(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、成形品、及び制振化剤
(51)【国際特許分類】
C08L 81/02 20060101AFI20240827BHJP
【FI】
C08L81/02
(21)【出願番号】P 2020148329
(22)【出願日】2020-09-03
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】村野 大輔
(72)【発明者】
【氏名】目代 晴紀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 義紀
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-030559(JP,A)
【文献】特開平01-009266(JP,A)
【文献】特開昭62-197422(JP,A)
【文献】特開昭62-232437(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)と、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とを含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)が、p-フェニレンスルフィド単位のみからなるポリフェニレンスルフィド樹脂であり、
前記架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)が、パラジハロベンゼンとトリハロベンゼンとアルカリ金属硫化物との重縮合物の酸化架橋体であり、
前記架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により測定される融解熱量が20J/g以下であり、
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)の質量と、前記架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量との合計に対する、前記架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量の比率が20質量%以上90質量%以下であり、
前記トリハロベンゼンの質量と前記パラジハロベンゼンの質量との合計に対する、前記トリハロベンゼンの質量の比率は、0.1mol%以上20mol%以下であり、
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物1質量部を、1-クロロナフタレン100質量部に240℃で溶解させた場合に、前記架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)に由来する不溶分が生じ
る、
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項2】
前記架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)1質量部と、1-クロロナフタレン100質量部とを240℃で混合した場合に、前記架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の30質量%以上が前記1-クロロナフタレンに不溶である請求項1に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1~
2のいずれか1項に記載のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品。
【請求項4】
架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む、ポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤であって、
前記制振化剤を前記ポリフェニレンスルフィド樹脂に配合して得られる組成物について、前記組成物1質量部と、1-クロロナフタレン100質量部とを240℃で混合した場合に、前記架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂に由来する不溶分が生成し、
前記架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂が、パラジハロベンゼンとトリハロベンゼンとアルカリ金属硫化物との重縮合物の酸化架橋体であり、
前記トリハロベンゼンの質量と前記パラジハロベンゼンの質量との合計に対する、前記トリハロベンゼンの質量の比率が、0.1mol%以上20mol%以下であり、
前記ポリフェニレンスルフィド樹脂が、p-フェニレンスルフィド単位のみからなるポリフェニレンスルフィド樹脂であり、
前記架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂の、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により測定される融解熱量が20J/g以下である、制振化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物と、当該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品と、ポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤とに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(PAS)は、耐熱性、耐薬品性、難燃性、機械的強度、電気特性、寸法安定性等に優れたエンジニアリングプラスチックである。PASは、押出成形、射出成形、圧縮成形等の一般的溶融加工法により、各種成形品、フィルム、シート、繊維等に成形可能である。このため、PPSは、電気機器、電子機器、自動車機器、包装材料等の広範な技術分野において汎用されている。
【0003】
上記のPASの用途の中でも、例えば、掃除機、冷蔵庫、エアーコンディショナーのような圧縮機やモーター等を備える家電製品や、電気自動車やハイブリッド自動車等におけるモーター部品やモーターの周辺部品についての静粛化の目的で制振性の向上が望まれている。
【0004】
制振性に優れる樹脂組成物としては、例えば、板状充填剤又は針状充填剤を含むポリアミド樹脂組成物(特許文献1を参照)や、制振材料用エマルジョン樹脂組成物(特許文献2)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-089149号公報
【文献】特開2012-126775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の樹脂組成物は、充填剤を必須に含むためフィラーレスの用途には用いることができない。また、特許文献2に記載の制振材料用エマルジョン樹脂組成物には、エマルジョン樹脂組成物であるがゆえにプレス成形、押出成形、射出成形等の一般的な樹脂の成形方法への適用が困難である問題がある。
【0007】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、充填材を含んでいない場合でも制振性に優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物と、当該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品と、ポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)と、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とを組み合わせて含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物において、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により測定される融解熱量が20J/g以下であり、且つポリフェニレンスルフィド樹脂組成物1質量部を、1-クロロナフタレン100質量部に240℃で溶解させた場合に、不溶分を生じさせる架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を用いることにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明にかかるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、
ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)と、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とを含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物であって、
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物1質量部を、1-クロロナフタレン100質量部に240℃で溶解させた場合に、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)に由来する不溶分が生じ、
架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により測定される融解熱量が20J/g以下である。
【0010】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物において、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)1質量部と、1-クロロナフタレン100質量部とを240℃で混合した場合に、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の30質量%以上が1-クロロナフタレンに不溶であってよい。
【0011】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物において、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)は、パラジハロベンゼンとトリハロベンゼンとアルカリ金属硫化物との重縮合物の酸化架橋体であってよい。
【0012】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物において、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)の質量と、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量との合計に対する、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量の比率が5質量%以上90質量%以下であってよい。
【0013】
本発明にかかる成形品は、上記のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる。
【0014】
本発明にかかる制振化剤は、
架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む、ポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤であって、
制振化剤を前記ポリフェニレンスルフィド樹脂に配合して得られる組成物について、当該組成物1質量部と、1-クロロナフタレン100質量部とを240℃で混合した場合に、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂に由来する不溶分が生成し、
架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂の、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により測定される融解熱量が20J/g以下である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、充填材を含んでいない場合でも制振性に優れるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物と、当該ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物からなる成形品と、ポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
≪ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物≫
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)と、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とを含む。
かかるポリフェニレンスルフィド樹脂組成物について、ポリフェニレンスルフィド組成物1質量部を、1-クロロナフタレン100質量部に240℃で溶解させた場合に、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)に由来する不溶分が生じる。
また、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂の、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により測定される融解熱量が20J/g以下であるのが好ましく、5J/g以上18J/g以下がより好ましい。融解熱量の低さは、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の架橋度の目安となる。
このように不溶分を生じさせる程度に架橋され且つ分子量が増大した架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)が、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に優れた制振性を付与する。
【0017】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の制振性が良好である点から、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)の質量と、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量との合計に対する、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量の比率は5質量%以上90質量%以下が好ましい。
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の良好な制振性と良好な成形性との両立の点で、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)の質量と、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量との合計に対する、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量の比率は10質量%以上50質量%以下がより好ましく、15質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、制振性を示しつつ特に成形加工性に優れることから、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)の質量と、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量との合計に対する、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量の比率は5質量%以上40質量%以下がより好ましく、5質量%以上35質量%以下がさらに好ましく、5質量%以上30質量%以下が特に好ましい。
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が、特に制振性に優れることから、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)の質量と、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量との合計に対する、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量の比率は40質量%超90質量%以下がより好ましく、50質量%以上85質量%以下がさらに好ましく、60質量%以上80質量%以下が特に好ましい。
【0018】
以下、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が含み得る、必須、又は任意の成分について説明する。
【0019】
<ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)>
ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)としては、周知のポリフェニレンスルフィド樹脂を特に制限なく用いることができる。ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)は、p-フェニレンスルフィド単位、m-フェニレンスルフィド単位、及びo-フェニレンスルフィド単位かなる群より選択される1種以上のフェニレンスルフィド単位からなる。なお、フェニレンスルフィド単位は、-Ph-S-で表される単位である。Phは、p-フェニレン基、m-フェニレン基、又はo-フェニレン基である。
ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)としては、入手の容易性、及び成形加工性に優れる点からは、p-フェニレンスルフィド単位のみからなるポリフェニレンスルフィド樹脂が好ましい。また、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)としては、制振性と成形加工性とのバランスに優れる点で、p-フェニレンスルフィド単位とm-フェニレンスルフィド単位とからなるポリフェニレンスルフィド樹脂が好ましい。
【0020】
p-フェニレンスルフィド単位とm-フェニレンスルフィド単位とからなるポリフェニレンスルフィド樹脂(A)において、全構成単位に対するm-フェニレンスルフィド単位の量は、10モル%以上90モル%以上が好ましい。
p-フェニレンスルフィド単位とm-フェニレンスルフィド単位とからなるポリフェニレンスルフィド樹脂(A)において、全構成単位に対するm-フェニレンスルフィド単位の量の上限は、80モル%以下でもよく、70モル%以下でもよく、50モル%以下でもよく、30モル%以下でもよい。
p-フェニレンスルフィド単位とm-フェニレンスルフィド単位とからなるポリフェニレンスルフィド樹脂(A)において、全構成単位に対するm-フェニレンスルフィド単位の量の下限は、20モル%以上でもよく、40モル%以上でもよく、50モル%以上でもよく、70モル%以上でもよい。
【0021】
耐熱性と、成形加工性とのバランスの点で、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)の融点、及びガラス転移温度(Tg)は以下の範囲内であるのが好ましい。例えば、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)の融点は、230℃以上285℃以下が好ましく、240℃以上280℃以下がより好ましい。ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)のガラス転移温度(Tg)は、80℃以上120℃以下が好ましく、85℃以上100℃以下がより好ましい。
【0022】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)の製造方法は特に限定されず、公知の方法から適宜選択され得る。
【0023】
<架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)>
架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)は、架橋構造を有するポリフェニレンスルフィド樹脂である。
ここで、架橋構造の典型例としては、例えば、重合時にトリハロベンゼン等の架橋剤を用いることに形成され得る下記左側の構造や、ポリフェニレンスルフィド樹脂を酸素存在下に高温処理して形成され得る下記右側の構造等が挙げられる。下記式中のPhは、いずれもベンゼントリイル基である。また、下記式中の下部の-S-、又は-O-は架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の分子鎖を架橋する。
以下は、架橋構造の一例であって、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂の分子鎖を構成するベンゼン環には、1つの硫黄原子とともに、酸素原子及び/又は硫黄原子が2つ以上結合していてもよい。
【化1】
【0024】
架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)は、ポリフェニレンスルフィド組成物1質量部を、1-クロロナフタレン100質量部に240℃で溶解させた場合に、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)に由来する不溶分を生じさせる。
つまり、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)は、1-クロロナフタレンのような有機溶媒に対して難溶である。
より具体的には、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)は、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)1質量部と、1-クロロナフタレン100質量部とを240℃で混合した場合に、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上、特に好ましくは60質量%以上が1-クロロナフタレンに不溶である。
【0025】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の制振性の点で、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)は、パラジハロベンゼンと、トリハロベンゼンと、アルカリ金属硫化物との重縮合物の酸化架橋体であるのが好ましい。パラジクロロベンゼンと、トリクロロベンゼンと、アルカリ金属硫化物との重縮合の方法は特に限定されず、公知の方法から適宜選択され得る。また、酸化架橋を行う方法は特に限定されない。典型的には、含酸素雰囲気下での加熱により酸化架橋が行われる。
【0026】
パラジハロベンゼン、又はトリハロベンゼンは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子からなる群より選択される1種~3種のハロゲン原子を有する。
パラジハロベンゼン、及びトリハロベンゼンにおけるハロゲン原子としては、重縮合の反応性や、パラジハロベンゼン、及びトリハロベンゼンの入手の容易性の点から塩素原子が好ましい。つまり、パラジハロベンゼンとしてはパラジクロロベンゼンが好ましく、トリハロベンゼンとしてはトリクロロベンゼンが好ましい。
【0027】
パラジハロベンゼンと、トリハロベンゼンと、アルカリ金属硫化物との重縮合物は、通常、トリハロベンゼンが有する3つのハロゲン原子の全てがアルカリ金属硫化物と反応した分岐構造を分子鎖中に含む。
【0028】
トリハロベンゼンの好適な具体例としては、1,2,3-トリクロロベンゼン、1,2,4-トリクロロベンゼン、及び1,3,5-トリクロロベンゼンが挙げられる。これらの中では、重縮合の反応性の点で1,2,4-トリクロロベンゼンが好ましい。このため、トリハロベンゼンが、1,2,4-トリクロロベンゼンを含むのが好ましく、トリハロベンゼンの全量が1,2,4-トリクロロベンゼンであるのがより好ましい。
トリハロベンゼンが1,2,4-トリクロロベンゼンを含む場合の、トリハロベンゼンの質量に対する1,2,4-トリクロロベンゼンの質量の比率は70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上がさらにより好ましく、100質量%が最も好ましい。
【0029】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の制振性が良好である点で、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の製造に使用される、トリハロベンゼンの質量とパラジハロベンゼンの質量との合計に対する、トリハロベンゼンの質量の比率は、0.1mol%以上20mol%以下が好ましく、1mol%以上5mol%以下がより好ましい。
【0030】
アルカリ金属硫化物としては、例えば、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、及び硫化セシウムが挙げられる。これらの中では、硫化ナトリウム、及び硫化カリウムが好ましく、硫化ナトリウムがより好ましい。硫黄源としてのアルカリ金属硫化物は、例えば、水性スラリー及び水溶液のいずれかの状態で扱うこともできる。
【0031】
パラジハロベンゼンと、トリハロベンゼンと、アルカリ金属硫化物との重縮合反応の好ましい方法としては、パラジハロベンゼンと、トリハロベンゼンと、アルカリ金属硫化物とを、溶媒の存在下に加熱して重合させる方法が挙げられる。
【0032】
パラジハロベンゼンと、トリハロベンゼンと、アルカリ金属硫化物とを反応させる際のパラジハロベンゼンと、トリハロベンゼンと、の使用量は、所望する性質の架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)が得られる限り特に限定されない。
パラジハロベンゼンと、トリハロベンゼンとの使用量の合計は、硫黄源としてのアルカリ金属硫化物の仕込み量1モルに対し、好ましくは0.7モル以上1.5モル以下であり、より好ましくは0.8モル以上1.4モル以下であり、さらにより好ましくは0.9モル以上1.3モル以下である。上記の量のトリハロベンゼンを用いることにより、所望する程度に高分子量化した重縮合物を得やすい。
【0033】
溶媒としては、重縮合反応が良好に進行する限り特に限定されない。溶媒としては、原料化合物、オリゴマー、及び生成ポリマーの溶解性や分散性が良好であることから、有機極性溶媒が好ましい。
【0034】
有機極性溶媒としては、例えば、有機アミド溶媒;有機硫黄化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒;環式有機リン化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒が挙げられる。有機アミド溶媒としては、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド化合物;N-メチル-ε-カプロラクタム等のN-アルキルカプロラクタム化合物;N-メチル-2-ピロリドン(以下、「NMP」とも称する。)、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン等のN-アルキルピロリドン化合物又はN-シクロアルキルピロリドン化合物;1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノン等のN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物;テトラメチル尿素等のテトラアルキル尿素化合物;ヘキサメチルリン酸トリアミド等のヘキサアルキルリン酸トリアミド化合物等が挙げられる。有機硫黄化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ジフェニルスルホン等が挙げられる。環式有機リン化合物からなる非プロトン性有機極性溶媒としては、1-メチル-1-オキソホスホラン等が挙げられる。中でも、入手性、取り扱い性等の点で、有機アミド溶媒が好ましく、N-アルキルピロリドン化合物、N-シクロアルキルピロリドン化合物、N-アルキルカプロラクタム化合物、及びN,N-ジアルキルイミダゾリジノン化合物がより好ましく、NMP、N-メチル-ε-カプロラクタム、及び1,3-ジアルキル-2-イミダゾリジノンがさらにより好ましく、NMPが特に好ましい。
【0035】
溶媒の使用量は、重合反応の効率等の観点から、硫黄源としてのアルカリ金属硫化物1モルに対し、1以上30モル以下が好ましく、3モル以上15モル以下がより好ましい。
【0036】
重縮合反応に供される反応液には、パラジハロベンゼン、トリハロベンゼン、及びアルカリ金属硫化物とともに、アルカリ金属水酸化物を仕込んでもよい。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムが挙げられる。
硫黄源をアルカリ金属水酸化物の存在下にトリハロベンゼンと反応させる方法が、諸特性のバランスの良好な架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を得るのに適していることが判明している。
アルカリ金属水酸化物の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。アルカリ金属水酸化物の使用量は、典型的には、硫黄源としてのアルカリ金属硫化物1モルに対して0.01モル以上0.1モル以下が好ましく、0.03モル以上0.08モル以下がより好ましい。
【0037】
重縮合反応に供される反応液には、パラジハロベンゼン、トリハロベンゼン、及びアルカリ金属硫化物とともに、水を仕込んでもよい。水を用いることにより、アルカリ金属硫化物、及びアルカリ金属水酸化物を反応系内で溶液の状態にできる。
水の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。水の使用量は、典型的には硫黄源としてのアルカリ金属硫化物1モルに対して1.0モル以上2.5モル以下が好ましく、1.2モル以上2.3モル以下がより好ましい。
【0038】
以上説明した各成分を混合した後、得られた混合物を反応液として重縮合反応に供する。重縮合反応は、空気中で行われてもよいが、生成物の分解や着色の抑制、溶媒の劣化の抑制等の観点から、不活性ガス雰囲気中で行われるのが好ましい。不活性ガスとしては特に限定されず、窒素ガス、ヘリウムガス等が好ましく、窒素ガスがより好ましい。
重縮合反応はバッチ式で行われてもよく、連続式で行われてもよい。
【0039】
重縮合反応の効率等の観点から、重縮合反応行う温度は、140℃以上300℃以下が好ましく、150℃以上280℃以下がより好ましく、160℃以上265℃以下がさらに好ましい。
反応時間は特に限定されず、重縮合反応が所望する程度まで進行する時間が適宜選択される。典型的には、反応時間は0.5時間以上12時間以下が好ましく、1時間以上6時間以下がより好ましい。
【0040】
上記のようにして重縮合反応を行った後、反応液から重縮合物が回収される。
典型的には、反応液を例えば0℃以上50℃以下、好ましくは10℃以上40℃以下程度の室温付近の温度まで冷却した後、冷却された反応液に含まれる重縮合物を洗浄して回収する。
重縮合物は、公知の方法により洗浄される。洗浄方法としては、アセトン洗浄と、水による洗浄とをこの順で行う方法が挙げられる。この場合、洗浄に用いられるアセトンには、例えば、10質量%以下、好ましくは5質量%以下程度の水を含有させてもよい。アセトン、及び水による洗浄について、重縮合物を酢酸水溶液により洗浄するのが好ましい。酢酸水溶液の濃度は特に限定されないが、例えば、0.05質量%以上5質量%以下であり、0.1質量%以上2質量%以下であってよい。
上記の洗浄を行う場合の温度条件は、所望する洗浄効果が得られる限り特に限定されない。上記の各洗浄操作を実施する温度は、例えば、0℃以上80℃以下であってよく、10℃以上60以下であってよく20℃以上50℃以下であってよい。
【0041】
上記のようにして洗浄された重縮合物を必要に応じて乾燥させた後に、酸化架橋させることにより、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)が得られる。
【0042】
酸化架橋の方法は特に限定されない。酸化架橋は、典型的には、酸素含有雰囲気下で、100℃以上300℃以下の範囲内の温度、好ましくは200℃以上290℃以下の範囲内の温度で前述の重縮合物を加熱することにより行われる。
酸素含有雰囲気は特に限定されない。典型的には、空気中で酸化架橋が行われる。
酸化架橋を行う際の加熱時間は特に限定されず、加熱温度等を勘案して適宜定められる。加熱時間は、典型的に、3時間以上200時間以下が好ましく、5時間以上150時間以下がより好ましく、10時間以上100時間以下がさらに好ましい。
【0043】
架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)が、パラジハロベンゼンと、トリハロベンゼンと、アルカリ金属硫化物との重縮合物の酸化架橋体である場合、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)についての、昇温速度10℃/分で示差走査熱量測定を行うことにより測定される融解熱量が20J/g以下であるのが好ましく、5J/g以上18J/g以下がより好ましい。
上記の融解熱量が低ければ低いほど、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の酸化架橋が良好に進行していると考えられる。架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の融解熱量が上記の範囲内であると、良好な制振性を有するポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得やすい。
【0044】
制振性能及び成形加工性の点で、上記の方法により得られる架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)について、ガラス転移温度(Tg)が80℃以上130以下の範囲内であるのが好ましい。
【0045】
以上説明した、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)、及び架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)が均一に混合されることにより、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物とされる。ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)、及び架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を混合する好ましい方法としては、1軸押出機や2軸押出機等の溶融混錬装置を用いて混合する方法が挙げられる。
【0046】
<その他の成分>
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)、及び架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)以外に、他の樹脂や、種々の添加剤等を含んでいてもよい。
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が他の樹脂や、種々の添加剤等を含む場合、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の質量に対する、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)の質量と、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の質量との合計の比率は、例えば50質量%以上99質量%以下が好ましく、60質量%以上99質量%以下がより好ましい。
【0047】
他の樹脂としては、硬化性樹脂、及び熱可塑性樹脂のいずれを用いてもよい。ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物への、他の樹脂の均一な混合が容易であることから、他の樹脂としては熱可塑性樹脂が好ましい。
【0048】
硬化性樹脂としては、未硬化の状態の硬化性樹脂の前駆体を用いることもできる。硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂であっても、光硬化性樹脂であってもよく、ある程度サイズの大きな成形品を製造しやすいこと等から熱硬化性樹脂が好ましい。
硬化性樹脂を、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に配合する方法としては、粉末又は粒子状のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物に、液状又は溶液状の未硬化の状態の硬化性樹脂の前駆体を混合し、混合後、必要に応じて溶媒を除去する方法が挙げられる。この場合、硬化性樹脂の種類に応じて、混合物に、硬化剤を配合してもよい。
また、粉末又は粒子状のポリフェニレンスルフィド樹脂(A)と、粉末又は粒子状の架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とに対して、液状又は溶液状の未硬化の状態の硬化性樹脂の前駆体を混合して、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を調製してもよい。
以上のようにして得られる混合物は、硬化性樹脂の種類に応じた方法で、加熱及び/又は露光により硬化される。
【0049】
硬化性樹脂の具体例としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、及びアルキド樹脂等の熱硬化性樹脂や、(メタ)アクリル樹脂等の光硬化性樹脂が挙げられる。
【0050】
他の樹脂が熱可塑性樹脂である場合、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)、及び架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)と、他の樹脂とは、典型的には、1軸押出機や2軸押出機等の溶融混錬装置を用いて混合される。混合条件は特に限定されず、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)、及び他の樹脂の融点、溶融粘度等を勘案して適宜決定される。
【0051】
他の樹脂が熱可塑性樹脂である場合の好適な例としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート樹脂、液晶ポリエステル樹脂等)、FR-AS樹脂、FR-ABS樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミドビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、BT樹脂、ポリメチルペンテン、超高分子量ポリエチレン、FR-ポリプロピレン、及びポリスチレン等が挙げられる。
【0052】
これらの熱可塑性樹脂の中では、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)、及び架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)との相溶性に優れる点等から、ポリアリーレンスルフィド樹脂が好ましい。
ポリアリーレンスルフィド樹脂としては、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)、及び架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)に該当しない樹脂であれば特に限定されず、従来知られるポリアリーレンスルフィド樹脂から適宜選択され得る。他の樹脂としてのポリアリーレンスルフィド樹脂については、融点が270℃以上300℃以下であるのが好ましく、重量平均分子量(Mw)が1000以上100000以下であるのが好ましく、温度310℃、せん断速度1200sec-1で測定した溶融粘度が100Pa・s以上250Pa・s以下であるのが好ましい。
【0053】
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が含んでいてもよい添加剤としては、着色剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、離型剤、充填材、及び強化材等が挙げられる。これらの添加剤は、添加剤の種類に応じた適切な範囲の量を使用される。
【0054】
≪制振材料≫
以上説明したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、制振材料として好適に使用される。本出願の明細書及び特許請求の範囲において、具体的には、動的粘弾性測定に従って測定される損失係数(tanδ)として0.155以上の値を示す材料を制振材料とする。制振材料の損失係数は、0.170以上が好ましく、0.200以上がより好ましい。
【0055】
≪成形品≫
以上説明したポリフェニレンスルフィド樹脂組成物、又は制振材料は、公知の成形方法により種々の形状の成形品とされ好適に使用される。
典型的には、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、プレス成形、押出成形、射出成形のような常法により成形され、成形品とされる。
【0056】
他の樹脂が、硬化性樹脂である場合、例えば、所望する形状の凹部を有するモールド内に未硬化の状態のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を充填した後、モールド内で所望する形状に成形されたポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を硬化させてもよい。
【0057】
他の樹脂が熱可塑性樹脂である場合、典型的には、プレス成形、押出成形、射出成形のような常法によりポリフェニレンスルフィド樹脂組成物が成形される。
【0058】
成形品の用途は特に限定されない。成形品の用途の具体例としては、自動車及び二輪車等の車両、船舶、鉄道、航空機のような輸送機における振動が発生する装置の部品、又は当該装置の周辺部品;前述の輸送機における、座席又は座席の周辺部品や、操縦装置等の振動の低減が望まれる装置の部品;各種家電機器部品;OA機器部品;建築材料;工作機械部品;産業機械部品が挙げられる。
以上説明した用途の中でも、成形品の用途としては、自動車等の内燃機関を備える輸送機におけるクーラント循環装置の部品が挙げられる。かかるクーラント循環装置の部品としては、ポンプ筐体やクーラント循環用のパイプ等が挙げられる。
成形品を上記の用途に用いることにより、各種製品の制振化を図ることができる。
【0059】
≪ポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤≫
ポリフェニレンスルフィド樹脂用の制振化剤は、前述の架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む。制振化させるポリフェニレンスルフィド樹脂は、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物について説明したポリフェニレンスルフィド樹脂(A)と同様である。
架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂についても、ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物について説明した架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)と同様である。
このため、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂の、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により測定される融解熱量は、20J/g以下であり、5J/g以上18J/g以下が好ましい。
架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂を含む制振化剤を、ポリフェニレンスルフィド樹脂に配合して得られる組成物について、当該組成物1質量部と、1-クロロナフタレン100質量部とを240℃で混合した場合に、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂に由来する不溶分が生成する。
制振化剤は、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂のみからなってもよく、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂と、他の成分とからなってもよい。他の成分としては特に限定されず、着色剤、前述の熱可塑性樹脂、可塑剤、及び相溶化剤等が挙げられる。特に、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂を、熱可塑性樹脂中に高濃度で混合することにより、制振化剤のマスターバッチとすることができる。マスターバッチには、必要に応じて、可塑剤や、相溶化剤を含めるのが好ましい。
【0060】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0061】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。なお、本発明は、実施例に限られるものではない。以下に記す溶融粘度について、測定方法は前述の通りである。
【0062】
[実施例1]
(架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の調製)
パラジクロロベンゼンと、1,2,4-トリクロロベンゼンと、硫化ナトリウムとの重縮合物として、(株)クレハ製のW-460Aを用いた。
重縮合物を、空気中で260℃、10時間熱処理して酸化架橋させることにより、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を得た。
得られた架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の、昇温速度10℃/分で示差走査熱量測定を行うことにより測定された融解熱量を、表1に記す。
また、得られた架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)1質量部を、240℃の1-クロロナフタレン100質量に溶解させたところ、不溶分が生成した。不溶分を、240℃でのろ過により回収した後、アセトンで洗浄した。洗浄後の不溶分を、80℃で真空乾燥させた後、不溶分の質量を測定した。その結果、上記の試験において、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の46質量%が、240℃の1-クロロナフタレンに不溶であることが分かった。
【0063】
(ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物の調製)
ポリフェニレンスルフィド樹脂組成物(A)として、パラクロロベンゼンと硫化ナトリウムとの重縮合物である、(株)クレハ製、W-214Aを用いた。W-214Aを、上記の方法と同様にして、240℃で1-クロロナフタレンに溶解させたところ、W-214Aは1-クロロナフタレンに完全に溶解した。
ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)と、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とを表1に記載の比率でドライブレンドした後、混合物を、R60(容量60mL)のバレルと、フルフライトのスクリューを備える溶融混錬装置(ラボプラストミル、東洋精機製作所製)にて、試験温度320℃、試験時間5分、回転数100rpmの条件で溶融混錬してポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。
【0064】
[実施例2]
架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を調製する際の熱処理時間を30時間に変えることの他は、実施例1と同様にして架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を得た。得られた架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の、融解熱量を、表1に記す。
また、得られた架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)1質量部を、240℃の1-クロロナフタレン100質量に溶解させたところ、不溶分が生成した。不溶分を、240℃でのろ過により回収した後、アセトンで洗浄した。洗浄後の不溶分を、80℃で真空乾燥させた後、不溶分の質量を測定した。その結果、上記の試験において、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の55質量%が、240℃の1-クロロナフタレンに不溶であることが分かった。
次いで、得られた架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を用いて、実施例1と同様にしてポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。
【0065】
[実施例3]
架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を調製する際の熱処理時間を100時間に変えることの他は、実施例1と同様にして架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を得た。得られた架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の、融解熱量を、表1に記す。
また、得られた架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)1質量部を、240℃の1-クロロナフタレン100質量に溶解させたところ、不溶分が生成した。不溶分を、240℃でのろ過により回収した後、アセトンで洗浄した。洗浄後の不溶分を、80℃で真空乾燥させた後、不溶分の質量を測定した。その結果、上記の試験において、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の68質量%が、240℃の1-クロロナフタレンに不溶であることが分かった。
次いで、得られた架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を用いて、実施例1と同様にしてポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。
【0066】
[実施例4~7]
実施例3と同様の方法により、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を得た。
ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)と架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)との比率を、表2に記載の比率に変えることの他は、実施例3と同様にして、実施例4~7のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物をそれぞれ得た。
【0067】
[比較例1]
加熱による酸化処理を施されていない(株)クレハ製のW-460Aを、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)として用いることの他は、実施例1と同様にしてポリフェニレンスルフィド樹脂組成物を得た。
加熱による酸化処理を施されていない架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)1質量部を、240℃の1-クロロナフタレン100質量に溶解させたところ、不溶分が生成した。不溶分を、240℃でのろ過により回収した後、アセトンで洗浄した。洗浄後の不溶分を、80℃で真空乾燥させた後、不溶分の質量を測定した。その結果、上記の試験において、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)の25質量%が、240℃の1-クロロナフタレンに不溶であることが分かった。
【0068】
[比較例2]
パラクロロベンゼンと硫化ナトリウムとの重縮合物である、(株)クレハ製、W-214Aを、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)のみである比較例2の試料として用いた。
【0069】
[比較例3]
実施例3で得た、100時間加熱された架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)のみを、比較例3の試料として用いた。
【0070】
実施例1~7、比較例1、及び比較例2の試料を320℃、5MPa、1分の条件で圧縮成形した後、150℃、10MPa、3分の条件でさらに圧縮して55mm×55mm×1mmのサイズのシートを作製した。作成されたシートのもろさを手触り及び目視により確認した。シートの強度に全く問題ない場合を◎と評価し、圧縮成形可能であるがシートに若干のもろさが感じられた場合を〇と評価した。
なお、比較例3の、架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)については、成形性が著しく劣ったため試験片を作成することができず、後述する損失係数の測定を行うことができなかった。
【0071】
また、得られたシートから、カッターナイフによりDMA測定用の短冊状の試験片を切り出し、DMAによる動的粘弾性の評価を行い、損失係数を測定した。なお、試験片には、DMA測定前に、150℃、1時間の条件でアニール処理を施した。DMA測定条件は以下の通りである。損失係数の測定結果を、表1に記す。
<DMA測定条件>
試料サイズ:10mm×5mm×1mm
引張温度:20℃~240℃
昇温速度:2℃/分
周波数:10Hz
【0072】
【0073】
実施例1~7によれば、ポリフェニレンスルフィド樹脂(A)と、昇温速度10℃/分での示差走査熱量測定により測定される融解熱量が20J/g以下であり、且つ240℃で1-クロロナフタレンに実質的に不溶である架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)とを含むポリフェニレンスルフィド樹脂組成物は、0.155以上の高い損失係数を示し制振性に優れることが分かる。
他方、240℃で1-クロロナフタレンに可溶である架橋型ポリフェニレンスルフィド樹脂(B)を含む比較例1のポリフェニレンスルフィド樹脂組成物や、比較例2で用いたポリフェニレンスルフィド樹脂(A)は、制振性に劣ることが分かる。