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特許7544552視覚挙動の判定方法、累進屈折力レンズの設計方法および製造方法、および累進屈折力レンズの設計システム
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  • 特許-視覚挙動の判定方法、累進屈折力レンズの設計方法および製造方法、および累進屈折力レンズの設計システム 図1
  • 特許-視覚挙動の判定方法、累進屈折力レンズの設計方法および製造方法、および累進屈折力レンズの設計システム 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-26
(45)【発行日】2024-09-03
(54)【発明の名称】視覚挙動の判定方法、累進屈折力レンズの設計方法および製造方法、および累進屈折力レンズの設計システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/113 20060101AFI20240827BHJP
   G02C 7/06 20060101ALI20240827BHJP
   G02C 7/02 20060101ALI20240827BHJP
【FI】
A61B3/113
G02C7/06
G02C7/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020164772
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022056820
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【弁理士】
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】曽根原 寿明
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 歩
【審査官】安田 明央
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-536043(JP,A)
【文献】特表2003-523244(JP,A)
【文献】国際公開第2014/097853(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2007/0229761(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0107707(US,A1)
【文献】特開2007-232753(JP,A)
【文献】遠近両用レンズ特徴,[online],EYE CARE WORLD,2019年04月09日,<URL:https://www.eyecareworld.co.jp/20190409185908>,2024年4月5日検索
【文献】[中近・近々両用レンズとは?],[online],2019年05月13日,<URL:https://hayashimegane.jugem.jp/?eid=37>,2024年4月5日検索
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00-3/18
G02C 7/06
G02C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
眼鏡レンズを設計するための、被験者の視覚挙動の判定方法であって、
(a)前記被験者の矢状面内において、前方奥行方向の、それぞれ異なる所定距離に設置された複数の注視点を前記被験者が注視する際に、前記被験者が生じる頭部回旋量を前記複数の注視点ごとに把握する工程と、
(b)前記頭部回旋量に基づき、前記被験者が前記複数の注視点を注視する際に、前記被験者が生じる眼球回旋量を求める工程と、
(c)前記頭部回旋量および前記眼球回旋量、または前記眼球回旋量を用いて、前記被験者の視覚挙動を判定する工程と、
を有し、
前記(c)では、前記頭部回旋量の絶対値が前記眼球回旋量の絶対値を超えないこと、または、前記眼球回旋量が所定の範囲内であることを判定条件とする、視覚挙動の判定方法。
【請求項2】
前記複数の注視点は、実空間内にそれぞれ設置される、請求項1に記載の視覚挙動の判定方法
【請求項3】
前記複数の注視点は、前記被験者の前方奥行方向0.25m以上5m以下の範囲内にそれぞれ設置される、請求項1または請求項2に記載の視覚挙動の判定方法
【請求項4】
前記(a)では、前記被験者の頭部の位置変化を検知する検知部を用いて前記頭部回旋量を把握する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の視覚挙動の判定方法
【請求項5】
前記(a)では、前記被験者は視力補正用眼鏡レンズを装用した状態で前記複数の注視点を注視する、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の視覚挙動の判定方法
【請求項6】
前記視力補正用眼鏡レンズは、累進屈折力レンズである、請求項5に記載の視覚挙動の判定方法
【請求項7】
前記複数の注視点は、前記累進屈折力レンズの光線追跡結果から得られる物体距離と視線方向との関係を満たす位置にそれぞれ設置される、請求項6に記載の視覚挙動の判定方法
【請求項8】
前記(a)では、前記注視点の数を3以上とする、請求項1に記載の視覚挙動の判定方法。
【請求項9】
(a)被験者の矢状面内において、前方奥行方向の、それぞれ異なる所定距離に設置された複数の注視点を前記被験者が注視する際に、前記被験者が生じる頭部回旋量を前記複数の注視点ごとに把握する工程と、
(b)前記頭部回旋量に基づき、前記被験者が前記複数の注視点を注視する際に、前記被験者が生じる眼球回旋量を求める工程と、
(c)前記頭部回旋量および前記眼球回旋量、または前記眼球回旋量を用いて、前記被験者の視覚挙動を判定する工程と、
(d)前記(c)の判定結果に基づき、累進屈折力レンズの補正方法を決定する工程と、
(e)前記(d)で決定した前記補正方法に基づいて、前記累進屈折力レンズの設計を補正する工程と、
を有し、
前記(c)では、前記頭部回旋量の絶対値が前記眼球回旋量の絶対値を超えないこと、または、前記眼球回旋量が所定の範囲内であることを判定条件とする、累進屈折力レンズの設計方法。
【請求項10】
(a)被験者の矢状面内において、前方奥行方向の、それぞれ異なる所定距離に設置された複数の注視点を前記被験者が注視する際に、前記被験者が生じる頭部回旋量を前記複数の注視点ごとに把握する工程と、
(b)前記頭部回旋量に基づき、前記被験者が前記複数の注視点を注視する際に、前記被験者が生じる眼球回旋量を求める工程と、
(c)前記頭部回旋量および前記眼球回旋量、または前記眼球回旋量を用いて、前記被験者の視覚挙動を判定する工程と、
(d)前記(c)の判定結果に基づき、累進屈折力レンズの補正方法を決定する工程と、
(e)前記(d)で決定した前記補正方法に基づいて、前記累進屈折力レンズの設計を補正する工程と、
(f)前記(e)で補正した前記設計に基づいて、前記累進屈折力レンズを加工する工程と、
を有し、
前記(c)では、前記頭部回旋量の絶対値が前記眼球回旋量の絶対値を超えないこと、または、前記眼球回旋量が所定の範囲内であることを判定条件とする、累進屈折力レンズの製造方法。
【請求項11】
被験者の矢状面内において、前方奥行方向の、それぞれ異なる所定距離に設置された複数の注視点を前記被験者が注視する際に、前記被験者が生じる頭部回旋量を前記複数の注視点ごとに把握する頭部回旋量把握部と、
前記頭部回旋量に基づき、前記被験者が前記複数の注視点を注視する際に、前記被験者が生じる眼球回旋量を把握する眼球回旋量把握部と、
前記頭部回旋量および前記眼球回旋量、または前記眼球回旋量を用いて、前記被験者の視覚挙動を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づき、累進屈折力レンズの設計を補正する補正部と、
を有し、
前記判定部は、前記頭部回旋量の絶対値が前記眼球回旋量の絶対値を超えないこと、または、前記眼球回旋量が所定の範囲内であることを判定条件とする、累進屈折力レンズの設計システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、視覚挙動の測定方法および判定方法、累進屈折力レンズの設計方法および製造方法、視覚挙動の測定システム、および累進屈折力レンズの設計システムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡レンズの設計においては、装用者の視覚挙動を加味した設計を行うことが提案されるようになってきた。例えば、特許文献1では、頭部を動かさず眼球だけで指標を順に注視してもらう際の眼球運動の測定結果を基にした較正だけでなく、所定の指標を注視したまま頭部を動かして視線方向を変化させた場合の眼球運動の測定結果も併せて較正を行なうことによって、より広い視野で視線を精度よく測定できる視線検出装置、またその較正方法を用いた視線検出装置によって得られた注視点および透過点の解析結果に基づいて、眼鏡レンズを設計することが開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、累進眼鏡レンズの光学設計にあたって特に重要な近方視に着目した個人の読書時姿勢を念頭に置いた、個人の自然な視覚挙動パラメータを簡単かつ正確に測定できる方法および検査機器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-195647号公報
【文献】特表2018-531706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1において、被験者は少なくとも、前方視野用カメラ、眼球用カメラ、赤外LEDおよびダイクロイックミラーが取り付けられたヘッドバンドを装着する必要がある他、記載されている較正を実施するため、被験者には視線の方向が測定する視野角を包括するようできるだけ広い角度範囲で上下左右に分布し、且つ指標への視線が眼鏡レンズの外側に出たり、眼鏡のフレームや被験者の鼻などで遮られたりしないように頭部を動かすことが要求される。
【0006】
また、較正手順において視線の方向に制約があるため、単に眼鏡のみを装用して指標を見る動作に比べて不自然な使い方を要求されることになる。特許文献1ではさらに、被験者と指標との距離を変えて較正用の測定を複数回行なうことも記載されているが、これは実際の視線検出において測定したい距離に対して、較正時に頭部を動かすことによって生じる距離の違いを換算に組み込むためのものであって、測定したい距離が複数あることを意味しない。通常の視線検出では物体までの距離が奥行方向に変化した場合、左右の視差(検出点の不一致)として表れることになるから、奥行方向に距離の異なる物体のそれぞれに対して1回の較正によって同時に精度よく視線追跡測定を行なうことはできない。したがって、奥行方向に距離の異なる物体に対して個人の視覚挙動を求めようとすると、較正手順だけでもかなりの工数が必要になる。
【0007】
特許文献2では、画像捕捉装置によって、観察されるべき標的位置を観察する方向を注視している際の被験者の頭部画像を捕捉することで、適切な座標系で測定結果の処理が行なわれるため、被験者が何らかの装置を装着する必要はない。これによって被験者の負担は軽減されているが、奥行方向に距離の異なる物体に対して較正あるいは測定を実施することの煩雑さは画像捕捉装置の導入だけでは解消できていない。
【0008】
また、眼鏡レンズ(特に、累進屈折力レンズ)を設計する際には、特定の視距離だけではなく、奥行方向に距離の異なる物体に対する視覚挙動を測定することが重要である。被験者の視覚挙動が、累進屈折力レンズの加入度数変化に対して適切な範囲内でなければ、被験者は必要以上に眼球を回旋させたり、顎を下げすぎたり等、不自然な姿勢をとらざるを得ず、不快感が大きくなるからである。
【0009】
本発明の一実施形態は、被験者の負担を低減しつつ、奥行方向に距離の異なる物体に対する視覚挙動を測定できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の第1の態様は、
眼鏡レンズを設計するための、被験者の視覚挙動の測定方法であって、
(a)前記被験者の矢状面内において、前方奥行方向の、それぞれ異なる所定距離に設置された複数の注視点を前記被験者が注視する際に、前記被験者が生じる頭部回旋量を前記複数の注視点ごとに把握する工程と、
(b)前記頭部回旋量に基づき、前記被験者が前記複数の注視点を注視する際に、前記被験者が生じる眼球回旋量を求める工程と、
を有する、視覚挙動の測定方法である。
【0011】
本発明の第2の態様は、
前記複数の注視点は、実空間内にそれぞれ設置される、上記第1の態様に記載の視覚挙動の測定方法である。
【0012】
本発明の第3の態様は、
前記複数の注視点は、前記被験者の前方奥行方向0.25m以上5m以下の範囲内にそれぞれ設置される、上記第1または第2の態様に記載の視覚挙動の測定方法である。
【0013】
本発明の第4の態様は、
前記(a)では、前記被験者の頭部の位置変化を検知するセンサを用いて前記頭部回旋量を把握する、上記第1~第3のいずれか1つの態様に記載の視覚挙動の測定方法である。
【0014】
本発明の第5の態様は、
前記(a)では、前記被験者は視力補正用眼鏡レンズを装用した状態で前記複数の注視点を注視する、上記第1~第4のいずれか1つの態様に記載の視覚挙動の測定方法である。
【0015】
本発明の第6の態様は、
前記視力補正用眼鏡レンズは、累進屈折力レンズである、上記第5の態様に記載の視覚挙動の測定方法である。
【0016】
本発明の第7の態様は、
前記複数の注視点は、前記累進屈折力レンズの光線追跡結果から得られる物体距離と視線方向との関係を満たす位置にそれぞれ設置される、上記第6の態様に記載の視覚挙動の測定方法である。
【0017】
本発明の第8の態様は、
眼鏡レンズを設計するための、被験者の視覚挙動の判定方法であって、
(a)前記被験者の矢状面内において、前方奥行方向の、それぞれ異なる所定距離に設置された複数の注視点を前記被験者が注視する際に、前記被験者が生じる頭部回旋量を前記複数の注視点ごとに把握する工程と、
(b)前記頭部回旋量に基づき、前記被験者が前記複数の注視点を注視する際に、前記被験者が生じる眼球回旋量を求める工程と、
(c)前記頭部回旋量および前記眼球回旋量、または前記眼球回旋量を用いて、前記被験者の視覚挙動を判定する工程と、
を有する、視覚挙動の判定方法である。
【0018】
本発明の第9の態様は、
(a)被験者の矢状面内において、前方奥行方向の、それぞれ異なる所定距離に設置された複数の注視点を前記被験者が注視する際に、前記被験者が生じる頭部回旋量を前記複数の注視点ごとに把握する工程と、
(b)前記頭部回旋量に基づき、前記被験者が前記複数の注視点を注視する際に、前記被験者が生じる眼球回旋量を求める工程と、
(c)前記頭部回旋量および前記眼球回旋量、または前記眼球回旋量を用いて、前記被験者の視覚挙動を判定する工程と、
(d)前記(c)の判定結果に基づき、累進屈折力レンズの補正方法を決定する工程と、
(e)前記(d)で決定した前記補正方法に基づいて、前記累進屈折力レンズの設計を補正する工程と、
を有する、累進屈折力レンズの設計方法である。
【0019】
本発明の第10の態様は、
(a)被験者の矢状面内において、前方奥行方向の、それぞれ異なる所定距離に設置された複数の注視点を前記被験者が注視する際に、前記被験者が生じる頭部回旋量を前記複数の注視点ごとに把握する工程と、
(b)前記頭部回旋量に基づき、前記被験者が前記複数の注視点を注視する際に、前記被験者が生じる眼球回旋量を求める工程と、
(c)前記頭部回旋量および前記眼球回旋量、または前記眼球回旋量を用いて、前記被験者の視覚挙動を判定する工程と、
(d)前記(c)の判定結果に基づき、累進屈折力レンズの補正方法を決定する工程と、
(e)前記(d)で決定した前記補正方法に基づいて、前記累進屈折力レンズの設計を補正する工程と、
(f)前記(e)で補正した前記設計に基づいて、前記累進屈折力レンズを加工する工程と、
を有する、累進屈折力レンズの製造方法である。
【0020】
本発明の第11の態様は、
被験者の矢状面内において、前方奥行方向の、それぞれ異なる所定距離に設置された複数の注視点を前記被験者が注視する際に、前記被験者が生じる頭部回旋量を前記複数の注視点ごとに把握する頭部回旋量把握部と、
前記頭部回旋量に基づき、前記被験者が前記複数の注視点を注視する際に、前記被験者が生じる眼球回旋量を把握する眼球回旋量把握部と、
を有する、視覚挙動の測定システムである。
【0021】
本発明の第12の態様は、
被験者の矢状面内において、前方奥行方向の、それぞれ異なる所定距離に設置された複数の注視点を前記被験者が注視する際に、前記被験者が生じる頭部回旋量を前記複数の注視点ごとに把握する頭部回旋量把握部と、
前記頭部回旋量に基づき、前記被験者が前記複数の注視点を注視する際に、前記被験者が生じる眼球回旋量を把握する眼球回旋量把握部と、
前記頭部回旋量および前記眼球回旋量、または前記眼球回旋量を用いて、前記被験者の視覚挙動を判定する判定部と、
前記判定部の判定結果に基づき、累進屈折力レンズの設計を補正する補正部と、
を有する、累進屈折力レンズの設計システムである。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一実施形態によれば、被験者の負担を低減しつつ、奥行方向に距離の異なる物体に対する視覚挙動を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、第1実施形態に係る視覚挙動の測定方法の一例を示すフローチャートである。
図2図2は、第1実施形態に係る被験者10と注視点20との位置関係の一例を示す概略図である。
図3図3は、第1実施形態に係る視覚挙動の判定方法の一例を示すフローチャートである。
図4図4は、第1実施形態に係る頭部回旋量θおよび眼球回旋量φのプロットを例示するグラフである。
図5図5は、第1実施形態に係る累進屈折力レンズの製造方法の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、第1実施形態に係る視覚挙動の測定システム100の模式的構成を示すブロック図である。
図7図7は、第1実施形態に係る累進屈折力レンズの設計システム200の模式的構成を示すブロック図である。
図8図8は、実施例1における視覚挙動の測定結果を示すグラフである。
図9図9は、実施例2における視覚挙動の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の一実施形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0025】
<本発明の第1実施形態>
(1)視覚挙動の測定方法
まず、眼鏡レンズを設計するための、被験者10の視覚挙動を測定する方法について説明する。
【0026】
図1は、本実施形態の視覚挙動の測定方法の一例を示すフローチャートである。図1に示すように、本実施形態の視覚挙動の測定方法は、例えば、キャリブレーション工程S101と、注視点配置工程S102と、頭部回旋量把握工程S103と、眼球回旋量把握工程S104と、を有している。
【0027】
本明細書において、眼球回旋とは、眼球の前後軸を回転軸とする動き(Torsion)ではなく、JIS T 7337:2020附属書JA等で用いられている眼球の下方回旋(下転)と同じように、人の上方視または下方視に伴って生じる眼球の回転をいい、この運動の結果、鉛直面内、好ましくは正中矢状面内に生じる角度を眼球回旋量というものとする。また、頭部回旋とは、人が上方視または下方視をする際、頸部の屈曲あるいは伸展によって頭部を上方向または下方向に向ける動作をいい、その頭部の上方向または下方向への傾き動作の結果として、鉛直面内、好ましくは正中矢状面内に生じる角度を頭部回旋量というものとする。
【0028】
図2は、被験者10と注視点20との位置関係の一例を示す概略図である。被験者10は、累進屈折力レンズを有する眼鏡11を装用した状態である。なお、本明細書において、被験者10が累進屈折力レンズを有する眼鏡11等を装用することを、煩雑性を避けるために、単に累進屈折力レンズを装用するともいう。眼鏡11には、被験者10の頭部の位置変化を検知する検知部としてのセンサ12が取り付けられている。センサ12としては、例えば、加速度計を用いることができる。なお、センサ12は、必ずしも眼鏡11に取り付けられている必要はなく、被験者10の頭部の位置変化を検知できる位置に配置されていればよい。
【0029】
なお、本明細書において、累進屈折力レンズとは、1枚のレンズの一部または全部に、屈折力が連続的に変化する部分を含むものであり、例えば、JIS T 7337:2020に記載されている屈折力変化レンズを含む。また、一般的に、遠近両用レンズ、中近両用レンズ、近近レンズと呼ばれるレンズや、調節サポートレンズ等と呼ばれるレンズも累進屈折力レンズに含まれる。
【0030】
(キャリブレーション工程S101)
キャリブレーション工程S101では、まず、床から被験者10の目までの高さHを計測する。そして、例えば、被験者10が遠方正面を水平に見る際の姿勢が、被験者10が生じる頭部回旋量θの基準(θ=0度)となるようにセンサ12の較正を行う。これにより、後述する頭部回旋量把握工程S103にて、頭部回旋量θを正確に把握することができる。
【0031】
キャリブレーション工程S101では、例えば、被験者10の遠方正面に、高さHの較正用視標を設置し、被験者10が較正用視標を水平に注視する状態で上記較正を行うことが好ましい。また、被験者10が水平視線を保持しやすいように、較正用視標は、被験者10の前方奥行方向2m以上の位置に設置することが好ましい。較正用視標としては、例えば、白地に黒塗りの円を印刷したものを用いることができる。
【0032】
(注視点配置工程S102)
注視点配置工程S102では、被験者10の矢状面内において、前方奥行方向の、それぞれ異なる所定距離に複数の注視点20を設置する。視覚挙動を詳細に測定するために、注視点20の数は、3以上が好ましく、5以上がより好ましい。また、被験者10の負担が大きくならないように、注視点20の数は10以下が好ましい。
【0033】
本明細書において、矢状面とは、被験者10の正中に沿って体を左右に等分する正中矢状面だけではなく、被験者10の左右方向への姿勢変化を考慮するために正中矢状面と平行であって、被験者10の瞳孔間距離PDの半分を超えない距離にある鉛直面もすべて含むものとする。
【0034】
複数の注視点20は、実空間内にそれぞれ設置することが好ましい。この場合、タブレット等の表示装置上に複数の注視点20を表示し、疑似的に奥行方向に距離の異なる視標を設置する場合と比べて、奥行方向に距離の異なる物体に対する視覚挙動を、より正確に測定することができる。実空間内に設置する注視点20としては、例えば、被験者10からその注視点20までの距離において、小数視力0.7以上に相当するサイズのランドルト環等、被験者10が短時間(好ましくは、数秒以内)で視標の見やすさ、見難さを判断可能となる適切なサイズの視標を用いることが好ましい。これにより、被験者10に注視点20を注視させる際、視標を最も明確に視認できる姿勢を容易にとらせることができる。
【0035】
複数の注視点20は、被験者10が現実の日常において、前方の様々な物体に視線を向ける状態を考慮し、それぞれの物体に対する視覚挙動(頭部回旋、眼球回旋)を再現することを目的として、被験者10の前方奥行方向0.25m以上5m以下の範囲内に設置することが好ましい。例えば、いわゆる遠近両用レンズの場合には、遠方視を想定した2m以上5m以下の範囲内に少なくとも1つの注視点20を設置し、近方視を想定した0.25m以上0.5m以下の範囲内に少なくとも1つの注視点20を設けることが考えられる。このように装用している累進屈折力レンズの種別に対して注視点20までの距離を適切に設定することによって、奥行方向に距離の異なる物体に対する被験者10の視覚挙動を、より正確に測定することができる。
【0036】
複数の注視点20は、被験者10が装用している累進屈折力レンズの光線追跡結果から得られる物体距離と視線方向との関係を満たす位置にそれぞれ設置することが好ましい。光線追跡によって、被験者10が頭部を動かさず、眼球の回旋のみで注視点20を注視した際、累進屈折力レンズ上の視線通過位置における屈折力D[ディオプター]と、被験者10の目から注視点20までの距離L[m](以下、物体距離Lともいう)とが、D=1/Lの関係を満たす位置が求められ、これに合わせて注視点20をそれぞれ設置する。これにより、被験者10は、複数の注視点20のそれぞれに焦点を合わせて注視することができる。なお、本明細書において、左右の累進屈折力レンズそれぞれの視線通過位置における屈折力が異なる場合、左右いずれかの累進屈折力レンズの屈折力を用いてもよいし、それらの平均値を用いてもよい。
【0037】
なお、上述のように、D=1/Lの関係を満たす位置を求め、これに合わせて注視点20をそれぞれ設置した場合においても、被験者10は、注視点20を注視する際に、眼球回旋だけではなく頭部回旋を伴った姿勢をとることが予想される。そこで、後述する頭部回旋量把握工程S103にて、被験者10が生じる頭部回旋量θを把握する。
【0038】
(頭部回旋量把握工程S103)
頭部回旋量把握工程S103では、複数の注視点20を被験者10が注視する際に、被験者10が生じる頭部回旋量θを、センサ12を用いて複数の注視点20ごとに把握する。具体的は、例えば、最も遠方に設置した注視点20を、両眼を開放した自然な状態で被験者10に40秒間注視させ、被験者10が生じる頭部回旋量θを把握する。その後、20秒間視線がフリーな状態を設ける。この作業を最も近方に設置した注視点20まで順番に行う。なお、注視点20を注視させる順番は、遠方から近方の順に限らず、近方から遠方の順に注視させてもよい。
【0039】
頭部回旋量把握工程S103では、被験者10が注視点20を明確に視認できていることを確認するために、注視点20として上述のランドルト環を複数用いて、ランドルト環の開いている方向を被験者10に識別させてもよい。
【0040】
本実施形態において、複数の注視点20は、被験者10の矢状面内に設置されているため、被験者10が生じる頭部回旋量θは、上下方向(鉛直方向)の回旋のみを考慮することが好ましい。これにより、例えば、累進屈折力レンズの側方の収差の影響を排除することができるため、視覚挙動の測定を簡便に行うことができる。なお、本明細書において、頭部回旋量θは、上方向への回旋を正の値、下方向への回旋を負の値で表す。
【0041】
頭部回旋量把握工程S103では、被験者10は累進屈折力レンズを装用した状態で、複数の注視点20を注視することが好ましい。これにより、被験者10の視覚挙動が、累進屈折力レンズの加入度数変化に対して、適切な範囲内かどうかを判定することができる。視覚挙動の判定については、詳細を後述する。
【0042】
(眼球回旋量把握工程S104)
眼球回旋量把握工程S104では、頭部回旋量θに基づき、被験者10が複数の注視点20を注視する際に、被験者10が生じる眼球回旋量φを複数の注視点20ごとに求め、眼球回旋量φを把握する。これにより、奥行方向に距離の異なる物体に対する、被験者10の視覚挙動を測定することができる。
【0043】
眼球回旋量把握工程S104では、複数の注視点20を注視する際の視線方向(角度)が、頭部回旋量θと眼球回旋量φの和によって実現されるという仮定により、眼球回旋量φを求めることが好ましい。この場合、被験者10の眼球の動きを測定する装置を用いることなく、眼球回旋量φを求めることができるため、被験者10の負担を低減することが可能となる。
【0044】
被験者10が生じる眼球回旋量φは、頭部回旋量θと同様に、上下方向(鉛直方向)の回旋のみを考慮することが好ましい。本明細書において、眼球回旋量φは、上方向への回旋を正の値、下方向への回旋を負の値で表す。
【0045】
以上の工程により、被験者10の負担を低減しつつ、奥行方向に距離の異なる物体に対する視覚挙動を測定することができる。眼鏡レンズ(特に、累進屈折力レンズ)を設計するためには、特定の視距離だけではなく、奥行方向に距離の異なる物体に対する視覚挙動を測定することが重要である。被験者10の視覚挙動が、累進屈折力レンズの加入度数変化に対して適切な範囲内でなければ、被験者10は必要以上に眼球を回旋させたり、顎を下げすぎたり等、不自然な姿勢をとらざるを得ず、不快感が大きくなるからである。本実施形態により測定した視覚挙動を考慮して、累進屈折力レンズを設計することで、被験者10の視覚挙動に適した累進屈折力レンズを設計することができる。
【0046】
(2)視覚挙動の判定方法
次に、眼鏡レンズを設計するための、被験者10の視覚挙動を判定する方法について説明する。
【0047】
図3は、本実施形態の視覚挙動の判定方法の一例を示すフローチャートである。図3に示すように、本実施形態の視覚挙動の判定方法は、例えば、キャリブレーション工程S101と、注視点配置工程S102と、頭部回旋量把握工程S103と、眼球回旋量把握工程S104と、視覚挙動判定工程S105と、を有している。視覚挙動判定工程S105以外の各工程は、上述した(1)視覚挙動の測定方法と同様に行うことができるため、説明を省略する。
【0048】
(視覚挙動判定工程S105)
視覚挙動判定工程S105では、頭部回旋量θおよび眼球回旋量φを用いて、被験者10の視覚挙動を判定する。これにより、被験者10の視覚挙動が、累進屈折力レンズの加入度数変化に対して、適切な範囲内かどうかを判定することができる。
【0049】
図4は、頭部回旋量θおよび眼球回旋量φのプロットを例示するグラフである。図4において、横軸は頭部回旋量θ、縦軸は眼球回旋量φを示している。グラフにプロットされた測定点は、複数の注視点20ごとに把握した頭部回旋量θおよび眼球回旋量φを示しており、測定点の1点が、1つの注視点20によって得られる測定結果に対応している。また、右下がりの補助線(A1~A5)上では、頭部回旋量θと眼球回旋量φとの和が一定の値となっており、補助線(A1~A5)の縦軸切片は、被験者10が頭部を動かさず、眼球の回旋のみで注視点20を注視した場合の眼球回旋量φである。つまり、眼球回旋量把握工程S104にて、複数の注視点20を注視する際の視線方向(角度)が、頭部回旋量θと眼球回旋量φの和によって実現されるという仮定により、眼球回旋量φを求めた場合、補助線(A1~A5)上に測定点が打たれることになる。
【0050】
図4において、右上がりの補助線Bは、頭部回旋量θと眼球回旋量φとが1:1となることを示している。つまり、補助線Bより左上に位置する測定点では、頭部回旋量θの絶対値が眼球回旋量φの絶対値より大きいことを示しており、補助線Bより右下に位置する測定点では、眼球回旋量φの絶対値が頭部回旋量θの絶対値より大きいことを示している。
【0051】
視覚挙動判定工程S105では、例えば、頭部回旋量θおよび眼球回旋量φの両方が負の値である場合、頭部回旋量θの絶対値が、眼球回旋量φの絶対値を超えないことを判定条件とする。頭部回旋量θの絶対値が眼球回旋量φの絶対値より大きい場合、累進屈折力レンズの加入度数変化を有効に利用できていない可能性があるからである。図4においては、破線Cで囲まれた3つの測定点が、判定条件を満たしていないことになる。なお、視覚挙動判定工程S105における判定条件は、必要に応じて種々変更してもよいし、複数の判定条件を設定してもよい。すなわち、視覚挙動判定工程S105では、頭部回旋量θ、眼球回旋量φ、それらの注視点20ごとの値の変化傾向、又は、互いの割合などから、必要な数値を得て、分析を行うことによって行うことが可能である。
【0052】
視覚挙動判定工程S105では、例えば、複数の測定点のうち、40%超(好ましくは20%超、より好ましくは1つ以上)の測定点が、判定条件を満たしていない場合、被験者10の視覚挙動は適切ではないと判定する。つまり、被験者10の視覚挙動は、累進屈折力レンズの加入度数変化に対して適切な範囲内ではなく、被験者10は快適に累進屈折力レンズを使用できていない可能性があると判定する。この場合、例えば、より多くの測定点が判定条件を満たすように、累進屈折力レンズの設計を変更してもよい。
【0053】
また、視覚挙動判定工程S105では、例えば、ある測定点が、被験者10の視覚挙動の傾向から大きく外れる場合、被験者10の視覚挙動は適切ではないと判定してもよい。より具体的には、例えば、複数の測定点に対して最小2乗法によって回帰直線を求め、該回帰直線との誤差が所定の値を超える測定点が存在する場合、被験者10の視覚挙動は適切ではないと判定してもよい。この場合、例えば、誤差が所定の値を超える測定点に対応する累進屈折力レンズ上の領域で、加入度数を変化させるような設計を行ってもよい。このような設計を行うことで、被験者10は、より自然な視覚挙動で累進屈折力レンズを使用できることが期待される。
【0054】
視覚挙動判定工程S105では、例えば、複数の測定点のうち、60%以上(好ましくは80%以上、より好ましくは100%)の測定点が、判定条件を満たしている場合、被験者10の視覚挙動は適切であると判定する。つまり、被験者10の視覚挙動は、累進屈折力レンズの加入度数変化に対して適切な範囲内であり、被験者10は快適に累進屈折力レンズを使用できていると判定する。
【0055】
(3)累進屈折力レンズの設計方法および製造方法
次に、累進屈折力レンズの設計方法および製造方法について説明する。
【0056】
図5は、本実施形態の累進屈折力レンズの製造方法の一例を示すフローチャートである。図5に示すように、本実施形態の累進屈折力レンズの製造方法は、例えば、キャリブレーション工程S101と、注視点配置工程S102と、頭部回旋量把握工程S103と、眼球回旋量把握工程S104と、視覚挙動判定工程S105と、補正方法決定工程S106と、設計補正工程S107と、加工工程S108と、を有している。補正方法決定工程S106、設計補正工程S107、および加工工程S108以外の各工程は、上述した(1)視覚挙動の測定方法および(2)視覚挙動の判定方法と同様に行うことができるため、説明を省略する。
【0057】
(補正方法決定工程S106)
補正方法決定工程S106では、視覚挙動判定工程S105の判定結果に基づき、累進屈折力レンズの補正方法を決定する。具体的には、例えば、視覚挙動判定工程S105において、より多くの測定点が判定条件を満たすように、累進屈折力レンズの補正方法を決定する。
【0058】
補正方法決定工程S106では、例えば、視覚挙動判定工程S105において、判定条件を満たしていない測定点に対応する累進屈折力レンズ上の領域で、加入度数を変化させる補正方法を決定する。また、補正方法決定工程S106では、例えば、累進屈折力レンズの累進開始点または累進終了点の少なくとも一方の位置の補正を含む補正方法を決定してもよい。
【0059】
(設計補正工程S107)
設計補正工程S107では、補正方法決定工程S106で決定した補正方法に基づいて、累進屈折力レンズの設計を補正する。これにより、被験者10の視覚挙動に適した累進屈折力レンズを設計することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、加工工程S108を省略してもよい。この場合、上述の工程により、被験者10の視覚挙動に適した累進屈折力レンズを設計することができる。つまり、本実施形態の累進屈折力レンズの製造方法は、累進屈折力レンズの設計方法とすることもできる。
【0061】
(加工工程S108)
加工工程S108では、設計補正工程S107で補正した設計に基づいて、累進屈折力レンズを加工する。これにより、被験者10の視覚挙動に適した累進屈折力レンズを製造することができる。
【0062】
(4)視覚挙動の測定システム
次に、本実施形態の視覚挙動の測定システム100について説明する。
【0063】
図6は、本実施形態の視覚挙動の測定システム100の模式的構成を示すブロック図である。図6に示すように、本実施形態の視覚挙動の測定システム100は、例えば、頭部回旋量把握部101と、眼球回旋量把握部102と、を有している。視覚挙動の測定システム100は、眼鏡レンズを設計するために、被験者10の視覚挙動を測定するように構成されており、例えば、眼鏡レンズメーカの工場内に設置される。
【0064】
頭部回旋量把握部101は、被験者10の矢状面内において、前方奥行方向の、それぞれ異なる所定距離に設置された複数の注視点20を被験者10が注視する際に、被験者10が生じる頭部回旋量θを複数の注視点20ごとに把握するように構成されている。頭部回旋量把握部101は、例えば、上述の頭部回旋量把握工程S103において得られる複数の注視点20ごとの頭部回旋量θを把握するように構成されている。頭部回旋量把握部101としては、例えば、所定のプログラムを必要に応じて実行するコンピュータを用いることができる。
【0065】
眼球回旋量把握部102は、頭部回旋量把握部101によって把握された頭部回旋量θに基づき、被験者10が複数の注視点20を注視する際に、被験者10が生じる眼球回旋量φを把握するように構成されている。眼球回旋量把握部102は、例えば、上述の眼球回旋量把握工程S104にて得られる複数の注視点20ごとの眼球回旋量φを把握するように構成されている。眼球回旋量把握部102としては、例えば、所定のプログラムを必要に応じて実行するコンピュータを用いることができる。
【0066】
なお、頭部回旋量把握部101および眼球回旋量把握部102は、ネットワークを介して互いに接続されていてもよいし、同一のコンピュータ内に設けられていてもよい。
【0067】
以上のような構成を有する視覚挙動の測定システム100を用いて測定した視覚挙動を考慮して、累進屈折力レンズを設計することで、被験者10の視覚挙動に適した累進屈折力レンズを設計することができる。
【0068】
(5)累進屈折力レンズの設計システム
次に、本実施形態の累進屈折力レンズの設計システム200について説明する。
【0069】
図7は、本実施形態の累進屈折力レンズの設計システム200の模式的構成を示すブロック図である。図7に示すように、本実施形態の累進屈折力レンズの設計システム200は、例えば、頭部回旋量把握部101と、眼球回旋量把握部102と、判定部103と、補正部104と、を有している。累進屈折力レンズの設計システム200は、累進屈折力レンズを設計するために構成されており、例えば、眼鏡レンズメーカの工場内に設置される。なお、頭部回旋量把握部101および眼球回旋量把握部102は、上述の(4)視覚挙動の測定システムと同様のため説明を省略する。
【0070】
判定部103は、頭部回旋量把握部101によって把握された頭部回旋量θ、および眼球回旋量把握部102によって把握された眼球回旋量φを用いて、被験者10の視覚挙動を判定するように構成されている。判定部103による視覚挙動の判定条件については、上述の視覚挙動判定工程S105にて説明したものを用いることができる。判定部103としては、例えば、所定のプログラムを必要に応じて実行するコンピュータを用いることができる。
【0071】
補正部104は、判定部103の判定結果に基づき、累進屈折力レンズの設計を補正するように構成されている。補正部104としては、例えば、所定のプログラムを必要に応じて実行するコンピュータを用いることができる。
【0072】
なお、頭部回旋量把握部101、眼球回旋量把握部102、判定部103、および補正部104は、ネットワークを介して互いに接続されていてもよいし、同一のコンピュータ内に設けられていてもよい。
【0073】
以上のような構成を有する累進屈折力レンズの設計システム200を用いて、累進屈折力レンズを設計することで、被験者10の視覚挙動に適した累進屈折力レンズを設計することができる。
【0074】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0075】
例えば、上述の実施形態では、被験者10が累進屈折力レンズを装用した状態で視覚挙動の測定を行う場合について説明したが、累進屈折力レンズ以外の視力補正用眼鏡レンズ(例えば、単焦点レンズ)を装用した状態で視覚挙動の測定を行ってもよいし、眼鏡レンズを装用しない状態で視覚挙動の測定を行ってもよい。このような場合でも、累進屈折力レンズを装用していない状態(つまり、視線方向によって眼鏡レンズの屈折力が変化しない状態)での視覚挙動を測定することで、上述の実施形態と同様に、被験者10の視覚挙動に合わせた累進屈折力レンズを設計することができる。
【0076】
また、上述の実施形態では、眼球回旋量把握工程S104において、複数の注視点20を注視する際の視線方向(角度)が、頭部回旋量θと眼球回旋量φの和によって実現されるという仮定により、眼球回旋量φを求める場合について説明したが、例えば、被験者10の腰や首の位置にセンサ12を取り付け、被験者10の腰や首の移動も考慮して、眼球回旋量φを求めてもよい。センサ12を複数用いて、被験者10が注視点20を注視する際の姿勢の変化を検知することで、より正確に視覚挙動を測定することができる。
【0077】
また、例えば、設計の異なる複数の累進屈折力レンズを被験者10に装用してもらい、上述の実施形態による視覚挙動の測定を複数回行ってもよい。この場合、例えば、複数回の測定による視覚挙動(頭部回旋量θおよび眼球回旋量φ)の平均値を用いて、眼鏡レンズの設計を行ってもよいし、複数回の測定のうち、最も自然な視覚挙動(例えば、頭部回旋量θの絶対値が最も小さい)を用いて、眼鏡レンズの設計を行ってもよい。
【0078】
また、上述の実施形態では、センサ12を用いて被験者10の頭部回旋量θを把握する場合について説明したが、被験者10の頭部の位置変化を検知する検知部は、センサ12に限定されない。具体的には、例えば、被験者10の側方に、検知部としての頭部撮像装置を配置してもよい。この場合、頭部回旋量把握工程S103において、頭部撮像装置を用いて被験者10の頭部を撮像し、撮像した画像を解析することで、上述の実施形態と同様に頭部回旋量θを把握することができる。頭部撮像装置としては、例えば、ストロボ光照射装置、撮像素子、画像メモリ、画像処理を行うコンピュータ等を含んで構成されるデジタルカメラを用いることができる。
【0079】
また、上述の実施形態では、視覚挙動判定工程S105において、頭部回旋量θおよび眼球回旋量φを用いて、被験者10の視覚挙動を判定する場合について説明したが、視覚挙動判定工程S105では、眼球回旋量φのみを用いて、被験者10の視覚挙動を判定してもよい。この場合、例えば、眼球回旋量φが、所定の範囲内であることを判定条件とし、眼球回旋量φが所定の範囲を超えている場合、被験者10は快適に累進屈折力レンズを使用できていない可能性があると判定してもよい。
【実施例
【0080】
次に、本発明に係る実施例を説明する。これらの実施例は本発明の一例であって、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0081】
(実施例1)
被験者10に、既知の設計の累進屈折力レンズを装用してもらい、上述の第1実施形態による方法で視覚挙動を測定した。その結果を図8に示す。
【0082】
図8において、右のグラフのLensPowerは、累進屈折力レンズの主注視線上における加入度数変化を示している。また、左のグラフは、複数の注視点20ごとの頭部回旋量θおよび眼球回旋量φを示している。図8の左のグラフからわかるように、グラフ中の矢印で示した測定点では、頭部回旋量θが正の値、眼球回旋量φが負の値となっていた。これは、正面視(y=0)に対応する測定点近傍において、被験者10が不必要にあごを上げ、累進屈折力レンズ上の視線通過位置が下がっていることを意味している。
【0083】
そこで、不必要なあご上げをさせないように、矢印で示した測定点に対応する累進屈折力レンズ上の領域(右のグラフy=0付近)で加入度数を強くする設計を行った。つまり、右のグラフのCorrectedのように加入度数変化を修正した。このような設計を行うことで、被験者10は、より自然な視覚挙動で累進屈折力レンズを使用できることが期待される。
【0084】
以上より、奥行方向に距離の異なる物体に対する、被験者10の視覚挙動を測定することで、被験者10の視覚挙動に適した累進屈折力レンズを設計できることを確認した。特に、被験者10が不必要にあごを上げ、累進屈折力レンズ上の視線通過位置が下がっている場合において、被験者10の視覚挙動に適した累進屈折力レンズを設計できることを確認した。
【0085】
(実施例2)
実施例1とは別の被験者10に、既知の設計の累進屈折力レンズを装用してもらい、上述の第1実施形態による方法で視覚挙動を測定した。その結果を図9に示す。
【0086】
図9において、右のグラフのLensPowerは、累進屈折力レンズの主注視線上における加入度数変化を示している。また、左のグラフは、複数の注視点20ごとの頭部回旋量θおよび眼球回旋量φを示している。図9の左のグラフからわかるように、グラフ中の矢印で示した測定点では、頭部回旋量θが負の値、眼球回旋量φが正の値となっていた。これは、正面視(y=0)に対応する測定点近傍において、被験者10が不必要にあごを引き、累進屈折力レンズ上の視線通過位置が上がっていることを意味している。
【0087】
そこで、不必要なあご引きをさせないように、矢印で示した測定点に対応する累進屈折力レンズ上の領域(右のグラフy=0付近)で加入度数を弱くする設計を行った。つまり、右のグラフのCorrectedのように加入度数変化を修正した。このような設計を行うことで、被験者10は、より自然な視覚挙動で累進屈折力レンズを使用できることが期待される。
【0088】
以上より、奥行方向に距離の異なる物体に対する、被験者10の視覚挙動を測定することで、被験者10の視覚挙動に適した累進屈折力レンズを設計できることを確認した。特に、被験者10が不必要にあごを引き、累進屈折力レンズ上の視線通過位置が上がっている場合において、被験者10の視覚挙動に適した累進屈折力レンズを設計できることを確認した。
【符号の説明】
【0089】
10 被験者
11 眼鏡
12 センサ
20 注視点
100 測定システム
101 頭部回旋量把握部
102 眼球回旋量把握部
103 判定部
104 補正部
200 設計システム
S101 キャリブレーション工程
S102 注視点配置工程
S103 頭部回旋量把握工程
S104 眼球回旋量把握工程
S105 視覚挙動判定工程
S106 補正方法決定工程
S107 設計補正工程
S108 加工工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9