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  • 特許-偏光子保護フィルムおよび偏光板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】偏光子保護フィルムおよび偏光板
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240827BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240827BHJP
   C08J 7/043 20200101ALI20240827BHJP
【FI】
G02B5/30
C08J5/18 CEY
C08J7/043 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020070610
(22)【出願日】2020-04-09
(65)【公開番号】P2021033258
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2023-02-27
(31)【優先権主張番号】P 2019148965
(32)【優先日】2019-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】日色 知樹
(72)【発明者】
【氏名】藤原 寛
(72)【発明者】
【氏名】桝田 長宏
【審査官】横川 美穂
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-145388(JP,A)
【文献】特開2016-033552(JP,A)
【文献】特開2018-027652(JP,A)
【文献】特開2010-055062(JP,A)
【文献】特開2010-176022(JP,A)
【文献】特開2010-224345(JP,A)
【文献】特開2018-155812(JP,A)
【文献】特開2016-004242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
C08J 5/18
C08J 7/043
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を有するポリウレタンと官能性以上の多官能性エポキシ系架橋剤とを含む易接着剤組成物からなる易接着層、および、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂フィルムを備えた偏光子保護フィルム。
【請求項2】
前記主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が、下記式(1)で表される単位を有する(メタ)アクリル系樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の偏光子保護フィルム。
【化1】

(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素または炭素数1~8のアルキル基であり、R3は水素、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または炭素数6~10のアリール基である。)
【請求項3】
前記(メタ)アクリル系樹脂における前記式(1)で表される単位の含有量が2重量%以上30重量%以下であることを特徴とする請求項2に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項4】
前記多官能性エポキシ系架橋剤が、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルである、請求項に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項5】
前記易接着剤組成物が、コロイダルシリカまたはコロイダルジルコンを含有することを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項6】
前記主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂フィルムの配向複屈折が、-1.7×10-4~1.7×10-4である、請求項1~のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項7】
前記主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂フィルムの位相差値が、面内位相差Δndが5.0nm以下、厚み方向位相差Rthが20.0nm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項8】
前記主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂フィルムの光弾性係数が、-10×10-12~10×10-12Pa-1である、請求項1~のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項9】
前記主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂フィルムが、架橋弾性体を含むことを特徴とする請求項1~のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項10】
前記架橋弾性体が、ゴム状重合体からなるコア層とガラス状重合体からなるシェル層を有するコアシェル型弾性体であることを特徴とする請求項に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項11】
偏光子と、接着剤層と、請求項1~10のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルムとを有する偏光板。
【請求項12】
前記接着剤層がポリビニルアルコール樹脂を含む接着剤組成物からなる、請求項11に記載の偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光子保護フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置には、通常、液晶セルの両側に二枚の偏光板が配置される。偏光板は偏光子の両側に偏光子保護フィルムを貼合したものが一般的であり、偏光子保護フィルムとしては、通常、セルロース系材料からなるフィルムが使用される。近年、耐久性の向上を目的として、(メタ)アクリル系材料からなる偏光子保護フィルムが提案されている。
【0003】
(メタ)アクリル系フィルムは強度が低いことから、強度向上のために二軸延伸などの処理を施したり、架橋弾性体を含有させたり等の検討が行われている。
【0004】
しかし、一般に(メタ)アクリル系フィルムは、セルロース系フィルムに比較して偏光子との親和性が乏しいことから、接着性を向上させるために(メタ)アクリル系フィルムに親水化処理(コロナ放電処理やプラズマ処理)を施すことや、易接着層を設けることが提案されている(例えば、特許文献1、2、3)。
【0005】
易接着層としては、水系ウレタン樹脂と架橋剤を含むものが一般的に知られており、架橋剤としてはオキサゾリン系のものが好ましいことが報告されている(例えば、特許文献4)。
【0006】
また、架橋弾性体を含む(メタ)アクリル系樹脂フィルムに適した易接着層として、エポキシ系架橋剤が報告されている(例えば、特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2007-127893号公報
【文献】特開2008-216910号公報
【文献】特許第5354733号公報
【文献】特許第5399082号公報
【文献】特許第6479362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献5に記載のエポキシ系架橋剤では、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの組成によっては、十分な接着性が得られない場合があることが判明した。本発明の目的は、偏光子との密着性に優れ、強度に優れた偏光子保護フィルムを有する、耐久性に優れた偏光板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、(メタ)アクリル系樹脂フィルムに、カルボキシル基を有するポリウレタンおよび三官能性以上の多官能性エポキシ系架橋剤を含有する易接着剤組成物からなる易接着層を形成することで、上記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、カルボキシル基を有するポリウレタンと官能性以上の多官能性エポキシ系架橋剤とを含む易接着剤組成物からなる易接着層、および、主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂フィルムを有する偏光子保護フィルムに関する。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記多官能性エポキシ系架橋剤が、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルである。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記易接着剤組成物が、コロイダルシリカまたはコロイダルジルコンを含有する。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂フィルムの配向複屈折が、-1.7×10-4~1.7×10-4である。
【0015】
好ましい実施形態においては、上記主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂フィルムの位相差値が、面内位相差Δndが5.0nm以下、厚み方向位相差Rthが20.0nm以下である。
【0016】
好ましい実施形態においては、上記主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂フィルムの光弾性係数が、-10×10-12~10×10-12Pa-1 ある。
【0017】
好ましい実施形態においては、上記主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が、下記式(1)で表される単位を有する。
【0018】
【化1】
【0019】
(式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素または炭素数1~8のアルキル基であり、R3は水素、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または炭素数6~10のアリール基である。)
好ましい実施形態においては、上記式(1)で表される単位の含有量が2重量%以上30重量%以下である。
【0020】
好ましい実施形態においては、上記主鎖に環構造を有する(メタ)アクリル系樹脂を含む樹脂フィルムが架橋弾性体を有する。
【0021】
好ましい実施形態においては、上記架橋弾性体がゴム状重合体からなるコア層とガラス状重合体からなるシェル層を有するコアシェル型弾性体である。
【0022】
本発明の偏光板は、偏光子と、接着剤層と、本発明の偏光子保護フィルムとを有する。
【0023】
好ましい実施形態においては、上記接着剤層がポリビニルアルコール樹脂を含む接着剤組成物からなる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の偏光子保護フィルムは、強度に優れ、偏光子との密着性にも優れる。本発明の偏光子保護フィルムを使用すれば、耐久性に優れる偏光板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の1つの好ましい実施形態による偏光板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されるものではない。
A.(メタ)アクリル系樹脂フィルム
(メタ)アクリル系樹脂フィルム(以下、「本発明のアクリル系樹脂フィルム」と称することがある。)は、(メタ)アクリル系樹脂を含むアクリル系樹脂組成物から形成される。
【0027】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、例えば、(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含む樹脂成分を溶融押出することにより得られる。
【0028】
上記(メタ)アクリル系樹脂としては、Tg(ガラス転移温度)が、110℃以上が好ましく、115℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。Tgが110℃以上である(メタ)アクリル系樹脂を主成分として含むことにより、耐熱性、耐久性に優れたものとなる。
【0029】
上記(メタ)アクリル系樹脂としては、任意の適切な(メタ)アクリル系樹脂を採用し得る。例えば、ポリメタクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸エステル、メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸共重合体、メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸メチル-アクリル酸エステル-(メタ)アクリル酸共重合体、(メタ)アクリル酸メチル-スチレン共重合体(MS樹脂など)、脂環族炭化水素基を有する重合体(例えば、メタクリル酸メチル-メタクリル酸シクロヘキシル共重合体、メタクリル酸メチル-(メタ)アクリル酸ノルボルニル共重合体など)が挙げられる。好ましくは、ポリ(メタ)アクリル酸メチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1-6アルキル(炭素数が1~6のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系樹脂)が挙げられる。より好ましくは、メタクリル酸メチルを主成分(50~100重量%、好ましくは70~100重量%)とするメタクリル酸メチル系樹脂が挙げられる。
【0030】
本発明で使用する(メタ)アクリル系樹脂は、ガラス転移温度が110℃以上であることが好ましい。(メタ)アクリル系樹脂のガラス転移温度が110℃未満であると、高温環境下でのフィルムの寸法変化が大きくなる。実使用上、他の光学フィルムと積層することが多く、その場合反りが発生する可能性がある。
【0031】
ここで、ガラス転移温度が110℃以上の(メタ)アクリル系樹脂としては、主鎖に環構造を有している(メタ)アクリル系樹脂を好適に利用することができる。例えば、その環構造としてグルタルイミド環、ラクトン環、無水マレイン酸、マレイミド及び無水グルタル酸からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の環構造を挙げることができる。これらによれば、耐熱性付与が可能となる。また、その中でも、特に環構造がグルタルイミドであることが、生産の簡便性やコスト、湿気に対する品質安定性の観点で好ましい。
【0032】
ガラス転移温度が110℃以上の(メタ)アクリル系樹脂中の環構造の含有量は2重量%~30重量%の範囲であることが好ましい。この範囲内で環構造の含有量が多いとガラス転移温度が上がり、環構造の含有量が少ないと位相差が小さくなるので好ましい。
【0033】
以下、各環構造について説明する。
【0034】
環構造としてグルタルイミドを有する(メタ)アクリル系樹脂は、下記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位とメタクリル酸メチル単位とを含有する樹脂であり、アクリル酸エステル単位が1重量%未満であるポリメタクリル酸メチルを加熱溶融し、ポリメタクリル酸メチルに対してイミド化剤で処理することによって得られる。
【0035】
【化2】
【0036】
(ここで、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素または炭素数1~8のアルキル基を示し、R3は水素、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、または炭素数6~10のアリール基を示す。)
本発明に係るグルタルイミド環の含有量は、一般式(1)のR3がメチル基である場合には例えば以下の方法で測定できる値である。1H-NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて、樹脂の1H-NMR測定を行う。3.5~3.8ppm付近のメタクリル酸メチルのO-CH3プロトン由来のピークの面積Aと、3.0~3.3ppm付近のグルタルイミドのN-CH3プロトン由来のピークの面積Bより、求められたモル比を用いて重量換算を行う。
【0037】
グルタルイミド環の含有量が2重量%未満であると所望の耐熱性を付与することが出来ない場合があり、30重量%を超えるとイミド化剤の添加量が増加することや、残存揮発成分の増加による臭気や、厚み方向位相差Rthが増大する場合がある。
【0038】
この工程において、メタクリル酸メチル以外にも、例えば、アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルなども併用しても良いが、これらを併用する場合はアクリル酸エステル単位が1重量%未満であることが好ましい。さらにアクリル酸メチル単位が0.5重量%未満であることがより好ましく、0.3重量%未満であることがさらに好ましい。
【0039】
また上記モノマー以外にも、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体を共重合することも可能である。
【0040】
上記ポリメタクリル酸メチル樹脂の構造は、特に限定されるものではなく、リニアー(線状)ポリマー、ブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、および架橋ポリマー等のいずれであってもよい。
【0041】
ブロックポリマーの場合、A-B型、A-B-C型、A-B-A型、およびこれら以外のタイプのブロックポリマーのいずれであってもよい。コアシェルポリマーの場合、ただ一層のコアおよびただ一層のシェルのみからなるものであってもよいし、それぞれが多層からなるものであってもよい。
【0042】
ポリメタクリル酸メチル樹脂の製造方法としては特に限定されず、公知の乳化重合法、乳化-懸濁重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法などが適用可能であるが、光学分野に用いる場合、不純物が少ないとの観点から、塊状重合法、溶液重合法が特に好ましい。例えば、 特開昭56-8404、特公平6-86492、特公平7-37482、あるいは、特公昭52-32665などに記載の方法に準じて製造できる。
【0043】
環構造としてグルタルイミドを含有する(メタ)アクリル系樹脂の製造方法は、上記ポリメタクリル酸メチル樹脂を加熱溶融して、イミド化剤で処理する工程(イミド化工程)を含む。これによりグルタルイミドを有する(メタ)アクリル系樹脂が製造できる。
【0044】
上記イミド化剤は、上記一般式(1)で表されるグルタルイミド環を生成できるものであれば特に制限されず、WO2005/054311記載のもの等が挙げられる。具体的には、例えば、アンモニア、メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、i-プロピルアミン、n-ブチルアミン、i-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有アミン、シクロヘキシルアミン等などの脂環式炭化水素基含有アミンを挙げることができる。
【0045】
また、尿素、1,3-ジメチル尿素、1,3-ジエチル尿素、1,3-ジプロピル尿素のように、加熱により、上記例示したアミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。
【0046】
上記例示したイミド化剤のうち、コスト、物性の面からメチルアミン、アンモニア、シクロヘキシルアミンを用いることが好ましく、メチルアミンを用いることが特に好ましい。
【0047】
また、常温にてガス状のメチルアミンなどは、メタノールなどのアルコール類に溶解させた状態で使用してもよい。
【0048】
このイミド化の工程において、上記イミド化剤の添加割合を調整することにより、得られる(メタ)アクリル系樹脂におけるグルタルイミド単位および(メタ)アクリル酸エステル単位の割合を調整することができる。
【0049】
また、イミド化の程度を調整することにより、得られる(メタ)アクリル系樹脂の物性や、本発明にかかる(メタ)アクリル系樹脂を成形してなる光学用フィルムの光学特性等を調整することができる。
【0050】
イミド化剤はポリメタクリル酸メチル樹脂100重量部に対して0.5~20重量部であることが好ましい。イミド化剤の添加量が上記範囲を超えると、樹脂中にイミド化剤が残存し、成型後の外観欠陥や発泡を誘発することがある。また、イミド化剤の添加量が上記範囲を下回ると、最終的に得られる樹脂組成物のグルタルイミド環の含有量が低くなるためその耐熱性が著しく低下し、成型後の外観欠陥を誘発することがある。
【0051】
なお、このイミド化の工程においては、上記イミド化剤に加えて、必要に応じて、閉環促進剤(触媒)を添加してもよい。
【0052】
加熱溶融し、イミド化剤と処理する方法は、特に限定されなく、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。例えば、押出機や、バッチ式反応槽(圧力容器)等を用いる方法により、上記ポリメタクリル酸メチル樹脂をイミド化することができる。
【0053】
押出機を用いて加熱溶融し、イミド化剤と処理する場合、用いる押出機は特に限定されるものではなく、各種押出機を用いることができる。具体的には、例えば、単軸押出機、二軸押出機または多軸押出機等を用いることができる。
【0054】
中でも、二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機によれば、ポリメタクリル酸メチル樹脂に対するイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)の混合を促進することができる。
【0055】
二軸押出機としては、非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、および噛合い型異方向回転式等を挙げることができる。中でも、噛合い型同方向回転式を用いることが好ましい。噛合い型同方向回転式の二軸押出機は、高速回転可能であるため、原料ポリマーに対するイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)の混合を、より一層促進することができる。
【0056】
上記例示した押出機は単独で用いてもよいし、複数を直列につないで用いてもよい。例えば、特開2008-273140に記載のタンデム型反応押出機を用いることができる。
【0057】
押出機中でイミド化を行う場合は、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂を押出機の原料投入部から投入し、該樹脂を溶融させ、シリンダ内を充満させた後、添加ポンプを用いてイミド化剤を押出機中に注入することにより、押出機中でイミド化反応を進行させることができる。
【0058】
この場合、押出機中での反応ゾーンの温度(樹脂温度)を180℃~270℃にて行うことが好ましく、さらに200~250℃にて行うことがより好ましい。反応ゾーンの温度(樹脂温度)が180℃未満では、イミド化反応がほとんど進行せず、耐熱性が低下する傾向にある。反応ゾーン温度が270℃を超えると、樹脂の分解が著しくなることから、得られる(メタ)アクリル系樹脂から形成しうるフィルムの耐折曲性が低下する傾向がある。ここで、押出機中での反応ゾーンとは、押出機のシリンダにおいて、イミド化剤の注入位置から樹脂吐出口(ダイス部)までの間の領域をいう。
【0059】
押出機の反応ゾーン内での反応時間を長くすることにより、イミド化をより進行させることができる。押出機の反応ゾーン内の反応時間は10秒より長くするのが好ましく、さらには30秒より長くするのがより好ましい。10秒以下の反応時間ではイミド化がほとんど進行しない可能性がある。
【0060】
押出機での樹脂圧力は、大気圧~50MPaの範囲内とすることが好ましく、さらには1MPa~30MPaの範囲内が好ましい。1MPa未満ではイミド化剤の溶解性が低く、反応の進行が抑えられる傾向がある。また、50MPa以上では通常の押出機の機械耐圧の限界を越えてしまい、特殊な装置が必要となりコスト的に好ましくない。
【0061】
また、押出機を使用する場合は、未反応のイミド化剤や副生物を除去するために、大気圧以下に減圧可能なベント孔を装着することが好ましい。このような構成によれば、未反応のイミド化剤、もしくはメタノール等の副生物やモノマー類を除去することができる。
【0062】
また、上記グルタルイミド環を含有する(メタ)アクリル系樹脂の製造には、押出機に代えて、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置やスーパーブレンドのような竪型二軸攪拌槽などの高粘度対応の反応装置も好適に用いることができる。
【0063】
上記グルタルイミド環を含有する(メタ)アクリル系樹脂を、バッチ式反応槽(圧力容器)を用いて製造する場合、そのバッチ式反応槽(圧力容器)の構造は特に限定されるものでない。
【0064】
具体的には、ポリメタクリル酸メチル樹脂を加熱により溶融させ、攪拌することができ、イミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤と閉環促進剤)を添加することができる構造を有していればよいが、攪拌効率が良好な構造を有するものであることが好ましい。
【0065】
このようなバッチ式反応槽(圧力容器)によれば、反応の進行によりポリマー粘度が上昇し、撹拌が不十分となることを防止することができる。このような構造を有するバッチ式反応槽(圧力容器)としては、例えば、住友重機械(株)製の攪拌槽マックスブレンド等を挙げることができる。
【0066】
イミド化方法の具体例としては、例えば、 特開2008-273140、特開2008-274187記載の方法など公知の方法をあげることができる。
【0067】
本発明の製造方法では、上記イミド化工程に加え、エステル化剤で処理する工程を含むことができる。このエステル化工程によって、イミド化工程で得られたイミド化樹脂の酸価を所望の範囲内に調整することができる。
【0068】
エステル化剤としては、例えば、ジメチルカーボネート、2,2-ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p-クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル-t-ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ-N-ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテルなどが挙げられる。これらの中でも、コスト、反応性などの観点から、ジメチルカーボネート、トリメチルオルトアセテートが好ましく、コストの観点からジメチルカーボネートが好ましい。
【0069】
このイミド化の工程において、エステル化剤はポリメタクリル酸メチル樹脂100重量部に対して0~12重量部であることが好ましく、0~8重量部であることがより好ましい。
【0070】
エステル化剤が上記範囲内であれば酸価を適切な範囲に調整できる。一方上記範囲を外れると未反応のエステル化剤が樹脂中に残存する可能性があり、当該樹脂を使って成型を行った際、発泡や臭気発生の原因となることがある。
【0071】
上記エステル化剤に加え、触媒を併用することもできる。触媒の種類は特に限定されるものではないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族3級アミンが挙げられる。これらの中でもコスト、反応性などの観点からトリエチルアミンが好ましい。
【0072】
このエステル化工程では、エステル化剤によって処理することなく、加熱処理等のみを行うこともできる。加熱処理(押出機内での溶融樹脂の混練/分散)のみを行った場合、イミド化工程にて副生したイミド樹脂中のカルボン酸同士の脱水反応および/またはカルボン酸とアルキルエステル基の脱アルコール反応、等によりカルボン酸の一部または全部を酸無水物基とすることができる。このとき、閉環促進剤(触媒)を使用することも可能である。
【0073】
エステル化剤によって処理する場合であっても、加熱処理による酸無水物基化が進行させることも可能である。
【0074】
イミド化工程およびエステル化工程を経たイミド樹脂中には、未反応のイミド化剤や、未反応のエステル化剤、反応により副生した揮発成分および樹脂分解物等を含んでいるため、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが可能である。
【0075】
環構造としてラクトン環を有する(メタ)アクリル系樹脂は、分子内にラクトン環構造を持つ熱可塑性の重合体(分子鎖中にラクトン環構造が導入された熱可塑性の重合体)であれば、限定はされず、その製造方法についても限定されないが、好ましくは、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体(a)を重合によって得た(重合工程)後に、得られた重合体(a)を加熱処理することによりラクトン環構造を重合体に導入する(ラクトン環化縮合工程)ことによって得られる。
【0076】
重合工程においては、下記一般式(2)で表される不飽和単量体を含む単量体成分の重合反応を行うことにより、分子鎖中に水酸基とエステル基とを有する重合体を得る。
【0077】
【化3】
【0078】
一般式(2)
(ただし、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素原子または炭素数1~20のアルキル基を表す。)
【0079】
上記一般式(2)で表される不飽和単量体としては、例えば、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸イソプロピル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸ノルマルブチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸ターシャリーブチルなどが挙げられる。なかでも、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチルが好ましく、耐熱性向上効果が高い点で、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチルが特に好ましい。これらの不飽和単量体は1種のみ用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0080】
単量体成分中の、上記一般式(2)で表される不飽和単量体の含有割合は、5~50重量%が好ましく、より好ましくは10~40重量%、さらに好ましくは10~30重量%である。上記含有割合が5重量%よりも少ないと、得られるラクトン環含有重合体の耐熱性、耐溶剤性、表面硬度が低下するおそれがあり、50重量%よりも多いと、ラクトン環構造を形成する際に架橋反応が起こってゲル化し易くなり、流動性が低下して溶融成形しにくくなる場合があったり、未反応の水酸基が残りやすくなるために成形の際にさらに縮合反応が進行して揮発性物質が発生してシルバーストリークが入りやすくなったり、厚み方向位相差Rthが増大するなどのおそれがある。
【0081】
単量体成分は、上記一般式(2)で表される不飽和単量体以外の、その他の単量体を含んでいてもよい。該その他の単量体としては、本発明の効果を損なわない範囲で選択すれば、限定はされないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、水酸基含有単量体、不飽和カルボン酸、下記一般式(3)で表される不飽和単量体が好ましく挙げられる。上記その他の単量体は、1種のみ用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
【0082】
【化4】
【0083】
一般式(3)
(ただし、R6は水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子、炭素数1~20のアルキル基、アリール基、-OAc基、-CN基、-CO-R7基、または-C-O-R8基を表し、Ac基はアセチル基を表し、R7およびR8は水素原子または炭素数1~20のアルキル基を表す。)
【0084】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、上記一般式(2)で表される不飽和単量体以外の(メタ)アクリル酸エステルであれば、限定はされないが、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ベンジルなどのアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ベンジルなどのメタクリル酸エステル;が挙げられ、これらは1種のみ用いてもよいし2種以上を併用してもよい。なかでも特に、耐熱性、透明性の点から、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0085】
上記(メタ)アクリル酸エステルを用いる場合、単量体成分中のその含有割合は、本発明の効果を十分に発揮させる上で、10~95重量%が好ましく、より好ましくは10~90重量%、さらに好ましくは40~90重量%、特に好ましくは50~90重量%である。
【0086】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂の機械的強度を向上させるために架橋弾性体を含んでもよい。架橋弾性体は、公知の懸濁重合、分散重合、乳化重合、溶液重合、塊状重合等の重合方法によって製造できる。特に以下に記載するようなコアシェル型構造を有する架橋弾性体を製造するには、懸濁重合、分散重合、乳化重合等の重合方法を用いることが好ましい。
【0087】
架橋弾性体としては、ゴム状重合体からなるコア層とガラス状重合体(硬質重合体)からなるシェル層とを有するコアシェル型弾性体が好ましい。さらにゴム状重合体からなるコア層は、最内層あるいは中間層としてガラス状重合体からなる層を一層以上有していても良い。
【0088】
コア層を構成するゴム状重合体のTgは20℃以下が好ましく、-60~20℃がより好ましく、-60~10℃がさらに好ましい。コア層を構成するゴム状重合体のTgが20℃を超えると、(メタ)アクリル系樹脂の機械的強度の向上が十分ではないおそれがある。シェル層を構成するガラス状重合体(硬質重合体)のTgは、50℃以上が好ましく、50~140℃がより好ましく、60~130℃がさらに好ましい。シェル層を構成するガラス状重合体のTgが50℃より低いと、(メタ)アクリル系樹脂の耐熱性が低下するおそれがある。
【0089】
本願において、「ゴム状重合体」および「ガラス状重合体」の重合体のガラス転移温度は、ポリマーハンドブック[Polymer Hand Book(J. Brandrup, Interscience1989)]に記載されている値を使用してFoxの式を用いて算出した値を用いることとする(例えば、ポリメチルメタクリレートは105℃であり、ポリブチルアクリレートは-54℃である)。
【0090】
上記コアシェル型弾性体におけるコア層の含有割合は、好ましくは30~95重量%、より好ましくは50~90重量%である。コア層におけるガラス状重合体層の割合は、コア層の総量100重量%に対して0~60%、好ましくは0~45%、より好ましくは10~40%である。上記コアシェル型弾性体中におけるシェル層の含有割合は、好ましくは5~70重量%、より好ましくは10~50重量%である。
【0091】
上記コアシェル型弾性体には、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切なその他の成分を含んでいても良い。
【0092】
上記コア層を構成するゴム状重合体を形成する重合性モノマーとしては、任意の適切な重合性モノマーを使用してもよい。
【0093】
上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマーは、アルキル(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマー100重量%中、アルキル(メタ)アクリレートは50重量%以上含まれることが好ましく、50~99.9重量%含まれることがより好ましく、60~99.9重量%含まれることがさらに好ましい。
【0094】
上記アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウロイル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等、アルキル基の炭素数が2~20のアルキル(メタ)アクリレートを挙げることができる。これらのアルキル基は、脂環式あるいは芳香族の環状置換基、分岐構造、あるいは官能基を有していても良い。これらのなかでも、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート等が好ましく、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレートがより好ましい。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0095】
上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマーは、分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーを含むことが好ましい。上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマー中、分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーは0.01~20重量%含まれることが好ましく、0.1~20重量%含まれることがより好ましく、0.1~10重量%含まれることがさらに好ましく、0.2~5重量%含まれることが特に好ましい。
【0096】
上記分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーとしては、例えば、ジビニルベンゼン等の芳香族ジビニルモノマー、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、オリゴエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート等や、ウレタンジ(メタ)アクリレート、エポキシジ(メタ)アクリレート、トリアリルイソシアヌレート等を挙げることができる。また、異なる反応性のビニル基を有する多官能性モノマーとして、例えば、アリル(メタ)アクリレート、ジアリルマレエート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネート等を挙げることができる。これらのなかでも、エチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、アリルメタクリレートが好ましい。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0097】
上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマーには、上記アルキル(メタ)アクリレートおよび分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーと共重合可能な他の重合性モノマーを含んでも良い。上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマー中、他の重合性モノマーは0~49.9重量%含まれることが好ましく、0~39.9重量%含まれることがより好ましい。
【0098】
上記他の重合性モノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等の芳香族ビニル、芳香族ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、シアン化ビニリデン、メチルメタクリレート、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート等を挙げることができる。また、他の重合性モノマーとしては、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等の官能基を有するモノマーでもよい。具体的には、エポキシ基を有するモノマーとして、例えば、グリシジルメタクリレート等を挙げることができ、カルボキシル基を有するモノマーとして、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等を挙げることができ、水酸基を有するモノマーとして、例えば、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルアクリレート等を挙げることができ、アミノ基を有するモノマーとして、例えば、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート等を挙げることができる。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0099】
また、上記ゴム状重合体を形成する重合性モノマーは、連鎖移動剤を少量併用しても良い。このような連鎖移動剤としては、広く公知のものが使用可能であるが、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、チオグリコール酸誘導体などが例示できる。
【0100】
上記シェル層および、コア層中のガラス状重合体層を構成するガラス状重合体を形成する重合性モノマーとしては、任意の適切な重合性モノマーを使用してもよい。
【0101】
上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマーとしては、アルキル(メタ)アクリレートおよび芳香族ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種のモノマーを含むことが好ましい。上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマー100重量%中、アルキル(メタ)アクリレートおよび芳香族ビニルモノマーから選ばれる少なくとも1種が50~100重量%含まれることが好ましく、60~100重量%含まれることがより好ましい。
【0102】
上記アルキル(メタ)アクリレートとしては、アルキル基の炭素数が1~8のものが好ましい。また、これらのアルキル基は、脂環式あるいは芳香族の環状置換基、分岐構造、あるいは官能基を有していても良い。このようなアルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2エチルヘキシル(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらの中では特にメチルメタクリレートが好ましい。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0103】
上記芳香族ビニルモノマーとしては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α-メチルスチレン等を挙げることができ、これらのなかでも、スチレンが好ましい。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0104】
上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマーは、分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーを含んでいても良い。上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマー100重量%中、分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーは0~10重量%含まれることが好ましく、0~8重量%含まれることがより好ましく、0~5重量%含まれることがさらに好ましい。
【0105】
上記分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーの具体例としては、前述したものと同様のものを挙げることができる。
【0106】
上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマーは、上記アルキル(メタ)アクリレートおよび分子内に2個以上のビニル基を有する多官能性モノマーと共重合可能な他の重合性モノマーを含んでいても良い。上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマー100重量%中、他の重合性モノマーは0~50重量%含まれることが好ましく、0~40重量%含まれることがより好ましい。
【0107】
上記他の重合性モノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル、シアン化ビニリデン、前述したもの以外のアルキル(メタ)アクリレート、ウレタンアクリレート、ウレタンメタクリレート等を挙げることができる。また、エポキシ基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基等の官能基を有するものでもよい。エポキシ基を有するモノマーとしては、例えば、グリシジルメタクリレート等を挙げることができ、カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、マレイン酸、イタコン酸等を挙げることができ、水酸基を有するモノマーとしては、例えば、2-ヒドロキシメタクリレート、2-ヒドロキシアクリレート等を挙げることができ、アミノ基を有するモノマーとしては、例えば、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルアクリレート等を挙げることができる。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0108】
更に、上記ガラス状重合体を形成する重合性モノマーは、ゴム状重合体層に使用するものと同様の、公知の連鎖移動剤を少量併用する事も好ましい。
【0109】
本発明におけるコアシェル型弾性体の製造方法としては、コアシェル型の粒子を製造し得る任意の適切な方法を採用することができる。
【0110】
例えば、コア層を構成するゴム状重合体を形成する重合性モノマーを懸濁または乳化重合させて、ゴム状重合体粒子を含む懸濁または乳化分散液を製造し、続いて、該懸濁液または乳化分散液にシェル層を構成するガラス状重合体を形成する重合性モノマーを加えてラジカル重合させ、ゴム状重合体粒子の表面をガラス状重合体が被覆してなる多層構造を有するコアシェル型弾性体を得る方法が挙げられる。ここで、ゴム状重合体を形成する重合性モノマー、および、ガラス状重合体を形成する重合性モノマーは、一段で重合しても良いし、組成比を変更して2段以上で重合してもよい。
【0111】
本発明のアクリル系樹脂フィルムの物性バランスを確保するためには、上記コアシェル型弾性体の構造を適宜制御することが望ましい。
【0112】
上記コアシェル型弾性体の好ましい構造としては、例えば、(a)軟質でゴム状のコア層および、硬質でガラス状のシェル層を有し、上記コア層が(メタ)アクリル系架橋弾性重合体層を有するもの、(b)上記ゴム状のコア層が、その内部にガラス状の層を一層以上有する多層構造を有し、更にコア層の外側にガラス状のシェル層を有するものなどが挙げられる。各層のモノマー種を適宜選択することによって、(メタ)アクリル系樹脂の諸物性(機械的特性、光学特性、特に、配向複屈折や光弾性係数)を任意に制御することができる。軟質でゴム状の層は、重合体のガラス転移温度が20℃未満、好ましくは0℃未満であることが好ましく、硬質でガラス状の層は、重合体のガラス転移温度が0℃以上、好ましくは20℃以上であることが好ましい。
【0113】
コアシェル型弾性体の更に好ましい構造の具体例としては、例えば、(i)上記コアシェル型弾性体のシェル層がアルキルアクリレートを3重量%以上、より好ましくは10重量%以上、更に好ましくは15重量%以上含む非架橋のメタクリル樹脂であるもの、(ii)上記コアシェル型弾性体のシェル層がアルキルアクリレートの含有量の異なる2段以上の多層からなり、トータルでアルキルアクリレートを10重量%以上、より好ましくは15重量%以上含む非架橋のメタクリル樹脂であるもの、(iii)上記コアシェル型弾性体のコア層が、アルキルメタクリレート、多官能性モノマー、アルキルメルカプタン、適宜その他モノマーの混合物を重合したガラス状重合体層の存在下に、アクリルアクリレート、多官能性モノマー、アルキルメルカプタン、適宜その他のモノマーの混合物を重合したゴム状重合体層を形成した多層構造を有するもの、(iv)上記コアシェル型弾性体のコア層が、有機過酸化物をレドックス型重合開始剤として使用して重合したガラス状重合体層の存在下に、過酸(過硫酸、過リン酸塩等)を熱分解型開始剤として使用して重合したゴム状重合体層を形成した多層構造を有するもの、等が例示される。このような好ましいコアシェル型弾性体の構造上の設計要素は、一つだけを有しても良いし、二つ以上の複数の設計要素を併用しても良い。このような構造を有することにより、本発明の(メタ)アクリル系樹脂中でコアシェル型弾性体が良好に分散しやすくなり、フィルムを形成した際に未分散や凝集による欠陥が少なく、また、強度、靭性、耐熱性、透明性、外観に優れ、さらに温度変化や応力による白化が抑制され、品質の優れたフィルムを得ることが出来る。
【0114】
本発明におけるコアシェル型弾性体を乳化重合、懸濁重合等により製造する場合には、公知の重合開始剤を用いることができる。特に好ましい重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、過リン酸ナトリウム等の過リン酸塩、アゾビスイソブチロニトリル等の有機アゾ化合物、クメンハイドロパーオキサイド、ターシャリーブチルハイドロパーオキサイド、1,1ジメチル-2ヒドロキシエチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド化合物、ターシャリーブチルイソプロピルオキシカーボネート、ターシャリーブチルパーオキシブチレート等のパーエステル類、ベンゾイルパーオキサイド、ジブチルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド等の有機パーオキサイド化合物などが挙げられる。これらは熱分解型重合開始剤として使用してもよく、硫酸第一鉄などの触媒及びアスコルビン酸、ソジウムホルムアルデヒドスルホキシレート等の水溶性還元剤の存在下にレドックス型重合開始剤として使用しても良く、重合するべき単量体組成、層構造、重合温度条件等に応じて適宜選定すれば良い。
【0115】
本発明におけるコアシェル型弾性体を乳化重合により製造する場合には、公知の乳化剤を用いて通常の乳化重合により製造することができる。公知の乳化剤としては、例えばアルキルスルフォン酸ナトリウム、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルフォコハク酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、脂肪酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩等の陰イオン性界面活性剤や、アルキルフェノール類、脂肪族アルコール類とプロピレンオキサイド、エチレンオキサイドとの反応生成物等の非イオン性界面活性剤等が示される。これらの界面活性剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に要すれば、アルキルアミン塩等の陽イオン性界面活性剤を使用してもよい。このうち、得られたコアシェル型弾性体の熱安定性を向上させる観点から、特にはポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウムなどのリン酸エステル塩(アルカリ金属、又はアルカリ土類金属)を用いて重合することが好ましい。乳化重合により得られるコアシェル型弾性体ラテックスは、噴霧乾燥、あるいは一般的に知られるように、ラテックスに凝固剤として電解質あるいは有機溶剤等を添加することでポリマー分を凝固し、適宜加熱・洗浄・水相の分離等の操作を実施してポリマー分の乾燥を行ない、塊状あるいは粉末状のコアシェル型弾性体が得られる。凝固剤としては、水溶性電解質や有機溶剤等、公知のものが使用できるが、得られた共重合体の成形時の熱安定性を向上させる観点や生産性の面からは、塩化マグネシウムあるいは硫酸マグネシウム等のマグネシウム塩や、酢酸カルシウムや塩化カルシウム等のカルシウム塩を用いることが好ましい。
【0116】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、(メタ)アクリル系樹脂100重量部に対してコアシェル型弾性体を1~40重量部含むことが好ましく、より好ましくは2~35重量部、さらに好ましくは3~25重量部である。コアシェル型弾性体の含有量が1重量部未満であると、(メタ)アクリル系樹脂の機械的強度の向上が十分ではなく、40重量部を超えると、(メタ)アクリル系樹脂の耐熱性が低下するおそれがある。
【0117】
上記コアシェル型弾性体の好ましい粒子径としては、軟質のコア層の粒子径が1~500nmであることが好ましく、10~400nmであることがより好ましく、50~300nmであることがさらに好ましく、70~300nmであることが特に好ましい。上記コアシェル型弾性体のコア層の粒子径が1nm未満であると、(メタ)アクリル系樹脂の機械的強度の向上が十分ではなく、500nmよりも大きいと、(メタ)アクリル系樹脂の耐熱性や透明性が損なわれるおそれがある。
【0118】
コアシェル型弾性体のコア層の粒子径は、コアシェル架橋弾性体とスミペックスEXとを50:50の重量比でブレンドしたコンパウンドを成形し得られたフィルムを、透過型電子顕微鏡(日本電子製 JEM-1200EX)にて、加速電圧80kV、RuO4染色超薄切片法で撮影し、得られた写真からゴム粒子画像を無作為に100個選択し、それらの粒子径の平均値を求めることができる。
【0119】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、配向複屈折が小さいほどよく、-1.7×10-4~1.7×10-4であることが好ましい。このような樹脂を使用することで、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの位相差値を小さくすることができる。
【0120】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、光弾性係数が小さいほどよく、-10×10-12~10×10-12Pa-1が好ましく、-4×10-12~4×10-12Pa-1がより好ましい。
【0121】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、上記(メタ)アクリル系樹脂以外に、他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。他の熱可塑性樹脂としては、オレフィン系重合体、ハロゲン化ビニル系重合体、スチレン系重合体、エステル系重合体、アミド系重合体等が挙げられる。
【0122】
本発明のアクリル系樹脂フィルムにおける他の熱可塑性樹脂の含有割合は、(メタ)アクリル系樹脂組成物100重量%において0~50重量%が好ましく、0~30重量%がより好ましい。
【0123】
本発明のアクリル系樹脂フィルムは、必要に応じて任意の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、耐光安定剤、耐候安定剤、熱安定剤等の安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、可塑剤、滑剤等が挙げられる。
【0124】
(フィルムの製造方法)
本発明のアクリル系樹脂フィルムの製造方法の一実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。つまり、本発明に係る(メタ)アクリル系樹脂を成形してフィルムを製造できる方法であれば、従来公知のあらゆる方法を用いることができる。
【0125】
具体的には、例えば、射出成形、溶融押出成形、インフレーション成形、ブロー成形、圧縮成形、等を挙げることが出来る。また、本発明に係る(メタ)アクリル系樹脂を溶解可能な溶剤に溶解させた後、成形させる溶液流延法やスピンコート法によって、本発明に係るフィルムを製造することが出来る。
【0126】
中でも溶剤を使用しない溶融押出法を用いることが好ましい。溶融押出法によれば、製造コストや溶剤による地球環境や作業環境への負荷を低減することができる。
【0127】
以下、本発明に係るフィルムの製造方法の一実施形態として、本発明に係る(メタ)アクリル系樹脂を溶融押出法により成形してフィルムを製造する方法について詳細に説明する。なお、以下の説明では、溶融押出法で得られたフィルムを、溶液流延法等の他の方法で得られたフィルムと区別して、「溶融押出フィルム」と称する。
【0128】
本発明に係る(メタ)アクリル系樹脂を溶融押出法によりフィルムに成形する場合、まず、本発明に(メタ)アクリル系樹脂を、押出機に供給し、該(メタ)アクリル系樹脂を加熱溶融させる。
【0129】
(メタ)アクリル系樹脂は、押出機に供給する前に、予備乾燥することが好ましい。このような予備乾燥を行うことにより、押出機から押し出される樹脂の発泡を防ぐことができる。
【0130】
予備乾燥の方法は特に限定されるものではないが、例えば、原料(すなわち、本発明に係る(メタ)アクリル系樹脂をペレット等の形態にして、熱風乾燥機や真空乾燥機等を用いて行うことができる。
【0131】
次に、押出機内で加熱溶融された(メタ)アクリル系樹脂を、ギアポンプやフィルターを通して、Tダイに供給する。このとき、ギアポンプを用いれば、樹脂の押出量の均一性を向上させ、フィルム長手方向の厚みムラを低減させることができる。一方、フィルターを用いれば、(メタ)アクリル系樹脂中の異物を除去し、欠陥の無い外観に優れたフィルムを得ることができる。
【0132】
次に、Tダイに供給された(メタ)アクリル系樹脂を、シート状の溶融樹脂として、Tダイから押し出す。そして、該シート状の溶融樹脂を2つの冷却ロールで挟み込んで冷却し、フィルムを製膜する。
【0133】
上記シート状の溶融樹脂を挟み込む2つの冷却ロールの内、一方は、表面が平滑な剛体性の金属ロールであり、もう一方は、表面が平滑な弾性変形可能な金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールであることが好ましい。
【0134】
このような剛体性の金属ロールと金属製弾性外筒を備えたフレキシブルロールとで、上記シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却して製膜することにより、表面の微小な凹凸やダイライン等が矯正されて、表面が平滑で厚みムラが5μm以下であるフィルムを得ることができる。
【0135】
なお、本明細書において、「冷却ロール」とは、「タッチロール」および「冷却ロール」を包含する意味で用いられる。
【0136】
上記剛体性の金属ロールとフレキシブルロールとを用いる場合であっても、何れの冷却ロールも表面が金属であるため、製膜するフィルムが薄いと、冷却ロールの面同士が接触して、冷却ロールの外面に傷が付いたり、冷却ロールそのものが破損したりすることがある。
【0137】
そのため、上説したような2つの冷却ロールでシート状の溶融樹脂を挟み込んで製膜する場合、まず、該2つの冷却ロールで、シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却し、比較的厚みの厚い原反フィルムを一旦取得する。その後、該原反フィルムを、一軸延伸または二軸延伸して所定の厚みのフィルムを製造することが好ましい。
【0138】
より具体的に説明すると、厚み40μmのフィルムを製造する場合、また、上記2つの冷却ロールで、シート状の溶融樹脂を挟み込んで冷却し、一旦、厚み150μmの原反フィルムを取得する。その後、該原反フィルムを縦横二軸延伸により延伸させ、厚み40μmのフィルムを製造すればよい。
【0139】
このように、本発明に係るフィルムが延伸フィルムである場合、本発明に係る(メタ)アクリル系樹脂を一旦、未延伸状態の原反フィルムに成形し、その後、一軸延伸または二軸延伸を行うことにより、延伸フィルムを製造することができる。
【0140】
本発明の光学フィルムの長手方向(MD方向)および幅方向(TD方向)両方の耐屈曲性を向上させるためには、二軸延伸を行うことが好ましい。
【0141】
本明細書では、説明の便宜上、本発明に係る(メタ)アクリル系樹脂をフィルム状に成形した後、延伸を施す前のフィルム、すなわち未延伸状態のフィルムを「原反フィルム」と称する。
【0142】
原反フィルムを延伸する場合、原反フィルムを成形後、直ちに、該原反フィルムの延伸を連続的に行ってもよいし、原反フィルムを成形後、一旦、保管または移動させて、該原反フィルムの延伸を行ってもよい。
【0143】
なお、原反フィルムに成形後、直ちに該原反フィルムを延伸する場合、フィルムの製造工程において、原反フィルムの状態が非常に短時間(場合によっては、瞬間)の場合、延伸されるのに充分な程度のフィルム状を維持していればよく、完全なフィルムの状態である必要はない。また、上記原反フィルムは、完成品であるフィルムとしての性能を有していなくてもよい。
【0144】
(フィルムの延伸方法)
原反フィルムを延伸する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の任意の延伸方法を用いればよい。具体的には、例えば、テンターを用いた横延伸、ロールを用いた縦延伸、及びこれらを逐次組み合わせた逐次二軸延伸等を用いることができる。
【0145】
また、縦と横とを同時に延伸する同時二軸延伸方法を用いたり、ロール縦延伸を行った後、テンターによる横延伸を行う方法を用いたりすることもできる。
【0146】
原反フィルムを延伸するとき、原反フィルムを一旦、延伸温度より0.5℃~5℃、好ましくは1℃~3℃高い温度まで予熱した後、延伸温度まで冷却して延伸することが好ましい。
【0147】
上記範囲内で予熱することにより、原反フィルムの幅方向の厚みを精度よく保つことができ、また、延伸フィルムの厚み精度が低下したり、厚みムラが生じたりすることがない。また、原反フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりすることがない。
【0148】
一方、原反フィルムの予熱温度が高すぎると、原反フィルムがロールに貼り付いたり、自重で弛んだりするといった弊害が発生する傾向にある。また、原反フィルムの予熱温度と延伸温度との差が小さいと、延伸前の原反フィルムの厚み精度を維持しにくくなったり、厚みムラが大きくなったり、厚み精度が低下したりする傾向がある。
【0149】
なお、本発明に係る(メタ)アクリル系樹脂は、原反フィルムに成形後、延伸する際、ネッキング現象を利用して、厚み精度を改善することが困難である。したがって、本発明では、上記予熱温度の管理を行うことは、得られるフィルムの厚み精度を維持したり、改善したりするためには重要となる。
【0150】
原反フィルムを延伸するときの延伸温度は、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムに要求される機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、変更すればよい。一般的には、DSC法によって求めた原反フィルム((メタ)アクリル系樹脂組成物)のガラス転移温度をTgとした時に、(Tg-30℃)~(Tg+30℃)の温度範囲とすることが好ましく、(Tg-20℃)~(Tg+30℃)の温度範囲とすることがより好ましく、(Tg)~(Tg+30℃)の温度範囲とすることがさらに好ましく、(Tg+10℃)~(Tg+30℃)の温度範囲とすることがさらに好ましい。すなわち光学フィルムの二軸延伸の延伸温度は、(メタ)アクリル系樹脂組成物のガラス転移温度をTgとしたとき、Tg-30℃以上Tg+30℃以下の温度範囲であることが好ましい。
【0151】
延伸温度が上記温度範囲内であれば、得られる延伸フィルムの厚みムラを低減し、さらに、伸び率、引裂伝播強度、およびMIT耐屈曲性の力学的性質を良好なものとすることができる。また、フィルムがロールに粘着するといったトラブルの発生を防止することができる。
【0152】
一方、延伸温度が上記温度範囲よりも高くなると、得られる延伸フィルムの厚みムラが大きくなったり、伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質が十分に改善できなかったりする傾向がある。さらに、フィルムがロールに粘着するといったトラブルが発生しやすくなる傾向がある。
【0153】
また、延伸温度が上記温度範囲よりも低くなると、得られる延伸フィルムの内部ヘイズが大きくなったり、極端な場合には、フィルムが裂けたり、割れたりするといった工程上の問題が発生したりする傾向がある。
【0154】
上記原反フィルムを延伸する場合、その延伸倍率もまた、特に限定されるものではなく、製造する延伸フィルムの機械的強度、表面性、および厚み精度等に応じて、決定すればよい。延伸温度にも依存するが、延伸倍率は、一般的には、1.1倍~3倍の範囲で選択することが好ましく、1.3倍~2.5倍の範囲で選択することがより好ましく、1.5倍~2.3倍の範囲で選択することがさらに好ましい。
【0155】
延伸倍率が上記範囲内であれば、フィルムの伸び率、引裂伝播強度、および耐揉疲労等の力学的性質を大幅に改善することができる。それゆえ、厚みムラが5μm以下であり、さらに、内部ヘイズが1.0%以下である延伸フィルムを製造することができる。
【0156】
本発明の(メタ)アクリル系樹脂が架橋弾性体を含む場合には、フィルムの機械的強度に優れることから、未延伸フィルム、1軸延伸フィルム、2軸延伸フィルムのいずれでも好適に使用できる。
【0157】
本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルムの位相差値は小さいほどよく、面内位相差Δndが5.0nm以下、厚み方向位相差Rthが20.0nm以下が好ましく、Δndが2.0nm以下、Rthが5.0nm以下がより好ましく、Δndが1.0nm以下、Rthが3.0nm以下がさらに好ましい。位相差の値がこれらの値以上となると、光学的特性が低下するおそれがある。
【0158】
本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルムの厚さは、5~200μmが好ましく、10~100μmがより好ましい。厚さが5μm未満であると、十分な強度が得られず、厚さが200μmを超えると、透明性の低下や接着剤の溶剤(水等)の乾燥が遅くなるとともに、偏光板の厚さが厚くなってしまうとの場合がある。
【0159】
本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルムの表面の濡れ張力は、40mN/m以上が好ましく、50mN/m以上がより好ましい。表面の濡れ張力が少なくとも40mN/m以下であると、本発明の(メタ)アクリル系樹脂フィルムと偏光子との接着強度が低下する場合がある。
【0160】
表面の濡れ張力を高めるために、コロナ放電処理、プラズマ処理、オゾン処理、紫外線照射、火炎処理、化学薬品処理等を施してもよい。これらの中で、コロナ放電処理、プラズマ処理が好ましい。
【0161】
B.易接着層
易接着層は、本発明のアクリル系樹脂フィルムの表面上に、カルボキシル基を有するポリウレタン、および、三官能性以上の多官能性エポキシ系架橋剤を含有する易接着剤組成物(以下、「本発明の易接着剤組成物」と称することがある。)を塗布後、乾燥することで形成される。
【0162】
本発明の易接着剤組成物を、本発明のアクリル系樹脂フィルムの偏光子との接着面に塗布、乾燥させることにより、偏光子との密着性が大幅に向上する。
【0163】
本発明の易接着剤組成物には、水系のものと有機系のものがあるが、環境面や作業性の観点から、水系の易接着剤組成物が好ましいが、分散性や溶解性の観点から、少量の有機溶媒を含有してもよい。有機溶媒としては、水との相溶性や取扱いの容易さから、アルコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系溶剤が好ましい。
【0164】
アルコール系溶剤の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。
【0165】
ケトン系溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、イソブチルケトン等が挙げられる。
【0166】
エステル系溶剤としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0167】
エーテル系溶剤としては、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等が挙げられる。
【0168】
上記カルボキシル基を有するポリウレタンは、例えば、ポリオールとポリイソシアネートと遊離カルボキシル基を有する鎖長剤を反応させることにより得られる。
【0169】
ポリオールとしては、分子中にヒドロキシル基を2個以上有するものであれば特に限定されず、任意の適切なポリオールを用いることができる。例えば、ポリアクリルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0170】
ポリイソシアネートとしては、分子中にイソシアネート基を2個以上有するものであれば特に限定されず、任意の適切なポリイソシアネートを用いることができる。例えば、脂肪族イソシアネート、芳香族イソシアネート等が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合せて用いることができる。
【0171】
遊離カルボキシル基を有する鎖長剤は、例えば、ジヒドロキシカルボン酸、ジヒドロキシスクシン酸等が挙げられる。ジヒドロキシカルボン酸は、例えば、ジメチロールアルカン酸(例えば、ジメチロール酢酸、ジメチロールブタン酸、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロール酪酸、ジメチロールペンタン酸)等のジアルキロールアルカン酸が挙げられる。これらは単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0172】
尚、上記カルボキシル基を有するポリウレタンの製造に際しては、任意の適切なウレタン反応触媒を使用してもよい。
【0173】
上記カルボキシル基を有するポリウレタンの数平均分子量は、好ましくは5000~600000、さらに好ましくは10000~400000である。上記ポリウレタンの酸価は、好ましくは10以上、さらに好ましくは10~50、特に好ましくは20~45である。酸価がこのような範囲内であることにより、偏光子と(メタ)アクリル系樹脂フィルムとの密着性がより優れ得る。
【0174】
本発明の易接着剤組成物には、三官能性以上の多官能性エポキシ系架橋剤が使用される。
【0175】
本発明に用いられるエポキシ系架橋剤は、分子内に少なくとも三個以上のエポキシ基を有していることが好ましく、四個以上のエポキシ基を有していることがより好ましい。
【0176】
上記、多官能性エポキシ系架橋剤としては、ビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、ハロゲン化エポキシ化合物等が挙げられる。
【0177】
具体的には、フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物などのノボラック型エポキシ化合物;
グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルなどの脂肪族エポキシ化合物;
テトラグリシジルアミノフェニルメタンなどのグリシジルアミン型エポキシ化合物が挙げられる。
【0178】
これらの中で、ポリグリセロールポリグリシジルエーテルが好ましく、四つまたは五つのエポキシ基を有するポリグリセロールポリグリシジルエーテルが更に好ましい。このようなエポキシ系架橋剤は、たとえば、ナガセケムテックス株式会社より、デナコールEX-512、デナコールEX-521の商品名で発売されている。
【0179】
本発明の易接着剤組成物の固形分濃度は、易接着層形成時の作業性の観点から、10~50重量%が好ましく、20~45重量%がさらに好ましい。
【0180】
易接着剤組成物中の架橋剤の含有量は、カルボキシル基を有するポリウレタン100重量部に対して、好ましくは0.01~30重量部、さらに好ましくは0.1~20重量部である。
【0181】
易接着層の厚みは、任意の適切な値に設定できる。好ましくは0.1~10μm、さらに好ましくは0.1~5μm、特に好ましくは0.2~1.5μmである。このような範囲に設定することにより、優れた偏光子との密着性を発現できる。
【0182】
本発明の易接着剤組成物の塗布前に、あらかじめ、本発明のアクリル系樹脂フィルムの表面をコロナ放電処理、プラズマ処理しておくことが好ましい。
【0183】
本発明の易接着剤組成物の塗布方法としては、任意の適切な方法が採用できる。例えば、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、スロットオリフィスコート法、カーテンコート法、ファウンテンコート法等が挙げられる。
【0184】
本発明の易接着剤組成物の乾燥温度としては50℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましい。
【0185】
本発明の易接着剤組成物には、任意の適切な添加剤をさらに含有しても良い。添加剤としては、例えば、ブロッキング防止剤、分散安定剤、揺変剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、分散剤、界面活性剤、触媒、フィラー、滑剤、帯電防止剤等が挙げられる。
【0186】
ブロッキング防止剤としては、市販のものを適宜使用することができるが、ブロッキング防止性能から、コロイダルシリカ、コロイダルアルミナ、コロイダルジルコン等が挙げられ、易接着剤組成物の構成に応じて選択される。例えば、カルボキシル基を有するポリウレタンと三官能性以上の多官能性エポキシ系架橋剤とを含む易接着剤組成物においては、ブロッキング防止性能と易接着剤への分散性から、コロイダルシリカやコロイダルジルコンが好ましく、コロイダルジルコンが特に好ましい。コロイダルジルコンはジルコニア粒子を水中に分散させたジルコニアゾルである。ブロッキング防止剤の粒子径に特に制限はないが、10-200nmであることが好ましい。10nm未満であればブロッキング防止効果が十分ではなく、200nmより大きければフィルムの外観に悪影響を及ぼす可能性がある。
【0187】
コロイダルジルコンとしては、たとえば日産化学株式会社より、ナノユースZRの商品名で市販されている。
C.偏光板の全体構成
図1は、本発明の好ましい実施形態による偏光板の概略断面図である。
【0188】
偏光板5は、偏光子1と、接着剤層2と、易接着層3と、(メタ)アクリル系樹脂フィルム4の順に積層したものである。
C-1.偏光子
上記偏光子1としては、例えば、ポリビニルアルコール系フィルム等の親水性フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質を吸着させ、一軸延伸したものが好適に使用される。これら偏光子の厚さに特に制限はないが、1~80μm程度である。
【0189】
ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素を吸着させて一軸延伸した偏光子は、例えば、ポリビニルアルコールをヨウ素水溶液に浸漬後、延伸することで作製される。
【0190】
ポリビニルアルコール系フィルムは必要に応じて染色の前に水洗してもよい。ポリビニルアルコール系フィルムを水洗することで、染色ムラの発生を防止できる。
【0191】
延伸はヨウ素で染色した後に行ってもよいし、染色しながら延伸してもよいし、また延伸してからヨウ素で染色してもよい。
【0192】
C-2.接着剤層
上記接着剤層2を形成する接着剤としては、任意の適切な接着剤を使用できる。偏光子との親和性から、ポリビニルアルコール系樹脂を含む接着剤組成物が好ましく、アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール樹脂が特に好ましい。アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール樹脂を含む接着剤組成物を用いることで、偏光子と本発明のアクリル系樹脂フィルムとの密着性がさらに向上する。
【0193】
上記ポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度に特に制限はないが、好ましくは100~5000程度、さらに好ましくは1000~4000である。
【0194】
上記の接着剤組成物には必要に応じて架橋剤を含有してもよい。架橋剤としては、上記のポリビニルアルコール系樹脂と反応性を有する官能基を有するものが好ましい。
【0195】
ポリビニルアルコール系樹脂と反応性を有する官能基としては、アミン基、イソシアネート基、エポキシ基、アルデヒド基、メチロール基等が挙げられる。中でもメチロール基を有する化合物が好ましく、メチロールメラミンが特に好ましい。
【0196】
上記架橋剤の配合量は、特に制限はないが、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対して、10~60重量部程度、好ましくは20~50重量部である。
【0197】
上記接着剤組成物には、更に接着性を向上させるために、各種のカップリング剤や粘着付与剤を添加してよい。カップリング剤としては、シランカップリング剤が好ましい。その他、紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐加水分解安定剤などを添加してもよい。
【0198】
上記接着剤組成物は、通常水溶液として使用される。樹脂の濃度は、塗工性と安定性のバランスから、0.1~15重量%が好ましく、0.5~10重量%がより好ましい。
【0199】
上記接着剤組成物から形成された接着剤層の厚みは、接着剤組成物の組成等に応じて設定される。10~300nmが好ましく、接着性の観点から、特に20~150nmが好ましい。
【0200】
C-3.易接着層
上記易接着層3は、上述のとおり、本発明の易接着剤組成物を塗布乾燥させることで形成される。
【0201】
C-4.(メタ)アクリル系樹脂フィルム
上記(メタ)アクリル系樹脂フィルム4は、上述のとおり、(メタ)アクリル系樹脂組成物を溶融押出することにより得られる。
【0202】
C-5.その他
上記偏光子1の上記(メタ)アクリル系樹脂フィルム4と反対側に第2の保護フィルムを形成してもよい。第2の保護フィルムとしては、任意の適切な保護フィルムを使用できる。第2の保護フィルムを形成する材料の代表例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース系ポリマー、シクロオレフィン系ポリマーが挙げられる。第2の保護フィルムは、本発明のアクリル系樹脂フィルムと同様の材料で形成されていてもよい。第2の保護フィルムと偏光子は、任意の適切な接着剤で貼合される。
【0203】
D.製造方法
本発明の偏光板の製造方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。以下、一つの実施形態について説明する。上記偏光子と(メタ)アクリル系樹脂フィルムとは、易接着層を介して積層される。例えば、易接着層は、予め、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの片側に形成される。易接着層は、易接着剤組成物を、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの片側に塗布して、乾燥させることにより形成される。易接着剤組成物の塗布方法としては、上述の任意の適切な方法を採用し得る。
【0204】
上述のように、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの少なくとも片側(上記偏光子が配置されている側)には、表面処理が施され得る。この場合、易接着層を形成する前に、上述の表面処理を施す。表面処理としては、好ましくは、コロナ放電処理、プラズマ処理である。コロナ放電処理を施すことにより、偏光子と(メタ)アクリル系樹脂フィルムとの接着性および密着性がさらに向上し得る。コロナ放電処理は、任意の適切な条件で施される。例えば、コロナ放電電子照射量は、好ましくは50~150W/m2/min、さらに好ましくは70~100W/m2/minである。
【0205】
偏光子と(メタ)アクリル系樹脂フィルムとは、接着剤層を介して積層される。具体的には、偏光子または(メタ)アクリル系樹脂フィルムのいずれか一方の片側に上記接着剤組成物を塗布した後、偏光子と(メタ)アクリル系樹脂フィルムとを貼り合わせて乾燥させる方法が挙げられる。接着剤組成物の塗布方法としては、例えば、ロール法、噴霧法、浸漬法等が挙げられる。乾燥温度は、代表的には5~150℃、好ましくは30~120℃である。乾燥時間は、代表的には120秒以上、好ましくは300秒以上である。
【実施例
【0206】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、(メタ)アクリル系樹脂フィルムの評価方法は以下の通りである。以下で「部」および「%」は、特記ない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。
【0207】
(ガラス転移温度)
(メタ)アクリル系樹脂10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC、(株)SII製、DSC7020)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0208】
(平均屈折率)
(株)アタゴ社製アッベ屈折計3Tを用いて測定した。
【0209】
(環構造の含有量の算出)
得られた(メタ)アクリル系樹脂を1H-NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)を用いて測定を行った。対象となる環構造部分とそれ以外の部分のモル比から重量換算を行い算出した。具体的に上記一般式(1)のR3がメチル基であるグルタルイミドのケースでは、3.5~3.8ppm付近のメタクリル酸メチルのO-CH3プロトン由来のピークの面積Aと、3.0~3.3ppm付近のグルタルイミドのN-CH3プロトン由来のピークの面積Bより、求められたモル比を用いて重量換算を行い算出できる。
【0210】
(光学特性)
面内位相差Δndおよび厚み方向位相差Rthは、王子計測機器(株)製、位相差測定装置KOBRA-WRを用いて測定を行った。測定波長590nmで行った。
【0211】
(剥離強度)
縦型電動計測スタンド MX2シリーズ(イマダ社製)を用いてJIS K 6854に準じT型剥離試験を実施した。試験速度は100mm/minで測定を行った。
(摩擦係数)表面性測定機(株式会社イマダ製、型番:MX2-500N)を使用しJIS K7125に準じて測定した。
【0212】
(製造例1)
(メタ)アクリル樹脂の製造例を以下に示す。
【0213】
使用した押出機は口径40mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機(L/D=90)である。押出機の各温調ゾーンの設定温度を250~280℃、スクリュー回転数は85rpmとした。ポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を42.4kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから樹脂に対して1.8重量部のモノメチルアミン(三菱ガス化学株式会社製)を注入した。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰のメチルアミンをベント口の圧力を-0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することにより、樹脂(I)を得た。
【0214】
次いで、口径40mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機にて、押出機各温調ゾーンの設定温度を240~260℃、スクリュー回転数102rpmとした。ホッパーから得られた樹脂(I)を41kg/hrで供給し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルから樹脂に対して0.56重量部の炭酸ジメチルを注入し樹脂中のカルボキシル基の低減を行った。反応ゾーンの末端にはリバースフライトを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰の炭酸ジメチルをベント口の圧力を-0.092MPaに減圧して除去した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化し、グルタルイミド環を有する(メタ)アクリル系樹脂(A1)を得た。
【0215】
当該(メタ)アクリル系樹脂(A1)のグルタルイミド含有量は6重量%、ガラス転移温度は125℃、平均屈折率は1.50であった。
【0216】
(製造例2)
(メタ)アクリル系フィルムの製造例を以下に示す。
【0217】
製造例1で得られた(メタ)アクリル系樹脂ペレット(A1)を二軸押し出し機に供給し、約280℃でシート状に溶融押し出しして、厚さ100μmのフィルムを得た。この未延伸フィルムを、130℃の温度条件下、縦1.6倍、横1.6倍に延伸して(メタ)アクリル系樹脂フィルム(厚さ40μm、面内位相差Δnd0.8nm、厚み方向位相差Rth1.5nm)を得た。
【実施例1】
【0218】
(コロナ放電処理)
製造例2で得られた(メタ)アクリル系樹脂フィルムの片側に、コロナ放電処理(コロナ放電電子照射量:77W/m2/min)を施した。
【0219】
(易接着層の形成)
カルボキシル基を有する水系ポリウレタン(第一工業製薬製、商品名:スーパーフレックス210、固形分:33%)100重量部に対して、四官能性エポキシ系架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX-512、固形分:100%、エポキシ当量:168g/eq)2.02重量部、純水を250重量部加え、コロナ放電処理を施した(メタ)アクリル系樹脂フィルムのコロナ放電処理面に、バーコーター(#3)で塗布し、塗膜を形成した。その後フィルムを熱風乾燥機(80℃)に投入し、塗膜を約5分乾燥させて、易接着層(0.2~0.4μm)を形成し、偏光子保護フィルムを得た。
【0220】
(接着剤組成物の調製)
アセトアセチル基含有ポリビニルアルコール系樹脂(平均重合度:1200、ケン化度:98.5モル%,アセトアセチル基変性度:5モル%)100重量部に対し、メチロールメラミン20重量部を70℃の温度条件下で純水に溶解し、固形分濃度1.0%の水溶液を得た。得られた水溶液を接着剤組成物として、25℃の温度条件下で用いた。
【0221】
(ポリビニルアルコールフィルムと偏光子保護フィルムとの貼合)
偏光子保護フィルムの易接着層側に、乾燥後の厚みが50nmとなるように接着剤組成物を塗布した。その後、接着剤組成物の塗布膜を介して、日本合成化学製ポリビニルアルコールフィルム、ボブロン-EX(膜厚12μm)と偏光子保護フィルムを積層し、熱風乾燥機(100℃)に投入して5分間乾燥させて、積層体を得た。
【0222】
(実施例2)
易接着層を形成する際のエポキシ系架橋剤の添加部数を4.87重量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコールフィルムと偏光子保護フィルムを貼合した。
【0223】
(実施例3)
易接着層を形成する際のエポキシ系架橋剤の添加部数を7.73重量部とした以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコールフィルムと偏光子保護フィルムを貼合した。
【0224】
(比較例1)
易接着層を形成する際のエポキシ系架橋剤を二官能性エポキシ系架橋剤(ナガセケムテックス株式会社製、商品名:デナコールEX-810、固形分:100%、エポキシ当量:113g/eq)1.30重量部としたこと以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコールフィルムと偏光子保護フィルムを貼合した。
【0225】
(比較例2)
易接着層を形成する際のエポキシ系架橋剤の添加部数を3.30重量部とした以外は、比較例1と同様にしてポリビニルアルコールフィルムと偏光子保護フィルムを貼合した。
【0226】
(比較例3)
易接着層を形成する際のエポキシ系架橋剤の添加部数を5.20重量部とした以外は、比較例1と同様にしてポリビニルアルコールフィルムと偏光子保護フィルムを貼合した。
【0227】
(比較例4)
易接着層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリビニルアルコールフィルムと(メタ)アクリル系樹脂フィルムを貼合した。
【0228】
実施例1~3および比較例1~4で作製された積層体について、JIS K 6854に準じ、T型剥離試験を実施した。その結果を表1に示す。
【0229】
【表1】
【0230】
表1から明らかなように、実施例で作製された積層体は密着性に優れていた。一方、比較例1で作製した積層体は密着性が劣っていた。このことから、易接着層をカルボキシル基を有するポリウレタンおよび三官能性以上の多官能性エポキシ基を有する架橋剤を含有する易接着剤組成物で形成することにより、偏光子との密着性に優れた偏光子保護フィルムが得られることが示された。
【0231】
(実施例4)
易接着層を形成する際に、カルボキシル基を有する水系ポリウレタン100重量部に対してコロイダルジルコン (日産化学株式会社製、商品名:ナノユースZR、固形分40重量%、粒子径90nm、pH9.6 )1.25重量部をさらに添加した以外は実施例1と同様にポリビニルアルコールフィルムと偏光子保護フィルムを貼合した。
【0232】
(実施例5)
コロイダルジルコンの代わりにコロイダルシリカ(扶桑化学工業製、フォートロンPL-3、固形分20重量%、一次粒子径35nm、pH7.3)を使用したこと以外は、実施例4と同様にポリビニルアルコールフィルムと偏光子保護フィルムを貼合した。
【0233】
実施例4、実施例5、比較例4で作製されたフィルムについて、製造例2で得られた(メタ)アクリル系フィルムとの摩擦係数を、JIS K7125に準じて測定した。また、得られた積層体の密着性を評価した。その結果を表2に示す。
【0234】
【表2】
【0235】
表2から明らかなように、実施例4や実施例5で作製された偏光子保護フィルムは、摩擦係数が低く、耐ブロッキング性に優れており、偏光子との密着性にも優れる。
【0236】
一方、比較例4で作製した偏光子保護フィルムは、摩擦係数が大きく、耐ブロッキング性が悪く、偏光子との密着性も低い。
【0237】
これらのことから、コロイダルジルコンやコロイダルシリカをブロッキング防止剤として使用することにより、耐ブロッキング性、偏光子との密着性に優れた偏光子保護フィルムが得られることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0238】
本発明の偏光板は、液晶表示装置や自発光型表示装置などの画像表示装置に好適に使用され得る。
【符号の説明】
【0239】
1 偏光子
2 接着剤層
3 易接着層
4 (メタ)アクリル系樹脂フィルム
5 偏光板
図1