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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】二重循環マイクロ生理学的システム
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20240827BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20240827BHJP
【FI】
C12M3/00 A
C12N5/071
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021556425
(86)(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-05-26
(86)【国際出願番号】 GB2020050577
(87)【国際公開番号】W WO2020188243
(87)【国際公開日】2020-09-24
【審査請求日】2023-01-18
(31)【優先権主張番号】1903813.2
(32)【優先日】2019-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】521338514
【氏名又は名称】シーエヌ バイオ イノベーションズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】ヒューズ,デイビッド ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】コスツルフスキ,トマシュ
【審査官】松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/037402(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/154880(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152697(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M
C12N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ生理学的細胞培養システムであって、当該システムは:
細胞培養チャンバ;
それぞれが、チャンバ出口及びチャンバ入口で前記チャンバに接続されている、第1及び第2の流体回路であり、ここで、少なくとも前記第1及び第2の回路チャンバ出口は別々の位置にある、第1及び第2の流体回路;
を含み、
ここで、前記細胞培養チャンバは、第1の流体充填レベル及び第2の流体充填レベルを規定し、前記第1の流体充填レベルは、前記第2の流体充填レベルよりも多い流体の量を表し
こで、前記第1の流体回路チャンバ出口は、前記第1の流体充填レベルに、又は前記第1と第2の流体充填レベルとの間に位置決めされ、且つ前記第2の流体回路チャンバ出口は、前記第2の流体充填レベル以下に位置決めされ、;その結果、いずれか前記第1の又は第1及び第2の流体回路の両方は、前記チャンバが前記第1の充填レベルまで流体で満たされるときに作動することができ、且つ、前記チャンバが前記第2の充填レベルまで流体で満たされるとき、前記第2の流体回路のみが作動することができ;さらに、
ここで、前記第1及び第2の充填レベルは、第1及び第2の高さの前記細胞培養チャンバの壁によって規定され、前記壁は、前記第1及び第2のチャンバ出口を規定し、当該システムは、前記細胞培養チャンバの第1の壁及び第2の壁の両方を囲むさらなる壁を含み、前記第1及び第2のチャンバ出口のいずれか又は両方は、前記第1及び/又は第2の壁から通じ、且つ前記第1及び/又は第2の壁によって規定される水吐き口の形態である、システム。
【請求項2】
ここで、前記細胞培養チャンバは、細胞を受け入れるための位置を規定し、前記位置は、前記第2の流体充填レベル以下に位置決めされる、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
ここで、前記第1の流体回路は、前記第2の流体回路の体積よりも少なくとも2、3、5、10、25倍大きい体積を有する、請求項1又は2に記載のシステム。
【請求項4】
ここで、前記第1の流体回路は、前記第2の流体回路よりも少なくとも10、25、50、100倍長い、請求項1乃至のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
ここで、前記第1の流体回路は、環境にさらされる少なくとも一部を含む、請求項1乃至のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
ここで、前記第1及び第2の流体回路はそれぞれ、マイクロポンプを含む、請求項1乃至のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
液体を受け取るための前記流体回路の一部ではない少なくとも1つのリザーバをさらに含む、請求項1乃至のいずれかに記載のシステム。
【請求項8】
ここで、前記少なくとも1つのリザーバは、前記第2の流体回路に隣接している、請求項に記載のシステム。
【請求項9】
ここで、前記チャンバはさらに細胞培養物を含む、請求項1乃至のいずれかに記載のシステム。
【請求項10】
ここで、前記細胞培養物は3D足場;トランスウェルインサート;又は細胞の単層を備えた平らな表面;内に含まれる、請求項に記載のシステム。
【請求項11】
ここで、少なくとも前記第2の流体回路及び細胞培養チャンバは、細胞培養培地を含む、請求項1乃至10のいずれかに記載のシステム。
【請求項12】
細胞を培養する方法であって、当該方法は:
請求項1からのいずれかに記載のシステムで培養される細胞を配置すること;
前記システム内の培養培地を前記第1の流体充填レベルまで配置すること;
前記培養培地を循環させるために、前記第1の流体回路及びオプションで、前記第2の流体回路も操作し、且つ前記細胞を培養すること;
前記システム内の培養培地を除去するか、又は前記第2の流体充填レベルに交換すること;及び
前記第2の流体回路のみを操作して、前記培養培地を循環させ、且つ前記細胞を培養すること;
を含む方法。
【請求項13】
細胞培養物における薬物代謝を調査するための方法であって、当該方法は:
請求項1からのいずれかに記載のシステムで培養される細胞を配置すること;
前記システム内の培養培地を前記第1の流体充填レベルまで配置すること;
前記培養培地を循環させるために、前記第1の流体回路及びオプションで、前記第2の流体回路も操作し、且つ前記細胞を培養すること;
前記システム内の培養培地を除去するか、又は前記第2の流体充填レベルに交換すること、前記培養培地は、その代謝が調査されるべき薬物を含むこと;
前記第2の流体回路のみを操作して、前記培養培地を循環させ、且つ前記細胞を培養すること;及び
前記培養培地を分析して、薬物代謝産物の有無を決定すること;
を含む方法。
【請求項14】
ここで、前記細胞培養物が肝細胞細胞培養物である、請求項12又は請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ここで、前記細胞培養物が、肺、腸、又は腎臓の細胞培養物から選択される、請求項12又は請求項13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、主に薬物代謝を研究するための手段を提供することを目的とした、細胞培養のためのマイクロ生理学的システムに関する。マイクロ生理学的システム(microphysiological system)は、マイクロ流体細胞培養システム又はOrgan-on-a-chipと呼ばれることもある。当該システムは、細胞培養物に培地(及び、オプションで、研究のために選択された化合物)を提供するための二重循環配置(arrangement)を包含する。二重循環配置により、細胞培養のさまざまな段階に合わせて培養条件を簡単に変更できる。本発明の態様は、細胞培養の方法、及び薬物代謝の研究の方法にさらに関係する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
薬物代謝とは、親化合物を代謝物に変換することであり、代謝物は通常、体から排泄される。薬物代謝の主要な器官は肝臓である。In vitroでの薬物代謝の測定は薬物開発プロセスの重要な部分である。正確な測定を実現するには、2つの基本的な要件がある:
i) 試験化合物/薬物を代謝する機能的能力を備えたin vitroシステム、
ii) 親及び/又は代謝物の濃度を正確に測定できるようにするために、培地容積比に対して十分に高い細胞数。この測定は通常、液体クロマトグラフィーを使用して行われる。
【0003】
薬物代謝に使用されている現在の技術は、ミクロソーム、浮遊肝細胞、及びめっき肝細胞を包含する。これらの技術はすべて、システム内のミクロソーム/細胞の機能的パフォーマンスが時間とともに、場合によっては非常に急速に低下するという重大な欠点がある。これは、化合物を測定システムと長期間接触させたままにする必要があるため、ゆっくりと代謝される化合物の測定には不適切である。この長期間の間、細胞は機能を停止し、及び/又は死ぬ。例えば、浮遊培養では、肝細胞を6時間以上維持することはできない。この問題の解決策は、Di et al(Di L, Trapa P, Obach RS, Atkinson K, Bi YA, Wolford AC, Tan B, McDonald TS, Lai Y, Tremaine LM., A novel relay method for determining low-clearance values, Drug Metab Dispos. 2012 Sep;40(9):1860-5)によって提案された。この解決策では、化合物を浮遊細胞と短時間インキュベートした後、リレー法として知られる新鮮な培養物に移す。成功している間、プロセスは時間がかかり、且つ多数の細胞を必要とする。別の解決策では、Chan et al(Chan TS, Yu H, Moore A, Khetani SR, Tweedie D. Meeting the challenge of predicting hepatic clearance of compounds slowly metabolized by cytochrome P450 using a novel hepatocyte model, HepatoPac. Drug Metab Dispos. 2013 Dec;41(12):2024-32)は、化合物を肝細胞とマウス線維芽細胞(Hepatopac(登録商標))の共培養と7日間インキュベートして、親化合物の測定可能な消失又は代謝物の生成に十分な時間を与えた。さらに、これは長くて労働集約的なアッセイをもたらす。
【0004】
マイクロ生理学的システム(又はオルガンオンチップ)は、薬物代謝実験に好適な高機能のin vitro細胞培養システムである。通常、細胞はシステムに配置され、且つ数日間前培養されて、薬物の実験が始まる前、つまりテストフェーズで機能的な微小組織(microtissues)が形成されるようにする。このプレインキュベーション期間の培養条件では、頻繁な培地交換の必要性を排除するために、細胞数と培地の体積の比率を低くする必要がある。培地の体積に対するこの低い細胞数の比率は、ゆっくりと代謝される化合物の代謝の正確な決定と、まれな代謝物の検出を困難にする。
【0005】
肝細胞の培養のための例示的なマイクロ生理学的システムには、米国特許第6,197,575号及び米国特許公開第2005/0260745号に記載されているものが含まれる。これらの出版物は、単一の培養培地循環を含む肝細胞の培養のためのシステムを開示している。PCT/US2017/016721(WO2017/176357として公開)は、個別のマイクロ生理学的システムが水吐き口のフィーチャによって他の器官にリンクされている細胞培養プラットフォームを開示している。EP 2 322 913は、マルチウェルプレートのウェルに挿入するためのバリアを包含する、マルチウェルプレートの複数のウェルの培地に配置された細胞を分析するための装置を記載している。US2008/145922は、培養中の細胞の代謝活性を検出するための装置を記載しており、これには、反応空間に隣接する可動分離要素が含まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
代替のマイクロ生理学的細胞培養システムを提供することは、本発明の実施形態の目的の1つである。好ましい実施形態では、当該システムは、薬物代謝実験をより容易に実施できるようにすることを目的としている。特に、ゆっくりと代謝される化合物、又はまれな代謝物を用いた実験は、本発明で可能になるであろう。その他の目的と利点は、説明から明らかになる。
【0007】
発明の概要
本発明は、2つの別個の培養培地循環経路を包含するマイクロ生理学的細胞培養システムを提供することにより、先行技術の不利な点に対処する。第1のルートは、比較的大量の培地を循環させるために使用できるため、培地の体積に対する細胞数の比率を低くすることができる。及び第2のルートは、比較的少量の培地を循環させるために使用することができ、それにより、培地の体積に対する細胞数の比率を高くすることができる。第1のルートは成長の前培養段階で使用でき、次に第2のルートは代謝物アッセイを実行するときに切り替えられる。第1の循環は、化合物が追加される前の前培養期間に最適化され、第2の循環はテストフェーズに最適化されており、テスト期間中の機能を維持しながら、高い細胞と培地との比率を提供する。微生物学的システムにより、細胞を何週間にもわたって培養し続けることができ、肝細胞が6時間以内に死ぬ懸濁液中の細胞の培養に固有の制限を克服する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、マイクロ生理学的細胞培養システムが提供される。当該システムは、:
細胞培養チャンバ;
それぞれが、チャンバ出口及びチャンバ入口で前記チャンバに接続されている、第1及び第2の流体回路であり、ここで、少なくとも前記第1及び第2の回路チャンバ出口は別々の位置にある、第1及び第2の流体回路;
を含み、
ここで、前記細胞培養チャンバは、第1の流体充填レベル及び第2の流体充填レベルを規定し、前記第1の流体充填レベルは、前記第2の流体充填レベルよりも多い流体の量を表し;及び
ここで、前記第1の流体回路チャンバ出口は、前記第1の流体充填レベルに、又は前記第1と第2の流体充填レベルとの間に位置決めされ、且つ前記第2の流体回路チャンバ出口は、前記第2の流体充填レベル以下に位置決めされ、;その結果、いずれか前記第1の又は第1及び第2の流体回路の両方は、前記チャンバが前記第1の充填レベルまで流体で満たされるときに作動することができ、且つ、前記チャンバが前記第2の充填レベルまで流体で満たされるとき、前記第2の流体回路のみが作動することができる。
【0009】
したがって、システムは、第1の前培養期間中、第1の充填レベルまで培地で満たすことができる。この第1の充填レベルは、第1及び第2の流体回路の両方が作動することを可能にするので、比較的大量の培養培地の循環を提供する。細胞培養が確立されたら、培地をより少ない量の培地と交換して、第2の充填レベルにすることができ、そして試験化合物を加えた。
【0010】
システムは、第1の流体回路と第2の流体回路の動作を切り替えるための手段を含むことができる。例えば、各回路は、必要に応じてオン又はオフに切り替えることができる、別個に操作可能なマイクロポンプ又は同様のものを包含し得る。システムは、マイクロポンプを操作するためのコントローラをさらに含み得る。特定の実施形態では、第1及び第2の流体回路のいずれか又は両方は、回路の閉鎖を可能にするためのバルブ(valve)を含み得る。また、システムは、バルブを操作するためのコントローラを含み得る。1つ又は複数のバルブを包含することは必須ではないが、培地が試験中にこの回路に入らないことを確実にするために、テストフェーズ中に第1の回路を閉じる少なくとも1つのバルブを提供することが非常に好ましい。テストフェーズ中に第1の回路に入る培地は、第2の回路の体積が変化するため、テストの精度を低下させる可能性があり、したがって、濃度変化率が変化する。
【0011】
細胞培養チャンバは、細胞を受け入れるための位置を規定することができ、前記位置は、第2の流体充填レベル以下に位置決めされる。第2の充填レベルが比較的小さい容量を表すとすると、この位置決めにより、細胞を第2の充填レベルのすぐ下に配置できるため、テストフェーズで十分な酸素が培養に到達できるようになる。
【0012】
特定の実施形態では、第1及び第2の充填レベルは、第1及び第2の高さの細胞培養チャンバの壁によって定義され、前記壁は、第1及び第2のチャンバ出口を定義する。他のバリアを使用することもできる。システムは、細胞培養チャンバの第1の壁及び第2の壁の両方を囲むさらなる壁を含み得る。この配置は、第1及び/又は第2の壁からつながる、且つ第1及び/又は第2の壁によって定義される水吐き口の形態であるチャンバ出口を定義する簡単な方法を可能にする。水吐き口の使用には、流体回路の一方又は両方に環境にさらされる部分を包含するための簡単な方法を提供し、循環培地の再酸素化を可能にするという利点もある(システムが第1の充填レベルまで充填され、且つ細胞が充填レベルに隣接していない可能性があるため、溶存酸素へのアクセスが制限される場合は特に重要である)。水吐き口は、流体回路に含まれる培地リザーバにつながる可能性があり、そこから培地を培養チャンバに戻すことができる。
【0013】
第1の流体回路は、通常、第2の流体回路の体積よりも大きい、例えば、少なくとも2、3、5、10又はそれ以上大きい。必須ではないが、第1の回路と第2の回路の両方を使用すると、本質的に第2の回路のみよりも大きい体積の培地を循環させることができるため、サイズの異なる回路を使用すると、体積の差を大幅に大きくすることができる。特定の実施形態では、典型的な容量は、第1の回路について1000から5000μL、好ましくは1500から4000μL、より好ましくは1500から3000μL、最も好ましくは約2000μLであり得る。好ましい実施形態では、第2の回路の体積は、第1の回路の体積の約10分の1である;典型的な容量は、第1の回路では100から500μL、好ましくは150から400μL、より好ましくは150から300μL、最も好ましくは約200μLであり得る。
【0014】
第1の流体回路は、好ましくは第2の流体回路よりも長く、より好ましくは少なくとも2、3、5、10倍長い。最も好ましい実施形態では、第1の流体回路は第2の流体回路よりも著しく長く、且つ特に第1の回路の水吐き口部分は、第2の回路の水吐き口部分よりも少なくとも25、50、又は100倍長い。例えば、特定の実施形態では、第1の回路は10cmの水吐き口を有し、第2の回路は1mmの水吐き口を有する可能性がある。
【0015】
好ましくは、第1及び第2の流体回路のいずれか又は両方は、環境に曝される少なくとも一部を含む;より好ましくは、少なくとも第1の回路がそうする。
【0016】
システムは、液体を受け取るための流体回路の一部ではない少なくとも1つのリザーバをさらに含み得る;好ましくは、少なくとも1つのリザーバは、第2の流体回路に隣接している。追加のリザーバは、例えば、第1の流体回路に隣接して提供され得る。使用中のリザーバは液体で満たされている場合がある;これは、局所的な湿度を上げ、システムからの蒸発を減らすのに役立つ場合があり、これは、小さい体積の循環培地で特に懸念される場合がある。
【0017】
実施形態では、チャンバは細胞培養物を含み得る;例えば、肝細胞培養物;又は肺、腸、もしくは腎臓の細胞培養物。細胞培養物は、3D足場又はトランスウェルインサート内に含まれ得る。当業者は、細胞培養のための3D足場又はトランスウェルインサートを生成するための手段を知っているであろう。
【0018】
本発明の一態様は、細胞を培養するための方法を提供する。当該方法は、以下:
本明細書で定義されるシステムで培養される細胞を配置すること;
前記システム内の培養培地を前記第1の流体充填レベルまで配置すること;
前記培養培地を循環させるために、前記第1の流体回路及びオプションで、前記第2の流体回路も操作し、且つ前記細胞を培養すること;
前記システム内の培養培地を除去するか、又は前記第2の流体充填レベルに交換すること;及び
前記第2の流体回路のみを操作して、前記培養培地を循環させ、且つ前記細胞を培養すること;
を含む。
【0019】
好ましくは、培養培地が第1の充填レベルにあるとき、第1及び第2の流体回路の両方が一緒に操作される。操作が第2の流体回路のみに切り替わる場合、これは、好ましくは、第1及び第2の回路の合計速度(又は第2が第1の充填レベルで操作されなかった第1の回路のみの速度)で操作される。これにより、メソッドの細胞培養の第1のステージと第2のステージで同じ全体的な培地の流れが維持されるため、ばらつきが減少する。
【0020】
本発明はさらに、細胞培養物における薬物代謝を調査するための方法を提供する。当該方法は、以下:
本明細書で定義されるシステムで培養される細胞を配置すること;
前記システム内の培養培地を前記第1の流体充填レベルまで配置すること;
前記培養培地を循環させるために、前記第1の流体回路及びオプションで、前記第2の流体回路も操作し、且つ前記細胞を培養すること;
前記システム内の培養培地を除去するか、又は前記第2の流体充填レベルに交換すること、前記培養培地は、その代謝が調査されるべき薬物を含むこと;
前記第2の流体回路のみを操作して、前記培養培地を循環させ、且つ前記細胞を培養すること;及び
前記培養培地を分析して、薬物代謝産物の有無を決定すること;
を含む。
【0021】
培養培地は、いずれの好適な手段;例えば、培地の液体クロマトグラフィー;によって分析することができる。
【0022】
図面の簡単な説明
本発明のこれら及び他の態様は、ここで、例としてのみ、添付の図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、本発明の一実施形態によるマイクロ生理学的細胞培養システムの概略側面断面図を示す。
図2図2は、図1のシステムの概略上面図を示している。
図3図3は、第1の流体充填レベルを示す図1のシステムを示している。
図4図4は、第2の流体充填レベルを示す図1のシステムを示している。
図5図5は、本発明の代替実施形態によるマイクロ生理学的細胞培養システムの概略側面断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
発明の詳細な説明
本発明の一実施形態によるマイクロ生理学的細胞培養システムは、図1の概略側面断面図及び図2の概略上面図に示されている。両方の図を参照すると、細胞培養システム10は、細胞培養チャンバ12、ならびに第1の流体回路14及び第2の流体回路16を包含する。細胞培養チャンバ12は、異なる高さの第1及び第2の壁18、20によって囲まれている。システムは全体として、さらなる壁22によって囲まれている。第1の壁18は、(その高さによって)第1の流体充填レベルを定義し(図3の52を参照)、且つ同様に、第2の壁20は、第2の流体充填レベルを定義する(図4の54を参照)。第1の流体充填レベルは、第2の流体充填レベルよりも大きい体積を表す。
【0025】
各壁はさらに、開放水吐き口(spillway)24、26の形態でチャンバ12からの第1及び第2の出口を規定する;それぞれの壁18、20のレベルより上の流体は、水吐き口24、26に沿って培地リザーバ28、30に流れる。各流体回路内のマイクロポンプ32、34は、培地をリザーバ28、30から戻りチャネル36、38を通してポンプ輸送して、それを細胞培養チャンバ12に戻す。
【0026】
図から明らかなように、第1の流体回路14は、第1の壁18、第1の水吐き口24、第1の培地リザーバ28、第1のマイクロポンプ32、及び第1の戻りチャネル36を包含する。第2の流体回路16は、壁20、水吐き口26、培地リザーバ30、マイクロポンプ34、及び戻りチャネル38を包含する。さらに、第1の水吐き口24は、第1の流体充填レベル52以下であるが、第2の流体充填レベル54の上に位置決めされている;一方、第2の水吐き口26は、第2の流体充填レベル54以下に位置決めされている。これにより、細胞培養培地が第1の流体充填レベル52でシステムに存在する場合、第1及び第2の流体回路14、16の両方が操作され得る。
一方、細胞培養培地が第2の流体充填レベル54にのみ存在する場合、第2の流体回路16のみを操作することができること、一方、細胞培養培地が第2の流体充填レベル54でのみ存在する場合、第2の流体回路16のみを操作することができることを確実にする。
【0027】
図2に示すように、システムはまた、流体回路に接続されていない一連のリザーバ40、42、44、46を包含する。これらのリザーバは、水吐き口24、26及び培地リザーバ28、30に隣接して位置決めされている。
【0028】
細胞培養チャンバ12は、細胞、例えば肝細胞、が播種された3D細胞足場48を包含する。
【0029】
使用中、システムは以下のように操作することができる。
【0030】
肝細胞、典型的には初代ヒト肝細胞(しかし他の細胞型が使用され得る)は、マイクロ生理学的システムの培養チャンバ12内の3D足場48に播種される。足場48の設計及び細胞を播種するためのプロトコルは当技術分野で知られている。例えば、CN Bio Innovationsが提供し、且つAurelie Vivares, Sandrine Salle-Lefort, Catherine Arabeyre-Fabre, Robert Ngo, Geraldine Penarier, Michele Bremond, Patricia Moliner, Jean-Francois Gallas, Gerard Fabre & Sylvie Klieber (2015) Morphological behaviour and metabolic capacity of cryopreserved human primary hepatocytes cultivated in a perfused multiwell device, Xenobiotica, 45:1, 29-44, DOI: 10.3109/00498254.2014.944612で説明されているLiverChip(登録商標)システムを参照されたい。
【0031】
システムには、第1の充填レベル52までの適切な細胞培養培地が提供される。両方のマイクロポンプ32、34は、第1及び第2の流体回路14、16の両方を介して細胞を含有する足場を通して細胞培養培地の循環を引き起こすために操作される。流体が足場48を含有する細胞を通過した後、それは、スリップウェイ24、26を介してポンプ32、34に戻され、これらのそれぞれは、周囲空気との接触を通じて流体が再酸素化されることを可能にする表面チャネルを規定する。第1の回路のスリップウェイ24は、第2の回路のスリップウェイ26よりもかなり長い(例えば、最大100倍長い)ことに留意されたい;第1の回路の培地の体積が多い場合、これは循環中の培地の再酸素化を支援する。これは、培地が継続的に再循環される第1の循環である。足場は通常600kの肝細胞を含有し、第1の循環は2000μLの細胞培養液を含有する。これは、高機能の細胞を維持すること、及び細胞培養培地をリフレッシュする必要性を最小限に抑えることが証明されている。
【0032】
例えば、上記のVivares et al 2015の論文は、3D肝臓足場(単一ループとして配置されたVivares et al 2015における)が、単層で培養された初代ヒト肝細胞よりも肝臓の代謝機能を維持することを示している。機能的な寿命の場合、数日続く単層培養は、浮遊培養よりも優れていると見なされ、数時間続き、これらは薬物代謝作業に広く使用されている(例えば、リレーアッセイにおいて)。さらに、Rowe et al(Perfused human hepatocyte microtissues identify reactive metabolite-forming and mitochondria-perturbing hepatotoxins, Toxicology in Vitro Volume 46, February 2018, Pages 29-38)は、3D肝臓足場は、解凍したばかりの細胞と同様の代謝トランスクリプトームで細胞を7日間維持することを示している。解凍したばかりの細胞は、浮遊アッセイの開始時に使用された細胞の状態と同等であり、その後、浮遊アッセイの過程で死滅する。
【0033】
テストフェーズ(化合物を追加して代謝を測定する場合)に使用される第2の循環は、容量が大幅に少なく、約200μLである。第2の循環は、第1の循環よりも足場48の上のより低い垂直高さで細胞及び足場を含有する細胞培養チャンバ12から引き出される、第2の流体充填レベル54とともに、第2の壁20及び第2の水吐き口26を参照されたい。これは、第1の循環が空のときに第2の循環を操作できるようにするため、及び3D足場を含有する細胞の上の細胞培養培地の体積を減らし、足場内の細胞の適切な酸素化を確実にするために重要である。第2の循環も同様に、足場を含有する細胞を通して細胞培養培地を連続的に循環させるマイクロポンプ34を含有する。
【0034】
前培養期間(通常2~3日)では、第1の循環(流体回路14)及び第2の循環(流体回路16)の両方が細胞培養培地で満たされ、マイクロポンプ32、34が作動している(第1の流体充填レベルを示す図3も参照)。テスト期間中(第2の液体充填レベルを示す図4を参照)、第1の循環が空にされ、試験される薬物を含有する新鮮な細胞培養培地が第2の循環に、第2の流体充填レベル54にのみ加えられる。第2の循環のためのマイクロポンプ34は、前培養期間における両方のマイクロポンプ32、34の速度の合計に等しい速度で実行される。これにより、足場内の細胞が経験する流動条件が、前培養期間とテスト験期間との間で変化しないことが保証される。第1のマイクロポンプ32が実行されていないので、両方のマイクロポンプ32、34が独立した制御下になければならないことは明らかである。第2の循環の体積は少ない(~200μL)が、足場の細胞数は多い(~600k)とすると、テスト期間は通常、短く、例えば24時間以下にすることができる。記載されている短時間で、血清及び/又はタンパク質を含まない培地の使用が可能になり、タンパク質結合が排除されるため、代謝分析が簡素化される。
【0035】
アッセイを所望の期間(通常は1~24時間)実行した後、培養培地のサンプルを取り出して適切な方法で分析し、代謝物の含有量を決定することができる。これには、標準的な手法;例えば、液体クロマトグラフィー;を使用できる。
【0036】
システムからの蒸発のリスクを減らすために、特に少ないボリュームの第2の循環からの蒸発のリスクを減らすために、リザーバ40、42、44、46は、局所的な相対湿度を増加させるために液体で満たすことができる第2の循環の近くに提供される。テスト期間中の細胞培養培地の蒸発は、不正確な濃度測定につながる可能性があり、その結果、代謝率の誤った決定につながる可能性があるため、これは重要である。短時間のテストも蒸発を減らすのに役立つ。
【0037】
ここに開示されているようなマイクロ生理学的システムの使用に対する追加の利点は、肝臓の非実質細胞型を3D足場に含めることができることである。これにより、さまざまな生理学的及び病理学的条件下(例えば、炎症)で代謝を評価できる。
【0038】
さらに、3D細胞足場を使用する、又は肝細胞を使用する必要はない。細胞培養の代替フォーマット(例えば、単層、トランスウェル)と同様に、細胞が肝臓以外の器官(例えば、肺、腸、腎臓)に由来する代替の実施形態が可能である。図5は、3D足場の代わりに腸細胞を含むトランスウェルインサートが使用される実施形態を示す。他の機能は同じである。
【0039】
記載されているシステム及び他の競合技術の細胞数と培地との比率を比較するには、Chan et alの表2の数値が使用されている:
【0040】
サスペンション肝細胞アッセイ - ウェルあたりの細胞数50K、ウェル内の容量50μL - 1mLあたり100万細胞。ただし、6時間(hrs)超のアッセイを行うことはできない。
Hepatopac(登録商標)アッセイ - ウェルあたりの細胞数5k、ウェル内の容量64μL - 1mLあたり0.078百万細胞。アッセイには少なくとも7日かかる。
本明細書に記載のアッセイ:
前培養期間 - ウェルあたりの細胞数600k、組み合わせた循環での容量2000μL -1mLあたり0.3百万細胞。3日間培養。
テスト期間 - ウェルあたりの細胞数600k、第2の循環での容量はわずか200μL - 1mLあたり300万細胞。1~24時間のアッセイ。
【0041】
したがって、本発明は、前培養の低細胞数対体積比率システムから、試験の高細胞数対体積比率システムへの容易な切り替えを可能にするシステムを提供する。これにより、希少又は低レベルの代謝物の迅速な分析が可能になる。例えば、Vivares et al 2015で説明されている3D肝臓足場シングルループシステムは、ジソピラミドとチモロールの代謝を研究するために使用できる。両方の化合物はゆっくりと代謝されると考えられている。シングルループシステムは代謝を測定するのに十分な代謝活性を持っているが、テストフェーズでは測定可能な変化を与えるのに5日かかる。ここで提案するダブルループシステムでは、我々はテストフェーズが1日未満に短縮されると予測している。
これは時間を節約し、培地交換なしの長いテストで発生する可能性のある蒸発の問題を排除するのにも役立つ。
【0042】
本発明のさらなる利点には、高機能細胞を何週間も維持することが含まれる。培地の再循環により、代謝物の蓄積が可能になる;他の多くのマイクロ生理学的システムはシングルパスであり、つまり、培地は細胞に短時間だけ接触し、その後システムを離れる。これは、代謝のための不十分な時間を与える。
【0043】
アッセイの全長は、hepatopacシステムと比較して短い(前培養を包含する現在のシステムでは4日、前培養時間を包含しないhepatopacでは少なくとも7日)。hepatopac培養物を使用すると、テスト期間を延長できるが、マイクロタイタープレートで少容量を使用する場合、この期間にわたって蒸発が重要な問題になる。全体的なアッセイ時間は長くなり(hepatopacの前培養期間を無視しても)、且つhepatopacシステムは、ヒト細胞とそれを支えるマウス細胞の両方を含有し、これは代謝の分析を混乱させる可能性がある。
【0044】
当該システムはまた、ヒト肝臓の代謝に合理的な近似を提供する初代ヒト肝細胞の懸濁液の培養と比較して有利である。重要なことに、細胞が死ぬため、テスト/アッセイ時間(time)は6時間(hours)に制限される。6時間のアッセイ中であっても、細胞の生存率、したがって代謝能力は時間とともに大幅に低下する。化合物が測定可能な代謝を達成するのに十分な時間接触し続けることができないため、懸濁肝細胞がゆっくりと代謝される化合物の評価に使用できないことはよく知られている。標準的なマイクロタイタープレートのウェルでは栄養供給の限界、特に酸素化に到達するため、この問題を克服するために細胞と培地との比率を上げることは不可能である。
【0045】
代替法は、懸濁肝細胞の短い培養時間を克服するリレー法によって提供される。Di et alによって説明されているように、リレーは5x4時間(hr)のインキュベーションを使用して実行される。各インキュベーションでは、250k個の細胞が使用される(1mLあたり50万個の細胞、0.5mLの容量)。したがって、5回のインキュベーションを完了するには、125万個の細胞が必要である。これは、本明細書に開示されるアッセイで使用されるよりも2.1倍多い細胞であり、細胞対培地の比率はより低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0046】
【文献】米国特許第6,197,575号
【文献】米国特許出願公開第2005/0260745号
【文献】国際出願公開WO2017/176357
【文献】EP2 322 913
【文献】米国特許出願公開第US2008/0145922号
【非特許文献】
【0047】
【文献】Di L, Trapa P, Obach RS, Atkinson K, Bi YA, Wolford AC, Tan B, McDonald TS, Lai Y, Tremaine LM., A novel relay method for determining low-clearance values, Drug Metab Dispos. 2012 Sep;40(9):1860-5
【文献】Chan TS, Yu H, Moore A, Khetani SR, Tweedie D. Meeting the challenge of predicting hepatic clearance of compounds slowly metabolized by cytochrome P450 using a novel hepatocyte model, HepatoPac. Drug Metab Dispos. 2013 Dec;41(12):2024-32
【文献】Aurelie Vivares, Sandrine Salle-Lefort, Catherine Arabeyre-Fabre, Robert Ngo, Geraldine Penarier, Michele Bremond, Patricia Moliner, Jean-Francois Gallas, Gerard Fabre & Sylvie Klieber (2015) Morphological behaviour and metabolic capacity of cryopreserved human primary hepatocytes cultivated in a perfused multiwell device, Xenobiotica, 45:1, 29-44, DOI: 10.3109/00498254.2014.944612.
【文献】Rowe et al, Perfused human hepatocyte microtissues identify reactive metabolite-forming and mitochondria-perturbing hepatotoxins, Toxicology in Vitro Volume 46, February 2018, Pages 29-38
【符号の説明】
【0048】
10 細胞培養システム
12 細胞培養チャンバ
14 第1の流体回路
16 第2の流体回路
18 第1の壁
20 第2の壁
22 さらなる壁
24 水吐き口
26 水吐き口
28 リザーバ
30 リザーバ
32 マイクロポンプ
34 マイクロポンプ
36 チャネル
38 チャネル
48 3D細胞足場
図1
図2
図3
図4
図5