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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】制御装置および変速システム
(51)【国際特許分類】
   B62M 25/00 20060101AFI20240827BHJP
   B62J 99/00 20200101ALI20240827BHJP
   B62M 9/123 20100101ALI20240827BHJP
   B62M 9/133 20100101ALI20240827BHJP
【FI】
B62M25/00 Z
B62J99/00
B62M9/123
B62M9/133
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018193497
(22)【出願日】2018-10-12
(65)【公開番号】P2020059455
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2020-12-02
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】謝花 聡
【合議体】
【審判長】草野 顕子
【審判官】筑波 茂樹
【審判官】横溝 顕範
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-7644(JP,A)
【文献】登録実用新案第3199830(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62M 6/40, 9/00, 25/00
F16H 59/00, 60/00, 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて自動的に制御する制御部を備え、
前記変速条件は、ケイデンスに関連する閾値に基づいて規定され、
前記制御部は、変速比が大きい値に切り替わるときにおいて、現在の変速比における上限の前記閾値である第1閾値と、前記変速装置による変速に伴う前記現在の変速比から変速先の変速比への変化に関する情報である第1参照情報に基づいて算出される変速直後ケイデンス相当値よりも小さい値となるように、前記変速先の変速比における下限の前記閾値である第2閾値を設定する、制御装置。
【請求項2】
人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて自動的に制御する制御部を備え、
前記変速条件は、ケイデンスに関連する閾値に基づいて規定され、
前記制御部は、変速比が小さい値に切り替わるときにおいて、現在の変速比における下限の前記閾値である第2閾値と、前記変速装置による変速に伴う前記現在の変速比から変速先の変速比への変化に関する情報である第1参照情報に基づいて算出される変速直後ケイデンス相当値よりも大きい値となるように、前記変速先の変速比における上限の前記閾値である第1閾値を設定する、制御装置。
【請求項3】
人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて自動的に制御する制御部を備え、
前記変速条件は、ケイデンスに関連する閾値に基づいて規定され、
前記制御部は、変速比が大きい値に切り替わるときにおいて、変速先変速比と、変速比が切り替わるときの前記人力駆動車の走行状態に関する走行情報とに基づいて算出される変速直後ケイデンス相当値よりも小さい値となるように、前記変速先の変速比における下限の前記閾値である第2閾値を設定する、制御装置。
【請求項4】
人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて自動的に制御する制御部を備え、
前記変速条件は、ケイデンスに関連する閾値に基づいて規定され、
前記制御部は、変速比が小さい値に切り替わるときにおいて、変速先変速比と、変速比が切り替わるときの前記人力駆動車の走行状態に関する走行情報とに基づいて算出される変速直後ケイデンス相当値よりも大きい値となるように、前記変速先の変速比における上限の前記閾値である第1閾値を設定する、制御装置。
【請求項5】
前記第1参照情報は、
変速前のリアスプロケットと変速後のリアスプロケットとの歯数差に関する情報であり、または、
変速前のフロントスプロケットおよびリアスプロケットと変速後のフロントスプロケットおよびリアスプロケットとの歯数差に関する情報である、
請求項1または2に記載の制御装置。
【請求項6】
前記走行情報は、車速である、
請求項3または4に記載の制御装置。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の制御装置と、前記変速装置と、を備える変速システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置および変速システムに関する。
【背景技術】
【0002】
人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて自動的に制御する変速システムが知られている。従来の変速システムは、人力駆動車のクランクの回転数および閾値に基づいて規定される変速条件に応じて、クランクの回転数が所定の範囲内に維持されるように変速装置を制御する。特許文献1は、従来の変速システムの一例を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表平10-511621号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
人力駆動車に搭乗する搭乗者が快適に走行できることが望ましい。
本発明の目的は、人力駆動車の快適な走行に貢献できる制御装置および変速システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面に従う制御装置は、人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて自動的に制御する制御部を備え、前記制御部は、前記変速装置による変速に伴う変速比の変化に関する情報を含む第1参照情報に基づいて前記変速条件を設定する。
前記第1側面の制御装置によれば、第1参照情報に基づいて変速条件が設定されるため、変速条件に応じて変速装置を好適に制御できる。このため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0006】
前記第1側面に従う第2側面の制御装置において、前記人力駆動車は、駆動に伴って第1変速比を実現する第1スプロケットと、駆動に伴って第2変速比を実現する第2スプロケットとを含み、前記変速比の変化に関する情報は、前記第1変速比と前記第2変速比との組合せに関する情報を含む。
前記第2側面の制御装置によれば、第1変速比と第2変速比との組合せに基づく変速条件に応じて変速装置が制御されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0007】
前記第2側面に従う第3側面の制御装置において、前記第1スプロケットおよび前記第2スプロケットは、前記人力駆動車のフロントスプロケット、および、前記人力駆動車のリアスプロケットの一方に含まれる。
前記第3側面の制御装置によれば、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0008】
前記第2または第3側面に従う第4側面の制御装置において、前記変速比の変化に関する情報は、前記第1スプロケットの歯数および前記第2スプロケットの歯数に関する情報を含む。
前記第4側面の制御装置によれば、第1スプロケットの歯数と第2スプロケットの歯数との関係に基づく変速条件に応じて変速装置が制御されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0009】
前記第2~第4側面のいずれか1つに従う第5側面の制御装置において、前記変速比の変化に関する情報は、前記第1スプロケットと前記第2スプロケットとの歯数差に関する情報を含む。
前記第5側面の制御装置によれば、第1スプロケットと第2スプロケットとの歯数差に基づく変速条件に応じて変速装置が制御されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0010】
前記第1~第5側面のいずれか1つに従う第6側面の制御装置において、前記変速比の変化に関する情報は、前記人力駆動車の少なくとも1つのフロントスプロケットと、前記人力駆動車の少なくとも1つのリアスプロケットとの組合せに関する情報を含む。
前記第6側面の制御装置によれば、フロントスプロケットとリアスプロケットとの組合せに基づく変速条件に応じて変速装置が制御されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0011】
前記第6側面に従う第7側面の制御装置において、前記変速比の変化に関する情報は、前記変速比に関する情報、ならびに、前記フロントスプロケットの歯数および前記リアスプロケットの歯数に関する情報の少なくとも一方を含む。
前記第7側面の制御装置によれば、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0012】
前記第1~第7側面のいずれか1つに従う第8側面の制御装置において、前記第1参照情報は、前記人力駆動車の走行状態に関する走行情報を含む第1参照値をさらに含む。
前記第8側面の制御装置によれば、変速比の変化に関する情報と、第1参照値とを含む第1参照情報に基づいて変速条件が設定されるため、変速条件に応じて変速装置を好適に制御できる。このため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0013】
前記第8側面に従う第9側面の制御装置において、前記変速条件は、第2参照値および閾値に基づいて規定され、前記制御部は、前記第1参照情報に基づいて前記閾値を設定する。
前記第9側面の制御装置によれば、第1参照情報に基づいて変速条件を規定する閾値が設定されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0014】
前記第9側面に従う第10側面の制御装置において、前記閾値は、第1閾値および第2閾値を含み、前記制御部は、前記第2参照値と前記第1閾値との関係に応じて前記変速比が大きくなるように前記変速装置を制御し、前記第2参照値と前記第2閾値との関係に応じて前記変速比が小さくなるように前記変速装置を制御する。
前記第10側面の制御装置によれば、変速条件に応じて変速装置を好適に制御できる。
【0015】
前記第10側面に従う第11側面の制御装置において、前記第1閾値は、前記第2閾値とは異なる。
前記第11側面の制御装置によれば、変速装置による変速の頻度が低減するため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0016】
前記第11側面に従う第12側面の制御装置において、前記第1閾値は、前記第2閾値に対して所定値だけ異なり、前記制御部は、前記第1参照情報に基づいて、前記所定値が変化するように前記閾値を変更する。
前記第12側面の制御装置によれば、所定値が変化するように閾値が変更されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0017】
前記第10~第12側面のいずれか1つに従う第13側面の制御装置において、前記制御部は、前記第1閾値および前記第2閾値の一方に応じて、前記第1閾値および前記第2閾値の他方を設定する。
前記第13側面の制御装置によれば、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0018】
本発明の第14側面に従う制御装置は、人力駆動車の変速装置を変速条件に応じて自動的に制御する制御部を備え、前記変速条件は、第2参照値および閾値に基づいて規定され、前記制御部は、前記人力駆動車の現在の変速比と、変速先の前記変速比と、前記人力駆動車の走行状態に関する走行情報を含む第1参照値とを含む第2参照情報に基づいて前記閾値を設定する。
前記第14側面の制御装置によれば、第2参照情報に基づいて変速条件を規定する閾値が設定されるため、変速条件に応じて変速装置を好適に制御できる。このため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0019】
前記第14側面に従う第15側面の制御装置において、前記第2参照情報は、現在の前記変速比と前記第1参照値との関係に応じて推定される前記第2参照値と、変速先の前記変速比と前記第1参照値との関係に応じて推定される前記第2参照値との参照値差を含む。
前記第15側面の制御装置によれば、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0020】
前記第14または第15側面に従う第16側面の制御装置において、前記閾値は、第1閾値および第2閾値を含み、前記制御部は、前記第2参照値と前記第1閾値との関係に応じて前記変速比が大きくなるように前記変速装置を制御し、前記第2参照値と前記第2閾値との関係に応じて前記変速比が小さくなるように前記変速装置を制御する。
前記第16側面の制御装置によれば、変速条件に応じて変速装置を好適に制御できる。
【0021】
前記第16側面に従う第17側面の制御装置において、前記第1閾値は、前記第2閾値とは異なる。
前記第17側面の制御装置によれば、変速装置による変速の頻度が低減するため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0022】
前記第17側面に従う第18側面の制御装置において、前記第1閾値は、前記第2閾値に対して所定値だけ異なり、前記制御部は、前記第2参照情報に基づいて、前記所定値が変化するように前記閾値を変更する。
前記第18側面の制御装置によれば、所定値が変化するように閾値が変更されるため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0023】
前記第16~第18側面のいずれか1つに従う第19側面の制御装置において、前記制御部は、前記第1閾値および前記第2閾値の一方に応じて、前記第1閾値および前記第2閾値の他方を設定する。
前記第19側面の制御装置によれば、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0024】
前記第9~第19側面のいずれか1つに従う第20側面の制御装置において、前記第2参照値は、前記第1参照値とは異なる前記走行情報を含む。
前記第20側面の制御装置によれば、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0025】
前記第8~第20側面のいずれか1つに従う第21側面の制御装置において、前記制御部は、前記変速比および前記第1参照値の少なくとも一方毎に前記変速条件を設定する。
前記第21側面の制御装置によれば、変速条件に応じて変速装置を好適に制御できる。このため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0026】
前記第8~第21側面のいずれか1つに従う第22側面の制御装置において、前記走行情報は、ケイデンス、前記人力駆動車のクランクに作用するトルク、車速、加速度、および、パワーの少なくとも1つを含む。
前記第22側面の制御装置によれば、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0027】
前記第1~第22側面のいずれか1つに従う第23側面の制御装置において、前記変速条件を更新可能に記憶する記憶部をさらに備える。
前記第23側面の制御装置によれば、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【0028】
本発明の第24側面に従う変速システムは、前記制御装置と、前記変速装置と、を備える。
前記第24側面の変速システムによれば、各種の情報に基づいて変速条件が適宜設定されるため、変速条件に応じて変速装置を好適に制御できる。このため、人力駆動車の快適な走行に貢献できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の制御装置および変速システムによれば、人力駆動車の快適な走行に貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】第1実施形態の変速システムを含む人力駆動車の側面図。
図2図1の制御装置と各種の要素との電気的な接続関係を示すブロック図。
図3図1の変速装置の制御に用いられる変速条件の一例を示すマップ。
図4図1の制御装置が実行する自動変速制御の一例を示すフローチャート。
図5図1の制御装置が実行する第1条件設定制御の一例を示すフローチャート。
図6】第2実施形態の変速システムにおいて、制御装置が実行する第2条件設定制御の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1実施形態>
図1を参照して、変速システム10を含む人力駆動車Aについて説明する。
ここで、人力駆動車は、走行のための原動力に関して、少なくとも部分的に人力を用いる車両を意味し、電動で人力を補助する車両を含む。人力以外の原動力のみを用いる車両は、人力駆動車には含まれない。特に、内燃機関のみを原動力に用いる車両は、人力駆動車には含まれない。通常、人力駆動車には、小型軽車両が想定され、公道での運転に免許を要しない車両が想定される。図示される人力駆動車Aは、電気エネルギーを用いて人力駆動車Aの推進を補助する電動補助ユニットEを含む自転車である。具体的には、図示される人力駆動車Aは、トレッキングバイクである。人力駆動車Aは、フレームA1、フロントフォークA2、車輪W、ハンドルH、および、ドライブトレインBをさらに含む。車輪Wは、前輪WFおよび後輪WRを含む。
【0032】
ドライブトレインBは、例えばチェーンドライブタイプである。ドライブトレインBは、クランクC、フロントスプロケットD1、リアスプロケットD2、および、チェーンD3を含む。クランクCは、フレームA1に回転可能に支持されるクランク軸C1、および、クランク軸C1の両端部のそれぞれに設けられる一対のクランクアームC2を含む。各クランクアームC2の先端には、ペダルPDが回転可能に取り付けられる。ドライブトレインBは、任意のタイプから選択でき、ベルトドライブタイプ、または、シャフトドライブタイプであってもよい。
【0033】
フロントスプロケットD1は、クランク軸C1と一体に回転するようにクランクCに設けられる。リアスプロケットD2は、後輪WRのハブHRに設けられる。チェーンD3は、フロントスプロケットD1およびリアスプロケットD2に巻き掛けられる。人力駆動車Aに搭乗する搭乗者によってペダルPDに加えられる人力駆動力は、フロントスプロケットD1、チェーンD3、および、リアスプロケットD2を介して後輪WRに伝達される。
【0034】
電動補助ユニットEは、人力駆動車Aの推進をアシストするように動作する。電動補助ユニットEは、例えばペダルPDに加えられる人力駆動力に応じて動作する。電動補助ユニットEは、モータE1を含む。電動補助ユニットEは、人力駆動車Aに搭載されるバッテリBTから供給される電力によって動作する。
【0035】
変速システム10は、制御装置12と、変速装置20とを備える。制御装置12は、例えば電動補助ユニットEのハウジングE2内に収容される。制御装置12は、バッテリBTから供給される電力によって動作する。
【0036】
変速装置20は、例えばシフトレバーSLの操作に応じて機械的または電気的に駆動されるように構成される。変速装置20が電気的に駆動される場合、変速装置20は、バッテリBTから供給される電力、または、変速装置20に搭載される専用の電源から供給される電力によって動作する。変速装置20は、外装変速機を含む。一例では、変速装置20は、フロントディレーラ22およびリアディレーラ24の少なくとも一方を含む。フロントディレーラ22は、フロントスプロケットD1付近に設けられる。フロントディレーラ22の駆動に伴って、チェーンD3が巻き掛けられるフロントスプロケットD1が変更され、人力駆動車Aの変速比GRが変更される。人力駆動車Aの変速比GRは、フロントスプロケットD1の歯数TFとリアスプロケットD2の歯数TRとの関係に基づいて規定される。一例では、人力駆動車Aの変速比は、フロントスプロケットD1の回転速度に対するリアスプロケットD2の回転速度の割合で定義される。すなわち、人力駆動車Aの変速比GRは、リアスプロケットD2の歯数TRに対するフロントスプロケットD1の歯数TFの割合で定義される。リアディレーラ24は、フレームA1のリアエンドA3に設けられる。リアディレーラ24の駆動に伴って、チェーンD3が巻き掛けられるリアスプロケットD2が変更され、人力駆動車Aの変速比GRが変更される。変速装置20は、外装変速機に代えて内装変速機を含んでいてもよい。この場合、内装変速機は、例えば後輪WRのハブHRに設けられる。変速装置20は、外装変速機に代えて無段変速機を含んでいてもよい。この場合、無段変速機は、例えば後輪WRのハブHRに設けられる。
【0037】
人力駆動車Aは、駆動に伴って第1変速比GR1を実現する第1スプロケットD21と、駆動に伴って第2変速比GR2を実現する第2スプロケットD22とを含む。第1スプロケットD21および第2スプロケットD22は、人力駆動車AのフロントスプロケットD1、および、人力駆動車AのリアスプロケットD2の一方に含まれる。本実施形態では、第1スプロケットD21および第2スプロケットD22は、人力駆動車AのリアスプロケットD2に含まれる。第1スプロケットD21は、例えばリアディレーラ24による変速前にチェーンD3が巻き掛けられているリアスプロケットD2である。所定のフロントスプロケットD1に巻き掛けられるチェーンD3が、第1スプロケットD21に巻き掛けられることによって第1変速比GR1が実現される。第2スプロケットD22は、例えばリアディレーラ24による変速後にチェーンD3が巻き掛けられるリアスプロケットD2である。所定のフロントスプロケットD1に巻き掛けられるチェーンD3が、第2スプロケットD22に巻き掛けられることによって第2変速比GR2が実現される。
【0038】
図2を参照して、制御装置12の具体的な構成について説明する。
制御装置12は、人力駆動車Aの変速装置20を変速条件に応じて自動的に制御する制御部14を備える。制御部14は、CPU(Central Processing Unit)またはMPU(Micro Processing Unit)である。制御部14は、例えばシフトレバーSLの操作に応じて変速装置20を制御することもできる。制御部14は、人力駆動車Aの変速装置20以外に、人力駆動車Aに搭載される各種のコンポーネントをさらに制御してもよい。制御装置12は、変速条件を更新可能に記憶する記憶部16をさらに備える。記憶部16は、不揮発性メモリおよび揮発性メモリを含む。記憶部16は、例えば制御のための各種プログラム、および、予め設定される情報等を記憶する。
【0039】
制御部14は、例えば第1参照値RV1を含む各種の情報に基づいて変速条件を設定する。第1参照値RV1は、人力駆動車Aの走行状態に関する走行情報を含む。走行情報は、ケイデンス、人力駆動車AのクランクCに作用するトルク、車速、加速度、および、パワーの少なくとも1つを含む。ケイデンスは、クランクCの回転数と同義である。パワーは、ケイデンスとトルクとの積である。本実施形態では、第1参照値RV1は、人力駆動車Aの実際の車速および推定車速VEを含む。推定車速VEは、例えば人力駆動車Aの変速比GR、ケイデンス、および、車輪Wの周長LCの少なくとも1つに基づいて推定される車速である。変速条件に関する情報が既に記憶部16に記憶されている場合、制御部14は、記憶部16に記憶される変速条件に関する情報を、新たに設定した変速条件に関する情報に更新してもよい。
【0040】
図3に示されるように、変速条件は、第2参照値RV2および閾値THに基づいて規定される。第2参照値RV2は、人力駆動車Aの走行状態に関する走行情報を含む。一例では、第2参照値RV2は、第1参照値RV1とは異なる走行情報を含む。第2参照値RV2は、第1参照値RV1と同じ走行情報を含んでいてもよい。本実施形態では、第2参照値RV2は、推定ケイデンスCEを含む。推定ケイデンスCEは、例えば人力駆動車Aの車速と人力駆動車Aの変速比GRとの関係に基づいて推定されるケイデンスである。第2参照値RV2に推定ケイデンスCEが含まれる場合、人力駆動車Aの車速と実際のケイデンスとにずれが生じる状況においても、変速条件に応じて変速装置20を好適に制御できる。一例では、推定ケイデンスCEは、下記式[1]に基づいて算出される。
【0041】
【数1】
変数RWは、現在の車輪Wの回転速度RWが代入される。車輪Wの回転速度RWは、前輪WFの回転速度RWまたは後輪WRの回転速度RWである。車輪Wの回転速度RWは、人力駆動車Aの車速と相関を有する。車輪Wの回転速度RWは、磁気センサ等によって検出されてもよく、人力駆動車Aの車速と車輪Wの周長LCとを用いて算出されてもよい。変数GRは、人力駆動車Aの現在の変速比GRが代入される。一例では、制御部14は、上記式[1]に基づいて推定ケイデンスCEを算出する。
【0042】
閾値THは、第1閾値TH1および第2閾値TH2を含む。制御部14は、第2参照値RV2と第1閾値TH1との関係に応じて変速比GRが大きくなるように変速装置20を制御し、第2参照値RV2と第2閾値TH2との関係に応じて変速比GRが小さくなるように変速装置20を制御する。第1閾値TH1は、第2閾値TH2とは異なる。すなわち、変速条件を規定する閾値TH1、TH2は、所定の範囲を有する。一例では、第1閾値TH1は、第2閾値TH2に対して所定値PVだけ異なる。所定値PVは、所定の範囲を規定する所定幅である。本実施形態では、第1閾値TH1は、第2閾値TH2よりも大きい。一例では、制御部14は、第2参照値RV2が第1閾値TH1を上回ると変速比GRが大きくなるように変速装置20を制御し、第2参照値RV2が第2閾値TH2を下回ると変速比GRが小さくなるように変速装置20を制御する。
【0043】
制御部14は、例えば以下の第1例および第2例の少なくとも一方に従って変速条件を設定する。第1例では、制御部14は、変速装置20による変速に伴う変速比GRの変化に関する情報を含む第1参照情報IR1に基づいて変速条件を設定する。変速比GRの変化に関する情報は、第1情報および第2情報の少なくとも一方を含む。第1情報は、第1変速比GR1と第2変速比GR2との組合せに関する情報を含む。一例では、第1情報は、第1スプロケットD21の歯数および第2スプロケットD22の歯数に関する情報を含む。具体的には、第1情報は、第1スプロケットD21と第2スプロケットD22との歯数差に関する情報を含む。換言すれば、第1情報は、変速装置20による変速前にチェーンD3が巻き掛けられているリアスプロケットD2と、変速装置20による変速後にチェーンD3が巻き掛けられるリアスプロケットD2との歯数差に関する情報を含む。
【0044】
第2情報は、人力駆動車Aの少なくとも1つのフロントスプロケットD1と、人力駆動車Aの少なくとも1つのリアスプロケットD2との組合せに関する情報を含む。一例では、第2情報は、人力駆動車Aの変速比GRに関する情報、ならびに、フロントスプロケットD1の歯数TFおよびリアスプロケットD2の歯数TRに関する情報の少なくとも一方を含む。人力駆動車Aの変速比GRに関する情報は、例えば現在の変速比GRに関する情報および変速先の変速比GRに関する情報を含む。スプロケットD1、D2の歯数TF、TRに関する情報は、例えば変速装置20による変速前にチェーンD3が巻き掛けられているスプロケットD1、D2の歯数TF、TRに関する情報、および、変速装置20による変速後にチェーンD3が巻き掛けられるスプロケットD1、D2の歯数TF、TRに関する情報を含む。第1参照情報IR1は、人力駆動車Aの走行状態に関する走行情報を含む第1参照値RV1をさらに含む。この場合、変速比GRの変化に関する情報と第1参照値RV1とが第1参照情報IR1に含まれる。
【0045】
制御部14は、第1参照情報IR1に基づいて閾値THを設定する。一例では、制御部14は、第1参照情報IR1に基づいて第1閾値TH1および第2閾値TH2の少なくとも一方を設定する。制御部14は、第1参照情報IR1に基づいて、所定値PVが変化するように閾値THを変更する。一例では、制御部14は、第1参照情報IR1に基づいて、人力駆動車Aの変速比GR、第1参照値RV1、および、第2参照値RV2の少なくとも1つ毎に所定値PVが変化するように閾値THを変更する。制御部14は、第1参照情報IR1に基づいて、所定値PVが大きくなるように、または、所定値PVが小さくなるように閾値THを変更する。
【0046】
制御部14は、第1閾値TH1および第2閾値TH2の一方に応じて、第1閾値TH1および第2閾値TH2の他方を設定する。一例では、制御部14は、基準ケイデンスCSに基づいて一方の閾値TH1、TH2を設定し、その一方の閾値TH1、TH2に応じて他方の閾値TH1、TH2を設定する。基準ケイデンスCSは、例えば人力駆動車Aに搭乗する搭乗者の一般的なケイデンスに基づいて予め設定されてもよく、人力駆動車Aに搭乗する搭乗者の実際のケイデンスに基づいて適宜設定されてもよい。制御部14は、人力駆動車Aの変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方毎に変速条件を設定する。制御部14は、人力駆動車Aの変速比GR、第1参照値RV1、および、第2参照値RV2の少なくとも1つ毎に変速条件を設定してもよい。
【0047】
第2例では、制御部14は、人力駆動車Aの現在の変速比GRと、変速先の変速比GRと、人力駆動車Aの走行状態に関する走行情報を含む第1参照値RV1とを含む第2参照情報IR2に基づいて閾値THを設定する。一例では、制御部14は、第2参照情報IR2に基づいて第1閾値TH1および第2閾値TH2の少なくとも一方を設定する。制御部14は、第2参照情報IR2に基づいて、所定値PVが変化するように閾値THを変更する。一例では、制御部14は、第2参照情報IR2に基づいて、人力駆動車Aの変速比GR、第1参照値RV1、および、第2参照値RV2の少なくとも1つ毎に所定値PVが変化するように閾値THを変更する。制御部14は、第2参照情報IR2に基づいて、所定値PVが大きくなるように、または、所定値PVが小さくなるように閾値THを変更する。第2参照情報IR2は、現在の変速比GRと第1参照値RV1との関係に応じて推定される第2参照値RV2と、変速先の変速比GRと第1参照値RV1との関係に応じて推定される第2参照値RV2との参照値差を含む。
【0048】
制御部14は、第1閾値TH1および第2閾値TH2の一方に応じて、第1閾値TH1および第2閾値TH2の他方を設定する。一例では、制御部14は、基準ケイデンスCSに基づいて一方の閾値TH1、TH2を設定し、その一方の閾値TH1、TH2に応じて他方の閾値TH1、TH2を設定する。制御部14は、人力駆動車Aの変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方毎に変速条件を設定する。制御部14は、人力駆動車Aの変速比GR、第1参照値RV1、および、第2参照値RV2の少なくとも1つ毎に変速条件を設定してもよい。
【0049】
制御部14は、例えば次の第1設定方法および第2設定方法の少なくとも一方に従って変速条件を設定する。第1設定方法は、上記第1例および上記第2例に準ずる方法である。第1設定方法は、例えば第1手順~第6手順を含む。第1手順では、制御部14は、基準ケイデンスCSを設定する。第2手順では、制御部14は、基準ケイデンスCSに基づいて任意の第1閾値TH1を設定する。第3手順では、制御部14は、第1閾値TH1に応じたケイデンス等に基づいて推定車速VEを算出する。一例では、推定車速VEは、下記式[2]に基づいて算出される。人力駆動車Aのケイデンスが第1閾値TH1に応じたケイデンスとなった際の実際の車速を推定車速VEとしてもよい。
【0050】
【数2】
変数CSは、基準ケイデンスCSが代入される。変数Uは、第1閾値TH1に応じたケイデンスと基準ケイデンスCSとの差の絶対値が代入される。すなわち、CS+Uは、第1閾値TH1に応じたケイデンスを示す。変数Uは、例えば5rpm~10rpmの範囲で適宜選択される。変数TFは、チェーンD3が巻き掛けられているフロントスプロケットD1の歯数TFが代入される。変数TRは、チェーンD3が巻き掛けられているリアスプロケットD2の歯数TRが代入される。すなわち、TF/TRは、人力駆動車Aの現在の変速比GRを示す。定数LCは、車輪Wの周長LCが代入される。車輪Wの周長LCの単位は、例えばmで表記される。一例では、制御部14は、上記式[2]に基づいて推定車速VEを算出する。すなわち、制御部14は、第1閾値TH1に応じたケイデンスに対応する推定車速VEを算出する。推定車速VEの単位は、例えばkm/hで表記される。
【0051】
第4手順では、制御部14は、変速装置20による変速後のケイデンスCAを算出する。変速後のケイデンスCAは、第2参照値RV2と第1閾値TH1との関係に応じて変速装置20が制御された後のケイデンスである。変速後のケイデンスCAは、例えば下記式[3]に基づいて算出される。
【0052】
【数3】
変数VEは、上記式[2]で算出された推定車速VEが代入される。変数TFは、人力駆動車Aの変速比GRが大きくなるように変速装置20が変速された後に、チェーンD3が巻き掛けられるフロントスプロケットD1の歯数TFが代入される。上記式[3]に示される例では、変数TFは、上記式[2]で代入されるフロントスプロケットD1の歯数TFと同じである。変数TRn+1は、人力駆動車Aの変速比GRが大きくなるように変速装置20が変速された後に、チェーンD3が巻き掛けられるリアスプロケットD2の歯数TRが代入される。すなわち、TF/TRn+1は、人力駆動車Aの変速後の変速比GRを示す。定数LCは、車輪Wの周長LCが代入される。一例では、制御部14は、上記式[3]に基づいて変速後のケイデンスCAを算出する。
【0053】
第5手順では、制御部14は、変速後のケイデンスCAに基づいて第2閾値TH2を算出する。一例では、制御部14は、下記の判定式[4]が成立する第2閾値TH2を算出する。
【0054】
【数4】
変数CAは、上記式[3]で算出された変速後のケイデンスCAが代入される。変数CSは、基準ケイデンスCSが代入される。変数Dは、第2閾値TH2に応じたケイデンスと基準ケイデンスCSとの差の絶対値である。すなわち、CS-Dは、第2閾値TH2に応じたケイデンスを示す。一例では、制御部14は、上記判定式[4]が成立する第2閾値TH2(CS-D)を算出する。
【0055】
第6手順では、制御部14は、人力駆動車Aの現在の変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方に対応する変速条件、ならびに、変速後の変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方に対応する変速条件を設定する。具体的には、制御部14は、人力駆動車Aの現在の変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方に対応する変速条件として、上記第2手順で設定した第1閾値TH1を設定する。また、制御部14は、変速後の変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方に対応する変速条件として、上記判定式[4]で算出した第2閾値TH2を設定する。このように、制御部14は、第1設定方法に従って変速条件を設定する。
【0056】
第1設定方法と上記第1例との対応関係は、以下のとおりである。上記式[2]の変数TRおよび上記式[3]のTRn+1は、第1スプロケットD21の歯数および第2スプロケットD22の歯数に関する情報に含まれる。上記式[2]のTF/TRおよび上記式[3]のTF/TRn+1は、人力駆動車Aの少なくとも1つのフロントスプロケットD1と、人力駆動車Aの少なくとも1つのリアスプロケットD2との組合せに関する情報に含まれる。上記式[2]のTF/TRは、第1変速比GR1に相当する。上記式[3]のTF/TRn+1は、第2変速比GR2に相当する。
【0057】
第1設定方法と上記第2例との対応関係は、以下のとおりである。上記式[2]の変数CSと変数Uとの和は、現在の変速比GRと第1参照値RV1との関係に応じて推定される第2参照値RV2に含まれる。一例では、変数CSと変数Uとの和そのものを現在の変速比GRと第1参照値RV1との関係に応じて推定される第2参照値RV2とする。また、他の例では、上記式[2]は、CS+Uを算出する式に変形される。この場合、制御部14は、上記式[2]の変数VEに任意の車速を代入し、CS+Uに相当する値を算出する。任意の車速は、人力駆動車Aに搭乗する搭乗者が人力駆動車Aを走行させる場合の一般的な車速であってもよく、人力駆動車Aの実際の車速であってもよい。上記式[3]の変速後のケイデンスCAは、変速先の変速比GRと第1参照値RV1との関係に応じて推定される第2参照値RV2に含まれる。上記第2例に準ずる第1設定方法では、制御部14は、上記判定式[4]に代えて、任意の第1閾値TH1と参照値差との関係に応じて第2閾値TH2を算出してもよい。
【0058】
第2設定方法は、上記第1例および上記第2例に準ずる方法である。第2設定方法は、例えば第7手順~第12手順を含む。第7手順では、制御部14は、基準ケイデンスCSを設定する。第8手順では、制御部14は、基準ケイデンスCSに基づいて任意の第2閾値TH2を設定する。第9手順では、制御部14は、第2閾値TH2に応じてケイデンス等に基づいて推定車速VEを算出する。一例では、推定車速VEは、下記式[5]に基づいて算出される。
【0059】
【数5】
変数CSは、基準ケイデンスCSが代入される。変数Dは、第2閾値TH2に応じたケイデンスと基準ケイデンスCSとの差の絶対値が代入される。すなわち、CS-Dは、第2閾値TH2に応じたケイデンスを示す。変数Dは、例えば5rpm~10rpmの範囲で適宜選択される。変数TFは、チェーンD3が巻き掛けられているフロントスプロケットD1の歯数TFが代入される。変数TRは、チェーンD3が巻き掛けられているリアスプロケットD2の歯数TRが代入される。すなわち、TF/TRは、人力駆動車Aの現在の変速比GRを示す。定数LCは、車輪Wの周長LCが代入される。車輪Wの周長LCの単位は、例えばmで表記される。一例では、制御部14は、上記式[5]に基づいて推定車速VEを算出する。すなわち、制御部14は、第2閾値TH2に応じたケイデンスに対応する推定車速VEを算出する。推定車速VEの単位は、例えばkm/hで表記される。
【0060】
第10手順では、制御部14は、変速装置20による変速後のケイデンスCBを算出する。変速後のケイデンスCBは、第2参照値RV2と第2閾値TH2との関係に応じて変速装置20が制御された後のケイデンスである。変速後のケイデンスCBは、例えば下記式[6]に基づいて算出される。
【0061】
【数6】
変数VEは、上記式[5]で算出された推定車速VEが代入される。変数TFは、人力駆動車Aの変速比GRが小さくなるように変速装置20が変速された後に、チェーンD3が巻き掛けられるフロントスプロケットD1の歯数TFが代入される。上記式[6]に示される例では、変数TFは、上記式[5]で代入されるフロントスプロケットD1の歯数TFと同じである。変数TRn-1は、人力駆動車Aの変速比GRが小さくなるように変速装置20が変速された後に、チェーンD3が巻き掛けられるリアスプロケットD2の歯数TRが代入される。すなわち、TF/TRn-1は、人力駆動車Aの変速後の変速比GRを示す。定数LCは、車輪Wの周長LCが代入される。一例では、制御部14は、上記式[6]に基づいて変速後のケイデンスCBを算出する。
【0062】
第11手順では、制御部14は、変速後のケイデンスCBに基づいて第1閾値TH1を算出する。一例では、制御部14は、下記の判定式[7]が成立する第1閾値TH1を算出する。
【0063】
【数7】
変数CBは、上記式[6]で算出された変速後のケイデンスCBが代入される。変数CSは、基準ケイデンスCSが代入される。変数Uは、第1閾値TH1に応じたケイデンスと基準ケイデンスCSとの差の絶対値である。すなわち、CS+Uは、第1閾値TH1に応じたケイデンスを示す。一例では、制御部14は、上記判定式[7]が成立する第1閾値TH1(CS+U)を算出する。
【0064】
第12手順では、制御部14は、人力駆動車Aの現在の変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方に対応する変速条件、ならびに、変速後の変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方に対応する変速条件を設定する。具体的には、制御部14は、人力駆動車Aの現在の変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方に対応する変速条件として、上記第2手順で設定した第2閾値TH2を設定する。また、制御部14は、変速後の変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方に対応する変速条件として、上記判定式[7]で算出した第1閾値TH1を設定する。このように、制御部14は、第2設定方法に従って変速条件を設定する。制御部14は、人力駆動車Aの変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方毎に、第1設定方法および第2設定方法の少なくとも一方に従って変速条件を設定する。
【0065】
第2設定方法と上記第1例との対応関係は、以下のとおりである。上記式[5]の変数TRおよび上記式[6]のTRn-1は、第1スプロケットD21の歯数および第2スプロケットD22の歯数に関する情報に含まれる。上記式[5]のTF/TRおよび上記式[6]のTF/TRn-1は、人力駆動車Aの少なくとも1つのフロントスプロケットD1と、人力駆動車Aの少なくとも1つのリアスプロケットD2との組合せに関する情報に含まれる。上記式[5]のTF/TRは、第1変速比GR1に相当する。上記式[6]のTF/TRn-1は、第2変速比GR2に相当する。
【0066】
第2設定方法と上記第2例との対応関係は、以下のとおりである。上記式[5]の変数CSと変数Dとの差は、現在の変速比GRと第1参照値RV1との関係に応じて推定される第2参照値RV2に含まれる。一例では、変数CSと変数Dとの差そのものを現在の変速比GRと第1参照値RV1との関係に応じて推定される第2参照値RV2とする。また、他の例では、上記式[5]は、CS-Dを算出する式に変形される。この場合、制御部14は、上記式[5]の変数VEに任意の車速を代入し、CS-CDに相当する値を算出する。上記式[6]の変速後のケイデンスCBは、変速先の変速比GRと第1参照値RV1との関係に応じて推定される第2参照値RV2に含まれる。上記第2例に準ずる第2設定方法では、制御部14は、上記判定式[7]に代えて、任意の第2閾値TH2と参照値差との関係に応じて第1閾値TH1を算出してもよい。
【0067】
制御部14は、第1設定方法および第2設定方法の少なくとも一方に従って設定された変速条件に応じて、人力駆動車Aの変速装置20を自動的に制御する。具体的には、制御部14は、人力駆動車Aの現在の変速比GR、現在の第1参照値RV1(実際の車速)、および、現在の第2参照値RV2の少なくとも1つに応じた変速条件を記憶部16から読み出し、その変速条件に応じて変速装置20を自動的に制御する。このため、人力駆動車Aの快適な走行に貢献できる。
【0068】
図2に示されるように、人力駆動車Aは、各種の情報を検出する検出装置DDをさらに含む。検出装置DDは、第1検出部DD1および第2検出部DD2を含む。第1検出部DD1は、車輪Wの回転速度RWを検出するように構成される。第1検出部DD1は、例えば車輪WのスポークA4に設けられる磁石を検出する磁気センサである。一例では、第1検出部DD1は、フレームA1またはフロントフォークA2に設けられる。第1検出部DD1は、検出した車輪Wの回転速度RWに関する情報を制御部14に出力する。人力駆動車Aの車速は、車輪Wの回転速度と車輪Wの周長LCとの積である。第2検出部DD2は、人力駆動車Aの現在の変速比GRを検出するように構成される。第2検出部DD2は、人力駆動車Aの現在の変速比GRを検出可能な各種のセンサを含む。一例では、第2検出部DD2は、変速装置20に設けられる。第2検出部DD2は、検出した人力駆動車Aの現在の変速比GRに関する情報を制御部14に出力する。
【0069】
図4を参照して、制御装置12が実行する自動変速制御の一例について説明する。
制御部14は、例えば人力駆動車Aの変速装置20を変速条件に応じて自動的に制御する自動変速制御を実行する。制御部14は、ステップS11において、第2参照値RV2を取得する。一例では、制御部14は、検出装置DDから取得した各種の情報および上記式[1]に基づいて第2参照値RV2を取得する。制御部14は、ステップS12において、第2参照値RV2が第1閾値TH1以上か否かを判定する。制御部14は、ステップS12において、第2参照値RV2が第1閾値TH1以上であると判定した場合、ステップS13の処理に移行する。
【0070】
制御部14は、ステップS13において、人力駆動車Aの現在の変速比GRが最大変速比か否かを判定する。人力駆動車Aの最大変速比は、フロントスプロケットD1とリアスプロケットD2との関係に基づく最大の変速比GRである。制御部14は、ステップS13において、人力駆動車Aの現在の変速比GRが最大変速比であると判定した場合、ステップS11に処理を戻す。一方、制御部14は、人力駆動車Aの現在の変速比GRが最大変速比でないと判定した場合、ステップS14の処理に移行する。制御部14は、ステップS14において、人力駆動車Aの変速比GRが大きくなるように変速装置20を制御する。
【0071】
制御部14は、ステップS12において、第2参照値RV2が第1閾値TH1未満であると判定した場合、ステップS15の処理に移行する。制御部14は、ステップS15において、第2参照値RV2が第2閾値TH2未満か否かを判定する。制御部14は、ステップS15において、第2参照値RV2が第2閾値TH2以上であると判定した場合、ステップS11に処理を戻す。一方、制御部14は、ステップS15において、第2参照値RV2が第2閾値TH2未満であると判定した場合、ステップS16の処理に移行する。
【0072】
制御部14は、ステップS16において、人力駆動車Aの現在の変速比GRが最小変速比か否かを判定する。人力駆動車Aの最小変速比は、フロントスプロケットD1とリアスプロケットD2との関係に基づく最小の変速比GRである。制御部14は、ステップS16において、人力駆動車Aの現在の変速比GRが最小変速比であると判定した場合、ステップS11に処理を戻す。一方、制御部14は、ステップS16において、人力駆動車Aの現在の変速比GRが最小変速比でないと判定した場合、ステップS17の処理に移行する。制御部14は、ステップS17において、人力駆動車Aの変速比GRが小さくなるように変速装置20を制御する。以上の処理を経て、ステップS11~ステップS17の処理を終了する。制御部14は、例えば人力駆動車Aの走行中において、ステップS11~ステップS17の処理を含む自動変速制御を繰り返し実行する。
【0073】
図5を参照して、制御装置12が実行する第1条件設定制御の一例について説明する。
制御部14は、例えば上記第1例および上記第2例の少なくとも一方に従って、変速条件を新たに設定する第1条件設定制御を実行する。
【0074】
制御部14は、ステップS21において、推定車速VEを算出する。一例では、制御部14は、上記式[2]または上記式[5]に基づいて推定車速VEを算出する。制御部14は、ステップS22において、変速後のケイデンスCA、CBを算出する。一例では、制御部14は、上記式[3]または上記式[6]に基づいて変速後のケイデンスCA、CBを算出する。制御部14は、ステップS23において、判定式が成立する閾値THを算出する。一例では、制御部14は、上記判定式[4]が成立する第2閾値TH2、または、上記判定式[7]が成立する第1閾値TH1を算出する。制御部14は、ステップS24において、変速条件を設定する。具体的には、制御部14は、ステップS21の処理の過程で設定される閾値TH1、TH2、および、ステップS23の処理で算出される閾値TH1、TH2を変速条件として設定する。
【0075】
制御部14は、ステップS25において、全ての変速条件を設定し終えたか否かを判定する。一例では、制御部14は、人力駆動車Aの変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方毎に、変速条件を設定し終えたか否かを判定する。制御部14は、全ての変速条件を設定し終えていないと判定した場合、ステップS21に処理を戻す。一方、制御部14は、ステップS25において、全ての変速条件を設定し終えたと判定した場合、ステップS21~ステップS25の処理を終了する。制御部14は、ステップS21~ステップS25の処理を含む第1条件設定制御を、人力駆動車Aに搭載される各種のコンポーネントの初期設定の段階で実行してもよく、人力駆動車Aの走行中に実行してもよい。第1条件設定制御が人力駆動車Aの走行中に実行される場合、ステップS21において、人力駆動車Aのケイデンスが第1閾値TH1に応じたケイデンスとなった際の実際の車速を推定車速VEとしてもよい。
【0076】
変速条件を規定する第2参照値RV2に推定ケイデンスCEが含まれる例では、変速装置20による変速が実行された場合において、推定ケイデンスCEが大きく変化することがある。これは、推定ケイデンスCEが車速に依存することが関係している。このため、自動変速制御において記憶部16に予め記憶された変速条件が用いられる場合、上記判定式[4]または上記判定式[7]が成立せず、変速装置20が安定して制御されないことが想定される。一方、上記変速システム10では、各種の情報に基づいて変速条件が適宜設定されるため、変速条件に応じて変速装置20を好適に制御できる。このため、人力駆動車Aの快適な走行に貢献できる。
【0077】
<第2実施形態>
図6を参照して、第2実施形態の変速システム10について説明する。第1実施形態と共通する構成については、第1実施形態と同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0078】
制御部14は、上記第1例および上記第2例の少なくとも一方に従って変速条件を設定する。記憶部16は、変速条件に関する情報が予め記憶される。本実施形態では、制御部14は、記憶部16に記憶される変速条件に関する情報を、新たに設定した変速条件に関する情報に更新する。
【0079】
図6を参照して、制御装置12が実行する第2条件設定制御の一例について説明する。
制御部14は、例えば上記第1例および上記第2例の少なくとも一方に従って変速条件を設定する第2条件設定制御を実行する。
【0080】
制御部14は、ステップS31において、変速装置20による変速が実行されたか否かを判定する。制御部14は、ステップS31において、変速装置20による変速が実行されていないと判定した場合、ステップS31の処理を繰り返す。一方、制御部14は、ステップS31において、変速装置20による変速が実行されたと判定した場合、ステップS32の処理に移行する。
【0081】
制御部14は、ステップS32において、判定式が成立するか否かを判定する。一例では、制御部14は、ステップS31において人力駆動車Aの変速比GRが大きくなるように変速装置20が制御された場合、上記判定式[4]が成立するか否かを判定する。一方、制御部14は、ステップS31において人力駆動車Aの変速比GRが小さくなるように変速装置20が制御された場合、上記判定式[7]が成立するか否かを判定する。制御部14は、ステップS32において、判定式が成立すると判定した場合、ステップS31に処理を戻す。一方、制御部14は、ステップS32において、判定式が成立しないと判定した場合、ステップS33の処理に移行する。
【0082】
制御部14は、ステップS33において、判定式が成立する閾値THを算出する。一例では、制御部14は、上記判定式[4]が成立する第2閾値TH2、または、上記判定式[7]が成立する第1閾値TH1を算出する。制御部14は、ステップS34において、変速条件を設定する。具体的には、制御部14は、記憶部16に記憶される変速条件に関する情報を、ステップS33の処理で算出される閾値TH1、TH2に更新する。以上の処理を経て、ステップS31~ステップS34の処理を終了する。制御部14は、例えば人力駆動車Aの走行中において、ステップS31~ステップS34の処理を含む第2条件設定制御を繰り返し実行する。
【0083】
<変形例>
上記各実施形態に関する説明は、本発明に従う制御装置および変速システムが取り得る形態の例示であり、その形態を制限することを意図していない。本発明に従う制御装置および変速システムは、例えば以下に示される上記各実施形態の変形例、および、相互に矛盾しない少なくとも2つの変形例が組み合わせられた形態を取り得る。以下の変形例において、各実施形態の形態と共通する部分については、各実施形態と同一の符号を付してその説明を省略する。
【0084】
・制御部14の制御内容は、任意に変更可能である。一例では、制御部14は、上記式[2]~[7]に用いられる変数Uおよび変数Dを同じ値とする場合、基準ケイデンスCSに基づいて第1閾値TH1および第2閾値TH2を設定する。具体的には、制御部14は、基準ケイデンスCSと第1閾値TH1との差の絶対値、および、基準ケイデンスCSと第2閾値TH2との差の絶対値を同じ値とする場合、基準ケイデンスCSに基づいて第1閾値TH1および第2閾値TH2を設定する。
【0085】
制御部14は、例えば次の第3設定方法および第4設定方法の少なくとも一方に従って変速条件を設定する。第3設定方法は、上記第1例および上記第2例に準ずる方法である。第3設定方法は、例えば第13手順~第14手順を含む。第13手順では、制御部14は、基準ケイデンスCSを設定する。第14手順では、制御部14は、基準ケイデンスCSに基づいて第1閾値TH1および第2閾値TH2を算出する。一例では、制御部14は、下記の判定式[8]が成立する閾値TH1、TH2を算出する。なお、判定式[8]は、上記式[2]~[4]に用いられる変数Uおよび変数Dを同一とし、上記式[2]~[4]を変形して得られる判定式である。
【0086】
【数8】
変数CSは、基準ケイデンスCSが代入される。変数TRは、チェーンD3が巻き掛けられているリアスプロケットD2の歯数TRが代入される。変数TRn+1は、人力駆動車Aの変速比GRが大きくなるように変速装置20が変速された後に、チェーンD3が巻き掛けられるリアスプロケットD2の歯数TRが代入される。一例では、制御部14は、上記判定式[8]が成立する変数U(D)を算出し、第1閾値TH1(CS+U)および第2閾値TH2(CS-D)を算出する。このように、制御部14は、第3設定方法に従って変速条件を設定する。
【0087】
第4設定方法は、上記第1例および上記第2例に準ずる方法である。第4設定方法は、例えば第15手順~第16手順を含む。第15手順では、制御部14は、基準ケイデンスCSを設定する。第15手順では、制御部14は、基準ケイデンスCSに基づいて第1閾値TH1および第2閾値TH2を算出する。一例では、制御部14は、下記の判定式[9]が成立する閾値TH1、TH2を算出する。なお、判定式[9]は、上記式[5]~[7]に用いられる変数Uおよび変数Dを同一とし、上記式[5]~[7]を変形して得られる判定式である。
【0088】
【数9】
変数CSは、基準ケイデンスCSが代入される。変数TRは、チェーンD3が巻き掛けられているリアスプロケットD2の歯数TRが代入される。変数TRn-1は、人力駆動車Aの変速比GRが小さくなるように変速装置20が変速された後に、チェーンD3が巻き掛けられるリアスプロケットD2の歯数TRが代入される。一例では、制御部14は、上記判定式[9]が成立する変数U(D)を算出し、第1閾値TH1(CS+U)および第2閾値TH2(CS-D)を算出する。このように、制御部14は、第4設定方法に従って変速条件を設定する。制御部14は、人力駆動車Aの変速比GRおよび第1参照値RV1の少なくとも一方毎に、第3設定方法および第4設定方法の少なくとも一方に従って変速条件を設定する。
【0089】
・第2参照値RV2の種類は、任意に変更可能である。第1変形例では、第2参照値RV2は、人力駆動車Aの走行環境に関する環境情報を含む。環境情報は、路面の状態に関する路面情報、空気抵抗に関する空気抵抗情報、天候に関する天候情報、および、気温に関する気温情報の少なくとも1つを含む。第2変形例では、第2参照値RV2は、走行情報および環境情報の少なくとも一方を含む。
【0090】
・人力駆動車Aの種類は、任意に変更可能である。第1変形例では、人力駆動車Aは、ロードバイク、マウンテンバイク、クロスバイク、シティサイクル、カーゴバイク、または、リカンベントである。第2変形例では、人力駆動車Aは、キックスケータである。
【符号の説明】
【0091】
10…変速システム、12…制御装置、14…制御部、16…記憶部、20…変速装置、A…人力駆動車、C…クランク、D1…フロントスプロケット、D2…リアスプロケット、D21…第1スプロケット、D22…第2スプロケット、GR…変速比、GR1…第1変速比、GR2…第2変速比、IR1…第1参照情報、IR2…第2参照情報、PV…所定値、RV1…第1参照値、RV2…第2参照値、TF…歯数、TH…閾値、TH1…第1閾値、TH2…第2閾値、TR…歯数。
図1
図2
図3
図4
図5
図6