(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】水蒸気分布測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/359 20140101AFI20240827BHJP
G01N 21/3504 20140101ALI20240827BHJP
G01N 21/3554 20140101ALI20240827BHJP
G01N 21/27 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G01N21/359
G01N21/3504
G01N21/3554
G01N21/27 A
(21)【出願番号】P 2023503854
(86)(22)【出願日】2022-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2022008556
(87)【国際公開番号】W WO2022186186
(87)【国際公開日】2022-09-09
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021032316
(32)【優先日】2021-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「水蒸気可視化システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】305027401
【氏名又は名称】東京都公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】角田 直人
(72)【発明者】
【氏名】高木 凛太郎
(72)【発明者】
【氏名】小澤 晋太朗
(72)【発明者】
【氏名】金子 尚祥
【審査官】藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-159964(JP,A)
【文献】特公平04-060216(JP,B2)
【文献】特開平07-072078(JP,A)
【文献】特開2018-036228(JP,A)
【文献】中国実用新案第204389393(CN,U)
【文献】高木 凛太郎, 角田 直人,「近赤外波長可変レーザーを用いた特定空間内の水蒸気分布の可視化」,日本機械学会 2020年度年次大会 講演論文集,No.20-1,2020年09月07日,page.J05219,ISSN 2424-2667
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/01
G01N 21/17-21/61
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水蒸気が吸収しうる波長の近赤外光を出力する光源と、
前記光源に対して測定空間を挟んで配置され、近赤外光を測定する近赤外光測定装置と、
前記光源と前記近赤外光測定装置とを結ぶ方向に垂直な前記測定空間の断面が面積を有する前記測定空間に、前記光源から出力された近赤外光を拡大させて照射させる光学系と、
前記近赤外光測定装置での測定結果に基づいて、前記測定空間の断面における水蒸気の分布を導出する分布導出手段と、
を備えたことを特徴とする水蒸気分布測定装置。
【請求項2】
波長1800nm~1900nmの近赤外光を出力する前記光源、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の水蒸気分布測定装置。
【請求項3】
中心波長1866nmの近赤外光と、中心波長1800nmの近赤外光と、を交互に出力する前記光源、
を備えたことを特徴とする請求項2に記載の水蒸気分布測定装置。
【請求項4】
水蒸気が吸収しうる波長の近赤外レーザー光を出力するレーザー光源により構成された前記光源と、
前記光源からの近赤外レーザー光を内部で多重反射させて非干渉性の近赤外光を出力する積分球と、前記積分球からの近赤外光を前記測定空間に応じて屈折させる凹レンズと、
前記凹レンズを通過した近赤外光を屈折させて前記測定空間に向けて照射する凸レンズと、を有する前記光学系と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の水蒸気分布測定装置。
【請求項5】
前記測定空間内に配置され、外部の空気と隔離された内部空間を有する隔離部材と、
前記内部空間内の水蒸気の測定結果を基準として、前記隔離部材の外部の測定空間における水蒸気の分布を導出する前記分布導出手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の水蒸気分布測定装置。
【請求項6】
前記内部空間内の水蒸気の測定結果を使用して、前記隔離部材の外部の測定空間における水蒸気の測定結果のノイズを除去する
ことを特徴とする請求項5に記載の水蒸気分布測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空間における水蒸気の分布を測定する水蒸気分布測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中に普遍的に存在している水蒸気は精密電子機器や食品の品質管理・安定稼働に影響を及ぼすため、厳密な湿度管理が重要とされる。湿度計測、すなわち、水蒸気濃度計測のための機器は様々な原理を用いたものが市販されている。
水蒸気を検出する技術に関し、下記の特許文献1,2に記載の技術が公知である。
【0003】
特許文献1(特開2000-35371号公報)には、配管(1)の亀裂部(2)から漏洩している水蒸気(3)に対して、波長1.064μm(=1064nm)のレーザー光(5)が照射された場合に、水蒸気(3)の発熱部(31)からの熱線を赤外線カメラ(6)で測定することで、水蒸気の漏洩の有無を検出する技術が記載されている。特許文献1には、レーザー光(5)をスキャンして2次元的に発熱部(31)を発生させることも記載されている。
【0004】
特許文献2(特開2015-45540号公報)には、繊維製品に対して放出/吸収される会合水分子を可視化するために、波長400nm~600nmの青色~緑色の可視光のレーザー光をシート状に広げて、暗室内で照射する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-35371号公報(「0010」-「0019」、
図1、
図2)
【文献】特開2015-45540号公報(「0014」-「0017」)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(従来技術の問題点)
特許文献2に記載の技術では、空気中の水蒸気を測定することはできない。
また、水蒸気を測定する技術としては、電気式の湿度センサや特許文献1のような赤外線レーザーを利用した光学式の水分センサが存在するが、それぞれ空気中の定点における湿度やサンプルガス中の水分量を測定する機器である。したがって、点状(スポット状)の測定領域の測定しかできず、ある程度の広さを有する領域(エリア)の水蒸気分布を測定することは不可能である。
【0007】
従来技術において、エリアの水蒸気分布を測定しようとすると、特許文献1に記載されているように、レーザー光を走査(スキャン)する必要がある。しかし、スキャンする構成では、スキャンの速度に応じて、各点(スポット)の測定結果に時間的なずれが生じる。したがって、拡散、流動していく水蒸気の正確な分布を測定することはできない。
したがって、従来技術では、近年の厳密な湿度管理が要請する水蒸気の空間分布、流れ、発生源を把握することができない。
【0008】
本発明は、予め定められた広さを有する測定領域の水蒸気を測定することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の水蒸気分布測定装置は、
水蒸気が吸収しうる波長の近赤外光を出力する光源と、
前記光源に対して測定空間を挟んで配置され、近赤外光を測定する近赤外光測定装置と、
前記光源と前記近赤外光測定装置とを結ぶ方向に垂直な前記測定空間の断面が面積を有する前記測定空間に、前記光源から出力された近赤外光を拡大させて照射させる光学系と、
前記近赤外光測定装置での測定結果に基づいて、前記測定空間の断面における水蒸気の分布を導出する分布導出手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の水蒸気分布測定装置において、
波長1800nm~1900nmの近赤外光を出力する前記光源、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の水蒸気分布測定装置において、
中心波長1866nmの近赤外光と、中心波長1800nmの近赤外光と、を交互に出力する前記光源、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の水蒸気分布測定装置において、
水蒸気が吸収しうる波長の近赤外レーザー光を出力するレーザー光源により構成された前記光源と、
前記光源からの近赤外レーザー光を内部で多重反射させて非干渉性の近赤外光を出力する積分球と、前記積分球からの近赤外光を前記測定空間に応じて屈折させる凹レンズと、
前記凹レンズを通過した近赤外光を屈折させて前記測定空間に向けて照射する凸レンズと、を有する前記光学系と、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の水蒸気分布測定装置において、
前記測定空間内に配置され、外部の空気と隔離された内部空間を有する隔離部材と、
前記内部空間内の水蒸気の測定結果を基準として、前記隔離部材の外部の測定空間における水蒸気の分布を導出する前記分布導出手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の水蒸気分布測定装置において、
前記内部空間内の水蒸気の測定結果を使用して、前記隔離部材の外部の測定空間における水蒸気の測定結果のノイズを除去する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、予め定められた広さを有する測定領域の水蒸気を、スキャンする場合に比べて、時間的な遅延がなく、測定することができる。
請求項2に記載の発明によれば、波長1400nm近傍の近赤外光を使用する場合に比べて、精度よく水蒸気の分布を測定することができる。
請求項3に記載の発明によれば、吸光度差の小さな1800nmの測定結果を基準として、吸光度差の大きな1866nmの測定結果から水蒸気の分布を測定できる。
請求項4に記載の発明によれば、レーザー光を使用しない場合に比べて、高強度の光を照射でき、精度よく水蒸気の分布を測定できる。また、積分球を使用しない場合に比べて、干渉縞の悪影響を抑制できる。
請求項5に記載の発明によれば、隔離部材の内部の空気を基準として測定空間の水蒸気の分布を導出できる。
請求項6に記載の発明によれば、内部空間内の水蒸気の測定結果から隔離部材の外部の測定空間の水蒸気の測定結果のノイズを除去することができ、ノイズを除去しない場合に比べて、測定結果の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】
図1は本発明の実施例1の水蒸気分布測定装置の全体説明図である。
【
図2】
図2は実施例1の水蒸気分布測定装置の概略説明図である。
【
図3】
図3は湿り空気の吸光度差のスペクトルの実験結果の説明であり、
図3Aは波長1800nm~2000nmの範囲の吸光度差のグラフ、
図3Bは1800nm~1900nmの範囲の拡大図である。
【
図5】
図5は実験結果の説明図であり、
図5Aは実験開始時点の波長1866nmでの実験結果の画像、
図5Bは実験開始から4.4秒後の波長1866nmでの実験結果の画像、
図5Cは実験開始から10秒後の波長1866nmでの実験結果の画像、
図5Dは実験開始時点の波長1800nmでの実験結果の画像、
図5Eは実験開始から4.4秒後の波長1800nmでの実験結果の画像、
図5Fは実験開始から10秒後の波長1800nmでの実験結果の画像である。
【
図6】
図6は1866nmと1800nmのノズル付近の領域の吸光度差の実験結果のグラフである。
【
図7】
図7は実験例1の実験結果を画像処理した結果の説明図であり、
図7Aは実験開始から0.03秒後のΔAの画像、
図7Bは実験開始から4.18秒後のΔAの画像、
図7Cは実験開始から4.27秒後のΔAの画像、
図7Dは実験開始から6.63秒後のΔAの画像である。
【
図8】
図8は実験例2の実験結果の説明図であり、
図8Aは実験開始から1秒後のΔAの画像、
図8Bは実験開始から1.96秒後のΔAの画像、
図8Cは実験開始から2.14秒後のΔAの画像、
図8Dは
図8Aの位置Iと位置IIにおけるΔAの時間変化のグラフである。
【
図9】
図9は実験例3のウレタンマスクをした状態での呼吸の実験結果の説明図であり、
図9Aは外観写真、
図9Bは実験開始から3秒後のΔAの画像、
図9Cは実験開始から5.12秒後のΔAの画像、
図9Dは実験開始から5.82秒後のΔAの画像である。
【
図10】
図10は実験例3の不織布マスクをした状態での呼吸の実験結果の説明図であり、
図10Aは外観写真、
図10Bは実験開始から2.71秒後のΔAの画像、
図10Cは実験開始から5.66秒後のΔAの画像、
図10Dは実験開始から6.54秒後のΔAの画像である。
【
図11】
図11は実験例4の実験結果の波長と吸光度差の関係の説明図であり、
図11Aは1330nm~1440nmの波長帯のグラフ、
図11Bは波長1800nm~1950nmの波長帯のグラフである。
【
図12】
図12は実験例5の実験結果の説明図であり、水蒸気濃度と吸光度差の関係のグラフである。
【
図13】
図13は実験例6の実験結果の説明図であり、
図13Aはノズルと電子湿度センサとの位置関係の説明図、
図13Bは水蒸気濃度と時間経過との関係のグラフである。
【
図15】
図15は実験例7の実験結果の説明図であり、
図15Aは実験開始から0.03秒後のΔAの画像、
図15Bは実験開始から4.32秒後のΔAの画像、
図15Cは実験開始から4.70秒後のΔAの画像、
図15Dは実験開始から9.50秒後のΔAの画像である。
【
図16】
図16は実験例8の実験結果の説明図であり、
図16Aは測定空間の各位置での測定結果と薄肉パイプ内の測定結果との比ごとに周波数とコヒーレンスとの関係を示したグラフ、
図16Bは時間と吸光度差との測定結果のグラフ、
図16Cは
図16Bの結果からゆらぎの補正を行った後のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例である実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0018】
図1は本発明の実施例1の水蒸気分布測定装置の全体説明図である。
図1において、本発明の実施例1の水蒸気分布測定装置1は、測定用の近赤外光を出力する出力部2と、近赤外光が入力される入力部3と、入力部3の結果に基づいて情報処理を行う情報処理装置の一例としてのパーソナルコンピュータ4とを有する。
なお、本願明細書および請求の範囲において、「近赤外」とは、波長1200nm~2400nmの波長領域を指す意味で使用している。
入力部3は出力部2に対して、間隔をあけて配置されており、出力部2と入力部3との間には測定空間11が存在する。測定空間11は、出力部2から出力される近赤外光の進行方向(光軸)に対して垂直な断面(測定断面12)が、所定の面積を有する。
【0019】
(出力部2の説明)
図2は実施例1の水蒸気分布測定装置の概略説明図である。
図2において、出力部2は、近赤外光を出力する光源の一例としての近赤外レーザー21を有する。近赤外レーザー21は近赤外領域のレーザー光22を出力する。実施例1の近赤外レーザー21は、レーザー光の波長が可変のチューナブルレーザー(波長可変レーザー)により構成されている。実施例1では、波長が近赤外領域の1650nm~2000nmの範囲で変更可能である。実施例1の近赤外レーザー21は、本発明者らの研究の結果、水蒸気の吸収(吸光度差)が極大となることが確認された波長1866nmと、水蒸気の吸収が極小の波長1800nmのレーザー光22を交互に出力する。なお、レーザーが出力する光の波長には現実問題として幅があり、例えば、「波長1866nm」の設定でも、実際には1866nmにピークを持ち、半値全幅が1861~1871nmのような幅をもった光が出力される。よって、本願明細書および請求の範囲において、実際には「中心波長1866nmを中心とした幅をもったレーザー光」であっても、単に「波長1866nmのレーザー光」と表記して説明を行う場合がある。
近赤外レーザー21から出力されたレーザー光22は、光量調整部材の一例としての減光フィルター23で光量が予め定められた光量に減光される。
【0020】
減光フィルター23を通過したレーザー光22は、光学系24に入力される。実施例1の光学系24は、積分球24aと、凹レンズ24bと、凸レンズ24cとを有する。
積分球24aは、中空の球状の構成であり、内面に光を反射する反射面が形成されている。積分球24aは、内部に導入されたレーザー光22を内面に多重反射させて、可干渉性の(コヒーレンスな)レーザー光22の可干渉性を低減または非干渉性にして出力する。
凹レンズ24bは、積分球24aからの近赤外光26を屈折させて、測定空間11に応じて拡大する。
凸レンズ24cは、凹レンズ24bを通過した近赤外光26を屈折させて、測定空間11に向けて平行光にする。
前記符号21~24等を付した各部材により、実施例1の出力部2が構成されている。
【0021】
(入力部3の説明)
入力部3は、光学部材の一例としてのテレセントリックレンズ31と、近赤外光測定装置の一例としての近赤外カメラ32とを有する。
テレセントリックレンズ31は、測定空間11を通過した光が入射して、近赤外カメラ32の撮像面の面積に応じて集光する。
近赤外カメラ32は、近赤外光を測定する。
【0022】
(パーソナルコンピュータ4の説明)
実施例1のパーソナルコンピュータ4は、外部との信号の入出力および入出力信号レベルの調節等を行うI/O(入出力インターフェース)、必要な起動処理を行うためのプログラムおよびデータ等が記憶されたROM(リードオンリーメモリ)、必要なデータ及びプログラムを一時的に記憶するためのRAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM等に記憶された起動プログラムに応じた処理を行うCPU(中央演算処理装置)ならびにクロック発振器等を有するコンピュータ装置により構成されており、前記ROM及びRAM等に記憶されたプログラムを実行することにより種々の機能を実現することができる。
【0023】
パーソナルコンピュータ4には、基本動作を制御する基本ソフト、いわゆる、オペレーティングシステムOS、アプリケーションプログラムの一例としての水蒸気分布測定プログラムAP1、その他の図示しないソフトウェアが記憶されている。
パーソナルコンピュータ4には、近赤外カメラ32から測定結果の情報が入力される。
水蒸気分布測定プログラムAP1の分布導出手段C1は、近赤外カメラ32での測定結果に基づいて、測定空間11の測定断面12における水蒸気の分布を導出する。実施例1の分布導出手段C1は、測定空間11の水蒸気での近赤外光の吸光度差に基づいて、測定断面12内の水蒸気の分布を導出して、2次元的に表示する。実施例1では、吸光度差が極小、すなわち、水蒸気が存在しても光が殆ど水蒸気に吸収されずに透過する波長1800nmでの測定結果と、吸光度差が極大すなわち、水蒸気が存在すると光が吸収されやすい波長1866nmの測定結果とを対比することで、水蒸気に由来する吸光度の変化を導出する。いわば、波長1866nmの測定結果から、波長1800nmの測定結果を用いて、ノイズの除去や較正が行われる。そして、光路上の水蒸気量の和が、測定断面12の画素(最小の測定単位)ごとに導出されることで、水蒸気の分布が導出される。すなわち、測定断面12における水蒸気分布の光路方向の積分画像が導出される。このとき、吸光が多い場合は水蒸気の濃度が高く、吸光が少ない場合は水蒸気の濃度が低い画像として導出される。
【0024】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の水蒸気分布測定装置1では、近赤外レーザー21からの光を光学系24で拡大して、測定空間11に照射する。そして、測定空間11を通過した近赤外光26がテレセントリックレンズ31で集光されて近赤外カメラ32で測定される。したがって、レーザー光をスキャンする従来の構成に比べて、断面が面積を有する測定領域(測定断面12)の水蒸気を、タイムラグ(時間的な遅延)がなく測定することが可能である。また、スキャンする場合は、面積が広くなると1面全体を測定するのに時間がかかるが、実施例1では一度の測定で可能であり、時間を短縮できる。
【0025】
また、実施例1では、光源としてレーザー光源が使用されており、光の強度が、ランプのような照明光の場合よりも強い。光の強度が弱いと、吸光の観測の信号が弱くなり、水蒸気の分布の測定が困難な場合がある。これに対して、近赤外レーザー21を使用する実施例1では、光の強度が弱い場合に比べて、広い面積の水蒸気の分布を観測することができる。
さらに、一般に、レーザー光22を、積分球24aを使用せずにレンズで拡大すると、干渉縞の悪影響が問題となる。これに対して、積分球24aを使用する実施例1の構成では、干渉縞の悪影響が抑制され、水蒸気の分布を精度よく観測することが可能である。
【0026】
また、実施例1では、近赤外光を使用している。中赤外領域では、波長2500nm~2800nmに水蒸気の吸収帯があり、吸収が近赤外よりも強いため、高感度な水蒸気測定が原理的には可能である。しかし、中赤外領域や遠赤外領域の光を使用する場合には、光学部品として、各波長域に対応した部品を使用する必要があり、コストが高くなる問題がある。これに対して、近赤外光を使用する場合、大量に流通していてコストも安い可視光用の光学部品をそのまま使用することができる場合が多い(特に、波長2000nm以下)。したがって、中赤外よりも長波長の光を使用する場合に比べて、実施例1では、コストの上昇も抑制可能である。
さらに、実施例1では、波長が1800nmと1866nm(以下「1800nm近傍」と表記する場合あり)の光を使用している。水蒸気は、1400nm近傍にも強い吸収帯があることも学術的に知られており、学術的には1400nm近傍の波長のレーザー光を使用して水蒸気を測定する研究が散見される。しかしながら、1400nm近傍よりも1800nm近傍の方が吸収の強度が強いことが確認された。吸収が弱いと水蒸気を精度よく観測することが困難になるが、波長1800nm近傍の光を使用する実施例1では、水蒸気をより正確に観測することが可能である。
なお、水蒸気をレーザーで加熱して熱を検知する特許文献1や、人の目で可視化するために可視光を使用する特許文献2と、吸光に基づいて水蒸気を検知しようとする実施例1の構成とでは、測定のための原理や構成が異なる。
【0027】
(吸光スペクトルと波長の関係)
本発明は水蒸気の吸収分光特性に基づいている。吸光度については、Lambert-Beer の法則が知られている。この法則は測定試料の吸光度が濃度と試料厚さに比例することを表したもので、入射光強度をI
o、透過光強度をIとしたとき吸光度Aは次式(1)で表される。
A=log(I
o/I)=log(1/T)=cdε …式(1)
ここで、濃度c、試料厚さd、モル吸光係数εである。
測定試料の濃度や温度により吸光度は異なるため、基準(下添字rで表す)を定義して次の式(2)のように差を取ることで吸光度差ΔAを算出できる。
ΔA=A-A
r=-log(I/I
o)-{-log(I
r/I
o)}=-log(I/I
r) …式(2)
湿り空気のΔAスペクトルを
図3に示す。
【0028】
図3は湿り空気の吸光度差のスペクトルの実験結果の説明であり、
図3Aは波長1800nm~2000nmの範囲の吸光度差のグラフ、
図3Bは1800nm~1900nmの範囲の拡大図である。
この実験では、長さ168mm、直径59mmのプラスチック製円筒容器の両側面に石英板を取り付けたガスセルの内部に湿り空気を流し、湿度を記録しながらフーリエ変換赤外分光計(FT-IR)によってスペクトルを測定した。気温は19℃であった。また、実験では、湿り空気の湿度が、5.62[g/m
3]、10.12[g/m
3]、15.51[g/m
3]、19.69[g/m
3]の場合について実験を行った。
図3Aに示すように、波長がおよそ1820~1930nmの領域に水蒸気の吸収ピーク群が観察される。今回のイメージング実験では波長可変レーザーを用いているが、出力光のスペクトルは半値全幅11nmを有しているため、これをガウス関数に近似してFT-IRのスペクトルに乗じることで波長ごとの感度を推定した。
図3Bにその結果を示す。
【0029】
図3Bにおいて、湿度がいずれの値であっても、波長1860~1870nmでは大きな吸収ピークが比較的密に存在するため感度の大きな違いはないが、極大となる1866nmをここでは選択することが最も好適であることがわかる。よって、波長1866nmを選択した。同時に、水蒸気に対してΔAが極めて小さい1800nmも選択し、両波長のΔA画像の比較により水蒸気を可視化した。
【0030】
図4は実験装置の説明図である。
図4において、光源として波長可変レーザー21(浜松ホトニクス)を使用した。実験で使用した波長可変レーザー21は、波長範囲が1650nm~2000nm、出力は1870nmで82mWであった。
波長可変レーザー21からの射出光(レーザー光)22は積分球24aで乱反射させ、コヒーレンス性を低減させた。積分球から出た光は凹レンズ24bにより拡大させ、2枚の凸レンズ24cによって直径約100mmの平行光にした。平行光は測定空間11を通過し、テレセントリックレンズ31(TS-TitanTL0.093X、エドモンドオプティクス社製)を通して近赤外カメラ32(CV-N800、住友電工社製)に入る。
【0031】
測定空間11には水蒸気量の差を生じさせるため、乾燥空気を30℃の水で満たしたタンク41内に送り込みバブリングさせることで発生させた湿り空気をノズル42から放出させた。ノズル42はタンク41と内径8mmのチューブ43で繋がっており、ノズル42開口部は121×3mmの長方形である。ノズル42の向きは開口部の長軸方向が光軸と平行になるようにした。流量は13mL/minとし、開放されている測定空間11の気温は15℃、相対湿度は40%であった。
実験手順としては、選択波長(1866nmと1800nm)の光を交互に出力し、数秒後に水蒸気を発生させて近赤外カメラによって撮影する。一枚目の画像を基準画像Irとし、それ以降の画像をIとして式(2)を適用することで2つの吸光度差画像ΔA1866nm,ΔA1800nmを取得した。さらに、差(ΔA1866nm~ΔA1800nm) をとることで新たな吸光度差画像ΔA′を算出した。カメラの撮影枚数は1000枚、フレームレートは100Hzとした。
【0032】
(実験例1)
図5は実験例1の実験結果の説明図であり、
図5Aは実験開始時点の波長1866nmでの実験結果の画像、
図5Bは実験開始から4.4秒後の波長1866nmでの実験結果の画像、
図5Cは実験開始から10秒後の波長1866nmでの実験結果の画像、
図5Dは実験開始時点の波長1800nmでの実験結果の画像、
図5Eは実験開始から4.4秒後の波長1800nmでの実験結果の画像、
図5Fは実験開始から10秒後の波長1800nmでの実験結果の画像である。
図5は、水蒸気の噴出前(
図5A)、直後(
図5B)、噴出中(
図5C)のΔA′画像である。波長1866nmの光で観察した場合、水蒸気噴出前(
図5A)では画像内のΔA′は均一であるが、噴出直後(
図5B)にはノズル42付近のΔA′が増加し、下方に向けて帯状に増加領域が形成された。時間が経つとさらにΔA′は増加して定常状態となり、安定して噴出している様子が画像から読み取ることができた(
図5C)。
一方、波長1800nmの光では、
図5D~
図5Fに示すように、いずれも水蒸気を観察できなかった。
【0033】
図6は1866nmと1800nmのノズル付近の領域の吸光度差の実験結果のグラフである。
図6は1866nmと1800nmのそれぞれの波長におけるノズル42付近の領域Rの吸光度差ΔAをプロットしたグラフである(
図5Aで示した矩形領域Rの平均)。水蒸気の光吸収のない波長1800nmでは変化がなく一定であるが、光吸収のある波長1866nmではステップ的に吸光度差ΔAが増加しており、噴出開始時刻とも一致していた。この事実は
図5の結果が水蒸気の吸収に由来することを示している。これらの実験結果から、本発明はノズル42からの水蒸気の噴出を画像として捉えられることが実証された。
【0034】
図7は実験例1の実験結果を画像処理した結果の説明図であり、
図7Aは実験開始から0.03秒後のΔAの画像、
図7Bは実験開始から4.18秒後のΔAの画像、
図7Cは実験開始から4.27秒後のΔAの画像、
図7Dは実験開始から6.63秒後のΔAの画像である。
実験例1の実験結果から式(2)を使用して吸光度差ΔAを計算し、公知の画像処理技術であるバイラテラルフィルターを使用して平滑化すると、
図7に示すように鮮明化することが可能である。
【0035】
(実験例2)
図8は実験例2の実験結果の説明図であり、
図8Aは実験開始から1秒後のΔAの画像、
図8Bは実験開始から1.96秒後のΔAの画像、
図8Cは実験開始から2.14秒後のΔAの画像、
図8Dは
図8Aの位置Iと位置IIにおけるΔAの時間変化のグラフである。
図8において、実験例2では、人が呼吸を行う際の水蒸気量の変化を測定する実験を行った。
図8A~
図8Cに示すように、呼吸に伴う水蒸気(飛沫やしぶきではない目視できないガス水分子)の拡散および拡散時の水蒸気の分布を可視化して観測することができた。また、
図8Dに示すように、鼻の下方の位置Iと、鼻の前方の位置IIでの吸光度差ΔAの時間変化の履歴を導出することも可能であり、水蒸気の時間的な変化も観測することが可能であった。
【0036】
(実験例3)
図9は実験例3のウレタンマスクをした状態での呼吸の実験結果の説明図であり、
図9Aは外観写真、
図9Bは実験開始から3秒後のΔAの画像、
図9Cは実験開始から5.12秒後のΔAの画像、
図9Dは実験開始から5.82秒後のΔAの画像である。
図10は実験例3の不織布マスクをした状態での呼吸の実験結果の説明図であり、
図10Aは外観写真、
図10Bは実験開始から2.71秒後のΔAの画像、
図10Cは実験開始から5.66秒後のΔAの画像、
図10Dは実験開始から6.54秒後のΔAの画像である。
図9、
図10において、実験例3では、人が呼吸を行う場合に、ポリウレタン製のマスクと不織布製のマスクとで、呼気がどのように拡散していくのかを観測する実験を行った。
図9B~
図9Dに示すように、ウレタンマスクでは、呼吸に伴って、比較的マスクの前方まで水蒸気が分布することが観測された。すなわち、呼気がウレタンマスクでほとんど妨げられずに透過して、前方まで拡散することが確認された。一方、
図10B~
図10Dに示すように、不織布マスクでは、呼吸があっても、比較的マスクの近傍~下方にしか水分が分布せず、ウレタンマスクに比べて前方に水蒸気が分布しないことが観測された。すなわち、呼気中の水蒸気が不織布マスクではウレタンマスクよりも透過しにくいことが確認された。
【0037】
(実験例4)
図11は実験例4の実験結果の波長と吸光度差の関係の説明図であり、
図11Aは1330nm~1440nmの波長帯のグラフ、
図11Bは波長1800nm~1950nmの波長帯のグラフである。
実験例4では、水蒸気濃度が4.6g/m
3の場合と、11.7g/m
3の場合とで、吸光度差ΔAに半値全幅(FWHM)が11nmのガウスフィルタを使用して補正した値ΔA′を導出した。
図11において、実験例4の結果、1382nmと1872nmにピークが観測され、1872nmの方がよりピークの高さが大きいことが確認された。なお、
図11の結果は半値全幅が11nmあるレーザー光源を使用した結果であって、1872nmはそのレーザーの中心波長であり、
図3Bが示すように、波長1872nmでなくても、1872nmの近傍であれば、十分な測定結果が得られることが期待される。よって、1872nmを中心とする11nmの範囲である1866nmでも、十分な結果が得られたものと推定される。言い換えれば、
図11Bでも示されるように、鋭いピークが1866nmにあるわけではなく、1872nmでも感度的にほとんど差がない。よって使用する波長はレーザーなどの光源の仕様に応じて選択可能である。また、実際の光源は波長幅があるため、そのことが
図11Bで示されている。
【0038】
(実験例5)
図12は実験例5の実験結果の説明図であり、水蒸気濃度と吸光度差の関係のグラフである。
実験例5では、水蒸気濃度が1.6g/m
3~10.2g/m
3の複数の湿り空気を使用して、波長1872nmでの吸光度差ΔA′を正規化した値Δμ′を導出した。なお、Δμ′=ΔA′/l、で定義され、lは、ノズルの長さ168mm(=0.168m)である。
図12に示すように、水蒸気濃度と吸光度との間には、比例関係があることが確認された。したがって、吸光度差を測定、導出することで、水蒸気濃度が導出可能である。
【0039】
(実験例6)
図13は実験例6の実験結果の説明図であり、
図13Aはノズルと電子湿度センサとの位置関係の説明図、
図13Bは水蒸気濃度と時間経過との関係のグラフである。
実験例6では、近赤外光を使用して計測される水蒸気濃度が、電子湿度センサ51で計測される水蒸気濃度とのずれの検証を行った。
電子湿度センサ51は、株式会社佐藤商事製のHT3007SDを使用した。電子湿度センサ51は、空気中の水蒸気濃度を直接的に計測可能な機器である。ノズル42の下方で電子湿度センサ51の近傍の位置Rでの実施例1のΔAの測定結果を
図13Bの実線で示し、電子湿度センサ51の測定結果を
図13Bの太線で示した。
図13Bの結果から、近赤外光を使用する実施例1の測定結果と、電子湿度センサ51での測定結果がほぼ一致し、実施例1の測定方法でも水蒸気濃度が測定可能であることが確認された。さらに、電子湿度センサ51の時間応答は実施例1の測定方法の時間応答よりも遅く、急激な水蒸気濃度変化に追随できていないことが示され、この点で実施例1の測定方法の優位性が分かる。
【0040】
(実施例1の変更例)
図14は実施例1の変更例の説明図であり、
図2に対応する図である。
図14において、変更例では、測定空間11には、隔離部材の一例としてのプラスチック製の薄肉パイプ61が配置されている。薄肉パイプ61は、中空の円筒状に形成されており、内部の空間が外部の空気と隔離されている。薄肉パイプ61の内部には、湿度が既知の乾燥空気が封入されている。
そして、分布導出手段C1は、薄肉パイプ61の内部の空気の湿度が既知であるため、薄肉パイプ61の内部の測定結果を基準として、薄肉パイプ61の外部の測定空間11の水蒸気の分布や湿度を精度よく導出できる。
特に、薄肉パイプ61に封入された空気の水分量の正確な値が既知である場合、薄肉パイプ61の測定結果を基準として、測定空間11の測定結果から、測定空間11における水蒸気の正確な値を導出すること、すなわち、定量分析が可能である。なお、薄肉パイプ61に封入された空気の水分量の正確な値が既知でなくても、薄肉パイプ61内の空気に対する相対的な水分量(水分量の比)、相対湿度は導出が可能である。加えて、薄肉パイプ61の測定結果を基準として、測定空間11における測定結果に含まれる光源や光検出器由来のノイズを除去することが可能である。このノイズについては、実験例8で詳述する。
【0041】
なお、薄肉パイプ61の径と位置は、光の強度や測定空間11の広さ、設計や仕様等に応じて任意に変更可能である。したがって、太いチューブ状等とすることが可能である。さらに、光ファイバーを使用することも可能であり、光ファイバーを使用した場合は、延びる方向(長手方向)は光軸に対して斜めや曲がった配置することも可能である。このとき、光ファイバーの端面を拡大レンズの近傍、もう一方の端面をテレセントリックレンズの近傍に設置する。また、円筒状に限定されず、多角筒状とすることも可能である。設置位置は画像中心に限らず、画像内の任意の位置としてよい。
さらに、薄肉パイプ61は、内部に空気が封入された構成に限定されない。例えば、薄肉パイプ61の両端が測定空間11の外部まで延び、薄肉パイプ61の内部が測定空間11の空気とは十分に隔離された状態であれば、薄肉パイプ61の両端は開放された状態とすることも可能である。
【0042】
(実験例7)
図15は実験例7の実験結果の説明図であり、
図15Aは実験開始から0.03秒後のΔAの画像、
図15Bは実験開始から4.32秒後のΔAの画像、
図15Cは実験開始から4.70秒後のΔAの画像、
図15Dは実験開始から9.50秒後のΔAの画像である。
実験例7では、実施例1の変更例の構成の効果の確認を行った。
図15A~
図15Dに示すように、ノズル42から吐出された湿り空気の分布の時間経過が確認されると共に、中央部の薄肉パイプ61の内部の測定結果が安定していることも確認された。
【0043】
(実験例8)
図16は実験例8の実験結果の説明図であり、
図16Aは測定空間の各位置での測定結果と薄肉パイプ内の測定結果との比ごとに周波数とコヒーレンスとの関係を示したグラフ、
図16Bは時間と吸光度差との測定結果のグラフ、
図16Cは
図16Bの結果からゆらぎの補正を行った後のグラフである。
図16Aにおいて、ノズル42に対して、薄肉パイプ61の手前の位置Aと、薄肉パイプ61の奥の位置Bと、位置Bよりもさらに奥の位置Cについて、薄肉パイプ61内の位置Rの測定結果に対するそれぞれの位置での測定結果(強度)のコヒーレンス(相関)を導出した。すなわち、
図16Aの縦軸は相関を示したもので1に近いほど相関があるということである。
図16のグラフでは低周波の同じ揺らぎ(ノイズ)が周囲とパイプ内部の両方に含まれることを示している。なお、高周波側は変動が激しく、はっきりした相関が分からない。
【0044】
図16Bにおいて、波長1872nmのレーザー光について、位置Aの測定結果と、位置Rの測定結果のグラフにおいて、水蒸気濃度が安定しているはずの位置Rの測定結果でも波形に低周波の振動が観測されている。これは、光源やカメラ等の測定機器に起因するいわゆる「ゆらぎ」と呼ばれるノイズである。
図16Bの測定結果から、位置Rの測定結果を使用して位置Aの測定結果を補正することで、
図16Cに示すような、ノイズが除去されたより精度の高い測定結果を得ることが可能である。
【0045】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。
例えば、前記実施例において、光源として光の強度が強いレーザーを使用することが望ましいが、これに限定されない。測定空間11の広さや光源の光量によっては、レーザーよりも指向性、収束性の低い照明光を使用することも可能である。照明光を使用した場合は、減光フィルター23や積分球24aは省略することも可能である。
【0046】
前記実施例において、選択した波長は1866nmと1800nmと1872nmを例示したがこれに限定されない。要求される強度やレーザーの構成等によっては、別の波長を選択することも可能である。特に、吸光度差が低い波長としての1800nmの方は、吸光度差が低ければ他の任意の波長に変更可能である。また、波長1866nmまたは波長1872nmのみで十分な精度の観測が可能であれば、対比のための波長1800nmの光を使用しない、すなわち、1種類の光で観測を行う構成とすることも可能である。特に、測定に悪影響を及ぼす他のガスがほとんどない状況では、1866nmのみでも十分な精度の測定が可能である。1800nmを基準として用いると他の成分の影響を原理的に排除できるが、実際には影響を及ぼす他のガスはほとんどなく、本発明が最も有効なのは目視できる凝縮水蒸気(湯気)を判別し、その影響を除去できることである。
【0047】
また、前記実施例において、測定空間11として、大気に対して開放された空間を例示したが、これに限定されない。密閉された空間とすることも可能である。また、密閉の程度も任意の空間とすることも可能であり、容器内や室内、施設内等の任意の空間とすることも可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…水蒸気分布測定装置、
11…測定空間、
12…測定空間の断面、
21…光源、レーザー光源、
22,26…近赤外光、
24…光学系、
24a…積分球、
24b…凹レンズ、
24c…凸レンズ、
32…近赤外光測定装置、
61…隔離部材、
C1…分布導出手段。