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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】マグネット装置
(51)【国際特許分類】
   B66C 1/08 20060101AFI20240827BHJP
   B66C 13/00 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
B66C1/08 E
B66C13/00 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020148996
(22)【出願日】2020-09-04
(65)【公開番号】P2022043624
(43)【公開日】2022-03-16
【審査請求日】2023-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】田村 裕昭
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-303023(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01150019(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00-3/20;13/00-15/06
B25J 1/00-21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁石を有するリフティングマグネットと、
前記電磁石への電力の供給を制御する電力制御手段と、
前記電力制御手段から取得した当該電力制御手段の動作情報に基づいて、前記電力制御手段を診断する診断手段と、
を備え
前記診断手段は、前記リフティングマグネットが取り付けられたクレーンの稼働情報に基づいて、前記電力制御手段を診断し
前記クレーンの稼動情報は、当該クレーンの動作時間の間の各動作を時系列で整理した情報を含む、
マグネット装置。
【請求項2】
前記電力制御手段は、
交流電力を直流電力に変換する整流手段と、
前記整流手段で変換された直流電力を前記電磁石に供給する給電手段と、
を含む、
請求項1に記載のマグネット装置。
【請求項3】
前記動作情報は、前記リフティングマグネットの動作時間又は動作回数を含み、
前記診断手段は、前記リフティングマグネットの動作時間又は動作回数が所定の閾値を超えた場合に、前記給電手段の電気部品の交換を促す警告を出力する、
請求項2に記載のマグネット装置。
【請求項4】
前記電力制御手段は、前記動作情報をアナログ出力する出力手段を含み、
前記診断手段は、
前記出力手段からのアナログ出力をデジタル変換するAD変換器を含み、
前記AD変換器からデジタル出力された前記動作情報に基づいて診断を行う、
請求項1~3のいずれか一項に記載のマグネット装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネット装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼板等の被吊り上げ物をリフティングマグネットの磁力で吸引して吊り上げるマグネット装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-20872号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種のマグネット装置においては、電気部品の交換時期等を自己診断できる機能が求められている。
そこで、本発明は、電気部品の診断を好適に行うことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、マグネット装置であって、
電磁石を有するリフティングマグネットと、
前記電磁石への電力の供給を制御する電力制御手段と、
前記電力制御手段から取得した当該電力制御手段の動作情報に基づいて、前記電力制御手段を診断する診断手段と、
を備え
前記診断手段は、前記リフティングマグネットが取り付けられたクレーンの稼働情報に基づいて、前記電力制御手段を診断し
前記クレーンの稼動情報は、当該クレーンの動作時間の間の各動作を時系列で整理した情報を含む
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、電気部品の診断を好適に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】実施形態に係るマグネット装置の装置本体を示す概略側面図である。
図2】実施形態に係るマグネット装置の概略の制御構成を示すブロック図である。
図3】実施形態の第1の変形例に係るマグネット装置の概略の制御構成を示すブロック図である。
図4】実施形態の第2の変形例に係るマグネット装置の概略の制御構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0009】
[マグネット装置の装置本体の構成]
図1は、本実施形態に係るマグネット装置1の装置本体10を示す概略側面図である。
この図に示すように、マグネット装置1は、装置本体10を備える。
【0010】
装置本体10は、例えば工場設備等のクレーン20に取り付けられ、リフティングマグネット11の磁力によって鋼板等の被吊り上げ物Tを運搬する。装置本体10は、上下方向(鉛直方向)に被吊り上げ物Tを吊り上げる。
装置本体10は、2つのリフティングマグネット11と、当該2つのリフティングマグネット11を吊り下げる吊ビーム12とを備えている。
【0011】
各リフティングマグネット11は、鉄製の筐体11aを有している。この筐体11aの内側には、複数(図1では2つのみ図示)の電磁石11bが配置されている。
電磁石11bは、極(鉄芯)とこれに巻回されたコイルとから構成されており、後述の電源装置40からコイルに電流が供給されることで、極が励磁されて磁束(磁場)を発生させる。これにより、励磁された極の下面が、磁力により鋼板等の被吊り上げ物Tを吸引する力(吸引力)を発揮する。
【0012】
吊ビーム12は、長尺状の部材であり、長手方向の両端側の各下部にリフティングマグネット11を吊り下げることで、長尺の被吊り上げ物Tを運搬することに利用される。
吊ビーム12の上部には、クレーンフック21と連結するための連結部13が設けられている。連結部13は、吊ビーム12の長手方向における一端側及び他端側にそれぞれ設けられている。吊ビーム12は、各連結部13が各クレーンフック21に連結されることにより、クレーン20に吊り下げられている。クレーン20は、紙面垂直方向に動作可能であるとともに、クレーンフック21を上下に移動可能に支持している。
【0013】
吊ビーム12の下部には、2つのリフティングマグネット11を吊り下げるための吊り具14がそれぞれ設けられている。各吊り具14の上端は、吊ビーム12の下部に連結されている。また、各吊り具14の下端は、リフティングマグネット11の上部(筐体11a)に連結されている。すなわち、各リフティングマグネット11は、吊り具14を介して、吊ビーム12に吊り下げられている。
【0014】
[マグネット装置の制御構成]
図2は、マグネット装置1の概略の制御構成を示すブロック図である。
この図に示すように、マグネット装置1は、装置本体10のほか、電源装置40と診断装置50を備える。これら電源装置40及び診断装置50は、特に限定はされないが、例えばクレーン20に設けられた制御室内に配置されている。
【0015】
電源装置40は、本発明に係る電力制御手段の一例であり、リフティングマグネット11(電磁石11b)への電力の供給を制御する。電源装置40は、整流回路41と、充電回路42と、主回路43と、ロギング部44と、制御回路45とを備える。
【0016】
整流回路41は、工場電源からの交流電力を直流電力に変換し、充電回路42及び主回路43に供給する。なお、交流電力の供給源は工場電源に限定されない。
充電回路42は、整流回路41からの直流電力を制御し、非常電源48を充電する。非常電源48は、電源装置40に工場電源から電力が供給されなくなった場合のバックアップ電源であり、例えば電源装置40に付設されている。なお、非常電源48は、電源装置40と一体的に設置してもよい。
【0017】
主回路43は、本発明に係る給電手段の一例であり、制御回路45からの制御信号に基づいて、装置本体10(リフティングマグネット11)への電力供給を制御する。主回路43は、工場電源から電源装置40への電力供給の有無を検知し、工場電源からの電力が正常に供給されている常態では、整流回路41で変換された直流電力を装置本体10に供給する。一方、例えば停電等により工場電源からの電力供給が無くなったことを検知した場合、主回路43は、電源系統を非常電源48に切り替えて、非常電源48から装置本体10に直流電力を供給する。より詳しくは、主回路43は、Hブリッジ回路を備え、当該Hブリッジ回路により電磁石11bへ供給される電流の向きを制御する。
【0018】
ロギング部44は、電源装置40の各部から各種情報を収集し、時間(時刻)情報とともに記録する。具体的に、ロギング部44は、非常電源48を充電する電流・電圧に関する充電電力情報を充電回路42から取得し、非常電源48の充電状態に関する充電状態情報を非常電源48から取得し、装置本体10に供給する電流・電圧に関するマグネット制御情報を主回路43から取得する。また、ロギング部44は、リフティングマグネット11の動作情報(吸着、解放、磁力調整等)を含む主回路43の動作状況に関する主回路動作情報と、後述のクレーン動作信号とを、制御回路45から取得する。
【0019】
制御回路45は、例えばユーザ操作や所定のプログラム等に基づいて、主回路43から装置本体10(リフティングマグネット11)への電力供給を制御する。具体的には、制御回路45は、リフティングマグネット11に所望の動作(吸着、解放、磁力調整等)をさせるように、主回路43からの電力供給を制御するための制御信号を主回路43に出力する。
また、制御回路45には、クレーン20の動作信号(クレーン動作信号)が、クレーン20を動作制御する工場設備から入力される。クレーン動作信号とは、クレーン20が動作しているか否かを示す信号である。
【0020】
また、制御回路45は、電源装置40の動作状態に関する動作情報を、電源装置40を診断するための診断用情報として、AD変換器46を通じて診断装置50に出力する。診断用情報は、電源装置40の動作状態に関する少なくとも1つの動作情報を含み、本実施形態では、ロギング部44で記録する各種情報(充電電力情報、充電状態情報、マグネット制御情報、主回路動作情報、クレーン動作信号)を含む。AD変換器46は、制御回路45からアナログ出力された診断用情報をデジタル信号に変換して診断装置50に出力する。なお、診断用情報は診断装置50に出力されればその信号経路は特に限定されず、例えば制御回路45を介さずにロギング部44又は電源装置40の各部から直接出力されてもよい。
【0021】
診断装置50は、電源装置40から取得した診断用情報に基づいて、当該電源装置40の各部の電気部品を診断する。診断装置50は、演算部51と、記憶部52と、PLC(Programmable Logic Controller)53とを備える。
【0022】
演算部51は、電源装置40から取得した診断用情報に基づいて、電源装置40を診断するための演算を行う。具体的に、演算部51は、取得した診断用情報を、主回路動作情報、クレーン20の動作状態、運転時間、運転回数について整理する。より詳しくは、演算部51は、クレーン20の動作時間(開始から終了まで)を記憶部52に記憶させるとともに、その間に稼働するクレーン20の各動作(横行、走行、巻上、巻下、停電運転等)を稼働実績として時系列で整理する。さらに、演算部51は、リフティングマグネット11に供給する電圧・電流や、リフティングマグネット11の動作状態を時系列で整理する。そして、演算部51は、クレーン20の稼働実績と、後述するPLC53での演算結果とを、整理した情報と関連付けて記憶部52に記憶させる。
これにより、クレーン20の動作情報を加味してマグネット装置1の電源装置40を診断できる。クレーン20の動作はマグネット装置1に大きな影響を与えることから、マグネット装置1の故障や事故原因にも関連する。そのため、マグネット装置1の故障や事故原因等を診断するにあたっては、その直前にクレーン20がどのような動作を行ったかを把握することで、故障や事故の原因を絞り込むことができる。
例えば、リフティングマグネット11による鋼材の運搬中に鋼材落下の事故が起こった場合、クレーン20の動作情報を加味して診断することで、その原因がマグネット装置1にあるのか、クレーン20の操作の問題なのかを明らかにできる。これにより、責任の所在を明らかにし、今後の予防対策が立てやすくなる。鋼材落下事故の一例として、リフティングマグネット11で鋼材を吊った状態でのクレーン20の横行中に発生する場合がある。その原因として、オペレータが、リフティングマグネット11の磁力を逆励磁のままクレーン20を横行させていたにも関わらず、強励磁にかけたと誤認していたケースが挙げられる。このような場合、クレーン20の動作情報の記録が残っていないと、オペレータからのヒヤリングしか情報がないため、原因究明に時間を要するうえに、その特定が推測の域を出ない。しかし、本実施形態のようにクレーン20の動作情報の記録が残っていれば、原因をただちに特定することができる。
【0023】
記憶部52は、電源装置40から取得した診断用情報と、演算部51での演算結果とを記憶する。
【0024】
PLC53は、診断用情報と演算部51での演算結果とに基づいて、電源装置40の各部の電気部品を診断する。具体的に、PLC53は、診断用情報又は演算結果による診断パラメータが所定の閾値を超えた場合に、該当機器の電気部品の交換を促す警告を出力する。閾値としては、各電気部品の寿命に対して所定の安全率を見込んだ数値が予め設定(記憶)されている。例えば、PLC53は、所定値以上の電力が供給されたときのリフティングマグネット11(電磁石11b)の動作時間又は動作回数が所定の閾値を超えた場合に、主回路43の電気部品の寿命が近づいたと判定し、その交換を促す警告出力を行う。ここで、リフティングマグネット11の動作時間又は動作回数とは、電源装置40の主回路43から得られるリフティングマグネット11本体への通電時間又は動作回数である。また、PLC53は、さらにクレーン20の稼働実績(稼働情報)を加味して、電源装置40の各部の電気部品を診断してもよい。この場合、例えばクレーン20の各動作等に閾値を設定しておき、この閾値に基づいて電気部品の寿命が近づいたか否かを判定すればよい。
PLC53は、診断対象の電気部品がリレー部品(接点)であればその動作回数に基づいて判定し、半導体部品であれば動作時間と電流値に基づいて判定する。あるいは、非常電源48周りの電気部品であれば、PLC53は充放電の電流・電圧と充放電回数とに基づいて判定する。これら各部品の動作時間・動作回数は、リフティングマグネット11本体が吸引(磁力が発生)した時の当該部品の動作時間・動作回数とは関係なく、例えば非常電源48(バッテリー)への充電時間・充電電流・充電電圧・放電時間・放電電流などの付帯設備の監視により得られる。ただし、この各部品の動作時間・動作回数は、リフティングマグネット11本体が吸引した時の当該部品の動作時間・動作回数を含むものであってもよい。
また、警告出力は、マグネット装置1の運転者に周知できるものであれば特に限定はされないが、例えば、制御室にデジタル出力してもよいし、電源装置40又は診断装置50に設けた図示しないディスプレイに警告表示してもよい。
これにより、電気部品が寿命に至る前にその交換を実施でき、電気系統の故障を未然に防ぐことができる。
【0025】
[本実施形態の技術的効果]
以上のように、本実施形態によれば、リフティングマグネット11(電磁石11b)への電力の供給を制御する電源装置40から取得した当該電源装置40の動作情報(診断用情報)に基づいて、当該電源装置40が診断される。
これにより、電源装置40の電気部品を好適に診断することができる。
【0026】
また、本実施形態によれば、リフティングマグネット11(電磁石11b)の動作時間又は動作回数が所定の閾値を超えた場合に、主回路43の電気部品の交換を促す警告が出力される。
これにより、電気部品が寿命に至る前にその交換を実施でき、電気系統の故障を未然に防ぐことができる。
【0027】
[変形例1]
図3は、上記実施形態におけるマグネット装置1の第1の変形例を示す図である。
この図に示すように、電源装置40は、診断装置50を構成する演算部51、記憶部52及びPLC53を含んで構成されてもよい。
これにより、診断機能を一体的に備える電源装置40を構成することができる。
【0028】
[変形例2]
図4は、上記実施形態におけるマグネット装置1の第2の変形例を示す図である。
この図に示すように、AD変換器46は、電源装置40内でなく診断装置50内に設けてもよい。
このように構成することにより、予め設置された電源装置40に診断装置50を後付けする場合でも、電源装置40の制御回路45と診断装置50のAD変換器46とを接続するだけで対応できる。すなわち、電源装置40に診断機能を容易に後付けできる。
【0029】
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限られない。
例えば、上記実施形態では、診断装置50のPLC53が診断(判定)を行うこととしたが、演算部51がこれを行うこととしてもよい。あるいは、電源装置40の制御回路45が、診断処理を実行するプログラムにより当該診断を行うこととしてもよい。
その他、上記実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 マグネット装置
10 装置本体
11 リフティングマグネット
11b 電磁石
20 クレーン
40 電源装置(電力制御手段)
41 整流回路(整流手段)
43 主回路(給電手段)
44 ロギング部
45 制御回路(出力手段)
46 AD変換器
50 診断装置(診断手段)
51 演算部
53 PLC
図1
図2
図3
図4