(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】皮膚細胞の活性化用組成物及び皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/064 20060101AFI20240827BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240827BHJP
A61P 17/00 20060101ALI20240827BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240827BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20240827BHJP
A61K 35/744 20150101ALN20240827BHJP
【FI】
A61K36/064
A61P43/00 107
A61P17/00
A61Q19/00
A61K8/99
A61K35/744
(21)【出願番号】P 2020050119
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2023-01-13
【微生物の受託番号】IPOD FERM BP- 10879
(73)【特許権者】
【識別番号】000006884
【氏名又は名称】株式会社ヤクルト本社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊澤 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山口 るみ
(72)【発明者】
【氏名】柴田 慎也
【審査官】川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-212894(JP,A)
【文献】国際公開第2016/117489(WO,A1)
【文献】特開2017-178842(JP,A)
【文献】国際公開第2012/026346(WO,A1)
【文献】高桑 直也,てん菜糖みつとホエイを原料とした酵母によるセラミドの生産(最終更新日2010年3月6日),独立行政法人農畜産業振興機構ウェブサイト,2010年,https://sugar.alic.go.jp/japan/view/jv_0709d.htm,[online] [検索日:2023年10月19日]
【文献】佐々木 正弘,ナチュラルチーズの製造法,乳業技術,2017年,Vol. 67,pages. 16-30
【文献】N. Philips et al.,Differential Effects of Ceramide on Cell Viability and Extracellular Matrix Remodeling in Keratinocytes and Fibroblasts,Skin Pharmacology and Physiolosy,2009年,Vol. 22, No. 3,pages. 151-157
【文献】Rong-Huei Chen et al.,Effect of Different Concentrations of Collagen, Ceramides, N-acetyl glucosamine, or Their Mixture on Enhancing the Proliferation of Keratinocytes, Fibroblasts and the Secretion of Collagen and/or the Expression of mRNA of Type I Collagen,Journal of Food and Drug Analysis,2008年,Vol. 16, No. 1,pages. 66-74
【文献】高橋 元次,基礎化粧品と皮膚(I),色材協会誌,1989年,Vol. 62, No. 7,pages. 430-438
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/064
A61P 43/00
A61P 17/00
A61K 35/20
A61K 35/744
A61Q 19/00
A61K 8/99
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳酸菌を乳成分含有培地で培養して得られた培養物を原料とする酵母による発酵物を含有する、皮膚細胞の活性化用組成物であって、
前記酵母はウィッカーハモマイセス・ピジュペリ(Wickerhamomyces pijperi)YIT8095株であり、
前記乳酸菌はストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)であり、
前記皮膚細胞は表皮角化細胞であ
り、
前記活性化は、細胞の移動能、接着能又は増殖能の向上である、皮膚細胞の活性化用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳酸菌を乳成分含有培地で培養して得られた該培養物を原料とする酵母による発酵物を利用した、皮膚細胞の活性化用組成物及び皮膚外用剤に関する。
【背景技術】
【0002】
乳酸菌や酵母などの培養物には皮膚に対する保湿効果などの有用性があることが知られており、これらの微生物を利用した化粧品素材の開発が進められている。例えば、特許文献1には、乳成分を含有する培地に乳酸菌を接種して培養し、得られた培養物より不溶性物質を分離した残液からなる皮膚用保湿剤が開示されている。一方、特許文献2、3には、化粧品素材として利用される乳酸菌発酵物の発酵臭を、減圧下に加熱したり、炭酸塩等で処理したりする方法によって、除去・抑制することが記載されている。また、特許文献4、5には、乳成分含有培地で乳酸菌を培養して得られた培養物は、更に酵母で発酵することにより、発酵臭が抑えられるとともに、バラ様やフルーツ様の香りを付与することが可能であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公平2-40643号公報
【文献】特公平2-24247号公報
【文献】特許第4512265号公報
【文献】特許第6449334号公報
【文献】特開2017-212894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、乳酸菌を乳成分含有培地で培養して得られた該培養物に、皮膚細胞を活性化する作用効果があることは知られていなかった。
【0005】
よって、本発明の目的は、皮膚細胞を活性化する効果に優れており、天然物由来素材を用いるので化粧品等の形態としても利用しやすい、皮膚細胞の活性化用組成物を提供することにある。また、その組成物を利用した皮膚外用剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究し、乳酸菌を乳成分含有培地で培養して得られた培養物を、更に酵母で処理することにより得られた発酵物が、皮膚細胞を活性化する効果に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、その第1の観点では、乳酸菌を乳成分含有培地で培養して得られた該培養物を原料とする酵母による発酵物を含有する、皮膚細胞の活性化用組成物を提供するものである。
【0008】
上記組成物においては、前記酵母は、ウィッカーハモマイセス・ピジュペリ(Wickerhamomyces pijperi)、クルイベロマイセス・マキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、及びサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)からなる群から選ばれた1種又は2種以上であることが好ましい。
【0009】
上記組成物においては、前記乳酸菌は、前記乳成分含有培地での培養により乳成分由来代謝物を生じるものであり、前記酵母による発酵のための前記原料は該乳成分由来代謝物を含有するものであることが好ましい。
【0010】
上記組成物においては、前記乳酸菌は、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)であることが好ましい。
【0011】
一方、本発明は、その第2の観点では、上記組成物の皮膚外用剤としての使用を提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、乳酸菌を乳成分含有培地で培養して得られた培養物を、更に酵母で処理することにより得られた発酵物を用いるので、皮膚細胞の活性化用組成物の用途に好適に用いられる。また、その発酵物は、天然物由来素材として、化粧品等、日常的に一般消費者の判断で使用する形態としても利用しやすい。
【0013】
[不可能・非実際的事情の存在]
なお、本発明の構成には、乳酸菌による培養物や酵母による発酵物が含まれるが、その構造又は特性により直接特定することについて、不可能又はおよそ非実際的である事情が存在する。すなわち、本発明により提供される組成物ないし皮膚外用剤は、皮膚細胞を活性化する効果に優れているが、その効果に関与する発酵物には多種多様な成分が複合的に含まれており、それら成分を完全に網羅的に解析して特定することや、あるいは皮膚細胞の活性化に必要な特定の成分を同定することには、相当の試行錯誤及び実験等を要し、著しく過大な経済的支出や時間を強いるものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】試験例1において正常ヒト表皮角化細胞の培養プレート底面への接着能に対する乳酸菌発酵液(LF)又は酵母発酵液1(YW1)の効果を調べた結果を示す図表である。
【
図2】試験例1において正常ヒト表皮角化細胞の培養プレート底面への接着後の増殖能に対する乳酸菌発酵液(LF)又は酵母発酵液1(YW1)の効果を調べた結果を示す図表である。
【
図3】試験例2において正常ヒト表皮角化細胞の培養プレート底面への接着後の増殖能に対する酵母発酵液2~6(YW2、YW3、YW4、YK、又はYS)の効果を調べた結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に用いる乳酸菌は、その培養物が化粧品素材等に適合可能であればよく、特に制限はない。例えば、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等のストレプトコッカス属(Streptococcus属)に属する微生物、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・マリ(Lactobacillus mali)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・デルブルッキィ・サブスピーシーズ・ブルガリカス(Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricus)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)等のラクトバチルス属(Lactobacillus属)に属する微生物、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・ラクチス(Lactococcus lactis subsp. lactis)、ラクトコッカス・ラクチス・サブスピーシーズ・クレモリス(Lactococcus lactis subsp. cremoris)等のラクトコッカス属(Lactococcus属)に属する微生物、エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis)等のエンテロコッカス属(Enterococcus属)に属する微生物、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)、ビフィドバクテリウム・ビフィダム(Bifidobacterium bifidum)、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)等のビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium属)に属する微生物、ペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、ペディオコッカス・ペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)等のペディオコッカス属(Pediococcus属)に属する微生物、ワイセラ・ビリデセンス(Weissella vilidescens)、ワイセラ・コンフューサ(Weissella confusa)等のワイセラ属(Weissella属)に属する微生物等が挙げられる。なかでも、ストレプトコッカス属(Streptococcus属)に属する微生物等が好ましく例示され、より具体的には、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等である。なお、ビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium属)に属する微生物は、ビフィズス菌と称されることもあるが、本発明にかかる乳酸菌に含まれる。乳酸菌は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。すなわち、異なる2種類以上の乳酸菌による処理を順次に行ってもよく、異なる2種類以上の乳酸菌を一時に併用して処理を行うようにしてもよく、また、これらの処理を組み合わせてもよい。
【0016】
本発明に用いる酵母は、その発酵物が化粧品素材等に適合可能であればよく、特に制限はない。例えば、ウィッカーハモマイセス属(Wickerhamomyces属)、クルイベロマイセス(Kluyveromyces属)、サッカロマイセス(Saccharomyces属)、シゾサッカロマイセス属(Schizosaccharomyces属)、ウィッカーハミア(Wickerhamia属)、ピキア属(Pichia属)、エレマスクス属(Eremascus属)、エンドマイセス属(Endomyces属)、ナドソニア属(Nadsonia属)、サッカロミコデス属(Saccharomycodes属)、ハンセニアスポラ属(Hanseniaspora属)、カンジダ属(Candida属)、ガラクトマイセス属(Galactomyces属)、トルラスポラ属(Torulaspora属)、ロッデロマイセス属(Lodderomyces属)、ウィンゲア属(Wingea属)、エンドミコプシス属(Endomycopsis属)、ハンセヌラ属(Hansenula属)、パキソレン属(Pachysolen属)、シテロマイセス属(Citeromyces属)、デバリオマイセス属(Debaryomyces属)、シュワンニオマイセス属(Schwanniomyces属)、デッケラ属(Dekkera属)、サッカロミコプシス属(Saccharomycopsis属)、リポマイセス属(Lipomyces属)、スペルモフソラ属(Spermophthora属)、エレモテシウム属(Eremothecium属)、クレブロテシウム属(Crebrothecium属)、アシュブヤ属(Ashbya属)、ネマトスポラ属(Nematospora属)、メトシュニコウィア属(Metschnikowia属)、コッキディアスクス属(Coccidiascus属)等に属する微生物が挙げられる。なかでも、ウィッカーハモマイセス属(Wickerhamomyces属)に属する微生物、クルイベロマイセス属(Kluyveromyces属)に属する微生物、サッカロマイセス属(Saccharomyces属)に属する微生物等が好ましく例示され、より具体的には、ウィッカーハモマイセス・ピジュペリ(Wickerhamomyces pijperi)、クルイベロマイセス・マキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等である。なお、旧分類においてピキア・ピジュペリ(Pichia pijperi)に分類されていたもので、新たにウィッカーハモマイセス・ピジュペリとして分類され得るものは、本発明にかかるウィッカーハモマイセス・ピジュペリに含まれる。酵母は、1種類を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。すなわち、異なる2種類以上の酵母による処理を順次に行ってもよく、異なる2種類以上の酵母を一時に併用して処理を行うようにしてもよく、また、これらの処理を組み合わせてもよい。
【0017】
本発明においては、乳酸菌を乳成分含有培地で培養して、その培養物を得る。乳成分としては、牛乳、山羊乳、羊乳などの獣乳の生乳、加熱乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、生クリーム、乳清(ホエイ)、ホエイプロテイン等が挙げられる。乳酸菌は、乳成分のみで培養してもよく、乳酸菌を培養する培地中には、乳成分以外の他の成分を含んでいてもよい。培地中の乳成分の含有量としては、乾燥分換算で0.1~100質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、2~5質量%が更に好ましい。乳成分の含有量がこの範囲であれば、乳成分由来代謝物等、後述する酵母発酵のための成分が十分に生成する。他の成分としては、乳酸菌の生育や増殖の点から、グルコース、ガラクトース、ラクトース、フルクトースなどの糖、あるいは、ナトリウム、カリウム、マグネシウムなどの塩等が好ましい。乳酸菌の培養は、常法の通り、乳酸菌を培養培地に接触させて行えばよく、特に限定されないが、生産性の点では、ジャーファーメンターや培養タンクにおいて液体培養することにより乳酸菌の培養物を得ることが好ましい。
【0018】
乳酸菌の培養温度は、特に限定されないが、乳成分由来代謝物等、後述する酵母発酵のための成分を十分に生成させる点から、30~45℃が好ましく、37~42℃がより好ましい。培養時間は、12時間以上が好ましく、18~24時間がより好ましい。培養方法としては、撹拌培養、静置培養、振盪培養、中和培養等が挙げられる。得られた培養物は、遠心分離、フィルターろ過等の分離手段により、菌体を分離・除去して、その上清を後述する酵母発酵に用いることが好ましい。なお、このようにして得られた乳酸菌の培養上清中には、通常、ラクトース、ガラクトース等の糖、アミノ酸、乳酸、タンパク質等が含まれている。
【0019】
本発明においては、上記のようにして得られた乳酸菌の培養物を原料にして、酵母による発酵物を得る。発酵は、常法の通り、酵母を発酵原資に接触させて行えばよく、特に限定されないが、生産性の点では、ジャーファーメンターや培養タンクにおいて液体培養することにより酵母による発酵物を得ることが好ましい。その場合、酵母は、上記乳酸菌の培養物のみで培養することもでき、あるいは乳酸菌を培養する液体培地中には、上記乳酸菌の培養物以外の他の成分を含んでいてもよい。液体培地中の上記乳酸菌の培養物の含有量としては、典型的に例えば、乳酸菌の培養上清を用いる場合、容積分換算で1~100v/v%が好ましく、10~100v/v%がより好ましく、50~100v/v%が更に好ましい。乳酸菌の培養物の含有量がこの範囲であれば、乳酸菌の培養物の分解物等、本発明の効果を奏するための成分が十分に生成する。他の成分としては、酵母の生育や増殖の点から、グルコース、ガラクトース、ラクトース、フルクトースなどの糖、あるいはナトリウム、カリウム、マグネシウムなどの塩等が好ましい。
【0020】
酵母による発酵温度は、特に限定されないが、酵母の生育と増殖の点から、15~30℃が好ましく、20~30℃がより好ましい。発酵時間は、8時間以上が好ましく、24~32時間がより好ましい。発酵の態様としては、上述したように液体培養が好ましく、その場合、撹拌培養、静置培養、振盪培養、中和培養等が挙げられる。
【0021】
得られた発酵物は、そのまま酵母菌体とともに加熱殺菌の処理を施したり、凍結乾燥の処理を施したり、その他、本発明による効果を損なわない範囲で任意の処理を施してもよいが、遠心分離、フィルターろ過等の分離手段により、菌体を分離・除去することが好ましい。また、得られた発酵物の上清に対しては、適宜適当な溶媒で希釈の処理を施したり、凍結乾燥の処理を施したり、蒸留等の濃縮の処理を施したり、本発明による効果を損なわない範囲で任意の処理を施してもよい。
【0022】
本発明においては、上記のようにして得られた発酵物を、皮膚に作用させるようにして用いる。これにより、適用した皮膚の細胞が活性化される。皮膚への適用量としては、任意であるが、典型的に酵母を液体培養して、その培養上清として発酵物を得たときの乾燥分換算で1~1000μg/cm2であることが好ましく、150~300μg/cm2であることがより好ましい。
【0023】
上記のような皮膚への適用形態の目的のためには、本発明にかかる発酵物は、それをそのまま皮膚外用剤として用いたり、あるいは皮膚外用剤の製造工程で配合するようにして用いたりしてもよい。具体的には、例えば、乳液、クリーム、クレンジング、マッサージ、サンスクリーン、化粧下地、クリームファンデーション等の形態の化粧料あるいはその原料として、好適に用いられ得る。なお、ここでいう化粧料は、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律で定義されている医薬品、医薬部外品、化粧品を含む意味である。
【0024】
皮膚外用剤の形態としては、皮膚に作用させる成分を適当な基材部に担持してなる、パック、マスク、ジェル等であってもよい。すなわち、そのような皮膚外用剤の、皮膚に作用させる成分として、好適に用いられ得る。
【0025】
本発明の限定されない任意の態様においては、上記皮膚外用剤には、保湿効果をもたらすために用いられることや、ハリ効果をもたらすために用いられることや、ツヤ効果をもたらすために用いられることなど、任意に機能性を表示してもよい。ここで、皮膚のバリア構造である表皮の最外層を構成する角層は、ケラチン等のタンパク質や、セラミド等の細胞間脂質等により構成されている。すなわち、この角層は、表皮内部の基底層で表皮角化細胞(ケラチノサイト)が細胞増殖し、それが表皮外部に向けて、有棘層、顆粒層と分化(角化)しつつ移動して、最後に細胞死を迎えることで構成されており、健全な皮膚を維持するために、常に新陳代謝が起こっているということができる。よって、そのような新陳代謝にかかわる皮膚細胞を活性化することにより皮膚のバリア構造である表皮の機能性が維持又は改善されて、ひいては保湿やツヤ・ハリ等の効果が得られるものと考えられる。
【実施例】
【0026】
以下実施例を挙げて更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0027】
1.被検試料
(1)第1の試料として、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline)(以下「PBS」もしくは「Cont」という。)を使用した。
【0028】
(2)第2の試料として、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)YIT2084株(FERM BP-10879、寄託日:2006年8月18日)の培養上清を調製した。具体的には、上記菌株を、脱脂粉乳を3質量%含有する培地で培養して、培養上清を0.45μmフィルターでろ過して使用した。この培養上清を分析した結果、1.1質量%のラクトース、0.4質量%の乳酸を含み、pHは4.0であった。以下、第2の試料のことを「乳酸菌発酵液」もしくは「LF」という。
【0029】
(3)第3の試料として、ウィッカーハモマイセス・ピジュペリ(Wickerhamomyces pijperi)YIT8095株(独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)から「NBRC1290株」を入手して本実施例で使用した。)の培養上清を調製した。具体的には、予め上記(2)で調製した乳酸菌発酵液にグルコースを終濃度0.3質量%となるように添加して乳酸菌発酵液含有培地を調製し、この培地1Lを2L用ジャーファーメンターに用意した。別途、グルコースを1質量%含有する同様の乳酸菌発酵液含有培地にて、上記菌株の前培養液としたものを、2L用ジャーファーメンターに入れた上記乳酸菌発酵液含有培地に0.3質量%となる量で植菌し、撹拌回転数100rpm、20℃、pH調整なしの条件で24時間培養して、培養上清を0.45μmフィルターでろ過して使用した。以下、第3の試料のことを「酵母発酵液1」もしくは「YW1」という。
【0030】
(4)第4の試料として、ウィッカーハモマイセス・ピジュペリ(Wickerhamomyces pijperi)YIT12779株(独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)から「NBRC1887株」を入手して本実施例で使用した。)の培養上清を調製した。具体的には、上記(3)と同様の培養を行い、培養上清を0.45μmフィルターでろ過して使用した。以下、第4の試料のことを「酵母発酵液2」もしくは「YW2」という。
【0031】
(5)第5の試料として、ウィッカーハモマイセス・ピジュペリ(Wickerhamomyces pijperi)YIT12780株(独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)から「NBRC102058株」を入手して本実施例で使用した。)の培養上清を調製した。具体的には、上記(3)と同様の培養を行い、培養上清を0.45μmフィルターでろ過して使用した。以下、第5の試料のことを「酵母発酵液3」もしくは「YW3」という。
【0032】
(6)第6の試料として、ウィッカーハモマイセス・ピジュペリ(Wickerhamomyces pijperi)YIT12781株(独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)から「NBRC102059株」を入手して本実施例で使用した。)の培養上清を調製した。具体的には、上記(3)と同様の培養を行い、培養上清を0.45μmフィルターでろ過して使用した。以下、第6の試料のことを「酵母発酵液4」もしくは「YW4」という。
【0033】
(7)第7の試料として、クルイベロマイセス・マキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)YIT12612株(独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)から「NBRC0260株」を入手して本実施例で使用した。)の培養上清を調製した。具体的には、上記(3)と同様の培養を行い、培養上清を0.45μmフィルターでろ過して使用した。以下、第7の試料のことを「酵母発酵液5」もしくは「YK」という。
【0034】
(8)第8の試料として、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)YIT8264T株(独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)から「NBRC10217株」を入手して本実施例で使用した。)の培養上清を調製した。具体的には、上記(3)と同様の培養を行い、培養上清を0.45μmフィルターでろ過して使用した。以下、第8の試料のことを「酵母発酵液6」もしくは「YS」という。
【0035】
2.使用細胞
正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocytes、クラボウ社製)(以下、「NHEK」という。)を購入して使用した。
【0036】
培地は、表皮角化細胞基礎培地である「Humedia-KB2」(クラボウ社製)(以下、「KB2培地」という。)、および表皮角化細胞増殖用培地である「HuMedia-KG2」(クラボウ社製)(以下、「KG2培地」)を用いた。培養は、37℃、5%CO2雰囲気下の条件下に行った。
【0037】
[試験例1]
試験例1では、被検試料として乳酸菌発酵液(LF)と酵母発酵液1(YW1)とを比較した。
【0038】
1-1.接着
NHEKを3×104 cells/cm2となるように24ウェルプレートに播種し、各ウェルに0.5v/v%、1v/v%、又は2v/v%の濃度となるように乳酸菌発酵液(LF)又は酵母発酵液1(YW1)を添加したKG2培地を、0.5ml加えた。24時間培養後、PBSで1回洗浄し、エタノール固定を行った後、ヤヌスグリーンで染色して、培養プレート底面に接着している細胞の細胞数を求めた。
【0039】
1-2.細胞増殖
NHEKを3×104 cells/cm2となるようにKG2培地に懸濁し、24ウェルプレートに播種し、24時間培養した。PBSで1回洗浄し、0.5v/v%、1v/v%、又は2v/v%の濃度となるように乳酸菌発酵液(LF)又は酵母発酵液1(YW1)を添加したKB2培地を0.5ml加え、更に24時間培養した。培養後、上記1-1と同様にしてヤヌスグリーンで染色して細胞数を求めた。
【0040】
その結果、
図1に示されるように、培地に各発酵液を添加すると、添加しない場合に比べて、培養プレート底面に接着した細胞の細胞数(接着細胞数)が増加した。また、
図2に示されるように、培地に各発酵液を添加すると、添加しない場合に比べて、培養プレート底面に接着した後に増殖した細胞の細胞数(到達細胞数)が、添加しない場合に比べて増加した。また、細胞の接着能についても、増殖能についても、いずれも、酵母発酵液のほうが乳酸菌発酵液よりも効果が顕著であった。
【0041】
以上から、乳酸菌を乳成分含有培地で培養してなる培養物や、それを酵母により発酵してなる発酵物には、皮膚細胞を活性化する作用効果があることが明らかとなった。また、乳成分含有培地に対して、乳酸菌による処理に加えて、更に酵母による発酵処理を加えることで、皮膚細胞を活性化する効果がさらに高められることが明らかとなった。
【0042】
[試験例2]
被検試料として、「酵母発酵液2(YW2)、酵母発酵液3(YW3)、酵母発酵液4(YW4)、酵母発酵液5(YK)、及び酵母発酵液6(YS)について、正常ヒト表皮角化細胞に対する効果を調べた。
【0043】
2-1.細胞増殖
試験例1の「1-2.細胞増殖」と同様にして、正常ヒト表皮角化細胞の培養プレート底面への接着後の増殖能に対する効果を調べた。なお、液体培地に添加する各発酵液の濃度は0.5v/v%とした。
【0044】
図3に示されるように、ウィッカーハモマイセス・ピジュペリ(Wickerhamomyces pijperi)の他の菌株や、クルイベロマイセス・マキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)やサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)でも、皮膚細胞の活性化効果が認められ、試験例1と同様に、その活性化の程度は、乳酸菌発酵液に比べて顕著であった。