(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】防滑性養生シート
(51)【国際特許分類】
E04G 21/30 20060101AFI20240827BHJP
E04G 21/24 20060101ALN20240827BHJP
【FI】
E04G21/30 A
E04G21/24 A
(21)【出願番号】P 2020144567
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000107907
【氏名又は名称】セーレン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】細川 泰志
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-158605(JP,A)
【文献】特開2011-111551(JP,A)
【文献】特開2013-189006(JP,A)
【文献】特開2006-241868(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0022893(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/24 -21/32
E04F 15/00 -15/22
A47G 27/02
B32B 1/00 -43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着層とポリオレフィン系樹脂フィルムとが積層され、
前記ポリオレフィン系樹脂フィルムの粘着層側の面の反対の面に、凸部が形成された凹凸面を有し、
前記ポリオレフィン系樹脂フィルムは、高密度ポリエチレンを9~50質量%含有しており、直線状低密度ポリエチレンを50~91質量%含有しており、
引張弾性率が92~600MPaである防滑性養生シート。
【請求項2】
前記凸部が、前記凸部の壁面と前記凸部の上面とのなす角度が90°~170°であり、前記凸部の高さが0.08~0.3mmである請求項1に記載の防滑性養生シート。
【請求項3】
前記凸部が、凸部間距離が0.01~0.8mmである請求項1または請求項2に記載の防滑性養生シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、養生シートに関するものであり、さらに詳しくは、建築施工時等に用いる床用の防滑性養生シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、建築現場、例えば、ツーバイフォー工法などで雨じまいするまでの施工期間において、各種施工作業時に床面や壁面を汚したり傷付けたりしないようにするために、これらを保護するために養生シートが用いられる。
【0003】
本出願人は、養生シートとして、合成樹脂シートの表面に多数の凹凸が形成され、裏面全面に、シート剥離時に床パネル面に残らないアクリル系樹脂製貼着材が塗布されて成る貼着層が形成された床パネル面保護用滑り止め養生シート(特許文献1)や、合成樹脂シートと、合成樹脂シート片面上に形成された粘着層と、粘着層上に貼合わされた剥離材とを備えた養生シート(特許文献2)を提案している。
【0004】
また、特許文献3では、合成樹脂フィルムの裏面に粘着剤層を設けたシ-ト状物において、合成樹脂フィルム表面の長さ方向に沿った少なくとも片端部に1~10cm幅の合成樹脂フィルム帯状平坦部と、それ以外の全部分に合成樹脂フィルム凹凸部を設けた床面保護シ-トを提案している。
【0005】
しかしながら、これらの養生シートを使用しても、寒冷地では冬になると養生シート面上に霜が降りたり、みぞれが降ったりすることにより、養生シート面上に細かな氷交じりの水が溜まるため、非常に滑り易くなり施工作業を行う際に支障をきたすという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実用新案登録第2599811号公報
【文献】実用新案登録第2585687号公報
【文献】特開平8-319723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みて為されたものであり、その目的とするところは、建築現場における床面保護を可能にし、乾燥時に優れた防滑性を有するだけでなく、低温での湿潤時や降霜時でも防滑性を保持することができる防滑用養生シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、粘着層とポリオレフィン系樹脂フィルムとが積層され、前記ポリオレフィン系樹脂フィルムの粘着層側の面の反対の面に、凸部が形成された凹凸面を有し、前記ポリオレフィン系樹脂フィルムは、高密度ポリエチレンを9~50質量%含有しており、直線状低密度ポリエチレンを50~91質量%含有しており、引張弾性率が92~600MPaである防滑性養生シートである。
【0009】
また、前記凸部が、前記凸部の壁面と前記凸部の上面とのなす角度が90°~170°であり、前記凸部の高さが0.08~0.3mmであると好ましい。
【0010】
また、前記凸部が、凸部間距離が0.01~0.8mmであると好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、建築現場における床面保護を可能にし、乾燥時に優れた防滑性を有するだけでなく、低温での湿潤時や降霜時でも防滑性を保持することができる防滑用養生シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の防滑性養生シートの構成の一例を示す模式断面図である。
【
図2】本発明の防滑性養生シートの一例を示す模式正面図である。
【
図3】本発明の防滑性養生シートのポリオレフィン系樹脂フィルムを説明する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の防滑性養生シートについて、図面を参照して説明する。なお、図面において、本発明の防滑性養生シートを構成する複数の層や凹凸が図示されているが、各層の厚みや凹凸の大きさは説明容易化のため適宜変更しており、実際の防滑性養生シートにおける各層の厚みや凹凸の大小関係(縮尺)を正確に反映したものではない。
【0014】
図1に例示するように、本発明の防滑性養生シート1は、表面に凸部4が形成された凹凸面を有するポリオレフィン系樹脂フィルム2と、ポリオレフィン系樹脂フィルムの凹凸面とは反対の面に形成された粘着層3とから構成されている。
【0015】
本発明の防滑性養生シートに使用されるポリオレフィン系樹脂フィルム2は、高密度ポリエチレン(以下、HDPEともいう)を9~50質量%含有しており、かつ、直線状低密度ポリエチレン(以下、LLDPEともいう)を50~91質量%含有している。高密度ポリエチレン(HDPE)を15~40質量%含有することが好ましい。また、直線状低密度ポリエチレン(LLDPE)を60~85質量%含有することが好ましい。直線状低密度ポリエチレン(LLDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)を特定量で配合することにより、施工時や引き剥がし時にフィルムが破れたり残留したりせず、低温でも防滑性を得ることができる。なお、ポリオレフィン系樹脂フィルム2には、公知の添加剤を含有させることができ、例えば、無機充填剤、有機充填剤といった充填剤、顔料、染料といった着色剤、老化防止剤、帯電防止剤、離型剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光剤、結晶核剤等が挙げられる。
【0016】
本発明の防滑性養生シート1の引張弾性率は、92~600MPaであり、好ましくは、100~500MPaである。縦方向、横方向ともに引張弾性率が92~600MPaであれば、防滑性養生シート表面の凹凸を施工作業者が繰り返し踏んでも潰れにくい弾性を有し、低温環境下でフィルムが冷えても適度な硬さであるため防滑性に優れ、また、施工時や引き剥がし時にフィルムが破れたり残留したりすることを抑制できる。なお、ロール状に巻かれた防滑性養生シートの長手方向を縦方向という。
【0017】
本発明の防滑性養生シート1は、粘着層3とポリオレフィン系樹脂フィルムと2が積層され、ポリオレフィン系樹脂フィルム2の粘着層側の面の反対の面に、凸部が形成された凹凸面を有しているが、
図1に示すように、ポリオレフィン系樹脂フィルム2の両方の面に凸部4が形成されていてもよく、粘着層3を積層する面には凸部4が形成されず、粘着層3を積層する面と反対の面のみに凸部を形成されていてもよい。粘着層3との接着面積が増えポリオレフィン系樹脂フィルム2と粘着層3との面で剥れにくいため、ポリオレフィン系樹脂フィルム2の粘着層3側の面にも凸部4が形成されていることが好ましい。
【0018】
本発明の防滑性養生シート1のポリオレフィン系樹脂フィルム側から見た正面図を
図2に例示している。ポリオレフィン系樹脂フィルム2の凹凸面2a全体にわたり、凸部4が形成されていることにより、優れた防滑性を有し、低温環境での湿潤時や降霜時でもその防滑性が失われないという効果を奏している。
【0019】
ポリオレフィン系樹脂フィルム2の凸部4の形状は、特に限定されるものでなく、例えば、三角形、四角形、五角形、六角形といった多角形、絹目、格子、梨地、麻目、皮目、直線、曲線、点線、円、楕円を挙げることができ、2種以上組み合わせた模様であってもよい。なかでも、防滑性の面で多角形が好ましく、正三角形、正方形がより好ましい。形状が多角形である場合、多角形の隣り合う辺の長さが略同一であれば、滑りの方向が形成され難く防滑性の効果が得られる。
図2では、正方形の辺が長さ方向と平行である形態を例示しているが、平行でなくても構わない。
多角形の一辺の長さは、防滑性および凸部の耐久性の面で、0.05~0.4mmであることが好ましく、0.05~0.3mmがより好ましく、0.05~0.2mmが更に好ましい。
【0020】
図3に、凸部4の一例の断面図を示す。凸部4間の距離Lは、防滑性と製造コストの面で、0.01~0.8mmが好ましく、0.01~0.4mmがより好ましく、0.01~0.1mmが更に好ましい。そして、凸部4の角度Θは、防滑性と製造加工の困難性の面で、90°~170°で形成されることが好ましく、90°~165°がより好ましく、90°~160°が更に好ましい。そして、凸部4の高さHは、防滑性と凸部の耐久性の面で、0.08~0.3mmで形成されることが好ましく、0.08~0.25mmがより好ましく、0.08~0.2mmが更に好ましい。
【0021】
なお、ポリオレフィン系樹脂フィルム2の粘着層3が積層されている面2bは、粘着樹脂との密着性を向上させるために予めコロナ処理で表面改質を行うと好ましい。
【0022】
ポリオレフィン系樹脂フィルム2の製造方法としては、公知の製造法であるインフレーション法、Tダイ法、キャスト法などで製造する方法が挙げられる。また、凹凸を形成する方法としては、押出成形後に熱エンボス加工を施す方法や、押出成型時に凹凸を設けた冷却ロールを用い、押出成形と同時にエンボス加工を施す方法がある。
【0023】
また、本発明の粘着層3に用いる粘着樹脂は、合板等への密着性が良好で、紫外線による劣化が小さく、湿潤状態になっても剥がれず粘着性を維持し、再剥離性があるものがよい。
粘着樹脂としては、ポリオレフィン系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリエステル系、シリコーン系、天然ゴム系、合成ゴム系が挙げられ、特にポリアクリル系樹脂は、粘着性や再剥離性等性能の調整がし易く、添加剤も混ざり易く、加工性も良好であるため、好適に使用できる。
【0024】
また、前記粘着樹脂の塗布量は、5~30g/m2が好ましい。5g/m2以上であると、充分な粘着力が得られ易く、30g/m2以下であると、養生後にシートを剥がす際、粘着樹脂が養生対象物に残りにくい。
【0025】
また、粘着層における粘着樹脂の塗布パターンは、シート全面の塗布に限らず、不連続な非塗布部と連続的な塗布部とにより形成された塗布パターンであってもよい。屋外曝露環境下で充分な粘着性を確保するには、塗布面積はシート全体の80%以上であることが好ましい。また、非塗布部が連続していると、その隙間が水の通り道になってしまうため、不連続な非塗布部であることが好ましい。
【0026】
粘着樹脂の塗布方法としては、転写法、ナイフコーティング法、グラビアロールコーティング法、ロールコーティング法、フレキソコーティング法、スプレー吹き付けコーティング法等の公知方法を用いることができる。
【0027】
養生シートの粘着層面の粘着力は、JIS Z0237 10.4.1方法1:ステンレス試験板に対する180°引きはがし粘着力に準じて、25mm幅の試験片を用いて測定した際のSUS板粘着力が1.0~10N/25mmであると好ましく、1.0~8.0N/25mmであるとより好ましい。SUS板との粘着力が1.0N/25mm以上であれば、合板等に養生施工した際、養生物から剥がれにくく、10N/25mm以下であれば、合板から引き剥がす際に、合板の表面が毛羽立つなどの傷みやシート自体の破れが起こり難い。
【0028】
また、本発明の防滑性養生シート1は、透明性を有することが好ましい。透明性を有すると、被着体である床面に書かれた柱の位置等を記した文字が視認可能であるため、施工作業がしやすい。
【実施例】
【0029】
以下に述べる実施例、比較例によって本発明の防滑性養生シートを具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例及び比較例における評価は、以下の方法により行った。
【0030】
<養生シートの粘着力>
JIS Z0237 10.4.1方法1:ステンレス試験板に対する180°引きはがし粘着力に準じて測定した。なお、試験片幅は、25mmであった。
【0031】
<養生シートの引張弾性率>
JIS K7161 10.3.2(弾性率 2点から求める傾き)に規定される方法に準拠して、縦方向及び横方向の弾性率を測定した。
測定条件:試験片幅10mm、チャック間距離75mm、引張速度1mm/min
【0032】
<養生シートの乾燥時の防滑性>
合板(JAS構造用合板 林ベニヤ産業株式会社製 タイガプライ)に養生シートを貼着させ、そのシートの上を作業員(体重70kg)が作業靴で押し付けるように体重を乗せて前方に擦り、次の評価基準で評価した。
評価基準
〇:ほとんど滑らない
△:僅かに滑る
×:滑る
【0033】
<養生シートの湿潤時や降霜時の防滑性>
乾燥時の防滑性評価と同じ合板に養生シートを貼着させ、その上に削氷機(池永鉄工株式会社製 Swan SI-3B)で細かく削った氷(大きさ約1~10mm)を約2.7kg/m2乗せ、その氷を乗せた上を作業靴で押し付けるように体重を乗せて前方に擦り、次の評価基準で評価した。
評価基準
〇:ほとんど滑らない
△:僅かに滑る
×:滑る
【0034】
[実施例1]
ポリオレフィン系樹脂フィルムとして、ポリエチレンフィルム(林一二株式会社製、LLDPE70%、HDPE30%、Tダイ法押出成形時エンボス加工、半透明、凸部形状:四角形(1辺の長さ0.08mmの正方形)、凸部間距離:0.02mm、凸部角度:150°、凸部高さ:0.1mm、片面コロナ処理)を用いた。このコロナ処理面に、ポリアクリル系粘着樹脂を乾燥塗布量が14g/m
2になるよう転写法で塗布し、
図1で示すような養生シートを得た。なお、ポリアクリル系粘着樹脂は、ポリアクリル系粘着樹脂(ライオン・スペシャル・ケミカルズ株式会社製 AS-1107)100重量部に対し、架橋剤(ライオン・スペシャル・ケミカルズ株式会社製 B-45)を0.5重量部添加したものを用いた。この養生シートを使用し上述の方法にて評価した。評価結果を表1に示す。
【0035】
[実施例2]
ポリオレフィン系樹脂フィルムとして、ポリエチレンフィルム(林一二株式会社製、LLDPE90%、HDPE10%、Tダイ法押出成形時エンボス加工、半透明、凸部形状:四角形(1辺の長さ0.08mmの正方形)、凸部間距離:0.02mm、凸部角度:142°、凸部高さ:0.1mm、片面コロナ処理)を用いる以外、実施例1と同様にして養生シートを得た。養生シートの評価結果を表1に示す。
[実施例3]
ポリオレフィン系樹脂フィルムとして、ポリエチレンフィルム(林一二株式会社製、LLDPE70%、HDPE30%、Tダイ法押出成形時エンボス加工、半透明、凸部形状:円形(直径0.5mm)、凸部間距離:1.0mm、凸部角度:165°、凸部高さ:0.05mm、片面コロナ処理)を用いる以外、実施例1と同様にして養生シートを得た。養生シートの評価結果を表1に示す。
【0036】
[比較例1]
ポリオレフィン系樹脂フィルムとして、ポリエチレンフィルム(林一二株式会社製、LLDPE100%、Tダイ法押出成形時エンボス加工、半透明、凸部形状:格子(凹部形状が正方形(1辺の長さ2mm))、凸部間距離:3.7mm、凸部角度:174°、凸部高さ:0.05mm、片面コロナ処理)を用い、そのコロナ処理面に、転写法でポリアクリル系粘着樹脂(サイデン化学株式会社製ATR-1が100重量部に対し、サイデン化学株式会社製M-2架橋剤を0.3重量部添加したもの)を乾燥塗布量が20g/m2になるよう塗布し、養生シートを得た。養生シートの評価結果を表1に示す。
【0037】
【表1】
表1に示すように、実施例の養生シートは、乾燥時の防滑性も湿潤時や降霜時の防滑性も良好であり、特に実施例1と実施例2の養生シートは、乾燥時の防滑性も湿潤時や降霜時の防滑性も共に優れていた。
【0038】
また、表1に示すように、比較例の養生シートは、乾燥時の防滑性は実施例に係る養生シート同様に優れていたが、湿潤時や降霜時の防滑性が不良という結果となった。
【符号の説明】
【0039】
1 防滑性養生シート
2 ポリオレフィン系樹脂フィルム
2a 凹凸面
2b 凹凸面
3 粘着層
4 凸部