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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 81/02 20060101AFI20240827BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20240827BHJP
   C08L 81/06 20060101ALI20240827BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20240827BHJP
   C08L 23/06 20060101ALI20240827BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20240827BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20240827BHJP
   C08K 3/26 20060101ALI20240827BHJP
   C08K 3/30 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C08L81/02
C08L27/18
C08L81/06
C08L71/12
C08L23/06
C08L23/26
C08K3/32
C08K3/26
C08K3/30
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020155728
(22)【出願日】2020-09-16
(65)【公開番号】P2022049498
(43)【公開日】2022-03-29
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】デロイトトーマツ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 耕平
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-031328(JP,A)
【文献】特開2007-119638(JP,A)
【文献】特開2007-197717(JP,A)
【文献】特開2005-042107(JP,A)
【文献】特開2000-169738(JP,A)
【文献】特開2019-218568(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009234(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/059651(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 81/00-81/10
C08L 27/18
C08L 23/00-23/36
C08L 71/12
C08K 3/32
C08K 3/26
C08K 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリフェニレンサルファイド樹脂40~80質量%に対して、添加剤として高分子量四フッ化エチレン樹脂1~10質量%、低分子量四フッ化エチレン樹脂10~35質量%、超高分子量ポリエチレン樹脂2~20質量%、変性ポリオレフィン樹脂0.1~5質量%および非晶質ポリマーとして、ポリスルホン系樹脂0.5~5質量%が配合されている摺動部材用樹脂組成物。
【請求項2】
変性ポリオレフィン樹脂は、エチレン系アイオノマー、分子内にエポキシ基を有するポリオレフィン樹脂、および不飽和カルボン酸、その無水物またはそれらの誘導体でグラフト変性したポリオレフィン樹脂から選択される請求項に記載の摺動部材用樹脂組成物。
【請求項3】
不飽和カルボン酸、その無水物またはそれらの誘導体でグラフト変性したポリオレフィン樹脂は、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、無水マレイン酸変性エチレン-α-オレフィン共重合体、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体から選択される請求項に記載の摺動部材用樹脂組成物。
【請求項4】
ポリスルホン系樹脂は、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニルスルホン樹脂から選択される請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の摺動部材用樹脂組成物。
【請求項5】
追加成分として、リン酸塩、炭酸塩および硫酸塩から選択される少なくとも一種が0.1~10質量%配合される請求項1からのいずれか一項に記載の摺動部材用樹脂組成物。
【請求項6】
リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩である請求項に記載の摺動部材用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1からのいずれか一項に記載の摺動部材用樹脂組成物よりなる摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンサルファイド樹脂は優れた耐熱性、耐薬品性ならびに成形性等を有することから、OA機器、家庭用電気機器等の摺動部材として使用されている。また、加熱殺菌処理や次亜塩素酸殺菌処理がなされる食品機械向けの摺動部材としての使用が期待されている。一般にポリフェニレンサルファイド樹脂自体は、伸びが少なく靭性に劣るため、また、自己潤滑性が不充分であるため、摺動部材として使用する場合は通常、ガラス繊維等の無機繊維による補強に加え、固体潤滑剤を添加して使用されている。例えば、特許文献1には、ポリフェニレンサルファイド樹脂にガラス繊維もしくは炭素繊維、並びに四フッ化エチレン樹脂を含有させた組成物により形成した軸受体が提案されている。しかしながら、ガラス繊維、炭素繊維等の補強充填材を添加してなる摺動部材は、ステンレス鋼やアルミニウム合金等の軟質金属を相手材とした場合、相手材との摺動において相手材を損傷させてしまい、アブレッシブ摩耗に発展するという問題があった。
【0003】
この摺動相手材を損傷させるという欠点を解決するものとして、特許文献2には、ポリフェニレンサルファイド樹脂に、ガラス繊維、炭素繊維等の補強充填材および四フッ化エチレン樹脂に加えてリン酸塩を配合した樹脂組成物からなる摺動部材が提案されている。この摺動部材は、リン酸塩による相手材への潤滑膜の造膜性を利用して補強充填材による相手材の損傷を防ぐとともに潤滑性の向上を図ったものであるが、高荷重等の過酷な使用条件においては、耐摩耗性、潤滑性ともに不充分であるという問題があった。
【0004】
また、特許文献3には、上記のようなガラス繊維、炭素繊維等の補強充填材を使用せずに、未焼成の高分子量四フッ化エチレン樹脂を配合し、その高分子量四フッ化エチレン樹脂を混練し繊維状化して配向させることにより、成形物の機械的強度の向上を図り、耐摩耗性、潤滑性を付与した摺動部材が提案されている。しかしながら、充分な靭性や耐摩耗性、潤滑性を付与するためには、高分子量四フッ化エチレン樹脂を多量に配合する必要があり、この場合、繊維状化した高分子量四フッ化エチレン樹脂が凝集しやすくなり、この凝集体が成形物の外観不良や機械加工時の表面荒れの原因となるという問題があった。さらに、ポリフェニレンサルファイド樹脂は前述したように靭性に劣るため脆く、摺動相手材の表面粗さが粗い場合、異常摩耗が発生するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭55-227号公報
【文献】特許第2954638号公報
【文献】特許第2790692号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記諸点に鑑みてなされたものであり、成形加工性、機械加工性に優れるとともに、潤滑性および耐摩耗性を含む摺動特性ならびに機械的性質を向上させることができる摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の摺動部材用樹脂組成物は、ポリフェニレンサルファイド樹脂40~80質量%に対して、添加剤として四フッ化エチレン樹脂15~40質量%、超高分子量ポリエチレン樹脂2~20質量%、変性ポリオレフィン樹脂0.1~5質量%および非晶質ポリマー0.5~5質量%が配合されている。
【0008】
本発明の摺動部材用樹脂組成物は、追加成分として、リン酸塩、炭酸塩および硫酸塩から選択される少なくとも一種が0.1~10質量%配合されてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、潤滑性及び耐摩耗性を含む摺動特性を向上させることができる摺動部材用樹脂組成物および摺動部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0011】
本発明の摺動部材用樹脂組成物は、ポリフェニレンサルファイド樹脂40~80質量%に対して、添加剤として高分子量四フッ化エチレン樹脂1~10質量%、低分子量四フッ化エチレン樹脂10~35質量%、超高分子量ポリエチレン樹脂2~20質量%、変性ポリオレフィン樹脂0.1~5質量%および非晶質ポリマーとして、ポリスルホン系樹脂0.5~5質量%が配合されている。
【0012】
ポリフェニレンサルファイド樹脂は、本発明の摺動部材用樹脂組成物の母材を構成するものであり、分子構造の異なる架橋型、リニア型、セミリニア型がある。本発明においては特に限定されるものではないが、アウトガスによる金型内部での充填不足や炭化・変色という成形不良抑制の点でセミリニア型が好ましい。例えば、架橋型はDIC社製「T4(商品名)」、リニア型はポリプラスチックス社製「W-214(商品名)」、セミリニア型は帝人社製「エコトランN-200(商品名)」が挙げられる。
【0013】
なお、ポリフェニレンサルファイド樹脂の含有量は、40~80質量%であることが必要であり、49~69質量%であることが好ましい。これによって、ポリフェニレンサルファイド樹脂本来の、優れた耐熱性、耐薬品性ならびに成形性等を保持することができる。
【0014】
本発明の摺動部材用樹脂組成物に配合される四フッ化エチレン樹脂は、摺動部材用樹脂組成物を成形して得られる摺動部材に対して潤滑性を付与し低摩擦に寄与するものであり、その配合量は15~40質量%、好ましくは20~35質量%である。配合量が15質量%未満では充分な低摩擦を得ることができず、40質量%を超えて配合すると四フッ化エチレン樹脂の凝集による外観不良の原因となる。
【0015】
四フッ化エチレン樹脂には、主として成形用に使用される高分子量四フッ化エチレン樹脂と主として潤滑性付与に使用される低分子量四フッ化エチレン樹脂がある。本発明においては、高分子量四フッ化エチレン樹脂、低分子量四フッ化エチレン樹脂のいずれか単独の四フッ化エチレン樹脂を使用することもできるが、高分子量四フッ化エチレン樹脂と低分子量四フッ化エチレン樹脂とを適当な割合で配合することが好ましい。
【0016】
高分子量四フッ化エチレン樹脂は、通常数百万から1000万の分子量を有しており、モールディングパウダーあるいはファインパウダーとして主に成形用に使用されているもので、例えばダイキン工業社製の「ポリフロンM-12(商品名)」、「ポリフロンM-112(商品名)」などが挙げられる。モールディングパウダー、ファインパウダーではないが、高分子量四フッ化エチレン樹脂を成形焼成後粉砕したものも使用できる。例えば、喜多村社製の「KT300M(商品名)」が挙げられる。
【0017】
高分子量四フッ化エチレン樹脂は、潤滑性の付与にも寄与するが、主に溶融混錬において繊維状化し、摺動部材用樹脂組成物を成形して得られる摺動部材の靭性に寄与して機械的強度を向上させる。その配合量は1~10質量%、好ましくは1~5質量%である。配合量が1質量%未満では、機械的強度の向上の効果が乏しく、10質量%を超えると、凝集や増粘過剰により摺動部材用樹脂組成物の成形性や成形物(摺動部材)の外観を損なう虞がある。
【0018】
低分子量四フッ化エチレン樹脂は、主に潤滑性を付与する役割を担うものであり、例えば、スリーエム社製の「ダイニオンTF(商品名)」、ダイキン工業社製の「ルブロンL-5(商品名)」、AGC社製の「フルオンL169J(商品名)」等が挙げられる。その配合量は10~35質量%、好ましくは15~30質量%である。配合量が10質量%未満では、摺動部材に対して潤滑性の付与が充分でなく、35質量%を超えると摺動部材用樹脂組成物の成形性の悪化や成形物(摺動部材)の機械的強度の低下の原因となる。
【0019】
本発明の摺動部材用樹脂組成物に配合される超高分子量ポリエチレン樹脂は、135℃のデカリン酸溶媒中で測定した極限粘度[η]が10dl/g以上で、その粘度平均分子量が50万~600万のものを使用することができ、例えば三井化学社製の「ミペロン(商品名)」等を挙げることができる。また、超高分子量ポリエチレン樹脂としては、135℃の極限粘度が10~40dl/gの超高分子量ポリエチレン樹脂と同極限粘度が0.1~5dl/gの低分子量ないし高分子量ポリエチレン樹脂とからなるものも使用することができ、例えば三井化学社製の「リュブマー(商品名)」等を挙げることができる。さらに、酸変性超高分子量ポリエチレン樹脂も使用することができ、例えば無水マレイン酸変性の三井化学社製の「変性リュブマー(商品名)」等を挙げることができる。
【0020】
超高分子量ポリエチレン樹脂は、摺動部材用樹脂組成物に配合されることにより、軽荷重、中~高速領域の摺動特性を改善する作用がある。一般に、四フッ化エチレン樹脂だけでは、上記条件下での摺動特性を改善することが困難である。超高分子量ポリエチレン樹脂の配合量は2~20質量%、好ましくは2~10質量%である。超高分子量ポリエチレン樹脂の配合量が2質量%未満であると、上述した摺動特性の改善の効果が乏しく、20質量%を超えると、ポリフェニレンサルファイド樹脂への分散割合が多くなり、耐摩耗性や成形性を悪化させる虞がある。
【0021】
本発明の摺動部材用樹脂組成物に配合される変性ポリオレフィン樹脂として、エチレン系アイオノマー、分子内にエポキシ基を有するポリオレフィン樹脂、および不飽和カルボン酸、その無水物またはそれらの誘導体でグラフト変性したポリオレフィン樹脂を使用することができる。
【0022】
エチレン系アイオノマーは、エチレンを含むα-オレフィンと、α,β-不飽和カルボン酸との共重合体に、原子価が1~3の金属イオンを付加せしめたイオン性共重合体であり、金属イオンによる分子間架橋構造を有する。ここで、α,β-不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸等が挙げられる。また、原子価が1~3の金属イオンの代表例としては、Na+、K+、Ca2+、Zn2+、Al3+等が挙げられる。例えば、エチレン-メタクリル酸共重合体の分子間をNa+、Zn2+で架橋した三井・ダウポリケミカル社製の「ハイミラン(商品名)」等が挙げられる。
【0023】
分子内にエポキシ基を有するポリオレフィン樹脂は、具体的には、エチレンとグリシジルメタクリレートとの共重合体および当該共重合体に更に第三成分として酢酸ビニルまたはメチルアクリレートが共重合した住友化学社製の「ボンドファースト(商品名)」、エチレンとグリシジルメタクリレートとの共重合体にポリスチレン、ポリメチルメタクリレートまたはアクリロニトリル- スチレン共重合体がグラフトした日油社製の「モディパーA 4 0 0 0 シリーズ( 商品名)」等が挙げられる。
【0024】
不飽和カルボン酸、その無水物またはそれらの誘導体でグラフト変性したポリオレフィン樹脂の主鎖をなすポリオレフィン樹脂としては、α-オレフィンの単独重合体、2種以上のα-オレフィンの共重合体、あるいはα-オレフィンと該α-オレフィンと共重合可能な他の化合物との共重合体等が挙げられる。α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等の炭素数2~20のα-オレフィン等が挙げられる。また、他の化合物としては、例えば、共役ジエンや非共役ジエンのような多不飽和結合を有する化合物あるいは酢酸ビニル、アクリル酸エステル等が挙げられる。好適なポリオレフィン樹脂として具体的には、低密度、中密度あるいは高密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、α-オレフィン共重合体(エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-ヘキセン共重合体等)等が挙げられる。
【0025】
不飽和カルボン酸、その無水物又はそれらの誘導体は、1分子内にエチレン性不飽和結合とカルボキシル基、酸無水物又は誘導体基とを有する化合物である。不飽和カルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、イタコン酸、シトラコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2,3-ジカルボン酸〔ナジック酸〕、メチル-エンドシス-ビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボン酸〔メチルナジック酸〕等の不飽和カルボン酸;これらの不飽和カルボン酸の無水物;不飽和カルボン酸ハライド、不飽和カルボン酸アミド及び不飽和カルボン酸イミド等の誘導体が挙げられる。より具体的には、塩化マレニル、マレイミド、N-フェニルマレイミド、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチル、グリシジルマレエート等を挙げることができる。これらの中で、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸が好ましく、特に無水マレイン酸が好ましい。
【0026】
無水マレイン酸変性ポリオレフィン樹脂としては、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂、無水マレイン酸変性α-オレフィン共重合体、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体(SEBS)等が挙げられる。具体例を例示すると、例えば、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂としては、三井化学社製の「アドマー(商品名)」、三菱ケミカル社製の「モディック(商品名)」等が挙げられ、無水マレイン酸変性α-オレフィン共重合体としては、三井化学社製の「タフマー(商品名)」等が挙げられ、無水マレイン酸変性スチレン-エチレン/ブチレン-スチレン共重合体としては、旭化成社製の「タフテック(商品名)」等が挙げられる。
【0027】
変性ポリオレフィン樹脂は、摺動部材用樹脂組成物に配合されることにより、得られる成形物(摺動部材)は耐衝撃性や伸び等の機械的特性を改善する役割を果たす。変性ポリオレフィン樹脂の配合量は0.1~5質量%、好ましくは0.5~3質量%である。変性ポリオレフィン樹脂の配合量が0.1質量%未満であると、上記機械的特性の改善を十分に発揮することができず、5質量%を超えると、ポリフェニレンサルファイド樹脂特有の耐熱性や耐薬品性が損なわれる虞がある。
【0028】
本発明において、非晶質ポリマーとしては、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂が使用される。ポリスルホン系樹脂は、構成分子中にスルホニル基(-SO-)を含むポリマーであって、下記式(1)で表されるポリエーテルスルホン樹脂、下記式(2)で表されるポリスルホン樹脂、下記式(3)で表されるポリフェニルスルホン樹脂等が挙げられる。具体的には、ポリエーテルスルホン樹脂としては、住友化学社製の「スミカエクセル(商品名)」、三井化学社製の「三井PES(商品名)」、ソルベイ社製の「ベラデル(商品名)」、BASF社製の「ウルトラゾーンEシリーズ(商品名)」等が、ポリスルホン樹脂としては、ソルベイ社製の「ユーデル(商品名)」、BASF社製の「ウルトラゾーンSシリーズ(商品名)」等が、ポリフェニルスルホン樹脂としては、ソルベイ社製の「レーデル(商品名)」、BASF社製の「ウルトラゾーンPシリーズ(商品名)」、CERAMER社製の「CERAMER60(商品名)」等が挙げられる。
【0029】
【化1】
【0030】
【化2】
【0031】
【化3】
【0032】
ポリエーテルイミド樹脂としては、例えば、SABIC社製の「ウルテム(商品名)」、ポリフェニレンエーテル樹脂としては、例えば、旭化成社製の「ザイロン(商品名)」、三菱エンジニアリングプラスチックス社製の「ユピエース(商品名)」、SABIC社製の「ノリル(商品名)」等が挙げられる。
【0033】
非晶質ポリマーは、摺動部材用樹脂組成物に配合されることにより、摺動部材用樹脂組成物の成形性を向上させるとともに、得られる成形物(摺動部材)の靭性、耐摩耗性をも向上させる役割を果たす。その配合量は0.5~5質量%、好ましくは1~3質量%である。配合量が0.5質量%未満であると、上記の効果を十分に発揮することができず、5質量%を超えると成形性を悪化させる虞がある。
【0034】
本発明においては、追加成分として、リン酸塩、炭酸塩および硫酸塩から選択される少なくとも一種を配合してもよい。
【0035】
リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩は、それ自体、黒鉛や二硫化モリブデン等の固体潤滑剤のような潤滑性を示す物質ではないが、摺動部材用樹脂組成物に配合されることにより、相手材との摺動において、相手材表面(摺動面)への四フッ化エチレン樹脂等の潤滑被膜の造膜性を助長し、摺動部材の摺動特性を向上させる効果を発揮する。
【0036】
リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属の塩が好ましく、例えば、リン酸塩としては、第三リン酸リチウム、第三リン酸カルシウム、第二リン酸カルシウム、第二リン酸マグネシウム、ピロリン酸リチウム、ピロリン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム、メタリン酸リチウム、メタリン酸カルシウム、メタリン酸マグネシウム等が、炭酸塩としては、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、炭酸ストロンチウム等が、硫酸塩としては、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0037】
リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩の配合量は0.1~10質量%、好ましくは1~5質量%である。リン酸塩の配合量が0.1質量%未満であると、上述した潤滑被膜の造膜性を助長する効果を十分に発揮することができず、配合量が10質量%を超えると相手材表面への潤滑被膜の造膜量が多くなり過ぎ、却って耐摩耗性を低下させることになる。
【0038】
本発明の摺動部材用樹脂組成物は、上述の組成物から本質的に成るものであるが、さらに本発明では、発明の効果を著しく損なわない範囲でこれらの成分の他に付加的成分を配合することが出来る。例えば、非繊維状無機フィラー、鉱油、エステル油、シリコーン油などの潤滑油、ワックス、カーボンブラックなどの顔料を配合することもできる。非繊維状無機フィラーとして、タルク、クレー、マイカ、カオリン、セリサイト、ベントナイト、アルミナシリケートなどの珪酸塩、酸化ケイ素(アルミナ)、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄などの金属酸化物を挙げることができる。これら非繊維状無機フィラーは、シラン系、チタネート系のカップリング剤で予備処理し、母材樹脂との密着性を高めてもよい。
【0039】
また、本発明の摺動部材用樹脂組成物は、当該組成物中の配合量が上記範囲となるように各成分を計り取り、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、ニーダーなどの通常の混練機に投入し、溶融混錬することによって製造することができる。
【0040】
通常は押出機などで上記必須成分及び、所望により追加成分、架橋触媒等を混練してペレット状にした後、加工に供するが、各成分を直接成形機に供給し、成形機で組成物に混練しながら成形する事もできる。また、予めB成分あるいはC成分を混練して高濃度のマスターバッチとし、それをA成分等の他の成分で希釈しながらブレンドコンパウンドしたり直接成形したりできる。
【実施例
【0041】
以下の諸例において、ポリフェニレンサルファイド樹脂、高分子量四フッ化エチレン樹脂、低分子量四フッ化エチレン樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂、変性ポリオレフィン樹脂、非晶質ポリマー、リン酸塩、硫酸塩、滑剤及び顔料は、以下に示す材料を使用した。なお、以下の材料は、全て商品名を示す。
〔A〕ポリフェニレンサルファイド樹脂
(A-1)帝人社製の「エコトランN-200」
〔B〕高分子量四フッ化エチレン樹脂
(B-1)ダイキン工業社製の「ポリフロンM-12」
(B-2)喜多村社製の「KT300M」
〔C〕低分子量四フッ化エチレン樹脂
(C-1)スリーエム社製の「ダイニオンTF9207Z」
(C-2)AGC社製の「フルオンL169J」
〔D〕超高分子量ポリエチレン樹脂
(D-1)三井化学社製の「変性リュブマーLY1040」
(D-2)三井化学社製の「ミペロンXM-220」
〔E〕変性ポリオレフィン樹脂
(E-1)エチレン系アイオノマー 三井・ダウポリケミカル社製の「ハイミラン1855」
(E-2)エポキシ基含有ポリオレフィン樹脂 住友化学社製の「ボンドファーストE」
〔F〕非晶性ポリマー
(F-1)ポリエーテルスルホン樹脂 住友化学社製の「スミカエクセル4800G」
(F-2)ポリフェニルスルホン樹脂 CERAMER社製の「CERAMER60」
〔G〕リン酸塩
(G-1)ピロリン酸カルシウム(米山化学社製)
(G-2)第三リン酸リチウム(太平化学産業社製)
〔H〕硫酸塩
(H-1)硫酸バリウム 堺化学工業社製の「BMH-60」
〔I〕滑剤
(I-1)ワックス クラリアントケミカルズ社製の「LicowaxPED191」
〔J〕顔料
(J-1)カーボンブラック キャボット社製の「BP4350」
【0042】
(実施例1~16及び比較例1~10)
各成分として上記材料を使用し、それぞれを表1、表2及び表3に示す成分組成で配合し、二軸押出機を用いて290℃で溶融混錬し、ペレット状の組成物を得た。次いで、このペレットを射出成形機を用いて成形温度300℃、金型温度140℃にてテストピース(縦30mm、横30mm、厚さ3mmの方形状のプレート)を作製した。
【0043】
上述のようにして得たテストピースに対し、以下に示す摺動試験を実施して、摩擦係数及び摩耗量を計測するとともに、曲げ強度及び成形性を評価した結果を表1~表3に示す。
【0044】
(評価)
<摺動試験1>
運動形態:スラスト一方向回転
面圧:100kgf/cm
速度:1m/min
時間:20時間
相手材:SUS304(Ra0.15(μm))
潤滑条件:無潤滑
<摺動試験2>
運動形態:スラスト一方向回転
面圧:10kgf/cm
速度:30m/min
時間:20時間
相手材:SUS304(Ra0.15(μm))
潤滑条件:無潤滑
<摺動試験3>
運動形態:スラスト一方向回転
面圧:100kgf/cm
速度:1m/min
時間:20時間
相手材:SUS304(Ra0.32(μm))
潤滑条件:無潤滑
<曲げ強度>
住友重機械工業製射出成形機SE-50DUZを用い、樹脂温度300℃、金型温度140℃にて、長さ80mm、幅10mm、厚み4mmの曲げ試験片を成形した。この試験片を用い、支点間距離100mm、クロスヘッド速度5mm/min、温度23℃、相対湿度50%条件下で、JIS-K7171に準拠し曲げ強度を測定した。
<成形性1>
射出成形機を使用してペレットから成形物(摺動部材)を成形し、当該成形物のバリの有無を目視し、評価した。
評価基準 ○:良、×:不可
<成形性2>
射出成形機を使用してペレットから成形物(摺動部材)を成形し、当該成形物の外観状態(ガスによる焼けや発泡、添加剤の凝集)を目視し、評価した。
評価基準 ○:良、×:不可
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
上記の試験結果から、いずれの成分も本発明の配合量範囲内にある実施例1から実施例15においては、高い摺動性能を発揮し、曲げ強度も高く、成形品におけるバリ発生や外観不良の問題がないことが分かる。
【0049】
四フッ化エチレン樹脂の配合量が本発明の範囲よりも少なく、かつ高分子量四フッ化エチレン樹脂の配合量が、本発明の好ましい範囲よりも少ない比較例1においては、高分子量四フッ化エチレン樹脂の繊維化による補強と増粘が不十分であるため、曲げ強度が低く、成形品にバリが発生するような成形不良が生じている。高分子量四フッ化エチレン樹脂の配合量を増やすと、高分子量四フッ化エチレンの繊維化により、曲げ強度が向上するが、比較例2においては、四フッ化エチレン樹脂全体の配合量が本発明の範囲よりも多くなるため、押出成形性が悪化し製造できない問題が生じる。
【0050】
四フッ化エチレン樹脂の配合量が本発明の範囲よりも少なく、かつ低分子量四フッ化エチレン樹脂の配合量が、本発明の好ましい範囲よりも少ない比較例3においては、潤滑性が十分に得られず、実施例に比べて摩擦係数が高く、摩耗量が多くなっている。四フッ化エチレン樹脂の配合量が本発明の範囲よりも多く、かつ低分子量四フッ化エチレン樹脂の配合量が、本発明の好ましい範囲よりも多い比較例2、4においては、マトリックスとなるポリフェニレンサルファイド樹脂の量が不足し、押出成形ができない問題が生じる。
【0051】
超高分子量ポリエチレン樹脂の配合量が本発明の範囲よりも少ない比較例5は、実施例と比較すると、摩擦係数が高く、摩耗量が多くなっており、特に表面が粗い相手材と摺動させた試験条件3において、耐摩耗性が著しく低下している。これは、超高分子量ポリエチレン樹脂は、摺動の初期なじみの際に、相手材に軟質の樹脂移着膜を速やかに形成し、相手材表面を平滑にすることができるためである。実施例1の試験条件3の試験後の相手材表面を観察すると、超高分子量ポリエチレン樹脂の軟質の樹脂移着膜が相手材表面の凹凸の凹部に充填され、相手表面が平滑化していることが確認される。超高分子量ポリエチレン樹脂の配合量が本発明の範囲よりも多い比較例6においては、超高分子量ポリエチレンが熱劣化し、その劣化ガスにより成形品に焼けが発生し、成形不良となる。また、ガス成分により金型が汚染される問題が生じる。
【0052】
変性ポリオレフィン樹脂が配合されていない比較例7においては、摺動性能、曲げ強度が低下しており、成形品にバリが発生する成形不良が生じている。変性ポリオレフィン樹脂は、ポリフェニレンサルファイド樹脂の成形温度で熱劣化が生じるため、過剰に配合すると、成形品に焼けが発生し外観を悪化させる。したがって、変性ポリオレフィン樹脂の配合量が本発明の範囲よりも多い比較例8においては、摺動性能が低下するとともに、外観不良を引き起こしている。
【0053】
非晶質ポリマーが配合されていない比較例9においては、耐摩耗性が低下しており、成形品にバリが発生している。非晶質ポリマーを添加すると耐摩耗性が改善されるが、非晶質ポリマーの配合量が本発明の範囲よりも多い比較例10においては、成形品の表面粗さが粗くなり、外観不良が発生している。
【0054】
変性ポリオレフィン樹脂が配合されていない比較例7と、非晶質ポリマーが配合されていない比較例9において、成形品にバリが発生しており、それぞれ単体で添加することでは、バリの発生が抑えられないことが分かる。そのため、バリ抑制の効果を得るためには、変性ポリオレフィン樹脂と非晶質ポリマーを併用することが有効である。
【0055】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として掲示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。