(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】時計歯車装置
(51)【国際特許分類】
G04B 35/00 20060101AFI20240827BHJP
G04B 13/02 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
G04B35/00 Z
G04B13/02 Z
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020031317
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2023-01-31
(32)【優先日】2019-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】599091346
【氏名又は名称】ロレックス・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】ROLEX SA
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベラン, ラウル
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-335183(JP,A)
【文献】特開2013-250272(JP,A)
【文献】特開2012-102877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 35/00
G04B 13/02
G04B 19/02
F16H 55/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1対称歯(d1)を有する第1歯付き歯車(R1;R1’;R1’’)と、第2対称歯(d2)を有する第2歯付き歯車(R2;R2’;R2’’)を含む、時計機構(100)用歯車装置(E1;E2;E3)であって、前記第1及び第2歯のそれぞれは、前記歯車装置の原始バックラッシ(J)が、前記歯車装置の公称軸中心距離(e)について、0.3・mより小さ
いように、適合され、ここでmは前記歯がその一部をなす前記歯車の
モジュールであ
り、
前記第1歯及び前記第2歯のそれぞれは、前記歯がその一部をなす前記歯付き歯車の軸(A1;A2)に垂直な平面(P)内にプロファイル(P1;P2)を含み、前記プロファイルは、第1円弧形状を有する機能的部分(PF1;PF2)を含み、前記第1円弧は、
半径(r
u
)と、
前記歯がその一部を形成する前記歯付き歯車の前記軸に中心を取る直接正規直交デカルト座標系
【数46】
の座標(x
u
,y
u
)の中心(C1;C2)であって、
【数47】
は前記歯の対称の軸(S1;S2)と共線的な単位ベクトルである、中心、
により定義され、ここで
【数48】
ここで、
zは、前記歯がその一部を形成する前記歯車の歯の数、
R
p
は、関連する前記歯車R1またはR2の原始半径、
p
i1
,p
i2
,p
i3
は、mが前記歯がその一部を形成する歯車のモジュールであるときに、
前記歯車装置の前記原始バックラッシ(J)が、前記歯車装置の前記公称軸中心距離(e)について、0.3・mより小さいとなるよう、定義されるパラメータである、
歯車装置
(E1;E2;E3)。
【請求項2】
前記第1歯及び前記第2歯のそれぞれは、前記歯車装置軸中心距離(e)の変動に対する最大角度バックラッシ(jmax)の変動の比率が、前
記歯車装置の
前記公称軸中心距離マイナス0.04mmから前記歯車
装置の
前記公称軸中心距離プラス0.04mmの間で変化する歯車装置軸中心距離値について、6°/mmより小さ
いように適合される、
請求項1に記載の歯車装置(E1;E2;E3)。
【請求項3】
前記プロファイルは、第2円弧の形状を有する歯先部分(PT1;PT2)を含む、請求項1または2に記載の歯車装置(E1;E2;E3)。
【請求項4】
前記第2円弧は
、以下の特定の半径(r
t)により定義され、
【数49】
ここで、
p
i4は、mが前記歯がその一部を形成する前記歯車の
モジュールであるときに、前記歯車装置の前記原始バックラッシ(J)が、前記歯車装置の前記公称軸中心距離(e)について、0.3・mより小さ
いとなるよう、決定されるパラメータである、
請求項
3に記載の歯車装置(E1;E2;E3)。
【請求項5】
前記パラメータ(p
i1,p
i2,p
i3,p
i4)は、以下の条件、
【数50】
ここで
Hは、共分散系行列であり、
【数51】
は、座標
【数52】
のベクトルである、
を満たす第1ベクトル(
【数53】
)の前記座標を構成する、
請求項1から4のいずれか一項に記載の歯車装置(E1;E2;E3)。
【請求項6】
前記歯車装置比率は1に等しい及びまたは前記第1及び第2歯車は同一の数の歯を有する、及び
前記第1及び第2歯車の前記歯は同一の形状を有する、
または
前記歯車装置比率は1に等しい及びまたは前記第1及び第2歯車は同一の数の歯を有する、及び
前記第1及び第2歯車の前記歯は異なる形状を有する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の歯車装置(E1;E2;E3)。
【請求項7】
前記第1歯車及びまたは前記第2歯車は表示部材(O)に固定される、及びまたは前記第1歯車及びまたは前記第2歯車は時計ムーブメント(200)の歯車列(92)の一部を形成することが意図される
、及びまたは前記第1歯車及びまたは前記第2歯車は時計ムーブメント(200)の歯車列(92)と並列結合で取り付けられることが意図される、
請求項1から6のいずれか一項に記載の歯車装置(E1;E2;E3)。
【請求項8】
前記第1及び第2歯車は硬質である、
請求項1から7のいずれか一項に記載の歯車装置(E1;E2;E3)。
【請求項9】
前記第1及び第2歯車の少なくとも1つは、弾性角度バックラッシ補償構造(81)
を含む、
請求項1から7のいずれか一項に記載の歯車装置(E1;E2;E3)。
【請求項10】
前記角度バックラッシ補償弾性構造は、前記公称軸中心距離では負荷をかけられていない、
請求項9に記載の歯車装置(E1;E2;E3)。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の歯車装置(E1;E2;E3)を含む、時計機構(100
)。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項に記載の歯車装置(E1;E2;E3)及びまたは請求項11に記載の時計機構(100)を含む、時計ムーブメント(200)。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか一項に記載の歯車装置(E1;E2;E3)及びまたは請求項11に記載の時計機構(100)及びまたは請求項12に記載の時計ムーブメント(200)を含む、時計(300)。
【請求項14】
請求項1から10のいずれか一項に記載の歯車装置(E1;E2;E3)及びまたは請求項11に記載の時計機構(100)及びまたは請求項12に記載の時計ムーブメント(200)及びまたは請求項13に記載の時計(300)の製造方法であって、
前記第1歯車(R1;R1’;R1’’)と、前記第2歯車(R2;R2’;R2’’)の、前記第1及び第2歯部の前記プロファイルを決定するステップと、
前記第1及び第2歯車を形成するステップと、
前記第1及び第2歯付き歯車を、両者が互いに噛み合うように取り付けるステップと、
を含む、方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法を用いて得られる、前記歯車装置(E1;E2;E3)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時計歯車装置に関する。本発明はまた、当該種類の時計歯車装置を含む時計機構に関する。本発明はまた、当該種類の時計歯車装置を含む時計ムーブメントに関する。本発明はさらに、当該種類の時計歯車装置を含む時計に関する。本発明は最後に、当該種類の時計歯車装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
時計において、サイクロイド、外サイクロイド、内サイクロイドまたは円の伸開線といった幾何学的曲線に基づいて、歯車とピニオンの歯のプロファイルを決定することは、既知である。この方法で得られた歯車とピニオンは、歯の駆動中に実質的に一定に維持される回転速度を伝達するよう定義される。歯の駆動中に実質的に一定のトルクを伝達する特性を有する歯のプロファイルも既知である。
【0003】
このように、従来の歯部のプロファイルは、速度及びまたはトルクの目標に取り組むように定義される。従来技術から既知の歯車装置において、上記目標は、歯付き歯車の軸中心距離の関数として、より大きいまたはより小さい角度バックラッシという結果をもたらす。例えば時刻から派生する情報を表示させるように設計された、基本ムーブメントの歯車列に(並列結合で)運動学的に連結された歯車という特定の場合、このようなバックラッシは、時刻から派生する情報を表示する部材の振動、すなわち時刻から派生する情報を表示する部材のガタガタした不規則な運動のリスクを引き起こしかねない。
【0004】
従来技術から既知の解決策は、時刻から派生する情報を表示するための部材に対する抵抗トルクを生成するために、基本ムーブメントの歯車列と並列結合する運動学的連鎖に摩擦を追加することを提案する。この種の解決策は、例えば、特許文献1及び特許文献2で開示されるが、特にてん輪の振動の振幅の減少または変動を生じ、このため時間計測性能を下げる可能性があるため、最適ではない。当該解決策はまた、ムーブメントのエネルギー消費を増大させる。
【0005】
特許文献3は、歯の駆動中に実質的に一定のトルクを伝達する特性を有する特定の歯部プロファイルを開示する。この種のプロファイルは、この種の歯車装置の歯の駆動中の角度バックラッシを最小化することができない。
【0006】
特許文献4は、バックラッシ補正歯付き可動部であって、その歯に少なくとも1つの弾性要素が設けられている、バックラッシ補正歯付き可動部に関する。この種の部品は、有利には、摩擦ばねを代替可能であるが、剛性歯を有する歯車と比べて脆弱である。更に、歯の圧縮の効果により、角度バックラッシは最小化、または解消されるが、この圧縮は、軸中心距離の変動でばらつくため、当該可動部が一部をなすムーブメントのエネルギー消費に影響する。このため、この種の解決策は、改善可能である。
【0007】
特許文献5は、垂直クラッチ可動部を基本ムーブメントの歯車列に統合するという特定の特徴を有するクロノグラフ構造に関する。このため、クロノグラフ構造は、駆動部材と基本ムーブメントの調速機関との間で、並列結合ではなく直列に搭載される。この結果、クロノグラフ秒針は、あらゆる摩擦ばねと関係せず、無作為の角度運動にさらされることはない。この種の構造は、非常に特殊であって、基本ムーブメントの歯車列に少なくとも1つの可動部を必要とし、全体的な効率を低下させるリスクを有する。
【0008】
特許文献6は、歯車の歯が0.05mmより小さい係数を有するという特定の特徴を有する歯車装置を用いて、表示部材の振動の問題を軽減することを目的とする。当該文献は、角度バックラッシを最小化する、及びまたは軸中心距離の関数としての角度バックラッシの変動を最小化するという目的で定義された、あらゆる特定のプロファイルを明示しない。更に、このような歯車はあまり頑丈ではなく、このため推測的に、従来の製造手段を用いて製造不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】スイス国特許出願公開第506824号明細書
【文献】欧州特許出願公開第0482443号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2453321号明細書
【文献】欧州特許出願公開第1555584号明細書
【文献】欧州特許出願公開第2053474号明細書
【文献】国際公開第WO2017/157764号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来技術から既知の時計歯車装置の改善を可能にする時計歯車装置を提供することである。特に、本発明は、歯車装置バックラッシを制限可能な、特に歯車装置の軸中心距離変動へのバックラッシの感度を制限可能な時計歯車装置を提案する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかる時計歯車装置は、請求項1と15に定義される。
【0012】
歯車装置の様々な実施形態は、請求項2から10に定義される。
【0013】
本発明にかかる時計機構は、請求項11に定義される。
【0014】
本発明にかかる時計ムーブメントは、請求項12に定義される。
【0015】
本発明にかかる時計は、請求項13に定義される。
【0016】
本発明にかかる歯車装置の製造方法は、請求項14に定義される。
【0018】
添付の図面は、本発明にかかる時計の3つの実施形態を、例として示す。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、従来技術から既知の歯車装置を示す図である。
【
図2】
図2は、従来技術から既知の歯車装置を示す図である。
【
図3】
図3は、
図1及び2の歯車装置の、1ステップにわたる、異なる軸中心距離値についての、角度バックラッシの変動を示すグラフである。
【
図4】
図4は、第1歯車装置実施形態を含む時計の、第1実施形態を示す図である。
【
図5】
図5は、第1歯車装置実施形態を含む時計の、第1実施形態を示す図である。
【
図6】
図6は、第1歯車装置実施形態を含む時計の、第1実施形態を示す図である。
【
図7】
図7は、第1歯車装置実施形態を含む時計の、第1実施形態を示す図である。
【
図8】
図8は、歯車装置の第1実施形態の、1ステップにわたる、異なる軸中心距離値についての、角度バックラッシの変動を示すグラフである。
【
図9】
図9は、時計の第2実施形態で使用される歯車装置の第2実施形態を示す図である。
【
図10】
図10は、歯車装置の第2実施形態の、1ステップにわたる、異なる軸中心距離値についての、角度バックラッシの変動を示すグラフである。
【
図11】
図11は、時計の第2実施形態で用いられる歯車装置の第3実施形態を示す図である。
【
図12】
図12は、歯車装置の第3実施形態の、1ステップにわたる、異なる軸中心距離値についての、角度バックラッシの変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
時計300の第1実施形態を、
図4から8を参照して以下に説明する。時計300は、例えば小型時計であり、特に腕時計である。
【0021】
時計は、時計ムーブメント200の一実施形態を含む。時計ムーブメントは電子式でも機械式でもよく、特に自動式である。
【0022】
時計ムーブメントは時計機構100の一実施形態を含む。当該機構は、時刻情報または時刻から派生する情報を表示する、または時刻情報または時間から派生する情報を表示する、または時刻と関連しない機能の情報を表示するための機構であってもよい。特に当該機構は、ムーブメントの歯車列に、歯車列と並列結合で、機械的に結合されてもよい。例えば表示機構は、日の裏歯車、クロノグラフモジュール、カウントダウンモジュール、クロノグラフモジュールまたはカウントダウンモジュールの表示列、または表示針と機械的に結合された歯付き歯車と噛み合うラックを含む表示システムを含んでもよい。代替的に、表示機構は例えば、高度計または深度計からの情報を表示するための機構を含んでもよい。
【0023】
機構100は時計歯車装置の第1実施形態E1を含む。
【0024】
歯車装置E1は、対称第1歯d1を含む第1歯付き歯車R1と、対称第2歯d2を含む第2歯付き歯車R2とを含む。
【0025】
第1歯付き歯車は、第1軸A1周りに回転可能に取り付けられる。第2歯付き歯車は、第2軸A2周りに回転可能に取り付けられる。第1及び第2歯付き歯車は、例えば、共通のフレームに取り付けられる。第1及び第2軸は、好ましくは、平行または実質的に平行である。第1及び第2軸の間の軸中心距離eは、第1及び第2歯車が互いに噛み合うような距離である。
【0026】
第1及び第2歯のそれぞれは、歯車装置の原始バックラッシJが公称軸中心距離eについて、0.3・mより小さい、または0.25・mより小さい、または0.2・mより小さい、または0.15・mより小さい、または0.1・mより小さい、または0.08・mより小さいように、適合され及びまたは配置され、ここでmは歯が一部をなす歯車のモジュールである。
【0027】
上記3段落の考察は、好ましくは、第1歯付き歯車R1’と第2歯付き歯車R2’とを含む歯車装置の第2実施形態E2についても、また第1歯付き歯車R1’’と第2歯付き歯車R2’’とを含む歯車装置の第3実施形態E3についても同様に有効である。これら2つの実施形態は、以下に説明する。
【0028】
換言すれば、歯車装置E1は、軸中心距離の変動に非常にわずかに敏感である一方で、歯の駆動中の角度バックラッシを最大限最小化する特性を有する駆動歯車及び被駆動歯車の歯または歯部プロファイルP1、P2を有する。この種類の歯車装置の効率性及び摩耗の点での特性も、有利には最適化される。
【0029】
「角度バックラッシj」とは、所定の軸中心距離eについて、特定の向きに、または所定の位置に不動化された第2歯車R2に対して第1歯車R10が自由に回転可能な角運動を意味する。例示として、
図1及び2は、歯のプロファイルが従来技術から既知のNIHS規格20-25に沿って定義された、この種の歯車装置E0の歯車R10及びR20を示す。バックラッシjは、
図1及び2に示すように角度(またはラジアン)で表すことができる角度αである。ある特定の場合において、バックラッシjは、特に原始バックラッシJの関数として定義することもできる。
【0030】
「原始バックラッシJ」とは、公称軸中心距離eについて、ISO規格1122-1:1998に規定するように、特定の向きに不動化された第2歯車R2に対して第1歯車R10の原円(
図2のRP2)上で、ある点がそのアークに沿って移動可能な最大アーク長lを意味する。このため、バックラッシJは、特にミリメートルで表すことができる長さである。バックラッシJまた、歯車装置E0の一部を形成する歯車R10、R20のピッチpまたは
モジュールmの関数としても表すことができる。
【0031】
角度バックラッシjは、第1及び第2歯車R10とR20のそれぞれの向きの関数として変化可能である。このため、歯の駆動にわたり、バックラッシjは、展開される。所定の歯車装置について、最大の角度バックラッシjは、当該歯車装置の公称軸中心距離eにおいてJ
max・と表され、歯車R10、R20の一方または他方上で決定される角度バックラッシJ
maxは、以下のように表される。
【数1】
ここで、j
1,2はラジアンで表され、R
P1,2は歯車R10、R20のそれぞれの原始半径である。
【0032】
バックラッシjは、歯車装置の一部を形成する歯車のそれぞれの歯が選択したプロファイルに沿った、1つ以上の歯の一対で定義されてもよい。
【0033】
角度バックラッシjは、歯車R10及びR20が噛み合うために必要である。とはいえ、あまりに大きな角度バックラッシjは、駆動歯車から被駆動歯車への運動の伝達の品質を落とすリスクがあり、これは被駆動歯車の振動またはがたつきに反映される可能性がある。更に、製造及び組み立て公差により軸中心距離が増加すると、角度バックラッシjの増加を引き起こすリスクがある。このため、歯車装置の公称軸中心距離での角度バックラッシjを可能な限り減らすことが必要となる。しかしながら、公称軸中心距離での角度バックラッシjを過度に最小化すると、製造及び組み立て公差を理由として、最小軸中心距離で歯車装置が詰まるリスクを引き起こしかねない。
【0034】
従来の時計プロファイルは、軸中心距離がどうであれ、歯車が可能な限り一定の角度バックラッシを有するという歯車装置の定義を満たさないことが証明された。より具体的には、従来の時計プロファイルは、軸中心距離がどうであれ、歯車が可能な限り一定である、可能な限り小さい角度バックラッシを有するという歯車装置の定義を満たさない。
【0035】
本明細書の対象である歯車装置E1、E2、E3は、駆動歯車と被駆動歯車の歯部プロファイルが、工業生産プロセス及び歯車を案内する手段を位置決めする手段が引き起こす軸中心距離変動、例えば[e-20μm,e+60μm](eは公称軸中心距離である)の範囲にわたり変化する軸中心距離に対して非常にわずかに敏感である一方で、歯の駆動中に角度バックラッシをできる限り最小化するように構成される。
【0036】
本発明にかかる歯車装置E1、E2、E3の歯部形状は、典型的には、歯車が、公称軸中心距離eについて、0.3・mより小さい、または0.25・mより小さい、または0.2・mより小さい、または0.15・mより小さい、または0.1・mより小さい、または0.08・mより小さい原始バックラッシJを有する歯車装置の使用を可能にし、
【数2】
であり、ここでz
1及びz
2は、関連する歯車装置の一部を形成する歯車R1、R1’、R1’’’及びR2、R2’、R2’’のそれぞれの歯の数、すなわち歯車R1、R1’、R1’’’及びR2、R2’、R2’’の各自の歯の数である。
【0037】
例として、NIHS規格20-25に沿って定義された時計プロファイルは、より大きな原始バックラッシを有する歯車の歯車装置の使用を可能にする。
【0038】
本発明にかかる歯部プロファイルの形状はまた、軸中心距離変動の関数として、角度バックラッシの変動を最小化することを可能にする。
【0039】
モジュールmは、好ましくは、具体的には所定の最低トルクを伝達可能なように、頑丈な歯車装置を採用するため、0.05mm以上である。
【0040】
歯車の歯または歯部「プロファイル」は、歯または歯の歯部表面と、歯車の回転軸に垂直な平面Pとの交点で定義することもできる。
【0041】
原始バックラッシの最小化と角度バックラッシの変動の最小化という目的を達成するために、歯または歯部プロファイルは、少なくとも1つの機能的部分PFであって、その形状またはプロファイルは特定の円弧である機能的部分PFを含むという特定の特徴を有してもよい。出願人の研究に基づき、実際、少なくとも歯車のうちの1つが、この種の円弧で定義される機能部分をそれぞれ有する歯を有する歯車装置は、最小化可能であり、当該歯車装置の軸中心距離の関数として実質的に一定とすることができる、角度バックラッシを有することが発見された。
【0042】
「機能的部分PF」とは、角度バックラッシの最小化を可能にするよう適合された、また少なくとも部分的に、歯車装置の噛み合いに参加するよう、接触により協働するよう設計された、歯のプロファイルの区域を意味する。
【0043】
歯車R1、R1’、R1’’及びR2、R2’、R2’’の歯のそれぞれのプロファイルの定義を単純化するため、歯車R1’、R1’’は単にR1と言及され、R2’、R2’’は単にR2と言及されてもよい。
【0044】
図4から7の実施形態、
図9からの実施形態及び
図11からの実施形態において、歯車R1及びR2の歯部プロファイルは、好ましくは、
図5に示すように、第1歯車R1の第1円弧で特徴づけられる第1機能的部分PF1が、第2歯車R1の第2円弧で特徴づけられる第2機能的部分PF2と接触により協働するよう定義される。第1及び第2機能的部分PF1、PF2は、具体的には、歯車R1、R2のそれぞれの中心O
1、O
2を通過する中心線上で接触により協働することができる。機能的部分PF1及びPF2は、好ましくは、比率1:1の歯車装置の曲率半径r
uと同じ曲率半径を有する円弧で特徴づけられる。
【0045】
半径r
uであって中心C1、C2が座標(x
u,y
u)にある円弧は、好ましくは、
図6に示すような、トリプレット
【数3】
または
【数4】
で定義される直接正規直交デカルト座標系において以下のように決定される。O
1またはO
2は、関連する歯車R1またはR2の回転軸A1またはA2と一致し、ここで軸A1またはA2は
図4に示される。
【数5】
は、当該機能的部分PF1またはPF2を有する歯d1、d2の対称軸S1、S2と共線的な単位ベクトルである。
【数6】
は、
【数7】
に垂直な単位ベクトルである。
【数8】
及び
【数9】
ここで、
zは、関連する歯車R1またはR2の歯の数、
R
pは、関連する歯車R1またはR2の原始半径、
【数10】
ここでeは、比率1:1の歯車装置の場合に、その一部を形成する歯車R1またはR2の、歯車装置の公称軸中心距離、
p
i1,p
i3,p
i3は、歯車R
iがその一部をなす歯車装置、すなわち歯車R1またはR2、の原始バックラッシJが、公称軸中心距離eについて、0.3・mより小さい、または0.25・mより小さい、または0.2・mより小さい、または0.15・mより小さい、または0.1・mより小さい、または0.08・mより小さいよう、最適化アルゴリズムを元に決定されるパラメータである。
【0046】
機能的部分PF1、PF2の長さは、好ましくはm以上4・m以下である。
【0047】
この種の機能的部分PF1、PF2は、完全な歯プロファイルを定義するため、歯先部分PTまたは歯根部分PPといった少なくとも1つの他の部分と関連付けられてもよい。部分PP、PF、PTは、好ましくは、各種部分間で切れ目のない連続する関数を定義する。これは、縁のない歯部表面に反映される。部分PP、PF及びPTは、全て互いに正接の円弧からなってもよい。
【0048】
歯先部分PTは、有利には、
【数11】
または
【数12】
のデカルト座標系において以下の通り表されてもよい半径r
tの円弧で定義されてもよい。
【数13】
ここで、p
i4は、歯車装置が上記の条件を満たすことができるように、換言すると歯車Riがその一部をなす歯車装置、すなわち歯車R1またはR2、の原始バックラッシJが、所定の公称軸中心距離eについて、0.3・mより小さい、または0.25・mより小さい、または0.2・mより小さい、または0.15・mより小さい、または0.1・mより小さい、または0.08・mより小さいよう、最適化アルゴリズムに基づき決定されたパラメータである。
【0049】
結果としての、歯車R1またはR2の外側または全半径R
eは、以下の態様で表すことができる。
【数14】
【0050】
パラメータpi1,pi2,pi3,pi4は、好ましくは、自然淘汰と遺伝学のメカニズムに基づく確率最適化アルゴリズムである、遺伝的アルゴリズムに基づき決定される。任意に選択される初期ポテンシャルプロファイルの個体数に基づき、特にその角度バックラッシに関して相対的パフォーマンスが評価される。このパフォーマンスを元に、進化的オペレータ、すなわち選択、交叉及び突然変異を用いて、新たなポテンシャルプロファイルの個体数が作成される。後者の演算は、十分な解決策が得られるまで繰り返される。
【0051】
このため、当該方法に基づけば、歯車R1、R2の所定の軸中心距離変動と歯車R1、R2の所定の歯数z1、z2の目標角度バックラッシを満足することができる、歯車R1、R2の部分PF1、PT1、PF2、PT2をそれぞれ特徴づけるパラメータである、(p11,p12,p13,p14)、(p21,p22,p23,p24)を決定することが可能になる。
【0052】
歯根部分PPは、プロファイルと連続して構築されてもよい。部分PFと部分PPとの間の接点は、好ましくは、変曲点PIを定義する。
【0053】
同じ数の歯(z
1=z
2)を有する歯車R1、R2が設けられた、比率1:1の歯車装置の場合、歯車R1及びR2のそれぞれの歯d1、d2は、同一でもよく、同一の形状を有してもよい。特に、それぞれの歯は、同一の機能的部分PF1、PF2を有してもよく、すなわち、
【数15】
である。
【0054】
より具体的には、これらそれぞれの歯は、同一である部分PF1、PT1、PF2、PT2を有してもよく、すなわち、
【数16】
である。
【0055】
代替的に、比率1:1の歯車装置の場合、当該歯車R1、R2のそれぞれの歯は異なってもよい。特に、これらそれぞれの歯は、異なる機能的部分PF1、PF2を有してもよい。実際、当該歯のプロファイルがモジュールmに基づき構築されていないと仮定すると、目標角度バックラッシを最大に満足させる機能的部分PF1、PF2を、より具体的には部分PF1、PT1、PF2、PT2を定義することが可能である。
【0056】
このため、この場合、
【数17】
であり、より具体的には、
【数18】
である。
【0057】
特定のパラメータ(p
i1,p
i2,p
i3,p
i4)は、歯車R1またはR2を用いる歯車装置の原始バックラッシJのための所定の条件を満たす、特定のベクトル
【数19】
の座標を構成してもよい。
【0058】
出願人による研究は、所定の歯車装置の原始バックラッシJの所定の条件を満たすベクトル
【数20】
に中心を取るベクトル
【数21】
の組を決定することができることを示した。
【0059】
例えば、
【数22】
の条件を満たすベクトル
【数23】
の組は、以下の条件も満たさなければならない。
【数24】
ここで、Hは共分散型の行列であり、
【数25】
は
【数26】
の座標を有するベクトルである。
【0060】
歯車R1、R2は、有利には、硬質であってもよい。換言すれば、歯車は好ましくは、歯にも、歯車のそれぞれのハブへ歯を接続するアームにも、角度バックラッシの補償を可能にする弾性構造を含まない。
【0061】
代替的に、どの実施形態または変形例であれ、
図13に示すように、プロファイルPF1、PF2が、所定の軸中心距離範囲にわたり角度バックラッシを打ち消すように定義可能なように、少なくとも1つの歯車R1、R2は、少なくとも1つの弾性構造81を有してもよい。所定の軸中心距離の範囲にわたり角度バックラッシを打ち消すことは、軸中心距離が何であれ、弾性構造のプレストレスの最小化を可能にし、このため歯車装置によるエネルギー消費の最小化を可能にする。
【0062】
公称軸中心距離eにおいて、少なくとも1つの弾性構造は、好ましくは、作動されず、またはプレストレスされない。この弾性構造は、好ましくは、歯車R1及びまたは歯車R2の歯の全部または一部に形成される切欠き82で実施される。
【0063】
歯車R1、R2は、機械加工により、特に切断により製造可能である。代替的に、歯車は、エッチング、フォトリソグラフィまたは付加製造技術といった微細加工処理で得られてもよい。後者の技術は、機能的部分PFを特徴づける円弧を、より幅広くは部分PP、PF、及びPTを特徴づける連続関数を、非常に忠実に再現するという利点を有する。歯車R1またはR2は、有利には、ニッケルまたはニッケルリン合金製、シリコン製、ガラス製又はセラミック製であってもよい。
【0064】
もちろん、第1歯車R1は製造の第1方法で得られる一方、第2歯車R2は製造の第2方法で得られてもよい。もちろん、第1歯車R1は第1素材で製造される一方、第2歯車R2は第2素材で製造されてもよい。
【0065】
第1歯車R1またはR2は、時計ムーブメント200の歯車列92の一部を形成してもよい。より具体的には、第1歯車R1またはR2は、駆動部材91と時計ムーブメントの調速部材93との間で、直接的または間接的に相互配置されてもよい。さらに、第2歯車R1またはR2は、時計ムーブメントの当該歯車列92と並列結合で取り付けられてもよい。例として、
図4はより具体的に、歯車列92の一部を形成する歯車R1と、当該歯車列と並列結合で取り付けられた歯車R2を示す。
【0066】
歯車R1またはR2は、表示部材O、特に秒または何分の1秒といった、時刻表示または時刻から派生する表示を表示するための部材に固定されてもよい。表示部材は、好ましくは針を含む。代替的に、表示部材は円板を含んでもよい。「固定」とは、好ましくは「取付」を意味する。しかしながら、その他の機械的結合を予想可能である。例として、
図4は、歯車列92と並列結合で取り付けられた歯車R2に固定された針の形状を取る、表示部材Oを示す。
【0067】
例として、
図1及び2に図示するような、NIHS規格20-25と、0.0726mmである
モジュールmに基づき定義された70本の歯をそれぞれ有する2つの同一の歯車R10、R20からなる歯車装置E0の角度バックラッシは、特に、最適なプロファイル部分を特徴づけるパラメータの同定と歯のプロファイルの変更を可能にする、遺伝的アゴリズムを用いて、最小化することができる。
【0068】
図3は、角度ピッチpにわたり、また異なる軸中心距離についての、歯車装置E0の角度バックラッシを示すグラフである。公称軸中心距離eでの最大角度バックラッシj
maxは、0.4°程度であり、これは0.018mm程度の原始バックラッシJに、すなわち0.3・mに対応する。さらに、角度バックラッシは、[e-40μm,e+40μm]の範囲にわたり変化する軸中心距離について0.65°程度の最大振幅で変化可能である。このような例の場合、歯車装置軸中心距離の関数としての最大角度バックラッシの感度は、0.08mmの歯車装置軸中心距離範囲を考慮すると、約8.3°/mmであり、ここで範囲は公称歯車装置軸中心距離(Δjmax/Δe=8.3°/mm)に中心を取る。
【0069】
図4から7は、E0に対する角度バックラッシの観点から最適化され、歯車R1、R2のそれぞれの歯が同一であり、以下の条件を遵守するベクトル
【数27】
により特徴づけられるプロファイルを有する歯車装置E1を示す。
【数28】
ここで
【数29】
且つ
【数30】
である。
【0070】
図8は、異なる軸中心距離eについて、上記条件を遵守する所定のベクトル
【数31】
についての、角度ピッチpにわたる、歯車装置E1の角度バックラッシjを示すグラフを図示する。公称軸中心距離eでの最大角度バックラッシj
maxは、0.08°程度である、すなわち
図1及び2の歯車装置E1のバックラッシj
maxよりも約5分の1小さい。このため、この特定のベクトル
【数32】
について、Jは、0.6・m程度である。さらに、この特定の場合、角度バックラッシは、[e-40μm,e+40μm]の範囲で変化する軸中心距離について、0.18°程度の最大振幅で、すなわち上述より4分の1近く小さい、角度バックラッシ変動で、変化可能である。このような例の場合、歯車装置軸中心距離の関数としての最大角度バックラッシの感度は、0.08mmの歯車装置軸中心距離範囲を考慮すると、約1.7°/mmであり、ここで範囲は公称歯車装置軸中心距離(Δjmax/Δe=1.7°/mm)に中心を取る。
【0071】
この演習は、
【数33】
の条件を遵守するベクトル
【数34】
により特徴づけられるプロファイルを有する60本の歯をそれぞれ有する2つの同一の歯車R1、R2からなる歯車装置に対しても行われた。
【0072】
観測したゲインも同じように驚くべきものであり、角度バックラッシの最小化の意味で最高の結果をもたらすベクトル
【数35】
において、Jは0.6・m程度である。
【0073】
【0074】
図9は、歯車R1’、R2’のそれぞれの歯が異なり、歯車R1’の歯が歯車R2’の歯よりも幅広いという、歯車装置E0に対する角度バックラッシの観点から最適化された第2実施形態にかかる歯車装置E2を示す。
このため、
【数37】
ここで
【数38】
である。この特定の場合、
【数39】
である。
【0075】
図10は、異なる軸中心距離eについて、所定のベクトル
【数40】
についての、角度ピッチpにわたる、歯車装置E2の角度バックラッシを示すグラフを図示する。公称軸中心距離での最大角度バックラッシj
maxは、0.05°程度、すなわち
図1及び2の歯車装置が定義する最大角度バックラッシj
maxよりも約8分の1小さい。このため、Jは0.04・m程度である。更に、この特定の場合、角度バックラッシは、[e-30μm,e+30μm]の範囲で変化する軸中心距離について、0.1°程度の最大振幅で変化可能である。この例の場合、歯車装置軸中心距離の関数としての最大角度バックラッシの感度は、0.06mmの歯車装置軸中心距離範囲を考慮すると、約1.1°/mmであり、ここで範囲は公称歯車装置軸中心距離(Δjmax/Δe=1.1°/mm)に中心を取る。
【0076】
更なる例として、先行技術から既知のトレイバルプロファイルと、0.0602mmである
モジュールmに基づき定義された33本の歯を有するピニオンR10’’からなり、トレイバルプロファイルと、0.0602mmである
モジュールmに基づき定義された110本の歯を有する歯車R20’’を駆動する、図示しない歯車E30の角度バックラッシは、特に遺伝的アルゴリズムを用いて最小化可能である。歯車装置のこのような種類の第3実施形態E3は、
図11に図示される。第3実施形態にかかる歯車装置E3の歯車R1’’とR2’’の歯のプロファイルは、
【数41】
の条件を遵守するベクトル
【数42】
により特徴づけられ、ここで
【数43】
【数44】
及び
【数45】
である。
【0077】
図12は、[e-40μm,e+60μm]の範囲にわたる歯車装置E30及びE3の公称軸中心距離eの変動xに従った、角度ピッチpにわたる、歯車装置E30及びE3の最大角度バックラッシj
maxを示す。歯車装置E3のこのような例の場合、歯車装置軸中心距離の関数としての最大角度バックラッシの感度は、0.06mmの歯車装置軸中心距離範囲を考慮すると、約1.7°/mmであり、ここで範囲は公称歯車装置軸中心距離(Δjmax/Δe=1.7°/mm)に中心を取る。公称軸中心距離における歯車装置E3の最大角度バックラッシj
maxは、0.2°程度、すなわち歯車装置E30が定義する最大角度バックラッシj
maxの約2.4分の1である。所定の軸中心距離範囲にわたり、歯車装置E3の最大角度バックラッシj
maxの変動は、歯車装置E30が引き起こす変動の4分の1程度小さい。この種の歯車装置では、てん輪での振幅の変動も減少する。
【0078】
このため上述した歯車装置は、時計歯車装置の、特に歯車列と並列結合で取り付けられた歯車を含む歯車装置の角度バックラッシを最小化するよう適合された歯プロファイルを有する。更に歯車装置軸中心距離の関数としてのバックラッシの変動の感度は、制限される。
【0079】
上述のように、本発明は、歯車装置E1;E2;E3及びまたは時計機構100及びまたは時計ムーブメント200及びまたは時計300の製造方法に関する。方法は、
- 第1歯車R1;R1’;R1’’及び第2歯車R2;R2’;R2’’の第1及び第2歯部のプロファイルを決定するステップと、
- 第1及び第2歯車を成形するステップと、
- 第1及び第2歯付き歯車を、両者が互いに噛み合うように取り付けるステップと、
を含む。
【0080】
第1歯車R1と第2歯車R2の第1及び第2歯部のプロファイルを決定するステップは、好ましくは、第1及び第2歯部のプロファイルを選択する、特に任意で選択するステップの後に、
-歯部のプロファイルの性能の決定、
-遺伝的アルゴリズム、特に自然淘汰の及び遺伝学のメカニズムに基づく確率的最適化アルゴリズム、及びまたは進化的オペレータ、すなわち選択及びまたは交叉及びまたは突然変異を用いたアルゴリズムを用いた、新たな歯部プロファイルの生成、
のステップの繰り返しを含む。
【0081】
本明細書において、「対称歯」とは、歯車の回転軸を通過し、歯のプロファイルの対称軸を構成する、直線分が存在することを意味する。
【0082】
「歯付き歯車」は、歯部を有するあらゆる歯車を意味する。この定義は、ピニオンを含む。歯部は、360°にわたり、または特定の角度範囲にわたり、延長してもよい。このため、当該定義はまた、歯付きセクタを有するあらゆるラックを含む。この定義はまた好ましくは、あらゆるラックを含む。「歯車装置」は、この種の歯付き歯車を含むあらゆるアセンブリを意味する。
【0083】
歯車装置の「製造方法」は、この種の歯車装置の一部を形成する歯車の第1及び第2歯部のプロファイルの定義につながる方法と、これら歯車のそれぞれの形成または製造方法を意味する。
【0084】
前述の通り、本発明にかかる歯車装置の角度バックラッシは、好ましくは、軸中心距離変動に非常にわずかに敏感である。好ましくは、上述のまたは本発明にかかる各種実施形態において、第1歯及び第2歯のそれぞれは、歯車装置軸中心距離の変動に対する最大角度バックラッシjmaxの変化の比率が、公称歯車装置軸中心距離マイナス0.04mmから公称歯車軸中心距離プラス0.04mmの間で変化する歯車装置軸中心距離値について、6°/mmより小さいまたは5°/mmより小さいまたは4°/mmより小さいまたは3°/mmより小さいように適合される。好ましくは、上述の比率の上限は、上述の全ての範囲(公称歯車装置軸中心距離マイナス0.04mmから公称歯車軸中心距離プラス0.04mm)に全体的に適用される。好ましくは、上述の比率の上限は、上述の全ての範囲(公称歯車装置軸中心距離マイナス0.04mmから公称歯車軸中心距離プラス0.04mm)に局所的にも適用される、すなわち上述の範囲の全体について、最大の角度バックラッシの歯車装置軸中心距離に対する導関数は、6°/mmより小さいまたは5°/mmより小さいまたは4°/mmより小さいまたは3°/mmより小さい。
【0085】
換言すれば、第1歯及び第2歯のそれぞれは、比率Δjmax/Δeが6°/mmより小さいまたは5°/mmより小さいまたは4°/mmより小さいまたは3°/mmより小さいように適合され、ここでΔjmaxは歯車装置の最大の角度バックラッシであり、Δeは歯車装置軸中心距離の変動であり、Δeは0.08mm以下であり、Δeは公称歯車装置軸中心距離に中心を取る。
【0086】
好ましくは、
- 第1歯付き歯車は第1対称歯d1を含み、サイクロイド曲線及びまたは外サイクロイド曲線及びまたは内サイクロイド曲線及びまたは円の伸開線に基づく第1歯は除外される、及びまたは
- 第2歯付き歯車は第2対称歯d2を含み、サイクロイド曲線及びまたは外サイクロイド曲線及びまたは内サイクロイド曲線及びまたは円の伸開線に基づく第2歯は除外される。
【符号の説明】
【0087】
d1 歯
d2 歯
E1 歯車装置
E2 歯車装置
E3 歯車装置
R1 第1歯車
R2 第2歯車
R10 歯車
R20 歯車
100 時計機構
200 時計ムーブメント
300 時計