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特許7544427粉体組成物、付加製造用モルタル材料、造形物及び造形物の製造方法
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  • 特許-粉体組成物、付加製造用モルタル材料、造形物及び造形物の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】粉体組成物、付加製造用モルタル材料、造形物及び造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20240827BHJP
   C04B 14/06 20060101ALI20240827BHJP
   C04B 14/26 20060101ALI20240827BHJP
   C04B 16/06 20060101ALI20240827BHJP
   C04B 18/08 20060101ALI20240827BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20240827BHJP
   C04B 24/14 20060101ALI20240827BHJP
   C04B 24/26 20060101ALI20240827BHJP
   C04B 24/28 20060101ALI20240827BHJP
   C04B 24/34 20060101ALI20240827BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20240827BHJP
   B28B 1/30 20060101ALI20240827BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240827BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240827BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240827BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/06 Z
C04B14/26
C04B16/06 Z
C04B18/08 Z
C04B18/14 A
C04B18/14 Z
C04B24/14
C04B24/26 D
C04B24/28 Z
C04B24/34
C04B24/38 Z
B28B1/30
B33Y10/00
B33Y70/00
B33Y80/00
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024531659
(86)(22)【出願日】2024-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2024007419
【審査請求日】2024-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2023031788
(32)【優先日】2023-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520332793
【氏名又は名称】株式会社Polyuse
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 太陽
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-122539(JP,A)
【文献】特開2020-105023(JP,A)
【文献】国際公開第2021/162104(WO,A1)
【文献】特開2021-098625(JP,A)
【文献】国際公開第2023/022089(WO,A1)
【文献】特開2018-140906(JP,A)
【文献】特開2022-124859(JP,A)
【文献】特開2021-031343(JP,A)
【文献】特表2020-529934(JP,A)
【文献】村田哲ほか,3Dプリンティングに適したセメント系材料の簡易な品質確認方法に関する実験的検討,コンクリート工学年次論文集,日本,2019年,Vol.41, No.1,PP.2027-2032,P.2027 要旨、P.2029左欄 (2)モルタルフロー,(5)ベーンせん断強さ、P.2029右欄 図-2,図-5、P.2032左欄 表-7 簡易な品質確認方法(案)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/00-28/36
B28B 1/30
B33Y 10/00-99/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
付加製造用モルタル材料を生成するために用いられる粉体組成物であって、
結合材(A)と、細骨材(B)と、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)と、を含み、
前記チキソトロピー性を付与する混和剤(C)は、セルロース、変性セルロース、ナノファイバー、合成繊維、ウレタン、キサンタンガム、ダイユータンガム、スターチエーテル、グアガム、ポリアクリルアミド、カラギーナンガム、寒天及び蛋白質からなる群から選択される1以上の成分を含み、
前記ナノファイバーは、セルロースナノファイバーを含み、
前記合成繊維は、ポリビニルアルコール及びポリ酢酸ビニルからなる群から選択される1以上を含み、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS A 1171に準拠してスランプ試験を実施したときに、T1(5)が0.1cm以上2cm以下であり、かつ、T1(5)とT1(30)との差(T1(5)-T1(30))が0.1~1.8cmの範囲であり、
ここで、T1(5)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記スランプ試験のスランプ値であり、T1(30)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記スランプ試験のスランプ値であり、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;15)が110mm以上であり、かつ、T2(30;15)が108mm以上であり、
ここで、T2(5;15)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の15打のフロー値であり、T2(30;15)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の15打のフロー値である、粉体組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の粉体組成物において、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;0)が110mm未満であり、
ここで、T2(5;0)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、粉体組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の粉体組成物において、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;15)とT2(5;0)との差(T2(5;15)-T2(5;0))が5~40mmの範囲であり、
ここで、T2(5;0)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、粉体組成物。
【請求項4】
請求項1に記載の粉体組成物において、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(30;0)が108mm未満であり、
ここで、T2(30;0)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、粉体組成物。
【請求項5】
請求項1に記載の粉体組成物において、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(30;15)とT2(30;0)との差(T2(30;15)-T2(30;0))が5~20mmの範囲であり、
ここで、T2(30;0)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、粉体組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の粉体組成物において、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(5)が1.5~5kPaであり、
ここで、T3(5)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記ハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である、粉体組成物。
【請求項7】
請求項1に記載の粉体組成物において、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(30)が3.0~8.0kPaであり、
ここで、T3(30)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記ハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である、粉体組成物。
【請求項8】
請求項1に記載の粉体組成物において、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(30)とT3(5)との差(T3(30)-T3(5))が1.5~6.5kPaの範囲であり、
ここで、T3(30)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記ハンドベーンせん断試験のせん断降伏値であり、T3(5)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記ハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である、粉体組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の粉体組成物において、
前記結合材(A)は、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、高炉セメントおよびフライアッシュセメントからなる群から選択されるセメント成分(A1)を含む、粉体組成物。
【請求項10】
請求項に記載の粉体組成物において、
前記結合材(A)は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末、石粉、シリカフュームおよび膨張材からなる群から選択される混和材(A2)をさらに含む。粉体組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の粉体組成物において、
前記細骨材(B)は、砂、山砂、陸砂、海砂、珪砂、砕砂、スラグ細骨材からなる群から選択される1以上の成分を含む、粉体組成物。
【請求項12】
付加製造用モルタル材料であって、
請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の粉体組成物に、水を加えてなる、付加製造用モルタル材料。
【請求項13】
請求項12に記載の付加製造用モルタル材料において、
前記水の量は、前記粉体組成物100質量部に対して12.0~18.0質量部である、付加製造用モルタル材料。
【請求項14】
造形物であって、
請求項13に記載の付加製造用モルタル材料の硬化物を有する、造形物。
【請求項15】
造形物の製造方法であって、
請求項12に記載の付加製造用モルタル材料を準備する工程と、
付加製造法により、前記付加製造用モルタル材料を造形する工程と、
造形された前記付加製造用モルタル材料を硬化させる工程と、を備える、造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体組成物、付加製造用モルタル材料、造形物及び造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セメントや石膏等の水硬化性材料と、付加製造装置を用いて造形を行う方法が提案されている。たとえば、特許文献1には、「セメント質混練物の水和が進行して該混練物の流動性が低下しても、繊細かつ多様なデザインを有する造形物を安定的に製造できる付加製造方法」が示されている。また、特許文献2には、「押出し性及び積層性に優れ、且つ、硬化後に高い層間付着強度を有する積層造形用水硬性組成物」が示されている。さらに、特許文献3には、「繊細かつ多様なデザインを有する造形物を製造できる押出し方式付加製造装置用水硬性組成物を選択する方法等」が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-122539号公報
【文献】特開2020-105023号公報
【文献】特開2020- 90004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、依然として付加製造プロセスに適合する材料の開拓余地はある。
【0005】
本発明では上記事情に鑑み、付加製造プロセスに好適に用いることができる粉体組成物等を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、付加製造用モルタル材料を生成するために用いられる粉体組成物が提供される。この粉体組成物は、結合材(A)と、細骨材(B)と、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)と、を含む。結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJIS A 1171に準拠してスランプ試験を実施したときに、T1(5)が2cm以下である。ここで、T1(5)は、作製時から5分経過した試料に対して行われたスランプ試験のスランプ値である。結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;15)が110mm以上である。ここで、T2(5;15)は、作製時から5分経過した試料に対して行われたフローテーブル試験の15打のフロー値である。
【0007】
上記態様によれば、付加製造プロセスに有用な粉体組成物等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】スランプ試験の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について、第1実施形態と、第2実施形態を示しながら説明する。なお、以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、本明細書中の「~」はとくに断りがなければ、以上から以下を表す。
【0010】
<<第1実施形態>>
すなわち、第1実施形態にかかる粉体組成物は以下に示すものである。
付加製造用モルタル材料を生成するために用いられる粉体組成物であって、
結合材(A)と、細骨材(B)と、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)と、を含み、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS A 1171に準拠してスランプ試験を実施したときに、T1(5)が2cm以下であり、
ここで、T1(5)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記スランプ試験のスランプ値であり、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;15)が110mm以上であり、
ここで、T2(5;15)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の15打のフロー値である、粉体組成物。
【0011】
本実施形態の粉体組成物は、付加製造用モルタル材料を生成するために用いられる。
ここで、付加製造とは、材料を積層しながら造形する加工法である。本実施形態においては、粉体組成物から得られるモルタル材料を積層させることによって、所定の造形物を得ることができる。
【0012】
このような造形は、付加製造装置(3Dプリンタ)を使用して行うことができる。なお、付加製造装置は、コンピュータにより作成した3Dデータを設計図に用いて、断面形状を積層することにより立体物を作製する産業用ロボットの一種である。ここで、付加製造装置は市販品や、公知の装置を使用することができる。より具体的には、付加製造装置に備えられたタンクにモルタル材料を充填し、付加製造装置に備えられたノズルからモルタル材料を押し出すことにより、上述のような造形を行うことができる。ここで得られる造形物の用途は適宜設定されてよいが、一例としては建設物である。
【0013】
本実施形態の粉体組成物は、典型的には、このようなモルタル材料を得る際のプレミックス材料である。すなわち、本実施形態の付加製造用モルタル材料は、粉体組成物に、水を加えてなるものであるといえる。ここで、加えられる水の量は、粉体組成物の組成や、適用するプロセス条件等に応じ適宜設定してよいが、粉体組成物100質量部に対して12.0~18.0質量部であることが好ましい。なお、ここで加えられる水は、適用用途に応じて適宜設定してよいが、水道水やイオン交換水であってよい。また、加えられる水の量は、粉体組成物100質量部に対して13.0~16.0質量部であることが更に好ましく、14.0~15.0質量部であることが最も好ましい。
【0014】
なお、本実施形態においては、このような付加製造用モルタル材料として所定の性質を有していることが好ましいが、この点については追って説明することとする。
【0015】
続いて、本実施形態の粉体組成物を構成しうる各種成分について説明する。
【0016】
[結合材(A)]
本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)を含む。ここで、結合材(A)は、モルタルやコンクリートの強度発現に寄与する無機材料の総称である。
【0017】
ここで、結合材(A)は、セメント成分(A1)を含んでよい。このセメント成分(A1)としては、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、高炉セメントおよびフライアッシュセメントからなる群から選択される成分を含みうる。
【0018】
その他、結合材(A)は、混和材(A2)を含んでよい。この混和材(A2)としては、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末、石粉、シリカフュームおよび膨張材(石灰複合系膨張材)からなる群から選択される成分を含みうる。これら混和材(A2)は、典型的には、前述のセメント成分(A1)と併用して配合される。
【0019】
なお、これらの結合材(A)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用して用いる場合には、粒径の異なる結合材を混合してもよい。
【0020】
粉体組成物全体における結合材(A)の含有量は適宜設定することができるが、粉体組成物全体の質量を100質量部としたときに、結合材(A)の含有量は、好ましくは20~80質量部であり、更に好ましくは25~75質量部であり、最も好ましくは30~70質量部である。このような範囲に設定することにより、得られるモルタル材料としての硬化性と、得られる硬化物の強度とのバランスを両立しやすくなる。
【0021】
また、本実施形態の粉体組成物には、結合材(A)として普通ポルトランドセメントが含まれていることが好ましい。この普通ポルトランドセメントを適切に含有させることにより、適度な凝結速度を担保しつつ、得られる造形物の強度の向上に寄与することができるとともに、積層性と、圧送性のバランス向上を図ることができる。なお、この普通ポルトランドセメントの配合量は、結合材(A)の全体質量を100質量部としたときに、好ましくは40~90質量部であり、更に好ましくは50~85質量部であり、最も好ましくは60~75質量部である。
【0022】
また、本実施形態の粉体組成物には、結合材(A)として高炉スラグ微粉末が含まれていることが好ましい。この高炉スラグ微粉末を適切に含有させることにより、得られる造形物の強度の向上に寄与することができる。なお、この高炉スラグ微粉末の配合量は、結合材(A)の全体質量を100質量部としたときに、好ましくは10~70質量部であり、更に好ましくは15~50質量部であり、最も好ましくは20~40質量部である。
【0023】
また、本実施形態の粉体組成物には、結合材(A)としてフライアッシュが含まれていることが好ましい。このフライアッシュを適切に含有させることにより、得られる造形物の強度の向上に寄与することができる。なお、このフライアッシュの配合量は、結合材(A)の全体質量を100質量部としたときに、好ましくは10~70質量部であり、更に好ましくは15~50質量部であり、最も好ましくは20~40質量部である。
【0024】
また、本実施形態の粉体組成物には、結合材(A)としてシリカヒュームが含まれていることが好ましい。このシリカヒュームを適切に含有させることにより、得られるモルタル材料についての積層性と、圧送性とのバランス向上を図ることができる。なお、このシリカヒュームの配合量は、結合材(A)の全体質量を100質量部としたときに、好ましくは3~30質量部であり、更に好ましくは5~20質量部であり、最も好ましくは7~15質量部である。
【0025】
[細骨材(B)]
本実施形態の粉体組成物は、細骨材(B)を含む。本実施形態において、細骨材(B)とは、10mm網ふるいを全部通過し、5mm網ふるいを質量で85%以上通過する骨材のことをいう(JIS A 0203:2014)。
【0026】
細骨材(B)の種類は、適用用途等に応じて適宜設定してよい。一例として、細骨材(B)は、砂、山砂、陸砂、海砂、珪砂、砕砂、スラグ細骨材からなる群から選択される1以上の成分を含んでもよい。なお、これらの細骨材(B)は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用して用いる場合には、粒径の異なる細骨材を混合してもよい。
【0027】
粉体組成物全体における細骨材(B)の含有量は適宜設定することができるが、粉体組成物全体の質量を100質量部としたときに、細骨材(B)の含有量は、好ましくは20~80質量部であり、更に好ましくは25~75質量部であり、最も好ましくは30~70質量部である。このような範囲に設定することにより、硬化性と、得られる硬化物の強度の両立を行いやすくなる。
【0028】
[チキソトロピー性を付与する混和剤(C)]
本実施形態の粉体組成物は、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)を含む。本実施形態の粉体組成物は、付加製造用モルタル材料を生成するために用いられるが、この混和剤(C)は、得られるモルタル材料についてのチキソトロピー性の向上に寄与する。すなわち、前述の通り、モルタル材料は付加製造に用いられ、典型的には、その製造過程において、押出プロセスに供される。ここで、モルタル材料が、チキソトロピー性を有するとなると、押出性が向上するとともに、押出し後の形状が安定化しやすい。ここでの混和剤(C)は、前述の結合材(A)および細骨材(B)に該当せず、得られるモルタル材料に対してのチキソトロピー性の向上に寄与するいずれかの剤を指す。
【0029】
この混和剤(C)は前述の特性を付与することが可能な公知の材料の中から適宜選択すればよい。一例としては、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)は、セルロース、変性セルロース、鉱物、ナノファイバー、合成繊維、ウレタン、キサンタンガム、ダイユータンガム、スターチエーテル、グアガム、ポリアクリルアミド、カラギーナンガム、寒天、蛋白質及びラテックスからなる群から選択される1以上の成分を含んでもよい。
【0030】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできる変性セルロースとしては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースが挙げられる。
【0031】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできる鉱物としては、アタパルジャイト、ベントナイト、モンモリロナイト、カオリン、セピオライト等の粘土鉱物が挙げられる。
【0032】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできるナノファイバーとしては、カーボンナノファイバー、セルロースナノファイバー等が挙げられる。
【0033】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできる合成繊維としては、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィン化合物、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。
【0034】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできるウレタンとしては、ウレタン系会合型増粘剤として用いられる各種ウレタン系増粘剤等が挙げられる。ここで、このウレタン系会合型増粘剤としては、日本材料技研株式会社製「チキソスター」や、株式会社ADEKA製「アデカノール」シリーズ、サンノプコ株式会社製「SN シックナー」シリーズ等が挙げられる。
【0035】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできる蛋白質としては、所定の分子量を有したアミノ酸縮合体等が挙げられる。
【0036】
本実施形態の混和剤(C)として用いることのできるラテックスとしては、クロロプレンゴムラテックス、アクリル系ラテックス等が挙げられる。
【0037】
粉体組成物全体における混和剤(C)の含有量は適宜設定することができるが、結合材(A)と細骨材(B)との合計質量を100質量部としたときに、混和剤(C)の含有量は、好ましくは0.03~0.12質量部であり、更に好ましくは0.04~0.10質量部であり、最も好ましくは0.05~0.08質量部である。このような範囲に設定することにより、得られるモルタル材料の取り扱い性を維持しつつ、得られる硬化物としての強度の向上を行いやすくなる。
【0038】
[その他の成分]
その他、本実施形態の粉体組成物には、所望の特性が付与されることを目的として、上述の成分(A)~(C)以外のその他の成分を含ませてもよい。その他の成分としては、レオロジー改質剤(減水剤、分散剤、流動化剤等を含む)、短繊維、消泡剤、凝結遅延剤、ガス発泡物質、凝結調整剤、AE剤、防錆剤、撥水剤、抗菌剤、着色剤、防凍剤、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体、尿素などの保湿剤等が挙げられる。これらの成分の配合量は任意である。
【0039】
なお、本実施形態の粉体組成物には、レオロジー改質剤が含まれていることが好ましい。このレオロジー改質剤を適切に含有させることにより、積層性と、圧送性のバランスを図ることができる。なお、一態様において、レオロジー改質剤としては、ポリカルボン酸系のレオロジー改質剤や、メラミン系のレオロジー改質剤を用いることができる。これらのレオロジー改質剤の配合量は、結合材(A)と細骨材(B)との合計質量を100質量部としたときに、好ましくは0.01~3質量部であり、更に好ましくは0.03~1質量部であり、最も好ましくは0.05~0.5質量部である。なお、このレオレジー改質剤は「減水剤」や「分散剤」、「流動化剤」とも称される場合がある。
【0040】
なお、本実施形態の粉体組成物には、短繊維が含まれていることが好ましい。この短繊維を適切に含有させることにより、得られる造形物の強度の向上に寄与することができるとともに、積層性と、圧送性のバランスを図ることができる。なお、短繊維としては、ナイロン等のポリエステルにより構成される繊維を用いることができる。なお、短繊維の繊維長(平均繊維長)は、1~30mmであることが好ましく、3~25mmであることが更に好ましく、5~20mmであることが最も好ましい。また、この短繊維の配合量は、結合材(A)と細骨材(B)との合計容量を100容量部としたときに、好ましくは0.05~5容量部であり、更に好ましくは0.08~3容量部であり、最も好ましくは0.1~1.5容量部である。
【0041】
[粉体組成物の製造方法]
本実施形態の粉体組成物は、前述した各種原料を混合することで製造することができる。混合する方法は公知の手法の中から適宜設定すればよく、特段の制限はない。
【0042】
[粉体組成物の物性]
本実施形態の粉体組成物は、水を加えて試料を作製したときに、所定の特性を満たすことが好ましい。具体的に、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、この試料に対し、後述の各種試験1~3を実施したときに、所定の測定値を与えることが好ましい。なお、以下の各種試験において、試料の作製や保存、試験の実施は、20℃の環境下で行われるものである。また、本明細書においては、試験不能である粉体については、そもそも測定値を有していないものとして扱う。
なお、上記の試料作製条件、保存条件、試験の実施条件は、本項目における物性を議論するために定められているものである。一方、本実施形態の粉体組成物を付加製造プロセスに適用するにあたっては、上記の条件に制限されない種々の条件を採用することができる。
【0043】
(試験1;スランプ試験)
すなわち、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJIS A 1171に準拠してスランプ試験を実施したときに、T1(5)が2cm以下である。ここで、T1(5)は、作製時から5分経過した試料に対して行われたスランプ試験のスランプ値である。
【0044】
このようにT1(5)を所定の数値以下とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、積層性を向上させることができる。なお、T1(5)は、1.5cm以下であることが更に好ましく、1.0cm以下であることが最も好ましい。また、T1(5)の下限値はとくに制限されるものではないが、一例としては0.1cm以上である。
【0045】
さらに、本実施形態の粉体組成物は、前述のT1(5)とT1(30)との差が0.1~1.8cmの範囲であることが好ましい。なお、T1(30)は、作製時から30分経過した試料に対して行われたスランプ試験のスランプ値であるが、通常はT1(5)の方がT1(30)の数値よりも大きいため、「T1(5)-T1(30)」として上述の差分を求めることができる。このようにT1(5)-T1(30)を所定の数値以下とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、長い時間にわたって積層性を向上させることができる。なお、T1(5)-T1(30)は、0.3~1.5cmであることが更に好ましく、0.5~1.2cmであることが最も好ましい。
【0046】
(試験2;フローテーブル試験)
すなわち、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;0)が110mm未満であることが好ましい。ここで、T2(5;0)は、作製時から5分経過した試料に対して行われたフローテーブル試験の0打のフロー値である。
【0047】
このようにT2(5;0)を所定の数値以下とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、積層性を向上させることができる。なお、T2(5;0)は、108mm以下であることが更に好ましく、105mm以下であることが最も好ましい。また、T2(5;0)の下限値はとくに制限されるものではないが、一例としては100mm以上である。
【0048】
また、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;15)が110mm以上である。ここで、T2(5;15)は、作製時から5分経過した試料に対して行われたフローテーブル試験の15打のフロー値である。
【0049】
このようにT2(5;15)を所定の数値以上とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、圧送性や流動性を向上させることができる。なお、T2(5;15)は、115mm以上であることが更に好ましく、120mm以上であることが最も好ましい。また、T2(5;15)の上限値はとくに制限されるものではないが、一例としては140mm以下である。
【0050】
さらに、本実施形態の粉体組成物は、前述のT2(5;15)とT2(5;0)との差が5~40mmの範囲であることが好ましい。なお、通常はT2(5;15)の方がT2(5;0)の数値よりも大きいため、「T2(5;15)-T2(5;0)」として上述の差分を求めることができる。このようにT2(5;15)-T2(5;0)を所定の数値以下とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、積層性、圧送性、流動性のバランスを向上させることができる。なお、T2(5;15)-T2(5;0)は、7~30mmであることが更に好ましく、10~20mmであることが最も好ましい。
【0051】
また、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(30;0)が108mm未満であることが好ましい。ここで、T2(30;0)は、作製時から30分経過した試料に対して行われたフローテーブル試験の0打のフロー値である。
【0052】
このようにT2(30;0)を所定の数値以下とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、長期にわたって積層性を向上させることができる。なお、T2(30;0)は、106mm以下であることが更に好ましく、105mm以下であることが最も好ましい。また、T2(30;0)の下限値はとくに制限されるものではないが、一例としては98mm以上である。
【0053】
また、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(30;15)が108mm以上であることが好ましい。ここで、T2(30;15)は、作製時から30分経過した試料に対して行われたフローテーブル試験の15打のフロー値である。
【0054】
このようにT2(30;15)を所定の数値以上とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、長期にわたって圧送性や流動性を向上させることができる。なお、T2(30;15)は、110mm以上であることが更に好ましく、115mm以上であることが最も好ましい。また、T2(30;15)の上限値はとくに制限されるものではないが、一例としては130mm以下である。
【0055】
さらに、本実施形態の粉体組成物は、前述のT2(30;15)とT2(30;0)との差が5~20mmの範囲であることが好ましい。なお、通常はT2(30;15)の方がT2(30;0)の数値よりも大きいため、「T2(30;15)-T2(30;0)」として上述の差分を求めることができる。このようにT2(30;15)-T2(30;0)を所定の数値以下とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、積層性、圧送性、流動性のバランスを長期にわたって向上させることができる。なお、T2(30;15)-T2(30;0)は、7~15mmであることが更に好ましく、8~12mmであることが最も好ましい。
【0056】
(試験3;ハンドベーンせん断試験)
さらに、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(5)が1.5~5kPaであることが好ましい。ここで、T3(5)は、作製時から5分経過した試料に対して行われたハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である。
【0057】
このようにT3(5)を所定の数値範囲とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、積層性を向上させることができ、加えて、適度な加工性を担保することができる。なお、T3(5)は、1.7~4.5kPaであることが更に好ましく、2.0~4.0kPaであることが最も好ましい。
【0058】
また、本実施形態の粉体組成物は、結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、試料に対し20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(30)が3.0~8.0kPaであることが好ましい。ここで、T3(30)は、作製時から30分経過した試料に対して行われたハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である。
【0059】
このようにT3(30)を所定の数値範囲とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、長期にわたって積層性を向上させることができ、加えて、長期にわたって適度な加工性を担保することができる。なお、T3(30)は、3.5~7.5kPaであることが更に好ましく、4.0~7.0kPaであることが最も好ましい。
【0060】
さらに、本実施形態の粉体組成物は、前述のT3(30)とT3(5)との差が1.5~6.5kPaの範囲であることが好ましい。なお、通常はT3(30)の方がT3(5)の数値よりも大きいため、「T3(30)-T3(5)」として上述の差分を求めることができる。このようにT3(30)-T3(5)を所定の数値範囲とすることにより、粉体組成物から得られるモルタル材料を付加製造プロセスに供した際に、長い時間にわたって積層性や加工性を向上させることができる。なお、T3(30)-T3(5)は、2.0~6.0kPaであることが更に好ましく、2.5~5.0kPaであることが最も好ましい。
【0061】
なお、上述の各試験における測定値は、混和剤(C)の種類を適切に選定すること、混和剤(C)の配合量を適切に設定すること、結合材(A)や細骨材(B)と、混和剤(C)との種類の組み合わせを適切に選定すること等によって実現し得る。
【0062】
[付加製造用モルタル材料]
前述の通り、本実施形態の粉体組成物は、付加製造用モルタル材料を得るためのプレミックス材料として用いられる。すなわち、本実施形態の粉体組成物は水を加えられることで、付加製造用モルタル材料へと変換される。この付加製造用モルタル材料は、用いる用途に応じて適宜特性が設定されてよいが、例えば、以下のような性質を有することが好ましい。
【0063】
すなわち、本実施形態の付加製造用モルタル材料は、20℃でJIS A 1171に準拠してスランプ試験を実施したときに、T1(X)が0cm以上6cm以下である状態(より好ましくはT1(X)が1cm以上2cm以下である状態)が少なくとも15分維持されることが好ましい。ここで、T1(X)は所定の時間におけるスランプ試験のスランプ値である。
【0064】
すなわち、本実施形態の付加製造用モルタル材料は、前述の試験1を実施したときに、所定の物性値を与える時間が所定以上である。これにより、付加製造用のモルタル材料としての可使時間の向上に寄与しやすい。なお、T1(X)が0cm以上6cm以下である状態(より好ましくはT1(X)が1cm以上2cm以下である状態)が少なくとも20分維持されることが更に好ましく、30分維持されることが最も好ましい。
【0065】
また、本実施形態の付加製造用モルタル材料は、20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(X;0)が100mm以上120mm以下である状態(より好ましくはT2(X;0)が100mm以上110mm以下である状態)が少なくとも15分維持されることが好ましい。ここで、T2(X;0)は、所定の時間におけるフローテーブル試験の0打のフロー値である。
また、本実施形態の付加製造用モルタル材料は、20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(X;15)が110mm以上140mm以下である状態(より好ましくはT2(X;15)が105mm以上120mm以下である状態)が少なくとも15分維持されることが好ましい。ここで、T2(X;15)は、所定の時間におけるフローテーブル試験の15打のフロー値である。
【0066】
すなわち、本実施形態の付加製造用モルタル材料は、前述の試験2を実施したときに、所定の物性値を与える時間が所定以上である。これにより、付加製造用のモルタル材料としての可使時間の向上に寄与しやすい。なお、T2(X;0)が100mm以上120mm以下である状態(より好ましくはT2(X;0)が100mm以上110mm以下である状態)が少なくとも20分維持されることが更に好ましく、30分維持されることが最も好ましい。また、T2(X;15)が110mm以上140mm以下である状態(より好ましくはT2(X;15)が105mm以上120mm以下である状態)が少なくとも20分維持されることが更に好ましく、30分維持されることが最も好ましい。
【0067】
また、本実施形態の付加製造用モルタル材料は、20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(X)が1.0kPa以上8.0kPa以下である状態(より好ましくはT3(X)が1.5kPa以上5.0kPa以下である状態)が少なくとも15分維持されることが好ましい。ここで、T3(X)は所定の時間におけるハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である。
【0068】
すなわち、本実施形態の付加製造用モルタル材料は、前述の試験3を実施したときに、所定の物性値を与える時間が所定以上である。これにより、付加製造用のモルタル材料としての可使時間の向上に寄与しやすい。なお、T3(X)が1.0kPa以上8.0kPa以下である状態(より好ましくはT3(X)が1.5kPa以上5.0kPa以下である状態)が少なくとも20分維持されることが更に好ましく、30分維持されることが最も好ましい。
【0069】
[造形物の製造方法]
続いて、本実施形態にかかる造形物の製造方法について説明する。
すなわち、本実施形態の造形物の製造方法は、付加製造用モルタル材料を準備する工程と、付加製造法により、付加製造用モルタル材料を造形する工程と、造形された付加製造用モルタル材料を硬化させる工程と、を備える。
【0070】
すなわち、本実施形態において、造形物は、付加製造用モルタル材料の硬化物を有するものである。このような造形物は、前述した付加製造用モルタル材料を準備し、付加製造法により造形し、更に硬化させることで、得ることができる。
なお、このような製造方法で用いられる付加製造法は公知の手法を採用することができ、硬化条件も任意である。なお、硬化を行うにあたっては、温度条件や湿度条件等を設定することができる。
【0071】
以上、本実施形態の粉体組成物によれば、態様によれば、付加製造プロセスに有用な粉体組成物等が提供される。
【0072】
<<第2実施形態>>
また、第2実施形態にかかるモルタル材料は以下に示すものである。
付加製造用モルタル材料であって、
セメント(A)と、細骨材(B)と、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)と、水と、を含む、
付加製造用モルタル材料。
【0073】
すなわち、第2実施形態のモルタル材料は、前述の成分(A)、(B)、(C)とともに水を含むものであるが、必ずしも、所定の粉体組成物を得た後に製造されたものでなくてもよく、任意の順序で構成材料が配合されればよい。換言すれば、付加製造装置内で各種材料を配合して得られるモルタル材料であってもよい。
【0074】
その他、第2実施形態にかかるモルタル材料として用いることのできる各種原料や、付加製造用モルタル材料として具備してよい性質、用途等は、第1実施形態として示したものと同様であってよい。
【0075】
さらに、次に記載の各態様で提供されてもよい。
【0076】
(1)付加製造用モルタル材料を生成するために用いられる粉体組成物であって、結合材(A)と、細骨材(B)と、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)と、を含む、粉体組成物。
【0077】
(2)上記(1)に記載の粉体組成物において、前記チキソトロピー性を付与する混和剤(C)は、セルロース、変性セルロース、鉱物、ナノファイバー、合成繊維、ウレタン、キサンタンガム、ダイユータンガム、スターチエーテル、グアガム、ポリアクリルアミド、カラギーナンガム、寒天、蛋白質及びラテックスからなる群から選択される1以上の成分を含む、粉体組成物。
【0078】
(3)上記(1)または(2)に記載の粉体組成物において、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS A 1171に準拠してスランプ試験を実施したときに、T1(5)が2cm以下であり、ここで、T1(5)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記スランプ試験のスランプ値である、粉体組成物。
【0079】
(4)上記(1)ないし(3)のいずれか1つに記載の粉体組成物において、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS A 1171に準拠してスランプ試験を実施したときに、T1(5)とT1(30)との差(T1(5)-T1(30))が0.1~1.8cmの範囲であり、ここで、T1(5)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記スランプ試験のスランプ値であり、T1(30)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記スランプ試験のスランプ値である、粉体組成物。
【0080】
(5)上記(1)ないし(4)のいずれか1つに記載の粉体組成物において、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;0)が110mm未満であり、ここで、T2(5;0)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、粉体組成物。
【0081】
(6)上記(1)ないし(5)のいずれか1つに記載の粉体組成物において、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;15)が110mm以上であり、ここで、T2(5;15)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の15打のフロー値である、粉体組成物。
【0082】
(7)上記(1)ないし(6)のいずれか1つに記載の粉体組成物において、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;15)とT2(5;0)との差(T2(5;15)-T2(5;0))が5~40mmの範囲であり、ここで、T2(5;15)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の15打のフロー値であり、T2(5;0)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、粉体組成物。
【0083】
(8)上記(1)ないし(7)のいずれか1つに記載の粉体組成物において、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(30;0)が108mm未満であり、ここで、T2(30;0)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、粉体組成物。
【0084】
(9)上記(1)ないし(8)のいずれか1つに記載の粉体組成物において、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(30;15)が108mm以上であり、ここで、T2(30;15)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の15打のフロー値である、粉体組成物。
【0085】
(10)上記(1)ないし(9)のいずれか1つに記載の粉体組成物において、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(30;15)とT2(30;0)との差(T2(30;15)-T2(30;0))が5~20mmの範囲であり、ここで、T2(30;15)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の15打のフロー値であり、T2(30;0)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、粉体組成物。
【0086】
(11)上記(1)ないし(10)のいずれか1つに記載の粉体組成物において、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(5)が1.5~5kPaであり、ここで、T3(5)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記ハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である、粉体組成物。
【0087】
(12)上記(1)ないし(11)のいずれか1つに記載の粉体組成物において、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(30)が3.0~8.0kPaであり、ここで、T3(30)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記ハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である、粉体組成物。
【0088】
(13)上記(1)ないし(12)のいずれか1つに記載の粉体組成物において、前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(30)とT3(5)との差(T3(30)-T3(5))が1.5~6.5kPaの範囲であり、ここで、T3(30)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記ハンドベーンせん断試験のせん断降伏値であり、T3(5)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記ハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である、粉体組成物。
【0089】
(14)上記(1)ないし(13)のいずれか1つに記載の粉体組成物において、前記結合材(A)は、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、高炉セメントおよびフライアッシュセメントからなる群から選択されるセメント成分(A1)を含む、粉体組成物。
【0090】
(15)上記(14)に記載の粉体組成物において、前記結合材(A)は、フライアッシュ、高炉スラグ微粉末、石灰石微粉末、石粉、シリカフュームおよび膨張材からなる群から選択される混和材(A2)をさらに含む。粉体組成物。
【0091】
(16)上記(1)ないし(15)のいずれか1つに記載の粉体組成物において、前記細骨材(B)は、砂、山砂、陸砂、海砂、珪砂、砕砂、スラグ細骨材からなる群から選択される1以上の成分を含む、粉体組成物。
【0092】
(17)付加製造用モルタル材料であって、上記(1)ないし(16)のいずれか1つに記載の粉体組成物に、水を加えてなる、付加製造用モルタル材料。
【0093】
(18)上記(17)に記載の付加製造用モルタル材料において、前記水の量は、前記粉体組成物100質量部に対して12.0~18.0質量部である、付加製造用モルタル材料。
【0094】
(19)付加製造用モルタル材料であって、セメント(A)と、細骨材(B)と、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)と、水と、を含む、付加製造用モルタル材料。
【0095】
(20)上記(17)ないし(19)のいずれか1つに記載の付加製造用モルタル材料において、前記付加製造用モルタル材料に対し、20℃でJIS A 1171に準拠してスランプ試験を実施したときに、T1(X)が0cm以上6cm以下である状態が少なくとも15分維持され、ここで、T1(X)は所定の時間における前記スランプ試験のスランプ値である、付加製造用モルタル材料。
【0096】
(21)上記(17)ないし(20)のいずれか1つに記載の付加製造用モルタル材料において、前記付加製造用モルタル材料に対し、20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(X;0)が100mm以上120mm以下である状態が少なくとも15分維持され、ここで、T2(X;0)は、所定の時間における前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、付加製造用モルタル材料。
【0097】
(22)上記(17)ないし(21)のいずれか1つに記載の付加製造用モルタル材料において、前記付加製造用モルタル材料に対し、20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(X;15)が110mm以上140mm以下である状態が少なくとも15分維持され、ここで、T2(X;15)は、所定の時間における前記フローテーブル試験の15打のフロー値である、付加製造用モルタル材料。
【0098】
(23)上記(17)ないし(22)のいずれか1つに記載の付加製造用モルタル材料において、前記付加製造用モルタル材料に対し、20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(X)が1.0kPa以上8.0kPa以下である状態が少なくとも15分維持され、ここで、T3(X)は所定の時間における前記ハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である、付加製造用モルタル材料。
【0099】
(24)造形物であって、上記(17)ないし(23)のいずれか1つに記載の付加製造用モルタル材料の硬化物を有する、造形物。
【0100】
(25)造形物の製造方法であって、上記(17)ないし(23)のいずれか1つに記載の付加製造用モルタル材料を準備する工程と、付加製造法により、前記付加製造用モルタル材料を造形する工程と、造形された前記付加製造用モルタル材料を硬化させる工程と、を備える、造形物の製造方法。
もちろん、この限りではない。
【0101】
他にも、次の態様で提供されてもよい。
【0102】
(α1) 付加製造用モルタル材料を生成するために用いられる粉体組成物であって、
結合材(A)と、細骨材(B)と、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)と、を含み、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS A 1171に準拠してスランプ試験を実施したときに、T1(5)が2cm以下であり、
ここで、T1(5)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記スランプ試験のスランプ値であり、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(5;0)が100mm以上であり、
ここで、T2(5;0)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、粉体組成物。
【0103】
上記した(α1)の粉体組成物によれば、造形性と積層性に優れたモルタル材料を得やすい。
【0104】
(α2) 付加製造用モルタル材料を生成するために用いられる粉体組成物であって、
結合材(A)と、細骨材(B)と、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)と、を含み、
前記結合材(A)は、高炉スラグ微粉末を含み、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJGS 1411に準拠してハンドベーンせん断試験を実施したときに、T3(5)が2.0kPa以上であり、
ここで、T3(5)は、作製時から5分経過した前記試料に対して行われた前記ハンドベーンせん断試験のせん断降伏値である、粉体組成物。
【0105】
上記した(α2)の粉体組成物によれば、造形性と、硬化物の強度に優れたモルタル材料を得やすい。
【0106】
(α3) 付加製造用モルタル材料を生成するために用いられる粉体組成物であって、
結合材(A)と、細骨材(B)と、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)と、を含み、
前記結合材(A)と前記細骨材(B)との総和100質量部に対し、15質量部の水を添加してペースト状の試料を作製し、前記試料に対し20℃でJIS-R5201に準拠してフローテーブル試験を実施したときに、T2(30;15)とT2(30;0)との差(T2(30;15)-T2(30;0))が5~20mmの範囲であり、
ここで、T2(30;15)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の15打のフロー値であり、T2(30;0)は、作製時から30分経過した前記試料に対して行われた前記フローテーブル試験の0打のフロー値である、粉体組成物。
【0107】
上記した(α3)の粉体組成物によれば、可使時間が長く、造形性に優れたモルタル材料を得やすい。
【0108】
なお、上記した(α1)~(α3)の各粉体組成物についても、不整合のない範囲で前述した各種構成が採用されてよい。
【0109】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例
【0110】
本実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例(試験例)により制限されるものではない。
【0111】
<<実験群A>>
[使用原料]
まず、本実験群Aで用いた使用原料について説明する。本実施例項で用いた各種使用原料は以下の通りである。
(1)ポルトランドセメント:普通ポルトランドセメント(ブレーン比表面積4440cm/g)
(2)高炉スラグ微粉末:高炉スラグ微粉末(密度:2.91g/cm、比表面積:8000cm/g)
(3)シリカフューム:シリカフューム(密度:2.25g/cm、比表面積:2000000cm/g;ポゾリスソリューションズ株式会社製「マスターライフ(登録商標) SF 610」)
(4)無機系膨張材:石灰複合系膨張材(デンカ株式会社製「デンカパワーCSA」)
(5)細骨材:4号珪砂(吸水率0.87%)
(6)増粘剤:メチルセルロース系増粘剤、使用原料は粉末状
(7)レオロジー改質剤1:ポリカルボン酸系、使用原料は粉末状(太平洋セメント株式会社製「コアフローNF-100」)
(8)短繊維:ナイロン繊維(繊維長さ:10mm)
(9)保湿剤:尿素
【0112】
[粉体組成物の調製]
各種原料を以下に示す処方で配合し、試験例1~4にかかる粉体組成物をそれぞれ調製した。具体的には、各成分をホバート型ミキサーを用いて5分間混合し、粉体状の組成物を得た。
<試験例1、3>
・ポルトランドセメント:70質量部
・高炉スラグ微粉末:20質量部
・シリカヒューム:8.5質量部
・無機系膨張剤:1.5質量部
・細骨材:結合材全体の容量に対して100容量%
・レオロジー改質剤1:結合材全体の質量に対して0.160質量%
・短繊維:結合材と細骨材の総容量に対して0.2容量%
・保湿剤:結合材全体の質量に対して1.4質量%
<試験例2、4>
・ポルトランドセメント:70質量部
・高炉スラグ微粉末:20質量部
・シリカヒューム:8.5質量部
・無機系膨張剤:1.5質量部
・細骨材:結合材全体の容量に対して100容量%
・増粘剤:結合材と細骨材の総質量に対して0.070質量%
・レオロジー改質剤1:結合材全体の質量に対して0.160質量%
・短繊維:結合材と細骨材の総容量に対して0.2容量%
・保湿剤:結合材全体の質量に対して1.4質量%
【0113】
[モルタル材料の調製]
得られた粉体組成物3.0kgに、所定量の水道水を加え、ホバート型ミキサーで低速(パドル自転速度:140rpm、パドル公転速度:62rpm)で1分間だけ混錬し、一度パドルに付着したモルタルをそぎ落とし、再度高速(パドル自転速度:285rpm、パドル公転速度:125rpm)で2分間だけ混錬することによりモルタル材料を得た。なお、試験例1と試験例2では、結合材と細骨材の総質量に対して15質量%、試験例3と試験例4では、結合材と細骨材の総質量に対して17質量%の水道水を加えている。また、得られたモルタル材料については、作製後5分の段階で以下の試験項目に沿って評価を行っている。
【0114】
[試験1:スランプ試験(JIS A 1171)]
練り上がったモルタルペーストをスランプコーンへ2層に分けて充填した。充填時は、突き棒を用いて1層ごとに15回だけ突いて、空隙が無いようにペーストを詰め込んだ。充填後、天面を擦切って平にし、速やかにコーンを引き抜いた。コーンを引き抜いた直後に、ペーストの沈降部をスケールで測定した。表1には、各試験例のモルタル材料の評価値を「モルタルスランプ値」として記載した。この試験値は、低いほど付加製造プロセスに供した際に積層性の良さに寄与することができる。
【0115】
[試験2:フローテーブル試験(JIS R 5201)]
練り上がったモルタルペーストをフローコーンへ2層に分けて充填した。充填時は、突き棒を用いて1層ごとに15回だけ突いて、空隙が無いようにペーストを詰め込んだ。充填後、天面を擦切って平にし、速やかにコーンを引き抜いた。このときの底面の直径を2か所だけ測定した(直交する直径)。測定値の最大値を0打のフロー値とした。次に1秒間あたり1cmの落下を試料に与えて、これを15回繰り返したのち、底面の直径を2か所測定した(直交する直径)。測定値の最大値を15打のフロー値とした。表1には、各試験例のモルタル材料の評価値を「モルタルフロー値」として記載した。なお、15打でのモルタルフロー値と、0打でのモルタルフロー値との差分を「フローの広がり量」として記載した。0打でのモルタルフロー値は、その値が小さいほど付加製造プロセスに供した際に積層性の良さに寄与することができる。また、15打でのモルタルフロー値と、フローの広がり量は、その値が大きいほど付加製造プロセスに供した際の圧送性や、流動性に寄与することができる。
【0116】
[試験3:ハンドベーンせん断試験(JGS 1411)]
練り上がったモルタルペーストを金属容器へ2層に分けて充填した。充填時は、突き棒を用いて1層ごとに10回だけ突くか、木製ハンマーで外周を打撃し、空隙が無いようにペーストを詰め込んだ。充填後、トルクレンチに装着された金属製の十字羽根をペーストに差込み、6rpmの速さで回転させた。回転させて最大のトルク値を記録し、乱されたペーストを再度流動させてならした。この一連の工程を2回だけ繰り返し、その最大値をせん断降伏値とした。表1には、各試験例のモルタル材料の評価値を「せん断降伏値」として記載した。この試験値は、大きいほど付加製造プロセスに供した際に積層性の良さに寄与することができる。
【0117】
【表1】
【0118】
表1に示されるように、試験例2の粉体組成物によって作製されたモルタル材料は積層性と、圧送・流動性のバランスに優れるものであった。
【0119】
<<実験群B>>
続いて、表2に示す処方の実施例1~3、比較例1~3の粉体組成物を用意した。なお、表2中の実施例1は、実験群Aにおける試験例2と同組成であるが、表2としては各種組成の量について質量部で示されている。同様に、表2中の比較例1は、実験群Aにおける試験例1と同組成である。また、比較例2は、特許文献1に開示された組成を模したものであり、比較例3は、特許文献2に開示された組成を模したものである。なお、表2では、結合材(A)全体を100質量部とし、他の成分についての質量部を求めている。
【0120】
なお、実験群Aとして用いていない原料については以下に示す通りである。
(10)早強ポルトランドセメント:早強ポルトランドセメント(ブレーン比表面積4440cm/g)
(11)フライアッシュ
(12)石膏:株式会社ノリタケカンパニーリミテド製「D-101A」
(13)水酸化カルシウム:消石灰
(14)硫酸アルカリ金属塩:硫酸ナトリウム
(15)5号珪砂
(16)6号珪砂
(17)チキソ性付与剤:日本材料技研株式会社製「会合型増粘剤チキソスター」
(18)レオロジー改質剤2:メラミン系粉末減水剤(BASFジャパン社製「メルメント」)
(19)レオロジー改質剤3:ポリカルボン酸系分散剤(シーカ・ジャパン社製「ビスコクリート-225P」)
(20)消泡剤:ポリエーテル系消泡剤(サンノプコ株式会社製「SNデフォーマー14HP」)
【0121】
表2に示された各種原料については、実験群Aに示した手法に準じて混合し、粉体組成物とした。また、得られた粉体組成物について、実験群Aに示した手法に準じてモルタル材料を得た。なお、モルタル材料を得るにあたっては、表2に示した水の量を用いた(結合材(A)と細骨材(B)との総和100質量部に対する、所定割合の水の量が表2に示されている。)。
【0122】
このようにして得られたモルタル材料については、実験群Aに示した試験1~3の手法に沿って試験値を得ている。なお、実験群Aでは、モルタル材料作製から5分経過時のデータしか示さなかったが、本実験群Bでは、モルタル材料作製から30分経過時のデータも取得している。結果は表2に示した通りである。
【0123】
【表2】
【0124】
本実験群Bにおいて、比較例3では試験1の実施が不能であった。図1は、スランプ試験の結果を示す写真である。この図1では、後述する試験例5と、比較例3とのスランプ試験におけるサンプルの作製状況を示しているが、比較例3から作製したモルタル材料は、粘度が高すぎるためかスランプコーンから外す際に破壊されてしまう結果を与えた。
【0125】
本実験群Bから示唆されるように、各実施例における粉体組成物は所定量の水と混合しモルタル材料を得た際に良好な試験値を与える。このことから、各実施例の粉体組成物は付加造形プロセスに有用であることが期待される。なお、比較例2に示した粉体組成物は、ある程度の水を加えることを前提として圧送性を向上させる組成と考えられる。すなわち、表2に示される程度の水分量の添加では、T2(5;15)の値が芳しくなく、また、過当に水を加えた際には、硬化物としての物性が低下することが懸念される。このことから、本実施例の粉体組成物の方が、ユーザビリティの高い材料と考えられる。なお、特許文献3に開示された組成も、比較例2と同様の傾向があると考えられる。さらに、特許文献2の処方を模した比較例3としても、スランプ試験の結果が芳しくなく、使用性には劣るものであった。
【0126】
<<実験群C>>
試験例5として、試験例2の組成や、添加する水の量を調整した粉体組成物を得た。具体的に、試験例5の粉体組成物は以下の処方により作製した。なお、用いた材料については、実験群Aとして示したものと同様である。
【0127】
<試験例5>
・ポルトランドセメント:25質量部
・高炉スラグ微粉末:75質量部
・細骨材:100質量部
・増粘剤:0.02質量部
・短繊維:0.65質量部
【0128】
このようにして得られた粉体組成物を用い、[モルタル材料の調製]に記載の手法に沿ってモルタル材料を得た。なお、本実験群Cでは、添加する水の量を結合材と細骨材の総質量に対して20質量%とした。
【0129】
得られたモルタル材料については、実験群Bと同様の手法で、各種試験を行った。結果を表3として示した。
【0130】
【表3】
【0131】
試験例5として示したモルタル材料は、試験例2等と比較して各種物性が大きく異なるものとなった。このことから、粉体組成物の材料配合等を調整することによって、各種試験値が変動することが示唆される。
【要約】
【課題】付加製造プロセスに好適に用いることができる粉体組成物等を提供する。
【解決手段】本発明の一態様によれば、付加製造用モルタル材料を生成するために用いられる粉体組成物が提供される。この粉体組成物は、結合材(A)と、細骨材(B)と、チキソトロピー性を付与する混和剤(C)と、を含む。
図1