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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】金属製箱および金属製箱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H05K 5/02 20060101AFI20240827BHJP
   B65D 1/00 20060101ALI20240827BHJP
   F16B 4/00 20060101ALI20240827BHJP
   H05K 5/04 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
H05K5/02 M
B65D1/00 120
F16B4/00 Q
H05K5/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022107709
(22)【出願日】2022-07-04
(65)【公開番号】P2024006629
(43)【公開日】2024-01-17
【審査請求日】2023-11-06
(73)【特許権者】
【識別番号】591176258
【氏名又は名称】株式会社飯塚鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】110002893
【氏名又は名称】弁理士法人KEN知財総合事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 肇
【審査官】森本 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-061433(JP,A)
【文献】実開昭58-148993(JP,U)
【文献】実開昭63-128792(JP,U)
【文献】特開2011-155745(JP,A)
【文献】実開平03-127427(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2014/0347792(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 5/02
F16B 4/00
H05K 5/04
B65D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面側に開口部を有する金属製箱であって、
所定形状に形成された一枚の金属板を折り曲げ加工のみにより形成され、背面板部と、前記背面板部と直角な関係にある4つの側板部とを含み、
前記4つの側板部のうち、互いに接続される2つの側板部の側端部の一方には、当該一方の側板部に対して直角関係にありかつ根元にくびれ部分を持つ第1の突出片が形成され、他方には、前記第1の突出片が嵌る第1の切欠き部が形成され、
前記第1の突出片が前記第1の切欠き部に嵌合することにより、前記2つの側板部の側端部同士が接続され、
前記第1の突出片と前記第1の切欠き部との嵌合部分及び前記接続された側板部の側端部同士の間に残存する隙間は、溶融亜鉛メッキにより形成された亜鉛メッキ層で埋められたことを特徴とする金属製箱。
【請求項2】
前記互いに接続される2つの側板部の側端部のうち、前記第1の突出片が形成されていない側の側端部には、当該側板部に対して直角関係にありかつ根元にくびれ部分を持たない全体として湾曲形状を有する第2の突出片が形成され、前記第1の突出片が形成されている側の側端部には、前記第2の突出片が嵌る第2の切欠き部が形成されている、請求項1に記載の金属製箱。
【請求項3】
前記4つの側板部のそれぞれの先端部を内側に直角に折り曲げて前記開口部の周囲に形成された4つの前面板部をさらに有し、
前記4つの前面板部のうち、互いに接続される2つの前面板部の端部の一方には、根元にくびれ部分を持つ第3の突出片が形成され、他方には、前記第3の突出片が嵌る第3の切欠き部が形成された、請求項1又は2に記載の金属製箱。
【請求項4】
前記4つの側板部のそれぞれの先端部を外側に直角に折り曲げて前記開口部の周囲に形成された4つの前面板部をさらに有し、
前記4つの前面板部のうち、互いに接続される2つの前面板部の端部の一方には、根元にくびれ部分を持つ第3の突出片が形成され、他方には、前記第3の突出片が嵌る第3の切欠き部が形成された、請求項1又は2に記載の金属製箱。
【請求項5】
2つの前記側板部の側端部同士が接続される部分において、一方の前記側板部の側端部の端面が他方の前記側板部の内面に面接触している、請求項1又は2に記載の金属製箱。
【請求項6】
前面側に開口部を有する金属製箱の製造方法であって、
板金をせん断して、略矩形の背面板部、当該背面板部の四辺からそれぞれ外側に連続する略矩形の4つの側板部、当該4つの側板部のうち互いに接続される2つの前記側板部の側端部の一方から突出して根元にくびれ部分を持つ第1の突出片、及び、他方に形成され前記第1の突出片が嵌る形状を有する第1の切欠き部、を有する一枚の金属板を形成する工程と、
前記金属板の前記背面板部に対して前記4つの側板部をそれぞれ前面側に直角に折り曲げるとともに、前記第1の突出片を前記第1の切欠き部に嵌合することにより、前記2つの側板部の側端部同士を接続して箱本体を形成する工程と、
前記箱本体に溶融亜鉛メッキを施すことにより、前記第1の突出片と前記第1の切欠き部との嵌合部分及び前記接続された側板部の側端部同士の間に残存する隙間を亜鉛メッキ層で埋める工程と、
を含むことを特徴とする、金属製箱の製造方法。
【請求項7】
前記溶融亜鉛メッキ前の前記互いに接続された側板部の側端部同士の間に残存する隙間を0.15mm以内とする、請求項6に記載の金属製箱の製造方法。
【請求項8】
前記溶融亜鉛メッキで膜厚0.15mm以上のメッキ層を形成する、請求項6に記載の金属製箱の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属製箱及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子機器やバッテリー等を収納する箱体として、板金等の鋼板を折り曲げた金属製箱が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
このような金属製箱では、一般的に鋼板等の板金を折り曲げて箱体を形成し、箱体の各面板の接続部分を機械的に係合させた後に溶接等で接合し、隙間を塞ぐとともに接続強度を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許4906116号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、各面板の接続部分を溶接により接合すると、高温により箱体が変形したり、接合部分は溶接肉で盛り上がったり、また溶接のコストが掛かるという問題もあった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するもので、溶接が不要で、溶接に起因する箱体の変形や接合部分の盛り上がりがなく、かつ製造コストを低減できる金属製箱、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を解決するために、本発明の一態様である金属製箱は、前面側に開口部を有する金属製箱であって、
所定形状に形成された一枚の金属板を折り曲げ加工のみにより形成され、背面板部と、前記背面板部と直角な関係にある4つの側板部とを含み、
前記4つの側板部のうち、互いに接続される2つの側板部の側端部の一方には、当該一方の側板部に対して直角関係にありかつ根元にくびれ部分を持つ第1の突出片が形成され、他方には、前記第1の突出片が嵌る第1の切欠き部が形成され、
前記第1の突出片が前記第1の切欠き部に嵌合することにより、前記2つの側板部の側端部同士が接続され、
前記第1の突出片と前記第1の切欠き部との嵌合部分及び前記接続された側板部の側端部同士の間に残存する隙間は、溶融亜鉛メッキにより形成された亜鉛メッキ層で埋められたことを特徴とする。
【0007】
前記互いに接続される2つの側板部の側端部のうち、前記第1の突出片が形成されていない側の側端部には、当該側板部に対して直角関係にありかつ根元にくびれ部分を持たない全体として湾曲形状を有する第2の突出片が形成され、前記第1の突出片が形成されている側の側板部には、第2の突出片が嵌る第2の切欠き部が形成されていてもよい。
【0008】
前記4つの側板部のそれぞれの先端部を内側に直角に折り曲げて前記開口部の周囲に形成された4つの前面板部をさらに有し、
前記4つの前面板部のうち、互いに接続される2つの前面板部の端部の一方には、根元にくびれ部分を持つ第3の突出片が形成され、他方には、前記第3の突出片が嵌る第3の切欠き部が形成された、ものであってもよい。
【0009】
代替的には、前記4つの側板部のそれぞれの先端部を外側に直角に折り曲げて前記開口部の周囲に形成された4つの前面板部をさらに有し、
前記4つの前面板部のうち、互いに接続される2つの前面板部の端部の一方には、根元にくびれ部分を持つ第3の突出片が形成され、他方には、前記第3の突出片が嵌る第3の切欠き部が形成された、ものであってもよい。
【0010】
2つの前記側板部の側端部同士が接続される部分において、一方の前記側板部の側端部の端面が他方の前記側板部の内面に面接触している、構成が好ましく採用できる。
【0011】
本発明の金属製箱の製造方法は、前面側に開口部を有する金属製箱の製造方法であって、
板金をせん断して、略矩形の背面板部、当該背面板部の四辺からそれぞれ外側に連続する略矩形の4つの側板部、当該4つの側板部のうち互いに接続される2つの前記側板部の側端部の一方から突出して根元にくびれ部分を持つ第1の突出片、及び他方に形成され前記第1の突出片が嵌る形状を有する第1の切欠き部、を有する一枚の金属板を形成する工程と、
前記金属板の前記背面板部に対して前記4つの側板部をそれぞれ前面側に直角に折り曲げるとともに、前記第1の突出片を前記第1の切欠き部に嵌合することにより、前記2つの側板部の側端部同士を接続して箱本体を形成する工程と、
前記箱本体に溶融亜鉛メッキを施すことにより、前記第1の突出片と前記第1の切欠き部との嵌合部分及び前記接続された側板部の側端部同士の間に残存する隙間を亜鉛メッキ層で埋める工程と、
を含むことを特徴とする。
【0012】
前記金属製箱の製造方法において、前記溶融亜鉛メッキ前の接続された前記側板部の側端部同士の間に残存する隙間を0.15mm以内とすることが好ましい。
【0013】
前記金属製箱の製造方法において、前記溶融亜鉛メッキで膜厚0.15mm以上のメッキ層を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、金属製箱の各面板の接続部分を機械的に嵌合させた後に残存する隙間を溶融亜鉛メッキにより形成された亜鉛メッキ層で埋めることができ、また亜鉛メッキ層の接着作用により接続強度を高めることができるので、溶接が不要で、溶接に起因する箱体の変形や接合部分の盛り上がりがなく、かつ製造コストを低減できる金属製箱を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態に係る金属製箱の外観斜視図。
図2図1の金属製箱から扉を除去した箱本体の外観斜視図。
図3図2の箱本体を形成する金属板の展開図。
図4図2の箱本体のコーナー部及び接合稜線部の拡大斜視図。
図5図4に示す部分の模式的断面図であり、(a)はA-A断面、B-B断面又はC-C断面で、(b)はD-D断面を示す。
図6】本実施形態の溶融亜鉛メッキ工程を示す説明図。
図7】本実施形態の溶融亜鉛メッキの付着テスト方法及び結果を示す図。
図8】本発明の第2の実施形態に係る金属製箱の箱本体のコーナー部及び接合稜線部の拡大斜視図。
図9図8に示す部分の模式的断面図であり、(a)はA-A断面、B-B断面又はC-C断面で、(b)はD-D断面を示す。
図10】本発明の第3の実施形態に係る金属製箱の箱本体の外観斜視図。
図11図10の箱本体を形成する金属板の展開図。
図12】本発明の第4の実施形態に係る金属製箱の箱本体の外観斜視図。
図13図12の箱本体を形成する金属板の展開図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。説明において同様の要素には同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
(第1の実施形態)
図1に第1の実施形態に係る金属製箱1を示し、図2図1の金属製箱1から扉を取り除いた箱本体20を示す。
金属製箱1は、箱本体20と、箱本体20の前面側の開口部20a(図2参照)に設けられた扉30とを有し、扉30は箱本体20にヒンジHGによって開閉自在となっている。
【0017】
箱本体20は、後述するように、所定形状に形成された一枚の鋼板、ステンレス板等の金属板を折り曲げ加工することにより形成される。この箱本体20は、背面板部21と、背面板部21とそれぞれ直角な関係にある天井側、底面側、右側面側および左側面側に位置する4つの側板部22A~22Dと、前記4つの側板部22A~22Dの先端部から内側へ折曲げられて開口部20aの周囲に設けられた4つの前面板部23A~23Dと、前記4つの前面板部23A~23Dの内側に形成された扉30を受け止める4つの受板部24A~24Dを有する。
【0018】
図3に箱本体20を形成する展開された平板状の金属板10を示す。
図3において、L1~L20は金属板10の折り曲げ線であり、数字は折り曲げる順に示しており、折り曲げ線L5,L9,L13,L17は金属板10の裏面側に向けて90度折り曲げられ、その他の折り曲げ線は、金属板10の裏面側に向けて90度折り曲げられる。また、折り曲げ線L8a~L8cやL12a~L12cは、同時に金属板10の裏面側に向けて90度折り曲げられることを示している。
【0019】
本実施形態に係る箱本体20では、第1の突出片P1とこれに対応する切欠き部V1と、第2の突出片P2とこれに対応する切欠き部V2と、第3の突出片P3とこれに対応する切欠き部V3とがそれぞれ嵌り合うことにより、金属板10が箱形状に折り曲げ加工された際に、各前面板部23A~23Dの間および各側板部22A~22Dの間が強固に結合される。
【0020】
第1の突出片P1は、図3の展開図に示したように、側板部22Aの両側の側端部と側板部22Dの両側の側端部の計4か所に形成されている。
また、第1の切欠き部V1は、側板部22Bの両側の側端部と側板部22Cの両側の側端部の計4か所に形成されている。
図4は、箱本体のコーナー部及び稜線部の拡大斜視図で、一例として側板部22Cと22Dの側端部22Ce,22De同士が接合される稜線部分を示す。図4に拡大して示すように、第1の突出片P1は、側板部22Dの側端部22Deから突出して形成され、かつ、側板部22Dに対して直角に折り曲げられている。
第1の突出片P1は、図4から分かるように、根元にくびれを有し、先端側に向けて末広がり状に広がる形状を有している。
第1の切欠き部V1は、側板部22Cの側端部22Ceに形成され、第1の突出片P1が合致して嵌る形状を有する。
他の第1の突出片P1および第1の切欠き部V1も同様の構造を有する。
【0021】
第2の突出片P2は、図3の展開図に示したように、側板部22Bの両側の側端部と側板部22Cの両側の側端部の計4か所に形成されている。
また、第2の切欠き部V2は、側板部22Aの両側の側端部と、側板部22Dの両側の側端部の計4か所に設けられている。
例えば、図4に拡大して示すように、第2の突出片P2は、根元にくびれを有しておらず、全体として湾曲形状を有しており、側板部22Cの側端部22Ceから突出して形成され、かつ、側板部22Cに対して直角に折り曲げられている。第2の切欠き部V2は、側板部22Dの側端部22Deに形成され、第2の突出片P2が合致して嵌る形状を有する。
他の、第2の突出片P2および第2の切欠き部V2も同様の構造を有する。
【0022】
尚、本実施形態では、第2の突出片P2および第2の切欠き部V2は、側板部22B又は22Cが背面板部21に対して折り曲げられる仮想回転中心(背面板部21の各コーナー)を中心とする円弧状に形成されている。この構成により、予め背面板部21に対して側板部22Dおよび側板部22Aが直角に折り曲げられた状態において、背面板部21に対して側板部22Bと側板部22Cを直角に折り曲げる際に、第2の突出片P2は、対応する切欠き部V2に差し込まれながら嵌るようになっている。このため、箱本体20の折り曲げ工程を効率化できる。
【0023】
第3の突出片P3は、図3の展開図に示したように、前面板部23Bの両端部の45度傾斜する傾斜部および前面板部23Cの両端部の45度傾斜する傾斜部の4か所に突出して形成されている。
また、第3の切欠き部V3は、前面板部23Aの両端部の45度傾斜する傾斜部および前面板部23Dの両端部の45度傾斜する傾斜部の4か所に形成されている。
例えば、図4に拡大して示すように、前面板部23Cの上記の傾斜部である端部23Ceには、根元にくびれ部をもつ円弧状の第3の突出片P3が形成されている。前面板部23Dの上記の傾斜部である端部23Deには第3の突出片P3が合致して嵌る第3の切欠き部V3が形成されている。前面板部23Cの第3の突出片P3が前面板部23Dの切欠き部V3に嵌ることで、前面板部23Cと前面板部23Dとが接続される。4つの前面板部23A~23Dの互いに接続される側端部の間は、同様の構造で接続される。
【0024】
本実施形態では、互いに接続される前面板部23A~23Dの側端部同士を、第3の突出片P3と第3の切欠き部V3を嵌め合わせることで接続し、互いに接続される側板部22A~22Dの側端部同士を、第1の突出片P1と第1の切欠き部V1嵌め合わせると共に第2の突出片P2と第2の切欠き部V2を嵌め合わせることで接続したので、例えば、側板部22Cに垂直な方向の力や側板部22Dに垂直な方向の力が作用しても、接続された側端部22Ceと22Deが離れないようになっている。
【0025】
ここで、箱本体20には溶融亜鉛メッキが施され、各突出片P1~P3と切欠き部V1~V3との嵌合部分や互いに接続された側板部22A~22Dの側端部22Ae~22De同士の間に残存する隙間は、亜鉛メッキ層ZPにより埋められている。
図5は、図4に示す各部分の模式的断面図であり、(a)はA-A断面、B-B断面又はC-C断面で、(b)はD-D断面を示す。
図5(a)に示すA-A断面、B-B断面及びC-C断面においては、水平方向中央部分が第1~第3の突出片P1~P3(総括的に「突出片P」ともいう)の断面で、その左右部分がこれに嵌合する第1~第3の切欠き部V1~V3(総括的に「切欠き部V」ともいう)の断面である。互いに嵌合する突出片Pと切欠き部Vの外面同士及び内面同士は、それぞれ略同一面上にあり、両部分の端面同士の間には、加工誤差や嵌合容易化のための余裕等による僅かな隙間が存在している。メッキ後には、接続された両部分の外面及び内面には膜厚0.15mm以上のメッキ層ZPが形成され、端面同士の間の隙間は、このメッキ層ZPにより埋められている。
図5(b)に示すD-D断面においては、一方の側板部22Cの内面と側端部22Ceの端面との角部が、他方の側板部22Dの内面と側端部22Deの端面との角部と接触または近接している。メッキ後には、側板部22Cと側板部22Dのそれぞれの内面、外面及び側端部22Ce,22Deには膜厚0.15mm以上のメッキ層ZPが形成され、角部同士に間隙があってもこのメッキ層ZPで埋められている。
【0026】
このように、金属箱の外面及び内面に全面的に亜鉛メッキを施すことにより、部材同士の嵌合部分及び箱の稜線部における接続された側板部の側端部同士がの間に残存する隙間をメッキ層で埋めることができ、またメッキ層の接着作用により、接合拒土を高めることができる。これにより、溶接が不要な金属製箱を実現できる。
【0027】
(金属製箱の製造方法)
上記構成を有する本実施形態の金属製箱の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)金属板の剪断
板金をプレス機等によりせん断して、図3の展開図に示す一枚の金属板10を形成する。この金属板10は、略矩形の背面板部21、当該背面板部21の四辺からそれぞれ外側に連続する略矩形の4つの側板部22A~22D、当該4つの側板部22A~22Dのうち互いに接続される2つの側板部の側端部の一方から突出して根元にくびれ部分を持つ第1の突出片P1、及び他方に形成され前記第1の突出片P1が嵌る形状を有する第1の切欠き部V1、を含む。
本実施形態では、金属板10は、図3に示すように、さらに4つの側板部22A~22Dのそれぞれの先端部から外側に連続する略矩形の4つの前面板部23A~23D、さらに4つの前面板部23A~23Dのそれぞれの先端部から外側に連続する略矩形の4つの受板部24A~24Dを含み、さらに第2の突出片P2、第2の切欠き部V2、第3の突出片P3及び第3の切欠き部V3を含む。
【0028】
(2)金属板の折り曲げ
前記金属板10の、図3に示す背面板部21に対して前記4つの側板部22A~22Dをそれぞれ前面側に直角に折り曲げるとともに、各第1の突出片P1を対応する第1の切欠き部V1に嵌合する。
本実施形態では、さらに、各第2の突出片P2を対応する第2の切欠き部V2に嵌合すると共に、4つの側板部22A~22Dの先端部から4つの前面板部23A~23Dをそれぞれ内側に折り曲げ、各第3の突出片P3を対応する第3の切欠き部V3に嵌合する。
さらに、4つの前面板部23A~23Dの先端部から、4つの受板部24A~24Dをそれぞれ、一旦下に向かって折り曲げた後内側に折り曲げて、前面板部23A~23Dから一段下がった受板部24A~24Dを形成する(図2参照)。
前記したように、図3において、L1~L20は金属板10の折り曲げ線であり、数字は折り曲げる順に示しており、折り曲げ線L5,L9,L13,L17は金属板10の裏面側に向けて90度折り曲げられ、その他の折り曲げ線は、金属板10の裏面側に向けて90度折り曲げられる。また、折り曲げ線L8a~L8cやL12a~L12cは、同時に金属板10の裏面側に向けて90度折り曲げられることを示している。
この順に金属板10の各部分を折り曲げて、背面板部21と、4つの側板部22A~22Dと、4つの前面板部23A~23D、と4つの受板部24A~24Dを形成し、突出片P1~P3と切欠き部V1~3を嵌合することにより、図2に示す形状を有するメッキ前の箱本体20を形成する。
【0029】
(3)溶融亜鉛メッキ
溶融亜鉛メッキでは、高温(450℃程度)で溶かした亜鉛にメッキ前の箱本体20を浸漬することによって、表面に膜厚0.15mm以上の亜鉛メッキ層を形成する。
溶融亜鉛メッキの作業工程は、例えばJIS H8641に準拠し、以下の工程を行う。
・箱本体20の鋼材表面の脱脂(10%アルカリ溶液槽)
・酸洗(7~10%硫酸溶液槽)
・フラックス(飽和塩化亜鉛アンモニウム溶液槽)
・メッキ(440~460℃溶融亜鉛槽)
・冷却(温水槽、空冷など)
このうち、メッキ工程では、図6に示すように、ワイヤーWで吊り下げられたメッキ前の箱本体20を溶融亜鉛槽ZBに所定時間浸すことによりメッキを行い、メッキされた箱本体20取り出す。
このメッキ工程により、上記折り曲げ工程によって形成された箱本体20の突出片Pと切欠き部Vの嵌合部分と、前面板部23A~23Dの側端部23Ae~23De同士の間および側板部22A~22Dの側端部の22Ae~22De同士の間に残存する隙間がメッキ層によって埋められ、これらの間がシールされるとともに、メッキ層の接着効果により、強固に結合される。
【0030】
(メッキテスト結果)
図7に、試験片TPを用いた溶融亜鉛メッキテストとその結果を示す。
この試験片TPは、本実施形態の金属製箱の第1の突出片P1を有する板金片と、第1の切欠き部V1を有する板金片とが、嵌め合わされた状態で枠状の固定板FRにボルトBTで固定めされているもので、第1の突出片P1と第1の切欠き部V1との間の隙間gは所定値に調整されている。異なる隙間g(0.05mm~0.3mm)を有する複数種類の試験片TPを用意した。第1の突出片P1を有する板金片と第1の切欠き部V1を有する板金片の材質はSPCCで、厚さは1mmである。これらの試験片TPを、450℃の溶融亜鉛槽ZBに所定時間(2分または4分)浸した。形成されたメッキ層の厚さは、2分のメッキ時間で0.15mmであり、4分のメッキ時間で0.32mmであった。
その結果、2分のメッキ時間では0.15mmまでの隙間gを埋めることができ、4分のメッキ時間では0.20mmまでの隙間gを埋めることができた。このことから、メッキの前各側板部22A~22Dの間および各前面板部23A~23Dの間に残存する隙間を0.15mm以内に抑えておけば、膜厚0.15mm以上のメッキを施すことにより、これらの隙間を埋めることができると考えられる。
【0031】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、第1の実施形態において、2つの側板部22が接続される箱本体20の稜線部において、一方の側板部22A~22Dの側端部22Ae~22Deの端面(剪断面)が他方の側板部22A~22Dの内面に面接触するようにした形態である。
図8は、本実施形態に係る箱本体20のコーナー部及び接合稜線部の拡大斜視図で、一例として側板部22Cと22Dの側端部22Ce,22De同士が接続される稜線部分を示す。
図9は、図8に示す各部分の模式的断面図であり、(a)はA-A断面、B-B断面又はC-C断面で、(b)はD-D断面を示す。
【0032】
図9(a)に示すA-A断面、B-B断面及びC-C断面の構造は第1の実施形態と同様であり、メッキ後には、接続された突出片P及び切欠き部Vの内面側及び外面側には膜厚0.15mm以上のメッキ層ZPが形成され、端面同士の間は、メッキ層ZPにより埋められている。
図9(b)に示すD-D断面においては、メッキ前の側板部22Cの側端部22Ceの端面(剪断面)が側板部22Dの内面に面接触または近接している。メッキ後には、側板部22Cと側板部22Dの内面、外面及び側端部には膜厚0.15mm以上のメッキ層ZPが形成され、面接触部分に間隙があってもこのメッキ層ZPで埋められている。
本実施形態のこれ以外の構成は、第1の実施形態と同様である。
本実施形態の構成では、稜線部において接続される2つの側板部22同士の接触面積が大きくなるので、メッキによりその間の隙間を埋めやすくなる。
【0033】
(第3の実施形態)
第3の実施形態は、第1の実施形態において、前面板部23A~23Dを箱本体20の内側に入り込むように設ける代わりに箱の外側に拡げるように設けた形態である。尚、受板部24A~24Dは設けていない。
図10は、本実施形態に係る金属製箱の箱本体120の外観斜視図で、図11はこの箱本体120を形成する金属板110の展開図である。
図10に示すように、箱の外側に拡げるように設けた前面板部23A~23Dのうち、互いに接続される2つの前面板部23A~23Dの端部の一方に第3の突出片P3を設け、他方に第3の切欠き部V3を設けて、これらが嵌合することにより、前面板部23A~23D同士が接続されている。
本実施形態のこれ以外の構成は、第1の実施形態と同様である。
第1の実施形態と同様に、箱本体120には溶融亜鉛メッキが施され、各突出片P1~P3と切欠き部V1~V3の嵌合部分や互いに接続された側板部22A~22Dの側端部同士の間に残存する隙間は、亜鉛メッキ層により埋められている。
【0034】
本実施形態によれば、前面板部23A~23Dを箱本体120の外側に拡げるように設けても、第1の実施形態と同様に、突出片P1~P3と切欠き部V1~3を嵌合することにより、メッキ前の箱本体120の十分な強度が得られる。さらに箱本体120に溶融亜鉛メッキを施すことにより、隙間をメッキ層で埋めることができるとともに、メッキ層の接着作用で箱本体120の強度を高めることができる。これにより、溶接が不要な金属製箱を実現できる。
【0035】
(第4の実施形態)
第4の実施形態は、第1の実施形態において、前面板部23A~23D及び受板部24A~24Dを省略した形態である。
図12は、本実施形態に係る金属製箱の箱本体220の外観斜視図で、図13はその箱本体220を形成する金属板210の展開図である。
本実施形態のこれ以外の構成は、第1の実施形態と同様である。
第1の実施形態と同様に、箱本体220には亜鉛メッキが施され、上記第1~第3の突出片P1~P3と切欠き部V1~V3との嵌合部分や互いに接続された側板部22A~22Dの側端部同士の間に残存する隙間は、亜鉛メッキ層により埋められている。
【0036】
本実施形態によれば、前面板部23A~23Dを省略しても、第1の突出片P1と第1の切欠き部V1及び第2の突出片P2と第2の切欠き部V2の嵌合により、箱本体は、ある程度強固に構成される。さらに箱本体20に亜鉛メッキを施すことにより、隙間をメッキ層で埋めることができ、またメッキ層の接着作用で箱本体220の強度を高めることができる。これにより、溶接が不要な金属製箱を実現できる。
【0037】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
例えば、上記第1~第4の実施形態では、少なくとも第1及び第2の突出片P1~P2と切欠き部V1~V2を設けたが、金属箱の板厚や必要とする強度等によっては、第2の突出片P2と第2の切欠き部V2は必ずしも必要なく、第1の突出片P1と第1の切欠き部V1のみを設けても良い。
【0038】
また、上記実施形態では、第1の突出片P1は、根元にくびれ部をもつ円形に形成したが、これに限定されず、根元にくびれ部を有していれば、他の部分の形状は適宜変更できる。第2の突出片P2についても、円弧状に限定されず、第2の切欠き部V2に嵌合する形状であれば、他の形状も適宜選択できる。
【符号の説明】
【0039】
1 :金属製箱
10,110,210 :金属板
20,120,220 :箱本体
20a :開口部
21 :背面板部
22A~24D :側板部
23A~23D :前面板部
24A~24D :受板部
30 :扉
BT :ボルト
FR :固定板
HG :ヒンジ
P :突出片
P1 :第1の突出片
P2 :第2の突出片
P3 :第3の突出片
TP :試験片
V :切欠き部
V1 :第1の切欠き部
V2 :第2の切欠き部
V3 :第3の切欠き部
W :ワイヤー
ZB :溶融亜鉛槽
ZP :メッキ層
g :隙間

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13