(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 9/30 20060101AFI20240827BHJP
H01Q 5/385 20150101ALI20240827BHJP
H01Q 1/24 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H01Q9/30
H01Q5/385
H01Q1/24 Z
(21)【出願番号】P 2021144679
(22)【出願日】2021-09-06
【審査請求日】2023-01-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】土屋 正登
【審査官】白井 亮
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0212305(US,A1)
【文献】特開2012-175422(JP,A)
【文献】特開2002-368850(JP,A)
【文献】特開2012-231266(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 9/30
H01Q 5/385
H01Q 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電アンテナと、前記給電アンテナのZ方向に設けられた無給電素子部と、を備え、
前記無給電素子部は、Z方向に垂直なXY平面に平行に設けられ、導体で構成され、複数のスロットを含む無給電素子を有し、
前記無給電素子は、Z方向から見てX方向の逆方向で且つY方向の逆方向の部分に切り欠きが有り、
前記複数のスロットのうちの第1スロットは、Z方向と垂直なX方向に延び、延びた先でX方向及びZ方向に垂直なY方向とは逆方向に延び、
前記複数のスロットのうちの第2スロットは、X方向に延び、延びた先でY方向とは逆方向に延びる、
アンテナ装置であって、
無線信号を生成する無線回路と、
前記無線回路と前記給電アンテナとの接続点である給電点と、
前記無給電素子部と前記給電点との間に設けられ、前記無線信号を空間に放射する前記給電アンテナと、を有する無線装置をさらに備え、
前記給電アンテナは、前記給電点からZ方向に延び、延びた先でX方向に延びる逆L型アンテナである、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記無給電素子部は、前記無給電素子と前記給電アンテナとの間、または、前記無給電素子のZ方向に設けられた誘電体をさらに有する、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記複数のスロットのうちの第1スロットの長さは、前記無線信号で使用する第1周波数の半波長の長さであり、
前記複数のスロットのうちの第2スロットの長さは、前記無線信号で使用する第2周波数の半波長の長さである、
請求項
1又は2に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記給電アンテナと前記給電点との間に設けられ、前記給電アンテナと前記無線回路との間のインピーダンス整合を行うマッチング回路をさらに備える、
請求項
1~3のいずれか1つに記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アンテナ装置に関するものであり、特に、広帯域性と無指向性という両方の特性を兼ね備えることが可能なアンテナを有するアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、5G(5th Generation Mobile Communication System )の普及により、モバイル端末が対応すべき周波数帯域は増加する傾向にある。例えば、Sub6と呼ばれる6GHz(ギガヘルツ)以下の周波数の場合、3.3GHz~5GHzという広い周波数帯域への対応が求められ、広帯域化が必要となってきている。また、キャリアアグリゲーション(CA:Carrier Aggregation)技術が普及してきており、この技術は複数の周波数帯域を束ねて使用する技術である。従って、モバイル端末はCA技術を使用する場合にも、対応すべき周波数帯域は広帯域化が必要となってきている。また、モバイル端末を電波が反射する屋内等の環境で使用する場合、あらゆる方向からの電波を受信すること、すなわち無指向性が必要となる。従って、モバイル端末には、広帯域性と無指向性という両方の特性を兼ね備えるアンテナが必要である。
【0003】
モバイル無線端末では、基地局の方向やモバイル端末自身の向きは絶えず変化し、電波がどの方向から到来するか分からないため、モバイル端末のアンテナとして無指向性のアンテナを採用するのが一般的である。一方で、モバイル端末は携帯性を重視して薄型となる場合が多く、この場合はモバイル端末の厚みでは十分なアンテナ長を確保することは難しい。例えば、モバイル端末を机上に平置きにした場合、垂直偏波は微弱となる。アンテナにおいて偏波(面)を合わせることは重要であり、無指向性のアンテナであっても偏波が合わなければ受信感度が低下する。すなわち、モバイル無線端末は、水平偏波/垂直偏波の両偏波を得ることが難しい。
【0004】
この解決手段として、特許文献1には、無給電素子を備えたクレードル(Cradle)としての充電装置を用いた方法が開示されている。しかしながら、この方法は、無給電素子の全長を所望の周波数に合わせる必要があり、効果が得られる周波数帯域が限定されるため広帯域性を得ることは難しい。
【0005】
無給電素子を備えたクレードルを用いた方法は、特許文献2及び特許文献3にも開示されている。特許文献2の[0039]には、880MHz(メガヘルツ)と2.1GHzの2つの周波数帯域で同時に通信性能が改善されることが開示されている。しかしながら、特許文献2は、配線パターンで構成された無給電素子による再放射と偏波の関係については言及していない。
【0006】
特許文献3には、特性(アンテナ利得)の改善の効果が広帯域に及んでいることを開示されている。しかしながら、特許文献3は、指向性のある放射となることを開示し、無指向性は開示していない。従って、特許文献2及び特許文献3に示す方法では、広帯域性と無指向性という両方の特性を兼ね備えるアンテナが必要であるという課題を解決することは難しい。
【0007】
特許文献4には、無給電素子を用いて多周波共振を得る方法が開示されている。具体的には、特許文献4には、同一平面上にV字形の給電用スタブと菱形の無給電素子とを配置することにより、多周波共振用マイクロストリップアンテナ(MSA:Micro Strip Antenna)を形成することが開示されている。しかしながら、特許文献4に開示されたマイクロストリップアンテナは、指向性アンテナであるため、モバイル端末で使用することは難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-212685号公報
【文献】国際公開第2011/145695号
【文献】国際公開第2015/141133号
【文献】特開2008-172697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のとおり、無指向性アンテナを用いて全ての面で水平偏波/垂直偏波を得ることを広帯域で可能とするアンテナ装置を提供することは難しいという課題がある。すなわち、広帯域性と無指向性という両方の特性を兼ね備えることが可能なアンテナを有するアンテナ装置を提供することは難しいという課題がある。
【0010】
本開示の目的は、上述した課題を解決するアンテナ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示に係るアンテナ装置は、
給電アンテナと、前記給電アンテナのZ方向に設けられた無給電素子部と、を備え、
前記無給電素子部は、Z方向に垂直なXY平面に平行に設けられ、導体で構成され、複数のスロットを含む無給電素子を有する。
【発明の効果】
【0012】
本開示によれば、広帯域性と無指向性という両方の特性を兼ね備えることが可能なアンテナを有するアンテナ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施の形態1に係るアンテナ装置を例示する模式図である。
【
図2】プリント基板の反射損失を例示するグラフである。
【
図3A】実施の形態1に係る給電アンテナに高周波電流を印加した時の、給電アンテナと導体層、及び無給電素子に流れる高周波電流を例示する模式図である。
【
図3B】実施の形態1に係る給電アンテナに高周波電流を印加した時の、給電アンテナと導体層、及び無給電素子に流れる高周波電流を例示する模式図である。
【
図4】プリント基板の放射パターンを例示するグラフである。
【
図5】プリント基板の平均利得を例示するグラフである。
【
図6】実施の形態1に係るアンテナ装置の放射パターンを例示するグラフである。
【
図7】実施の形態1に係るアンテナ装置の平均利得を例示するグラフである。
【
図8】無給電素子がスロットを有さない場合のアンテナ装置の平均利得を例示するグラフである。
【
図9】実施の形態2に係るアンテナ装置の無給電素子部を例示する模式図である。
【
図10A】実施の形態2に係る給電アンテナに高周波電流を印加した時の、給電アンテナと導体層、及び無給電素子に流れる高周波電流を例示する模式図である。
【
図10B】実施の形態2に係る給電アンテナに高周波電流を印加した時の、給電アンテナと導体層、及び無給電素子に流れる高周波電流を例示する模式図である。
【
図11】実施の形態2に係るアンテナ装置の平均利得を例示するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。各図面において、同一又は対応する要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明を省略する。
【0015】
[実施の形態1]
<構成>
図1は、実施の形態1に係るアンテナ装置を例示する模式図である。
【0016】
図1に示すように、実施の形態1に係るアンテナ装置10は、給電アンテナ105(無線装置100t)と、給電アンテナ105(無線装置100t)のZ方向に設けられた無給電素子部110と、を備える。
【0017】
無線装置100tは、プリント基板100と、プリント基板100を覆う筐体(図示せず)と、を有する。プリント基板100は、誘電体層101と導体層102と無線回路(図示せず)と給電点103とマッチング回路104と給電アンテナ105とを有する。無線回路はプリント基板100に搭載される。無線装置100tは、例えば、モバイル端末、タブレット端末、及びスマートフォン等のいずれかであってもよい。プリント基板を、単に、基板と称することもある。
【0018】
誘電体層101は誘電体で形成され、導体層102は導体で形成される。誘電体層101と導体層102のそれぞれは、単層または多層で形成される。
【0019】
給電点103は、無線信号を生成する無線回路(図示せず)と給電アンテナ105との接続点である。
【0020】
給電アンテナ105は、無給電素子部110と給電点103との間に設けられ、無線信号を空間に放射する。給電アンテナ105は、給電点103(マッチング回路104があればマッチング回路104)からZ方向に延び、延びた先でX方向に延びる逆L型アンテナである。具体的には、給電アンテナ105は、マッチング回路104からZ方向に伸びた終端部分105aとX方向に90度曲がり誘電体層101の縁に沿って伸びる先端部分105bとからなる逆L型のパターンアンテナであり、導体層102に設けられる。
【0021】
マッチング回路104は、給電アンテナ105と給電点103との間に設けられ、給電アンテナ105と無線回路との間のインピーダンス整合を行う。インピーダンス整合は、一般的には、50Ω(オーム)に整合させる。
【0022】
無給電素子部110は、誘電体111と無給電素子112とを有する。無給電素子部110は、プリント基板100と直交するXY平面(Z方向に垂直な平面)を含む位置に設けられる。
図1に示す例では、プリント基板100はXZ平面に設けられ、無給電素子部110はXY平面に設けられる。また、無給電素子部110は給電アンテナ105の先端部分105bと無給電素子112の1辺が並行するように配置する。
【0023】
このように配置する理由は、給電アンテナ105と無給電素子112との間の空間結合を強くして、無給電素子112に誘起される高周波電流を大きくするためである。給電アンテナ105の先端部分105bと無給電素子112との間の距離を大きくすると空間結合は弱くなる。このため、無給電素子112は給電アンテナ105の近傍に配置されることが望ましい。例えば、それらの間の距離は所望周波数(使用する周波数)の10分の1波長程度以下とするのが望ましい。無給電素子112と給電アンテナ105との間の距離は、無線信号で使用する周波数の波長の0.11倍以下としてもよい。使用する周波数として、5GHzまでを考えた場合に10分の1波長は6mmであるので、
図1に示す給電アンテナ105の先端部分105bと無給電素子112との間の距離は、水平方向(Z軸方向)に6mmである。
【0024】
無給電素子部110は、無線装置100tのZ方向に設けられることに代えて、無線装置100tの筐体の内側の面であって給電アンテナ105と対向する面に設けられてもよい。
【0025】
無給電素子部110の誘電体111と無給電素子112について、誘電体111を筐体で構成し、無給電素子112を導電性テープで構成してもよい。また、誘電体111をプリント基板の誘電体層で構成し、無給電素子112を当該プリント基板の導体層で構成してもよい。無給電素子を無給電アンテナと称することもある。
【0026】
モバイル端末(無線装置100t)のクレードルとしての充電器の内部に無給電アンテナ(無給電素子112)を設けて無給電素子部110として動作させてもよい。
【0027】
なお、無給電素子部110は、無線装置100tの外部に存在し、例えばクレードル(Cradle)の内部にあるものとして説明したが、これには限定されない。無給電素子部110は、無線装置100tの内部にあってもよい。
【0028】
誘電体111は、Z方向に垂直なXY平面に平行な誘電体である。
図1では、誘電体111は無給電素子112と給電アンテナ105との間に設けられているが、これには限定されず、誘電体111は無給電素子112のZ方向に設けられてもよい。誘電体111は、無給電素子112と給電アンテナ105との間、または、無給電素子112のZ方向に設けられる。
【0029】
無給電素子112は、Z方向に垂直なXY平面に平行に設けられ、導体で構成され、複数のスロットを含む。複数のスロットは、第1スロット113と第2スロット114を含む(無給電素子112には、第1スロット113と第2スロット114が設けられる)。無給電素子112の材料は、表面抵抗率の低い導体、例えば金、銀、銅、及びアルミニウムの少なくともいずれか含む材料であることが望ましい。
【0030】
複数のスロットのうちの第1スロット113と第2スロット114の部分は、導体が存在しない部分である。第1スロット113と第2スロット114のそれぞれは、先端(一方の端)が無給電素子112の1辺に近づくように中央付近で屈曲した形状をしている。すなわち、第1スロット113は、Z方向と垂直なX方向に延び、延びた先でX方向及びZ方向に垂直なY方向に延びる。第2スロット114は、X方向に延び、延びた先でY方向に延びる。第1スロット113の長さは、第2スロット114の長さよりも長い。無給電素子112の
図1に示す各寸法は、例えば、a=b=29.5mm(ミリメートル)、c=d=20mm、e=f=12mm、スロット幅w=4mmである。
【0031】
第1スロット113のX方向の長さは、第2スロット114のX方向の長さよりも長い。第1スロット113のY方向の長さは、第2スロット114のY方向の長さよりも長い。
【0032】
第1スロット113の長さは、無線信号で使用する第1周波数の半波長の長さである。第2スロット114の長さは、無線信号で使用する第2周波数の半波長の長さである。
【0033】
図2は、プリント基板の反射損失を例示するグラフである。
図2の横軸は周波数を示し、縦軸は反射損失を示す。
図2は、
図1に示すアンテナ装置10において、無線装置100t(プリント基板100)のみの構成とした場合、すなわち、無給電素子部110が存在しない場合の、給電点103からみた給電アンテナ105の反射損失を示す。反射損失をリターンロス(RL:Return Loss)または反射率と称することもある。
【0034】
反射損失は、アンテナの特性を示す指標の1つであり、「10×Log10(反射パワー÷入射パワー)」という計算式で求められる。反射パワーは入力パワー以下なので、反射損失の符号はマイナスとなり、単位はdB(デシベル)である。反射損失の値が小さいほど入射パワーが反射されずに空中へ放射されたことを示す。一般的に、-5dB以下であればアンテナとして十分に機能する。
【0035】
図2に示すように、反射損失は、2.5GHz~5GHzの周波数帯域で、-10dB以下である。従って、給電アンテナ105は、2.5GHz~5GHzで十分に機能するアンテナと言える。
【0036】
<動作>
図3Aは、実施の形態1に係る給電アンテナに高周波電流を印加した時の、給電アンテナと導体層、及び無給電素子に流れる高周波電流を例示する模式図である。
図3Bは、実施の形態1に係る給電アンテナに高周波電流を印加した時の、給電アンテナと導体層、及び無給電素子に流れる高周波電流を例示する模式図である。
【0037】
図3A及び
図3Bに示すように、給電アンテナ105に高周波電流を印加すると、給電アンテナ105とその周辺の導体層102に高周波電流が流れて(実線の矢印で示す)、給電アンテナ105の近傍に配置された無給電素子112にも高周波電流が誘起される。
【0038】
無給電素子112に誘起された高周波電流は、スロット長が2分の1波長(半波長)となる周波数で共振し、スロット部分に集中して流れる(点線の矢印で示す)。第1スロット113の長さは40mm(=c+d)であり、第2スロット114の長さは24mm(=e+f)である。このため、本来のスロットの共振周波数は3.8GHzと6GHz程度となる。しかしながら、無給電素子112が誘電体111と接していることで波長短縮の影響を受け、誘電体111の比誘電率が3の場合、第1スロット113は2.8GHz、第2スロット114は4.2GHz程度で共振する。
【0039】
図3Aは、2.8GHzにおける高周波電流を例示する模式図(簡易イメージ図)である。2.8GHzでは、第1スロット113に高周波電流が集中する。この時、第1スロット113の先端部分の電流が大となる2分の1波長の電流分布が2つ生じる。そして、高周波電流の強い先端部分を無給電素子112の縁に配置することで、無給電素子112の縁に第1スロット113の先端の電流と同じ向きの高周波電流が誘引される。その結果、Z方向の逆方向の位置から見て、無給電素子112の上辺と左辺、及び、右辺と下辺に、第1スロット113の先端部分に近い箇所の電流が大となる実線で示す2分の1波長の高周波電流が発生する。この高周波電流はY方向の電流を含むので、XZ平面の垂直偏波に寄与する。
【0040】
図3Bは、4.2GHzにおける高周波電流を例示する模式図(簡易イメージ図)である。4.2GHzでは、第2スロット114に高周波電流が集中する。この時、2.8GHzと同様に、第2スロット114の先端部分の電流が大となる2分の1波長の電流分布が2つ生じる。そして、第2スロット114の先端部分の高周波電流により、Z方向の逆方向の位置から見て、無給電素子112の左辺、及び、下辺に実線で示す2分の1波長の電流分布が生じる。ただし、4.2GHzの場合は2.8GHzとは異なり、無給電素子112の上辺と右辺にも一点鎖線で示す2分の1波長の高周波電流が生じる。実線と一点鎖線で示す高周波電流は逆相であるが、第2スロット114の先端に近い実線で示す電流の方が、電流が強くなるため相殺されず、実線の高周波電流が放射に寄与し、XZ平面の垂直偏波を得ることができる。
【0041】
<効果>
図4は、プリント基板の放射パターンを例示するグラフである。
図4は、
図1に示すアンテナ装置10において、無線装置100t(プリント基板100)のみの構成とした場合、すなわち、無給電素子部110が存在しない場合の、給電アンテナ105の2.8GHzにおける3面(XZ平面/YZ平面/XY平面)の放射パターンを示す。
【0042】
図4に示すように、水平偏波(Horizontal)はXZ平面、YZ平面、及びXY平面の各面でも得られているが、垂直偏波(Vertical)はXZ平面では得られていない。
【0043】
図5は、プリント基板の平均利得を例示するグラフである。
図5は、
図4に示すXZ平面での垂直偏波の平均利得を例示するグラフである。
図5の横軸は周波数を示し、縦軸は平均利得を示す。平均利得は、アンテナの絶対利得を示すために、単位をdBi(デービーアイ)とした。
【0044】
図5に示すように、プリント基板の平均利得は、2.5GHz~5GHzの周波数で、-40dBi程度であり、非常に低い。
【0045】
図6は、実施の形態1に係るアンテナ装置の放射パターンを例示するグラフである。
図6は、
図1に示すアンテナ装置10において、2.8GHzにおける3面(XZ平面/YZ平面/XY平面)の放射パターンを示す。
【0046】
図6に示すように、アンテナ装置10の放射パターンは、
図4に示すプリント基板の放射パターンの場合とは異なり、XZ平面に垂直偏波が発生している。
【0047】
図7は、実施の形態1に係るアンテナ装置の平均利得を例示するグラフである。
図7は、
図1に示すアンテナ装置10において、2.5GHz~5GHzでXZ平面の垂直偏波の平均利得を示す。
図7の横軸は周波数を示し、縦軸は平均利得を示す。
【0048】
図7に示すように、アンテナ装置10の平均利得は、
図5に示すプリント基板100のみの場合の平均利得と比べて、全ての周波数でXZ平面の垂直偏波の平均利得の値が増加している。
【0049】
図8は、無給電素子がスロットを有さない場合のアンテナ装置の平均利得を例示するグラフである。
図8は、
図1に示すアンテナ装置10において、無給電素子112が第1スロット113と第2スロット114を有さない場合の、2.5GHz~5GHzでXZ平面の垂直偏波の平均利得を示す。
【0050】
図8に示すように、無給電素子がスロットを有さない場合のアンテナ装置の平均利得は、
図5に示すプリント基板100のみの場合の平均利得と比べて、全ての周波数で、XZ平面の垂直偏波の平均利得は増加する。しかしながら、
図7に示すアンテナ装置10の場合の平均利得と比べて、2.8GHz付近では6dB以上の差がある。この差は、距離に換算すると2倍に相当する。
【0051】
単純に、無給電素子112を給電アンテナ105の近傍に配置しただけでは、必要とされる特性(無指向性の放射パターンと所定の利得以上の平均利得)を得ることができなかった。しかしながら、
図6及び
図7に示すように、実施の形態1に係るアンテナ装置10の構成とすることによって、全ての面(XZ平面/YZ平面/XY平面)で水平偏波及び垂直偏波で必要とされる放射パターンと平均利得を広帯域性で得ることができるようになった。
【0052】
その結果、実施の形態1によれば、広帯域性と無指向性という両方の特性を兼ね備えることが可能なアンテナを有するアンテナ装置を提供することができる。これにより、実施の形態1のアンテナ装置10を、3G/4G/5G/Wireless LAN(Local Area Network)等の通信機器のアンテナとして使用することができる。
【0053】
なお、無給電素子112の周囲の長さを、使用する周波数帯域の下限周波数の1波長よりも長くしてもよい。
【0054】
また、第1スロット113または第2スロット114の長さを、使用する周波数帯域のうちから選択した所定の周波数の2分の1波長の長さにしてもよい。
【0055】
また、給電アンテナ105の先端部分105bと無給電素子112の1辺が並行となるように配置してもよい。
【0056】
ここで、実施の形態1に係るアンテナ装置10の特徴を以下に記載する。
アンテナ装置10は、給電アンテナ105を実装する薄型の無線装置100tと、給電アンテナ105の近傍、且つ垂直となる位置に配置した第1スロット113と第2スロット114を有する無給電素子112により構成される。そして、給電アンテナ105と無給電素子112が空間結合することにより、給電アンテナ105のみでは微弱なY方向(無線装置100tの厚み方向)に流れる高周波電流によって生じる電波を、複数の周波数帯域で強くすることで広帯域化することを特徴とする。
【0057】
また、実施の形態1に係るアンテナ装置10の別の観点からみた特徴を以下に記載する。
・アンテナ装置10は、使用する周波数がF0[GHz]~F1[GHz]である無指向性の給電アンテナ105の近傍に、周囲の長さを周波数F0の1波長以上に合わせた無給電素子112を、給電アンテナ105と異なる面を有するように配置する。
・無給電素子112には屈曲した単一、または、複数のスロットを設ける。
・スロットの長さ(スロット長)は、F0~F1の範囲内の周波数の2分の1波長とする。
これにより、給電アンテナ105に高周波電流を印加すると、無給電素子112のスロットに高周波電流が流れ、当該高周波電流により無給電素子112の縁に高周波電流が誘引され、電波が空間に放射される。そして、給電アンテナ105と無給電素子112からの放射により、水平偏波と垂直偏波を多面的、且つ広帯域にわたり得ることができる。
なお、無給電素子112の周囲の長さを抑えるため、および、スロットで電流が強い先端部分を無給電素子112の縁に近づけて、無給電素子112の縁に電流を誘引するために、スロットを屈曲させる。
[実施の形態2]
<構成>
図9は、実施の形態2に係るアンテナ装置の無給電素子部を例示する模式図である。
【0058】
図9に示すように、実施の形態2に係る無給電素子部210は、実施の形態1に係る無給電素子部110と比べて、スロットの向きが異なる。
【0059】
無給電素子部210は、誘電体211と導体の無給電素子212とを有する。無給電素子212は、4隅のうちの1つを切り欠いた形状をしている。無給電素子212は、第1スロット213と第2スロット214とを有する。第1スロット213と第2スロット214のそれぞれは、先端が無給電素子212の異なる辺の縁に近づくように屈曲した形状をしている。すなわち、無給電素子212は、Z方向から見てX方向の逆方向で且つY方向の逆方向の部分に切り欠きが有る。第1スロット213は、Z方向と垂直なX方向に延び、延びた先でX方向及びZ方向に垂直なY方向とは逆方向に延びる。第2スロット214は、X方向に延び、延びた先でY方向とは逆方向に延びる。第1スロット213の長さは、第2スロット214の長さよりも長い。
図9に示す無給電素子212の各寸法は、a=b=29mm、c=d=23mm、e=f=17mm、g=h=14mmである。また、給電アンテナ205と、無給電素子212との間の距離は、Z方向に6mmである。
【0060】
図10Aは、実施の形態2に係る給電アンテナに高周波電流を印加した時の、給電アンテナと導体層、及び無給電素子に流れる高周波電流を例示する模式図である。
図10Aは、2.8GHzの場合である。
図10Bは、実施の形態2に係る給電アンテナに高周波電流を印加した時の、給電アンテナと導体層、及び無給電素子に流れる高周波電流を例示する模式図である。
図10Bは、3.8GHzの場合である。
【0061】
図10Aに示すように、無給電素子212の動作は、
図3Aに示した無給電素子112の動作と同様である。
図10Bに示すように、無給電素子212の動作は、
図3Bに示した無給電素子112の動作と同様である。第1スロット213の長さによって共振周波数が決まり、その共振周波数では第1スロット213に高周波電流が集中する。第2スロット214の長さによって共振周波数が決まり、その共振周波数では第2スロット214に高周波電流が集中する。第1スロット213及び第2スロット214のそれぞれの先端部分の強い電流の流れにより、無給電素子212の縁に2分の1波長(半波長)の高周波電流が誘引される。
【0062】
図11は、実施の形態2に係るアンテナ装置の平均利得を例示するグラフである。
図11は、
図9に示す無給電素子212において、2.5GHz~5GHzでXZ平面の垂直偏波の平均利得を示す。
【0063】
図11に示すように、広帯域でXZ平面の垂直偏波が得られている。このように、実施の形態2に係るアンテナ装置20では、無給電素子212の各寸法や切り欠きによって、効果の生じる周波数帯域を調整することができる。
【0064】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0065】
尚、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0066】
10、20:アンテナ装置
100t:無線装置
100:プリント基板
101:誘電体層
102、202:導体層
103:給電点
104:マッチング回路
105、205:給電アンテナ
105a:終端部分
105b:先端部分
110、210:無給電素子部
111、211:誘電体
112、212:無給電素子
113、213:第1スロット
114、214:第2スロット