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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】電力系統監視制御システム及び方法
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/00 20060101AFI20240827BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20240827BHJP
   G06Q 50/06 20240101ALI20240827BHJP
【FI】
H02J3/00 170
H02J3/00 180
H02J13/00 301A
H02J13/00 301J
H02J13/00 311R
G06Q50/06
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020114285
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012452
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 大地
(72)【発明者】
【氏名】黒田 英佑
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 雅浩
【審査官】右田 勝則
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/238140(WO,A1)
【文献】特開2015-094685(JP,A)
【文献】特開2011-078303(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104915787(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0169024(US,A1)
【文献】特表2020-527926(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/00
H02J 13/00
G06Q 50/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
故障の種類ごとの当該故障の発生時に電力系統を安定維持するために制御すべき制御対象が登録された制御テーブルを保持し、前記電力系統に前記故障が発生した場合に、前記制御テーブルに従って、当該故障の種類に応じた前記制御対象を制御する電力系統監視制御システムにおいて、
所定の災害情報に基づいて、前記電力系統に想定される前記故障の発生地点である想定故障地点を推定する想定故障地点推定部と、
前記災害情報及び前記想定故障地点推定部の推定結果に基づいて、前記想定故障地点に発生すると想定される災害の内容である想定災害内容を前記想定故障地点ごとにそれぞれ推定する想定災害内容推定部と、
前記想定災害内容推定部の推定結果と、前記電力系統に発生すると想定される各前記故障の発生個所及び様相を含む想定故障データと、前記想定故障データの変更ルールを含む想定故障変更ルールとに基づいて前記想定故障データを変更する想定故障変更部と、
前記想定故障データに基づいて前記制御テーブルを生成する制御テーブル生成部と
を備え、
前記制御テーブル生成部は、
前記想定故障変更部により変更された前記想定故障データに基づいて前記制御テーブルを更新する
ことを特徴とする電力系統監視制御システム。
【請求項2】
前記制御テーブルは、複数の時間帯ごとにそれぞれ生成され、
前記時間帯ごとの前記災害情報及び前記想定故障データがそれぞれ予め用意され、
前記想定故障地点推定部及び前記想定災害内容推定部は、それぞれ前記時間帯ごとの前記想定故障地点又は前記想定災害内容をそれぞれ推定し、
前記想定故障変更部は、前記時間帯ごとの前記想定故障データをそれぞれ変更し、
前記制御テーブル生成部は、変更後の前記想定故障データに基づいて、前記時間帯ごとの前記制御テーブルをそれぞれ更新する
ことを特徴とする請求項1に記載の電力系統監視制御システム。
【請求項3】
前記制御テーブル生成部は、
前記電力系統に前記故障が発生した場合に、前記制御テーブルに従って、当該故障の種類に応じた前記制御対象を制御する系統安定化システムに設けられ、
前記想定故障地点推定部、前記想定災害内容推定部及び前記想定故障変更部は、
前記系統安定化システムとは別個に設けられた電力系統監視制御装置に設けられ、
前記電力系統監視制御装置は、
前記想定故障変更部により変更された前記想定故障データを前記系統安定化システムに送信する変更後想定故障送信部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の電力系統監視制御システム。
【請求項4】
前記想定故障変更ルールと、変更後の前記想定故障データに基づく前記電力系統に想定される前記故障の発生個所及び様相とを表示する表示部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の電力系統監視制御システム。
【請求項5】
前記災害情報は、
前記災害の発生地点及び内容の少なくとも一方の情報を含む
ことを特徴とする請求項1に記載の電力系統監視制御システム。
【請求項6】
前記想定故障変更ルールは、
災害の発生地点及び内容の少なくとも一方と、前記故障の変更内容とを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の電力系統監視制御システム。
【請求項7】
前記電力系統の潮流計算、状態推定及び時系列変化計算に必要な系統データを予め保持し、
前記系統データと、更新後の前記想定故障データとに基づいて、前記電力系統の緩和された系統状態を算出する系統状態計算部をさらに備える
ことを特徴とする請求項1に記載の電力系統監視制御システム。
【請求項8】
前記電力系統の前記系統状態は、
電力取引市場から調整力として調達する電力及び調達単価と、前記調整力として発電機から出力させる電力及び単価電力当たりの燃料費と、前記電力系統の送電線の緩和された運用基準との少なくとも1つを含む
ことを特徴とする請求項7に記載の電力系統監視制御システム。
【請求項9】
前記電力取引市場に設置され、当該電力取引市場における電力商品の取引を管理する市場管理システム、又は、過去の電力需要に基づいて将来の電力の需給計画を立案し、立案した需給計画に従って発電機の出力を調整する中央給電指令システムに対して、前記制御テーブル及び前記系統状態の少なくとも一方を送信する送信部をさらに備える
ことを特徴とする請求項8に記載の電力系統監視制御システム。
【請求項10】
故障の種類ごとの当該故障の発生時に電力系統を安定維持するために制御すべき制御対象が登録された制御テーブルを保持し、前記電力系統に前記故障が発生した場合に、前記制御テーブルに従って、当該故障の種類に応じた前記制御対象を制御する電力系統監視制御システムにおいて実行される電力系統監視制御方法であって、
所定の災害情報に基づいて、前記電力系統に想定される前記故障の発生地点である想定故障地点を推定する第1のステップと、
前記災害情報及び前記想定故障地点の推定結果に基づいて、前記想定故障地点に発生すると想定される災害の内容である想定災害内容を前記想定故障地点ごとにそれぞれ推定する第2のステップと、
各前記想定故障地点における前記想定災害内容の推定結果と、前記電力系統に発生すると想定される各前記故障の発生個所及び様相を含む想定故障データと、前記想定故障データの変更ルールを含む想定故障変更ルールとに基づいて前記想定故障データを変更する第3のステップと、
変更した前記想定故障データに基づいて前記制御テーブルを更新する第4のステップと
を備えることを特徴とする電力系統監視制御方法。
【請求項11】
前記制御テーブルは、複数の時間帯ごとにそれぞれ生成され、
前記時間帯ごとの前記災害情報及び前記想定故障データがそれぞれ予め用意され、
前記第1のステップ及び前記第2のステップでは、それぞれ前記時間帯ごとの前記想定故障地点又は前記想定災害内容をそれぞれ推定し、
前記第3のステップでは、前記時間帯ごとの前記想定故障データをそれぞれ変更し、
前記第4のステップでは、変更後の前記想定故障データに基づいて、前記時間帯ごとの前記制御テーブルをそれぞれ更新する
ことを特徴とする請求項10に記載の電力系統監視制御方法。
【請求項12】
前記電力系統監視制御システムは、
前記電力系統に前記故障が発生した場合に、前記制御テーブルに従って、当該故障の種類に応じた前記制御対象を制御する系統安定化システムと、
前記系統安定化システムとは別個に設けられた電力系統監視制御装置と
を有し、
前記第1乃至第3のステップは、前記電力系統監視制御装置により実行され、
前記第4のステップは、前記系統安定化システムにより実行される
ことを特徴とする請求項10に記載の電力系統監視制御方法。
【請求項13】
前記想定故障変更ルールと、変更後の前記想定故障データに基づく前記電力系統に想定される前記故障の発生個所及び様相とを表示する第5のステップをさらに備える
ことを特徴とする請求項10に記載の電力系統監視制御方法。
【請求項14】
前記災害情報は、
前記災害の発生地点及び内容の少なくとも一方の情報を含む
ことを特徴とする請求項10に記載の電力系統監視制御方法。
【請求項15】
前記想定故障変更ルールは、
災害の発生地点及び内容の少なくとも一方と、前記故障の変更内容とを含む
ことを特徴とする請求項10に記載の電力系統監視制御方法。
【請求項16】
前記電力系統監視制御システムは、前記電力系統の潮流計算、状態推定及び時系列変化計算に必要な系統データを予め保持し、
前記系統データと、更新後の前記想定故障データとに基づいて、前記電力系統の緩和された系統状態を算出する第5のステップをさらに備える
ことを特徴とする請求項10に記載の電力系統監視制御方法。
【請求項17】
前記電力系統の前記系統状態は、
電力取引市場から調整力として調達する電力及び調達単価と、前記調整力として発電機から出力させる電力及び単価電力当たりの燃料費と、前記電力系統の送電線の緩和された運用基準との少なくとも1つを含む
ことを特徴とする請求項16に記載の電力系統監視制御方法。
【請求項18】
前記電力取引市場に設置され、当該電力取引市場における電力商品の取引を管理する市場管理システム、又は、過去の電力需要に基づいて将来の電力の需給計画を立案し、立案した需給計画に従って発電機の出力を調整する中央給電指令システムに対して、更新された前記制御テーブル及び前記系統状態の少なくとも一方を送信する第6のステップをさらに備える
ことを特徴とする請求項17に記載の電力系統監視制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電力系統監視制御システム及び方法に関し、特に、系統安定化システムを含む電力系統監視制御システムに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
電力系統全体で発電及び消費される電力エネルギーに比べ、貯蔵することができるエネルギーは少ない。このため電力系統の運用においては、発電量と需要量との間の差を常に一定の範囲内に維持する「同時同量」を遵守する必要がある。
【0003】
発電された電力は、送電線を介して需要家に供給されるが、各送電線に流すことができる電力量の上限は送電線の運用基準によって決まっている。電力系統の運用者は、事前のシミュレーションや机上検討の結果等に基づき、各送電線に対して熱容量、故障発生時の安定性(過渡安定性、電圧安定性及び周波数など)の維持が可能な電力容量等を算出し、これらの中から最も低い値(つまり最も厳しい値)をその送電線の運用基準として設定している。
【0004】
運用基準が故障時の安定性維持による制約に基づいて決定されている場合、系統安定化システムを利用することで、送電線に流す電力量を増加(運用基準を緩和)させるができる。ここで、「系統安定化システム」とは、地震や落雷、津波などにより電力系統に故障が発生した場合に、その影響が波及して大停電を引き起こすおそれのある状況に進展するのを未然に防止する機能を有するシステムを指す。
【0005】
実際上、系統安定化システムは、想定される複数の故障について、その故障が発生した場合に電力系統を安定維持するために電源制限すべき発電機(電制対象)や、負荷制限すべき対象(負制対象)が予めそれぞれ登録された制御テーブルを保持している。そして系統安定化システムは、実際に電力系統に故障が発生した場合には、その故障内容に応じた電制対象や負制対象を制御テーブルを参照して決定し、決定した電制対象や負制対象を電力系統から解列等することで電力系統の安定性を維持する。このような系統安定化システムの機能により故障時の安定性を維持することができるため、送電線に流す電力量を増加させることができ、運用基準を緩和することができる。
【0006】
系統安定化システムによる運用基準の緩和に関する背景技術として、特許文献1には、「市場管理システムから電力系統の各所における技術的制約である系統制約、及び、電力調達に関する計画である計画情報を取得し、系統制約を見直した結果である変更後系統制約を生成し、生成した変更後系統制約を市場管理システムに出力する」ことが開示されている。なお、この特許文献1における「系統制約」が本願における「運用基準」に相当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-71710号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、かかる特許文献1では、系統安定化システムの制御テーブルを生成するに際しては、対象とする電力系統に発生すると想定される固定的な故障を使用している。この故障は、事前のシミュレーションや机上検討の結果などに基づいて決定されたもので、地震及び津波等の大規模災害や稀頻度災害の発生に伴う4設備故障(N-4故障)や電源1サイト脱落などの故障は対象となっていない。このため、この種の災害(大規模災害や稀頻度災害)に対応した制御テーブルが生成されず、これらの災害の発生時にブラックアウトが発生するおそれがあった。
【0009】
また系統安定化システムは保護システムであることから、その制御テーブルの生成や更新に関しては十分に説明責任を果たす必要がある。想定される固定的な故障であれば、事前のシミュレーションや机上検討の条件や結果等を開示することで責任を果たすことが可能であるが、制御テーブルを生成する際に想定する故障を状況に応じて動的に変更する場合には、変更条件や結果の透明性を担保する必要がある。
【0010】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、説明責任を果たしつつ電力系統の供給信頼度とレジリエンシーを向上させ得る電力系統監視制御システム及び方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる課題を解決するため本発明においては、故障の種類ごとの当該故障の発生時に電力系統を安定維持するために制御すべき制御対象が登録された制御テーブルを保持し、前記電力系統に前記故障が発生した場合に、前記制御テーブルに従って、当該故障の種類に応じた前記制御対象を制御する電力系統監視制御システムにおいて、所定の災害情報に基づいて、前記電力系統に想定される前記故障の発生地点である想定故障地点を推定する想定故障地点推定部と、前記災害情報及び前記想定故障地点推定部の推定結果に基づいて、前記想定故障地点に発生すると想定される災害の内容である想定災害内容を前記想定故障地点ごとにそれぞれ推定する想定災害内容推定部と、前記想定災害内容推定部の推定結果と、前記電力系統に発生すると想定される各前記故障の発生個所及び様相を含む想定故障データと、前記想定故障データの変更ルールを含む想定故障変更ルールとに基づいて前記想定故障データを変更する想定故障変更部と、前記想定故障データに基づいて前記制御テーブルを生成する制御テーブル生成部とを設け、前記制御テーブル生成部は、前記想定故障変更部により変更された前記想定故障データに基づいて前記制御テーブルを更新するようにした。
【0012】
また本発明においては、故障の種類ごとの当該故障の発生時に電力系統を安定維持するために制御すべき制御対象が登録された制御テーブルを保持し、前記電力系統に前記故障が発生した場合に、前記制御テーブルに従って、当該故障の種類に応じた前記制御対象を制御する電力系統監視制御システムにおいて実行される電力系統監視制御方法であって、所定の災害情報に基づいて、前記電力系統に想定される前記故障の発生地点である想定故障地点を推定する第1のステップと、前記災害情報及び前記想定故障地点の推定結果に基づいて、前記想定故障地点に発生すると想定される災害の内容である想定災害内容を前記想定故障地点ごとにそれぞれ推定する第2のステップと、各前記想定故障地点における前記想定災害内容の推定結果と、前記電力系統に発生すると想定される各前記故障の発生個所及び様相を含む想定故障データと、前記想定故障データの変更ルールを含む想定故障変更ルールとに基づいて前記想定故障データを変更する第3のステップと、変更した前記想定故障データに基づいて前記制御テーブルを更新する第4のステップとを設けるようにした。
【0013】
本発明の電力系統監視制御システム及び方法によれば、地震や津波などの大規模災害や稀頻度災害の発生に伴う4設備故障(N-4故障)や電源1サイト脱落などをも対象とした制御テーブルを作成することができるため、そのような災害の発生時にも大規模停電などが発生することを防止することができる。
【0014】
また本電力系統監視制御システム及び方法によれば、想定故障変更ルールを提示等することで、制御テーブルの内容に関する根拠を示すことができるため、制御テーブルに対する説明責任を十分に果たすことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、説明責任を果たしつつ電力系統の供給信頼度とレジリエンシーを向上させ得る電力系統監視制御システム及び方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施の形態による電力系統監視制御システムの全体構成を示すブロック図である。
図2】第1の実施の形態による電力系統監視制御装置及び系統安定化システムの論理構成を示すブロック図である。
図3】災害情報データベース及び災害情報の説明に供する概念図である。
図4】想定故障データベース及び想定故障データの説明に供する概念図である。
図5】想定故障変更ルールデータベース及び想定故障変更ルールの説明に供する概念図である。
図6】想定故障地点推定結果データベース及び想定故障地点推定結果データの説明に供する概念図である。
図7】想定災害内容推定結果データベース及び想定災害内容推定結果データの説明に供する概念図である。
図8】想定故障変更結果データベース及び想定故障変更結果データの説明に供する概念図である。
図9A】制御テーブルデータベース及び制御テーブルの説明に供する概念図である。
図9B】更新後の制御テーブルデータベース及び制御テーブルを示す概念図である。
図10】想定故障変更結果表示画面の構成例を示す図である。
図11】第1の実施の形態の電力系統監視制御装置において実行される一連の処理の流れを示すフローチャートである。
図12】第2の実施の形態による電力系統監視制御システムの全体構成を示すブロック図である。
図13】第2の実施の形態による電力系統監視制御装置及び市場管理システムの論理構成を示すブロック図である。
図14】第2の実施の形態による系統状態データデータベース及び系統状態データの説明に供する概念図である。
図15】第2の実施の形態の電力系統監視制御装置において実行される一連の処理の流れを示すフローチャートである。
図16】第3の実施の形態による電力系統監視制御システムの全体構成を示すブロック図である。
図17】第3の実施の形態による電力系統監視制御装置及び中央給電指令システムの論理構成を示すブロック図である。
図18】第3の実施の形態による系統状態データデータベース及び系統状態データの説明に供する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0018】
(1)第1の実施の形態
(1-1)本実施の形態による電力系統監視制御システムの構成
図1において、1は全体として本実施の形態による電力系統監視制御システムを示す。この電力系統監視制御システム1は、ネットワーク2を介して接続された系統安定化システム3と電力系統監視制御装置4とを備えて構成される。
【0019】
系統安定化システム3は、対象とする電力系統(以下、これを対象電力系統と呼ぶ)に発生することが想定される故障(以下、これを想定故障と呼ぶ)ごとの電制対象や負制対象が登録された制御テーブル76(図9A)を保持し、対象電力系統に想定故障が発生した場合にその制御テーブル76に基づいて必要な電制対象や負制対象を対象電力系統から解列したり、出力制御する機能を有するコンピュータ装置である。
【0020】
この系統安定化システム3は、CPU(Central Processing Unit)10、メモリ11及び記憶装置12などの情報処理資源を備えて構成される。CPU10は、系統安定化システム3全体の動作制御を司るプロセッサである。またメモリ11は、RAM(Random Access Memory)などから構成され、CPU10のワークメモリとして利用される。記憶装置12は、ハードディスク装置やSSD(Solid State Drive)などの不揮発性の記憶装置から構成され、長期間保持すべきデータやプログラムなどを格納するのに利用される。
【0021】
電力系統監視制御装置4は、系統安定化システム3が保持する制御テーブル76を更新する機能を有するコンピュータ装置であり、CPU20、メモリ21、記憶装置22、通信装置23、入力装置24及び表示装置25を備えて構成される。
【0022】
CPU20、メモリ21及び記憶装置22の機能及び構成は系統安定化システム3の対応部位(CPU10、メモリ11又は記憶装置12)と同様であるため、ここでの説明は省略する。通信装置23は、ネットワーク2を介した系統安定化システム3との通信時におけるプロトコル制御を行う通信機器であり、NIC(Network Interface Card)などから構成される。
【0023】
入力装置24は、電力系統監視制御装置4の運用者(以下、これを単に運用者と呼ぶ)が必要な情報や指示を電力系統監視制御装置4に入力するために利用され、例えばキーボードやマウスなどのポインティング装置や、タッチパネル及び又は音声指示装置などから構成される。
【0024】
また表示装置25は、必要な画面や情報を表示するために利用され、例えば液晶ディスプレイや有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイなどのディスプレイ装置から構成される。ただし、ディスプレイ装置に代えて又は加えてプリンタ装置や音声出力装置を適用するようにしてもよい。
【0025】
(1-2)電力系統監視制御装置及び系統安定化システムの論理構成
図2は、本実施の形態による電力系統監視制御装置4及び系統安定化システム3の論理構成を示す。この図2に示すように、電力系統監視制御装置4は、想定故障変更入力データベース群30、想定故障変更部31及び想定故障変更結果データベース群32を備えて構成される。
【0026】
想定故障変更入力データベース群30は、災害情報データベース40、想定故障データベース42及び想定故障変更ルールデータベース44から構成される。
【0027】
災害情報データベース40は、図3に示すように、予め作成された例えば30分の時間帯(以下、これを単に時間帯と呼ぶ)ごとの災害情報41が格納されたデータベースである。本実施の形態における「災害情報」は、対応する時間帯に対象電力系統に発生する可能性がある又は過去に発生した災害の発生地点(「災害地点」)及び内容(「災害内容」)を組み合せた情報である。災害情報データベース40には、時間帯ごとの災害情報41が登録される。例えば、図3の例の場合、「YYYY/MM/DD」の「0:00」の災害情報41が、その日時(「YYYY/MM/DD」の「0:00」)から開始される時間帯において「エリアA」で「台風」による災害が発生し、「エリアB」で「土砂崩れ」が発生し、「エリアC」で「津波」が発生するという内容であることが示されている。
【0028】
なお、災害情報41における「災害地点」は「エリア」に限定されず、エリア内の送電線や変電所などであってもよいし、他の地点情報であってもよい。また災害情報データベース40における「災害内容」は、台風や地震、土砂崩れ又は津波などの大規模災害に限らず、大雪や大雨、強風、日照りなどの気象条件に関する内容であってもよい。以下においても同様である。
【0029】
さらに災害情報41における「時間帯」は過去及び未来のいずれの日時であってもよい。かかる時間帯が過去の日時である場合には、災害情報41の「災害地点」及び「災害内容」は実績であり、かかる時間帯が未来の日時である場合には、災害情報41の「災害地点」及び「災害内容」は予測でとなる。ただし、過去の時間帯の災害情報41が、実績ではない仮想の災害の災害情報であってもよい。このようにすることによって各時間帯における様々な災害に応じた後述の想定故障の変更が可能となる。
【0030】
想定故障データベース42は、対象電力系統について予め作成された複数の固定的な想定故障についてのデータ(以下、これを想定故障データと呼ぶ)43が登録されたデータベースである。想定故障データ43は、図4に示すように、故障個所欄43A及び故障様相欄43Bを備えたテーブル構成を有する。想定故障データ43では、1つの行が対象電力系統に関する1つの想定故障に対応する。
【0031】
そして故障個所欄43Aには、対応する想定故障の発生個所が格納され、故障様相欄43Bには、その想定故障の様相(故障様相)が格納される。「故障様相」は、故障した線路の相、線数及び故障様態などの組み合せであり、例えば、図4において「3Φ6LG(ABCA’B’C’)」は、3相6線地絡故障を意味し、A相、B相及びC相と、A´相、B´相及びC´相とが地絡することを意味する。
【0032】
従って、図4の例の場合、対象電力系統の想定故障として、「送電線A1(送電端)」や、「送電線A1(受電端)」、「送電線A2(送電端)」及び「送電線A2(受電端)」などにおける3相6線地絡(「3Φ6LG(ABCA’B’C’)」)があり、「送電線B1(送電端)」や「送電線C1(送電端)」などにおける3相4線地絡(「3Φ4LG(ABB’C’)」絡)があることが示されている。
【0033】
想定故障変更ルールデータベース44は、想定故障データベース42に登録されている想定故障を変更する際のルール(以下、これを想定故障変更ルールと呼ぶ)のデータ(以下、これを想定故障変更ルールデータと呼ぶ)45が格納されたデータベースであり、予め運用者により作成される。想定故障変更ルールデータ45は、図5に示すように、災害地点欄45A、災害内容欄45B及び想定故障変更内容欄45Cを備えたテーブル構成を有する。想定故障変更ルールデータ45では、1つの行が1つの想定故障変更ルールに対応する。
【0034】
そして災害地点欄45Aには、災害が発生することが想定されるすべての地点(「災害地点」)が格納され、災害内容欄45Bには、対応する災害地点において発生することが想定されるすべての災害の内容(「災害内容」)が格納される。また想定故障変更内容欄45Cには、対応する災害地点において対応する災害内容が発生したときに想定される想定故障の変更内容(以下、これを想定故障変更内容と呼ぶ)が格納される。災害地点及び災害内容の組み合せによって想定故障変更内容が異なるため、各想定故障変更内容は災害地点及び災害内容の組み合せに応じた内容となっている。
【0035】
従って、図5の例の場合、例えば「エリアA」という地点については「台風」、「土砂崩れ」及び「津波」などの災害が発生することが想定されており、「台風」が接近した場合の元の想定故障に対して「エリアA内4回線地絡(エリアA内の4回線の地絡)」を追加すべきであり、「土砂崩れ」が発生した場合の元の想定故障に対して「エリアA内電源1サイト脱落(エリアA内の電源サイトが1つ脱落)」を追加すべきであることが示されている。なお、図5では、「エリアA」に「津波」が発生した場合においても、想定故障がないことも示されている。
【0036】
このような想定故障変更ルールデータベース44を設けることにより、様々な地点の様々な災害に応じた想定故障の変更が可能になる。また災害地点及び災害内容に対する想定故障の変更内容が明確になるため、想定故障を変更する際の透明性が担保され、第三者に対する説明責任を果たすことができる。
【0037】
一方、想定故障変更部31は、想定故障地点推定部50、想定災害内容推定部51、想定故障変更部52、変更後想定故障送信部53及び表示部54を備えて構成される。
【0038】
想定故障地点推定部50は、電力系統監視制御装置4のCPU20(図1)がメモリ21(図1)に格納された想定故障地点推定プログラム50P(図1)を実行することにより具現化される機能部である。この想定故障地点推定部50は、災害情報データベース40に登録されている各災害情報41に基づいて、何らかの災害により想定故障が発生する可能性がある対象電力系統内のすべての地点(以下、これを想定故障地点と呼ぶ)を時間帯ごとにそれぞれ推定する機能を有する。想定故障地点推定部50は、推定した時間帯ごとの各想定故障地点を表すデータを想定故障地点推定結果データ61として、後述の想定故障変更結果データベース群32の想定故障地点推定結果データベース60に登録すると共に想定災害内容推定部51に出力する。
【0039】
想定災害内容推定部51は、電力系統監視制御装置4のCPU20がメモリ21に格納された想定災害内容推定プログラム51P(図1)を実行することにより具現化される機能部である。この想定災害内容推定部51は、想定故障地点推定部50から与えられた時間帯ごとの想定故障地点推定結果データ61と、災害情報データベース40に登録されている各災害情報41とに基づいて、時間帯ごとに、各想定故障地点にそれぞれ発生すると想定される災害の内容(以下、これを想定災害内容と呼ぶ)を推定する機能を有する。想定災害内容推定部51は、時間帯ごとの各想定故障地点と、その想定故障地点について推定した想定災害内容との組み合せを表すデータを想定災害内容推定結果データ63として、後述する想定故障変更結果データベース群32の想定災害内容推定結果データベース62に登録すると共に想定故障変更部52に出力する。
【0040】
想定故障変更部52は、電力系統監視制御装置4のCPU20がメモリ21に格納された想定故障変更プログラム52P(図1)を実行することにより具現化される機能部である。この想定故障変更部52は、想定災害内容推定部51から与えられた時間帯ごとの想定災害内容推定結果データ63と、想定故障データベース42に格納されている想定故障データ43と、想定故障変更ルールデータベース44に格納されている想定故障変更ルールデータ45とに基づいて、時間帯ごとのすべての想定故障を算出する機能を有する。想定故障変更部52は、算出した時間帯ごとの想定故障のデータを想定故障変更結果データ65として、後述する想定故障変更結果データベース群32の想定故障変更結果データベース64に登録すると共に変更後想定故障送信部53に出力する。
【0041】
変更後想定故障送信部53は、電力系統監視制御装置4のCPU20がメモリ21に格納された変更後想定故障送信プログラム53Pを実行することにより具現化される機能部である。変更後想定故障送信部53は、想定故障変更部52から与えられた時間帯ごとの想定故障変更結果データ65を通信装置23(図1)を介して系統安定化システム3に送信する。
【0042】
表示部54は、電力系統監視制御装置4のCPU20がメモリ21に格納された表示プログラム54Pを実行することにより具現化される機能部である。表示部54は、想定故障地点推定結果データベース60に格納されている時間帯ごとの想定故障地点推定結果データ61と、想定災害内容推定結果データベース62に登録されている時間帯ごとの想定災害内容推定結果データ63と、想定故障変更結果データベース64に格納されている時間帯ごとの想定故障変更結果データ65とに基づいて、図10について後述する想定故障変更結果表示画面80を生成する。そして表示部54は、生成した想定故障変更結果表示画面80の画面データを表示装置25(図1)に出力することにより、当該想定故障変更結果表示画面80を表示装置25に表示させる。
【0043】
他方、想定故障変更結果データベース群32は、想定故障地点推定結果データベース60、想定災害内容推定結果データベース62及び想定故障変更結果データベース64から構成される。
【0044】
想定故障地点推定結果データベース60は、上述のように想定故障変更部31の想定故障地点推定部50により推定された想定故障地点を管理するために利用されるデータベースである。この想定故障地点推定結果データベース60には、図6に示すように、時間帯ごとの想定故障地点推定結果データ61が格納される。各想定故障地点推定結果データ61には、対応する時間帯におけるすべての想定故障時点をそれぞれ表すデータが含まれる。従って、図6の例の場合、想定故障地点推定部50により推定された「YYYY/MM/DD」の「0:00」に想定される何らかの故障の発生地点(想定故障地点)が「エリアA」、「エリアB」及び「エリアC」の3か所であることが示されている。
【0045】
想定災害内容推定結果データベース62は、想定災害内容推定部51により推定された時間帯ごとの各想定故障地点の想定故障内容を管理するために利用されるデータベースである。この想定災害内容推定結果データベース62には、図7に示すように、時間帯ごとの各想定故障地点に対する想定災害内容が格納される。従って、図7の例の場合、想定災害内容推定部51により推定された「YYYY/MM/DD」の「0:00」の想定故障地点である「エリアA」の想定災害内容が「台風」、「エリアB」の想定災害内容が「土砂崩れ」、「エリアC」の想定災害内容が「津波」であることが示されている。
【0046】
想定故障変更結果データベース64は、想定故障変更部52により変更された想定故障の変更結果を管理するために利用されるデータベースである。この想定故障変更結果データベース64には、図8に示すように、時間帯ごとの更新後の想定故障データ43(図4)でなる想定故障変更結果データ65が格納される。従って、図8の例の場合、図4に示された各想定故障に対して、「YYYY/MM/DD」の「0:00」の想定故障として、「送電線A1(送電端)」及び「送電線A2(送電端)」の両方に「3Φ6LG(ABCA’B’C’)」という3相6線地絡が発生するという想定故障と、「電源サイトB1」に「脱落」が発生するという想定故障と、「電源サイトB1」及び「電源サイトC1」の両方に「脱落」が発生するという想定故障とが追加されたことが示されている。
【0047】
なお想定故障地点推定結果データベース60、想定災害内容推定結果データベース62及び想定故障変更結果データベース64には、それぞれ計算結果としての想定故障地点推定結果データ61、想定災害内容推定結果データ63又は想定故障変更結果データ65だけでなく、適宜の場面において流用ができるように、中間処理時点における結果のデータも含めて格納される。
【0048】
一方、系統安定化システム3は、図2に示すように、想定故障データベース70、系統データデータベース72、制御テーブル生成部74及び制御テーブルデータベース75を備えて構成される。
【0049】
系統安定化システム3の想定故障データベース70は、電力系統監視制御装置4の想定故障データベース42(図4)と同じ構成を有するデータベースである。想定故障データベース70には、想定故障データベース42に格納された想定故障データ43と同じ想定故障データ71が格納されており、想定故障データ43が更新された場合には、これと同期して想定故障データ71も同様に更新される。
【0050】
また系統データデータベース72は、電力系統の潮流計算、状態推定及び時系列変化計算に必要な系統データ73を管理するために利用されるデータベースである。系統データデータベース72には、電力系統の系統構成、線路インピーダンス(R+jX)、対地静電容量(サセプタンス:jB)、系統構成及び状態推定に必要なパットデータの閾値などのデータ、発電機データ、及び、その他の必要なデータが系統データ73として予め格納される。
【0051】
制御テーブル生成部74は、系統安定化システム3のCPU10(図1)がメモリ11(図1)に格納された制御テーブル生成プログラム74P(図1)を実行することにより具現化される機能部である。制御テーブル生成部74は、想定故障データベース70に格納された想定故障データ71と、系統データデータベース72に格納された系統データ73とに基づいて制御テーブル76を生成し、生成した制御テーブル76を制御テーブルデータベース75に格納する。
【0052】
また制御テーブル生成部74は、電力系統監視制御装置4の想定故障変更部52により更新された想定故障データ43である想定故障変更結果データ65が送信されてきた場合には、当該想定故障変更結果データ65と、想定故障データベース70に格納されている想定故障データ71と、系統データデータベース72に格納されている系統データ73とに基づいて時間帯ごとの新たな制御テーブル76をそれぞれ生成する。なお、このとき作成される制御テーブル76は、系統安定化システム3を利用することを前提とした緩和された制御テーブルである。
【0053】
そして制御テーブル生成部74は、生成した時間帯ごとの新たな制御テーブル76のデータを、制御テーブルデータベース75に格納されているそれまでの制御テーブル76のデータに上書きする。これにより制御テーブルデータベース75に格納されていた制御テーブル76が新たな制御テーブル76に更新される。
【0054】
制御テーブルデータベース75は、制御テーブル生成部74により生成された時間帯ごとの制御テーブル76を管理するために利用されるデータベースである。この制御テーブルデータベース75には、図9Aに示すように、時間帯ごとの制御テーブル76のデータが格納される。
【0055】
各制御テーブル76には、それぞれ対応する時間帯に発生が想定されるすべての故障(想定故障)の故障種類及び制御対象の情報が含まれる。「故障種類」は、対応する時間帯に発生が想定される故障(想定故障)の発生個所を表す「故障個所」の情報と、その故障個所において想定されるその故障の様相を表す「故障様相」の情報とから構成される。また「制御対象」は、対応する時間帯に対応する想定故障が発生した場合に解列すべき電制対象や負制対象(以下、これらを纏めて制御対象と呼ぶ)を表す情報が格納される。
【0056】
従って、図9Aの例の場合、「YYYY/MM/DD」の「0:00」の時間帯に発生が想定される故障種類として「送電線A1(送電端)」や「送電線A1(受電端)」、「送電線A2(送電端)」及び「送電線A2(受電端)」などにおける「3Φ6LG(ABCA’B’C’)」(3相6線地絡)があり、例えば、「送電線A1(送電端)」、「送電線A1(受電端)」又は「送電線A2(送電端)」においてかかる3相6線地絡が発生した場合には「G1」、「G2」及び「G3」という3つの発電機をすべて制御又は電力系統から解列(「発電機G1+G2+G3」)すべきことが規定されていることが示されている。
【0057】
(1-3)想定故障変更結果表示画面の構成
図10は、上述のように電力系統監視制御装置4の表示部54(図2)により表示装置25(図1)に表示される想定故障変更結果表示画面80の構成例を示す。この想定故障変更結果表示画面80は、時間帯指定領域81、災害情報表示領域82、想定故障変更ルール表示領域83、想定災害推定結果表示領域84、想定故障変更結果表示領域85、系統図表示領域86及び凡例表示領域87を備えて構成される。
【0058】
そして時間帯指定領域81には、日付指定欄81A及び時間帯指定欄81Bが設けられており、変更後の想定故障データ43の内容を確認したい日付をプルダウン方式で選択して日付指定欄81Aに表示させることができ、変更後の想定故障データ43を確認したいその日付内の時間帯の開始時刻をプルダウン方式で選択して時間帯指定欄81Bに表示させることができる。なお、以下においては、時間帯指定領域81で指定された時間帯を指定時間帯と呼ぶ。
【0059】
また災害情報表示領域82には、災害情報データベース40(図3)に登録されている指定時間帯の災害情報41の一覧が表示され、想定故障変更ルール表示領域83には、想定故障変更ルールデータベース44(図2)に想定故障変更ルールデータ45として登録されている想定故障変更ルールの一覧が表示される。
【0060】
さらに想定災害推定結果表示領域84には、想定災害内容推定結果データベース62(図7)に格納されている指定時間帯における想定故障個所ごとの想定災害内容の一覧が表示され、想定故障変更結果表示領域85には、想定故障変更部52(図2)により変更された変更後の指定時間帯における各想定故障(故障個所及び故障様相)の一覧が表示される。
【0061】
なお、かかる「変更後の指定時間帯における各想定故障の一覧」には、変更後の各想定故障にそれぞれ対応させて変更欄85Aが設けられており、元の内容から変更された(図10では追加された)想定故障に対応する変更欄85Aにチェックマーク85Bが表示される。これにより運用者は、どの想定故障が変更されたかをこのチェックマーク85Bに基づいて即座に認識することができる。
【0062】
さらに系統図表示領域86には、対象電力系統の系統図が表示されると共に、凡例表示領域87には、かかる系統図における記号等の凡例が表示される。これにより運用者が災害発生地点や想定故障地点の位置を系統図や凡例に基づいて容易に認識することができる。
【0063】
(1-4)第1の電力系統監視制御処理
図11は、上述のように系統安定化システム3が保持する制御テーブル76を更新するために電力系統監視制御装置4において実行される一連の処理(以下、これを第1の電力系統監視制御処理と呼ぶ)の流れを示す。
【0064】
電力系統監視制御装置4においてこの図11に示す第1の電力系統監視制御処理が開始されると、まず、想定故障地点推定部50(図2)が対象電力系統に発生すると想定される故障の発生地点(想定故障地点)を時間帯ごとにそれぞれ推定し、推定結果を想定故障地点推定結果データ61として、想定故障地点推定結果データベース60(図6)に登録すると共に想定災害内容推定部51(図2)に出力する(S1)。
【0065】
具体的に、想定故障地点推定部50は、災害情報データベース40(図1)に格納されている時間帯ごとの災害情報41(図3)に基づいて、これらの災害情報41に含まれる「災害地点」をすべて抽出し、抽出した各「災害地点」をそれぞれ想定故障地点として指定した想定故障地点推定結果データ61を想定故障地点推定結果データベース60に登録すると共に想定災害内容推定部51に出力する。
【0066】
続いて、想定災害内容推定部51(図2)が、各想定故障地点の想定災害内容を時間帯ごとにそれぞれ推定し、推定結果を想定災害内容推定結果データ63として、想定災害内容推定結果データベース62に登録すると共に想定故障変更部52に出力する(S2)。
【0067】
具体的に、想定災害内容推定部51は、災害情報データベース40(図1)に格納されている時間帯ごとの災害情報41(図3)に基づいて、時間帯ごとに、災害情報41における各「災害地点」の「災害内容」をそれぞれ対応する想定故障地点の想定災害内容として取得する。そして想定災害内容推定部51は、取得した各想定故障地点の想定災害内容に基づいて図7について上述した想定災害内容推定結果データ63を生成し、生成した想定災害内容推定結果データ63を想定災害内容推定結果データベース62に登録すると共に想定故障変更部52に出力する。
【0068】
次いで、想定故障変更部52(図2)が、想定災害内容推定部51から与えられた想定災害内容推定結果データ63と、想定故障変更ルールデータベース44に想定故障変更ルールデータ45として登録されている各想定故障変更ルールとに基づいて、想定故障データベース42に登録されている想定故障データ43を更新する(S3)。
【0069】
具体的に、想定故障変更部52は、時間帯ごとに、想定災害内容推定結果データ63における想定故障地点及び想定故障内容の各組合せを、それぞれ各想定故障変更ルールの災害地点及び災害内容の組合せと順次比較し、かかる想定故障地点及び想定故障内容の組合せと、災害地点及び災害内容の組合せが一致する想定故障変更ルールの想定故障変更内容(図5の「想定故障変更内容」)を想定故障変更ルールから抽出する。
【0070】
例えば、図7の例の場合、「日付YYYY/MM/DD 時刻0:00」の想定災害内容推定結果における想定故障地点が「エリアA」、想定災害内容が「台風」の組合せは図5の災害地点が「エリアA」、災害内容が「台風」の組合せと一致するため、想定故障変更部52は、その想定故障変更ルールの想定故障変更内容である「エリアA内4回線地絡」を抽出する。また想定故障変更部52は、これと同様にして、図5の「エリアB」及び「土砂崩れ」の組合せに対応する想定故障変更ルールの想定故障変更内容である「エリアB内電源1サイト脱落」と、「エリアC」及び「津波」の組合せに対応する想定故障変更ルールの想定故障変更内容である「エリアBC内電源1サイト脱落」とをそれぞれ抽出する。
【0071】
次に想定故障変更部52は、上述のようにして抽出した各想定故障変更内容をそれぞれ元の想定故障データ43(図4)に追加するようにして想定故障変更結果データ65を生成する。例えば、上述の例の場合、図8に示すように、送電線A1及び送電線A2の各送電端における3相6回線地絡故障の同時発生(故障個所が「送電線A1(送電端)+送電線A2(送電端)」、故障様相が「3Φ6LG(ABCA’B’C’)」+「3Φ6LG(ABCA’B’C’)」の行)と、電源サイトB1の脱落(故障個所が「電源サイトB1」、故障様相が「脱落」の行)と、電源サイトB1及びB2の同時脱落(故障個所が「電源サイトB1+B2」、故障様相が「脱落」の行)が想定故障データ43に追加されるようにして想定故障変更結果データ65が生成される。想定故障変更部52は、以上のような処理を時間帯ごとに実行する。
【0072】
そして想定故障変更部52は、上述のようにして生成した時間帯ごとの想定故障変更結果データ65を想定故障変更結果データベース64に登録すると共に、変更後想定故障送信部53に出力する。
【0073】
この後、変更後想定故障送信部53が、想定故障変更結果データ65を系統安定化システム3に出力し(S4)、この一連の第1の電力系統監視制御処理が終了する。
【0074】
なお、この後、かかる想定故障変更結果データ65に基づいて、系統安定化システム3の制御テーブル生成部74(図2)により更新後の新たな時間帯ごとの制御テーブル76が生成される。
【0075】
例えば、上述の例の場合、更新前の制御テーブル76が図9Aのような内容であったものとすると、「YYYY/MM/DD」の「0:00」の制御テーブル76として、図9Bに示すように、送電線A1及び送電線A2の各送電端における3相6回線地絡故障の同時発生(故障種類の故障個所が「送電線A1(送電端)+送電線A2(送電端)」、故障様相が「3Φ6LG(ABCA’B’C’)」+「3Φ6LG(ABCA’B’C’)」の行)と、電源サイトB1の脱落(故障個所が「電源サイトB1」、故障様相が「脱落」の行)と、電源サイトB1及びB2の同時脱落(故障種類の故障個所が「電源サイトB1+B2」、故障様相が「脱落」の行)が追加された制御テーブル76が生成される。
【0076】
そしてこのようにして生成された時間帯ごとの制御テーブル76がそれまで制御テーブルデータベース75に格納されていた制御テーブル76のデータに上書きされ、これにより制御テーブル76が更新される。
【0077】
(1-5)本実施の形態の効果
以上のように本実施の形態の電力系統監視制御システム1では、その運用者(一般送配電事業者)によって作成された想定故障変更ルールに従って想定故障データ43を変更し、変更した想定故障データ43に基づいて制御テーブル76を更新するため、固定的な故障以外の故障を含めた想定故障データ(想定故障変更結果データ65)を生成し、この想定故障データに基づいて制御テーブル76を更新できる。
【0078】
従って、本電力系統監視制御システム1によれば、地震や津波などの大規模災害や稀頻度災害の発生に伴う4設備故障(N-4故障)や電源1サイト脱落などをも対象とした制御テーブル76を作成することができるため、そのような災害の発生時にも大規模停電などが発生することを防止することができる。
【0079】
また本電力系統監視制御システム1によれば、想定故障変更ルールデータ45を提示したり、想定故障変更結果表示画面80を表示することで、かかる制御テーブル76の内容に関する根拠を示すことができるため、制御テーブル76に対する説明責任を十分に果たすことができる。
【0080】
よって本電力系統監視制御システム1によれば、説明責任を果たしつつ電力系統の供給信頼度とレジリエンシーを向上させることができる。
【0081】
(2)第2の実施の形態
(2-1)本実施の形態による電力系統監視制御システムの構成
図1との対応部分に同一符号を付して示す図12は、第2の実施の形態による電力系統監視制御システム90を示す。この電力系統監視制御システム90は、ネットワーク2を介して接続された電力系統監視制御装置91及び市場管理システム92と、図示しない系統安定化システムとを備えて構成される。
【0082】
電力系統監視制御装置91は、第1の実施の形態と同様にして時間帯ごとの制御テーブルを更新すると共に、更新後の制御テーブルに基づいて時間帯ごとの電力系統の状態を算出する機能を備えたコンピュータ装置である。電力系統監視制御装置91は、これら更新後の時間帯ごとの制御テーブルのデータと、算出した時間帯ごとの電力系統の状態を表すデータ(以下、これを系統状態データと呼ぶ)とを市場管理システム92に送信する。
【0083】
電力系統監視制御装置91は、CPU20、メモリ21、記憶装置22、通信装置23、入力装置24及び表示装置25を備えたコンピュータ装置から構成される。そしてメモリ21には、想定故障地点推定プログラム50P、想定災害内容推定プログラム51P及び想定故障変更プログラム52Pのほか、制御テーブル生成プログラム100P、系統状態計算プログラム101P、送信プログラム102P及び表示プログラム103Pが格納される。
【0084】
また電力系統監視制御装置91の記憶装置22には、災害情報データベース40、想定故障データベース42、想定故障変更ルールデータベース44、想定故障地点推定結果データベース60、想定災害内容推定結果データベース62及び想定故障変更結果データベース64のほか、系統データデータベース104、制御テーブルデータベース105及び系統状態データデータベース106が格納される。
【0085】
市場管理システム92は、電力取引市場に設置され、その電力取引市場における電力商品(以下、これを市場商品と呼ぶ)の取引を管理する機能を有するコンピュータシステムである。また市場管理システム92には、かかる機能加えて、電力系統監視制御装置91から与えられた時間帯ごとの更新後の制御テーブルと、時間帯ごとの系統状態データとなどに基づいて、電力系統監視制御装置91を保有する事業者(一般送配電事業者)が時間帯ごとに電力取引市場から調達すべき調整力を調達計画(以下、これを調整力調達計画と呼ぶ)として算出し、算出した調整力調達計画をその事業者に提供する機能も搭載されている。
【0086】
この市場管理システム92は、CPU110、メモリ111及び記憶装置112などの情報処理資源を備えて構成される。CPU110、メモリ111及び記憶装置112の構成及び機能は、図1について上述した第1の実施の形態の系統安定化システム3の対応部位(CPU10、メモリ11又は記憶装置12)と同様であるため、ここでの説明は省略する。
【0087】
市場管理システム92のメモリ111には、後述する調整力調達計画作成プログラム113Pが格納される。また市場管理システム92の記憶装置112には、系統データデータベース114、制御テーブルデータベース115、系統状態データデータベース116、市場データデータベース117及び調整力調達計画データベース118が格納される。
【0088】
図2との対応部分に同一符号を付した図13は、かかる本実施の形態による電力系統監視制御装置91及び市場管理システム92の論理構成を示す。この図13に示すように、電力系統監視制御装置91は、想定故障変更入力データベース群120、想定故障変更部121及び想定故障変更結果データベース群122を備えて構成される。
【0089】
想定故障変更入力データベース群120は、災害情報データベース40、想定故障データベース42、想定故障変更ルールデータベース44及び系統データデータベース104から構成される。災害情報データベース40、想定故障データベース42及び想定故障変更ルールデータベース44は、図3図5について上述した通りの構成及び内容を有するデータベースであるため、ここでの説明は省略する。
【0090】
また系統データデータベース104は、第1の実施の形態の系統データデータベース72(図2)と同じ構成及び内容を有するデータベースであるため、ここでの説明は省略する。なお、系統データデータベース104に格納される系統データ130は、第1の実施の形態の系統データデータベース72に格納されている系統データ73と同一内容のデータである。
【0091】
想定故障変更部121は、想定故障地点推定部50、想定災害内容推定部51、想定故障変更部52、制御テーブル生成部100、系統状態計算部101、送信部102及び表示部103から構成される。想定故障地点推定部50、想定災害内容推定部51及び想定故障変更部52は、それぞれ上述した機能を有する機能部である。
【0092】
また制御テーブル生成部100は、電力系統監視制御装置91のCPU20(図12)がメモリ21(図12)に格納された制御テーブル生成プログラム100P(図12)を実行することにより具現化される機能部である。この制御テーブル生成部100は、想定故障変更部52から与えられる時間帯ごとの想定故障変更結果データ65と、系統データデータベース104に格納されている系統データ130とに基づいて、第1の実施の形態の制御テーブル生成部74(図2)と同様にして時間帯ごとの制御テーブル131をそれぞれ生成する。そして制御テーブル生成部100は、生成した制御テーブル131を制御テーブルデータベース105に格納すると共に系統状態計算部101に出力する。
【0093】
なお、このとき作成される制御テーブル131は、系統安定化システムを利用することを前提とした緩和された制御テーブルである。また、以下においては、制御テーブルデータベース105には既に制御テーブル131が格納されており、制御テーブル生成部100は、想定故障変更部52から与えられる時間帯ごとの想定故障変更結果データ65に基づいて更新後の新たな制御テーブル131を生成し、生成した新たな制御テーブル131を、元の制御テーブル131に上書きするようにして制御テーブルデータベース105に格納すると共に系統状態計算部101に出力するものとする。
【0094】
系統状態計算部101は、電力系統監視制御装置91のCPU20がメモリ21に格納された系統状態計算プログラム101P(図12)を実行することにより具現化される機能部である。系統状態計算部101は、各想定故障の発生時に更新後の制御テーブル131に登録されている対応する制御対象の制御が実行されることを前提として、電力取引市場から調整力として調達すべき時間帯ごとの電力と、そのときの各送電線の新たな運用基準とをそれぞれ算出する。そして系統状態計算部101は、算出した時間帯ごとのかかる調達すべき電力及び運用基準を、それぞれ時間帯ごとの系統状態データ132として系統状態データデータベース106に格納すると共に、時間帯ごとの系統状態データ132と、制御テーブル生成部100から与えられた時間帯ごとの制御テーブル131のデータとを送信部102に出力する。
【0095】
送信部102は、電力系統監視制御装置91のCPU20がメモリ21に格納された送信プログラム102P(図12)を実行することにより具現化される機能部である。送信部102は、系統状態計算部101から与えられた時間帯ごとの系統状態データ132及び時間帯ごとの制御テーブル131のデータを、通信装置23(図12)を介して市場管理システム92に送信する。
【0096】
表示部103は、電力系統監視制御装置91のCPU20がメモリ21に格納された表示プログラム103P(図16)を実行することにより具現化される機能部である。表示部103は、想定故障地点推定結果データベース60に格納されている時間帯ごとの想定故障地点推定結果データ61と、想定災害内容推定結果データベース62に登録されている時間帯ごとの想定災害内容推定結果データ63と、想定故障変更結果データベース64に格納されている時間帯ごとの想定故障変更結果データ65と、制御テーブルデータベース105に格納されている時間帯ごとの制御テーブル131と、系統状態データデータベース106に格納されている時間帯ごとの系統状態データ132とに基づいて、例えば図10について上述した想定故障変更結果表示画面80に含まれる各種情報を含む所定の画面を表示する。
【0097】
また想定故障変更結果データベース群122は、想定故障地点推定結果データベース60、想定災害内容推定結果データベース62、想定故障変更結果データベース64、制御テーブルデータベース105及び系統状態データデータベース106から構成される。
【0098】
想定故障地点推定結果データベース60、想定災害内容推定結果データベース62及び想定故障変更結果データベース64は、それぞれ図6図8について上述した通りの構成及び内容を有するものであるため、ここでの説明は省略する。また制御テーブルデータベース105は、第1の実施の形態の制御テーブルデータベース76(図9A)と同じ構成及び内容を有するものであるため、ここでの説明は省略する。
【0099】
系統状態データデータベース106は、上述のように系統状態計算部101により算出された時間帯ごとの系統状態データ132を管理するために利用されるデータベースである。
【0100】
系統状態データ132は、図14に示すように、上述のように系統状態計算部101により算出された電力取引市場から調整力として調達すべき時間帯ごとの電力に関する情報(以下、これを調整力調達電力情報と呼ぶ)132Aと、時間帯ごとの各送電線の新たな運用基準に関する情報(以下、これを送電線情報と呼ぶ)132Bとを含む。
【0101】
調整力調達電力情報132Aには、対応する時間帯に調整力として電力取引市場から調達すべき市場商品の名称の情報である名称情報132AAと、その市場商品を調達すべき量の情報である調達電力情報132ABと、対応する市場商品の入札単価の情報である単価情報132ACとが含まれる。また送電線情報132Bには、各送電線の名称の情報である送電線名称情報132BAと、その送電線の緩和された新たな運用基準の情報である運用基準情報132BBとが含まれる。
【0102】
一方、市場管理システム92は、図13に示すように、系統データデータベース114、制御テーブルデータベース115、系統状態データデータベース116、市場データデータベース117、調整力調達計画作成部113及び調整力調達計画データベース118を備えて構成される。
【0103】
系統データデータベース114は、電力系統監視制御装置91の系統データデータベース104と同じ構成を有するデータベースである。系統データデータベース114には、系統データデータベース104に格納された系統データ130と同じ系統データ140が格納されており、系統データデータベース104の系統データ130が更新された場合には、これと同期して系統データデータベース114の系統データ140も同様に更新される。
【0104】
制御テーブルデータベース115及び系統状態データデータベース116も、それぞれ電力系統監視制御装置91の制御テーブルデータベース105や系統状態データデータベース106と同じ構成を有し、電力系統監視制御装置91から送信されてきた制御テーブル141や系統状態データ142がそれぞれ格納される。また市場データデータベース117には、時間帯ごとの各市場商品の入札情報が市場データ143として格納される。
【0105】
調整力調達計画作成部113は、市場管理システム92のCPU110(図12)がメモリ111(図2)に格納された調整力調達計画作成プログラム113P(図12)を実行することにより具現化される機能部である。調整力調達計画作成部113は、系統データデータベース114に格納された系統データ140と、制御テーブルデータベース115に格納された時間帯ごとの制御テーブル141と、系統状態データデータベース116に格納された時間帯ごとの系統状態データ142と、市場データデータベース117に格納された市場データ143とに基づいて、電力取引市場から調整力として調達すべき時間帯ごとの電力の調達計画(以下、これを調整力調達計画と呼ぶ)144を作成し、作成した時間帯ごとの調整力調達計画144を調整力調達計画データベース118に格納する。
【0106】
調整力調達計画データベース118は、調整力調達計画作成部113により作成された時間帯ごとの調整力調達計画144を管理するために利用されるデータベースである。この調整力調達計画データベース118に登録されている調整力調達計画144は、電力系統監視制御装置91を保有する事業者(一般送配電事業者)に通知される。かくして、かかる事業者は、この調整力調達計画144に従って、時間帯ごとに電力取引市場から調整力としての電力を調達する。
【0107】
(2-2)第2の電力系統監視制御処理
図15は、上述のような更新後の時間帯ごとの制御テーブル131と、時間帯ごとの系統状態データ132とを生成又は算出するために電力系統監視制御装置91において実行される一連の処理(以下、これを第2の電力系統監視制御処理と呼ぶ)の流れを示す。
【0108】
電力系統監視制御装置91においてこの図15に示す第2の電力系統監視制御処理が開始されると、想定故障地点推定部50、想定災害内容推定部51及び想定故障変更部52によりステップS10~ステップS12が、図11について上述した第1の電力系統監視制御処理のステップS1~ステップS3と同様に実行される。
【0109】
続いて、制御テーブル生成部100が、想定故障変更部52から与えられた時間帯ごとの想定故障変更結果データ65と、系統データデータベース104に格納されている系統データ130とに基づいて時間帯ごとの新たな制御テーブル131を生成し、生成した制御テーブル131を制御テーブルデータベース105に格納すると共に系統状態計算部101に出力する(S13)。
【0110】
次いで、系統状態計算部101が、制御テーブル生成部100から与えられた時間帯ごとの新たな制御テーブル131と、系統データデータベース104に格納されている系統データ130とに基づいて、各想定故障の発生時に、新たな制御テーブル131に登録された対応する制御対象の制御が実行されることを前提とした、電力取引市場から調整力として調達すべき時間帯ごとの電力と、各送電線の新たな運用基準とをそれぞれ計算する。
【0111】
なお「電力取引市場から調整力として調達すべき時間帯ごとの電力」は、電力取引市場からの電力調達量を目的関数とし、平常時及び想定故障時の系統制約を制約条件とした最適化計算である信頼度制約付き最適潮流計算(Security Constrained Optimal Power Flow)や、信頼度制約付き経済負荷配分計算(Security Constrained Economic Dispatch)などの手法を用いて算出することができる。
【0112】
また系統状態計算部101は、算出した時間帯ごとの電力(調達力)と、各送電線の新たな運用基準とを時間帯ごとの系統状態データ132として系統状態データデータベース106に格納すると共に、時間帯ごとの系統状態データ132と、制御テーブル生成部100から与えられた時間帯ごとの制御テーブル131のデータを送信部102に出力する(S14)。
【0113】
この後、送信部102が、系統状態計算部101から与えられた時間帯ごとの系統状態データ132及び制御テーブル131のデータを市場管理システム92に出力し(S15)、この一連の第2の電力系統監視制御処理が終了する。
【0114】
(2-3)本実施の形態の効果
以上のように本実施の形態の電力系統監視制御システム90では、緩和された新たな制御テーブル131に基づいて市場管理システム92において調整力の調達計画が算出されるため、災害に伴う系統故障発生時でも系統安定化システムによって系統安定性を維持することができるだけでなく、緩和された新たな制御テーブル131を用いることで安価な調整力を調達可能となり、系統運用者の運用コストを低減することができる。
【0115】
実際上、図14について上述した系統状態データ132において、送電線情報132Bの運用基準情報132BBは、緩和された制御テーブルに基づいて算出された緩和された運用基準を表しており、調整力調達電力情報132Aの調達電力情報132ABは、緩和された運用基準を満たす調達電力を表す。このため、市場管理システム92が各送電線のかかる運用基準及び市場商品のかかる調達電力を制約条件及び初期値とし、更新後の新たな制御テーブル131を踏まえて系統安定性を評価することで、緩和された条件の下で調達コストの低い初期点から調達計画を計算できるため、より安価な調整力を調達することができる。
【0116】
(3)第3の実施の形態
図12との対応部分に同一符号を付して示す図16は、第3の実施の形態による電力系統監視制御システム150を示す。この電力系統監視制御システム150は、ネットワーク2を介して接続された電力系統監視制御装置151及び中央給電指令システム152と、図示しない系統安定化システムとを備えて構成される。
【0117】
電力系統監視制御装置151は、第2の実施の形態と同様にして時間帯ごとの制御テーブルを更新すると共に、更新後の制御テーブルに基づいて時間帯ごとの電力系統の状態を算出する機能を備えたコンピュータ装置である。電力系統監視制御装置151は、これら更新後の時間帯ごとの制御テーブルのデータと、算出した時間帯ごとの電力系統の状態を表すデータ(以下、これを系統状態データと呼ぶ)とを中央給電指令システム152に送信する。
【0118】
中央給電指令システム152は、過去の電力需要や天気予報等に基づいて将来の電力の需給計画を立案し、立案した需給計画に従って発電機の出力を調整等する機能を有するシステムである。また本実施の中央給電指令システム152は、電力系統監視制御装置151から与えられる時間帯ごとの更新後の制御テーブル及び系統状態データに基づいて、どの発電機を用いてどの程度の調整力を発動させるかをといった時間帯ごとの調整力発動指令を生成し、生成した調整力発動指令に基づいて必要な発電機の出力を調整することにより必要な調整力を発動させる。
【0119】
図13との対応部分に同一符号を付した図17は、かかる電力系統監視制御装置151及び中央給電指令システム152の論理構成を示す。この図17に示すように、電力系統監視制御装置151は、想定故障変更部160の系統状態計算部161と、想定故障変更結果データベース群162の系統状態データデータベース163に格納される系統状態データ164の内容とを除いて第2の実施の形態の電力系統監視制御装置91(図13)と同じ構成を有する。
【0120】
系統状態計算部161は、電力系統監視制御装置151のCPU20(図16)がメモリ21(図16)に格納された系統状態計算プログラム161P(図16)を実行することにより具現化される機能部である。系統状態計算部161は、各想定故障の発生時に更新後の制御テーブル131(図17)に登録されている対応する制御対象の制御が実行されることを前提として、時間帯ごとの調整力として出力させるべき各発電機の発電電力と、時間帯ごとの各送電線の新たな運用基準とをそれぞれ算出する。そして系統状態計算部161は、算出した時間帯ごとのかかる6電力及びかかる運用基準を、それぞれ時間帯ごとの系統状態データ164として系統状態データデータベース163に格納すると共に、時間帯ごとの系統状態データ164と、制御テーブル生成部100から与えられた時間帯ごとの制御テーブル131のデータとを送信部102に出力する。かくして、これら時間帯ごとの制御テーブル131のデータと、時間帯ごとの系統状態データ154とが送信部102から中央給電指令システム152に送信される。
【0121】
表示部165は、電力系統監視制御装置151のCPU20がメモリ21に格納された表示プログラム165P(図16)を実行することにより具現化される機能部である。表示部165は、想定故障地点推定結果データベース60に格納されている時間帯ごとの想定故障地点推定結果データ61と、想定災害内容推定結果データベース62に登録されている時間帯ごとの想定災害内容推定結果データ63と、想定故障変更結果データベース64に格納されている時間帯ごとの想定故障変更結果データ65と、制御テーブルデータベース105に格納されている時間帯ごとの制御テーブル131と、系統状態データデータベース163に格納されている時間帯ごとの系統状態データ164とに基づいて、例えば図10について上述した想定故障変更結果表示画面80に含まれる各種情報を含む所定の画面を表示する。
【0122】
なお、本実施の形態の系統状態データ164の構成を図18に示す。この図18に示すように、本実施の形態の系統状態データ164は、系統状態計算部161により算出された時間帯ごとの調整力として出力させるべき各発電機の出力電力に関する情報(以下、これを発電機情報と呼ぶ)164A及び送電線情報164Bを含む。
【0123】
発電機情報164Aには、対応する時間帯に調整力を生成するために出力制御すべき発電機の名称の情報である名称情報164AAと、その発電機から調達力として出力させるべき電力の情報である出力情報164ABと、対応する発電機に1kWhの電力を出力させるために要する燃料費(単位電力当たりの燃料費)の情報である価格情報164ACとが含まれる。また送電線情報164Bには、各送電線の名称の情報である送電線名称情報164BAと、その送電線の緩和された新たな運用基準の情報である運用基準情報164BBとが含まれる。
【0124】
一方、中央給電指令システム152は、系統データデータベース114、制御テーブルデータベース115、系統状態データデータベース170、需要予測データデータベース171、発電・需要計画データデータベース172、調整力調達結果データデータベース173、需給計画作成部174、調整力発動指令値計算部175、需給計画データベース176及び調整力発動指令値データベース177を備えて構成される。
【0125】
系統データデータベース114は、電力系統監視制御装置151の系統データデータベース104と同じ構成を有するデータベースである。系統データデータベース114には、系統データデータベース104に格納された系統データ130と同じ系統データ140が格納されており、系統データデータベース104の系統データ130が更新された場合には、これと同期して系統データデータベース114の系統データ140も同様に更新される。
【0126】
制御テーブルデータベース115及び系統状態データデータベース170も、それぞれ電力系統監視制御装置151の制御テーブルデータベース105や系統状態データデータベース163と同じ構成を有するデータベースであり、電力系統監視制御装置151から送信されてきた制御テーブル141や、系統状態データ180がそれぞれ格納される。
【0127】
また需要予測データデータベース171には、過去の実績や天気予報などに基づいて予め算出された将来の各時間帯における電力需要の予測結果のデータである需要予測データ181が格納される。さらに発電・需要計画データデータベース172には、発電事業者や電力小売事業者、バランシンググループ及びリソースアグリゲータなどから提出された将来の時間帯ごとの発電計画や需要計画が発電・需要計画データ182として格納される。さらに調整力調達結果データデータベース173には、それまでの調整力の調達結果を表す調整力調達結果データ183が格納される。
【0128】
需給計画作成部174は、中央給電指令システム152のCPU110(図16)がメモリ111(図16)に格納された需給計画作成プログラム174Pを実行することにより具現化される機能部である。需給計画作成部174は、系統データデータベース114に格納された系統データ140と、制御テーブルデータベース115に格納された時間帯ごとの制御テーブル141と、系統状態データデータベース170に格納された時間帯ごとの系統状態データ180と、需要予測データデータベース171に格納された需要予測データ181に基づいて将来の時間帯ごとの需要と供給の計画である需給計画178を作成し、作成した需給計画178を需給計画データベース176に格納する。
【0129】
また調整力発動指令値計算部175は、中央給電指令システム152のCPU110(図16)がメモリ111(図16)に格納された調整力発動指令値計算プログラム175Pを実行することにより具現化される機能部である。調整力発動指令値計算部175は、需給計画作成部174により作成された時間帯ごとの需給計画178と、発電・需要計画データデータベース172に格納されている発電・需要計画データ182と、調整力調達結果データデータベース173に格納されている調整力調達結果データ183とに基づいて、将来の時間帯ごとの実際にそれぞれ発動すべき調整力の指令値(以下、これを調整力発動指令値と呼ぶ)179を計算し、算出した時間帯ごとの調整力発動指令値179を調整力発動指令値データベース177に格納する。
【0130】
需給計画データベース176は、上述のように需給計画作成部174により作成された時間帯ごとの需給計画を管理するために利用されるデータベースである。この需給計画データベース176に格納された需給計画178は、この後、各発電機の出力電力を制御する際に利用される。
【0131】
また調整力発動指令値データベース177は、上述のよう調整力発動指令値計算部175により算出された将来の時間帯ごとの調整力発動指令値179を管理するために利用されるデータベースである。この調整力発動指令値データベース177に格納された調整力発動指令値179に従って、将来の時間帯ごとに、調整力を発動するための対応する発電機の出力制御が中央給電指令システム152により行われる。
【0132】
以上の構成を有する本実施の形態の電力系統監視制御システム150では、電力系統監視制御装置の制御テーブルデータベースに格納された制御テーブルに基づいて各発電機による供給計画及び調整力発動指令値を算出するため、災害に伴う系統故障発生時でも系統安定化システムによって系統安定性を維持することができるだけでなく、より安価な発電機による供給計画の立案及び調整力の発動が可能となり、系統運用者の運用コストを低減することができる。
【0133】
実際上、図18について上述した系統状態データ164において、各送電線の運用基準情報164BBは更新された制御テーブル131(図17)によって緩和された運用基準を表しており、発電機情報164Aの出力情報164ABは更新された制御テーブル131によって緩和された運用基準を満たす発電機の状態を表している。このため、中央給電指令システム152(図16)が運用基準及び発電機状態を制約条件及び初期値とし、緩和された制御テーブル131を踏まえて系統安定性を評価することで、緩和された制約条件の下で燃料費の低い初期点から需給計画178(図17)及び調整力発動指令値179(図17)を計算できるため、より安価な発動機による需給計画の立案及び調整力の発動を行うことができる。
【0134】
(4)他の実施の形態
なお上述の第1~第3の実施の形態においては、電力系統監視制御装置4を系統安定化システム3や市場管理システム92又は中央給電指令システム152とは別個に設けるようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、電力系統監視制御装置4の機能をすべて系統安定化システム3や市場管理システム92又は中央給電指令システム152に搭載するようにしてもよく、また電力系統監視制御装置4の機能の一部を系統安定化システムや市場管理システム92又は中央給電指令システム152に搭載するようにしてもよい。ただし、系統安定化システム3や市場管理システム92又は中央給電指令システム152とは別個に電力系統監視制御装置4を設けることで、既存の系統安定化システム3や市場管理システム92又は中央給電指令システム152をほぼそのまま利用しながら本願発明が目的とする効果を得ることができる。
【0135】
また上述の第1~第3の実施の形態においては、災害情報41が災害の発生地点及び内容の双方の情報を含むようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、災害の発生地点及び内容の一方の情報のみを含むようにしてもよい。
【0136】
さらに上述の第1~第3の実施の形態においては、想定故障変更ルールが災害地点及び災害内容の双方の情報と、想定故障変更内容の情報とを含むようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、災害地点及び災害内容の一方の情報のみと、想定故障変更内容の情報とを含むようにしてもよい。
【0137】
さらに上述の第2の実施の形態においては、市場管理システム92の調整力調達計画作成部113が電力取引市場のみから調整力を調達するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、電力取引市場からの調整力の調達に加えて、発電機の出力を制御するようにして調整力を調達するようにしてもよい。
【0138】
同様に、上述の第3の実施の形態においては、中央給電指令システム152の調整力発動指令値計算部175が発電機の出力を制御するようにして調整力を調達するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、発電機の出力制御に加えて、電力取引市場から調整力を調達するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0139】
本発明は、系統安定化システムを含む種々の構成の電力系統監視制御システムに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0140】
1、90、150……電力系統監視制御システム、3……系統安定化システム、4,91,151……電力系統監視制御装置、10,20……CPU、25……表示装置、30,120……想定故障変更入力データベース群、31,121,160……想定故障変更部、32,122,162……想定故障変更結果データベース群、40……災害情報データベース、41……災害情報、42,70……想定故障データベース、43,71……想定故障データ、44……想定故障変更ルールデータベース、45……想定故障変更ルールデータ、50……想定故障地点推定部、51……想定災害内容推定部、52……想定故障変更部、53……変更後想定故障送信部、54,103,165……表示部、60……想定故障地点推定結果データベース、61……想定故障地点推定結果データ、62……想定災害内容推定結果データベース、63……想定災害内容推定結果データ、64……想定故障変更結果データベース、65……想定故障変更結果データ、72,104……系統データデータベース、73,130……系統データ、74,100……制御テーブル生成部、75,105,115……制御テーブルデータベース、76,131,141……制御テーブル、80……想定故障変更結果表示画面、92……市場管理システム、101,161……系統状態計算部、102……送信部、106,116,163,170……系統状態データデータベース、113……調整力調達計画作成部、117……市場データデータベース、118……調整力調達計画データベース、132,142,164,180……系統状態データ、143……市場データ、144……調整力調達計画、152……中央給電指令システム、需要予測データデータベース、171……発電・需要計画データベース、173……調整力調達データデータベース、174……需給計画作成部、175……調整力発動指令値計算部、176……需給計画データベース、177……調整力発動指令値データベース、178……需給計画、179……調整力発動指令値、181……需要予測データ、182……発電・需要計画データ、183……調整力調達結果データ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18