は高い。
【0020】
さらに、ノズルの形状を変更することにより、ナノ繊維と同様に湿式で、厚さがナノサイズのフィルムを大型の延伸装置を用いることなく調製することが可能である。フィルム調製時に外相の流れによって一方向へ延伸された(短手方向にはほとんど延伸されず、長手方向に所望の延伸度で延伸された)異方性フィルムの調製が可能である。また、従来のナノフィルムの湿式製造方法における蒸発乾固では、蒸発面と他面で非対称な内部構造の生成物が得られるが、本発明の製造方法では外相の貧溶媒中で両面から、内相の高分子の良溶媒を拡散して固化させるため、対称性のある内部構造を形成できる。フィルムのアスペクト比、厚さ、延伸度は、同一の製造デバイスにおいて、内相および外相の流量比によって、好ましくはさらに外相線速度によって、制御することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明における、湿式紡糸繊維を製造する実施形態に関する模式図等である。[A]二重管マイクロノズル装置を用いた、高分子材料からなる湿式紡糸繊維の調製を表す模式図。[B]二重管マイクロノズル装置の内部構造(オリフィス部周辺)を表す模式図。aは内管径、bはオリフィス径、cは配管径、dはオリフィス長であり、それぞれについて例示されている数値は、実施例で用いた湿式紡糸用二重管マイクロノズル装置についてのものである。[C]二重管マイクロノズルの吐出部における断面([B]のS-S’)を表す模式図。
図2図2は、ポリアミック酸ファイバーを製造した実施例1(表2参照)に関する。[A]Sample 1-10の走査型電子顕微鏡(SEM)画像。[B]外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸、●印、他図でも同様)および複屈折率(左縦軸、■印、他図でも同様)との関係を表すプロット。
図3図3は、PETファイバーを製造した実施例2(表3参照)に関する。[A]Sample 2-4のSEM画像。[B]外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロット。
図4図4は、酢酸セルロースファイバーを製造した実施例3(表4参照)に関する。[A]Sample 3-3のSEM画像。[B]外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロット。
図5図5は、PLAファイバー(その1)を製造した実施例4(表5参照)に関する。[A]Sample 4-7のSEM画像。[B]外相および内相の流量比(横軸)と、ファイバー径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロット。
図6図6は、PLAファイバー(その2)を製造した実施例5(表6参照)における、外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図7図7は、PSファイバー(その1)を製造した実施例6(表7参照)における、外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図8図8は、PSファイバー(その2)を製造した実施例7(表8参照)における、外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図9図9は、PVAファイバーを製造した実施例8(表9参照)における、外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図10図10は、CNTファイバー(その1)を製造した実施例9(表10参照)における、外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図11図11は、CNTファイバー(その2)を製造した実施例10(表11参照)における、外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図12図12は、CNTファイバー(その3)を製造した実施例11における、[A]巻き取り速度(横軸)と、繊維径(右縦軸)およびIh/Iv(左縦軸)との関係を表すプロット、ならびに[B]巻き取り速度(横軸)と、繊維径(右縦軸)および応力(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図13図13は、CNTファイバー(その4)を製造した実施例12(表12参照)における、外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)およびIh/Iv(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図14図14は、CNTファイバー(その5)を製造した実施例13(表13参照)における、外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)およびIh/Iv(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図15図15は、CNTファイバー(その6)を製造した実施例14における、[A]巻き取り速度(横軸)と、繊維径(右縦軸)およびIh/Iv(左縦軸)との関係を表すプロット、ならびに[B]巻き取り速度(横軸)と、繊維径(右縦軸)および応力(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図16図16は、PBLGファイバー(その1)を製造した実施例15(表14参照)における、外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図17図17は、PBLGファイバー(その2)を製造した実施例16(表15参照)における、外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図18図18は、PBLGファイバー(その3)を製造した実施例17(表16参照)における、外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図19図19は、PBLGファイバー(その4)を製造した実施例18(表17参照)における、外相および内相の流量比(横軸)と、繊維径(右縦軸)および複屈折率(左縦軸)との関係を表すプロットである。
図20図20は、本発明における、湿式成膜フィルムを製造する実施形態に関する模式図等である。[A]高分子材料からなる湿式成膜フィルムの製造用の二重管マイクロノズル装置を表す模式図。[B]二重管マイクロノズル装置の内部構造(オリフィス部周辺)を表す模式図。側面(1)方向から見た断面図(縦断面図)において、Aは内管吐出口短径、Bは外管吐出口短径、Cはオリフィス短径である。側面(2)方向から見た断面図(横断面図)において、Dは内管吐出口長径、Eは外管吐出口長径、Fはオリフィス長径、Gはオリフィス長、Hは配管径である。それぞれについて例示されている数値は、実施例で用いた湿式成膜用二重管マイクロノズル装置についてのものである。
図21図21は、PSフィルムを製造した実施例19(表18参照)のSample 17-1~17-5に関する。[A]SEM画像。内相流量はいずれも110μL/min、外相流量は(a)(b)12,730μL/min、(c)(d)25,470μL/min、(e)(f)38,200μL/min、(g)(h)50,930μL/min、(i)(j)63,660μL/min。[B]外相流量とフィルムの厚みとの関係を表すプロット。
図22図22は、PSフィルムを製造した実施例19(表18参照)のSample 17-8~17-11に関する。[A]SEM画像。内相流量はいずれも55μL/min、外相流量は(a)(b)19,100μL/min、(c)(d)25,470μL/min、(e)(f)31,830μL/min、(g)(h)38,200μL/min。[B]外相流量とフィルムの厚みとの関係を表すプロット。
図23図23は、PDLLAフィルムを製造した実施例20(表19参照)における、Sample 18-1のSEM画像である。
図24図24は、PDLLAフィルムを製造した実施例20(表19参照)における、Sample 18-2のSEM画像である。
図25図25は、PDLLAフィルムを製造した実施例20(表19参照)のSample 18-3~18-7に関する。[A]SEM画像。内相流量はいずれも110μL/min、外相流量は(a)(b)12,730μL/min、(c)(d)25,470μL/min、(e)(f)38,200μL/min、(g)(h)50,930μL/min、(i)(j)76,390μL/min)。[B]外相流量とフィルムの厚みとの関係を表すプロット。
図26図26は、PVAフィルムを製造した実施例21(表20参照)のSample 19-1~19-5に関する。[A]SEM画像。内相流量はいずれも57μL/min、外相流量は(a)(b)25,470μL/min、(c)(d)38,200μL/min、(e)(f)50,930μL/min、(g)(h)63,660μL/min。[B]外相流量とフィルムの厚みとの関係を表すプロット。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本明細書において、本発明の製造方法により得られる湿式紡糸繊維および湿式成膜フィルムは、典型的な実施形態においては、それぞれナノサイズの繊維径およびナノサイズのフィルム厚を有するため、便宜上それらを「ナノ繊維」および「ナノフィルム」と称するときがある。しかしながら、本発明の製造方法により得られる湿式紡糸繊維および湿式成膜フィルムは、繊維径およびフィルム厚がナノサイズのものに限定されるものではない。繊維径およびフィルム厚がナノサイズであるかどうかにかかわらず、本発明の製造方法により得られる湿式紡糸繊維および湿式成膜フィルムを、それぞれ「本発明の湿式紡糸繊維」および「本発明の湿式成膜フィルム」と呼ぶ。
【0023】
- 湿式紡糸繊維および湿式成膜フィルムの製造方法 -
本発明の湿式紡糸繊維の製造方法は、二重管型マイクロノズル装置を用いて行われ、当該装置の内管の円形の末端から、繊維素材およびその良溶媒を含む内相を、当該装置の外管を流れる、前記繊維素材の貧溶媒を含む外相中に線状に押し出す工程(後述する押出工程)において、内相と外相とが合流するオリフィス部において、外相線速度を所定の速さ以上とし、かつ内相の流量に対する外相の流量の比(外相流量/内相流量。本明細書において「流量比」と呼ぶ。)を所定の値以上とするものである。
【0024】
本発明の湿式成膜フィルムの製造方法は、二重管型マイクロノズル装置を用いて行われ、当該装置の内管の矩形の末端から、フィルム素材およびその良溶媒を含む内相を、当該装置の外管を流れる、前記フィルム素材の貧溶媒を含む外相中にシート状に押し出す工程(押出工程)において、内相と外相とが合流するオリフィス部において、内相の流量に対する外相の流量の比(流量比)を所定の値以上とする、好ましくはさらに外相線速度を所定の速さ以上とするものである。
【0025】
<二重管型マイクロノズル装置>
本発明の湿式紡糸繊維の製造方法で用いられる「二重管型マイクロノズル装置」は、前掲特許文献7および8に記載の発明で用いられている二重管型マイクロノズル装置と基本的な構造が共通するものである。湿式紡糸繊維の製造用の二重管マイクロノズル装置の基本的な構造の例を、図1([A][B]および[C])に模式的に示す。二重管マイクロノズル装置は、内管(内相を流すためのマイクロ流路)および外管(外相を流すためのマイクロ流路)からなる二重管マイクロ流路を備えており、それぞれの管(マイクロ流路)に連結された送液手段(例えばシリンジポンプ)によって、所望の流量で内相および外相を送液することができる。内管および外管の一端(吐出口)はノズル状(マイクロノズル)になっており、それぞれ内相および外相が押し出される(吐出される)。湿式紡糸繊維を製造するために用いられる二重管型マイクロノズル装置は、前掲特許文献7および8に記載されているものと同様に、内管の吐出口は円形であり、内相は線状に押し出される。外管の吐出口も、内管を取り囲むような円形であり、内管および外管は吐出部において円形の入れ籠状(同心円状)となる。内管から押し出された内相と、外管から押し出された外相は、オリフィス部(開口部)において合流する。本発明では、内相および外相の流量によって、オリフィス部における外相線速度を調節することにより、内相に含まれている繊維素材から、所望の繊維径および複屈折率(配向性)を有する繊維を形成することができる。
【0026】
図1[B]の、内管の吐出口が円形である二重管型マイクロノズル装置のオリフィス部周辺に示されている、内管径(a)、オリフィス径(b)、配管径(c)およびオリフィス長(d)は、内相および外相の流量比とともに、オリフィスにおける内相線速度および外相線速度に関係する要素である。各要素のサイズは、所望の繊維径および高分子配向性を有する湿式紡糸繊維が得られるよう、すなわち所望の流量比で内相および外相を送液したときに、所望の外相線速度を達成できるよう、適宜設計することができ、特に限定されるものではない。例えば、内管径(a)は50μm~5000μm(5mm)、オリフィス径(b)は100μm~2000μm(2mm)、配管径(c)は500μm~100000μm(100mm)、オリフィス長(d)は1μm~100000μm(100mm)とすることができる。なお、「円形」であるとは、一般的には真円または略真円であって、製造時の公差(例えば直径に対して5%)が許容されるほか、本発明の作用効果が奏される湿式紡糸繊維が得られる範囲で、長径と短径にわずかな差がある(例えば短径に対して長径が+10%の範囲に収まる)楕円など、変形した円形も許容される。
【0027】
本発明の湿式成膜フィルムの製造方法で用いられる二重管型マイクロノズル装置の基本的な構造の例を、図20([A]および[B])に模式的に示す。湿式成膜フィルム製造用の二重管型マイクロノズル装置の基本的な構造は、湿式紡糸繊維製造用の二重管型マイクロノズル装置と共通だが、吐出口における内管および外管の形状やオリフィス部周辺の構造が相違する。湿式成膜フィルム製造用の場合、内管の吐出口は矩形であり、内相はシート状に押し出される。外管の吐出口も、内管を取り囲むような矩形であり、内管および外管は吐出物において矩形の入れ籠状となる。なお、「矩形」であるとは、本発明の作用効果が奏される湿式成膜フィルムが得られる範囲で、所望の長径および短径(アスペクト比)を有する矩形(長方形)のほか、角が丸まっているなど、変形した矩形も許容される。
【0028】
図20[B]の、内管が矩形である二重管型マイクロノズル装置のオリフィス部周辺に示されている、内管吐出口短径(A)、外管吐出口短径(B)、オリフィス短径(C)、内管吐出口長径(D)、外管吐出口長径(E)、オリフィス長径(F)、オリフィス長(G)、配管径(H)は、内相および外相の流量比とともに、オリフィスにおける内相線速度および外相線速度に関係する要素である。各要素のサイズは、所望のフィルム厚、アスペクト比、好ましくはさらに延伸度を有する湿式成膜フィルムが得られるよう、すなわち所望の流量比で内相および外相を送液したときに、好ましくは所望の外相線速度を達成できるよう、適宜設計することができ、特に限定されるものではない。例えば、
内管吐出口短径(A)は30~5000μm、
内管吐出口長径(D)は300~50000μm、
アスペクト比(D/A)は10以上、
外管吐出口短径(B)は50~10000μm、
外管吐出口長径(E)は500~100000μm、
アスペクト比(E/B)は10以上、
オリフィス短径(C)は30~5000μm、
オリフィス長径(F)は300~50000μm、
アスペクト比(F/C)は10以上、
オリフィス長(G)は500~10000μm、
配管径(H)は500~100000μm
とすることができる。なお、外管吐出口の短径および長径の数値は、入れ籠状になっている内管吐出口の短径および長径の長さを除外していない数値であり、「外管だけ」の吐出口の短径および長径(断面積)を求める場合は、「外管吐出口」の短径および長径(断面積)から「内管吐出口」の短径および長径(断面積)を差し引けば(さらに必要に応じて内管吐出口の枠を形成している部材の断面積を差し引けば)よい。
【0029】
<内相および外相>
本発明において、二重管型マイクロノズルの内管には、内相として、本発明の製造方法により製造される繊維またはフィルムを形成する素材(本明細書において「繊維/フィルム素材」と呼ぶ。)を含む溶液、すなわち繊維/フィルム素材とその良溶媒とを含む溶液が送液される。一方、二重管型マイクロノズルの外管には、外相として、繊維/フィルム素材の貧溶媒、または貧溶媒を含む溶液が送液される。なお、「繊維/フィルム素材」は、必要に応じて「繊維素材およびフィルム素材」または「繊維素材またはフィルム素材」と読み替えることができる。
【0030】
・繊維/フィルム素材
繊維/フィルム素材は、二重管型マイクロノズル装置を用いた湿式製造方法により繊維化またはフィルム化できるものであれば特に限定されるものではない。そのような繊維/フィルム素材は、公知の繊維またはフィルムの湿式製造方法において素材として用いられているものの中から選択することができるが、例えば、ポリアミド、ポリエステル、セルロースもしくはその誘導体、ビニル樹脂、カーボン材料が挙げられる。このうちの好ましいフィルム素材としては、ポリエステル、ビニル樹脂が挙げられる。これらの繊維/フィルム素材は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
本発明において「ポリアミド樹脂」は、1種または2種以上のモノマー同士がアミド結合によって結合している構造を有するポリマー(人工合成樹脂)を全般的に指す。例えば、脂肪族骨格を有するナイロン、芳香族骨格を有するアラミド、さらにポリイミドの前駆体であるポリアミド酸(ポリアミック酸)などの人工合成樹脂は代表的なポリアミド樹脂である。ポリアミド樹脂のうち、典型的なナイロンとしては、例えば、ナイロン6、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン9T、ナイロンM5T、ナイロン612などが挙げられる。典型的なアラミドとしては、例えば、ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド(登録商標「ケブラー」、登録商標「トワロン」)、ポリ-m-フェニレンイソフタルアミド(登録商標「ノーメックス」)などが挙げられる。典型的なポリアミック酸としては、例えば、デュポン社のポリイミド「カプトンH」)を2段法で合成する際の中間体に相当する、ピロメリット酸二無水物と4,4'-ジアミノジフェニルエーテルの共重合体が挙げられる。なお、ポリアミック酸は、様々なテトラカルボン酸2無水物とジアミンを原料に合成されるポリイミドのそれぞれの前駆体に相当する、様々な化合物の総称である。ポリ-p-フェニレンテレフタルアミドなどの芳香族骨格を有するアラミドは液晶高分子としても知られており、例えば硫酸を本発明における良溶媒として用いることができる。
【0032】
本発明におけるポリアミド樹脂は、上に例示に限定されるものではなく、当業者によってポリアミド樹脂に該当すると理解される様々なポリマーを用いることができる。「ポリアミド樹脂」は、分子中の結合が全てアミド結合である狭義のポリアミド樹脂のみならず、分子中の結合の主体がアミド結合である(全ての結合の種類のうち、アミド結合が占める割合が最も高い)がそれ以外の結合も含まれている広義のポリアミド樹脂、いわばポリアミド系共重合体も包含する。狭義のポリアミド樹脂は、特定のポリマー同士のアミド結合によって構成されている単独重合体またはランダム共重合体であってもよいし、特定のポリマー同士のアミド結合からなるブロックと、それとは別のポリマー同士のアミド結合からなるブロックとによって構成されているブロック共重合体であってもよい。広義のポリアミド樹脂(ポリアミド系共重合体)としては、例えば、上述した狭義のポリアミドに相当するブロックと、本明細書に別記されている狭義のポリエステル樹脂および/またはビニル樹脂に相当するブロックとによって構成されている、ブロック共重合体が挙げられる。あるいは、1つのモノマーが3個以上の官能基を有し、アミド結合を主体とする2種類以上の結合によって架橋構造を形成している(ある結合が主鎖を形成し、別の結合が側鎖における架橋を形成している)ような共重合体も広義のポリアミド樹脂(ポリアミド系共重合体)として挙げられる。
【0033】
また、液晶高分子などとして知られているポリアミノ酸、例えば、ポリ(γ-ベンジル-L-グルタミン酸)(PBLG)、ポリ(γ-メチル-L-グルタミン酸)などのポリグルタミン酸;ポリアスパラギン酸;ε-ポリリジンなども、本発明におけるポリアミド樹脂に含まれる。このようなポリアミノ酸は、L体のみからなるもの、D体のみからなるもの、DL体からなるもの、いずれであってもよい。
【0034】
本発明において「ポリエステル樹脂」は、1種または2種以上のモノマー同士がエステル結合によって結合している構造を有するポリマー(人工合成樹脂)を全般的に指す。典型的なポリエステル樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリエチレンナフタラート(PEN)、ポリトリメチレンテレフタラート(PTT)、ポリブチレンテレフタラート(PBT)、ポリブチレンナフタタラート(PBN)、ポリ乳酸(PLA)、ポリグリコール酸、ポリカプロン酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリブチレンサクシネート、ポリヒドロキシアルカノエートなどの合成樹脂(ポリエステル樹脂)を挙げることができる。しかしながら、本発明におけるポリエステル樹脂はこれらに限定されるものではなく、当業者によってポリエステル樹脂に該当すると理解される様々なポリマーを用いることができる。「ポリエステル樹脂」は、分子中の結合が全てエステル結合である狭義のポリエステル樹脂のみならず、分子中の結合の主体がエステル結合である(全ての結合の種類のうち、エステル結合が占める割合が最も高い)がそれ以外の結合も含まれている広義のポリエステル樹脂、いわばポリエステル系共重合体も包含する。狭義のポリエステルは、特定のポリマー同士のエステル結合によって構成されている単独重合体またはランダム共重合体であってもよいし、特定のポリマー同士のエステル結合からなるブロックと、それとは別のポリマー同士のエステル結合からなるブロックとによって構成されているブロック共重合体であってもよい。広義のポリエステル樹脂(ポリエステル系共重合体)としては、例えば、上述した狭義のポリエステルに相当するブロックと、本明細書に別記されている狭義のポリアミド樹脂および/またはビニル樹脂に相当するブロックとによって構成されている、ブロック共重合体が挙げられる。あるいは、1つのモノマーが3個以上の官能基を有し、エステル結合を主体とする2種類以上の結合によって架橋構造を形成している(ある結合が主鎖を形成し、別の結合が側鎖における架橋を形成している)ような共重合体も広義のポリエステル樹脂(ポリエステル系共重合体)として挙げられる。
【0035】
本発明において「セルロースまたはその誘導体」は、植物繊維等の主成分となっている天然のポリマーであるセルロース、またはセルロースを原料としてそれに化学的な処理を施すことにより得られる半合成的なポリマーを包含する。典型的なセルロース誘導体としては、例えば、酢酸セルロース、プロピオン酸セルロース、硝酸セルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどを挙げることができるが、本発明におけるセルロース誘導体はこれらに限定されるものではなく、当業者によってセルロースまたはその誘導体に該当すると理解される様々なポリマーを用いることができる。
【0036】
本発明において「ビニル樹脂」は、1種または2種以上のモノマー(ビニル化合物)同士がビニル基における付加重合によって結合している構造を有するポリマーを全般的に指す。代表的なビニル樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリスチレンが挙げられる。また、ビニル樹脂には、スチレンをモノマーとして含む単独重合体であるポリスチレン(狭義のスチレン樹脂)の他、スチレンおよび他のビニル化合物の共重合体(広義のスチレン(系)樹脂)も包含される。ポリスチレン以外のスチレン系樹脂としては、例えば、ハードセグメントとしてのポリスチレンと、ソフトセグメントとしてのポリブタジエンまたはポリイソプレンとからなるブロック共重合体であるスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS);スチレンとアクリロニトリルの共重合体であるAS樹脂(SAN);アクリロニトリル、ブタジエンおよびスチレンの共重合体であるABS樹脂などを挙げることができる。このように、「ビニル樹脂」は、分子中の結合が全てビニル基同士の付加重合によって形成されている狭義のビニル樹脂のみならず、分子中の結合の主体がビニル基同士の付加重合によって形成されている(全ての結合の種類のうち、ビニル基同士の付加重合による結合が占める割合が最も高い)がそれ以外の結合も含まれている広義のビニル樹脂、いわばビニル系共重合体も包含する。狭義のビニル樹脂は、特定のポリマー同士のビニル基における付加重合によって構成されている単独重合体またはランダム共重合体であってもよいし、特定のポリマー同士のビニル基における付加重合からなるブロックと、それとは別のポリマー同士のビニル基における付加重合からなるブロックとによって構成されているブロック共重合体であってもよい。広義のビニル樹脂(ビニル系共重合体)としては、例えば、上述した狭義のビニル樹脂に相当するブロックと、本明細書に別記されている狭義のポリアミドおよび/またはポリエステルに相当するブロックとによって構成されている、ブロック共重合体が挙げられる。あるいは、1つのモノマーが3個以上の官能基を有し、ビニル基における付加重合を主体とする2種類以上の結合によって架橋構造を形成している(ある結合が主鎖を形成し、別の結合が側鎖における架橋を形成している)ような共重合体も広義のビニル樹脂(ビニル系共重合体)として挙げられる。
【0037】
本発明において「カーボン材料」とは、いわゆる炭素繊維に加えて、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェン、フラーレンおよびそれらの誘導体など、主に炭素原子で構成されている物質(化合物)を指す。本発明では、繊維素材として用いることできる、すなわち本発明の製造方法によって繊維化できるカーボン材料であれば、どのような製造方法によって調製されたものであるかは特に限定されず用いることができる。本発明においては基本的に、カーボン材料は単独で内相に溶解し、繊維化することができるが、他の繊維素材(合成樹脂)や増粘剤など、例えばポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、セルロースもしくはその誘導体などと共に内相に溶解してもよい。炭素繊維としては、例えば、アクリル繊維から得られたPAN系(Polyacrylonitrile)炭素繊維、およびピッチから得られたピッチ系(PITCH)炭素繊維を挙げることができる。カーボンナノチューブ(CNT)としては、例えば、周壁の構成数に基づく分類による単層CNT(Single Wall Carbon Nanotube:SWNT)および多層CNT(Multi Wall Carbon Nanotube:MWNT)や、グラフェンシートの構造に基づく分類によるカイラル(らせん)型、ジグザグ型、およびアームチェア型などのCNTを挙げることができる。繊維の形成のしやすさの観点からは、アスペクト比が大きく(例えば1×10以上の)分子間力の大きなSWNTが好ましい。CNTの長さの上限は特に限定されないが、例えば10μmから数mm程度である。
【0038】
本発明の代表的な実施形態において、湿式紡糸繊維を製造するための繊維素材または湿式成膜フィルムを製造するためのフィルム素材として、ポリアミド樹脂の一例であるポリアミック酸、ポリエステル樹脂の一例であるポリエチレンテレフタラート(PET)、セルロースもしくはその誘導体の一例である酢酸セルロース、ポリエステル樹脂の一例であるポリ乳酸、ビニル樹脂の例であるポリスチレンまたはポリビニルアルコール、あるいはカーボン材料の一例である炭素繊維が用いられる。
【0039】
ポリアミック酸は、例えば下記構造式(I)に示すように、ピロメリット酸二無水物と4,4'-ジアミノジフェニルエーテルとがアミド結合によって連結している化学構造を有するポリマー(ポリアミド樹脂)の総称である。なお、このようなポリアミック酸を加熱または触媒により脱水、環化(イミド化)反応を進行させると、ポリイミド樹脂が得られる。ポリアミック酸は、そのモノマー(合成原料)によって、また集合体としての平均分子量や分子量分布によって性状が変動しうるが、本発明では実施形態に応じた適切な性状を有するポリアミック酸を用いればよい。ポリアミック酸は、公知の方法により様々な性状のものを合成することができ、また様々な性状のものを商業的に入手することが可能であり、本発明で用いるポリアミック酸がどのようにして準備されたものであるかは特に限定されるものではない。
【0040】
【化1】
【0041】
ポリエチレンテレフタラート(PET)は、下記構造式(II)に示すように、エチレングリコールとテレフタル酸とがエステル結合によって連結している化学構造を有するポリマー(ポリエステル樹脂の一種)である。ポリエチレンテレフタラートは、その集合体としての平均分子量や分子量分布によって性状が変動しうるが、本発明では実施形態に応じた適切な性状を有するポリエチレンテレフタラートを用いればよい。ポリエチレンテレフタラートは、公知の方法により様々な性状のものを合成することができ、また様々な性状のものを商業的に入手することが可能であり、本発明で用いるポリエチレンテレフタラートがどのようにして準備されたものであるかは特に限定されるものではない。
【0042】
【化2】
【0043】
酢酸セルロースは、下記構造式(III)に示すように、セルロースが有する水酸基(繰り返し単位あたり3つ存在する)が部分的に酢酸エステル化している化学構造を有するポリマー(セルロース誘導体の一種)である。酢酸セルロースは、その集合体としての重合度(例えば6%粘度が指標とされる。)や酢化度(酢酸エステル化している水酸基の程度であり、置換度、または百分率が指標とされる。)によって性状が変動しうるが、本発明では実施形態に応じた適切な性状を有する酢酸セルロースを用いればよい。酢酸セルロースは、公知の方法により様々な性状のものを合成することができ、また様々な性状のものを商業的に入手することが可能であり、本発明で用いる酢酸セルロースがどのようにして準備されたものであるかは特に限定されるものではない。
【0044】
【化3】
【0045】
ポリ乳酸(PLA)は、下記構造式(IV)に示すように、乳酸同士がエステル結合によって連結している化学構造を有するポリマー(ポリエステル樹脂の一種)である。ポリ乳酸は、その集合体としての平均分子量や分子量分布によって性状が変動しうるが、本発明では実施形態に応じた適切な性状を有するポリ乳酸を用いればよい。ポリ乳酸は、公知の方法により様々な性状のものを合成することができ、また様々な性状のものを商業的に入手することが可能であり、本発明で用いるポリ乳酸がどのようにして準備されたものであるかは特に限定されるものではない。
【0046】
【化4】
【0047】
・良溶媒
内相に含まれる良溶媒は、繊維/フィルム素材に応じて、それを十分に溶解することができる溶媒を適宜選択して用いることができる。良溶媒は、一般的には有機溶媒であり、無極性溶媒であってもよいし、極性溶媒(非プロトン性溶媒、プロトン性溶媒)であってもよい。良溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素(ヘキサン、オクタンなど)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、エステル(酢酸メチル、酢酸エチルなど)、エーテル(環状エーテルを含む。ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなど)、ケトン(環状ケトンを含む。アセトン、N-メチル-2-ピロリドンなど)、アルコール(1-ブタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エタノール、メタノールなど)、ハロゲン含有溶媒(クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサフルオロ-2-プロパノールなど)、炭酸エステル、有機酸、その他の有機溶媒(ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミドなど)、水、イオン液体、超臨界流体が挙げられる。このような良溶媒は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。本発明における良溶媒としては、公知の湿式の製造方法において各種の繊維/フィルム素材を溶解するために用いられている良溶媒を、同様に用いることが可能である。
【0048】
・内相に配合されるその他の成分
内相には、必要に応じて、繊維/フィルム素材および良溶媒以外の物質が添加されていてもよい。例えば、繊維/フィルム素材と共に界面活性剤、塩類、金属化合物、薬物などの生理活性物質、ナノ粒子、触媒、モノマー、非溶媒(外相へ拡散することのない溶媒成分)などを良溶媒に溶解させ、その溶液を内相として用いることもできる。
【0049】
例えば、繊維/フィルム素材がカーボン材料である場合、分散剤としてノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤またはカチオン界面活性剤を内相に配合することができる。ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、しょ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマーが挙げられる。アニオン界面活性剤としては、例えば、コール酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルアルコール硫酸エステル塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステルナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム、アルキルアリルスルホコハク酸ナトリウム、N-ラウロイルサルコシンナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウム、(メタ)アクリロイルポリオキシアルキレン硫酸エステルナトリウム、アルキルアルコールリン酸エステル塩、胆汁酸塩が挙げられる。カチオン界面活性剤としては、例えば、テトラアルキルアンモニウムハライド、アルキルピリジニウムハライド、アルキルイミダゾリンハライドが挙げられる。
【0050】
・貧溶媒
外相に含まれる貧溶媒は、繊維/フィルム素材および良溶媒に応じて、良溶媒を拡散させて繊維/フィルム素材を析出させることができる溶媒を適宜選択して用いることができる。代表的な貧溶媒としては、水(純水)や有機溶媒が挙げられる。貧溶媒は、いずれか1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。本発明における貧溶媒としては、公知の湿式の製造方法において各種の繊維/フィルム素材を成形する(繊維/フィルム素材を溶解させた溶液を凝集させる)ために用いられている貧溶媒を、同様に用いることが可能である。
【0051】
また、水と、水との相溶性が高い他の溶媒とを混合して、貧溶媒として用いることもできる。例えば、水と、内水相の良溶媒として用いられる溶媒(例えばN-メチル-2-ピロリドン)との混合溶媒、つまり繊維/フィルム素材の拡散速度を制御する程度に水で希釈された良溶媒を、外水相の貧溶媒として用いることができる。
【0052】
・外相に配合されるその他の成分
外相には、必要に応じて、貧溶媒以外の物質が添加されていてもよい。例えば、非イオン性界面活性剤(商品名「Tween80」(一般名:ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート)、「アクリディック」(DIC株式会社)など)またはその他の界面活性剤(界面活性作用を有する化合物)を、外相に配合することができる。そのような界面活性剤には、内相に含まれる良溶媒と外相に含まれる貧溶媒との界面の張力を低下させる、または内相に含まれる良溶媒の外相における飽和溶解度を上昇させることにより、良溶媒が外相中に拡散(移行)し易くさせる作用がある。例えば、繊維/フィルム素材がポリアミック酸、良溶媒がN-メチル-2-ピロリドンの場合や、繊維/フィルム素材がポリ乳酸、良溶媒がテトラヒドロフランの場合に、貧溶媒としての水に、非イオン性界面活性剤を添加して用いることが好ましい。外相中の界面活性剤の濃度は、上述したような界面活性剤の作用を考慮しながら適宜調節することができ、繊維/フィルム素材によっては界面活性剤が必要ない場合もあるが、通常0~10重量%、好ましくは0~5重量%である。
【0053】
本発明の好ましい実施形態において、繊維/フィルム素材は例えば下記表に示す8種類のいずれかとすることができる。本明細書において、それらの8種類の繊維/フィルム素材を用いる実施形態を、それぞれ第1~第8実施形態と呼ぶ。各実施形態の繊維/フィルム素材に対して用いる良溶媒および貧溶媒は、例えば下記表に示すような組み合わせとすることができる。ただし、当業者であれば、表に示した繊維/フィルム素材についてその他の良溶媒および貧溶媒の組み合わせであってもよいことを理解することができ、また表に示されていない他の繊維/フィルム素材に対する良溶媒および貧溶媒の適切な組み合わせについても理解することができる。
【0054】
【表1】
【0055】
・調製方法
内相および外相はそれぞれ、本発明の製造方法に供する前に、上記の繊維/フィルム素材、良溶媒、貧溶媒などを用いて、常法に従って混合および溶解して調製しておけばよい。
【0056】
内相中の繊維/フィルム素材の濃度は、用いる繊維/フィルム素材および良溶媒の種類、ならびに外相に含まれる貧溶媒およびその他の成分(界面活性剤等)の種類などに応じて、必要であれば内相の粘度が適切な範囲となるようにして、また得られる繊維/フィルムの性状(繊維径、フィルム厚、および複屈折率)や用途を考慮しながら、適宜調整することができる。例えば、繊維/フィルム素材の種類に応じて、内相中の繊維/フィルム素材の濃度と、外相及び内相の流量比とによって、得られる繊維の繊維径および複屈折率やフィルムの厚さを調節することができる。
【0057】
例えば、繊維/フィルム素材がポリアミド樹脂(代表的には第1実施形態のポリアミック酸、第8実施形態のポリアミノ酸)である場合、その内相中の濃度は、一般的に1~30重量%である。例えば、繊維/フィルム素材がポリアミック酸の場合は、一般的に1~20重量%、好ましくは1~10重量%であり、繊維/フィルム素材がポリアミノ酸の場合は、一般的に1~30重量%、好ましくは1~20重量%である。
【0058】
上記の内相を用いる場合、湿式紡糸繊維の製造方法における外相線速度および流量比は、一般的にはそれぞれ0.1ms-1以上および10以上であり、繊維素材がポリアミック酸の場合は、好ましくはそれぞれ0.5ms-1以上および100以上であり、繊維素材がポリアミノ酸の場合は、好ましくはそれぞれ0.5ms-1以上および100以上である。
【0059】
繊維/フィルム素材がポリエステル樹脂(代表的には第2実施形態のPET、第4実施形態のポリ乳酸)である場合、その内相中の濃度は、一般的に1~50重量%である。例えば、繊維/フィルム素材がPETの場合は、一般的に1~20重量%、好ましくは2~10重量%であり、ポリ乳酸の場合は、一般的に5~50重量%、好ましくは10~50重量%である。
【0060】
上記の内相を用いる場合、湿式紡糸繊維の製造方法における外相線速度および流量比は、一般的にはそれぞれ0.1ms-1以上および10以上であり、繊維素材がPETの場合は好ましくはそれぞれ1.0ms-1以上および300以上であり、繊維素材がポリ乳酸の場合は、好ましくはそれぞれ0.5ms-1以上および20以上である。
【0061】
上記の内相を用いる場合、湿式成膜フィルムの製造方法における流量比は、一般的には1以上であり、フィルム素材がポリ乳酸の場合は、好ましくは100以上である。この際の外相線速度は、一般的には0.1ms-1以上であってもよく、フィルム素材がポリ乳酸の場合は、好ましくは0.5ms-1以上であってもよい。
【0062】
繊維/フィルム素材がセルロースまたはその誘導体(代表的には第3実施形態の酢酸セルロース)である場合、その内相中の濃度は、一般的に1~30重量%、好ましくは2~20重量%である。
【0063】
上記の内相を用いる場合、湿式紡糸繊維の製造方法における外相線速度および流量比は、一般的にはそれぞれ0.1ms-1以上および10以上、好ましくはそれぞれ0.5ms-1以上および100以上である。
【0064】
繊維/フィルム素材がビニル樹脂(代表的には第5実施形態のポリスチレン、第6実施形態のポリビニルアルコール)である場合、その内相中の濃度は、一般的におよそ1~50重量%、好ましくは2~40重量%である。
【0065】
上記の内相を用いる場合、湿式紡糸繊維の製造方法における外相線速度および流量比は、一般的にはそれぞれ0.1ms-1以上および10以上であり、素材がポリスチレンまたはポリビニルアルコールの場合は、好ましくはそれぞれ0.2ms-1以上および25以上である。
【0066】
上記の内相を用いる場合、湿式成膜フィルムの製造方法における流量比は、一般的には1以上であり、フィルム素材がポリスチレンまたはポリビニルアルコールの場合は、好ましくは100以上である。この際の外相線速度は、一般的には0.1ms-1以上であってもよく、例えばフィルム素材がポリスチレンまたはポリビニルアルコールの場合は、好ましくは0.5ms-1以上、より好ましくは1.0ms-1以上であってもよい。
【0067】
繊維/フィルム素材がカーボン材料(代表的には第7実施形態の炭素繊維)である場合、その内相中の濃度は、一般的に0.1~2重量%、好ましくは0.1~0.5重量%である。
【0068】
上記の内相を用いる場合、湿式紡糸繊維の製造方法における外相線速度および流量比は、一般的にはそれぞれ0.1ms-1以上および10以上、好ましくはそれぞれ0.25ms-1以上および50以上である。
【0069】
<製造工程>
本発明の湿式紡糸繊維および湿式成膜フィルムの製造方法は、どちらも一般的に、下記のような第1工程(押出工程)および第2工程(生成工程)を含み、必要に応じてさらに第3工程(巻取工程)を含むことができる。これらの第1~第3工程は、通常は同時進行で、連続的に行われるものである。
【0070】
・第1工程:押出工程
本発明の製造方法における第1工程:押出工程は、装置の内管の末端から、繊維/フィルム素材およびその良溶媒を含む内相を、装置の外管を流れる、繊維/フィルム素材の貧溶媒を含む外相中に、線状に押し出す工程である。
【0071】
この押出工程において、湿式紡糸繊維を製造する場合は、適切な内管径、オリフィス径、配管径およびオリフィス長を有する二重管型マイクロノズル装置を用い、内相および外相それぞれの流量を適切に設定することで、内相および外相の流量比と、内相と外相とが合流するオリフィス部における外相線速度を所定の範囲となるよう調節することにより、得られる繊維の断面径(繊維径)および複屈折率を所望のものとすることができる。また湿式成膜フィルムを製造する場合は、適切な内管の短径および長径、吐出口の短径および長径、オリフィスの短径および長径、オリフィス長、配管径を有する二重管型マイクロノズル装置を用い、内相および外相それぞれの流量を適切に設定することで、内相および外相の流量比と、好ましくは内相と外相とが合流するオリフィス部における外相線速度を所定の範囲となるよう調節することにより、得られるフィルムのアスペクト比および厚さ、好ましくは延伸度などを所望のものとすることができる。
【0072】
本発明では、内相流量に対する外相流量の比(流量比)が所定の値以上となるようにする。流量比は、内相および外相としてどのような繊維/フィルム素材、貧溶媒、良溶媒等を含むものを用いるかに応じて、またどのような繊維径および複屈折率(配向性)を有する繊維や、アスペクト比、厚さ、延伸度などを有するフィルムを製造するかに応じて、適宜調節することができ、その範囲は特に限定されるものではない。一般的に、流量比の値が大きくなるほど、内相の良溶媒の外相への拡散除去率も増大し、オリフィス部での内相の断面積が大幅に縮小されるため、湿式紡糸繊維にあっては、得られる繊維の断面径は細くなる一方、繊維の長手方向への線速度が増大して複屈折率は高くなる傾向にあり、湿式成膜フィルムにあっては、得られるフィルムの厚さは薄く、アスペクト比は大きくなり、好ましくは延伸度も大きくなる傾向にある。本発明における流量比は、湿式紡糸繊維および湿式成膜フィルムのそれぞれについて、例えば、1以上、10以上、100以上、1000以上、2000以上、5000以上、10000以上とすることができる。流量比の上限値は特に限定されないが、湿式紡糸繊維および湿式成膜フィルムのそれぞれについて、例えば100000以下、10000以下、5000以下、2000以下、1000以下などとすることができる。流量比は、高すぎると紡糸または成膜の操作が困難になり、また低すぎると(特に外相流量が低すぎると)紡糸または成膜の際にノズルが閉塞するなどして、所望の湿式紡糸繊維または湿式成膜フィルムが得られなくなることがあるので、そのような問題が起きない範囲で適宜調整すればよい。本発明の好ましい実施形態の一例として、特定の繊維素材について、従来の製造方法(特に湿式紡糸法)では得られない繊維径および複屈折率を達成できる流量比、例えば繊維径が1μm以下となる(つまりナノサイズの繊維径のファイバーを製造できる)流量比を選択することができる。本発明の好ましい実施形態の一例として、特定のフィルム素材について、従来の製造方法(特に湿式成膜法)では得られないアスペクト比およびフィルム厚、好ましくはさらに延伸度を達成できる流量比、例えばフィルム厚が1μm以下となる(つまりナノサイズの厚さのフィルムを製造できる)流量比を選択することができる。
【0073】
湿式紡糸繊維の製造方法における内相流量および外相流量は、流量比が上記の範囲となるよう、またオリフィス部における外相線速度が所定の範囲となるよう、適宜調整することができ、特に限定されるものではない。内相流量は、通常1~100μL min-1、好ましくは1~10μL min-1である。外相流量は、通常100~500000μL min-1、好ましくは1000~20000μL min-1である。
【0074】
オリフィス部における外相線速度は、次の計算式より求められる値とみなすことができる。
【0075】
【数1】
【0076】
湿式紡糸繊維用の二重管マイクロノズル装置が図1[B]のような内部構造を有するとき、s=(b/2)π(b:オリフィス径)とみなすことができる。sは、必要に応じて、配向性を増大させるのに十分な外相線速度が得られるのであれば、内相流量および外相流量それぞれの値を考慮して、調整することができる。オリフィス部での外相線速度は、内相流量および外相流量およびsによって定まるものである。本発明の湿式紡糸繊維の製造方法における外相線速度は、例えば、0.1ms-1以上、0.5ms-1以上、1ms-1以上、5ms-1以上、10ms-1以上とすることができる。本発明の湿式紡糸繊維の製造方法における外相線速度の上限値は特に限定されないが、例えば、100ms-1以下、50ms-1以下、10ms-1以下とすることができる。
【0077】
湿式成膜フィルムの製造方法における内相および外相流量も、流量比が上記の範囲となるよう、また好ましくはオリフィス部における外相線速度が所定の範囲となるよう、適宜調整することができ、特に限定されるものではない。内相流量は、通常1~200μL min-1、好ましくは10~150μL min-1である。外相流量は、通常1000~200000μL min-1、好ましくは5000~100000μL min-1である。
【0078】
湿式成膜フィルムを製造する際のオリフィス部における外相線速度も、前記数式(1)による求められる値とみなすことができる。湿式成膜フィルム用の二重管マイクロノズル装置が図12[B]のような内部構造を有するとき、s=C×F(C:オリフィス短径、F:オリフィス長径)とみなすことができる。sは、必要に応じて、延伸率等を増大させるのに十分な外相線速度が得られるよう、内相流量および外相流量それぞれの値を考慮して、調整することができる。本発明の湿式成膜フィルムの製造方法の好ましい実施形態における外相線速度は、例えば、0.1ms-1以上、1ms-1以上、10ms-1以上、20ms-1以上、40ms-1以上とすることができる。本発明の湿式成膜フィルムの製造方法における外相線速度の上限値は特に限定されないが、例えば、200ms-1以下、160ms-1以下、100ms-1以下、10ms-1以下とすることができる。
【0079】
・第2工程:生成工程
本発明の製造方法における第2工程:生成工程は、上述したような押出工程により外相中に線状に押し出された内相に含まれている繊維素材を繊維化する工程、または上述したような押出工程により外相中にシート状に押し出された内相に含まれているフィルム素材をフィルム化する工程である。具体的には、内相中の良溶媒が外相に拡散することにより、内相中の繊維/フィルム素材を析出させて、繊維素材からなる繊維またはフィルム素材からなるフィルムを生成させる工程である。ここで、「拡散」とは、外相における良溶媒の飽和溶解度に達するまで、内相中の良溶媒が外相へ移行することを指す。この際、前述したような界面活性剤等の成分を外相に添加することにより、界面の乱れを安定化させて繊維径またはフィルム厚の均質性を高めるようにしてもよい。
【0080】
生成工程では、初期に形成された繊維もしくはフィルムを引き取ること(次に述べる第3工程における巻き取りであってもよい。)により、または繊維もしくはフィルムをオリフィスから離れた位置に回収することにより、先に生成した繊維もしくはフィルムによって、後の繊維もしくはフィルムの生成が妨げられることがなくなるため、効率的に生成工程を進行させることができる。
【0081】
・第3工程:巻取工程
本発明の製造方法において、必要に応じて設けることのできる第3工程:巻取工程は、上記生成工程により得られた繊維またはフィルムを巻き取る工程である。製造される繊維またはフィルムの用途を考慮したときに(例えばカーボン材料を素材とする繊維の応力、Ih/Ivなどの観点から)巻き取った方が好都合であれば、巻取工程を設ければよい。なお、「Ih/Iv」は、偏光ラマン測定において、繊維を偏光レーザー光に対して水平方向に測定したGバンドのラマン強度Ihと垂直方向に対して測定したGバンドのラマン強度Ivの比であり、Ih/Ivの値が大きいほど配向性が高いとされ、配向性の指標として用いることができる(WO2014/185497参照)。
【0082】
本発明の湿式紡糸繊維の製造方法では、前述したような外相線速度の調節等によってもたらされる作用効果により、延伸処理(押出工程における内相の押出速度よりも速い速度で繊維を巻き取ること)を行わなくとも、所望の繊維径および複屈折率を有する繊維を製造することができる。本発明の湿式成膜フィルムの製造方法でも同様に、延伸処理を行わなくても所望のアスペクト比、フィルム厚、好ましくは延伸度を有するフィルムを製造することができる。したがって、繊維またはフィルムに関する性状の更なる向上(例えば応力、Ih/Iv)などの、特別な目的による延伸処理が別途必要でない限り、本発明の巻取工程では延伸処理は行われない。延伸処理を行う場合の巻き取り速度は、繊維/フィルム素材に応じて適宜調節することができるが、例えば、繊維/フィルム素材としてカーボン材料またはその他の素材を用いる場合に、0.1~20cm s-1、好ましくは0.5~10cm s-1とすることができる。
【0083】
-湿式紡糸繊維-
本発明の湿式紡糸繊維は、本発明の湿式紡糸繊維の製造方法によって得られるものであり、前述したような押出工程における線速度比等に応じて変化する繊維径および複屈折率(配向性)を有する。
【0084】
なお、本明細書でいう「繊維径」は、湿式紡糸繊維の複数箇所の繊維径(繊維の断面を円とみなしたときの直径)の平均値であって、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察により、十分な数(例えば50箇所)の繊維径を測定することにより算出することができる。
【0085】
本明細書でいう「複屈折率」も、湿式紡糸繊維の複数箇所の複屈折率の平均値であって、例えば、偏光顕微鏡を用いた観察により、十分な数(例えば50箇所)の位相差を測定し、その位相差と前記繊維径とを用いた下記式より算出することができる。
【0086】
【数2】
【0087】
なお、湿式紡糸繊維(繊維素材)の種類を問わず、本発明の製造方法によって得られた同じ繊維素材で形成されている湿式紡糸繊維同士を比較すると、繊維径が小さいほど複屈折率は高い傾向があり、回帰式を作成することが可能である。本発明において、線速度比等の条件により繊維径を変化させた、同じ繊維素材で形成されている複数の湿式紡糸繊維について、上記のように繊維径および複屈折率を測定し、その回帰式を作成することにより、ある繊維径を有する本発明の製造方法によって得られた湿式紡糸繊維の複屈折率を(上記回帰式への繊維径の内挿または外挿により)推定することが可能である。ただし、本発明の製造方法によって得られる繊維径の低下と共に分子配向性を向上させた湿式紡糸繊維と、その他の製造方法によって得られる(従来の一般的な延伸方法等による、繊維径の低下に伴う分子配向性の向上の程度が本発明ほどではない)湿式紡糸繊維とでは、湿式紡糸繊維の繊維素材が同じであっても回帰式は異なる。
【0088】
本発明の湿式紡糸繊維の繊維径および複屈折率は、用途に応じて適宜調整され、その範囲は特に限定されるものではない。繊維径は、例えば1000μm以下、100μm以下、10μm以下または1μm以下とすることができる。繊維径の下限値は特に限定されないが、例えば1nm以上、10nm以上、100nm以上、1000nm以上などとすることができる。複屈折率は、例えば0.0001以上、0.001以上、0.01以上などとすることができる。複屈折率の上限値は特に限定されないが、例えば0.1以下、0.05以下、0.01以下などとすることができる。
【0089】
本発明の湿式紡糸繊維の素材は、前述したような二重管型マイクロノズル装置を用いた湿式紡糸繊維の製造方法によって繊維化できるものであればよく、特に限定されるものではない。端的に言えば、繊維素材およびその良溶媒を含む内相を、その繊維素材の貧溶媒を含む外相中に線状に押し出したときに、析出して繊維化することのできる素材であればよく、どのような繊維素材が本発明の湿式紡糸繊維の素材に該当するかは当業者にとって明らかである。代表的な繊維素材としては、前述したような、ポリアミド、ポリエステル、セルロースもしくはその誘導体、またはカーボン材料が挙げられる。
【0090】
繊維素材がポリアミド樹脂(代表的には第1実施形態のポリアミック酸および第8実施形態のポリアミノ酸)である場合、繊維径および複屈折率は、一般的にはそれぞれ約50μm以下および約0.001以上、好ましくはそれぞれ20μm以下および0.005以上、より好ましくはそれぞれ10μm以下および0.01以上である。
【0091】
繊維素材がポリエステル樹脂(代表的には第2実施形態のPET、第4実施形態のポリ乳酸)である場合、繊維径および複屈折率は、一般的にはそれぞれ約100μm以下および約0.001以上、好ましくはそれぞれ50μm以下および0.002以上である。
【0092】
繊維素材がセルロースまたはその誘導体(代表的には第3実施形態の酢酸セルロース)である場合、繊維径および複屈折率は、一般的には約50μm以下および約0.001以上、好ましくはそれぞれ10μm以下および0.005以上である。
【0093】
繊維素材がビニル樹脂(代表的には第5実施形態のポリスチレン、第6実施形態のポリビニルアルコール)である場合、繊維径および複屈折率は、一般的には約100μm以下および約0.001以上、好ましくはそれぞれ50μm以下(ポリビニルアルコールの場合はより好ましくは10μm以下)および0.002以上である。
【0094】
繊維素材がカーボン材料(代表的には第7実施形態の炭素繊維)である場合、繊維径および複屈折率は、一般的には約50μm以下および約0.001以上、好ましくはそれぞれ20μm以下および0.002以上である。
【0095】
本発明の湿式紡糸繊維の用途は特に限定されるものではなく、湿式紡糸繊維素材繊維素材や、繊維径および複屈折率(配向性)などに適した、様々な目的のために本発明の湿式紡糸繊維を利用することができる。例えば、従来のいわゆるナノファイバー(ナノ繊維)と同様に、医療用器具(生体内埋込材料、DDS、縫合糸、人工血管等)、化粧用器具、細胞培養用器具(増殖用足場(スキャフォールド)等)、フィルター、電池用素材、電磁波遮蔽材、導電性材料、熱伝導性材料、衣料、繊維強化プラスチック、塗装材などの材料として用いることができる。
【0096】
-湿式成膜フィルム-
本発明の湿式成膜フィルムは、本発明の湿式成膜フィルムの製造方法によって得られるものであり、前述したような押出工程における内相流量および外相流量(流量比)、好ましくはさらに外相線速度比に応じて変化する、アスペクト比およびフィルム厚、好ましくはさらに延伸度を有する。
【0097】
なお、本明細書でいう「フィルム厚」は、湿式成膜フィルムの複数箇所のフィルム厚の平均値であって、例えば、SEMを用いた観察により、十分な数(例えば50箇所)のフィルム厚を測定することにより算出することができる。同様に「アスペクト比」も、湿式成膜フィルムの複数箇所のアスペクト比の平均値であって、例えば、SEMを用いた観察により、十分な数(例えば50箇所)のフィルム厚および横手方向の幅を測定し、アスペクト比(横手方向の幅/フィルム厚)に換算することにより、算出することができる。
【0098】
本発明の湿式成膜フィルムのフィルム厚は、用途に応じて適宜調整され、その範囲は特に限定されるものではない。フィルム厚は、例えば1000μm以下、100μm以下、10μm以下または1μm以下とすることができる。フィルム厚の下限値は特に限定されないが、例えば1nm以上、10nm以上、100nm以上、1000nm以上などとすることができる。アスペクト比は、例えば100以上、1000以上などとすることができる。アスペクト比の上限値は特に限定されない。
【0099】
本発明の湿式成膜フィルムの素材は、前述したような二重管型マイクロノズル装置を用いた湿式成膜フィルムの製造方法によってフィルム化できるものであればよく、特に限定されるものではない。端的に言えば、フィルム素材およびその良溶媒を含む内相を、そのフィルム素材の貧溶媒を含む外相中にシート状に押し出したときに、析出してフィルム化することのできる素材であればよく、どのようなフィルム素材が本発明の湿式成膜フィルムの素材に該当するかは当業者にとって明らかである。代表的なフィルム素材としては、前述したような、ポリアミド、ポリエステル、セルロースもしくはその誘導体、またはカーボン材料が挙げられる。
【0100】
フィルム素材がポリエステル樹脂(代表的には第4実施形態のポリ乳酸)である場合、フィルム厚は、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下である。アスペクト比は、好ましくは100以上、より好ましくは1000以上である。
【0101】
フィルム素材がビニル樹脂(代表的には第5実施形態のポリスチレン、第6実施形態のポリビニルアルコール)である場合、フィルム厚は、好ましくは2000μm以下、より好ましくは1000μm以下、さらに好ましくは500μm以下である。アスペクト比は、好ましくは100以上、より好ましくは1000以上である。
【0102】
本発明の湿式成膜フィルムの用途は特に限定されるものではなく、湿式成膜フィルム素材や、フィルム厚およびアスペクト比などに適した、様々な目的のために本発明の湿式成膜フィルムを利用することができる。例えば、医療用器具(生体内埋込材料、DDS、縫合糸、人工血管等)、化粧用器具、細胞培養用器具(増殖用足場(スキャフォールド)等)、フィルター、電池用素材、電磁波遮蔽材、導電性材料、熱伝導性材料、衣料、繊維強化プラスチック、塗装材などの材料として用いることができる。
【実施例
【0103】
以下、図1に示す内部構造(特に図1[B]に示す各部位のサイズを有するもの、オリフィス断面積は、(b/2)π=約3.14×10-8)を有する二重管型マイクロノズル装置を用いて、代表的な繊維素材である、ポリアミック酸、ポリエチレンテレフタラート(PET)、酢酸セルロース、ポリ乳酸(PLA)、ポリスチレン(PS)、およびポリビニルアルコール(PVA)からなる湿式紡糸繊維を製造した実施形態(実施例1~18)、ならびに図20に示す内部構造(特に図20[B]に示す各部位のサイズを有するもの、オリフィス断面積は4×10-7)を有する二重管型マイクロノズル装置を用いて、代表的なフィルム素材である、ポリスチレン(PS)、ポリ乳酸(PLA)、およびポリビニルアルコール(PVA)からなる湿式成膜フィルムを製造した実施形態(実施例19~21)に基づき、本発明をより具体的に説明する。しかしながら本発明がこれらの二重管型マイクロノズル装置ならびに繊維素材およびフィルム素材を用いる実施形態によって限定的に解釈されるべきものでないことは当業者にとって明らかである。実施例で用いた二重管型マイクロノズル装置とは異なるサイズの内部構造を有する二重管型マイクロノズル装置や、実施例で用いた繊維素材およびフィルム素材以外の湿式紡糸繊維の繊維素材および湿式成膜フィルムのフィルム素材を用いた場合も、同様にして本発明を実施できることを当業者は理解することができる。
【0104】
[実施例1]ポリアミック酸ファイバー
表2に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、ポリアミック酸からなる湿式紡糸繊維(ポリアミック酸ファイバー)を製造した。ポリアミック酸としては、ピロメリット酸二無水物と4,4'-ジアミノジフェニルエーテルとがアミド結合によって連結している、前記構造式で表されるもの(Poly(pyromellitic dianhydride-co-4,4’-oxydianiline),amic acid solution、15-16 wt% N-Methyl-2-pyrrolidone溶液、Sigma Aldrich製)を用いた。
【0105】
図2[A]に、表2のSample 1-10のSEM写真を示す。この条件では平均直径(繊維径)が約3μmのポリアミック酸ファイバーが得られた。
【0106】
図2[B]に、表2に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたポリアミック酸ファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。図2[B]より、流量比の増加に伴って、得られるポリアミック酸ファイバーの直径が減少すること、その一方で複屈折率は増加する傾向を示すことが分かる。この結果より、流量比が増加するにつれて、ファイバー内のポリアミック酸分子の長軸方向への分子配向性が向上することが示唆された。
【0107】
【表2】
【0108】
[実施例2]ポリエチレンテレフタラート(PET)ファイバー
表3に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、PETからなる湿式紡糸繊維(PETファイバー)を製造した。なお、実施例で用いたPETはSigma Aldrich製の市販品(Mw:130,000)である。
【0109】
図3[A]に、表3のSample 2-4のSEM写真を示す。この条件では平均直径(繊維径)が約1.5μmのPETファイバーが得られた。
【0110】
図3[B]に、表3に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたPETファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。図3[B]より、実施例1と同様に、流量比の増加に伴って、得られるPETファイバーの繊維径は減少し、複屈折率は増加する傾向を示すことが分かる。この結果より、実施例1と同様に、流量比が増加するにつれて、ファイバー内のPET分子の長軸方向への分子配向性が向上することが示唆された。
【0111】
【表3】
【0112】
[実施例3]酢酸セルロースファイバー
表4に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、酢酸セルロースからなる湿式紡糸繊維(酢酸セルロースファイバー)を製造した。なお、実施例で用いた酢酸セルロースは、置換度が5wt%のものである。
【0113】
図4[A]に、表4のSample 3-3のSEM写真を示す。この条件では平均直径(繊維径)が約2μmの酢酸セルロースファイバーが得られた。
【0114】
図4[B]に、表4に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られた酢酸セルロースファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。図4[B]より、実施例1等と同様に、流速比の増加に伴って、得られる酢酸セルロースファイバーの直径は減少し、複屈折率は増加する傾向を示すことが分かる。この結果より、実施例1等と同様に、流速比が増加するにつれて、ファイバー内の酢酸セルロース分子の長軸方向への分子配向性が向上することが示唆された。
【0115】
【表4】
【0116】
[実施例4]ポリ乳酸(PLA)ファイバー(その1:内相がTFHを含む)
表5に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、PLAからなる湿式紡糸繊維(PLAファイバー)を製造した。なお、実施例4(および後記実施例5および実施例12)で用いたPLAは、武蔵野化学研究所製のポリ-DL-乳酸(後記実施例12において「PDLDA」と表記することがある。)(Mw:115,000)である。
【0117】
図5[A]に、表5のSample 4-7のSEM写真を示す。この条件では平均直径(繊維径)が約30μmのPLAファイバーが得られた。
【0118】
図5[B]に、表5に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたPLAファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。外相線速度が33.3から167の間では、繊維径が減少傾向を示したが、それ以降はほとんど変化が見られなかった。複屈折率については、外相線速度が167までは増加し、その後はわずかに減少し、再度増加したが、全体としては、外相線速度の増加に伴って複屈折率も増加する傾向にあるといえる。この結果からも、外相線速度が高速である条件下での紡糸によって、長軸方向への分子配向性が向上したPLAファイバーが得られることが示唆された。
【0119】
【表5】
【0120】
[実施例5]PLAファイバー(その2:内相が酢酸エチルを含む)
表6に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、PLAからなる湿式紡糸繊維(PLAファイバー)を製造した。
【0121】
図6に、表6に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたPLAファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。
【0122】
【表6】
【0123】
[実施例6]ポリスチレン(PS)ファイバー(その1:内相がTHFを含む)
表7に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、ポリスチレンからなる湿式紡糸繊維(PSファイバー)を製造した。なお、実施例6(および後記実施例7および実施例11)で用いたPSは、市販のポリスチレン(重合度約2,000)である。
【0124】
図7に、表7に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたPSファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。
【0125】
【表7】
【0126】
[実施例7]PSファイバー(その2:内相が酢酸エチルを含む)
表8に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、ポリスチレンからなる湿式紡糸繊維(PSファイバー)を製造した。
【0127】
図8に、表8に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたPSファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。
【0128】
【表8】
【0129】
[実施例8]ポリビニルアルコール(PVA)ファイバー
表9に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、ポリスチレンからなる湿式紡糸繊維(PSファイバー)を製造した。なお、実施例8(および後記実施例13)で用いたPVAは、「ポバール(登録商標)PVA-217」(株式会社クラレ、重合度1,700、けん化度87~89mol%)である。
【0130】
図9に、表9に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたPSファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。
【0131】
【表9】
【0132】
[実施例9]カーボンナノチューブ(CNT)ファイバー(その1:内相流量5μL/min、分散剤SC)
表10に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、カーボンナノチューブからなる湿式紡糸繊維(CNTファイバー)を製造した。なお、実施例で用いたCNTは、スーパーグロース法により得られた単層カーボンナノチューブ(SWCNT)(日本ゼオン製)である。
【0133】
図10に、表10に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたCNTファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。
【0134】
【表10】
【0135】
[実施例10]CNTファイバー(その2:内相流量10mL/min、分散剤SC)
表11に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、CNT(前記SWCNT)からなる湿式紡糸繊維(CNTファイバー)を製造した。
【0136】
図11に、表11に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたCNTファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。
【0137】
【表11】
【0138】
[実施例11]CNTファイバー(その3:巻取り速度)
表11のSample 10-1と同じ条件(内相溶液、外相溶液、内相流量、外相流量および外相線速度)で紡糸する際に、1.9~8.4 cm sec-1の巻き取り速度で生成した繊維を巻き取り、Ih/Ivおよび応力を測定した。結果を図12[A]および[B]に示す。なお、図中の巻き取り速度が0のサンプルは、表11のSample 10-1に相当する。
【0139】
[実施例12]CNTファイバー(その4:内相流量5mL/min、分散剤COD)
表12に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、CNT(前記SWCNT)からなる湿式紡糸繊維(CNTファイバー)を製造した。
【0140】
【表12】
【0141】
図13に、表12に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたCNTファイバーの各サンプルのIh/Ivおよび繊維径を示す。
【0142】
[実施例13]CNTファイバー(その5:内相流量10mL/min、分散剤COD)
表13に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、CNT(前記SWCNT)からなる湿式紡糸繊維(CNTファイバー)を製造した。
【0143】
【表13】
【0144】
図14に、表13に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたCNTファイバーの各サンプルのIh/Ivおよび繊維径を示す。
【0145】
[実施例14]CNTファイバー(その6:巻取り速度)
表12のSample 11-1と同じ条件(内相溶液、外相溶液、内相流量、外相流量および外相線速度)で紡糸する際に、1.9~8.4 cm sec-1の巻き取り速度で生成した繊維を巻き取り、Ih/Ivおよび応力を測定した。結果を図15[A]および[B]に示す。なお、図中の巻き取り速度が0のサンプルは、表12のSample 11-1に相当する。
【0146】
[実施例15]液晶高分子(PBLG)ファイバー(その1)
表14に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、液晶高分子:ポリ(γ-ベンジル-L-グルタミン酸)からなる湿式紡糸繊維(PBLGファイバー)を製造した。本実施例で用いたPBLGは、分子量70,000~150,000の市販品である。
【0147】
図16に、表14に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたPBLGファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。
【0148】
【表14】
【0149】
[実施例16]PBLGファイバー(その2)
表15に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、液晶高分子:ポリ(γ-ベンジル-L-グルタミン酸)からなる湿式紡糸繊維(PBLGファイバー)を製造した。本実施例で用いたPBLGは、下記の重合条件に従って得られた、分子量約10,100の合成品である。
溶媒:1,4-ジオキサン
開始剤:トリエチルアミン
モノマー/開始剤:50/1
反応温度:15℃
反応時間:120h
【0150】
図17に、表15に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたPBLGファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。
【0151】
【表15】
【0152】
[実施例17]PBLGファイバー(その3)
表16に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、液晶高分子:ポリ(γ-ベンジル-L-グルタミン酸)からなる湿式紡糸繊維(PBLGファイバー)を製造した。本実施例で用いたPBLGは、実施例17と同じ合成品である。
【0153】
図18に、表16に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたPBLGファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。
【0154】
【表16】
【0155】
[実施例18]PBLGファイバー(その4)
表17に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式紡糸繊維用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、液晶高分子:ポリ(γ-ベンジル-L-グルタミン酸)からなる湿式紡糸繊維(PBLGファイバー)を製造した。本実施例で用いたPBLGは、実施例17と同じ合成品である。
【0156】
図19に、表17に示される内相流量および外相流量から算出される流量比(外相流量/内相流量)と、その条件下で得られたPBLGファイバーの各サンプルの繊維径および複屈折率を示す。
【0157】
【表17】
【0158】
[実施例19]ポリスチレン(PS)フィルム
表18に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式成膜フィルム用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、ポリスチレンからなる湿式成膜フィルム(PSフィルム)を製造した。但し、Sample 17-6および17-7の条件ではデバイスの閉塞が起こり、PSフィルム生成物を得ることができなかった。
【0159】
【表18】
【0160】
図21[A]に、Sample 17-1~17-5に従って、内相流量を110μL/minに固定した条件で外相流量を変化させたときのPSフィルム生成物のSEM画像を示す。この図より、いずれの条件においてもフィルム(フィルム形状の繊維)が得られ、(d)、(f)、(h)、(j)より、それらのフィルムの厚みはナノサイズであり、「ナノフィルム」と呼べるものであることが分かる。
【0161】
図21[B]に、Sample 17-1~17-5における、外相(連続相)の流速とPSフィルムの厚みとの関係を示す。この図より、外相流量が増加するにつれてフィルムの厚みが減少する傾向が見られ、最小で厚みが200nmのフィルム(ナノフィルム)が得られた。
【0162】
図22[A]に、Sample 17-8~17-11に従って、内相流量を55μL/minに固定した条件で外相流量を変化させたときのPSフィルム生成物のSEM画像を示す。外相流量を19,100~38,200μL/minとすることにより、デバイスの閉塞を起こさずに、ナノフィルムが得られた。
【0163】
図22[B]に、Sample 17-8~17-11における、外相流量とPSフィルムの厚みとの関係を示す。外相流量が増加するとフィルムの厚みは減少したが、外相流量が25,470μL/min以上の条件(Sample 17-9~17-11)ではほとんど変化がなかった。
【0164】
以上の結果から,本発明の製造方法(湿式成膜方法)でPSナノフィルムを調製でき、そのフィルム厚みは外相(連続相)の流量を変えることで制御できることが示唆された。
【0165】
[実施例20]ポリ-DL-乳酸(PDLLA)フィルム
表19に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式成膜フィルム用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、ポリ-DL-乳酸からなる湿式成膜フィルム(PDLLAフィルム)を製造した。
【0166】
【表19】
【0167】
図23に、Sample 18-1に示す条件に従ったPDLLAフィルム生成物のSEM画像を示す。この条件では、フィルムの厚みは約340nmであった。
【0168】
図24に、Sample 18-2に示す条件に従ったPDLLAフィルム生成物のSEM画像を示す。この条件では、フィルムの厚みは約200nmであった。
【0169】
図25[A]に、Sample 18-3~18-7において、内相流量を110μL/minに固定した条件で外相流量を変化させたときのPDLLAフィルム生成物のSEM画像を示す。図25[B]に、Sample 18-3~18-7における、外相流量とPDLLAフィルムの厚みとの関係を示す。いずれの条件においてもPDLLAナノフィルムが得られた。
【0170】
[実施例21]ポリビニルアルコール(PVA)フィルム
表20に示す条件で、内相、外相それぞれの溶液を調製し、湿式成膜フィルム用の所定の二重管型マイクロノズル装置を用いて、ポリビニルアルコールからなる湿式成膜フィルム(PVAフィルム)を製造した。但し、Sample 19-1の条件ではデバイスの閉塞が起こり、PVAフィルム生成物を得ることができなかった。
【0171】
【表20】
【0172】
図26[A]に、Sample 19-2~19-5において、内相流量を57μL/minに固定した条件で外相流量を変化させたときのPVAフィルム生成物のSEM画像を示す。図26[B]に、Sample 19-1~19-5における、外相流量とPVAフィルムの厚みとの関係を示す。いずれの条件においてもPVAナノフィルムが得られた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26