(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】乾式不織布
(51)【国際特許分類】
D04H 1/413 20120101AFI20240827BHJP
D04H 1/58 20120101ALI20240827BHJP
D04H 1/425 20120101ALI20240827BHJP
A61F 13/511 20060101ALI20240827BHJP
A61F 13/514 20060101ALI20240827BHJP
A61F 13/15 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
D04H1/413
D04H1/58
D04H1/425
A61F13/511 300
A61F13/514 100
A61F13/15 141
(21)【出願番号】P 2019021279
(22)【出願日】2019-02-08
【審査請求日】2021-12-27
(31)【優先権主張番号】P 2018022270
(32)【優先日】2018-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100126985
【氏名又は名称】中村 充利
(74)【代理人】
【識別番号】100141265
【氏名又は名称】小笠原 有紀
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】蜷川 幸司
(72)【発明者】
【氏名】大石 正淳
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 絢香
(72)【発明者】
【氏名】永原 大
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-315492(JP,A)
【文献】特開2006-176894(JP,A)
【文献】特開2016-011474(JP,A)
【文献】国際公開第2014/168089(WO,A1)
【文献】特開2005-054313(JP,A)
【文献】特開2003-112378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
D06N 1/00- 7/06
A61F 13/15-13/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木材由来のセルロース繊維とハイドロタルサイトの複合体を含んでなる乾式不織布であって、該複合体の繊維表面の
25%以上がハイドロタルサイトによって被覆されており、木材由来のセルロース繊維とハイドロタルサイトの重量比が5/95~95/5であ
り、ハイドロタルサイトの平均一次粒子径が500nm未満である、上記不織布。
【請求項2】
バインダーおよび/または合成繊維を含んでなる、請求項1に記載の不織布。
【請求項3】
複合体におけるハイドロタルサイトの比率が20重量%以上である、請求項1または2に記載の不織布。
【請求項4】
前記セルロース繊維が木材由来のパルプである、請求項1~
3のいずれかに記載の不織布。
【請求項5】
前記ハイドロタルサイトが、マグネシウムまたは亜鉛を2価の金属イオンとして有する、請求項1~
4のいずれかに記載の不織布。
【請求項6】
前記ハイドロタルサイトが、アルミニウムを3価の金属イオンとして有する、請求項1~
5のいずれかに記載の不織布。
【請求項7】
不織布の坪量が5~120g/m
2である、請求項1~
6のいずれかに記載の不織布。
【請求項8】
衛生用品に用いるための、請求項1~
7のいずれかに記載の不織布。
【請求項9】
マスクまたはワイパーに用いるための、請求項1~
8のいずれかに記載の不織布。
【請求項10】
消臭用、抗菌用または抗ウイルス用に用いられる、請求項1~
9のいずれかに記載の不織布。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれかに記載の不織布を少なくとも含んでなる、多層構造を有する積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機粒子と繊維の複合体を含んでなる乾式不織布、および、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に不織布は、合成繊維を含む繊維を、織らずに積層してシート状に広げ、繊維間を適切な方法で適度に結合したもののである。不織布は、布のように紡糸して織ったり編むといった工程がないため、安価に大量に生産することができる。又、原材料や製法、他の素材との組み合わせによって、不織布の構造的な特徴である、多孔質による通気性、ろ過性等をはじめとする各種機能を、要求品質に応じて調整することが容易である。これらの特徴から、不織布はおむつ、生理用品、ワイパー、マスク等の衛生用品、気体又は液体のろ過用フィルター、屋根材(ルーフィング材)等の建材・土木用途、自動車内装資材、衣料など、など様々な分野で広く利用されている。
【0003】
上記した不織布の用途においては、不織布全般に求められる、引張強さ、引裂強さ等の力学特性に加え、消臭及び/又は抗菌機能が求められる場合が多い。例えば、おむつ等の衛生用品用途においては、いわゆる4大悪臭とされている、アンモニア、トリメチルアミン、硫化水素、メチルメルカプタン(し尿臭、便臭、腐敗臭等)をはじめとする悪臭成分を、効果的かつ継続的に抑制することが求められる。
【0004】
また、フィルター用途においては、フィルター全般に求められる、適度な通気性及び粒子捕集性の他、上記の消臭機能、及び、特に高湿度下で使用した場合におけるカビや菌糸の生育・発育を効果的かつ継続的に抑制することが求められる。
【0005】
これらの消臭・抗菌機能を付与するために、種々の方法が提案されている。特許文献1及び2には、ゼオライトの構成成分であるケイ素化合物又はアルミニウム化合物の一方の水溶液を、セルロース系繊維等の親水性高分子基材に含浸させ、塩基性物質と他方の水溶液を混合したものを更に含浸させて、セルロース系繊維の内部にゼオライトを担持させた無機多孔結晶-親水性高分子複合体が提案されている。さらに、このゼオライトに金属を担持することにより、抗菌効果や脱臭効果を付与することができることが開示されている。
【0006】
また、特許文献3には、ケイ素化合物及び塩基性物質含有水溶液と、アルミニウム化合物及び塩基性物質含有水溶液とを繊維構造物に含浸させた後、湿熱加熱してセルロース系繊維内部でケイ素化合物とアルミニウム化合物とを反応させてシリカ・アルミナ多孔体であるゼオライトを生成させるセルロース系繊維構造物が開示されている。さらに、このシリカ・アルミナ多孔体中に金属イオンを導入することにより、抗菌性、防かび性を付与することができることが開示されている。
【0007】
特許文献4には、銀ゼオライト、銀燐酸ジルコニウム、銀燐酸カルシウム、及び銀溶解性ガラスから選ばれる一種または二種以上の銀系抗菌剤を含有する抗菌性セルロース系繊維が開示されている。さらに、この抗菌性セルロース系繊維を用いた不織布が開示されている。
【0008】
また、特許文献5には、酸化パルプを含有する紙基材であって、酸化パルプのカルボキシル基の量が酸化パルプの絶乾重量に対して、1.0mmol/g~2.0mmol/gである紙基材が開示されており、この紙基材に対し、合成樹脂から製造された繊維を一定範囲で含有することも記載されている。
【0009】
一般に、ハイドロタルサイトは、一般式[M2+
1-xM3+
x(OH)2][An-
x/n・mH2O](式中、M2+は2価の金属イオンを、M3+は3価の金属イオンを表し、An-
x/nは層間陰イオンを表す。また0<x<1であり、nはAの価数、0≦m<1である)で表される化合物の一つであり、触媒や医薬品、樹脂用添加剤などとして利用されている物質である(特許文献6~8、非特許文献1~3)。
【0010】
ハイドロタルサイトは、タルクやスメクタイトと同様に層状の結晶構造を有する金属水酸化物であり、ハイドロタルサイトの各々の結晶片は葉片状あるいは鱗状であることが多い。ハイドロタルサイトとしては、ハイドロタルサイトのポリタイプであるマナセアイト(manasseite)、水酸化物シートに含まれる金属がマグネシウムと鉄であるパイロオライト(pyroaurite)やスグレナイト(sjgrenite)、さらには2価と3価の鉄を水酸化物シートに持つグリーンラスト(green rust)などが知られている。主骨格が複水酸化物なので、層状複水酸化物(LDH:Layered Double Hydroxide)などとも呼ばれる。ハイドロタルサイトは天然にも産出するが産出量が少ないため、主に合成品が用いられており、種々の合成方法が知られている。
【0011】
特許文献9では、ポリウレタン繊維などにハイドロタルサイトなどの金属水酸化物を担持させた消臭性布帛が提案されている。また、非特許文献4では、ハイドロタルサイト担持繊維を用いて排水からリンを除去することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平10-120923号公報
【文献】特開平11-315492号公報
【文献】特開2008-031591号公報
【文献】特開平11-107033号公報
【文献】国際公開2014/097929号
【文献】特開2015-193000号公報
【文献】特開2013-085568号公報
【文献】特開2009-143798号公報
【文献】特開2012-144829号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】「ハイドロタルサイトの水環境保全浄化への応用」、The Chemical Times、no. 1、2005
【文献】「Fe-Mg系およびAl-Mg系ハイドロタルサイト様化合物の合成と陰イオン交換特性」、J. Ion Exchange、vol. 16、no. 1、2005
【文献】「層状複水酸化物の界面活性剤吸着特性および乳化ゲル体の構造安定性」、東洋大学紀要、自然科学篇、第56号、43~52頁、2012
【文献】「ハイドロタルサイト担持繊維(HTCF)の実排水からのリン除去性能」、水環境学会誌、vol. 30、no. 11、pp 671-676、2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、ハイドロタルサイトなどの無機粒子と繊維の複合体から優れた不織布を乾式法で製造する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、上記課題について鋭意検討した結果、繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されている複合体(複合繊維)を用いることによって、強度などに優れた高品質の乾式不織布が得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち、本発明は、これに限定されるものでないが、以下の発明を包含する。
(1) 無機粒子と繊維との複合体を含んでなる乾式不織布であって、該複合体の繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されている上記不織布。
(2) 無機粒子と繊維との複合体およびバインダーを含んでなる、(1)に記載の不織布。
(3) 無機粒子と繊維との複合体および合成繊維を含んでなる、(1)または(2)に記載の不織布。
(4) 無機粒子の平均一次粒子径が1μm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の不織布。
(5) 複合体における繊維と無機粒子の重量比が5/95~95/5である、(1)~(4)のいずれかに記載の不織布。
(6) 複合体を構成する繊維がセルロース繊維である、(1)~(5)のいずれかに記載の不織布。
(7) 前記セルロース繊維が木材由来のパルプである、(1)~(6)のいずれかに記載の不織布。
(8) 無機粒子がハイドロタルサイトである、(1)~(7)のいずれかに記載の不織布。
(9) 前記ハイドロタルサイトが、マグネシウムまたは亜鉛を2価の金属イオンとして有する、(8)に記載の不織布。
(10) 前記ハイドロタルサイトが、アルミニウムを3価の金属イオンとして有する、(8)または(9)に記載の不織布。
(11) 衛生用品に用いるための、(1)~(10)のいずれかに記載の不織布。
(12) マスクまたはワイパーに用いるための、(1)~(11)のいずれかに記載の不織布。
(13) 消臭用、抗菌用または抗ウイルス用に用いられる、(1)~(12)のいずれかに記載の不織布。
(14) (1)~(13)のいずれかに記載の不織布を製造する方法であって、無機粒子と繊維との複合体を含む原料から乾式で不織布を形成する工程を含む、上記方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、無機粒子と繊維との複合体から優れた乾式不織布を得ることができる。無機粒子の種類を適宜選択することによって種々の特性を備えた乾式不織布を得ることができ、例えば、ハイドロタルサイトと繊維の複合体から得られる乾式不織布は優れた消臭効果などを有するため衛生用品などに好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、無機粒子と繊維の複合体(複合繊維)から乾式法で製造した不織布(乾式不織布)に関する。
本発明で使用する無機粒子と繊維との複合体は、無機粒子によってその表面が被覆された複合繊維である。特に本発明においては、繊維表面の15%以上が無機粒子によって被覆されている繊維・無機粒子複合体を使用する。
【0019】
本発明で使用する複合体は、単に繊維と無機粒子が混在しているのではなく、水素結合等によって繊維と無機粒子が結着しているので、離解処理などによっても無機粒子が脱落しにくいものである。
【0020】
乾式不織布
本発明の乾式不織布は、複合繊維を含む原料から乾式法により製造される。乾式不織布の製造においては、必要に応じて合成繊維、紙力剤やバインダー、充填材(填料)などをさらに添加してもよい。乾式法としては、ウェブ形成において、カード法(カーディング法)、エアレイ法、ウェブ接着において、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、スパンレース法、ニードルパンチ法、等が挙げられる。
【0021】
カード法は、複合体と熱可塑性合成繊維をカード機に装入して繊維の集積層(不織ウェブ)を形成し、これを熱可塑性繊維の溶融温度以上の温度で熱処理を施し、熱可塑性合成繊維の一部を溶融させて繊維同士を結合させるサーマルボンド法、または上記不織ウェブに水流交絡を施した後、熱処理を施す方法で製造することができる。なお、カード法によるウェブの製法としては、パラレルウェブ、クロスウェブ、ランダムウェブ、クリスクロスウェブ、セミランダムウェブ、等が挙げられる。
【0022】
エアレイ法は、解繊した原料繊維を空気の流れにのせて搬送してウェブを形成し、ウェブに対してバインダーを塗布し、前記繊維ウェブの繊維相互間をバインダーによって結合する乾燥加熱工程(乾燥工程)とからなる。エアレイ法としては、本州製紙法(キノクロス法)、カールクロイヤー法、スキャンウエブ法(ダンウェブ法)、J&J法、KC法、スコットペーパー法等がある。
【0023】
なお、本発明の乾式不織布をエアレイ法で製造する場合には、繊維同士を固着させるためにバインダーを使用してもよい。使用するバインダーは、必要に応じて適宜選択可能であり、たとえば、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸ソーダ等の水溶液タイプのバインダーや、ポリアクリル酸エステル、アクリル・スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アクリルニトリル・ブタジエン共重合体、メチルメタアクリレート・ブタジエン共重合体等の各エマルジョン、スチレン・ブタジエン共重合体ラテックス等のエマルジョンタイプのバインダー等が使用可能である。
【0024】
また、本発明の一態様に係る乾式不織布は、上述した方法で成形されたシートの片面又は両面に、表面凹凸を設けたものであってもよく、例えばエンボス加工等の処理を行うことができる。これにより液体を含浸させやすくなる。さらに凹凸により比表面積が大きくなるため、対象となる箇所への接触面積が大きくなる事から、消臭や抗菌などの各種機能がより発現しやすくなり得る。
【0025】
複合体を用いて乾式不織布を製造する際は、ポリマー等の各種有機物や顔料等の各種無機物、パルプ繊維等の各種繊維を付与しても良い。また、不織布に後からポリマー等の各種有機物や顔料等の各種無機物、パルプ繊維等の各種繊維を付与しても良い。
【0026】
各種繊維としては、例えば、セルロース系繊維を好適に使用することができ、針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)、未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹の未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹の晒サルファイトパルプ(NBSP)又は未晒サルファイトパルプ(NUSP)、広葉樹の晒サルファイトパルプ(LBSP)、広葉樹の未晒サルファイトパルプ(LUSP)等の化学パルプ、あるいは、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP等)等の機械パルプ 、脱墨パルプ(DIP)、コットンやケナフ等の非木材繊維パルプ、レーヨン等の再生繊維を挙げることができる。これらの繊維を1種類だけ配合することもできるし、2種類以上を組み合わせて配合することもできる。
【0027】
乾式不織布中に、不透明性、不燃性・難燃性を付与するために、填料を、乾式不織布の全質量に対して、例えば、30質量%以下の範囲で含有してもよい。その場合の填料としては、不透明性、不燃性・難燃性の観点から、焼成クレーを使用することが好ましい。また、他の填料としては、カオリン、焼成カオリン、デラミネーティッドカオリン、クレー、デラミネーティッドクレー、イライト、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム-シリカ複合物、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等の無機填料を挙げることができる。なお、壁紙の用途によっては、これらの填料を含めないこととする。
【0028】
乾式不織布には、通常の紙と同様にサイズ剤を使用することができる。その場合、サイズ剤は内添であってもよいし、外添であってもよい。使用するサイズ剤としては、ロジン系サイズ剤、ロジン系バインダー樹脂サイズ剤、アルファカルボキシルメチル飽和脂肪酸等、アルキルケテンダイマー、アルケニル無水コハク酸、カチオンポリマー系サイズ剤等を挙げることができる。その他にも、酸化デンプンおよび酵素変成デンプン等の各種変性デンプン、カルボキシルメチルセルロース、カゼイン等の水溶性バインダーや表面紙力剤、染料、顔料(クレー、カオリン、炭酸カルシウム、二酸化チタン等)等を適宜使用することができる。
【0029】
本発明の一態様に係る乾式不織布の坪量は、用途等に応じて適宜選択すればよいが、例えば、シートの強度等の観点から、坪量は5g/m2以上が好ましく、10g/m2以上がより好ましく、12g/m2以上としてもよい。また、取扱い性や運搬コスト等の観点から、120g/m2以下がより好ましく、100g/m2以下がさらに好ましく、80g/m2以下や60g/m2以下としてもよい。乾式不織布が多層構造である場合、各層の坪量が10g/m2以上であることが、均一かつ製造時の取り扱いにおいて最低限の強度を持つシートを製造する点から好ましい。なお、本発明における不織布の坪量(目付)は、0.05m2以上の面積の不織布を105℃で一定質量になるまで乾燥後、20℃、65%RHの恒温室に16時間以上放置してその質量を測定すればよい。また、乾式不織布の厚さは、20~5000μmとすることができ、30~250μmの範囲であることが好ましく、35~200μmや40~150μm、さらには45~100μmとしてもよい。乾式不織布が多層構造である場合、各層の厚さが20μm以上であることが、均一なシートを製造する点から好ましい。乾式不織布の密度については特に限定されない。
【0030】
さらに、各種性能を効果的に発現させるため、比表面積は3m2/g~200m2/gであることが好ましく、さらには10m2/g~180m2/gがより好ましい。同様の観点から、シート中の灰分は3重量%~80重量%が好ましく、さらには10重量%以上であることがより好ましい。
【0031】
乾式不織布の灰分は、複合体に含まれる無機粒子の量、及び複合体と複合化している無機粒子とは別に適宜追加する填料(以下、内添填料とも称する)の量により調節することができるが、好ましくは20~50重量%である。なお、前記の灰分は、JIS P-8251:2003に準じて測定した値である。
【0032】
乾式不織布に含まれている複合体の含有量は、乾式不織布の全重量に対して、10重量%以上、90重量%以下であることが好ましく、20重量%以上、80重量%以下であることがより好ましく、60重量%以下や40重量%以下としてもよい。乾式不織布に含まれている複合体の含有量が前記の範囲内であることにより、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0033】
本発明の乾式不織布は種々の用途に用いることができ、例えば、紙、繊維、セルロース系複合材料、フィルター材料、塗料、プラスチックやその他の樹脂、ゴム、エラストマー、セラミック、ガラス、タイヤ、建築材料(アスファルト、アスベスト、セメント、ボード、コンクリート、れんが、タイル、合板、繊維板など)、各種担体(触媒担体、医薬担体、農薬担体、微生物担体など)、吸着剤(不純物除去、消臭、除湿など)、しわ防止剤、粘土、研磨材、改質剤、補修材、断熱材、防湿材、撥水材、耐水材、遮光材、シーラント、シールド材、防虫剤、接着剤、インキ、化粧料、医用材料、ペースト材料、食品添加剤、錠剤賦形剤、分散剤、保形剤、保水剤、濾過助材、精油材、油処理剤、油改質剤、電波吸収材、絶縁材、遮音材、防振材、半導体封止材、放射線遮断材、化粧品、肥料、飼料、香料、塗料・接着剤・樹脂用添加剤、変色防止剤、導電材、伝熱材、衛生用品(使い捨ておむつ、生理用ナプキン、失禁者用パッド、母乳パッド)等のあらゆる用途に広く使用することができる。本発明に係る不織布の好適な用途としては、おむつ、生理用品、ワイパー、マスク等の衛生用品、気体または液体のろ過用フィルター、屋根材(ルーフィング材)等の建材・土木用途、自動車内装資材、衣料などが挙げられる。
【0034】
無機粒子と繊維との複合体(複合繊維)
本発明において、繊維と複合化する無機粒子は特に制限されないが、水に不溶性または難溶性の無機粒子であることが好ましい。無機粒子の合成を水系で行う場合があり、また、複合体を水系で使用することもあるため、無機粒子が水に不溶性または難溶性であると好ましい。
【0035】
ここで言う無機粒子とは、金属もしくは金属化合物のことを言う。また金属化合物とは、金属の陽イオン(例えば、Na+、Ca2+、Mg2+、Al3+、Ba2+など)と陰イオン(例えば、O2-、OH-、CO3
2-、PO4
3-、SO4
2-、NO3-、Si2O3
2-、SiO3
2-、Cl-、F-、S2-など)がイオン結合によって結合してできた、一般に無機塩と呼ばれるものを言う。これら無機粒子の合成法は気液法と液液法のいずれでも良い。気液法の一例としては炭酸ガス法があり、例えば水酸化マグネシウムと炭酸ガスを反応させることで、炭酸マグネシウムを合成することができる。液液法の例としては、酸(塩酸、硫酸など)と塩基(水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなど)を中和によって反応させたり、無機塩と酸もしくは塩基を反応させたり、無機塩同士を反応させたりする方法が挙げられる。例えば、水酸化バリウムと硫酸を反応させることで硫酸バリウムを得たり、硫酸アルミニウムと水酸化ナトリウムを反応させることで水酸化アルミニウムを得たり、炭酸カルシウムと硫酸アルミニウムを反応させることでカルシウムとアルミニウムが複合化した無機粒子を得ることができる。また、このようにして無機粒子を合成する際、反応液中に任意の金属や金属化合物を共存させることもでき、この場合はそれらの金属もしくは金属化合物が無機粒子中に効率よく取り込まれ、複合化できる。例えば、炭酸カルシウムにリン酸を添加してリン酸カルシウムを合成する際に、二酸化チタンを反応液中に共存させることで、リン酸カルシウムとチタンの複合粒子を得ることができる。
【0036】
本発明の複合体は、一つの好ましい態様において、繊維の存在下で無機粒子を合成することによって得ることができる。繊維表面が、無機粒子の析出における好適な場となるため、無機粒子と繊維との複合体を合成しやすいためである。
【0037】
一つの好ましい態様として、本発明の複合体における無機粒子の平均一次粒子径を、例えば、1μm未満とすることができるが、平均一次粒子径が500nm未満の無機粒子や平均一次粒子径が200nm未満の無機粒子、さらには100nm以下の無機粒子を用いることができる。また、無機粒子の平均一次粒子径は10nm以上とすることも可能である。
【0038】
また、本発明の複合体における無機粒子は、微細な一次粒子が凝集した二次粒子の形態を取ることもあり、熟成工程によって用途に応じた二次粒子を生成させることができるし、粉砕によって凝集塊を細かくすることもできる。粉砕の方法としては、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、石臼型ミル、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、叩解機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。
【0039】
複合体における繊維と無機粒子の結着の強さは、例えば、灰分歩留(%)、すなわち、(シートの灰分/離解前の複合体の灰分)×100といった数値によって評価することができる。具体的には、複合体を水に分散させて固形分濃度0.2%に調整してJIS P 8220-1:2012に規定される標準離解機で5分間離解後、JIS P 8222:1998に従って150メッシュのワイヤーを用いてシート化した際の灰分歩留を評価に用いることができる。好ましい態様において、本発明で用いる複合体の灰分歩留は20質量%以上であり、50質量%以上がより好ましい。
【0040】
(ハイドロタルサイトと繊維の複合体)
本発明の乾式不織布で使用する複合体の一例として、ハイドロタルサイト(HT)と繊維との複合体について以下に説明する。本複合体は高い消臭特性を有する。
【0041】
一般に、ハイドロタルサイトは、[M2+
1-xM3+
x(OH)2][An-
x/n・mH2O](式中、M2+は2価の金属イオンを、M3+は3価の金属イオンを表し、An-
x/nは層間陰イオンを表す。また0<x<1であり、nはAの価数、0≦m<1である)という一般式で示される。ここで、2価の金属イオンであるM2+は、例えば、Mg2+、Co2+、Ni2+、Zn2+、Fe2+、Ca2+、Ba2+、Cu2+、Mn2+など、3価の金属イオンであるM3+は、例えば、Al3+、Fe3+、Cr3+、Ga3+など、層間陰イオンであるAn-は、例えば、OH-、Cl-、CO3
-、SO4
-などのn価の陰イオンを挙げることができ、xは一般に0.2~0.33の範囲である。このうち、2価の金属イオンとしては、Mg2+、Zn2+、Fe2+、Mn2+が好ましい。結晶構造は、正の電荷をもつ正八面体のbrucite単位が並んだ二次元基本層と負の電荷を持つ中間層からなる積層構造をとっている。
【0042】
ハイドロタルサイトは、その陰イオン交換機能を生かした様々な用途への展開、例えば、イオン交換材、吸着剤、脱臭剤等の用途に使用されてきた。また、その他、構成する金属イオンの組み合わせを生かし、各構成金属イオンが良好な混合状態にあるハイドロタルサイトを加熱脱水し、または、さらに加熱焼成することにより、均一な組成の複合酸化物を容易に得られ、触媒用途等に使用する例なども見られる。
【0043】
本発明の複合体中に占めるハイドロタルサイトの比率は、10%以上とすることが可能であり、20%以上とすることもでき、好ましくは40%以上とすることもできる。ハイドロタルサイトと繊維との複合体の灰分は、JIS P 8251:2003に従って測定することができる。本発明において、ハイドロタルサイトと繊維との複合体の分灰分は10%以上とすることが可能であり、20%以上とすることもでき、好ましくは40%以上とすることができる。また、本発明のハイドロタルサイトと繊維との複合体は、灰分中、マグネシウム、鉄、マンガンまたは亜鉛を10%以上含むことが好ましく、40%以上含むことがより好ましい。灰分中のマグネシウムまたは亜鉛の含有量は、蛍光X線分析により定量することができる。
【0044】
本発明は、ハイドロタルサイトと繊維の複合体に関するが、好ましい態様において、繊維表面の15%以上がハイドロタルサイトによって被覆されている。好ましい態様において本発明の複合体は、ハイドロタルサイトによる繊維の被覆率(面積率)が25%以上であり、より好ましくは40%以上であるが、本発明によれば被覆率が60%以上や80%以上の複合体を製造することも可能である。また、本発明に係るハイドロタルサイトと繊維の複合体は、好ましい態様において、ハイドロタルサイトが繊維の外表面やルーメンの内側に定着するだけでなく、ミクロフィブリルの内側にも生成することが電子顕微鏡観察の結果から明らかとなっている。
【0045】
本発明によってハイドロタルサイトと繊維を複合体化しておくと、単にハイドロタルサイトを繊維と混合した場合と比較して、ハイドロタルサイトが製品に歩留り易いだけでなく、凝集せずに均一に分散した製品を得ることができる。すなわち、本発明によれば、ハイドロタルサイトと繊維の複合体の製品への歩留り(投入したハイドロタルサイトが製品中に残る重量割合)を65%以上とすることが可能であり、70%以上や85%以上とすることもできる。
【0046】
(複合体の合成)
本発明においては、繊維の存在下で溶液中においてハイドロタルサイトを合成することによって、ハイドロタルサイトと繊維の複合体を製造する。
【0047】
ハイドロタルサイトの合成方法は公知の方法によることができる。例えば、反応容器内に中間層を構成する炭酸イオンを含む炭酸塩水溶液とアルカリ溶液(水酸化ナトリウムなど)に繊維を浸漬し、次いで、酸溶液(基本層を構成する二価金属イオン及び三価金属イオンとを含む金属塩水溶液)を添加し、温度、pHなどを制御して共沈反応により、ハイドロタルサイトを合成する。また、反応容器内において、酸溶液(基本層を構成する二価金属イオン及び三価金属イオンを含む金属塩水溶液)に繊維を浸漬し、次いで、中間層を構成する炭酸イオンを含む炭酸塩水溶液とアルカリ溶液(水酸化ナトリウム等)を滴下し、温度、pH等を制御して共沈反応により、ハイドロタルサイトを合成することもできる。常圧での反応が一般的ではるが、それ以外にも、オートクレーブなどを使用しての水熱反応により得る方法もある(特開昭60-6619号公報)。
【0048】
本発明においては、基本層を構成する二価金属イオンの供給源として、マグネシウム、亜鉛、バリウム、カルシウム、鉄、銅、コバルト、ニッケル、マンガンの各種塩化物、硫化物、硝酸化物、硫酸化物を用いることができる。また、基本層を構成する三価金属イオンの供給源として、アルミニウム、鉄、クロム、ガリウムの各種塩化物、硫化物、硝酸化物、硫酸化物を用いることができる。
【0049】
本発明においては、懸濁液の調製などに水を使用するが、この水としては、通常の水道水、工業用水、地下水、井戸水などを用いることができる他、イオン交換水や蒸留水、超純水、工業廃水、製造工程中に得られる水を好適に用いることできる。
【0050】
本発明においては、層間陰イオンとして陰イオンとして炭酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、リン酸イオンなどを用いることができる。炭酸イオンを層間陰イオンとする場合、炭酸ナトリウムが供給源として使用される。ただし炭酸ナトリウムは、二酸化炭素(炭酸ガス)を含む気体で代替可能で、実質的に純粋な二酸化炭素ガスや、他のガスとの混合物であってもよい。例えば、製紙工場の焼却炉、石炭ボイラー、重油ボイラーなどから排出される排ガスを二酸化炭素含有気体として好適に用いることができる。その他にも、石灰焼成工程から発生する二酸化炭素を用いて炭酸化反応を行うこともできる。
【0051】
本発明の複合体を製造する際には、さらに公知の各種助剤を添加することができる。例えば、キレート剤を中和反応に添加することができ、具体的には、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸などのポリヒドロキシカルボン酸、シュウ酸などのジカルボン酸、グルコン酸などの糖酸、イミノ二酢酸、エチレンジアミン四酢酸などのアミノポリカルボン酸およびそれらのアルカリ金属塩、ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸などのポリリン酸のアルカリ金属塩、グルタミン酸、アスパラギン酸などのアミノ酸およびこれらのアルカリ金属塩、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸アリルなどのケトン類、ショ糖などの糖類、ソルビトールなどのポリオールが挙げられる。また、表面処理剤としてパルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸、オレイン酸、リノール酸等の不飽和脂肪酸、脂環族カルボン酸、アビエチン酸等の樹脂酸、それらの塩やエステルおよびエーテル、アルコール系活性剤、ソルビタン脂肪酸エステル類、アミド系やアミン系界面活性剤、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウム、長鎖アルキルアミノ酸、アミンオキサイド、アルキルアミン、第四級アンモニウム塩、アミノカルボン酸、ホスホン酸、多価カルボン酸、縮合リン酸などを添加することができる。また、必要に応じ分散剤を用いることもできる。この分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸ナトリウム、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、アクリル酸-マレイン酸共重合体アンモニウム塩、メタクリル酸-ナフトキシポリエチレングリコールアクリレート共重合体、メタクリル酸-ポリエチレングリコールモノメタクリレート共重合体アンモニウム塩、ポリエチレングリコールモノアクリレートなどがある。これらを単独または複数組み合わせて使用することができる。また、添加のタイミングは中和反応の前でも後でも良い。このような添加剤は、ハイドロタルサイトに対して、好ましくは0.001~20%、より好ましくは0.1~10%の量で添加することができる。
【0052】
(反応条件)
本発明において合成反応の温度は、例えば、30~100℃とすることができるが、40~80℃が好ましく、50~70℃がより好ましく、60℃程度とすると特に好ましい。温度が高すぎたり低すぎたりすると、反応効率が低下しコストが高くなる傾向がある。
【0053】
また、本発明において中和反応はバッチ反応とすることもでき、連続反応とすることもできる。一般に、中和反応後の残存物を排出する便利さから、バッチ反応工程を行うことが好ましい。反応のスケールは特に制限されないが、100L以下のスケールで反応させてもよいし、100L超のスケールで反応させてもよい。反応容器の大きさは、例えば、10L~100L程度とすることもできるし、100L~1000L程度としてもよい。
【0054】
さらに、中和反応は、反応懸濁液のpHをモニターすることにより制御することができ、反応液のpHプロファイルに応じて、例えばpH9未満、好ましくはpH8未満、より好ましくはpH7のあたりに到達するまで中和反応を行うことができる。
【0055】
さらにまた、合成反応は、反応時間によって制御することができ、具体的には、反応物が反応槽に滞留する時間を調整して制御することができる。その他、本発明においては、反応槽の反応液を攪拌する事や、中和反応を多段反応とすることによって反応を制御することもできる。
【0056】
本発明においては、反応生成物である複合体が懸濁液として得られるため、必要に応じて、貯蔵タンクへの貯蔵や、濃縮、脱水、粉砕、分級、熟成、分散などの処理を行うことができる。これらは公知の工程によることができ、用途やエネルギー効率などを考慮して適宜決定すればよい。例えば濃縮・脱水処理は、遠心脱水機、沈降濃縮機などを用いて行われる。この遠心脱水機の例としては、デカンター、スクリューデカンターなどが挙げられる。濾過機や脱水機を用いる場合についてもその種類に特に制限はなく、一般的なものを使用することができるが、例えば、フィルタープレス、ドラムフィルター、ベルトプレス、チューブプレス等の加圧型脱水機、オリバーフィルター等の真空ドラム脱水機などを好適に用いて炭酸カルシウムケーキとすることができる。粉砕の方法としては、ボールミル、サンドグラインダーミル、インパクトミル、高圧ホモジナイザー、低圧ホモジナイザー、ダイノーミル、超音波ミル、カンダグラインダ、アトライタ、石臼型ミル、振動ミル、カッターミル、ジェットミル、離解機、叩解機、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。分級の方法としては、メッシュ等の篩、アウトワード型もしくはインワード型のスリットもしくは丸穴スクリーン、振動スクリーン、重量異物クリーナー、軽量異物クリーナー、リバースクリーナー、篩分け試験機等が挙げられる。分散の方法としては、高速ディスパーザー、低速ニーダーなどが挙げられる。
【0057】
本発明によって得られた複合体は、完全に脱水せずに懸濁液の状態で填料や顔料に配合することもできるが、乾燥して粉体とすることもできる。この場合の乾燥機についても特に制限はないが、例えば、気流乾燥機、バンド乾燥機、噴霧乾燥機などを好適に使用することができる。
【0058】
本発明によって得られる複合体は、希塩酸や希硝酸などの弱酸で処理する事で、塩化物イオンや硝酸物イオンなどを層間イオンとしてインターカレーションする事が可能である。インターカレーションする化合物としては、アニオン性物質が挙げられるが、例えば、銅または銀のチオスルファト錯体、塩化銅、塩化銀、硝酸銅、硝酸銀等が挙げられる。インターカレーションする方法としては、公知の方法によることができるが、ハイドロタルサイトと繊維の複合体に、アニオン性物質を含む溶液を添加し、混合することができる。また、塩化銅、塩化銀、硝酸銅、硝酸銀等のカチオン性物質を含む溶液をハイドロタルサイトと繊維の複合体に添加し、複合体の表面を処理する事ができる。これらの方法によって、複合体に銅あるいは銀を付着させることが可能となり、抗菌特性、抗ウイルス特性を付与することが可能となる。
【0059】
また、本発明によって得られる複合体は、公知の方法によって改質することが可能である。例えば、ある態様においては、その表面を疎水化し、樹脂などとの混和性を高めたりすることが可能である。
【0060】
(複合体を構成する繊維)
本発明においては、ハイドロタルサイトと繊維とを複合体化する。複合体を構成する繊維は特に制限されないが、例えば、セルロースなどの天然繊維はもちろん、石油などの原料から人工的に合成される合成繊維、さらには、レーヨンやリヨセルなどの再生繊維(半合成繊維)、さらにはセラミックをはじめとする無機繊維などを制限なく使用することができる。天然繊維としては上記の他にウールや絹糸やコラーゲン繊維等の蛋白系繊維、キチン・キトサン繊維やアルギン酸繊維等の複合糖鎖系繊維等が挙げられる。
【0061】
セルロース系の原料としては、パルプ繊維(木材パルプや非木材パルプ)、バクテリアセルロースが例示され、木材パルプは、木材原料をパルプ化して製造すればよい。木材原料としては、アカマツ、クロマツ、トドマツ、エゾマツ、ベニマツ、カラマツ、モミ、ツガ、スギ、ヒノキ、カラマツ、シラベ、トウヒ、ヒバ、ダグラスファー、ヘムロック、ホワイトファー、スプルース、バルサムファー、シーダ、パイン、メルクシマツ、ラジアータパイン等の針葉樹、及びこれらの混合材、ブナ、カバ、ハンノキ、ナラ、タブ、シイ、シラカバ、ハコヤナギ、ポプラ、タモ、ドロヤナギ、ユーカリ、マングローブ、ラワン、アカシア等の広葉樹及びこれらの混合材が例示される。
【0062】
木材原料をパルプ化する方法は、特に限定されず、製紙業界で一般に用いられるパルプ化法が例示される。木材パルプはパルプ化法により分類でき、例えば、クラフト法、サルファイト法、ソーダ法、ポリサルファイド法等の方法により蒸解した化学パルプ;リファイナー、グラインダー等の機械力によってパルプ化して得られる機械パルプ;薬品による前処理の後、機械力によるパルプ化を行って得られるセミケミカルパルプ;古紙パルプ;脱墨パルプ等が挙げられる。木材パルプは、未晒(漂白前)の状態であってもよいし、晒(漂白後)の状態であってもよい。また、叩解したものであっても、未叩解のものでもよい。
【0063】
非木材由来の原料としては、綿、ヘンプ、サイザル麻、マニラ麻、亜麻、藁、竹、バガス、ケナフ、サトウキビ、トウモロコシ、稲わら、楮(こうぞ)、みつまた等が例示される。
【0064】
パルプ繊維は、未叩解及び叩解のいずれでもよく、複合体シートの物性に応じて選択すればよいが、叩解を行う方が好ましい。これにより、シート強度の向上並びに炭酸カルシウムの定着促進が期待できる。一方、未叩解のパルプは、一度複合体を含有する複合体シートを作成して不織布の原料とする場合において、複合体シートを抄造する際の歩留が向上したり、複合体シートを粉砕して不織布にする際にシート強度が弱くなるため破砕しやすくなり好ましい。
【0065】
合成繊維としてはポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、アクリル、ナイロン、アクリル、ビニロン、セラミックス繊維など、半合繊維としてはレーヨン、アセテートなどが挙げられ、無機繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、各種金属繊維などが挙げられる。
【0066】
また、これらセルロース原料はさらに処理を施すことで粉末セルロース、酸化セルロースなどの化学変性セルロース、およびセルロースナノファイバー:CNF(ミクロフィブリル化セルロース:MFC、TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、カルボキシメチル化CNF、機械粉砕CNFなど)として使用することもできる。本発明で用いる粉末セルロースとしては、例えば、精選パルプを酸加水分解した後に得られる未分解残渣を精製・乾燥し、粉砕・篩い分けするといった方法により製造される棒軸状である一定の粒径分布を有する結晶性セルロース粉末を用いてもよいし、KCフロック(日本製紙製)、セオラス(旭化成ケミカルズ製)、アビセル(FMC社製)などの市販品を用いてもよい。粉末セルロースにおけるセルロースの重合度は好ましくは100~1500程度であり、X線回折法による粉末セルロースの結晶化度は好ましくは70~90%であり、レーザー回折式粒度分布測定装置による体積平均粒子径は好ましくは1μm以上100μm以下である。本発明で用いる酸化セルロースは、例えばN-オキシル化合物、及び、臭化物、ヨウ化物若しくはこれらの混合物からなる群から選択される化合物の存在下で酸化剤を用いて水中で酸化することで得ることができる。セルロースナノファイバーとしては、上記セルロース原料を解繊する方法が用いられる。解繊方法としては、例えばセルロースや酸化セルロース等の化学変性セルロースの水懸濁液等を、リファイナー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、一軸または多軸混練機、ビーズミル等による機械的な磨砕、ないし叩解することにより解繊する方法を使用することができる。上記方法を1種または複数種類組み合わせてセルロースナノファイバーを製造してもよい。製造したセルロースナノファイバーの繊維径は電子顕微鏡観察などで確認することができ、例えば5nm~1000nm、好ましくは5nm~500nm、より好ましくは5nm~300nmの範囲にある。このセルロースナノファイバーを製造する際、セルロースを解繊及び/又は微細化する前及び/又は後に、任意の化合物をさらに添加してセルロースナノファイバーと反応させ、水酸基が修飾されたものにすることもできる。修飾する官能基としては、アセチル基、エステル基、エーテル基、ケトン基、ホルミル基、ベンゾイル基、アセタール、ヘミアセタール、オキシム、イソニトリル、アレン、チオール基、ウレア基、シアノ基、ニトロ基、アゾ基、アリール基、アラルキル基、アミノ基、アミド基、イミド基、アクリロイル基、メタクリロイル基、プロピオニル基、プロピオロイル基、ブチリル基、2-ブチリル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基、オクタノイル基、ノナノイル基、デカノイル基、ウンデカノイル基、ドデカノイル基、ミリストイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、ピバロイル基、ベンゾイル基、ナフトイル基、ニコチノイル基、イソニコチノイル基、フロイル基、シンナモイル基等のアシル基、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアノイル基等のイソシアネート基、メチル基、エチル基、プロピル基、2-プロピル基、ブチル基、2-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基等のアルキル基、オキシラン基、オキセタン基、オキシル基、チイラン基、チエタン基等が挙げられる。これらの置換基の中の水素が水酸基、カルボキシル基等の官能基で置換されても構わない。また、アルキル基の一部が不飽和結合になっていても構わない。これらの官能基を導入するために使用する化合物としては特に限定されず、例えば、リン酸由来の基を有する化合物、カルボン酸由来の基を有する化合物、硫酸由来の基を有する化合物、スルホン酸由来の基を有する化合物、アルキル基を有する化合物、アミン由来の基を有する化合物等が挙げられる。リン酸基を有する化合物としては特に限定されないが、リン酸、リン酸のリチウム塩であるリン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、ポリリン酸リチウムが挙げられる。更にリン酸のナトリウム塩であるリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウムが挙げられる。更にリン酸のカリウム塩であるリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、ポリリン酸カリウムが挙げられる。更にリン酸のアンモニウム塩であるリン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましく、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムがより好ましいが、特に限定されない。カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸などトリカルボン酸化合物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。上記カルボン酸由来の基を有する化合物のうち、工業的に適用しやすく、ガス化しやすいことから、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸が好ましいが、特に限定されない。また、化学的に結合させなくても、修飾する化合物がセルロースナノファイバーに物理的に吸着する形でセルロースナノファイバーを修飾してもよい。物理的に吸着する化合物としては界面活性剤等が挙げられ、アニオン性、カチオン性、ノニオン性いずれを用いてもよい。セルロースを解繊及び/又は粉砕する前に上記の修飾を行った場合、解繊及び/又は粉砕後にこれらの官能基を脱離させ、元の水酸基に戻すこともできる。以上のような修飾を施すことで、セルロースナノファイバーの解繊を促進したり、セルロースナノファイバーを使用する際に種々の物質と混合しやすくしたりすることがで
きる。
【0067】
以上に示した繊維は単独で用いても良いし、複数を混合しても良い。中でも、木材パルプを含むか、若しくは、木材パルプと非木材パルプ及び/又は合成繊維との組み合わせを含むことが好ましく、木材パルプのみであることがより好ましい。
【0068】
好ましい態様において、本発明の複合体を構成する繊維はパルプ繊維である。また、例えば、製紙工場の排水から回収された繊維状物質を本発明で用いてもよい。このような物質を反応槽に供給することにより、種々の複合粒子を合成することができ、また、形状的にも繊維状粒子などを合成することができる。
【0069】
合成繊維
本発明で使用する合成繊維としては、例えば、ポリエステル、ナイロンやアラミド等のポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、等が挙げられる。なお、ポリオレフィン繊維としては、例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等が挙げられ、ポリエチレンには、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン等が挙げられる。ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維等を挙げることができる。ポリアミド繊維としては、例えば、ナイロン繊維、アラミド繊維等を挙げることができる。本発明において用いる合成繊維は、複合体(複合繊維)との混合性や抄紙性(搾水性、地合)の観点からして、ポリエステル系、ポリプロピレン系、ポリエチレン系の合成繊維を用いることが好適である。特に、混合性を考慮する場合は、ポリエステル系の合成繊維を使用することが好ましい。
【0070】
また、合成繊維は、単一同心構造を有する主体性繊維であってよく、また、芯部と鞘部の融点が異なる芯鞘型繊維であってもよい。好ましい態様において合成繊維は、繊維分散性の観点から、繊度が0.5~4.5dtex、繊維長が3~30mm(好ましくは5~20mm、更に好ましくは5~15mm)のものであることが望ましい。この合成繊維の繊度と繊維長の測定は、JIS L 1015:2010に基づく。また、合成繊維の融点は、例えば、110~300℃の範囲であり、好ましくは110~280℃の範囲であり、後段における高温下でのエンボス加工等の高温処理および安定性を考慮すると、200~260℃の範囲であることがより好ましい。融点が110℃未満と低い場合には、乾式不織布を製造する際に、ドライヤーに合成繊維由来の汚れ(毛羽立ち)が発生しやすくなる。一方、融点が300℃を超える合成繊維を配合することは、技術的に意味がないだけでなく、不経済なことでもある。芯鞘型合成繊維を使用する場合は、鞘部の融点が上記範囲内のものを選択する。なお、合成繊維の融点の測定は、JIS K 7121:2012に基づく。
【0071】
乾式不織布に含まれている複合体の含有量は、乾式不織布の全重量に対して、10重量%以上、90重量%以下であることが好ましく、20重量%以上、80重量%以下であることがより好ましく、60重量%以下や40重量%以下としてもよい。乾式不織布に含まれている複合体の含有量が前記の範囲内であることにより、本発明の効果を十分に発揮することができる。
【0072】
なお、必要に応じてバインダーを使用してもよい。バインダーとしては熱融着性繊維、水系接着剤が挙げられる。熱融着性繊維としては、芯鞘型ポリエステル系複合繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、芯鞘型ポリオレフィン系複合繊維または親水性を有するパルプ状多分岐繊維が挙げられる。芯鞘型ポリエステル系複合繊維としては、鞘部(低融点成分)が変性ポリエステルで芯部(高融点成分)がポリエチレンテレフタレートから構成された複合繊維(芯鞘繊維)が挙げられる。芯鞘型ポリオレフィン系複合繊維としては、鞘部(低融点成分)がポリエチレンで芯部(高融点成分)がポリプロピレンから構成された複合繊維(芯鞘繊維)が挙げられる。また、親水性を有するパルプ状多分岐繊維とは、ポリオレフィン合成パルプとも称されるもので、例えば、三井化学株式会社からSWPの商品名で市販されているものを例として挙げることができる。水系接着剤としては、カゼイン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸ソーダ等の水溶性接着剤、ポリアクリル酸エステル、アクリル・スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、アクリルニトリル・ブタジエン共重合体、メチルメタアクリレート・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、等のエマルジョンの接着剤が使用可能である。
【0073】
なお、必要に応じて合成繊維以外にセルロース繊維、ウールや絹糸やコラーゲン繊維等の蛋白系繊維、キチン・キトサン繊維、あるいはアルギン酸繊、等の天然繊維を配合してもよい。好ましい天然繊維としてはセルロース繊維であり、例えば、化学パルプ、機械パルプ、セミケミカルパルプ、古紙パルプ、脱墨パルプ、粉末セルロース、酸化セルロースなどの化学変性セルロース、およびセルロースナノファイバー:CNF(ミクロフィブリル化セルロース:MFC、TEMPO酸化CNF、リン酸エステル化CNF、カルボキシメチル化CNF、機械粉砕CNFなど)、等が挙げられる。
【0074】
その他の材料
本発明の乾式不織布においては、複合体、合成繊維以外に、必要に応じて、他の材料を一種類以上含んでもよい。他の材料の種類としては、特に限定されないが、例えば、耐熱安定剤、耐候安定剤等の安定剤、充填剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス等が挙げられる。これらは一種を用いてもよく、二種以上を併用してもよい。これらの材料の合計含有量は、乾式不織布に対し10質量%を超えない範囲であることが好ましい。
【0075】
安定剤としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-4-メチル-フェノール(BHT)等の老化防止剤;テトラキス[メチレン-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アルキルエステル、2,2'-オキザミドビス[エチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、フェノール系酸化防止剤;ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸カルシウム、1,2-ヒドロキシステアリン酸カルシウムなどの脂肪酸金属塩;グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート等の多価アルコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0076】
充填剤としては、例えば、シリカ、ケイ藻土、アルミナ、酸化チタン、酸化マグネシウム、軽石粉、軽石バルーン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム、タルク、クレー、マイカ、アスベスト、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト、ペントナイト、グラファイト、アルミニウム粉、硫化モリブデン等が挙げられる。
【0077】
着色剤としては、例えば、酸化チタン、炭酸カルシウム等の無機系着色剤、フタロシアニン等の有機系着色剤などが挙げられる。
滑剤としては、例えば、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド等が挙げられる。
【実施例】
【0078】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。また、本明細書において特に記載しない限り、濃度や部などは重量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0079】
実験1:乾式不織布の製造
(1)ハイドロタルサイトと繊維の複合体の合成
ハイドロタルサイト(HT)を合成するための溶液を準備した。アルカリ溶液として、Na2CO3(和光純薬)およびNaOH(和光純薬)の混合水溶液(A溶液)を調製した。また、酸溶液として、ZnCl2(和光純薬)およびAlCl3(和光純薬)の混合水溶液(B溶液)を調製した。
・アルカリ溶液(A溶液、Na2CO3濃度:0.05M、NaOH濃度:0.8M)
・酸溶液(B溶液、ZnCl2濃度:0.3M、AlCl3濃度:0.1M)
原料の繊維として、セルロース繊維を使用した。具体的には、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP、日本製紙製)と針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、日本製紙製)を8:2の重量比で含み、シングルディスクリファイナー(SDR)を用いてカナダ標準濾水度を390mlに調整したパルプ繊維を用いた。
【0080】
アルカリ溶液にパルプ繊維を添加し、パルプ繊維を含む水性懸濁液を準備した(パルプ繊維濃度:1.56%、pH:約12.4)。この水性懸濁液(パルプ固形分30g)を10L容の反応容器に入れ、水性懸濁液を撹拌しながら、酸溶液(B溶液)を滴下してハイドロタルサイト微粒子と繊維との複合体を合成した。反応温度は50℃、滴下速度は15ml/minであり、反応液のpHが約7~8になった段階で滴下を停止した。滴下終了後、30分間、反応液を撹拌し、Zn系HT複合体(Zn6Al2(OH)16CO3・4H2Oとパルプ繊維の複合体)を得た。
【0081】
さらに、Zn系HT複合体を塩化銅溶液で処理し、銅を担持したZn系HT複合体を得た。具体的には、塩化銅を溶解して調製した酸溶液を、Zn系HT複合体のスラリー(濃度1.56%)に対し、固形分当たり銅が2.0%になるように添加し、3時間、50℃の条件で撹拌した。本処理後は、3倍量の水を用いて水洗して塩を除去した。
【0082】
(2)複合体の評価
JIS P 8222に基づいて、合成したZn系HT複合体からマットを製造した(坪量:約100g/m2)。具体的には、Zn系HT複合体の水性スラリー(約0.5%)をろ紙(JIS P3801、定量分析用、5種B)を用いてろ過し、得られたサンプルを1MPaで5分間圧力をかけて脱水した後、50℃で2時間緊張乾燥させて、約200cm2の大きさの複合体マットを製造した。
【0083】
電子顕微鏡(SEM)を用いて、得られたZn系HT複合体を観察したところ、繊維表面に多数のZn系HT微粒子が析出しており、微粒子によるパルプ繊維の被覆率(繊維表面のうち微粒子によって被覆されている部分の面積割合)は25%、微粒子の一次粒子径:200~500nm、平均一次粒子径:300nmであった。
【0084】
灰化処理によってZn系HT複合体を分析したところ、セルロース繊維と無機粒子の重量比は49.9:50.1(無機粒子の重量割合:50.1重量%)であり、原料(パルプ・水酸化カルシウム)の仕込み比から計算された理論値(50重量%)とほぼ一致した。なお、上記の重量比は、複合体を525℃で約2時間加熱した後、残った灰の重量と元の固形分との比率から算出した(JIS P 8251:2003)。ただし、525℃での灰化処理によって、ハイドロタルサイトの脱炭酸や層間水の離脱による重量減少が生じるため(約30%)、灰化処理後の実測重量から重量減少分を踏まえて灰分を算出した。また、Znの比率については、ハイドロタルサイトの組成に基づいて算出した。
【0085】
(3)乾式不織布の製造
(サンプル1:実施例)
上記Zn系HT複合体30質量部と芯鞘型複合繊維(繊維径:2デシテックス、繊維長:40mm、芯/鞘:ポリプロピレン/ポリエチレン)70質量部を混合してカード機に装入し、セミランダムウェブ法により繊維の集積層(不織ウェブ)を形成した。この不織ウェブを140℃で熱処理してサーマルボンド法で熱可塑性繊維の一部を溶融させ、乾式不織布を製造した。
【0086】
(サンプル2:実施例)
Zn系HT複合体20質量部と芯鞘型繊維80質量部を原料とした以外は、サンプル1と同様にして乾式不織布を製造した。
【0087】
(サンプル3:比較例)
Zn系HT複合体の代わりにパルプ繊維(複合繊維の合成に用いたクラフトパルプ、カナダ標準濾水度:390ml)を用いた以外は、サンプル1と同様にして乾式不織布を製造した。
(サンプル4:実施例)
上記Zn系HT複合体と未複合のパルプ(NBKP)を用いてそれぞれをハンマーミルで解繊し、エアレイ法により50質量部ずつを混合した不織ウェブを形成した。この不織ウェブ両面にバインダー(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩)を片面あたり1.0g/m2程度塗布し、乾式不織布を製造した。
(サンプル5:実施例)
カード機を用いてレーヨン繊維(繊度1.5デシテックス、繊維長:5mm)から坪量10g/m2の不織布ウェブ(第1層)を作製した後、当該ウェブ上に坪量20g/m2となるようにZn系HT複合体をエアレイ法で供給(第2層)し、さらに第1層と同様にして作製した不織布ウェブ(第3層)を積層した。得られた積層体を搬送速度20m/分で搬送しながら、両側からウォータージェット(処理水圧7MPa)による高圧水流処理を施すことで、構成繊維同士を交絡させた40g/m2の乾式不織布を得た。
(サンプル6:比較例)
Zn系HT複合体の代わりにパルプ繊維(複合繊維の合成に用いたクラフトパルプ、カナダ標準濾水度:390ml)を用いた以外は、サンプル4と同様にして乾式不織布を製造した。
(サンプル7:比較例)
Zn系HT複合体の代わりにパルプ繊維(複合繊維の合成に用いたクラフトパルプ、カナダ標準濾水度:390ml)を用いた以外は、サンプル5と同様にして乾式不織布を製造した。
【0088】
(4)乾式不織布の物性
得られた乾式不織布の物性について、下記の手順に基づいて評価した。
・坪量:JIS P 8124:1998
・厚さ:JIS P 8118:1998
・密度:厚さ、坪量の測定値より算出
・透気抵抗度:JIS P 8117:2009
【0089】
【0090】
実験2:乾式不織布の評価
(1)消臭特性の評価
実験1で製造した不織布について、その消臭特性を評価した。消臭試験に供したシートは全て1gとした。
【0091】
消臭試験は、SEKマーク繊維製品認証基準(JEC301、繊維評価技術協議会)の方法に基づいて実施し、アンモニア、酢酸、イソ吉草酸、硫化水素、メチルメルカプタン、インドール、に対する消臭特性を評価した。アンモニア、酢酸、硫化水素、メチルメルカプタンは検知管、イソ吉草酸とインドールはガスクロマトグラフィーを用いて定量した。
【0092】
20℃、65%RHで24時間以上、サンプルを調湿してから、臭気成分の消臭特性(減少率、%)を評価した。ここで、減少率(%)とは、臭気成分の初期濃度と測定時の濃度から下式によって求めることができる。
減少率(%) = (空試験の濃度-測定時の濃度/空試験の濃度)×100
(2)抗菌特性の評価
実験1で製造した不織布について、抗菌特性を評価した。抗菌性試験は、JIS L 1902に定める菌液吸収法(試験接種菌液を直接試験片上に接種する定量試験方法)にて実施した。試験菌種として黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus NBRC 12732)と大腸菌(Escherichia coil NBRC 3301)の2種類を使用し、18時間培養後の生菌数を混釈平版培養法にて測定した。基準として、標準綿布を用いた。試験手順を以下に示す。
1.試験片0.4gをバイアル瓶に入れ、試験菌液0.2ml(0.05%の界面活性剤(Tween80)を含む)を滴下後、バイアル瓶のふたをする。
2.バイアル瓶を37℃で18時間培養する。
3.洗い出し液20mlを加えて試験片から試験菌を洗い出し、洗い出し液中の生菌数を混釈平板培養法又は発光測定法により測定する。
4.下記の式に従い抗菌活性値を算出する。抗菌活性値が2.0以上とは、菌の死滅率が99%以上であることを意味する。
【0093】
抗菌活性値 = {log(対照試料・培養後生菌数) - log(対照試料・接種直後生菌数)} - {log(試験試料・培養後生菌数) - log(試験試料・接種直後生菌数)}
(3)抗ウイルス性の評価
実験1で製造した不織布について、抗ウイルス特性を評価した。抗ウイルス性試験は、JIS L 1922:2016 繊維製品の抗ウイルス性試験方法にて実施した。試験に供した複合体マットの重さは0.4g、対照試料には標準綿布を用いた。試験ウイルス種としてネコカリシウイルス(Feline calicivirus:Strain:F-9 ATCC VR-782)を使用した。試験手順を以下に示す。
1.試験片0.4gをバイアル瓶に入れ、試験ウイルス液0.2mlを滴下後、バイアル瓶のふたをする。
2.バイアル瓶を25℃で2時間静置する。
3.洗い出し液20mlを加えて試験片からウイルスを洗い出し、プラーク測定法により感染価を算出する。
4.次の式によって抗ウイルス活性値(Mv)を計算する。なお、JISでは抗ウイルス効果を、Mv≧2.0で効果が有り、Mv≧3.0で十分に効果があると定められている。
抗ウイルス活性値(Mv) = Log(Vb)-Log(Vc)
Mv:抗ウイルス活性値
Log(Vb):対照試料の2時間作用後の感染価常用対数(3検体の平均値)
Log(Vc):抗ウイルス試料の2時間作用後の感染価常用対数(3検体の平均値)
(4)評価結果
評価結果を下表に示すが、本発明に係る乾式不織布(サンプル1~2)は、臭気成分に対して高い消臭能を示した。また、本発明に係る乾式不織布は、優れた抗菌特性および抗ウイルス特性を示した。
【0094】