(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】包装紙
(51)【国際特許分類】
D21H 27/10 20060101AFI20240827BHJP
D21H 13/24 20060101ALI20240827BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
D21H27/10
D21H13/24
B65D65/02 E
(21)【出願番号】P 2020130858
(22)【出願日】2020-07-31
【審査請求日】2023-07-24
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 大昭
(72)【発明者】
【氏名】豊田 純也
【審査官】下原 浩嗣
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-138728(JP,A)
【文献】特開平07-003600(JP,A)
【文献】特開平09-310292(JP,A)
【文献】特開2002-153138(JP,A)
【文献】特開平08-023870(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0139983(US,A1)
【文献】特開2000-032852(JP,A)
【文献】特開2017-078243(JP,A)
【文献】特開2013-185260(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 27/10
D21H 13/24
B65D 65/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維20~80質量%と、ポリブチレンサクシネート樹脂を含むバインダー繊維20~80質量%と、125℃以上の融点を有する樹脂繊維0~45質量%とを含有する原料繊維により形成されるヒートシール層を有し、
前記バインダー繊維が、芯部がポリブチレンサクシネート樹脂よりも融点が10℃以上高い樹脂であって、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE))、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)、ナイロン及びアクリルからなる群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂であり、鞘部がポリブチレンサクシネート樹脂からなる芯鞘構造繊維であり、
坪量が10.0~60.0g/m
2であり、密度が0.35~1.00g/cm
3であり、引張強度(縦方向)が0.50kN/m以上であることを特徴とする、包装紙。
【請求項2】
前記バインダー繊維が、芯部がポリ乳酸(PLA)樹脂からなり、鞘部がポリブチレンサクシネート樹脂からなる芯鞘構造繊維である、請求項1記載の包装紙。
【請求項3】
前記バインダー繊維の繊度が1.0~4.8dtexであり、繊維長が1.0~10.0mmである、請求項1又は請求項2に記載の包装紙。
【請求項4】
ベック平滑度が、5秒以上である、請求項1~3のいずれかに記載の包装紙。
【請求項5】
前記包装紙のヒートシール層同士を重ね合わせて、160℃、圧力3kg/cm
2の条件で2秒間ヒートシールしたときのヒートシール強度が、0.05kN/m以上である、請求項1~4のいずれかに記載の包装紙。
【請求項6】
前記パルプ繊維のフリーネスが300ml以上680ml以下である、請求項1~5のいずれかに記載の包装紙。
【請求項7】
パルプ繊維20~80質量%と、ポリブチレンサクシネート樹脂を含むバインダー繊維20~80質量%と、125℃以上の融点を有する樹脂繊維0~45質量%とを含有する原料繊維により形成される単層のヒートシール層からなり、
坪量が10.0~60.0g/m
2
であり、密度が0.35~1.00g/cm
3
であり、引張強度(縦方向)が0.50kN/m以上であることを特徴とする、包装紙。
【請求項8】
前記バインダー繊維が、芯部がポリ乳酸(PLA)樹脂からなり、鞘部がポリブチレンサクシネート樹脂からなる芯鞘構造繊維である、請求項7記載の包装紙。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒートシール性を有する包装紙に関する。
【背景技術】
【0002】
各種物品を包装する包装材として、フィルムや乾式不織布等を用いた樹脂製のシート材が一般的に使用されている。近年、環境保護の観点から、樹脂の使用量を低減した包装材求められており、樹脂材料の一部をパルプ等の天然系繊維に置き換えた包装材が提案されている。例えば、特許文献1には、パルプ繊維及び熱可塑性樹脂繊維を混抄した混抄紙層を有するヒートシール可能な包装紙が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、ヒートシール性を付与する熱可塑性樹脂繊維として、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維を用いることが記載されている。
【0005】
しかしながら、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリエチレンテレフタレート自然界で安定な樹脂であり分解されにくいため、包装紙が不適切に廃棄された場合、包装紙の形態で自然界に長期間残留することが懸念される。
【0006】
それ故に、本発明は、環境に残留しにくい包装紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る包装紙は、パルプ繊維20~80質量%と、ポリブチレンサクシネート樹脂をバインダー成分として含む繊維20~80質量%と、125℃以上の融点を有する樹脂繊維0~45質量%とを含有する原料繊維により形成されるヒートシール層を有し、バインダー繊維が、芯部がポリブチレンサクシネート樹脂よりも融点が10℃以上高い樹脂であって、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ乳酸(PLA)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE))、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)、ナイロン及びアクリルからなる群から選ばれる1種又は2種以上の樹脂であり、鞘部がポリブチレンサクシネート樹脂からなる芯鞘構造繊維であり、坪量が10.0~60.0g/m2であり、密度が0.35~1.00g/cm3であり、引張強度(縦方向)が0.50kN/m以上であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、環境に残留しにくい包装紙を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施形態に係る包装紙は、パルプ繊維と合成繊維とを含有する原料繊維を混抄したヒートシール層を備えており、ヒートシール層の原料繊維が、ポリブチレンサクシネート(PBS)樹脂を含むバインダー繊維を所定の割合で含有することを特徴とする。本実施形態に係る包装紙は、単層のヒートシール層からなる混抄紙であっても良いし、ヒートシール層に原料繊維の構成が異なる他の層(外層)が積層された積層体であっても良い。ヒートシール層に用いる合成繊維として、生分解性に優れたPBS樹脂を含むバインダー繊維を用いることにより、包装用紙が使用後に焼却等されずに廃棄されても、環境中でバインダー繊維のPBS樹脂が生分解されることにより包装用紙が解れやすいため、包装用紙の形態で環境中に残留しにくい。以下、実施形態に係る包装紙の詳細を説明する。
【0010】
(ヒートシール層)
ヒートシール層は、パルプ繊維と、PBS樹脂をバインダー成分として含む繊維と、必要に応じてその他の樹脂繊維とを含有する原料繊維を湿式抄紙することにより形成される。
【0011】
(パルプ繊維)
パルプ繊維としては、例えば、木材パルプ、非木材パルプ、古紙パルプ、これらのパルプを組み合わせたもの等を使用することができる。
【0012】
木材パルプとしては、例えば、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、針葉樹未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹半晒クラフトパルプ(LSBKP)、針葉樹半晒クラフトパルプ(NSBKP)、広葉樹亜硫酸パルプ、針葉樹亜硫酸パルプ等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(TGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)等の機械パルプ(MP)を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0013】
非木材パルプとしては、例えば、ケナフパルプ、アバカパルプ、コットンリンターパルプ、ワラパルプ、タケパルプ等を使用することができる。
【0014】
古紙パルプとしては、例えば、茶古紙、クラフト封筒古紙、雑誌古紙、新聞古紙、チラシ古紙、オフィス古紙、段ボール古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、地券古紙等から製造される離解古紙パルプ、離解・脱墨古紙パルプ(DIP)、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等を、単独で又は複数を組み合わせて使用することができる。
【0015】
パルプ繊維の配合量は、ヒートシール層を構成する原料繊維の20~80質量%である。パルプ繊維の配合量がヒートシール層を構成する原料繊維の20質量%未満の場合、パルプ繊維に対するバインダー繊維の配合割合が相対的に多くなり、抄紙した包装紙が乾燥工程又は熱カレンダー工程においてドライヤーやカレンダーロールに貼り付いたり、シートが断紙などを起こしたりして生産性を低下させる可能性があるため好ましくない。また、パルプ繊維の配合量がヒートシール層を構成する原料繊維の80質量%を超える場合、バインダー繊維の配合量が相対的に少なくなり、ヒートシール性が不十分となるため好ましくない。
【0016】
パルプ繊維の、JIS P 8121(2012)に準拠したフリーネス(CSF)に
は特に限定がないが、フリーネスが300ml以上680ml以下であることが好ましく、450ml以上580ml以下であることがより好ましく、これらのフリーネスの範囲を満たす針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)を使用することが、得られる包装紙の強度を向上できるという点で特に望ましい。
【0017】
(バインダー繊維)
バインダー繊維は、パルプ繊維や必要に応じて配合される他の樹脂繊維を相互に接着すると共に、ヒートシール層のヒートシール性を発現する成分である。バインダー繊維としては、PBS樹脂を含む繊維(PBS樹脂がバインダー成分である繊維)を使用する。PBS樹脂は、大気中では化学的に安定である一方、生分解性にも優れる合成樹脂である。したがって、バインダー繊維としてPBS樹脂を含む繊維を配合してヒートシール層を構成すると、焼却されず廃棄された場合でも、土壌統の環境中でPBS樹脂が生分解されて他の繊維が解れて分散することにより、ヒートシール層のシート形態が消失しやすい。したがって、バインダー繊維としてPBS樹脂を含む繊維を用いることにより、環境負荷を低減した包装紙を得ることができる。
【0018】
PBS樹脂を含むバインダー繊維は、PBS樹脂のみからなる合成繊維であっても良いし、PBS樹脂と他の樹脂との複合繊維であっても良い。PBS樹脂と他の樹脂の複合繊維としては、芯部を鞘部が覆った芯鞘構造を有する芯鞘構造繊維を好適に使用することができる。バインダー繊維として芯鞘型複合繊維を用いる場合、鞘部の材質がPBS樹脂であれば、芯部の材質は特に限定されないが、PBS樹脂の融点115℃よりも融点が10℃以上高い材質を用いることが好ましい。芯部の材質として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ乳酸(PLA)、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE))、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)、ナイロン、アクリルからなる群から選ばれる何れかの熱可塑性樹脂を用いることができる。芯部及び鞘部は同じ樹脂であっても良いし、異なる樹脂であっても良い。また、芯部の材質が異なる2種以上の芯鞘型複合繊維を混合して用いても良い。
【0019】
バインダー繊維として芯鞘型複合繊維を用いる場合、芯部の材質も生分解性樹脂であることが環境負荷を低減する上でより好ましい。例えば、バインダー繊維が、芯部がポリ乳酸(PLA)樹脂からなり、鞘部がPBS樹脂からなる芯鞘構造繊維を好適に使用することができる。
【0020】
バインダー繊維の配合量は、ヒートシール層を構成する原料繊維の20~80質量%である。バインダー繊維の配合量がヒートシール層を構成する原料繊維の20質量%未満の場合、ヒートシール層のヒートシール強度が不十分となり、包装紙の用途に適さないため好ましくない。また、バインダー繊維の配合量がヒートシール層を構成する原料繊維の80質量%を超える場合、抄紙した包装紙が乾燥工程又は熱カレンダー工程においてドライヤーやカレンダーロールに貼り付いたり、シートが断紙を起こしたりして生産性を低下させる可能性があるため好ましくない。
【0021】
バインダー繊維の繊度は、1.0~4.8dtexであることが好ましく、バインダー繊維の平均繊維長は、1.0~10.0mmであることが好ましい。バインダー繊維の繊度及び平均繊維長がこれらの範囲内であれば、包装紙に求められる強度(引張強度)と、生産性(湿式抄紙の容易性)とが良好となるため好ましい。
【0022】
(その他の樹脂繊維)
原料繊維には、パルプ繊維及びバインダー繊維に加えて、融点が125℃以上であるその他の樹脂繊維を配合しても良い。融点の上限としては、例えば250℃以下とすることができる。その他の樹脂繊維の材質は、特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリビニルアルコール、レーヨン、PLA、PBS、ポリヒドロキシ酪酸(PHB)、3-ヒドロキシ酪酸-3-ヒドロキシヘキサン酸共重合体(PHBH)、ナイロン、アクリルからなる群から選ばれる何れかの熱可塑性樹脂を用いることができる。また、その他の樹脂繊維として、芯鞘構造繊維を配合しても良く、例えば、芯部がPETからなり、鞘部が低融点PETからなる芯鞘構造繊維や、芯部及び鞘部がPPからなる芯鞘構造繊維、芯部がPPからなり、鞘部がPEからなる芯鞘構造繊維等を使用できる。
【0023】
その他の樹脂繊維の配合量は、原料繊維の全量の0~45質量%とすることが好ましい。
【0024】
また、繊維原料には、例えば顔料、界面活性剤、ワックス、サイズ剤、填料、防錆剤、導電剤、消泡剤、分散剤、粘性調整剤、凝集剤、凝結剤、紙力向上成分、湿潤紙力向上剤、歩留まり向上剤、紙粉脱落防止剤、嵩高剤、増粘剤等の内添剤を内添させることができる。また、表面の撥水性や耐油性、バリア性、ヒートシール性を向上させるために撥水剤、サイズ剤、耐油剤、透湿防止剤、ヒートシール剤等を外層或いはヒートシール層に外添塗布することもできる。
【0025】
(外層)
包装紙を複数の湿式抄紙の積層体として構成する場合、ヒートシール層に積層する層(表層)は、原料繊維としてパルプ繊維100%を用いて抄紙した紙、パルプ繊維と、PBSやPLA樹脂等の生分解性樹脂、レーヨン繊維等の再生繊維、その他繊維としてPET、オレフィン(PP,PE等)、アクリル、PVA、ビニロン、ナイロン繊維等(ただし、その他繊維には融点が125℃の樹脂からなる繊維)を含む原料繊維を抄紙した混抄紙のいずれかであれば良い。また、ヒートシール層には、これらの紙層の1種類または複数種類を複数層積層しても良い。ヒートシール層に積層する層をパルプ繊維及び樹脂繊維の混抄紙とする場合、バインダー繊維及びその他の樹脂繊維として、ヒートシール層で説明した材料を使用することができ、パルプ繊維、バインダー繊維及びその他の樹脂繊維の配合割合は、ヒートシール層で説明した範囲内であれば良い。紙層の天然パルプは木材由来の木材パルプ、アバカやバガスやケナフ、竹、コットン等の非木材繊維も使用できる。
【0026】
(製造方法)
包装紙を単層のヒートシール層で構成する場合、上述した原料繊維を湿式抄紙し、得られた湿紙を乾燥させることにより包装紙を製造することができる。また、包装紙をヒートシール層と1層以上の他の紙層との積層体として構成する場合、上述した原料繊維を湿式抄紙したヒートシール層と、ヒートシール層とは別に湿式抄紙した紙層とを合わせてプレスし、乾燥させることにより包装紙を製造することができる。また、多層抄紙機によってヒートシール層と外層を一緒に抄紙することもできる。
【0027】
乾燥工程の後、カレンダー処理を行っても良い。カレンダー処理は、例えば、一対の金属ロール、あるいは、金属ロールと樹脂ロール、あるいは表面をフッ素樹脂加工したロールを用いて、乾燥後の混抄紙を加熱あるいは加熱加圧処理し、紙表面の平滑性を向上させると共に、PBS樹脂を含むバインダー繊維を融着させることができる処理である。
【0028】
カレンダー工程における加熱温度は、85℃以上であることが好ましい。温度が85℃未満の場合、PBS樹脂が溶融しないため包装紙の強度あるいは表面の平滑性が不十分となる可能性がある。また、ロールの表面温度は高い方が好ましく、200℃を超えても良い。ただし、芯鞘繊維の芯部に使用している材質が生分解性素材でない場合は、ロールの表面温度は芯部材質の融点を超えてはならない。芯部材質が生分解素材でなく、ロールの表面温度が芯部材質の融点を超える場合、包装紙が生分解処理された後でもシートが解れにくくなるためである。
【0029】
カレンダー工程において、加熱ロールに加圧することが好ましく、この場合、線圧30kg/cm以上350kg/cm以下であることが好ましい。カレンダー工程の線圧がこの範囲内であれば、包装用紙の平滑性に優れる。カレンダー工程の線圧が30kg/cm未満の場合、包装紙の表面の平滑性やバインダー繊維の融着が不十分となる可能性があり、カレンダー工程の線圧が350kg/cmを超える場合、紙が硬くなり柔軟性が不十分となる可能性がある。
【0030】
(坪量)
本実施形態に係る包装紙の坪量(米坪)は、10.0~60.0g/m2である。坪量は、「紙及び板紙-坪量の測定方法」JIS P8124(2011)に準拠して測定した値である。坪量が、10.0g/m2未満の場合、包装紙に求められる強度が得られない可能性がある。また、坪量が60.0g/m2を超える場合、剛度が高くなりすぎ、包装紙を用いて包装を行う際の加工適性が低下する。尚、坪量は、包装紙の全体の値である。すなわち、包装紙が単層のヒートシール層からなる場合は、包装紙の坪量は、当該単層のヒートシール層の坪量であり、包装紙がヒートシール層と他の層(例えば、外層)との積層体である場合は、包装紙の坪量は、当該積層体全体の坪量である。
【0031】
(密度)
本実施形態に係る包装紙の密度は、0.35~1.00g/cm3であることが好ましい。尚、密度は、JIS P 8118(2014)に準拠して測定した値である。密度が0.35g/cm3を下回る場合、平滑性や強度が低くて包材用途としては不十分である。密度が1.00g/cm3を上回る場合、包装紙の紙腰が弱くなり、包装用途としては不十分である。
【0032】
(引張強度)
本実施形態に係る包装紙の縦方向における引張強度は、0.50kN/m以上である。縦方向の引張強度が0.50kN/m以上であれば、包装紙に要求される強度を満たすことができる。尚、引張強度は、「紙及び板紙-引張特性の試験方法」JIS P 8113(2006)に基づいて測定した値である。
【0033】
(ベック平滑度)
本実施形態に係る包装紙のベック平滑度は、5秒以上であることが好ましい。ベック平滑度が5秒以上であれば、包装紙の印刷適性に優れる。ベック平滑度の上限は、例えば、150秒以下である。尚、ベック平滑度は、「紙及び板紙-ベック平滑度試験機による平滑度試験方法」JIS P 8119(1998)に準拠して測定した値である。
【0034】
(ヒートシール強度)
本実施形態に係る包装紙のヒートシール強度は、0.05kN/m以上であることが好ましい。ヒートシール強度は、JIS Z0238(1998)に準拠して測定した値であって、包装紙のヒートシール層同士を重ね合わせて、160℃、圧力3kg/cm2、シール時間2秒でヒートシールし、ヒートシール層間の測定値である。ヒートシール強度が0.05kN/m未満の場合、包装紙で内容物を包装した包装体を形成した際にシール箇所が剥離してしまう可能性があるため好ましくない。
【0035】
尚、上記の坪量、引張強度、ヒートシール強度は、包装紙全体の測定値である。
【0036】
以上説明したように、本実施形態に係る包装紙は、パルプ繊維とPBS樹脂を含むバインダー繊維とを含有する原料繊維を抄紙してなるヒートシール層を備える。バインダー繊維がPBS樹脂を含むため、包装紙の使用後に環境中に廃棄された場合、PBS樹脂が生分解されることによりヒートシール層が解れて他の繊維が分散し、ヒートシール層の抄紙時の形態が消失する。したがって、本実施形態によれば、環境に残留しにくい包装紙を実現できる。また、坪量が10.0~60.0g/m2であり、引張強度(縦方向)が0.50kN/m以上であり、包装紙に要求される強度に優れる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明に係る包装紙を具体的に実施した実施例を説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない
【0038】
(実施例1-1~1-18、比較例1-1~1-6)
表1に示す配合の原料繊維を湿式抄紙し、乾燥させることにより、単層のヒートシール層からなる包装紙を作製した。NBKPは、パルプフリーネスが550mlのものを用いた。尚、以下において、「(材質1)/(材質2)」の表記は、芯部が材質1からなり鞘部が材質2からなる芯鞘構造繊維を表す。また、以下において、「PET(mpX℃)」は、融点がX℃のPETを表す。
【0039】
【0040】
表2に、得られた包装紙の坪量、厚み、密度、縦方向(T)の引張強度、平滑度、ヒートシール強度、生分解後の分散性を併せて示す。表中の「-」は、未評価であることを示す。
【0041】
【0042】
表2に示す評価値は以下の通りに測定した。
(1)坪量は、JIS P 8124(2011)に準拠して測定した。
(2)厚さは、JIS P 8118(2014)に準拠し、測定圧100kPaにて測定した。
(3)密度は、JIS P 8118(2014)に準拠して測定した。
(4)引張強度は、JIS P 8113(2006)に準拠して測定した。
(5)平滑度(ベック平滑度)は、JIS P 8119(1998)に準拠して測定した。
(6)ヒートシール強度は、JIS Z 0238(1998)に準拠し、包装紙のヒートシール層同士を重ね合わせて、160℃、圧力3kg/cm2の条件で2秒間ヒートシールして得られたサンプルを用いて測定した。
(7)生分解後の分散性は、包装紙を土壌中に90日間放置した後、残ったシートを目視で観察し、包装紙が複数に解れて分散している場合を「○」、包装紙が抄紙時の形態を維持していて解れない場合を「×」と評価した。
【0043】
実施例1-1~1-18に係る包装紙は、パルプ繊維、PBSをバインダー成分として含むバインダー繊維及びその他の樹脂繊維を、上述した配合割合の範囲内で配合した原料繊維を用いて抄紙したものであり、坪量、密度及び引張強度(縦方向)がいずれも適切な範囲内であり、包装紙に求められる強度を備えていた。また、実施例1-1~1-18に係る包装紙は、ヒートシール強度も良好であり、PBS樹脂をバインダー成分として含むバインダー繊維を用いたことにより、環境中で解れやすく、包装紙の形態で残留しにくいことが確認された。また、実施例1-1~1-18に係る包装紙は、表面の平滑度が好ましくい範囲であることから印刷適性が良好であった。
【0044】
これに対して、比較例1-1に係る包装紙は、原料繊維がパルプ繊維のみでありヒートシール性がないため、ヒートシール性の包装紙として適していなかった。
【0045】
比較例1-2に係る包装紙は、原料繊維に配合されるバインダー繊維が多すぎるため、ドライヤーや熱カレンダー加工時にドライヤーやカレンダーロールに貼り付いたり、シートが断紙したりしてしまい、安定して生産を行うことができなかった。
【0046】
比較例1-3に係る包装紙は、その他の樹脂繊維として、融点が125℃未満のポリエチレンテレフタレート(PET)を鞘部に用いた芯鞘構造繊維が配合されているため、乾燥工程において芯鞘型構造繊維によりパルプ繊維及びバインダー繊維が相互に接着され、PBS樹脂の生分解後も包装紙が解れず、環境中で分散しなかった。
【0047】
比較例1-4に係る包装紙は、バインダー繊維として芯部及び鞘部がポリ乳酸(PLA)からなる芯鞘構造繊維を用いたため、ヒートシール性が不十分であり、ヒートシール性の包装紙として適していなかった。
【0048】
比較例1-5に係る包装紙は、バインダー繊維として、融点が125℃未満のポリエチレンテレフタレート(PET)を鞘部に用いた芯鞘構造繊維が配合されているため、乾燥工程において芯鞘型構造繊維によりパルプ繊維が相互に接着され、PBS樹脂の生分解後も包装紙が解れず、環境中で分散しなかった。
【0049】
比較例1-6に係る包装紙は、坪量が小さすぎることにより、縦方向の引張強度が小さく、包装紙に求められる強度を備えていなかった。また、比較例1-6に係る包装紙は平滑度が低いため、印刷適性が不十分であった。
【0050】
(実施例2-1~2-29、比較例2-1~2-5)
表3に示す配合の原料繊維を湿式抄紙して得た表層及びヒートシール層をプレスし、乾燥させることにより、ヒートシール層の一面に表層が積層された2層構成の包装紙を作製した。尚、表3における「PET(mpX℃)」は、融点がX℃のPETを表す。また、表層及びヒートシール層のそれぞれの坪量を表3に併せて示す。
【0051】
【0052】
表4に、得られた包装紙の坪量、厚み、密度、縦方向(T)の引張強度、平滑度、ヒートシール強度、生分解後の分散性を併せて示す。各評価値の測定方法及び生分解後の分散性の評価基準は、表2と同様であり、表中の「-」は、未評価であることを示す。
【0053】
【0054】
実施例2-1~2-20に係る包装紙は、パルプ繊維、PBSを含むバインダー繊維及びその他の樹脂繊維を、上述した配合割合の範囲内で配合した原料繊維を用いて抄紙したものであり、坪量、密度及び引張強度(縦方向)がいずれも適切な範囲内であり、包装紙に求められる強度を備えていた。また、実施例2-1~2-20に係る包装紙は、ヒートシール強度も良好であり、PBS樹脂をバインダー成分として含むバインダー繊維を用いたことにより、環境中で解れやすく、包装紙の形態で残留しにくいことが確認された。また、実施例2-1~2-20に係る包装紙は、表面の平滑度が好ましくい範囲であることから印刷適性が良好であった。
【0055】
これに対して、比較例2-1及び2-2に係る包装紙は、バインダー繊維として、芯部及び鞘部がPETからなる芯鞘構造繊維を配合したため、環境中でバインダー繊維が生分解されず、環境中で分散しなかった。
【0056】
比較例2-3に係る包装紙は、坪量が小さすぎることにより、縦方向の引張強度が小さく、包装紙に求められる強度を備えていなかった。比較例2-3に係る包装紙の引張強度が低いのは、目付が低いために十分な引張強度が得られなかったと考える。
【0057】
比較例2-4に係る包装紙は、その他の樹脂繊維として、融点が125℃未満のポリエチレンテレフタレート(PET)を鞘部に用いた芯鞘構造繊維が配合されているため、乾燥工程において芯鞘型構造繊維によりパルプ繊維及びバインダー繊維が相互に接着され、PBS樹脂の生分解後も包装紙が解れず、環境中で分散しなかった。
【0058】
比較例2-5に係る包装紙は、表層のバインダー繊維として、融点が125℃未満のポリエチレンテレフタレート(PET)を鞘部に用いた芯鞘構造繊維が配合されているため、環境中で表層が解れず、環境中で分散しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、各種物品を包装するために用いられるヒートシール性の包装紙として利用できる。