(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】細胞保存容器
(51)【国際特許分類】
A61M 5/28 20060101AFI20240827BHJP
A61J 1/06 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A61M5/28
A61J1/06 G
(21)【出願番号】P 2020036220
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100150898
【氏名又は名称】祐成 篤哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 千穂
(72)【発明者】
【氏名】西下 直希
【審査官】川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/160991(WO,A1)
【文献】特開2001-029466(JP,A)
【文献】特表2008-507563(JP,A)
【文献】特開2008-125803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/28
A61J 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞含有溶液を保存するための細胞保存容器であって、
両端部の端面が開口した中空筒体であり、内部に細胞含有溶液が収容される本体部と、
前記本体部の後端からその端面を水平な方向に突出するフランジ部と、
前記フランジ部と少なくとも一部が重なり合い、前記本体部の後端の開口部を覆って密栓する蓋体と、
前記本体部の先端に装着されるキャップと、を備え、
前記蓋体は、前記容器の前記開口部に対して同心円形状である蓋本体と該蓋本体の周縁部の一部から延出する鍔部を有し、
前記蓋本体の中心から、該蓋本体から延出する前記鍔部の先端までの長さ(L)は、前記容器の前記開口部の中心から前記フランジ部の縁部までの最小長さよりも長くなるように形成され、
前記本体部の先端は、注射針を取り付け可能に構成されている、
細胞保存容器。
【請求項2】
前記蓋本体の中心から、該蓋本体から延出する前記鍔部の先端までの長さ(L)は、前記容器の前記開口部の中心から前記フランジ部の縁部までの最大長さよりも短くなるように形成されている、
請求項1に記載の細胞保存容器。
【請求項3】
当該細胞保存容器は、前記細胞含有溶液を凍結保存するためのものであり、
前記本体部に収容した前記細胞含有溶液を解凍後、前記後端の開口部から前記本体部の中空内部にプランジャーが挿入されるとともに、前記キャップが装着される前記先端に注射針が取り付けられて、注射用シリンジとして用いられる、
請求項1
又は2に記載の細胞保存容器。
【請求項4】
前記蓋体と、前記フランジ部の縁部又は前記本体部の側方部のいずれか一方とを連結する連結部を、さらに備える、
請求項1乃至3のいずれかに記載の細胞保存容器。
【請求項5】
前記蓋体は、樹脂製である、
請求項1乃至4のいずれかに記載の細胞保存容器。
【請求項6】
細胞含有溶液を保存する方法であって、
請求項1乃至5のいずれかに記載の細胞保存容器を用い、該細胞保存容器の前記本体部の内部に細胞含有溶液を収容し、前記本体部の後端の開口部を前記蓋体で密栓した状態で、該細胞含有溶液を保存する
細胞保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞保存容器に関するものであり、例えば細胞含有溶液を凍結保存するときに用いる細胞保存容器に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療等製品の細胞治療分野において、細胞含有溶液等の医療用液体製剤を凍結保存等するときの細胞保存容器としては、凍結保存バッグやバイアル瓶、クライオチューブ等が使用されている。
【0003】
ところが、その医療用液体製剤の多くは、投与時やその準備段階(輸液バックに移す場合等)に注射用シリンジを用いることが手順となっている。そのため、例えば細胞保存容器に収容されて凍結保存された細胞含有溶液を解凍した後には、注射用シリンジに移し替える操作が必要となり、移し替え操作による細胞ロスやコンタミネーション等が生じ得る可能性がある。また、医療従事者の作業量を増加させることによるヒューマンエラーも引き起こす原因となり得る。
【0004】
細胞保存容器から注射用シリンジへの移し替えに伴う細胞ロスやコンタミネーション等を考慮すると、注射用シリンジを保存容器として直接用いて凍結保存することができれば、移し替えの作業を無くすことができる。これにより、細胞ロスやコンタミネーション等を防ぐことができる。
【0005】
ここで、注射用シリンジは、中空筒体のシリンジバレルと、プランジャー(プランジャーロッド)とにより構成される。具体的には、シリンジバレルの一方の開口端から中空内部にプランジャーを挿入することにより、シリンジバレルの他方の開口端のルアー部に取り付けた注射針を介して、シリンジ内の内容物を排出できるようになっている。
【0006】
例えば、特許文献1、2には、注射用シリンジに予め薬液が充填されている、いわゆるプレフィルドシリンジに関する技術が開示されている。このようなプレフィルドシリンジによれば、移し替え操作が不要となり、投与に要する時間を短縮化させることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】登実第3149156号公報
【文献】登実第3147037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
注射用シリンジをそのまま用いたプレフィルドシリンジにおいて、一般的な使い方ではプランジャーのガスケット部が注射用シリンジバレルの中空内部に挿入されることによりその開口部が封止されるようになる。しかしながら、プランジャーは中空内部から医療用液体製剤を押し出して排出するための部材に過ぎず、保存時に収容された医療用液体製剤の漏出等を防ぐことを目的としたものではない。また、プランジャーは、シリンジバレルと同等以上の長さ(軸方向の長さ)を有するため、そのプランジャーにより開口部を封止して医療用液体製剤を保存しようとすると、そのプランジャーが物理的な障害となって効率的な保存処理を行うことができない可能性がある。
【0009】
さらに、プランジャーのガスケット部の素材は、例えば凍結保存するに際しての液体窒素気相下での耐性が十分ではない。また、内容物が凍結により膨張すると、効果的に密栓できない可能性がある。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、細胞含有溶液を適切に保存できるとともに、細胞ロスやコンタミネーション等を生じさせることなくその細胞含有溶液を投与等することを可能にする細胞保存容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、所定の構成を備えるシリンジ型の容器とすることで、細胞含有溶液を適切に保存できるとともに、その細胞含有溶液を移し替えることなくそのまま患者等に投与することを可能にし、細胞ロスやコンタミネーション等を効果的に防ぐことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、細胞含有溶液を保存するための細胞保存容器であって、両端部の端面が開口した中空筒体であり、内部に細胞含有溶液が収容される本体部と、前記本体部の後端からその端面を水平な方向に突出するフランジ部と、前記フランジ部と少なくとも一部が重なり合い、前記本体部の後端の開口部を覆って密栓する蓋体と、前記本体部の先端に装着されるキャップと、を備え、前記本体部の先端は、注射針を取り付け可能に構成されている、細胞保存容器である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、当該細胞保存容器は、前記細胞含有溶液を凍結保存するためのものであり、前記本体部に収容した前記細胞含有溶液を解凍後、前記後端の開口部から前記本体部の中空内部にプランジャーが挿入されるとともに、前記キャップが装着される前記先端に注射針が取り付けられて、注射用シリンジとして用いられる、細胞保存容器である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記蓋体は、その周縁部の一部から延出する鍔部を有する、細胞保存容器である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記蓋体と、前記フランジ部の縁部又は前記本体部の側方部のいずれか一方とを連結する連結部を、さらに備える、細胞保存容器である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記蓋体は、樹脂製である、細胞保存容器である。
【0017】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明に係る細胞保存容器の注射用シリンジバレルとしての、使用である。
【0018】
(7)本発明の第7の発明は、細胞含有溶液を保存する方法であって、第1乃至第5のいずれかの発明に係る細胞保存容器を用い、該細胞保存容器の前記本体部の内部に細胞含有溶液を収容し、前記本体部の後端の開口部を前記蓋体で密栓した状態で、該細胞含有溶液を保存する、細胞保存方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、細胞含有溶液を適切に保存できるとともに、細胞ロスやコンタミネーション等を生じさせることなくその細胞含有溶液を投与等することを可能にする細胞保存容器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図2】細胞含有溶液を保存している状態の細胞保存容器の構成を示す図である。
【
図3】本体部の先端におけるルアー部を拡大して示す図であり、注射針を取り付けについて説明するための図である。
【
図5】蓋体において鍔部に保持部が形成されている態様を示す図である。
【
図6】連結部を備えた細胞保存容器の構成例を示す図である。
【
図7】細胞保存容器を用いて細胞含有溶液を保存し、その細胞保存容器を注射用シリンジとして用いて細胞含有溶液を投与等するまでの操作の流れを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0022】
≪1.細胞保存容器≫
本発明に係る細胞保存容器は、細胞含有溶液を例えば凍結保存するための容器である。なお、当該細胞保存容器は、凍結保存することに限られず、単に所定期間に亘って細胞含有溶液を保存するための容器であってもよい。
【0023】
図1は、細胞保存容器1の構成の一例を示す図であり、(A)は斜視図であり、(B)は細胞保存容器1を構成するフランジ部12を示す図である。また、
図2は、内部に細胞含有溶液Fを保存しているときの細胞保存容器1の断面図(A)と、細胞保存容器1の一方の端部(後端11a)から視た上面図(B)及び(C)である。なお、
図2(B)及び(C)は、後端11aにおける開口部12aに蓋体13を装着したときの状態を示している。
【0024】
図1及び
図2に示すように、細胞保存容器1は、内部に細胞含有溶液Fが収容される本体部11と、本体部11の後端11aからその端面を水平な方向に突出するフランジ部12と、フランジ部12の少なくとも一部が重なり合って本体部11の後端11aにおける開口部12aを覆って密栓する蓋体13と、本体部11の先端11bに装着されるキャップ14と、を備えている。そして、この細胞保存容器1においては、本体部11の先端11bにおいて、注射針20を取り付け可能に構成されている。
【0025】
詳しくは後述するが、このような構成を有する細胞保存容器1では、例えば、細胞含有溶液を凍結保存するための容器として用いることができ、収容した細胞含有溶液を適切に保存できる。そして、例えば凍結保存後においては、本体部11に収容した細胞含有溶液を解凍した後に、後端11aの開口部12aから本体部11の中空内部にプランジャー50を挿入するとともに、キャップ14が装着される先端11bに注射針20を取り付けることで、そのまま、注射用シリンジとして用いることができる(
図7を参照)。
【0026】
このように、上述した構成を有する細胞保存容器1によれば、細胞含有溶液を適切に凍結保存するための容器として使用できるとともに、注射用シリンジとしても使用できる。これにより、保存収容した細胞含有溶液を排出させて患者等に投与するときに、注射用シリンジに別途移し替えるといった操作が不要となり、移し替え時に発生する細胞ロスやコンタミネーション等を効果的に防ぐことができる。
【0027】
以下、細胞保存容器1の各構成についてより詳細に説明する。
【0028】
<1-1.細胞保存容器の構成について>
(1)本体部
本体部11は、両端部(11a,11b)の端面が開口した中空筒体であり、内部に細胞含有溶液が収容される容器本体を構成するものである。例えば、本体部11は、円筒形状であって、筒体の軸方向に対して垂直な断面の形状は略円形状である。
【0029】
本体部11の一方の端部である後端11aには、後述するフランジ部12が構成されている。中空筒体からなる本体部11の内部には、その後端11aに形成されたフランジ部12における開口部12aを介して細胞含有溶液が収容される。
【0030】
また、本体部11の他方の端部である先端11bには、ルアー部15が構成されている。そして、細胞保存容器1では、その先端11b(ルアー部15)において注射針20が取り付け可能に構成されている。
【0031】
ここで、
図3は、本体部11の先端11bにおけるルアー部15を拡大して示す模式図であり、注射針20を取り付けるときの状態を示す図である。ルアー部15は、特に限定されないが、本体部11の先端11bから突出した部位であり、本体部11の中空筒体よりも小さい径の筒状となっており、例えば注射針20が装入される側に向かって縮径されている。このようなルアー部15には、
図3に一例を示すような、針管21と、内部が中空の針基22とから構成される注射針20を取り付けることができる。具体的には、本体部11から突出したルアー部15に、針基22を被せるように嵌め合わせて注射針20を取り付ける。
【0032】
このように、本体部11の先端11bにおいて注射針20が取り付け可能となっていることにより、本体部11内にて細胞含有溶液Fを保存したのち、その先端11bに注射針20を取り付けることで、本体部11内に収容されている細胞含有溶液Fをそのまま注射針20を介して排出させ、例えば患者等に投与することができる。すなわち、注射針20を取り付けることで、その細胞保存容器1を注射用シリンジとして用いることができ、細胞含有溶液Fを保存した状態から、その細胞含有溶液Fを注射用シリンジに移し替える操作を行うことなく、そのまま細胞保存容器1から細胞含有溶液Fを排出できる。
【0033】
本体部11の材質は、特に限定されないが、例えば細胞含有溶液Fを凍結保存するための細胞保存容器として用いる場合には、低温雰囲気において耐久性を有するものであることが好ましい。具体的には、本体部11の内部に収容した細胞含有溶液Fを液体窒素気相下(例えば-78℃以下あるいは-158℃以下の温度雰囲気下)で凍結保存するにあたっても優れた耐久性を示すものが好ましい。また、本体部11の材質として、γ線等の放射線に対して耐性を有するものであることが好ましい。細胞含有溶液を細胞保存容器に収容するに際しては、その細胞保存容器の構成部材に対してγ線等で滅菌処理を施すことが一般的である。したがって、細胞保存容器1の構成材料である本体部11が放射線耐性を有するものであることにより、変形等を生じさせることなく有効に滅菌処理を施して、細胞含有溶液Fを収容する本体の部材として使用できる。
【0034】
また、本体部11は、特に限定されないが、その内部を目視で確認可能な透明色等で構成されていることが好ましい。透明色であることにより、細胞保存容器1を構成する本体部11の内部に収容した細胞含有溶液Fの保存状態を外部から目視で確認できる。
【0035】
さらに、本体部11は、その側方部に、内部に収容可能な体積を視認可能な目盛りを有していることが好ましい。上述したように、本体部11の内部には細胞含有溶液Fが収容され、凍結保存等の保存処理が行われるが、このとき、本体部11の側方部に目盛りを設けておくことで、内部に収容した細胞含有溶液Fの容量を確認できる。また、詳しくは後述するが、この細胞保存容器1は、本体部11内にて細胞含有溶液Fを保存したのち、その先端11bに注射針20を取り付けることで、本体部11内に収容されている細胞含有溶液Fを例えば患者等に投与するための注射用シリンジとして用いることができるが、このとき、本体部11の側方部に目盛りを設けておくことで、注射用シリンジを構成するプランジャー(
図7において符号50で示す)による細胞含有溶液Fの排出量を適宜確認できる。
【0036】
(2)フランジ部
フランジ部12は、本体部11の後端11aからその端面を水平な方向に突出するように構成されている。フランジ部12は、
図1(B)に示すように、例えば略長方形状(H×W)であり、そのフランジ部12には本体部11の中空内部に通ずる開口部12aが形成されている。なお、フランジ部12の形状は、略長方形状に限られず、例えば楕円形状であってもよい。
【0037】
フランジ部12における開口部12aは、例えば略円形状であり、上述のように中空筒体から構成される本体部11内に通じている。なお、開口部12aの半径r1は、中空筒体の本体部11の内部の断面径と略同一となる。後述する蓋体13は、フランジ部12の開口部12aを覆うように装着されるものであり、フランジ部12の面の少なくとも一部に接するように装着される。
【0038】
なお、フランジ部12においても、その材質としては、低温雰囲気において耐久性を有するものであることが好ましい。また、γ線等の放射線に対して耐性を有するものであることが好ましい。
【0039】
(3)蓋体
蓋体13は、シリンジ型容器である細胞保存容器1を構成する部材であり、フランジ部12の開口部12aに装着される蓋である。細胞保存容器1において、蓋体13を開口部12aに装着して構成することで、保存時においても細胞保存容器1に収容した内容物である細胞含有溶液の漏れを効果的に防ぐことができる。また、細胞保存容器1からの蓋体13の取り外しも容易に行うことができ、操作性にも優れる。さらに、詳しくは後述する構成の蓋体13であることにより、効果的に密栓できるとともに、保存状態において物理的な障害とならずに効率的な保存処理を行うことができる。
【0040】
具体的に、蓋体13は、本体部11の後端11aにあるフランジ部12の面と少なくとも一部が重なり合いながら、そのフランジ部12における開口部12aを覆って内部を密栓する部材である。
図2(A)~(C)に示すように、蓋体13をフランジ部12における開口部12aに装着すると、その蓋体13によって開口部12aが覆われるように密栓されるため、蓋体の少なくとも一部はフランジ部12より上方に出た状態となる。
【0041】
図4は、蓋体13の構成の一例を示す図であり、(A)は上面図であり、(B)は(A)のa-a断面図である。蓋体13は、開口部12aを覆って密栓する蓋本体31と、蓋本体31の周縁部から延出する鍔部32と、を備える。また、蓋体13は、蓋本体31から下方に延びるプラグ部33を、さらに備える。
【0042】
蓋体13の構成材料としては、例えば樹脂製とすることができる。樹脂製とすることで、その適度な柔軟性により、本体部11への蓋体13の装着や本体部11からの蓋体13の取り外し等に際しての操作性が向上する。また、凍結保存により内容物である細胞含有溶液Fが膨張しても、有効に密栓できる。当該樹脂としては、蓋体13を本体部11の開口部12aに装着して細胞含有溶液Fを液体窒素気相下(例えば-78℃以下あるいは-158℃以下の温度雰囲気下)で凍結保存するにあたっても優れた耐久性を示すものであることが好ましい。例えば、ポリプロピレン、環状オレフィン、環状オレフィンコポリマー等が挙げられる。なお、上述したように、蓋体13は、蓋本体31と、鍔部32と、プラグ部33とを備えているが、所定の樹脂により一体成形して製造することができる。
【0043】
また、蓋体13の構成材料としては、γ線等の放射線に対して耐性を有するものであることが好ましい。細胞含有溶液Fを細胞保存容器1内に収容するに際しては、その細胞保存容器1の構成部材に対してγ線等で滅菌処理を施すことが一般的である。したがって、蓋体13の構成材料が放射線耐性を有することで、変形等を生じさせることなく有効に滅菌処理を施して、細胞含有溶液Fを収容する細胞保存容器1の蓋として使用できる。
【0044】
[蓋本体]
蓋本体31は、蓋体13の本体を構成するものであり、フランジ部12における開口部12aを覆って密栓する。蓋体13をフランジ部12における開口部12aに装着したとき、その蓋体13の下面(プラグ部33が延びている側の面)がフランジ部12の面と重なり合うように保持される。これにより、開口部12aを覆って効果的に密栓でき、本体部11内に収容した細胞含有溶液Fの漏れや流出を防ぐことができる。
【0045】
蓋本体31は、装着するフランジ部12の開口部12aに対して同心円形状であり、蓋本体31の半径r
2が開口部12aの半径r
1よりも大きくなるように形成されている。これにより、蓋体13を開口部12aに装着したときに、蓋本体31がそのフランジ部12の面の一部に接しながら開口部12aを覆うようになり、より効果的に密栓できる。なお、
図4(A)の蓋体13の上面図に示した円形破線は、蓋体13を開口部12aに装着したときのその開口部12aの縁部を示し、装着時における蓋体13と開口部12aとの位置関係を示す。
【0046】
[鍔部]
鍔部32は、蓋本体31の周縁部の一部から延出して構成され、主として、蓋体13を本体部11から取り外すときに操作者の指や取り外し冶具等で摘持する部位となる部材である。
【0047】
鍔部32に関して、好ましくは、
図4に示す、蓋本体31の中心P
2からその蓋本体31から延出する鍔部32の先端までの長さ(L)は、装着するフランジ部12における開口部12aの中心P
1からフランジ部12の縁部までの最小長さよりも長くなるように形成されている。フランジ部12における開口部12aの中心P
2から縁部までの「最小長さ」とは、
図1に示すフランジ部12が略長方形状である例では、その
図1中に示す「r
1+a
1」をいい、あるいは「H/2」とも定義できる。したがって、蓋体13は、長さ(L)>(r
1+a
1)の関係を満たす。このような関係((L)>(r
1+a
1))を満たすように、蓋本体31から鍔部32を延出させて蓋体13を構成することで、開口部12aに蓋体13を装着したときに、そのフランジ部12に対して、
図2(B)及び(C)の二点破線で示すように蓋体13を装着させ、符号32Aで示すように鍔部32を位置させることができる。
【0048】
詳しくは後述するが、蓋体13を本体部11に装着してその本体部11内部の細胞含有溶液Fを保存処理した後、その細胞含有溶液Fを患者等に投与する際には、開口部12aから蓋体13を取り外し、その開口部12aからプランジャー(
図7において符号50で示す)を本体部11内に挿入する。したがって、蓋体13の取り外し操作は、その後のプランジャー50の挿入及び患者等への投与の律速となる操作であり、スムースかつ適切な操作が望まれる。このとき、(L)>(r
1+a
1)の関係を満たし、鍔部32の先端をフランジ部12の端からはみ出させるようにすることで、はみ出た鍔部32(32B)の先端を、蓋体13を取り外す操作者の指や冶具等で摘持し易くなり、本体部11からの蓋体13の取り外し操作が容易となる。また、取り外し操作が容易になることから、取り外しに際しての振動や操作者による手ぶれ等によって内容物である細胞含有溶液Fが飛散することも防ぐことができる。
【0049】
なお、蓋体13の長さ(L)に関して、(L)>(r
1+a
1)の関係を満たすことに加えて、(L)>W/2の関係も満たす場合においては、
図2(B)及び(C)で示すような略長方形状のフランジ部12の長辺から鍔部32(32A)の先端がはみ出るだけでなく、図示しないがフランジ部12の短辺からも鍔部32の先端がはみ出るようになる。そのため、鍔部32Aを摘持して蓋体13の取り外しを行う操作に代え、フランジ部12の短辺からはみ出た鍔部32を同様にして摘持して蓋体13の取外し操作を行うこともできる。ここで、「W」とは、
図1(B)で示したように、装着する本体部11のフランジ部12における長辺の長さである。
【0050】
また、鍔部32に関して、好ましくは、蓋本体31の中心P
2からその蓋本体31から延出する鍔部32の先端までの長さ(L)が、装着するフランジ部12における開口部12aの中心P
1からフランジ部12の縁部までの最大長さよりも短くなるように形成されている。フランジ部12における開口部12aの中心P
1から縁部までの「最大長さ」とは、
図1に示すフランジ部12が略長方形状である例では、その
図1中に示す「r
1+a
2」をいう。したがって、蓋体13は、好ましくは長さ(L)<(r
1+a
2)の関係を満たす。このような関係((L)<(r
1+a
2))を満たすように、蓋本体31から鍔部32を延出させて蓋体13を構成することで、開口部12aに蓋体13を装着したときに、そのフランジ部12に対して、
図2(B)の符号32Bで示すように鍔部32が位置するように蓋体13を装着させることができる。これにより、保存処理する状態において、フランジ部12の端部から、装着した蓋体13の鍔部32(32B)がはみ出ることを防ぎ、物理的な障害となることを防止できる。
【0051】
さらに好ましくは、略長方形状のフランジ部12の場合、蓋本体31の中心P
2からその蓋本体31から延出する鍔部32の先端までの長さ(L)が、装着するフランジ部12の長辺の長さ(W)(
図1(B)を参照)の1/2と同一か、それよりも短くなるように形成されている。したがって、蓋体13は、さらに好ましくは長さ(L)≦W/2の関係を満たす。このような関係((L)≦W/2)を満たすように、蓋本体31から鍔部32を延出させて蓋体13を構成することで、フランジ部12における開口部12aに蓋体13を装着したときに、そのフランジ部12に対して、
図2(C)の符号32Cで示すように鍔部32が位置するように蓋体13を装着させることができる。これにより、保存処理する状態において、フランジ部12の端部から、装着した蓋体13の鍔部32(32B)がはみ出ることを防ぎ、物理的な障害となることを防止できる。なお、
図2(C)では、(L)>W/2の関係を満たす例を示している。
【0052】
より具体的に
図2の使用状態の図も参照しながら説明すると、本体部11内に細胞含有溶液Fを収容し、フランジ部12における開口部12aに蓋体13を装着して保存を行うとき、蓋本体31及び鍔部32において、少なくとも(L)<(r
1+a
2)の関係が満たされる蓋体13であると、
図2(B)中の実線で示すようにフランジ部12に対して鍔部32(32B)を位置させることができる。すると、蓋体13の鍔部32(32B)がフランジ部12の面(
図1(B)で示す(H×W)の面)内に収まるようになるため、例えば所定の収納箱等に細胞保存容器1を複数並べて保持するようなとき、その鍔部32が物理的な障害となることを防ぎ、且つ、誤って蓋体13が外れることを防ぐことができる。これにより、その収納箱に密な状態で多くの細胞保存容器1を収納して保存できる。
【0053】
さらに、蓋本体31及び鍔部32において、(L)<(r
1+a
2)の関係が満たされることに加えて、(L)≦W/2の関係が満たされる蓋体13であると、
図2(C)の実線で示すようにフランジ部12に対して鍔部32(32C)を位置させることができる。これにより、フランジ部12における開口部12aに蓋体13を装着するときの鍔部32の位置範囲を広げることができる。またこのような態様でも同様に、所定の収納箱等に細胞保存容器1を複数並べて保持するようなとき、その鍔部32が物理的な障害となることを防ぎ、且つ、誤って蓋体13が外れることを防ぐことができる。
【0054】
なお、
図2(B)や(C)に示すように、フランジ部12に対する蓋体13の鍔部32の位置に関しては、蓋本体31や鍔部32を摘持して、図中矢印Rに示すように例えば45度回転させることや90度回転させることで容易に変更できる。
【0055】
[プラグ部]
蓋体13においては、プラグ部33をさらに備えるようにすることができる。なお、
図2(A)に示すように、蓋体13を装着したときには、蓋体13のうちのプラグ部33の部分のみが中空筒体からなる本体部11の内部に位置されることになる。一方で、上述した蓋本体31及び鍔部32は、フランジ部12の少なくとも一部が重なり合う形態で、そのフランジ部12より上方に位置される。
【0056】
プラグ部33は、
図4に示すように、蓋本体31から下方に延びる部位であり、蓋本体31と一体に成形できる。また、
図2(A)に示すように、プラグ部33は、蓋体13をフランジ部12における開口部12aに装着したときに、その開口部12aから通ずる本体部11の内部に挿入されて内壁11wに接触しながら装着され、これにより本体部11の内部を密栓する。したがって、プラグ部33は、その断面が円形状であり、プラグ部33の径は、中空筒体からなる本体部11の内径に対してその本体部11の内部に挿入可能な程度に僅かに小さいが、略同一である。
【0057】
このように、蓋体13においてプラグ部33を備えることで、蓋体13をより強固に装着することができる。また、蓋体13を装着したときに、本体部11の内壁11wに接触した状態となるため、密閉性が向上し、本体部11の内部に収容した細胞含有溶液Fの漏出等をより効果的に防ぐことができる。
【0058】
プラグ部33は、
図4(B)の断面図に示すように内部が空洞ではない円柱状であることに限られず、例えば中央部分が空洞となった円筒状であってもよい。また、プラグ部33において、少なくとも、本体部11の内壁11wと接触する部分の材質をシリコン等により構成してもよく、これによりその内壁11wとの密閉性をさらに高めるようにしてもよい。なお、プラグ部33において、例えば、本体部11の内壁11wと接触する部分とそれ以外の部分とで、材質を異ならせるようにしてもよい。
【0059】
[保持部]
必須の構成ではないが、蓋体13においては、
図5に例示するような保持部34をさらに備えるようにすることができる。保持部34は、細胞保存容器1のフランジ部12の縁部を保持する部材である。
図5の(A1)~(A3)は保持部34を備えた蓋体13の断面図であり、(B)は(A1)に例示した保持部34aを備えた蓋体13を細胞保存容器1に装着して保持部34aによりフランジ部12の縁部を保持しているときの状態を示す模式図である。なお、(A1)~(A3)は保持部34の3つのパターン例(34a,34b,34c)を示しているが、保持部34としてはこれらに限定されるものではない。
【0060】
一例として
図5(A1)に示すように、保持部34,34aは、鍔部32の下面32aから下方に向かって形成され、その先端が水平方向であってプラグ部33の方向へ屈曲した形状となっている。このような形状であることで、
図5(B)に示すように、蓋体13を装着したときに、水平方向に屈曲した部分と鍔部32の下面32aとによって細胞保存容器1のフランジ部12の縁部を保持できるようになっている。これにより、蓋体13をより強固に装着できるようになり、例えば凍結保存するとき等に離脱してしまうことを防ぐことができる。
【0061】
また、他の一例として
図5(A2)に示すように、保持部34,34bは、鍔部32の先端ではなく、水平方向においてその先端よりもプラグ部33側の箇所において、鍔部32の下面32aから下方に向かって形成されるものであってもよい。さらに、別の他の一例として
図5(A3)に示すように、保持部34,34cは、鍔部32ではなく、プラグ部33を挟んで鍔部32と対向する箇所において、蓋本体31の側面31sから形成されるものであってもよい。なお、これら保持部34b,34cも、その先端が水平方向であってプラグ部33の方向へに屈曲した形状となっており、蓋体13を装着したときに、水平方向に屈曲した部分によって細胞保存容器1のフランジ部12の縁部を保持できるようになっている。
【0062】
ここで、上述したように、
図5に示す保持部34(34a~34c)は保持部の態様の一例であり、蓋体13の鍔部32に形成されていることに限られず、蓋本体31のいずれの箇所に設けてもよい。例えば、
図5(A3)に示したように、鍔部32と対向する蓋本体31の所定の箇所における側面31sから保持部34cを設けることで、細胞保存容器1のフランジ部12の縁部を保持できるように構成することもできる。また、保持部34は、一つであることに限られず、複数であってもよい。
【0063】
(4)キャップ
キャップ14は、本体部11の先端11b(フランジ部12とは反対側の端部)に装着され、その先端11bの開口を封止する部材である。本体部11の先端11bには、ルアー部15が構成されており、そのためキャップ14はルアー部15の開口を封止する部材である。
【0064】
キャップ14は、ルアー部15の開口を封止できる構造であれば特に限定されない。また、その材質は、例えば樹脂等により構成することができる。なお、樹脂としては、フランジ部12における開口部12aに装着される蓋体13と同様に、凍結保存する場合でも優れた耐性を示すもの等であることが好ましい。例えば、ポリプロピレン、環状オレフィン、環状オレフィンコポリマー等が挙げられる。
【0065】
図2(A)に示すように、細胞保存容器1において、内部に細胞含有溶液Fを収容して凍結保存等する際には、ルアー部15にキャップ14を装着する。これにより、細胞含有溶液Fの漏出を防ぎながら適切に保存できる。
【0066】
加えて、本発明に係る細胞保存容器1では、その先端11bにあるルアー部15において注射針20を取り付け可能に構成されており、注射用シリンジとして使用できるようになっている。したがって、内部に保存した細胞含有溶液Fをそのまま注射針20を介して排出して患者等に投与することができる。なおこのとき、注射針20の取り付けに際しては、ルアー部15に装着されたキャップ14を取り外して、内部に収容した細胞含有溶液Fの流出に注意しながら、そのルアー部15に注射針20を取り付ける(
図7も参照)。
【0067】
(5)連結部
また、必須の態様ではないが、細胞保存容器1においては、蓋体13と、フランジ部12の縁部又は本体部11の側方部のいずれか一方とを連結する連結部を備えていてもよい。
図6は、連結部40を備えた細胞保存容器1の構成例を示す図である。
図6では、一端を蓋体13の鍔部32に接続し、他端をフランジ部12の縁部に接続して、蓋体13とフランジ部12とを連結する連結部40の例を示している。
【0068】
このように連結部40は、蓋体13と、細胞含有溶液Fを収容する本体部11、又はその本体部11の一部から構成されるフランジ部12とを連結して、一体化させている。これにより、フランジ部12における開口部12aから蓋体13を取り外しても、その連結部40を介して本体部11とは連結が維持された状態となるため、蓋体13の離散を防ぐことができる。また、連結部40にて連結することで、フランジ部12における開口部12aへの蓋体13の装着及び取り外しの操作がより簡易となり、使用性が向上する。
【0069】
なお、連結部40は、例えば可撓性を有する樹脂等により構成できる。また、上述したように、
図6に示す連結部40は連結部の態様の一例であり、一端が蓋体13の鍔部32に接続されていることに限られない。例えば、蓋体13の蓋本体31の所定の側面に接続させてもよい。
【0070】
≪2.細胞保存容器を用いた保存及び注射用シリンジバレルとしての使用の流れ≫
図7は、上述した構成を有する細胞保存容器1を用いて細胞含有溶液Fを保存(例えば凍結保存)し、その後、その細胞保存容器1を注射用シリンジバレルとして用いて細胞含有溶液Fを患者等に投与する操作の流れを説明するための図である。
【0071】
先ず、
図7(a)は、細胞保存容器1を構成する本体部11内に細胞含有溶液Fを収容し、その本体部11の後端11aに蓋体13を装着して細胞含有溶液Fを保存するときの様子を示す図である。具体的には、蓋体13が取り外された状態の本体部11の内部に細胞含有溶液Fを収容し、その後、蓋体13を本体部11の開口部12aに装着して密栓する。蓋体13を装着するに際しては、例えば蓋体13を操作者が摘持し、その蓋体13のプラグ部33を、本体部11のフランジ部12における開口部12aを介して内部に挿入するように装着する。また、本体部11のフランジ部12とは反対側の端部(先端11b)にあるルアー部15にはキャップ14が装着されている。
【0072】
次に、
図7(b)は、細胞保存容器1において細胞含有溶液Fを凍結保存等するときの様子を示す図である。保存時においては、細胞保存容器1を構成する本体部11における両端部(11a,11b)の開口がそれぞれ、蓋体13とキャップ14とにより封止された状態となっている。これにより、凍結保存等に際して、内部に収容した細胞含有溶液Fの漏出や流出を防ぐことができる。また、特に限定されないが、例えば、本体部11を直立させて、先端11bが下に、後端11aが上となるような状態で保存することができる。例えばこのような状態で、液体窒素気相下(例えば-78℃以下あるいは-158℃以下の温度雰囲気下)で凍結保存する。
【0073】
図7(b)に示すように、蓋体13が装着された状態では、蓋体13のプラグ部33が細胞保存容器1の本体部11内に位置し、蓋本体31とその蓋本体31の周縁部から延出した鍔部32とは、フランジ部12の面と重なり合うようにしてそのフランジ部12よりも上方に位置するようになる。また、例えば凍結保存等を行った後、解凍する処理を行う際にも、(b)で示すように蓋体13を装着した状態で行う。
【0074】
なお、この凍結保存の処理時には、蓋体13の鍔部32が細胞保存容器1のフランジ部12からはみ出さない位置としておくことが好ましい(
図2(B)の鍔部32Bや
図2(C)の鍔部32Cを参照)。これにより、鍔部32が物理的な障害となることを防止できる。
【0075】
次に、
図7(c)は、本体部11の開口部12aから蓋体13を取り外すときの様子を示す図である。この操作は、凍結保存した細胞含有溶液Fを解凍した後、その細胞保存容器1をそのまま注射用シリンジバレルとして用いて、細胞含有溶液Fを患者等に投与する際の最初のステップとなる。蓋体13の取り外し操作は、例えば、蓋本体31の周縁部から延出した鍔部32を操作者の指や取り外し冶具等で摘持し、鍔部32を摘持した状態で上方に上げる(摘まみ上げる)ようにして行う。これにより、容易に蓋体13を取り外すことができる。なお、蓋体13の取り外しに際しては、蓋本体31や鍔部32を摘持して蓋体13を回転させることで、その鍔部32を細胞保存容器1のフランジ部12からはみ出させた状態で行うことが好ましい(
図2(B)や(C)の鍔部32Aを参照)。
【0076】
続いて、
図7(d)、(e)は、本体部11内に保存した細胞含有溶液Fを患者等に投与するために容器から排出させるときの流れを示すものである。
【0077】
図7(d)は、蓋体13を取り外した本体部11の開口部12aから、プランジャー50を本体部11の内部に挿入するときの様子を示す図である。プランジャー50としては、本体部11の内壁11wに沿って摺動可能なものであればよく、一端にハンドル部51が設けられ、他端にガスケット部52が設けられて構成される公知のものを用いることができる。そして、注射用シリンジとしての一般的な操作で、プランジャー50のハンドル部51を押圧してガスケット部52を開口部12aから本体部11内の所定の位置まで挿入する。
【0078】
次に、
図7(e)は、本体部11のフランジ部12とは反対側の端部(先端11b)にあるルアー部15に注射針20を取り付けるときの様子を示す図である。注射針20の取り付けは、ルアー部15にキャップ14を装着させた状態で本体部11を反転させてルアー部15を上方に向け、この状態でキャップ14を取り外し、そのルアー部15に注射針20を取り付ける。なお、その後、本体部11内の所定の位置まで挿入させているプランジャー50(ガスケット部52)をさらに注射針20が取り付けられている方向に押し込むことによって、注射針20を介して細胞含有溶液Fを排出させることができる。
【0079】
以上のような操作により、細胞保存容器1は、例えば、細胞含有溶液Fを凍結保存するための容器として用いることができ、収容した細胞含有溶液Fを適切に保存できる。そして、凍結保存後においては、本体部11に収容した細胞含有溶液Fを解凍した後、後端11aの開口部12aから本体部11の中空内部にプランジャー50を挿入するとともに、キャップ14が装着される先端11bに注射針20を取り付けることで、そのまま、注射用シリンジとして用いることができる(
図7を参照)。
【0080】
このように、細胞保存容器1によれば、細胞含有溶液Fを適切に凍結保存等するための容器として使用できるとともに、そのまま注射用シリンジバレルとしても使用できる。これにより、保存収容した細胞含有溶液Fを排出させて患者等に投与するときに、注射用シリンジに別途移し替えるといった操作が不要となり、移し替え時に発生する細胞ロスやコンタミネーション等を効果的に防ぐことができる。
【0081】
また、細胞保存容器1に装着される蓋体13によれば、細胞含有溶液Fを適切に凍結保存等するための容器として細胞保存容器1を用いるときに、細胞含有溶液Fを収容した内部を密栓する蓋として効果的に作用する。また、例えば凍結保存する場合においても、膨張によって細胞含有溶液Fが噴き出すといった事態を防ぐことができる。さらに、保存状態において物理的な障害にもならず、複数の蓋体13付きの細胞保存容器1を並べて効率的に保存することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 細胞保存容器
11 本体部
11a 後端
11b 先端
11w 内壁
12 フランジ部
12a 開口部
13 蓋体
31 蓋本体
32,32A,32B 鍔部
33 プラグ部
34 保持部
14 キャップ
15 ルアー部
20 注射針
21 針管
22 針基
40 連結部
50 プランジャー
51 ハンドル部
52 ガスケット部