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特許7544551III族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】III族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20240827BHJP
   C30B 19/10 20060101ALI20240827BHJP
   C30B 19/02 20060101ALI20240827BHJP
   H01L 21/208 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B19/10
C30B19/02
H01L21/208 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020164720
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056781
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風間 拓也
(72)【発明者】
【氏名】田村 渉
(72)【発明者】
【氏名】三宅 康之
(72)【発明者】
【氏名】村松 淳司
(72)【発明者】
【氏名】蟹江 澄志
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-132086(JP,A)
【文献】特開2012-087220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 19/10
C30B 19/02
H01L 21/208
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物からなるコアと、前記III族窒化物とは組成の異なるIII族窒化物からなり、前記コアを覆うシェルとを含むコアシェル型のナノ粒子を液相の合成反応により製造する方法であって、
コアのIII族窒化物及びシェルのIII族窒化物をそれぞれ構成するIII族元素を含む材料を同一の反応容器内に投入し、材料の投入から最終生成物であるコアシェル型ナノ粒子の生成までの温度プロファイルを制御し、コアとなるナノ粒子を生成させる第1ステップと、その後に、残留するIII族材料によってシェルを形成させる第2ステップとを含み、前記第1ステップは、前記シェルを構成するIII族元素の、投入量に対する結晶取り込み量の比が1未満となる条件で行うことを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
III族窒化物からなるコアと、前記III族窒化物とは組成の異なるIII族窒化物からなり、前記コアを覆うシェルとを含むコアシェル型のナノ粒子を液相の合成反応により製造する方法であって、
コアのIII族窒化物及びシェルのIII族窒化物をそれぞれ構成するIII族元素を含む材料を同一の反応容器内に投入し、材料の投入から最終生成物であるコアシェル型ナノ粒子の生成までの温度プロファイルを制御し、コアとなるナノ粒子を生成させる第1ステップと、その後に、残留するIII族材料によってシェルを形成させる第2ステップとを含み、
前記第1ステップの反応温度と前記第2ステップの反応温度を異ならせることを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項に記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法であって、
前記第2ステップの反応温度は、前記第1ステップの反応温度より低い温度であることを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
III族窒化物からなるコアと、前記III族窒化物とは組成の異なるIII族窒化物からなり、前記コアを覆うシェルとを含むコアシェル型のナノ粒子を液相の合成反応により製造する方法であって、
コアのIII族窒化物及びシェルのIII族窒化物をそれぞれ構成するIII族元素を含む材料を同一の反応容器内に投入し、材料の投入から最終生成物であるコアシェル型ナノ粒子の生成までの温度プロファイルを制御し、コアとなるナノ粒子を生成させる第1ステップと、その後に、残留するIII族材料によってシェルを形成させる第2ステップとを含み、
前記第1ステップと前記第2ステップとの間に、コア及びシェルと異なる組成の中間層を形成する第3ステップを含むことを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項に記載のIII族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法であって、
前記第3ステップの反応温度は、前記第1ステップの反応温度より低く、前記第2ステップの反応温度より高いことを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
III族窒化物からなるコアと、前記III族窒化物とは組成の異なるIII族窒化物からなり、前記コアを覆うシェルとを含むコアシェル型のナノ粒子を液相の合成反応により製造する方法であって、
コアのIII族窒化物及びシェルのIII族窒化物をそれぞれ構成するIII族元素を含む材料を同一の反応容器内に投入し、材料の投入から最終生成物であるコアシェル型ナノ粒子の生成までの温度プロファイルを制御し、コアとなるナノ粒子を生成させる第1ステップと、その後に、残留するIII族材料によってシェルを形成させる第2ステップとを含み、
III族窒化物半導体ナノ粒子は、前記コアが、一般式:InGa1-xN(但し、0<x≦1)で表され、前記シェルが、一般式:InGa1-xN(但し、0≦x<1)で表されるIII族窒化物半導体ナノ粒子であることを特徴とするIII族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアシェル型のIII族窒化物ナノ粒子の製造方法に係り、特にIII族元素としてインジウム(In)及びガリウム(Ga)を含むIII族窒化物ナノ粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
コアシェル型のナノ粒子は、コア粒子を構成する材料とシェルを構成する材料のエネルギーギャップ差(バンドオフセット)により高い量子閉じ込め効果を持ち、波長変換材料、太陽電池、光触媒などに利用されている。このような用途に向けて種々のコアシェル型ナノ粒子の材料が開発されており、その一つにIII族窒化物がある。III族窒化物を用いたコアシェル型ナノ粒子では、例えば、コア材料としてエネルギーギャップが比較的小さいInを含む窒化物を用い、シェル材料としてGaやAlを多く含むエネルギーギャップの大きい窒化物を用いることで、量子閉じ込め効果の高いType1型のナノ粒子が得られる。
【0003】
一般にコアシェル型のナノ粒子は、まず化学合成によってコア粒子を製造したのち、コア粒子を分散させた溶媒中に、シェル材料を加え、シェル材料の反応によりコア粒子の周囲にシェルとなる層を形成する。特許文献1には、コアがInGaN、シェルがGaNで構成されたコアシェル型ナノ粒子の製造方法が記載されており、ここでは、ヨウ化インジウムやヨウ化ガリウムなどのIII族材料と窒素材料(ナトリウムアミド)を溶媒中で加熱し化学合成によりInGaNを製造し、精製した後、Ga材料および窒素材料を加えてさらに反応させて、GaNのシェルを形成するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5847863号明細書(段落0115、実施例11)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されるように、従来のコアシェル型窒化物ナノ粒子の製造では、まずコア粒子を形成し分離精製した後、コア粒子の存在下でシェルを構成する材料を反応させてシェルを生成している。しかし、このような従来の製造方法では、コア粒子を洗浄・回収する過程で粒子表面の汚染や酸化が発生し、それをシェル合成に投入するため、コアシェル粒子の品質が低いという問題がある。
【0006】
またIII族窒化物の合成では、反応性の高いヨウ化ガリウムなどのハロゲン化物やナトリウムアミドなどのアルカリ金属を含んだ材料を用いるため、シェル合成過程で投入したコア粒子が溶解し、コアシェル粒子を効率よく製造できない、コアとシェルそれぞれの化学量論的割合が崩れる、などの問題がある。
【0007】
本発明は、コア粒子の回収時の汚染等の問題がなく、且つ効率よくコアシェル粒子を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、III族窒化物の合成、特にシェル合成におけるコア粒子の溶解について検討を重ねた結果、シェルを構成する粒子が成長する前、すなわち成長温度に到達する前に、III族材料と窒素材料が反応し前駆体を形成すること、この前駆体形成の反応は非常に活性であるため、反応場にコア粒子が存在するとその溶解が進行する、との知見を得た。つまり、コア粒子形成後に新たにIII族材料と窒素材料を投入した場合には、前駆体形成反応が不可避的に生じるため、コア粒子の溶解を防止することができないことがわかった。
【0009】
本発明では、反応開始時にコア材料とシェル材料とを同時に投入しておくことで、コア材料と窒素材料との前駆体形成と、シェル材料と窒素材料との前駆体形成とをほぼ同時進行させる。その後、コア粒子を成長させる温度でコア粒子を成長させた後、コア粒子に使用されなかったシェル材料と窒素材料との前駆体からシェルを成長させる。これにより、生成したコア粒子が反応場へ溶解するという問題を回避することができる。
【0010】
すなわち本発明のIII族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法は、III族窒化物からなるコアと、前記III族窒化物とは組成の異なるIII族窒化物からなり、前記コアを覆うシェルとを含むコアシェル型のナノ粒子を液相の合成反応により製造する方法であって、コアのIII族窒化物及びシェルのIII族窒化物をそれぞれ構成するIII族元素を含む材料を同一の反応容器内に投入し、コアとなるナノ粒子を生成させる第1ステップと、その後に、残留するIII族材料によってシェルを形成させる第2ステップとを含むことを特徴とする。
【0011】
この際、材料の投入から最終生成物であるコアシェル型ナノ粒子の生成までの温度プロファイルを制御する。反応温度を適切に制御することによって、例えば、インジウムを含むコア粒子の結晶を優先的に生成させて、その周りにインジウムを含まないシェルを構成する結晶を成長させることができる。
【0012】
本発明のIII族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法は、第1ステップと第2ステップとの間に、コア及びシェルと異なる組成の中間層を形成する第3ステップを含んでいてもよい。
【0013】
本発明のIII族窒化物半導体ナノ粒子は、上記製造方法によって製造されたものであり、コアは、一般式:InGa1-xN(但し、0<x≦1)で表され、シェルは、一般式:InGa1-xN(但し、0≦x<1)で表され、シェルのGa含有量がコアのGa含有量より多いことを特徴とする。
【0014】
また本発明のIII族窒化物半導体ナノ粒子は、コア及びシェルと異なる組成の中間層を形成する第3ステップを含む製造方法により製造されたものであり、コアは、一般式:InGa1-xN(但し、0<x≦1)で表され、中間層及びシェルは、一般式:InGa1-xN(但し、0≦x<1)で表され、シェルのGa含有量がコアのGa含有量より多く、中間層はGa含有量がコアからシェルに向かって勾配を持つことを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、シェル形成前のコア粒子の汚染や劣化、及びシェル形成時のコア粒子の溶解などの問題がなく、歩留まりよく高品質のコアシェル型のIII族窒化物半導体ナノ粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】コアシェル型のIII族窒化物半導体ナノ粒子の構造と、エネルギーギャップを示す図。
図2】コア及びシェルのサイズと、それらに必要なIII族元素の割合との関係を示すグラフ。
図3】本発明のコアシェル粒子の製造工程における反応生成物(中間体を含む)の変化を示す図。
図4】実施例1の温度プロファイルを示す図。
図5】実施例1のコアシェル粒子のXRD測定結果を示す図。
図6】実施例1~実施例4の、コア粒子成長過程の温度とコア粒子におけるGa比率との関係を示すグラフ。
図7】実施例5の温度プロファイル、及び、コアシェル粒子の構造とエネルギーギャップを示す図。
図8】実施例5のコアシェル粒子のXRD測定結果を示す図。
図9】実施例6の温度プロファイル、及び、コアシェル粒子の構造とエネルギーギャップを示す図。
図10】比較例の温度プロファイルを示す図。
図11】比較例のXRD測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のIII族窒化物半導体ナノ粒子の製造方法の具体的な内容を説明する。
まず本発明の製造方法で製造されるコアシェル型のIII族窒化物半導体ナノ粒子について説明する。
【0018】
コアシェル型のナノ粒子は、図1に示すように、コア粒子の周囲にシェルを構成する窒化物の層が形成された構造を持ち、コア粒子とシェルのエネルギーギャップは、シェルが高く、コア粒子が低いType1構造を持つ。III族元素の場合、エネルギーギャップはAlNが最も高く、InNが最も低い。本発明のIII族窒化物半導体ナノ粒子では、コア粒子がInを含む窒化物であり、シェルが、Inを含まずAl或いはGaを含む窒化物である。コア粒子は、Inのほかに、シェルを構成するIII族元素と同じ元素(Al或いはGa)を含んでいてもよい。
【0019】
具体的には、コア粒子がInGaN、シェルがGaNであるコアシェル粒子、コア粒子がInAlN、シェルがAlNであるコアシェル粒子、コア粒子がInAlGaN(但し、x>0、0≦(y、z)<1、x+y+z=1)、シェルがAlGaNであるコアシェル粒子が挙げられる。製造条件の調整しやすさや得られるナノ粒子の特性などの観点から、特にInGaN/GaNのコアシェル粒子が好適である。
【0020】
コア粒子におけるInの割合は、限定されるものではないが、コア粒子を構成するIII族元素の10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましい。
【0021】
シェルは、Inの割合が少ないほど好ましく、含まないことがより好ましい。最外層にInが含まれると、酸化されやすく、内部まで酸化が進行し発光効率の低下を招くが、シェルを、Inをほとんど含まない組成とすることで、このような表面の酸化や発光効率の低下を防止することができる。後述する本発明のコアシェルの製造方法によれば、一連の合成反応の早い段階でInを含むコア粒子を生成させて反応系のIn材料を消費し、その後にシェルの結晶を成長させるので、最外層にInを含まない層とすることができる。
【0022】
また本発明のコアシェル型は、上述したコア粒子とシェルとの間にコア粒子の組成とシェルの組成との中間的な組成を持つ層(中間層という)を備えていてもよい。中間層は、組成に勾配を持つ組成勾配層であることが好ましい。例えば、InGaN/GaNコアシェル粒子の場合、中間層はInGaNにおけるInの割合がコア粒子からシェルに近づくにつれて減少する勾配を持つ。
【0023】
コア粒子とシェルとの間に中間層を持つことで、コア粒子とシェルとの格子定数の差に起因して粒子に欠陥が生じるのを防止することができる。
【0024】
本発明のコアシェル型のナノ粒子は、量子効率(量子効率測定器(大塚電子QE-2100)を用い、粒子分散液に励起光(365nm)を入射し、測定した値)が30%以上である。本発明のコアシェル型のナノ粒子は、蛍光体、LED等の波長変換素子、蛍光インクなどの波長変換材料として、光源やディスプレイの材料として、太陽電池材料として、また、水分解による水素、酸素生成などの光触媒として、利用することができ、本発明のコアシェル型のナノ粒子を適用した製品性能の向上に寄与することができる。
【0025】
次に本発明のコアシェル型のIII族窒化物ナノ粒子の製造方法を説明する。
本発明のIII族窒化物ナノ粒子は、III族元素材料と窒素材料とを溶媒中で化学合成することにより製造される。この際、コア粒子の材料であるIII族元素材料と、シェルの材料であるIII族元素材料とを一度に投入し、コア粒子生成(第1ステップ)とそれに続くシェル形成(第2ステップ)とを連続して行うことが特徴である。
【0026】
III族元素材料としては、ヨウ化物や臭化物などのハロゲン化物を用いることができる。またトリメチル化物やトリエチル化物などの有機系材料を用いることも可能である。窒素材料としては、アンモニア、金属アジド化合物、金属窒化物、アミン類、金属アミドなどを用いることができる。特に、ナトリウムアミド、リチウムアミド等の金属アミドが好ましい。窒素材料は、III族元素材料に対し、化学量論的割合よりも多く反応系に投入することが好ましい。
【0027】
反応溶媒としては、窒化物の合成に用いられる一般的な溶媒を用いることができる。具体的には、テトラデシルベンゼン、1-オクタデセン、トリオクチルホスフィン、ジフェニルエーテル、ベンゼンなどが挙げられ、特にテトラデシルベンゼンが好ましい。
【0028】
III族元素材料の割合は、コア粒子に含まれるインジウムの量に対し、シェルに含まれるIII族元素(Ga、Al)の量を多くする。これにより最初にコア粒子が生成される際に、インジウムとそれ以外のIII族元素の一部が消費されてインジウムを含むコア粒子が生成する。その後、コア粒子生成時に消費されずに残ったIII族元素がシェル材料として利用され、インジウムを含有しないシェルの層が生成される。例えば、コアがInGaNの場合、Ga仕込み量が少なすぎると、例えば50at%より少なくなると、投入したGaのほとんどがInとともにコア粒子の生成に使われ、シェルの形成が難しくなる。従って、InとGaとのモル比は1:0.5以上であることが好ましく、1:1以上であることがより好ましい。
【0029】
またインジウム以外のIII族元素の量を比較的多くすることにより、例えば、インジウムに対しモル比で2倍以上、好ましくは3倍以上とすることにより、インジウムとIII族元素とを含む窒化物からなるコア粒子と、インジウム以外のIII族元素の窒化物のシェルとの間に、組成に傾斜を持つ中間層を形成することができる。但し中間層の形成については、III族元素の割合のみならず後述する反応条件の制御も利用する。
【0030】
さらに、III族元素材料の割合を、後述する反応温度等の反応条件との関係で適切に調整することで所望の組成とサイズのコア粒子及びシェルを生成することができる。コア粒子とシェルのサイズについては、コア及びシェルが球状であるとすると、粒子のサイズ(直径)毎にシェルの厚みとその厚みを形成するのに必要となるシェル用材料のコア用材料に対する比率が決まる。この関係を図2に示す。例えば、粒子サイズ3nmのコア粒子に厚み1.0nmのシェルを形成しようとした場合、コアに対して必要となるシェル材料は約5倍となる。このような比率で材料を仕込み、合成反応を開始する。その際、第1ステップでは、コア粒子は形成されるがシェルの材料は未反応のまま残る条件(主として反応温度と時間)を設定し、第2ステップではシェルが合成される条件(主として反応温度と時間)を設定する。組成と反応条件との関係については後述する。
【0031】
材料の濃度は、特に限定されないが、III族元素は0.1~0.5mmol程度、窒素材料は0.3~10.0mmol程度とする。
【0032】
反応温度は、200℃以上が好ましく、250℃以上がより好ましい。このような高温で反応させることにより、粒子サイズの小さい粒子、すなわち窒化物ナノ粒子を得ることができる。またコア粒子生成時の温度とシェル形成時の温度とを異ならせることが好ましく、特にコア粒子がインジウム含有コア粒子の場合、コア粒子生成時の温度がシェル形成時の温度より高いことが好ましい。III族元素の組成にもよるが、具体的には、コア粒子生成時の温度は200℃~400℃が好ましく、250℃~350℃がより好ましい。またシェル形成時の温度は、200℃~300℃が好ましい。コア粒子生成時の温度に対し、シェル形成時の温度を比較的低い温度とすることで、堅牢なシェル構造を形成することができる。
【0033】
本発明のコアシェル粒子の製造工程における前駆体生成とコア粒子及びシェル成長の様子を図3に模式的に示す。ここではコア粒子がInGaN、シェルがGaNである場合を例示している。III族元素材料をすべて投入して反応を開始すると、反応容器内の温度が上昇する過程で、各III族元素と窒素材料とが結びついた前駆体が形成される。反応温度が所定の温度に達すると、前駆体どうしが反応しInGaN粒子の成長が始まる。ここでガリウムの反応速度はインジウムに比べ遅く、そのため、投入されたGa材料のすべてがInGaN粒子の結晶化に使われることはなく、In前駆体が消費された時点でGa前駆体が残留する。
【0034】
Gaがコア粒子に取り込まれる割合は、反応温度によって異なり、反応温度が高いほど取り込み量が多くなる。例えば、Ga材料の仕込み量をInとGaとのモル比(In:Ga)で、1:2とした場合、コア粒子の組成比(In:Ga)は1:1程度であり、Gaは仕込み量の半分程度がコア粒子に使用され、半分程度は使われない。材料投入時のGa仕込み量が異なっても、反応温度が高いほどコア粒子におけるGaの比率が高くなる傾向は同様である。
【0035】
組成比(In:Ga)が1:1のInGaNコア粒子を製造しようとする場合には、最初の材料の仕込み量をモル比1:2とし、反応温度を300℃程度とすることで、目的の組成のコア粒子が得られ、その後Inを含まないシェルを形成することができる。或いはGaの仕込み量を増やして、反応温度を下げることで、同様の組成を達成することができる。異なる組成の場合にも、Gaの仕込み量や反応温度を適切に調整することで、所望の組成のコア粒子を得ることができる。
【0036】
コア粒子の生成後は、図3に示したように、残留するGa前駆体の反応が進み、コア粒子の周囲にシェルの結晶が成長する。この反応はGa前駆体濃度が実質的にゼロになることで終了する。シェル成長時の温度を比較的低く保つことで、Ga前駆体とコア粒子との反応によって生成したコア粒子が溶解するのを防止し、安定したシェル形成を行うことができる。
【0037】
図3は、コア粒子生成(第1ステップ)後に、それより低い温度でシェル形成(第2ステップ)を行う例であるが、第1ステップと第2ステップとの間に、中間層を形成するステップ(第3ステップ)を入れてもよい。その場合には、第3ステップの反応温度は、第1ステップの反応温度より低く、第2ステップの反応温度より高い温度とする。これにより、コア粒子の組成とシェルの組成との中間的な組成を持つ中間層が形成される。
【0038】
コア粒子生成時の温度とシェル生成時の温度を変化させる手法としては、例えば、反応容器を温度の異なる空間(加熱炉)に移し替える、反応容器内或いはそれを収納していた加熱炉内に急冷する手段を設けるなどの手法を取りえる。また加熱炉の温度を下げるだけでもよく、この場合にはコアとシェルの中間の組成を持つ中間層(組成勾配層)の形成が促される。
【0039】
反応は窒素等の不活性雰囲気で行う。反応時間は、反応の規模や目的とするコアシェルの組成比、材料の濃度等によっても異なるが、例えば、コア粒子の生成を30分~60分程度、シェル生成を60分程度とする。コア粒子の生成の反応時間を制御することで、コア粒子のサイズや組成並びにシェルの組成を制御することができる。
【0040】
反応終了後、生成したコアシェル粒子を回収する。回収方法は従来の窒化物ナノ粒子の回収方法と同様である。具体的には、反応液から上澄み液を除去した後、エタノール/ヘキサン等の混合溶媒で、不純物の洗浄と遠心分離とを繰り返し、最終的にヘキサン分散液としてコアシェル粒子を回収する。
【0041】
以上説明したように本発明のコアシェル粒子の製造方法は、コアとシェルの材料を一度に反応系に投入し、その際の温度プロファイルを適切に制御することによって、従来は困難であったコア粒子にインジウムを含むコアシェル型粒子を安定して製造することができる。また従来のコアシェル粒子製造方法のような二段階工程を行う必要がないので、コア粒子の溶解や二段階への移行時の不純物付着や表面酸化と、それによる品質低下のおそれがなく、高品質のコアシェル粒子を製造することができる。また二段階の製造工程を不要とするため、生産性も向上する。
【実施例
【0042】
以下、本発明のコアシェル型のIII族窒化物ナノ粒子の製造例を説明する。
【0043】
<実施例1>
III族元素材料として、ヨウ化インジウム(InI)及びヨウ化ガリウム(GaI)、窒素材料としてナトリウムアミドを用意した。材料の秤量は、酸素及び水分量をそれぞれ1ppm以下に管理した窒素雰囲気のグローブボックス中で行った。
【0044】
Pt製容器(内筒)に溶媒としてトリオクチルフォスフィン(TOP)を5ml入れ、InIを0.17mmol(III族元素の33at%)、GaIを0.33mmol(III族元素の67at%)、ナトリウムアミドを10mmol、投入した後、内筒をSUS製の高圧反応容器(内容量25ml)に入れ、密封した。
【0045】
材料充填後の反応容器を予め300℃に加熱した電気炉に投入し、300℃で60分保持した(第1段階の反応)。第1段階の反応後、反応液の一部を試料として取り出し、エタノールとヘキサンの混合溶媒で洗浄、遠心分離を繰り返し、コアシェル粒子を回収した。試料取り出し後の反応容器は、280℃に加熱した別の電気炉に移し変えて、反応温度を一気に下げて、280℃で60分保持し、反応を完了させた。
【0046】
反応後、内筒を反応容器から取り出し、エタノールとヘキサンの混合溶媒で洗浄、遠心分離を繰り返し、最終的にヘキサン分散液として生成したコアシェル粒子を回収した。本実施例の反応温度の推移(温度プロファイル)を図4に示す。
【0047】
第1段階の反応後に回収した粒子と、最終的な反応後に回収した粒子のそれぞれについて、TEM測定、XRD測定、XRF測定を行い、粒子のサイズ及び組成を確認した。またそれぞれの粒子の量子効率を測定した。量子効率の測定は、量子効率測定器(大塚電子QE-2100)を用い、粒子分散液に励起光(365nm)を入射し、測定した。
【0048】
その結果、図5および表1に示すように、第1段階ではInとGaとのモル比が1:1であるInGaNナノ粒子が生成していること、第2段階ではコアシェル粒子が生成していることが確認された。
【表1】
表1はGa組成(InとGaの和に対するGaのat%)を示す。
【0049】
量子効率は、コア粒子(第1段階の粒子)のみでは14%であったのに対し、最終生成物であるコアシェル粒子は30%であり、シェル生成による量子効率の向上が確認された。
【0050】
<実施例2>
第1段階の反応を行う温度を、200℃、250℃、350℃に変えて、それ以外は実施例1と同様にコアシェル型ナノ粒子の合成反応を行い、第1段階で得られたナノ粒子の組成を分析した。結果を、実施例1の結果と合わせて、図6(黒丸)に示す。
【0051】
<実施例3>
Gaの仕込み量を33at%に変え、第1段階の温度を200℃、250℃、300℃及び350℃の4点とし、それ以外は実施例1と同様に合成反応を行った。反応温度の異なる4点の試料(第1段階のナノ粒子)の組成を分析した。結果を図6(黒菱形)に示す。
【0052】
<実施例4>
Gaの仕込み量を90at%に変え、第1段階の温度を300℃及び350℃の2点とし、それ以外は実施例1と同様に合成反応を行った。反応温度の異なる2点の試料(第1段階のナノ粒子)の組成を分析した。結果を図6(黒三角形)に示す。
【0053】
図6の結果からわかるように、コア粒子におけるGa比率は、Gaの仕込み量が多いほど増加するが、仕込んだGaがすべてコア粒子に取り込まれるのではなく、残留し、この残留するGaが次の反応でシェル生成に使われることがわかる。例えば、実施例1ではGa仕込み量はIn仕込み量の約2倍の66at%であるが、反応温度300℃では約半分がコア粒子に使われ、GaとInとのモル比1:1のコア粒子が生成され、残りがシェル生成に使われている。一方、反応温度が高くなるほど、コア粒子に取り込まれるGa量が増加し、Ga比率の高いコア粒子となり、反応温度が低いとIn比率の高いコア粒子となる。これらのことから、Gaの仕込み量と反応温度を適切に制御することにより、コア粒子の組成を調整できることがわかる。
【0054】
<実施例5>
III族元素材料および窒素材料として実施例1と同様の材料を用意し、窒素雰囲気のグローブボックス内で秤量した。Pt内筒に溶媒としてTOPを5ml(仕込み量10at%)、InIを0.05mmol、GaIを0.45mmol(仕込み量90at%)、NaNHを10mmol投入した後、Pt内筒をSUS製高圧反応容器(内容量:25ml)に入れ密封した。
【0055】
材料充填後の反応容器を、予め300℃に加熱した電気炉に入れ、300℃で60分保持し、反応を行った(第1段階)。その後、電気炉の温度を、30分かけて280℃まで下げ(第2段階:第3ステップ)、280℃で60分保持し(第3段階)反応を終了した。その後、実施例1と同様に、生成した粒子の洗浄と遠心分離を繰り返し、コアシェル粒子を回収した。
【0056】
第1段階の反応終了時点で、反応液から一部サンプルを取り出し、この段階で生成して粒子を洗浄し回収した。第1段階の粒子及び最終生成物である粒子について、それぞれTEM、XRD、XRF測定を行い、粒子サイズ及び組成を測定した。また最終生成物である粒子の量子効率を測定した。
【0057】
本実施例の製造方法における温度プロファイルと、生成したコアシェル粒子の構造を図7に示す。図示するように、本実施例によれば、Inを含むコア粒子(InGaN)と、Inを含まないシェル(GaN)との間に、組成がIn50at%~0at%に変化する中間層が形成される。中間層はコアとシェルとの結晶格子定数の差に起因する境界の破壊を防止することができ、安定した構造のコアシェルとなる。
【0058】
最終生成粒子はコア粒子の周囲にシェルが形成されたコアシェル型の粒子であることが確認できた。また組成分析の結果、図8および表2に示すように、第1段階では、Ga組成67%のInGaNコア粒子が生成していることが確認された。また最終生成物は、最外層の組成がGaNであることが確認された。Gaの仕込み量が多い場合には、第1段階の反応の速度が遅くなる傾向にあるため、第1段階では、InGaN粒子の生成が遅く、Gaのみならず一部のIn材料も前駆体の形で、反応系に残留しているが、残留するInは温度を下げていく段階(第2段階)で徐々に結晶に取り込まれ、第3段階ではGaのみが残り、GaN組成のシェルが形成されるものと考えられる。
【表2】
表2はGa組成(InとGaの和に対するGaのat%)を示す。
【0059】
本実施形態のコアシェル粒子の量子効率は35%であり、実施例1のコアシェル型粒子よりもさらに高く、中間層による量子効率向上効果が確認された。
【0060】
<実施例6>
実施例5では、第1段階の反応後、電気炉の温度を280℃まで下げた後、さらに280℃で60分保持し第3段階の反応を行ったが、本実施例では、第3段階の反応は行わず、第1段階後に電気炉の温度を30分かけて280℃まで温度を下げた時点で、反応を終了し、それ以外は実施例5と同様にして、図9に示すような構造のコアシェル粒子を得た。
本実施形態のコアシェル粒子の量子効率は15%であった。
【0061】
<比較例>
実施例1と同様の材料を用い、材料を反応容器に投入し、図10に示すような温度プロファイルで反応を行った。すなわち、反応容器を300℃に加熱した電気炉に投入し、300℃で180分保持し、反応を終了した。反応終了後、反応液からサンプルを取り出し、実施例1と同様に洗浄、回収を行い、XRDで測定したところ、図11に示すようにGa組成65%のInGaN粒子とともにIn粒子(金属インジウム)が生成していることが確認された。コア粒子が生成する条件(反応温度300℃)を継続していると、実施例1よりもGa量の多いInGaNがコア粒子として生成するものの、反応系の還元雰囲気が強いため、一度生成したコア粒子(InGaN)が溶解し、In粒子として再析出したものと考えられる。
なお上記洗浄回収では、InGaN粒子とIn粒子とを分離できないため、InGaN粒子の発光効率の測定は行っていない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11