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特許7544550水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 24/26 20060101AFI20240827BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20240827BHJP
   C04B 24/24 20060101ALI20240827BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C04B24/26 F
C04B24/26 H
C04B28/02
C04B24/24 Z
C08L101/02
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020162928
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2022055477
(43)【公開日】2022-04-08
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】島田 恒平
(72)【発明者】
【氏名】佐川 桂一郎
(72)【発明者】
【氏名】川上 博行
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-072453(JP,A)
【文献】特開昭56-087589(JP,A)
【文献】特開2006-089482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00- 32/02
C04B 40/00- 40/06
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸エステル基を有する化合物及び水を含有する混合物を、前記混合物のpHを7.5以上として乾燥させて、前記リン酸エステル基を有する化合物を含有する粉末を製造することを含み、前記混合物の乾燥を100℃以上180℃以下の加熱乾燥により行う、水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法。
【請求項2】
前記混合物の乾燥を、薄膜乾燥法又は噴霧乾燥法により行う、請求項1に記載の水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法。
【請求項3】
リン酸エステル基を有する化合物が、リン酸エステル基を有する単量体を構成単量体として含む共重合体である、請求項1又は2に記載の水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法。
【請求項4】
前記共重合体において、構成単量体中のリン酸エステル基を有する単量体の割合が10モル%以上90モル%以下である、請求項に記載の水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法。
【請求項5】
前記共重合体の重量平均分子量が10,000以上70,000以下である、請求項3又は4に記載の水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~の何れか1項に記載の方法により製造された水硬性組成物用粉末分散剤組成物と、水硬性粉体とを混合する、プレミックス組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項に記載の方法により製造されたプレミックス組成物と、水とを混合する、水硬性組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱分解を起こしにくい水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、SDGs(Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標))実現のため、ESG(環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を取ったもの)の観点から、環境に配慮したインフラ整備が目指されている。その一例として、再生可能エネルギーの活用のための洋上風力発電機新設や、高度経済成長期に確立されたインフラの維持補修が活況を呈している。
【0003】
当該分野では、施工スペースが限られ、生コンクリートの搬入が困難であることから、水硬性粉体と粉末状の分散剤(以降、粉末分散剤とする)等有機化合物の粉体混合品である、プレミックスの使用が主流である。水硬性粉体にプレミックスされる粉末分散剤としては、ナフタレンスルホン酸系分散剤やポリカルボン酸系分散剤、メラミンスルホン酸系分散剤等があるが、特にポリカルボン酸系分散剤は高分散性を示し、水硬性組成物中の水の配合量を減らすことで、構造物の強度向上に寄与する。
【0004】
他方、一般的なポリカルボン酸系分散剤は、立体斥力効果を発現するアルキレンオキシ基(以下、AOとも表記する)グラフト鎖が、粘土等の多孔質性微粒子に吸着する性質を有するため、水硬性組成物の材料として含まれる粘土量によっては分散性能が変化し、材料汎用性に課題がある。この課題は、天然材料が枯渇し、材料品質が大きく変動する近年において顕在化しており、課題へのアプローチの一つとして、ポリカルボン酸系分散剤の代わりに、吸着基としてリン酸基を有する、リン酸系分散剤が開発されている。
【0005】
リン酸系分散剤は、リン酸基を水硬性粉体粒子表面への吸着基として有することで、リン酸基の高い乖離能により、より効果的に水硬性粉体表面に吸着する。このことにより、相対的に粘土等の多孔質性微粒子への吸着比率が低下し、水硬性粉体への安定した吸着・分散を実現する。
【0006】
分散剤の粉末化方法は、常温常圧で加熱による乾燥を行う加熱乾燥法と減圧下で乾燥を行う減圧乾燥法に大別される。減圧乾燥法は熱分解性を有する化合物の乾燥に適するが、加熱乾燥法に比べプロセス化が困難で、多くの初期投資を必要とする。
【0007】
特許文献1には、アルキルリン酸エステルを吸着基とする水硬性組成物用分散剤が開示されている。
特許文献2には、ビニル系リン酸エステル基を吸着基とする水硬性組成物用分散剤が開示されている。
特許文献3には、フェノール系リン酸エステル基を吸着基とする水硬性組成物用分散剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2005-35872号公報
【文献】特開2006-137627号公報
【文献】特表2008-517080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、リン酸系分散剤は、加熱乾燥法による粉末化を経ると、リン酸系分散剤のリン酸エステル基が熱分解することで収率が低下し、水硬性組成物の分散性能が大幅に低下するという課題があった。
本発明は、粉末状態のリン酸系分散剤を高い収率で製造できる、水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、リン酸エステル基を有する化合物(以下、化合物Iともいう)及び水を含有する混合物を、前記混合物のpHを7.5以上として乾燥させて、前記リン酸エステル基を有する化合物を含有する粉末を製造することを含む、水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法に関する。
【0011】
また本発明は、前記方法により製造された水硬性組成物用粉末分散剤組成物と、水硬性粉体とを混合する、プレミックス組成物の製造方法に関する。
【0012】
また本発明は、前記方法により製造されたプレミックス組成物と、水とを混合する、水硬性組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、粉末状態のリン酸系分散剤を高い収率で製造できる、水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明によれば、粉末状態のリン酸系分散剤の乾燥法における製造時の課題を解消する、水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法が提供される。すなわち、リン酸エステル基を有する化合物及び水を含有する混合物、例えば水溶液のpHを、所定の値に調整することで、リン酸エステル基の熱分解を抑制し、粉末分散剤の収率を高めることができる、水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法が提供される。
【0015】
[水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法]
本発明の水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法で前記化合物のリン酸エステル基の熱分解を抑制して粉末化が可能となり、収率が向上するメカニズムは必ずしも定かではないが、以下のように推察される。リン酸エステル基は脱離反応によって熱分解することが知られている。リン酸エステル基の熱分解機構そのものは不明な点も多いが、リン酸基またはエステル結合部のプロトン化がトリガーとなって起こることが考えられる。つまり、本発明では、前記化合物及び水を含有する混合物のpHを高めることで、混合物中のプロトン濃度が低下し、前記化合物のリン酸エステル基が脱プロトン化することで、熱分解抵抗性が向上し、粉末の収率が向上しているものと推察される。
【0016】
リン酸エステル基を有する化合物Iは、下記一般式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0017】
【化1】
【0018】
〔式中、Rは炭素数8以上22以下のアルキル基若しくはアルケニル基、又は2以上のベンゼン環を有する炭化水素基、AOは炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基、nはAOの平均付加モル数であり1以上50以下の数を示す。kは1又は2、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム基、アルキルアンモニウム基又は水酸基置換アルキルアンモニウム基を示す。〕
【0019】
一般式(I)において、kが1のときの2個のM、kが2のときの2個のR1とnは、ぞれぞれ異なっていてもよい。
【0020】
一般式(I)において、Rの炭素数は、8以上、好ましくは10以上、そして、22以下、好ましくは20以下、より好ましくは18以下、更に好ましくは16以下、より更に好ましくは14以下である。Rは、好ましくはアルキル基又はアルケニル基であり、より好ましくはアルキル基である。
一般式(I)において、AOは、好ましくはオキシエチレン基又はオキシプロピレン基であり、より好ましくはオキシエチレン基である。nはAOの平均付加モル数であり、1以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、そして、50以下、好ましくは45以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは35以下、より更に好ましくは30以下、より更に好ましくは25以下、より更に好ましくは20以下、より更に好ましくは15以下、より更に好ましくは10以下の数を示す。
一般式(I)において、kは1が好ましい。
一般式(I)において、Mは、好ましくはアルカリ金属、又は水酸基置換アルキルアンモニウム基であり、より好ましくはナトリウムイオン、又はカリウムイオンである。
【0021】
リン酸エステル基を有する化合物Iは、リン酸エステル基を有する単量体を構成単量体として含む共重合体が挙げられる。
前期共重合体の構成単量体中のリン酸エステル基を有する単量体の割合は、界面活性の観点から、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、更に好ましくは20モル%以上、より更に好ましくは30モル%以上、より更に好ましくは40モル%以上、そして、好ましくは70モル%以下、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下である。
前期共重合体の重量平均分子量は、界面活性の観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、更に好ましくは20,000以上、そして、好ましくは70,000以下、より好ましくは60,000以下、更に好ましくは50,000以下、より更に好ましくは40,000以下である。前期共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法で測定されたものである。
【0022】
リン酸エステル基を有する単量体を構成単量体として含む共重合体は、下記一般式(II-1)で表される単量体(II-1)と、下記一般式(II-2)で表される単量体(II-2)と、任意に下記一般式(II-3)で表される単量体(II-3)とを構成単量体として含む共重合体が好ましい。
【0023】
【化2】
【0024】
〔式中、R11、R12は、それぞれ水素原子又はメチル基、R13は水素原子又は-(CH(CO)O(AO)n114、AOは炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基又はオキシスチレン基、pは0又は1の数、qは0以上2以下の数、n1はAOの平均付加モル数であり、10以上150以下の数、R14は水素原子又は炭素数1以上18以下のアルキル基を表す。〕
【0025】
【化3】
【0026】
〔式中、R21は水素原子又はメチル基、R22は炭素数2以上12以下のアルキレン基、m1は1以上30以下の数、M、Mはそれぞれ水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属(1/2原子)を表す。〕
【0027】
【化4】
【0028】
〔式中、R31、R35は、それぞれ水素原子又はメチル基、R34、R36は、それぞれ炭素数2以上12以下のアルキレン基、m2、m3は、それぞれ1以上30以下の数、Mは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属(1/2原子)を表す。〕
【0029】
単量体(II-1)において、一般式(II-1)中のR11、R12は、それぞれ水素原子又はメチル基である。R13は、水素原子又は-(CHq(CO)pO(AO)n114であり、水素原子が好ましい。R14は水素原子又は炭素数1以上18以下のアルキル基であり、更に炭素数12以下、更に4以下のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基が好ましく、更にメチル基が好ましい。pが0の場合、AO(オキシアルキレン基)は、(CHqとエーテル結合、pが1の場合はエステル結合をする。qは0以上2以下であり、好ましくは0又は1であり、更に好ましくは0である。AOは炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基、又はオキシスチレン基であり、AOは炭素数2以上4以下のオキシアルキレン基が好ましく、エチレンオキシ基(以下、EO基)を含むことがより好ましい。
【0030】
n1はAOの平均付加モル数であり、水硬性組成物の分散性の観点から、好ましくは15以上、より好ましくは20以上、そして、好ましくは100以下、より好ましくは75以下、更に好ましくは50以下、より更に好ましくは40以下、より更に好ましくは30以下の数である。また、平均n1個の繰り返し単位中にAOが異なるもので、ランダム付加又はブロック付加又はこれらの混在を含むものであっても良い。AOは、EO基が70モル%以上、更に80モル%以上、更に90モル%以上、更に全AO基がEO基であることが好ましい。例えばAOは、EO以外にもプロピレンオキシ等を含むこともできる。
【0031】
単量体(II-1)としては、メトキシポリエチレングリコール、メトキシポリプロピレングリコール、メトキシポリブチレングリコール、メトキシポリスチレングリコール、エトキシポリエチレンポリプロピレングリコール等の片末端アルキル封鎖ポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸、マレイン酸との(ハーフ)エステル化物や、(メタ)アリルアルコールとのエーテル化物、及び(メタ)アクリル酸、マレイン酸、(メタ)アリルアルコールへの炭素数2以上4以下のアルキレンオキシド付加物が好ましく用いられる。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸の意味であり、(メタ)アリルは、アリル及び/又はメタリルの意味である(以下同様)。
【0032】
単量体(II-1)としては、好ましくはアルコキシ、より好ましくはメトキシポリエチレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物である。具体的には、ω-メトキシポリオキシアルキレンメタクリル酸エステル、ω-メトキシポリオキシアルキレンアクリル酸エステル等を挙げることができ、ω-メトキシポリオキシアルキレンメタクリル酸エステルがより好ましい。ω-メトキシポリオキシエチレンメタクリル酸エステルが更に好ましい。
【0033】
単量体(II-2)は、一般式(II-2)において、R21は水素原子又はメチル基であり、R22は炭素数2以上12以下のアルキレン基である。m1は1以上30以下の数であり、M、Mはそれぞれ水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属(1/2原子)である。一般式(II-2)中のR22のアルキレン基の炭素数は、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下がより更に好ましく、2がより更に好ましい。一般式(II-2)中のm1は20以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下が更に好ましく、3以下がより更に好ましく、1がより更に好ましい。
【0034】
単量体(II-2)としては、有機ヒドロキシ化合物のリン酸モノエステルが挙げられる。具体的には、ポリアルキレングリコールモノ(メタ)アクリレートアシッドリン酸エステル等が挙げられる。更に、リン酸モノ-〔(2-ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステル、及びリン酸モノ-〔(2-ヒドロキシエチル)アクリル酸エステル〕から選ばれる化合物が挙げられる。中でも、製造の容易さ及び製造物の品質安定性の観点から、リン酸モノ-〔(2-ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルが好ましい。また、これらの化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などであっても良い。
【0035】
単量体(II-3)は、一般式(II-3)において、R31、R35は、それぞれ水素原子又はメチル基であり、R34、R36は、それぞれ炭素数2以上12以下のアルキレン基である。m2、m3は、それぞれ1以上30以下の数であり、Mは水素原子、アルカリ金属又はアルカリ土類金属(1/2原子)である。一般式(II-3)中のR34、R36は、それぞれのアルキレン基の炭素数が、10以下が好ましく、8以下がより好ましく、6以下が更に好ましく、4以下がより更に好ましく、2がより更に好ましい。一般式(II-3)中のm2、m3は、それぞれ20以下が好ましく、10以下がより好ましく、5以下が更に好ましく、3以下がより更に好ましく、1がより更に好ましい。
【0036】
単量体(II-3)としては、有機ヒドロキシ化合物のリン酸ジエステルが挙げられる。具体的には、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレートアシッドリン酸ジエステル等が挙げられる。更に、リン酸ジ-〔(2-ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステル、及びリン酸ジ-〔(2-ヒドロキシエチル)アクリル酸〕エステルから選ばれる化合物が挙げられる。中でも、製造の容易さ及び製造物の品質安定性の観点から、リン酸ジ-〔(2-ヒドロキシエチル)メタクリル酸〕エステルが好ましい。また、これらの化合物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアンモニウム塩などであっても良い。
【0037】
単量体(II-1)と単量体(II-2)と任意に単量体(II-3)とを構成単量体として含む共重合体において、構成単量体中の単量体(II-1)の割合は、好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、更に好ましくは50モル%以上、そして、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは60モル%以下である。
【0038】
単量体(II-1)と単量体(II-2)と任意に単量体(II-3)とを構成単量体として含む共重合体において、構成単量体中の単量体(II-2)割合は、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは30モル%以上、そして、好ましくは70モル%以下、より好ましくは60モル%以下、更に好ましくは50モル%以下である。
【0039】
単量体(II-1)と単量体(II-2)と任意に単量体(II-3)とを構成単量体として含む共重合体において、構成単量体中の単量体(II-1)と単量体(II-2)の合計の割合は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、そして、好ましくは100モル%以下、より好ましくは98.5モル%以下、更に好ましくは98.3モル%以下である。
【0040】
単量体(II-1)と単量体(II-2)と任意に単量体(II-3)とを構成単量体として含む共重合体の重量平均分子量(Mw)は、分散性の観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、更に好ましくは20,000以上、そして、好ましくは70,000以下、より好ましくは60,000以下、更に好ましくは50,000以下、より更に好ましくは40,000以下である。
(単量体(II-1)と単量体(II-2)と任意に単量体(II-3)とを構成単量体として含む共重合体の重量平均分子量(Mw)は、下記条件のゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)法で測定されたものである。
【0041】
[GPC条件]
カラム:G4000PWXL+G2500PWXL(東ソー)
溶離液:0.2Mリン酸バッファー/CH3CN=9/1
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
検出:RI
サンプルサイズ:0.5mg/mL
検量線作成用標準物質:ポリエチレングリコール換算(重量平均分子量258,000、185,000、101,000、21,000、12,600、6,450、1,420)
【0042】
単量体(II-1)と単量体(II-2)と任意に単量体(II-3)とを構成単量体として含む共重合体は、例えば特開2015―113248号公報に記載の方法で製造することができる。
【0043】
リン酸エステル基を有する化合物Iは、リン酸基から選ばれる基を有するモノマー単位とアルキレンオキシ基を有するモノマー単位とを有する化合物とホルムアルデヒドとの縮合物が挙げられる。
【0044】
リン酸基から選ばれる基を有するモノマー単位としては、縮合重合可能な芳香族官能基を有するリン酸化合物に由来するモノマー単位が挙げられる。例えば、フェノキシエタノールホスフェート又はその塩が挙げられ、フェノキシエタノールホスフェートの塩は、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、又はアミン塩であってよい。
アルキレンオキシ基を有するモノマー単位としては、縮合重合可能な芳香族官能基とアルキレンオキシ基を有する化合物に由来するモノマー単位が挙げられる。例えば、ポリオキシエチレンモノフェニルエーテルが挙げられる。アルキレンオキシ基を有するモノマー単位において、アルキレンオキシ基は、好ましくはエチレンオキシ基又はプロピレンオキシ基、より好ましくはエチレンオキシ基であり、該モノマー単位あたりのアルキレンオキシ基の平均付加モル数が、好ましくは5以上、より好ましくは15以上、更に好ましくは30以上、そして、好ましくは120以下、より好ましく90以下、更に好ましくは60以下である。
【0045】
リン酸基から選ばれる基を有するモノマー単位とアルキレンオキシ基を有するモノマー単位とを有する化合物とホルムアルデヒドとの縮合物において、リン酸基から選ばれる基を有するモノマー単位の割合は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは50モル%以上、より更に好ましくは60モル%以上、そして、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、更に好ましくは70モル%以下である。但し、構成モノマー単位中から、ホルムアルデヒドは除かれる。
【0046】
リン酸基から選ばれる基を有するモノマー単位とアルキレンオキシ基を有するモノマー単位とを有する化合物とホルムアルデヒドとの縮合物において、構成モノマー単位中のリン酸基から選ばれる基を有するモノマー単位とアルキレンオキシ基を有するモノマー単位の合計の割合は、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上、そして、好ましくは100モル%以下、より好ましくは90モル%以下、更に好ましくは80モル%以下、より更に好ましくは70モル%以下である。但し、構成モノマー単位中から、ホルムアルデヒドは除かれる。
【0047】
リン酸基から選ばれる基を有するモノマー単位とアルキレンオキシ基を有するモノマー単位とを有する化合物とホルムアルデヒドとの縮合物の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、更に好ましくは20,000以上、そして、好ましくは60,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは40,000以下、より更に好ましくは30,000以下である。
該縮合物の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(標準物質:分子量既知の単分散ポリエチレングリコール)で測定されたものである。
【0048】
リン酸基から選ばれる基を有するモノマー単位とアルキレンオキシ基を有するモノマー単位とを有する化合物とホルムアルデヒドとの縮合物は、ポリオキシエチレンモノフェニルエーテルとフェノキシエタノールホスフェートとを構成モノマーとして含むホルムアルデヒド重縮合物が好ましい。
該縮合物は、ホルムアルデヒドを除く構成モノマー単位中、ポリオキシエチレンモノフェニルエーテルが、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは30モル%以上、そして、好ましくは90モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは50モル%以下、より更に好ましくは40モル%以下である。また、該該縮合物は、ホルムアルデヒドを除く構成モノマー単位中、フェノキシエタノールホスフェートが好ましくは10モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは50モル%以上、より更に好ましくは60モル%以上、そして、好ましくは90モル%以下、より好ましくは80モル%以下、更に好ましくは70モル%以下である。また、該該縮合物の重量平均分子量は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、更に好ましくは20,000以上、そして、好ましくは60,000以下、より好ましくは50,000以下、更に好ましくは40,000以下、より更に好ましくは30,000以下である。ここで、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(標準物質:分子量既知の単分散ポリエチレングリコール)により測定することができる。
【0049】
リン酸エステル基を有する化合物Iは、一般式(I)で表される化合物、リン酸エステル基を有する単量体を構成単量体として含む共重合体、及びリン酸基から選ばれる基を有するモノマー単位とアルキレンオキシ基を有するモノマー単位とを有する化合物とホルムアルデヒドとの縮合物から選ばれる1種以上が好ましく、リン酸エステル基を有する単量体を構成単量体として含む共重合体がより好ましく、一般式(II-1)で表される単量体(II-1)と、一般式(II-2)で表される単量体(II-2)と、任意に一般式(II-3)で表される単量体(II-3)とを構成単量体として含む共重合体が更に好ましい。
【0050】
本発明では、リン酸エステル基を有する化合物I及び水を含有する混合物(以下、乾燥用混合物ともいう)を所定条件で乾燥させてリン酸エステル基を有する化合物を含有する粉末を製造する。乾燥用混合物は、水溶液が好ましい。
【0051】
本発明の水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法では、乾燥用混合物のpHは、熱分解抑制の観点から、7.5以上、好ましくは8以上、より好ましくは8.5以上、更に好ましくは9以上、より更に好ましくは9.5以上、より更に好ましくは10以上、より更に好ましくは10.5以上、より更に好ましくは11以上、より更に好ましくは11.5以上、そして、14以下、好ましくは13.5以下、より好ましくは13以下である。
【0052】
本発明では、一液安定性及び安全性の観点と粉末化容易性の観点から、乾燥用混合物、例えばリン酸エステル基を有する化合物Iを含有する水溶液のpHを、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物により調整することが好ましい。該水酸化物は、好ましくは水酸化バリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウムから選ばれる1種以上であり、より好ましくは水酸化カリウム、及び水酸化ナトリウムから選ばれる1種以上である。
【0053】
また、乾燥に供する乾燥用混合物の粘度は、粉末の生産性、送液性の観点と粉末化容易性の観点から、好ましくは250mPa・s以上、より好ましくは300mPa・s以上、更に好ましくは350mPa・s以上、そして、好ましくは5,000mPa・s以下、より好ましくは3,000mPa・s以下、更に好ましくは1,000mPa・s以下である。
【0054】
乾燥用混合物中の前記化合物Iの含有量は、粉末化の観点から、固形分換算で、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
乾燥用混合物が化合物Iの水溶液である場合、当該水溶液中の前記化合物Iの含有量は、粉末化の観点から、固形分換算で、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0055】
乾燥用混合物は、更に、アンチケーキング剤、例えば、無機粉体及び/又は有機粉体を含有することができる。この場合、懸濁状態になっていてもよいが、本発明では便宜上そのような態様も水溶液と称してよい。
【0056】
乾燥用混合物の乾燥は、加熱乾燥、真空乾燥によって行うことができ、乾燥物の生産性の観点から、加熱乾燥によって行うことが好ましい。
【0057】
乾燥用混合物の乾燥は、薄膜乾燥法、噴霧乾燥法などの方法により行うことができる。本発明では、生産性の観点から、乾燥用混合物、更に化合物Iの水溶液の乾燥を、薄膜乾燥法又は噴霧乾燥法により行うことが好ましい。
【0058】
薄膜乾燥法としては、ドラムドライ法、ディスクドライ法が挙げられる。
ドラムドライ法は、具体的には、例えば以下のプロセスから成る。乾燥ドラムに化合物Iの水溶液などの乾燥用混合物を回転させながら均一塗布し、水分を蒸発させ薄膜シート成形体を得る。続いて、成形されたシートをスクレーパーで剥がし取り、そのシートを室温以下に冷却されたドラムに巻き取り、一定時間ドラム上で冷却することにより得られたシート成形体をより粉砕が容易なガラス質へと変化させる。得られたガラス質のシートをスクレーパーで冷却ドラムから剥がし、フェザーミル等の粉砕機へと導入・粉砕し、粉末品を得る。
また、ディスクドライ法は、具体的には、以下のプロセスから成る。ディスクに化合物Iの水溶液などの乾燥用混合物を回転させながら均一塗布し、水分を蒸発させ薄膜シート成形体を得る。続いて、成形されたシートをスクレーパーで剥がし取り、剥がし取った乾燥物を冷却することで、より粉砕が容易なガラス質へと変化させる。得られたガラス質の乾燥物をフェザーミル等の粉砕機へと導入・粉砕し、粉末品を得る。
【0059】
また、乾燥用混合物の乾燥は、噴霧乾燥法により行うことができる。具体的には、噴霧乾燥法は以下のプロセスから成る。化合物Iの水溶液などの乾燥用混合物を回転円盤ノズルや二流体ノズル、超音波ノズルといった噴霧器から乾燥室内に噴霧し、蒸発によって水分と分散剤有効分とを分離する。噴霧された化合物Iの水溶液などの乾燥用混合物は乾燥室下部にかけて水分の蒸発により化合物Iが粉末状の固体となり、送風によって回収部まで送られた後サイクロン等の粉体分離器で回収される。
【0060】
乾燥用混合物を乾燥する温度は、乾燥用混合物の乾燥性および化合物Iの粉末の熱安定性の観点と粉末化容易性の観点から、常圧下においては、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上、そして、好ましくは200℃以下、より好ましくは180℃以下である。一方、減圧下においては、乾燥温度は限定されず、例えば、下限の温度は前記よりも低くてもよい。この温度は、乾燥用混合物に適用する熱媒体の温度であってよい。
【0061】
乾燥用混合物、好ましくは化合物Iの水溶液の乾燥により、化合物Iを含有する粉末が得られる。得られた乾燥粉末中、化合物Iの有効固形分としての含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下である。
【0062】
化合物Iを含有する粉末について、「粉末」とは、粒状、フレーク状、ペレット状、顆粒状などを含む固体粒子の意味であってよい。粉末の形状は、定形、不定形、いずれでもよい。
【0063】
本発明により製造された化合物Iを含有する粉末は、粉末化容易性の観点から、平均粒径が、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上、そして、好ましくは90μm以下、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは70μm以下である。
【0064】
本発明により製造された水硬性組成物用粉末分散剤組成物は、粉末化容易性の観点から、化合物Iを、有効分換算で、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、そして、好ましくは100質量%以下、より好ましくは95質量%以下含有する。本発明により製造された水硬性組成物用粉末分散剤組成物は、化合物Iからなるものであってもよい。
【0065】
本発明により製造された水硬性組成物用粉末分散剤組成物は、化合物I以外の成分を含有することができる。例えば、粉末化助剤を含有することができる。粉末化助剤としては、無機粉体が挙げられる。無機粉体としては、ケイ素酸化物、ケイ素酸化物の塩、炭酸塩などが挙げられる。また、ポリエチレングリコールなどの有機粉体を用いることもできる。粉末化助剤を含有する場合、その含有量は、化合物Iに対して、粉末化容易性の観点から、有効分換算で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。本発明により製造された水硬性組成物用粉末分散剤組成物は、化合物I及び粉末化助剤からなるものであってもよい。
【0066】
本発明により製造された水硬性組成物用粉末分散剤組成物が含有できる他の成分として、例えば、粉末消泡剤、粉末収縮低減剤、粉末増粘剤などが挙げられる。粉末消泡剤及び粉末収縮低減剤の例としては、ポリオキシアルキレングリコールアルキルエーテルが挙げられる。粉末増粘剤の例としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体が挙げられる。粉末消泡剤、粉末収縮低減剤及び粉末増粘剤から選ばれる成分を含有する場合、その含有量は、化合物Iに対して、有効分換算で、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、そして、好ましくは40質量%以下、より好ましくは20質量%以下である。本発明により製造された水硬性組成物用粉末分散剤組成物は、化合物Iと、粉末消泡剤、粉末収縮低減剤及び粉末増粘剤から選ばれる成分とからなるものであってもよい。
【0067】
本発明では、前記の任意の成分は、乾燥用混合物に配合して粉末化して分散剤組成物中に配合してもよいし、化合物Iの粉末に添加して分散剤組成物に配合してもよい。
【0068】
本発明により製造された水硬性組成物用粉末分散剤組成物は粉末である。ここで、粉末は、粒状、フレーク状、ペレット状、顆粒状などを含む固体粒子の意味である。粉末の形状は、定形、不定形、いずれでもよい。
【0069】
本発明により製造された水硬性組成物用粉末分散剤組成物は、平均粒径が、好ましくは1μm以上、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは20μm以上、そして、好ましくは90μm以下、より好ましくは80μm以下、更に好ましくは70μm以下である。
【0070】
[プレミックス組成物の製造方法]
本発明は、前記方法により製造された水硬性組成物用粉末分散剤組成物と、水硬性粉体とを混合する、プレミックス組成物の製造方法に関する。
本発明の水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造方法により、分散剤組成物を粉末形態で得ることができるため、水硬性粉体とのプレミックス組成物の製造方法に好適に使用できる。
【0071】
本発明のプレミックス組成物の製造方法に使用される水硬性粉体とは、水和反応により硬化する物性を有する粉体のことであり、セメント、石膏等が挙げられる。好ましくは普通ポルトランドセメント、ビーライトセメント、中庸熱セメント、早強セメント、超早強セメント、耐硫酸塩セメント等のセメントである。また、セメント等に高炉スラグ、フライアッシュ、シリカフュームなどのポゾラン作用及び/又は潜在水硬性を有する粉体や、石粉(炭酸カルシウム粉末)等が添加された高炉スラグセメント、フライアッシュセメント、シリカフュームセメント等でもよい。
【0072】
本発明のプレミックス組成物の製造方法において、水硬性組成物用粉末分散剤組成物の混合量は、水硬性粉体100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、更に好ましくは0.01質量部以上、そして、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。
【0073】
[水硬性組成物の製造方法]
本発明は、前記方法により製造されたプレミックス組成物と、水とを混合する、水硬性組成物の製造方法に関する。
また本発明は、前記方法により製造された水硬性組成物用粉末分散剤組成物と、水硬性粉体と、水とを混合する、水硬性組成物の製造方法に関する。
本発明の水硬性組成物の製造方法に使用される水硬性粉体は、本発明のプレミックス組成物の製造方法に記載したものと同じである。
本発明の水硬性組成物の製造方法において、水硬性組成物用粉末分散剤組成物の混合量は、本発明のプレミックス組成物の製造方法に記載したものと同じである。
【0074】
本発明の水硬性組成物の製造方法において、水/水硬性粉体比〔スラリー中の水と水硬性粉体の質量百分率(質量%)、通常W/Pと略記されるが、粉体がセメントの場合、W/Cと略記される。〕が、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0075】
本発明の水硬性組成物の製造方法において、骨材を混合することができる。骨材としては、細骨材及び粗骨材から選ばれる骨材が挙げられる。細骨材として、JIS A0203-2014中の番号2311で規定されるものが挙げられる。細骨材としては、川砂、陸砂、山砂、海砂、石灰砂、珪砂及びこれらの砕砂、高炉スラグ細骨材、フェロニッケルスラグ細骨材、軽量細骨材(人工及び天然)及び再生細骨材等が挙げられる。また、粗骨材として、JIS A0203-2014中の番号2312で規定されるものが挙げられる。例えば粗骨材としては、川砂利、陸砂利、山砂利、海砂利、石灰砂利、これらの砕石、高炉スラグ粗骨材、フェロニッケルスラグ粗骨材、軽量粗骨材(人工及び天然)及び再生粗骨材等が挙げられる。細骨材、粗骨材は種類の違うものを混合して使用してもよく、単一の種類のものを使用してもよい。
【0076】
水硬性組成物がコンクリートの場合、粗骨材の使用量は、水硬性組成物の強度の発現とセメント等の水硬性粉体の使用量を低減し、型枠等への充填性を向上する観点から、嵩容積は、好ましくは50%以上、より好ましくは55%以上、更に好ましくは60%以上であり、そして、好ましくは100%以下、より好ましくは90%以下、更に好ましくは80%以下である。嵩容積は、コンクリート1m中の粗骨材の容積(空隙を含む)の割合である。
また、水硬性組成物がコンクリートの場合、細骨材の使用量は、型枠等への充填性を向上する観点から、好ましくは500kg/m以上、より好ましくは600kg/m以上、更に好ましくは700kg/m以上であり、そして、好ましくは1000kg/m以下、より好ましくは900kg/m以下である。
水硬性組成物がモルタルの場合、細骨材の使用量は、好ましくは800kg/m以上、より好ましくは900kg/m以上、更に好ましくは1000kg/m以上であり、そして、好ましくは2000kg/m以下、より好ましくは1800kg/m以下、更に好ましくは1700kg/m以下である。
【0077】
水硬性組成物としては、コンクリート等が挙げられる。なかでもセメントを用いたコンクリートが好ましい。本発明の水硬性組成物は、セルフレベリング用、耐火物用、プラスター用、軽量又は重量コンクリート用、AE用、補修用、プレパックド用、トレーミー用、地盤改良用、グラウト用、寒中用等の何れの分野においても有用である。
【0078】
本発明の水硬性組成物の製造方法は、更にその他の成分を混合することもできる。例えば、再乳化樹脂粉末、流動化剤、硬化促進剤、凝結遅延剤、AE剤、起泡剤、発泡剤、防水剤等が挙げられる。
【0079】
水硬性粉体と、水と、水硬性組成物用粉末分散剤組成物との混合は、ハンドミキサー、ディスクミキサー、モルタルミキサー、強制二軸ミキサー等のミキサーを用いて行うことができる。また、好ましくは1分間以上、より好ましくは2分間以上、そして、好ましくは5分間以下、より好ましくは3分間以下混合する。水硬性組成物の調製にあたっては、前記で説明した材料や薬剤及びそれらの量を用いることができる。
【実施例
【0080】
<実施例1及び比較例1>
(1)リン酸エステル化合物
下記リン酸エステル化合物を用いた。
化合物1:ポリオキシエチレン(5)ラウリルエーテルホスフェートカリウム塩(カッコ内は平均付加モル数)
化合物2:2-メタクリロイルオキシエチルリン酸/メトキシポリエチレングリコール(25)モノメタクリレート=50モル/50モル(カッコ内は平均付加モル数)ナトリウム塩、重量平均分子量=40,000
化合物3:2-メタクリロイルオキシエチルリン酸/メトキシポリエチレングリコール(10)モノメタクリレート=40モル/60モル(カッコ内は平均付加モル数)ナトリウム塩、重量平均分子量=20,000
化合物4:ポリオキシエチレン(50)モノフェニルエーテル(カッコ内は平均付加モル数)とフェノキシエタノールホスフェートとホルムアルデヒドとの縮合物、ホルムアルデヒドを除く構成モノマー中、ポリオキシエチレン(50)モノフェニルエーテルが33モル%、フェノキシエタノールホスフェートが67モル%、重量平均分子量=20,000、特表2008-517080に記載の方法によって合成
【0081】
(2)分散剤組成物の水溶液の調製
(1)記載の化合物1~4に水を加え固形分が35質量%の水溶液を調製した。この水溶液のpH(25℃)は6であった。続いて、48%水酸化ナトリウム水溶液(関東化学株式会社製)を加え、溶液pHを表1記載の値に調整した。前記水溶液及のpHは、25℃下において、電極式pHメーター(株式会社堀場製作所製)により測定した。この水溶液を下記(3)の方法で乾燥させて水硬性組成物用粉末分散剤組成物を製造した。またこの際、加熱乾燥を施さなかった水溶液をH-NMRによるリン酸エステル残存率算出時の対照とした。
【0082】
(3)水硬性組成物用粉末分散剤組成物の製造
(2)の通り調製した水溶液を各10g、アルミニウム製の皿の上に展開し、105℃で12時間水分を蒸発、乾燥させた。その後、必要に応じてシリカ(ニップシールNS-K、東ソー・シリカ株式会社製)を加え、コーヒーミル(GCM-56、株式会社デバイスタイルマーケティング製)によって30秒間粉砕することによって水硬性組成物用粉末分散剤組成物を製造した。
【0083】
(4)H-NMRの測定
重水(DO)を用い、(2)、(3)に記載の方法で調製した水硬性組成物用粉末分散剤組成物用水溶液及び水硬性組成物用粉末分散剤組成物の有効固形分が1%となるように、H-NMR測定サンプルを調製した。続いて、VNMRS-400(アジレント・テクノロジー株式会社製)を用い、25℃、緩和時間25秒、積算回数8回の条件で、プリサチュレーションにより水由来の信号を低減させることで、H-NMR測定を実施した。この際、リン酸エステル基残存率計算時の基準シグナルとして、化合物1~3についてはリン酸エステル基のα水素のシグナル強度を、化合物4についてはリン酸エステル基のβ水素のシグナル強度を参照した。
【0084】
(5)リン酸エステル残存率の算出
サンプル濃度による試験誤差を相殺するため、下記式に基づいて、リン酸エステル基の積分強度比を算出した。
リン酸エステル積分強度比=リン酸エステル基由来のシグナル積分値/ポリエチレングリコールのメチレン基由来のシグナルの積分値
続いて、下記式に基づいて、リン酸エステル残存率を算出した。結果を表1に示す。
リン酸エステル残存率(%)=乾燥後のリン酸エステル積分強度比/乾燥前同一サンプルのリン酸エステル積分強度比
【0085】
【表1】
【0086】
実施例は比較例に比べて、優れたリン酸エステル残存率を示した。これは、分散剤組成物用水溶液のpHを本発明に規定の所定の範囲にすることにより、二価塩が増加して、よりリン酸基の脱離反応が抑制されたためであると考察される。
【0087】
<実施例2及び比較例2>
(6)モルタル試験
(6-1)モルタルの調製
下記のモルタル配合でモルタルを調製した。モルタルは、JISR 5201に規定されるモルタルミキサーを使用して配合成分を混練(60rpm、120秒)して調製した。その際、表2記載の水硬性組成物用粉末分散剤組成物を、表2記載の添加量で、あらかじめセメント中にドライミックスすることにより添加した。他方、乾燥前の水溶液に関しては、水道水に混合することによって添加した。
<モルタルの配合>
・セメント:700g(太平洋セメント株式会社製普通ポルトランドセメント、比重3.16)
・細骨材:700g(砂、京都府城陽産、表乾比重2.50g/cm
・水道水:245g
・消泡剤:0.05g(消泡剤No.21、花王株式会社製)
・W/C(水とセメントの質量百分率):35質量%
【0088】
(6-2)モルタル流動性の評価
上記で調製した混練直後のモルタルを、JISR 5201に記載のフローコーン(上径70mm×下径100mm×高さ60mm)に充填し、モルタルフローを測定した。結果を表2に示した。
【0089】
【表2】
【0090】
*1 表2中、水硬性組成物用粉末分散剤組成物の添加量は、セメント100質量部に対する有機固形分換算質量部であり、下記式に基づいて算出した。
有機固形分換算質量部=添加した各化合物の質量部×(1-強熱減量%/100)
※強熱減量%は、各サンプルをプラチナ製パンに0.4mg程度秤量しTG-DTA(Thermo plus EVO2、株式会社リガク製)により、200mL/分のN雰囲気下で、下記温度条件による測定に供し、算出した。
[1]30℃ →1,000℃(10.0℃/分)
[2]1,000℃→ 30℃(-30.0℃/分)
【0091】
実施例は比較例に比べて優れた流動性(水硬性粉体の分散性)を示した。これは、実施例で用いた本発明品の水硬性組成物用粉末分散剤組成物が、優れたリン酸エステル基の残存率を示すことで、効果的にリン酸基によりセメント粒子表面に吸着し、水硬性粉体を分散させたためであると考察される。