(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ビール様発泡性飲料用乳酸菌増殖抑制剤
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20240827BHJP
C12C 5/02 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C12G3/04
C12C5/02
(21)【出願番号】P 2019214378
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(72)【発明者】
【氏名】梅ヶ谷 南
(72)【発明者】
【氏名】北澤 舞花
(72)【発明者】
【氏名】奥村 健一
(72)【発明者】
【氏名】竹末 信親
(72)【発明者】
【氏名】野場 静
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/156244(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0064321(US,A1)
【文献】特開2016-082898(JP,A)
【文献】特開2017-112965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G、C12C、A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸残基の炭素数が8~18である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを有効成分とすることを特徴とする、ビール様発泡性飲料用乳酸菌増殖抑制剤。
【請求項2】
前記脂肪酸残基の炭素数が10~18である、請求項1に記載のビール様発泡性飲料用乳酸菌増殖抑制剤。
【請求項3】
前記脂肪酸残基が、カプリル酸残基、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、及びステアリン酸残基からなる群より選択される1種以上である、請求項1に記載のビール様発泡性飲料用乳酸菌増殖抑制剤。
【請求項4】
発酵ビール様発泡性飲料
の製造方法であって、
脂肪酸残基の炭素数が8~18である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを原料とし、ホップを原料とせず、
前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを、仕込工程から発酵工程開始前までのいずれかの時点に添加する、
製造された
発酵ビール様発泡性飲料の前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.01%(w/v)以上であることを特徴とする、
発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビール様発泡性飲料における乳酸菌の増殖を抑制する抗菌剤、並びに当該抗菌剤を使用したビール様発泡性飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールは、微生物が生育しにくい飲料であることが知られている。これは、ビールのpHが低いこと、溶存酸素が少ないこと、アルコールを含有することなどに加え、ホップの使用によるところがある。ホップは、ビールに特有の苦味や香りを付与するほか、その苦味成分が抗菌活性を示し、ビールを変敗させる乳酸菌の増殖を抑える機能がある。
【0003】
消費者嗜好の多様化から、ビール様発泡性飲料に用いられる素材や製造方法も多様になってきており、ホップを使用しないビール様発泡性飲料の開発も検討されている。ただし、ホップを使用しないビール様飲料では、ホップを使用するビール様飲料に比べて、微生物リスクが増大する恐れがある。なお、ホップを使用する場合においても、ホップ耐性のある乳酸菌が増殖してしまう可能性がある。
【0004】
微生物リスクを低減させる方法としては、環境管理のほか、加熱殺菌を行うことが考えられる。ただし、発酵貯酒中にビール有害菌が増殖した場合は、不快臭の発生や粘質化等の品質劣化が生じ、後工程での加熱殺菌では対応できない場合がある。また、加熱殺菌を行うと、ビール様発泡性飲料に好ましくない香味が生じる恐れがある。例えば、特許文献1には、原材料にホップを用いないビールテイスト飲料では、ホップの抗菌作用を利用できないため、微生物の殺菌が必要となる場合があり、例えば加熱工程が行われること、原材料にホップを用いないビールテイスト飲料において、リナロール、2,5-ジメチル-4-ヒドロキシ-3(2H)-フラノンおよび2-アセチルピラジンからなる群から選ばれる1以上を含有させることで、加熱工程による不快な香りがマスキングされることが記載されている。
【0005】
一方で、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、食品用乳化剤として一般的に使用されている。特に飲料に対しては、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、起泡剤として(特許文献2及び3)や、炭酸ガス抜けの抑制のため(特許文献4,5)に使用される場合がある。その他、低級脂肪酸モノグリセリドは、乳酸飲料中の野生酵母やグラム陽性菌、カビに対して、抗菌作用を有することも知られている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-023295号公報
【文献】特開2011-135803号公報
【文献】特開2018-23298号公報
【文献】特開2017-112965号公報
【文献】特開2017-118861号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】古賀 友英ら、「低級脂肪酸モノグリセリドの抗菌性について (第2報)乳酸飲料中の野性酵母 Asp. oryzae, B. subtilisに対する抗菌性」、日本食品工業学会誌、第15巻、第7号、1968年7月発行、第310~315ページ。
【文献】Watts and Dils, JOURNAL OF LIPID RESEARCH, 1969, vol.10, p.33-40.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
環境管理や加熱殺菌処理以外に微生物リスクを低減させる方法としては、当該微生物に対する抗菌剤を、飲料や製造工程の途中製品中に添加する方法が考えられる。しかし、酵母による発酵工程を経て製造されるビール様飲料において、単に、抗菌素材を添加しただけでは、ビールの有害菌である乳酸菌だけではなく、発酵に必要な酵母の増殖も抑制してしまう。この場合、発酵不良による弊害が生じる。
【0009】
本発明は、ビール様発泡性飲料において、飲料の品質に対する影響を抑えつつ、ビール有害菌である乳酸菌の増殖を抑制することができる乳酸菌増殖抑制剤、並びに当該抗菌剤を使用したビール様発泡性飲料及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、脂肪酸残基の炭素数が8~18である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルが、ビール様発泡性飲料における乳酸菌の増殖に対する抑制作用は強いが、ビール酵母の増殖に対する阻害作用は弱いことを見出し、本発明を完成させた。
【0011】
本発明に係る乳酸菌増殖抑制剤、及び発酵ビール様発泡性飲料の製造方法は、下記[1]~[4]である。
[1] 脂肪酸残基の炭素数が8~18である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを有効成分とすることを特徴とする、ビール様発泡性飲料用乳酸菌増殖抑制剤。
[2] 前記脂肪酸残基の炭素数が10~18である、前記[1]のビール様発泡性飲料用乳酸菌増殖抑制剤。
[3] 前記脂肪酸残基が、カプリル酸残基、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、及びステアリン酸残基からなる群より選択される1種以上である、前記[1]のビール様発泡性飲料用乳酸菌増殖抑制剤。
[4] 発酵ビール様発泡性飲料の製造方法であって、
脂肪酸残基の炭素数が8~18である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを原料とし、ホップを原料とせず、
前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを、仕込工程から発酵工程開始前までのいずれかの時点に添加する、
製造された発酵ビール様発泡性飲料の前記(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.01%(w/v)以上であることを特徴とする、発酵ビール様発泡性飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るビール様発泡性飲料用乳酸菌増殖抑制剤は、乳酸菌の増殖に対する抑制効果は高いが、ビール酵母の増殖に対する阻害作用は比較的弱い。このため、当該乳酸菌増殖抑制剤を用いることにより、非発酵ビール様発泡性飲料のみならず、発酵ビール様発泡性飲料であっても、発酵不良等による品質劣化を抑えつつ、微生物リスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1において、S. pastorianus(A)又はL. brevis(B)を播種したモノグリセリンモノカプリン酸エステル含有無ホップ麦汁の培養液の600nmの吸光度を経時的に測定した結果を示したグラフである。
【
図2】実施例1において、S. pastorianus(A)又はL. brevis(B)を播種したモノグリセリンモノラウリン酸エステル含有無ホップ麦汁の培養液の600nmの吸光度を経時的に測定した結果を示したグラフである。
【
図3】実施例1において、S. pastorianus(A)又はL. brevis(B)を播種したモノグリセリントリラウリン酸エステル含有無ホップ麦汁の培養液の600nmの吸光度を経時的に測定した結果を示したグラフである。
【
図4】実施例1において、S. pastorianus(A)又はL. brevis(B)を播種したモノグリセリンモノパルミチン酸エステル含有無ホップ麦汁の培養液の600nmの吸光度を経時的に測定した結果を示したグラフである。
【
図5】実施例1において、S. pastorianus(A)又はL. brevis(B)を播種したモノグリセリントリパルミチン酸エステル含有無ホップ麦汁の培養液の600nmの吸光度を経時的に測定した結果を示したグラフである。
【
図6】実施例1において、S. pastorianus(A)又はL. brevis(B)を播種したモノグリセリンモノステアリン酸エステル含有無ホップ麦汁の培養液の600nmの吸光度を経時的に測定した結果を示したグラフである。
【
図7】実施例1において、S. pastorianus(A)又はL. brevis(B)を播種したモノグリセリントリステアリン酸エステル含有無ホップ麦汁の培養液の600nmの吸光度を経時的に測定した結果を示したグラフである。
【
図8】実施例1において、S. pastorianus(A)又はL. brevis(B)を播種したジグリセリンモノミリスチン酸エステル含有無ホップ麦汁の培養液の600nmの吸光度を経時的に測定した結果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明及び本願明細書においては、「ビール様発泡性飲料」とは、ビールらしさを有する、炭酸ガスを含有する飲料を意味する。また、「ビールらしさ」とは、製品名称・表示にかかわらず、香味上ビールを想起させる呈味のことを意味する。つまり、ビール様発泡性飲料とは、発泡性飲料のうち、アルコール含有量、麦芽及びホップの使用の有無、発酵の有無に関わらず、ビールと同等の又はそれと似た風味・味覚及びテクスチャーを有し、高い止渇感・ドリンカビリティーを有する飲料を意味する。
【0015】
本発明に係るビール様発泡性飲料は、アルコール飲料であってもよく、アルコール含量が1容量%未満であるいわゆるノンアルコール飲料又はローアルコール飲料であってもよい。また、麦芽を原料とする飲料であってもよく、麦芽を原料としない飲料であってもよく、発酵工程を経て製造される飲料であってもよく、発酵工程を経ずに製造される飲料であってもよい。具体的には、ビール、麦芽を原料とする発泡酒、麦芽を使用しない発泡性アルコール飲料、ローアルコール発泡性飲料、ノンアルコールビール等が挙げられる。その他、麦芽を原料とし、発酵工程を経て製造された飲料を、アルコール含有蒸留液と混和して得られたリキュール類又はスピリッツであってもよい。アルコール含有蒸留液とは、蒸留操作により得られたアルコールを含有する溶液であり、例えば、原料用アルコールであってもよく、スピリッツ、ウィスキー、ブランデー、ウオッカ、ラム、テキーラ、ジン、焼酎等の蒸留酒等を用いることができる。
【0016】
本発明に係るビール様発泡性飲料用乳酸菌増殖抑制剤(以下、「本発明に係る乳酸菌増殖抑制剤」ということがある。)は、脂肪酸残基の炭素数が8~18である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル(以下、「C8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル」ということがある。)を有効成分とすることを特徴とする。ここで、脂肪酸残基は、脂肪酸から水酸基を除いた残りの基を意味する。
【0017】
C8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、乳酸菌に対して高い増殖抑制活性を持つ。このため、C8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、乳酸菌が主な有害菌であるビール様発泡性飲料に使用される抗菌剤として非常に有用である。また、C8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、乳酸菌と酵母のいずれにも増殖抑制活性を示すが、乳酸菌に対する増殖抑制活性の方が強い。このため、発酵ビール様発泡性飲料であっても、C8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを、乳酸菌に対して十分な抗菌作用を示すが、酵母に対しては増殖抑制作用を有さない又は当該作用が弱い濃度で含有させることにより、発酵不良及びこれによる品質低下を抑制しつつ、乳酸菌増殖による汚染を抑制できる。
【0018】
本発明において用いられるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの重合度は特に限定されるものではない。重合度1であるモノグリセリドであってもよく、重合度が2以上であるポリグリセリンの一部の水酸基がエステル化したものであってもよい。本発明において用いられるC8-18(ポリ)ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、重合度が1~15の(ポリ)グリセリンの一部の水酸基が、炭素数が8~18である脂肪酸残基(以下、「C8-18脂肪酸残基」ということがある。)でエステル化したものが好ましく、重合度が1~10の(ポリ)グリセリンの一部の水酸基がC8-18脂肪酸残基でエステル化したものがより好ましい。
【0019】
本発明において用いられるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、(ポリ)グリセリンの水酸基の少なくとも一部が、C8-18脂肪酸残基でエステル化されているものであればよく、エステル化度は特に限定されるものではない。例えば、エステル化度が1((ポリ)グリセリンの水酸基のうち、1個の水酸基のみが脂肪酸残基でエステル化された)(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルであってもよく、エステル化度が2((ポリ)グリセリンの水酸基のうち、2個の水酸基のみが脂肪酸残基でエステル化された)(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルであってもよく、全ての水酸基が脂肪酸残基でエステル化された(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルであってもよい。本発明において用いられるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの平均エステル化度は、1~3が好ましい。
【0020】
本発明において用いられるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル中の脂肪酸残基は、飽和脂肪酸残基であってもよく、不飽和脂肪酸残基であってもよい。また、炭化水素基部分が、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。本発明において用いられるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとしては、含まれている脂肪酸残基が、全て、炭素数8~18の飽和脂肪酸残基であるものが好ましく、炭素数8~18の直鎖状飽和脂肪酸残基であるものがより好ましく、カプリル酸残基、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、及びステアリン酸残基からなる群より選択される1種以上であるものがさらに好ましい。中でも、乳酸菌に対する抗菌性が、酵母に対する抗菌性よりもより顕著に強く、酵母による発酵への影響を十分に抑えつつ、乳酸菌等のバクテリアの増殖を抑制できることから、含まれている脂肪酸残基が全て炭素数10~18の脂肪酸残基であるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルが好ましく、含まれている脂肪酸残基が全て炭素数10~18の直鎖状飽和脂肪酸残基であるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルがより好ましく、ラウリン酸残基、ミリスチン酸残基、パルミチン酸残基、及びステアリン酸残基からなる群より選択される1種以上であるものがさらに好ましい。
【0021】
本発明において用いられるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル中に脂肪酸残基が2個以上ある場合、全て同種の脂肪酸残基であってもよく、2種以上の脂肪酸残基の組合せであってもよい。また、本発明において用いられるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、全ての脂肪酸残基の炭素数が8~18であることが好ましい。
【0022】
本発明において用いられるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、グリセリン、又はポリグリセリンを、炭素数8~18の1価脂肪酸とエステル反応させることにより製造できる。エステル反応は、脂肪酸とアルコールの一般的なエステル反応により行うことができる。本発明において用いられるC8-18グリセリン脂肪酸エステルとしては、グリセリンの1個の水酸基がカプリン酸(10:0)とエステル化されたモノグリセリンモノカプリン酸エステル(CAS No.:26402-26-6)、グリセリンの1個の水酸基がラウリン酸(12:0)とエステル化されたモノグリセリンモノラウリン酸エステル(CAS No.:142-18-7)、グリセリンの3個の水酸基がラウリン酸(12:0)とエステル化されたモノグリセリントリラウリン酸エステル(CAS No.:142-18-7)、グリセリンの1個の水酸基がミリスチン酸(14:0)とエステル化されたモノグリセリンモノミリスチン酸エステル、グリセリンの1個の水酸基がパルミチン酸(16:0)とエステル化されたモノグリセリンモノパルミチン酸エステル(CAS No.:542-44-9)、グリセリンの3個の水酸基がパルミチン酸(16:0)とエステル化されたモノグリセリントリパルミチン酸エステル(CAS No.:555-44-2)、グリセリンの1個の水酸基がステアリン酸(18:0)とエステル化されたモノグリセリンモノステアリン酸エステル(CAS No.:31566-31-1)、グリセリンの3個の水酸基がステアリン酸(18:0)とエステル化されたモノグリセリントリステアリン酸エステル(CAS No.:555-43-1)等が挙げられる。本発明において用いられるC8-18ポリグリセリン脂肪酸エステルとしては、ジグリセリンの1個の水酸基がラウリン酸とエステル化されたジグリセリンモノラウリン酸エステル、ジグリセリンの1個の水酸基がミリスチン酸とエステル化されたジグリセリンモノミリスチン酸エステル、ジグリセリンの1個の水酸基がステアリン酸とエステル化されたジグリセリンモノステアリン酸エステル、デカグリセリンの一部の水酸基がラウリン酸とエステル化されたデカグリセリンラウリン酸エステル等が挙げられる。
【0023】
本発明において用いられるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、1種類であってもよく、グリセリンの重合度、脂肪酸残基の組成、及びエステル化度が互いに異なる2種類以上のC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの混合物であってもよい。また、本発明において用いられるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとしては、市販のものを用いることもできる。市販されているC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとしては、C8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの精製品であってもよく、C8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル以外の成分を含有する飲食品用の添加剤であってもよい。
【0024】
本発明に係る乳酸菌増殖抑制剤をビール様発泡性飲料へ添加することにより、当該ビール様発泡性飲料の飲料中における乳酸菌の増殖を抑制することができる。乳酸菌はビール様発泡性飲料における主たる有害菌であり、乳酸菌の増殖を充分に抑制できれば、微生物リスクはかなり低減できる。当該乳酸菌増殖抑制剤のビール様発泡性飲料への添加量は、飲料中における乳酸菌の増殖を抑制する効果(乳酸菌抑制効果)を得るために十分な量であればよい。例えば、当該乳酸菌増殖抑制剤は、飲料中のC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの含有量を、飲料全量に対して、好ましくは0.0001%(w/v)以上、より好ましくは0.001~0.5%(w/v)、さらに好ましくは0.001~0.2%(w/v)、よりさらに好ましくは0.005~0.15%(w/v)とすることで、発酵不良による品質劣化を抑制しつつ、充分な乳酸菌抑制効果を得ることができる。
【0025】
ビール様発泡性飲料等におけるC8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの含有量は、ガスクロマトグラフィー(GC)法や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)法等のような、飲料中の特定の(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを定量する際に使用される一般的な方法によって測定することができる。GC法を利用した(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの測定は、例えば、まず、供試サンプルにテトラヒドロフラン又はクロロホルムを添加して、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを抽出する。抽出された(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを、ビス(トリメチルシリル)アセトアミド等のTMS試薬と反応させることでTMS化する。TMS化溶液をGCで分析することによって、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを定量することができる(非特許文献2参照。)。
【0026】
本発明に係る乳酸菌増殖抑制剤による乳酸菌抑制効果は高く、このため、本発明に係る乳酸菌増殖抑制剤は、特に、ホップを原料としないビール様発泡性飲料、すなわち、ホップに由来する抗菌成分を含まないビール様発泡性飲料に、好適に使用できる。当該乳酸菌増殖抑制剤を添加することで、ホップを原料としないビール様発泡性飲料でも微生物リスクを充分に低減させることができる。
【0027】
本発明に係るビール様発泡性飲料は、C8-18(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを含有させる以外は、一般的な発酵ビール様発泡性飲料や非発酵ビール様発泡性飲料と同様にして製造できる。そこで、一般的な発酵ビール様発泡性飲料と非発酵ビール様発泡性飲料の製造方法を説明する。
【0028】
発酵工程を経て製造される発酵ビール様発泡性飲料は、一般的には、仕込(発酵原料液調製)、発酵、貯酒、濾過の工程で製造することができる。
【0029】
仕込工程(発酵原料液調製工程)として、穀物原料及び糖質原料からなる群より選択される1種以上から発酵原料液を調製する。具体的には、発酵原料と原料水とを含む混合物を加温し、澱粉質を糖化して糖液を調製した後、得られた糖液を煮沸し、その後固体分の少なくとも一部を除去して発酵原料液を調製する。
【0030】
まず、穀物原料と糖質原料の少なくともいずれかと原料水とを含む混合物を調製して加温し、穀物原料等の澱粉質を糖化させて糖液を調製する。糖液の原料としては、穀物原料のみを用いてもよく、糖質原料のみを用いてもよく、両者を混合して用いてもよい。穀物原料としては、例えば、大麦や小麦、これらの麦芽等の麦類、米、トウモロコシ、大豆等の豆類、イモ類等が挙げられる。穀物原料は、穀物シロップ、穀物エキス等として用いることもできるが、粉砕処理して得られる穀物粉砕物として用いることが好ましい。穀物類の粉砕処理は、常法により行うことができる。穀物粉砕物としては、麦芽粉砕物、コーンスターチ、コーングリッツ等のように、粉砕処理の前後において通常なされる処理を施したものであってもよい。本発明においては、用いられる穀物粉砕物は、麦芽粉砕物であることが好ましい。麦芽粉砕物を用いることにより、ビールらしさがよりはっきりとした発酵ビール様発泡性飲料を製造することができる。麦芽粉砕物は、大麦、例えば二条大麦を、常法により発芽させ、これを乾燥後、所定の粒度に粉砕したものであればよい。また、本発明において用いられる穀物原料としては、1種類の穀物原料であってもよく、複数種類の穀物原料を混合したものであってもよい。例えば、主原料として麦芽粉砕物を、副原料として米やトウモロコシの粉砕物を用いてもよい。糖質原料としては、例えば、液糖等の糖類が挙げられる。
【0031】
当該混合物には、穀物原料等と水以外の副原料を加えてもよい。当該副原料としては、例えば、ホップ、食物繊維、酵母エキス、果汁、苦味料、着色料、香草、香料等が挙げられる。また、必要に応じて、α-アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルラナーゼ等の糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤を添加することができる。
【0032】
糖化処理は、穀物原料等由来の酵素や、別途添加した酵素を利用して行う。糖化処理時の温度や時間は、用いた穀物原料等の種類、発酵原料全体に占める穀物原料の割合、添加した酵素の種類や混合物の量、目的とする発酵ビール様発泡性飲料の品質等を考慮して、適宜調整される。例えば、糖化処理は、穀物原料等を含む混合物を35~70℃で20~90分間保持する等、常法により行うことができる。
【0033】
糖化処理後に得られた糖液を煮沸することにより、煮汁(糖液の煮沸物)を調製することができる。糖液は、煮沸処理前に濾過し、得られた濾液を煮沸処理することが好ましい。また、この糖液の濾液に替わりに、麦芽エキスに温水を加えたものを用い、これを煮沸してもよい。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。
【0034】
煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵ビール様発泡性飲料を製造することができる。例えば、ホップを煮沸処理前又は煮沸処理中に添加し、ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味・香気成分、特に苦味成分を効率よく煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)及び煮沸条件は、適宜決定することができる。
【0035】
煮沸処理後に得られた煮汁には、沈殿により生じたタンパク質等の粕が含まれている。そこで、煮汁から粕等の固体分の少なくとも一部を除去する。粕の除去は、いずれの固液分離処理で行ってもよいが、一般的には、ワールプールと呼ばれる槽を用いて沈殿物を除去する。この際の煮汁の温度は、15℃以上であればよく、一般的には50~100℃程度で行われる。粕を除去した後の煮汁(濾液)は、プレートクーラー等により適切な発酵温度まで冷却する。この粕を除去した後の煮汁が、発酵原料液となる。
【0036】
次いで、発酵工程として、冷却した発酵原料液に酵母を接種して、発酵を行う。冷却した発酵原料液は、そのまま発酵工程に供してもよく、所望のエキス濃度に調整した後に発酵工程に供してもよい。発酵に用いる酵母は特に限定されるものではなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易であることから、下面発酵酵母であることが好ましい。
【0037】
さらに、貯酒(後発酵)工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵し安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより、酵母及び当該温度域で不溶なタンパク質等を除去して、目的の発酵ビール様発泡性飲料を得ることができる。当該濾過処理は、酵母を濾過除去可能な手法であればよく、例えば、珪藻土濾過、平均孔径が0.4~1.0μm程度のフィルターによるフィルター濾過等が挙げられる。
【0038】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、発酵ビール様発泡性飲料の製造工程のうち、任意の工程で原料として添加することができる。例えば、仕込工程において発酵原料液に添加してもよく、発酵工程において発酵液に添加してもよく、貯酒工程において発酵液に添加してもよい。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは加熱処理後にも乳酸菌抑制効果を保持しているため、仕込工程における煮沸処理前又は煮沸処理中に添加してもよい。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの添加時期としては、仕込工程から貯酒工程までのいずれかの時点が好ましく、仕込工程から発酵工程開始前までのいずれかの時点がより好ましい。中でも、麦汁の煮沸処理後は、低温になり微生物リスクが高まるため、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは冷却前の麦汁に添加しておくことが特に好ましい。
【0039】
発酵原料液は、熱凝固性蛋白質を析出しやすくし、かつ、アルコール発酵に適したpHにするため、pHを5.0~6.0に調整される。また、発酵後にはpHが4.0~4.5になる。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、pHが4.0~6.0の範囲で、乳酸菌の増殖を抑制できる。
【0040】
発酵工程を経ずに製造される非発酵ビール様発泡性飲料は、一般的には、各原料を混合する方法(調合法)によって製造できる。例えば、具体的には、各原料を混合することにより、調合液を調製する調合工程と、得られた調合液に炭酸ガスを加えるガス導入工程と、により製造することができる。
【0041】
まず、調合工程において、原料を混合することにより、調合液を調製する。調合工程においては、炭酸ガス以外の全ての原料を混合した調合液を調製することが好ましい。各原料を混合する順番は特に限定されるものではない。原料水に、全ての原料を同時に添加してもよく、先に添加した原料を溶解させた後に残る原料を添加する等、順次原料を添加してもよい。また、例えば、原料水に、固形(例えば粉末状や顆粒状)の原料及びアルコールを混合してもよく、固形原料を予め水溶液としておき、これらの水溶液、及びアルコール、必要に応じて原料水を混合してもよい。
【0042】
原料としては、苦味料、酸味料、甘味料、カラメル色素、香味料、エタノール(原料アルコール)、乳化剤、多糖類、水溶性食物繊維、タンパク質若しくはその分解物等が挙げられる。
【0043】
酸味料としては、乳酸、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、リン酸、アジピン酸、及びフマル酸等が挙げられる。これらの酸味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0044】
苦味料としては、ホップ、イソα酸、テトライソα酸、β酸の酸化物、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナリンジン、クワシン、キニーネ、モモルデシン、クエルシトリン、テオブロミン、カフェイン、ゴーヤ、センブリ茶、苦丁茶、ニガヨモギ抽出物、ゲンチアナ抽出物、キナ抽出物等が挙げられる。これらの苦味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0045】
原料として用いるホップは、生ホップであってもよく、乾燥ホップであってもよく、ホップペレットであってもよく、ホップ加工品であってもよい。ホップ加工品としては、ホップから苦味成分を抽出したホップエキスであってもよく、イソ化ホップエキス、テトラハイドロイソフムロン、ヘキサハイドロイソフムロン等のホップ中の苦味成分をイソ化した成分を含むホップ加工品であってもよい。
【0046】
甘味料としては、ショ糖、ブドウ糖、果糖、異性化液糖、及び高甘味度甘味料等が挙げられる。高甘味度甘味料としては、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム、ネオテーム、ステビア、及び酵素処理ステビア等が挙げられる。これらの甘味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0047】
香味料としては、ビール抽出物、ビール香料、ホップ香料等が挙げられる。これらの香味料は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0048】
乳化剤としては、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステル(脂肪酸残基の炭素数が2~7又は19以上のもの)、グリセリン脂肪酸エステル(脂肪酸残基の炭素数が2~7又は19以上のもの)、スクロース脂肪酸エステル、ポリプロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート等が挙げられる。
【0049】
多糖類としては、でんぷん、デキストリン等が挙げられる。デキストリンは、でんぷんを加水分解して得られる糖質であって、オリゴ糖(3~10個程度の単糖が重合した糖質)よりも大きなものを指す。これらの多糖類は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0050】
水溶性食物繊維とは、水に溶解し、かつヒトの消化酵素により消化されない又は消化され難い炭水化物を意味する。水溶性食物繊維としては、例えば、大豆食物繊維(可溶性大豆多糖類)、ポリデキストロース、難消化性デキストリン、ガラクトマンナン、イヌリン、グアーガム分解物、ペクチン、アラビアゴム等が挙げられる。これらの水溶性食物繊維は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0051】
調合工程において調製された調合液に、不溶物が生じた場合には、ガス導入工程の前に、当該調合液に対して濾過等の不溶物を除去する処理を行うことが好ましい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、濾過法、遠心分離法等の当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。本発明においては、不溶物は濾過除去することが好ましく、珪藻土濾過により除去することがより好ましい。
【0052】
次いで、ガス導入工程として、調合工程により得られた調合液に炭酸ガスを加える。これにより、非発酵ビール様発泡性飲料を得る。炭酸を加えることによって、ビールと同様の爽快感が付与される。なお、炭酸ガスの添加は、常法により行うことができる。例えば、調合工程により得られた調合液、及び炭酸水を混合してよく、調合工程により得られた調合液に炭酸ガスを直接加えて溶け込ませてもよい。
【0053】
炭酸ガスを添加した後、得られた非発酵ビール様発泡性飲料に対して、さらに濾過等の不溶物を除去する処理を行ってもよい。不溶物除去処理は、特に限定されるものではなく、当該技術分野で通常用いられている方法で行うことができる。
【0054】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、非発酵ビール様発泡性飲料の製造工程のうち、任意の工程で原料として添加することができる。例えば、調合工程において、他の原料と一緒に調合液に添加してもよく、炭酸ガスを導入した後、不溶物除去処理前又はその後に添加してもよい。
【0055】
本発明に係る発泡性飲料が容器詰飲料である場合、本発明に係る発泡性飲料を充填する容器としては、特に限定されるものではない。具体的には、ガラス瓶、缶、可撓性容器等が挙げられる。可撓性容器としては、PE(ポリエチレン)、PP(ポリプロピレン)、EVOH(エチレン・ビニルアルコール共重合体)、PET(ポリエチレンテレフタレート)等の可撓性樹脂を成形してなる容器が挙げられる。可撓性容器は、単層樹脂からなるものであってもよく、多層樹脂からなるものであってもよい。
【実施例】
【0056】
次に実施例及び参考例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例等に限定されるものではない。
【0057】
[参考例1]
ビール酵母(Saccharomyces pastorianus:以下、「S. pastorianus」)と、乳酸菌の環境単離株(Lactobacillus brevis:以下、「L. brevis」)について、ホップを含有させた麦汁と、ホップなしで調製された麦汁における増殖性を調べた。
【0058】
<微生物の前培養と菌液調製>
S. pastorianusは、CP加ポテトデキストロース寒天培地(栄研化学社製)に接種し、L. brevisはMRS液体培地(de Man, Rogosa and Sharpe、Merck社製)に接種し、それぞれ25℃で3日間培養した。
前培養した菌体を、1mL当たりの菌数が約105個となるように滅菌生理食塩水に懸濁させたものを、菌液とした。
【0059】
<麦汁の調製>
麦芽40kgと水160Lとの混合物を、58℃で20分間保持してタンパク質の分解処理を行った後、64℃で20分間保持して麦芽由来成分を糖化した。糖化処理後の混合物を濾過し、ホップを含まない清澄な麦汁を得た。
【0060】
得られた麦汁をオートクレーブで加熱殺菌(121℃、15分間)した後、濾紙でトルーブを除去した。除去後の麦汁を、5NのHCl又はNaOHを用いてpH5.25±0.05に調整した後、フィルター除菌(孔径0.45μm)したものを、無ホップ麦汁とした。
オートクレーブで加熱殺菌時にホップを添加した以外は同様にして調製し、フィルター除菌したものを、ホップ含有麦汁とした。
【0061】
<微生物の培養>
無ホップ麦汁又はホップ含有麦汁に、S. pastorianus又はL. brevisを、96ウェルプレートにウェル当たり103個/100μLとなるように播種し、25℃で培養し、600nmの吸光度を経時的に測定した。吸光度は、「VICTOR Nivo Multimode Plate Reader」(製造元:PerkinElmer社、S/N:HH35L3517059、励起フィルター:600/10 nm)を用いて測定した。バックグラウンドの測定として、微生物未接種サンプルを使用した。
【0062】
この結果、S. pastorianusはいずれの麦汁でも増殖が観察されたが、L. brevisは無ホップ麦汁では吸光度が増大し増殖が確認されたが、ホップ含有麦汁では増殖が確認されなかった。
【0063】
[実施例1]
参考例1で使用したS. pastorianus及びL. brevisの各種(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル存在下における増殖能を調べた。
【0064】
<(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル溶液の調製>
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとしては、モノグリセリンモノカプリン酸エステル(モノカプリリン、東京化成工業社製、M1071)、モノグリセリンモノラウリン酸エステル(モノラウリン、fluorochem社製、046817)、モノグリセリントリラウリン酸エステル(トリラウリン、富士フイルム和光純薬株式会社、ASB-00020460-001)、モノグリセリンモノパルミチン酸エステル(モノパルミチン、Combi-Blocks社製、QC-0880)、モノグリセリントリパルミチン酸エステル(トリパルミチン、富士フイルム和光純薬社製、200-03002)、モノグリセリンモノステアリン酸エステル(モノステアリン、Combi-Blocks社製、QE-2812)、モノグリセリントリステアリン酸エステル(トリステアリン、富士フイルム和光純薬社製、202-15831)、ジグリセリンモノミリスチン酸エステル(理研ビタミン社製、ポエムDM-25H)を用いた。なお、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの水溶性は、脂肪酸残基の水溶性に影響を受ける。各(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを構成する脂肪酸の20℃の水への溶解度は、カプリン酸は680mg/L、ラウリン酸は55mg/L、パルミチン酸は7mg/L、ステアリン酸は3mg/L、ミリスチン酸は20mg/Lである。
【0065】
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルは、終濃度0.1%(w/v)となるように無ホップ麦汁に溶解し、5NのHCl又はNaOHを用いてpH5.25±0.05に調整した後、フィルター除菌(孔径0.45μm)した。濾液をさらに無ホップ麦汁で希釈することによって、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの終濃度が0.01、0.02、0.10、0.15、又は0.20%(w/v)である(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル含有無ホップ麦汁を調整した。
【0066】
<抗菌性能の測定>
参考例1と同様にして調製したS. pastorianus又はL. brevisの菌液(菌数:約105個/1mL)を、96ウェルプレート(8行×12列)に、ウェル当たり10μLずつ接種し、各濃度に調整した(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを含有する無ホップ麦汁を90μL加え、25℃で7日間、嫌気条件で培養した。コントロールとして、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル無添加(0.00%(w/v))の無ホップ麦汁を用いて同様に培養した。接種菌液の生菌数(試験菌数)は、CP加ポテトデキストロース寒天培地又はMRS寒天培地を用いた平板塗抹培養法により測定し、接種菌液の生菌数に換算し算出した。
また、各ウェル中の溶液は、参考例1と同様にして経時的に600nmの吸光度を測定し、微生物の増殖を調べた。
【0067】
図1~8に、各(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを、終濃度が0.00、0.01、0.02、0.10、0.15、又は0.20%(w/v)含有する無ホップ麦汁の培養液の吸光度の測定結果を示す。
図1は、モノグリセリンモノカプリン酸エステルを含有させた無ホップ麦汁の結果であり、
図2は、モノグリセリンモノラウリン酸エステルを含有させた無ホップ麦汁の結果であり、
図3は、モノグリセリントリラウリン酸エステルを含有させた無ホップ麦汁の結果であり、
図4は、モノグリセリンモノパルミチン酸エステルを含有させた無ホップ麦汁の結果であり、
図5は、モノグリセリントリパルミチン酸エステルを含有させた無ホップ麦汁の結果であり、
図6は、モノグリセリンモノステアリン酸エステルを含有させた無ホップ麦汁の結果であり、
図7は、モノグリセリントリステアリン酸エステルを含有させた無ホップ麦汁の結果であり、
図8は、ジグリセリンモノミリスチン酸エステルを含有させた無ホップ麦汁の結果である。
図1~8において、(A)はS. pastorianusを播種したサンプルの結果であり、(B)はL. brevisを播種したサンプルの結果である。
【0068】
この結果、L. brevisを播種した全てのサンプルにおいて、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを含有させた無ホップ麦汁では、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルを含有させていないコントロールの無ホップ麦汁の結果と比べて吸光度の増加が抑えられており、L. brevisの増殖が抑制されていることが確認された。また、この増殖抑制効果は、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの含有量に依存する傾向が観察された。一方で、S. pastorianusを播種した全てのサンプルにおいて、吸光度の増加が確認され、S. pastorianusの増殖が可能であることが確認された。
【0069】
中でも、モノグリセリンモノラウリン酸エステル(
図3(A))、モノグリセリンモノパルミチン酸エステル(
図4(A))、モノグリセリントリパルミチン酸エステル(
図5(A))、モノグリセリンモノステアリン酸エステル(
図6(A))、モノグリセリントリステアリン酸エステル(
図7(A))では、添加量によっては、無添加の無ホップ麦汁(図中、「0.00%」)よりも酵母の増殖が促進されていた。これらの結果から、これらのモノグリセリン脂肪酸エステルは、酵母による発酵工程を経て製造される発酵ビール様発泡性飲料に添加されるビール様発泡性飲料用乳酸菌増殖抑制剤の有効成分として特に好適であることが明らかである。
【0070】
[実施例2]
乳酸菌の増殖及び酵母によるアルコール発酵に対する、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの影響を調べた。酵母と乳酸菌は、実施例1と同様に、参考例1で使用したS. pastorianus及びL. brevisを用いた。また、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとしては、デカグリセリンラウリン酸エステル(三菱ケミカルフーズ社製、リョートーポリグリエステルL7-D)を用いた。このデカグリセリンラウリン酸エステルは様々なエステル化度の物の混合物である。
【0071】
<抗菌性能の測定(200mLスケール)>
まず、デカグリセリンラウリン酸エステルの終濃度が0.01、0.02、又は0.1%(w/v)となるように、デカグリセリンラウリン酸エステルを含有させた無ホップ麦汁を調製した。各デカグリセリンラウリン酸エステル含有無ホップ麦汁200mLに、前培養した酵母を103個/mLとなるように添加し、さらに前培養した乳酸菌を104個/mLとなるように添加した。酵母と乳酸菌を添加したデカグリセリンラウリン酸エステル含有無ホップ麦汁を、10.5℃で21日間、好気条件で培養した。接種菌液の生菌数(試験菌数)は、CP加ポテトデキストロース寒天培地又はMRS寒天培地を用いた平板塗抹培養法により測定し、接種菌液の生菌数に換算して算出した。培養21日後に、アクチジオン添加MRS寒天培地を用いて生菌数を測定し、供試菌の増殖を調べた。
【0072】
アルコール発酵は、1分子の糖から2分子のエタノールと2分子の二酸化炭素が生成される[C6H12O6(180g)→2C2H5OH(46g×2)+2CO2(44g×2)]。従って、アルコール発酵により生成されたアルコールの濃度(g/L)は、下記式(1)により表すことができる。また、エタノールの比重は0.789g/mLであるから、体積濃度に換算すると下記式(2)のようになる。そこで、培養中の三角フラスコの重量を測定することにより炭酸ガス減少量を求め、生成したアルコール濃度(%(v/v))を推定した。
【0073】
式(1): [発酵液のアルコール濃度(g/L)]=((46/44)×[炭酸ガス減少量(g)])/[培養液量(L)]
式(2): [発酵液のアルコール濃度(%(v/v))]=(0.1325×[炭酸ガス減少量(g)])/[培養液量(L)]
【0074】
21日間(504時間)培養後の培養液中の乳酸菌濃度(cfu/mL)の測定結果を表1に示す。表中、培養時間が0時間の乳酸菌濃度とは、初発菌数を示す。この結果、デカグリセリンラウリン酸エステルを含有させた培養液では、無添加の培養液と比べて、乳酸菌の生菌数が顕著に少なく、デカグリセリンラウリン酸エステルが乳酸菌の増殖抑制効果を有することが確認された。
【0075】
【0076】
さらに、培養時間が、0時間(培養開始前)、96時間、及び168時間の時点において、培養液の一部をサンプリングし、ガス減重法によりアルコール濃度を測定した。測定結果を表2に示す。表2に示すように、デカグリセリンラウリン酸エステルを含有させたサンプルでは、デカグリセリンラウリン酸エステル無添加のサンプルよりもアルコール濃度がやや低いものの、充分なアルコール濃度の発酵液が得られた。この結果から、乳酸菌の増殖を効果的に抑制可能な程度の量のデカグリセリンラウリン酸エステルの存在下でも、問題なく酵母によるアルコール発酵が行われることが確認された。
【0077】
【0078】
[実施例3]
(ポリ)グリセリン脂肪酸エステル存在下で、大量培養によりアルコール発酵を行った。酵母と乳酸菌は、実施例2と同様に、参考例1で使用したS. pastorianus及びL. brevisを用いた。また、(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとしては、実施例2で用いたデカグリセリンラウリン酸エステルを用いた。
【0079】
<抗菌性能の測定(200Lスケール)>
まず、デカグリセリンラウリン酸エステルの終濃度が0.01%(w/v)となるようにデカグリセリンラウリン酸エステルを含有させた無ホップ麦汁を調製した。このデカグリセリンラウリン酸エステル含有無ホップ麦汁200mLを発酵タンクに入れた後、当該タンク内に、前培養した酵母を20 MIOとなるように添加し、さらに前培養した乳酸菌を104個/mLとなるように添加した。酵母と乳酸菌を添加したデカグリセリンラウリン酸エステル含有無ホップ麦汁を、10.5℃で14日間培養し、-1℃に冷却した後、さらに7日間培養を行った。接種菌液の生菌数(試験菌数)は、CP加ポテトデキストロース寒天培地又はMRS寒天培地を用いた平板塗抹培養法により測定し、接種菌液の生菌数に換算して算出した。培養0、7、14、及び21日後に、アクチジオン添加MRS寒天培地を用いて生菌数を測定し、供試菌の増殖を調べた。
【0080】
デカグリセリンラウリン酸エステルを含有させた培養液中の乳酸菌の菌数(cfu/mL)の測定結果を表3に示す。この結果、デカグリセリンラウリン酸エステルを含有させた培養液では、無添加の培養液と比べて、乳酸菌の生菌数が顕著に少なく、デカグリセリンラウリン酸エステルが乳酸菌の増殖抑制効果を有することが確認された。
【0081】
【0082】
また、デカグリセリンラウリン酸エステルを含有させた培養液中の浮遊酵母数は、デカグリセリンラウリン酸エステルを含有させなかったコントロールの培養液中の浮遊酵母数と、同等の推移を示し、同程度のアルコール発酵がなされていた。すなわち、デカグリセリンラウリン酸エステル存在下で、プラントスケールでアルコール発酵を行っても、デカグリセリンラウリン酸エステル非存在下と同様に発酵ビール様発泡性飲料が製造できることが示唆された。
【0083】
[実施例4]
酵母によるアルコール発酵に対する(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルの影響を調べた。(ポリ)グリセリン脂肪酸エステルとしては、実施例1で用いたジグリセリンモノミリスチン酸エステルを用い、酵母と乳酸菌は、実施例2と同様に、参考例1で使用したS. pastorianus及びL. brevisを用いた。
【0084】
<抗菌性能の測定(200mLスケール)>
まず、ジグリセリンモノミリスチン酸エステルの終濃度が0.006、0.013、0.019、0.025、0.038、又は0.05%(w/v)となるように、ジグリセリンモノミリスチン酸エステルを含有させた無ホップ麦汁(エキス:14.23%)を調製した。各ジグリセリンモノミリスチン酸エステル含有無ホップ麦汁200mLに、前培養した酵母を103個/mLとなるように添加し、さらに前培養した乳酸菌を104個/mLとなるように添加した。酵母と乳酸菌を添加したポリグリセリン脂肪酸エステル含有無ホップ麦汁を、10.5℃で8日間、好気条件で培養した。
【0085】
培養(発酵)8日目の培養液の外観エキス濃度を測定した。測定結果を表4に示す。表4に示すように、ジグリセリンモノミリスチン酸エステルを含有させたサンプルでは、ジグリセリンモノミリスチン酸エステル無添加のサンプルよりも外観エキス濃度がやや高く、発酵が若干阻害されているものの、充分なアルコール発酵がなされていた。この結果から、乳酸菌の増殖を効果的に抑制可能な程度の量のジグリセリンモノミリスチン酸エステルの存在下でも、問題なく酵母によるアルコール発酵が行われることが確認された。
【0086】