(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ペリスタルティックポンプおよび生物学的組織から細胞を分離するための装置
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20240827BHJP
C12M 3/08 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C12M1/00 A
C12M3/08
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020069938
(22)【出願日】2020-04-08
【審査請求日】2023-04-05
(32)【優先日】2019-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520094891
【氏名又は名称】ミルテニー バイオテック ベー.フェー. ウント コー. カー・ゲー
【氏名又は名称原語表記】Miltenyi Biotec B.V. & Co. KG
【住所又は居所原語表記】Friedrich-Ebert-Strasse 68, 51429 Bergisch Gladbach, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】フレデリク フリッチュ
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ-ペーター ペータース
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06296460(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0064144(US,A1)
【文献】特開2017-099382(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0287613(US,A1)
【文献】特開2013-137034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に対して少なくとも1つの袋(2)を形成する柔軟膜(1)を備えており、それぞれの袋
(2)には、前記袋(2)に流体を通す1つの入口開口部(4)と、前記袋(2)から前記流体を放出する1つの出口開口部(5)とが設けられており、少なくとも1つのローラベアリング(6)が、軸線(7)の周りに回転しかつ前記少なくとも1つの袋(2)に圧縮力を加えるように構成されて
おり、前記袋(2)は、前記ローラベアリング(6)によって押し付けられる頂端角度を備えた形状を有しており、該頂端角度は、45~110度であることを特徴とする、ペリスタルティックポンプ(10)。
【請求項2】
少なくとも1つの袋
(2)が、少なくとも部分的に、前記軸線(7)の周りに回転する前記ローラベアリング(6)の軌道に配置されていることを特徴とする、請求項1記載のペリスタルティックポンプ。
【請求項3】
少なくとも1つの袋
(2)が、前記支持体に対し、開放されたチャネルとして、かつ前記柔軟膜の平面から突出する頂端部として形成されていることを特徴とする、請求項1記載のペリスタルティックポンプ。
【請求項4】
複数の袋
(2)が設けられており、該袋
(2)には、第1の袋
(2)の前記出口開口部(5)と、第2の袋
(2)の前記入口開口部(4)との間に流体経路が設けられていることを特徴とする、請求項1記載のペリスタルティックポンプ。
【請求項5】
複数の袋
(2)が設けられており、該複数の袋
(2)には、複数の袋
(2)の前記出口開口部(5)からの共通の流体経路と、複数の袋
(2)の前記入口開口部(4)に至る共通のチューブとが設けられていることを特徴とする、請求項1記載のペリスタルティックポンプ。
【請求項6】
前記袋(2)は、0.1~1.0の高さ対幅の縦横比を有する内腔部を有することを特徴とする、請求項1から
5までのいずれか1項記載のペリスタルティックポンプ。
【請求項7】
前記少なくとも1つのローラベアリング(6)は、少なくとも1つの前記袋(2)および/または前記支持体に対して垂直な軸線(7)の周りに回転するように構成されていることを特徴とする、請求項1から
6までのいずれか1項記載のペリスタルティックポンプ。
【請求項8】
前記ローラベアリングは、円錐体として形成されており、前記ローラベアリング(6)の前記軸線(
7)には、前記ローラベアリング(6)と同じ形状または角度が与えられていることを特徴とする、請求項1から
7までのいずれか1項記載のペリスタルティックポンプ。
【請求項9】
チャンバ(10)内に生物学的組織を固定するための支持体(12)およびクランプ(13)と、前記生物学的組織内に穿通するように構成された少なくとも1つのテーパ状噴射器(11)と、前記チャンバ用の蓋(15)とを備える、生物学的組織用の灌流装置であって、
前記装置は、前記テーパ状噴射器(11)と流体連通された、請求項1記載のペリスタルティックポンプをさらに有することを特徴とする、生物学的組織用の灌流装置。
【請求項10】
前記蓋(15)は、前記クランプ(13)に装着されるように構成されたダウンホルダ(14)を有することを特徴とする、請求項
9記載の灌流装置。
【請求項11】
前記蓋(15)は、前記ダウンホルダ(14)に装着されるように構成されたアジャスタ(17)を有することを特徴とする、請求項
10記載の灌流装置。
【請求項12】
前記支持体(12)および前記クランプ(13)は、機械的に結合されるように構成されており、下側部分(40)は、前記組織を支持するように構成されており、上側部分(50)は、前記下側部分(40)に前記組織を押し付けるように構成されていることを特徴とする、請求項
9から
11までのいずれか1項記載の灌流装置。
【請求項13】
前記ダウンホルダ(14)は、前記蓋から前記チャンバ(10)に入って前記支持体(12)まで延在する少なくとも1つのチューブ(18)を有することを特徴とする、請求項
10または11記載の灌流装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペリスタルティックポンプと、ペリスタルティックポンプを備え、生物学的組織に適切な剥離剤を送り出すことによって生物学的組織から生体標的細胞を分離するための装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
上皮細胞のように相互に強く結合することで生物学的組織を形成する細胞は、組織から単一の生体細胞に分離するのが困難である。生物学的組織の下部構造を機械的に破壊し、得られた破片から単一の細胞を分離することは可能ではあるが、このようにして得られる無傷の生体細胞の生体の収量は、かなり少ない。
【0003】
より緩やかな灌流法において器官から細胞を分離することが知られているが、これには、適切な血管を通し、連続した緩衝液による器官の煩雑な灌流が必要である。このような方法は、心筋細胞または幹細胞などの分離に対して知られている。
【0004】
例えば、米国特許出願公開第2011/0295149号明細書には、組織断片の研磨抽出によって組織を可溶化する装置が開示されている。この装置は、真空によって組織に固定され、研磨構成要素を用いて細胞が組織から切断され、さらに適切な酵素に溶解される。
【0005】
欧州特許出願公開第3171152号明細書には、生物学的組織から生体標的細胞を分離する装置が開示されている。この灌流装置は、2つの部分からなる筐体と、複数の中空穿通構造体用の保持部と、生物学的組織用の支持部とを備えており、この支持部は、中空穿通構造体が組織内に押し込まれる、保持部との間隔で筐体に配置されている。次に、中空穿通構造部を通して剥離剤が組織に施与される。欧州特許出願公開第3171152号明細書に記載されている装置および方法にとって重要であるのは、体積および圧力の適切な割合で組織に流体を施与することである。この目的のために、欧州特許出願公開第3171152号明細書は、筐体に組み込まれるかまたは外部に設けられて適切なチューブセットを用いて装置に接続されるギヤポンプに言及しているが、ポンプのタイプおよび技術については言及していない。さらに、欧州特許出願公開第3171152号明細書による装置は、使い捨てである。筐体に組み込まれたポンプは、装置と共に廃棄されるため、ポンプは、安価に製造され小型でありながら、なお固形組織に流体を押し込むのに十分なパワーを有しなければならない。
【0006】
さらに、米国特許出願公開第2019/064144号明細書には、複数のローラベアリングが押し付けられる柔軟膜に埋めこまれたチューブによって形成されたペリスタルティックポンプが開示されている。ローラベアリングの圧力により、チューブの横断面積が減少し、そのために流体力学的抵抗が増大する。加えられる圧力のかなりの量が柔軟膜内に分散され、チューブの機械的な変形をアシストする。したがって、このシステムには、流体圧力を供給するために高い機械的負荷が必要であり、またこのシステムには、柔軟膜の機械的な変形に起因して熱を発生する傾向がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明の目的は、支持体(3)に対して少なくとも1つの袋(2)を形成する柔軟膜(1)を備えており、それぞれの袋に、袋(2)に流体を通す1つの入口開口部(4)と、袋(2)から流体を放出する1つの出口開口部(5)とが設けられており、少なくとも1つのローラベアリング(6)が、軸線(7)の周りに回転しかつ柔軟膜に圧縮力を加えるように構成されている、ペリスタルティックポンプ(10)である。
【0008】
本発明の別の目的は、チャンバ(10)内に生物学的組織を固定するための支持体(12)およびクランプ(13)と、生物学的組織内に穿通するように構成された少なくとも1つのテーパ状噴射器(11)と、チャンバ用の蓋(15)とを備える、生物学的組織用の灌流装置であり、装置は、テーパ状噴射器(11)と流体連通された、ペリスタルティックポンプをさらに有しており、ペリスタルティックポンプ(10)は、支持体(3)に対して少なくとも1つの袋(2)を形成する柔軟膜(1)を有しており、それぞれの袋には、袋(2)に流体を通す1つの入口開口部(4)と、袋(2)から流体を放出する1つの出口開口部(5)とが設けられており、少なくとも1つのローラベアリング(6)が、軸線(7)の周りに回転しかつ柔軟膜に圧縮力を加えるように構成されている。
【0009】
好ましくは2つまたは4つのローラベアリング(6)が、袋(2)と支持体とによって提供される柔軟膜の頂端部に圧縮力を加えるように構成されている。この圧縮力により、ローラベアリングの位置において袋の体積が減少し、かつ/または、袋内の流体力学的抵抗が増大する。ローラベアリングが回転することにより、袋の入口開口部からその出口開口部に流体が押圧されるかまたは圧送される(入口開口部は、ローラベアリングの回転の方向において出口開口部の上流に配置されている)。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】支持体に対して配置された、柔軟膜の袋領域を示す図である。
【
図4】組織のサンプルがどのように灌流装置に挿入されるかを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のペリスタルティックポンプ
図1に示すように、本発明のペリスタルティックポンプは、支持体(3)に対して配置された柔軟膜(1)を有している。柔軟膜(1)には、支持体(3)と共に1つ以上の袋(ブラダ)(2)を形成する、少なくとも1つのチャネルが設けられている。チャネルまたは袋は、一方の面が支持体によって閉じられており、また他方の面側が頂端部(
図2の2’)として形成されている。したがって、袋は、柔軟膜に埋め込まれておらずかつ/または柔軟膜によって取り囲まれた閉じたチューブとして形成されているが、支持体の側が開かれておりかつ袋の形態で柔軟膜の表面から広がっているチャネルとして柔軟膜によって形成されている。好ましい変形形態では、袋は、頂端部(
図2の2’、すなわちローラベアリング(6)が袋に接触する、袋の頂点)において、柔軟膜の厚みよりも大きな厚みを有している。
【0012】
柔軟膜に対して圧縮力を加え、これにより、ローラベアリングの位置において袋の体積を減少させ、かつ/または袋内の流体力学的抵抗を増大させるようにするために、この頂端部に対して少なくとも1つのローラベアリング(6)が押し付けられる。少なくとも1つの、好ましくは2つまたは4つのローラベアリング(6)が、適切なモータ(図示せず)によって軸線(7)の周りに回転するように構成されている。柔軟膜(すなわち袋)には、ローラベアリングの回転中に袋(2)に流体を通す1つの入口開口部(4)と、袋(2)から流体を放出する1つの出口開口部(5)とが、チャネル内の複数の位置に設けられている。
【0013】
柔軟膜(1)は、ネオプレーン、シリコーンまたはゴムのような任意のフレキシブルかつ耐久性のある材料から製造可能である。
【0014】
好ましくは、ローラベアリング(6)には、少なくとも1つの袋(2)に圧縮力を加える、予荷重が加えられたばねが設けられている。
図1に示した傾斜軸は、(とりわけ)予荷重が加えられたばねと同じ機能を有している。
【0015】
少なくとも1つの袋が、好ましくは、少なくとも部分的に、軸線(7)の周りに回転するローラベアリング(6)の軌道に配置されている。好ましくは、1つ以上の袋(2)は、全体が、回転するローラベアリング(6)の経路に位置決めされている。すなわち、袋(2)は、少なくとも部分的に、回転するローラベアリング(6)の経路の直径にほぼ等しい直径を有する円の形をしている。例えば、袋(2)は、軸線(7)の周りに半径0.5~5cmの円の形を有していてよい。
【0016】
別の実施形態では、1つ以上の袋(2)は、一部分だけが(例えば、全長の50%にわたって)、回転するローラベアリング(6)の経路に配置されている。この変形形態では、チャネル/袋は、直線的な形状を有していてよいが、ローラベアリングの軸の周りに向けられていなければならない。
【0017】
複数の袋が設けられている場合、袋は、第1の袋の出口開口部(5)と、第2の袋の入口開口部(4)との間に流体経路を有していてよい。この場合、第1の袋の入口開口部は、袋(2)に流体を通す1つの入口開口部(4)と同じであり、(流れ/ベアリングの回転の方向において)最後の袋の出口開口部は、袋から流体が放出される1つの出口開口部(5)と同じである。
【0018】
複数の袋が設けられる別の変形形態では、袋には、複数の袋の出口開口部(5)からの共通の流体経路と、複数の袋の入口開口部(4)に至る共通のチューブとが設けられている。
【0019】
袋(2)は、流体が充填される場合、約1~10マイクロリットルの、総流体体積を有していてよい。
【0020】
図2に示すように、袋の最大高さ(hb)は、0.5~2mmであり、好ましくは0.8~1.2mmである。ローラベアリングが袋を押し付ける位置(
図2の2’)における柔軟膜の厚み(hm)は、0.5~2mmであり、好ましくは1.0~1.5mmであり、膜それ自体の厚み(dm)は、約0.3~0.7mmである。
【0021】
体積および/または圧力の所望の流れに依存して、ローラベアリング(6)は、軸線(7)の周りを10~5000回転/分の速度で回転する。
【0022】
好ましくは、少なくとも1つのローラベアリング(6)は、少なくとも1つの袋(2)および/または支持体に対して垂直方向に、軸線(7)の周りを回転するように構成されている。柔軟膜に対する圧縮力と、軸線(7)周りの回転とのこの組み合わせにより、流体は、袋を通して第1の入口開口部から最後の出力開口部に押される。
【0023】
言い換えると、少なくとも1つのローラベアリング(6)によって袋(2)に加えられる圧縮力が、ローラベアリング(6)の位置における袋の流れインピーダンスを10~100倍に増大させる。
【0024】
結果的に不所望の熱を生じさせる過剰に大きな圧縮力を加えることなく、袋を通る流体の流速を増大させるために、袋(2)は、ローラベアリング(6)によって押し付けられる(b1とb2との間の角度として
図2の2’に示したような)頂端角度を備えた形状を有していてよく、この頂端角度は、45~110度、好ましくは70~100度である。
【0025】
袋の形状は、さらに、
図2の(a)で示したように袋と支持体とが成す角度によって表すことが可能である。この角度は、好ましくは10~90度であり、特に20~60度である。
【0026】
袋(2)は、好ましくはレンズ形であり、(
図2において2r/hbの)0.1~1.0の高さ対幅の縦横比を有する内腔部を有していてよい。2つ以上の袋が設けられる場合、これらの袋は、同じ形状および/または内腔部を有している。
【0027】
図1に示したように、ローラベアリングは、好ましくは非円筒形形状を有しており、円錐体として形成されている。この形状により、回転するローラベアリングによって柔軟膜に引き起こされる剪断力に起因する、この装置内での熱の形成が回避される。この実施形態では、ローラベアリング(6)の軸線(8)には、ローラベアリング(6)と同じ形状または角度が与えられており、すなわち、軸線(8)は傾斜しておりかつ回転軸線(7)とは直交していない。
【0028】
本発明の灌流装置
小型の設計および高い流体圧力に起因して、上記のペリスタルティックポンプは、有利には、生物学的組織用の灌流装置の一部分として使用可能である。すでに述べたように、このような灌流装置は、組織を少なくとも部分的に解離するために、かつ/または生物学的組織から細胞を剥離するために、適切な量の体積および圧力で、酵素のような流体(剥離剤)を生態学的組織に施与するために使用される。このために、中空針のような中空穿通構造体が、組織に押し込まれて、剥離剤が、中空穿通構造体を通して組織内に圧送される。細胞の十分な剥離率を得るために、組織を通して、十分な流量または圧力で剥離剤を圧送しなければならない。
【0029】
「生物学的組織の標的細胞への解離」という語は、標的細胞を殺傷、破壊また溶解することなく、細胞構造、細胞集合体または細胞マトリクスが少なくとも部分的に破壊される任意の方法のことを指す。最善の状態では、標的細胞は、単一の分離された生体細胞として得られる。例えば、肝臓が生物学的組織として使用される場合、本発明の装置により、適切な酵素が肝臓に施与される。肝臓組織は、解離されて単一の複数の肝細胞が得られるが、これらの細胞は、肝臓を離れない。標的細胞を採取するために、肝臓の上被細胞シート(肝臓の被膜)が機械的に開かれて、残りの組織から肝細胞を洗い落とすことが可能である。
【0030】
図3には、例として、いくつかの変形形態を有する本発明の灌流装置が示されている。この装置のすべての実施形態について共通であるのは、すでに開示したペリスタルティックポンプが、組織に穿通するように構成された少なくとも1つのテーパ状噴射器(11)と流体連通されていることである。組織に穿通することにより、流体が組織内に施与される。この装置は、一方の端部では蓋(15)を用いて、他方の端部では(1、8、6として図示した)ペリスタルティックポンプを用いて、閉じることが可能な円筒形のチャンバ(10)を有している。組織は、テーパ状噴射器(11)によって穿通されるために、支持体(12)上のチャンバに入れられ、クランプ(13)によって機械的に固定される。
【0031】
本発明のこの装置は、第1実施形態では、クランプ(13)に装着されるように構成されたダウンホルダ(14)を備えた蓋(15)を有していてよい。
【0032】
さらに、蓋(15)は、ダウンホルダ(14)に装着されるように構成されたアジャスタ(17)を有していてよく、かつ/または、蓋(15)は、選択的にルアーロックを有する少なくとも1つの開口部(16)を有していてよい。
【0033】
別の実施形態では、ダウンホルダ(14)は、蓋からチャンバ(10)内に入って支持体(12)まで延在する少なくとも1つのチューブ(18)を有している。
【0034】
本発明による灌流装置は、生物学的組織と機械的に接触する部分だけが、すなわち複数のテーパ状噴射器(11)用の保持部および支持体が、1回だけ使用して廃棄可能であるのに対し、チャンバおよび蓋のようなこの装置の構成要素は、適切な洗浄の後、複数回使用可能であるという利点を有している。本発明の変形形態では、すべての構成要素を含む全体装置が使い捨てとして構成される。
【0035】
生物学的組織(6)を解離するための薬剤および/または緩衝剤は、所望の細胞を組織から抽出するのに必要であれば、ペリスタルティックポンプによって生物学的組織(6)に圧送される。
【0036】
好ましくは、テーパ状噴射器(11)は、針の開口部が生物学的組織内に配置されていない場合に、すなわち、針が組織内に穿通しなかったか、または組織を貫通して穿通した場合に、針を通る試薬の流れを止める手段を有している。
【0037】
テーパ状噴射器(11)は、0.05~5mmの、好ましくは0.2~1mmの、最も好ましくは0.3~0.7mmの、基部における外径と、これとは独立して0.02~4mmの、好ましくは0.1~1mmの、最も好ましくは0.1~0.6mmの、基部における内径と、これとは独立して1~100mmの、好ましくは2~20mmの、最も好ましくは4~5mmの長さとを有していてよい。
【0038】
テーパ状噴射器(11)の個数は、生物学的組織のサイズに依存し、2個と50個との間で、好ましくは5個と25個との間で変わり得る。テーパ状噴射器(11)は、任意の幾何学形状およびアレイで保持部に配置することができ、また同じ長さまたは異なる長さを有していてよい。保持部は、主筐体に機械的に固定してはならない。こうすることにより、生物学的組織のサイズおよび厚みに依存して、異なる個数のテーパ状噴射器(11)および/または異なる長さのテーパ状噴射器(11)および/または異なる幾何学形状もしくはアレイのテーパ状噴射器(11)を有する異なるチャンバを使用可能である。
【0039】
ダウンホルダ(14)およびクランプ(13)を押し付け、また最終的には生物学的組織を押し付けるアジャスタ(17)により、生物学的組織のサイズ、厚みおよび外径に依存してテーパ状噴射器(11)の穿通深さを調整することができる。
【0040】
本発明の装置の開示した構成要素は、ステンレス鋼、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリエチレンおよびポリプロピレンのようなポリオレフィン、ポリカーボネート、ポリオキシエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ乳酸またはポリアミドのような同じ材料または異なる材料から製造可能である。
【0041】
本発明の装置は、当業者には既知の任意の方法で製造可能である。好ましい方法は、射出成形、および例えば、押出積層法、熱溶解積層法、光造形法、光硬化樹脂デジタルライト処理による3Dプリンティングである。
【0042】
本明細書で使用される「穿通」という語は、生物学的組織に剥離剤を施与するために、針を生物学的組織内に配置することを意味する。生物学的組織を通して針を貫通させる、または刺し通すことは望ましくない。というのは、この場合には剥離剤が、十分に生物学的組織に入らないかまたは十分に入らず、標的細胞が剥離されないからである。本発明の処理中、大多数の針が、生物学的組織内には配置され、生物学的組織を貫通するかまたは刺し通さないように注意すべきである。最善の状態では、すべての針が、生物学的組織の厚みの30~70%で、好ましくは約50%で生物学的組織内に配置される。
【0043】
生物学的組織
本発明の装置は、脊椎動物または無脊椎動物の器官のような、好ましくは、脾臓、心臓、肝臓、脳または別の神経組織、腎臓、肺臓、膵臓、乳房、臍帯、皮膚、胎盤、卵巣、卵管、子宮、前立腺、扁桃腺、胸腺、胃、精巣、気管、軟骨、腱、骨、骨格筋、平滑筋、消化管、結腸、小腸、膀胱、尿道、眼、胆嚢、細胞培養および腫瘍からの細胞小器官のようなすべてのタイプの生物学的組織に使用可能である。
【0044】
標的細胞
本発明の装置は、組織常在細胞、特に脊椎動物または無脊椎動物組織からの細胞、好ましくは上皮細胞、内皮細胞、線維芽細胞、筋線維芽細胞、肝細胞、肝星細胞、心筋細胞、有足細胞、ケラチノサイト、メラノサイト、神経細胞、星状細胞、小膠細胞および希突起膠細胞を含む神経性細胞、樹状細胞、好中球、マクロファージを含む白血球、T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞および自然リンパ球1~3型細胞を含むリンパ球、MSCを含む組織幹細胞ならびに上記の細胞の前駆細胞である、すべてのタイプの標的細胞を生成するのに使用可能である。
【0045】
解離剤
組織内に施与される流体は、「解離剤」を含んでいてよく、この語は、標的細胞それ自体に影響を及ぼすことなく組織内における標的細胞の固定を破壊するために使用される物質を含有する、緩衝剤のような任意の流体に関連する。この固定は、細胞と、細胞外マトリクスまたは隣接細胞との相互作用から生じる。これらの相互作用、例えば、密着結合、ギャップ結合、接着斑および半接着斑は、主に、例えばカドヘリン、コネクシン、クローディンおよびインテグリンなどのタンパク質によって、多くの場合にカルシウム依存的に形成されている。したがって、組織の完全性を破壊する剥離剤は、カルシウム不含の薬剤および/または低カルシウム剤、および/または細胞外マトリクスまたは細胞外タンパク質・タンパク質相互作用を低下させる酵素を含有していてよい。剥離剤の成分の施与は、順次または同時であってよい。
【0046】
例えば、生物学的組織(6)を解離するための薬剤は、トリプシン、キモトリプシン、パパイン、コラゲナーゼ、エラスターゼ、ディスパーゼ、テルモリシン、ヒアルロニダーゼ、クロストリパイン、およびクロストリジウム ヒストリチクム由来の中性プロテアーゼ、プロナーゼ、DNase I、ペプシン、プロテイナーゼK、リゾチーム、(例えばEDTAまたはクエン酸)2価イオンのためのキレート剤ならびにこれらの混合物とから成る群から選択される。
【0047】
好ましいのは、カルシウム不含または低カルシウム緩衝剤に続いて、細胞外マトリクスまたは細胞外タンパク質・タンパク質の相互作用を低下させる酵素含有緩衝剤を別々に施与することである。低カルシウム薬剤は、EDTA、EGTAまたはクエン酸を含有する緩衝剤であってよい。
【0048】
本発明の装置/処理の取り扱い方
図4には、この装置の使い方が略示されている。はじめにシャーレの上に支持体(12)が配置され、支持体(12)の上に組織(20)が配置される。次に組織(20)がクランプ(13)によって支持体(12)に固定される。支持体(12)およびクランプ(13)は、この装置の動作条件下で構成要素が分離しないようにするために互いに機械的に噛み合う手段(例えばノッチ)を有していてよい。この「スタック」には、すでに結合された蓋(15)およびダウンホルダ(14)が装着されており、結果的に得られる構造物が、次に、テーパ状噴射器(11)を有するチャンバ(10)に挿入される。好ましくは、蓋(15)およびチャンバ(10)は、水密の結合を保証するためにねじを有している。組織(20)へのテーパ状噴射器(11)の穿通深さは、好ましくは調整のためのねじを有するアジャスタ(17)によって調整可能である。
図4では、すでに開示したペリスタルティックポンプは省略されているが、「ポンプ」という語で示したようにチャンバに装着可能である。